説明

機能改変コレステロールエステラーゼおよびその製造方法

【課題】機能性タンパク質をコレステロールエステラーゼに直接結合させずに、機能改変コレステロールエステラーゼを製造することができる方法を提供すること。
【解決手段】コレステロールエステラーゼに特異性を有するシャペロニンを用いて、機能性タンパク質をコレステロールエステラーゼに付加して機能改変ChEを製造する。具体的には、コレステロールエステラーゼと、機能性タンパク質を付加したシャペロニンとを会合させて、「コレステロールエステラーゼ−[シャペロニン−機能性タンパク質]」の構造を有する機能改変コレステロールエステラーゼを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能改変コレステロールエステラーゼおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然型タンパク質の機能を人工的に改変する技術として、分子生物学や遺伝子工学を応用したタンパク質工学技術が広く研究されている。タンパク質工学技術で用いられる手法としては、例えば、アミノ酸置換、進化分子工学、キメラタンパク質構築、立体構造シミュレーションなどが挙げられる。
【0003】
これまでに医薬品、洗剤、工業原料の合成などの様々な分野において酵素が利用されている。これらの分野では、天然型酵素だけではなくタンパク質工学の手法を用いて作製した機能改変酵素も利用されている。
【0004】
酵素の基質特異性は臨床検査分野において非常に有用な性質であり、様々な酵素が臨床検査の測定試薬として使用されている。その中で、コレステロールエステラーゼ(以下「ChE」と略記する)は、エステル型コレステロールを特異的に加水分解する活性を有することから脂質の測定試薬として用いられており、現在は主に大型自動検査機器用の検査試薬として市販されている。現在までにChEに対して、コレステロールエステラーゼ活性以外に、さらに他のタンパク質が有する機能を付加したという酵素改変体は報告されていない。このような酵素改変体の例として、適切な部位に他のタンパク質の機能ドメインを結合させたChEなどが考えられる。以下、本明細書において「酵素改変体」とは、親酵素が有する活性以外に、さらに他のタンパク質が有する機能を付加した酵素を意味する。
【0005】
酵素の触媒機能を改良した改変体を作製した例としては、例えば、基質特異性、構造安定性および触媒活性の向上を目的として、アミノ酸置換法を用いてグルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸置換体を作製した例が知られている。また、汎用性の高い機能改変グルコースデヒドロゲナーゼを作製することを目的として、グルコースデヒドロゲナーゼとストレプトアビジンのビオチン結合部位とを結合させた融合タンパク質を構築する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、熱、強酸、強アルカリ、有機溶剤に対する安定性を向上させることを目的として、酵素とシャペロニンとを結合させた融合タンパク質を構築する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−125689号公報
【特許文献2】特開2004−26713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の酵素改変体の製造方法では、機能性タンパク質を酵素に直接結合させるため、酵素自身の触媒活性や特異性、安定性などが変化してしまうことがあった。
【0009】
また、従来の酵素改変体の製造方法では、単独でフォールディング可能な酵素(例えば、グルコースデヒドロゲナーゼ)については触媒活性を有する酵素改変体を製造できたが、フォールディングにシャペロニンが必要な酵素(例えば、ChE)については正しくフォールディングさせることができず、触媒活性を有する酵素改変体を製造できなかった。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、酵素に機能性タンパク質を直接結合させなくても酵素改変体を製造することができる機能改変酵素の製造方法、およびその製造方法により製造された機能改変酵素を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、フォールディングにシャペロニンが必要な酵素であっても、触媒活性を有する酵素改変体を製造することができる機能改変酵素の製造方法、およびその製造方法により製造された機能改変酵素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、機能改変を目的とする酵素(ChE)に特異性を有するシャペロニンを用いることで、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明の第一は、以下の機能改変ChEの製造方法に関する。
【0014】
[1]ChEを用意するステップと、前記ChEに特異性を有するシャペロニンと機能性タンパク質とを含む融合タンパク質を用意するステップと、前記ChEと前記融合タンパク質との複合体を形成させるステップと、を含む、機能改変ChEの製造方法。
[2]ChEを用意するステップと、前記ChEに特異性を有するシャペロニンと機能性タンパク質とを含む融合タンパク質を用意するステップと、前記ChEと前記融合タンパク質との複合体を形成させるステップと、を含み、前記ChEは触媒活性を発揮するために前記シャペロニンによるフォールディングを必要とする、機能改変ChEの製造方法。
[3]前記機能性タンパク質は、分子認識機能を有するタンパク質、触媒活性を有するタンパク質または分子標識機能を有するタンパク質である、[1]または[2]に記載の製造方法。
【0015】
また、本発明の第二は、以下の融合タンパク質に関する。
[4][1]〜[3]に記載の製造方法で使用される融合タンパク質であって、ChEに特異性を有するシャペロニンと機能性タンパク質とを含む融合タンパク質。
【0016】
また、本発明の第三は、以下の機能改変ChEに関する。
[5]ChEと、前記ChEに特異性を有するシャペロニンと機能性タンパク質とを含む融合タンパク質と、を含む、機能改変ChE。
[6]前記機能性タンパク質は、分子認識機能を有するタンパク質、触媒活性を有するタンパク質または分子標識機能を有するタンパク質である、[5]に記載の機能改変ChE。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、機能性タンパク質をChEに直接結合させないため、ChE自身の触媒活性や特異性、安定性などを変化させずに機能改変ChEを製造することができる。また、本発明によれば、フォールディングにシャペロニンが必要なChEであっても、触媒活性を有する機能改変ChEを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の機能改変ChEの製造方法の手順を示す模式図
【図2】実施例1におけるゲルろ過クロマトグラフィーの結果を示すクロマトグラム
【図3】実施例1における各フラクションのリパーゼ活性の測定結果を示すグラフ
【図4】実施例1におけるリパーゼ活性の測定結果を示すグラフ
【図5】実施例2で作製した機能改変ChEのChE活性とGFPの蛍光強度を示すグラフ
【図6】実施例3で作製した機能改変ChEのChE活性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の機能改変ChEの製造方法は、ChEに機能性タンパク質を付加して酵素改変体である機能改変ChEを製造する方法であって、ChEに特異性を有するシャペロニンを介して機能性タンパク質をChEに付加することを特徴とする。具体的には、本発明の製造方法は、機能性タンパク質を付加したシャペロニン(融合タンパク質)とChEとを会合させて、「ChE−[シャペロニン−機能性タンパク質]」の構造を有する機能改変ChEを製造する。
【0020】
本明細書において「シャペロニン」とは、他のタンパク質に会合して当該タンパク質をフォールディング(リフォールディング)させるタンパク質を意味する。したがって、「ChEに特異性を有するシャペロニン」とは、ChEと特異的に会合して、ChEをフォールディングさせるタンパク質を意味する。
【0021】
[コレステロールエステラーゼおよびシャペロニン]
コレステロールエステラーゼ(ChE)は、多くの生物において脂質代謝に関わる重要な酵素であり、哺乳類や微生物などのChEについて多数報告されている。ChEは、エステル型コレステロールを加水分解して、遊離型コレステロールおよび脂肪酸を生成する反応を触媒する。ChEは、脂質を分解する活性を有することからリパーゼに分類されることもある。
【0022】
微生物由来のChEには、その種に特有の発現機構を経て細胞外部に分泌されるものが存在する。このときに重要な役割を果たすのが、ChEに対して特異的なフォールディング活性を有するシャペロニンである。例えば、グラム陰性細菌のシュードモナス・アルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)では、次に説明するように、ChEである「LipA」の発現において、LipAに特異的なシャペロニンである「LipB」が重要な役割を果たしている。
【0023】
まず、細胞内においてLipA遺伝子が転写、翻訳され、ポリペプチド鎖が合成される。ポリペプチド鎖(ChE活性を有しない)は、Secシステム(Sec system)と呼ばれるペリプラズム輸送システムを経てペリプラズム空間に移送される。ポリペプチド鎖は、ペリプラズム空間においてLipBにより折りたたまれ、ChE活性を有するLipAとなる。LipAは、Dsbシステム(Dsb system)により分子内ジスルフィド結合を形成され、Xcp機構(Xcp machinery)を経て細胞外に分泌される。Xcp機構を通過するときに、LipAはLipBタンパク質から遊離する。
【0024】
本発明の製造方法では、ChEとシャペロニンとを会合させることにより機能改変ChEを製造する。本発明の製造方法で使用するChEは、シャペロニンと会合しうるもの、すなわち触媒活性を発揮するためにはシャペロニンによるフォールディングを必要とするものであれば特に限定されない。また、本発明の製造方法で使用するシャペロニンは、使用するChEに特異的に会合するものであれば特に限定されない。
【0025】
本発明の製造方法で使用するChEとシャペロニンとの組み合わせは、シャペロニンがChEに対して特異的に会合しうる組み合わせであれば特に限定されない。同一の種(さらに言えば、同一のオペロン)に由来するChEとシャペロニンには、この条件を満たすものが多い。このような種が属する属の例には、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、カンジダ(Candida)属などが含まれる。表1に、これらの種におけるChEと当該ChEに特異性を有するシャペロニンとの組み合わせの例を示す。
【0026】
【表1】

【0027】
シュードモナス属の種(Pseudomonas sp.)、バークホルデリア属の種(Burkholderia sp.)由来のChEは、α/βヒドロラーゼフォールド(hydrolase fold)酵素に分類され、GXSXGモチーフを有している。これらのChEでは、活性部位において触媒機能に関与する3つのアミノ酸(セリン、酸性アミノ酸、ヒスチジン)が高度に保存されている。立体構造から考察すると、活性部位近傍のαへリックスが蓋のような機能を有し、このαへリックスが動くことによって基質が活性中心に接近することができるようになると考えられている。なお、ストレプトミセス属の種(Streptomyces sp.)由来のChEでは、GXSXGモチーフは見られない。
【0028】
本発明の製造方法で使用するChEは、もちろん天然型のChEであってもよいが、ChE活性を有し、かつシャペロニンと会合可能であれば、改変されたChEであってもよい。例えば、本発明の製造方法で使用するChEは、ChE遺伝子のアミノ酸翻訳領域の全領域の翻訳産物であってもよいが、一部領域の翻訳産物(例えば、分泌のためのシグナルペプチド領域を除去した翻訳産物)であってもよい。また、本発明の製造方法で使用するChEは、ChE活性やフォールディング効率などの向上などを目的とした、ChEのアミノ酸置換体であってもよい。
【0029】
同様に、本発明の製造方法で使用するシャペロニンは、もちろん天然型のシャペロニンであってもよいが、ChEと会合可能であれば、改変されたシャペロニンであってもよい。例えば、本発明の製造方法で使用するシャペロニンは、シャペロニン遺伝子のアミノ酸翻訳領域の全領域の翻訳産物であってもよいが、一部領域の翻訳産物(例えば、膜結合領域を除去した翻訳産物)であってもよい。また、本発明の製造方法で使用するシャペロニンは、フォールディング効率の向上などを目的とした、シャペロニンのアミノ酸置換体であってもよい。
【0030】
ChEの基質となるエステル型コレステロールを構成する脂肪酸には、リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ブチル酸、酢酸などがあり、エステル型コレステロールは、結合する脂肪酸によって分子構造が多様である。ヒトの血中にはリノール酸コレステリルおよびオレイン酸コレステリルが多く含まれるため、本発明の方法により製造される機能改変ChEを脂質の測定試薬として利用する場合は、リノール酸コレステリルおよびオレイン酸コレステリルに対する基質特異性が高いChEを用いて機能改変ChEを製造することが好ましい。このようなChEの例には、シュードモナス・アルギノーサのLipAが含まれる(実施例参照)。
【0031】
[機能性タンパク質]
機能性タンパク質は、ChEに付与する機能を担うタンパク質である。ChEに付与する機能としては、例えば分子認識機能、触媒機能、分子標識機能などが挙げられる。
【0032】
機能性タンパク質は、特定の分子を認識(捕捉)する分子認識機能を有するタンパク質であってもよい。例えば、ハプトグロビンやレシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(Lecithin-cholesterol acyltransferase;以下「LCAT」と略記する)、コレステロールエステル転送タンパク(Cholesteryl Ester Transfer Protein;以下「CETP」と略記する)などの高比重リポタンパク質を選択的に認識(捕捉)するタンパク質を機能性タンパク質として使用することで、高比重リポタンパク質に含まれるエステル型コレステロール(基質)をChEの周囲に局在化させてChEの触媒反応の効率を向上させることができる(実施例1で後述)。また、アビジンやストレプトアビジン、ビオチン、プロテインA、プロテインGなどの汎用性の高い結合分子を機能性タンパク質として使用することで、他の機能性物質を付加するための汎用性の高い結合部位を設けることができる。分子認識機能を有する機能性タンパク質の例には、ハプトグロビン、LCAT、CETP、イムノグロブリン、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、プロテインA、プロテインG、CD抗原、Gタンパク質共役受容体が含まれる。
【0033】
また、機能性タンパク質は、触媒活性を有するタンパク質(酵素)であってもよい。例えば、コレステロールオキシダーゼやコレステロールデヒドロゲナーゼなどのコレステロールを基質とする酵素を機能性タンパク質として使用することで、本発明の機能改変コレステロールエステラーゼは、コレステロールエステラーゼ活性に加えて、1または2以上の他の酵素活性を同時に保有することができる。触媒活性を有する機能性タンパク質の例には、コレステロールオキシダーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、リパーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、ATPアーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼが含まれる。
【0034】
また、機能性タンパク質は、分子標識機能を有するタンパク質であってもよい。例えば、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein;以下「GFP」と略記する)などの蛍光タンパク質を機能性タンパク質として使用することで、機能改変コレステロールエステラーゼの精製度の確認を容易に行うことができる。触媒活性を有する機能性タンパク質の例には、GFPなどの蛍光タンパク質や、エクオリンなどの発光タンパク質が含まれる。
【0035】
本発明の製造方法で使用する機能性タンパク質は、もちろん天然型の機能性タンパク質であってもよいが、所望の機能を発現可能であれば、改変されたものであってもよい。例えば、本発明の製造方法で使用する機能性タンパク質は、対応する遺伝子のアミノ酸翻訳領域の全領域の翻訳産物であってもよいが、一部領域の翻訳産物(例えば、ApoAI認識ドメイン以外の配列を除去したハプトグロビン)であってもよい。また、本発明の製造方法で使用する機能性タンパク質は、アミノ酸置換体であってもよい。
【0036】
[製造手順]
本発明の機能改変ChEの製造方法は、(1)ChEを用意するステップと、(2)前記ChEに特異性を有するシャペロニンと機能性タンパク質とを含む融合タンパク質を用意するステップと、(3)前記ChEと、前記融合タンパク質との複合体を形成するステップと、を含む。
【0037】
第一のステップでは、ChEを用意する。ChEは、自ら調製したものを用いてもよいし、市販のものを用いてもよい。また、ChEは、正しく折りたたまれたものであってもよいが、折りたたまれていないものや誤って折りたたまれたもの(不溶性封入体)であってもよい。ChEを調製する方法は、特に限定されず、当業者に公知の遺伝子工学的手法を用いればよい。例えば、ChEをコードする遺伝子を発現ベクターにクローニングし、大腸菌で発現させることでChEを調製することができる(実施例参照)。図1(A)は、折りたたまれていないChE100を用意した様子を示す模式図である。
【0038】
第二のステップでは、シャペロニンと機能性タンパク質とを含む融合タンパク質を用意する。融合タンパク質を調製する方法は、特に限定されず、当業者に公知の遺伝子工学的手法を用いればよい。例えば、シャペロニンをコードする遺伝子と機能性タンパク質をコードする遺伝子を同一の発現ベクターにクローニングし、大腸菌で発現させることで融合タンパク質を調製することができる(実施例参照)。図1(B)は、シャペロニン110に機能性タンパク質120を付加した融合タンパク質130を用意した様子を示す図である。
【0039】
融合タンパク質を調製する際には、シャペロニンおよび機能性タンパク質が共に機能を十分に発揮できるように、シャペロニンと機能性タンパク質との位置関係を調整することが好ましい。例えば、ハプトグロビンを機能性タンパク質として利用する場合は、ハプトグロビンが高比重リポタンパク質に含まれるApoAIと会合した状態で、ChEが高比重リポタンパク質に含まれるコレステロールエステルを加水分解できるように、シャペロニンとハプトグロビンとの位置関係を調整することが好ましい。一方、GFPを機能性タンパク質として利用する場合は、シャペロニンがChEと会合可能であれば、GFPの結合位置は特に限定されない。GFPは、位置に影響されること無く蛍光を発することができるからである。
【0040】
第三のステップでは、第一のステップで用意したChEと、第二のステップで用意した融合タンパク質との複合体を形成する。より正確には、ChEと融合タンパク質のシャペロニンとを会合させて複合体を形成する。ChEとシャペロニンとを会合させる方法は、特に限定されず、当業者に公知のインビトロ・リフォールディング手法を用いればよい。例えば、第一のステップで用意したChEを変性剤(例えば、尿素)を用いて変性させて可溶化し、可溶化したChEと第二のステップで用意した融合タンパク質とを含む混合液(変性剤を含む)を調製し、段階的に変性剤を除去することで、ChEと融合タンパク質のシャペロニンとを会合させることができる(実施例3参照)。細菌のペリプラズム空間には、フォールディングを終えた後、ChEからシャペロニンを遊離させる機構(例えば、前述のXcp機構)が存在するが、本発明の製造方法では複合体を維持するべくこの遊離機構をインビトロの系に含ませないことが好ましい。
【0041】
ChEと融合タンパク質とを会合させた後、架橋試薬を用いて分子間会合を補強することが好ましい。架橋試薬の例には、グルタルアルデヒド、グリオキサール、二価性架橋試薬が含まれる。処理時間は、ChEおよびシャペロニンに含まれるリジン残基の数や、架橋試薬の濃度などに応じて適宜設定すればよい。
【0042】
図1(C)および(D)は、第一のステップで用意したChE100と、第二のステップで用意した融合タンパク質130とを会合させて、正しく折りたたまれたChE102と融合タンパク質130とを含む機能改変ChE140を作製した様子を示す図である。図1(D)に示されるように、本発明の機能改変ChE140は、ChE102と、前記ChE102に特異性を有するシャペロニン110と機能性タンパク質120とを含む融合タンパク質130とを含む。
【0043】
以上の手順により、ChEに機能性タンパク質を付加して酵素改変体である機能改変ChEを製造することができる。
【0044】
本発明の製造方法では、従来の方法のように機能性タンパク質をChEに直接融合させないため、ChE自身の触媒活性や特異性、安定性などを変化させずに機能改変ChEを製造することができる。
【0045】
また、本発明の製造方法では、ChEとシャペロニンとを会合させるため、フォールディングにシャペロニンが必要なChEであっても、触媒活性を有する機能改変ChEを製造することができる。
【0046】
本発明の製造方法は、キットを用いて実施することが可能である。そのようなキットとして、例えば、ChEの不溶性封入体と、シャペロニンおよび特定の機能性タンパク質からなる融合タンパク質とをそれぞれ別個の容器に入れたキットが考えられる。キットを入手したユーザは、ChEの不溶性封入体と融合タンパク質とを混合し、第3のステップ(インビトロ・リフォールディング)のみを実施することで、所望の機能を付加した機能改変ChHを調製することができる。
【0047】
以下、本発明を実施例を参照してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
実施例1では、機能性タンパク質としてハプトグロビン(Haptoglibin;以下「Hpt」と略記する)を用いて機能改変ChEを作製した例を示す。
【0049】
Hptは、高比重リポタンパク質に含まれるアポタンパク質ApoAIに対する結合能を有する。リポタンパク質は、血漿中に存在し、アポタンパク質、エステル型コレステロール、トリグリセリド、リン脂質などから構成される。本実施の形態の機能改変ChEを様々なリポタンパク質を含む血漿に添加した場合、機能改変ChEに含まれるHptが高比重リポタンパク質に選択的に結合して、高比重リポタンパク質に含まれるエステル型コレステロールをChEの周囲に局在化させるため、機能改変ChEに含まれるChEは高比重リポタンパク質に含まれるエステル型コレステロールを選択的に加水分解することができる。したがって、本実施例の機能改変ChEは、高比重リポタンパク質に含まれるコレステロールの測定試薬に好適である。
【0050】
本実施例では、ヒトの血中に多く含まれるリノール酸コレステリルおよびオレイン酸コレステリルに対する基質特異性が高いこと、インビトロ・リフォールディングの技術が確立していること、ならびに発現ベクターが市販されていることから、シュードモナス・アルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)NBRC3445株由来のLipAをChEとして使用した。また、このLipAに特異性を有するシャペロニンとして、同じNBRC3445株由来のLipBを使用した。
【0051】
1.LipAの調製
NBRC3445株由来のLipA遺伝子(配列番号1(塩基配列),配列番号2(アミノ酸配列))をpETベクターにクローニングした発現ベクターpETlipAを構築し、大腸菌BL21(DE)に導入した。発現ベクターを導入した形質転換体を37℃で6時間培養した。培養液のOD600が0.6に達したときに、IPTGを終濃度が1mMとなるように培養液に添加してLipAの発現を誘導し、30℃で4時間培養した。
【0052】
得られた菌体を緩衝液(50mM Tris−HCl,2mM EDTA,pH8.0)に懸濁し、超音波破砕した。得られた破砕液を20000gで遠心分離し、LipAの不溶性封入体を含むペレットを得た。ペレットを溶解緩衝液で洗浄した後、尿素を含む緩衝液(50mM Tris−HCl,2mM EDTA,8M 尿素,pH8.0)に懸濁し、可溶化したLipAを調製した。
【0053】
2.LipBΔ61−Hpt融合タンパク質の調製
NBRC3445株由来のLipB遺伝子(配列番号3(塩基配列),配列番号4(アミノ酸配列))のN末端側61残基に対応する配列(膜に結合するための配列)を除去したLipBΔ61遺伝子をpETベクターにクローニングした発現ベクターpETLipBΔ61−HisNを構築した。この発現ベクターのLipBΔ61遺伝子の上流にヒトのHpt遺伝子(配列番号5(塩基配列),配列番号6(アミノ酸配列))のタンパク質コード領域を挿入し、発現ベクターpEThptLipBΔ61−HisNを構築した。配列番号7の塩基配列は、pEThptLipBΔ61−HisN中のLipBΔ61−Hpt融合タンパク質をコーディングする領域の塩基配列である。また、配列番号8のアミノ酸配列は、LipBΔ61−Hpt融合タンパク質のアミノ酸配列である。配列番号8のアミノ酸配列(527残基)は、N末端側から、Hptのアミノ酸配列(246残基)、リンカー(2残基)、LipBΔ61のアミノ酸配列(279残基)から構成される。得られた発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)に導入した。発現ベクターを導入した形質転換体を37℃で6時間培養した。培養液のOD600が0.6に達したときに、IPTGを終濃度が1mMとなるように添加してLipBΔ61−Hpt融合タンパク質の発現を誘導し、30℃で4時間培養した。
【0054】
得られた菌体を緩衝液(50mM Tris−HCl,2mM EDTA,pH8.0)に懸濁し、超音波破砕した。得られた破砕液を20000gで遠心分離し、可溶性のLipBΔ61−Hpt融合タンパク質を含む上清を得た。この上清から、一般的なヒスタグ精製法を用いてLipBΔ61−Hpt融合タンパク質を精製した。
【0055】
3.LipA−[LipBΔ61−Hpt]複合体の調製
(1)インビトロ・リフォールディング
1で得られた可溶化したLipAと、2で得られたLipBΔ61−Hpt融合タンパク質とを尿素を含まない緩衝液(50mM Tris−HCl,5mM CaCl,pH8.0)中に溶解させ、室温で3時間静置し、LipAとLipBΔ61とを会合させた(インビトロ・リフォールディング)。
【0056】
(2)LipA−[LipBΔ61−Hpt]複合体の精製
(1)で生成されたLipA−[LipBΔ61−Hpt]複合体を含む混合溶液から、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いてLipA−[LipBΔ61−Hpt]複合体を精製した。
【0057】
まず、ゲルろ過クロマトグラフィーカラム(superdex 200 10/300 GL;GEヘルスケア)を緩衝液(50mM Tris−HCl,5mM CaCl,pH8.0)で平衡化した。次いで、平衡化したカラムを用いてLipA(分子量約30kDa)を単独で分画した。流速は0.5ml/分とし、1フラクションにつき1mlずつ回収した。その結果、図2(A)のクロマトグラムに示されるように、フラクション20付近にLipAが溶出した。同様に、LipBΔ61−Hpt融合タンパク質(分子量約60kDa)を単独で分画すると、図2(B)のクロマトグラムに示されるように、フラクション9付近にLipBΔ61−Hpt融合タンパク質が溶出した。
【0058】
次に、同じカラムを用いて、(1)で得られた混合溶液(LipA−[LipBΔ61−Hpt]複合体を含む)を溶出分離した。流速は0.5ml/分とし、1フラクションにつき1mlずつ回収した。その結果、図2(C)のクロマトグラムに示されるように、フラクション8付近およびフラクション20付近にピークが見られた。このことから、フラクション8付近にLipA−[LipBΔ61−Hpt]複合体が分画されている可能性が高いと考えられる。
【0059】
4.LipA−[LipBΔ61−Hpt]複合体のリパーゼ活性の測定
ゲルろ過クロマトグラフィーで得られたフラクションのうち、280nmの吸収がみられたフラクション(フラクション7,8,13,14,20,21,22,23,25)についてリパーゼの活性を測定した。
【0060】
その結果、図3のグラフに示されるように、フラクション7は192mU、フラクション8は5905mU、フラクション9は785mUであった。このことから、フラクション8にLipA−[LipBΔ61−Hpt]複合体が分画されていることがわかる。
【0061】
5.LipA−[LipBΔ61−Hpt]複合体のApoAIに対する特異性の評価
(1)標識ビーズの作製
3mgの磁性ビーズ(粒径0.1〜0.4μm,アミノ基修飾)に100μlの緩衝液(20mMリン酸緩衝溶液,2.5%グルタルアルデヒド,pH7.0)を添加し、室温で振とうしながら2時間インキュベートした。20mMリン酸緩衝液で15分間の洗浄を3回行った。得られたビーズに、ApoAI溶液(225μg/ml)、ApoB溶液(5mg/ml)または20mMリン酸緩衝液(コントロール)を100μl添加し、室温で1時間振とうしながらインキュベートして、タンパク質をビーズに固定化した。この後、未固定のタンパク質を含む上清を回収し、タンパク質濃度を測定することで固定化量を推測した。
【0062】
次いで、20mMリン酸緩衝液で15分間の洗浄を3回行った後、得られたビーズに緩衝液(1mM Tris,20mMリン酸緩衝液)を200μl添加し、20分間インキュベートして、未反応のグルタルアルデヒドのブロッキングを行った。3回洗浄し、Trisを除去した後に、ビーズへのタンパク質の非特異的な吸着を防ぐため、ブロッキング溶液(2%スキムミルク,20mMリン酸緩衝液)を添加し、15分間インキュベートしてブロッキングした。20mMリン酸緩衝液で3回洗浄し、ApoAI固定化ビーズ、ApoB固定化ビーズおよび非標識ビーズ(コントロール)を作製した。
【0063】
(2)リパーゼ活性の測定
3.(1)で調製された混合溶液(LipA−[LipBΔ61−Hpt]複合体を含む)200μlをApoAI固定化ビーズに添加し、室温で1時間インキュベートした。リフォールディングバッファー(50mM Tris−HCl,5mM CaCl,pH8.0)で4回洗浄した後、ビーズを100μlのリフォールディングバッファーに懸濁し、リパーゼの活性を測定した。このリパーゼ活性の測定結果から、LipA−[LipBΔ61−Hpt]複合体のApoAIへの結合を評価した。また、ApoB固定化ビーズおよび非標識ビーズ(コントロール)を用いて同様の実験を行い、LipA−[LipBΔ61−Hpt]複合体がApoAIに特異的に結合している否かを評価した。
【0064】
リパーゼ活性は、BALB(2,3-dimercaptopropan-1-ol tributyrate)の加水分解生成物とDTNB(5,5-dithiobis(2-nitrobenzoic acid))とがカップリングして生成するTNB(5-thio-2-nitrobenzoate)アニオンの412nmの吸光度の変化を測定することにより評価した。具体的には、次の手順によりリパーゼ活性を測定した。
【0065】
まず、BALBを終濃度が20mMになるように100%エタノールに溶解し、BALB溶液を調製した。また、DTNBを終濃度が0.3mMになるように0.1M Tris−HCl(pH8.5)に溶解し、DTNB溶液を調製した。次いで、100μlのDTNB溶液に5μlのビーズ溶液と10μlのBALB溶液を添加し、30℃で30分間インキュベートした。その後、さらに200μlのアセトンを添加して、反応を停止させた。反応液を混和した後、遠心分離(2000×g,10分間)し、上清の412nmにおける吸光度を測定した。ブランクには、反応開始直後にアセトンを添加し、30℃で30分間インキュベートした後の吸光度を測定値を用いた。TNBアニオンのモル吸光係数は、15.06mM−1cm−1を用いた。
【数1】

【0066】
図4は、各ビーズのリパーゼ活性測定の結果を示すグラフである。横軸はビーズの標識分子の種類、縦軸はリパーゼ比活性である。
【0067】
図4に示されるように、ApoAI標識ビーズは103U/mgビーズ、ApoB標識ビーズは12U/mgビーズ、非標識ビーズ(コントロール)は7U/mgビーズであった。このことから、HptとApoAIとの親和性によってLipA−[LipBΔ61−Hpt]複合体が他の標識ビーズよりも、ApoAI標識ビーズに特異的に結合していることがわかる。したがって、本発明の機能改変ChEはApoAIを含有する高比重リポタンパク質を混合物の中から特異的に認識できることがわかる。
【0068】
[実施例2]
実施例2では、機能性タンパク質として緑色蛍光タンパク質(GFP)を用いて機能改変ChEを作製した例を示す。
【0069】
GFPはオワンクラゲ由来の分子量27kDaのタンパク質であり、励起光を受けると強い蛍光を発する。GFPは基質などを必要としないため、GFPを他のタンパク質と融合させるだけで本来蛍光を発しないタンパク質が強い蛍光を発するようになる。
【0070】
本実施例でも、実施例1と同様にシュードモナス・アルギノーサNBRC3445株由来のLipAおよびLipBを使用した。
【0071】
1.LipAの調製
実施例1と同様にして、可溶化したLipAを調製した。
【0072】
2.LipBΔ61−GFP融合タンパク質の調製
実施例1と同様にして、発現ベクターpETLipBΔ61−HisNを構築した。この発現ベクターのLipBΔ61遺伝子の上流にGFP遺伝子を挿入し、発現ベクターpETGFPLipBΔ61−HisNを構築した。配列番号9の塩基配列は、pETGFPLipBΔ61−HisN中のLipBΔ61−GFP融合タンパク質をコーディングする領域の塩基配列である。また、配列番号10のアミノ酸配列は、LipBΔ61−GFP融合タンパク質のアミノ酸配列である。配列番号10のアミノ酸配列(524残基)は、N末端側から、GFPのアミノ酸配列(238残基)、リンカー(2残基)、LipBΔ61のアミノ酸配列(279残基)から構成される。得られた発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)に導入した。発現ベクターを導入した形質転換体を37℃で6時間培養した。培養液のOD600が0.6に達したときに、IPTGを終濃度が1mMとなるように添加してLipBΔ61−GFP融合タンパク質の発現を誘導し、30℃で4時間培養した。
【0073】
得られた菌体を緩衝液(50mM Tris−HCl,2mM EDTA,pH8.0)に懸濁し、超音波破砕した。得られた破砕液を20000gで遠心分離し、可溶性のLipBΔ61−GFP融合タンパク質を含む上清を得た。この上清から、一般的なヒスタグ精製法を用いてLipBΔ61−GFP融合タンパク質を精製した。
【0074】
3.LipA−[LipBΔ61−GFP]複合体の調製
1で得られた可溶化したLipAと、2で得られたLipBΔ61−GFP融合タンパク質とを1:3のモル比で尿素を含まない緩衝液(50mM Tris−HCl,5mM CaCl,pH8.0)中に溶解させ、室温で3時間静置し、LipAとLipBΔ61とを会合させた(インビトロ・リフォールディング)。3時間後、混合溶液からゲルろ過法を用いてLipA−[LipBΔ61−GFP]複合体を精製した。
【0075】
4.LipA−[LipBΔ61−GFP]複合体のChE活性およびGFP活性
図5は、ゲルろ過精製により得られた各フラクションについて、ChE活性とGFPの蛍光強度を測定した結果を示すグラフである。横軸は精製サンプルのフラクション番号を示し、縦軸はChEの比活性(mU/mgタンパク質)またはGFPの蛍光強度(arbitrary unit;A.U.)を示す。
【0076】
フラクション7,8は、溶出時間から約90kDaの大きさと考えられ、LipA−[LipBΔ61−GFP]複合体の予測分子量と一致しているフラクションである。フラクション7は、ChE活性が27mU/mg、GFPの蛍光強度が250A.U.であった。フラクション8は、ChE活性が33mU/mg、GFPの蛍光強度が300A.U.であった。フラクション13,14で観察された蛍光は、LipBΔ61−GFP融合タンパク質によるものだと考えられる。
【0077】
以上の結果より、本実施例で作製した機能改変ChEは、インビトロ・リフォールディングの後もLipA−[LipBΔ61−GFP]複合体の構造を維持していることがわかる。また、本実施例で作製した機能改変ChEは、ChE活性だけでなくGFP活性も有していることがわかる。
【0078】
[実施例3]
実施例3では、機能性タンパク質としてGFPを用いて機能改変ChEを作製した例を示す。本実施例では、実施例2と異なる手順でインビトロ・リフォールディングを行った。
【0079】
本実施例でも、実施例1と同様にシュードモナス・アルギノーサNBRC3445株由来のLipAおよびLipBを使用した。
【0080】
1.LipAの調製
実施例1と同様にして、可溶化したLipAを調製した。
【0081】
2.LipBΔ61−GFP融合タンパク質の調製
実施例2と同様にして、LipBΔ61−GFP融合タンパク質を精製した。
【0082】
3.LipA−[LipBΔ61−GFP]複合体の調製
1で得られた可溶化したLipAを尿素を含む緩衝液(50mM Tris−HCl,5mM CaCl,1M 尿素,pH8.0)で一晩透析した。2で得られたLipBΔ61−GFP融合タンパク質を透析後のLipA溶液に加え、室温で3時間静置した。表2は、混合溶液中のLipAおよびLipBΔ61−GFP融合タンパク質の濃度を示す表である。さらに尿素を含まない緩衝液(50mM Tris−HCl,5mM CaCl,pH8.0)で一晩透析して、LipAとLipBΔ61とを会合させた(インビトロ・リフォールディング)。混合溶液からゲルろ過法を用いてLipA−「LipBΔ61−GFP」複合体を精製した。
【表2】

【0083】
4.LipA−[LipBΔ61−GFP]複合体のChE活性
図6は、LipAおよびLipBΔ61−GFP融合タンパク質の濃度(上記表参照)と、LipA−「LipBΔ61−GFP」複合体のChE活性との関係を示すグラフである。横軸はLipAの濃度(上記表参照)を示し、縦軸はChEの比活性(mU/mgタンパク質)を示す。
【0084】
このグラフより、LipAおよびLipBΔ61−GFP融合タンパク質の濃度に比例して、LipA−「LipBΔ61−GFP」複合体のChE活性も上昇していることがわかる。この結果から、インビトロ・リフォールディングの後に尿素を完全に除去してもLipA−[LipB−GFP]複合体の構造が維持されていることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明により製造される機能改変ChEは、例えば脂質の検査試薬や有機合成の触媒として有用である。
【符号の説明】
【0086】
100 折りたたまれていないChE
102 折りたたまれたChE
110 シャペロニン
120 機能性タンパク質
130 融合タンパク質
140 機能改変ChE

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレステロールエステラーゼを用意するステップと、
前記コレステロールエステラーゼに特異性を有するシャペロニンと機能性タンパク質とを含む融合タンパク質を用意するステップと、
前記コレステロールエステラーゼと前記融合タンパク質との複合体を形成させるステップと、
を含む、機能改変コレステロールエステラーゼの製造方法。
【請求項2】
コレステロールエステラーゼを用意するステップと、
前記コレステロールエステラーゼに特異性を有するシャペロニンと機能性タンパク質とを含む融合タンパク質を用意するステップと、
前記コレステロールエステラーゼと前記融合タンパク質との複合体を形成させるステップと、を含み、
前記コレステロールエステラーゼは、触媒活性を発揮するために前記シャペロニンによるフォールディングを必要とする、機能改変コレステロールエステラーゼの製造方法。
【請求項3】
前記コレステロールエステラーゼおよび前記シャペロニンのそれぞれは、その遺伝子のアミノ酸翻訳領域の全部または一部の翻訳産物である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記コレステロールエステラーゼまたは前記シャペロニンは、天然型のタンパク質である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記コレステロールエステラーゼまたは前記シャペロニンは、天然型のタンパク質のアミノ酸置換体である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記機能性タンパク質は、分子認識機能を有するタンパク質、触媒活性を有するタンパク質または分子標識機能を有するタンパク質である、請求項1または請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記分子認識機能を有するタンパク質は、高比重リポタンパク質を選択的に捕捉するタンパク質である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記分子認識機能を有するタンパク質は、ハプトグロビン、LCAT、CETP、イムノグロブリン、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、プロテインA、プロテインG、CD抗原、Gタンパク質共役受容体からなる群から選択される、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記触媒活性を有するタンパク質は、コレステロールオキシダーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、リパーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、ATPアーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼからなる群から選択される、請求項6に記載の製造方法。
【請求項10】
前記分子標識機能を有するタンパク質は蛍光タンパク質である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項11】
前記機能性タンパク質はその遺伝子のアミノ酸翻訳領域の全部または一部の翻訳産物である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項12】
前記機能性タンパク質は天然型のタンパク質である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項13】
前記機能性タンパク質は天然型のタンパク質のアミノ酸置換体である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1または請求項2に記載の製造方法で使用される融合タンパク質であって、
コレステロールエステラーゼに特異性を有するシャペロニンと機能性タンパク質とを含む融合タンパク質。
【請求項15】
コレステロールエステラーゼと、
前記コレステロールエステラーゼに特異性を有するシャペロニンと機能性タンパク質とを含む融合タンパク質と、
を含む、機能改変コレステロールエステラーゼ。
【請求項16】
前記コレステロールエステラーゼおよび前記シャペロニンのそれぞれは、その遺伝子のアミノ酸翻訳領域の全部または一部の翻訳産物である、請求項15に記載の機能改変コレステロールエステラーゼ。
【請求項17】
前記コレステロールエステラーゼまたは前記シャペロニンは、天然型のタンパク質である、請求項15に記載の機能改変コレステロールエステラーゼ。
【請求項18】
前記コレステロールエステラーゼまたは前記シャペロニンは、天然型のタンパク質のアミノ酸置換体である、請求項15に記載の機能改変コレステロールエステラーゼ。
【請求項19】
前記機能性タンパク質は、分子認識機能を有するタンパク質、触媒活性を有するタンパク質または分子標識機能を有するタンパク質である、請求項15に記載の機能改変コレステロールエステラーゼ。
【請求項20】
前記分子認識機能を有するタンパク質は、高比重リポタンパク質を選択的に捕捉するタンパク質である、請求項19に記載の機能改変コレステロールエステラーゼ。
【請求項21】
前記分子認識機能を有するタンパク質は、ハプトグロビン、LCAT、CETP、イムノグロブリン、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、プロテインA、プロテインG、CD抗原、Gタンパク質共役受容体からなる群から選択される、請求項19に記載の機能改変コレステロールエステラーゼ。
【請求項22】
前記触媒活性を有するタンパク質は、コレステロールオキシダーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、リパーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、ATPアーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼからなる群から選択される、請求項19に記載の機能改変コレステロールエステラーゼ。
【請求項23】
前記分子標識機能を有するタンパク質は蛍光タンパク質である、請求項19に記載の機能改変コレステロールエステラーゼ。
【請求項24】
前記機能性タンパク質はその遺伝子のアミノ酸翻訳領域の全部または一部の翻訳産物である、請求項19に記載の機能改変コレステロールエステラーゼ。
【請求項25】
前記機能性タンパク質は天然型のタンパク質である、請求項19に記載の機能改変コレステロールエステラーゼ。
【請求項26】
前記機能性タンパク質は天然型のタンパク質のアミノ酸置換体である、請求項19に記載の機能改変コレステロールエステラーゼ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−29185(P2010−29185A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155875(P2009−155875)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】