説明

橋及び橋の免震方法

【課題】大地震の発生時及び大地震の無い平時の何れにおいても、人や車輌等が橋桁の上に安定して留まり易くなる。
【解決手段】地盤Gに固定されたフーチング30上に設けられ、橋脚20を水平方向に相対移動可能に支持する橋脚支承部材40と、前記橋脚20に設けられ、橋桁10を水平方向に相対移動可能に支持する橋桁支承部材60と、を備えた橋1である。所定レベル以上の地震動を受けるまでは、前記橋桁支承部材60は、前記橋脚20に対する前記橋桁10の相対移動を許容するとともに、前記橋脚支承部材40は、前記フーチング30に対する前記橋脚20の相対移動を規制する。前記所定レベル以上の地震動を受けて以降は、前記橋桁支承部材60は、前記橋脚20に対する前記橋桁10の相対移動を規制するとともに、前記橋脚支承部材40は、前記フーチング30に対する前記橋脚20の相対移動を許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋及び橋の免震方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震からビルや一般家屋を保護する免震装置が普及している。最近では橋への適用も検討されており、例えば、特許文献1には、地盤に固定されたフーチングと、橋脚との間に免震装置を介装して、フーチングと橋脚との水平方向の相対移動を可能にした橋が開示されている(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2004−293157号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、これ以外に、橋桁と橋脚との間に免震装置を介装して、橋桁と橋脚との水平方向の相対移動を可能にした橋も検討されている。
【0004】
しかし、前者の特許文献1の橋では、橋桁と橋脚との間には免震装置が介装されていないことから、これら橋桁と橋脚とは略一体化している。よって、平時に橋桁に当たる風だけでなく橋脚の方に当たる風によっても、実質的に橋桁は水平振動してしまい、つまり、平時における橋桁の水平振動の発生頻度が増えてしまう。
【0005】
また、後者の橋にあっては、橋桁は免震されているが橋脚は免震されていないので、大地震の発生時に橋脚を破損する虞がある。
【0006】
そこで、これら2種類の免震装置を両方とも設け、つまり、図1の橋1aの側面図に示すように、フーチング30と橋脚20との間、及び、橋脚20と橋桁10との間の両方に免震装置40a,60aを設けることが考えられ、そうすれば、上述の橋桁10の水平振動の発生頻度増加の問題や、大地震時の橋脚20の破損の問題を回避可能と考えられる。
【0007】
しかしながら、当該2種類の免震装置40a,60aを併設した構成の場合には、橋桁10及び橋脚20の何れもが、それぞれに免震装置40a及び免震装置60aによって水平振動するために、橋桁10には、橋桁10の橋脚20に対する相対振動に加えて、橋脚20のフーチング30に対する相対振動も重畳される。つまり、橋桁10の実質的な最大振幅は、橋桁10の橋脚20に対する最大振幅と、橋脚20のフーチング30に対する最大振幅とを加算したものとなる。よって、平時においても風等により橋桁10は大きな振幅で振動する可能性があって、人や車輌は橋桁10上を通行するどころか、そこに留まることすら困難になる虞がある。
【0008】
他方、大地震の発生時において地震動が橋1aに入力された際には、橋1aは、橋桁10単位で振動してしまい、つまり、振動の質点が橋桁10のみでその慣性質量は小さいために、橋桁10は短周期で振動してしまい、また、最悪の場合には、橋脚から橋桁が脱落する虞もあり、その結果として、当該橋桁10上で大地震に遭遇した人や車輌は、橋桁10上に安定して留まり難くなる。
【0009】
本発明はかかる従来の課題に鑑みて成されたもので、大地震の発生時及び大地震の無い平時の何れにおいても、人や車輌等が橋桁上に安定して留まり易い橋及び橋の免震方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
地盤に固定されたフーチング上に設けられ、橋脚を水平方向に相対移動可能に支持する橋脚支承部材と、前記橋脚に設けられ、橋桁を水平方向に相対移動可能に支持する橋桁支承部材と、を備えた橋であって、
所定レベル以上の地震動を受けるまでは、前記橋桁支承部材は、前記橋脚に対する前記橋桁の相対移動を許容するとともに、前記橋脚支承部材は、前記フーチングに対する前記橋脚の相対移動を規制し、
前記所定レベル以上の地震動を受けて以降は、前記橋桁支承部材は、前記橋脚に対する前記橋桁の相対移動を規制するとともに、前記橋脚支承部材は、前記フーチングに対する前記橋脚の相対移動を許容することを特徴とする。
【0011】
上記請求項1に示す発明によれば、大地震の発生時及び大地震の無い平時の何れにおいても、人や車輌等が橋桁上に安定して留まり易くなる。
【0012】
詳しくは以下のとおりである。所定レベル以上の地震動を受けるまでは、橋桁は橋脚に対して相対移動するが、橋脚はフーチングに対して相対移動しない。よって、平時においては、橋脚は振動せずに橋桁のみが振動する。すなわち、橋脚が振動しない分だけ、当該橋脚に支持された橋桁の振動の最大振幅も小さくなり、その結果、平時においては橋桁の振動が抑制され、橋桁上に人や車輌が安定して留まり易くなる。
【0013】
他方、所定レベル以上の地震動を受けて以降は、橋脚はフーチングに対して相対移動するが、橋桁は橋脚に対して相対移動しない。よって、大地震の発生時及びそれ以降については、橋桁と橋脚とが連結一体化してあたかも一つの大きな質点のように振る舞って振動するため、橋桁の振動の長周期化を図ることができ、また、橋脚からの橋桁の脱落も有効に防止される。その結果、橋桁上に人や車輌が安定して留まり易くなる。
【0014】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の橋であって、
前記橋脚は、前記橋桁の桁長方向に沿って複数配置されているとともに、前記桁長方向に隣り合う一対の前記橋脚には、順次、対応する前記橋桁が掛け渡されて支持されており、
前記所定レベル以上の地震動を受けて以降は、前記橋脚に対する前記橋桁の相対移動が、全ての橋桁について規制されることを特徴とする。
【0015】
上記請求項2に示す発明によれば、前記所定レベル以上の地震動を受けて以降は、橋の全ての橋桁が橋脚との相対移動を規制され、つまり、全ての橋桁は橋脚に固定されるとともに、各橋桁を介して全ての橋脚も連結一体化される。よって、これら全ての橋桁及び橋脚が、連結一体化した一つの質点のように振る舞って橋は振動するようになり、その結果、橋桁の振動の長周期化を最大限まで図ることができる。
【0016】
請求項3に示す発明は、
地盤に固定されたフーチング上に設けられ、橋脚を水平方向に相対移動可能に支持する橋脚支承部材と、前記橋脚に設けられ、橋桁を水平方向に相対移動可能に支持する橋桁支承部材と、を備えた橋の免震方法であって、
所定レベル以上の地震動を受けるまでは、前記橋桁支承部材は、前記橋脚に対する前記橋桁の相対移動を許容するとともに、前記橋脚支承部材は、前記フーチングに対する前記橋脚の相対移動を規制し、
前記所定レベル以上の地震動を受けて以降は、前記橋桁支承部材は、前記橋脚に対する前記橋桁の相対移動を規制するとともに、前記橋脚支承部材は、前記フーチングに対する前記橋脚の相対移動を許容することを特徴とする橋の免震方法。
【0017】
上記請求項3に示す発明によれば、上述の請求項1と同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の橋及び橋の免震方法によれば、大地震の発生時及び大地震の無い平時の何れにおいても、人や車輌等が橋桁の上に安定して留まり易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
===本実施形態に係る橋1及び橋1の免震方法===
<<<橋1の全体構成>>>
図2は、本実施形態に係る橋1の側面図である。この橋1は連続高架橋である。つまり、橋桁10の桁長方向に沿って複数の橋脚20が並んで配置されているとともに、桁長方向に隣り合う橋脚20,20同士には、対応する橋桁10が掛け渡されて前記橋桁10を両端支持しており、これにより、桁長方向に複数の橋桁10が連なった一つの高架橋1をなしている。
【0020】
各橋脚20は、橋脚用水平免震装置40を介して、地中Gのフーチング30に支持されている。各フーチング30の下部には杭32が一体に設けられており、これらフーチング30及び杭32は、橋1の基礎として機能する。なお、橋脚20及びフーチング30は、それぞれ、RC(鉄筋コンクリート)造やSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造等のコンクリート製であり、杭32は、プレストレスコンクリート製や鋼製である。橋脚用水平免震装置40は、フーチング30に対して橋脚20を水平方向に相対移動可能に支持するための支持部材であり、これにより橋脚20は水平免震されている。この橋脚用水平免震装置40については後述する。
【0021】
各橋桁10は、桁長方向に互いに隣り合う橋脚20,20同士の上面に、橋桁用水平免震装置60を介して両端支持されている。橋桁10も、RC造やSRC造等のコンクリート製である。橋桁用水平免震装置60は、橋脚20に対して橋桁10の対応する端部10a,10bを水平方向に相対移動可能に支持する支持部材であり、橋桁10の端部10a,10b毎に設けられ、これにより、各橋桁10は水平免震されている。この橋桁用水平免震装置60についても後述する。
【0022】
<<<橋脚用水平免震装置40>>>
図3A乃至図3Cは、橋脚用水平免震装置40の説明図である。図3Aは、橋脚20の横断面図であり、図3B及び図3Cは、それぞれに図3A中のB−B断面図及びC−C断面図である。
【0023】
橋脚用水平免震装置40は、フーチング30上に設けられ、橋脚20を水平方向に相対移動可能に支持する滑り支承部材42を本体とし、この本体42に、復位用バネ46と、第1ストッパー50とが追設されてなる。
【0024】
滑り支承部材42は、フーチング30の上面に固定されたテフロン板からなる下側滑り板43と、橋脚20の下面に固定されたステンレス板からなる上側滑り板44とを備えている。そして、上側滑り板44と下側滑り板43とが互いの滑り面を当接させつつ水平方向に滑ることにより、橋脚20は、フーチング30に対して水平方向の相対移動可能に支持されている。
【0025】
復位用バネ46は、フーチング30に対して水平方向に相対移動した橋脚20を復位させるためのものである。復位用バネ60は、例えば、積層ゴムであり、橋脚20の側方において、橋脚20とフーチング30とに跨って設けられ、これらを連結している。
【0026】
第1ストッパー50は、レベル2以上の地震動を受けるまでは、上記の滑り支承部材42を機能させないようにするものである。つまり、レベル2以上の地震動を受けるまでは、橋脚20とフーチング30との相対移動を規制するとともに、レベル2以上の地震動を受けて以降は、前記相対移動を許容する。ちなみに、ここで、レベル2の地震動とは、例えば「道路橋示方書(V耐震設計編)・同解説」(社団法人 日本道路協会編)等に示されている「レベル2地震動」のことである。
【0027】
このような機能の第1ストッパー50は、図3Cに示すように、橋脚20の側方に固定されたブラケット51と、このブラケット51に対応させてフーチング30の側方に固定されたブラケット52とを備えている。そして、これらブラケット51,52の互いに対向する水平なフランジ部51a,52aには、シャーピン53を上下方向に通すための貫通孔が各々形成されており、シャーピン53の上下端には、これら貫通孔からシャーピン53が抜け落ちないようにするためのナット等の抜け止め部材54,54が設けられている。
【0028】
そして、このような第1ストッパー50を少なくとも2カ所に設置すれば、橋脚20とフーチング30とは、並進移動だけでなく回転移動も不可能な概ね完全に相対移動不能状態に拘束されるようになる。このため、この例では、第1ストッパー50は、図3Aに示すように、橋脚20及びフーチング30の周囲の4カ所に設けられている。
【0029】
ここで、シャーピン53の剪断強度は、レベル2未満の地震動では破断しないが、レベル2の地震動を受けた際には、4カ所の全てのシャーピン53が破断するような強度に設定されている。
【0030】
よって、レベル2以上の地震動を受けるまでは、シャーピン53は破断されず、橋脚20とフーチング30との相対移動は規制される。他方、レベル2以上の地震動を受けて以降は、シャーピン53が破断されて第1ストッパー50は機能しなくなり、それに伴って滑り支承部材42が機能するようになって、橋脚20とフーチング30との相対移動が許容されるようになる。つまり、レベル2以上の地震動を受けた時点及びその後においては、橋脚20は、フーチング30側の地盤Gから相対移動可能に縁切りされ、これにより、レベル2以上の地震動の橋脚20への入力は抑制されて、橋脚20の破損や倒壊は有効に防止される。
【0031】
<<<橋桁用水平免震装置60>>>
図4A乃至図4Cは、橋桁用水平免震装置60の説明図である。図4Aは橋脚20及び橋桁10の平面図であり、図4Bは同側面図であり、図4Cは、図4A中のC−C断面図である。
【0032】
橋桁用水平免震装置60は、橋脚20上に設けられて、橋桁10の桁長方向の各端部10a,10bを水平方向に相対移動可能に支持する滑り支承部材62を本体とし、当該本体62に、復位用バネ66と、第2ストッパー70とが追設されてなる。
【0033】
滑り支承部材62は、橋脚20の上面20aに固定されたテフロン板からなる下側滑り板63と、橋桁10の桁長方向の各端部10a,10bの下面に各々固定されたステンレス板からなる上側滑り板64とを備えている。そして、上側滑り板64と下側滑り板63とが互いの滑り面を当接させつつ水平方向に滑ることにより、橋桁10の各端部10a,10bは、橋脚20に対して水平方向の相対移動可能に支持されている。
【0034】
復位用バネ66は、橋脚20に対して水平方向に相対移動した橋桁10の端部10a,10bを復位させるためのものである。復位用バネ66は、例えば積層ゴムであり、橋桁10の側方において橋桁10と橋脚20とに跨って設けられ、これらを連結している。
【0035】
第2ストッパー70は、レベル2以上の地震動を受けて以降に、上記の滑り支承部材62を機能させないようにする装置である。すなわち、レベル2以上の地震動を受けるまでは、橋桁10の各端部10a,10bと橋脚20との相対移動を許容するが、レベル2以上の地震動を受けて以降は、前記相対移動を規制する。
【0036】
このような機能の第2ストッパー70は、図4A及び図4Bに示すように、地震動を検知する3次元変位計等の地震動センサー(不図示)と、この地震動センサーの検知信号に基づいて、上側滑り板64と下側滑り板63との相対移動を制御する相対移動制御機構72とを備えている。
【0037】
相対移動制御機構72は、例えばクラッチ機構であり、図4Bに示すように、互いに対向する一対の摩擦板73a,73bを有している。そして、一方の摩擦板73aは橋脚20側に設けられ、他方の摩擦板73bは橋桁10側に設けられており、更には、これら摩擦板73a,73bのうちの一方の摩擦板73bは、油圧シリンダー等のアクチュエータ74によって、もう一方の摩擦板73aに対して接離自在に設けられている。
【0038】
よって、図5Aに示すように摩擦板73a,73b同士が離間した状態では、上側滑り板64と下側滑り板63との相対移動が許容されて橋桁10の端部10a,10bが橋脚20から縁切りされて、その結果、橋脚20に対する橋桁10の端部10a,10bの相対移動が許容されるが、他方、図5Bに示すように摩擦板73a,73b同士が接触すると、上側滑り板64と下側滑り板63との相対移動が規制されて橋桁10の端部10a,10bが橋脚20に連結され、その結果、橋脚20に対するこれら端部10a,10bの相対移動が規制される。
【0039】
ところで、前記地震動センサーにおける地震動の感知部はフーチング30又はフーチング30近傍の地盤Gに固定されており、また、当該感知部から出力される地震動の検知信号は、信号線を介してコンピュータ(不図示)に入力される。そして、コンピュータは、この検知信号に基づいて上記のアクチュエータ74の動作を制御する。
【0040】
すなわち、感知部からレベル2以上の地震動の検知信号がコンピュータに入力されるまでは、図5Aに示すように、前記一対の摩擦板73a,73b同士は互いに離間した状態を維持するように前記アクチュエータ74は制御され、これにより、橋脚20に対する橋桁10の端部10a,10bの相対移動が許容される。しかし、レベル2以上の地震動の検知信号が入力されたら、コンピュータは前記アクチュエータ74を制御して、図5Bに示すように摩擦板73a,73b同士を当接させて一体に連結し、これにより、橋脚20に対する橋桁10の端部10a,10bの相対移動が規制される。ちなみに、前記コンピュータはCPUやメモリ等を有しており、メモリに格納された制御用プログラムを読み出したCPUが前記制御用プログラムに基づいて前記アクチュエータ74の駆動源たるモータ等を制御することにより、上記動作が実行される。
【0041】
<<<橋脚用水平免震装置40及び橋桁用水平免震装置60の作用効果について>>>
このような橋脚用水平免震装置40と橋桁用水平免震装置60とを備えていれば、大地震(ここでは、レベル2以上の地震動を生じるものとしている)の発生時及び前記大地震の無い平時の何れにおいても、人や車輌等が橋桁10上に安定して留まり易くなる。詳しくは以下のとおりである。
【0042】
先ず、レベル2以上の地震動を受けるまでは、図6Aに示すように、橋桁用水平免震装置60の方では、橋桁10と橋脚20との水平方向の相対移動を許容するが、橋脚用水平免震装置40の方では、橋脚20とフーチング30との水平方向の相対移動を規制する。つまり、橋桁10は橋脚20に対して水平方向に相対移動するが、橋脚20はフーチング30に対して水平方向に相対移動しない。
【0043】
よって、レベル2以上の地震動の無い平時においては、橋脚20は水平振動せずに橋桁10のみが水平振動することにより、橋桁10は水平免震される。このため、この水平免震時においては、橋脚20が水平振動しない分だけ当該橋脚20に支持された橋桁10の水平振動の最大振幅も小さくなり、その結果、平時においては橋桁10の水平振動が抑制され、橋桁10上に人や車輌が安定して留まり易くなる。
【0044】
他方、レベル2以上の地震動を受けて以降は、上述とは逆の状態に切り替えられる。つまり、図6Bに示すように、橋脚用水平免震装置40の方では、橋脚20と橋桁10との水平方向の相対移動を許容するが、橋桁用水平免震装置60の方では、橋桁10と橋脚20との水平方向の相対移動を規制する。更に換言すると、橋脚20はフーチング30に対して水平方向に相対移動するが、橋桁10は橋脚20に対して水平方向に相対移動しない。
【0045】
よって、大地震の発生時及びそれ以降については、全ての橋桁10と橋脚20とが連結一体化してあたかも一つの大きな質点のように振る舞ってフーチング30上にて振動するので、実質的に橋桁10の振動の長周期化を図ることができ、その結果、橋桁10上に人や車輌が安定して留まり易くなる。また、橋脚20からの橋桁10の脱落も有効に防止されるので、橋桁10上に人や車輌が安定して留まり易くなる。
【0046】
ところで、この第2ストッパー70を備えた橋桁用水平免震装置60によれば、レベル2以上の地震動を受けた後において、橋桁10が通行し易くなるという作用効果も奏する。
【0047】
すなわち、高架橋1にレベル2の大きな地震動が入力されると、通常は、橋脚20に対して橋桁10の端部10a,10bが桁長方向に大きく移動する。すると、当該橋桁10の端部10aと、当該端部10aが橋脚20において桁長方向に隣り合う橋桁10の端部10bとの間に大きな隙間Sが形成されて、結果、当該高架橋1は通行し難くなる。
【0048】
この点につき、この第2ストッパー70を備えていれば、レベル2以上の地震動を受けて以降には、図6Bに示すように、第2ストッパー70が橋桁10の端部10a,10bと橋脚20との相対移動を規制するので、桁長方向に隣り合う端部10aと端部10bとの隙間Sの拡大は抑制され、その結果、当該高架橋1は、レベル2以上の地震動を受けた後でも通行し易いものとなる。
【0049】
===変形例===
図7乃至図8Bは、上述の実施形態の第1変形例の説明図である。図7には、第1変形例に係る橋1’の側面図を示しており、図8A及び図8Bには、それぞれに、橋脚20の上部の拡大図を示している。
【0050】
この第1変形例は、特に橋桁用水平免震装置60に関して、以下の2つの点で上述の実施形態と相違する。
【0051】
先ず、第1の相違点としては、上述の実施形態では、橋桁10の桁長方向の両端部10a,10bは、水平方向における任意方向に対して相対移動可能に橋脚20に支持されていたが、この第1変形例にあっては、図7に示すように、橋桁10の桁長方向の前端部10aは、所謂回転支持部材80(モーメントの伝達はせずに相対移動を規制する支持部材)によって橋脚20に相対移動不能に支持されている一方、後端部10bは、所謂移動支持部材90(モーメントの伝達はせずに所定方向の相対移動は許容する支持部材)によって桁長方向にのみ相対移動可能に橋脚20に支持されている。
【0052】
また、第2の相違点としては、上述の実施形態の第2ストッパー70では、地震動センサーに基づいてクラッチ機構72を作動することにより、橋桁10の端部10a,10bと橋脚20とを縁切り状態から連結状態へと切り替えていたが、この第1変形例の第2ストッパー95では、地震動センサーやクラッチ機構72を用いずに、橋桁10の後端部10bと橋脚20とを縁切り状態から連結状態へと切り替えるようにしている(図8A及び図8Bを参照)。
【0053】
なお、これら2つの相違点以外については、上記の実施形態と同様であるので、同じ構成については同一の符号を付してその説明は省略する。
【0054】
図8Aに示すように、橋桁10の前端部10aを支持する回転支持部材80は、例えば、前記前端部10aに固定されたブラケット81と、橋脚20に固定されたブラケット82とを有している。そして、これらブラケット81,82には、それぞれに桁幅方向に沿った貫通孔が形成されており、これらの貫通孔に連結ピン83が挿通されることによって、前記端部10aは橋脚20に相対移動不能に連結されている。
【0055】
一方、橋桁10の後端部10bを支持する移動支持部材90は、図8Aに示すように、上述と同構成の回転支持部材80を備えているとともに、これに加えてその下部には、滑り支承部材62及びガイド部材(不図示)を備えている。滑り支承部材62は、前述したものと同構成であり、つまり、橋脚20の上面20aに固定されたテフロン板からなる下側滑り板63と、回転支持部材80の下面に固定されたステンレス板からなる上側滑り板64とを有している。他方、ガイド部材は、橋脚20の上面20aにおける滑り支承部材62の桁幅方向の両脇の部分に、桁長方向に沿って直線状に配された一対の形鋼部材等であり、これにより、滑り支承部材62の上側滑り板64は、桁幅方向の相対移動不能に規制されている。よって、上側滑り板64と下側滑り板63とが互いの滑り面を当接させつつ桁長方向に滑ることにより、橋桁10の後端部10bは、橋脚20に対して桁長方向の相対移動のみが許容されている。なお、図8A及び図8Bには図示していないが、上述の実施形態と同様に、橋桁10の後端部10bには復位用バネ66が設けられている。
【0056】
ここで橋脚20に対して相対移動可能なのは、橋桁10の後端部10bのみであることから、当然ながら、第2ストッパー95は、橋脚20に固定された前記前端部10aに対しては設けられず、橋脚20に対する相対移動が許容された前記後端部10bに対してのみ設けられる。そして、この第2ストッパー95は、レベル2以上の地震動を受けるまでは、前記後端部10bと橋脚20との桁長方向の相対移動を許容するが、レベル2以上の地震動を受けて以降は、前記相対移動を規制する。
【0057】
この第2ストッパー95の具体的構成としては、例えば、図8Aに示すように、橋桁10の後端部10bに固定されたブラケット96と、ブラケット96を上下に貫通する貫通孔に挿抜自在に差し込まれ、下端部を橋脚20の上面20aに当接支持されたピン部材97と、橋脚20の上面20aにおいて、橋桁10の後端部10bの相対移動の許容限度に相当する位置に形成された落とし穴98とを備えた構成を例示できる。なお、上記の相対移動の許容限度というのは、レベル2の地震動を受けた際に生じ得る橋脚20と橋桁10との間の想定変位量であり、適宜な計算手法により算出される。
【0058】
そして、このような構成によれば、橋脚20に対して橋桁10の後端部10bが相対移動すると、許容限度の相対移動量に達するまでは、図8Aに示すように前記ピン部材97は橋脚20の上面20aに下端部を摺動しつつ支持されて橋桁10の後端部10bとともに橋脚20に対して相対移動するが、前記許容限度の相対移動量に達すると、図8Bに示すように、その位置に形成された落とし穴98に前記ピン部材97が落下して、落とし穴98にピン部材97の下部が引っかかり、その際には、ピン部材97の上部はブラケット96の貫通孔に差し込まれている。よって、ピン部材97は、ブラケット96及び落とし穴98の両者と係合することになり、これをもって橋桁10の後端部10bはそれ以上の相対移動を規制されることとなる。
【0059】
図9A及び図9Bは、上述の第2ストッパー95の変形例の側面図である。上述の第2ストッパー95では、図8Bに示すように、ピン部材97が橋桁10の後端部10b及び橋脚20の両者に直接係合することにより、前記後端部10bの橋脚20に対する相対移動を規制していたが、図9A及び図9Bの変形例の第2ストッパー100では、橋桁10の後端部10bと、この後端部10bの後方に隣り合う橋桁10の前端部10aとの両者に第2ストッパー100が係合し、前記後端部10bと前記前端部10aとを連結してこれらの離間を阻止するとともに、この離間の阻止に加えて更に、前記前端部10aが前記回転支持部材80により橋脚20に対して相対移動不能であることを利用して、間接的に前記後端部10bの橋脚20に対する相対移動が規制されるようになっている。
【0060】
詳しくは、図9Aに示すように、後端部10bの相対移動量が許容限度内の場合には、橋桁10の後端部10bと、その後方に隣り合う橋桁10の前端部10aとに跨って、第2ストッパー100の両端部100a,100bは掛け渡されて支持された状態を維持する。すなわち、この第2ストッパー100の桁長方向の両端部100a,100bは、それぞれに、橋桁10の後端部10bの受け台102及び橋桁10の前端部10aの受け台102に載置支持されている。また、橋桁10の後端部10b及び橋桁10の前端部10aにおいて第2ストッパー100の下方に位置する部分には、それぞれに、上方を向いた凹部104,104が形成されているとともに、第2ストッパー100の下面には、これら一対の凹部104,104に対応させて一対の凸部106,106が形成されている。
【0061】
よって、後端部10bが相対移動して前記許容限度の相対移動量に達すると、第2ストッパー100の後端部100b及び前端部100aが前記受け台102,102から外れて下方へと落下する。そして、地震動などによって前記後端部10bが桁長方向に振動する過程において、後端部10bの相対移動量が元の零近傍に戻った際には、図9Bに示すように、第2ストッパー100の凸部106,106が、前記後端部10b及び前記前端部10aの凹部104,104にそれぞれ嵌合し、これにより、橋桁10の後端部10bと橋桁10の前端部10aとが連結されて、これ以上の離間を規制するが、ここで、前記前端部10aは回転支持部材80により桁長方向の相対移動不能に規制されていることから、当該回転支持部材80を通じて、前記後端部10bの橋脚20に対する相対移動が間接的に規制されることとなる。
【0062】
ちなみに、前記凹部104及び前記凸部106の形状としては、頂部が下方を向いた円錐形状や三角柱形状等を例示することができる。
【0063】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0064】
(a)上述の実施形態では、橋脚用水平免震装置40及び橋桁用水平免震装置60の本体として滑り支承部材42,62を用いていたが、何等これに限るものではなく、所謂転がり支承部材(プレート部材と、このプレート部材の水平面に当接して転動する球体や円柱体等のコロ部材等のコロ部材とを備えたもの)を用いても良い。
【0065】
(b)上述の実施形態では、橋の一例として連続高架橋1を例示したが、何等これに限るものではない。すなわち、複数の橋桁10が連続するものではなくて一つの橋桁10でも良いし、道路や線路でなく河川に渡された普通の橋でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】2種類の免震装置40a,60aが併設された橋1aの側面図である。
【図2】本実施形態に係る橋1の側面図である。
【図3】図3A乃至図3Cは、橋脚用水平免震装置40の説明図である。
【図4】図4A乃至図4Cは、橋桁用水平免震装置60の説明図である。
【図5】図5A及び図5Bは、第2ストッパー70の説明図である。
【図6】図6Aは、レベル2以上の地震動の無い平時における橋1の状態を示す図であり、図6Bは、レベル2以上の地震動を受けて以降の橋1の状態を示す図である。
【図7】第1変形例の橋1’説明図である。
【図8】図8A及び図8Bは、第1変形例の橋1’の橋脚20の上部の側面図である。
【図9】図9A及び図9Bは、上述の第1変形例に係る第2ストッパーの更なる変形例の側面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 橋、10 橋桁、10a 端部、10b 端部、20 橋脚、20a 上面、
30 フーチング、32 杭、40 橋脚用水平免震装置(橋脚支承部材)、
42 滑り支承部材、43 下側滑り板、44 上側滑り板、46 復位用バネ、
50 第1ストッパー、51 ブラケット、51a フランジ部、
52 ブラケット、52a フランジ部、53 シャーピン、54 抜け止め部材、
60 橋桁用水平免震装置(橋桁支承部材)、62 滑り支承部材、
63 下側滑り板、64 上側滑り板、66 復位用バネ、70 第2ストッパー、
72 相対移動制御機構、73a 摩擦板、73b 摩擦板、
74 アクチュエータ、80 回転支持部材、81 ブラケット、
82 ブラケット、83 連結ピン、90 移動支持部材、95 第2ストッパー、
96 ブラケット、97 ピン部材、98 落とし穴、100 第2ストッパー、
100a 前端部、100b 後端部、102 受け台、104 凹部、
106 凸部、G 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に固定されたフーチング上に設けられ、橋脚を水平方向に相対移動可能に支持する橋脚支承部材と、前記橋脚に設けられ、橋桁を水平方向に相対移動可能に支持する橋桁支承部材と、を備えた橋であって、
所定レベル以上の地震動を受けるまでは、前記橋桁支承部材は、前記橋脚に対する前記橋桁の相対移動を許容するとともに、前記橋脚支承部材は、前記フーチングに対する前記橋脚の相対移動を規制し、
前記所定レベル以上の地震動を受けて以降は、前記橋桁支承部材は、前記橋脚に対する前記橋桁の相対移動を規制するとともに、前記橋脚支承部材は、前記フーチングに対する前記橋脚の相対移動を許容することを特徴とする橋。
【請求項2】
請求項1に記載の橋であって、
前記橋脚は、前記橋桁の桁長方向に沿って複数配置されているとともに、前記桁長方向に隣り合う一対の前記橋脚には、順次、対応する前記橋桁が掛け渡されて支持されており、
前記所定レベル以上の地震動を受けて以降は、前記橋脚に対する前記橋桁の相対移動が、全ての橋桁について規制されることを特徴とする橋。
【請求項3】
地盤に固定されたフーチング上に設けられ、橋脚を水平方向に相対移動可能に支持する橋脚支承部材と、前記橋脚に設けられ、橋桁を水平方向に相対移動可能に支持する橋桁支承部材と、を備えた橋の免震方法であって、
所定レベル以上の地震動を受けるまでは、前記橋桁支承部材は、前記橋脚に対する前記橋桁の相対移動を許容するとともに、前記橋脚支承部材は、前記フーチングに対する前記橋脚の相対移動を規制し、
前記所定レベル以上の地震動を受けて以降は、前記橋桁支承部材は、前記橋脚に対する前記橋桁の相対移動を規制するとともに、前記橋脚支承部材は、前記フーチングに対する前記橋脚の相対移動を許容することを特徴とする橋の免震方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−30242(P2009−30242A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192316(P2007−192316)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】