説明

機能性光学レンズ及びその製造方法

【課題】 加工性及び耐薬品性に優れ、良好な光学特性を発揮でき、しかも軽量な機能性光学レンズ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の機能性光学レンズは、光学フィルム層1とポリアミドシート層2からなる光学シートAに、ポリアミド樹脂成形層3が積層された構成を有している。本発明の機能性光学レンズの製造方法は、光学フィルム層とポリアミドシート層とを積層した光学シートに曲げ加工を施した後、前記ポリアミドシート層にポリアミド樹脂組成物を射出成形により熱融着させて機能性光学レンズを得ることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩性、調光性、偏光性などの各種光学機能を有する機能性光学レンズ及びその製造方法に関する。このような機能性光学レンズは、例えば、ゴーグル、サングラスなどの防眩レンズ、調光レンズ、偏光レンズなどとして利用される。
【背景技術】
【0002】
近年、特定の波長を吸収する機能や、反射光などの眩しさを防ぐ機能などの光学的機能を利用したレンズが広く用いられている。このような機能性光学レンズの一つである偏光レンズは、偏光性能により乱反射を防ぐことができるサングラス用レンズとして用いられている。例えば、特開2002−90529号公報には、2枚のトリアセチルセルロース(TAC)の間に偏光子シートを狭持した偏光板の片面に、アクリル系粘着剤を介して透明ナイロンシートを積層して中間複合体を形成し、曲面加工した後、前記透明なナイロンシートに同素材の樹脂を熱接着することにより形成されたレンズが開示されている。しかし、TACにナイロン樹脂を熱接着することができないため、層間に別途ナイロンシートを介する必要があり、生産効率上不利である。
【0003】
また、特開2002−258220号公報には、例えば、ポリカーボネート(PC)からなる保護層、偏光膜、及びポリカーボネート製延伸フィルム層からなる偏光板に、接着剤を介して、ポリカーボネート射出成形層が積層された複合成形物が開示されている。この複合成形物は製造工程を短くすることが可能であり、研磨により眼鏡用偏光レンズとして利用することができる。しかし、ポリカーボネートで構成されている偏光レンズを用いて、フレームのない眼鏡に加工する際、レンズに直接孔を開けるとひびが入ったり割れやすく加工性に劣っていた。また、ポリカーボネートは、射出成形時に歪みが生じやすい点や、得られたレンズを眼鏡に加工する際に、フレームやテンプルに含まれる可塑剤(フタル酸ジエチルなど)が染みだしてレンズが腐蝕されるなどの問題があった。さらに、より軽量な光学レンズが望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開2002−258220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、加工性及び耐薬品性に優れ、歪みや色むらが生じにくく良好な光学特性を発揮でき、しかも軽量な機能性光学レンズ及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記特性に加えて、白抜けが防止又は抑制された機能性光学レンズ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、光学シートを構成するポリアミドシート層にポリアミド樹脂成形層を積層することにより、優れた光学機能を付与することができ、加工性、耐溶剤性が改善され、且つ軽量な機能性光学レンズを簡便な方法で得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、光学フィルム層とポリアミドシート層からなる光学シート、にポリアミド樹脂成形層が積層された構成を有する機能性光学レンズを提供する。前記ポリアミドシート層とポリアミド樹脂成形層とは接着層を介さず直接融着していてもよい。また、前記ポリアミドシート層とポリアミド樹脂成形層は、共に脂環式ポリアミドで形成されていてもよい。前記脂環式ポリアミドとしては、例えば、下記式(1)
【化1】

(式中、Xは、直接結合、アルキレン基又はアルケニレン基を示し、R1及びR2は、同一又は異なったアルキル基を示し、m及びnは0又は1〜4の整数、p及びqは1以上の整数を示す)
で表される化合物が挙げられる。
【0008】
本発明におけるポリアミドシート層は、延伸ポリアミドシートで形成されていてもよい。前記延伸ポリアミドシートの延伸倍率は、例えば1.1〜3.5であってもよく、一軸延伸ポリアミドシートであってもよい。
【0009】
本発明の機能性光学レンズは、光学シートに曲げ加工が施されていてもよい。本発明の機能性光学レンズは、防眩性及び/又は調光性を有していてもよい。
【0010】
また、本発明は、光学フィルム層とポリアミドシート層とを積層した光学シートに曲げ加工を施した後、前記ポリアミドシート層にポリアミド樹脂組成物を射出成形により熱融着させて機能性光学レンズを得ることを特徴とする機能性光学レンズの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の機能性光学レンズは、ポリアミドシート層を含む光学フィルム層とポリアミド樹脂成形層が積層された構成を有するため、歪みや色むらの発生を防止又は抑制して優れた光学特性を発揮することができ、良好な加工性と高い耐溶剤性を有し、且つ軽い機能性光学レンズを簡便に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の機能性光学レンズの一例を示す概略断面図である。図1中、光学フィルム層1の片面にポリアミドシート層2が積層した光学シートAと、該光学シートAを構成するポリアミドシート層2にポリアミド樹脂成形層3が熱融着により一体化されている。
【0013】
光学フィルム層1としては、所望の光学的機能を有する公知のフィルムから適宜選択して用いることができ、例えば、防眩フィルム、調光フィルム、偏光フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、導光板、プリズムシート、反射フィルム、反射防止フィルムなどの光学フィルムが挙げられる。光学フィルムとしては、偏光フィルムのほか、偏光フィルム以外の光学フィルムも好ましく用いられ、その中でも防眩フィルム、調光フィルムなどが好ましく用いられる。
【0014】
光学フィルムの素材としては、耐熱性、耐薬品性を有する樹脂であれば特に限定されず、好ましくは透明な樹脂で構成できる。前記樹脂には、公知の熱可塑性樹脂、熱又は光硬化性樹脂が含まれ、熱可塑性樹脂が用いられる場合が多い。なかでも、ポリビニルアルコール、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネートなどの透明な熱可塑性樹脂が好ましい。特に、ポリアミド樹脂を主成分に用いる場合には、加工性及び耐薬品性に優れ、且つ軽量なレンズが得られるので好ましく、特に脂環式ポリアミドなどの透明性に優れた素材を選択して用いることにより、光学機能を向上することができる。光学フィルムは、調光材料、光吸収剤(紫外線、青色、赤外線等)、着色剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、粘度調整剤などの添加剤を含んでいてもよい。光学フィルム層1は、単層であってもよく、同一又は異なる光学機能を有するフィルムを組み合わせた複数の層であってもよい。
【0015】
光学フィルムは、押出成形法やキャスト成形法等によりフィルム状に成形し、必要に応じて延伸、加熱、コーティング、エンボス加工等の光学特性付与又は向上を目的とする適宜な処理を施して形成することができる。
【0016】
前記防眩フィルムは、例えば、透明性を有する熱可塑性樹脂からなる基材フィルムと、防眩層とで構成されている。防眩層は、ぎらつき防止機能を付与する層であり、微粒子の吹きつけ、エンボス加工、転写等の手段により形成される凹凸構造を有している。このような防眩層は、例えば、熱又は光硬化性樹脂を含むインクの液滴を付着させることにより、微細な凹凸からなる層として形成することができる。
【0017】
前記調光フィルムとしては、例えば、透明性を有する熱可塑性樹脂に、調光材料を練り込んで成形されたフィルムなどを利用できる。調光材料としては、特定波長の光を吸収する材料として公知の無機物及び有機物から適宜選択して用いることができ、後述する光可逆性を示す物質等であってもよい。
【0018】
前記偏光フィルムは、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどを素材とする一軸又は二軸延伸フィルム(好ましくは一軸延伸フィルム)に、ヨウ素又は二色性染色でドープするなどの処理を施すことにより形成できる。
【0019】
光学フィルム層1の厚みは、例えば200μm以下(5〜200μm程度)、好ましくは10〜100μm程度である。厚みが5μm未満であると、所望の光学特性が十分に得られず、200μmを超えると、取扱性が低下し、軽量化、低コスト化の点で不利である。
【0020】
ポリアミドシート層2及びポリアミド樹脂成形層3は、いずれも主成分がポリアミドで形成されている。ポリアミドとしては、例えば、脂肪族ジアミン(ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン等)、脂環式ジアミン(ビス(p−アミノシクロヘキシ)メタン、3,3−ジメチル−4,4−ジアミノジシクロへキシメタン、3,3−ジメチル−4,4−ジアミノジシクロヘキシメタン)、芳香族ジアミン(m−キシリレンアミン)などのジアミン成分と、脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸、ドデカン二酸)、脂環式ジカルボン酸(シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸等)、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、テレフタル酸)などのジカルボン酸成分との重縮合物、及びカプロラクタムなどのラクタム類の重縮合物が挙げられる。ポリアミドシート層を構成する素材は、光学フィルム層の種類に応じて単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよく、透明及び不透明のいずれであってもよい。好ましくは透明性に優れるポリアミドが用いられる。
【0021】
脂環式ポリアミドは、透明性の高い透明ナイロンが得られる例として挙げられる。脂環式ポリアミドとは、主成分が、脂環式ジアミン及び脂環式ジカルボン酸の少なくとも一方で構成されているポリアミドを意味しており、より好ましくは、主成分が脂環式ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とで構成されている脂環式ポリアミドが用いられる。代表的な脂環式ポリアミドとしては、例えば前記式(1)で表される脂環式ポリアミドが挙げられる。
【0022】
このような脂環式ポリアミドとして、ダイセル・デグサ(株)製の「Trogamid CX7323」、エムス社製の「グリルアミドTR−90」などが市販されている。
【0023】
ポリアミドは、また、結晶性及び非結晶性の何れであってもよく、好ましくは結晶化度の低いもの、あるいは結晶サイズが光の波長より小さい微小結晶性のものが用いられる。本発明では、透明性の点で非晶性ポリアミド(非晶性ナイロン若しくは微結晶性ポリアミド)が好ましく用いられるが、ナイロン12などの薄い乳白色を呈する結晶性ポリアミド等も利用できる。
【0024】
ポリアミドの融解温度は、それぞれ、例えば100〜350℃、好ましくは100〜320℃程度である。特に結晶性を有するポリアミド樹脂の融解温度は、例えば150〜300℃、好ましくは150〜300℃、より好ましくは180〜280℃である。
【0025】
ポリアミド樹脂は、一般にアッベ数が高いことが知られており、光学材料として好適である。本発明では、ポリアミド樹脂のアッベ数が、例えば35以上(35〜65程度)、好ましくは40以上(40〜65程度)、より好ましくは45以上(40〜60程度)であり、特に50以上(50〜60程度)である。また、ポリアミド樹脂の屈折率は、光学レンズの用途に応じて適宜選択することができ、例えば1.1〜2.0、好ましくは1.2〜1.9、より好ましくは1.3〜1.8程度である。アッベ数が高い素材は屈折率が低くなる傾向にあるが、ポリアミド樹脂は、アッベ数と屈折率とが共に高く、好ましい光学機能をバランスよく有している。本発明の機能性光学レンズは、上記特性を有するポリアミド樹脂からなるシート層2と樹脂成形層3とで構成されるため、極めて優れた光学特性を有している。
【0026】
ポリアミドシート層2及びポリアミド樹脂成形層3に用いられるポリアミドは、単一種又は複数種の組み合わせであってもよく、各層のポリアミドの種類は一部又は全部が同一であってもよく、異なっていてもよい。特に、ポリアミドシート層2とポリアミド樹脂成形層3とがいずれも脂環式ポリアミドで形成されている場合には、透明性に優れた光学レンズを形成することができる。また、両層を高い密着性で直接融着することができる。
【0027】
ポリアミドシート層2及びポリアミド樹脂成形層3は、目的とする光学特性、取扱性などを損なわない範囲でポリアミド以外の樹脂成分(公知の熱可塑性樹脂など)や添加剤等を含んでいても良い。
【0028】
ポリアミドシート層2を構成するポリアミドシートは、押出成形法やキャスト成形法等により形成することができる。ポリアミドシート層2は、未延伸ポリアミドシート、若しくは一軸又は二軸延伸ポリアミドシートなどで構成できる。特に、ポリアミドシート層2を延伸ポリアミドシート(特に一軸延伸ポリアミドシート)で構成した場合には、特定の光学フィルムからなる光学シートにおいて、曲げ加工後に白抜け[又は十字白抜け、十字状の白濁印]が生じるという問題を解決し、白抜けの発生が防止又は抑制された機能性光学レンズを得ることができる。なお、本発明の機能性光学レンズが防眩レンズである場合には、ポリアミドシート層2は未延伸ポリアミドシートで構成されていてもよい。
【0029】
延伸は、ロール方式、テンター方式、チューブ方式等により行われる。延伸温度は、例えば80〜250℃、好ましくは110〜250℃、より好ましくは120〜200℃程度である。延伸倍率は、光学フィルム及びポリアミドの種類、厚みなどに応じて適宜調整することができる。延伸倍率は、例えば、少なくとも一方の方向[長さ方向(MD方向)及び/又は幅方向(TD方向)]に1.10〜3.5倍、好ましくは1.15〜2.8倍、より好ましくは1.18〜2.5倍程度である。
【0030】
ポリアミドシート層2の厚みは、例えば20〜1000μm、好ましくは50〜800μm、さらに好ましくは100〜500μm程度であってもよい。
【0031】
光学フィルム層1とポリアミドシート層2とは接着剤を介して積層されていてもよい。前記接着剤は、光学フィルムとポリアミドシートを接着可能であれば特に限定されず、例えばアクリル系、エステル系、ウレタン系、エーテル系、エポキシ系、酢酸ビニル系などの慣用の接着剤を用いることができる。なかでも、アクリル系、エステル系(特にエステル系ポリウレタン)などのドライラミネート用接着剤が好ましく用いられる。このような接着剤は、サイデン化学(株)製のアクリル系粘着剤「サイビノールAT−250」;東洋モートン(株)製のエステル系ポリウレタン「TM−595」などの主剤と硬化剤(商品名「CAT−10L」、「CATーRT85」など)との組み合わせからなるドライラミネート接着剤などが市販されている。
【0032】
接着剤は、硬化後の厚みが、例えば0.1〜80μm程度、通常1〜60μm、好ましくは2〜50μm、さらに好ましくは5〜40μm程度であってもよい。
【0033】
光学シートAは、光学フィルムに対応した光学機能を発揮することができ、例えば、防眩フィルムからなる防眩シート、調光フィルムからなる調光シート、偏光フィルムからなる偏光シートなどとして利用できる。なお、本発明の機能性光学レンズは、広範な光学機能を有する光学フィルムとポリアミドシート層からなる光学シートで構成することができ、偏光シートのほか、偏光シート以外の光学シートで構成されていることも好ましい。
【0034】
図2は、本発明の機能性光学レンズを構成する光学シートの一例を示す概略断面図である。図2の光学シートBは、光学フィルム層1が接着剤層4a、4bを介して2つのポリアミドシート層2a、2bに挟持された構成を有している。この2つのポリアミドシート層2a、2bは、同一又は異なる種類のポリアミドで形成でき、同一又は異なる厚みであってもよい。上記のような光学シートBは、ポリアミドシート層2a、2bにより、光学フィルム層1の両面が衝撃や汚染等から保護されるため、光学性能の劣化を防いで良好な光学性能を発揮することができ好ましい。
【0035】
本発明における光学シートの総厚みは、用途に応じて適宜選択でき、例えば200〜2500μm、好ましくは300〜2000μm程度である。光学シートの表面は、密着性を向上させるため、種々の表面処理(例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、アンカーコート処理など)を施してもよい。
【0036】
本発明においては、光学シートに曲げ加工が施されていても良い。曲げ加工は、光学シートの少なくとも一部に施されていればよく、曲面金型などの所望の金型を加工手段として用いてもよい。曲げ加工は光学シートの加熱下で施すことができ、加熱温度は、例えば200℃未満(80℃以上200℃未満)、好ましくは90〜190℃、より好ましくは100〜180℃程度である。金型を用いる場合には、上記光学シートの加熱温度と同程度に加熱した金型が用いられる。
【0037】
こうして曲げ加工が施された光学シートは、偏光シートのほか、偏光シート以外の防眩シート、調光シートなどとして好ましく用いられる。上記特性を有する光学シートによれば、光学機能を有するレンズの素材として好適である。
【0038】
ポリアミド樹脂成形層3は、ポリアミド樹脂組成物に、金型を用いた成形加工を施して形成される樹脂成形層である。すなわち、ポリアミド樹脂成形層3は未延伸の樹脂成形体である。前記ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミドを主成分に含んでいればよく、ポリアミド単独で構成されていてもよく、さらに、本発明の効果を損なわない範囲でポリアミド以外の樹脂(熱可塑性樹脂等)や添加剤を含む混合物であってもよい。
【0039】
ポリアミド樹脂成形層3は、光学フィルム層1側又はポリアミドシート層2側の面に、直接融着する方法、接着剤層などを介して予め成形されたポリアミド樹脂成形層3を積層する方法などの公知の方法を用いて形成することができる。本発明では、ポリアミドシート層2側の面に積層する方法が好ましく、特にポリアミドシート層2側の面に直接融着する方法が好ましく用いられる。この方法によれば、シート層2と樹脂成形層3が共に主成分がポリアミドで構成されているため、別途樹脂シート層や接着剤層等を設ける必要がなく、良好な親和性を有するポリアミドシート層2とポリアミド樹脂成形層3とを直接融着することができる。このため、製造工程を短縮できるため低コストで効率よく製造でき、別途設けた接着剤層により光学機能が損なわれるなどのおそれがなく、しかもシート層2と樹脂成形層3とを高い密着性で一体化することができる点で優れた光学機能を付与することができる。
【0040】
ポリアミド樹脂成形層3は、金型を用いた成形加工法として公知の方法を用いて形成することができ、例えば、圧縮成形法、トランスファー成形法、押出成形法、射出成形法、射出圧縮成形法などが挙げられる。成形加工は、ポリアミド樹脂組成物を加熱溶融する工程を含んでいる。ポリアミド樹脂組成物の溶融温度は、例えば180〜350℃、好ましくは200〜330℃、より好ましくは230〜320℃程度である。溶融温度が低すぎると、ポリアミド樹脂に金型へ投入可能な程度の流動性を付与しにくく、温度が高すぎると樹脂が劣化しやすく好ましくない。
【0041】
ポリアミド樹脂成形層3の厚みは、取扱性、光学機能等を損なわない範囲で適宜選択でき、例えば200〜5000μm、好ましくは300〜3000μm程度である。
【0042】
本発明において、機能性光学レンズ全体に対するポリアミドの構成比は、例えば70重量%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90重量%以上、特に95%以上である。前記ポリアミドの構成比が70重量%未満の場合は、加工性、耐薬品性が不十分となりやすく、軽量化しにくい。ここで、機能性光学レンズ全体に対するポリアミドの構成比は、ポリアミドシート層2及びポリアミド樹脂成形層3に含まれるポリアミドの重量が、機能性光学レンズの総重量に占める割合を意味している。
【0043】
本発明の機能性光学レンズは、シート層2及び樹脂成形層3が共にポリアミドを主成分として含むため、直接孔を開けてもひび割れ等が生じにくく、加工性に優れている。また、本発明の機能性光学レンズは、耐薬品性に優れる点で有利である。このような機能性光学レンズは、眼鏡用レンズとして他の部材と組み合わせて用いる場合に、他の部材に含まれる可塑剤などの薬品に接触して腐蝕する等の問題を回避することができる。このように、本発明の機能性光学レンズによれば、多様な加工手段を施すことができ、しかも耐薬品性に優れるため、構成成分に可塑剤などを含む素材と組み合わせて利用することができる。このため、本発明の機能性光学レンズは、広範な用途に適用でき、しかも軽量化を達成することが可能である。
【0044】
機能性光学レンズを構成する各層は、必要に応じて調光材料(光可逆性化合物等)、光吸収剤(紫外線吸収剤、青色吸収剤、赤外線吸収剤等)、着色剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、粘度調整剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0045】
本発明の機能性光学レンズは、防眩性及び/又は調光性を有していることが好ましい。これらの光学機能は、例えば、対応する光学機能を有する光学シート、例えば防眩シートの使用により防眩性を、調光シートの使用により調光性を付与することができる。調光性を有する機能性光学レンズには、例えば光可逆性を有する機能性光学レンズが含まれる。
【0046】
光可逆性を有する機能性光学レンズは、具体的には、光可逆性化合物が、機能性光学レンズを構成する何れかの層に添加された構成を有している。前記光可逆性化合物は、光の波長により構造が変化し、吸収スペクトルが変わる性質を可逆的に有する物質であれば特に限定されず、公知のものを利用できる。このような光可逆性化合物には、例えば、フォトクロミック化合物(調光性色素:アゾベンゼン類、スピロピラン類、スピロオキサジン類、ジアリールエテン類、クロメン類等)などの有機物;希土類元素(セリウム、テルビウム、ユーロピウム等)などの無機物;及び無機有機複合体(無機物の有機錯体)等の公知のものを利用できる。特に、光可逆性を有する光学シートによれば、光可逆性能が均一に付与された機能性光学レンズを容易に得られる。
【0047】
光可逆性を有する光学シートの具体例としては、例えば、調光材料としての光可逆性化合物を含む調光フィルムとポリアミドシートからなる調光シート;光学フィルム(調光フィルム、防眩フィルム等)とポリアミドシートとが、光可逆性化合物含有接着剤を介して積層された調光性光学シート;光学フィルムが、光可逆性化合物含有ポリアミドシートと同非含有ポリアミドシートに挟時された構成からなる調光性光学シートなどが挙げられる。
【0048】
図3は、本発明の機能性光学レンズの製造方法の一例を示す概略工程図である。図3は、光学フィルム層1の両面に接着剤を介して(図示せず)ポリアミドシート層2a、2bを積層した光学シートCに、曲げ加工用金型Xを用いて曲げ加工を施し(I)、曲げ加工が施された光学シートCを射出成形用金型Yに設置して(II)、射出成形用金型Y、Zを用いて光学シートCにポリアミド樹脂組成物を熱融着させることにより(III)機能性光学レンズを得る一連の工程を示している。
【0049】
曲げ加工は、平面形状の光学シートCを成形可能な温度(例えば130℃前後)に加熱した後、曲げ加工用金型X内に配置し、該金型Xに設けられた吸引孔Pから吸引することにより光学シートCが金型Xの凹部形状に沿って成形する方法により実施される(I)。本発明における曲げ加工は、例えば、真空成形、圧縮成形等の加熱を伴う成形方法として慣用の方法により行うことができ、好ましくは真空成形法が用いられる。
【0050】
射出成形は、曲げ加工(I)が施された光学シートCを射出成形用金型Yに設置し(II)、金型Zを重ね、ポリアミド樹脂成形層3を構成する樹脂組成物を、例えば280℃前後で加熱溶融し、金型Zに設けられた注入孔Zより金型内の空隙へ注入することにより行われる。こうして、光学シートを構成するポリアミドシート層にポリアミド樹脂組成物を熱融着して一体化できるため、接着剤を用いることなく良好な成形体を得ることができる。図3の例では、ポリアミド樹脂成形層3は、曲面形状の光学シートの凹部側(内面側)に積層しているが、これに限定されず、凸部側(外面側)に積層してもよく、両面側であってもよい。好ましくは光学シートの凹部側(内面側)にポリアミド樹脂成形層が設けられる。従来、ポリカーボネートを用いて射出成形すると歪みが生じやすく、この歪みにより色むら(虹色模様など)が発生するという問題があった。これに対し、ポリアミド樹脂組成物を用いる本発明によれば、射出成形による歪みと、歪みに伴う色むらの発生を抑制して、光学特性に優れた機能性光学レンズを形成することができる。本発明においては、特に、曲げ加工が施された光学シートCを用いた場合にも、歪みや色むらが生じにくく光学機能に優れたレンズを製造することができる点で有利である。
【0051】
本発明の方法によれば、曲げ加工が施された光学シートのポリアミドシート層とポリアミド樹脂成形層とを簡便な方法で安定に融着一体化することが可能である。
【0052】
上記方法により得られた積層成形体の少なくとも一方の面には、必要に応じて、ハードコート加工、反射防止加工、防曇加工、防汚加工、ミラー加工等の加工処理を単独で又は組み合わせて施してもよい。
【0053】
ハードコート加工は、公知の熱又は光硬化性樹脂を表面に塗布し、硬化させることにより施すことができる。ハードコート層の厚みは、例えば0.5〜15μm程度である。反射防止加工は、ゾルゲル法や真空蒸着法等を用いて、シリカなどの無機物や有機物からなる単層又は複数の層を形成することにより行われる。防曇加工は、親水性樹脂の塗布により、防汚加工は、フッ素系有機化合物を真空蒸着法等で塗布することにより、ミラー加工は、アルミなどの金属を蒸着する方法によりそれぞれ行うことができる。
【0054】
本発明の機能性光学レンズは、例えば、防眩レンズ、調光レンズ、偏光レンズ、位相差レンズ、光学補償レンズ、輝度向上レンズ、導光板、プリズムレンズ、反射レンズ、反射防止レンズなどとして利用できる。これらの機能性光学レンズは、眼鏡、顕微鏡、照明機器、各種光線発生装置等の光学機器を構成する部品として広く利用できる。本発明では、偏光レンズの他、偏光レンズ以外の機能性光学レンズも好ましく用いられる。なかでも、サングラス、眼鏡、ゴーグル等(例えばフレームのない眼鏡等)のレンズとして、好ましくは防眩レンズ、調光レンズ、及びこれらに光可逆性が付与されたレンズを利用できる。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0056】
実施例1
ポリアミド樹脂[ダイセル・デグサ(株)製、商品名「Trogamid CX7323」]100重量部、紫外線吸収剤[商品名「JF−86」、城北化学(株)製]0.4重量部、青色吸収剤[商品名「カヤセットイエローA−G」、日本化薬(株)製]0.007重量部、赤外線吸収剤[商品名「IRアディティブ200」、大日本インキ工業(株)製]0.012重量部、及び下記式
【化2】

で表される化合物0.002重量部からなる混合物を、250〜320℃に調節されたフィルム押出機[(株)プラ技研製:スクリュー径30mm]を用いて成形することにより厚み約50μmの防眩フィルムを作成した。
防眩フィルムの両側に、接着剤[各厚み約20μm:東洋モートン社製の商品名「TM−595」と「CAT−10L」とを配合比5:1で混合し、酢酸エチル溶媒で2倍に希釈して得た接着剤組成物]を介して、ポリアミド樹脂[ダイセル・デグサ(株)製、商品名「Trogamid CX7323」、アッベ数45、ガラス転移温度140℃]からなる一軸延伸ポリアミドフィルム(PAフィルム:厚み約200μm、延伸倍率1.2倍)を貼り合わせて、図2に示されるPAフィルム1a/接着剤4a/防眩フィルム2/接着剤4b/PAフィルム1bからなる層構成を有する防眩シートAを形成した。
得られた防眩シートAを約100℃に加熱した後、凹面金型内に設置し、金型下方部に設けられた吸引孔から真空吸引することにより曲げ加工を施した。
得られた曲面防眩シートAを、レンズ形状を有する射出成形用金型内にセットし、そこへ300℃で加熱溶融させたポリアミド樹脂(同上)を注入することにより、曲面防眩シートAのPAフィルム1b側の表面にポリアミド樹脂成形層3が直接熱融着された防眩レンズ(PAフィルム1a/接着剤4a/防眩フィルム2/接着剤4b/PAフィルム1b/PA樹脂成形層3)を得た。
【0057】
実施例2
実施例1において、防眩フィルムの代わりに、厚み約40μmのポリビニルアルコール系偏光フィルム[日東電工(株)製]を用いた点以外は実施例1と同様の操作を行って偏光シートを作成し、これを用いて偏光レンズを得た。
【0058】
実施例3
実施例1において、PAフィルムとして、延伸倍率を2.5倍としたPAフィルム(延伸倍率以外は実施例1に同じ)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って防眩シートを作成し、これを用いて防眩レンズを得た。
【0059】
実施例4
実施例1において、PAフィルムとして、未延伸PAフィルム(延伸倍率以外は実施例1に同じ)を用いた点以外は、実施例1と同様の操作を行って防眩シートを作成し、これを用いて防眩レンズを得た。
【0060】
実施例5
実施例1において、接着剤として、接着剤[サイデン化学社製の商品名「サイビノールAT−245」に、固形分に対して10重量%のスピロオキサジン系調光性色素(1,3,3,5,6−ペンタメチルスピロ[インドリノ−2,3’[3H]−ナフト(2,1b)(1,4)オキサジン)]を配合した調光性色素配合接着剤を用いて、偏光フィルムの片面に厚み約30μmでコーティングし、他方の面には、調光性色素を配合しない接着剤[サイデン化学社製、商品名「サイビノールAT−245」]を厚み約30μmでコーティングした点以外は実施例1と同様の操作を行って偏光性調光性シートを作成し、これを用いて偏光性調光性レンズを得た。
【0061】
比較例1
実施例1における防眩フィルムとポリアミドシート層からなる防眩シートを用いた。
実施例1において、樹脂成形層として、ポリアミド樹脂の代わりに、ポリカーボネート樹脂[PC:出光石油化学(株)製、平均重合度80、アッベ数29、ガラス転移温度145℃]を用いてPC樹脂成形層を設けた点以外は実施例1と同様の操作を行って、防眩レンズ(PAフィルム1a/接着剤4a/防眩フィルム2/接着剤4b/PAフィルム1b/PC樹脂成形層)を作成した。
【0062】
(評価試験)
加工性
実施例1〜5及び比較例1で得たレンズに、レンズ穴明機(型式:DM−3、(株)クボタ精機製作所製)を用いて直径2mmの貫通孔を設けたところ、比較例1のレンズは、貫通孔の周辺に多数のひびが入ったが、実施例1〜5のレンズにはひびなどの形成はみられず、加工性に優れていた。
【0063】
耐薬品性
実施例1〜5及び比較例1で得たレンズの樹脂成形層側の面を、可塑剤(フタル酸ジエチル)を25重量%含有した樹脂成形体(酢酸セルロース系樹脂)に接触させた状態で、室温で60日間放置したところ、比較例1のレンズは接触部分が白色に変色していたが、実施例1〜5のレンズにはそのような変色はみられず、優れた耐薬品性を有していた。
【0064】
歪み
実施例1〜5及び比較例1で得たレンズについて、各レンズの表面に映った像を目視で観察したところ、比較例1のレンズには像の歪みが見られ、表面に虹色の模様が確認されたが、実施例1〜5のレンズには像の歪みも表面の虹色模様も見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の機能性光学レンズの一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の機能性光学レンズ部品を構成する光学シートの一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の機能性光学レンズの製造方法の一例を示す概略工程図である。
【符号の説明】
【0066】
1 光学フィルム層
2、2a、2b ポリアミドシート層
3 ポリアミド樹脂成形層
4a、4b 接着剤層
A、B、C 光学シート
P 吸引孔
Q 注入孔
X 曲げ加工用金型
Y、Z 射出成形用金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学フィルム層とポリアミドシート層からなる光学シート、にポリアミド樹脂成形層が積層された構成を有する機能性光学レンズ。
【請求項2】
ポリアミドシート層とポリアミド樹脂成形層が接着層を介さず直接融着している請求項1記載の機能性光学レンズ。
【請求項3】
ポリアミドシート層とポリアミド樹脂成形層が共に脂環式ポリアミドで形成されている請求項1又は2記載の機能性光学レンズ。
【請求項4】
脂環式ポリアミドが、下記式(1)
【化1】

(式中、Xは、直接結合、アルキレン基又はアルケニレン基を示し、R1及びR2は、同一又は異なったアルキル基を示し、m及びnは0又は1〜4の整数、p及びqは1以上の整数を示す)
で表される化合物である請求項3記載の機能性光学レンズ。
【請求項5】
ポリアミドシート層が延伸ポリアミドシートで形成されている請求項1〜4の何れかの項に記載の機能性光学レンズ。
【請求項6】
延伸ポリアミドシートの延伸倍率が1.1〜3.5である請求項5記載の機能性光学レンズ。
【請求項7】
延伸ポリアミドシートが一軸延伸ポリアミドシートである請求項5記載の機能性光学レンズ。
【請求項8】
光学シートに曲げ加工が施されている請求項1〜7の何れかの項に記載の機能性光学レンズ。
【請求項9】
防眩性及び/又は調光性を有する請求項1〜8のいずれかの項に記載の機能性光学レンズ。
【請求項10】
光学フィルム層とポリアミドシート層とを積層した光学シートに曲げ加工を施した後、前記ポリアミドシート層にポリアミド樹脂組成物を射出成形により熱融着させて機能性光学レンズを得ることを特徴とする機能性光学レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−178920(P2007−178920A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−380129(P2005−380129)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000108982)ダイセル・デグサ株式会社 (31)
【Fターム(参考)】