説明

機能性表面を有するフッ素樹脂成形体

【課題】 種々の機能性表面を有し、当該機能表面の密着性に優れるフッ素樹脂成形体を提供する。
【解決手段】 酸無水物残基、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、加水分解性シリル基、アルコキシカルボニル基、及び酸ハライド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基(a)を含有するフッ素樹脂の成形体表面に、当該官能基と反応する官能基(b)を有する機能性塗料を塗布し、上記官能基の反応が実質的に進行する温度で加熱処理して機能性表面を有するフッ素樹脂成形体を得る。加熱処理は、好ましくは当該塗布により機能性表面が形成されたフッ素樹脂成形体を、当該フッ素樹脂の融点未満であって、かつ、融点以下100℃までの温度で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性表面を有するフッ素樹脂成形体に関し、より詳しくは、例えば、帯電防止性、導電性、電磁波シールド性、赤外線反射性、防カビ性、防藻性、抗菌性、親水性等の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエ−テル)系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体等のフッ素系重合体(以下単に「フッ素樹脂」ともいう。)は、耐熱性、耐薬品性、耐候性、ガスバリア性等に優れた特性を有し、その成形体は、半導体産業、自動車産業から食品、医療分野に至るまで種々の分野で使用されている。また、フッ素樹脂は電気絶縁特性と難燃性を兼ね備えており、電線の絶縁被覆材料としても好ましく使用され、さらにまた、耐侯性や光線透過特性、機械的特性が良好であるため、農業用ハウスや当該フィルムを使った建築物等にも利用されている。
【0003】
このように、フッ素樹脂は、かかる優れた特性を有し、種々の分野に使用されているが、以下のような問題点も有している。例えば、
(i)フッ素樹脂は絶縁特性に優れる為、容易に静電気が帯電し、その成形体表面に非常に多くのゴミやホコリが付着しやすい(ダスト付着)。静電気によるダスト付着が起こると、当該成形体へのスクリーン印刷等の加飾が妨害され、ピンホール等が生じ印刷イメージが非常に悪化する。このように、フッ素樹脂には導電性が実質的に全く無いという問題があった。
【0004】
(ii)フッ素樹脂フィルムを屋根材料や建築物の外装材として使用する場合、光線透過率が高いので、夏場の太陽光線、特に赤外線、近赤外線等の熱線を十分に遮断することが出来ないという問題がある。また、防音性に劣ること、水垢等の汚れが落ちにくいこと、という問題もあった。
【0005】
(iii)さらにまた、フッ素樹脂は、撥水性はあるものの、フッ素樹脂ケーブルやフィルムの屋外における使用状況においては、付着した水滴が転落しにくく、結露や着氷が問題となる場合があった。
【0006】
(iv)なお、フッ素樹脂成の成形加工品、例えば、フィルム、トレー、ボトルを医療、食品、化粧品等の容器その他の用途に使用する場合、汚れの落ちやすさは良好だが、その表面は、抗菌性、殺菌、防カビ性等を有していないため、容器等の保存時に、好ましくない雑菌が繁殖したり、カビが発生することがある。
【0007】
かかる問題を解決するために、当該フッ素樹脂成形体の表面に、種々の機能を有するいわゆる機能性塗料を塗布することにより、フッ素樹脂の表面を改質し、機能性を付与することが好ましいと考えられる。しかしながら、当該フッ素樹脂の表面は、きわめて撥水撥油性を有しており、このような機能性塗料を塗布しても、基本的に当該塗膜が十分にフッ素樹脂成形体の表面に密着しないという問題点があった。
【0008】
従来、フッ素樹脂表面の塗膜等他の樹脂との密着性や接着性を改良する方法としては、ナトリウム等のアルカリ金属溶液による処理や、コロナ放電や大気圧プラズマを利用した表面改質法(例えば、特許文献1を参照。)が知られているが、成形機以外に当該処理を実施するための装置を導入する必要があり、また、バルブ部分等の複雑な形状の成形体表面やチューブやボトルの内面を処理することが困難である等の問題があった。
【0009】
また、フッ素樹脂表面にアミノ置換有機シランを含む接着剤組成物を塗布して基材に密着させる方法が提案されているが、融点以上の温度で熱処理する必要があり、溶融成形した成形体の形状を維持したまま他材料を密着させることは困難であった(例えば、特許文献2を参照)。
【0010】
【特許文献1】特開平8−198984号公報(特許請求の範囲(請求項1〜9))
【特許文献2】特表2004−536722号公報(特許請求の範囲(請求項1〜15))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記のような背景のもと、容易に実施でき、所望の特性を有する機能性塗料の塗膜がその表面に密着性よく形成され、表面特性が改質された、フッ素樹脂成形体を提供することである。
【0012】
すなわち、具体的には、例えば、帯電防止性、導電性、電磁波シールド性、赤外線反射性、防カビ性、防藻性、抗菌性、親水性等の機能を有する塗料の塗布被膜が、密着性よくフッ素樹脂成形体の表面に形成されて、所望の表面特性が付与されている、フッ素樹脂成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に従えば、酸無水物残基、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、加水分解性シリル基、アルコキシカルボニル基、及び酸ハライド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基(a)を含有するフッ素樹脂の成形体表面に、当該官能基と反応する官能基(b)を有する機能性塗料を塗布し、上記官能基の反応が実質的に進行する温度で加熱処理して得られる機能性表面を有するフッ素樹脂成形体が提供される。
【発明の効果】
【0014】
以下に詳述するように、本発明の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体は、当該フッ素樹脂成形体表面に対し特段の前処理等の工程を必要とすることなく、機能性塗料を塗布してなるものであり、また、当該機能性塗膜は、当該フッ素樹脂成形体表面への密着性に十分優れるものである。
【0015】
また本発明の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体は、容易な塗布工程で実施できるため、実際の生産において各種の機能性塗膜を有する成形体の併産が容易であり、その切換え時のロスが実質的に生ずることもなく、少量多品種に対しても高い生産性をもって柔軟に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
(官能基を有するフッ素樹脂)
本発明におけるフッ素樹脂成形体におけるフッ素樹脂とは、酸無水物残基、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、加水分解性シリル基、アルコキシカルボニル基、及び酸ハライド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基(a)を含有するフッ素樹脂である。
【0017】
そして官能基(a)を有するもっとも代表的なフッ素樹脂としては、例えば特開2004−238405に記載の無水イタコン酸や無水シトラコン酸由来の酸無水物残基を有する含フッ素共重合体があげられる。また、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物のような酸無水物基含有環状モノマー由来の酸無水物残基を有する含フッ素共重合体であってもよい。
【0018】
本発明の対象とするフッ素樹脂としては、上記の官能基を有するものであれば特に限定するものではないが、好ましくは、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン系共重合体が望ましく、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体がより好ましく、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体が最も好ましい(以下、エチレンを「E」、テトラフルオロエチレンを「TFE」、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)を「PAVE」と表すことがある。)。
【0019】
本発明におけるフッ素樹脂の容量流速(以下「Q値」という。)は、0.1〜1000mm3/秒で、好ましくは、1〜500mm3/秒、さらに好ましくは、2〜200mm3/秒である。Q値は、フッ素樹脂を溶融成形する場合に問題となる樹脂の溶融流動性を表す指標であり、分子量の目安となる。すなわち、Q値が大きいと分子量が低く、小さいと分子量が高いことを示す。本発明におけるQ値は、島津製作所社製フローテスタを用いて、樹脂の融点より50℃以上高い温度において、荷重7kg下に直径2.1mm、長さ8mmのオリフィス中に押出すときの含フッ素共重合体の押出し速度である。Q値が小さすぎると当該フッ素樹脂の押出し成形が困難となり、大きすぎると樹脂の機械的強度が低下する。
また、本発明におけるフッ素樹脂の融点は120〜340℃が好ましく、150〜320℃がより好ましく、180〜300℃が最も好ましい。
【0020】
本発明において、前記フッ素樹脂に官能基(a)を導入する方法としては、含フッ素モノマーを重合してフッ素樹脂を製造する際に、含フッ素モノマーと官能基(a)を有するコモノマーとを共重合させる方法;官能基(a)を有する重合開始剤又は連鎖移動剤の存在下に含フッ素モノマーを重合し、重合体末端に官能基(a)を導入する方法;官能基(a)を有するコモノマーとフッ素樹脂とを混練した後、放射線照射する方法;官能基(a)を有するコモノマー、フッ素樹脂及びラジカル開始剤とを混練した後、溶融押出しすることにより当該官能基(a)を有するコモノマーをフッ素樹脂にグラフト重合する方法等が挙げられる。このうち好ましくは、特開2004−238405に記載のように、含フッ素モノマーと、官能基(a)を有するコモノマー、例えば無水イタコン酸や無水シトラコン酸、または、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物のような酸無水物基含有環状モノマーを共重合させる方法である。
【0021】
フッ素樹脂成形体における官能基(a)の含有量は、好ましくは0.01〜10モル%((官能基(a)のモル数/重合体の全繰り返し単位モル数)×100、以下同じ。)、より好ましくは0.05〜5モル%、最も好ましくは0.1〜3モル%である。官能基の量がこれよりあまり少ない場合は、本発明の効果を奏することができず、これよりあまり過大の場合は、フッ素樹脂成形体の物理的特性自体を低下させるおそれがあり好ましくない。
【0022】
(官能基を有する機能性塗料)
本発明のフッ素樹脂成形体は、上記した官能基(a)を含有する前記フッ素樹脂の成形体表面に、官能基(a)と反応する官能基(b)を有する機能性塗料を塗布し、加熱処理して得られる。
【0023】
かかる官能基(b)としては、アミノ基、イソシアナト基、水酸基、加水分解性シリル基、エポキシ基、酸無水物残基、アルコキシカルボニル基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
本発明における機能性塗料としては、対象とするフッ素樹脂が実質的に有しない機能・特性を付与する塗料が好ましい。
【0025】
すなわち、電気的・磁気的機能を付与する塗料として、例えば、帯電防止性塗料、導電性塗料、電磁波シールド性塗料、電磁波吸収塗料、磁性塗料等が挙げられ、光学的・熱的特性を付与する塗料として、例えば、赤外線(熱線)反射塗料、紫外線反射塗料、再帰反射塗料、遠赤外線放射塗料、遮熱・断熱塗料、熱線吸収塗料、発光塗料、蛍光塗料、蓄光塗料等が挙げられ、物理的・化学的機能を付与する塗料として、例えば、親水性塗料、結露防止塗料、着氷防止塗料、防音塗料、表面硬度付与塗料(耐擦傷性塗料)、滑り止め塗料等が挙げられ、生体機能付与塗料として、例えば、抗菌塗料、防カビ塗料、防藻塗料、殺虫塗料、防汚塗料等が挙げられる。
【0026】
これら機能性塗料は、当該各機能を付与する機能付与剤が配合された塗料であり、当該配合剤を、塗料用樹脂(バインダー)に、溶剤、消泡剤、界面活性剤、増粘剤、乳化剤、レベリング剤、顔料、分散剤等の通常の添加剤等と共に配合することにより得られる。また、現在、多数の市販の機能性樹脂が入手可能であり、目的に応じたものを選択・使用することができる。なお、使用可能な機能付与剤の具体例については、後記する。
【0027】
塗料用樹脂としては、特に限定するものではないが、アルキド樹脂、フタール酸樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、尿素樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリウレタン、不飽和ポリエステル、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、NAD樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、石油樹脂、ケトン樹脂、液状ポリブタジエン樹脂、ロジン変成マレイン酸樹脂、クマロン樹脂、アルコキシシラン樹脂等の樹脂が挙げられる。それらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
また、耐熱性の低い機能性塗料を塗布する場合は、まず下塗りとして耐熱性に優れた塗料を当該フッ素樹脂成形体表面に塗布して下塗り層を形成し、その下塗り層の上に、上塗りとして当該耐熱性の低い機能性塗料を塗布して密着性を向上させてもよい。
【0029】
なお、上記のうち、耐光性・耐光性を要求される成形体の場合は、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂が好ましく、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂がより好ましく、フッ素樹脂が特に好ましい。すなわち、上記したバインダーが耐候性、耐光性に劣る場合には、当該塗料の屋外での使用により、塗料(塗膜)が経時的に劣化することが懸念されるが、フッ素樹脂(フッ素樹脂塗料)の場合、極めて耐候性・耐光性に優れており、これを同じ耐光性等に優れたフッ素樹脂成形体に塗布した場合は、全体として極めて安定性のある成形体が得られるので特に好ましい。また、ポリアミド、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、アクリル樹脂は、それ自身官能基を含有するため好ましい。
【0030】
本発明における官能基(b)を有する機能性塗料の製造方法としては、モノマーを重合して前記塗料用樹脂を製造する際に、当該モノマーと官能基(b)を有するコモノマーを共重合する方法;官能基(b)を有する重合開始剤又は連鎖移動剤の存在下に、当該モノマーを重合して塗料用樹脂の末端に官能基(b)を導入する方法;塗料用樹脂に有機溶剤や種々の添加剤を配合し、塗料用組成物(本発明においは、単に「塗料」という。)を製造するときに官能基(b)を有する化合物をさらに配合する方法等が挙げられる。
【0031】
本発明者らの検討によれば、塗料用樹脂に各種成分を配合して塗料を製造するときに、官能基(b)を有する化合物を添加・配合する方法が最も容易で好ましく、この方法により、充分な効果が得られる。
【0032】
官能基(b)を有する化合物の添加量は、官能基の種類によっても変わりうるが、通常塗料に対し、0.1〜10質量%、好ましくは0.3〜8質量%、最も好ましくは0.5〜5質量%である。
【0033】
官能基(b)を有する化合物としては、当該官能基を有し、かつ、塗料組成物との親和性が優れる化合物であれば特に限定されず任意のものが使用可能である。例えば、
アミノ基を有する化合物としては、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリス(2−エチルヘキシロキシ)シラン、N−(6−アミノヘキシル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、3−(1−アミノプロポキシ)−3,3−ジメチル−1−プロペニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノウンデシルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の炭素原子数1〜20のアルキレンジアミン類、アミノプロピルビニルエーテル;
【0034】
イソシアナト基を有する化合物としては、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート類;
【0035】
水酸基を有する化合物としては、エチレングリコール、ポリオキシエチレンジオール、ポリオキシプロピレンジオール等のジオール類、ポリオール類、ヒドロキシブチルビニルエーテル;
【0036】
加水分解性シリル基を有する化合物としては、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤;
【0037】
エポキシ基を有する化合物としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシジルビニルエーテル;
【0038】
酸無水物を有する化合物としては、無水酢酸等のカルボン酸無水物類、無水ピロメリット酸、無水フタール酸等の芳香族酸無水物、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物等の不飽和基含有環状酸無水物等が挙げられる。
【0039】
また、塗料用樹脂自体が当該官能基を有しているものを選択して使用してもよく、例えば、ポリアミド樹脂ではアミノ基やカルボキシ基、酢酸ビニル樹脂ではアルコキシカルボニル基、ポリビニルアルコール、ポリウレタンでは水酸基、アクリル樹脂ではカルボキシル基、エポキシ基や水酸基等が挙げられる。
【0040】
(官能基(a)、(b)の組合せ)
本発明において、官能基(a)と官能基(b)の具体的な組合せとしては、例えば以下のものが好ましいものとしてあげられる。
(i)官能基(a)が酸無水物残基、カルボキシル基、エポキシ基又は酸ハライド基であり、官能基(b)がアミノ基である組合せ;
(ii)官能基(a)が酸無水物残基、カルボキシル基又は水酸基であり、官能基(b)がイソシアナト基である組合せ;
【0041】
(iii)官能基(a)が酸無水物残基、カルボキシル基、水酸基又は加水分解性シリル基であり、官能基(b)が水酸基である組合せ;
(iv)官能基(a)が水酸基又は加水分解性シリル基であり、官能基(b)が加水分解性シリル基である組合せ;
【0042】
(v)官能基(a)が酸無水物残基またはカルボキシル基であり、官能基(b)がエポキシ基である組合せ;
(vi)官能基(a)が水酸基又はエポキシ基であり、官能基(b)が酸無水物残基又はカルボキシル基である組合せ;
(vii)官能基(a)がアルコキシカルボニル基であり官能基(b)がアルコキシカルボニル基である組合せ等が好ましい組合せとして挙げられる。
【0043】
さらにより好ましい(a)、(b)の特定の組合せは、以下のとおりである。
(a)酸無水物残基/(b)アミノ基
(a)酸無水物残基/(b)エポキシ基
(a)エポキシ基/(b)アミノ基
(a)加水分解性シリル基/(b)加水分解性シリル基
(a)酸ハライド基/(b)アミノ基
【0044】
また、官能基(a)と官能基(b)の反応を促進する為、塗料に触媒となる成分を添加することも好ましい。例えば、酸無水物残基とエポキシ基を選択した場合は3級アミン、オクトエ酸第一スズ、酸、アルコール類、フェノール類が好ましく、カルボキシル基及び酸無水物残基と水酸基を選択した場合は、アセチルアセトンの第二鉄塩が好ましく、加水分解性シリル基と水酸基を選択する場合は、アミン類が好ましい。
【0045】
官能基(a)と官能基(b)の両方が、アルコキシカルボニル基である場合には、塩基が好ましく、クライゼン縮合により架橋する。また、この場合アミノシランカップリング剤若しくはアルミニウムトリアルコキシド類を添加することで架橋することも好ましい。
また、官能基(a)と官能基(b)の両方が水酸基である場合は、各種ジイソシアネート類を添加することが好ましい。
【0046】
(機能付与剤)
前記機能性塗料に配合されている特定の機能を付与する機能付与剤(添加剤)としては、特に限定するものではないが、以下のものが挙げられる。
例えば、帯電防止性、導電性、電磁波シールド性、電磁波吸収性、磁性を付与する添加剤としては、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛等カーボン系;ニッケル、スズ、銅、銀等金属系;γ−酸化鉄、酸化クロム等金属酸化物系等の添加剤が挙げられ、赤外線(熱線)反射性、紫外線反射性、再帰反射性、遠赤外線放射性、遮熱・断熱性、熱線吸収性、発光性、蛍光性、蓄光性を付与する添加剤としては、アルミニウム、銀等金属系;二酸化チタン等酸化物系、ガラスビーズ等セラミック微粒子系;ローダミンB、チオフラビンT、ジアミノスチルベン等の有機化合物系;硫化カルシウムや硫化亜鉛等の硫化物系等の添加剤が挙げられ、親水性、結露防止性、着氷防止性、防音性、滑り止め性を付与する添加剤としては、親水化アクリル樹脂、親水化シリコーン樹脂等の樹脂;二酸化チタン、アルミナ等金属酸化物;ケイ砂、マイカ、バーミキュライト、ロックウール等のセラミックが挙げられ、抗菌性、防カビ性、防藻性、殺虫性、防汚性を付与する添加剤としては、銀系;銅系;亜鉛系;銀ゼオライト系;リン酸ジルコニウム銀系;酸化チタン系;クロルキシレノール;ジンクピリチオン;クロルヘキシジン;トリクロサン;フェニルスルファミド、ベンズイミダゾール、チアベンダゾール、ピレスロイド、有機銅等有機系のものが挙げられる。
【0047】
これらの諸特性を有する添加剤は、多数のものが市販されておりこれを入手して容易に使用することができる。またすでに述べたように、これらの機能付与剤を含有する機能性塗料も多数市販されているので、当該塗料を入手して利用することもできる。
【0048】
また、塗料を構成するための有機溶剤としては、n−ヘプタン、n−ヘキサン等の炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル類;メチルイソブチルケトン等のケトン類;ジエチルセロソルブ等のグリコールジエーテル類が挙げられる。さらに市販の各種シンナーも使用できる。
【0049】
(塗布・加熱処理工程)
本発明の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体は、官能基(a)を含有するフッ素樹脂の成形体表面に、当該官能基(a)と反応する官能基(b)を有する機能性塗料を塗布し、この官能基(a)と(b)の反応が実質的に進行する温度で加熱処理して得られる。
【0050】
本発明において、フッ素樹脂成形体への機能性塗料の塗布手段は特に限定するものではなく、刷毛塗り、バーコータ、ディップコータ、スプレーコータ、シャワーコータ、スクリーン印刷、スピンコータ、ロールコータ、ドクターブレードコータ、ロッドコータ、カーテンフローコータ等、対象とするフッ素樹脂成形体の形状、塗布厚み、塗布液の濃度や粘度等に応じて任意の塗布手段を採用することができる。
機能性塗料の塗布厚みとしては、目的に応じて任意でよいが、通常0.1〜200μm、好ましくは0.5〜100μm、さらに好ましくは1〜50μm程度である。
【0051】
また、反応が実質的に進行する温度としては、任意の温度が選定できるが、好ましくは、当該フッ素樹脂の融点未満であって、かつ、融点以下100℃までの温度で加熱処理することであり、より好ましくは融点以下20〜100℃、最も好ましくは融点以下25〜90℃で加熱処理するものである。かくして、加熱処理により、官能基(a)と官能基(b)とが化学反応し結合を形成することにより、塗膜とフッ素樹脂成形体との密着性が著しく向上できる。加熱処理温度が、当該フッ素樹脂の融点以上であると、フッ素樹脂成形体が変形する傾向を生じ好ましくない。
【0052】
また、加熱処理の時間は、加熱温度によっても変わりうるが、通常10秒〜10時間、好ましくは1分〜1時間、さらに好ましくは3〜30分である。
なお、加熱処理の装置としては、一般的な加熱装置又は乾燥装置が使用可能であり、例えば、電熱乾燥器、赤外線乾燥器、熱風乾燥機、電気炉等目的に応じて任意のものが採用できる。
【0053】
(成形体)
本発明におけるフッ素樹脂成形体とは、当該フッ素樹脂を、押出成形、ブロー成形、圧縮成型、真空成形、射出成形等により成形したものであって、例えば、電線、チューブ、パイプ、フィルム、ケース、バルブ、又はボトル等の形態を有するフッ素樹脂成形体である。本発明により、上記のようにして、これらの表面に帯電防止性、導電性、電磁波シールド性、赤外線反射性、防カビ性、防藻性、抗菌性、親水性等が付与された、機能性表面を有する電線、チューブ、パイプ、フィルム、ケース、バルブ(またはバルブ部品)、フィルター又はボトル等が提供される。
【0054】
なお、本発明におけるフッ素樹脂形成体としては、フッ素樹脂以外の樹脂成形体の表面にフッ素樹脂塗料を塗布したもの、または、金属製品の表面にフッ素樹脂エナメルを焼き付けてなる、フッ素樹脂のコーティング層を含む成形体であってもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれに限定されるものではない。なお、%とあるものは、とくに断りなき限り、質量%である。
以下の実施例及び比較例において、塗膜の強度は、以下のようにしてその接着性により評価した。
【0056】
〔塗膜の接着性〕
JIS K5600−5−6に記載されているテープ剥離試験に準拠して塗膜のフッ素樹脂への接着性の評価を実施した。ただし本試験においては、フッ素樹脂のフィルムの上に形成した塗膜の接着性を評価するため、塗膜は碁盤目にカットせずに評価を実施した。
【0057】
〔合成例1〕(官能基を含有するE/TFE系樹脂の合成)
特開2004−238405の実施例9に記載された方法により、酸無水物残基を有するフッ素樹脂を合成した。すなわち
【0058】
内容積が94Lの重合槽を脱気し、1−ヒドロトリデカフルオロヘキサンの71.3kg、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(旭硝子社製、以下、以下「AK225cb」という。)の20.4kg、CH2=CH(CF22Fの562g、無水イタコン酸(以下「IAN」という。)の4.45gを仕込み、重合槽内を66℃に昇温し、TFE/Eのモル比で89/11のガスで1.5MPa/Gまで昇圧した。重合開始剤としてtert−ブチルペルオキシピバレートの0.7%ヒドロトリデカフルオロヘキサン溶液の1Lを仕込み、重合を開始させた。重合中圧力が一定になるようにTFE/Eの59.5/40.5モル比のモノマー混合ガスを連続的に仕込んだ。
【0059】
また、重合中に仕込むTFEとEの合計モル数に対して3.3モル%に相当する量のCH2=CH(CF22Fと0.8モル%に相当する量のIANを連続的に仕込んだ。重合開始9.9時間後、モノマー混合ガスの7.28kgを仕込んだ時点で、重合槽内温を室温まで降温するとともに常圧までパージした。
【0060】
溶融NMR分析、フッ素含有量分析及び赤外吸収スペクトル分析の結果から、この含フッ素共重合体(以下「フッ素樹脂1」という。)の組成はTFEに基づく繰り返し単位/Eに基づく繰り返し単位/IANに基づく繰り返し単位/CH2=CH(CF22Fに基づく繰り返し単位のモル比で57.4/38.6/0.48/3.5であった。融点は230℃、297℃で測定したQ値は48mm3/秒であった。
【0061】
〔合成例2〕(官能基を有する帯電防止性塗料1の調製)
帯電防止性塗料(大東ペイント社製、製品名:クリーンテクノ#300、アクリル樹脂をバインダーとし、帯電防止性付与剤としてスズ系添加剤を配合したもの。)に、N−(2―アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、製品名:KBM−603、以下「アミノシラン」という。)を3.0質量%添加して充分混練し官能基としてアミノ基を有する帯電防止性塗料1を得た。
【0062】
〔合成例3〕(官能基を有する導電性・電磁波シールド性塗料の調製)
導電性・電磁波シールド性塗料(モリテックス社製、製品名:ELECTRODAG502、フロロエラストマーをバインダーとし、導電性・電磁波シールド性付与剤として黒鉛系添加剤を配合したもの。)に、合成例2と同じアミノシランを3.0質量%添加・混練して官能基としてアミノ基を有する導電性・電磁波シールド性塗料を得た。
【0063】
〔合成例4〕(官能基を有する抗菌性塗料の調製)
抗菌性塗料(ムライケミカルパック社製、製品名:クリーンキープカラーES−s1、アクリル樹脂をバインダーとし、抗菌剤としてジメチルフェニルスルファミドを配合したもの。)に、合成例2と同じアミノシランを3.0質量%添加・混練して官能基としてアミノ基を有する抗菌性塗料を得た。
【0064】
〔合成例5〕(官能基を有する防カビ性、防藻性塗料の調製)
防カビ性、防藻性塗料(エスケー化研社製、製品名:バイオタイト#31、アクリル樹脂をバインダーとし、防カビ剤、防藻剤を配合したもの。)に、合成例2と同じアミノシランを3.0質量%添加・混練して官能基としてアミノ基を有する防カビ性、防藻性塗料を得た。
【0065】
〔合成例6〕(官能基を有する赤外線反射性塗料の調製)
赤外線反射性塗料(NTT−アドバンストテクノロジー社製、製品名:アットシールドカラー、アクリルシリコーン樹脂をバインダーとし、赤外線反射剤を配合したもの。)に、合成例2と同じアミノシランを3.0質量%添加・混練して官能基としてアミノ基を有する赤外線反射性塗料を得た。
【0066】
〔合成例7〕(官能基を有する親水性塗料の調製)
親水性塗料(関西ペイント社製、製品名:セラMシリコンII、親水性のアクリルシリコーン樹脂をバインダーとするもの)に、合成例2と同じアミノシランを3.0質量%添加・混練して官能基としてアミノ基を有する親水性塗料を得た。
【0067】
〔合成例8〕(官能基を含有するTFE/PAVE系樹脂の合成)
内容積が22Lの重合槽を脱気し、AK225cbの19.2kg、ペルフルオロプロピルビニルエーテルの885g、メタノールの10.7g、TFEの1240gを仕込み、重合槽内を50℃に昇温したところ、圧力は0.46MPa/Gであった。重合開始剤としてヘプタフルオロブチロイルパーオキサイドの0.1%質量AK225cb溶液の68mlを仕込み、重合を開始させた。重合中圧力が一定になるようにTFEを連続的に仕込み、10分間に100gのTFEが仕込まれるように前記開始剤を連続的に添加した。
【0068】
また、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物の0.3質量%AK225cb溶液をTFEが85g仕込まれる度に36mlずつ仕込んだ。重合開始3.3時間後、TFEの1.7kgを仕込んだ時点で、重合槽内温を室温まで降温するとともに常圧までパージした。
【0069】
溶融NMR分析、フッ素含有量分析及び赤外吸収スペクトル分析の結果から、この含フッ素共重合体(以下「フッ素樹脂2」という。)の組成はTFEに基づく繰り返し単位/ペルフルオロプロピルビニルエーテルに基づく繰り返し単位/5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物に基づく繰り返し単位のモル比で97.8/1.9/0.3であった。融点は290℃、380℃で測定したQ値は13mm3/秒であった。
【0070】
〔合成例9〕(官能基を有する帯電防止性塗料2の調製)
帯電防止製塗料(神東塗料社製、製品名:D−4290、ウレタン変成アクリル樹脂をバインダーとし、帯電防止性付与剤として金属酸化物系添加剤を配合したもの。)に合成例2と同じアミノシランを5.0質量%添加して充分混練し官能基としてアミノ基を有する帯電防止性塗料2を得た。
【0071】
〔合成例10〕(官能基を有する帯電防止性塗料3の調製)
帯電防止製塗料(神東塗料社製、製品名:D−4256、ウレタン変成アクリル樹脂をバインダーとし、帯電防止性付与剤としてカーボンを配合したもの。)に合成例2と同じアミノシランを5.0質量%添加して充分混練し官能基としてアミノ基を有する帯電防止性塗料3を得た。
【0072】
〔合成例11〕(官能基を有する帯電防止性塗料4の調製)
帯電防止製塗料(神東塗料社製、製品名:D−4139、アクリルメラミン樹脂をバインダーとし、帯電防止性付与剤として金属酸化物系添加剤を配合したもの。)に合成例2と同じアミノシランを5.0質量%添加して充分混練し官能基としてアミノ基を有する帯電防止性塗料4を得た。
【0073】
〔実施例1〕
合成例1で得られた酸無水物基を有するフッ素樹脂1を押出成形により厚み200μmのフィルム状に成形した。当該フッ素樹脂1のフィルムの表面に、合成例2で調製した官能基を有する帯電防止性塗料1(アミノシラン3.0質量%含有)を刷毛で約2μm塗布し、当該フッ素樹脂の融点より30℃低い温度である200℃に加熱したオーブン中で10分間加熱処理し、表面が帯電防止性を付与されたフッ素樹脂フィルムを得る。当該帯電防止性塗膜の接着性を、上記した方法により評価したところ、この塗膜は全く剥離せず、いずれも強固な塗膜が得られていることが確認された。
【0074】
〔実施例2〕
合成例1で得られたフッ素樹脂1のフィルムの表面に、合成例3で調製した官能基を有する導電性・電磁波シールド性塗料を塗布して実施例1と同様に処理し、表面が導電性・電磁波シールド性を付与されたフッ素樹脂フィルムを得る。当該帯電防止性塗膜の接着性を、上記した方法により評価したところ、この塗膜は全く剥離せず、いずれも強固な塗膜が得られていることが確認された。
【0075】
〔実施例3〕
合成例1で得られたフッ素樹脂1のフィルムの表面に、合成例4で調製した官能基を有する抗菌性塗料を塗布し、フッ素樹脂1の融点よりも80℃低い温度である150℃に加熱したオーブン中で、10分間加熱処理し、表面が抗菌性を付与されたフッ素樹脂フィルムを得る。当該抗菌性塗膜の接着性を、上記した方法により評価したところ、この塗膜は全く剥離せず、いずれも強固な塗膜が得られていることが確認された。
【0076】
〔実施例4〕
合成例1で得られたフッ素樹脂1のフィルムの表面に、合成例5で調製した官能基を有する防カビ性、防藻性塗料を塗布して実施例3と同様に処理し、表面が防カビ性、防藻性を付与されたフッ素樹脂フィルムを得る。当該防カビ性、防藻性塗膜の接着性を、上記した方法により評価したところ、この塗膜は全く剥離せず、いずれも強固な塗膜が得られていることが確認された。
【0077】
〔実施例5〕
合成例1で得られたフッ素樹脂1のフィルムの表面に、合成例6で調製した官能基を有する赤外線反射性塗料を塗布して実施例3と同様に処理し、表面が赤外線反射性を付与されたフッ素樹脂フィルムを得る。当該赤外線反射性塗膜の接着性を、上記した方法により評価したところ、この塗膜は全く剥離せず、いずれも強固な塗膜が得られていることが確認された。
【0078】
〔実施例6〕
合成例1で得られたフッ素樹脂1のフィルムの表面に、合成例7で調製した官能基を有する親水性塗料を塗布して実施例3と同様に処理し、表面が親水性を付与されたフッ素樹脂フィルムを得る。当該親水性塗膜の接着性を、上記した方法により評価したところ、この塗膜は全く剥離せず、いずれも強固な塗膜が得られていることが確認された。
【0079】
〔実施例7〕
合成例1で得られたフッ素樹脂1のフィルムの表面に、合成例9で調製した官能基を有する帯電防止性塗料2を約20μm塗布し、当該フッ素樹脂の融点より60℃低い温度である170℃に加熱したオーブン中で5分間加熱処理し、表面が帯電防止性を付与されたフッ素樹脂フィルムを得た。当該帯電防止性塗膜の接着性を、上記した方法により評価したところ、この塗膜は全く剥離せず、いずれも強固な塗膜が得られていることが確認された。また、帯電防止性塗膜の導電性をHIOKI社製デジタルテスターを使用し、測定端子間隔5mmで電気抵抗測定したところ、5.5×108Ωであり、導電性が確認された。
【0080】
〔実施例8〕
合成例1で得られたフッ素樹脂1のフィルムの表面に、合成例10で調製した官能基を有する帯電防止性塗料3を実施例7と同様に処理し、表面が帯電防止性を付与されたフッ素樹脂フィルムを得た。当該帯電防止性塗膜の接着性と導電性を、上記した方法により評価したところ、この塗膜は全く剥離せず、いずれも強固な塗膜が得られ、導電性は2.5×103Ωであり、導電性が確認された。
【0081】
〔実施例9〕
合成例1で得られたフッ素樹脂1のフィルムの表面に、合成例11で調製した官能基を有する帯電防止性塗料4を実施例7と同様に処理し、表面が帯電防止性を付与されたフッ素樹脂フィルムを得た。当該帯電防止性塗膜の接着性と導電性を、上記した方法により評価したところ、この塗膜は全く剥離せず、いずれも強固な塗膜が得られ、導電性は2.7×106Ωであり、導電性が確認された。
【0082】
〔実施例10〕
合成例8で得られたフッ素樹脂2のフィルムの表面に、合成例10で調製した官能基を有する帯電防止性塗料3を塗布し、当該フッ素樹脂の融点より90℃低い温度である200℃に加熱したオーブン中で5分間加熱処理し、表面が帯電防止性を付与されたフッ素樹脂フィルムを得た。当該帯電防止性塗膜の接着性と導電性を、上記した方法により評価したところ、この塗膜は全く剥離せず、いずれも強固な塗膜が得られ、導電性は2.0×103Ωであり、導電性が確認された。
【0083】
〔実施例11〕
合成例8で得られたフッ素樹脂2のフィルムの表面に、合成例11で調製した官能基を有する帯電防止性塗料4を実施例10と同様に処理し、表面が帯電防止性を付与されたフッ素樹脂フィルムを得た。当該帯電防止性塗膜の接着性と導電性を、上記した方法により評価したところ、この塗膜は全く剥離せず、いずれも強固な塗膜が得られ、導電性は1.4×107Ωであり、導電性が確認された。
【0084】
〔比較例1〕
実施例1のフッ素樹脂1を、酸無水物基のような官能基を有しないエチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体(旭硝子社製、商品名 Fluon ETFE C―55AX)に変更する以外は、実施例1と同様にして、当該フッ素樹脂の表面に帯電防止性塗膜を形成し、その接着性を評価した。当該塗膜は完全に剥離し、接着性はきわめて低かった。
【0085】
〔比較例2〕
実施例10におけるフッ素樹脂2を、酸無水物基のごとき官能基を有しないテトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体(旭硝子社製、商品名 Fluon PFA P―62XP)に変更する以外は、実施例10と同様にして、当該フッ素樹脂の表面に帯電防止性塗膜を形成し、その接着性を評価した。当該皮膜は完全に剥離し、接着性はきわめて低かった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体は、なんら特殊な表面処理等の工程を必要とせずに密着性に優れた強固な機能性塗膜が形成されているものであって、種々の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体が得られる。例えばフッ素樹脂表面が本来有していない、帯電防止性、導電性、電磁波シールド性、赤外線反射性、防カビ性、防藻性、抗菌性、親水性等、表面特性等をフッ素樹脂成形体表面に付与することが可能である。
【0087】
すなわち、具体的には、帯電防止性、導電性、電磁波シールド性、赤外線反射性、防カビ性、防藻性、抗菌性、親水性等の機能性表面を有する電線、チューブ、パイプ、フィルム、ケース、バルブ、又はボトル等のフッ素樹脂成形体が容易な手段で提供されるものであり、その産業上の利用可能性は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸無水物残基、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、加水分解性シリル基、アルコキシカルボニル基、及び酸ハライド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基(a)を含有するフッ素樹脂の成形体表面に、当該官能基と反応する官能基(b)を有する機能性塗料を塗布し、上記官能基の反応が実質的に進行する温度で加熱処理して得られることを特徴とする機能性表面を有するフッ素樹脂成形体。
【請求項2】
前記機能性塗料の官能基(b)が、アミノ基、イソシアナト基、水酸基、加水分解性シリル基、エポキシ基、酸無水物残基、アルコキシカルボニル基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体。
【請求項3】
前記フッ素樹脂の官能基(a)が、酸無水物残基、カルボキシル基、エポキシ基、又は酸ハライド基であり、前記機能性塗料の官能基(b)がアミノ基である請求項1に記載の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体。
【請求項4】
前記フッ素樹脂の官能基(a)が、酸無水物残基、カルボキシル基、又は水酸基であり、前記機能性塗料の官能基(b)がイソシアナト基である請求項1に記載の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体。
【請求項5】
前記フッ素樹脂の官能基(a)が、酸無水物残基、カルボキシル基、水酸基、又は加水分解性シリル基であり、前記機能性塗料の官能基(b)が水酸基である請求項1に記載の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体。
【請求項6】
前記フッ素樹脂の官能基(a)が、水酸基又は加水分解性シリル基であり、前記機能性塗料の官能基(b)が加水分解性シリル基である請求項1に記載の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体。
【請求項7】
前記フッ素樹脂の官能基(a)が、酸無水物残基又はカルボキシル基であり、前記機能性塗料の官能基(b)がエポキシ基である請求項1に記載の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体。
【請求項8】
前記フッ素樹脂の官能基(a)が、水酸基又はエポキシ基であり、前記機能性塗料の官能基(b)が酸無水物残基又はカルボキシル基である請求項1に記載の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体フッ素樹脂成形体。
【請求項9】
前記フッ素樹脂の官能基(a)が、アルコキシカルボニル基であり、前記機能性塗料の官能基(b)がアルコキシカルボニル基である請求項1に記載の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体。
【請求項10】
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体、又はエチレン/クロロトリフルオロエチレン系共重合体である請求項1に記載の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体。
【請求項11】
前記機能性塗料を塗布したフッ素樹脂成形体を、当該フッ素樹脂の融点未満であって、かつ、融点以下100℃までの温度で加熱処理する請求項1〜10のいずれかに記載の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体。
【請求項12】
機能性表面を有するフッ素樹脂成形体が、電線、チューブ、パイプ、フィルム、ケース、バルブ、又はボトルである請求項1〜11のいずれかに記載の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体。
【請求項13】
前記機能性塗料が帯電防止性、導電性、電磁波シールド性、赤外線反射性、防カビ性、防藻性、抗菌性及び親水性から選択される少なくとも一つの機能を有する機能性塗料である請求項1〜12のいずれかに記載の機能性表面を有するフッ素樹脂成形体。

【公開番号】特開2007−84780(P2007−84780A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324436(P2005−324436)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】