説明

機能性食品及び機能性食品の製造方法

より自然に近い状態で高血圧抑制効果が得られる乳製品と始めとする機能性食品、具体的には、好ましくはACE阻害活性が9,000unit/g以上であるEMCを配合して、ACE阻害活性が高められた機能性食品を提供する。この機能性食品のACE阻害活性は、製品一日標準摂取量中に5,000unit以上となるようにする。例えば、プロセスチーズ類の場合には、一日摂取量約15gとして、ACE阻害活性が350unit/g以上となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、機能性食品及び機能性食品の製造方法、具体的にはアンジオテンシン変換酵素阻害活性を高めた機能性食品及び当該機能性食品の製造方法に関する。
【背景技術】
高血圧は脳卒中や心臓病の危険因子であり、食餌療法や生活習慣改善、さらには降圧剤服用による薬物療法で治療される。しかしながら、薬物療法には必ず何らかの副作用が伴い、好ましくは薬物療法に頼らないのがよい。その一方で、近年、食品中に存在するペプチドの中には、降圧ペプチドと呼ばれ、高血圧を抑制し血圧を正常な範囲に維持する効果をもつものがあることが、例えば、齋藤忠夫ら(T.Saito,et al.,ゴーダチーズ中の抗高血圧ペプチドの分離及び構造的分析(Isolation and Structural Analysis of Antihypertensive Peptides That Exist Naturally in Gouda Cheese),「酪農科学誌(Journal of Dairy Science)」(米国),2000,Vol.83,No.7,p.1434−1440)やメイゼルら(H.MEISEL,et al.,ミルク製品中のACE阻害活性(ACE−inhibitory activities in milk products),「ミルク情報誌(Milchwissenschaft)」(独国),1997,52(6),p.307−311)、伊藤 整ら(チーズ中のアンジオテンシン変換酵素インヒビター,「医学と生物学」,1987,第115巻,第6号,p.375−377)によって報告されている。そのメカニズムは、当該降圧ペプチドがアンジオテンシン変換酵素(ACE)の作用を阻害することにある。ACEは血液中のペプチドであるアンジオテンシンIを昇圧作用のあるアンジオテンシンIIに変換したり、降圧作用のあるキニンを不活性化する酵素で、昇圧を促す酵素である。また、食品中に存在する降圧ペプチドを添加した高血圧抑制効果の高い飲料も、例えばカルピス株式会社から販売名「アミールS」として市販されている。
チーズ中にも降圧ペプチドが含まれており、ラットを使用した動物実験においてチーズを給餌することで高血圧が抑制されることが確認されている。それ自体日常の食生活に取り入れられているチーズを摂取することで効果があるならば、降圧ペプチドを添加した飲料等より自然な食生活で高血圧を抑制できると言える。そこで、本発明者らが市販プロセスチーズ類のACE阻害活性を測定したところ、その結果は表1の通りとなった。

その一方、乳製品の製造過程において、プロテアーゼやリパーゼなどの酵素を利用する試みが数々行われている。例えば、豊田らの報告(乳製品製造における酵素の利用,「日本酪農科学会誌(Japanese Journal of Dairy and Food Science)」,1985,Vol.34,No6,p.A221−A228)や野崎の報告(新しい技術と素材の面から見たナチュラルフレーバーの開発と利用,「食品と開発」,1986,Vol.21,12,p38−41)、蟹沢の報告(酵素フレーバーの利用,「新食品工業誌(New Food Industry)」,Vol.26,No.11,1984,p,37−41)、ジュディらの報告(Judie D.Dziezak),バイオテクノロジーとフレーバの発達:酪農品における酵素利用(Biotechnology and Flavor Development:Enzyme Modification of Dairy Products),「食品技術(Food Technology)」,April,1986,p.114−120)がある。こうした酵素の利用が種々の降圧ペプチドを産生する可能性もあるが、これらの報告はチーズの熟成を早めたり、チーズやバターの風味付けに利用することを目的とするものでしかない。
しかしながら、チーズの消費量が欧米ほどでない日本では、習慣的に一定量のチーズを毎日摂取し続けるのは定着しにくいことも予想されるうえ、チーズを多く食べ過ぎるとチーズ中の食塩の摂取が逆に高血圧を促進することにもなる。高血圧抑制を目的とする上記清涼飲料(ドリンク)の例では、一日の摂取量をACE阻害活性に換算して5,000unitに設定している。これを表1に示す市販チーズで補うことにすれば、一日の目標摂取量は22〜32gとなる。これは、日本人の平均摂取量である約5.5gに比べてかなり多く、これらの状況からすると現在のプロセスチーズの摂取により高血圧の抑制に寄与するには非常に困難であると言える。また、チーズ以外の乳製品、例えばヨーグルトや乳飲料として摂取できれば、摂取食塩量も少なくて済み、しかもチーズに比べて受け入れやすいと考えられる。なお、チーズ以外の乳製品、例えば牛乳やヨーグルトもACE阻害活性を有することが知られているが、その含有活性量はわずかなものである(上記メイゼルらの報告参照)。
【発明の開示】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであって、本発明の目的とするところは、自然な食生活に近い状態で摂取できる高血圧抑制効果に優れた乳製品類をはじめとする数々の機能性食品を提供することにある。
すなわち、本発明は、酵素処理チーズを含有し、常食により正常血圧値の範囲内に実質的に血圧を抑制可能な程度に製品中のアンジオテンシン変換酵素阻害活性が高められたことを特徴とする機能性食品および常食により正常血圧値の範囲内に実質的に血圧を抑制可能な程度にアンジオテンシン変換酵素阻害活性が高められた機能性食品の製造方法であって、製品中に酵素処理チーズを配合することを特徴とする機能性食品の製造方法である。
具体的には、アンジオテンシン変換酵素阻害活性が、機能性食品一日標準摂取量当たり5,000unit以上とするのがよく、例えば、酵素処理チーズの配合量を1.5%以下として、実質的に酵素処理チーズ由来の特異臭を発生させない量の酵素処理チーズを配合するのがよい。
また、本発明においては、2種以上のプロテアーゼにより処理されたものを用いるか、リパーゼ以外の酵素により処理された酵素処理チーズ、さらに望ましくは、脂肪含量20%以下、かつ、タンパク質含量28%以上のチーズが原料である酵素処理チーズが用いられる。そして、アンジオテンシン変換酵素阻害活性が、9,000unit/g以上ある酵素処理チーズがより好ましく用いられる。
本発明における機能性食品は、好ましくはプロセスチーズ類、発酵乳、乳酸菌飲料、加工乳、乳飲料、アイスクリームなどの乳製品として提供される。
本発明において、機能性食品がプロセスチーズ類として提供される場合には、アンジオテンシン変換酵素阻害活性350unit/g以上であり、アンジオテンシン変換酵素阻害活性が420unit/g以上のナチュラルチーズを原料とするのが好ましい。
さらに好ましくは、ナトリウム含量が、プロセスチーズ類100g中990mg以下であり、また、カリウム含量が、プロセスチーズ類100g中80mg以上150mg以下である。
また、本発明において、機能性食品がヨーグルトとして提供される場合には、アンジオテンシン変換酵素阻害活性50unit/g以上とするのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の目的は、酵素処理チーズ(EMC:Enzyme Modified Cheese)を配合することによってアンジオテンシン変換酵素阻害活性を高めた機能性食品を提供して、普段の食生活習慣の中で高血圧の予防を図ることにある。本発明の機能性食品は、酵素処理チーズを含有し、常食により正常血圧値の範囲内に実質的に血圧を抑制可能な程度に製品中のアンジオテンシン変換酵素阻害活性が高められたことを特徴とするものである。つまり、本発明の機能性食品は、いわゆる特定保健用食品などの血圧降下作用を標榜可能な食品であって、該食品の摂取により血圧の上昇を防ぎ、血圧を正常範囲内に維持する機能を発揮する。この機能を発揮させて前記目的を達成するため、製品一日標準摂取量当り5,000unit以上とすることを具体的な目標とし、そしてこの目標達成のために酵素処理チーズを用いることとしている。なお、本発明においてACE阻害活性は、実施例に記載の方法により測定された値を言う。
本発明における機能性食品として、例えば、乳製品、お茶や紅茶、コーヒー、スポーツドリンクに代表される清涼飲料水、ビタミンやアミノ酸などの栄養素を補給する栄養補助食品、ビスケットやクラッカー等の菓子類その他の嗜好品や加工食品が挙げられる。ここにおいて、乳製品は、プロセスチーズ類、加工乳、発酵乳(ヨーグルト)、乳酸菌飲料、アイスクリームなど乳を原材料とする種々の製品を含む概念である。また、本発明においては酵素処理チーズ(EMC)を添加する関係で、乳製品にはナチュラルチーズは含まれず、ナチュラルチーズ以外のチーズ類、例えばプロセスチーズ、チーズフード、チーズスプレッド、チーズディップ等主原料にチーズを使用する製品すべてが含まれる。また、前記機能性食品の形態は問われず、固形状食品、液状食品、半固形状食品、粉状食品が例示される。
EMCは、グリーンチーズや熟成後あるいは熟成途中のナチュラルチーズ、プロセスチーズにリパーゼや酸性及び中性プロテアーゼなどの微生物、動物由来の各種酵素を添加して熟成を促進させたものである。本発明者らは、ある種のペプチドがACE阻害活性を有し、EMCはタンパク質がチーズよりもさらに分解されているために通常のチーズよりも高血圧抑制効果が強い可能性があることに着目して、本発明を完成させたものである。表2に市販EMCのACE阻害活性を測定した結果を示すが、市販チーズの平均的ACE阻害活性(200〜250unit/g)の10倍前後の阻害活性が確認された。

EMCは、元来チーズその他乳製品の風味の改良や強化に、フレーバー、呈味剤として使用されてきたものであり、熟成月数が短く(通常3ヶ月前後)味の薄い原料チーズを多用する場合に添加される。そのため、一般的には表2に示すような風味が強いものが求められる。しかしながら、本発明の目的からすると、(1)添加量を多くしたい、(2)熟成した原料チーズとともに使用される、(3)添加された食品本来の風味が損なわれないなどの観点から、風味ができるだけ弱く、ACE阻害活性ができるだけ高いものを選択しあるいは別途調製して用いるのが望ましい。特に、EMCは少量でも匂いが強烈なことから、例えば牛乳や清涼飲料水に混合して調製する場合には極力ACE阻害活性の高いものを用いる必要がある。このため、本発明において用いるEMCは、後述するようにACE阻害活性が9,000unit/g以上あるものが望ましい。
また、本発明においては、EMCを種々の食品に添加することを前提とするものであって、高いACE阻害活性だけでなく、風味にも優れたEMCが望まれる。この点に関し、種々のプロテアーゼを組み合わせることで、降圧ペプチド含有量の多いEMCを得ることができる。
プロテアーゼには、アミノ酸配列の切断部位の違いから、エンド型とエキソ型がある。エンド型はタンパク質の途中から切断し、エキソ型はC末端又はN末端から1つずつアミノ酸を切断する。また、プロテアーゼの種類により至適pHや温度、タンパク質分解能、アミノ酸の切断部位が異なる。このことから、エンド型、エキソ型、タンパク質分解能、至適pHや温度の異なるプロテアーゼを2種以上、好ましくは3種以上組み合わせることで、降圧ペプチドを多く産生させることができる。使用可能なプロテアーゼやその組み合わせは特に制限されるものではなく、市販されているプロテアーゼを適宜組み合わせればよい。好ましくはエンド型とエキソ型とを組み合わせる。使用できるプロテアーゼとして、例えば、プロテアーゼNアマノ(天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼSアマノ(同社製)、ニューラーゼA(同社製)、ウマミザイム(同社製)、Flavourzyme 500L(novozymeジャパン株式会社製)、スミチームFP(新日本化学工業株式会社製)、モルシンF(キッコーマン株式会社製)、オリエンターゼ20A(エイチビイアイ株式会社製)などが挙げられる。
酵素処理は、原料となるチーズに上記のプロテアーゼを添加し、使用プロテアーゼに適した条件下にて活性化させることにより行われる。実処理には、2種以上のプロテアーゼを同時に使用したり、各プロテアーゼを順次加え、活性化と不活化を繰り返してもよい。
得られたEMCに多種の脂肪酸が含まれるのは公知であるが、脂肪酸は高血圧抑制に対する寄与は低いと考えられ、風味の観点からも、脂肪酸の生成量が少ないEMCが好適である。従って、EMCの原料となるチーズに脂肪分の少ないチーズを主として使用すれば、通常のナチュラルチーズよりも高いタンパク質含量となり、降圧ペプチド量を増すことができる。また、風味の弱いEMCが得られる。具体的には、通常の脂肪含量のチーズと、低脂肪チーズあるいはスキムチーズを組み合わせ、脂肪含量20%以下、かつ、タンパク質含量28%以上としたチーズを用いることが望ましい。さらに好ましくは、脂肪含量15%以下、かつ、タンパク質含量30%以上とすることが望ましい。ここで、脂肪含量、タンパク質含量は両者とも食品衛生法に規定された方法により測定された値である。
また、従来のEMCの製造には、フレーバー成分となる短鎖脂肪酸をより多く生成させるためにリパーゼを使用していたが、本発明においてはリパーゼを使用しないことが望まれる。これにより強いフレーバーの生成が抑制されるので風味がよりマイルドとなり、プロセスチーズやチーズフード、ヨーグルトその他上記食品類への添加がしやすくなる。こうして、プロテアーゼの組み合わせと、脂肪分が少なくて高タンパク含量のチーズとにより、ACE阻害活性を従来のEMCに比べて約3〜10倍程度にまで引き上げることができ、しかも風味の弱いEMCが得られる。
ここで仮にACE阻害活性250unit/gのナチュラルチーズを原料にし、EMCを1.5w/w%添加したプロセスチーズのACE活性計算値を以下に示す。なお、表3は当該プロセスチーズの配合表である。
市販製品のほぼ標準的なものと考えられるACE阻害活性2,500unit/gのEMCを添加した場合、ACE阻害活性計算値は250unit/gで、表1の市販プロセスチーズと比較して特に高いとは言えない。ところが、EMCのACE阻害活性が9,000unit/gの場合は、製品プロセスチーズのACE阻害活性計算値は347.5unit/g、EMCのACE阻害活性が9,200unit/gの場合は350.5unit/gで、この値は、一日15gのチーズ摂取量で、一日当たりの目標摂取ACE阻害活性量5,000unitを十分に達成できる値である。なお、EMCのフレーバ(脂肪酸量)やそのACE阻害活性によっても異なるが、EMCの配合量は、多くても2%を越えず、好ましくは1.5%以下、望ましくは1.0%以下にするのがよい。
【表3】

本発明においては、機能性食品一日標準摂取量当り5,000unitを目標にして、食品中の必要ACE阻害活性(比活性)が定められる。すなわち、当該食品を一日摂取することにより、5,000unitのACE阻害活性量となるペプチドを摂取しようとするものであって、当然食品ごとに製品単位量当りのペプチド含有量(比活性)は異なることになる。ここで一日標準摂取量とは、本発明においては以下に述べる如く、一般の日本人が一日で常食可能であろうと思われる摂取量を意味し、実際の平均摂取量とは異なるものである。具体的に言えば、チーズであれば一日10〜15g、加工乳であれば一日180〜200ml、発酵乳であれば一日100〜150g、乳酸菌飲料などでは一日所要量(これは使用法によって異なり、例えば一日に一回5倍希釈して飲む場合には30〜40mlが目安となり、一日に二回5倍希釈して飲む場合であれば60〜80mlが目安となる)、アイスクリームでは一日100g程度、清涼飲料水であれば500ml程度である。
もう少し一般的にいうなれば、日本人が一日で摂取すると思われる標準的な量とも言えるものである。例えば、チーズ類を例にとって説明すると、日本人の平均的なチーズ摂取量は約5.5gであるが、5.5gでは製品サイズとしては余りにも小さく、乳タンパクやカルシウム摂取量とのバランスからしても少量である。一方、一個当りの重量が20〜25gである市販チーズも存在するが、この量は平均的な日本人にとって毎日習慣的に摂取するには量が多すぎて食べずらい。従って、今後のチーズ摂取量増加を考慮したとしても、一日摂取量は概ね10〜15gと考えられる。また、加工乳であればその標準的な摂取量は牛乳瓶一日1本であり、その量は180〜200mlである。また、ヨーグルトであれば一日1カップであり、市販品1カップ当り平均約100gなので、その標準摂取量は100gとして考えればよい。なお、この標準的な摂取量はあくまでも目安であり、要は一日の摂取量で5,000unitのACE阻害活性を得るよう、各食品の性格に応じて決定すればよい。
このようにして製品単位量中のACE阻害活性が決定され、例えばプロセスチーズの標準摂取量を10〜15gの設定にすれば、プロセスチーズの必要ACE阻害活性は333〜500unit/gとなり、プロセスチーズ類では少なくとも350unit/g以上、好ましくは500unit/g以上、より好ましくは700unit/gが必要とされる。他のチーズにおいてもプロセスチーズと同様に考え、少なくとも350unit/g以上、好ましくは500unit/g以上、より好ましくは700unit/gに調整される。
また、原料のチーズとして、計算上420unit/g以上のナチュラルチーズを原材料中85%以上使用することによって、EMCを用いることなく前記目標値である350unit/g以上のチーズ類を得ることができるが、EMCを用いることでさらに高いACE阻害活性を有するチーズ類を得ることができる。例えば、表3の例にならい、ACE阻害活性420unit/gである原料ナチュラルチーズに、ACE阻害活性9,000unit/gあるEMCを製品中1.5%添加すれば、製品プロセスチーズのACE阻害活性は計算上492unit/gとなり、これは現在の市販チーズの約2倍以上の数値となる。これにより、チーズの必要摂取量は現行のほぼ半分、すなわち10〜12g程度で十分な高血圧予防効果を得ることができる。このように考えると、EMCのACE阻害活性は少なくとも9,000unit/g以上のものを用いるとよく、できれば12,000unit/g以上、さらに好ましくは14,000unit/g以上のものを用いるのがよい。このような高ACE阻害活性を有するEMCは、上記2種以上のプロテアーゼで原料チーズを処理し、さらに脂肪含量20%以下、かつ、タンパク質含量28%以上のチーズを原料チーズに用いることにより容易に入手できる。
さらに、上記したようにEMCは本来フレーバー付加のために用いられるものであるため、添加しすぎると乳製品の本来の匂いをとおりすぎ、嫌味な匂いや味を醸し出す場合もあるので、その添加量を極端に多くすることが出来ない。従って、例えば、チーズ類の製造においては、上記したように好ましくは420unit/g以上ACE阻害活性がある原料チーズを用いるのがよく、より好ましくは500unit/g、さらに望ましくは700unit/g以上ACE阻害活性があるものを用いるのがよい。
また、プロセスチーズ類の製造においては、原料チーズは複数の種類が組み合わせられる場合が多い。それは風味の調整、熟度の調整、個々のチーズの品質変動の緩和等を目的としている。本発明においても複数の種類を組み合わせることができ、原料チーズトータルとしてのACE阻害活性が420unit/g以上、好ましくは500unit/g以上、より好ましくは700unit/g以上となるように複数の原料チーズを組み合わせることができる。組み合わせるチーズの種類は特に制限されず、チェダー、チェシャー、コルビー、モンテレージャック等のチェダータイプチーズ、ゴーダ、サムソー、マリボー等のゴーダタイプチーズ、エダムタイプチーズ、パルメザン、ロマノ、グラナパダノ等の超硬質チーズ、エメンタール、グリュイエール等のスイスタイプチーズ、カマンベール、ブリー等の白カビチーズ、スティルトン、ロックフォール、ゴルゴンゾーラ、ダナブルー等の青カビチーズ、リンバーガー等の細菌による表面熟成チーズ、クリームチーズ、マスカルボーネ、カッテージ、モッツァレラ等の熟成しないタイプのチーズ、リコッタ等のホエーチーズなどが例示される。
チーズ中に降圧ペプチドが含まれているといってもその量はどのチーズでも同じというわけではない。チーズの種類や熟成日数で異なる。発明者らが上市されている原料用のナチュラルチーズを測定した結果では、熟成しないチーズ(カッテージチーズ、クリームチーズ、クワルク等のフレッシュチーズや未成熟カード)はタンパク質の分解程度が少ないので含有ペプチド量が少なく、高血圧抑制効果が弱いのは当然だが、熟成するタイプのチーズにおいて、チーズ種類、熟成月数が同じでも製造法(メーカー)の違いによって高血圧抑制効果が大きく異なることが分かった。チーズの熟成月数は一応の目安にはなるものの、それだけでは一概に高血圧抑制効果の強さを判断できず、個々のチーズの高血圧抑制効果を測定して選択する必要がある。本発明者らがナチュラルチーズのACE阻害活性を測定した結果の一部を表4に示す。この表からの例では、ニュージーランド産チェダーチーズ、スイス産エメンタールチーズの中に高血圧抑制効果の高いチーズが特異的に存在することが分かり、本発明の目的を達成するには、ニュージランド産チェダーチーズ又はスイス産エメンタールチーズあるいは両者を組み合わせて原料として用いるのが好都合である。また、これら特異的に高血圧抑制効果の高いチーズは、少なくとも420unit/g以上のACE阻害活性を有してはいるが、これらのチーズを使う場合でも好ましくは500unit/g以上、より好ましくは700unit/g以上のものを用いるのがよい。

一方、ナトリウムが血圧を上昇させる作用を持つことはよく知られている。プロセスチーズ中には食塩(製品中1.1〜1.5w/w%)、リン酸塩、クエン酸塩等の溶融塩(製品中2〜2.5w/w%)に主に由来するナトリウムが含まれている。従って、製品プロセスチーズ中のナトリウムを低減させることで降圧ペプチドの持つ高血圧抑制効果をより活かすことができる。標準のプロセスチーズのナトリウム含量はチーズ100g中1,100mg(5訂日本食品成分表による)であり、ナトリウム含量が100g中980mg以下であれば低塩ナトリウム食品として扱われ、高血圧の予防にも好ましい。従って、製品プロセスチーズ中ナトリウム含量を990mg/チーズ100g以下に調整するのがよい。
また、ナトリウム含量は少ないほどよいが、ナトリウムは風味上や細菌的保存性の確保上ある程度の量は必要である。さらに、溶融塩もプロセスチーズの乳化のためには必須の添加物である。従って溶融塩を使用しない訳には行かないので、低ナトリウム化のために、原料プロセスチーズの一部として無塩のナチュラルチーズや低塩ナチュラルチーズを適宜組み合わせることにするのがよい。なお、溶融塩は乳化剤と称される場合もある。
さらに、溶融塩に由来するナトリウムは、溶融塩の一部をナトリウム塩からカリウム塩等に置換することで減らすこともできる。カリウムは血圧を降下させる作用を持つため、カリウム塩への置換は本発明の目的達成には有効な方法である。しかしながら、カリウム塩には独特のえぐ味があるため、カリウムとして150mg/チーズ100g以内になるように使用するのが限度である。ちなみに、通常のプロセスチーズ中のカリウム含量は60mg/チーズ100g前後であり、ナトリウム含量を減らすためにはこれよりも多量にカリウムを含ませる必要がある。そこで、本発明においてはカリウム含量は80mg/チーズ100g以上150mg/チーズ100g以下とするのがよい。
上記ではプロセスチーズを主たる例として説明したが、プロセスチーズ類においては元来チーズ中にACE阻害活性を有するペプチドが多量に存在する一方で、一日摂取量が多くなく、所望の目的を達成できない。他方、ヨーグルトやアイスクリーム、乳飲料などプロセスチーズ類以外の乳製品においては、ACE阻害活性を有するペプチドの存在は少なくても、一日摂取量が比較的多いため、少量のEMCを加えることによって一日当り5,000unitのACE阻害活性量のペプチドを摂取することが可能となる。例えば、表3に示す平均的なEMC(2,500unit/g)を用いたとすれば、一日2g当りのEMCを摂取すれば本願発明の目的を達成することができる。これは例えば乳飲料200mlの摂取では1w/w%の添加で十分であり、ヨーグルト100mlの摂取では、2w/w%の添加量でよいことになる。
しかしながら、この程度の量を添加すればEMCの匂いが勝り商品価値が低下する場合が多い。従って、EMCの匂いを考慮すればヨーグルト中では0.25〜0.5w/w%、多くても1w/w%以下とするのが好ましく、乳飲料中では0.1〜0.5w/w%、多くても1w/w%が限度であると考えられる。とすれば、ヨーグルトや乳飲料などプロセスチーズ類以外の乳製品においても、ACE阻害活性が少なくとも9,000unit/g以上のものを用いるのが好ましく、好ましくは12,000unit/g以上、さらに望ましくは14,000unit/g以上のものを用いるのがよい。もちろん、乳製品中の配合量や用いられるEMCのACE阻害活性はあくまでも目安であり、最終的には匂いや呈味、乳製品の設定摂取量によって定められるのは言うまでもない。これらの乳製品においては、製造工程中、どの段階でEMCを加えて調製してもよく、乳酸菌飲料、発酵乳を調製するにおいては、原料乳にEMCを添加して発酵させてもよい。
また、その他の食品類においても、乳製品類と同様に匂いや呈味、食品の一日摂取量によって適宜配合するEMCの種類(例えばACE阻害活性やEMC原料など)やEMC添加量を決定すればよい。
【実施例】
以下に本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は何ら以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
まず、スキムチーズとエンド型プロテアーゼ(酵素A及び酵素C)及びエキソ型プロテアーゼ(酵素B)を用いて高ACE阻害活性を有するEMCの製造を行った。
〔配合表〕
オーストラリア産スキムチーズ(熟成期間5カ月)
脂肪9.0% タンパク質35.0% 3.0kg
オーストラリア産モッツァレラチーズ(熟成期間5カ月)
脂肪22.1% タンパク質25.9% 2.0kg
デンマーク産スキムチーズ(熟成期間4カ月) 5.0kg
スターター培養液(乳酸菌A) 0.45kg
スターター培養液(乳酸菌B) 0.45kg
酵素A(プロテアーゼNアマノ) 0.03kg
酵素B(Flavourzyme) 0.015kg
酵素C(ウマミザイム) 0.017kg
塩化ナトリウム 0.17kg
クエン酸 0.35kg
水酸化ナトリウム(8N) 0.05L
水 2.93kg
〔製造方法〕
水とミートチョッパーにて粉砕した原料チーズを混合攪拌した。85℃、10分間の殺菌を行った後、予め脱脂粉乳培地で培養した乳酸菌スターター培養液2種類を添加、攪拌し、さらに酵素Aを添加して攪拌した。34℃で48時間、攪拌混合しなから酵素Aを作用させた。その後、pHを下げるためにクエン酸を添加しpH4.1に調製した後、酵素B及びCを添加し混合した。34℃でさらに6日間、混合攪拌しながら酵素を作用させた。酵素Aの作用開始から8日後に分解を終了し、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを5.0に調製し、さらに85℃10分間の加熱により酵素を失活させ、EMCを得た。このもののACE阻害活性は23,396unit/gであり、EMCの特異臭もなく風味も良好であった。なお、乳酸菌には、AL.lactis subsp.lactis、L.cremaris、L.diacetylactisの混合物およびBL.lactis subsp.lactisを用いた。
〔ACE阻害活性の測定〕
(サンプルの前処理)
EMC若しくはチーズ1gにフィルターろ過した純水800mlを加え、ミキサーにて5分間撹拌する。その後、7,000rpmで10分間遠心分離して、水層部分を分取し、沈殿層と上層の油分を取り除く。水層部分をろ過して、サンプル液とする。
(ACE阻害活性の測定)
サンプル液を1Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和する。酵素液(Angiotensin Converting Enzyme:2unit/ml)0.1mlと中和したサンプル液0.04mlを混合し、37℃に加温する。次いで、基質液(HIPPURYL−HIS−LEU;N−Benzoyl−Gly−His−Leu)0.1mlを添加し、よく撹拌する。37℃で60分間保持して反応させる。反応後、1N塩酸を0.13ml添加してよく撹拌し、反応を停止させる。次に、酢酸エチル0.85mlを加えて1分間振とうした後、3,000rpmで10分間遠心分離する。上清0.7mlを回収して、遠心エバポレーターで溶媒を除去する(約30分間)。ここに蒸留水0.5mlを加えて残留物を溶解して、波長228nmにおける吸光度を測定する。そして、以下の式1によりACE活性阻害(unit/g)を求める。なお、式中Aは酵素を用いた場合における対照の吸光度、Bは酵素を用いなかった場合における対照の吸光度、Cは酵素を用いた場合におけるサンプル液の吸光度、Dは酵素を用いなかった場合におけるサンプル液の吸光度である。また、対照にはサンプル液の替わりに水を用いた。
【式1】

【実施例2】
同じく、スキムチーズとエンド型プロテアーゼ(酵素A及び酵素C)及びエキソ型プロテアーゼ(酵素B)を用いて高ACE阻害活性を有するEMCの製造を行った。なお、製造方法は実施例1と同様である。
〔配合表〕
デンマーク産スキムチーズ(熟成期間4カ月)
脂肪5.0% タンパク質39.7% 5.0kg
スターター培養液(乳酸菌A) 0.45kg
スターター培養液(乳酸菌B) 0.45kg
酵素A(プロテアーゼSアマノ) 0.03kg
酵素B(ニューラーゼA) 0.015kg
酵素C(ウマミザイム) 0.017kg
塩化ナトリウム 0.17kg
クエン酸 0.35kg
水酸化ナトリウム溶液(8N) 0.05L
水 2.93kg
得られたEMCのACE阻害活性は19,912unit/gであり、EMCの特異臭もなく風味も良好であった。
【実施例3】
同じく、スキムチーズとエンド型プロテアーゼ(酵素A)及びエキソ型プロテアーゼ(酵素B)を用いて高ACE阻害活性を有するEMCの製造を行った。
〔配合表〕
デンマーク産スキムチーズ(熟成期間4カ月)
脂肪5.0% タンパク質39.7% 5.0kg
スターター培養液(乳酸菌A) 0.45kg
スターター培養液(乳酸菌B) 0.45kg
酵素A(プロテアーゼNアマノ) 0.3kg
酵素B(スミチームFP) 0.3kg
塩化ナトリウム 0.17kg
クエン酸 0.35kg
水酸化ナトリウム溶液(8N) 0.05L
水 2.93kg
〔製造方法〕
水とミートチョッパーにて粉砕した原料チーズを混合攪拌した。85℃、10分間の殺菌を行った後、予め脱脂粉乳培地で培養した乳酸菌スターター培養液2種類を添加、攪拌し、さらに酵素Aを添加して攪拌した。34℃で48時間、攪拌混合しなから酵素Aを作用させた。その後、pHを下げるためにクエン酸を添加しpH4.1に調製した後、酵素Bを添加し混合した。34℃でさらに6日間、混合攪拌しながら作用させた。酵素Aの作用開始から8日後に分解を終了し、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを5.0に調製し、さらに85℃10分間の加熱により酵素を失活させ、EMCを得た。このもののACE阻害活性は19,528unit/gであり、EMCの特異臭もなく風味も良好であった。
【実施例5】
ニュージーランド産チェダーチーズ(熟成月数12ヶ月、ACE阻害活性940unit/g)を原料チーズとし、ACE阻害活性約19,000unit/gのEMCを添加して以下の製造方法によりプロセスチーズを調整した。配合割合は次の通りである。
〔配合表〕
ニュージランド産チェダーチーズ 8.0kg
EMC 0.05kg
溶融塩(トリポリリン酸ナトリウム) 0.2kg
水(加温のための蒸気を含む) 1.75kg
〔製造方法〕
チーズは予めミートチョッパで粗く粉砕しておく。20リットル容ケットル型ニーダーに原料を全て投入し(ただし、水の量は加温のための蒸気量を除いた量とする)、120rpmの回転数で撹拌しながら蒸気を吹き込み約10分間で85℃まで加温した。溶けて流動性を持つようになったチーズを200gずつ容器に採取し、密封して5℃の冷蔵庫で一晩冷却した。このものはEMCの特異臭もなく、風味、組成は良好であった。また、下記のとおり、ACE阻害活性を測定したところ660unit/gであり、市販プロセスチーズに比較してACE阻害活性が十分に高められたプロセスチーズを製造できた。
【実施例6】
ニュージーランド産ゴーダチーズ(熟成月数6ヶ月、ACE阻害活性170unit/g)を原料チーズとして、ACE阻害活性約21,000unit/gのEMCを添加してプロセスチーズを調整した。なお、製造方法は実施例5と同様である。
〔配合表〕
ニュージランド産ゴーダチーズ 8.5kg
EMC 0.1kg
溶融塩(ポリリン酸ナトリウム) 0.1kg
溶融塩(リン酸水素二ナトリウム) 0.1kg
水(加温のための蒸気を含む) 1.2kg
このものはEMCの特異臭もなく、風味、組織は良好であった。また、ACE阻害活性を測定したところ370unit/gであり、市販プロセスチーズに比較してACE阻害活性が十分に高められたプロセスチーズを製造できた。
【実施例7】
国産ゴーダチーズ(熟成月数6ヶ月、ACE阻害活性240unit/g)を原料チーズとして、ACE阻害活性14,000unit/gのEMCを添加してプロセスチーズを調整した。なお、製造方法は実施例5と同様である。
〔配合表〕
国産ゴーダチーズ 6.5kg
EMC 1.5kg
溶融塩(ポリリン酸ナトリウム) 0.15kg
溶融塩(クエン酸ナトリウム) 0.05kg
水(加温のための蒸気を含む) 1.2kg
このものはEMCの特異臭もなく、風味、組織は良好であった。また、ACE阻害活性を測定したところ360unit/gであり、市販プロセスチーズに比較してACE阻害活性が十分に高められたプロセスチーズを製造できた。
【実施例8】
ニュージーランド産チェダーチーズ(熟成月数7ヶ月、ACE阻害活性709unit/g、食塩含量2.0w/w%)を原料チーズとして、ACE阻害活性18,000unit/gのEMCを添加してプロセスチーズを調整した。なお、製造方法は実施例5と同様である。
〔配合表〕
ニュージーランド産チェダーチーズ 8.0kg
EMC 0.1kg
溶融塩(ポリリン酸ナトリウム) 0.15kg
溶融塩(ポリリン酸カリウム) 0.05kg
水(加温のための蒸気を含む) 1.7kg
このものはEMCの特異臭もなく、風味、組織は良好であった。また、ACE阻害活性を測定したところ750unit/gであり、市販プロセスチーズに比較してACE阻害活性が十分に高められたプロセスチーズを製造できた。また、このもののナトリウム含量は、860mg%であり、カリウム含量は120mg%であった。
【実施例9】
ニュージーランド産チェダーチーズ(熟成月数17ヶ月、ACE阻害活性1141unit/g、食塩含量2.0w/w%)と、塩味低減のためニュージーランド産低塩チェダーチーズ(熟成月数0.5ヶ月、ACE阻害活性140unit/g、食塩含量0.5%)を原料チーズとして、ACE阻害活性18,000unit/gのEMCを添加してプロセスチーズを調整した。なお、製造方法は実施例5と同様である。
〔配合表〕
ニュージーランド産チェダーチーズ 6.5kg
ニュージーランド産低塩チェダーチーズ 1.5kg
EMC 0.1kg
溶融塩(ポリリン酸ナトリウム) 0.2kg
水(加温のための蒸気を含む) 1.7kg
このものはEMCの特異臭もなく、風味、組織は良好であった。また、ACE阻害活性を測定したところ650unit/gであり、市販プロセスチーズに比較してACE阻害活性が十分に高められたプロセスチーズを製造できた。また、このもののナトリウム含量は、950mg%であった。
【実施例10】
ニュージーランド産チェダーチーズ(熟成月数7ヶ月、ACE阻害活性709unit/g、食塩含量2.0w/w%)及びスイス産エメンタールチーズ(熟成月数9ヶ月、ACE阻害活性525unit/g、食塩含量1.8w/w%)を原料チーズとし、ACE阻害活性15,000unit/gのEMCを添加してチーズスプレッドを調整した。なお、製造方法は実施例5と同様である。
〔配合表〕
ニュージーランド産チェダーチーズ 4.0kg
スイス産エメンタールチーズ 2.0kg
植物性油脂(ナタネ油) 0.1kg
EMC 1.1kg
溶融塩(ポリリン酸ナトリウム) 0.15kg
溶融塩(ポリリン酸カリウム) 0.05kg
水(加温のための蒸気を含む) 2.7kg
このものはEMCの特異臭もなく、風味、組織は良好であった。また、ACE阻害活性を測定したところ550unit/gであり、市販プロセスチーズに比較してACE阻害活性が十分に高められたプロセスチーズを製造できた。また、このもののナトリウム含量は、850mg%であり、カリウム含量は120mg%であった。
【実施例11】
EMCを添加したプレーンヨーグルトの調整を行った。すなわち、L.bulgaricus JCM 1002T、S.thermophilus ATCC 19258をそれぞれ10w/v%脱脂粉乳培地に1w/w%宛て摂取し、37℃で15時間培養してバルクスタータを調整した。次に表5に示すように、ACE阻害活性15,000unit/gのEMCを所定量、牛乳80w/w%、脱脂粉乳2w/w%、水を所定量加え、65℃で150kg/cmの圧力で均質化した。このミックスを95℃、5分間殺菌後、43℃まで冷却し、これに先のバルクスタータ2w/w%宛て摂取した後、殺菌済みの容器に100g宛て無菌充填した。43℃で4時間発酵させ、発酵終了後は5℃で冷却を行った。これらヨーグルトの試験結果(ACE阻害活性の測定は、上記方法に準じて行った。)は、表5に示す通りであった。

これらのヨーグルトにおいても、十分にACE阻害活性を高められ、本ヨーグルト100mlの摂取によって一日当たり5,000unitのACE阻害活性を十分に摂取できることが確認された。
本発明によれば、現行品よりも高血圧抑制効果が十分に高められた種々の乳製品が提供され、日常の食生活習慣の中で自然と血圧をコントロールできるようになる。特に低ナトリウム化されたプロセスチーズは、ナトリウム塩の摂取量をコントロールし、血圧のコントロールにより大きく寄与する。また、ACE阻害活性が高い酵素処理チーズ(EMC)は、乳製品中への含有量を少なくして、EMC特有の匂いも抑え、従来の乳製品と同様に摂取可能な乳製品を提供する。また、本発明によれば、乳製品以外にも、EMCの配合によりACE阻害活性が高められた種々の機能性食品が提供され、日常の食生活習慣の中で自然と血圧がコントロールされるようになるのは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素処理チーズを含有し、常食により正常血圧値の範囲内に実質的に血圧を抑制可能な程度に製品中のアンジオテンシン変換酵素阻害活性が高められたことを特徴とする機能性食品。
【請求項2】
アンジオテンシン変換酵素阻害活性が、機能性食品一日標準摂取量当たり5,000unit以上であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の機能性食品。
【請求項3】
酵素処理チーズの配合量が1.5%以下であって、実質的に酵素処理チーズ由来の特異臭を発生しない量であることを特徴とする請求の範囲第1〜2項に記載の機能性食品。
【請求項4】
前記酵素処理チーズは、2種以上のプロテアーゼにより処理されたものであることを特徴とする請求の範囲第1〜3項のいずれかに記載の機能性食品。
【請求項5】
前記酵素処理チーズは、リパーゼ以外の酵素により処理されたものであることを特徴とする請求の範囲第1〜4項のいずれかに記載の機能性食品。
【請求項6】
前記酵素処理チーズは、脂肪含量20%以下、かつ、タンパク質含量28%以上のチーズが原料であることを特徴とする請求の範囲第1〜5項のいずれかに記載の機能性食品。
【請求項7】
前記酵素処理チーズのアンジオテンシン変換酵素阻害活性が、9,000unit/g以上あることを特徴とする請求の範囲第1〜6項のいずれかに記載の機能性食品。
【請求項8】
前記機能性食品は、プロセスチーズ類、発酵乳、乳酸菌飲料、加工乳、乳飲料、アイスクリームなどの乳製品であることを特徴とする請求の範囲第1〜7項のいずれかに記載の機能性食品。
【請求項9】
前記機能性食品は、アンジオテンシン変換酵素阻害活性350unit/g以上のプロセスチーズ類であることを特徴とする請求の範囲第8項に記載の機能性食品。
【請求項10】
アンジオテンシン変換酵素阻害活性が420unit/g以上のナチュラルチーズを原料としたことを特徴とする請求の範囲第9項に記載の機能性食品。
【請求項11】
ナトリウム含量が、プロセスチーズ類100g中990mg以下であることを特徴とする請求の範囲第9〜10項のいずれかに記載の機能性食品。
【請求項12】
カリウム含量が、プロセスチーズ類100g中80mg以上150mg以下であることを特徴とする請求の範囲第9〜11項のいずれかに記載の機能性食品。
【請求項13】
前記機能性食品は、アンジオテンシン変換酵素阻害活性50unit/g以上のヨーグルトであることを特徴とする請求の範囲第8項に記載の機能性食品。
【請求項14】
常食により正常血圧値の範囲内に実質的に血圧を抑制可能な程度にアンジオテンシン変換酵素阻害活性が高められた機能性食品の製造方法であって、製品中に酵素処理チーズを配合することを特徴とする機能性食品の製造方法。
【請求項15】
製品一日標準摂取量当たり5,000unit以上にすることを特徴とする請求の範囲第14項に記載の機能性食品の製造方法。
【請求項16】
配合量が1.5%以下であって、実質的に酵素処理チーズ由来の特異臭を発生しない程度の酵素処理チーズを添加することを特徴とする請求項14〜15に記載の機能性食品の製造方法。
【請求項17】
2種以上のプロテアーゼにより処理して得た酵素処理チーズを用いることを特徴とする請求の範囲第14〜16項のいずれかに記載の機能性食品の製造方法。
【請求項18】
リパーゼ以外の酵素により処理した酵素処理チーズを用いることを特徴とする請求の範囲第14〜17項のいずれかに記載の機能性食品の製造方法。
【請求項19】
脂肪含量20%以下、かつ、タンパク質含量28%以上のチーズを原料とした酵素処理チーズを用いることを特徴とする請求の範囲第14〜18項のいずれかに記載の機能性食品の製造方法。
【請求項20】
アンジオテンシン変換酵素阻害活性が9,000unit/g以上ある酵素処理チーズを用いることを特徴とする請求の範囲第14〜19項のいずれかに記載の機能性食品の製造方法。
【請求項21】
前記機能性食品が、アンジオテンシン変換酵素阻害活性350unit/g以上のプロセスチーズ類である請求の範囲第14〜20項のいずれかに記載の機能性食品の製造方法。
【請求項22】
前記酵素処理チーズの他に原料としてアンジオテンシン変換酵素活性が420unit/g以上のナチュラルチーズを少なくとも1種以上用いることを特徴とする請求の範囲第21項に記載の機能性食品の製造方法。
【請求項23】
前記原料であるナチュラルチーズとして低塩若しくは無塩ナチュラルチーズを用い、得られるプロセスチーズ類のナトリウム含量をプロセスチーズ100g中990mg以下とすることを特徴とする請求の範囲第21〜22項のいずれかに記載の機能性食品の製造方法。
【請求項24】
原料である溶融塩にカリウム塩を用い、得られるプロセスチーズ類のナトリウム含量をプロセスチーズ100g中990mg以下とすることを特徴とする請求の範囲第21〜23項のいずれかに記載の機能性食品の製造方法。
【請求項25】
得られるプロセスチーズ類のカリウム含量をプロセスチーズ100g中80mg以上150mg以下とすることを特徴とする請求の範囲第21〜24項に記載の機能性食品の製造方法。
【請求項26】
前記機能性食品が、アンジオテンシン変換酵素阻害活性50unit/ml以上のヨーグルトであることを特徴とする請求の範囲第14〜20項のいずれか記載の機能性食品の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/047543
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555017(P2004−555017)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014954
【国際出願日】平成15年11月21日(2003.11.21)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】