説明

正極活物質、マグネシウム二次電池および正極活物質の製造方法

【課題】陽イオンを粒子表面に挿入容易、かつ脱離容易にするとともに、サイクル充放電特性を向上させ、イオンの挿入脱離に伴う電気化学的なエネルギーや体積の変化に対して安定に機能する正極活物質、マグネシウム二次電池および正極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】二次電池用の正極活物質であって、金属酸化物の結晶粒子116と、結晶粒子の表面に形成された金属酸化物の柔軟層117と、柔軟層に分布した硫黄粒子と、柔軟層上にホウ素酸化物で形成された結合層118とを備える。このように、硫黄粒子が分布した柔軟層117を有するため、陽イオンを粒子表面に挿入容易、かつ脱離容易にし、サイクル充放電特性を向上させることができる。また、結合層118が形成されているため、正極活物質を形成する粒子同士の結合を高め、緻密化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用の正極活物質、マグネシウム二次電池および正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二次電池には、遷移金属複合酸化物を用いたものが知られている。特許文献1記載の非水二次電池は、正極活物質、負極活物質、リチウム塩を含む非水電解質で、化学的にリチウムイオンを挿入する前の負極活物質前駆体がホウ素を0.05〜10重量%含有する遷移金属酸化物からなる。このような構成により、充放電容量を大きくし、かつサイクル性を向上させようとしている。
【0003】
また、特許文献2記載のリチウムマンガン複合酸化物粉末は、化学量論比よりも過剰のリチウムと共にホウ素を添加し、作製されている。その結果、マンガンの一部をリチウムで置換し、スピネル構造を収縮させ、結晶構造を安定化することで、サイクル充放電特性を向上させようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−333563号公報
【特許文献2】特開2003−238162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蓄電池のサイクル特性を向上するには、イオンの挿入脱離に伴う電気化学的なエネルギーや体積変化に対して、正極活物質が安定でなければならない。しかしながら、特許文献1記載の非水二次電池は、負極活物質前駆体として遷移金属酸化物にホウ素化合物を加えたものを用いているに過ぎない。また、特許文献2記載のリチウムマンガン複合酸化物粉末は、リチウムイオン電池用正極におけるスピネル化合物に硫黄およびホウ素化合物を加えて得た結晶系の正極活物質を用いているに過ぎない。
【0006】
したがって、このような構造では、陽イオンの挿入脱離に伴う電気化学的なエネルギーや体積変化に対して、正極活物質を安定にし、陽イオンを正極活物の粒子表面に挿入容易、かつ脱離容易にすることはできない。その結果、サイクル充放電特性を向上させようとしても効果は限定的にならざるを得ない。
【0007】
これに対して、本発明者らは、正極活物質として金属酸化物の表面をアモルファス化やゲル化し、硫黄をドープする方法を開発している(特願2009−261903)。しかしながら、粒子表面をアモルファス化等すると、イオンの挿入脱離に対して柔軟になる分、アモルファス化等した部分が溶媒和し、粒子同士が脱離しやすくなる場合がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、陽イオンを粒子表面に挿入容易、かつ脱離容易にするとともに、サイクル充放電特性を向上させ、イオンの挿入脱離に伴う電気化学的なエネルギーや体積の変化に対して安定に機能する正極活物質、マグネシウム二次電池および正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明に係る正極活物質は、二次電池用の正極活物質であって、金属酸化物の結晶粒子と、前記結晶粒子の表面に形成された金属酸化物の柔軟層と、前記柔軟層に分布した硫黄粒子と、前記柔軟層上にホウ素酸化物で形成された結合層とを備えることを特徴としている。
【0010】
このように、硫黄粒子が分布した柔軟層を有するため、陽イオンを粒子表面に挿入容易、かつ脱離容易にし、サイクル充放電特性を向上させることができる。また、結合層が形成されているため、正極活物質を形成する粒子同士の結合を高め、緻密化できる。その結果、イオンの挿入脱離に伴う電気化学的なエネルギーや体積の変化に対して、正極活物質が安定になり、蓄電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0011】
(2)また、本発明に係る正極活物質は、前記柔軟層が、金属酸化物がアモルファス化またはゲル化して形成されていることを特徴としている。このように、アモルファス化またはゲル化した金属酸化物に、硫黄をドープすることで、イオンの挿入脱離に対して柔軟になる。
【0012】
(3)また、本発明に係るマグネシウム二次電池は、上記の正極活物質を用いたことを特徴としている。このようにマグネシウム二次電池に応用すると、サイクル特性の向上への寄与が大きくなる。Mgイオンのように、多価で化学結合が強く、かつイオンと原子の体積変化の大きいイオンに対しても、蓄電池のサイクル特性が向上する。
【0013】
(4)また、本発明に係る正極活物質の製造方法は、二次電池に用いられる正極活物質の製造方法であって、金属酸化物と硫黄とを混合するステップと、前記金属酸化物と硫黄との混合物に水を添加して焼成するステップと、前記焼成物にホウ素酸化物を加えるステップと、前記焼成物に水を添加して焼成する工程を繰り返すステップとを含むことを特徴としている。このように、水を加えて焼成されているため、表面の柔軟層を維持することができる。
【0014】
(5)また、本発明に係る正極活物質の製造方法は、前記焼成を、マイクロ波励起による水プラズマにより行うことを特徴としているとしている。これにより、水プラズマ焼成が可能になり、表面の柔軟層を形成しやすくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、陽イオンを粒子表面に挿入容易、かつ脱離容易にするとともに、サイクル充放電特性を向上させ、イオンの挿入脱離に伴う電気化学的なエネルギーや体積の変化に対して安定に機能する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の二次電池の構成を示す模式図である。
【図2】(a)、(b)は、比較例の正極活物質を示す模式図、(c)は、実施例の正極活物質を示す模式図である。
【図3】カーボンフェルトピース間に水プラズマを生じさせるための装置を示す斜視図である。
【図4】マイクロ波照射時の発光スペクトルを示す図である。
【図5】各正極活物質の構造を示すSEM写真である。
【図6】各正極活物質のDRS−FTIRスペクトルを示す図である。
【図7】各二次電池のサイクル特性を示す図である。
【図8】B添加量に対するS−V/B二次電池の容量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
(二次電池の構成)
図1は、本発明の二次電池100の構成を示す模式図である。図1に示すように、本発明の二次電池100は、正極110、セパレータ120および負極130を備えている。
正極110は、正極集電体(図示せず)および正極活物質115を有している。正極集電体は、正極活物質とともに正極を構成し、放電時に正極活物質に電子を供与する。
【0019】
セパレータ120は、正極110と負極130とを隔離し、かつ電解液125を保持して正極110と負極130との間のイオン伝導性を維持する。セパレータ120は、保液能力を有しており、電解液125を保持している。電解液125は、陽イオンを含んでいる。電解液中で酸化還元反応が進むことにより充放電可能となっている。陽イオンには、マグネシウムイオンやリチウムイオンが挙げられる。
【0020】
電解液125には、ほとんどの水系電池または非水系電池に一般に用いられている溶液を用いることができる。負極130は、放電時に酸化反応を生じさせる。負極130には、たとえばマグネシウムやリチウムを用いることができる。負極130は、正極活物質115の機能を妨げないものであれば特に限定されないが、マグネシウムで構成されることが好ましい。特にマグネシウム電池では、硫黄がマグネシウムと結合しやすく、マグネシウムの脱離が容易となり、サイクル特性が向上する。
【0021】
(正極活物質)
図2(a)、(b)は、比較例の正極活物質を示す模式図、図2(c)は、実施例の正極活物質を示す模式図である。図2(a)に示すように、結晶粒子のみで構成される正極活物質は、陽イオンを挿入可能であるが、脱離困難であるため、サイクロ特性が劣化し、二次電池の容量が小さい。一方、図2(b)に示すように、硫黄をドープし結晶粒子表面に柔軟層を形成した正極活物質は、陽イオンを挿入可能、かつ脱離可能であるため、サイクロ特性が向上し、二次電池の容量は大きい。しかし、結晶粒子表面に柔軟層を形成した正極活物質は、柔軟層が溶媒和し、粒子同士が脱離しやすくなる。
【0022】
これに対し、図2(c)に示すように、ホウ素酸化物で形成された結合層を有する正極活物質は、粒子同士の結合が強い。その結果、正極活物質粒子の電解液中への脱離を抑制することができる。このように、本発明の正極活物質115は、結晶粒子116、柔軟層117および結合層118により構成されている。
【0023】
結晶粒子116は、遷移金属酸化物により構成されている。遷移金属酸化物は、酸化還元反応し、アモルファス化しうるものであれば限定されない。遷移金属酸化物は、V,MnO、MoO等であることが好ましい。
【0024】
柔軟層117は、金属酸化物がアモルファス化またはゲル化されて結晶粒子116の表面に形成された層である。柔軟層117内には硫黄が分布しており、硫黄は主にS等のS−S結合を有する電気活性な状態で存在し、SO、SOは少ないことが好ましい。したがって、正極活物質115の作製時には硫黄の酸化が抑制されることが必要である。
【0025】
正極活物質115を構成する金属酸化物と硫黄とは、いずれも電気化学的に活性である。これにより、金属酸化物と硫黄とが電気化学的に化学反応するため、二次電池の放電、充電が容易になる。その結果、正極活物質115は、放電時に電解液中の陽イオンにより還元される。放電時に正極活物質115を還元し電解液125中の陽イオンが金属酸化物と陽イオンの結合体となることで電化バランスがとられる。
【0026】
その際には、正極活物質115の表面の硫黄の存在により陽イオンと酸素の直接の接触が妨げられ、陽イオンと酸素の結合が阻害される。そして、充電時には正極活物質115から陽イオンを離脱でき、充電が容易となる。その結果、二次電池のサイクル特性を向上させることができる。これは、金属酸化物の表面に配置されている硫黄により、硫黄が邪魔して陽イオンが酸素と結合できず、整った結晶構造を形成するまで陽イオンが金属酸化物の表面に近寄れない構造が形成されているためと推測できる。
【0027】
正極活物質115を構成する金属酸化物と硫黄の比率は、モル比で5:1〜3:2の範囲にあることが好ましい。この範囲よりも硫黄の比率が小さい場合には、硫黄で金属酸化物の表面を覆いきれないため、サイクル特性が低下する。一方、この範囲よりも硫黄の比率が大きい場合には、硫黄が過剰となり、二次電池の電気抵抗が高くなる。そして、二次電池は、電気化学的に不活性になるのでサイクル特性が低下する。
【0028】
結合層118は、柔軟層117上にホウ素酸化物で形成された層である。これにより、正極活物質115を形成する粒子同士の結合を高め、緻密化できる。その結果、イオンの挿入脱離に伴う電気化学的なエネルギーや体積の変化に対して、正極活物質が安定になり、蓄電池のサイクル特性が向上する。
【0029】
(二次電池の製造方法)
次に、二次電池の製造方法を説明する。まず、正極活物質を作製する。金属酸化物の結晶粒子と硫黄とを5:1〜3:2の範囲の所定のモル比で混合し、混合物に水を添加する。水の添加量は、焼成時間の間に蒸発して焼失する量以上であればよく、焼成終了時に混合物の粉が湿っている程度が好適である。水が完全に消失すると、金属酸化物の還元、硫黄の揮発が生じるためである。2gの正極活物質を作製するために、1g入れる程度が目安である。また、生成物が液状にならない程度が水の添加量の上限である。
【0030】
次に、金属酸化物と硫黄との混合物に水を添加し、焼成する。焼成方法には、(1)電気や燃焼により水を加熱する方法、(2)マイクロ波で水を加熱する方法、(3)水プラズマにより行う方法が挙げられる。水の添加により、焼成時に温度が上がりすぎず、酸化と還元が水の沸騰された状態により制御されるため、金属酸化物の表面に硫黄を分布させた正極活物質が形成される。
【0031】
(1)電気や燃焼により水を加熱する方法は、炉による通常焼成により実施可能である。金属酸化物と硫黄の混合物に水を添加したものを100℃以上で1時間以上加熱することで、金属酸化物の表面を賦活させ、硫黄を焼成する。
【0032】
(2)マイクロ波で水を加熱する方法では、マイクロ波により100℃以上に加熱し、数分間水を沸騰させる。マイクロ波による内部加熱で粒子を均等に加熱することができ、短時間で簡易にサイクル特性の優れた正極活物質を形成することができる。このように、水を加熱する場合には、大気圧下では100℃以上とすることが好ましい。
【0033】
(3)水プラズマで行う方法では、たとえば、減圧下でのカーボンフェルトピース間に保持された水をマイクロ波放電させて、水プラズマを生成することができる。水の沸騰が必要になるが、減圧する分低温で行うことができる。数分間で処理を行うことができ、低温なので、硫黄の酸化や金属酸化物の還元を抑制することができる。
【0034】
図3は、カーボンフェルトピース215間に水プラズマを生じさせるための装置を示す斜視図である。図3に示すように、マイクロ波照射室210内に真空室220を設け、その中に2枚のカーボンフェルトピース215に原料218を挟んだものを設置する。これにより、均等に水分子を分布させることができ、均等な焼成を行うことができる。原料218は、金属酸化物と硫黄とを混合し、適量の水を加えたものである。なお、図3では、マイクロ波照射室210を破線で、真空室220を実線で描き、その中のカーボンフェルトピース215および原料218を透視可能に記載している。
【0035】
このような装置構成で、真空室220内を0.01MPa以下に減圧し、原料218にマイクロ波を照射して放電させ、水プラズマを生じさせることで、結晶粒子116上に柔軟層117を有する物質を作製することができる。水プラズマで焼成することで、硫黄の酸化および金属酸化物の還元をさらに抑制することができる。
【0036】
次に、このようにして形成された正極活物質用の試料に、ホウ素化合物を混合する。そして、上記の金属酸化物と硫黄とで焼成したのと同様に、水を添加して焼成することを繰り返す。その場合には、水プラズマ焼成することが好ましい。このようにして、短時間でサイクル特性の優れた正極活物質を形成することができる。
【0037】
以上の工程で得られた正極活物質115を正極集電体に接触させて正極110を作製する。そして、Mg金属等を用いて負極130を用意し、電解液125として水系または非水系の溶液を用いて二次電池100を作製することができる。
【実施例】
【0038】
以下に、正極活物質115の作製およびこれを用いた二次電池100の充放電の実験について説明する。
【0039】
(S−V/B(硫黄ドープVにホウ素添加したV)の作製)
S−V/Bの正極活物質を作製した。なお、S−V/Bは、硫黄ドープVにホウ素添加したVを意味する。VとS粉末とを5:1〜3:2の範囲の所定のモル比で混合し、ボールミルで混合した。そして、混合物に水を添加して原料溶液を作製し、焼成した。焼成は、原料溶液をカーボンフェルトピースに挟み、ガラス容器に入れ減圧し、これをマイクロ波空洞共振器内に設置して行った。マイクロ波空洞共振器としては、たとえば500Wの電子レンジを用いることができる。
【0040】
このような焼成は水プラズマによるものである。水プラズマによる焼成は、たとえば0.001MPaまで真空室を減圧し、その減圧下でカーボンフェルトピース間に保持された混合物にマイクロ波放電させることで可能である。マイクロ波照射は、たとえば40秒間、2回の条件で行うことができる。このようにして得られた試料に、酸化ホウ素を混合し、上記と同様に、水プラズマ焼成を繰り返し、正極活物質を作製した。
【0041】
また、同様に比較例としてV、S−Vの正極活物質を作製した。Vの正極活物質としては、Vの結晶粒子を用いた。S−V(硫黄ドープV)の正極活物質としては、上記の工程でホウ素化合物の混合前の試料を用いた。
【0042】
図4は、マイクロ波照射時の発光スペクトルを示す図である。図4に示すように、OH、HOおよびHのピークが表れており、水プラズマが生成されていることが分かった。このようにして作製された正極活物質について、銅Kα線を用いてX線回折測定(XRD)を行った。
【0043】
図5(a)〜(c)−2は、このようにして得られた各正極活物質の構造を示すSEM写真である。図5(a)に示すVの正極活物質の粒子に比べ、図5(b)に示すS−Vの正極活物質の粒子は表面が丸みを帯びていることが分かる。これは、粒子表面がアモルファス化等したと推察される。このように、Vの結晶粒子を用いた正極活物質は、表面に層の存在しない粒子の集合であり、S−Vの正極活物質は、表面に柔軟層が形成された粒子の集合であることを観察できる。
【0044】
また、図5(a)や図5(b)に示す正極活物質の粒子に比べ、図5(c)−1、2に示すS−V/Bの正極活物質は、丸みを帯びた粒子が凝集している。このように、S−V/Bの正極活物質は、表面に柔軟層が形成された粒子の間が、結合層で埋められ、粒子同士が結合された集合であると考えられる。これにより、粒子の脱離が抑制されると推察できる。
【0045】
図6は、各正極活物質のDRS−FTIRスペクトルを示す図である。図6に示すように、S−VおよびS−V/Bの正極活物質のDRS−FTIRスペクトルでは、V−O−V伸縮振動に起因するピークおよびV=O伸縮振動に起因するピークが低波数側に拡がった。これは、VとOの結合距離が拡がった部分の存在を示しており、SがVにドープされ、アモルファス化やゲル化したため生じたものと考えられる。
【0046】
(S−V/Bのサイクル特性)
上記で作製されたS−V/Bの正極活物質を用いて正極を構成し、実施例としてMgを負極とする二次電池を作製した。また、比較例としてV、S−Vを正極活物質としMgを負極とした二次電池をそれぞれ作製した(以下、それぞれS−V/B二次電池、S−V二次電池、V二次電池と呼ぶ)。そして、比較例および実施例の各二次電池について、充放電を繰り返し、サイクル特性を測定した。
【0047】
図7は、各二次電池のサイクル特性を示す図である。図7に示すように、第1回の放電時について、V二次電池の容量は200mAhg−1に過ぎないのに対し、S−V二次電池およびS−V/B二次電池の容量は、300mAhg−1であった。硫黄のドープにより放電容量が増大し、二次電池のサイクル特性が向上したことが分かる。陽イオンが粒子表面に挿入容易、かつ脱離容易であるためと考えられる。
【0048】
二次電池の容量は、最初の放電時には200mAhg−1であったが、第2回の放電以降、100mAhg−1以下となり、著しく減少した。一方、S−V二次電池の容量は、最初の放電時には300mAhg−1、第20回の放電時には、250mAhg−1程度であり、V二次電池の容量ほどではないものの減少が観察された。これに対し、S−V/B二次電池の容量は、最初の放電時の300mAhg−1を第20回の放電時まで維持しており、イオンの挿入脱離に伴う電気化学的なエネルギーや体積の変化に対して安定に機能し、サイクル充放電特性が向上していることが示された。
【0049】
(B添加量との関係)
添加量に対するS−V/B二次電池の正極活物質の特性について実験を行った。B添加量を変えたS−Vを正極活物質とする二次電池を作製し、1回目の放電時の容量と20回充放電を繰り返したときの平均容量を測定した。図8は、B添加量に対するS−V/B二次電池の容量を示す図である。図8に示すように、S−Vに対するB添加量が、1mol%以上10mol%以下の範囲では容量が約300mAhg−1に維持されており、サイクル特性が高いことが示された。また、1mol%以上25mol%以下の範囲では容量が200mAhg−1以上に維持されており、大きい量が得られることが示された。なお、この実験では、金属酸化物としてVを用いているが、他の金属酸化物についても硫黄が陽イオンと酸素との結合を阻害するメカニズムは同様であり、他の金属酸化物についても上記の範囲で効果があると考えらえる。
【符号の説明】
【0050】
100 二次電池
110 正極
115 正極活物質
116 結晶粒子
117 柔軟層
118 結合層
120 セパレータ
125 電解液
130 負極
210 マイクロ波照射室
215 カーボンフェルトピース
218 原料
220 真空室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池用の正極活物質であって、
金属酸化物の結晶粒子と、
前記結晶粒子の表面に形成された金属酸化物の柔軟層と、
前記柔軟層に分布した硫黄粒子と、
前記柔軟層上にホウ素酸化物で形成された結合層とを備えることを特徴とする正極活物質。
【請求項2】
前記柔軟層は、金属酸化物がアモルファス化またはゲル化して形成されていることを特徴とする請求項1記載の正極活物質。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の正極活物質を用いたことを特徴とするマグネシウム二次電池。
【請求項4】
二次電池に用いられる正極活物質の製造方法であって、
金属酸化物と硫黄とを混合するステップと、
前記金属酸化物と硫黄との混合物に水を添加して焼成するステップと、
前記焼成物にホウ素酸化物を加えるステップと、
前記焼成物に水を添加して焼成する工程を繰り返すステップとを含むことを特徴とする正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記焼成は、マイクロ波励起による水プラズマにより行うことを特徴とする請求項4記載の正極活物質の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−104269(P2012−104269A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249765(P2010−249765)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/次世代技術開発/カーボンフェルト電極マイクロ波放電を利用したマグネシウム二次電池正極活物質の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(591267855)埼玉県 (71)
【Fターム(参考)】