説明

橋梁用サドル構造

【課題】一の主塔にサドル構造を密集して配置しても、主塔にひび割れなどの損傷が生じ難く、主塔の高さを小さくすることができるサドル構造を提供する。
【解決手段】橋梁の主塔2に貫通して配置される湾曲管(サドル鋼管10)の内部に緊張材(ケーブル20)を貫通して配置し、このサドル鋼管10とケーブル20との間にグラウト30を充填した橋梁用サドル構造1である。このサドル鋼管10は、主塔2内に固定される一重管からなり、このサドル鋼管10の少なくとも中間部の外周に、サドル鋼管10の径方向外方に延びる外周突起(アンカーフランジ40)を設けて、サドル鋼管10と主塔2との付着力を向上させるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜張橋やエクストラドーズド橋などの主塔構造物におけるサドル構造に関する。特に、本発明は、橋梁の主塔構造物におけるサドル構造が一重管構造を有するサドル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
幹線道路や鉄道線路に設けられる橋梁として、斜張橋や斜張橋の一種であるエクストラドーズド橋が知られている。これら斜張橋やエクストラドーズド橋は、橋桁に垂直に配置された主塔から斜めに延びる複数の斜材ケーブル(緊張材)により橋桁を支持するように構成されている。
【0003】
上記のような斜張橋やエクストラドーズド橋の主塔構造物においては、サドル構造が提案されている。このサドル構造は、具体的には、橋桁に両端部を固定した斜材ケーブル(緊張材)の中央部を、橋桁に垂直に配置された主塔に保持することで、主塔が斜材ケーブルを介して橋桁を吊り下げるようにしたものである。そして、サドル構造を主塔の高さ方向に複数並列することで、複数本の緊張材を用いて主塔で橋桁を支持している。通常、このようなサドル構造は、斜材ケーブルの外周を二重の湾曲管で覆う二重管構造を有している(例えば、特許文献1)。
【0004】
図16(A)は、二重管構造を有するサドル構造の概略構成図、図16(B)は、図16(A)におけるA−A´断面図、図16(C)は、サドル構造の出口部の拡大図である。二重管構造を有するサドル構造100は、コンクリートで構成される主塔200内に外管120が埋設され、この外管120の内部に内管110が挿入されて構成されている。また、内管110の内部には緊張材130が挿通され、緊張材130の両端部が図示しない主桁(橋桁)に固定されている。このとき、外管120と内管110との間にはスペーサ150が配置され、外管120内での内管110の位置を保持するとともに、外管120と内管110との間にグラウトホース160を挿入できるようになっている。さらに、内管110の両端部には、外周面にネジ溝が形成されている内管直管部115が接続されており、その直管部115の外周にリングナット180をネジ嵌合することができる。そして、図16(C)に示すように、主塔200を構成するコンクリートの側壁に支圧板181を固定し、リングナット180の内管直管部115への螺合により、主塔200の対向する側壁から主塔200を締め付けることで、内管110を主塔200に固定している(図16(A)参照)。その他、主塔を構成するコンクリートのひび割れを防止するために、外管120の外周に補強筋170が配置されることが多い。
【0005】
上記のようなサドル構造100を形成するには、まず初めに、主塔200内に外管120を埋設し、外管120の内部に内管110を配置して、この内管110と外管120の両端部が、主塔200の対向する側壁に開口するように出口部を形成する(図16(C)を参照)。次に、内管110内に緊張材130を配置するとともに、内管110の両端部に内管直管部115を接続し、直管部115の端部に止水構造190を形成して内管110を封止する。続いて、緊張材130を緊張した後、外管120と内管110の間に配置されたグラウトホース160からグラウト140を注入して、緊張材130と内管110とが一体となるようにする。このとき、内管直管部115の内周面は、端部に向かって先細りのテーパー状に形成されているので、内管110内に充填されたグラウト140も、やはり両端部が先細りのテーパー状に硬化する。そして、グラウト140が固まった後に、内管直管部115の両端部の外周からリングナット180をねじ込んで、リングナット180を支圧板181を介して主塔200に当て止めする。このようになすことにより、緊張された緊張材130の張力は、グラウト140から内管直管部115、さらにリングナット180、支圧板181を介して主塔200に伝達される。従って、主塔200がケーブル(緊張材130)を介して橋桁を保持することができる。さらに、サドル構造の形成時に緊張材に導入した緊張力に加えて、地震などの振動により緊張材に作用する張力も、主塔200に受圧させることができる。
【0006】
ところで、二重管構造を有するサドル構造100は、列車や自動車の通過や、地震の発生などにより、サドル構造100の左右で張力差が生じることがある。図17は、サドル構造100において、左右の張力差が生じた場合の主塔200への張力の作用状態を示す模式図である。図17に示す状態は、相対的に緊張材130が右側に引っ張られるように張力が作用している状態であり、この張力は、主として主塔200の左側の側壁にほぼ集中して作用する。具体的には、緊張材130を図中の右側に引っ張るように作用した張力は、グラウト140により緊張材130と一体化している内管110からリングナット180・支圧板181を介して、主塔の左側の側壁に伝達される。
【0007】
【特許文献1】特開2002−88715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、このサドル構造は、二重管構造を有しているため、サドル構造全体の外径が大きく、そのことは主塔を小型化しつつ主塔における各サドル構造を近接して配置することを妨げる要因となっていた。
【0009】
また、二重管構造を有しているために、部品点数が多く、組み立て作業が繁雑で、不経済であった。
【0010】
そこで、本発明の主目的は、一の主塔に複数のサドル構造を近接して配置することができ、主塔の高さを小さくすることができるサドル構造を提供することにある。
【0011】
さらに、本発明の他の目的は、サドル構造を構成する部材の数が少なく、施工の容易なサドル構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、サドル構造に一重管構造を適用し、さらに、この一重管を介して行う緊張材から主塔への緊張力の伝達を一重管の中間部にも負担させることにより、上記の目的を達成する。
【0013】
本発明は、橋梁の主塔に貫通して配置される湾曲管の内部に緊張材を貫通して配置し、この湾曲管と緊張材との間にグラウトを充填した橋梁用サドル構造である。そして、この湾曲管は、主塔内に固定される一重管からなり、この湾曲管の少なくとも中間部の外周に、湾曲管の径方向外方に延びる外周突起を設けて、湾曲管と主塔との付着力を向上させるように構成してなることを特徴とする。
【0014】
本発明サドル構造によれば、緊張材に作用した張力を、この緊張材と一体の一重管(湾曲管)の中間部に形成された外周突起を介して主塔に伝達させることができる。従って、緊張材の張力が主塔の側壁に集中的に作用することを回避でき、主塔に設けられた各サドル構造間の間隔を小さくしても、主塔が損傷することを抑制できる。
【0015】
また、サドル構造が一重管構造であるため、従来の二重管構造のように外管を必要とせず、サドル構造を構成する部品の数を減らすことができる。それに伴い、サドル構造の施工作業性も改善することができる。
【0016】
本発明サドル構造において、外周突起は一つの湾曲管に一つであっても良いし、複数であっても良い。湾曲管の長さや湾曲管と主塔との付着を考慮に入れて外周突起の数を適宜選択すると良い。外周突起は、あまり多く設けても数に比例した効果は得られないので、一つの湾曲管に設ける外周突起の数は1〜5個あれば十分である。複数の外周突起を設けた場合、一の外周突起に作用する応力(緊張材の緊張力や張力に起因する)を小さくすることができて好ましい。
【0017】
また、外周突起を設ける位置は、少なくとも湾曲管の中間部とする。この中間部とは、湾曲管の両端から距離の等しい位置のみを指すのではなく、湾曲管の両端部以外の箇所全てを指す。この構成により、主塔中に湾曲管が埋設されたとき、外周突起が緊張材の張力を主塔の側壁以外の箇所に伝達させることができ、側壁への荷重の集中を回避することができる。もちろん、湾曲管の中間部に加えて端部にも外周突起を設けてもかまわない。一つの外周突起を湾曲管に設ける場合は、湾曲管の中央外周に設けることが好ましく、複数の外周突起を設ける場合は、湾曲管の長手方向に所定の間隔で分散配置することが好ましい。この配置により、湾曲管の長手方向に亘って、ほぼ均等に緊張材からの緊張力を主塔に伝達させることができる。
【0018】
外周突起の形状は、湾曲管の径方向外方に突出して、湾曲管と主塔との付着力を向上させるような形状であれば良い。例えば、連続的に湾曲管の外径が変動する形状でも良いし、不連続に外径が変動する形状でもよい。
【0019】
前者は、湾曲管の中途で風船が膨らむように膨出した紡錘形状が挙げられる。この形状によれば、外周突起の周辺に窪んだ角部が形成されることがなく、主塔を構成するコンクリートを湾曲管の周囲に打設した際、湾曲管の周囲に十分にコンクリートが行き渡りやすい。そのため、コンクリート中に空隙ができることを防止できる。
【0020】
一方、後者には、長手方向に径が一様な湾曲管の外周にフランジ状の外周突起を形成することが挙げられる。より具体的には、長手方向に径が一様な湾曲管の外周に円環状の外周突起を形成すればよい。この構成によれば、フランジ状の外周突起が緊張材からの緊張力を十分に主塔を構成するコンクリートに伝達できるため、より効率的な緊張力の伝達を実現することができる。
【0021】
いずれの形状の外周突起を選択するにしても、種々の要素(例えば、湾曲管の外径や伝達長、湾曲管と主塔のコンクリートとの付着度合いなど)を考慮に入れて、外周への突出長や外周突起の厚さを選択すれば良い。
【0022】
このような外周突起は、湾曲管と一体に形成されていても良いし、湾曲管とは別に用意した部材を接合して形成しても良い。
【0023】
外周突起を湾曲管と一体に形成する場合は、例えば、湾曲管の一部に、他の部分よりも径の大きな箇所を形成して、これを外周突起とすることが挙げられる。つまり、湾曲管の周壁自体が外周突起を構成する。
【0024】
一方、外周突起を湾曲管とは別部材とする場合は、例えば、環状部材を湾曲管の外周に溶接して固定し、外周突起とすることが挙げられる。その他、環状部材を湾曲管にネジ止めしても良い。ネジ止めする場合、環状部材の断面形状は、円筒状の取付部の外周に円板状の突起部が直交する断面逆T字型とすることが好ましい。この取付部にネジ孔を設け、湾曲管にもネジ孔を設けておく。そして、取付部と共に湾曲管にボルトをねじ込むことで、環状部材を湾曲管に固定することができる。
【0025】
このような外周突起は、円環状の一体構成としても良いし、円弧状の複数の分割片を組み合わせて構成するようにしても良い。一体構成の外周突起は、湾曲管の端部からはめ込んで長手方向に位置を移動させてから湾曲管への取り付けを行なう。分割構成の外周突起は、湾曲管の外側からその外周面に直接取り付けることができる。その他、外周突起は、湾曲管の外周の全周に形成されていても良いし、その外周に部分的に形成されていても良い。
【0026】
さらに、上述した外周突起には、外周突起を前記湾曲管の長手方向に支持する補強部材を設けることが好ましい。外周突起は緊張材に張力が作用したときに、この張力を主塔に伝達する主要部分であり、過大な応力(張力)が作用して外周突起が損傷してしまうことがある。特に、外周突起がフランジ状である場合、フランジ状外周突起の根元部分に応力が集中してフランジ状の外周突起が変形してしまう可能性がある。そこで、外周突起を湾曲管の長手方向に支持する補強部材を設けることで、より強い張力が緊張材に作用した場合でも、外周突起が変形・損傷することなく、この張力を主塔に効率よく伝達することができる。例えば、外周突起が湾曲管の外周に円環部材を固定したフランジ状である場合、補強部材を直角三角形の板材とし、この三角形の直角をはさむ一方の辺が湾曲管の外周面に、他方の辺が円環部材の一面に配置されるようにすることが挙げられる。このような構成とすると、外周突起を円環部材と直交する方向に支持することができるので、外周突起が損傷し難くなる。このような補強部材は、外周突起の周方向に複数配置したり、外周突起を両側から支持するようにしても良い。
【0027】
また、補強部材には、湾曲管の長手方向とずれた方向に貫通する貫通孔を設けることが好ましい。主塔を施工する場合、湾曲管の周囲にコンクリートを打設する。その際、外周突起や補強部材の周囲は流体状のコンクリートが回り込みにくい場合があり、この箇所に十分にコンクリートが回り込まないと空隙が生じてしまうことになる。ここで、補強部材に貫通孔を形成しておけば、この貫通孔をコンクリートの通り道とすることができ、湾曲管の周囲のコンクリートに空隙を生じ難くすることができる。特に、打設時、コンクリートは、下から上にその流動面が移動していくため、補強部材の面がほぼ水平方向に配されていた場合、補強部材の上面側に空隙が生じやすくなる。そのため、板状の補強部材とする場合、この貫通孔は補強部材の厚さ方向に貫通する孔とすることが好適である。
【0028】
その他、本発明サドル構造は、緊張材に作用する張力をさらに効率よく主塔に伝達するための構成を備えていても良い。より具体的には、上述した従来のサドル構造のように、緊張材の張力を主塔の側壁に受圧させるための支圧部材を備えることが好ましい。例えば、本発明における湾曲管の両端部に比較的長さの短い直管を接続し、この直管の外周面に雄ネジを形成して、この雄ネジに螺合するリングナットを備える構成とする。この構成により、緊張材に作用する張力は、外周突起による湾曲管と主塔との付着に加えて、湾曲管から直管・リングナットを介した主塔の側壁の圧接により主塔へと作用させることができる。それに伴い、外周突起とリングナットにより、緊張力の伝達箇所を湾曲管の長手方向全体に分散して形成することができる。上記構成に加えて、リングナットと主塔との間に支圧板を配置し、緊張材の張力を主塔の側壁に伝達するようにしても良い。このとき、支圧板の面積をリングナットの端面の面積よりも大きくすることで、主塔の側壁に作用する単位面積あたりの力を小さくすることができるので、主塔の側壁部に損傷が生じ難い。
【0029】
さらに、湾曲管の外周に主塔の損傷を防止するための補強筋を配置してもかまわない。補強筋として、例えば螺旋筋を使用し、この螺旋筋を湾曲管の外周に配置して、主塔の損傷を防止する。
【0030】
ところで、湾曲管を直接主塔に埋設すると、何らかの原因で緊張材が損傷した場合、緊張材を取り替えることが困難である。そこで、本発明の一重管構造を有するサドル構造では、主塔に、緊張された緊張材が挿通されている湾曲管の他、新たな緊張材を配置可能なように予備孔を設けることが好ましい。予備孔は、コンクリートを打設して主塔を形成するときに予め埋設された湾曲管であり、緊張材が挿通された湾曲管の近傍にあれば良い。予備孔を設けておくことにより、緊張材が損傷して緊張材を交換しなければならない状況になった場合でも、橋梁を保持するために必要な緊張材の数を維持することが可能になる。
【0031】
その他、本発明サドル構造に使用する緊張材は、特に限定されない。緊張材は、単線でも、より線でも良い。例えば、エポキシ被覆した鋼より線が好適に利用できる。また、複数本の緊張材を一つの湾曲管の内部に配置しても良い。
【0032】
本発明に使用するグラウトも特に限定されない。グラウトは、硬化したときに緊張材に作用する張力を湾曲管に伝達できる程度の強度を有するものであれば良い。もちろん市販品でもかまわない。このグラウトを湾曲管の内部に充填するためのグラウトホースは、湾曲管に沿って主塔内部に埋設すると良い。
【0033】
また、本発明サドル構造に使用する湾曲管は、その一部に、主塔から橋桁に向かって斜め方向に緊張材が伸びるように緊張材を配置することができる湾曲部を有していれば良い。例えば、本発明に使用する湾曲管は、全体が緩やかな曲率半径を有するものでも良いし、直管を中央部で折り曲げて湾曲部を形成したものでも良い。特に、緩やかな曲率半径を有する湾曲部の端部に短い直管状の部分が形成されている湾曲管を使用すると、湾曲部や管の端部において緊張材が折れ曲がって配置されることを防止することができて好ましい。加えて、緊張材に作用する張力を湾曲管の端部を介して主塔の側壁に伝達する構成を形成し易くなる。いずれの形状を選択するにしても、湾曲部の曲率は、緊張材に過度の張力が局所的に作用する事なく、橋桁を効率よく支持することができるように選択することが好ましい。
【0034】
この湾曲管の材質は、設計時の強度を維持することができるような材料を適宜選択すると良い。例えば、炭素鋼やポリエチレンなどが挙げられる。なお、湾曲管の端部において、湾曲管の内部に充填したグラウトが漏れないように止水構造を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明サドル構造によれば、サドル構造の出口部分、即ち、主塔の側壁に緊張材の張力が集中することがなく、各サドル構造の間隔を小さくすることができる。従って、サドル構造を密集して配置することができ、主塔の大きさを小さくすることができる。
【0036】
さらに本発明サドル構造によれば、サドル構造が一重管構造であるため、サドル構造の部品点数を減らすことができる。これにより、サドル部の施工作業性が向上するとともに、コストを大幅に削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
<実施の形態>
ここでは、本発明サドル構造を斜張橋やエクストラドーズド橋などの橋梁の主塔に適用した場合を例として説明を行なう。これらの橋梁は、地面にほぼ平行に延びる橋桁と、橋桁にほぼ垂直に延びる主塔と、主塔から橋桁に伸びる斜材ケーブル(緊張材)により構成される。本例では、この主塔において、本発明のサドル構造を主塔の高さ方向に11個並列して設けた。各サドル構造は、所定の間隔を空けて平行に配置される。
【0038】
各サドル構造のうち、主塔の最も上方に位置するサドル構造(S-11)を図1に基づいて説明する。まず初めにサドル構造の全体構成を、次いで、各構成部材を説明する。
【0039】
(全体構成の概要)
図1(A)は、一重管構造を有するサドル構造の概略構成図、図1(B)は、図1(A)の部分拡大図を示す。一重管構造を有するサドル構造1は、主塔2を構成するコンクリート内に埋設したサドル鋼管10(湾曲管)と、主塔2とサドル鋼管10との間の付着力を向上させるためにサドル鋼管10の外周に設けたアンカーフランジ40(外周突起)と、サドル鋼管10の内部に挿通したケーブル20(緊張材)を主たる構成要素とする。
【0040】
上記のようなサドル構造1を形成するには、まず初めに、コンクリートを打設する際に主塔2内にサドル鋼管10を埋設し、その両端部が、主塔2の対向する側壁に開口するように出口部を形成する。ここで、サドル鋼管10の外周に設けられたアンカーフランジ40により、主塔2とサドル鋼管10との間には高い摩擦力が作用する。即ち、主塔2とサドル鋼管10とは強固に付着した状態になるので、ケーブル20に作用する張力はサドル鋼管10に伝達され、サドル鋼管10を介して主塔2に伝達される。
【0041】
次に、サドル鋼管10にケーブル20を配置するとともに、サドル鋼管10の端部に止水構造35を形成してサドル鋼管10を封止する。続いて、ケーブル20を緊張した後、サドル鋼管10に連通されたグラウト注入ホース31およびグラウト排出ホース32を用いてサドル鋼管10内にグラウト30を注入し、ケーブル20とサドル鋼管10とが一体となるようにする。このとき、サドル鋼管10の両端部(直管状鋼管12)の内周面は、端部に向かって先細りのテーパー状に形成されているので、サドル鋼管10内に充填されたグラウト30も、やはり両端部が先細りのテーパー状に硬化する。そして、グラウト30が固まった後に、予めケーブル20にはめ込んでおいた保護管38をサドル鋼管10の両端部を覆うように配置して、この保護管38の端部を主塔の側壁に部分的に埋設して固定したサポートプレート(支圧板)60に固定する。一方、ケーブル20の両端部は主塔がケーブルを介して橋桁を支持するように、図示しない主桁(橋桁)に固定される。
【0042】
本実施の形態のサドル構造では、橋梁の施工時や供用時に作用する可能性のある最大の張力差である設計張力差(272.0kN)が作用した場合でも、何ら不具合が生じることはない。また、近年、阪神・淡路大震災の教訓からレベル2の地震動にも耐え得る橋梁が求められており、本実施の形態のサドル構造は、このレベル2地震動を想定した場合の張力差(3094.0kN)が作用した場合でも損傷する可能性が非常に低い。ここで、レベル2地震動とは、構造物の耐震設計に用いる入力地震動で、現在から将来に亘って当該地点で考えられる最大級の強さを持つ地震動である(土木学会 地震工学委員会 レベル2地震動研究小委員会の活動成果報告書:2000年3月)。
【0043】
以下、各構成部材を説明する。
【0044】
(ケーブル)
ケーブル20は、7本の鋼素線をより合わせて、その外周をエポキシ被覆したものを使用した。本実施の形態においては、27本のケーブル20を一単位としてサドル鋼管10の内部に配置した。ここで、各より線の外径は、15.2mmであり、ケーブル20に導入できる最大の荷重である引張荷重(JIS規格)は、261kNである。従って、27本のより線を一単位とした本実施の形態のサドル構造1には、7047kN(以下、Puとする)の荷重をかけて緊張することができる。
【0045】
(サドル鋼管)
サドル鋼管10は、緩やかな曲率半径を有する湾曲鋼管11と、この湾曲鋼管11の両端部に接続した直管状鋼管12により形成した。また、湾曲鋼管11の外周には所定の間隔を空けて2つのアンカーフランジ40(外周突起)を形成した。湾曲鋼管11は、緩やかな曲率を有するように形成し、その内部に配置されるケーブル20が折れ曲がって、ケーブル20に過度の側圧が局所的に作用する事のないようにした。
【0046】
(アンカーフランジ)
アンカーフランジ40は、主塔2とサドル鋼管10との付着力を増強するための部材である。図2にサドル鋼管10に設けられたアンカーフランジ40の状態を拡大して示す。本実施の形態では、アンカーフランジ40は、鋼製の円環をサドル鋼管10の外周にはめ込んで、溶接することにより形成した。つまり、サドル鋼管10の軸方向と直交する方向にアンカーフランジ40が突出されていることになる。上述したように、ケーブル20はグラウト30を介してサドル鋼管10と一体化されるため、ケーブル20に作用する張力はサドル鋼管10に伝達され、サドル鋼管10を介して主塔に伝達されるだけでなく、サドル鋼管10に固定されたアンカーフランジ40を介しても主塔に伝達される。即ち、アンカーフランジ40を設けたサドル鋼管10は、サドル鋼管10の長手方向への引き抜き力に対して大きな抵抗力を発揮する。アンカーフランジ40の径(D1)および厚さ(t)は、後述する計算例を基に決定した。
【0047】
(スティフナー)
上記のアンカーフランジ40には、スティフナー50(補強部材)が設けられている。スティフナー50は、ケーブル20の張力を主塔に伝達する際、その荷重によりアンカーフランジ40が損傷することを防止するために、アンカーフランジ40を補強する部材である。アンカーフランジ40は、サドル鋼管10の長手方向に屈曲し易いので、本実施の形態では、アンカーフランジ40をサドル鋼管10の長手方向に支持するようにスティフナー50を設けた。スティフナー50は、図2に示すように、アンカーフランジ40に対して垂直に配置された三角形状の鋼板である。このスティフナー50は、溶接により、三角形の直角をはさむ一方の辺をサドル鋼管10の外周面に、他方の辺をアンカーフランジ40の一面に固定した。そして、スティフナー50をアンカーフランジ40の両面に周方向に均等になるようにそれぞれ4つずつ設けた。このようになすことにより、アンカーフランジ40が、サドル鋼管10の長手方向に折れ曲がったりしてサドル鋼管10と主塔との付着力が低下することを防止することができる。
【0048】
(グラウトおよびグラウト注入ホース、グラウト排出ホース)
グラウト30は、サドル鋼管10の内部に充填されて硬化することにより、サドル鋼管10とケーブル20とを一体にするためのものである(図1を参照)。グラウト30は、市販のものを使用すれば良く、本実施の形態においては、硬化後のグラウト30の圧縮強度が、600kgf/cm2(約58.8N/mm2)前後となるようにした。また、サドル鋼管10の内部にグラウト30を充填するためのグラウト注入ホース31および排出ホース32は、それぞれ、サドル鋼管10の直管状鋼管12および湾曲鋼管11に接続して連通されている。サドル鋼管10内へのグラウト30の充填は、注入ホース31からグラウトを注入し、排出ホース32から排出された時点で終了とする。
【0049】
(止水構造)
サドル鋼管10の両端部に設けた止水構造35は、グラウト30が硬化するまでグラウト30をサドル鋼管10内に保持して、サドル鋼管10の外側に漏れることを防止するものである。止水構造35は公知のものを使用すれば良く、本実施の形態では、特許文献1に記載される止水構造を使用した。この止水構造35により、サドル鋼管10の両端部からグラウト30が漏れることを防止することができる。そして、この止水構造35および出口部から突出する直管状鋼管12は保護管38で覆われ、止水構造35の外部も保護されている。
【0050】
(サポートプレート)
サポートプレート60は、主塔の側壁に表面を露出して埋設した鋼製の矩形板である。本実施の形態においては、保護管38の端部を固定することに使用している。但し、ケーブル20に作用する張力をさらに効率よく主塔2に伝達するために使用しても良い。具体的には、既に述べたような従来のサドル構造のように、ケーブル20の張力を主塔2の側壁に受圧させるために使用する。
【0051】
(スパイラル筋)
スパイラル筋71,72は、主塔2の強度を増強させ、サドル鋼管10の外周径方向へのコンクリートの割裂を防止する部材である。スパイラル筋71,72は、市販のものを使用した。本例のサドル構造1では、サドル鋼管10の外周全体に亘って応力が作用するので、サドル鋼管10の全長を取り囲むように第一のスパイラル筋71を配置した。さらに、サドル構造の出口部近傍は、中央部に比べて強い応力が作用する箇所であるので、第一のスパイラル筋71の外周を取り囲むように第二のスパイラル筋72を配置した。
【0052】
上述したサドル構造の主な寸法を以下に示す。
サドル鋼管のうち、湾曲鋼管の上部の長さ 3426.0mm
サドル鋼管のうち、湾曲鋼管の下部の長さ 3340.0mm
サドル鋼管のうち、直管状鋼管の長さ 540.0mm
伝達長(サドル鋼管上部のうち、サポートプレート間の長さ) 3472.0mm
湾曲鋼管および直管状鋼管の外径 165.2mm
アンカーフランジの幅(図2(B)のD2を参照) 35.0mm
アンカーフランジの厚さ(図2(A)のtを参照) 16.0mm
2つのアンカーフランジ間の距離(サドル鋼管上部) 2000.0mm
【0053】
<計算例>
アンカーフランジ40を設計するにあたって、以下のような計算を行い寸法を決定した。アンカーフランジ40の設計に際しては、主塔に設けるサドル構造のうち、最も張力差の作用する最上段のサドル構造をモデルとした。アンカーフランジ40の各部の寸法は図2を参照する。
【0054】
まず初めに、サドル鋼管10の外周面にアンカーフランジが設けられていない状態でのサドル鋼管10の付着抵抗力Pを計算した。付着抵抗力Pは、サドル鋼管10と主塔のコンクリートとの付着性能を評価するための指標であり、この付着抵抗力Pを超える張力がケーブルに作用した場合、サドル鋼管10が主塔から引き抜けてしまうと考えて良い。付着抵抗力Pは、コンクリートとサドル鋼管10との付着の度合いを示し、主塔に埋設されているサドル鋼管10の表面積に所定の係数をかけて概算した。この付着抵抗力Pの算定に使用する項目と、付着抵抗力Pの計算結果を表1に示す。なお、表1に示すように、付着抵抗力Pの算定に際しては、サドル鋼管10の湾曲部(湾曲鋼管の部分)は、断面円形の直線状鋼管(普通丸鋼)と仮定した。
【0055】
【表1】

【0056】
表1の結果から、サドル鋼管の外周面にアンカーフランジを設けなかった場合の付着抵抗力Pは、1514.0kNである。これは、橋梁の施工時や供用時に作用する可能性のある最大の張力差である設計張力差272.0kNを上回っているが、レベル2地震動を想定した場合の張力差3094.0kNを下回っている。従って、レベル2地震動に相当する地震が発生した場合、アンカーフランジを設けなかったサドル構造では、主塔からサドル鋼管が引き抜けて、橋梁が崩落することが予想される。
【0057】
次に、サドル鋼管の外周面にアンカーフランジを設けた場合のサドル鋼管の付着抵抗力Pを計算し、その結果を基にアンカーフランジに受圧させる張力差(アンカーフランジ設計力T)を算定する。アンカーフランジに受圧させる張力差は、レベル2の地震動を想定した場合の張力差からサドル鋼管とコンクリートとの付着抵抗力Pを控除した値を用いて検討を行なう。即ち、サドル鋼管と主塔との付着抵抗では吸収しきれなかった張力差をアンカーフランジ設計力Tとする。
【0058】
以下、ケーブルに作用する張力差を2つのアンカーフランジで受圧する場合(Case1)と、1つのアンカーフランジで受圧する場合(Case2)とを考える。但し、1つのアンカーフランジで受圧する場合でも、実際にはサドル鋼管の外周に2つのアンカーフランジを設けて、2つのうち、一方のアンカーフランジをフェールセーフとして使用する。まず、付着抵抗力Pを計算し、その結果を表2に示す。ここで、アンカーフランジの設計の際は、アンカーフランジからサドル鋼管の端部までのサドル鋼管とコンクリートとの付着抵抗力を考慮する必要はないので、伝達長はアンカーフランジ間の距離として計算すれば良い。なお、表2中の文言や記号のうち、表1中に記載のものと同一であるものについては、表1のものと定義も計算方法も同じである。
【0059】
【表2】

【0060】
上述のようにして求めた付着抵抗力Pを基に、レベル2地震動を想定した3094.0kNの張力差に耐えるようにアンカーフランジを設計する。設計に際しては、左右のケーブルに作用する張力差を付着抵抗力Pが軽減させるので、3094.0kNから付着抵抗力Pを引いた値(アンカーフランジ設計力T)を基にアンカーフランジの外径D1と厚さtを求める。ここで、2つのアンカーフランジに張力を受圧させる場合、2つのアンカーフランジがアンカーフランジ設計力Tを均等に分担すると仮定する。
【0061】
アンカーフランジの径D1は、コンクリートの支圧強度の特性値が60.0N/mm2(主塔設計基準強度は30.0N/mm2)となる支圧面積から以下の式により算定する。支圧強度の特性値が60.0N/mm2を超えるとコンクリートに損傷が生じる可能性がある。
T/A1=60
ここで、A1は、サドル鋼管から突出するアンカーフランジの端面の面積であり、以下の式により算定する。
A1=(D1−D)×(π/4)
【0062】
また、アンカーフランジの厚さtは、アンカーフランジのせん断応力度が設計せん断降伏強度135.0N/mm2となる面積から以下の式により算定する。設計せん断降伏強度135.0N/mm2は、アンカーフランジの材質がSS400であることから導かれた値であり、この値を超えるとアンカーフランジが損傷する可能性がある。
T/A2=135
ここで、A2=519.0×tとした。519.0(mm)は、直径165.2mmのサドル鋼管の周長である。表3に、関連する項目と、計算により求めたアンカーフランジの寸法を示す。
【0063】
【表3】

【0064】
表3の結果を基に、実施の形態のサドル構造では、裕度を持たせてアンカーフランジの外径D1を235.2mm、サドル鋼管からのアンカーフランジの突出量(アンカーフランジの幅)D2を35.0mmとした。また、アンカーフランジの厚さtは、スティフナーを設けることを考慮して、16.0mmのままとした。
【0065】
なお、アンカーフランジの設計に際して、付着抵抗力Pを考慮しない場合、アンカーフランジ設計力Tを3094.0kNとして計算すれば良い。そのときのアンカーフランジの外径D1および厚さtは、アンカーフランジが一つなら305.0mmおよび44.0mm、アンカーフランジが2つなら245.0mmおよび22.0mmである。
【0066】
以上、説明した本発明のサドル構造が実際の橋梁に適用可能かどうかを評価するために以下の試験を実施した。
【0067】
<試験例1>
まず初めに、計算例により求めた寸法を有するアンカーフランジをサドル鋼管に設けた場合と設けなかった場合とで、実際にケーブルに導入することができる最大荷重にどの程度の差が生じるかを測定した。なお、サドル構造に何らかの損傷が生じたときにケーブルに作用した張力(荷重)を最大荷重とした。
【0068】
本試験では、簡単のためサドル構造の湾曲鋼管を直管と仮定した試験体モデルを考えた(図3を参照)。試験体モデルは、曲管部17A(直線化した湾曲鋼管)と直管部17B(直管状鋼管)とからなるサドル鋼管17と、サドル鋼管17の内部に挿通されるケーブル(図示せず)と、サドル鋼管17とケーブルとの間に充填されるグラウト(図示せず)とからなる。そして、試験体モデルの一部を再現したモデルA〜モデルCをコンクリートに埋設して試験構造体を作製し、各試験構造体における最大荷重を測定した。コンクリート内のサドル鋼管17の外周には、実施の形態のサドル構造と同様にスパイラル筋(図示せず)が配置されている。ここで、モデルAは曲管部17Aの一部を再現したものであり、モデルBはアンカーフランジ40を設けた部分を含む曲管部17Aの一部を再現したものである。また、モデルCはアンカーフランジ40を含む曲管部17Aの一部と直管部17Bとを再現したものである。直管部17Bの内周にはテーパー面が設けられている。
【0069】
最大荷重の測定は、図4に示すように各モデルの長さ(サドル鋼管長)を変化させた試料1〜6について行った。モデルAのサドル鋼管長は500mm(試料1)、1000mm(試料2)、1500mm(試料3)、モデルBのサドル鋼管長は1000mm(試料4)、1500mm(試料5)、モデルCのサドル鋼管長は2040mm(試料6)とした。試料5および6については2回試験を行なった。
【0070】
上記モデルAおよびBの最大荷重を測定するために図5に示すような装置を作製した。図5では、モデルBの試験構造体22を用いた場合を示す。この装置では、コンクリートブロック21の対向する面の一方側で試験構造体22を固定し、他方側で試験構造体22から伸びるケーブル20を緊張できるように構成した。具体的には、コンクリートブロック21に埋設された鋼管15が開口する一方の面にサポートプレート62を介して試験構造体22を当て止めするとともに、他方の面にサポートプレート63を介してジャッキ80を当て止めした。そして、このジャッキ80によって、試験構造体22から伸び、鋼管15に挿通されるケーブル20を把持・緊張できるようにした。このとき、鋼管15にはグラウトが充填されていないので、鋼管15とケーブル20との間に付着力は作用しない。なお、モデルAおよびBにおけるコンクリートの圧縮強度は30.8N/mm2、グラウトの圧縮強度は59.3N/mm2であった。
【0071】
図5の装置でモデルAの試験構造体22のケーブル20に導入する張力を増加していくと、サドル鋼管17がコンクリート21Aから引き抜けるとともに、ケーブル20とグラウト30Aの一体物がサドル鋼管17から引き抜けた。一方、モデルBの試験構造体22のケーブル20に導入する張力を増加していくと、サドル鋼管17がコンクリート21Aから引き抜けることはなかったが、ケーブル20とグラウト30Aの一体物がサドル鋼管17から引き抜けた。このときのジャッキ80の出力を最大荷重として図7に示す。
【0072】
また、モデルCの最大荷重を測定するために、図6に示すような装置を作製した。この装置では、図5に示した装置に加えて、コンクリートブロック21と試験構造体23(モデルC)との間にラムチェアー85を配置して、試験構造体23の端部が観察できるようにした。なお、モデルCにおけるコンクリートの圧縮強度は30.5N/mm2、グラウトの圧縮強度は64.1N/mm2であった。
【0073】
図6の装置でモデルCの試験構造体23のケーブル20に導入する張力を増加していくと、サドル鋼管17がコンクリート21Aから引き抜けることも、ケーブル20とグラウト30Aの一体物がサドル鋼管17から引き抜けることもなかったが、コンクリート21Aにクラックが生じた。このときのジャッキ80の出力を最大荷重として図7に示す。
【0074】
また、図7に示した最大荷重の結果を基にサドル鋼管の全長と最大荷重の関係をグラフにして図8に示す。図8のグラフに示すように、鋼管の全長に比例して最大荷重が増加した。
【0075】
試験例1の結果(図8を参照)から、サドル鋼管の長さが長くなるほど最大荷重が増加した。また、図8のグラフの四角印(モデルA)と三角印(モデルB)を比較すると明らかなように、サドル鋼管の長さが同一であってもサドル鋼管曲管部の外周面にアンカーフランジを設けることで、最大荷重が増加した。さらに、曲管部の端部に直管部を設けた場合(モデルC)、この直管部内周面に設けられるテーパー面とグラウトのテーパー部との嵌合により、さらに最大荷重が増加した。最大荷重が増加するということは、サドル構造がより大きな張力差に耐えることができるということである。
【0076】
ここで、試験例1で使用した試験構造体のサドル鋼管の長さは、実施の形態のサドル鋼管と比較して短いので、実際のサドル構造では最大荷重がさらに大きくなる。例えば、モデルAのプロットをつなぐ直線(最小二乗法により求めた)を延長して、実施の形態のサドル鋼管の長さ(3426mm)のときの最大荷重を調べると、レベル2の地震動に相当する地震時の張力差(3094kN)とほぼ同じであった。また、モデルAと同様に、モデルBのプロットをつなぐ破線(最小二乗法により求めた)から、鋼管長さが3426mmのときの最大荷重を調べると、地震時の張力差を大きく上回っていた。これらのことから、モデルAのように鋼管の外周面にアンカーフランジがない場合、地震時の張力差からの裕度がほとんどないため、サドル構造が損傷する可能性がある。一方、モデルBでは裕度が高いので地震時にサドル構造が損傷する可能性はほとんどない。さらに、モデルCでは、サドル鋼管長が2040mmの時点で地震時張力差を大きく超えていた。
【0077】
<試験例2>
試験例2では、実物大のサドル構造を有する模擬構造体を作製してサドル構造の各部におけるひずみを測定した。この試験により、本発明サドル構造を有する橋梁の健全性を評価する。
【0078】
試験例2の模擬構造体を図9に示す。模擬構造体3は、箱舟型のコンクリート筐体4にサドル構造1を埋設し、このサドル構造1の両端部から延びるケーブル20をジャッキ88,89により緊張できる構造とした。ここで、図9中の左側を北、右側を南、そして、図面の紙面奥に向かって東、手前に向かって西とする。
【0079】
コンクリート筐体4は、筐体上部4Aと筐体下部4Bとから構成し、筐体上部4Aにサドル構造1を埋設した。一方、筐体下部4Bには、筐体下部4Bの上面から側面に向かって導管18,19を設けて、サドル構造1(サドル鋼管)の両端部から南北に突出して延びる北側ケーブル28と南側ケーブル29をそれぞれ挿通可能なようにした。模擬構造体を構成する際には、サドル鋼管の両端部から延びるケーブル28,29を筐体下部4Bの上面から側面に向かって挿通し、ジャッキ88,89で把持した。このジャッキ88,89を、筐体下部4Bの側面にサポートプレート68,69を介して当て止めすることで、ケーブル28,29を別個に緊張できるようにした。ここで、筐体下部4Bの側壁近傍にはスパイラル筋73を配置して、筐体下部4Bが損傷しないようにした。
【0080】
本試験で使用するサドル構造1は、サドル鋼管の長手方向に沿って複数のひずみ計が取り付けられている以外は実施の形態において説明したものと同様であるため、ここではひずみ計の配置のみ説明する。
【0081】
図10はひずみ計の配置状態を示す説明図である。ひずみ計90を、図中の下向き三角の位置、即ち、サドル構造1のサドル鋼管10に上側に沿って長手方向に31個配置した。また、サドル構造1のサドル鋼管10の下側(図中の上向き三角)にもひずみ計90を31個設置した。ひずみ計90は概ね等間隔に配置したが、特にサポートプレート60とアンカーフランジ40の左右に位置するひずみ計90を、両者(40,60)に近接するように配置した。さらに、図10には示していないがサドル鋼管10の西側と東側にもサドル鋼管10の長手方向にひずみ計90を配置した。
【0082】
この試験例では、図11に示す荷重ステップに従って北側ジャッキ88と南側ジャッキ89を操作し(図9を参照)、南北(左右)のケーブル28,29で張力差が生じるようにした。荷重ステップは、ステップ1〜ステップ4の順に行い、各ステップにおけるひずみを測定した。図11の横軸は試験開始からの経過時間、縦軸はジャッキ88,89の荷重(ジャッキによりケーブルに導入される緊張力)を示す。試験を開始するにあたり、模擬構造体3のケーブル20に、予め所定の緊張力(0.334Pu=約2350kN)が作用した状態とした。このとき、北側ジャッキ88と南側ジャッキ89がケーブル20に導入する緊張力は同一であり、左右(北南)のケーブル28,29で張力差が生じない状態である。
【0083】
(ステップ1)
ステップ1では、図9の左側ジャッキ(北側ジャッキ88)の荷重を緩めて左右のケーブル28,29に張力差が生じる状態、即ち、右側(南側)にケーブル20が引っ張られる状態とした。このとき生じる張力差は、実施の形態のサドル構造1における設計張力差である272.0kNとなるようにした。そして、一定時間経過後、北側ジャッキ88の荷重を0.334Puに戻して、左右のケーブル28,29に張力差が生じない状態にした。この操作を10回繰り返した。
【0084】
(ステップ2)
ステップ1に続いてステップ2では、北側ジャッキ88の荷重を段階的に緩めて、左右のケーブル28,29に張力差が生じる状態とした。このとき生じる張力差は、前記設計力差に安全係数3をかけた816.0kNとなるようにした。そして、一定時間経過後、北側ジャッキ88の荷重を0.334Puに戻して、左右のケーブル28,29に張力差が生じない状態にした。この操作を3回繰り返した。
【0085】
(ステップ3)
ステップ3では、まず初めに北側ジャッキ88の荷重を500kN以下の所定の荷重にまで緩め、次に南側ジャッキ89の荷重を段階的に増加させて、左右のケーブル28,29に張力差が生じる状態とした。このとき生じる張力差は、レベル2の地震動を想定した3094.0kNとした。そして、一定時間経過後、北側ジャッキ88の荷重はそのままで、南側ジャッキ89の荷重を0.334Puに戻した。この操作を3回繰り返した。
【0086】
(ステップ4)
ステップ4では、北側ジャッキ88の荷重は、ステップ3終了時のままで、南側ジャッキ89の荷重を段階的に増加させて、左右のケーブル28,29に張力差が生じる状態とした。このとき生じる張力差は、ケーブル20のfpy(0.2%永久伸びに対する荷重)の0.9倍(4819kN)であり、ケーブルの許容緊張荷重に相当する。一定時間経過後、南側ジャッキ89の荷重を北側ジャッキ88の荷重と同じになるまで緩めて、試験を終了した。なお、地震により、このステップ4に相当する張力差がケーブルに作用することは考え難い。
【0087】
各ステップにおいて測定したサドル鋼管のひずみの結果を図12〜15に示す。図12〜15の横軸はサドル鋼管の長手方向の位置、即ち、サドル構造のひずみ計の設置位置を、縦軸はひずみ計により測定した鋼管のひずみ値を示す。即ち、これらの図は、サドル鋼管におけるひずみ分布を示す。図の縦軸に平行な左側の実線は北側鋼管の出口位置を、破線は北側フランジの位置を示す。また、図の縦軸に平行な右側の実線は南側鋼管の出口位置を、破線は南側フランジの位置を示す。ここで、図12は鋼管の上側におけるひずみ分布を、図13は鋼管の下側におけるひずみ分布を、図14は鋼管の東側におけるひずみ分布を、図15は鋼管の西側におけるひずみ分布を示す。
【0088】
図12〜15に示すようにケーブルを南側に緊張した場合、鋼管南側ではプラスのひずみ、鋼管北側ではマイナスのひずみになる。反対に、ケーブルを北側に緊張した場合は、鋼管北側でプラスのひずみ、鋼管南側でマイナスのひずみになる。そして、本実施の形態のサドル構造によれば、鋼管の長手方向にひずみが分散しており、レベル2地震動に相当する張力差(ステップ3)をケーブルに作用させても、ひずみ値が鋼管の全長に亘って鋼管の降伏ひずみ(図中、横軸に平行な破線)を超えることはなかった。また、0.9fpyの張力差をケーブルに作用させた場合、鋼管の下側(図13を参照)以外は、鋼管の全長に亘って鋼管の降伏ひずみを超えることはなかった。これらのことから、設計張力差の範囲内はもちろん、レベル2の地震動に相当する地震が生じた場合でも、本発明サドル構造を用いた橋梁の健全性が維持されることがわかった。
【0089】
さらに、図12〜15の結果から、アンカーフランジを境にして鋼管に作用するひずみが大幅に緩和されることが明らかになった。即ち、左右のケーブルに作用する張力差によりサドル鋼管に作用する応力をアンカーフランジが大幅に減少させることが明らかになった。特に、本試験のサドル構造のように、サドル鋼管の外周面にアンカーフランジが2つ設けられている場合、2つのアンカーフランジの間に位置するサドル鋼管に作用する応力が非常に小さくなることがわかった。即ち、左右のケーブルに張力差が生じた場合でも、主塔の中心部に応力が作用し難いので、実質的に主塔を支えている主塔中心部が損傷を受ける可能性は非常に低いことが予想される。従って、本発明サドル構造を用いた橋梁の健全性が証明された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、幹線道路や鉄道線路に設けられる橋梁に好適に利用することができる。特に、新幹線の橋梁に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明サドル構造の実施の形態を示す図であり、(A)はサドル構造全体の概略構成図を、(B)はサドル構造の部分概略図である。
【図2】実施の形態の部分拡大図であり、(A)は正面図、(B)は断面図である。
【図3】試験例1に使用する試験体モデルの概略説明図である。
【図4】試験体モデルの詳細な説明図である。
【図5】モデルAおよびモデルBの試験構造体を示す図である。
【図6】モデルCの試験構造体を示す図である。
【図7】試験例1の結果を示す図である。
【図8】試験例1の結果を示すグラフである。
【図9】試験例2に使用する模擬構造体の概略図である。
【図10】試験例2の模擬構造体に設けられるひずみ計の配置を示す図である。
【図11】試験例2の荷重ステップを示す図である
【図12】鋼管の上部におけるひずみ分布を示す図である。
【図13】鋼管の下部におけるひずみ分布を示す図である。
【図14】鋼管の東側におけるひずみ分布を示す図である。
【図15】鋼管の西側におけるひずみ分布を示す図である。
【図16】二重管構造を有する従来のサドル構造を示す図であり、(A)はサドル構造全体の概略構成図を、(B)は(A)のA-A’断面図を、(C)はサドル構造の出口部分の拡大図である。
【図17】二重管構造を有する従来のサドル構造における張力の作用状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0092】
1 サドル構造 2 主塔 21 コンクリートブロック
22,23 試験構造体 21A コンクリート
3 模擬構造体
4 コンクリート筐体 4A 筐体上部 4B 筐体下部
10 サドル鋼管 11 湾曲鋼管 12 直管状鋼管 15 鋼管 18,19 導管
17 サドル鋼管 17A 曲管部 17B 直管部
20 ケーブル 28 北側ケーブル 29 南側ケーブル
30,30A グラウト 31 グラウト注入ホース 32 グラウト排出ホース
35 止水構造 38 保護管
40 アンカーフランジ 50 スティフナー
60,62,63,68,69 サポートプレート 71,72,73 スパイラル筋
80 ジャッキ 85 ラムチェアー 88 北側ジャッキ 89 南側ジャッキ
90 ひずみ計
100 サドル構造 200 主塔
110 内管 115 内管直管部 120 外管 130 緊張材 140 グラウト
150 スペーサ 160 グラウトホース 170 螺旋筋
180 リングナット 181 支圧板 190 止水構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の主塔に貫通して配置される湾曲管の内部に緊張材を貫通して配置し、この湾曲管と緊張材との間にグラウトを充填した橋梁用サドル構造であって、
前記湾曲管は、主塔内に固定される一重管からなり、
この湾曲管の少なくともの中間部の外周に、湾曲管の径方向外方に延びる外周突起を設けて、湾曲管と主塔との付着力を向上させるように構成してなることを特徴とする橋梁用サドル構造。
【請求項2】
前記外周突起を湾曲管に所定の間隔を空けて1〜5個設けたことを特徴とする請求項1に記載の橋梁用サドル構造。
【請求項3】
前記外周突起がフランジ状であることを特徴とする請求項1または2に記載の橋梁用サドル構造。
【請求項4】
前記外周突起を前記湾曲管の長手方向に支持する補強部材を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の橋梁用サドル構造。
【請求項5】
前記補強部材に湾曲管の長手方向とずれた方向に貫通する貫通孔を設けたことを特徴とする請求項4に記載の橋梁用サドル構造。
【請求項6】
前記外周突起が環状部材であり、この環状部材を湾曲管の外周に溶接またはネジ止めにより固定したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の橋梁用サドル構造。
【請求項7】
前記湾曲管の両端部に配置され、緊張材の緊張力を主塔に伝達する支圧部材を設けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の橋梁用サドル構造。
【請求項8】
前記湾曲管の外周に補強筋を配置したことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の橋梁用サドル構造。
【請求項9】
前記主塔に新たな緊張材を配置可能なように予備孔を設けたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の橋梁用サドル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−255025(P2007−255025A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79788(P2006−79788)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(303059071)独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 (64)
【出願人】(000148346)株式会社錢高組 (67)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【Fターム(参考)】