説明

機能性赤外蛍光粒子

【課題】 生体または生体物質等に対する透過性が高く、蛍光強度が安定で安全性の高い赤外蛍光粒子を提供すること。
【解決手段】 被検物質に結合することが可能な官能基または物質を有して成る赤外蛍光粒子であって、赤外領域の波長の励起光を照射すると赤外領域の波長の蛍光を放射する赤外蛍光粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばイメージング等のバイオおよび生化学の分野で用いるのに適した赤外蛍光粒子(「赤外蛍光体でできている粒子」ともいう)に関しており、特に、被検物質に結合することができ、近赤外領域の波長の光で励起および発光が可能な赤外蛍光粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、生体内に入れられた蛍光物質の特定部位への集積を体外から観察するイメージングと呼ばれる技術が存在するが、かかる用途に対して蛍光物質が期待されている。イメージング用途では、特に、安全性および安定性が蛍光物質に求められるだけでなく、励起光および蛍光が生体物質に対して高い透過性を有することが求められる。従って、紫外線領域から可視領域の光を発する有機蛍光体または量子ドット等の蛍光物質は、蛍光の安定性、毒性および透過性の点で依然問題を残している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上述の問題を解決するために為されたものである。従って、本発明の課題は、特に生体物質に対する励起光および蛍光の透過性の点で好ましい赤外蛍光粒子であって、イメージング等の用途に利用可能な赤外蛍光粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決すべく、本発明は、被検物質に結合することが可能な官能基または物質を有して成り、赤外領域の波長の励起光を照射すると赤外領域の波長の蛍光が放射される赤外蛍光粒子を提供する。
【0005】
本発明の赤外蛍光粒子は、赤外領域(特に近赤外領域)の波長の励起光が照射されると赤外領域(特に近赤外領域)の波長の蛍光が放射される。また、本発明の赤外蛍光粒子は「被検物質に結合することが可能な官能基または物質」を有するため、被検物質に赤外蛍光粒子が結合できる。その結果、赤外蛍光粒子をイメージングの蛍光プローブとして用いたりすることができる。このように、本発明の赤外蛍光粒子は種々の有用な機能を有するものであるから、本発明の赤外蛍光粒子は「機能性赤外蛍光粒子」と呼ぶこともできる。
【発明の効果】
【0006】
赤外領域の光は生体物質などに対する透過性が高いため、本発明の赤外蛍光粒子を用いると、被検物質およびその周囲に存在する物質による発光、吸収もしくは散乱の影響を小さくすることができる。従って、バックグランドを低く抑えて実質的な感度を高くすることができる。また、金属酸化物から成る赤外蛍光粒子では、光の照射によっても蛍光強度が実質的に低下せず安定した蛍光強度を得ることができるだけでなく、赤外蛍光粒子自体の毒性も低い。従って、金属酸化物から成る本発明の赤外蛍光粒子は、種々の生体物質が含まれる検体中の被検物質のイメージング用途や、生体内の特定の組織のイメージング用途に対して特に有益である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の赤外蛍光粒子を詳細に説明する。
【0008】
本明細書で用いる「赤外蛍光粒子」とは、赤外領域の波長を有する励起光を照射すると、赤外領域の波長を有する光のエネルギーを放射する粒子を意味している。従って、励起光の照射に際して、非常に短い時間で光のエネルギーが放射される場合は「蛍光」として光を発するが、長い時間にわたって光のエネルギーが放射される場合は「燐光」として光を発することになり、本発明の「赤外蛍光粒子」は「蛍光」または「燐光」を放射する粒子を実質的に意味する。
【0009】
また、本明細書において、「被検物質に結合することが可能な官能基または物質」の「結合できる」とは、「被検物質」に「官能基または物質」が物理的または化学的に結合することを意味している。従って、「結合できる」という用語は、例えば「吸着」、「クーロン力」などに起因して「被検物質」が「官能基または物質」に結合する態様をも含んでいる。
【0010】
更に、本明細書で用いる「被検物質」とは、一般的に測定対象物質を意味するものであるが、必ずしも測定対象物質に限らない。測定対象物質でなくても、種々の用途のために、本発明の赤外蛍光粒子に単に結合させる物質も「被検物質」に含まれる。
【0011】
本発明の赤外蛍光粒子に照射する励起光および生じる蛍光は、被検物質およびその周囲に存在する物質に対して透過性が高く、それらの物質による発光、吸収または散乱が少ない赤外領域の波長を有する。好ましくは、励起光スペクトルおよび蛍光スペクトルのピーク波長は、700〜3000nmの近赤外領域の範囲にある。かかる波長よりも短い波長域の光では、被検物質およびその周囲に存在する物質による可視領域の光の吸収や発光がより多くなるだけでなく、散乱もより多くなり、その一方、かかる波長よりも長い波長域の光では、検体による赤外吸収がより多くなるからである。特に、生体物質を含んだ検体中の被検物質のイメージングや生体内の特定箇所のイメージングに対して本発明の赤外蛍光粒子を用いる場合、周囲には水が存在することが多いので、励起光スペクトルおよび蛍光スペクトルのピーク波長は、水による光の吸収が少ない700〜1300nmの近赤外領域の範囲にあることがより好ましい。更に、励起光の波長と蛍光の波長との差が大きい方が、本発明の赤外蛍光粒子を用いた蛍光強度測定に際して励起光の影響をカットしやすくなることをも考慮すると、励起光スペクトルのピーク波長が700〜1100nmの近赤外領域の範囲にあり、蛍光のスペクトルのピーク波長が850〜1200nmの近赤外領域の範囲にあることが更に好ましい。
【0012】
なお、励起光スペクトルのピーク波長と蛍光スペクトルのピーク波長との差が20nm以下では、フィルタ等により、励起光と蛍光とを分離するのが難しく、仮に分離できたとしても各々の光が重なっている部分はカットせざるを得ず、光量ロスが大きくなるので、励起光スペクトルのピーク波長と蛍光スペクトルのピーク波長との差が20nm以上であることが好ましい。より好ましくは、励起光スペクトルのピーク波長と蛍光スペクトルのピーク波長との差が、50nm以上であり、更に好ましくは100nm以上である。
【0013】
本発明の実施形態において、赤外蛍光粒子を粉末形態として用いる際には各々の赤外蛍光粒子が均一の形状およびサイズを有していることが好ましい。また、かかる赤外蛍光粒子を液体中で用いた検出では、得られる結果のばらつきを抑えるため、赤外蛍光粒子が液体中に均一に分散できるものが好ましい。従って、赤外蛍光粒子の直径の上限は、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは100nm以下である。その一方、赤外蛍光粒子の直径の下限は、製造が可能か否か及び検出できる蛍光強度が得られるか否かによって決まるものであり、一般的には2nm以上が好ましい。以上を踏まえると、赤外蛍光粒子は、2nm〜5μmの粒径を有していることが好ましい。ここでいう「粒径」は、例えば、電子顕微鏡や光学顕微鏡等で拡大した画像から100個の粒子を無作為に選択し、それぞれの粒子について直径を読み取り、これらを平均することによって求めた場合の粒径をいう。ただし、直径が均一でない場合には、最大径と最小径を求めて平均したものを、各粒子の直径とする。なお、赤外蛍光粒子の好ましい粒径は、被検物質または赤外蛍光粒子の形状および種類などに応じて変わり得ることを理解されよう。
【0014】
本発明の赤外蛍光粒子は、無機材料、有機材料、複合材料または錯体等のいずれの材料から形成されてもよい。とりわけ、無機材料から形成された赤外蛍光粒子は、励起光の照射等による蛍光強度の低下が小さく、安定性に優れているため、本発明の赤外蛍光粒子として好ましい。
【0015】
また、本発明の実施形態では、安全面または環境面の点でも好ましい赤外蛍光粒子が望ましい。例えば、金属酸化物系の赤外蛍光粒子は一般に安定性が高く、毒性も低いので本発明の赤外蛍光粒子に好適に使用される。金属酸化物から成る赤外蛍光粒子としては、例えば、遷移金属元素、リン元素および酸素元素を含んで成る化合物が挙げられる。その代表的な化合物としては、Y・Nd・Yb・PO、Lu・Nd・Yb・POおよびLa・Nd・Yb・PO(式中、Y:イットリウム元素、Nd:ネオジム元素、Yb:イッテルビウム元素、Lu:ルテチウム元素、La:ランタン元素、P:リン元素、O:酸素元素)等の化合物が挙げられる。
【0016】
金属酸化物から成る赤外蛍光粒子の中でも特に、一般式A1−x−y Nd Yb PO(式中、AはY,LuおよびLaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素であり;0<x≦0.5;0<y≦0.5および0<x+y<1である)で表される化合物が好ましい。更に、上記一般式A1−x−y Nd Yb POで表される化合物の中でも、100μs以上の残光持続時間を有するものが特に好ましい。なお、ここでいう「残光持続時間」は、励起光照射停止後の蛍光強度が1/10にまで低下するまでの時間を計測することによって得られる時間をいう。
【0017】
本発明の赤外蛍光粒子は生体の一部の特定部位に吸着または結合することができるので、かかる特定部位の検出ができるだけでなく、その特定部位のイメージングが可能となる。しかも、赤外領域の励起光および蛍光は生体物質等に対して高い透過性を有しているので、ある程度深い部位であっても、または、被検物質および赤外蛍光粒子の周囲に種々の他の物質が存在する場合であっても、検出またはイメージングが可能となる。
【0018】
このような理由から、本発明の赤外蛍光粒子には、被検物質に結合することが可能な官能基や物質が含まれている。好ましくは、「被検物質に結合することが可能な官能基や物質」が赤外蛍光粒子に固定化されている。ここでいう「固定化」とは、一般的に、赤外蛍光粒子の表面付近に「被検物質に結合することが可能な官能基や物質」が存在している態様を意味しており、必ずしも「被検物質に結合することが可能な官能基や物質」が赤外蛍光粒子の表面に直接取り付けられている態様のみを意味するものではない。
【0019】
本発明の実施形態において、本発明の赤外蛍光粒子の「被検物質に結合することが可能な官能基」は、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、ニトロ基、スクシンイミド基、マレイミド基、ホルミル基、ヒドラジン基およびトシル基から成る群から選択される少なくとも1種以上の官能基であることが好ましい。この場合、これらの官能基と反応性または親和性を有する官能基等を含む被検物質に、本発明の赤外蛍光粒子が結合または吸着することになる。なお、上記で例示した「被検物質に結合することが可能な官能基」を活性化したものでもよく、例えば、各種触媒や脱水化剤等を添加することによって活性化が可能であり、代表的なものとしては、カルボキシル基に対するカルボジイミド添加やカルボキシル基の酸無水物化、エポキシ基に対する3級アミンやアルコール添加等が挙げられる。
【0020】
また、本発明の実施形態において、本発明の赤外蛍光粒子の「被検物質に結合することが可能な物質」は、シリカ、ヒドロキシアパタイト、リガンド、レセプター、抗原、抗体、ビオチン、アビジン、プロテインA、プロテインG、核酸および糖鎖から成る群から選択される少なくとも1種以上の物質であることが好ましい。この場合も、このような「被検物質に結合することが可能な物質」を介して、本発明の赤外蛍光粒子が被検物質に結合または吸着することになる。
【0021】
上記で例示したような「被検物質に結合することが可能な官能基または物質」が本発明の赤外蛍光粒子に固定化されているので、かかる官能基または物質を介して被検物質に赤外蛍光粒子が結合することになる。かかる被検物質は、いずれの種類の物質であってもかまわないが、好ましくは、生体組織、微生物および細胞から成る群から選択される物質である。かかる被検物質は、生体または混合物等として他の物質と共存している場合が多いので被検物質の周囲には他の物質が存在し得、また、本発明の赤外蛍光粒子がイメージング等で生体内に用いられる場合には、対象となる被検物質の周囲には種々の生体関連物質が存在し得る。このような「被検物質の周囲に存在する物質」としては、例えば、被検物質以外の生体組織、微生物、細胞、血液等の体液、または水等が挙げられる。
【0022】
赤外蛍光粒子に「被検物質と結合可能な官能基」を導入させる手法としては、いかなる方法を用いてもよい。例えばシランカップリング剤を赤外蛍光粒子表面に反応させる方法が用いられる。この場合、赤外蛍光粒子表面に官能基を直接的に反応させてもよいし、予めシリカ等を固定した赤外蛍光粒子表面に官能基を反応させてもよい。シランカップリング剤で取り付けることができる官能基の種類は限定されているので、更に別の物質をシランカップリング剤により導入された官能基に反応させて、それら官能基をより活性の高い状態にしたり、または、別の官能基を赤外蛍光粒子に導入してもよい。なお、シランカップリング剤の代わりにチタンカップリング剤やシラザンを用いてもよい。
【0023】
赤外蛍光粒子表面に吸着または結合する官能基と、導入したい官能基とを併せ持つ物質、例えば両末端アミノ基ポリエチレングリコールまたは一端がアミノ基・他端がカルボキシル基のポリエチレングリコール等の分散剤を固定化してもよい。同様に、最表部に官能基が出るようなミセルまたはリポソームの形状になるように赤外蛍光粒子を形成してもよい。更に、官能基を有するポリマー(例えばポリアリルアミンまたはキトサン等)で赤外蛍光粒子を被覆したり、または、被覆したポリマーに官能基を導入してもよい。また、液体中の赤外蛍光粒子の分散性を向上させるために界面活性剤(例えばTweenまたはTriton等)が、使用する液体に加えられてもよい。
【0024】
同様に、赤外蛍光粒子に「被検物質と結合可能な物質」を固定化させる手法としては、いかなる方法を用いてもよい。例えば、シリカを固定化するには、ゾルゲル法を利用することができる。また、特開2004−031792号に記載されているような被着法も好適に利用することができる。具体的には、例えば、赤外蛍光粒子を分散させた水懸濁液中に好ましい量の珪酸ナトリウムを加えて溶解させた後、酸を加えて中和することによって、赤外蛍光粒子の表面近傍に特定量のシリカを被着形成させることができる。更に、例えばヒドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム系化合物を固定化するには、別の被着法を利用することができる。具体的には、例えば、赤外蛍光粒子を水中に分散させ、これにカルシウム塩水溶液とリン酸塩水溶液とを加え、pHを調整して、赤外蛍光粒子の表面近傍にリン酸カルシウム系化合物を析出させた後、水熱処理を施す。これにより、リン酸カルシウム系化合物を赤外蛍光粒子の表面近傍に被着形成させることができる。
【0025】
なお、金属酸化物等の表面には種々の官能基が存在していると考えられ得るので、抗原、抗体、ビオチン、アビジン、核酸および/または糖鎖等の物質が、赤外蛍光体から成る金属酸化物粒子と単に混ぜ合わされるだけで、かかる金属酸化物粒子の表面に当該物質が結合する場合があり、そのような簡易な手法によっても本発明の赤外蛍光粒子を得ることができる。
【0026】
更には、「被検物質に結合することが可能な物質」に対して高い溶解度を有する溶液条件からその溶解度が低い溶液条件へと移行させることによっても、「被検物質に結合することが可能な物質」を赤外蛍光粒子表面に析出させることも可能である。また、ある種の官能基を赤外蛍光粒子に予め固定させておき、次いで、その官能基に対して「被検物質に結合することが可能な官能基または物質」を結合させるか、または、ある種の官能基を有すると共に赤外蛍光粒子表面に固定可能な性質を有する物質等に対して「被検物質に結合することが可能な官能基または物質」を予め結合させておき、次いで、そのような物質を赤外蛍光粒子表面に固定させると、より確実な固定化を実施できる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されない。
【0028】
《赤外蛍光粒子の合成》
(実施例1)
特許公報3336572号の実施例1に従って、「被検物質に結合することが可能な官能基または物質」が固定化される前の赤外蛍光粒子(以下、「赤外蛍光粒子A」ともいう)を合成した。具体的には、Nd23:3.5g,Yb23:4.0g,Y23:18.0gおよびH3PO4:60.0gから成る原料を十分に混合し、アルミナ製の蓋付きルツボに充填した後、電気炉に入れ、室温から700℃位まで、一定昇温速度で2時間かけて昇温し、その後、700℃で6時間焼成した。焼成終了後、直ちに電気炉から取り出し、空気中で放冷した。次いで、ルツボに100℃の熱湯を入れ、煮沸した。その結果得られた蛍光粒子をルツボから取り出し、1規定の硝酸で洗浄し、水洗し、乾燥を行った。以上の操作により、一般式Nd0.1Yb0.10.8PO4で表される赤外蛍光粒子Aを得た。この赤外蛍光粒子Aは、「被検物質に結合することが可能な官能基または物質」が固定化されていない。赤外蛍光粒子Aでは、励起光スペクトルのピーク波長が約810nmの励起光を照射すると約980nmの蛍光スペクトルのピーク波長が得られた。
【0029】
次いで、得られた赤外蛍光粒子Aの5重量部を水に分散させ、テトラエトキシシラン1重量部およびアンモニア水5重量部を加えて撹拌することによって、粒子表面にシランを析出させた後、遠心分離に付して上澄みを除去した。更に、水を加えて撹拌した後、遠心分離に付して上澄みを除去する洗浄工程を5回繰り返し、最後に100℃で乾燥させた。以上の操作によって、シリカが固定された赤外蛍光粒子を得た。
【0030】
(実施例2)
実施例1の赤外蛍光粒子Aの5重量部を水/エチルアルコール(体積比1/1)に分散させ、アミノ基を有するシランカップリング剤を1重量部混合して1時間撹拌した後、遠心分離に付して上澄みを除去し、次いで120℃で乾燥させた。これにより、アミノ基が固定された赤外蛍光粒子を得た。
【0031】
(実施例3)
アミノ基を有するシランカップリング剤の代わりにエポキシ基を有するシランカップリング剤を用いたこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。これにより、エポキシ基が固定された赤外蛍光粒子を得た。
【0032】
(実施例4)
実施例3で得られたエポキシ基が固定された赤外蛍光粒子1重量部を5重量%エタノールアミン水溶液20重量部に分散させて、一晩撹拌した後、水、アセトンによる洗浄を繰り返し、水酸基が固定された赤外蛍光粒子を得た。次いで、かかる水酸基が固定された赤外蛍光粒子1重量部をピリジン20重量部に分散させ、トシルクロライド0.2重量部を加え一晩撹拌した後、トルエンによる洗浄を4回繰り返した。以上の操作によって、トシル基が固定された赤外蛍光粒子を得た。
【0033】
(実施例5)
実施例2で得られた赤外蛍光粒子の1重量部を水に分散させた後、10mg/mlの水溶性カルボジイミド(1‐エチル‐3‐(3‐ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)100重量部を加えて撹拌した後、遠心分離に付して上澄み除去した。次いで、水を加えて撹拌・遠心分離・上澄み除去する洗浄操作を3回繰り返した。PBSバッファー(PBS:phosphate buffered saline)およびストレプトアビジン0.06重量部を加えて37℃にて2時間反応させた後、遠心分離に付して上澄みを除去し、その後、PBSによる洗浄工程を5回繰り返した。これにより、ストレプトアビジンが固定された赤外蛍光粒子を得た。
【0034】
(実施例6)
実施例3で得られたエポキシ基が固定された赤外蛍光粒子の1重量部をPBS100重量部に分散させた後、ストレプトアビジン0.06重量部を加え一晩撹拌した。次いで、PBSによる洗浄を3回繰り返した。これにより、ストレプトアビジンが固定された赤外蛍光粒子を得た。
【0035】
(実施例7)
実施例4で得られたトシル基が固定された赤外蛍光粒子の1重量部をPBS100重量部に分散させた後、ストレプトアビジン0.01重量部を加えて一晩撹拌した。次いで、PBSによる洗浄を3回繰り返した。これにより、ストレプトアビジンが固定された赤外蛍光粒子を得た。
【0036】
(実施例8)
実施例1の赤外蛍光粒子Aの代わりに実施例1で得られたシリカが固定された赤外蛍光粒子を用いたこと以外は、実施例2と同様な操作を行った。つまり、実施例1で得られたシリカが固定された赤外蛍光粒子5重量部を水/エチルアルコール(体積比1/1)に分散させ、アミノ基を有するシランカップリング剤を1重量部混合して1時間撹拌した後、遠心分離に付して上澄みを除去し、次いで120℃で乾燥させた。これにより、アミノ基が固定された赤外蛍光粒子を得た。
【0037】
(実施例9)
実施例2で得られた赤外蛍光粒子の代わりに実施例8で得られた赤外蛍光粒子を用いたこと以外は、実施例5と同様な操作を行った。つまり、実施例8で得られたアミノ基が固定された赤外蛍光粒子を水に分散させた後、10mg/mlの水溶性カルボジイミド(1‐エチル‐3‐(3‐ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)100重量部を加えて撹拌した後、遠心分離に付して上澄み除去した。次いで、水を加えて撹拌・遠心分離・上澄み除去する洗浄操作を3回繰り返した。次いで、PBSバッファーおよびストレプトアビジン0.06重量部を加えて37℃にて2時間反応させた後、遠心分離に付して上澄み除去し、その後、PBSによる洗浄工程を5回繰り返した。これにより、ストレプトアビジンが固定された赤外蛍光粒子を得た。
【0038】
(比較例1)
表面に何も固定されていない赤外蛍光粒子を得た。つまり、実施例1の過程で得られた赤外蛍光粒子Aを用いた。
【0039】
(比較例2)
表面に何も固定されていない有機系赤外蛍光体を準備した。具体的には、赤外蛍光有機色素であるIRDye800 Conjugated Streptavidinをそのまま用いた。
【0040】
(比較例3)
表面に何も固定されていない可視蛍光体を準備した。具体的には、可視蛍光顔料を含んだシンロイヒカラーベースSW−13をそのまま用いた。
【0041】
実施例1〜9の赤外蛍光粒子および比較例1〜3の材料を用い、生体物質の吸着または結合性を調べた。
【0042】
《結合量および吸着量の確認試験》
(核酸の吸着量の確認試験)
上記の実施例1および比較例1の赤外蛍光粒子に対する核酸(λDNA)の吸着量を確認するために、以下の試験を実施した。なお実施例1の赤外蛍光粒子を用いた場合について説明するが、比較例1の赤外蛍光粒子を用いた場合でも同様の操作となる。
(A)試剤
(イ)実施例1の赤外蛍光粒子を滅菌水に分散させて、0.2mg/mlの分散液を調製した。
(ロ)核酸を単離するための生物試料として、λDNA(ナカライテスク社)を滅菌水で希釈し、10μg/100μlのλDNA溶液を調製した。
(ハ)核酸抽出用溶液として、カオトロピック物質を含む緩衝液であるバッファーA〔7Mグアニジン塩酸塩(ナカライテスク社)、50mMTris−HCl(シグマ社)、pH7.5〕を用いた。
(ニ)洗浄液として、カオトロピック物質を含んだ緩衝液であるバッファーA〔7Mグアニジン塩酸塩(ナカライテスク社)、50mM Tris−HCl(シグマ社)、pH7.5〕を用いた。
(ホ)高濃度の塩を除去するための試剤として、70重量%エタノール溶液と、アセトン溶液を用いた。
(ヘ)実施例1の赤外蛍光粒子に結合した核酸を回収するための溶離液として、滅菌水を用いた。
【0043】
(B)試験操作
(1)λDNA溶液100μlに、核酸抽出用溶液1,000μlを注入し、混合した。
(2)その後、実施例1の赤外蛍光粒子の分散液20μlを加えた。
(3)約2分毎に混合しながら、室温で10分間放置した。
(4)遠心分離により、赤外蛍光粒子をチューブ底部に集めた。
(5)ピペットで溶液を吸引し、排出した。
(6)チューブにグアニジン塩酸塩を含む洗浄液を1cc注入した。
(7)実施例1の赤外蛍光粒子と十分混合したのち、再度、遠心分離を行い、上記と同様にして溶液を廃棄した。
(8)洗浄操作を再度繰り返した。
(9)1ccの70重量%エタノールで上記と同様の方法により、核酸が結合した赤外蛍光粒子を洗浄し、高濃度のグアニジン塩酸塩を取り除いた。
(10)再度、1ccの70重量%エタノールと1ccアセトンで洗浄した。
(11)約56℃のヒートブロックに上記チューブを設置し、約10分間放置して、チューブ内および赤外蛍光粒子内のアセトンを完全に蒸発させて除去した。
(12)上記方法で核酸が結合した赤外蛍光粒子に、100μlの滅菌水を加え、約56℃のヒートブロックに上記チューブを設置し、2分毎に混合操作しながら10分間放置した。
(13)次いで、遠心分離に付し、回収する溶液をピペットで吸引し、別の新しいチューブに移した。通常、回収量は70μl程度とした。
(14)このように回収した核酸について、吸光度計(日本分光製、V−570)を用いることによって、その吸光度(OD 260nm)を測定し、核酸の濃度を求めた。そして、この濃度に回収容量をかけて、核酸回収量を求めることによって、核酸の吸着量を得た。
【0044】
(ストレプトアビジンおよびビオチン化HRPの結合量の確認試験)
実施例5、実施例6、実施例7および実施例9で得られた、ストレプトアビジンが固定化された赤外蛍光粒子の5μgに、20ng/mlのビオチン化HRP(ホース・ラディッシュ・ペルオキシダーゼ)100μlを加えて30分撹拌し、さらにテトラメチルベンジジン(TMB)100μlを加えて30分静置した。1N硫酸200μlで反応を停止させた後、発色の強さを分光光度計(日本分光製、V−570)を用いて波長450nmの吸光度として計測し、濃度既知の試料との比較に基づいて、ストレプトアビジンおよびビオチン化HRPの結合量を求めた。
【0045】
(結合量および吸着量の確認試験の結果)
実施例1〜9で得られた赤外蛍光粒子および比較例1〜3の材料に対する吸着量または結合量の結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1の結果に基づくと、シリカ、アミノ基またはエポキシ基等が固定された本発明の実施例1〜9に基づく赤外蛍光粒子は、これらの物質または官能基が固定化されていない比較例1および3の材料に比べて、各種特定の被検物質を結合または吸着できることが分かった。そして、このことから、本発明の赤外蛍光粒子が、生体物質に結合できること、また、生体もしくはその一部の特定の部位に結合できることが理解されよう。
【0048】
《蛍光スペクトル測定》
次に、各種レーザーおよびSiフォトダイオードを組み合わせて、λDNA、ストレプトアビジンもしくはビオチン化HRPが結合または吸着した赤外蛍光粒子について蛍光強度を測定した。
【0049】
光源には、実施例1〜9については810nmのレーザーを用い、励起光以外の光をフィルタでカットして励起光とし、また、比較例1については810nm、比較例2については780nm、比較例3については532nmのレーザーを用い、励起光以外の光をフィルタでカットして励起光とした。また、蛍光検出にはSiフォトダイオードを用い、各実施例および比較例の励起光をカットし、かつ実施例1〜9については980nm付近、比較例1については980nm付近、比較例2については810nm付近、比較例3については590nm付近の波長領域を透過するフィルタを手前に設置した。
【0050】
実施例1〜9で得られた赤外粒子および比較例1〜3の材料を水に分散または溶解させ、メンブレンフィルタ上に滴下して乾燥させることによって蛍光測定用試料を調製した。そして、かかる試料に対して励起光を照射した。
【0051】
その結果、実施例1〜9および比較例1〜3のいずれにおいても、強い蛍光が認められた。
【0052】
更に、試料の上に薄い牛革を載せて同様の蛍光測定を実施したところ、実施例1〜9および比較例1については、蛍光強度が2桁程度低下するものの蛍光が観測できた。比較例2についても蛍光強度が2〜3桁程度低下したが、これについても蛍光が観測できた。比較例3については蛍光が観測できなかった。
【0053】
また、各試料に810nmのレーザーを照射したところ、実施例1〜9および比較例1および3の各粒子では蛍光強度の低下が認められなかったものの、比較例2の有機蛍光色素では、約5分間の照射で1/3近く蛍光強度が低下した。
【0054】
以上の結果から、金属酸化物系の赤外蛍光粒子の実施例1〜9および比較例1の蛍光は、可視領域の蛍光物質の比較例3の蛍光に比べて透過性が高く、また、有機蛍光色素を用いた比較例2の蛍光に比べて、光照射による蛍光強度の劣化が小さいことも分かった。また、レーザーとフォトダイオードの組み合わせで蛍光強度を観測できることから、これをスキャンすることにより、イメージ画像が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の赤外蛍光粒子に関連する赤外領域(特に近赤外領域)の光は生体物質などに対する透過性が高い。また、本発明の赤外蛍光粒子は、特定の物質に吸着または結合することが可能である。従って、これら特定の物質または特定の物質を有する物体のイメージング等の用途に本発明の赤外蛍光粒子を利用することができる。また、特定の物質に吸着または結合する特性を利用して、特定の物質の検出および定量分析用試薬としても本発明の赤外蛍光粒子を利用することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質に結合することが可能な官能基または物質を有して成り、赤外領域の波長の励起光を照射すると赤外領域の波長の蛍光を放射する、赤外蛍光粒子。
【請求項2】
前記赤外蛍光粒子に対する励起光スペクトルのピーク波長および蛍光スペクトルのピーク波長が近赤外領域の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の赤外蛍光粒子。
【請求項3】
前記赤外蛍光粒子に対する励起光スペクトルのピーク波長が700〜1100nmの範囲にあり、蛍光スペクトルのピーク波長が850〜1200nmの範囲にあることを特徴とする、請求項2に記載の赤外蛍光粒子。
【請求項4】
前記励起光スペクトルのピーク波長と前記蛍光スペクトルのピーク波長との差が、50nm以上であることを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の赤外蛍光粒子。
【請求項5】
前記赤外蛍光粒子が2nm〜5μmの粒径を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の赤外蛍光粒子。
【請求項6】
前記赤外蛍光粒子が金属酸化物から形成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の赤外蛍光粒子。
【請求項7】
前記金属酸化物が、遷移金属元素、リン元素および酸素元素から成ることを特徴とする、請求項6に記載の赤外蛍光粒子。
【請求項8】
前記赤外蛍光粒子が、一般式A1−x−y Nd Yb PO(式中、AはY,LuおよびLaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素であり;0<x≦0.5;0<y≦0.5および0<x+y<1である)で表される金属酸化物から形成されていることを特徴とする、請求項7に記載の赤外蛍光粒子。
【請求項9】
前記被検物質が、生体組織、微生物および細胞から成る群から選択される少なくとも1種以上の被検物質であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の赤外蛍光粒子。
【請求項10】
前記官能基が、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、ニトロ基、スクシンイミド基、マレイミド基、ホルミル基、ヒドラジン基およびトシル基から成る群から選択される少なくとも1種以上の官能基であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の赤外蛍光粒子。
【請求項11】
前記被検物質に結合することが可能な物質が、シリカ、ヒドロキシアパタイト、リガンド、レセプター、抗原、抗体、ビオチン、アビジン、プロテインA、プロテインG、核酸および糖鎖から成る群から選択される少なくとも1種以上の物質であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の赤外蛍光粒子。

【公開番号】特開2007−154066(P2007−154066A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352405(P2005−352405)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】