説明

【課題】風荷重を低減し、且つ、カルマン渦励振を抑制すること。
【解決手段】概水平方向に延びる桁(1)に通行路(2)が支持されている。桁(1)と通行路(2)との間には整流空域(7)が形成される。通行路(2)にはグレーティングが形成されている。整流空域を通る風は、整流作用を受ける。その整流作用により、カルマン渦励振が抑制され、桁の渦励振が抑制され、結果的に、通行路の揺れが抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋に関し、特に、通行路の揺れを抑制する橋に関する。
【背景技術】
【0002】
風が強い場所に建設される歩廊橋のような橋には、耐風対策が求められる。川を渡る油輸送管、水道管は、単一管で構成される。このような鋼管は、橋桁としては用いられていないが、橋桁として用いられ得る技術的潜在能力を有している。鋼管101の下流側に生じるカルマン渦102は、図1に示されるように、鋼管101に対して変動揚力を生成する。カルマン渦102の周期が鋼管101の固有振動数に一致することによる揺れ(渦励振)を回避するために、渦励振の抑制が求められる。非特許文献1は、渦励振抑制のために、図2に示されるようなヘリカルストレイクス103を鋼管101の周面に形成している。鋼管101に向かう風は、鋼管101の周囲のヘリカルストレイクス103の端縁線上の点Pで剥離される。そのような剥離点は、螺旋線上で移動する。そのような剥離点の移動は、流れの2次元性を乱すことにより、渦励振の誘起を抑制する。
【0003】
図3は、レイノルズ数と抗力係数の関係を示している。円筒面の鋼管の抗力係数は実線で示される。T/D(D:鋼管径,T:ストレ−クスの高さ)の異同により、ストレークスが与えられる鋼管の抗力係数は、点線で示されるように異なるが、ともに円筒面の鋼管の抗力係数より増大する。このように、ヘリカルストレイクスは渦励振抑制効果はあるが、抗力係数の増大を招いている。
【0004】
橋の歩廊面には、風通しを良好に保持して荷重を軽減するたのために、グレーティング(吹き抜け)が形成されている。柔構造の通行路面構造を有する橋には、揺れを抑制することが望まれる。次に、構成部材の製作費用の増大を抑制し、風荷重の増大を抑制することが望まれる。桁として鋼管を利用することが望まれ、その場合に、カルマン渦励振を抑制することが重要である。
【0005】
【非特許文献1】The modern design of wind-sensitive structure, Proceedings of the Seminar held on 18 June 1970 at The institution of Civil Engineers, Great george Street London SW1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、通行路の揺れを抑制する橋を提供することにある。
本発明の課題は、桁として鋼管を利用し、且つ、カルマン渦励振を抑制する橋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による橋は、概水平方向に延びる1又は複数の桁(1)と、桁(1)に支持される通行路(2)と、その他の構造体とから構成されている。桁(1)と通行路(2)との間には整流空域(7)が形成されている。桁(1)と通行路(2)とから構成される橋は、整流空域(7)を通る風を整流する作用を有している。通行路(2)は、グレーティング(吹き抜け穴8)で形成されている。
【0008】
通行路(2)と桁(1)は、整流作用を有する整流空域(7)を形成する。整流化されている平行流の中に桁(1)のみを置くと、桁(1)の周面の複数の位置で剥離されるカルマン渦が発生し、桁(1)の下流側領域で複数のカルマン渦の励振が誘起され、その励振は桁(1)に対して共鳴する。整流空域(7)で整流される流れと桁(1)で剥離される流れとは、その整流作用によりカルマン渦の励振の発生が抑制される。
【0009】
通行路(2)は、歩廊として形成され得る。歩廊は整流板の機能を有し、歩廊と桁(1)の円鋼管の結合は、橋として最適に提供される。鋼管の外側面にはヘリカルストレイクスが形成されずに、カルマン渦励振を抑制することができる。鋼管面が円筒面として形成されることは効果的である。
【0010】
揺れ防止は、通行路が歩廊として形成されている橋のために特に有効である。更に、このような橋が人道点検橋として提供されれば、風が強い日の人による周辺環境の点検(例示:航空機侵入灯点検)のために特に有用である。
【0011】
整流空域(7)の鉛直方向の最小幅はWで表され、鋼管(1)の外側直径はDで表され、Wは、関係:W=kDで表され、k<2であることが適正である。kの値の適正化は重要である。kの値が小さすぎる場合には整流効果が薄く実用的でなくかえって乱流化を促進し、kの値が大きすぎる場合には整流効果が失せるだけでなく、構造強化の点で望ましくなく、且つ、高さ制限のような空間的制約を充足することが困難である。kの値は2より小さいことが好ましく、kの値は0.15より大きく1より小さいことがより好ましく、0.2の程度であることが特に適性である。
【発明の効果】
【0012】
本発明による橋は、カルマン渦励振を有効に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明による橋の実施の最良の形態は、図に対応して、詳細に記述される。橋10の基本構造は、図4に示されるように、概水平方向に長く延びる桁1が通行路2とともに設けられている。桁1は、好ましくは鋼管として現れる。通行路2は、結合構造3を介して桁1に結合して強固に又は柔軟に支持されている。通行路2は、車道又は歩廊として用いられる。通行路2の両側には、支柱構造4が配列されている。支柱構造4は、支持部位5を介して結合構造3に支持されている。通行路2は、支柱構造4と結合構造3を介して桁1に支持され得る。通行路2は、グレーティング(吹き抜け)で形成されている。通行路2は、プレート6を含むことができる。この場合には、グレーティングはプレート6に形成される。そのようなプレート6は、パンチングプレート(穴開きプレート)として形成されている。通行路2は、格子状に、又は、網目状に構造化され得る。
【0014】
本発明による橋の基本構造は、図5に示されるように、桁1と結合構造3と通行路2の3重構造として提供されている。桁1と通行路2の間には、概水平方向に風の通過を許容する整流空域7が与えられている。整流空域7の鉛直方向幅は、結合構造3により保持される。グレーティングは、通行路2に鉛直方向に貫通する多数の吹き抜け穴8として具体化されている。
【0015】
図6(a),(b)は、概水平方向に吹く風に対する既述の励振渦発生抑制の状況を示している。図6(a)は、桁1と通行路2の間に隙間がほとんどない不適正状況、即ち、k=0.15以下である場合の状況(特には、桁1と通行路2が互いに外接している状況)を示し、図6(b)は隙間が適正である適正状況、即ち、k=0.15〜2.0である場合の状況を示している。図6(a)の不適正状況では、通行路2の端面で剥離する流れaは、上方に膨らんで通行路2の他端(下流側端)の近傍で通行路2を巻き込むような渦を発生させ、桁1で剥離する流れbは、桁1の近傍で桁1を巻き込むような渦を発生させる。従って、不適正状況では、通行路2又は桁1は、その近傍で交互に発生するカルマン渦の影響を強く受けて励振される。適正な隙間幅が与えられる本発明の図6(b)の適正状況では、整流空域7を通過する流れcにより通行路2で剥離する空気流aの上方への膨らみが押さえられ、且つ、渦の巻き込み位置が不適正状況のそれより後流側に移動する。同様に、桁1で剥離する流れbの渦発生位置も不適正状況のそれより後流側になって、カルマン渦が通行路2又は桁1に与える影響が軽減される。図6(a)と図6(b)に書き込まれているカルマン渦の膨らみ幅とそれの流れ方向長さをそれぞれにHa、La、Hb、Lbで示せば、両カルマン渦励振の抑制特性は下記式で表される。
Ha>Hb,La<Lb
【0016】
通行路2と桁1の間(具体的には、高さ方向に幅を持つ通行路2の下側面である整流面と桁1の円鋼管の間)の最小隙間幅Wは、図5に示されるように、桁1の外側円筒面の直径Dの関数kDで表される。
W=kD
比例係数kは、2より小さいことが好ましい。kの値は、0.15より大きく、且つ、1より小さいことがより好ましい。kの値は、0.2がより適性である。kの値が大き過ぎる場合には、結合構造3の鉛直方向長さが大きくなり過ぎて、それの強度保証のための構造の製作コストが増大し、且つ、既述の3層構造が受ける鉛直方向の空間的制約条件を充足することが困難になる。kの値が小さ過ぎる場合には、整流効果が十分ではない。
【0017】
通行路2と桁1の間の整流空域7の励振抑制効果により、カルマン渦共振が効果的に抑制される。ヘリカルストレイクスは必須ではなく、このようなフィンが追加される公知の鋼管と異なり、製作、保守の点でコストを低減する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、公知のカルマン渦を示す正面断面図である。
【図2】図2は、公知の制振構造を示す正面断面図である。
【図3】図3は、公知の抗力係数を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明による橋の実施の好ましい形態を示す断面図である。
【図5】図5は、基本構造を示す断面図である。
【図6】図6は渦励振状況を示し、図6(a)はkが不適正である場合を示し、図6(b)はkが適正である場合をそれぞれに示す断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1…桁
2…通路路
3…結合構造
7…整流空域
8…グレーティング(吹き抜け:穴)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
概水平方向に延びる1又は複数の桁と、
前記桁に支持される通行路とを具え、
前記桁と前記通行路との間には整流空域が形成され、前記整流空域を通る風を整流する作用を有し、前記通行路はグレーティングで形成されている
橋。
【請求項2】
前記桁は円鋼管として形成されている
請求項1の橋。
【請求項3】
前記円鋼管にはヘリカルストレイクスは形成されていない
請求項1の橋。
【請求項4】
前記整流空域の鉛直方向の最小幅はWで表され、前記円鋼管の外側直径はDで表され、前記Wは下記関係:
W=kD
で表され、k<2である
請求項1の橋。
【請求項5】
0.15≦k≦1.0である
請求項2の橋。
【請求項6】
kは概ね0.2である
請求項5の橋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−77476(P2006−77476A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263079(P2004−263079)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】