説明

橋梁

【課題】狭隘な用地でも施工することができる橋梁を提案する。
【解決手段】橋を架設すべき地点のそれぞれに打設した基礎工と、この基礎工の頭端に両端が剛結され、円弧が上向きに突出した姿勢で配置されたアーチ部材と、このアーチ部材の円弧部分から吊り下げられ、下端の位置が所定の位置に揃えられた複数本の吊材と、この複数本の吊材の下端に連結され、上記2地点を結ぶ線と平行して延長された吊床版と、この吊床版の一方の延長端部をこの延長端部が対向するアーチ部材の一方の端部に剛結する剛結手段と、吊床版の他方の延長端部を、この延長端部が対向するアーチ部材の他方の端部に対して吊床版の延長方向にのみ相対的に移動を許して連結する連結手段とを具備して構成した橋梁。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は2地点間に吊床版を差し渡して支持する架橋に関し、特に吊床版を支持する地点が狭隘地であり、充分な基礎工を施工することができない場合に適用して好適な橋梁の構造を提案しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
一般の橋梁においては、その地下部(下部工)を施工するために開削工事が必要である。この開削工事のために近隣する構造物への影響を小さくするには、施工時の仮設構造および対策工の肥大化が免れないものである。また、完成時に橋梁の地下部は必ず橋梁下空間に向かって変形することとなり、この空間に変形を許容しない構造物があった場合、地下部構造を強くし変形を抑制する必要から更なるコストが加算されることが通常である。
図7に一般的な橋梁の構造を示す。この例では橋台或は橋脚等と呼ばれる橋梁下部工1の上に支承2を介して橋梁上部工3を載置した構造の橋梁の場合を示す。
【0003】
この構造の橋梁の場合、橋梁下部工1の下面位置で地盤の支持力等が不足する場合は、その橋梁下部工1の下に基礎工4(杭・深礎・ケーソン等)を施工する必要がある。またこの場合、橋梁下部工1は背面の土5の土圧Pにより橋梁の中心に向かって倒れ込む変形Mがある。橋梁を跨ぐ空間に河川の堤防等がある場合、この橋梁下部工1が護岸6を押し堤防に対して影響を及ぼすことになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図7に示した橋梁の構成によれば橋梁下部工1を施工するために掘削を大量に行なう必要がある。また狭隘な場所では施工が困難で護岸6の作り直しが発生する。更に、橋梁下部工1の重量のために、基礎工4の規模が増大する。
上部工と下部工を連結したポータルラーメンと呼ばれ図8に示すような構造の橋梁がある。このポータルラーメンでは縦壁部7は開削により施工する必要がある。また、この図8に示す構造は荷重W(車輌+群衆)が作用した場合に、縦壁部7の壁頂部8が内側に変形M1し、その下部で外向きに変形M2する挙動を呈する。
【0005】
このため、渡河橋では護岸6に影響が無いと言うことが困難であり、図7に示した橋梁下部工1の設置時よりも掘削量は少ないが、排土しなければ施工することはできない。
ラーメン橋でも橋梁が跨ぐ必要のある内側の空間に向かっての変形は回避できず、径間長を長くできない等の欠点がある。また、掘削が必要であるため、背後地が狭隘な場合、施工は困難である。
背後地が狭隘な場所でも施工が可能な橋梁の構造を図9に示す。この図9に示す橋梁はパイルベント形式と呼ばれ対岸に杭9を打設し、この杭9の頭端間に支承2を介して橋梁上部工3を載せた構造とされる。
【0006】
この構造の場合、杭9の頭端に橋梁上部工3から、その延長方向に振れる伸縮力が与えられる。この伸縮力によって杭9が振れるため、堤防等にゆるみを発生させる欠点がある。このために河川構造令等では使用を禁止している。
この発明の目的は狭隘地でも施工が可能で然も堤防等に影響を与えることがない橋梁の構造を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の請求項1では橋を架設すべき地点のそれぞれに打設した基礎工と、この基礎工の頭端に両端が剛結され、円弧が上向きに突出した姿勢で配置されたアーチ部材と、このアーチ部材の円弧部分から吊り下げられ、下端の位置が所定の位置に揃えられた複数本の吊材と、この複数本の吊材の下端に連結され、上記2地点を結ぶ線と平行して延長された吊床版と、この吊床版の一方の延長端部をこの延長端部が対向する上記アーチ部材の一方の端部に剛結する剛結手段と、吊床版の他方の延長端部を、この延長端部が対向する上記アーチ部材の他方の端部に対して吊床版の延長方向にのみ相対的に移動を許して連結する連結手段とを具備して構成したことを特徴とする橋梁を提案する。
【0008】
この発明の請求項2では請求項1記載の橋梁において、アーチ部材は2地点を結ぶ延長線と平行して少なくとも2本が配置され、これら2本のアーチ部材から吊り下げられた吊材によって上記吊床版の互に平行した2辺を支持し、吊床版を上記2地点の相互間に差し渡した姿勢に維持することを特徴とする橋梁を提案する。
この発明の請求項3では請求項1又は2記載の橋梁の何れかにおいて、基礎工は杭で構成され、杭頭とアーチ部材の端部とを剛結して構成したことを特徴とする橋梁を提案する。
【0009】
この発明の請求項4では請求項1乃至3記載の橋梁の何れかにおいて、アーチ部材の端部間を結合し、これら端部間に引締力を与える引締手段と、アーチ部材の少なくとも一方の端部に設けられ、引締手段の引締力を調整する調整手段とを備えることを特徴とする橋梁を提案する。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、橋梁上部工と基礎工(杭等)のみで構成するから、掘削埋め戻しを行なう必要が無く、狭隘な用地内で施工を可能とする。更に、地盤の緩みを極力抑えることが可能となり、施工時の橋梁周辺への影響を最も少なくすることが可能となる。
また、アーチライズ(アーチ状部材の高さ)とアーチ下端を締結する調整可能な引締手段を付加することにより、完成時に地中部構造の変形を橋下空間より離れる方向に誘導を可能とし、その応力と絶対変形量を能動的に制御することを可能とする。
更に、地中部の変形量を従来型の橋梁よりも減少させることができるから、用地制限の解消及び周辺既存構造物への影響回避が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1にこの発明を実行するための最良の形態を示す。図1において、11は杭等で構成した基礎工を示す。基礎工11を例えば杭で構成することにより、杭は主に打込みにより施行することができるから、狭隘地でも充分施工が可能である。杭は打込みに限らず、深礎杭、連続地中壁、ケーソン等で構築した杭を用いることができる。図2に示す例では複数本の杭を一列に並べて打設した例を示している。尚、図1に示す例では基礎工11を護岸6に施工した例を示すが、護岸6はのり面或いは擁壁等であってもよい。以下に示す図4、図5の実施例でも同様である。
【0012】
基礎工11は橋を架設すべき2地点のそれぞれに施工され、その頭端11Aにアーチ部材12の両端を剛結(完全一体に結合)する。アーチ部材12は例えば鋼管をアーチ状に曲げ加工する他に、H形鋼や箱型断面を持つ長尺部材をアーチ状に曲げ加工して構成することができる。アーチのスパンライズ比は一般値としては1/6〜1/7に採られるが、この発明ではスパンライズ比を1/2を含む1/2〜1/6に選定する点を特徴とするものである。ここでアーチのスパンライズ比とはアーチの(高さ/スパン長)を指す。例えばアーチの半径をHとしたとき、半円状のアーチを用いる場合はスパン長が2Hとなる。このとき、スパンライズ比はH/2Hであり、1/2となる。
【0013】
アーチ部材12から基礎工11の頭端11Aに伝わる力の方向はアーチ部材12の端部の軸線がなす接線方向に作用する。従ってアーチ部材12のスパンライズ比を1/2に近づけることにより、上部工として作用するアーチ部材12から基礎工11に伝わる力の方向は基礎工11の軸線方向に近づく。つまり、基礎工11の頭端11Aに掛る外向に向う反力Z1を小さくすることができる。
外向に向う反力Z1を小さくできることにより、周辺への影響を小さくすることができる作用効果が得られる。この点がこの発明の最も優れた作用効果である。
【0014】
アーチ部材12は2地点を結ぶ線と平行して図2に示すように2本用意され、2本のアーチ部材12で挟まれた間の空間に吊床版13を配置する。吊床版13はアーチ部材12の円弧部から吊り下げられた吊材14によって支持される。吊材14は上端がアーチ部材12の円弧部分に連結され、下端が例えば基礎工11の頭部間を結ぶ線の位置に揃えられ、各吊材14の下端に吊床版13の互に平行する2辺に連結し、吊床版13を基礎工11の頭部間を結ぶ線と平行する姿勢に支持する。
この発明では更に、吊床版13の延長方向の一端側では基礎工11とアーチ部材12との剛結点に剛結手段15(図3参照)で剛結するが、延長端の他端側では基礎工11とアーチ部材12の剛結点に対して吊床版13の延長方向にのみ相対的に移動を許し、その方向と直交する方向には相対的に移動しない連結手段16で連結する。
【0015】
この構造とすることにより吊床版13は2地点間を連結する連結部材として作用することがなく、一方の地点で基礎工11の頭部が2地点を結ぶ軸線方向に変位しても、その変位が他方の基礎工11に直接伝達することがない。この結果、例えば地震等の水平力を対岸に伝達することを低減でき、護岸6への影響を軽減することができる。
一方、この発明の請求項4では更に、アーチ部材12の端部間にストランド結合手段と、このストランド結合手段の結合量を調整する調整手段とを設けた構成を提案する。
図4にその実施例を示す。尚、図4では吊床版13を省略して示している。図4に示す17は引締手段、18は調節手段を示す。引締手段17は例えばワイヤ或いは鋼棒等によって構成することができる。ワイヤ或いは鋼棒等をアーチ部材12の端部間に架設し、アーチ部材12の端部間に、アーチ部材12の円弧を引き締める方向の引締力を与える。従ってこの引締手段17の引締力によって、基礎工11の頭端11Aの相互には内向の力Z2を発生させることができる。これによってアーチ部材12から与えられる外向きの力Z1を相殺することができる。調節手段18は例えばアーチ部材12をその軸線と直交する向に貫通し、一端側に引締手段17を連結したボルトと、このボルトに螺合したナットを組み合わせた、張力調整機構で構成することができる。この調整手段18で引締手段17の結合量(引締力)を調整することにより基礎工11の頭端11Aに与える内向の力を加減することができる。つまり、引締手段17の引締力を調整することにより、アーチ部材12と基礎工11の変位と任意点で発生する曲モーメント、剪断力、圧縮力、張力等の断面力を調整できることになる。
【0016】
この結果、完成後でも任意に基礎工11に与える内向の力を加減することができるから、常時、アーチ部材12から基礎工11の頭端11Aに与えられる外向きの力Z1を適正に相殺した状態に調整することができ、長期にわたって適正な状態に維持することができる。
【実施例1】
【0017】
図5に実施例1を示す。この実施例では基礎工11を対岸毎に複数列(図では2列)構築した場合を示す。このように複数列構築した場合も、各基礎工11の相互の頭端同士を剛結し、その剛結部分にアーチ部材12の端部する。
このように、基礎工11を複数列構築する構造とした場合には基礎工11の抗力が増強され、周辺に与える影響を更にいっそう軽減することができる利点が得られる。
【実施例2】
【0018】
図6に実施例2を示す。この実施例では引締手段17と吊床版13の側辺との間を更にストランド19で連結した構造とした場合を示す。この構造とすることにより、吊床版13の横揺れを抑制することができる。特に、ストランド19の長さを各連結位置毎に変えることにより、共振の発生を抑制し、横揺れの抑制効果を更に一層高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
この発明による橋梁は対岸の条件が悪い地点でも施工することができるため、狭隘な都市部或いは山岳地帯、或いは河川沿い、或は湿地等に架設する橋梁に活用される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明を実施するための最良の形態を説明するための側面図。
【図2】図1の平面図。
【図3】図1に示した最良の形態で用いる吊床版の連結構造を説明するための平面図。
【図4】この発明の請求項4で提案する引締手段を説明するための側面図。
【図5】この発明に適用することができる基礎工の実施例を説明するための側面図。
【図6】この発明で提案した引締手段の変形実施例を説明するための平面図。
【図7】従来技術を説明するための側面図。
【図8】同様に従来技術を説明するための側面図。
【図9】同様に従来技術を説明するための側面図。
【符号の説明】
【0021】
6 護岸 Z1 外向の力
11 基礎工 Z2 内向の力
11A 基礎工の頭端 15 剛結手段
12 アーチ部材 16 連結手段
13 吊床版 17 引締手段
14 吊材 18 調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋を架設すべき地点のそれぞれに施工した基礎工と、
この基礎工の頭端に両端が剛結され、円弧が上向きに突出した姿勢で配置されたアーチ部材と、
このアーチ部材の円弧部分から吊り下げられ、下端の位置が所定の位置に揃えられた複数本の吊材と、
この複数本の吊材の下端に連結され、上記2地点を結ぶ線と平行して延長された吊床版と、
この吊床版の一方の延長端部をこの延長端部が対向する上記アーチ部材の一方の端部に剛結する剛結手段と、
上記吊床版の他方の延長端部を、この延長端部が対向する上記アーチ部材の他方の端部に対して上記吊床版の延長方向にのみ相対的に移動を許して連結する連結手段と、
を具備して構成したことを特徴とする橋梁。
【請求項2】
請求項1記載の橋梁において、上記アーチ部材は上記2地点を結ぶ延長線と平行して少なくとも2本が配置され、これら2本のアーチ部材から吊り下げられた吊材によって上記吊床版の互に平行した2辺を支持し、吊床版を上記2地点の相互間に差し渡した姿勢に維持することを特徴とする橋梁。
【請求項3】
請求項1又は2記載の橋梁の何れかにおいて、上記基礎工は杭で構成され、杭頭と上記アーチ部材の端部とを剛結して構成したことを特徴とする橋梁。
【請求項4】
請求項1乃至3記載の橋梁の何れかにおいて、上記アーチ部材の端部間を結合し、これら端部間に引締力を与える引締手段と、上記アーチ部材の少なくとも一方の端部に設けられ、上記引締手段の引締力を調整する調整手段と、
を備えることを特徴とする橋梁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−63534(P2006−63534A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243934(P2004−243934)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(592090555)パシフィックコンサルタンツ株式会社 (30)
【Fターム(参考)】