機能性RNA−蛋白質複合体の分子デザイン
【課題】任意の蛋白質を、RNA基盤上に、蛋白質およびRNAなどの基盤の機能構造を損なわずに固定する手法を提供する。
【解決手段】RNA−蛋白質複合体1相互作用モチーフ由来の塩基配列(boxB配列、RRE配列)23,24を有する基盤RNA2と、蛋白質(Nペプチド、Rev蛋白質)30,40と前記塩基配列に非共有結合的に、かつ特異的に結合するRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列31,41とを含む融合蛋白質3,4とを含んでなるRNA−蛋白質複合体1。
【解決手段】RNA−蛋白質複合体1相互作用モチーフ由来の塩基配列(boxB配列、RRE配列)23,24を有する基盤RNA2と、蛋白質(Nペプチド、Rev蛋白質)30,40と前記塩基配列に非共有結合的に、かつ特異的に結合するRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列31,41とを含む融合蛋白質3,4とを含んでなるRNA−蛋白質複合体1。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNA−蛋白質複合体、およびRNA上への蛋白質の固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポストゲノム時代となった現在、多くのゲノム情報が蓄積されており、我々はそれらを利用できる状況にある。また、DNAや蛋白質を網羅的に解析するDNAアレイやプロテインアレイなどが普及し、医療などへの応用が望まれている。
【0003】
RNA構造生物学の発展により、RNAの複雑な立体構造には階層性があり、それぞれが特定の機能を有するモジュールに分割できる事が示唆されてきた。その知見に基づき、RNAのモジュールを人工的に組み合わせ新たな機能性分子を構築する「モジュラーエンジニアリング」と、「in vitro selection法」を併用し、高いライゲーション活性を有するリボザイム(DSL)が創製された(非特許文献1を参照)。さらに近年、生体内のリボソームに代表されるRNA−蛋白質複合体(RNP)の高度な機能は、その構造に基づいている事が明らかになってきた。
【0004】
いっぽう、蛋白質が機能を発揮する場合、他の蛋白質と結合して複合体を形成していることが多い。特に、その機能を複数同時に調節しようとする時には、蛋白質間の相対位置すなわち距離や配向は厳密に制御されている。その顕著な例が、細胞内のシグナル伝達系で見られる。分裂促進因子によって活性化されるタンパクキナーゼはMAPK(mitogen−activatedprotein kinase)と呼ばれている。MAPKの完全な活性化にはトレトニンとチロシンのリン酸化が必要であるが、このリン酸化を触媒するキナーゼはMAPKKと呼ばれており、さらにこのキナーゼもMAPKKKと呼ばれる酵素によってリン酸化され活性化される。活性化したMAPKは他のタンパクキナーゼや遺伝子調節蛋白質などをリン酸化し、下流にシグナルを伝える。この三つのキナーゼは足場蛋白質に結合している。足場蛋白質が無い状態では、キナーゼは自由に拡散し、ランダムあるいは非特異的な活性化で、シグナル伝達効率が低下する。足場蛋白質存在化では、基質の活性化が容易になり、特異的なシグナルカスケードを引き起こす。また、足場蛋白質の構造がアロステリックに変化し、さらにシグナル伝達が活性化されたり、足場蛋白質が細胞膜のアダプター蛋白質と結合し、部位特異的に機能したりもしている。この種の相互作用を解析するには、蛋白質間の距離や配向を調節し、制御する必要がある。
【0005】
蛋白質を基盤上に並べる技術は、蛋白質を網羅的に解析するプロテインアレイの普及とともに必要不可欠なものとなってきた。現在では、蛋白質の末端にタグをつけプレート上の分子と結合させる方法、ガラスや特殊な膜を用いて固定する方法が一般的である。しかし、蛋白質の機能を損なわず基盤上に固定することは非常に困難である。また、思い通りの場所に並べることができたとしても、ほとんどの場合が二次元的であり、蛋白質間の相対位置を調節したような三次元的なものではない。
【0006】
一方近年、生体内で機能する様々なノンコーディングRNAが発見され、その役割に注目が集まっている。しかしながらこれらRNAは生体内で多くの場合、蛋白質と複合体(RNP)を形成している。このことから、人工RNPは、細胞機能を制御できる新しいナノブロックとして期待されている。天然に存在するRNPは、比較的短い配列から構成されるRNA−蛋白質相互作用モチーフ(RNP motif)を利用して、多くの複合体を形成していることがわかる。例えばHIV Rev蛋白質は、Revを認識するRNAモチーフと、高い親和性で相互作用している。これらRNP相互作用モチーフを効果的に抽出し、リボザイム上に配置することで、RNA結合蛋白質存在下でのみ触媒活性をもつ、人工RNP酵素の作成に成功した研究も存在する(非特許文献2を参照)。したがってRNPは、シンセティックバイオロジー(生体分子を人工的に創り出す作業を通して生体分子や生命システムを再構築し、新しいテクノロジーを誘発する分野)研究の素材としての利用が期待されている(非特許文献3を参照)。
【非特許文献1】Ikawa et al.Proc Natl Acad Sci U S A.;101(38):13750−5, 2004
【非特許文献2】Atsumi et al. EMBO Journal, 20, 5453, 2001
【非特許文献3】Saito et al. Journal of Biotechnology,132,1,1−7 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
蛋白質を、RNA基盤上に、蛋白質およびRNA基盤の機能及び構造を損なわずに固定する手法は、いまだに確立されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明は、一実施の形態によれば、RNA−蛋白質複合体であって、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を有する基盤RNAと、蛋白質と、前記塩基配列に非共有結合的にかつ特異的に結合する天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列とを含む融合蛋白質とを含んでなる。
本発明において、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列とは、RNA−蛋白質複合体における、RNAと蛋白質との相互作用部位の、RNA側の塩基配列をいう。また、本発明において、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列とは、RNA−蛋白質複合体における、RNAと蛋白質との相互作用部位の、蛋白質側のアミノ酸配列をいう。
【0009】
前記RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフが天然に存在するRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフであることが好ましい。
【0010】
前記RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフが試験管内進化法により得られた人工的なRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフであることが好ましい。
【0011】
前記基盤RNAが機能性RNAであり、前記蛋白質が機能性蛋白質であり、前記RNA−蛋白質複合体が多機能性複合体であることが好ましい。
【0012】
前記融合蛋白質が、前記蛋白質と、前記アミノ酸配列との間にさらにリンカーを含んでなることが好ましい。
【0013】
前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列が、バクテリオファージλ由来のboxB配列であり、前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列が、バクテリオファージλ由来のNペプチド配列であることが好ましい。
【0014】
前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列が、HIV由来のRRE配列であり、前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列が、HIV蛋白質由来のREV配列であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は別の実施形態によれば、RNA上への蛋白質の固定化方法であって、天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列と、天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列との組み合わせを選択する工程と、前記アミノ酸配列を有する蛋白質とは異なる蛋白質に、前記選択する工程で選択したアミノ酸配列を結合し、融合蛋白質を調製する工程と、前記選択する工程で選択した塩基配列を導入した基盤RNAを調製する工程と、前記融合蛋白質と、前記基盤RNAとを混合する工程とを含む。
【0016】
前記固定化方法において、前記蛋白質が複数含まれている場合に、前記蛋白質間の距離及び/または配向性を三次元的に制御することが好ましい。また、前記三次元的な制御が、基盤RNAの配列及び/または骨格を変換することにより実施されることが好ましい。さらには、前記三次元的な制御が、蛍光共鳴エネルギー移動現象の観察結果に基づいて、基盤RNAの配列及び/または骨格を変換することにより実施されることが好ましい。
【0017】
本発明はまた別の実施形態によれば、蛍光共鳴エネルギー移動現象を観察することによる、RNA−蛋白質複合体の検出方法である。
【0018】
本発明はさらにまた別の実施形態によれば、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列をもつ任意の蛋白質を任意の順序で、基盤RNA上に配置する方法である。
【0019】
本発明はさらにまた別の実施形態によれば、前記RNA−蛋白質複合体の、RNAの構造を制御することにより、RNA上に固定化した蛋白質の機能や立体配置を制御する方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の効果として、目的の機能及び構造をもつ人工RNA上に目的の蛋白質を固定化したRNA−蛋白質複合体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明を、実施形態を挙げて詳細に説明する。
本発明者らは天然のRNA−蛋白質間相互作用に着目し、これらを活用することによって、蛋白質を基盤上に並べる従来の手法では困難とされる、蛋白質およびRNA双方の機能及び構造を損なわずに3次元的にそれらの距離や配向を制御する方法を構築し、本発明を完成するに至った。
【0022】
本発明は第一実施形態によれば、RNA−蛋白質複合体であって、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を有する基盤RNAと、蛋白質と、前記塩基配列に非共有結合的に、かつ特異的に結合するRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列とを含む融合蛋白質とを含んでなる。
【0023】
図1は、本発明のRNA−蛋白質複合体を示す概念図である。図1中、RNA−蛋白質複合体1は、基盤RNA2と、二つの融合蛋白質3、4とから構成されている。基盤RNA2は、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列23、24を備えている。融合蛋白質3、4は、それぞれ、蛋白質30、40と、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列31、41と、リンカー32、42とから構成されている。
【0024】
基盤RNA2は、本実施形態におけるRNA−蛋白質複合体において、蛋白質を固定する足場となるRNAである。基盤RNA2は、特別な機能や構造を有さず、足場としての機能のみを有するRNAでもよく、特定の性質を有することが知られている既存のRNA由来の配列を有していてもよく、人工的に合成した所望の特性を有するものでもよい。したがって、例えば、セルフフォールディングする強固な構造を有するRNAでもよい。また、例えば、がん細胞表面の抗原を認識するRNAなどの、特定の機能を有する機能性RNAを基盤RNAとすることもできる。本実施形態に用いることができる基盤RNA2の具体例としては、type−E RNA及び、type−B RNAが挙げられるが、これらには限定されない。
【0025】
基盤RNA2には、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列23、24を設ける。本発明において、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列とは、天然の、既知のRNA−蛋白質複合体における、RNAと蛋白質との相互作用モチーフの、RNA側の配列として知られている塩基配列と、試験管内進化法により得られた人工的なRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフにおけるRNA側の配列である塩基配列とが含まれる。
【0026】
天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列は、通常、約10〜50塩基で構成されており、特定の蛋白質の特定のアミノ酸配列と、非共有結合的に、すなわち水素結合により、特異的な結合を形成することが知られている。このような天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列は、以下の表1及び表2、及びウェブサイト上で利用できるデータベース:http://gibk26.bse.kyutech.ac.jp/jouhou/image/dna−protein/rna/rna.htmlから選択することができる。天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列は、通常、基盤RNA2とは異なるRNA由来の配列である。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
人工的なRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフは、試験管内進化法により得ることができる。具体的には、試験管内進化法は、様々な配列多様性をもつ分子ライブラリーから、機能性RNAを選別し、その遺伝子(DNA)を増幅、転写するといった反応を繰り返すことで、目的基質に特異的に結合するアプタマーや触媒活性をもつリボザイムを得ることができる。試験管内進化法で得られたRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフの例としては、以下の表3に記載のものを挙げることができる。また、データベースとして、アプタマーデータベース:http://aptamer.icmb.utexas.edu/が、具体的なモチーフ名としては、Bcl−2ファミリーCED−9結合RNAアプタマー由来のモチーフR9−2; GGGUGCUUCGAGCGUAGGAAGAAAGCCGGGGGCUGCAGAUAAUGUAUAGCが、文献としては、Yang C, et al., J Biol Chem. 2006 ;281(14):9137−44.が挙げられるが、これらには限定されない。
【0030】
【表3】
【0031】
RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列23、24を導入する基盤RNA2上の位置は、所望の位置とすることができる。基盤RNA2として、人工のRNA配列を用いる場合には、塩基配列23、24を導入する基盤RNA2上の位置は自由に設計することができる。いっぽう、基盤RNA2自体が特定の機能及び構造を有しており、それを保持する必要がある場合には、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列23、24を導入する位置は、RNA2の機能構造を保持できる位置をコンピュータモデリングにより予測し、これをRNA−蛋白質相互作用の親和性を検出する実験(EMSA、SPR実験など)により検証することにより決定することができる。
【0032】
図1においては、基盤RNA2上に、二つの異なるRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列23、24を導入しているが、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列の数は、複合体を形成させたい所望の融合蛋白質の数によって決定することができる。例えば、同一の二つの融合蛋白質と基盤RNA2との複合体を形成させる場合には、基盤RNA2上に、同一の二つのRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列23、24を導入することができる。
【0033】
融合蛋白質3、4は、蛋白質30、40と、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列31、41と、所望により、リンカー32、42とから構成することができる。蛋白質は、基盤RNA2上に固定したい所望の蛋白質とすることができる。具体的には、特定の機能を有する蛋白質、蛍光、発光などの検出に利用できる蛋白質、特定の基質に特異的に結合する蛋白質、アポトーシスを誘導する蛋白質、酵素、抗体などを用いることができるが、これらには限定されない。
【0034】
本発明において、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列とは、天然の、既知のRNA−蛋白質複合体における、RNAと蛋白質との相互作用モチーフの、蛋白質側の配列として知られているアミノ酸配列と、試験管内進化法により得られた人工的なRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフにおける蛋白質側の配列であるアミノ酸配列とが含まれる。
【0035】
天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列は、通常、約10〜100アミノ酸で構成されており、特定のRNA上の特定の塩基配列と、非共有結合的に、すなわち水素結合により、特異的な結合を形成することが知られている。このような天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列は、上述の表1及び表2、及び上述のウェブサイト上で利用できるデータベースから選択することができる。人工的なRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列は、前記試験管内進化法により得られたものを用いることができる。
【0036】
このようなRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列を選択する場合には、上記基盤RNA2上に設けるRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列との組み合わせで選択する。特定の組み合わせによってのみ、特異的な結合を生じさせることができるためである。融合蛋白質に導入する天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列は、通常、融合蛋白質を構成する蛋白質とは異なる蛋白質に由来する。
【0037】
所望の場合には、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列と蛋白質との間に、リンカーを挿入することもできる。リンカーは、特に蛋白質と基盤RNAとの距離及び/又は配向を制御するために好ましく用いられる。具体的なリンカーとしては、当業者には既知のリンカー、例えば、へリックス構造を安定化するアラニンに富むリンカーや、蛋白質の構造をフレキシブルにするグリシンに富むリンカーを用いることができるが、これらには限定されない。具体的なリンカーの化学構造は、へリックス構造を安定化するAAAAを含む構造、蛋白質の構造をフレキシブルにするGGGGを含む構造などがある。
【0038】
具体的な、天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列と、天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列との組み合わせは、例えば、塩基配列がバクテリオファージλ由来のboxB配列であり、アミノ酸配列が、バクテリオファージλ由来のラムダN配列である組み合わせ、塩基配列が、HIV RNA由来のRRE配列であり、アミノ酸配列が、HIV蛋白質由来のREV配列である組み合わせとすることができるが、これらには限定されない。また、BoxC/Dと、L7Ae由来のアミノ酸配列との組み合わせも非常に好ましい。すなわち、L7Ae(Moore T et al., Structure Vol. 12, pp. 807−818 (2004))が結合する塩基配列である、5’GGGCGUGAUGCGAAAGCUGACCC3’を基盤RNAに設け、また、これに特異的に結合するL7Ae由来のアミノ酸配列を、所望の蛋白質に結合して融合蛋白質とすることができる。
【0039】
具体的な、人工的なRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列とアミノ酸配列との組み合わせは、 HIV RNA由来のTAR配列と、試験管内進化法により取得された人工蛋白質由来のRSG−1.2 peptide配列(RNA. 2005 Sep;11(9):1364−73.)、試験管内進化法により取得された人工RNA由来のTAR アプタマー配列と、HIV蛋白質由来のTat peptide配列 (Matsugami et al, Structure. 2003 May;11(5):533−45.)が挙げられるが、これらには限定されない。
【0040】
前記のような基盤RNAと、融合蛋白質とは、生理的条件下、具体的には、4〜37℃、pH6.5〜8.0付近の溶液中で混合すると、RNA−蛋白質複合体を形成する。この結合は水素結合による安定な、かつ特異的な結合である。しかし、例えば、この溶液に、RNA−蛋白質複合体形成に競合するペプチドを添加することによって、ペプチドの濃度依存的に簡単に結合を阻害することができるという特性をも有する。具体的なRNA−蛋白質複合体形成に競合するペプチドの化学構造は、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列を有するものとすることができる。
【0041】
本実施形態のRNA−蛋白質複合体によれば、目的の機能及び構造をもつ人工RNA上に目的の蛋白質を自在に配置することができる。RNAと蛋白質とは、特異的、かつ非共有結合的な結合により結合されているため、従来の共有結合的な結合と比較して、フレキシブルな結合態様による複合体とすることができる。したがって、RNA結合モチーフをもつ任意の蛋白質を自在に交換(インストール)することができるため、RNA−蛋白質複合体のモジュラーエンジニアリングが可能となる。また、機能性のRNAと機能性の蛋白質とを複合体とすることで、多機能性のRNA−蛋白質複合体を得ることができるという利点も得られる。
【0042】
さらに、前記RNA−蛋白質複合体の、RNAの構造を制御することにより、RNA上に固定化した蛋白質の機能や立体配置を制御する方法を提供することができる。すなわち、特定の物質に対して、特定の構造変化を生ずるRNAを基盤RNAとすることで、特定の物質によりRNAの構造を制御することによって、RNA上に固定化した蛋白質の機能や立体配置を制御することができる。具体的にどのように基盤RNAの構造を変化させることにより、蛋白質の機能や立体配置を制御するかは、コンピュータモデリングにより決定することができる。
【0043】
本発明は、第二実施形態によれば、RNA上への蛋白質の固定化方法であって、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列と、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列との組み合わせを選択する工程と、前記アミノ酸配列を有する蛋白質とは異なる蛋白質に、前記選択する工程で選択したアミノ酸配列を結合し、融合蛋白質を調製する工程と、前記選択する工程で選択した塩基配列を導入した基盤RNAを調製する工程と、前記融合蛋白質と、前記基盤RNAとを混合する工程とを含む。
【0044】
RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列と、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列との組み合わせを選択する工程では、前述のデータベースを利用して、特異的な結合を生ずる塩基配列とアミノ酸配列との組み合わせを選択する。選択においては、それらの解離定数(Kd)や、結合速度(Kon)や解離速度(Koff)などの値を考慮することができる。
【0045】
次の工程では、アミノ酸配列を有する蛋白質とは異なる蛋白質に、前記選択する工程で選択したアミノ酸配列を結合し、融合蛋白質を調製する。係る工程では、足場となる基盤RNA上に固定したい所望の蛋白質の、N末端やC末端に選択したアミノ酸配列を共有結合により結合する。このような結合は、ペプチド合成、PCRによる遺伝子操作により達成することができる。所望の蛋白質と、選択したアミノ酸配列とは、直接結合してもよく、任意のリンカーを介して結合しても良い。
【0046】
基盤RNAを調製する工程では、選択した塩基配列を、挿入したオリゴヌクレオチドを化学合成し、T7RNAポリメラーゼなどを用いて試験管内転写することにより足場となる基盤RNAに導入することができる。
【0047】
前記融合蛋白質と、前記基盤RNAとを混合する工程では、上記のようにして得られた融合蛋白質と、基盤RNAとを、4〜37℃、pH6.5〜8.0付近の溶液中の条件下で混合する。RNA−蛋白質複合体は、このように単に両者を混合することにより、簡単に形成させることができる。また、複数の種類の融合蛋白質を基盤RNAに固定させたいときには、任意の順番で融合蛋白質を添加することができる。これは、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフが特異的な結合を形成するためである。このようにして形成されたRNA−蛋白質複合体は、融合蛋白質と競合するペプチドを添加することにより、簡単に解離させることができる。
【0048】
第二実施形態にかかる方法によれば、任意の基盤RNAに、任意の蛋白質を固定することができる。
【0049】
本発明は、第三実施形態によれば、RNA−蛋白質複合体の検出方法であって、蛍光共鳴エネルギー移動現象を観察することによる方法である。
【0050】
蛍光共鳴エネルギー移動現象は、ドナー側の発光スペクトルとアクセプター側の吸収スペクトルに重なりがある二以上の蛍光蛋白質間において、かつ、それらの蛋白質が1nmから10nmの距離範囲にあるときに観察される。したがって、本発明の第一実施形態によるRNA−蛋白質複合体において、励起波長と蛍光波長が異なる二以上の蛍光蛋白質が基盤RNAに1nmから10nmの距離範囲内で結合されている場合において、蛍光共鳴エネルギー移動現象を観察することにより、RNA−蛋白質複合体が、デザインした距離と配向性を有していることを確認することができる。
【0051】
また、かかるRNA−蛋白質複合体の検出方法は、別の形態によれば、RNA−蛋白質複合体に、該蛋白質の競合ペプチドを添加する工程と、蛍光共鳴エネルギー移動現象を観察することにより蛍光の消失の存在を確認する工程とを含む。かかる方法においては、蛍光共鳴エネルギー移動法により蛍光が検出されることが知られているRNA−蛋白質複合体を用いる。そして、蛋白質の競合ペプチドを添加したときに、蛍光が消失することによって、蛋白質がデザインした1nmから10nmの距離範囲内で基盤RNAに結合し、競合ペプチドの添加により、蛋白質が基盤RNAから解離していることが明らかになる。
【0052】
第三実施形態かかる方法によれば、RNA−蛋白質複合体の作製において、蛋白質の固定化を確認することができる他、RNA上に配置した、蛋白質間の距離や配向性が適切か否かを検証することができるという利点がある。
【0053】
上記第三実施形態にかかる方法の応用として、同一の蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を有し、異なる足場配列を有する複数のRNAに対して、同一の蛋白質を添加してRNA−蛋白質複合体を形成させ、蛍光共鳴エネルギー移動現象を観察することによる、分子設計方法が挙げられる。
【0054】
図1を参照して説明する。基盤RNA2上に、二つの異なるRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列23、24を導入することができる。本実施形態においては、塩基配列23と塩基配列24との距離が異なる複数の基盤RNAを設計する。具体的には、塩基配列23と塩基配列24と間に存在する塩基数が異なる複数の基盤RNAを設計する。設計は、上記第一実施形態で説明したように、コンピュータモデリングで実施することができる。そして、設計した複数の基盤RNAを合成する。次に、合成した複数の基盤RNAのそれぞれに対し、異なる二つの融合蛋白質3、4を添加し、蛍光共鳴エネルギー移動現象を観察する。この測定結果により、二つの融合蛋白質3、4の分子間距離が測定され、基盤RNA2上で、所望の最適な距離に、二つの融合蛋白質3、4を配置することが可能になる。
【0055】
本方法によれば、溶液中の三次構造における、基盤RNA2に特異的に結合する複数の融合蛋白質間の距離及び配向を測定することができる。これにより、溶液中での生体物質の反応場制御等が可能になり、例えば、RNAをスキャッホールドとして、リン酸化反応カスケードを担う蛋白質をRNA上に適切に配置させ、一群の蛋白質からなる化学反応をRNAにより制御できるといった応用が可能となる。
【0056】
ここでは、二つの融合蛋白質を配置する場合について説明したが、三つ以上の異なる融合蛋白質を基盤RNA2上に配置する場合には、RNA上の三つ以上の適切な位置に異なる三つ以上のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を導入すればよい。このようなモチーフは天然配列、または試験管内進化法により得た人工配列を自在に利用することができる。
【0057】
このように、第一実施形態から第三実施形態に具体的に説明した本発明によれば、RNA結合モチーフをもつ蛋白質が、自在に入れ替え可能である、すなわちインストールできるという特長を有する。このようなRNPのモジュール性を利用することにより、様々な応用が可能となる。例えば、本発明にかかるRNA−蛋白質複合体を用いてセンシング、スイッチ、機能性分子として利用することもできる。さらには、RNAの配列を制御することによって、自律的に立体構造を構築させ、その立体構造上に含まれる蛋白質結合RNAモチーフを、目的とする蛋白質のポリペプチドと相互作用させることによって、(複数の)蛋白質の機能を損なわずに距離および配向を制御して固定化させる方法を実現することができる。
【0058】
以下の実施例において、モジュラーエンジニアリングを利用した機能性人工RNA−蛋白質複合体の作製の方法を示す。本手法は、天然のRNA−蛋白質間相互作用を活用し、コンピュータモデリングによるin silicoでの人工RNA−蛋白質複合体の設計に基づき、蛋白質機能構造を損なわずに3次元的に基盤RNA上に融合蛋白質を固定化し、その距離や配向を制御する技術である。以下に、具体的な実験例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0059】
[コンピュータモデリングによるin silicoでの機能性RNA−蛋白質複合体の設計]
【0060】
RNA−蛋白質複合体の分子設計は分子モデリングソフトウェア、Discovery Studio1.7(Accelrys社製)を用いて下記の通り行った。まず、NMR解析によりRNAとの複合体の構造が解明されている2つのアルギニンリッチモチーフ、バクテリオファージλN(ID:1QFQ)とHIV Rev(ID:1ETG)の両ペプチドの構造をPDB(Protein Data Bank)から取得し、結合に必要な領域であるλNの1−19残基、HIV Revの34−50残基(配列番号2)を表示させた。次に、λNペプチドのC末端に蛍光蛋白質であるYFP(ID:2YFP)を、HIV RevペプチドのN末端に同じく蛍光蛋白質であるCFP(ID:1OXF)を、アラニンを4つリンカーとして付加することで結合させ、融合させた。また、後述するがλNの結合力を向上させるためにλNのN末端4残基M−D−A−QをG−N−A−Rに置換した(Austin et al; J.AM. CHEM. SOC. 2002, 124, 10966−10967)(配列番号1)。また、HIV RevのC末端には、αヘリックスの形成能を向上させ、結合力を増加させるため、アラニンを4つ付加させてある(Tan et al; Cell.1993,73,1031−1040)。こうして図2(A)(B)に示す二つの融合蛋白質を作製した。
【0061】
次に、λNおよびHIV Revが結合するRNAはそれぞれboxBおよびRREであるが、コンピュータモデリング上で2つの蛍光蛋白質YFPおよびCFPの発色団の距離が近接する(5.35nm)ようにシミュレーションを行った。その結果、boxBの配列とRREの配列からループ部分を除いた44−52,66−76塩基の部分の配列を余分な塩基対を介さずに直接隣接させたときが最も近接したので直接結合させた。また、基盤RNAの二次構造を安定させるためRREのbox Bに隣接していない側に3塩基対付加した。また、RNA作製の際、プライマー伸長法の副産物の生成を抑制するため末端を非ワトソンクリック塩基対のG−Uペアとし、3’末端にUを2個付加した。こうして完成させた基盤RNAをtypeE RNAとした(図3(A))。このようにして本手法のモデルとなるtypeE RNPを作製した(図4)。
【実施例2】
【0062】
[人工RNA−蛋白質複合体の作製]
[typeE RNA及びその変異体の作製]
Type E RNA(配列番号3)は、T7プロモーターを含むセンス側のプライマーとそれとハイブリダイズするアンチセンス側のプライマーの2本(配列番号4、5)を、グラディエントマスターサイクラー(エッペンドルフ社製)を用いて、ハイブリダイズ、伸張させた。100μL反応液には、各100μM DNAプライマー 2μL、2.5mM dNTPを8μL、Ex taq 10×バッファー 10μL、Ex taq DNAポリメラーゼ(TAKARA製)0.5μLが混合してあり、94℃ 1分、63℃ 30秒、72℃ 1分を10サイクルで行った。反応後、フェノール処理、ジエチルエーテル処理、エタノール沈殿を行い、20μLの超純水に溶解し、転写の鋳型として用いた。後述するEMSA(Electrophoretic Mobility Shift Assay)に用いる際に32Pで放射性標識する場合には、反応は、40mM Tris・Cl(pH7.5),5mM DTT,1mM スペルミジン,5mM MgCl2,1.25mM ATP,1.25mM CTP,1.25mM UTP,0.25mM GTP,[32P−α]GTP (PerkinElmer製),20U RNase inhibitor(TOYOBO製),T7 RNA polymerase条件下、37℃、3時間から一晩で行った。FRET測定に用いる際に放射性標識しない場合には、同じ鋳型DNAを用いて、MEGAshortscript(商標)(Ambion製)を用いて、転写反応を行った。MEGAshortscriptを用いた転写反応は以下の通りである。超純水に溶解した鋳型DNA 8μL、T7 10×Reaction Buffer 2μL、T7 ATP Solution(75mM) 2μL(CTP、GTP、UTPに関しても同様)、T7 Enzyme Mix 2μLを混合した全20μLを37℃で2時間から一晩反応させた。
【0063】
反応後は、TURBO DNase 1μL加え、37℃で15分インキュベートし、鋳型DNAを分解させた。反応液に、115μLの超純水と15μL 酢酸アンモニウムストップ溶液を加え、さらにフェノール処理、ジエチルエーテル抽出、エタノール沈殿を行い精製した。放射性標識したRNAもしていないRNAもエタノール沈殿後、変性色素20μL(80%ホルムアミド,0.17%XC,0.27%BPB)に溶解させ、10% ポリアクリルアミド(29:1)変性ゲル電気泳動で分離した。目的のサイズのゲルを切り出し、500μLの溶出緩衝液(0.3M 酢酸ナトリウム(pH7.0))を加え、37℃、一晩溶出を行った。溶出したRNAは再びフェノール抽出、ジエチルエーテル抽出およびエタノール沈殿を行って精製した。
【0064】
また、基盤RNAとしてtypeE RNAに加え、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列に変異を導入した変異体も作製した。すなわち、boxBもしくはRREに変異を導入することにより、λNもしくはRevの結合を阻害した変異体mut−boxB RNA(配列番号6)(図3(B))およびmut−RRE RNA(配列番号9)(図3(C))、boxBとRREの両者に変異を導入することによりλNとRevの両者の結合を阻害したdouble mutant RNA(DM RNA) (配列番号12)(図3(D))、以上三種類の変異体をTypeE RNAの作製のときと同様にT7プロモーターを含むセンス側のプライマーとそれとハイブリダイズするアンチセンス側のプライマーの2本(配列番号7、8、10,11、13,14)を、グラディエントマスターサイクラー(エッペンドルフ社製)を用いて、ハイブリダイズ、伸張させて作製し、以下の実験にコントロールとして用いた。図3中、mutは、変異を含む配列を示す。
【0065】
[融合蛋白質の作製]
初めにλN遺伝子とHIV Rev遺伝子を、制限酵素XbaIおよびBamHIで切断したpET−3aベクター(Novagen製)にRapid DNA Ligation Kit(ロシュ・ダイアグノスティックス製)を用いて連結した。このプラスミドをそれぞれKpnIおよびBamHI、XbaIおよびKpnIで切断し、同じ制限酵素で切断したYFP遺伝子とCFP遺伝子をそれぞれ連結することによりpλN−YFP及びpCFP−Revを得た。ここで、CFPもしくはYFP遺伝子は、pECFPもしくはpEYFPプラスミド(いずれもClontech製)からPCRで増幅した。また、pN−YFPおよびpCFP−RevプラスミドはC末端にヒスチジンタグ(His×6)が挿入されている。なお、CFPとRevならびにNとYFPを融合する際、両蛋白質の間にリンカー部位グリシン、トレオニンが導入されている。これは、発現ベクターに制限酵素部位を導入するためであり、リンカー部位の塩基配列は制限酵素KpnIの切断部位を含んでいるからである。続いて、リンカーのアミノ酸配列をアラニン4残基に変更した方法について述べる。まず、適切な塩基配列を持つプライマー(配列番号28、29、31、32)を用いてPCRを行い、改変したリンカーを連結させたλN遺伝子およびRev遺伝子を増幅した。PCR後、λN遺伝子はXbaIとKpnIを用いて、Rev遺伝子はKpnIとBamHIを用いて切断し、それぞれを同じ制限酵素で切断したpN−YFPまたはpCFP−Revに連結して発現ベクターを得た(配列番号27、30)。
【0066】
そうして得られたプラスミドを大腸菌BL21(DE3)pLysSに形質転換した。得られたコロニーに、インサートが含まれるか調べるために、以下の手順でコロニーダイレクトPCRを行った。反応液20μLには、各10μM プライマー 1μL、2.5 mM dNTP 1.6μL、10×taq バッファー 2μL、Taq DNAポリメラーゼ(TAKARA製)0.1μLが混合してあり、94℃ 1分、60℃ 1分、72℃ 1分を30サイクルで行った。反応後、2%アガロース電気泳動で、インサートを確認したコロニーを用いて、発現を行った。
【0067】
1%グルコース、50μg/μLアンピシリンを含むLB培地3mLに植菌し、37℃で一晩振蕩培養した。続いて培養液500μLを1%グルコース、50μg/μL アンピシリンを含むLB培地50mLに植え継いだ。O.D.550が0.4〜0.6になるまで37℃で振蕩培養し、その後、発現誘導するために1mM IPTGを加え、25℃で8時間振蕩培養した。遠心分離で菌体を回収し、ソニケーションバッファー(50mM Na phosphate、300mM NaCl、pH8.0)5mLを加え、超音波処理を行い、菌体を破砕した。なお、超音波処理は、氷上で冷却後、15秒間超音波を当てる、という操作を6回繰り返した。遠心分離により、上清を回収し、ヒスチジンタグが付いた蛋白質をNi−NTAカラム(Qiagen製)を用いて次のように精製した。Ni−NTAカラムにヒスチジンタグで吸着した融合蛋白質を洗浄バッファー(50mM NaH2PO4、300mM NaCl、10mM Imidazole、pH8.0)3mLで3回洗浄した。その後溶出バッファー(50mM NaH2PO4、300mM NaCl、各50mM,100mM,200mM,300mM Imidazole、pH8.0)各1mL×2回で段階的に溶出させた。確認はSDS−PAGEにより行った。続いて、マイクロコンYM−30(Millipore製)を用いて、蛋白質の濃縮及び30mM Tris−Cl(pH7.5)でバッファーの置換を行った。精製したタンパク質は、30mM Tris−Cl(pH7.5)バッファーで適当な濃度に溶解し、−80℃で保存した。また、蛋白質の濃度はプロテインアッセイ(BIO−RAD)を用い、Bradford法で決定した。
【実施例3】
【0068】
[EMSA(Electrophoretic Mobility Shift Assay)によるRNA−蛋白質複合体形成の確認]
反応は最終濃度が20nM RNA、20mM Tris・Cl、80mM KCl、1.5 mM MgCl2、0.001U/mL tRNA、10% Glycerol、0〜2000nM蛋白質となるよう、以下の条件で行った。まず32Pで標識した100nM RNA 4μLを90℃ 5分で変性した後、5×binding buffer(100mM Tris−Cl(pH7.5)、400mM KCl、7.5mM MgCl2、0.005U/μL tRNA、50%グリセロール)4μL、超純水を加えた後、蛋白質と混合し、全量を20μLとした。混合後、反応溶液を氷上で15分間放置した。色素(0.25% BPB、0.25% XC、30% グリセロール)を1μL加え、4℃の冷蔵庫の中で、10% 非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動を3〜4時間行った。試料の拡散を防ぐために、初めの15分は、400Vで泳動し、その後300Vに切り替えた。ゲルの放射線量の強さをBio−Imaging Analyzer(BAS2500;富士写真フィルム製)で解析した。結果、typeE RNAにおいて設計通り基盤RNA上に融合蛋白質が2つ結合していることを示唆する結果が得られた(図5(A)(B)(C)、及び図6)。
【実施例4】
【0069】
[FRET(Fluorescence resonance energy transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)測定によるRNA−蛋白質複合体設計の評価]
[typeE RNA及びDM RNAでのFRET測定]
反応は最終濃度が100nM RNA、20mM Tris・Cl、80mM KCl、1.5mM MgCl2、0.001U/mL tRNA、500nM蛋白質となるよう、以下の条件で行った。RNA以外の試料は、氷上放置し冷やして用いた。1μM RNA 21μLを90℃ 5分で変性させ、超純水63μLと、5×binding buffer(100mM Tris−Cl(pH7.5)、400mM KCl、7.5mM MgCl2、0.005U/μL tRNA)を42μL加え、よく混合した後、卓上遠心機でスピンダウンした。続いて2.5μM 各蛋白質を42μL混合し全量を210μLとして卓上遠心機でスピンダウンした後、遮光したサンプルケースに入れ、室温で30分放置した。
【0070】
反応後、試料をゲルローディング用チップ(200μL)で100μL採取し、0.5mm×0.5mmの石英セルに空気に注意しながら静かに入れ、蛍光分光器FP−6500(日本分光)を用いて、次のような条件で蛍光測定を行った。測定条件は、測定モードEmission、励起バンド幅 5nm、蛍光バンド幅 5nm、レスポンス0.2sec、感度 Medium、測定範囲400−600nm、データ取込間隔 0.1nm、励起波長 433.0nm、走査速度 200nm/min、繰返し回数 1回。温度調節器は感度が下がるため、用いなかった。石英セルの洗浄は、アスピレーターを使って超純水で三回行った。測定は少なくとも2回以上行った。FRETの評価は、スペクトルデータの定性的結果を得るため、CFPの放出波長のマイナーピークである504nmで規定化を行い、その相対的比較を行った。また、527nmの蛍光強度と475nmの蛍光強度の比をFRET valueの指標として用い、解析を行った。結果、typeE RNAにおいてdouble mutant typeE RNAでは見られなかった475nmの蛍光強度が減少し、527nmの蛍光強度が増加するというFRET特有の現象が見られた(図7)。これは設計通りに基盤RNA上に2つの蛋白質が機能を損なわずに結合できていることを示唆するものである。
【0071】
さらに、typeE RNA及びdouble mutant typeE RNAにおいてRNA濃度を0〜300nMまで変化させ、FRET効率への影響を調べた。結果、typeE RNAにおいて図8のようにある濃度まではFRET効率が濃度依存的に上昇していくが、ある濃度を越えると減少していく結果が得られた。これはある程度の濃度までは基盤RNA上に2つの融合蛋白質が結合した複合体の割合が増加していく結果を示唆するが、さらに基盤RNAを増やすと片方の融合蛋白質のみが結合した複合体の割合が上昇していく、などの理由でFRET効率の減少に影響していると見られる。
【0072】
[ペプチドによるFRET競合実験]
λN−YFP、CFP−Rev両融合蛋白質の代わりに、λNペプチド及びRevペプチドを用いて結合のFRET競合実験を行った。手順は上記と同様である。結果、100nM typeE RNAに対し、5μMまたは10μMのペプチドにより、FRET強度の減少が確認された(図9、10)。このことは、配列特異的に基盤RNA上に2つの融合蛋白質が結合しているという結果であり、上記の実験結果を裏付けるものである。
【実施例5】
【0073】
[typeB RNAへの本手法の適用及びその評価]
[typeB RNAの設計]
単純にRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を繋いだだけのtypeE RNAだけでなく、以前我々の研究室で取得したDSLリボザイムのRNA骨格に用いたセルフフォールディングするtypeB RNA(Structure,Vol.10,527−534,2002)を基盤RNAとするRNA−蛋白質複合体も設計した。設計はtypeE RNAのときと同様にDiscovery Studio1.7(Accelrys社製)を使用して以下のように行った。まず、typeB RNAの設計のときと同様に、上部の構造安定化モジュールとして、テトラヒメナ・グループIイントロンのGAAAテトラループ−11ntレセプター相互作用構造をPDBから取得し(ID:1GID)、下部の構造安定化モジュールとして、テトラヒメナ・グループIイントロンのP4−J6/7部分のベーストリプル構造をPDBから取得した(ID:1GRZ)。
【0074】
RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列の導入場所として、11ntレセプターの上部、11ntレセプターとTriple Helical Scaffold(THS)の間の部分を選択し、そこへそれぞれboxB−λN、RRE−RevのRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を導入した。コンピュータモデリング上で2つの蛍光蛋白質YFPおよびCFPの発色団の距離が近接する(5.39 nm)ようにシミュレーションを行った。それぞれに蛍光蛋白質YFPとCFPを融合させたのもtypeEのときと同様である。さらに、これらのモジュール間を繋ぐ際に、モチーフの導入による設計上の構造の歪みを解消するため、ステムの中に2つのkinkを含み、直線的なヘリックス構造を取らずに少しカーブしたような構造を取ることがX線構造解析から知られている[U(UA)6A]2を用いることにした(J.Mol.Hiol.209,459−474,1989)(ID:1RNA)。また、ステムの末端を繋ぐループは、UUCGテトラループ構造をPDBより取得し(ID:1F7Y)、望みの塩基配列に置換させたものを用いた(図11(a)(b))。こうして、コンピューター上でtypeB RNA−蛋白質複合体の設計を行った(図11(c))。
【0075】
また、TypeB RNAが期待通りに三次相互作用に依存してコンパクトな構造になるか調べるため以下の実験に使用する3つの変異体であるTypeB RNA−1(図12(B))、TypeB RNA+1(図12(C))、Mut 11ntR TypeB RNA)(図12(A))を作製した。Type B RNA−1とType B RNA+1は、デザインの正確性から1塩基程度のズレは生じる可能性があると考え、11ntレセプターのGAAAテトラループに対する相対位置が1塩基対分だけ上下にズレている変異体である。また、Mut 11 ntR Type B RNAは、11ntレセプター部分を単純なステム構造に置換することにより、GAAAテトラループとの相互作用を破壊した変異体である。
【0076】
[typeB RNAの作製]
TypeB RNA(配列番号15)に関しては、TypeB RNA fw(配列番号16)プライマーとTypeB RNA revプライマー(配列番号17)の2本を、PCRサーマルサイクラーを用いて、ハイブリダイズ、伸張させた。反応には、各100μM DNAプライマー 2μL、2.5mM dNTPを8μL、Ex taq 10×バッファー 10μL、DNAポリメラーゼ(Ex taq、TAKARA製)0.5μLを使用した。以上の条件で、94℃ 1分、60℃ 30秒、72℃ 1分を15サイクルの反応を行った。反応後、フェノール処理、エタノール沈殿を行い、制限酵素EcoRIとHindIIIで切断させ、再びフェノール処理、エタノール沈殿を行い、LMPアガロース電気泳動を行い、目的のバンドを切り出し精製した。Rapid DNA Ligation Kit(ロシュ・ダイアグノスティックス製)を用いて、制限酵素EcoRIとHindIIIで切断させたpUC118ベクターにクローニングした。Type B RNAの変異体であるTypeB RNA−1(配列番号18)、TypeB RNA+1(配列番号21)、mut 11ntR TypeB RNA(配列番号24)に関しては、pTypeB RNAプラスミドを鋳型とし、5’末端にBsaIに認識、切断される制限酵素部位を導入したプライマー(配列番号19、20、22、23、25、26)を用いてPCRを行った。PCR反応バッファー(50μL)の組成は、各10μM DNAプライマー2.5μL、2mMdNTPを8μL、25mM MgCl2 5μL、LA PCR BufferII 10×バッファー 5μL、鋳型DNA 10ng、DNAポリメラーゼ(LA taq、TAKARA)0.5μLであった。この時、LA taqを用いたのは、AUリッチな配列を含むため、二次構造形成による伸張反応の阻害を防ぐためである。以上の条件で、94℃ 30秒、58℃ 30秒、72℃ 4分を25サイクルの反応を行った。反応後、フェノール処理、エタノール沈殿を行い、LMPアガロース電気泳動を行い、目的のバンドを切り出し精製した。その後BsaIで処理し、Rapid DNA Ligation Kit(ロシュ・ダイアグノスティックス製)により自己環化させ、プラスミドを再構築した。
【0077】
これらのプラスミドの配列確認は、Bca BESTTM Dideoxy Sequencing Kit(TAKARA製)を用い、ダイデオキシ法によって行った。シークエンス反応は、pUC118のマルチクローニングサイトの両端に位置するプライマーであるM13、M13 Reverseを用いた。反応後の試料をエタノール沈殿により回収し、ALF expressII(Phamacia Biotech製)により挿入DNA断片の塩基配列を決定した。TypeB RNAやその11ntレセプター変異体に関しては、プラスミドに組み込む際に、5’末端にT7プロモーター配列を付加していたため、HindIIIで切断し直鎖状にしたものを鋳型DNAとして用いてTypeE RNAと同様に転写反応を行った。エタノール沈殿後、変性色素20μL(80%ホルムアミド,0.17%XC,0.27%BPB)に溶解させ、5% ポリアクリルアミド(29:1)変性ゲル電気泳動で分離した。目的のサイズのゲルを切り出し、500μLの溶出緩衝液(0.3M 酢酸ナトリウム(pH7.0))を加え、37℃、一晩溶出を行った。溶出したRNAは再びフェノール抽出、ジエチルエーテル抽出およびエタノール沈殿を行って精製した。
【0078】
[typeB RNA及びその変異体の構造の確認]
デザインしたTypeB RNAとこれらの変異体を用い、非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動によってTypeB RNAが期待される構造を取りうるかどうか検討した。非変性ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動を行うと、非変性ゲル中でのRNAの移動度はそのRNAの大きさや形で決まるため、長さが同じ程度のRNA分子を泳動した場合、よりコンパクトな立体構造を取る分子ほど泳動度が大きくなる。そのため、RNA立体構造のコンパクトさを相対的に比較するために有効な手段である。また、GAAAテトラループ−11ntレセプターはマグネシウムイオン濃度依存的に相互作用が強くなることが知られていることから、マグネシウムイオン濃度を0mM、10mM、25mMと変化させて非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。以下具体的な手順を示す。超純水5μLに32Pで標識したRNA1μL(20000cpm)を加え、80℃,5min加熱して変性させた。室温まで冷却させた後、10×緩衝液(500mM Tris−OAc(pH7.5),任意濃度の10倍のMg(OAc)2)を0.5μL加え、30℃,30minかけてRNAをフォールディングさせた。1μLの色素マーカー(18%グリセリン,0.5% XC)を加え、非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。ゲルは5%ポリアクリルアミド(39:1)を用いて作製し、50mM Tris−OAc(pH7.5),任意濃度のMg(OAc)2を含むバッファーを使用して200V 3分でサンプルをゲル中に素早く泳動させ、発熱を防ぐために75Vで4〜7時間泳動した。Mg(OAc)2を含まない場合にはゲル、緩衝液の両方に最終濃度が0.1mMになるようにEDTAを添加した。また、長時間の泳動により上下の泳動層のバッファー組成に違いが出るのを防ぐために、ペリスタポンプを用いてバッファーを循環させた。ゲルの放射線量の強さをBio−Imaging Analyzer(BAS2500;富士写真フィルム製)で解析した。
【0079】
結果、マグネシウムイオン濃度が0mMでは、移動度に差はほとんど見られなかったのに対し、マグネシウムイオンを含んだ非変性ゲルでは、RNA相互作用を破壊したmut 11ntR TypeB RNAに比べ、その他のRNAの移動度が大きくなった(図13(a)(b)(c)、図14)。これは、RNAの三次元的な相互作用を意味する。ループ−レセプターの相対位置の変化の影響を見てみると、TypeB RNA−1とTypeB RNA+1がほぼ同程度の移動度を示したのに対し、TypeB RNA−1は少し移動度が小さかった。このことは、TypeB RNA−1が他の二種類のRNAと比べてループ−レセプター相互作用が弱いことを示している。以上の結果より、デザインしたRNAは期待通りに三次相互作用に依存してコンパクトな構造になることが示された。
【0080】
[EMSAによるtypeB RNA−蛋白質複合体形成の確認]
typeE RNAのときと全く同様の手順で行った。結果、typeB RNAにおいても設計通り基盤RNA上に融合蛋白質が2つ結合していることを示唆する結果が得られた(図15(a)(b)、図16)。
【0081】
[FRET測定によるtypeB RNA−蛋白質複合体設計の評価]
typeE RNAのときと全く同様の手順で行った。結果、typeB RNAにおいても475nmの蛍光強度が減少し、527nmの蛍光強度が増加するというFRET特有の現象が見られた(図17、図18)。以上のことから、基盤RNAとして単純にRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を並べただけの構造のみならず、設計したセルフフォールディングするRNAの目的の位置にRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を入れ、蛋白質を結合させる事にも成功した。
【実施例6】
【0082】
[RNA及び融合蛋白質の調製]
実施例1と同様にして、図3(A)に示すtype−E RNA(配列番号3 ggccugggcg cagcccugaa gaagggcuga cgguacaggc uuu)、及び図3(D)に示すdouble mutant RNA(DM RNA) (配列番号12)を作製した。また、同様にして、図19(a)に示す、type−E−2 RNA(配列番号33 ggccugggcg caccugaa gaagguga cgguacaggc uuu)、図19(b)に示す、type−E−3 RNA(配列番号34 ggccugggcg cacugaa gaaguga cgguacaggc uuu)、図19(c)に示す、type−E−4 RNA(配列番号35 ggccugggcg caugaa gaauga cgguacaggc uuu)を作製した。
実施例1と同様にして、図2(A)(B)に示す二つの融合蛋白質を作製した。得られた蛋白質(A)λ−YFPの配列を、配列番号36に、得られた蛋白質(B)CFP−REVの配列を配列番号37に示す。
【0083】
[コンピュータモデリングによる機能性RNA−蛋白質複合体]
実施例1と同様の方法で、type−E RNA、type−E−2 RNA、type−E−3 RNA、type−E−4 RNAのそれぞれと、融合蛋白質との複合体のモデリングを行った。この結果を、図20、21、22に、それぞれ示す。モデリングの結果、type−E RNAに二つの融合蛋白質を結合させたときの両融合蛋白質間の発色団間の距離は、約5.7nmであった。なお、発色団間の距離とは、CFP蛋白質の66番目のアミノ酸残基であるチロシンと、YFP蛋白質の66番目のアミノ酸残基であるトリプトファンとの距離をいう。図20に示すモデリングの結果、type−E−2 RNAに二つの融合蛋白質を結合させたときの発色団間の距離は、約4.6nmであった。図21に示すモデリングの結果、type−E−3 RNAに二つの融合蛋白質を結合させたときの発色団間の距離は、約3.1nmであった。図22に示すモデリングの結果、type−E−4 RNAに二つの融合蛋白質を結合させたときの発色団間の距離は、約1.9mmであった。なお、図22において、実際には、λ−YFPは、RNAに結合していないことが、ゲルシフトアッセイによる実験(図示せず)により確認された。
【0084】
[FERTアッセイ]
上記5種類のRNAと、二つの融合蛋白質との複合体、及びRNAを加えない融合蛋白質のみの系のFERT測定を、実施例4と同様の方法により行った。具体的には、反応は最終濃度が100nM RNA、20mM Tris・Cl、80mM KCl、1.5mM MgCl2、0.001U/mL tRNA、500nM蛋白質となるよう、以下の条件で行った。RNA以外の試料は、氷上放置し冷やして用いた。1μM RNA 21μLを90℃ 5分で変性させ、超純水63μLと、5×binding buffer(100mM Tris−Cl(pH7.5)、400mM KCl、7.5mM MgCl2、0.005U/μL tRNA)を42μL加え、よく混合した後、卓上遠心機でスピンダウンした。続いて2.5μM 各蛋白質を42μL混合し全量を210μLとして卓上遠心機でスピンダウンした後、遮光したサンプルケースに入れ、室温で30分放置した。反応後、試料をゲルローディング用チップ(200μL)で100μL採取し、0.5mm×0.5mmの石英セルに空気に注意しながら静かに入れ、蛍光分光器FP−6500(日本分光)を用いて、次のような条件で蛍光測定を行った。測定条件は、測定モードEmission、励起バンド幅 5nm、蛍光バンド幅 5nm、レスポンス0.2sec、感度 Medium、測定範囲400−600nm、データ取込間隔 0.1nm、励起波長 433.0nm、走査速度 200nm/min、繰返し回数 1回。温度調節器は感度が下がるため、用いなかった。石英セルの洗浄は、アスピレーターを使って超純水で三回行った。測定は少なくとも2回以上行った。FRETの評価は、スペクトルデータの定性的結果を得るため、CFPの放出波長のマイナーピークである504nmで規定化を行い、その相対的比較を行った。また、527nmの蛍光強度と475nmの蛍光強度の比をFRET valueの指標として用い、解析を行った。
【0085】
結果を、図24、25に示す。グラフが示すように、type−E RNA、type−E−2 RNA、type−E−3 RNAの順にFRET強度が上昇したことがわかる。これは、蛍光蛋白質間の発色団の距離が短い程FRET効率が高くなることに起因する。いっぽう、RNAを添加しなかった系、DM RNA、type−E−4 RNAは、いずれも低いFRET強度を示すことがわかった。この結果から、DM RNA及びtype−E−4 RNAでは、二種の融合蛋白質がRNAに結合していないことが示唆される。
このように、二つの融合蛋白質とこれが特異的に結合する配列を有するRNAとのRNA−蛋白質複合体と、FRET測定を用いることにより、RNA上に目的の複数の蛋白質を、距離と配向性を制御して自在に配置させる技術が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の活用例として、この技術は、目的の機能構造をもつ人工RNAを分子デザインにより創出し、そのRNA上に目的の蛋白質を自在にインストールできるため、RNA−蛋白質複合体の機能変換や、目的・用途に合わせてRNA−蛋白質間相互作用を複数導入し、多機能性アプタマーなどの新規分子を作製する事ができる可能性がある。RNAと蛋白質は化学的に安定な物質であり、またグラム単位での合成が可能な他の有機材料と同等の実用的な材料であるため、シンセティックバイオロジーとして医療、環境への応用のほか、さらにはナノテクノロジーの機能性新材料としてエレクトロニクス、イメージングなどへの新たな材料を提供することも可能であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施形態によるRNA−蛋白質複合体を示す模式図である。
【図2】図2Aは、YFPを有する融合蛋白質を表す模式図であり、図2Bは、CFPを有する融合蛋白質を表す模式図である。
【図3】図3Aは、TypeE RNAの二次構造を表す模式図であり、図3Bは、mutant boxB TypeE RNAの二次構造を表す模式図であり、図3Cは、mutant RRE TypeE RNAの二次構造を表す模式図であり、図3Dは、double mutant (DM) TypeE RNAの二次構造を表す模式図である。
【図4】コンピュータモデリングによるTypeE RNAの設計図である。
【図5】図5Aは、λN−YFPとTypeE RNAの結合力が弱いことを表し、図5Bは、λN−YFPにアミノ酸置換を施したGNAR−λN−YFPがTypeE RNAと相互作用する結合力が強いことを表し、図5Cは、CFP−RevがTypeE RNAと相互作用する結合力が強いことを表す図である。
【図6】図6は、EMSAによるTypeE RNAとその変異体融合蛋白質の結合の確認を示す。
【図7】図7は、TypeE RNAとその変異体のFRET測定の結果を示すグラフである。
【図8】図8は、TypeE RNAとその変異体のRNA濃度によるFRET効率の変化を示すグラフである。
【図9】図9は、ペプチドによる競合阻害実験の結果を示すグラフである。
【図10】図10は、ペプチドによる競合阻害実験の結果を示すグラフである。
【図11】図11(a)は、TypeB RNAの設計方法の概略を示す図であり、図11(b)は、TypeB RNAの塩基配列と二次構造を示す図であり、図11(c)は、コンピュータモデリングによるTypeB RNAの設計図である。
【図12】図12(a)は、TypeB RNA、図12(b)は、TypeB RNAの11ntレセプターのGAAAテトラループに対する相対位置が1塩基対分だけ下にずれている変異体であるTypeB RNA−1、図12(c)は、TypeB RNAの11ntレセプターのGAAAテトラループに対する相対位置が1塩基対分だけ上にずれている変異体であるTypeB RNA+1をそれぞれ示す模式図である。
【図13】図13は、TypeB RNA、TypeB RNA−1、TypeB RNA+1がセルフフォールディングできるのに対し、TypeB RNAの構造安定化部位に変異を導入したmutant11nRは、セルフフォールディングできないことを示す図である。
【図14】図14は、TypeB RNA及びその変異体の構造設計とRNA3次相互作用の確認を示す図である。
【図15】図15は、EMSAによる、TypeB RNA及びその変異体と、融合蛋白質の結合の確認を示す図である。
【図16】図16は、EMSAによる、TypeB RNA及びその変異体と、融合蛋白質の結合の確認を示す図である。
【図17】図17は、TypeB RNAとその変異体のFRET測定の結果を示すグラフである。
【図18】図18は、TypeB RNA上に配置されたGNAR−λN−YFPとCFP−Revは、TypeE RNA上に配置されたGNAR−λN−YFPとCFP−Rev と同等のFRET効率を有することを示すグラフである。
【図19】図19Aは、TypeE−2 RNAの二次構造を表す模式図であり、図19Bは、TypeE−3 RNAの二次構造を表す模式図であり、図19Cは、TypeE−4 RNAの二次構造を表す模式図である。
【図20】図20は、TypeE−2 RNA上に配置されたGNAR−λN−YFPとCFP−Revのモデリング図である。図中の数字は、発色団間距離を表す。
【図21】図21は、TypeE−3 RNA上に配置されたGNAR−λN−YFPとCFP−Revのモデリング図である。図中の数字は、発色団間距離を表す。
【図22】図22は、TypeE−4 RNA上に配置されたGNAR−λN−YFPとCFP−Revのモデリング図である。図中の数字は、発色団間距離を表す。
【図23】図23は、TypeE RNAと、蛋白質の結合を阻害する変異体(DM RNA)、及びTypeE RNAのRNA−蛋白質相互作用モチーフの距離を近接させたRNA(E−2,E−3,E−4)のFRET測定の結果を示すグラフである。
【図24】図24は、TypeE RNAと蛋白質の結合を阻害する変異体(DM RNA)、及びTypeE RNAのRNA−蛋白質相互作用モチーフの距離を近接させたRNA(E−2,E−3,E−4)のFRET効率を比較して示すグラフである。
【符号の説明】
【0088】
1 RNA−蛋白質複合体
2 基盤RNA
23 RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列
24 RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列
3 融合蛋白質
31 RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列
32 リンカー
4 融合蛋白質
41 RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列
42 リンカー
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNA−蛋白質複合体、およびRNA上への蛋白質の固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポストゲノム時代となった現在、多くのゲノム情報が蓄積されており、我々はそれらを利用できる状況にある。また、DNAや蛋白質を網羅的に解析するDNAアレイやプロテインアレイなどが普及し、医療などへの応用が望まれている。
【0003】
RNA構造生物学の発展により、RNAの複雑な立体構造には階層性があり、それぞれが特定の機能を有するモジュールに分割できる事が示唆されてきた。その知見に基づき、RNAのモジュールを人工的に組み合わせ新たな機能性分子を構築する「モジュラーエンジニアリング」と、「in vitro selection法」を併用し、高いライゲーション活性を有するリボザイム(DSL)が創製された(非特許文献1を参照)。さらに近年、生体内のリボソームに代表されるRNA−蛋白質複合体(RNP)の高度な機能は、その構造に基づいている事が明らかになってきた。
【0004】
いっぽう、蛋白質が機能を発揮する場合、他の蛋白質と結合して複合体を形成していることが多い。特に、その機能を複数同時に調節しようとする時には、蛋白質間の相対位置すなわち距離や配向は厳密に制御されている。その顕著な例が、細胞内のシグナル伝達系で見られる。分裂促進因子によって活性化されるタンパクキナーゼはMAPK(mitogen−activatedprotein kinase)と呼ばれている。MAPKの完全な活性化にはトレトニンとチロシンのリン酸化が必要であるが、このリン酸化を触媒するキナーゼはMAPKKと呼ばれており、さらにこのキナーゼもMAPKKKと呼ばれる酵素によってリン酸化され活性化される。活性化したMAPKは他のタンパクキナーゼや遺伝子調節蛋白質などをリン酸化し、下流にシグナルを伝える。この三つのキナーゼは足場蛋白質に結合している。足場蛋白質が無い状態では、キナーゼは自由に拡散し、ランダムあるいは非特異的な活性化で、シグナル伝達効率が低下する。足場蛋白質存在化では、基質の活性化が容易になり、特異的なシグナルカスケードを引き起こす。また、足場蛋白質の構造がアロステリックに変化し、さらにシグナル伝達が活性化されたり、足場蛋白質が細胞膜のアダプター蛋白質と結合し、部位特異的に機能したりもしている。この種の相互作用を解析するには、蛋白質間の距離や配向を調節し、制御する必要がある。
【0005】
蛋白質を基盤上に並べる技術は、蛋白質を網羅的に解析するプロテインアレイの普及とともに必要不可欠なものとなってきた。現在では、蛋白質の末端にタグをつけプレート上の分子と結合させる方法、ガラスや特殊な膜を用いて固定する方法が一般的である。しかし、蛋白質の機能を損なわず基盤上に固定することは非常に困難である。また、思い通りの場所に並べることができたとしても、ほとんどの場合が二次元的であり、蛋白質間の相対位置を調節したような三次元的なものではない。
【0006】
一方近年、生体内で機能する様々なノンコーディングRNAが発見され、その役割に注目が集まっている。しかしながらこれらRNAは生体内で多くの場合、蛋白質と複合体(RNP)を形成している。このことから、人工RNPは、細胞機能を制御できる新しいナノブロックとして期待されている。天然に存在するRNPは、比較的短い配列から構成されるRNA−蛋白質相互作用モチーフ(RNP motif)を利用して、多くの複合体を形成していることがわかる。例えばHIV Rev蛋白質は、Revを認識するRNAモチーフと、高い親和性で相互作用している。これらRNP相互作用モチーフを効果的に抽出し、リボザイム上に配置することで、RNA結合蛋白質存在下でのみ触媒活性をもつ、人工RNP酵素の作成に成功した研究も存在する(非特許文献2を参照)。したがってRNPは、シンセティックバイオロジー(生体分子を人工的に創り出す作業を通して生体分子や生命システムを再構築し、新しいテクノロジーを誘発する分野)研究の素材としての利用が期待されている(非特許文献3を参照)。
【非特許文献1】Ikawa et al.Proc Natl Acad Sci U S A.;101(38):13750−5, 2004
【非特許文献2】Atsumi et al. EMBO Journal, 20, 5453, 2001
【非特許文献3】Saito et al. Journal of Biotechnology,132,1,1−7 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
蛋白質を、RNA基盤上に、蛋白質およびRNA基盤の機能及び構造を損なわずに固定する手法は、いまだに確立されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明は、一実施の形態によれば、RNA−蛋白質複合体であって、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を有する基盤RNAと、蛋白質と、前記塩基配列に非共有結合的にかつ特異的に結合する天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列とを含む融合蛋白質とを含んでなる。
本発明において、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列とは、RNA−蛋白質複合体における、RNAと蛋白質との相互作用部位の、RNA側の塩基配列をいう。また、本発明において、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列とは、RNA−蛋白質複合体における、RNAと蛋白質との相互作用部位の、蛋白質側のアミノ酸配列をいう。
【0009】
前記RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフが天然に存在するRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフであることが好ましい。
【0010】
前記RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフが試験管内進化法により得られた人工的なRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフであることが好ましい。
【0011】
前記基盤RNAが機能性RNAであり、前記蛋白質が機能性蛋白質であり、前記RNA−蛋白質複合体が多機能性複合体であることが好ましい。
【0012】
前記融合蛋白質が、前記蛋白質と、前記アミノ酸配列との間にさらにリンカーを含んでなることが好ましい。
【0013】
前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列が、バクテリオファージλ由来のboxB配列であり、前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列が、バクテリオファージλ由来のNペプチド配列であることが好ましい。
【0014】
前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列が、HIV由来のRRE配列であり、前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列が、HIV蛋白質由来のREV配列であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は別の実施形態によれば、RNA上への蛋白質の固定化方法であって、天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列と、天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列との組み合わせを選択する工程と、前記アミノ酸配列を有する蛋白質とは異なる蛋白質に、前記選択する工程で選択したアミノ酸配列を結合し、融合蛋白質を調製する工程と、前記選択する工程で選択した塩基配列を導入した基盤RNAを調製する工程と、前記融合蛋白質と、前記基盤RNAとを混合する工程とを含む。
【0016】
前記固定化方法において、前記蛋白質が複数含まれている場合に、前記蛋白質間の距離及び/または配向性を三次元的に制御することが好ましい。また、前記三次元的な制御が、基盤RNAの配列及び/または骨格を変換することにより実施されることが好ましい。さらには、前記三次元的な制御が、蛍光共鳴エネルギー移動現象の観察結果に基づいて、基盤RNAの配列及び/または骨格を変換することにより実施されることが好ましい。
【0017】
本発明はまた別の実施形態によれば、蛍光共鳴エネルギー移動現象を観察することによる、RNA−蛋白質複合体の検出方法である。
【0018】
本発明はさらにまた別の実施形態によれば、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列をもつ任意の蛋白質を任意の順序で、基盤RNA上に配置する方法である。
【0019】
本発明はさらにまた別の実施形態によれば、前記RNA−蛋白質複合体の、RNAの構造を制御することにより、RNA上に固定化した蛋白質の機能や立体配置を制御する方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の効果として、目的の機能及び構造をもつ人工RNA上に目的の蛋白質を固定化したRNA−蛋白質複合体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明を、実施形態を挙げて詳細に説明する。
本発明者らは天然のRNA−蛋白質間相互作用に着目し、これらを活用することによって、蛋白質を基盤上に並べる従来の手法では困難とされる、蛋白質およびRNA双方の機能及び構造を損なわずに3次元的にそれらの距離や配向を制御する方法を構築し、本発明を完成するに至った。
【0022】
本発明は第一実施形態によれば、RNA−蛋白質複合体であって、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を有する基盤RNAと、蛋白質と、前記塩基配列に非共有結合的に、かつ特異的に結合するRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列とを含む融合蛋白質とを含んでなる。
【0023】
図1は、本発明のRNA−蛋白質複合体を示す概念図である。図1中、RNA−蛋白質複合体1は、基盤RNA2と、二つの融合蛋白質3、4とから構成されている。基盤RNA2は、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列23、24を備えている。融合蛋白質3、4は、それぞれ、蛋白質30、40と、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列31、41と、リンカー32、42とから構成されている。
【0024】
基盤RNA2は、本実施形態におけるRNA−蛋白質複合体において、蛋白質を固定する足場となるRNAである。基盤RNA2は、特別な機能や構造を有さず、足場としての機能のみを有するRNAでもよく、特定の性質を有することが知られている既存のRNA由来の配列を有していてもよく、人工的に合成した所望の特性を有するものでもよい。したがって、例えば、セルフフォールディングする強固な構造を有するRNAでもよい。また、例えば、がん細胞表面の抗原を認識するRNAなどの、特定の機能を有する機能性RNAを基盤RNAとすることもできる。本実施形態に用いることができる基盤RNA2の具体例としては、type−E RNA及び、type−B RNAが挙げられるが、これらには限定されない。
【0025】
基盤RNA2には、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列23、24を設ける。本発明において、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列とは、天然の、既知のRNA−蛋白質複合体における、RNAと蛋白質との相互作用モチーフの、RNA側の配列として知られている塩基配列と、試験管内進化法により得られた人工的なRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフにおけるRNA側の配列である塩基配列とが含まれる。
【0026】
天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列は、通常、約10〜50塩基で構成されており、特定の蛋白質の特定のアミノ酸配列と、非共有結合的に、すなわち水素結合により、特異的な結合を形成することが知られている。このような天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列は、以下の表1及び表2、及びウェブサイト上で利用できるデータベース:http://gibk26.bse.kyutech.ac.jp/jouhou/image/dna−protein/rna/rna.htmlから選択することができる。天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列は、通常、基盤RNA2とは異なるRNA由来の配列である。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
人工的なRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフは、試験管内進化法により得ることができる。具体的には、試験管内進化法は、様々な配列多様性をもつ分子ライブラリーから、機能性RNAを選別し、その遺伝子(DNA)を増幅、転写するといった反応を繰り返すことで、目的基質に特異的に結合するアプタマーや触媒活性をもつリボザイムを得ることができる。試験管内進化法で得られたRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフの例としては、以下の表3に記載のものを挙げることができる。また、データベースとして、アプタマーデータベース:http://aptamer.icmb.utexas.edu/が、具体的なモチーフ名としては、Bcl−2ファミリーCED−9結合RNAアプタマー由来のモチーフR9−2; GGGUGCUUCGAGCGUAGGAAGAAAGCCGGGGGCUGCAGAUAAUGUAUAGCが、文献としては、Yang C, et al., J Biol Chem. 2006 ;281(14):9137−44.が挙げられるが、これらには限定されない。
【0030】
【表3】
【0031】
RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列23、24を導入する基盤RNA2上の位置は、所望の位置とすることができる。基盤RNA2として、人工のRNA配列を用いる場合には、塩基配列23、24を導入する基盤RNA2上の位置は自由に設計することができる。いっぽう、基盤RNA2自体が特定の機能及び構造を有しており、それを保持する必要がある場合には、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列23、24を導入する位置は、RNA2の機能構造を保持できる位置をコンピュータモデリングにより予測し、これをRNA−蛋白質相互作用の親和性を検出する実験(EMSA、SPR実験など)により検証することにより決定することができる。
【0032】
図1においては、基盤RNA2上に、二つの異なるRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列23、24を導入しているが、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列の数は、複合体を形成させたい所望の融合蛋白質の数によって決定することができる。例えば、同一の二つの融合蛋白質と基盤RNA2との複合体を形成させる場合には、基盤RNA2上に、同一の二つのRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列23、24を導入することができる。
【0033】
融合蛋白質3、4は、蛋白質30、40と、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列31、41と、所望により、リンカー32、42とから構成することができる。蛋白質は、基盤RNA2上に固定したい所望の蛋白質とすることができる。具体的には、特定の機能を有する蛋白質、蛍光、発光などの検出に利用できる蛋白質、特定の基質に特異的に結合する蛋白質、アポトーシスを誘導する蛋白質、酵素、抗体などを用いることができるが、これらには限定されない。
【0034】
本発明において、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列とは、天然の、既知のRNA−蛋白質複合体における、RNAと蛋白質との相互作用モチーフの、蛋白質側の配列として知られているアミノ酸配列と、試験管内進化法により得られた人工的なRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフにおける蛋白質側の配列であるアミノ酸配列とが含まれる。
【0035】
天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列は、通常、約10〜100アミノ酸で構成されており、特定のRNA上の特定の塩基配列と、非共有結合的に、すなわち水素結合により、特異的な結合を形成することが知られている。このような天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列は、上述の表1及び表2、及び上述のウェブサイト上で利用できるデータベースから選択することができる。人工的なRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列は、前記試験管内進化法により得られたものを用いることができる。
【0036】
このようなRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列を選択する場合には、上記基盤RNA2上に設けるRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列との組み合わせで選択する。特定の組み合わせによってのみ、特異的な結合を生じさせることができるためである。融合蛋白質に導入する天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列は、通常、融合蛋白質を構成する蛋白質とは異なる蛋白質に由来する。
【0037】
所望の場合には、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列と蛋白質との間に、リンカーを挿入することもできる。リンカーは、特に蛋白質と基盤RNAとの距離及び/又は配向を制御するために好ましく用いられる。具体的なリンカーとしては、当業者には既知のリンカー、例えば、へリックス構造を安定化するアラニンに富むリンカーや、蛋白質の構造をフレキシブルにするグリシンに富むリンカーを用いることができるが、これらには限定されない。具体的なリンカーの化学構造は、へリックス構造を安定化するAAAAを含む構造、蛋白質の構造をフレキシブルにするGGGGを含む構造などがある。
【0038】
具体的な、天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列と、天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列との組み合わせは、例えば、塩基配列がバクテリオファージλ由来のboxB配列であり、アミノ酸配列が、バクテリオファージλ由来のラムダN配列である組み合わせ、塩基配列が、HIV RNA由来のRRE配列であり、アミノ酸配列が、HIV蛋白質由来のREV配列である組み合わせとすることができるが、これらには限定されない。また、BoxC/Dと、L7Ae由来のアミノ酸配列との組み合わせも非常に好ましい。すなわち、L7Ae(Moore T et al., Structure Vol. 12, pp. 807−818 (2004))が結合する塩基配列である、5’GGGCGUGAUGCGAAAGCUGACCC3’を基盤RNAに設け、また、これに特異的に結合するL7Ae由来のアミノ酸配列を、所望の蛋白質に結合して融合蛋白質とすることができる。
【0039】
具体的な、人工的なRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列とアミノ酸配列との組み合わせは、 HIV RNA由来のTAR配列と、試験管内進化法により取得された人工蛋白質由来のRSG−1.2 peptide配列(RNA. 2005 Sep;11(9):1364−73.)、試験管内進化法により取得された人工RNA由来のTAR アプタマー配列と、HIV蛋白質由来のTat peptide配列 (Matsugami et al, Structure. 2003 May;11(5):533−45.)が挙げられるが、これらには限定されない。
【0040】
前記のような基盤RNAと、融合蛋白質とは、生理的条件下、具体的には、4〜37℃、pH6.5〜8.0付近の溶液中で混合すると、RNA−蛋白質複合体を形成する。この結合は水素結合による安定な、かつ特異的な結合である。しかし、例えば、この溶液に、RNA−蛋白質複合体形成に競合するペプチドを添加することによって、ペプチドの濃度依存的に簡単に結合を阻害することができるという特性をも有する。具体的なRNA−蛋白質複合体形成に競合するペプチドの化学構造は、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列を有するものとすることができる。
【0041】
本実施形態のRNA−蛋白質複合体によれば、目的の機能及び構造をもつ人工RNA上に目的の蛋白質を自在に配置することができる。RNAと蛋白質とは、特異的、かつ非共有結合的な結合により結合されているため、従来の共有結合的な結合と比較して、フレキシブルな結合態様による複合体とすることができる。したがって、RNA結合モチーフをもつ任意の蛋白質を自在に交換(インストール)することができるため、RNA−蛋白質複合体のモジュラーエンジニアリングが可能となる。また、機能性のRNAと機能性の蛋白質とを複合体とすることで、多機能性のRNA−蛋白質複合体を得ることができるという利点も得られる。
【0042】
さらに、前記RNA−蛋白質複合体の、RNAの構造を制御することにより、RNA上に固定化した蛋白質の機能や立体配置を制御する方法を提供することができる。すなわち、特定の物質に対して、特定の構造変化を生ずるRNAを基盤RNAとすることで、特定の物質によりRNAの構造を制御することによって、RNA上に固定化した蛋白質の機能や立体配置を制御することができる。具体的にどのように基盤RNAの構造を変化させることにより、蛋白質の機能や立体配置を制御するかは、コンピュータモデリングにより決定することができる。
【0043】
本発明は、第二実施形態によれば、RNA上への蛋白質の固定化方法であって、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列と、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列との組み合わせを選択する工程と、前記アミノ酸配列を有する蛋白質とは異なる蛋白質に、前記選択する工程で選択したアミノ酸配列を結合し、融合蛋白質を調製する工程と、前記選択する工程で選択した塩基配列を導入した基盤RNAを調製する工程と、前記融合蛋白質と、前記基盤RNAとを混合する工程とを含む。
【0044】
RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列と、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列との組み合わせを選択する工程では、前述のデータベースを利用して、特異的な結合を生ずる塩基配列とアミノ酸配列との組み合わせを選択する。選択においては、それらの解離定数(Kd)や、結合速度(Kon)や解離速度(Koff)などの値を考慮することができる。
【0045】
次の工程では、アミノ酸配列を有する蛋白質とは異なる蛋白質に、前記選択する工程で選択したアミノ酸配列を結合し、融合蛋白質を調製する。係る工程では、足場となる基盤RNA上に固定したい所望の蛋白質の、N末端やC末端に選択したアミノ酸配列を共有結合により結合する。このような結合は、ペプチド合成、PCRによる遺伝子操作により達成することができる。所望の蛋白質と、選択したアミノ酸配列とは、直接結合してもよく、任意のリンカーを介して結合しても良い。
【0046】
基盤RNAを調製する工程では、選択した塩基配列を、挿入したオリゴヌクレオチドを化学合成し、T7RNAポリメラーゼなどを用いて試験管内転写することにより足場となる基盤RNAに導入することができる。
【0047】
前記融合蛋白質と、前記基盤RNAとを混合する工程では、上記のようにして得られた融合蛋白質と、基盤RNAとを、4〜37℃、pH6.5〜8.0付近の溶液中の条件下で混合する。RNA−蛋白質複合体は、このように単に両者を混合することにより、簡単に形成させることができる。また、複数の種類の融合蛋白質を基盤RNAに固定させたいときには、任意の順番で融合蛋白質を添加することができる。これは、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフが特異的な結合を形成するためである。このようにして形成されたRNA−蛋白質複合体は、融合蛋白質と競合するペプチドを添加することにより、簡単に解離させることができる。
【0048】
第二実施形態にかかる方法によれば、任意の基盤RNAに、任意の蛋白質を固定することができる。
【0049】
本発明は、第三実施形態によれば、RNA−蛋白質複合体の検出方法であって、蛍光共鳴エネルギー移動現象を観察することによる方法である。
【0050】
蛍光共鳴エネルギー移動現象は、ドナー側の発光スペクトルとアクセプター側の吸収スペクトルに重なりがある二以上の蛍光蛋白質間において、かつ、それらの蛋白質が1nmから10nmの距離範囲にあるときに観察される。したがって、本発明の第一実施形態によるRNA−蛋白質複合体において、励起波長と蛍光波長が異なる二以上の蛍光蛋白質が基盤RNAに1nmから10nmの距離範囲内で結合されている場合において、蛍光共鳴エネルギー移動現象を観察することにより、RNA−蛋白質複合体が、デザインした距離と配向性を有していることを確認することができる。
【0051】
また、かかるRNA−蛋白質複合体の検出方法は、別の形態によれば、RNA−蛋白質複合体に、該蛋白質の競合ペプチドを添加する工程と、蛍光共鳴エネルギー移動現象を観察することにより蛍光の消失の存在を確認する工程とを含む。かかる方法においては、蛍光共鳴エネルギー移動法により蛍光が検出されることが知られているRNA−蛋白質複合体を用いる。そして、蛋白質の競合ペプチドを添加したときに、蛍光が消失することによって、蛋白質がデザインした1nmから10nmの距離範囲内で基盤RNAに結合し、競合ペプチドの添加により、蛋白質が基盤RNAから解離していることが明らかになる。
【0052】
第三実施形態かかる方法によれば、RNA−蛋白質複合体の作製において、蛋白質の固定化を確認することができる他、RNA上に配置した、蛋白質間の距離や配向性が適切か否かを検証することができるという利点がある。
【0053】
上記第三実施形態にかかる方法の応用として、同一の蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を有し、異なる足場配列を有する複数のRNAに対して、同一の蛋白質を添加してRNA−蛋白質複合体を形成させ、蛍光共鳴エネルギー移動現象を観察することによる、分子設計方法が挙げられる。
【0054】
図1を参照して説明する。基盤RNA2上に、二つの異なるRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列23、24を導入することができる。本実施形態においては、塩基配列23と塩基配列24との距離が異なる複数の基盤RNAを設計する。具体的には、塩基配列23と塩基配列24と間に存在する塩基数が異なる複数の基盤RNAを設計する。設計は、上記第一実施形態で説明したように、コンピュータモデリングで実施することができる。そして、設計した複数の基盤RNAを合成する。次に、合成した複数の基盤RNAのそれぞれに対し、異なる二つの融合蛋白質3、4を添加し、蛍光共鳴エネルギー移動現象を観察する。この測定結果により、二つの融合蛋白質3、4の分子間距離が測定され、基盤RNA2上で、所望の最適な距離に、二つの融合蛋白質3、4を配置することが可能になる。
【0055】
本方法によれば、溶液中の三次構造における、基盤RNA2に特異的に結合する複数の融合蛋白質間の距離及び配向を測定することができる。これにより、溶液中での生体物質の反応場制御等が可能になり、例えば、RNAをスキャッホールドとして、リン酸化反応カスケードを担う蛋白質をRNA上に適切に配置させ、一群の蛋白質からなる化学反応をRNAにより制御できるといった応用が可能となる。
【0056】
ここでは、二つの融合蛋白質を配置する場合について説明したが、三つ以上の異なる融合蛋白質を基盤RNA2上に配置する場合には、RNA上の三つ以上の適切な位置に異なる三つ以上のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を導入すればよい。このようなモチーフは天然配列、または試験管内進化法により得た人工配列を自在に利用することができる。
【0057】
このように、第一実施形態から第三実施形態に具体的に説明した本発明によれば、RNA結合モチーフをもつ蛋白質が、自在に入れ替え可能である、すなわちインストールできるという特長を有する。このようなRNPのモジュール性を利用することにより、様々な応用が可能となる。例えば、本発明にかかるRNA−蛋白質複合体を用いてセンシング、スイッチ、機能性分子として利用することもできる。さらには、RNAの配列を制御することによって、自律的に立体構造を構築させ、その立体構造上に含まれる蛋白質結合RNAモチーフを、目的とする蛋白質のポリペプチドと相互作用させることによって、(複数の)蛋白質の機能を損なわずに距離および配向を制御して固定化させる方法を実現することができる。
【0058】
以下の実施例において、モジュラーエンジニアリングを利用した機能性人工RNA−蛋白質複合体の作製の方法を示す。本手法は、天然のRNA−蛋白質間相互作用を活用し、コンピュータモデリングによるin silicoでの人工RNA−蛋白質複合体の設計に基づき、蛋白質機能構造を損なわずに3次元的に基盤RNA上に融合蛋白質を固定化し、その距離や配向を制御する技術である。以下に、具体的な実験例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0059】
[コンピュータモデリングによるin silicoでの機能性RNA−蛋白質複合体の設計]
【0060】
RNA−蛋白質複合体の分子設計は分子モデリングソフトウェア、Discovery Studio1.7(Accelrys社製)を用いて下記の通り行った。まず、NMR解析によりRNAとの複合体の構造が解明されている2つのアルギニンリッチモチーフ、バクテリオファージλN(ID:1QFQ)とHIV Rev(ID:1ETG)の両ペプチドの構造をPDB(Protein Data Bank)から取得し、結合に必要な領域であるλNの1−19残基、HIV Revの34−50残基(配列番号2)を表示させた。次に、λNペプチドのC末端に蛍光蛋白質であるYFP(ID:2YFP)を、HIV RevペプチドのN末端に同じく蛍光蛋白質であるCFP(ID:1OXF)を、アラニンを4つリンカーとして付加することで結合させ、融合させた。また、後述するがλNの結合力を向上させるためにλNのN末端4残基M−D−A−QをG−N−A−Rに置換した(Austin et al; J.AM. CHEM. SOC. 2002, 124, 10966−10967)(配列番号1)。また、HIV RevのC末端には、αヘリックスの形成能を向上させ、結合力を増加させるため、アラニンを4つ付加させてある(Tan et al; Cell.1993,73,1031−1040)。こうして図2(A)(B)に示す二つの融合蛋白質を作製した。
【0061】
次に、λNおよびHIV Revが結合するRNAはそれぞれboxBおよびRREであるが、コンピュータモデリング上で2つの蛍光蛋白質YFPおよびCFPの発色団の距離が近接する(5.35nm)ようにシミュレーションを行った。その結果、boxBの配列とRREの配列からループ部分を除いた44−52,66−76塩基の部分の配列を余分な塩基対を介さずに直接隣接させたときが最も近接したので直接結合させた。また、基盤RNAの二次構造を安定させるためRREのbox Bに隣接していない側に3塩基対付加した。また、RNA作製の際、プライマー伸長法の副産物の生成を抑制するため末端を非ワトソンクリック塩基対のG−Uペアとし、3’末端にUを2個付加した。こうして完成させた基盤RNAをtypeE RNAとした(図3(A))。このようにして本手法のモデルとなるtypeE RNPを作製した(図4)。
【実施例2】
【0062】
[人工RNA−蛋白質複合体の作製]
[typeE RNA及びその変異体の作製]
Type E RNA(配列番号3)は、T7プロモーターを含むセンス側のプライマーとそれとハイブリダイズするアンチセンス側のプライマーの2本(配列番号4、5)を、グラディエントマスターサイクラー(エッペンドルフ社製)を用いて、ハイブリダイズ、伸張させた。100μL反応液には、各100μM DNAプライマー 2μL、2.5mM dNTPを8μL、Ex taq 10×バッファー 10μL、Ex taq DNAポリメラーゼ(TAKARA製)0.5μLが混合してあり、94℃ 1分、63℃ 30秒、72℃ 1分を10サイクルで行った。反応後、フェノール処理、ジエチルエーテル処理、エタノール沈殿を行い、20μLの超純水に溶解し、転写の鋳型として用いた。後述するEMSA(Electrophoretic Mobility Shift Assay)に用いる際に32Pで放射性標識する場合には、反応は、40mM Tris・Cl(pH7.5),5mM DTT,1mM スペルミジン,5mM MgCl2,1.25mM ATP,1.25mM CTP,1.25mM UTP,0.25mM GTP,[32P−α]GTP (PerkinElmer製),20U RNase inhibitor(TOYOBO製),T7 RNA polymerase条件下、37℃、3時間から一晩で行った。FRET測定に用いる際に放射性標識しない場合には、同じ鋳型DNAを用いて、MEGAshortscript(商標)(Ambion製)を用いて、転写反応を行った。MEGAshortscriptを用いた転写反応は以下の通りである。超純水に溶解した鋳型DNA 8μL、T7 10×Reaction Buffer 2μL、T7 ATP Solution(75mM) 2μL(CTP、GTP、UTPに関しても同様)、T7 Enzyme Mix 2μLを混合した全20μLを37℃で2時間から一晩反応させた。
【0063】
反応後は、TURBO DNase 1μL加え、37℃で15分インキュベートし、鋳型DNAを分解させた。反応液に、115μLの超純水と15μL 酢酸アンモニウムストップ溶液を加え、さらにフェノール処理、ジエチルエーテル抽出、エタノール沈殿を行い精製した。放射性標識したRNAもしていないRNAもエタノール沈殿後、変性色素20μL(80%ホルムアミド,0.17%XC,0.27%BPB)に溶解させ、10% ポリアクリルアミド(29:1)変性ゲル電気泳動で分離した。目的のサイズのゲルを切り出し、500μLの溶出緩衝液(0.3M 酢酸ナトリウム(pH7.0))を加え、37℃、一晩溶出を行った。溶出したRNAは再びフェノール抽出、ジエチルエーテル抽出およびエタノール沈殿を行って精製した。
【0064】
また、基盤RNAとしてtypeE RNAに加え、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列に変異を導入した変異体も作製した。すなわち、boxBもしくはRREに変異を導入することにより、λNもしくはRevの結合を阻害した変異体mut−boxB RNA(配列番号6)(図3(B))およびmut−RRE RNA(配列番号9)(図3(C))、boxBとRREの両者に変異を導入することによりλNとRevの両者の結合を阻害したdouble mutant RNA(DM RNA) (配列番号12)(図3(D))、以上三種類の変異体をTypeE RNAの作製のときと同様にT7プロモーターを含むセンス側のプライマーとそれとハイブリダイズするアンチセンス側のプライマーの2本(配列番号7、8、10,11、13,14)を、グラディエントマスターサイクラー(エッペンドルフ社製)を用いて、ハイブリダイズ、伸張させて作製し、以下の実験にコントロールとして用いた。図3中、mutは、変異を含む配列を示す。
【0065】
[融合蛋白質の作製]
初めにλN遺伝子とHIV Rev遺伝子を、制限酵素XbaIおよびBamHIで切断したpET−3aベクター(Novagen製)にRapid DNA Ligation Kit(ロシュ・ダイアグノスティックス製)を用いて連結した。このプラスミドをそれぞれKpnIおよびBamHI、XbaIおよびKpnIで切断し、同じ制限酵素で切断したYFP遺伝子とCFP遺伝子をそれぞれ連結することによりpλN−YFP及びpCFP−Revを得た。ここで、CFPもしくはYFP遺伝子は、pECFPもしくはpEYFPプラスミド(いずれもClontech製)からPCRで増幅した。また、pN−YFPおよびpCFP−RevプラスミドはC末端にヒスチジンタグ(His×6)が挿入されている。なお、CFPとRevならびにNとYFPを融合する際、両蛋白質の間にリンカー部位グリシン、トレオニンが導入されている。これは、発現ベクターに制限酵素部位を導入するためであり、リンカー部位の塩基配列は制限酵素KpnIの切断部位を含んでいるからである。続いて、リンカーのアミノ酸配列をアラニン4残基に変更した方法について述べる。まず、適切な塩基配列を持つプライマー(配列番号28、29、31、32)を用いてPCRを行い、改変したリンカーを連結させたλN遺伝子およびRev遺伝子を増幅した。PCR後、λN遺伝子はXbaIとKpnIを用いて、Rev遺伝子はKpnIとBamHIを用いて切断し、それぞれを同じ制限酵素で切断したpN−YFPまたはpCFP−Revに連結して発現ベクターを得た(配列番号27、30)。
【0066】
そうして得られたプラスミドを大腸菌BL21(DE3)pLysSに形質転換した。得られたコロニーに、インサートが含まれるか調べるために、以下の手順でコロニーダイレクトPCRを行った。反応液20μLには、各10μM プライマー 1μL、2.5 mM dNTP 1.6μL、10×taq バッファー 2μL、Taq DNAポリメラーゼ(TAKARA製)0.1μLが混合してあり、94℃ 1分、60℃ 1分、72℃ 1分を30サイクルで行った。反応後、2%アガロース電気泳動で、インサートを確認したコロニーを用いて、発現を行った。
【0067】
1%グルコース、50μg/μLアンピシリンを含むLB培地3mLに植菌し、37℃で一晩振蕩培養した。続いて培養液500μLを1%グルコース、50μg/μL アンピシリンを含むLB培地50mLに植え継いだ。O.D.550が0.4〜0.6になるまで37℃で振蕩培養し、その後、発現誘導するために1mM IPTGを加え、25℃で8時間振蕩培養した。遠心分離で菌体を回収し、ソニケーションバッファー(50mM Na phosphate、300mM NaCl、pH8.0)5mLを加え、超音波処理を行い、菌体を破砕した。なお、超音波処理は、氷上で冷却後、15秒間超音波を当てる、という操作を6回繰り返した。遠心分離により、上清を回収し、ヒスチジンタグが付いた蛋白質をNi−NTAカラム(Qiagen製)を用いて次のように精製した。Ni−NTAカラムにヒスチジンタグで吸着した融合蛋白質を洗浄バッファー(50mM NaH2PO4、300mM NaCl、10mM Imidazole、pH8.0)3mLで3回洗浄した。その後溶出バッファー(50mM NaH2PO4、300mM NaCl、各50mM,100mM,200mM,300mM Imidazole、pH8.0)各1mL×2回で段階的に溶出させた。確認はSDS−PAGEにより行った。続いて、マイクロコンYM−30(Millipore製)を用いて、蛋白質の濃縮及び30mM Tris−Cl(pH7.5)でバッファーの置換を行った。精製したタンパク質は、30mM Tris−Cl(pH7.5)バッファーで適当な濃度に溶解し、−80℃で保存した。また、蛋白質の濃度はプロテインアッセイ(BIO−RAD)を用い、Bradford法で決定した。
【実施例3】
【0068】
[EMSA(Electrophoretic Mobility Shift Assay)によるRNA−蛋白質複合体形成の確認]
反応は最終濃度が20nM RNA、20mM Tris・Cl、80mM KCl、1.5 mM MgCl2、0.001U/mL tRNA、10% Glycerol、0〜2000nM蛋白質となるよう、以下の条件で行った。まず32Pで標識した100nM RNA 4μLを90℃ 5分で変性した後、5×binding buffer(100mM Tris−Cl(pH7.5)、400mM KCl、7.5mM MgCl2、0.005U/μL tRNA、50%グリセロール)4μL、超純水を加えた後、蛋白質と混合し、全量を20μLとした。混合後、反応溶液を氷上で15分間放置した。色素(0.25% BPB、0.25% XC、30% グリセロール)を1μL加え、4℃の冷蔵庫の中で、10% 非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動を3〜4時間行った。試料の拡散を防ぐために、初めの15分は、400Vで泳動し、その後300Vに切り替えた。ゲルの放射線量の強さをBio−Imaging Analyzer(BAS2500;富士写真フィルム製)で解析した。結果、typeE RNAにおいて設計通り基盤RNA上に融合蛋白質が2つ結合していることを示唆する結果が得られた(図5(A)(B)(C)、及び図6)。
【実施例4】
【0069】
[FRET(Fluorescence resonance energy transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)測定によるRNA−蛋白質複合体設計の評価]
[typeE RNA及びDM RNAでのFRET測定]
反応は最終濃度が100nM RNA、20mM Tris・Cl、80mM KCl、1.5mM MgCl2、0.001U/mL tRNA、500nM蛋白質となるよう、以下の条件で行った。RNA以外の試料は、氷上放置し冷やして用いた。1μM RNA 21μLを90℃ 5分で変性させ、超純水63μLと、5×binding buffer(100mM Tris−Cl(pH7.5)、400mM KCl、7.5mM MgCl2、0.005U/μL tRNA)を42μL加え、よく混合した後、卓上遠心機でスピンダウンした。続いて2.5μM 各蛋白質を42μL混合し全量を210μLとして卓上遠心機でスピンダウンした後、遮光したサンプルケースに入れ、室温で30分放置した。
【0070】
反応後、試料をゲルローディング用チップ(200μL)で100μL採取し、0.5mm×0.5mmの石英セルに空気に注意しながら静かに入れ、蛍光分光器FP−6500(日本分光)を用いて、次のような条件で蛍光測定を行った。測定条件は、測定モードEmission、励起バンド幅 5nm、蛍光バンド幅 5nm、レスポンス0.2sec、感度 Medium、測定範囲400−600nm、データ取込間隔 0.1nm、励起波長 433.0nm、走査速度 200nm/min、繰返し回数 1回。温度調節器は感度が下がるため、用いなかった。石英セルの洗浄は、アスピレーターを使って超純水で三回行った。測定は少なくとも2回以上行った。FRETの評価は、スペクトルデータの定性的結果を得るため、CFPの放出波長のマイナーピークである504nmで規定化を行い、その相対的比較を行った。また、527nmの蛍光強度と475nmの蛍光強度の比をFRET valueの指標として用い、解析を行った。結果、typeE RNAにおいてdouble mutant typeE RNAでは見られなかった475nmの蛍光強度が減少し、527nmの蛍光強度が増加するというFRET特有の現象が見られた(図7)。これは設計通りに基盤RNA上に2つの蛋白質が機能を損なわずに結合できていることを示唆するものである。
【0071】
さらに、typeE RNA及びdouble mutant typeE RNAにおいてRNA濃度を0〜300nMまで変化させ、FRET効率への影響を調べた。結果、typeE RNAにおいて図8のようにある濃度まではFRET効率が濃度依存的に上昇していくが、ある濃度を越えると減少していく結果が得られた。これはある程度の濃度までは基盤RNA上に2つの融合蛋白質が結合した複合体の割合が増加していく結果を示唆するが、さらに基盤RNAを増やすと片方の融合蛋白質のみが結合した複合体の割合が上昇していく、などの理由でFRET効率の減少に影響していると見られる。
【0072】
[ペプチドによるFRET競合実験]
λN−YFP、CFP−Rev両融合蛋白質の代わりに、λNペプチド及びRevペプチドを用いて結合のFRET競合実験を行った。手順は上記と同様である。結果、100nM typeE RNAに対し、5μMまたは10μMのペプチドにより、FRET強度の減少が確認された(図9、10)。このことは、配列特異的に基盤RNA上に2つの融合蛋白質が結合しているという結果であり、上記の実験結果を裏付けるものである。
【実施例5】
【0073】
[typeB RNAへの本手法の適用及びその評価]
[typeB RNAの設計]
単純にRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を繋いだだけのtypeE RNAだけでなく、以前我々の研究室で取得したDSLリボザイムのRNA骨格に用いたセルフフォールディングするtypeB RNA(Structure,Vol.10,527−534,2002)を基盤RNAとするRNA−蛋白質複合体も設計した。設計はtypeE RNAのときと同様にDiscovery Studio1.7(Accelrys社製)を使用して以下のように行った。まず、typeB RNAの設計のときと同様に、上部の構造安定化モジュールとして、テトラヒメナ・グループIイントロンのGAAAテトラループ−11ntレセプター相互作用構造をPDBから取得し(ID:1GID)、下部の構造安定化モジュールとして、テトラヒメナ・グループIイントロンのP4−J6/7部分のベーストリプル構造をPDBから取得した(ID:1GRZ)。
【0074】
RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列の導入場所として、11ntレセプターの上部、11ntレセプターとTriple Helical Scaffold(THS)の間の部分を選択し、そこへそれぞれboxB−λN、RRE−RevのRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を導入した。コンピュータモデリング上で2つの蛍光蛋白質YFPおよびCFPの発色団の距離が近接する(5.39 nm)ようにシミュレーションを行った。それぞれに蛍光蛋白質YFPとCFPを融合させたのもtypeEのときと同様である。さらに、これらのモジュール間を繋ぐ際に、モチーフの導入による設計上の構造の歪みを解消するため、ステムの中に2つのkinkを含み、直線的なヘリックス構造を取らずに少しカーブしたような構造を取ることがX線構造解析から知られている[U(UA)6A]2を用いることにした(J.Mol.Hiol.209,459−474,1989)(ID:1RNA)。また、ステムの末端を繋ぐループは、UUCGテトラループ構造をPDBより取得し(ID:1F7Y)、望みの塩基配列に置換させたものを用いた(図11(a)(b))。こうして、コンピューター上でtypeB RNA−蛋白質複合体の設計を行った(図11(c))。
【0075】
また、TypeB RNAが期待通りに三次相互作用に依存してコンパクトな構造になるか調べるため以下の実験に使用する3つの変異体であるTypeB RNA−1(図12(B))、TypeB RNA+1(図12(C))、Mut 11ntR TypeB RNA)(図12(A))を作製した。Type B RNA−1とType B RNA+1は、デザインの正確性から1塩基程度のズレは生じる可能性があると考え、11ntレセプターのGAAAテトラループに対する相対位置が1塩基対分だけ上下にズレている変異体である。また、Mut 11 ntR Type B RNAは、11ntレセプター部分を単純なステム構造に置換することにより、GAAAテトラループとの相互作用を破壊した変異体である。
【0076】
[typeB RNAの作製]
TypeB RNA(配列番号15)に関しては、TypeB RNA fw(配列番号16)プライマーとTypeB RNA revプライマー(配列番号17)の2本を、PCRサーマルサイクラーを用いて、ハイブリダイズ、伸張させた。反応には、各100μM DNAプライマー 2μL、2.5mM dNTPを8μL、Ex taq 10×バッファー 10μL、DNAポリメラーゼ(Ex taq、TAKARA製)0.5μLを使用した。以上の条件で、94℃ 1分、60℃ 30秒、72℃ 1分を15サイクルの反応を行った。反応後、フェノール処理、エタノール沈殿を行い、制限酵素EcoRIとHindIIIで切断させ、再びフェノール処理、エタノール沈殿を行い、LMPアガロース電気泳動を行い、目的のバンドを切り出し精製した。Rapid DNA Ligation Kit(ロシュ・ダイアグノスティックス製)を用いて、制限酵素EcoRIとHindIIIで切断させたpUC118ベクターにクローニングした。Type B RNAの変異体であるTypeB RNA−1(配列番号18)、TypeB RNA+1(配列番号21)、mut 11ntR TypeB RNA(配列番号24)に関しては、pTypeB RNAプラスミドを鋳型とし、5’末端にBsaIに認識、切断される制限酵素部位を導入したプライマー(配列番号19、20、22、23、25、26)を用いてPCRを行った。PCR反応バッファー(50μL)の組成は、各10μM DNAプライマー2.5μL、2mMdNTPを8μL、25mM MgCl2 5μL、LA PCR BufferII 10×バッファー 5μL、鋳型DNA 10ng、DNAポリメラーゼ(LA taq、TAKARA)0.5μLであった。この時、LA taqを用いたのは、AUリッチな配列を含むため、二次構造形成による伸張反応の阻害を防ぐためである。以上の条件で、94℃ 30秒、58℃ 30秒、72℃ 4分を25サイクルの反応を行った。反応後、フェノール処理、エタノール沈殿を行い、LMPアガロース電気泳動を行い、目的のバンドを切り出し精製した。その後BsaIで処理し、Rapid DNA Ligation Kit(ロシュ・ダイアグノスティックス製)により自己環化させ、プラスミドを再構築した。
【0077】
これらのプラスミドの配列確認は、Bca BESTTM Dideoxy Sequencing Kit(TAKARA製)を用い、ダイデオキシ法によって行った。シークエンス反応は、pUC118のマルチクローニングサイトの両端に位置するプライマーであるM13、M13 Reverseを用いた。反応後の試料をエタノール沈殿により回収し、ALF expressII(Phamacia Biotech製)により挿入DNA断片の塩基配列を決定した。TypeB RNAやその11ntレセプター変異体に関しては、プラスミドに組み込む際に、5’末端にT7プロモーター配列を付加していたため、HindIIIで切断し直鎖状にしたものを鋳型DNAとして用いてTypeE RNAと同様に転写反応を行った。エタノール沈殿後、変性色素20μL(80%ホルムアミド,0.17%XC,0.27%BPB)に溶解させ、5% ポリアクリルアミド(29:1)変性ゲル電気泳動で分離した。目的のサイズのゲルを切り出し、500μLの溶出緩衝液(0.3M 酢酸ナトリウム(pH7.0))を加え、37℃、一晩溶出を行った。溶出したRNAは再びフェノール抽出、ジエチルエーテル抽出およびエタノール沈殿を行って精製した。
【0078】
[typeB RNA及びその変異体の構造の確認]
デザインしたTypeB RNAとこれらの変異体を用い、非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動によってTypeB RNAが期待される構造を取りうるかどうか検討した。非変性ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動を行うと、非変性ゲル中でのRNAの移動度はそのRNAの大きさや形で決まるため、長さが同じ程度のRNA分子を泳動した場合、よりコンパクトな立体構造を取る分子ほど泳動度が大きくなる。そのため、RNA立体構造のコンパクトさを相対的に比較するために有効な手段である。また、GAAAテトラループ−11ntレセプターはマグネシウムイオン濃度依存的に相互作用が強くなることが知られていることから、マグネシウムイオン濃度を0mM、10mM、25mMと変化させて非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。以下具体的な手順を示す。超純水5μLに32Pで標識したRNA1μL(20000cpm)を加え、80℃,5min加熱して変性させた。室温まで冷却させた後、10×緩衝液(500mM Tris−OAc(pH7.5),任意濃度の10倍のMg(OAc)2)を0.5μL加え、30℃,30minかけてRNAをフォールディングさせた。1μLの色素マーカー(18%グリセリン,0.5% XC)を加え、非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。ゲルは5%ポリアクリルアミド(39:1)を用いて作製し、50mM Tris−OAc(pH7.5),任意濃度のMg(OAc)2を含むバッファーを使用して200V 3分でサンプルをゲル中に素早く泳動させ、発熱を防ぐために75Vで4〜7時間泳動した。Mg(OAc)2を含まない場合にはゲル、緩衝液の両方に最終濃度が0.1mMになるようにEDTAを添加した。また、長時間の泳動により上下の泳動層のバッファー組成に違いが出るのを防ぐために、ペリスタポンプを用いてバッファーを循環させた。ゲルの放射線量の強さをBio−Imaging Analyzer(BAS2500;富士写真フィルム製)で解析した。
【0079】
結果、マグネシウムイオン濃度が0mMでは、移動度に差はほとんど見られなかったのに対し、マグネシウムイオンを含んだ非変性ゲルでは、RNA相互作用を破壊したmut 11ntR TypeB RNAに比べ、その他のRNAの移動度が大きくなった(図13(a)(b)(c)、図14)。これは、RNAの三次元的な相互作用を意味する。ループ−レセプターの相対位置の変化の影響を見てみると、TypeB RNA−1とTypeB RNA+1がほぼ同程度の移動度を示したのに対し、TypeB RNA−1は少し移動度が小さかった。このことは、TypeB RNA−1が他の二種類のRNAと比べてループ−レセプター相互作用が弱いことを示している。以上の結果より、デザインしたRNAは期待通りに三次相互作用に依存してコンパクトな構造になることが示された。
【0080】
[EMSAによるtypeB RNA−蛋白質複合体形成の確認]
typeE RNAのときと全く同様の手順で行った。結果、typeB RNAにおいても設計通り基盤RNA上に融合蛋白質が2つ結合していることを示唆する結果が得られた(図15(a)(b)、図16)。
【0081】
[FRET測定によるtypeB RNA−蛋白質複合体設計の評価]
typeE RNAのときと全く同様の手順で行った。結果、typeB RNAにおいても475nmの蛍光強度が減少し、527nmの蛍光強度が増加するというFRET特有の現象が見られた(図17、図18)。以上のことから、基盤RNAとして単純にRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を並べただけの構造のみならず、設計したセルフフォールディングするRNAの目的の位置にRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を入れ、蛋白質を結合させる事にも成功した。
【実施例6】
【0082】
[RNA及び融合蛋白質の調製]
実施例1と同様にして、図3(A)に示すtype−E RNA(配列番号3 ggccugggcg cagcccugaa gaagggcuga cgguacaggc uuu)、及び図3(D)に示すdouble mutant RNA(DM RNA) (配列番号12)を作製した。また、同様にして、図19(a)に示す、type−E−2 RNA(配列番号33 ggccugggcg caccugaa gaagguga cgguacaggc uuu)、図19(b)に示す、type−E−3 RNA(配列番号34 ggccugggcg cacugaa gaaguga cgguacaggc uuu)、図19(c)に示す、type−E−4 RNA(配列番号35 ggccugggcg caugaa gaauga cgguacaggc uuu)を作製した。
実施例1と同様にして、図2(A)(B)に示す二つの融合蛋白質を作製した。得られた蛋白質(A)λ−YFPの配列を、配列番号36に、得られた蛋白質(B)CFP−REVの配列を配列番号37に示す。
【0083】
[コンピュータモデリングによる機能性RNA−蛋白質複合体]
実施例1と同様の方法で、type−E RNA、type−E−2 RNA、type−E−3 RNA、type−E−4 RNAのそれぞれと、融合蛋白質との複合体のモデリングを行った。この結果を、図20、21、22に、それぞれ示す。モデリングの結果、type−E RNAに二つの融合蛋白質を結合させたときの両融合蛋白質間の発色団間の距離は、約5.7nmであった。なお、発色団間の距離とは、CFP蛋白質の66番目のアミノ酸残基であるチロシンと、YFP蛋白質の66番目のアミノ酸残基であるトリプトファンとの距離をいう。図20に示すモデリングの結果、type−E−2 RNAに二つの融合蛋白質を結合させたときの発色団間の距離は、約4.6nmであった。図21に示すモデリングの結果、type−E−3 RNAに二つの融合蛋白質を結合させたときの発色団間の距離は、約3.1nmであった。図22に示すモデリングの結果、type−E−4 RNAに二つの融合蛋白質を結合させたときの発色団間の距離は、約1.9mmであった。なお、図22において、実際には、λ−YFPは、RNAに結合していないことが、ゲルシフトアッセイによる実験(図示せず)により確認された。
【0084】
[FERTアッセイ]
上記5種類のRNAと、二つの融合蛋白質との複合体、及びRNAを加えない融合蛋白質のみの系のFERT測定を、実施例4と同様の方法により行った。具体的には、反応は最終濃度が100nM RNA、20mM Tris・Cl、80mM KCl、1.5mM MgCl2、0.001U/mL tRNA、500nM蛋白質となるよう、以下の条件で行った。RNA以外の試料は、氷上放置し冷やして用いた。1μM RNA 21μLを90℃ 5分で変性させ、超純水63μLと、5×binding buffer(100mM Tris−Cl(pH7.5)、400mM KCl、7.5mM MgCl2、0.005U/μL tRNA)を42μL加え、よく混合した後、卓上遠心機でスピンダウンした。続いて2.5μM 各蛋白質を42μL混合し全量を210μLとして卓上遠心機でスピンダウンした後、遮光したサンプルケースに入れ、室温で30分放置した。反応後、試料をゲルローディング用チップ(200μL)で100μL採取し、0.5mm×0.5mmの石英セルに空気に注意しながら静かに入れ、蛍光分光器FP−6500(日本分光)を用いて、次のような条件で蛍光測定を行った。測定条件は、測定モードEmission、励起バンド幅 5nm、蛍光バンド幅 5nm、レスポンス0.2sec、感度 Medium、測定範囲400−600nm、データ取込間隔 0.1nm、励起波長 433.0nm、走査速度 200nm/min、繰返し回数 1回。温度調節器は感度が下がるため、用いなかった。石英セルの洗浄は、アスピレーターを使って超純水で三回行った。測定は少なくとも2回以上行った。FRETの評価は、スペクトルデータの定性的結果を得るため、CFPの放出波長のマイナーピークである504nmで規定化を行い、その相対的比較を行った。また、527nmの蛍光強度と475nmの蛍光強度の比をFRET valueの指標として用い、解析を行った。
【0085】
結果を、図24、25に示す。グラフが示すように、type−E RNA、type−E−2 RNA、type−E−3 RNAの順にFRET強度が上昇したことがわかる。これは、蛍光蛋白質間の発色団の距離が短い程FRET効率が高くなることに起因する。いっぽう、RNAを添加しなかった系、DM RNA、type−E−4 RNAは、いずれも低いFRET強度を示すことがわかった。この結果から、DM RNA及びtype−E−4 RNAでは、二種の融合蛋白質がRNAに結合していないことが示唆される。
このように、二つの融合蛋白質とこれが特異的に結合する配列を有するRNAとのRNA−蛋白質複合体と、FRET測定を用いることにより、RNA上に目的の複数の蛋白質を、距離と配向性を制御して自在に配置させる技術が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の活用例として、この技術は、目的の機能構造をもつ人工RNAを分子デザインにより創出し、そのRNA上に目的の蛋白質を自在にインストールできるため、RNA−蛋白質複合体の機能変換や、目的・用途に合わせてRNA−蛋白質間相互作用を複数導入し、多機能性アプタマーなどの新規分子を作製する事ができる可能性がある。RNAと蛋白質は化学的に安定な物質であり、またグラム単位での合成が可能な他の有機材料と同等の実用的な材料であるため、シンセティックバイオロジーとして医療、環境への応用のほか、さらにはナノテクノロジーの機能性新材料としてエレクトロニクス、イメージングなどへの新たな材料を提供することも可能であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施形態によるRNA−蛋白質複合体を示す模式図である。
【図2】図2Aは、YFPを有する融合蛋白質を表す模式図であり、図2Bは、CFPを有する融合蛋白質を表す模式図である。
【図3】図3Aは、TypeE RNAの二次構造を表す模式図であり、図3Bは、mutant boxB TypeE RNAの二次構造を表す模式図であり、図3Cは、mutant RRE TypeE RNAの二次構造を表す模式図であり、図3Dは、double mutant (DM) TypeE RNAの二次構造を表す模式図である。
【図4】コンピュータモデリングによるTypeE RNAの設計図である。
【図5】図5Aは、λN−YFPとTypeE RNAの結合力が弱いことを表し、図5Bは、λN−YFPにアミノ酸置換を施したGNAR−λN−YFPがTypeE RNAと相互作用する結合力が強いことを表し、図5Cは、CFP−RevがTypeE RNAと相互作用する結合力が強いことを表す図である。
【図6】図6は、EMSAによるTypeE RNAとその変異体融合蛋白質の結合の確認を示す。
【図7】図7は、TypeE RNAとその変異体のFRET測定の結果を示すグラフである。
【図8】図8は、TypeE RNAとその変異体のRNA濃度によるFRET効率の変化を示すグラフである。
【図9】図9は、ペプチドによる競合阻害実験の結果を示すグラフである。
【図10】図10は、ペプチドによる競合阻害実験の結果を示すグラフである。
【図11】図11(a)は、TypeB RNAの設計方法の概略を示す図であり、図11(b)は、TypeB RNAの塩基配列と二次構造を示す図であり、図11(c)は、コンピュータモデリングによるTypeB RNAの設計図である。
【図12】図12(a)は、TypeB RNA、図12(b)は、TypeB RNAの11ntレセプターのGAAAテトラループに対する相対位置が1塩基対分だけ下にずれている変異体であるTypeB RNA−1、図12(c)は、TypeB RNAの11ntレセプターのGAAAテトラループに対する相対位置が1塩基対分だけ上にずれている変異体であるTypeB RNA+1をそれぞれ示す模式図である。
【図13】図13は、TypeB RNA、TypeB RNA−1、TypeB RNA+1がセルフフォールディングできるのに対し、TypeB RNAの構造安定化部位に変異を導入したmutant11nRは、セルフフォールディングできないことを示す図である。
【図14】図14は、TypeB RNA及びその変異体の構造設計とRNA3次相互作用の確認を示す図である。
【図15】図15は、EMSAによる、TypeB RNA及びその変異体と、融合蛋白質の結合の確認を示す図である。
【図16】図16は、EMSAによる、TypeB RNA及びその変異体と、融合蛋白質の結合の確認を示す図である。
【図17】図17は、TypeB RNAとその変異体のFRET測定の結果を示すグラフである。
【図18】図18は、TypeB RNA上に配置されたGNAR−λN−YFPとCFP−Revは、TypeE RNA上に配置されたGNAR−λN−YFPとCFP−Rev と同等のFRET効率を有することを示すグラフである。
【図19】図19Aは、TypeE−2 RNAの二次構造を表す模式図であり、図19Bは、TypeE−3 RNAの二次構造を表す模式図であり、図19Cは、TypeE−4 RNAの二次構造を表す模式図である。
【図20】図20は、TypeE−2 RNA上に配置されたGNAR−λN−YFPとCFP−Revのモデリング図である。図中の数字は、発色団間距離を表す。
【図21】図21は、TypeE−3 RNA上に配置されたGNAR−λN−YFPとCFP−Revのモデリング図である。図中の数字は、発色団間距離を表す。
【図22】図22は、TypeE−4 RNA上に配置されたGNAR−λN−YFPとCFP−Revのモデリング図である。図中の数字は、発色団間距離を表す。
【図23】図23は、TypeE RNAと、蛋白質の結合を阻害する変異体(DM RNA)、及びTypeE RNAのRNA−蛋白質相互作用モチーフの距離を近接させたRNA(E−2,E−3,E−4)のFRET測定の結果を示すグラフである。
【図24】図24は、TypeE RNAと蛋白質の結合を阻害する変異体(DM RNA)、及びTypeE RNAのRNA−蛋白質相互作用モチーフの距離を近接させたRNA(E−2,E−3,E−4)のFRET効率を比較して示すグラフである。
【符号の説明】
【0088】
1 RNA−蛋白質複合体
2 基盤RNA
23 RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列
24 RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列
3 融合蛋白質
31 RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列
32 リンカー
4 融合蛋白質
41 RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列
42 リンカー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を有する基盤RNAと、
蛋白質と、前記塩基配列に非共有結合的にかつ特異的に結合するRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列とを含む融合蛋白質と
を含んでなるRNA−蛋白質複合体。
【請求項2】
前記RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフが天然に存在するRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフである請求項1に記載のRNA−蛋白質複合体。
【請求項3】
前記RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフが試験管内進化法により得られた人工的なRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフである請求項1に記載のRNA−蛋白質複合体。
【請求項4】
前記基盤RNAが機能性RNAであり、前記蛋白質が機能性蛋白質であり、前記RNA−蛋白質複合体が多機能性複合体である、請求項1〜3のいずれかに記載のRNA−蛋白質複合体。
【請求項5】
前記融合蛋白質が、前記蛋白質と、前記アミノ酸配列との間にさらにリンカーを含んでなる請求項1〜4のいずれかに記載のRNA−蛋白質複合体。
【請求項6】
前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列が、バクテリオファージλ由来のboxB配列であり、前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列が、バクテリオファージλ由来のNペプチド配列である請求項2に記載のRNA−蛋白質複合体。
【請求項7】
前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列が、HIV由来のRRE配列であり、前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列が、HIVRev蛋白質由来の配列である請求項2に記載のRNA−蛋白質複合体。
【請求項8】
RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列と、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列との組み合わせを選択する工程と、
前記アミノ酸配列を有する蛋白質とは異なる蛋白質に、前記選択する工程で選択したアミノ酸配列を結合し、融合蛋白質を調製する工程と、
前記選択する工程で選択した塩基配列を導入した基盤RNAを調製する工程と、
前記融合蛋白質と、前記基盤RNAとを混合する工程と
を含む基盤RNA上への蛋白質の固定化方法。
【請求項9】
前記蛋白質が複数含まれている場合に、前記蛋白質間の距離及び/または配向性を三次元的に制御することを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記三次元的な制御が、基盤RNAの配列及び/または骨格を変換することにより実施される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
蛍光共鳴エネルギー移動現象を観察することによる、RNA−蛋白質複合体の検出方法。
【請求項12】
RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列をもつ任意の蛋白質を任意の順序で、基盤RNA上に配置する方法。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれかに記載のRNA−蛋白質複合体の、RNAの構造を制御することにより、RNA上に固定化した蛋白質の機能や立体配置を制御する方法。
【請求項14】
前記三次元的な制御が、蛍光共鳴エネルギー移動現象の観察結果に基づいて、基盤RNAの配列及び/または骨格を変換することにより実施される請求項9に記載の方法。
【請求項1】
RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列を有する基盤RNAと、
蛋白質と、前記塩基配列に非共有結合的にかつ特異的に結合するRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列とを含む融合蛋白質と
を含んでなるRNA−蛋白質複合体。
【請求項2】
前記RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフが天然に存在するRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフである請求項1に記載のRNA−蛋白質複合体。
【請求項3】
前記RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフが試験管内進化法により得られた人工的なRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフである請求項1に記載のRNA−蛋白質複合体。
【請求項4】
前記基盤RNAが機能性RNAであり、前記蛋白質が機能性蛋白質であり、前記RNA−蛋白質複合体が多機能性複合体である、請求項1〜3のいずれかに記載のRNA−蛋白質複合体。
【請求項5】
前記融合蛋白質が、前記蛋白質と、前記アミノ酸配列との間にさらにリンカーを含んでなる請求項1〜4のいずれかに記載のRNA−蛋白質複合体。
【請求項6】
前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列が、バクテリオファージλ由来のboxB配列であり、前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列が、バクテリオファージλ由来のNペプチド配列である請求項2に記載のRNA−蛋白質複合体。
【請求項7】
前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列が、HIV由来のRRE配列であり、前記天然のRNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列が、HIVRev蛋白質由来の配列である請求項2に記載のRNA−蛋白質複合体。
【請求項8】
RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来の塩基配列と、RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列との組み合わせを選択する工程と、
前記アミノ酸配列を有する蛋白質とは異なる蛋白質に、前記選択する工程で選択したアミノ酸配列を結合し、融合蛋白質を調製する工程と、
前記選択する工程で選択した塩基配列を導入した基盤RNAを調製する工程と、
前記融合蛋白質と、前記基盤RNAとを混合する工程と
を含む基盤RNA上への蛋白質の固定化方法。
【請求項9】
前記蛋白質が複数含まれている場合に、前記蛋白質間の距離及び/または配向性を三次元的に制御することを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記三次元的な制御が、基盤RNAの配列及び/または骨格を変換することにより実施される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
蛍光共鳴エネルギー移動現象を観察することによる、RNA−蛋白質複合体の検出方法。
【請求項12】
RNA−蛋白質複合体相互作用モチーフ由来のアミノ酸配列をもつ任意の蛋白質を任意の順序で、基盤RNA上に配置する方法。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれかに記載のRNA−蛋白質複合体の、RNAの構造を制御することにより、RNA上に固定化した蛋白質の機能や立体配置を制御する方法。
【請求項14】
前記三次元的な制御が、蛍光共鳴エネルギー移動現象の観察結果に基づいて、基盤RNAの配列及び/または骨格を変換することにより実施される請求項9に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図14】
【図17】
【図18】
【図19】
【図23】
【図24】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図13】
【図15】
【図16】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図14】
【図17】
【図18】
【図19】
【図23】
【図24】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図13】
【図15】
【図16】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2009−142273(P2009−142273A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297752(P2008−297752)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年7月28日 第9回日本RNA学会年会事務局、名古屋大学大学院 理学研究科 生命理学専攻、遺伝子発現制御学グループ 饗場研究室内発行の「第9回日本RNA学会年会要旨集」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年7月28日 第9回日本RNA学会年会事務局、名古屋大学大学院 理学研究科 生命理学専攻、遺伝子発現制御学グループ 饗場研究室内発行の「第9回日本RNA学会年会要旨集」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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