説明

機能性素子の製造方法および装置

【課題】乾燥後の発光層の形状を均一にし、かつ、安価な機能性素子の製造方法および装置を提供するものである。
【解決手段】有機機能性材料を溶媒に溶解若しくは分散させた有機機能性インクを、バンク構造を有する基板P上の塗布領域P1に塗布し、その基板上の有機機能層の塗布膜を、減圧チャンバー内100で乾燥させる乾燥方法において、前記減圧チャンバー内の圧力を前記溶媒の蒸気圧以下にする減圧工程を、塗布領域の周囲より溶媒を供給しながら行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性素子を製造するための製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、種々の発光素子が使用されているが、特に、軽量・低消費電力・高画質でかつ広視野角という特徴を備える有機EL素子が注目されている。
【0003】
図2に代表的な有機EL素子の構造を示す。有機EL素子は、基板P上に形成された陰極33及び陽極32の間に発光材料を含む有機薄膜301が挟持される構造であり、発光材料の種類により、低分子材料を用いる低分子型と、高分子材料を用いる高分子型に大別される。
【0004】
低分子型の場合は主に真空蒸着法などのドライプロセスにより有機薄膜を形成し、高分子型の場合は主に溶媒に溶解または分散させてからインクジェット法などのウェットプロセスにより有機薄膜を形成する。低分子型で使用される真空蒸着法は大型の設備を必要とする高真空プロセスであるため、製造コストが高く、生産性が低いなどの欠点を有していた。これに対し高分子型は、大気下でインクジェット法などのウェットプロセスにより成膜するため、前述の低分子型と比較して、設備コストが安い、大画面化が可能という利点を有している。一般に、インクジェット法などのウェットプロセスでは、高分子材料を溶媒へ溶解させ、基板の所定の位置へ塗布し、溶媒を乾燥させることにより成膜される。
【0005】
有機EL素子のように、複数の種類の発光層301R,301G,301Bを有する場合、これらに対応する溶液が塗布時において混じり合わないようバンク31(「隔壁」という場合もある。)が設けられる。基板上には、通常、高分子材料を溶解させた溶液が均一に塗布される。
【0006】
しかしながら、基板に均一に必要量のインクを塗布したにも関らず、成膜した膜の均一性は悪い場合が多い。以下にその理由を説明する。
【0007】
基板中央部の画素周囲には、溶液が塗布された画素が多くあるが、基板外周部の画素周囲には、溶液が塗布されていない領域ができる。このため、溶媒の乾燥時、基板上の溶媒の蒸気濃度が基板中央部は外周部と比較して高くなる。そもそも、乾燥後の膜形状は、乾燥中の溶液の流れにより決まり、溶液の流れは、乾燥速度によって決まる。ところが、上述したように基板中央部は、外周部と比較して溶媒の蒸気濃度が高いために、溶液の乾燥速度が中央部の方が遅い。その結果、乾燥後の中央部と外周部の有機層の形状に差異が生じると推察される。
【0008】
特許文献1記載の従来技術は、先ず有効領域内、有効領域外周、若しくは、画素内におけるドット以外の領域に溶媒を塗布し、次いで、インクを塗布することにより、有効領域内の溶媒の蒸気濃度差を軽減させ、溶媒の乾燥速度を均一化し、乾燥後の機能層の形状差を減少させようとする内容である。ここで有効領域とは、ディスプレイにおいて画像を表示する領域のことを指す。
【0009】
また、特許文献2に記載の発明のような技術もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−031070号公報
【特許文献2】特開2008−084566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述した従来技術では、基板内における有効領域が狭くなり、かつ、有効領域外へ溶媒を塗布することにより、材料、設備、工数が機能層を形成するために必要なものより多く必要となるため、高価となる傾向がある。
【0012】
本発明は、上記従来の技術を解決するものであり、乾燥後の発光層の形状を均一にし、かつ、安価な機能性素子の製造方法および装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決し目的を達成するために、本願の請求項1記載の発明は、有機機能性材料を溶媒に溶解若しくは分散させた有機機能性インクを、バンク構造を有する基板上の塗布領域に塗布し、その基板上の有機機能層の塗布膜を、減圧チャンバー内で乾燥させる乾燥方法であって、前記減圧チャンバー内の圧力を前記溶媒の蒸気圧以下にする減圧工程を、塗布領域の周囲より溶媒を供給しながら行うことを特徴とする。
【0014】
この乾燥方法によれば、基板に塗布された溶液が乾燥する際、塗布領域の周囲より溶媒を供給しながら行うので、溶媒供給機構がない場合に生じる基板中央部上の蒸気濃度が高く、基板外周部上の蒸気濃度が低いという蒸気濃度の差を補正することができる。
【0015】
その結果、基板上の蒸気濃度が均一となり、基板の中央部と外周部の乾燥速度のバラツキを軽減することができる。つまり、乾燥後の膜形状差を減少することができる。かつ、有効領域外への溶媒の塗布を必要としないため、前記課題となる材料、工数を減らすことができる。
【0016】
また、本願の請求項2記載の発明は、有機機能性材料を溶媒に溶解若しくは分散させた有機機能性インクを、ピクセル状のバンク構造を有する基板上の矩形領域に塗布し、その基板上の有機機能層の塗布膜を、減圧チャンバー内で乾燥させる乾燥方法であって、
前記減圧チャンバー内の圧力を前記溶媒の蒸気圧以下にする減圧工程を、矩形領域の4隅より4隅の両辺に沿った溶媒供給口から溶媒を供給しながら行うことを特徴とする。
【0017】
このように供給することで、溶媒供給口がない場合に矩形塗布領域に上に生じる、
(4隅の溶媒蒸気濃度)<(長辺の溶媒蒸気濃度)<(短辺の溶媒蒸気濃度)<(中央の溶媒蒸気濃度)
という溶媒蒸気濃度分布を的確に補正できる。
【0018】
また、本願の請求項3記載の発明は、有機機能性材料を溶媒に溶解若しくは分散させた有機機能性インクを、ライン状のバンク構造を有する基板上の矩形領域に塗布し、その基板上の有機機能層の塗布膜を、減圧チャンバー内で乾燥させる乾燥方法であって、
前記減圧チャンバー内の圧力を前記溶媒の蒸気圧以下にする減圧工程を、矩形領域の4隅よりラインバンク方向の2辺に沿った溶媒供給口から溶媒を供給しながら行うことを特徴とする。
【0019】
このように溶媒を供給することで、ライン方向での溶媒の移動による、溶媒濃度分布の緩和を考慮した的確な補正が可能となる。
【0020】
また、本願の請求項4記載の発明は、前記溶媒の供給が多孔質部材からの蒸発であることを特徴とする請求項1から3記載の乾燥方法である。
【0021】
このように供給口に多孔質部材を用いることで、表面積の大きい多孔質部材を用いることで溶媒の気化を確実とし、液ダレや溶媒のミストが基板に付着することで、混色を起こすことを防ぐことができる。混色とはそれぞれの色に対応した溶液がバンクを乗り越え違う色の画素部に入り込むことである。混色は有機ELのディスプレイとしての品位を下げるので防止しなければならない。
【0022】
また、本願の請求項5記載の発明は、有機機能性材料を溶媒に溶解若しくは分散させた有機機能性インクを、バンク構造を有する基板上の塗布領域に塗布し、その基板上の有機機能層の塗布膜を、減圧チャンバー内で乾燥させる乾燥装置であって、前記減圧チャンバー内の圧力を前記溶媒の蒸気圧以下にする減圧機構と、塗布領域の周囲より溶媒を供給する機構を有することを特徴とする乾燥装置である。
【0023】
この装置によれば、前述の請求項1記載の乾燥方法を好適に実現できる。
【0024】
また、本願の請求項6記載の発明は、有機機能性材料を溶媒に溶解若しくは分散させた有機機能性インクを、ピクセル状のバンク構造を有する基板上の矩形領域に塗布し、その基板上の有機機能層の塗布膜を、減圧チャンバー内で乾燥させる乾燥装置であって、
前記減圧チャンバー内の圧力を前記溶媒の蒸気圧以下にする減圧機構と、矩形領域の4隅に4隅の両辺に沿った溶媒供給口を有することを特徴とする乾燥装置である。
【0025】
この装置によれば、前述の請求項2記載の乾燥方法を好適に実現できる。
【0026】
また、本願の請求項7記載の発明は、有機機能性材料を溶媒に溶解若しくは分散させた有機機能性インクを、ライン状のバンク構造を有する基板上の矩形領域に塗布し、その基板上の有機機能層の塗布膜を、減圧チャンバー内で乾燥させる乾燥装置であって、
前記減圧チャンバー内の圧力を前記溶媒の蒸気圧以下にする減圧機構と、矩形領域の4隅にラインバンク方向の2辺に沿った溶媒供給口を有することを特徴とする乾燥装置である。
【0027】
この装置によれば、前述の請求項3記載の乾燥方法を好適に実現できる。
【0028】
更に、本願の請求項8記載の発明は、前記溶媒の供給口が多孔質部材であることを特徴とする請求項5〜7の何れか一項に記載の乾燥装置である。
【0029】
この装置によれば、前述の請求項4記載の乾燥方法を好適に実現できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、乾燥後の発光層の形状を均一にし、かつ、安価な機能性素子の製造方法および装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態1に係る乾燥装置の全体構成を示す図
【図2】一般的な有機EL素子の構造を示す概略図
【図3】本発明の実施の形態1に係る乾燥装置の構成を示す図
【図4】本発明の実施の形態2に係る乾燥装置の構成を示す図
【図5】本発明の実施の形態3に係る乾燥装置の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0033】
(実施の形態1)
まず、機能性素子を製造する方法について説明する。
【0034】
機能性素子の製造方法は、機能層形成工程を有する。この機能層形成工程にて、フルオレン系高分子材料などの機能性有機材料をトルエンやシクロヘキシルベンゼンのような溶媒へ溶解した溶液をインクジェット法のようなウェットプロセスを用いて、基板上へ塗布する。図2に示すように、基板P上にはバンク31と呼ばれる隔壁が形成されており、隔壁の間の画素部に溶液が塗布される。有機EL素子の場合、赤(R)、緑(G)、青(B)に対応して、3種類の溶液が画素部に塗布される。塗布する溶液量は、形成する有機機能層の目的厚さ、塗布部の形状、溶液中の高分子材料の濃度により、適宜決定される。次に、基板Pの乾燥処理を行うことにより有機機能層が形成される。この乾燥工程にて、溶液中に含まれる溶媒が蒸発し、有機機能層が得られる。
【0035】
本実施の形態における乾燥方法は、有機機能性材料を溶媒に溶解若しくは分散させた有機機能性インクを、バンク構造を有する基板上の塗布領域に塗布し、その基板上の有機機能層の塗布膜を、減圧チャンバー内で乾燥させる乾燥方法であって、前記減圧チャンバー内の圧力を前記溶媒の蒸気圧以下にする減圧工程を、塗布領域の周囲より溶媒を供給しながら行うのが特徴である。
【0036】
上述の乾燥方法によれば、基板に塗布された溶液が乾燥する際、塗布領域の周囲より溶媒を供給しながら行うので、溶媒供給機構がない場合に生じる基板中央部上の蒸気濃度が高く、基板外周部上の蒸気濃度が低いという蒸気濃度の差を補正することができる。その結果、基板上の蒸気濃度が均一となり、基板の中央部と外周部の乾燥速度のバラツキを軽減することができる。すなわち、乾燥後の膜形状差を減少することが可能となる。加えて、有効領域外への溶媒の塗布を必要としないため、前記課題となる材料、工数を減らすことができる。
【0037】
以下、図1を参照しながら、本実施の形態に係る乾燥装置を説明する。
【0038】
図1は、本実施の形態に係る乾燥装置の全体構成図である。
【0039】
乾燥装置1は、基板Pを収容して機密に密閉可能な処理室を形成するチャンバー100を有している。チャンバー100は、その内部に載置台101を有し、載置台101に基板Pが載置される。基板P上の塗布領域P1の4隅に溶媒供給機構102が配置され、溶媒供給機構102は溶媒を供給するパイプ103と溶媒供給口となる多孔質部材104で構成されている。パイプは溶媒タンク105、溶媒の量を調整する溶媒供給量制御ユニット106と接続されている。
【0040】
多孔質部材としては、例えば、ニッケルのような金属や、SiO2のようなセラミックを用いる。このように多孔質部材は、溶媒に対する耐性を有する無機多孔質であることが望ましい。また、多孔質部材は、連結多孔構造を有しており溶媒を通過させることができるものを用いる。気孔直径は10〜100μmのものを用いると良い。また、溶媒供給口104に多孔質部材を用いるのは、表面積の大きい多孔質部材を用いることで溶媒の気化を確実とし、液ダレや溶媒のミストが基板に付着することで、混色を起こすことを防ぐためである。混色とは、それぞれの色に対応した溶液が、バンクを乗り越え違う色の画素部に入り込むことである。混色は有機ELのディスプレイとしての品位を下げるので防止しなければならない。
【0041】
また、液ダレの可能性が低ければ塗布領域の近傍まで供給口を近づけることができ、精密な蒸気圧分布制御が可能となる。
【0042】
有機ELのように塗布領域が矩形である場合は、4隅の溶媒蒸気濃度が他の部分に比べ特に低く、乾燥速度が特に速くなる。そのため、図1(b)に示す(乾燥装置平面図)ように、溶媒の供給口である多孔質部材を多孔質部材104a、104b、104c、104dのように4隅に配置するのが望ましい。
【0043】
溶媒供給機構102には、溶媒供給機構102を上下動させる昇降機構110が設けられている。昇降機構110はモータなどによって吸着部材を昇降させる駆動部111とその駆動部を制御する駆動制御部112とを有している。これ構成により、溶媒供給機構102が上下方向に移動可能となり、溶媒供給機構102を下降させて、基板上塗布領域の周辺に配置させることができる。
【0044】
また、チャンバー100の上方の中央部には、処理室内の雰囲気を排気する排気部としての排気管120が設けられている。排気管120は、処理室内の雰囲気を所定の圧力で吸引する吸引ポンプ(図示せず)に連通されており、その吸引ポンプは、ポンプ制御部(図示せず)によってその吸引力が制御されている。このように吸引ポンプ121が作動され、排気管120からチャンバー100内の雰囲気を排気し吸引し、チャンバー100内を真空にすることができる。排気管120には、排気管120を介して処理室内に気体(例えば、窒素ガス)を供給する供給部(図示せず)が接続されている。これによって減圧真空処理後に処理室内に気体を供給し、真空状態を回復させる、或いは、処理室内の雰囲気をパージすることができる。
【0045】
次に、本乾燥装置を使用した乾燥方法を説明する。
【0046】
まず、図1(c)に示すように、溶媒供給機構が上部にある状態で載置台101に基板Pを載置する。次に、溶媒供給機構102を基板P上まで下降させ、その後、チャンバー100内の雰囲気を0.5〜60分間掛けて、大気圧から104〜10-2Paまで排気し膜形状を決定する。この時、溶媒供給機構102によって溶媒を供給する。溶媒の供給は、供給量制御ユニットが溶媒タンクの溶媒を、パイプを通じて多孔質部材に供給することによってなされる。多孔質部材104a、104b、104c、104dそれぞれからの溶媒の供給量は塗布領域全体に塗布されている溶媒の量の2倍から4倍である。排気位置により各多孔質部材104a、104b、104c、104dからの供給量をそれぞれ違う値にしてもよい。
【0047】
この乾燥方法によれば、基板に塗布された溶液が乾燥する際、塗布領域の周囲より溶媒を供給しながら行うので、溶媒供給機構がない場合に生じる基板中央部上の蒸気濃度が高く、基板外周部上の蒸気濃度が低いという蒸気濃度の差を補正することができる。その結果、基板上の蒸気濃度が均一となり、基板の中央部と外周部の乾燥速度のバラツキを軽減することができる。すなわち、乾燥後の膜形状差を減少することができ、かつ、有効領域外への溶媒の塗布を必要としないため、前記課題となる材料、工数を減らすことができる。
【0048】
また、供給口として表面積の大きい多孔質部材を用いることで溶媒の気化を確実とし、液ダレや溶媒のミストが基板に付着することで発生する混色を確実に防ぐことができる。膜形状が形成された後、残存溶媒を完全に除去するために、図1(c)に示すように、溶媒供給機構102を基板Pより十分に離した位置に上昇させる。この距離は100〜200mmであると良い。このとき、溶媒供給量制御ユニット106によって溶媒の供給を停止する、或いは、基板を残存溶媒除去用の別チャンバーを用いて乾燥しても良い。
【0049】
図2(b)のようにバンク形状がピクセル状になっている場合には、図1及び図3に示すように、矩形領域の4隅より4隅の両辺に沿った溶媒供給口から溶媒を供給しながら行うのがよい。特に、長辺の溶媒供給口を、短辺の溶媒供給口より大面積にすることが、望ましい。このように供給することで、溶媒供給口がない場合に矩形塗布領域に上に生じる、
(4隅の溶媒蒸気濃度)<(長辺の溶媒蒸気濃度)<(短辺の溶媒蒸気濃度)<(中央の溶媒蒸気濃度)
という溶媒蒸気濃度分布を的確に補正することができる。
【0050】
(実施の形態2)
図4を参照しながら本実施の形態について説明する。
【0051】
本実施の形態は、バンク形状がライン状になっている場合に特に好適な溶媒の供給方法である。
【0052】
バンク形状がライン状であっても、陽極32がピクセル状にパターニングされていれば、それぞれの画素のON/OFFが制御可能なので、ディスプレイとして機能することができる。また、ライン状のバンクを使用することで、インクジェット塗布の他に、ダイコート(スリットダイ)塗布などの製造コストの低い塗布方法を採用することができる。
【0053】
図4に示す乾燥装置は、図3に比べて、矩形領域の4隅より4隅の両辺に沿った溶媒供給口から溶媒を供給するのではなく、矩形領域の4隅よりラインバンク方向の2辺に沿った溶媒供給口から溶媒を供給する点に特徴がある。バンク形状がライン状であるときは、ライン方向には溶媒の移動が可能となり、ピクセル状のバンク形状の時と異なる溶媒濃度分布が発生する。すなわち、ライン方向には溶媒濃度分布が緩和される。
【0054】
よって、このように溶媒を供給することで、ライン方向での溶媒の移動による、溶媒濃度分布の緩和を考慮した的確な補正が可能となる。このとき、前述の実施の形態1と同様、供給口は多孔質部材が望ましい。供給口に多孔質部材を用いるのは、表面積の大きい多孔質部材を用いることで溶媒の気化を確実とし、液ダレや溶媒のミストが基板に付着することで、混色を起こすことを防ぐためである。混色とはそれぞれの色に対応した溶液がバンクを乗り越え違う色の画素部に入り込むことである。混色は有機ELのディスプレイとしての品位を下げるので防止しなければならない。
【0055】
また、液ダレの可能性が低くければ、塗布領域の近傍まで供給口を近づけることができ、精密な蒸気圧分布制御が可能となる。
【0056】
(実施の形態3)
図5を参照しながら、本実施の形態を説明する。
【0057】
本実施の形態3もまた、上述した実施の形態2と同様、ライン状のバンク形状を有する有機EL素子を例に説明する。
【0058】
本実施の形態は、1枚の基板上に複数の塗布領域が存在する場合に好適な実施の形態である。1枚の基板上に複数の塗布領域を設ける方法は、多面取りと呼ばれ、複数の塗布領域で搬送時間などを共有することができるので、生産性を向上することができる。
【0059】
図5に示すように、1枚の基板P上に、4つの塗布領域P1,P2,P3,P4が存在する場合を例に説明する。
【0060】
この場合も、それぞれの塗布領域の4隅に溶媒供給口104を配置する。但し、中央部の溶媒供給口104Mの供給量は他の供給口の供給量より少ない量の溶媒を供給する。このように供給することによって、1枚の基板の中に複数の塗布領域がある場合の、基板上の溶媒蒸気濃度分布を的確に補正することができる。
【0061】
また、このように多面取りの場合は、図1(a),(c)のように、溶媒供給口104が基板上方で可動するのがよい。溶媒供給口が基板P上方で可動することで、基板中央部のような位置からも溶媒を供給することができる。更に、溶媒供給口が多孔質部材であることが望ましい。
【0062】
このように供給口に多孔質部材を用いることで、表面積の大きい多孔質部材を用いることで溶媒の気化を確実とし、液ダレや溶媒のミストが基板に付着することで、混色を起こすことを防ぐことができる。また、液ダレの可能性が低くければ、塗布領域の近傍まで供給口を近づけることができ、精密な蒸気圧分布制御が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の製造方法および装置は、所定の領域で膜均一性を有し、有機半導体など機能性膜の均一性を要求されるデバイス、特に有機ELの製造方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
100 チャンバー
101 載置台
102 溶媒供給機構
104 溶媒供給口(多孔質部材)
110 昇降機構
111 駆動部
112 駆動制御部
120 排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機機能性材料を溶媒に溶解若しくは分散させた有機機能性インクを、バンク構造を有する基板上の塗布領域に塗布し、前記基板上に塗布された有機機能性インクの塗布膜を、チャンバー内で乾燥させる方法であって、
前記チャンバー内の圧力を前記溶媒の蒸気圧以下にする際、前記塗布領域の周囲より溶媒を供給しながら行うこと
を特徴とする機能性素子の製造方法。
【請求項2】
有機機能性材料を溶媒に溶解若しくは分散させた有機機能性インクを、ピクセル状のバンク構造を有する基板上の矩形領域に塗布し、前記基板上に塗布された有機機能性インクの塗布膜を、チャンバー内で乾燥させる方法であって、
前記チャンバー内の圧力を前記溶媒の蒸気圧以下にする際、前記矩形領域の4隅より4隅の両辺に沿った溶媒供給口から溶媒を供給しながら行うこと
を特徴とする機能性素子の製造方法。
【請求項3】
有機機能性材料を溶媒に溶解若しくは分散させた有機機能性インクを、ライン状のバンク構造を有する基板上の矩形領域に塗布し、前記基板上に塗布された有機機能性インクの塗布膜を、チャンバー内で乾燥させる方法であって、
前記チャンバー内の圧力を前記溶媒の蒸気圧以下にする際、前記矩形領域の4隅よりラインバンク方向の2辺に沿った溶媒供給口から溶媒を供給しながら行うこと
を特徴とする機能性素子の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒の供給は、多孔質部材からの蒸発である、請求項1〜3の何れか一項に記載の機能性素子の製造方法。
【請求項5】
チャンバーと、前記チャンバー内に配置されかつ基板を載置する載置台と、前記基板に溶媒を有する機能性インクを供給する供給口と、を備える製造装置であって、
前記供給口は、前記基板の塗布領域の周囲に配置され、かつ、前記チャンバー内の圧力を前記溶媒の蒸気圧以下にする減圧機構と、を備えること
を特徴とする機能性素子の製造装置。
【請求項6】
前記供給口は、前記基板の矩形領域の4隅に4隅の両辺に沿って配置される、請求項5記載の機能性素子の製造装置。
【請求項7】
前記供給口は、前記基板の矩形領域の4隅にラインバンク方向の2辺に沿って配置される、請求項5記載の機能性素子の製造装置。
【請求項8】
前記供給口は、多孔質部材である、請求項5〜7の何れか一項に記載の機能性素子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−272382(P2010−272382A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123751(P2009−123751)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】