説明

橋梁ジョイント部の伸縮装置及び橋梁のジョイント工法

【課題】橋梁ジョイント部の片持ち梁式フィンガージョイントタイプの伸縮装置において、比較的簡易で低コストの伸縮装置により地震動レベル2の大きな伸縮量にも容易に対応でき、しかも耐久性、施工性、メンテナンス性、低騒音性・低振動性、完全止水性などの継手性能が優れ、さらに大地震時に遊間が大きく開いても平時と同様に供用できるようにする。
【解決手段】一対の櫛形フェースプレート20、20からなる表層部材11と、切欠き底面に遊間2を挟んで設置された一対の下層部材12、12との間に伸縮空間16を形成し、ここに上下に滑り面を有する広幅で橋軸直角方向に連続する梁状の高強度繊維補強コンクリート等からなる中間部材13を挟み込んだサンドイッチ構造とし、中間部材13の両側の伸縮隙間17には弾性シール部材15で塞ぎ、主桁の伸縮に対して常に中間部材13が表層部材11のフィンガー部を支持するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高架道路や道路橋などに用いられる橋梁ジョイント部の伸縮装置及びこの伸縮装置を用いた橋梁のジョイント工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高架道路や道路橋では、温度変化等による伸縮や振動等による応力に対応するため、伸縮装置が設けられている。従来の伸縮装置としては、鋼製伸縮装置、鋳鉄製伸縮装置、合成ゴム伸縮装置などが既に製品化され、継手に使用されている。合成ゴム伸縮装置は、ゴム材と鋼板を組み合わせたものであり、比較的安価で騒音も小さく、施工性・走行性等が良好であるなどの利点があるが、欠点としては、耐久性に劣り、大きな伸縮量に対応できず、また積雪地では破損に注意する必要があることなどから、一対の櫛形フェースプレートからなる所謂フィンガージョイントが多用されている。
【0003】
このフィンガージョイントは、構造的には、継手の遊間部の輪荷重を支持する方式の違いから、フェースプレートの両端を支持する両端支持式と、フェースプレートの遊間上に張出す片持ち梁式とに大別される。両端支持式は、製作や施工精度の確保が難しいなどから、現在では片持ち梁式が主流となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、本発明に関連する先行技術として、一対のフェースプレートの一方のフェースプレートを支持プレートの上に載せ、そのフィンガーを変形可能として橋軸方向・橋軸直角方向の大きな移動量を吸収できるようにした橋梁用伸縮装置(特許文献2参照)、一対のフェースプレートのフィンガーを揺動可能に取り付け、橋軸直角方向の大きな移動量を吸収できる橋梁用伸縮装置(特許文献3参照)、一対のフィンガージョイントが上部に設けられた一対のプレキャスト部材を凹部と凸部により伸縮可能に嵌合させる橋梁の伸縮部(特許文献4)などが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001―288707号公報
【特許文献2】特開2000―96502号公報
【特許文献3】特開2000―73305号公報
【特許文献4】特開平7―268815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、地震時対応に有利な免震支承の橋梁設計が主流になっている。また、橋の耐震設計においては、橋の供用期間中に発生する確率が高い地震動レベル1と、供用期間中に発生する確率は低いが大きな強度をもつ地震動レベル2の2種類を考慮するものとなっている。そのため、この橋梁設計における動的移動量に対応するジョイントの開発が各方面でなされている。
【0007】
片持ち梁式のフィンガージョイントの場合、大きなフェースプレートを用いることで大きな伸縮量に容易に対応することができるが、フェースプレートの板厚が増大し、このフェースプレートを片持ち支持する受台も大型化するため、コストが増大する、施工に時間がかかるなどの課題がある。さらに、片持ちで噛合するフィンガーの下には、受け樋や弾性シール材などが設置されているだけなので、大地震時に遊間が大きく開いた場合には、一対のフィンガーの先端の間には大きな隙間が形成され、車両が走行できなくなる恐れがある。
【0008】
本発明は、上述のような課題を解決すべくなされたものであり、橋梁ジョイント部に設置される片持ち梁式のフィンガージョイントタイプの伸縮装置において、比較的簡易で低コストの伸縮装置により地震動レベル2の大きな伸縮量にも容易に対応することができ、しかも耐久性、施工性、メンテナンス性、低騒音性・低振動性、完全止水性などの継手性能が優れ、さらに大地震時に遊間が大きく開いても平時と同様に供用することができる橋梁ジョイント部の伸縮装置及び橋梁のジョイント工法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る発明は、橋梁の橋軸方向の中間部または端部において橋体(橋桁、橋台)が遊間を挟んで対向配置されている橋梁ジョイント部の上部切欠き空間に遊間を跨いで設置される伸縮装置であり、一対の櫛形フェースプレートからなる表層部材と、切欠き底面に遊間を挟んで設置された一対の下層部材との間に、上下に滑り面を有する橋軸直角方向に連続する梁状の中間部材を挟み込んだサンドイッチ構造であり、橋体の伸縮に対して梁状の中間部材が表層部材のフィンガー部を支持するように構成されていることを特徴とする橋梁ジョイント部の伸縮装置である(図1参照)。
【0010】
本発明の伸縮装置の基本構造であり、表層部材と下層部材の間に伸縮空間を形成し、ここに橋軸方向に広い幅の梁状の中間部材を配置し、この中間部材の橋軸方向両側の伸縮隙間には弾性シール材を配置して、サンドイッチ構造とすることにより、比較的簡易で低コストの伸縮装置により地震動レベル2の大きな伸縮量にも容易に対応することができ、しかも耐久性、施工性、メンテナンス性、低騒音性・低振動性、完全止水性などの継手性能が優れ、さらに大地震時に遊間が大きく開いても平時と同様に供用することができるようにしたものである。
【0011】
表層部材には、平板タイプやアングルタイプ等の櫛形フェースプレートからなる片持ち梁式の所謂フィンガージョイントが用いられる。鋼製、ステンレス鋼製、鋳鉄製、鋳鋼製、球状黒鉛鋳鉄製、超高強度繊維補強コンクリート又は超高強度繊維補強モルタル製などのプレートを用いることができる。中間部材は、軽量化、コスト、メンテナンス、騒音・振動低減などの面から、高強度補強コンクリート、特に超高強度繊維補強コンクリート又は超高強度繊維補強モルタルが好ましい。このコンクリート製の中間部材の上下面は、コンクリート面のままでも良いが、鋼製、ステンレス鋼製、鋳鉄製などの滑り板を設けるのが好ましい。下層部材は、鋼板、ステンレス鋼板、鋳鉄板、超高強度繊維補強コンクリート又は超高強度繊維補強モルタル板などを用いることができる。弾性シール材は、乾式や湿式のものを用いることができる。
【0012】
本発明の請求項2に係る発明は、橋梁の橋軸方向の中間部または端部において橋体(橋桁、橋台)が遊間を挟んで対向配置されている橋梁ジョイント部の上部切欠き空間に遊間を跨いで設置される伸縮装置であり、橋梁の橋軸方向の中間部または端部において橋体が遊間を挟んで対向配置されている橋梁ジョイント部の上部切欠き空間に遊間を跨いで設置される伸縮装置であり、一対の平板状の櫛形フェースプレートの先端フィンガー部同士を遊間の上方で所定の遊隙をおいて噛み合わせ、その各基端プレート部を対向する橋体にそれぞれ間詰材(コンクリート等)を介して定着してなる表層部材と、一対の断面L字状の部材を遊間を挟んで切欠き底面に設置することにより表層部材の下に伸縮空間を形成する下層部材と、上下に滑り面を有する橋軸直角方向に連続する梁であって前記伸縮空間内の表層部材と下層部材との間に遊間を跨いで橋軸方向の両側に伸縮隙間をおいて配置され、遊間が最大に開いた状態でも表層部材のフィンガー部を支持し得る橋軸方向に広い幅を有する中間部材と、この中間部材の両側の前記伸縮隙間を塞ぐ弾性シール部材を備えていることを特徴とする橋梁ジョイント部の伸縮装置である。
【0013】
例えば図2〜図4に示すように、表層部材に平板タイプの櫛形フェースプレートを用いた横形式の伸縮装置の場合である。新設や既設の橋梁において、現場製作で設置し、あるいは工場製作のプレキャストユニットを設置することができる。現場製作の場合、一対の櫛形フェースプレートの基端プレート部が現場打ちの間詰材に定着され、RC床版と一体化される(図3参照)。工場製作の場合、基端プレート部がプレキャスト間詰材に定着され、このプレキャスト間詰材が現場打ちの間詰材によりRC床版と一体化される(図4参照)。下層部材に滑り板と立ち上がり板からなる断面L字状の部材を用いることにより、表層部材の下に伸縮空間を形成し、その外側に間詰空間を形成することができる。
【0014】
本発明の請求項3に係る発明は、橋梁の橋軸方向の中間部または端部において橋体(橋桁、橋台)が遊間を挟んで対向配置されている橋梁ジョイント部の上部切欠き空間に遊間を跨いで設置される伸縮装置であり、一対の断面L字状の櫛形フェースプレートの水平プレート部の先端フィンガー部同士を遊間の上方で所定の遊隙をおいて噛み合わせ、その各垂直プレート部を対向する橋体にそれぞれ間詰材(コンクリート等)を介して定着してなる表層部材と、この表層部材の下に形成された伸縮空間の底面を構成する遊間を挟んで一対の下層部材と、上下に滑り面を有する橋軸直角方向に連続する梁であって前記伸縮空間内の表層部材と下層部材との間に遊間を跨いで橋軸方向の両側に伸縮隙間をおいて配置され、遊間が最大に開いた状態でも表層部材のフィンガー部を支持し得る橋軸方向に広い幅を有する中間部材と、この中間部材の両側の前記伸縮隙間を塞ぐ弾性シール部材を備えていることを特徴とする橋梁ジョイント部の伸縮装置である。
【0015】
例えば図5に示すように、表層部材にアングルタイプの櫛形フェースプレートを用いた縦形式の伸縮装置の場合である。新設や既設の橋梁において、現場製作で設置し、あるいは工場製作のブレファブユニットを設置することができる。何れの場合も、一対のアングルタイプの櫛形フェースプレートの垂直プレート部が現場打ちの間詰材に定着され、RC床版と一体化される(図5参照)。下層部材には平板状のものを用いることができ、櫛形フェースプレートの垂直プレート部が伸縮空間を形成し、その外側に間詰空間を形成する。
【0016】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項2に記載の伸縮装置を用いた橋梁のジョイント工法であり、遊間を挟んで対向する橋体端部の上部にそれぞれ切欠きを設けることにより上部切欠き空間を形成し、この上部切欠き空間の橋軸方向中央部における遊間の両側の底面にそれぞれ断面L字状の下層部材を伸縮空間が形成されるように向かい合わせて設置し、この伸縮空間内の橋軸方向中央部に中間部材を遊間を跨いで設置し、この中間部材と一対の下層部材の立ち上がり板との間の伸縮隙間に弾性シール部材を設置した後、表層部材を中間部材の上に設置し、上部切欠き空間の橋軸方向両側の間詰空間に間詰材を打設して伸縮装置と橋体を一体化させることを特徴とする橋梁のジョイント工法である。
【0017】
表層部材に平板タイプの櫛形フェースプレートを用いた横形式の伸縮装置を現場製作で設置する場合である(図3参照)。RC床版上に舗装をして完成する。
【0018】
本発明の請求項5に係る発明は、請求項2に記載の伸縮装置を用いた橋梁のジョイント工法であり、型枠内に表層部材、中間部材、下層部材、弾性シール部材を組み立て、表層部材の基端プレート部と下層部材を一体化させるための間詰材を打設することにより、プレキャスト伸縮装置ユニットを予め製作しておき、現場において、遊間を挟んで対向する橋体端部の上部にそれぞれ切欠きを設けることにより上部切欠き空間を形成し、この上部切欠き空間の橋軸方向中央部に前記プレキャスト伸縮装置ユニットを中間部材が遊間を跨ぐように設置し、上部切欠き空間の橋軸方向両側の間詰空間に間詰材を打設してプレキャスト伸縮装置ユニットと橋体を一体化させることを特徴とする橋梁のジョイント工法である。
【0019】
表層部材に平板タイプの櫛形フェースプレートを用いた横形式の伸縮装置を工場製作のプレキャストユニットとし、これを現場に設置する場合である(図4参照)。プレキャストユニットは逆打ちで製作することができる。RC床版上に舗装をして完成する。
【0020】
本発明の請求項6に係る発明は、請求項3に記載の伸縮装置を用いた橋梁のジョイント工法であり、表層部材、中間部材、下層部材、弾性シール部材を組み立てることにより、プレファブ伸縮装置ユニットを予め製作しておき、現場において、遊間を挟んで対向する橋体端部の上部にそれぞれ切欠きを設けることにより上部切欠き空間を形成し、この上部切欠き空間の橋軸方向中央部に前記ブレファブ伸縮装置ユニットを中間部材が遊間を跨ぐように設置し、上部切欠き空間の橋軸方向両側の間詰空間に間詰材を打設してプレファブ伸縮装置ユニットと橋体を一体化させることを特徴とする橋梁のジョイント工法である。
【0021】
表層部材にアングルタイプの櫛形フェースプレートを用いた縦形式の伸縮装置を工場製作のプレファブユニットとし、これを現場に設置する場合である(図6参照)。プレファブユニットは逆さにして製作することができる。RC床版上に舗装をして完成する。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、以上のような構成からなるので、次のような効果が得られる。
(1)表層部材と下層部材の間に梁状のコンクリート製等の中間部材を挟み込んだサンドイッチ構造であるため、比較的シンプルな構造であり、また大伸縮量に対して表層部材の板厚を従来の櫛形ジョイトの1/4程度まで薄くすることができ、比較的簡易で低コストの伸縮装置により地震動レベル2の大きな伸縮量にも容易に対応することができる。
(2)櫛形フェースプレートをコンクリート製等の中間部材で支える構造であるため、耐久性、施工性、メンテナンス性、低騒音性・低振動性、完全止水性など優れた継手性能が得られる。
(3)遊間が大きく開いてもフィンガー部が中間部材で支持されるため、大地震時の大変形移動にフレキシブルに対応でき、車両を走行させることができ、災害時において平時と同様に供用することができる。
(4)工場製作または現場製作で容易に施工でき、また主桁の切欠き寸法も小さくて済み、施工性が良好でコストの低減が図れる。
(5)アングルタイプの櫛形フェースプレートを用いた縦形式の伸縮装置の場合、横形式に比べて表層部材を短くすることができ、舗装のアスファルト部分が多くなることにより車両のスリップ等に対して極めて有利であり、特に地震時の大変形時に有効である。また、全体形状がコンパクトになり、工場からの運搬や設置等に有利となる。また、主桁の切欠きがさらに小さくなり、現場一体性に優れ、施工性がよく低コストであり、耐久性に優れるなどの利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を図示する一実施形態に基づいて説明する。この実施形態は、高架道路や道路橋における橋桁と橋桁の連結ジョイント部に適用した例である。橋台と橋桁の連結ジョイント部についても同様である。また、新設の橋梁、既設の橋梁の継目部の取替えに適用される。図1〜図4は、平板タイプの櫛形フェースプレートを用いた横形式の伸縮装置の実施形態であり、図5、図6はアングルタイプの櫛形フェースプレートを用いた縦形式の伸縮装置の実施形態である。
【0024】
図1は、本発明の横形式の伸縮装置の基本構造であり、手前から見た斜視図と斜め横から見た斜視図である。図2は、本発明の横形式の伸縮装置の具体的な一実施形態であり、平面図と、標準時・橋梁伸長時・橋梁収縮時(レベル2地震時)の鉛直断面図である。この図1、図2に示すように、高架道路や道路橋の鋼桁床版や箱桁などの橋桁の端部が橋脚上の免震支承により支持され、RC(鉄筋コンクリート)床版1とRC床版1が遊間2をおいて対向配置されている。隣接するRC床版1、1の端部における上部にそれぞれ浅い切欠き3を設けることにより上部切欠き空間4が形成され、この上部切欠き空間4に本発明の横形式の伸縮装置10が遊間2を跨いで設置される。
【0025】
伸縮装置10の基本構造は、表層部材11と下層部材12との間に広幅の中間部材13を挟み込んだサンドイッチ構造であり、表層部材11の下に伸縮空間16を形成し、この伸縮空間16内に配置した中間部材13の両側の伸縮隙間17を弾性シール部材15で塞ぐ構造である。表層部材11の基端部の定着は、種々の方法を採用することができるが、例えば、現場打ちやプレキャストの間詰材14にアンカー等で定着し、この間詰材14をアンカーや鉄筋等でRC床版1と一体化する。
【0026】
表層部材11は、一対の平板タイプの櫛形フェースプレート20、20からなる所謂フィンガージョイントであり、先端側のフィンガー20a、20a同士を遊間2の上方で所定の遊隙をおいて噛み合わせ、基端側の基部プレート20b、20bをそれぞれ間詰材14によりRC床版1に定着させる。この櫛形フェースプレート20には、鋼製、ステンレス鋼製、鋳鉄製、鋳鋼製、球状黒鉛鋳鉄製、超高強度繊維補強コンクリート又は超高強度繊維補強モルタル製などの櫛形フェースプレートを用いることができる。
【0027】
下層部材12は、図2に示すように、滑り板21と立ち上がり板22からなる断面L字状の部材であり、遊間2を挟んで切欠き3の底面に向かい合わせて設置することにより、一対の立ち上がり板22、22が伸縮空間16を形成し、また間詰材14の型枠を構成するようにされている。なお、図2は後述する工場製作の場合であり、間詰材14はプレキャスト間詰材14aと現場打ち間詰材14bから構成されている。滑り板21は、中間部材13を橋軸方向にスライド自在に支持する。この下層部材12には、鋼板、ステンレス鋼板、鋳鉄板、超高強度繊維補強コンクリート板などを用いることができる。
【0028】
中間部材13は、上下に滑り面を有する橋軸直角方向に連続する梁であって、伸縮空間16内の表層部材11と下層部材12との間に、遊間2を跨いで、かつ、橋軸方向の両側に伸縮隙間17、17をおいて配置され、大地震時に遊間2が最大に開いた状態でも一対の櫛型フェースプレート20、20の中間部分を支持し得る橋軸方向に広い幅を有している。この中間部材13は、軽量化、コスト、メンテナンス、騒音・振動低減などの面から、高強度コンクリート、特に超高強度繊維補強コンクリート又は超高強度繊維補強モルタルが好ましい。このコンクリート製の中間部材13の上下面には、滑り板23を設け、櫛形フェースプレート20をスライド自在に支持し、中間部材13が下層部材12上をスライドできるようにする。この滑り板23には、鋼板、ステンレス鋼板、鋳鉄板、超高強度繊維補強コンクリート又は超高強度繊維補強モルタルなどを用いることができる。また、この滑り板23を設けずにコンクリート面のままでもよい。
【0029】
伸縮隙間17の下部又は上部に弾性シール部材15が設置される。この弾性シール材15は接着材等により中間部材13の側面、間詰材14等の内面に固定され、橋梁の伸縮に伴い伸縮変形し、止水を行うと共に、中間部材13を中央に保持する機能を有している。この弾性シール材15には、乾式や湿式のものを用いることができる。
【0030】
図2(a)、(b)は、平時即ち標準時であり、一対の櫛形フェースプレート20、20の中間噛合部が中間部材13により支持され、輪荷重は中間部材13を介してRC床版1、1に伝達される。弾性シール部材15を除く櫛形フェースプレート20のほぼ全面が支持されるため、従来の片持ち梁式のフィンガージョイントに対して応力を例えば約25%以下に低減することができ、櫛形フェースプレート20の板厚を例えば50mmから15〜20mmへと薄くすることができる。また、弾性シール部材15により完全な止水がなされる。
【0031】
図2(c)は、温度変化などにより遊間2が狭まる橋梁伸長時であり、伸縮隙間17が狭まり、弾性シール部材15が収縮する。標準時と同様に荷重支持や止水等がなされる。
【0032】
図2(d)は、地震動レベル2の大地震時における橋梁収縮時であり、遊間2が大きく開いても、一対の櫛形フェースプレート20、20のフィンガー20a、20aが中間部材13で支持され、車両は平時と同様に走行することができる。伸長した弾性シール部材15、15により、中間部材13を中央位置に保持することができる。
【0033】
図3、図4は、本発明の横形式の伸縮装置10を用いた連結ジョイント部の施工方法を工程順に示したものである。図3は、伸縮装置10を現場で製作して設置する場合であり、新設や既設の橋梁に適用することができる。以下に示す手順で施工する(図3参照)。
【0034】
(a)隣接するRC床版1、1の端部の上部に浅い切欠き3を設け、伸縮装置を設置するための上部切欠き空間4を形成する。切欠き3の壁面から露出する鉄筋を所定長さに切断し、接続用露出筋30とする。切欠き3、3の底面に固定用アンカー孔31を削孔し、このアンカー孔31内に定着材32を流し込む。
【0035】
(b) 下層部材12の滑り板21の下には固定用アンカー33が設けられており、この固定用アンカー33を固定用アンカー孔31に挿入し、下層部材12を高さ調整しつつ固定する。切欠き3の底面と下層部材12との間の隙間にグラウト材34を打設する。遊間2に面する端部にはシール材35を配置する。
【0036】
(c) 遊間2を挟んで一対の下層部材12、12により伸縮空間16が形成され、この伸縮空間16の中央に中間部材13を設置する。
【0037】
(d) 中間部材13の両側に形成された伸縮隙間17、17にそれぞれ弾性シール材15を設置する。中間部材13の上に表層部材11を設置する。切欠き3における立ち上がり板22の外側の間詰空間に間詰材としてのコンクリート14を打設する。下層部材12の立ち上がり板22の外面には固定用アンカー36が設けられ、各櫛形フェースプレート20の基部プレート20bの下にも固定用アンカー37が設けられており、表層部材11及び下層部材12がコンクリート14に定着され、コンクリート14は接続用露出筋30によりRC床版1と一体化する。RC床版1の上に舗装5を施工して完成する。
【0038】
図4は、伸縮装置10を工場製作してプレキャスト伸縮装置を現場に設置する場合であり、新設や既設の橋梁に適用することができるが、既設のジョイント部の取替えに特に有効である。以下に示す手順で施工する(図4参照)。
【0039】
(a)工場において製作台40の上に型枠41を配置し、逆打ちで製作する。型枠41内に下から順に、表層部材11、中間部材13・弾性シール材15、下層部材12をセットし、型枠41と下層部材12との間に隙間空間に間詰材としてのコンクリート14aを打設し、プレキャスト伸縮装置10を製作する。プレキャストコンクリート14aには接続用露出筋37を配置しておく。
【0040】
(b) 現場では、RC床版1、1の端部の上部に浅い切欠き3を設け、伸縮装置を設置するための上部切欠き空間4を形成する。切欠き3の壁面から露出する鉄筋を所定長さに切断し、接続用露出筋30とする。切欠き3、3の底面に固定用アンカー孔31を削孔し、このアンカー孔31内に定着材32を流し込む。
【0041】
(c) プレキャスト伸縮装置10の表層部材11の上に仮固定梁材42を取付け、上部切欠き空間4の中央部に配置し、仮固定梁材42の高さ調整金具43で高さ調整しながら設置する。切欠き3の底面と下層部材12との間の隙間にグラウト材34を打設する。
【0042】
(d) プレキャスト伸縮装置10の両側に形成された間詰空間に間詰材としてのコンクリート14bを打設する。プレキャストコンクリート14aは接続用露出筋37・現場打ちコンクリート14b・接続用露出筋30によりRC床版1と一体化する。RC床版1の上に舗装5を施工して完成する。
【0043】
次に、図5は、本発明の縦形式の伸縮装置の具体的な一実施形態であり、平面図と標準時の鉛直断面図である。この図5に示す縦形式の伸縮装置10は、平板タイプの櫛形フェースプレート20の代わりに断面L字状のアングルタイプの櫛形フェースプレート25を用いるものである。断面L字状の櫛形フェースプレート25は、フィンガー26aを先端に有する水平プレート26と、この水平プレート26に対して直角な垂直プレート27からなる。一体成形や溶接等によるビルトアップ等で製作することができる。
【0044】
対向配置された一対の垂直プレート26、26により伸縮空間16が形成され、この垂直プレート26が固定用アンカー36により間詰材としてのコンクリート14に定着される。中間部材13・板状の下層部材12・弾性シール材15の形状・大きさ・材質等は、平板タイプと同じものを用いることができる。
【0045】
この縦形式の伸縮装置は、横形式と同様に現場で製作して設置することもできるが、プレファブ伸縮装置に好適である。図6は、縦形式の伸縮装置10を工場製作してプレファブ伸縮装置を現場に設置する場合を工程順に示したものである。この縦形式の場合も、新設や既設の橋梁に適用することができるが、既設のジョイント部の取替えに特に有効である。横形式と同様に以下に示す手順で施工する(図6参照)。
【0046】
(a)工場において、表層部材11の上に、中間部材13・弾性シール材15、下層部材12を順に重ね、一体化して、プレファブ伸縮装置10を製作する。横形式のように、型枠を用いてコンクリート打設する必要がなく、簡単に製作することができ、またコンパクトな形状のプレファブ伸縮装置とすることができる。
【0047】
(b) 現場では、RC床版1、1の端部の上部に浅い切欠き3を設け、伸縮装置を設置するための上部切欠き空間4を形成する。切欠き3、3の底面に固定用アンカー孔31を削孔し、このアンカー孔31内に定着材32を流し込む。切欠き3は、横形式の場合より小さくすることができる。
【0048】
(c) プレファブ伸縮装置10の表層部材11の上に仮固定梁材42を取付け、上部切欠き空間4の中央部に配置し、仮固定梁材42の高さ調整金具43で高さ調整しながら設置する。切欠き3の底面と下層部材12との間の隙間にグラウト材34を打設する。
【0049】
(d) プレファブ伸縮装置10の両側に形成された間詰空間に間詰材としてのコンクリート14を打設する。表層部材11は、現場打ちコンクリート14・固定用アンカー36・接続用露出筋30によりRC床版1と一体化する。RC床版1の上に舗装5を施工して完成する。
【0050】
この縦形式の場合、次のような長所がある。即ち、横形式に比べて表層部材11を短くすることができ、舗装5のアスファルト部分が多くなることにより車両のスリップ等に対して極めて有利であり、特に地震時の大変形時に有効である。また、全体形状がコンパクトになり、工場からの運搬や設置等に有利となる。また、RC床版の切欠き3がさらに小さくなり、現場一体性に優れ、施工性がよく低コストであり、耐久性にも優れるなどの利点がある。補修に関しては、横形式は表層部材の取替えだけで済むが、縦形式の場合はコンクリート埋設部分があるため、横形式に比べて現場作業に時間を要する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の平板タイプの櫛形フェースプレートを用いた横形式の伸縮装置の基本構造であり、(a)は手前から見た斜視図、(b)は斜め横から見た斜視図である。
【図2】図1の伸縮装置の具体的な一実施形態であり、(a)は平面図、(b)、(c)、(d)は、標準時・橋梁伸長時・橋梁収縮時(レベル2地震時)の鉛直断面図である。
【図3】本発明の横形式の伸縮装置を用いた連結ジョイント部の施工方法を工程順に示す鉛直断面図であり、伸縮装置を現場で製作して設置する場合である。
【図4】本発明の横形式の伸縮装置を用いた連結ジョイント部の施工方法を工程順に示す鉛直断面図であり、工場で製作したプレキャスト伸縮装置を現場に設置する場合である。
【図5】本発明のアングルタイプの櫛形フェースプレートを用いた縦形式の伸縮装置の一実施形態であり、(a)は平面図、(b)は鉛直断面図である。
【図6】図5の伸縮装置を用いた連結ジョイント部の施工方法を工程順に示す鉛直断面図であり、工場で製作したプレキャスト伸縮装置を現場に設置する場合である。
【符号の説明】
【0052】
1…RC床版
2…遊間
3…切欠き
4…上部切欠き空間
5…舗装
10…伸縮装置
11…表層部材
12…下層部材
13…中間部材
14…間詰材(コンクリート)
14a…プレキャスト間詰材
14b…現場打ち間詰材
15…弾性シール部材
16…伸縮空間
17…伸縮隙間
20…平板タイプの櫛形フェースプレート
20a…フィンガー
20b…基部プレート
21…滑り板
22…立ち上がり板
23…滑り板
25…アングルタイプの櫛形フェースプレート
26…水平プレート部
27…垂直プレート部
30…接続用露出筋
31…固定用アンカー筋
32…定着材
33…固定用アンカー
34…グラウト材
35…シール材
36…固定用アンカー
40…製作台
41…型枠
42…仮固定梁材
43…高さ調整金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の橋軸方向の中間部または端部において橋体が遊間を挟んで対向配置されている橋梁ジョイント部の上部切欠き空間に遊間を跨いで設置される伸縮装置であり、
一対の櫛形フェースプレートからなる表層部材と、切欠き底面に遊間を挟んで設置された一対の下層部材との間に、上下に滑り面を有する橋軸直角方向に連続する梁状の中間部材を挟み込んだサンドイッチ構造であり、橋体の伸縮に対して梁状の中間部材が表層部材のフィンガー部を支持するように構成されていることを特徴とする橋梁ジョイント部の伸縮装置。
【請求項2】
橋梁の橋軸方向の中間部または端部において橋体が遊間を挟んで対向配置されている橋梁ジョイント部の上部切欠き空間に遊間を跨いで設置される伸縮装置であり、
一対の平板状の櫛形フェースプレートの先端フィンガー部同士を遊間の上方で所定の遊隙をおいて噛み合わせ、その各基端プレート部を対向する橋体にそれぞれ間詰材を介して定着してなる表層部材と、一対の断面L字状の部材を遊間を挟んで切欠き底面に設置することにより表層部材の下に伸縮空間を形成する下層部材と、上下に滑り面を有する橋軸直角方向に連続する梁であって前記伸縮空間内の表層部材と下層部材との間に遊間を跨いで橋軸方向の両側に伸縮隙間をおいて配置され、遊間が最大に開いた状態でも表層部材のフィンガー部を支持し得る橋軸方向に広い幅を有する中間部材と、この中間部材の両側の前記伸縮隙間を塞ぐ弾性シール部材を備えていることを特徴とする橋梁ジョイント部の伸縮装置。
【請求項3】
橋梁の橋軸方向の中間部または端部において橋体が遊間を挟んで対向配置されている橋梁ジョイント部の上部切欠き空間に遊間を跨いで設置される伸縮装置であり、
一対の断面L字状の櫛形フェースプレートの水平プレート部の先端フィンガー部同士を遊間の上方で所定の遊隙をおいて噛み合わせ、その各垂直プレート部を対向する橋体にそれぞれ間詰材を介して定着してなる表層部材と、この表層部材の下に形成された伸縮空間の底面を構成する遊間を挟んで一対の下層部材と、上下に滑り面を有する橋軸直角方向に連続する梁であって前記伸縮空間内の表層部材と下層部材との間に遊間を跨いで橋軸方向の両側に伸縮隙間をおいて配置され、遊間が最大に開いた状態でも表層部材のフィンガー部を支持し得る橋軸方向に広い幅を有する中間部材と、この中間部材の両側の前記伸縮隙間を塞ぐ弾性シール部材を備えていることを特徴とする橋梁ジョイント部の伸縮装置。
【請求項4】
請求項2に記載の伸縮装置を用いた橋梁のジョイント工法であり、遊間を挟んで対向する橋体端部の上部にそれぞれ切欠きを設けることにより上部切欠き空間を形成し、この上部切欠き空間の橋軸方向中央部における遊間の両側の底面にそれぞれ断面L字状の下層部材を伸縮空間が形成されるように向かい合わせて設置し、この伸縮空間内の橋軸方向中央部に中間部材を遊間を跨いで設置し、この中間部材と一対の下層部材の立ち上がり板との間の伸縮隙間に弾性シール部材を設置した後、表層部材を中間部材の上に設置し、上部切欠き空間の橋軸方向両側の間詰空間に間詰材を打設して伸縮装置と橋体を一体化させることを特徴とする橋梁のジョイント工法。
【請求項5】
請求項2に記載の伸縮装置を用いた橋梁のジョイント工法であり、型枠内に表層部材、中間部材、下層部材、弾性シール部材を組み立て、表層部材の基端プレート部と下層部材を一体化させるための間詰材を打設することにより、プレキャスト伸縮装置ユニットを予め製作しておき、現場において、遊間を挟んで対向する橋体端部の上部にそれぞれ切欠きを設けることにより上部切欠き空間を形成し、この上部切欠き空間の橋軸方向中央部に前記プレキャスト伸縮装置ユニットを中間部材が遊間を跨ぐように設置し、上部切欠き空間の橋軸方向両側の間詰空間に間詰材を打設してプレキャスト伸縮装置ユニットと橋体を一体化させることを特徴とする橋梁のジョイント工法。
【請求項6】
請求項3に記載の伸縮装置を用いた橋梁のジョイント工法であり、表層部材、中間部材、下層部材、弾性シール部材を組み立てることにより、プレファブ伸縮装置ユニットを予め製作しておき、現場において、遊間を挟んで対向する橋体端部の上部にそれぞれ切欠きを設けることにより上部切欠き空間を形成し、この上部切欠き空間の橋軸方向中央部に前記ブレファブ伸縮装置ユニットを中間部材が遊間を跨ぐように設置し、上部切欠き空間の橋軸方向両側の間詰空間に間詰材を打設してプレファブ伸縮装置ユニットと橋体を一体化させることを特徴とする橋梁のジョイント工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−32057(P2007−32057A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215807(P2005−215807)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(505148553)株式会社コンクリート複合構造研究機構 (2)
【出願人】(000230010)ジオスター株式会社 (77)
【Fターム(参考)】