説明

機能性薄膜素子、機能性薄膜素子の製造方法及び機能性薄膜素子を用いた物品

【課題】 陽極と機能性薄膜との接合界面における電位障壁の高さを任意に制御して、低電圧駆動化により長寿命化を図った機能性薄膜素子及び機能性薄膜素子を用いた物品を提供する。また、製造方法を簡略化して低コスト化を図り、低電圧駆動可能な機能性薄膜素子の製造方法を提供する。
【解決手段】基板2と、基板2上に形成された陽極3と、陽極3上に形成された発光層4と、発光層4上に形成された陰極5と、を備え、陽極3と発光層4との接合界面における陽極3表面又は発光層4表面に、陰イオン6がドープされたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子、無機EL素子、太陽電池、調光素子及びトランジスタ素子(FET素子)等に適用される機能性薄膜素子、機能性薄膜素子の製造方法及び機能性薄膜素子を用いた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の情報化・IT技術の進展はすさまじいものがあり、光を発するルミネッセンス素子、光を吸収してエネルギ変換する太陽電池、電圧のON-OFFにより光透過率が変化する調光素子(液晶系、エレクトロクロミック系)、各種素子を駆動させるためのトランジスタ素子(FET素子)など、各種機能性素子の開発が加速している。
【0003】
特に、最近のTV用では、高輝度、広視野角をメリットとしたプラズマ(Plasma)ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、フィールドエミッション(Field Emission)ディスプレイ等の各種方式の研究開発が精力的に行われており、TV用以外にも、パソコン用ディスプレイ、自動車用ナビゲーション等の各種フラットパネルディスプレイ、また、モバイル化の進展と共に、携帯電話、電子ペーパ、モバイル用パソコン等にも各種の機能性素子が使用されている。
【0004】
前述したルミネッセンス素子、太陽電池、調光素子等の機能性素子は、一般的に、機能性薄膜を介して陽極と陰極とがサンドイッチ型に配置されて構成される。そして、機能性素子内部で生成した光を外部に出射させるか、又は外部の光を透過させて素子内部に導くため、機能性素子の両面側に配置した電極の少なくとも一方を透明電極としている。機能性素子を機構的にみると、両電極と機能性薄膜との界面、又は機能性薄膜と機能性薄膜との界面、すなわち接合界面における荷電キャリア(電子、正孔)の動きを積極的に利用して、電子的又は光学的な機能を発現させている。
【0005】
機能性薄膜素子の一例として、最近脚光を浴びている有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子を挙げて、図7により説明する。図7にはその基本構造を示す。有機EL素子20は、透明基板21(ガラス、樹脂)上に、陽極22として透明電極(一例としてITO)を形成し、陽極22上に、順次、発光層である機能性薄膜23と、陰極(一例としてMg/Ag)24と、を形成している(例えば、非特許文献及び特許文献1参照)。本有機EL素子20では、陽極22と陰極24との間に印加された電圧により、陽極22側からの正孔と陰極24側からの電子とが、それぞれの接合界面における電位障壁の高さΔφを超えて、発光層である機能性薄膜23に注入されて、正孔と電子とが再結合して発光する。そして、発光は、光透過性を有する透明基板1と透明電極である陽極22側から出射される。
【0006】
図8は、図7に示す有機EL素子における、電子及び正孔の流れと、接合界面の電位障壁を模式的に表したバンド構造を示す図である。陽極22(透明電極)として使用したITOのイオン化ポテンシャルの大きさφ2は約4.5〜4.7eV程度であるのに対し、発光層のφHは約5.4〜5.8eVであるため、電位障壁の高さΔφは、図8に示すように0.7eV〜1.3eVと非常に大きくなる。このため、狙いとする発光輝度を得るためには、陽極22から正孔を発光層に注入し易くするために、陽極22と陰極24との間の印加電圧を高くする必要があり、有機EL素子を低電圧駆動することができなかった。また、陰極から注入される電子との注入バランスを確保することが非常に難しく、安定した発光を維持することが困難であった。
【0007】
上記課題を解決するために、現在、主に以下の3種類のアプローチがなされている。
【0008】
第1の方法は、陽極(例えば、透明電極ITO)を固定しておき、陽極と発光層との間に、両者のイオン化ポテンシャルの大きさが中間レベルであるバッファ層を挿入するものである。
【0009】
第2の方法は、陽極(例えば、透明電極ITO)を固定しておき、陽極のイオン化ポテンシャルφ2の大きさに比較的近い値の発光層を選択するものである。
【0010】
第3の方法は、第2の方法とは逆に、発光層を固定しておき、発光層のイオン化ポテンシャルの大きさφHに比較的近い値の陽極を選択するものである。
【非特許文献1】「有機ELディスプレイ技術」(株)テクノタイムズ出版、第17頁
【特許文献1】特開平11−251066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した第1から第3の方法によれば、以下に示す問題を有していた。
【0012】
第1の方法では、陽極と発光層との間にバッファ層を挿入して、陽極と発光層との間のエネルギ差を階段的に変化させている。このため、陽極側から見ると、キャリアである正孔(ホール)は、前述の電位障壁の高さΔφを乗り越えて容易に発光層に注入される。しかし、バッファ層を挿入した場合であっても、バッファ層のイオン化ポテンシャルの大きさφは、任意に制御できるものではなかった。また、バッファ層を形成するために、塗布や硬化等の工程が必要となり製造プロセスの工程数が増大してコスト高騰の原因となり、必ずしも実用的ではなかった。
【0013】
第2の方法では、陽極のイオン化ポテンシャルφ2の大きさに比較的近い値の発光層を選択すると、任意の発光色(波長)が得られず、また、発光効率を高めることもできなかった。
【0014】
第3の方法では、陽極(例えば、透明電極ITO)として、必要な性能である低抵抗、高光透過率、電極パターン形成性(例えば、エッチング性)及び表面平滑性等を満足させた上に、発光層のイオン化ポテンシャルの大きさφHに近い値を有する陽極を選択することは極めて困難であった。なお、透明導電性の陽極として、ITO以外にも、ATO( Antimon doped Tin Oxide)、FTO(F doped Tin Oxide )、ZnO(Zinc Oxide)などが挙げられるが、この場合も同様であった。
【0015】
従って、現実的には、金属、酸化物半導体及び機能性薄膜固有の物性値であるイオン化ポテンシャルに基づき、各種を組み合わせて使用せざるを得なかった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、すなわち、本発明の機能性薄膜素子は、基板と、基板上に形成された陽極と、陽極上に形成された機能性薄膜と、機能性薄膜上に形成された陰極と、を備え、陽極と機能性薄膜との接合界面における陽極表面又は機能性薄膜表面に、陰イオンがドープされたことを要旨とする。
【0017】
本発明の機能性薄膜素子の製造方法は、基板上に、印刷手法を用いて、水又は溶剤に可溶性のあるπ共役系高分子により陽極のパターンを形成し、硬化して陽極とする工程と、陽極上面に対して陰イオンをドープする工程と、陰イオンをドープした面上に、印刷手法を用いて、水又は溶剤に可溶性を有するπ共役系高分子により機能性薄膜を形成し、硬化して機能性薄膜とする工程と、を少なくとも含むことを要旨とする。
【0018】
本発明の機能性薄膜素子を用いた物品は、上記記載の機能性薄膜素子を、表示体、照明体、光起電力モジュール及び半導体モジュールのいずれかに適用したことを要旨とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の機能性薄膜素子によれば、陽極と機能性薄膜との接合界面における陽極表面又は機能性薄膜表面に陰イオンをドープすることにより、接合界面の電位障壁の高さを任意に制御することができる。この結果、低電圧駆動が可能となり機能性薄膜素子の長寿命化を実現することができる。
【0020】
本発明の機能性薄膜素子の製造方法によれば、低電圧駆動可能な機能性薄膜素子を得ることができる。
【0021】
本発明の機能性薄膜素子を用いた物品によれば、陽極と機能性薄膜との接合界面の電位障壁の高さを任意に制御して、低電圧駆動化により長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係る機能性薄膜素子及び機能性薄膜素子の製造方法について、有機EL素子に適用した例を挙げて、図1から図5までを用いて説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係る有機EL素子の構成を示す断面図である。図1に示すように、有機EL素子1は、光透過性を有する基板2と、基板2上に形成された光透過性を有する陽極3と、陽極3上に形成された機能性薄膜としての発光層4と、発光層4上に形成された陰極5と、を備えており、陽極3と発光層4との接合界面に陰イオン(アニオン)6がドープされている。陽極3と陰極5とには電源6が接続されている。なお、図1に示す有機EL素子1では、陽極3と発光層4との接合界面に陰イオン6をドープしたものであるが、陰イオン6は、陽極3表面又は発光層4表面のいずれかにドープしたものであれば良い。
【0024】
このように、陽極3と発光層4との接合界面に陰イオン6をドープすることにより、電位障壁の高さを任意に制御して、陽極3面から電子の放出を困難としたものである。言い換えると、接合界面に陰イオン6をドープすることにより、陽極材料のイオン化ポテンシャルが大となり、正孔側から見ると、陽極3と発光層4との接合界面の電位障壁Δφが低くなり、陽極3から発光層4に容易に正孔注入することができる。
【0025】
上記構成の有機EL素子1について、陽極3として一般的に良く知られている透明電極ITO(Indium Tin Oxide)、発光層4として代表的な有機発光層であるPPV(ポリフェニレンビニレン)を各々適用した例を挙げて、図2を用いてバンド構造を具体的に説明する。
【0026】
図2は、バンド構造を模式的に示した図である。文献によると、ITOのイオン化ポテンシャルφ2は、約4.5 eV〜4.7eVであり、PPVのイオン化ポテンシャルは、約5.2 eV〜5.5eVである。このため、理論的には、陽極3と発光層4との接合界面における電位障壁Δφは0.5〜1.0eVとなる。陽極3と発光層4との接合界面に0.5〜1.0eV程度の大きな電位障壁が存在する場合、陽極3と陰極5との間の印加電圧を高くしなければ、所望の発光輝度を得ることができない。しかし、印加電圧を高くすると、発光の安定性や発光寿命に悪影響を及ぼし、実用に耐えられないレベルとなる。そこで、本発明者は、陽極3及び発光層4の接合界面に陰イオンをドープすることにより、陽極3のイオン化ポテンシャルφを大きくし、接合界面における電位障壁Δφを小さくしようとしたものである。
【0027】
陽極のイオン化ポテンシャルφが大きくなるメカニズムは、現状、必ずしも明らかではないが、各種検討した結果、以下の図3の概念図を用いて説明することができる。なお、ここでは、ITOに対してもイオン化ポテンシャルという用語を使用したが、ITOは、本来、半導体(n型)であるため、厳密には「仕事関数」と呼ぶ方が適切だが、イオン化ポテンシャルと仕事関数とは基本的に同一の概念であるため、本願では、以下、統一して「イオン化ポテンシャル」の用語を使用する。
【0028】
図3は、陽極3表面に陰イオンをドープする前と、陰イオンをドープした後との陽極の様子を示す図である。なお、図3に示す‐印は陰イオン、+印は陽イオンを各々表す。
【0029】
図3(a)は、未処理の陽極を示すものであり、陽極3に陰イオンをドープすると、図3(b)に示すように、陽極3表面に陰イオンが形成される。図3(b)に示す陽極3は、電気的安定性に欠けるため、一般には電気的中性を保つために、図3(c)に示すように、正に帯電した陽イオンが誘起されて、電気二重層8が形成される。電気二重層8が形成されると、陽極3に存在する電子は、電気二重層8によりブロックされるため、陽極3表面から外部に放出されにくくなるものと推察される。
【0030】
電気二重層が形成された陽極3表面のイオン化ポテンシャルは、例えば、光電子分光法(理研計器(株)AC-2)を使用して測定することができる。図3(d)に示すように、陽極3表面に、単色光9の波長(照射光エネルギ)を可変させながら、陽極3表面から飛び出してくる光電子10をカウンターで計測すると、ある閾値から急激に光電子が放出されることになる。
【0031】
図3(e)に、陽極3表面のイオン化ポテンシャルを測定した結果を示すものであり、図3(e)中、直線Aは、図3(a)に示した陽極の測定結果であり、直線Bは、図3(b)に示した電気二重層を形成した陽極の測定結果を示す。なお、横軸に照射光エネルギ(eV)、縦軸に光電子収率を各々示し、直線A及び直線Bと横軸の照射光エネルギとの交点が、イオン化ポテンシャル(中性の原子から電子を外部に取り出すのに必要なエネルギと定義される)を表す。この結果、図3(e)に示すように、未処理である陽極3表面のイオン化ポテンシャル(φ2)は、4.7eVであったのに対して、陰イオンをドープして電気二重層が形成された陽極3表面のイオン化ポテンシャル(φ2)は、5.3eVと大きい値であり、陽極表面に陰イオンをドープすることによりイオン化ポテンシャルが大きくなることが判明していた。
【0032】
なお、本願でいう陰イオンとは、マイナスの電荷を帯びたイオンのことで、OH-をはじめ、公知の各種陰イオンを適用できるが、後述するように、例えば、F、Cl、Br、I等のハロゲン元素イオン、BF4、PF4、AsF6、SbF6等のルイス酸イオン、HNO、FeCl3、MoCl5、WCl5、SnCl4等のプロトン酸イオン、FeCl3、MoCl5、WCl5、SnCl4、M0F5、RuF5−、TaBr5、SnI4等の有機金属ハライドイオンが好ましい。例示した各種陰イオンの中でも、特に、F、Cl、Br、Iから選ばれた単一のハロゲン元素イオン、又は、それらを少なくとも1種類含む陰イオンの複合体としても構わない。単一のハロゲン元素イオンを少なくとも1種類を含む陰イオンの複合体とは、例えば、BF4、PF4、AsF6、SbF6のルイス酸イオンやHNO、FeCl3、MoCl5、WCl5、SnCl4などを挙げることができる。例示した陰イオンを選択することにより、陽極のイオン化ポテンシャルφ2を大きく変化させることが出来る(真空準位を基準にして、大きく出来る)が、この理由について、現時点で、以下に説明するように考えられる。
【0033】
周期率表によれば、VIIb族に位置するハロゲン元素は、電気陰性度(外界から電子を1個取り込んだ原子がその電子を放出するのに要するエネルギ)が、他の元素に比べて、最も大きいことがわかる。電気陰性度の値が大きいということは、定性的ではあるが、中性の原子から電子を外部に取り出すのに要するエネルギ、すなわち、イオン化ポテンシャルにも関係していると考えられる。それ故、陽極表面に、電気陰性度の大きなハロゲン元素の陰イオンをドープした場合、前述したように、電気二重層も電気陰性度の値に応じて大きく形成され、電子が外界に放出し難くなるものと考えられる。
【0034】
図4は、陽極ITO表面に、ハロゲン元素イオンとして代表的なI、Clの2種類の陰イオンをドープした場合における、イオン化ポテンシャルの処理時間依存性を示す図である。図4に示すイオン化ポテンシャルの処理時間依存性から、2つの顕著な特徴を見出すことができる。
【0035】
第1の特徴は、I、Clの両イオン共に、イオンドープ時間が所定の値になると、イオン化ポテンシャルが最大値を示す傾向が認められるものである。これは、発光層4のイオン化ポテンシャルの大きさφ3に合わせて、陽極3のイオン化ポテンシャルの大きさφ2を任意に制御できることを意味している。
【0036】
また、第2の特徴は、Iイオンに比べてClイオンをドープした方が、イオン化ポテンシャルの変化が大きいと言うことである。これは、前述したように、電気陰性度の大きさの序列に応じてイオン化ポテンシャルの大きさφも変動する可能性があることを示唆している。このため、種々の陰イオンの中でも、電気陰性度の大きい陰イオンを選択して、選択した陰イオンを陽極表面にドープすることにより、イオン化ポテンシャルφの値を大きく可変制御できると言える。
【0037】
今まで、図1に示す構成の有機EL素子について説明したが、本発明の実施の形態に係る機能性薄膜素子は、図1に示す構成に限定されるものではなく、例えば、図5に示す構成の有機EL素子の構成としても良い。なお、図1に示す有機EL素子と同一箇所には同一の符号を用いてその説明を省略する。
【0038】
図5に示す有機EL素子11は、光透過性を有する基板2と、基板2上に形成されたMg・Ag等の陰極5と、陰極5上に形成された発光層4と、発光層4上に形成された光透過性を有する陽極3と、を備えており、陽極3と発光層4との接合界面に陰イオン6がドープされている。また、陽極3と発光層4との接合界面に陰イオン6をドープしているが、陰イオン6は、陽極3表面又は発光層4表面のいずれかにドープしたものであれば良い。前述した図1及び図5に示すように、陰イオン6をドープする相手層として、陽極3又は発光層4の2つのケースが考えられるが、いずれも陰イオンを陽極3表面あるいは発光層4表面に対してドープすることにより、図6に示すように、陽極3と発光層4との接合界面における電位障壁の高さを変化することができる。
【0039】
次に、陽極材料について説明する。電極と機能性薄膜との接合界面を利用する素子として、有機ELや太陽電池等を挙げることができる。これらの素子においては、光を取り出したり、入れたりする側の電極として透明電極を配置し、透明電極の材料としてITO(Indium Tin Oxide)を使用している。この理由は、ITOが低表面抵抗かつ高光透過率であり、さらにエッチングによる回路パターンの形成が容易である等によるものである。ITOは、このような優れた特性を有するが、次のような欠点もある。すなわち、(1)ITOはセラミックス薄膜体であるため、フレキシビリティに欠ける。(2)耐熱性の低い有機材料上に、ITO薄膜を形成することができないため、前述した図5に示す有機EL素子の構成とすることが基本的に困難である。(3)ITO薄膜は、主に蒸着やスパッタ法、イオンプレーティング法などを用いて形成するため、成膜速度が遅く高コストとなる。
【0040】
そこで、本発明の実施の形態に係る機能性薄膜素子の陽極は、以下に説明する2種類の材料から形成することが好ましい。以下に示す材料から陽極を構成することにより、前述したITOの欠点とされた(1)フレキシビリティ性のみならず、
(2)耐熱性の低い有機材料上にも、陽極を形成することができ、かつ、(3)成膜速度も高速化が可能なため、低コスト化することができる。また、陰イオンドープの安定性をも確保することができる。
【0041】
一種類目の陽極は、少なくとも導電性ナノ粒子と光透過性を有する高分子樹脂とを含む材料から陽極を形成することが好ましい。導電性ナノ粒子としては、例えば、Au, Ag, Pt, Pd, Ni, Cu, Zn, Al, Sn,Pb, C, Tiの群から選択された単一元素、又はこれらの群から選択される一種の元素を含む化合物とすることが好ましく、その粒子径は概ね50nm以下とすることが好ましい。導電性ナノ粒子の粒子径を50nm以下とすることにより、可視光領域における入射光の波長λ(380〜 780 nm)より導電性ナノ粒子の粒子径が小さくなり(概ね、粒子直径の1/10以下程度)、光透過率が高まる。なお、本願でいう「粒子」とは、球状体に限らず、断面径と長軸長の比の大きなもの、すなわち、繊維状、針状体のものであっても構わない。そのような例としては、カーボンナノチューブ(CNT)などを挙げることができる。
【0042】
二種類目の陽極は、π共役系材料から形成することが好ましく、π共役系材料から陽極を形成することにより、共役二重結合中のπ電子の作用により、低表面抵抗化と高光透過率とを両立することができる。なお、ここでは、π共役系材料から陽極を形成することが好ましいとしたが、陽極に限定されず、陽極又は機能性薄膜のいずれか一方をπ共役系材料から形成することが好ましい。また、π共役系材料は、水又は溶剤に可溶性を有する高分子材料とすることが好ましく、このような高分子材料から陽極又は機能性薄膜を形成することにより、フレキシブルな基板上に、オールウェットプロセスで、陽極及び機能性薄膜を、連続的に塗布又は印刷した後、硬化することができる。さらに、π共役系高分子に各種ドーピング処理を施した材料から陽極を形成すると、導電性が向上するため好ましい。
【0043】
上述したπ共役系材料である高分子材料としては、ドーピングされたポリピロール(doped Polypyrrole)、ポリアニリン(doped Polyaniline)、ポリチオフェン(doped Polythiophene)、ポリアセチレン(doped Polyacethilene)、ポリイソチアナフテン(doped Polyisothianaphtene)、ポリフラン、ポリセレノフェン、ポリテルロフェン、ポリチエフェンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン及びこれらの誘導体の群から選択される少なくとも一種が挙げられる。上記材料を選択することにより、低抵抗かつ光透過性を有した状態で、所望の機能(例えば、発色や光起電力)を発現することができる。さらに、高分子材料は、より可溶性の高いポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリプロピレンオキシド(PO)、及びこれらの誘導体の中から選択された少なくとも1種類の材料とすることが好ましい。水又は溶剤への可溶性の高い高分子材料とすることにより、取扱いが容易となるだけでなく、公知の各種塗布法や印刷法を使用して所望の膜厚に塗布、硬化できるため、製造工程を簡略化することができる。
【0044】
次に、基板について説明する。基板は、図1に示す有機EL素子1のように、基板2を通して光(発光)を有機EL素子1の外部に取り出す場合、基板2の可視光線領域における平均光透過率を高くすることが好ましい。基板2の光透過率を高めることにより、光の散乱や吸収等による損失を極力軽減することができる。基板2の厚さや表面平滑性等にもよるが、実用的な観点から、基板2の平均光透過率は80%以上とすることが好ましく、より好ましくは85%以上である。また、曲面や3次元形状体として有機EL素子1を適用する場合は、フレキシブル性が要求されるため、基板2を高分子樹脂フィルムから形成することが好ましい。さらに、高分子樹脂フィルムにおけるフィルム面内の屈折率の異方性(複屈折Δn)は、光の出射又は入射方向に影響を及ぼすため、Δn≦0.1を満たすことが好ましい。複屈折の値がΔn>0.1になると、特定方向(角度)への出射又は入射がより顕著となり、実用上好ましくないからである。例えば、光透過率80%を有し、複屈折Δn≦0.1を満足するフレキシブルな基板に構成する高分子樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルサルフォン(PES)、及びこれらの誘導体の群から選択される1種類を挙げることができる。上述した高分子樹脂フィルムから基板2を形成することにより、発光層4から発光した光が、基板2を通して外部に出射できると共に、有機EL素子1外部からの光を、基板2を介して発光層4内部に容易に取り込むことができる。特に、本発明の実施の形態に係る機能性薄膜素子を太陽電池として適用する場合には、機能性薄膜素子の外部から入射される光が、基板で光損失することなく機能性薄膜内部に取り入れることができる。
【0045】
[機能性薄膜素子を適用した物品]
前述した機能性薄膜素子は、表示体(ディスプレイ)、照明体、光起電力モジュール、太陽電池モジュール及び半導体モジュールなどの多種類に亘る物品に適用することができるが、光学機能の観点から、有機EL素子、有機太陽電池、又は有機レーザなどとして適用することが好ましい。
【0046】
特に、図1に示す有機EL素子1のように、透明な基板2上に陽極3を形成して機能性薄膜素子を構成した場合には、基板2側に向かって発光されるため、機能性薄膜素子は、各種ディスプレイとして使用することができる。また、図5に示す有機EL素子11のように、基板2上に陰極5を形成して機能性薄膜素子を構成した場合には、基板2と反対側である陽極3側に向かい発光されるため、機能性薄膜素子は、レーザや各種の発光素子として使用することができる。
【0047】
[機能性薄膜素子の製造方法]
次に、本発明の実施の形態に係る機能性薄膜素子の製造方法について説明する。まず、陽極と機能性薄膜との接合界面に陰イオンをドープする方法を説明する。
【0048】
陰イオンのドープ方法は、陰イオンの公知の各種方法を適宜、選択して適用することができる。なお、ドープ方法を適用する際には、当然であるが、ドープする相手材料の種類や層厚、設定したい電位障壁の高さ等を勘案することが好ましい。ドープ方法は、公知の方法である気相ドーピング、液相ドーピング、電気化学的ドーピング、イオンインプランテーションなどを挙げることができる。気相ドーピングは、高真空下においてドープすべきイオンをプラズマ等で発生させて、発生させたイオンを相手材料である陽極や機能性薄膜に注入する。また、液層ドーピングは、陽極をHNO3、H2SO4、HClなどの各種プロトン酸に浸漬(ディップ)して、プロトン酸を噴霧状にしてドープするものである。電気化学的ドーピングは、LiAsF6を電解液として、陽極にAsF6をドープするものである。一方、イオンインプランテーションは、高真空下にてドープすべきイオンを電界で加速させて所望の位置に打ち込むものである。
【0049】
ドープ方法として、公知である前述した各種方法を適用できるが、この中でも特に、液相ドーピング又は電気化学的ドーピングを使用することが好ましい。イオンのドープは、基板上に、導電性ナノ粒子と光透過性を有する高分子樹脂とからなる陽極、又はπ共役系材料からなる陽極材料を塗布、硬化して、陽極を形成した後に行われるものである。このため、湿式プロセスにより陽極を形成した後、湿式プロセスを用いてイオンをドープできるため、連続生産が可能となり、その後の機能性薄膜、陰極をも湿式プロセスとすることにより、大幅に低コスト化することができる。一方、気相ドーピングやイオンインプランテーションなどでは、(1)イオンドープすべき環境が高真空を必要とすること、(2)準備時間や作業に要する時間が多大となる。このため、微細素子の特定領域にドープする場合を除き、気相ドーピングやイオンインプランテーションを適用することは、必ずしも適切ではない。
【0050】
前述したプロセス上の大きなメリットを勘案すると、以下に示す製造方法を用いて機能性薄膜素子を製造することが好ましい。
【0051】
すなわち、機能性薄膜素子の製造方法は、基板上に、印刷手法を用いて、水又は溶剤に可溶性であるπ共役系高分子を陽極のパターンに形成して硬化する工程と、陽極と機能性薄膜との接合界面における陽極上面に対して、陰イオンをドープする工程と、陰イオンがドープされた面上に、印刷手法を用いて水又は溶剤に可溶性であるπ共役系高分子を機能性薄膜のパターンに形成して、硬化させる工程と、を少なくも含むものである。本機能性薄膜素子の製造方法によれば、基板上への陽極の形成、陰イオンドープ化、機能性薄膜の形成、陰極の形成が、ウェツト法により連続して形成することができる。この結果、機能性薄膜素子の低電圧駆動及び長期寿命化を実現できるだけでなく、フレキシビリティを確保すると共に低コスト化を実現することができる。特に、基板にフレキシブルな樹脂フィルムを用いることにより、フレキシブルな機能性薄膜素子とすることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて説明するが、本発明の実施の形態に係る機能性薄膜素子は、例示した実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nm のITO透明導電性フィルムを形成して陽極を構成した。その後、陰イオンであるClを含有した希釈HNO3溶液を用いて、室温下、陽極に500秒間ディップ処理して、陽極にClイオンをドープして実施例1の試料とした。
【0054】
[実施例2]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nmのITO透明導電性フィルムを形成して陽極を構成した。その後、陰イオンであるIを含有した希釈I2溶液を用いて、室温下、陽極に500秒間ディップ処理して、陽極にIをドープして実施例2の試料とした。
【0055】
[実施例3]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nmのITO透明導電性フィルムを形成して陽極を構成した。その後、有機溶媒としてアセトニトリル、支持電解質としてLiClO4(陰イオンCl)を各々用いて、室温下、電気化学法によりClイオンをドープして実施例3の試料とした。
【0056】
[実施例4]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、粒径50 nmの導電性ナノ粒子Auを5wet%含有させた分散液をスピンコータで塗布して、膜厚150 nmの陽極を構成した。その後、陰イオンであるClを含有した希釈HNO3溶液を用いて、室温下、陽極に500秒間ディップ処理して、陽極にClイオンをドープして実施例4の試料とした。
【0057】
[実施例5]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、粒径50 nmの導電性ナノ粒子Ptを5wet%含有させた分散液をスピンコータで塗布して、膜厚150 nmの陽極を形成した。その後、陰イオンであるClを含有した希釈HNO3溶液を用いて、室温下、陽極に500秒間ディップ処理して、陽極にClイオンをドープして実施例5の試料とした。
【0058】
[実施例6]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、直径φ10 nm×長さL100 nmの導電性ナノ粒子CNTを5wet%含有させた分散液をスピンコータで塗布して、膜厚150 nmの陽極を構成した。その後、陰イオンであるClを含有した希釈HNO3溶液を用いて、室温下、陽極に500秒間ディップ処理して、陽極にClイオンをドープして実施例6の試料とした。
【0059】
[実施例7]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、直径φ10 nm×長さL100 nmの導電性ナノ粒子CNTを5wet%含有させた分散液をスピンコータで塗布して、膜厚150 nmの陽極を構成した。その後、陰イオンであるClを含有した希釈HNO3溶液を用いて、室温下、陽極に500秒間ディップ処理して、陽極にClイオンをドープして実施例7の試料とした。
【0060】
[実施例8]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、電界重合法により膜厚150 nmのドーピングしたポリピロール膜を形成して陽極を構成した。溶媒として水、支持電解質としてパラトルエンスルフォン酸ソーダ(電解質濃度0.8 mol/l)を用いて500秒間重合した。その後、実施例1と同様に、室温下、陰イオンClを含有した希釈HNO3溶液で500秒間ディップ処理して、陽極にClイオンをドープして実施例8の試料とした。
【0061】
[実施例9]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、電界重合法により膜厚150 nmのドーピングしたポリピロール膜を形成して陽極を構成した。モノマーとしてピロール、溶媒として水、支持電解質としてパラトルエンスルフォン酸ソーダ(電解質濃度0.8 mol/l)で500秒間重合して、膜厚150 nmの透明導電層とした。その後、実施例1と同様に、室温下、陰イオンIを含有した希釈I2溶液で500秒間ディップ処理して、陽極にIイオンをドープして実施例9の試料とした。
【0062】
[実施例10]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルフォン酸(PSS)からなる複合液をスピンコータで塗布して、膜厚150 nmの陽極を構成した。その後、実施例1と同様に、室温下、陰イオンClを含有した希釈HNO3溶液で500秒間ディップ処理して、陽極にClイオンをドープして実施例10の試料とした。
【0063】
[実施例11]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルフォン酸(PSS)からなる複合液をスピンコータで塗布して、膜厚150 nmの陽極を構成した。その後、実施例1と同様に、室温下、陰イオンIを含有した希釈I2溶液で500秒間ディップ処理して、陽極にIイオンをドープして実施例11の試料とした。
【0064】
[実施例12]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、まず、膜厚200 nmのMg/Ag合金のスパッタ膜を形成して、陰極電極を構成した。次に、陰極電極の上面に、スピンコート法を用いて、膜厚100 nmのポリフェニレンビニレン(PPV)を形成して、機能性薄膜を構成した。その後、機能性薄膜を形成した面に対して、室温下、陰イオンClを含有した希釈HNO3溶液で500秒間ディップ処理して、機能性薄膜にClイオンをドープして実施例12の試料とした。
【0065】
[実施例13]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、まず、膜厚200 nmのMg/Ag合金のスパッタ膜を形成して、陰極を構成した。次に、陰極の上面に、スピンコート法を用いて、膜厚100 nmのポリフェニレンビニレン(PPV)を形成して、機能性薄膜を構成した。その後、有機溶媒としてアセトニトリル、支持電解質としてLiClO4(陰イオンCl)を各々用いて、室温下、電気化学法によりClイオンをドープして、実施例13の試料とした。
【0066】
[実施例14]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、まず、膜厚200 nm のMg/Ag合金のスパッタ膜を形成して、陰極を構成した。次に、陰極の上面に、スピンコート法を用いて、膜厚100 nmのポリフェニレンビニレン(PPV)を形成して、機能性薄膜を構成した。その後、有機溶媒としてアセトニトリル、支持電解質としてLiClO4を各々用いて、室温下、電気化学法によりClイオンをドープして、実施例14の試料とした。
【0067】
また、実施例2と同様に、陰イオンIを含有した溶液(希釈I2溶液、室温)でディップ処理500秒を施すことにより、Iイオンをドープした。
【0068】
[比較例1]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚
100 nmのITO透明導電性フィルムを形成して、陽極を構成した。これをイオンドープ処理なしの標準試料とした。
【0069】
[比較例2]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、粒径50 nmの導電性ナノ粒子(Au)を5wet%含有させた分散液をスピンコータで塗布して、膜厚150 nmの陽極を構成した。
【0070】
[比較例3]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、粒径50 nmの導電性ナノ粒子(Pt)を5wet%含有させた分散液をスピンコータで塗布して、膜厚150 nmの陽極を構成した。
【0071】
[比較例4]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、導電性ナノ粒子CNT(直径φ10 nm×長さL100 nm)を5wet%含有させた分散液をスピンコータで塗布して、膜厚150 nmの陽極を構成した。
【0072】
[比較例5]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、電界重合法を用いて、膜厚150 nmのドーピングしたポリピロール膜を形成して陽極を構成した。溶媒として水、支持電解質としてパラトルエンスルフォン酸ソーダ(電解質濃度は0.8 mol/l)を各々用いて、500秒間重合した。
【0073】
[比較例6]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルフォン酸(PSS)からなる複合液をスピンコータで塗布して膜厚150 nmの陽極を構成した。
【0074】
実施例1〜実施例14及び比較例1〜比較例6から得られた各試料をデシケータに入れて、24時間真空引きした後、同試料を大気中にて取り出した。取り出した各試料について、光電子分光法(理研計器(株)AC-2)を用いてイオン化ポテンシャルを測定し、表1に測定結果を示した。
【表1】

【0075】
表1に示すように、比較例1〜比較例6の各試料では、いずれも陰イオンをドープしていないため、陰イオンをドープした実施例1〜実施例14の各試料に比べてイオン化ポテンシャルの値がいずれも高い値となっていた。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施の形態に係る有機EL素子の基本構造を示す断面図である。
【図2】図1に示した有機EL素子のバンド構造の一例を示した図である。
【図3】陽極表面への陰イオンのドープ前又はドープ後の陽極表面の様子を示す図であり、(a)〜(d)は、陽極表面の電荷状態の概念を示し、(e)は、電気二重層を形成した陽極表面のイオン化ポテンシャルの測定結果を示す。
【図4】ドープする陰イオン(I、Cl)の種類によるイオン化ポテンシャルの処理時間依存性を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る別態様の有機EL素子の断面を示す図である。
【図6】図5に示す有機EL素子のバンド構造を示す図である。
【図7】従来における機能性薄膜素子の構造を示す断面図である。
【図8】従来における機能性薄膜素子(有機EL)のバンド構造の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1…有機EL素子(機能性薄膜素子),
2…光透過性を有する基板,
3…光透過性を有する陽極,
4…発光層(機能性薄膜),
5…陰極,
6…陰イオン,
7…電源,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された陽極と、
前記陽極上に形成された機能性薄膜と、
前記機能性薄膜上に形成された陰極と、を備え、
前記陽極と前記機能性薄膜との接合界面における前記陽極表面又は前記機能性薄膜表面に、陰イオンがドープされたことを特徴とする機能性薄膜素子。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に形成された陰極と、
前記陰極上に形成された機能性薄膜と、
前記機能性薄膜上に形成された陽極と、を備え、
前記陽極と前記機能性薄膜との接合界面における前記陽極表面又は前記機能性薄膜表面に、陰イオンがドープされたことを特徴とする機能性薄膜素子。
【請求項3】
前記陰イオンは、F、Cl、Br、Iから選ばれた単一のハロゲン元素イオン、又はそれらを少なくとも1種類含む陰イオンの複合体であることを特徴とする請求項1又は2記載の機能性薄膜素子。
【請求項4】
前記陽極は、少なくとも導電性ナノ粒子と光透過性を有する高分子樹脂とを含む材料から形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の機能性薄膜素子。
【請求項5】
前記陽極又は前記機能性薄膜の少なくとも一方が、π共役系材料から形成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の機能性薄膜素子。
【請求項6】
前記π共役系材料は、水又は溶剤に可溶性を有する高分子材料であることを特徴とする請求項5記載の機能性薄膜素子。
【請求項7】
前記高分子材料は、ドーピングされたポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリイソチアナフテン、及びこれらの誘導体の群から選択された少なくとも1種の材料であることを特徴とする請求項6記載の機能性薄膜素子。
【請求項8】
前記高分子材料は、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリプロピレンオキシド、及びこれらの誘導体の群から選択された少なくとも1種類の材料であることを特徴とする請求項6記載の機能性薄膜素子。
【請求項9】
前記基板は、可視光線領域における平均光透過率が80%以上である高分子樹脂フィルムから形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の機能性薄膜素子。
【請求項10】
前記高分子樹脂フィルムは、その面内の複屈折をΔnとすると、Δn≦0.1であることを特徴とする請求項9記載の機能性薄膜素子。
【請求項11】
前記高分子樹脂フィルムは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルサルフォン、及びこれらの誘導体の群から選択された1種であることを特徴とする請求項9又は10記載の機能性薄膜素子。
【請求項12】
基板上に、印刷手法を用いて、水又は溶剤に可溶性のあるπ共役系高分子により陽極のパターンを形成し、硬化して陽極とする工程と、
前記陽極上面に対して陰イオンをドープする工程と、
前記陰イオンをドープした面上に、印刷手法を用いて、水又は溶剤に可溶性を有するπ共役系高分子により機能性薄膜を形成し、硬化して機能性薄膜とする工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする機能性薄膜素子の製造方法。
【請求項13】
前記水又は溶剤に可溶性の高分子材料は、少なくとも導電性ナノ粒子と光透過性を有する高分子樹脂とを含む材料、又はπ共役系高分子のいずれかであることを特徴とする請求項12記載の機能性薄膜素子の製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の機能性薄膜素子を、表示体、照明体、光起電力モジュール及び半導体モジュールのいずれかに適用した機能性薄膜素子を用いた物品。
【請求項15】
請求項12又は13に記載の機能性薄膜素子の製造方法により製造した機能性薄膜素子を用いた物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−73272(P2006−73272A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253226(P2004−253226)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】