機能性成分含有量の高い食品並びにそれらの製造方法
本発明は、麦類種子を水又は温水に浸漬したもの、発芽麦あるいは麦芽等の麦類加工品を食品原料として利用することにより、アミノ酸等の機能性成分を添加物として使用することなしに、食品の製造工程段階で該食品中のギャバや目的とするその他の遊離アミノ酸等機能性成分含有量を増加させて、それら機能性成分の含有量が高い食品の提供、およびそれら食品の製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、食品の製造工程を制御することにより、麦類加工品を利用した場合と同様に、未加工の麦を通常原料に添加した場合や従来の穀物の通常原料だけの場合でも、機能性成分の含有量が高い食品の提供およびそれら食品の製造方法を提供することを目的とする。
食品の原料に目的とする遊離アミノ酸や食物繊維に応じて発芽日数を制御した麦芽または発芽麦または麦類種子を水又は温水に浸漬したもの等麦類加工品を含むことで製造工程における発酵段階あるいは熟成段階で遊離アミノ酸またはギャバ含有量を増加させることができる。その結果、アミノ酸またはギャバを添加物として使用しない、遊離アミノ酸またはギャバ含有量が高い食品とその製造方法を提供できる。また、麦類加工品ではなく、大麦粉などの未加工の麦を通常原料に添加した食品や従来の穀物の通常原料の食品の発酵工程又は熟成工程において温度を制御することにより機能性成分の含量を増加できる。
食品の原料に目的とする遊離アミノ酸や食物繊維に応じて発芽日数を制御した麦芽または発芽麦または麦類種子を水又は温水に浸漬したもの等麦類加工品を含むことで製造工程における発酵段階あるいは熟成段階で遊離アミノ酸またはギャバ含有量を増加させることができる。その結果、アミノ酸またはギャバを添加物として使用しない、遊離アミノ酸またはギャバ含有量が高い食品とその製造方法を提供できる。また、麦類加工品ではなく、大麦粉などの未加工の麦を通常原料に添加した食品や従来の穀物の通常原料の食品の発酵工程又は熟成工程において温度を制御することにより機能性成分の含量を増加できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離アミノ酸、食物繊維等の機能性成分を豊富に含む麦芽等の麦類加工品又は未加工の麦を食品原料の一部として食品を製造し、又は穀物の通常原料の食品の製造において、これらの成分含有量を高めた食品に関する。より詳細には、上記配合の食品又は穀物の通常原料の食品の製造段階で機能性成分の含有量を増加させた食品およびそれらの食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アミノ酸や食物繊維等の機能性成分を原料の一部あるいは食品添加物として使用した食品が、健康食品への関心が高まる中、注目され、これらを含む新商品も発売されている。
【0003】
アミノ酸は様々な機能を有することが報告されており、これを使用することにより、食品における機能性の向上や品質の向上が可能となる。例えば、バリンは各種食品の風味改善を目的として利用されている。また、近年では健康に対する消費者の関心の高さから、様々なアミノ酸を含有する機能性食品が開発され、市販されている。
【0004】
また、最近注目されている、ギャバ(GABA、すなわちガンマアミノ酪酸)は自然界に広く分布しているアミノ酸の一種で分子式はNH2CH2CH2CH2COOHである。ギャバは、生体内において、抑制系の神経伝達物質として作用することが知られている。また、血圧降下作用、精神安定作用、腎、肝機能改善作用、アルコール代謝促進作用などが知られている。
【0005】
また、食物繊維は整腸作用や血糖値の上昇抑制作用など様々な機能性を有し、食物繊維を配合した飲料水等が製品化されている。
【0006】
これら機能性成分を豊富に含む食品素材としては、発芽玄米等穀類を発芽させた穀類加工品が従来から知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0007】
例えば、ギャバについては茶碗一杯程度の発芽玄米80gから10mg程度摂取できるといわれている(例えば、特許文献1を参照)。また、雑穀または雑穀を含む穀類の発芽によりアラニンとギャバを富化させた食品素材または食品もある(例えば、特許文献2を参照)。
【0008】
一方、穀類の中で麦類については、小麦、ライ麦はパン、蕎麦、うどん、パスタ等の食品原料として広く使用されており、また、大麦についてはこれを発芽させて、いわゆる麦芽に加工してビール、発泡酒、ウィスキー等の醸造用原料として用いられて他、麦芽を粉砕した麦芽粉はパン製造時の発酵促進に用いられている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0009】
また、機能性成分を含む食品素材としても、発芽小麦は機能性成分としてアミノ酸を含有すること、えん麦は植物繊維としてβ−グルカンを含有すること、大麦は発芽あるいは麦芽の状態で遊離アミノ酸、食物繊維(β−グルカン)の機能性成分を含有することが知られている。
【0010】
しかしながら、本願発明者の研究によると、麦類種子を水又は温水に浸漬処理したもの、発芽麦あるいは麦芽等の麦類加工品を原料の一部又は食品添加物として加えた場合、その使用量あるいは当該食品の製造工程において処理温度等の条件によって機能性成分の含有量に増減を生じることが確認された。また、個々の機能性成分によって増減の傾向が異なる(即ち、機能性成分Aは含有量が増加するが、機能性成分Bは減少している)場合があり、含有量を高めたい機能性成分に応じて最適な製造条件を設定する必要のあることが確認された。また、麦類加工品中には各種の酵素が存在し、使用される食品によってはそれら酵素の活性が食品本来の物性及び品質を変化させてしまうことがあるため、それら酵素の活性を抑制する必要があった。
【0011】
これらの問題は、大麦のみに限らず、麦類(小麦、ライ麦、えん麦、ライ小麦)の麦芽に共通する問題点である。
【特許文献1】特開2003−250512号公報
【特許文献2】特開2003−159017号公報
【非特許文献1】Briggs, Malts and Malting,1998, p.9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は上述に鑑みてなされたものであり、麦類加工品又は未加工の麦を食品原料として利用する食品だけでなく、穀物の通常原料の食品において、製造工程の一部を制御することにより、食品中のギャバやその他の遊離アミノ酸等機能性成分含有量を増加させた食品の提供、およびそれら食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、上記目的は、請求項1に記載されるが如く、穀物を原料とする食品であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階で製造条件を制御することにより機能性成分の含有量を増加させたことを特徴とする食品により達成される。
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、穀物の通常原料を含む食品において、例えば、アミノ酸を添加物として使用することなしに、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階を制御することでギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加することができる。
【0015】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の発明において、穀物として、小麦、大麦又はそばを原料とすることを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、小麦、大麦又はそばを原料とする穀物を含む食品において、例えば、アミノ酸を添加物として使用することなしに、ギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加することができる。
【0017】
請求項3にかかる発明は、麦又は麦類加工品を原料とする食品であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階において製造条件を制御することにより機能性成分の含有量を増加させた食品により達成される。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、例えば、大麦麦芽などの麦類加工品を含む食品において、アミノ酸を添加物として使用することなしに、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階を制御することでギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加することができる。
【0019】
請求項4にかかる発明は、請求項1乃至3のいずれか一項記載の発明において、前記食品とは、パン、パスタ、うどんあるいはそばであることを特徴とする。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、パン、パスタ、うどんあるいはそばなどの食品において、例えば、アミノ酸を添加物として使用することなしに、ギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加することができる。
【0021】
請求項5にかかる発明は、請求項1乃至4のいずれか一項記載の発明において、前記製造工程段階は、捏ね工程であることを特徴とする。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、前記製造工程での捏ね段階で、例えば、遊離アミノ酸またはギャバなどの機能性成分含有量を増加させることができる。つまり、穀物の通常原料の食品でも麦類加工品、例えば大麦麦芽を原料に含む食品であっても、遊離アミノ酸またはギャバを添加物として使用することなしに、遊離アミノ酸またはギャバなどの機能成分含有量が高い、例えば、パンなどその製造工程段階に捏ね段階を有する食品を提供することができる。
【0023】
請求項6にかかる発明は、請求項1乃至4のいずれか一項記載の発明において、前記製造工程段階は、発酵工程であることを特徴とする。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、前記製造工程での発酵段階で、例えば、遊離アミノ酸またはギャバなどの機能性成分含有量を増加させることができる。つまり、穀物の通常原料の食品でも麦類加工品、例えば大麦麦芽を原料に含む食品であっても、遊離アミノ酸またはギャバを添加物として使用することなしに、遊離アミノ酸またはギャバなどの機能成分含有量が高い、例えば、パンなどその製造工程段階に発酵段階を有する食品を提供することができる。
【0025】
請求項7にかかる発明は、請求項1乃至4のいずれか一項記載の発明において、前記製造工程段階は、熟成工程であることを特徴とする。
【0026】
請求項7に記載の発明によれば、前記製造工程での熟成段階で、例えば、遊離アミノ酸またはギャバなどの機能性成分含有量を増加させることができる。つまり、穀物の通常原料の食品でも麦類加工品、例えば大麦麦芽を原料に含む食品であっても、遊離アミノ酸またはギャバを添加物として使用することなしに、遊離アミノ酸またはギャバなどの機能成分含有量が高い、その製造工程段階に熟成段階を有する食品を提供することができる。
【0027】
請求項8にかかる発明は、請求項3乃至7のいずれか一項記載の発明において、前記麦類加工品は、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一であることを特徴とする。
【0028】
請求項8に記載の発明によれば、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一の麦類加工品を使用することによって、例えば、アミノ酸を添加物として使用することなしに、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階においてギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加させた食品を提供することができる。
【0029】
請求項9にかかる発明は、穀物を原料とする食品の製造方法であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階で製造条件を制御することにより機能性成分の含有量を増加させたことを特徴とする食品の製造方法により達成される。
【0030】
請求項9に記載の発明によれば、例えば、アミノ酸を添加物として使用することなしに、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階を制御することでギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加することができる穀物の通常原料を含む食品の製造方法を提供できる。
【0031】
請求項10にかかる発明は、麦又は麦類加工品を原料とする食品の製造方法であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階において製造条件を制御することにより機能性成分含有量を増加させることを特徴とする食品の製造方法により達成される。
【0032】
請求項10に記載の発明によれば、アミノ酸を添加物として使用することなしに、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階を制御することでギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加することができる、例えば、大麦麦芽など麦類加工品を含む食品の製造方法を提供できる。
【0033】
請求項11にかかる発明は、請求項9又は10に記載の発明において、前記製造工程段階は、捏ね工程であることを特徴とする。
【0034】
請求項11に記載の発明によれば、前記製造工程での捏ね段階で機能性成分、例えば遊離アミノ酸またはギャバ含有量を増加させることができる。つまり、穀物の通常原料の食品又は食品の原料に麦類加工品、例えば大麦麦芽を含む食品において、アミノ酸またはギャバを添加物として使用することなしに、遊離アミノ酸やギャバなどの機能性成分含有量が高い食品の製造方法を提供することができる。
【0035】
請求項12にかかる発明は、請求項9又は10に記載の発明において、前記製造工程段階は、発酵工程であることを特徴とする。
【0036】
請求項12に記載の発明によれば、前記製造工程での発酵段階で機能性成分、例えば遊離アミノ酸またはギャバ含有量を増加させることができる。つまり、穀物の通常原料の食品又は食品の原料に麦類加工品、例えば大麦麦芽を含む食品において、アミノ酸またはギャバを添加物として使用することなしに、遊離アミノ酸やギャバなどの機能性成分含有量が高い食品の製造方法を提供することができる。
【0037】
請求項13にかかる発明は、請求項9又は10に記載の発明において、前記製造工程段階は、熟成工程であることを特徴とする。
【0038】
請求項13に記載の発明によれば、前記製造工程での熟成段階で機能性成分、例えば遊離アミノ酸またはギャバ含有量を増加させることができる。つまり、穀物の通常原料の食品又は食品の原料に麦類加工品、例えば大麦麦芽を含む食品において、アミノ酸またはギャバを添加物として使用することなしに、遊離アミノ酸やギャバなどの機能性成分含有量が高い食品の製造方法を提供することができる。
【0039】
請求項14にかかる発明は、請求項10乃至13のいずれか一項記載の発明において、前記麦類加工品は、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一であることを特徴とする。
【0040】
請求項14に記載の発明によれば、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一の麦類加工品を使用することによって、例えば、アミノ酸を添加物として使用することなしに、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階においてギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加させた食品の製造方法を提供することができる。
【0041】
請求項15にかかる発明は、前記食品の製造方法として、パン、パスタ、うどん又はそばの製造方法であることを特徴とする食品の製造方法によって達成される。
【0042】
請求項15に記載の発明によれば、アミノ酸またはギャバを添加物として使用することなしに、遊離アミノ酸やギャバなどの機能性成分含有量が高いパン、パスタ、うどん又はそばの製造方法を提供することができる。
【0043】
請求項16にかかる発明は、麦または麦類加工品粉末を使用した揚げ物食品であって、該麦類加工品粉末は、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一を粉砕したことを特徴とする揚げ物食品を提供する。
【0044】
請求項16に記載の発明によれば、麦類種子あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一を粉砕した麦類加工品を例えば50%のから揚げ粉に配合することによって、その配合比で調理した食品に旨み成分であるアミノ酸を豊富に含有するため、旨みがより一層増し、麦類加工品中にあるたんぱく質分解酵素の作用により、食感のジューシーな揚げ物食品を提供できる。また衣の製造工程で、前記のように製造条件を制御することにより、衣に含まれる機能性成分の含有量も調節することが可能である。
【発明の効果】
【0045】
本発明の効果は、麦芽等麦類加工品を食品原料として利用することにより、製造工程段階の少なくとも1段階で温度等の製造条件を制御することにより任意の機能性成分含有量を増加させた食品が提供でき、およびその製造方法を提供できる。さらに、本発明は、麦類加工品を利用せずに、未加工の麦を通常原料に添加した食品や従来の穀物の通常原料の食品の製造工程を制御することにより、機能性成分の含有量が高い食品の提供、およびそれら食品の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】麦芽粉配合比率の異なるパンを示す図である。
【図2】強力粉のみでのパン製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図3】麦芽粉0.36%配合のパン製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図4】麦芽粉10%配合のパン製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図5】麦芽粉20%配合のパン製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図6】浸麦工程のみの麦芽を用いたパンを示す図である。
【図7】浸麦工程のみの麦芽を用いたパン製造工程中のギャバ含有量を示す図である。
【図8】捏ね工程前後におけるGABA含有量を示す図である。
【図9】捏ね工程前後におけるAla含有量を示す図である。
【図10】発酵工程におけるパン生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図11】強力粉100%配合のパンにおける発酵前後生地中の遊離アミノ酸含有量の増加率を示す図である。
【図12】強力粉80%と大麦粉20%配合のパンにおける発酵前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図13】強力粉80%と発芽大麦粉20%配合のパンにおける発酵前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図14】図11乃至13の配合比率のパンで異なる発酵温度による発酵前後生地中のギャバ含有量を示す図である。
【図15】パスタ製造工程におけるギャバ含有量を示す図である。
【図16】麦芽配合比0%と20%のうどんにおける外観特性を示す図である。
【図17】そば風麺の外観特性を示す。
【図18】強力粉70%と薄力粉30%配合比率のうどんにおける寝かせ前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図19】強力粉70%と大麦粉30%配合比率のうどんにおける寝かせ前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図20】強力粉70%と発芽大麦粉30%配合比率のうどんにおける寝かせ前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図21】図18乃至20の配合比率のうどんで異なる寝かせ温度による寝かせ前後生地中のギャバ含有量を示す図である。
【図22】そば粉70%と強力粉30%配合比率のそばにおける寝かせ前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図23】そば粉70%と大麦粉30%配合比率のそばにおける寝かせ前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図24】そば粉70%と発芽大麦粉30%配合比率のそばにおける寝かせ前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図25】そば粉100%配合のそばにおける寝かせ前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図26】図22乃至25の配合比率のそばで異なる寝かせ温度による寝かせ前後生地中のギャバ含有量を示す図である。
【図27】各種麦芽サンプルにおけるたんぱく質分解酵素の活性を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明者らは、麦類加工品を様々な食品原料として利用することにより、食品中の機能性成分含有量を増加させて、機能性成分含有量が高い食品とその製造方法を提供することを可能とした。
【0048】
本発明は、次の2段階から構成され、麦類加工品を含む様々な食品を製造することと、麦類加工品又は未加工の麦を原料に配合することにより、各種食品の製造工程で遊離アミノ酸含有量を増加させることである。以下、各段階について記述する。
【0049】
麦類加工品を原料に配合し、パン、パスタ、うどん、そば、クッキーなどを製造した。パンでは、従来の配合比率(0.09乃至0.36%)(非特許文献1を参照)を大きく上回る20%まで配合比率を高めた。またその他の食品では、麦類加工品20乃至50%の配合比率で、それぞれの食品の製法にしたがって、食品を製造した。いずれの試作品においても、それぞれ食品としての特性を保持した食品を製造することが可能であることが明らかとなった。
【0050】
次いで、麦類加工品を原料に配合することにより、食品の製造工程で機能性成分含有量を増加させることを行った。使用する麦類加工品は、一例として大麦麦芽(品種:はるな二条)を使用した。当該麦芽の製造方法は、大麦種子の水又は温水への浸漬処理、発芽処理(6日間)を経て(両処理とも温度15℃で行なった)、得られたサンプルを乾燥処理したものを原料として用いた。
【0051】
なお、大麦麦芽を原料に配合することにより、食品の製造工程で機能性成分含有量を増加させることに先立ち、麦芽製造工程中における種子及び麦芽の機能性成分(遊離アミノ酸)含有量を継時的に測定した。麦芽以外の大麦加工品については、大麦種子を水又は温水で浸漬処理したもの(以下「浸水処理」という)、及び更に発芽させたもの(発芽処理時間1日乃至6日)を夫々サンプルとし、これを凍結乾燥した。更に各サンプルを粉砕後、50mg/800μlにて一晩(5℃)振とうし、アミノ酸分析装置(日本電子社製)を用いて機能性成分含有量を測定した。
【0052】
測定の結果、プロリンなど殆どの遊離アミノ酸は、発芽1日目以降、急激に含有量が増加した。一方、ギャバ含有量は浸漬処理サンプルが最も高かった。したがって、大麦種子の加工の程度により、目的の遊離アミノ酸含有量を増加させた大麦加工品を得て、食品の原料として使用することができる。特に、ギャバ含有量を増加する目的において、浸漬処理のみの大麦種子加工品を原料として用いてもよい。
【0053】
また同様に、上記各大麦加工品中のたんぱく質分解酵素活性の変化を継時的に測定した。その結果、たんぱく質分解酵素活性は発芽1日処理の加工品がより顕著に増加し、発芽3日処理でピークに達することが認められた。食物繊維分解酵素活性についても、同様の傾向が認められた。これらの結果は、浸漬処理のみの加工品のギャバ含有量は高いが、たんぱく質分解酵素活性や食物繊維分解酵素活性は低い傾向にあることを示している。したがって、浸漬処理加工品を食品の原料または食品素材として使用することにより、食品の製造工程におけるたんぱく質や食物繊維の低分子化を抑制し、かつ遊離アミノ酸含有量を増加させた食品を製造することが可能となる。
【0054】
本発明では、発芽後6日目の発芽大麦と浸漬処理大麦を原料に配合して、食品の製造工程で遊離アミノ酸を増加させ、食品中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量が高い食品を製造した。それぞれの食品の製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を測定したところ、ギャバや一部の遊離アミノ酸は、配合比率を高めるほど、発酵工程において含有量の増加率が高くなることが明らかとなった。また一部の遊離アミノ酸含有量は、従来の配合比率(0.09乃至0.36%)では発酵工程において減少するが、大麦加工品の配合比率を高めることにより、発酵工程で増加することも明らかなった。
【0055】
本発明により、大麦加工品を様々な食品原料として利用することにより、食品中における遊離アミノ酸含有量、好ましくはギャバ含有量を高めることが可能となる。
【0056】
また、本発明において、通常原料と、通常原料に麦類加工品である発芽大麦を配合する場合と、さらに、通常原料に未加工の麦(未加工の麦は、本発明で定義する麦類加工品における加工処理を施していない麦類をいい、下記の実施例では大麦の粉末である通常の大麦粉を使用する)を配合する場合において、発酵工程あるいは熟成工程において温度を制御することによりパン、うどん及びそばを製造した。それぞれの食品の製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を測定したところ、大麦加工品を添加した場合だけでなく、未加工の麦である大麦粉を配合した場合や通常原料の場合でも、それら食品中の遊離アミノ酸含有量、好ましくはギャバ含有量を増加できることが可能となることが分かった。
【0057】
以下に実施例を示して本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0058】
大麦麦芽を原料としたパン製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化。
【0059】
強力粉に上記大麦麦芽を粉末にしたもの(以下「麦芽粉」という)を0%、0.36%、10%、20%配合し、従来の製パン工程によって、ロールパンを製造した。配合率0.36%は、前述のようにパン製造時に一般的に使用される麦芽粉配合率である(非特許文献1参照)。これらの原料をもとにパンを製造し(図1)、パン製造工程におけるギャバやその他のアミノ酸含有量の変化を測定した(図2乃至図5)。
【0060】
図1は麦芽粉配合比率の異なるパンを示す。左下のパンは麦芽粉が0%、左上は0.36%、右下は10%、右上は20%を配合したパンである。
【0061】
図2乃至図5のグラフ中の(計算値)は、例えばギャバであれば、強力粉のギャバ含有量は1.8mg/100g、麦芽粉のギャバ含有量は13.9mg/100gなので、(強力粉%x1.8/100)+(麦芽粉%x13.9/100)=(計算値)として図示した。分析の結果、麦芽粉配合比率を高めるほど、遊離アミノ酸含有量も高くなったが、ギャバなど一部の遊離アミノ酸は発酵過程において含有量が増加し、麦芽粉の配合比率を高めるほどその増加率が高くなることが明らかとなった。またバリンやロイシンなどでは、麦芽粉配合比率0.36%までは発酵工程中に含有量が減少したが、麦芽粉配合比率を高めることにより発酵工程中で減少を抑制するのみならず、増加することが明らかとなった。
【実施例2】
【0062】
浸水処理のみの大麦加工品を原料としたパン製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化。
【0063】
浸水処理のみの大麦加工品を用いて大麦粉を製造した。当該大麦粉の遊離アミノ酸含有量を測定したところ、他の大麦加工品(発芽麦、麦芽)よりもギャバの含有量が最も高いことが分かった。したがって、当該麦芽粉を強力粉に10%、20%配合後、従来の製パン工程においてロールパンを製造し(図6)、製造工程におけるギャバ含有量の変化を測定した(図7)。
【0064】
図6は、浸水処理のみの大麦加工品を用いたパンを示し、左は10%配合、右は20%配合したパンである。図7は、当該大麦加工品を用いたパン製造工程中のギャバ含有量を示す。
【0065】
原料のギャバ含有量は強力粉1.9mg/100g、麦芽粉30.4mg/100gなので、(強力粉%x1.9/100)+(麦芽粉%x13.9/100)=原料計算値として図示した。製造工程におけるギャバ含有量測定の結果、いずれの配合比でもパン製造工程においてギャバ含有量は増加したが、実施例1と同様、配合比率を高めるほどその増加率が高くなった。また、実施例1と実施例2を麦芽20%配合のパンで比較すると、当該大麦加工品を原料とした方が、わずかではあるがギャバ含有量が高いことがわかる。
【0066】
また本大麦加工品を50%配合しパンを製造したが、製造工程中におけるグルテンの低分子化はほとんど認められず、パンとしての特性を保持していた。さらに20%配合したピザ生地を用いてピザを製造したが、歯ごたえがあり、かつ生地の内部はしっとりとしたピザを製造することができた。
【実施例3】
【0067】
パン製造工程における捏ね温度、発酵温度、発酵時間によるパン中の遊離アミノ酸含有量の変化。
【0068】
捏ね工程における生地温度を調整するために、原料に添加する水の温度を5℃、20℃、40℃、60℃、80℃とし、パン生地を製造した。なお原料には、浸水処理のみの大麦加工品を強力粉に20%配合した。捏ね工程前後における遊離アミノ酸含有量について測定した結果、ギャバ(図8)やバリンなどでは40℃で生地中の含有量が最大となった。またアラニン(図9)やシステインでは80℃で最大となった。
【0069】
さらに発酵温度を30℃、40℃、50℃の条件でパン生地を発酵させ、発酵工程前後における遊離アミノ酸含有量の変化を測定した。また同時に、40℃発酵時における発酵時間の影響についても検討調査した。測定の結果、各アミノ酸ごとに発酵温度、発酵時間が及ぼす影響が異なることが明かとなった。発酵前遊離アミノ酸含有量を100としたときの発酵後生地中の遊離アミノ酸含有率において、ギャバ、ロイシン、チロシン(図10ではそれぞれGABA、Leu、Tyrとして表記)を例として図示(図10)すると、ギャバであれば、発酵温度50℃で含有率は最小となったが、ロイシンやチロシンでは発酵温度50℃で含有率は最大となった。また発酵時間の影響については、発酵時間を長くする(図の40℃における棒グラフの場合において2倍の長さの発酵時間)ことにより、ギャバやロイシンは減少傾向にあったが、チロシンでは増加傾向にあった。以上の結果は、捏ね工程や発酵工程における温度や時間を制御することにより、パン中の目的となる機能性成分を増加させたり減少させたりすることを抑制できるとの可能性を示唆するものであると考えられる。またパン以外のその他の食品についても、製造工程の一部、例えば熟成工程における温度や時間の制御により、同様の効果が期待される。
【実施例4】
【0070】
通常原料に未加工の麦である大麦粉を添加し、発酵温度がパン中の遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響。
【0071】
通常原料に麦類加工品を添加した場合だけでなく、未加工の麦を通常原料に添加した場合において、発酵工程において温度を制御することで遊離アミノ酸含有量を検討した。未加工の麦は、はるな二条大麦粉を使用した。
【0072】
具体的には、通常原料(強力粉100%)パン、強力粉80%とはるな二条大麦粉20%配合パン、強力粉80%と発芽大麦粉20%配合パンの3サンプルの製造において、5℃、20℃、40℃、60℃、80℃設定に発酵温度を変えて発酵工程前後の遊離アミノ酸含有量の変化を測定した。それら3サンプルの測定結果を、それぞれ図11、12及び13で示す。各種アミノ酸ごとに最高含有量となる温度が異なった。図11、12及び13を参照するに、ギャバについては、40℃の発酵でいずれのサンプルの場合も最も含量が多かった。その他の遊離アミノ酸についても各サンプルの発酵温度の変化に対する含量変化は同様の傾向にあり、発酵温度60℃で最大の含量になるもの、Gluのように80℃発酵温度時及び発酵前に遊離アミノ酸含量が最も多くなる状況となるものもあった。いずれにしても発酵工程の温度によって遊離アミノ酸含量が変化することが明らかとなった。図14は図11乃至13の配合比率のパンで異なる発酵温度による発酵前後生地中のギャバ含有量を示す。
【0073】
図14を参照するに、ほとんどの遊離アミノ酸含有量は、発芽大麦粉配合区で最大となるが、ギャバについては大麦粉配合区で最大となった。特に、ギャバ含有量の推移を見ると、発酵前では、発芽大麦粉配合区が一番多く、次に、大麦粉配合区、最後に強力粉100%区であるが、発酵後では、大麦粉配合区の方が、ギャバ含有量が高い傾向にある。
【0074】
したがって、パンの製造工程で発酵温度を5℃乃至80℃で制御することにより、発芽大麦を通常原料に添加した場合と同様に、大麦粉を通常原料に配合した場合においてもパン中のギャバが増加することが確認できた。また、強力粉のみでも増加率はわずかであるが、40℃でギャバ含有量は最大となった。
【実施例5】
【0075】
パスタ製造における遊離アミノ酸含有量の変化。
【0076】
実施例1と同様に、大麦麦芽を粉砕した麦芽粉を配合後、従来の製法でパスタを製造し、生地の「寝かせ工程(以下「熟成工程」という)」におけるギャバ含有量の変化を測定した。熟成工程における温度は通常の製法では常温であるが、本実施例では45℃とし、原料配合比は強力粉40%、薄力粉40%、麦芽粉20%とした。製造に用いた原料のギャバ含有量は強力粉1.9mg/100g、薄力粉2.4mg/100g、麦芽粉25.6mg/100gなので、(強力粉40%x1.9/100)+(薄力粉40%x2.4/100)+(麦芽粉20%x25.6/100)=原料計算値として図示した。実験の結果、麦芽粉を配合し、熟成工程を経ることにより、パスタ生地中のギャバ含有量が増加することが明かとなった(図15)。図15は、パスタ製造工程におけるギャバ含有量の継時的変化を示す。また、グルタミン酸を除くその他の遊離アミノ酸含有量も、ギャバ同様、「熟成工程」により含有量が増加した。さらに実施例2で用いた大麦加工品を30%配合したパスタを製造した。その結果、パスタとしての特性を保持していることが確認された。またパン同様、大麦麦芽を使用したパスタと比較してギャバ含有量が高いことが期待される。
【実施例6】
【0077】
浸水処理大麦加工品を原料に配合したうどん、そばの製造。
【0078】
実施例2と同様に、浸水処理大麦加工品を粉砕した大麦粉を用いて、従来の製法でうどんを製造した。中力粉に対してその粉配合比を0%、20%とし、比較実験を行なった。20%配合した場合、色合い以外の生地特性に大きな差異は見られず、また茹で上がり後も、うどんとしての特性を保持していた(図16)。さらに当該大麦粉の配合比率を50%とし、うどんを製造したが、20%配合比と同様、うどんとしての特性を有していた。
【0079】
図16は、当該大麦粉の配合比0%と20%のうどんにおける外観特性を示す。左上は大麦粉0%のうどん(麺切り後)、左下は大麦粉20%のうどん(麺切り後)、右上は大麦粉0%のうどん(茹で上げ後)、右下は大麦粉20%のうどん(茹で上げ後)を示す。したがって、ギャバやその他の遊離アミノ酸を豊富に含有するうどんが製造できる。
【0080】
また、そばについても、そば粉60%に中力粉40%を配合したものと、そば粉60%に中力粉20%、大麦粉20%配合したものを比較したが、生地特性に差はみられず、大麦粉20%配合比においても、そばとしての特性を保持していた。さらに大麦粉の配合比率を50%とし、中力粉30%、そば粉20%でそばを製造したが、20%配合比と同様、そばとしての特性を有していた。
【0081】
さらに新規な麺として、中力粉50%と大麦粉50%を原料として、従来のそばの製造法でそば風麺を製造した。その結果、そば粉を有しないが、色合いなどの外観はそばと同一の特性を有する、そば風麺を製造することに成功した(図17)。図17はそば風麺の外観特性を示す。そば風麺は、そば粉を全く使用していないので、そばアレルギーの心配がなく、さらにギャバやその他遊離アミノ酸を豊富に含有することを特徴とする。
【実施例7】
【0082】
通常原料に未加工の麦である大麦粉を添加し、寝かせ温度がうどん中の遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響。
【0083】
通常原料に麦類加工品を添加した場合だけでなく、未加工の麦を通常原料に添加した場合、寝かせ工程において温度を制御することで遊離アミノ酸含有量を検討した。未加工の麦は、大麦粉を使用した。
【0084】
具体的には、通常原料(強力粉70%と薄力粉30%)うどん、強力粉70%と大麦粉30%配合うどん、強力粉70%と発芽大麦粉30%配合うどんの3サンプルの製造において、寝かせ工程前後で寝かせ温度を変えて遊離アミノ酸含有量の変化を測定した。なお、寝かせ時間は3時間、寝かせ時温度は5℃、20℃、40℃、60℃、80℃設定で夫々測定した。それら3サンプルの測定結果を、それぞれ図18、19及び20に示す。測定の結果、通常原料については図18に示すように、僅かな変化ではあるが、寝かせ時温度の変化に応じて各遊離アミノ酸とも含量が変化しており、殆どの遊離アミノ酸含量が40乃至60℃の温度域で最大となっている。ギャバについては、図21に拡大して、図18乃至20の配合比率のうどんで異なる寝かせ温度による寝かせ前後生地中のギャバ含有量を示す。当該図21によりその含量変化を明確に読取ることができる。強力粉70%と大麦粉30%配合うどんについては各遊離アミノ酸ごとに変化が異なるが、ギャバは寝かせ温度40℃において最も増加した(図19参照)。図20を参照するに、強力粉70%と発芽大麦粉30%配合うどんは、ギャバ及びGlnは40℃で最も含量が高かった。その他の遊離アミノ酸は60℃で最も含有量が高かった。Gluについてはサンプル間で温度に対する反応が異なり、大麦粉30%配合区では5℃で含有量が最大となった。なお、ギャバに関しては、図19及び20を参照するに、大麦粉配合区と発芽大麦粉配合区で寝かせ温度40℃の場合、最も含量が高いことが明らかになった。
【0085】
図21を参照するに、ギャバ含有量のみを比較すると、ギャバ含有量は、いずれの寝かせ温度でも通常原料よりも大麦粉30%区の方が高く、さらに大麦粉30%区よりも発芽大麦粉30%区の方が高かった。寝かせ前のギャバ含有量は明らかに発芽大麦粉配合区が高いが、40℃前後の寝かせ温度では、大麦粉と発芽大麦粉配合区では差が少ないことが分かった。
【0086】
したがって、うどんの製造工程で寝かせ温度を5℃乃至80℃で制御することにより、発芽大麦を通常原料に添加した場合と同様に、大麦粉を通常原料に配合した場合においてもうどん中のギャバが増加することが確認できた。
【実施例8】
【0087】
通常原料に未加工の麦である大麦粉を添加し、寝かせ温度がそば中の遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響。
【0088】
通常原料に麦類加工品を添加した場合だけでなく、未加工の麦を通常原料に添加した場合において、寝かせ工程において温度を制御することで遊離アミノ酸含有量を検討した。未加工の麦は、大麦粉を使用した。
【0089】
具体的には、通常原料(そば粉70%と強力粉30%)そば、そば粉70%と大麦粉30%配合そば、そば粉70%と発芽大麦粉30%配合そば、そば粉100%そばの4サンプルの製造において、寝かせ工程前後で5℃、20℃、40℃、60℃、80℃
設定に寝かせ温度を変えて遊離アミノ酸含有量の変化を測定した。それら4サンプルの測定結果を、それぞれ図22、23、24及び25に示す。うどんと比較すると、そばは、寝かせ工程前で、すでに遊離アミノ酸含有量の増加が認められた。これは、うどんは5℃にて捏ね作業を実施したために、寝かせ工程前に大きな変化はなく、そばは室温にて捏ね作業を行ったために寝かせ工程前に既に増加したものと考えられる。また、うどんと比較して、寝かせ工程における遊離アミノ酸含有量の増加が顕著に認められた。図22、23、24及び25を参照するに、いずれのサンプルにおいても寝かせ温度40℃でギャバを含む多くの遊離アミノ酸の含量が最も高かった。ただし、Gluについては、いずれのサンプルにおいても寝かせ温度5℃で含量が最も高くなった。図26は、図22乃至25の配合比率のそばで異なる寝かせ温度による寝かせ前後生地中のギャバ含有量を示す。
【0090】
ギャバ含有量のみを比較すると、図26を参照するに、ギャバ含有量は、いずれの寝かせ温度でも発芽大麦粉30%配合区が最大となった。また、そば粉100%でも寝かせ工程でギャバ含有量は大きく増加した。さらに、うどんにおいては、40℃前後の寝かせ温度では、大麦粉と発芽大麦粉配合区でギャバ含有量の差が少なかったが、そばにおいては各温度で含有量の差は大きく変わらなかった。
【0091】
したがって、そばの製造工程で寝かせ温度を5℃乃至80℃で制御することにより、発芽大麦を通常原料に添加した場合と同様に、大麦粉を通常原料に配合した場合やそば粉100%においてもそば中のギャバが増加することが確認できた。
【実施例9】
【0092】
浸水処理した大麦加工品を原料に配合した菓子類の製造。
【0093】
実施例2と同様に、大麦粉を用いて、従来の方法でロールケーキを製造した。大麦粉を20%配合して製造したロールケーキは、菓子としての特性を保持していた。また大麦粉100%もしくは20%乃至50%配合しクッキーを製造した。クッキーもロールケーキ同様、菓子としての特性を保持していた。
【実施例10】
【0094】
発芽処理大麦粉を利用した揚げ物食品の製造。
【0095】
発芽日数を制御した発芽処理大麦粉100%または当該大麦粉をから揚げ粉に50%配合後、従来通りの手法で鶏のから揚げを調理し、から揚げ粉100%使用のから揚げと比較した。試食の結果、当該大麦粉を使用したから揚げは、旨味成分となるアミノ酸を豊富に含有しているため、旨味がより一層感じられた。また、当該大麦粉は肉が柔らかくなるから揚げ粉(B社製品:たんぱく質分解酵素配合)と同等のたんぱく質分解酵素活性を有しており(図27)、から揚げ粉に配合することにより、ギャバやその他遊離アミノ酸を豊富に含有するだけでなく、たんぱく質分解酵素が作用し、食感のジューシーなから揚げとなることが期待される。
【0096】
また衣の製造工程において、前記食品同様、製造工程を制御することにより、衣中の機能性成分含有量を高めることも可能である。
【0097】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離アミノ酸、食物繊維等の機能性成分を豊富に含む麦芽等の麦類加工品又は未加工の麦を食品原料の一部として食品を製造し、又は穀物の通常原料の食品の製造において、これらの成分含有量を高めた食品に関する。より詳細には、上記配合の食品又は穀物の通常原料の食品の製造段階で機能性成分の含有量を増加させた食品およびそれらの食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アミノ酸や食物繊維等の機能性成分を原料の一部あるいは食品添加物として使用した食品が、健康食品への関心が高まる中、注目され、これらを含む新商品も発売されている。
【0003】
アミノ酸は様々な機能を有することが報告されており、これを使用することにより、食品における機能性の向上や品質の向上が可能となる。例えば、バリンは各種食品の風味改善を目的として利用されている。また、近年では健康に対する消費者の関心の高さから、様々なアミノ酸を含有する機能性食品が開発され、市販されている。
【0004】
また、最近注目されている、ギャバ(GABA、すなわちガンマアミノ酪酸)は自然界に広く分布しているアミノ酸の一種で分子式はNH2CH2CH2CH2COOHである。ギャバは、生体内において、抑制系の神経伝達物質として作用することが知られている。また、血圧降下作用、精神安定作用、腎、肝機能改善作用、アルコール代謝促進作用などが知られている。
【0005】
また、食物繊維は整腸作用や血糖値の上昇抑制作用など様々な機能性を有し、食物繊維を配合した飲料水等が製品化されている。
【0006】
これら機能性成分を豊富に含む食品素材としては、発芽玄米等穀類を発芽させた穀類加工品が従来から知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0007】
例えば、ギャバについては茶碗一杯程度の発芽玄米80gから10mg程度摂取できるといわれている(例えば、特許文献1を参照)。また、雑穀または雑穀を含む穀類の発芽によりアラニンとギャバを富化させた食品素材または食品もある(例えば、特許文献2を参照)。
【0008】
一方、穀類の中で麦類については、小麦、ライ麦はパン、蕎麦、うどん、パスタ等の食品原料として広く使用されており、また、大麦についてはこれを発芽させて、いわゆる麦芽に加工してビール、発泡酒、ウィスキー等の醸造用原料として用いられて他、麦芽を粉砕した麦芽粉はパン製造時の発酵促進に用いられている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0009】
また、機能性成分を含む食品素材としても、発芽小麦は機能性成分としてアミノ酸を含有すること、えん麦は植物繊維としてβ−グルカンを含有すること、大麦は発芽あるいは麦芽の状態で遊離アミノ酸、食物繊維(β−グルカン)の機能性成分を含有することが知られている。
【0010】
しかしながら、本願発明者の研究によると、麦類種子を水又は温水に浸漬処理したもの、発芽麦あるいは麦芽等の麦類加工品を原料の一部又は食品添加物として加えた場合、その使用量あるいは当該食品の製造工程において処理温度等の条件によって機能性成分の含有量に増減を生じることが確認された。また、個々の機能性成分によって増減の傾向が異なる(即ち、機能性成分Aは含有量が増加するが、機能性成分Bは減少している)場合があり、含有量を高めたい機能性成分に応じて最適な製造条件を設定する必要のあることが確認された。また、麦類加工品中には各種の酵素が存在し、使用される食品によってはそれら酵素の活性が食品本来の物性及び品質を変化させてしまうことがあるため、それら酵素の活性を抑制する必要があった。
【0011】
これらの問題は、大麦のみに限らず、麦類(小麦、ライ麦、えん麦、ライ小麦)の麦芽に共通する問題点である。
【特許文献1】特開2003−250512号公報
【特許文献2】特開2003−159017号公報
【非特許文献1】Briggs, Malts and Malting,1998, p.9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は上述に鑑みてなされたものであり、麦類加工品又は未加工の麦を食品原料として利用する食品だけでなく、穀物の通常原料の食品において、製造工程の一部を制御することにより、食品中のギャバやその他の遊離アミノ酸等機能性成分含有量を増加させた食品の提供、およびそれら食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、上記目的は、請求項1に記載されるが如く、穀物を原料とする食品であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階で製造条件を制御することにより機能性成分の含有量を増加させたことを特徴とする食品により達成される。
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、穀物の通常原料を含む食品において、例えば、アミノ酸を添加物として使用することなしに、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階を制御することでギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加することができる。
【0015】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の発明において、穀物として、小麦、大麦又はそばを原料とすることを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、小麦、大麦又はそばを原料とする穀物を含む食品において、例えば、アミノ酸を添加物として使用することなしに、ギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加することができる。
【0017】
請求項3にかかる発明は、麦又は麦類加工品を原料とする食品であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階において製造条件を制御することにより機能性成分の含有量を増加させた食品により達成される。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、例えば、大麦麦芽などの麦類加工品を含む食品において、アミノ酸を添加物として使用することなしに、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階を制御することでギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加することができる。
【0019】
請求項4にかかる発明は、請求項1乃至3のいずれか一項記載の発明において、前記食品とは、パン、パスタ、うどんあるいはそばであることを特徴とする。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、パン、パスタ、うどんあるいはそばなどの食品において、例えば、アミノ酸を添加物として使用することなしに、ギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加することができる。
【0021】
請求項5にかかる発明は、請求項1乃至4のいずれか一項記載の発明において、前記製造工程段階は、捏ね工程であることを特徴とする。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、前記製造工程での捏ね段階で、例えば、遊離アミノ酸またはギャバなどの機能性成分含有量を増加させることができる。つまり、穀物の通常原料の食品でも麦類加工品、例えば大麦麦芽を原料に含む食品であっても、遊離アミノ酸またはギャバを添加物として使用することなしに、遊離アミノ酸またはギャバなどの機能成分含有量が高い、例えば、パンなどその製造工程段階に捏ね段階を有する食品を提供することができる。
【0023】
請求項6にかかる発明は、請求項1乃至4のいずれか一項記載の発明において、前記製造工程段階は、発酵工程であることを特徴とする。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、前記製造工程での発酵段階で、例えば、遊離アミノ酸またはギャバなどの機能性成分含有量を増加させることができる。つまり、穀物の通常原料の食品でも麦類加工品、例えば大麦麦芽を原料に含む食品であっても、遊離アミノ酸またはギャバを添加物として使用することなしに、遊離アミノ酸またはギャバなどの機能成分含有量が高い、例えば、パンなどその製造工程段階に発酵段階を有する食品を提供することができる。
【0025】
請求項7にかかる発明は、請求項1乃至4のいずれか一項記載の発明において、前記製造工程段階は、熟成工程であることを特徴とする。
【0026】
請求項7に記載の発明によれば、前記製造工程での熟成段階で、例えば、遊離アミノ酸またはギャバなどの機能性成分含有量を増加させることができる。つまり、穀物の通常原料の食品でも麦類加工品、例えば大麦麦芽を原料に含む食品であっても、遊離アミノ酸またはギャバを添加物として使用することなしに、遊離アミノ酸またはギャバなどの機能成分含有量が高い、その製造工程段階に熟成段階を有する食品を提供することができる。
【0027】
請求項8にかかる発明は、請求項3乃至7のいずれか一項記載の発明において、前記麦類加工品は、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一であることを特徴とする。
【0028】
請求項8に記載の発明によれば、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一の麦類加工品を使用することによって、例えば、アミノ酸を添加物として使用することなしに、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階においてギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加させた食品を提供することができる。
【0029】
請求項9にかかる発明は、穀物を原料とする食品の製造方法であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階で製造条件を制御することにより機能性成分の含有量を増加させたことを特徴とする食品の製造方法により達成される。
【0030】
請求項9に記載の発明によれば、例えば、アミノ酸を添加物として使用することなしに、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階を制御することでギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加することができる穀物の通常原料を含む食品の製造方法を提供できる。
【0031】
請求項10にかかる発明は、麦又は麦類加工品を原料とする食品の製造方法であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階において製造条件を制御することにより機能性成分含有量を増加させることを特徴とする食品の製造方法により達成される。
【0032】
請求項10に記載の発明によれば、アミノ酸を添加物として使用することなしに、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階を制御することでギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加することができる、例えば、大麦麦芽など麦類加工品を含む食品の製造方法を提供できる。
【0033】
請求項11にかかる発明は、請求項9又は10に記載の発明において、前記製造工程段階は、捏ね工程であることを特徴とする。
【0034】
請求項11に記載の発明によれば、前記製造工程での捏ね段階で機能性成分、例えば遊離アミノ酸またはギャバ含有量を増加させることができる。つまり、穀物の通常原料の食品又は食品の原料に麦類加工品、例えば大麦麦芽を含む食品において、アミノ酸またはギャバを添加物として使用することなしに、遊離アミノ酸やギャバなどの機能性成分含有量が高い食品の製造方法を提供することができる。
【0035】
請求項12にかかる発明は、請求項9又は10に記載の発明において、前記製造工程段階は、発酵工程であることを特徴とする。
【0036】
請求項12に記載の発明によれば、前記製造工程での発酵段階で機能性成分、例えば遊離アミノ酸またはギャバ含有量を増加させることができる。つまり、穀物の通常原料の食品又は食品の原料に麦類加工品、例えば大麦麦芽を含む食品において、アミノ酸またはギャバを添加物として使用することなしに、遊離アミノ酸やギャバなどの機能性成分含有量が高い食品の製造方法を提供することができる。
【0037】
請求項13にかかる発明は、請求項9又は10に記載の発明において、前記製造工程段階は、熟成工程であることを特徴とする。
【0038】
請求項13に記載の発明によれば、前記製造工程での熟成段階で機能性成分、例えば遊離アミノ酸またはギャバ含有量を増加させることができる。つまり、穀物の通常原料の食品又は食品の原料に麦類加工品、例えば大麦麦芽を含む食品において、アミノ酸またはギャバを添加物として使用することなしに、遊離アミノ酸やギャバなどの機能性成分含有量が高い食品の製造方法を提供することができる。
【0039】
請求項14にかかる発明は、請求項10乃至13のいずれか一項記載の発明において、前記麦類加工品は、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一であることを特徴とする。
【0040】
請求項14に記載の発明によれば、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一の麦類加工品を使用することによって、例えば、アミノ酸を添加物として使用することなしに、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階においてギャバや遊離アミノ酸などの機能性成分含有量を増加させた食品の製造方法を提供することができる。
【0041】
請求項15にかかる発明は、前記食品の製造方法として、パン、パスタ、うどん又はそばの製造方法であることを特徴とする食品の製造方法によって達成される。
【0042】
請求項15に記載の発明によれば、アミノ酸またはギャバを添加物として使用することなしに、遊離アミノ酸やギャバなどの機能性成分含有量が高いパン、パスタ、うどん又はそばの製造方法を提供することができる。
【0043】
請求項16にかかる発明は、麦または麦類加工品粉末を使用した揚げ物食品であって、該麦類加工品粉末は、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一を粉砕したことを特徴とする揚げ物食品を提供する。
【0044】
請求項16に記載の発明によれば、麦類種子あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一を粉砕した麦類加工品を例えば50%のから揚げ粉に配合することによって、その配合比で調理した食品に旨み成分であるアミノ酸を豊富に含有するため、旨みがより一層増し、麦類加工品中にあるたんぱく質分解酵素の作用により、食感のジューシーな揚げ物食品を提供できる。また衣の製造工程で、前記のように製造条件を制御することにより、衣に含まれる機能性成分の含有量も調節することが可能である。
【発明の効果】
【0045】
本発明の効果は、麦芽等麦類加工品を食品原料として利用することにより、製造工程段階の少なくとも1段階で温度等の製造条件を制御することにより任意の機能性成分含有量を増加させた食品が提供でき、およびその製造方法を提供できる。さらに、本発明は、麦類加工品を利用せずに、未加工の麦を通常原料に添加した食品や従来の穀物の通常原料の食品の製造工程を制御することにより、機能性成分の含有量が高い食品の提供、およびそれら食品の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】麦芽粉配合比率の異なるパンを示す図である。
【図2】強力粉のみでのパン製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図3】麦芽粉0.36%配合のパン製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図4】麦芽粉10%配合のパン製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図5】麦芽粉20%配合のパン製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図6】浸麦工程のみの麦芽を用いたパンを示す図である。
【図7】浸麦工程のみの麦芽を用いたパン製造工程中のギャバ含有量を示す図である。
【図8】捏ね工程前後におけるGABA含有量を示す図である。
【図9】捏ね工程前後におけるAla含有量を示す図である。
【図10】発酵工程におけるパン生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図11】強力粉100%配合のパンにおける発酵前後生地中の遊離アミノ酸含有量の増加率を示す図である。
【図12】強力粉80%と大麦粉20%配合のパンにおける発酵前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図13】強力粉80%と発芽大麦粉20%配合のパンにおける発酵前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図14】図11乃至13の配合比率のパンで異なる発酵温度による発酵前後生地中のギャバ含有量を示す図である。
【図15】パスタ製造工程におけるギャバ含有量を示す図である。
【図16】麦芽配合比0%と20%のうどんにおける外観特性を示す図である。
【図17】そば風麺の外観特性を示す。
【図18】強力粉70%と薄力粉30%配合比率のうどんにおける寝かせ前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図19】強力粉70%と大麦粉30%配合比率のうどんにおける寝かせ前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図20】強力粉70%と発芽大麦粉30%配合比率のうどんにおける寝かせ前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図21】図18乃至20の配合比率のうどんで異なる寝かせ温度による寝かせ前後生地中のギャバ含有量を示す図である。
【図22】そば粉70%と強力粉30%配合比率のそばにおける寝かせ前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図23】そば粉70%と大麦粉30%配合比率のそばにおける寝かせ前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図24】そば粉70%と発芽大麦粉30%配合比率のそばにおける寝かせ前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図25】そば粉100%配合のそばにおける寝かせ前後生地中の遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図26】図22乃至25の配合比率のそばで異なる寝かせ温度による寝かせ前後生地中のギャバ含有量を示す図である。
【図27】各種麦芽サンプルにおけるたんぱく質分解酵素の活性を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明者らは、麦類加工品を様々な食品原料として利用することにより、食品中の機能性成分含有量を増加させて、機能性成分含有量が高い食品とその製造方法を提供することを可能とした。
【0048】
本発明は、次の2段階から構成され、麦類加工品を含む様々な食品を製造することと、麦類加工品又は未加工の麦を原料に配合することにより、各種食品の製造工程で遊離アミノ酸含有量を増加させることである。以下、各段階について記述する。
【0049】
麦類加工品を原料に配合し、パン、パスタ、うどん、そば、クッキーなどを製造した。パンでは、従来の配合比率(0.09乃至0.36%)(非特許文献1を参照)を大きく上回る20%まで配合比率を高めた。またその他の食品では、麦類加工品20乃至50%の配合比率で、それぞれの食品の製法にしたがって、食品を製造した。いずれの試作品においても、それぞれ食品としての特性を保持した食品を製造することが可能であることが明らかとなった。
【0050】
次いで、麦類加工品を原料に配合することにより、食品の製造工程で機能性成分含有量を増加させることを行った。使用する麦類加工品は、一例として大麦麦芽(品種:はるな二条)を使用した。当該麦芽の製造方法は、大麦種子の水又は温水への浸漬処理、発芽処理(6日間)を経て(両処理とも温度15℃で行なった)、得られたサンプルを乾燥処理したものを原料として用いた。
【0051】
なお、大麦麦芽を原料に配合することにより、食品の製造工程で機能性成分含有量を増加させることに先立ち、麦芽製造工程中における種子及び麦芽の機能性成分(遊離アミノ酸)含有量を継時的に測定した。麦芽以外の大麦加工品については、大麦種子を水又は温水で浸漬処理したもの(以下「浸水処理」という)、及び更に発芽させたもの(発芽処理時間1日乃至6日)を夫々サンプルとし、これを凍結乾燥した。更に各サンプルを粉砕後、50mg/800μlにて一晩(5℃)振とうし、アミノ酸分析装置(日本電子社製)を用いて機能性成分含有量を測定した。
【0052】
測定の結果、プロリンなど殆どの遊離アミノ酸は、発芽1日目以降、急激に含有量が増加した。一方、ギャバ含有量は浸漬処理サンプルが最も高かった。したがって、大麦種子の加工の程度により、目的の遊離アミノ酸含有量を増加させた大麦加工品を得て、食品の原料として使用することができる。特に、ギャバ含有量を増加する目的において、浸漬処理のみの大麦種子加工品を原料として用いてもよい。
【0053】
また同様に、上記各大麦加工品中のたんぱく質分解酵素活性の変化を継時的に測定した。その結果、たんぱく質分解酵素活性は発芽1日処理の加工品がより顕著に増加し、発芽3日処理でピークに達することが認められた。食物繊維分解酵素活性についても、同様の傾向が認められた。これらの結果は、浸漬処理のみの加工品のギャバ含有量は高いが、たんぱく質分解酵素活性や食物繊維分解酵素活性は低い傾向にあることを示している。したがって、浸漬処理加工品を食品の原料または食品素材として使用することにより、食品の製造工程におけるたんぱく質や食物繊維の低分子化を抑制し、かつ遊離アミノ酸含有量を増加させた食品を製造することが可能となる。
【0054】
本発明では、発芽後6日目の発芽大麦と浸漬処理大麦を原料に配合して、食品の製造工程で遊離アミノ酸を増加させ、食品中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量が高い食品を製造した。それぞれの食品の製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を測定したところ、ギャバや一部の遊離アミノ酸は、配合比率を高めるほど、発酵工程において含有量の増加率が高くなることが明らかとなった。また一部の遊離アミノ酸含有量は、従来の配合比率(0.09乃至0.36%)では発酵工程において減少するが、大麦加工品の配合比率を高めることにより、発酵工程で増加することも明らかなった。
【0055】
本発明により、大麦加工品を様々な食品原料として利用することにより、食品中における遊離アミノ酸含有量、好ましくはギャバ含有量を高めることが可能となる。
【0056】
また、本発明において、通常原料と、通常原料に麦類加工品である発芽大麦を配合する場合と、さらに、通常原料に未加工の麦(未加工の麦は、本発明で定義する麦類加工品における加工処理を施していない麦類をいい、下記の実施例では大麦の粉末である通常の大麦粉を使用する)を配合する場合において、発酵工程あるいは熟成工程において温度を制御することによりパン、うどん及びそばを製造した。それぞれの食品の製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を測定したところ、大麦加工品を添加した場合だけでなく、未加工の麦である大麦粉を配合した場合や通常原料の場合でも、それら食品中の遊離アミノ酸含有量、好ましくはギャバ含有量を増加できることが可能となることが分かった。
【0057】
以下に実施例を示して本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0058】
大麦麦芽を原料としたパン製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化。
【0059】
強力粉に上記大麦麦芽を粉末にしたもの(以下「麦芽粉」という)を0%、0.36%、10%、20%配合し、従来の製パン工程によって、ロールパンを製造した。配合率0.36%は、前述のようにパン製造時に一般的に使用される麦芽粉配合率である(非特許文献1参照)。これらの原料をもとにパンを製造し(図1)、パン製造工程におけるギャバやその他のアミノ酸含有量の変化を測定した(図2乃至図5)。
【0060】
図1は麦芽粉配合比率の異なるパンを示す。左下のパンは麦芽粉が0%、左上は0.36%、右下は10%、右上は20%を配合したパンである。
【0061】
図2乃至図5のグラフ中の(計算値)は、例えばギャバであれば、強力粉のギャバ含有量は1.8mg/100g、麦芽粉のギャバ含有量は13.9mg/100gなので、(強力粉%x1.8/100)+(麦芽粉%x13.9/100)=(計算値)として図示した。分析の結果、麦芽粉配合比率を高めるほど、遊離アミノ酸含有量も高くなったが、ギャバなど一部の遊離アミノ酸は発酵過程において含有量が増加し、麦芽粉の配合比率を高めるほどその増加率が高くなることが明らかとなった。またバリンやロイシンなどでは、麦芽粉配合比率0.36%までは発酵工程中に含有量が減少したが、麦芽粉配合比率を高めることにより発酵工程中で減少を抑制するのみならず、増加することが明らかとなった。
【実施例2】
【0062】
浸水処理のみの大麦加工品を原料としたパン製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化。
【0063】
浸水処理のみの大麦加工品を用いて大麦粉を製造した。当該大麦粉の遊離アミノ酸含有量を測定したところ、他の大麦加工品(発芽麦、麦芽)よりもギャバの含有量が最も高いことが分かった。したがって、当該麦芽粉を強力粉に10%、20%配合後、従来の製パン工程においてロールパンを製造し(図6)、製造工程におけるギャバ含有量の変化を測定した(図7)。
【0064】
図6は、浸水処理のみの大麦加工品を用いたパンを示し、左は10%配合、右は20%配合したパンである。図7は、当該大麦加工品を用いたパン製造工程中のギャバ含有量を示す。
【0065】
原料のギャバ含有量は強力粉1.9mg/100g、麦芽粉30.4mg/100gなので、(強力粉%x1.9/100)+(麦芽粉%x13.9/100)=原料計算値として図示した。製造工程におけるギャバ含有量測定の結果、いずれの配合比でもパン製造工程においてギャバ含有量は増加したが、実施例1と同様、配合比率を高めるほどその増加率が高くなった。また、実施例1と実施例2を麦芽20%配合のパンで比較すると、当該大麦加工品を原料とした方が、わずかではあるがギャバ含有量が高いことがわかる。
【0066】
また本大麦加工品を50%配合しパンを製造したが、製造工程中におけるグルテンの低分子化はほとんど認められず、パンとしての特性を保持していた。さらに20%配合したピザ生地を用いてピザを製造したが、歯ごたえがあり、かつ生地の内部はしっとりとしたピザを製造することができた。
【実施例3】
【0067】
パン製造工程における捏ね温度、発酵温度、発酵時間によるパン中の遊離アミノ酸含有量の変化。
【0068】
捏ね工程における生地温度を調整するために、原料に添加する水の温度を5℃、20℃、40℃、60℃、80℃とし、パン生地を製造した。なお原料には、浸水処理のみの大麦加工品を強力粉に20%配合した。捏ね工程前後における遊離アミノ酸含有量について測定した結果、ギャバ(図8)やバリンなどでは40℃で生地中の含有量が最大となった。またアラニン(図9)やシステインでは80℃で最大となった。
【0069】
さらに発酵温度を30℃、40℃、50℃の条件でパン生地を発酵させ、発酵工程前後における遊離アミノ酸含有量の変化を測定した。また同時に、40℃発酵時における発酵時間の影響についても検討調査した。測定の結果、各アミノ酸ごとに発酵温度、発酵時間が及ぼす影響が異なることが明かとなった。発酵前遊離アミノ酸含有量を100としたときの発酵後生地中の遊離アミノ酸含有率において、ギャバ、ロイシン、チロシン(図10ではそれぞれGABA、Leu、Tyrとして表記)を例として図示(図10)すると、ギャバであれば、発酵温度50℃で含有率は最小となったが、ロイシンやチロシンでは発酵温度50℃で含有率は最大となった。また発酵時間の影響については、発酵時間を長くする(図の40℃における棒グラフの場合において2倍の長さの発酵時間)ことにより、ギャバやロイシンは減少傾向にあったが、チロシンでは増加傾向にあった。以上の結果は、捏ね工程や発酵工程における温度や時間を制御することにより、パン中の目的となる機能性成分を増加させたり減少させたりすることを抑制できるとの可能性を示唆するものであると考えられる。またパン以外のその他の食品についても、製造工程の一部、例えば熟成工程における温度や時間の制御により、同様の効果が期待される。
【実施例4】
【0070】
通常原料に未加工の麦である大麦粉を添加し、発酵温度がパン中の遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響。
【0071】
通常原料に麦類加工品を添加した場合だけでなく、未加工の麦を通常原料に添加した場合において、発酵工程において温度を制御することで遊離アミノ酸含有量を検討した。未加工の麦は、はるな二条大麦粉を使用した。
【0072】
具体的には、通常原料(強力粉100%)パン、強力粉80%とはるな二条大麦粉20%配合パン、強力粉80%と発芽大麦粉20%配合パンの3サンプルの製造において、5℃、20℃、40℃、60℃、80℃設定に発酵温度を変えて発酵工程前後の遊離アミノ酸含有量の変化を測定した。それら3サンプルの測定結果を、それぞれ図11、12及び13で示す。各種アミノ酸ごとに最高含有量となる温度が異なった。図11、12及び13を参照するに、ギャバについては、40℃の発酵でいずれのサンプルの場合も最も含量が多かった。その他の遊離アミノ酸についても各サンプルの発酵温度の変化に対する含量変化は同様の傾向にあり、発酵温度60℃で最大の含量になるもの、Gluのように80℃発酵温度時及び発酵前に遊離アミノ酸含量が最も多くなる状況となるものもあった。いずれにしても発酵工程の温度によって遊離アミノ酸含量が変化することが明らかとなった。図14は図11乃至13の配合比率のパンで異なる発酵温度による発酵前後生地中のギャバ含有量を示す。
【0073】
図14を参照するに、ほとんどの遊離アミノ酸含有量は、発芽大麦粉配合区で最大となるが、ギャバについては大麦粉配合区で最大となった。特に、ギャバ含有量の推移を見ると、発酵前では、発芽大麦粉配合区が一番多く、次に、大麦粉配合区、最後に強力粉100%区であるが、発酵後では、大麦粉配合区の方が、ギャバ含有量が高い傾向にある。
【0074】
したがって、パンの製造工程で発酵温度を5℃乃至80℃で制御することにより、発芽大麦を通常原料に添加した場合と同様に、大麦粉を通常原料に配合した場合においてもパン中のギャバが増加することが確認できた。また、強力粉のみでも増加率はわずかであるが、40℃でギャバ含有量は最大となった。
【実施例5】
【0075】
パスタ製造における遊離アミノ酸含有量の変化。
【0076】
実施例1と同様に、大麦麦芽を粉砕した麦芽粉を配合後、従来の製法でパスタを製造し、生地の「寝かせ工程(以下「熟成工程」という)」におけるギャバ含有量の変化を測定した。熟成工程における温度は通常の製法では常温であるが、本実施例では45℃とし、原料配合比は強力粉40%、薄力粉40%、麦芽粉20%とした。製造に用いた原料のギャバ含有量は強力粉1.9mg/100g、薄力粉2.4mg/100g、麦芽粉25.6mg/100gなので、(強力粉40%x1.9/100)+(薄力粉40%x2.4/100)+(麦芽粉20%x25.6/100)=原料計算値として図示した。実験の結果、麦芽粉を配合し、熟成工程を経ることにより、パスタ生地中のギャバ含有量が増加することが明かとなった(図15)。図15は、パスタ製造工程におけるギャバ含有量の継時的変化を示す。また、グルタミン酸を除くその他の遊離アミノ酸含有量も、ギャバ同様、「熟成工程」により含有量が増加した。さらに実施例2で用いた大麦加工品を30%配合したパスタを製造した。その結果、パスタとしての特性を保持していることが確認された。またパン同様、大麦麦芽を使用したパスタと比較してギャバ含有量が高いことが期待される。
【実施例6】
【0077】
浸水処理大麦加工品を原料に配合したうどん、そばの製造。
【0078】
実施例2と同様に、浸水処理大麦加工品を粉砕した大麦粉を用いて、従来の製法でうどんを製造した。中力粉に対してその粉配合比を0%、20%とし、比較実験を行なった。20%配合した場合、色合い以外の生地特性に大きな差異は見られず、また茹で上がり後も、うどんとしての特性を保持していた(図16)。さらに当該大麦粉の配合比率を50%とし、うどんを製造したが、20%配合比と同様、うどんとしての特性を有していた。
【0079】
図16は、当該大麦粉の配合比0%と20%のうどんにおける外観特性を示す。左上は大麦粉0%のうどん(麺切り後)、左下は大麦粉20%のうどん(麺切り後)、右上は大麦粉0%のうどん(茹で上げ後)、右下は大麦粉20%のうどん(茹で上げ後)を示す。したがって、ギャバやその他の遊離アミノ酸を豊富に含有するうどんが製造できる。
【0080】
また、そばについても、そば粉60%に中力粉40%を配合したものと、そば粉60%に中力粉20%、大麦粉20%配合したものを比較したが、生地特性に差はみられず、大麦粉20%配合比においても、そばとしての特性を保持していた。さらに大麦粉の配合比率を50%とし、中力粉30%、そば粉20%でそばを製造したが、20%配合比と同様、そばとしての特性を有していた。
【0081】
さらに新規な麺として、中力粉50%と大麦粉50%を原料として、従来のそばの製造法でそば風麺を製造した。その結果、そば粉を有しないが、色合いなどの外観はそばと同一の特性を有する、そば風麺を製造することに成功した(図17)。図17はそば風麺の外観特性を示す。そば風麺は、そば粉を全く使用していないので、そばアレルギーの心配がなく、さらにギャバやその他遊離アミノ酸を豊富に含有することを特徴とする。
【実施例7】
【0082】
通常原料に未加工の麦である大麦粉を添加し、寝かせ温度がうどん中の遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響。
【0083】
通常原料に麦類加工品を添加した場合だけでなく、未加工の麦を通常原料に添加した場合、寝かせ工程において温度を制御することで遊離アミノ酸含有量を検討した。未加工の麦は、大麦粉を使用した。
【0084】
具体的には、通常原料(強力粉70%と薄力粉30%)うどん、強力粉70%と大麦粉30%配合うどん、強力粉70%と発芽大麦粉30%配合うどんの3サンプルの製造において、寝かせ工程前後で寝かせ温度を変えて遊離アミノ酸含有量の変化を測定した。なお、寝かせ時間は3時間、寝かせ時温度は5℃、20℃、40℃、60℃、80℃設定で夫々測定した。それら3サンプルの測定結果を、それぞれ図18、19及び20に示す。測定の結果、通常原料については図18に示すように、僅かな変化ではあるが、寝かせ時温度の変化に応じて各遊離アミノ酸とも含量が変化しており、殆どの遊離アミノ酸含量が40乃至60℃の温度域で最大となっている。ギャバについては、図21に拡大して、図18乃至20の配合比率のうどんで異なる寝かせ温度による寝かせ前後生地中のギャバ含有量を示す。当該図21によりその含量変化を明確に読取ることができる。強力粉70%と大麦粉30%配合うどんについては各遊離アミノ酸ごとに変化が異なるが、ギャバは寝かせ温度40℃において最も増加した(図19参照)。図20を参照するに、強力粉70%と発芽大麦粉30%配合うどんは、ギャバ及びGlnは40℃で最も含量が高かった。その他の遊離アミノ酸は60℃で最も含有量が高かった。Gluについてはサンプル間で温度に対する反応が異なり、大麦粉30%配合区では5℃で含有量が最大となった。なお、ギャバに関しては、図19及び20を参照するに、大麦粉配合区と発芽大麦粉配合区で寝かせ温度40℃の場合、最も含量が高いことが明らかになった。
【0085】
図21を参照するに、ギャバ含有量のみを比較すると、ギャバ含有量は、いずれの寝かせ温度でも通常原料よりも大麦粉30%区の方が高く、さらに大麦粉30%区よりも発芽大麦粉30%区の方が高かった。寝かせ前のギャバ含有量は明らかに発芽大麦粉配合区が高いが、40℃前後の寝かせ温度では、大麦粉と発芽大麦粉配合区では差が少ないことが分かった。
【0086】
したがって、うどんの製造工程で寝かせ温度を5℃乃至80℃で制御することにより、発芽大麦を通常原料に添加した場合と同様に、大麦粉を通常原料に配合した場合においてもうどん中のギャバが増加することが確認できた。
【実施例8】
【0087】
通常原料に未加工の麦である大麦粉を添加し、寝かせ温度がそば中の遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響。
【0088】
通常原料に麦類加工品を添加した場合だけでなく、未加工の麦を通常原料に添加した場合において、寝かせ工程において温度を制御することで遊離アミノ酸含有量を検討した。未加工の麦は、大麦粉を使用した。
【0089】
具体的には、通常原料(そば粉70%と強力粉30%)そば、そば粉70%と大麦粉30%配合そば、そば粉70%と発芽大麦粉30%配合そば、そば粉100%そばの4サンプルの製造において、寝かせ工程前後で5℃、20℃、40℃、60℃、80℃
設定に寝かせ温度を変えて遊離アミノ酸含有量の変化を測定した。それら4サンプルの測定結果を、それぞれ図22、23、24及び25に示す。うどんと比較すると、そばは、寝かせ工程前で、すでに遊離アミノ酸含有量の増加が認められた。これは、うどんは5℃にて捏ね作業を実施したために、寝かせ工程前に大きな変化はなく、そばは室温にて捏ね作業を行ったために寝かせ工程前に既に増加したものと考えられる。また、うどんと比較して、寝かせ工程における遊離アミノ酸含有量の増加が顕著に認められた。図22、23、24及び25を参照するに、いずれのサンプルにおいても寝かせ温度40℃でギャバを含む多くの遊離アミノ酸の含量が最も高かった。ただし、Gluについては、いずれのサンプルにおいても寝かせ温度5℃で含量が最も高くなった。図26は、図22乃至25の配合比率のそばで異なる寝かせ温度による寝かせ前後生地中のギャバ含有量を示す。
【0090】
ギャバ含有量のみを比較すると、図26を参照するに、ギャバ含有量は、いずれの寝かせ温度でも発芽大麦粉30%配合区が最大となった。また、そば粉100%でも寝かせ工程でギャバ含有量は大きく増加した。さらに、うどんにおいては、40℃前後の寝かせ温度では、大麦粉と発芽大麦粉配合区でギャバ含有量の差が少なかったが、そばにおいては各温度で含有量の差は大きく変わらなかった。
【0091】
したがって、そばの製造工程で寝かせ温度を5℃乃至80℃で制御することにより、発芽大麦を通常原料に添加した場合と同様に、大麦粉を通常原料に配合した場合やそば粉100%においてもそば中のギャバが増加することが確認できた。
【実施例9】
【0092】
浸水処理した大麦加工品を原料に配合した菓子類の製造。
【0093】
実施例2と同様に、大麦粉を用いて、従来の方法でロールケーキを製造した。大麦粉を20%配合して製造したロールケーキは、菓子としての特性を保持していた。また大麦粉100%もしくは20%乃至50%配合しクッキーを製造した。クッキーもロールケーキ同様、菓子としての特性を保持していた。
【実施例10】
【0094】
発芽処理大麦粉を利用した揚げ物食品の製造。
【0095】
発芽日数を制御した発芽処理大麦粉100%または当該大麦粉をから揚げ粉に50%配合後、従来通りの手法で鶏のから揚げを調理し、から揚げ粉100%使用のから揚げと比較した。試食の結果、当該大麦粉を使用したから揚げは、旨味成分となるアミノ酸を豊富に含有しているため、旨味がより一層感じられた。また、当該大麦粉は肉が柔らかくなるから揚げ粉(B社製品:たんぱく質分解酵素配合)と同等のたんぱく質分解酵素活性を有しており(図27)、から揚げ粉に配合することにより、ギャバやその他遊離アミノ酸を豊富に含有するだけでなく、たんぱく質分解酵素が作用し、食感のジューシーなから揚げとなることが期待される。
【0096】
また衣の製造工程において、前記食品同様、製造工程を制御することにより、衣中の機能性成分含有量を高めることも可能である。
【0097】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物を原料とする食品であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階で製造条件を制御することにより機能性成分の含有量を増加させたことを特徴とする食品。
【請求項2】
穀物として、小麦、大麦又はそばを原料とする請求項1に記載の食品。
【請求項3】
麦又は麦類加工品を原料とする食品であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階において製造条件を制御することにより機能性成分の含有量を増加させた食品。
【請求項4】
前記食品とは、パン、パスタ、うどんあるいはそばである、請求項1乃至3のいずれか一項記載の食品。
【請求項5】
前記製造工程段階は、捏ね工程であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の食品。
【請求項6】
前記製造工程段階は、発酵工程であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の食品。
【請求項7】
前記製造工程段階は、熟成工程であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の食品。
【請求項8】
前記麦類加工品は、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一であることを特徴とする請求項3乃至7のいずれか一項記載の食品。
【請求項9】
穀物を原料とする食品の製造方法であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階で製造条件を制御することにより機能性成分の含有量を増加させたことを特徴とする食品の製造方法。
【請求項10】
麦又は麦類加工品を原料とする食品の製造方法であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階において製造条件を制御することにより機能性成分含有量を増加させることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項11】
前記製造工程段階は、捏ね工程であることを特徴とする請求項9又は10に記載の食品の製造方法。
【請求項12】
前記製造工程段階は、発酵工程であることを特徴とする請求項9又は10に記載の食品の製造方法。
【請求項13】
前記製造工程段階は、熟成工程であることを特徴とする請求項9又は10に記載の食品の製造方法。
【請求項14】
前記麦類加工品は、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一であることを特徴とする請求項10乃至13のいずれか一項記載の食品の製造方法。
【請求項15】
前記食品の製造方法として、パン、パスタ、うどん又はそばの製造方法であることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項16】
麦または麦類加工品粉末を使用した揚げ物食品であって、該麦類加工品粉末は、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一を粉砕したことを特徴とする揚げ物食品。
【請求項1】
穀物を原料とする食品であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階で製造条件を制御することにより機能性成分の含有量を増加させたことを特徴とする食品。
【請求項2】
穀物として、小麦、大麦又はそばを原料とする請求項1に記載の食品。
【請求項3】
麦又は麦類加工品を原料とする食品であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階において製造条件を制御することにより機能性成分の含有量を増加させた食品。
【請求項4】
前記食品とは、パン、パスタ、うどんあるいはそばである、請求項1乃至3のいずれか一項記載の食品。
【請求項5】
前記製造工程段階は、捏ね工程であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の食品。
【請求項6】
前記製造工程段階は、発酵工程であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の食品。
【請求項7】
前記製造工程段階は、熟成工程であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の食品。
【請求項8】
前記麦類加工品は、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一であることを特徴とする請求項3乃至7のいずれか一項記載の食品。
【請求項9】
穀物を原料とする食品の製造方法であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階で製造条件を制御することにより機能性成分の含有量を増加させたことを特徴とする食品の製造方法。
【請求項10】
麦又は麦類加工品を原料とする食品の製造方法であって、該食品の製造工程段階の少なくとも1段階において製造条件を制御することにより機能性成分含有量を増加させることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項11】
前記製造工程段階は、捏ね工程であることを特徴とする請求項9又は10に記載の食品の製造方法。
【請求項12】
前記製造工程段階は、発酵工程であることを特徴とする請求項9又は10に記載の食品の製造方法。
【請求項13】
前記製造工程段階は、熟成工程であることを特徴とする請求項9又は10に記載の食品の製造方法。
【請求項14】
前記麦類加工品は、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一であることを特徴とする請求項10乃至13のいずれか一項記載の食品の製造方法。
【請求項15】
前記食品の製造方法として、パン、パスタ、うどん又はそばの製造方法であることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項16】
麦または麦類加工品粉末を使用した揚げ物食品であって、該麦類加工品粉末は、麦類種子を水若しくは温水に浸漬したもの、又は麦類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽麦あるいは麦類種子を水若しくは温水に浸漬し発芽させて後、乾燥若しくは焙燥させた麦芽のいずれか一を粉砕したことを特徴とする揚げ物食品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
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【図18】
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【図20】
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【図22】
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【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【国際公開番号】WO2005/060766
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516492(P2005−516492)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019068
【国際出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/019068
【国際出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
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