説明

正極活物質、正極、および非水電解質二次電池

【課題】出力低下が抑制でき、優れたサイクル特性および熱安定性を有する二次電池を安定して与える正極活物質および正極、ならびに該正極を備えた非水電解質二次電池の提供を目的とする。
【解決手段】電極反応物質を吸蔵および放出できる正極材料を含有し、表面に特定の金属塩を含む層を有する粒子からなる正極活物質。また、正極集電体2と、正極集電体2上に設けられた正極活物質層3とを有し、正極活物質層3が前記正極活物質を含む正極1、および正極1を備えた非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質、正極、および非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池は、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの様々な電子機器に用いられている。該非水電解質二次電池の正極には、正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO)などのリチウム遷移金属複合酸化物が用いられる。
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池には、電池の軽量化、薄型化などの要求から、充電電圧をより高くし、エネルギー密度を向上させるなど、さらなる高性能化が求められている。しかし、充電電圧を高めて正極活物質のエネルギー密度を高くすると、充放電の繰り返しによる電池容量の低下速度が速くなる。また、高温環境下で使用すると、正極上で電解液が分解してガスが発生し、電池の変形や電解液の漏液が起こりやすくなる。さらに、正極に用いられるリチウム遷移金属複合酸化物は、熱安定性が低いものが多い。そのため、何らかの原因で電池が熱暴走状態になると、結晶格子が崩壊して酸素が放出され、酸素と電解液が激しく反応して電池が破裂するおそれがある。
【0004】
そこで、電池容量の低下、正極上での電解液の分解、正極の分解などの問題を解決する二次電池として、LiCoOなどのリチウム遷移金属複合酸化物の表面に、スルホプロピオン酸二リチウムなどの金属塩を含む皮膜を形成した正極活物質により、正極を形成したリチウムイオン二次電池が示されている(特許文献1)。
前記正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物が前記金属塩を含む皮膜により保護される。そのため、正極の劣化による容量維持率の低下、正極上での電解液の分解によるガスの発生、正極の分解などが低減され、優れたサイクル特性および熱安定性が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−187940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者が検討したところ、特許文献1のリチウムイオン二次電池は、リチウム遷移金属複合酸化物の表面に、前記金属塩を含む皮膜が形成された正極活物質を用いることで、電池の出力が低下することが明らかとなった。また、前記金属塩を含む皮膜を形成した正極活物質を用いても、サイクル特性および熱安定性を向上させる効果が充分に得られないことがあった。
【0007】
本発明は、二次電池の出力低下を抑制しつつ、サイクル特性および熱安定性を向上させる安定な金属塩含有層を有する正極活物質、および該正極活物質により形成された正極の提供を目的とする。
また、本発明は、優れたサイクル特性および熱安定性を有し、さらに電池の出力低下が抑制された非水電解質二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
[1]電極反応物質を吸蔵および放出できる正極材料を含有し、表面に下式(1)で表される金属塩を含む層を有する粒子からなる正極活物質。
【0009】
【化1】

【0010】
(ただし、式(1)中、aおよびbはそれぞれ0以上の整数で、かつaとbの和が2以上であり、cは1以上の整数であり、d=(a+b)×cであり、eは1以上の整数であり、f=dである。また、Mは、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子であり、Rは、aとbの和を価数とする、末端部位以外にエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合を有していてもよい炭化水素基において、水素原子の1つ以上がフッ素原子に置換された基である。)
[2]前記金属塩におけるRが、aとbの和を価数とする炭化水素基の全ての水素原子がフッ素原子に置換された基である前記[1]に記載の正極活物質。
[3]前記金属塩におけるbが1以上である前記[1]または[2]に記載の正極活物質。
[4]前記金属塩におけるMが、リチウムである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の正極活物質。
[5]前記正極材料が、リチウムと遷移金属を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む前記[1]〜[4]のいずれかに記載の正極活物質。
[6]前記正極材料が、主要遷移金属として、コバルト、ニッケルおよびマンガンからなる群から選ばれる1種以上を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む前記[5]に記載の正極活物質。
[7]前記正極材料が、前記主要遷移金属を含むリチウム遷移金属複合酸化物からなる内層と、該内層の少なくとも一部を被覆する、前記主要遷移金属を含むリチウム遷移金属複合酸化物以外の化合物からなる外層とを有する粒子である前記[6]に記載の正極活物質。
[8]前記外層がリンまたはケイ素を含む化合物からなる前記[7]に記載の正極活物質。
[9]正極集電体と、前記正極集電体上に設けられた正極活物質層を有し、前記正極活物質層は前記[1]〜[8]のいずれかに記載の正極活物質を含む正極。
[10]前記[1]〜[8]のいずれかに記載の正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質と、を備えた非水電解質二次電池。
[11]充電上限電圧が4.20〜5.00Vで、放電下限電圧が2.00〜3.30Vである前記[10]に記載の非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明の正極活物質は、安定な金属塩含有層が形成されることにより、二次電池の出力低下を抑制しつつ、サイクル特性および熱安定性を向上させることができる。
本発明の正極を用いれば、二次電池の出力低下を抑制しつつ、サイクル特性および熱安定性を向上させることができる。
また、本発明の非水電解質二次電池は、優れたサイクル特性および熱安定性を有し、さらに電池の出力低下が抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の正極の実施形態の一例を示した断面図である。
【図2】実施例1における電解液の発熱挙動を観測した結果を示したグラフである。
【図3】実施例2における電解液の発熱挙動を観測した結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[正極活物質]
本発明の正極活物質は、電池の正極の形成に用いられる物質であり、電極反応物質を吸蔵および放出できる正極材料を含有し、表面に後述する金属塩を含む層を有する粒子からなる。つまり、本発明の正極活物質は、電極反応物質を吸蔵および放出できる正極材料を含む粒子の表面に、後述する金属塩を含む層が形成された粒子からなる。以下、「正極材料を含む粒子」とは、正極活物質における前記金属塩を含む層を除く部分を意味する。
【0014】
電極反応物質を吸蔵および放出できる正極材料としては、リチウムイオンを吸蔵および放出できる正極材料が好ましく、リチウム遷移金属複合酸化物がより好ましい。
リチウムイオンを吸蔵および放出できる正極材料は、エネルギー密度を高めることが容易な点から、リチウム(Li)と遷移金属を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含むことが好ましく、優れた充填性を有し、放電電圧が高い点から、主要遷移金属としてコバルト(Co)、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)からなる群から選ばれる1種以上を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含むことがより好ましく、CoまたはNiを主要遷移金属とするリチウム遷移金属複合酸化物がさらに好ましい。ただし、本発明における「主要遷移金属」とは、前記リチウム遷移金属複合酸化物に含まれる遷移金属のうち最も含有比率の大きい遷移金属をいう。
【0015】
リチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、LiCoOなどのリチウムコバルト複合酸化物、LiNiOなどのリチウムニッケル複合酸化物、LiMnO、LiMn、LiMnOなどのリチウムマンガン複合酸化物、これらのリチウム遷移金属複合酸化物における主要遷移金属の一部をアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、Mn、Co、Li、Ni、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、ケイ素(Si)、イッテルビウム(Yb)などの他の金属で置換したものなどが挙げられる。主要遷移金属の一部が他の金属で置換されたものとしては、例えば、LiMn0.5Ni0.5、LiMn1.8Al0.2、LiNi0.85Co0.10Al0.05、LiMn1.5Ni0.5、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMn1.8Al0.2が挙げられる。
リチウム遷移金属複合酸化物としては、放電電圧が高く、かつ電気化学的安定性が高い点から、α−NaCrO構造を母体とするLiCoO、LiNiOが特に好ましい。
【0016】
また、正極材料は、前述したリチウム遷移金属複合酸化物以外に、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、金属酸化物、オリビン型金属リチウム塩などを用いてもよい。
遷移金属酸化物としては、例えば、TiO、MnO、MoO、V、V13などが挙げられる。
遷移金属硫化物としては、例えば、TiS、FeS、MoSなどが挙げられる。
金属酸化物としては、例えば、SnO、SiOなどが挙げられる。
オリビン型金属リチウム塩は、(式)Li(ただし、XはFe(II)、Co(II)、Mn(II)、Ni(II)、V(II)、またはCu(II)を示し、YはPまたはSiを示し、0≦L≦3、1≦x≦2、1≦y≦3、4≦z≦12、0≦g≦1である。)で示される物質またはこれらの複合体である。例えば、LiFePO、LiFe(PO、LiFeP、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、LiFePOF、LiMnPOF、LiNiPOF、LiCoPOF、LiFeSiO、LiMnSiO、LiNiSiO、LiCoSiOなどが挙げられる。
【0017】
正極材料を含む粒子中の、電極反応物質を吸蔵および放出できる正極材料の含有量は、95〜100質量%が好ましく、98〜100質量%がより好ましい。
【0018】
本発明における正極材料を含む粒子は、前記材料を出発原料として粒子を製造したものを用いることができ、場合によっては、ボールミルや擂潰機などにより解砕した二次粒子を用いることもできる。
また、正極材料を含む粒子は、より高い電気化学的安定性が得られる点から、Co、NiおよびMnからなる群から選ばれる1種以上の主要遷移金属を含むリチウム遷移金属複合酸化物からなる内層と、該内層の少なくとも一部を被覆する、前記主要遷移金属を含むリチウム遷移金属複合酸化物以外の化合物からなる外層とを有する粒子であることが好ましい。
【0019】
外層を形成する化合物としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどの酸化物;硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩;炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウムなどのリン酸塩などが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記外層は、PまたはSiを含む化合物からなることが好ましい。つまり、前記外層は、Pを含む化合物および/またはSiを含む化合物からなることが好ましい。
【0020】
正極材料を含む粒子における外層の質量割合は、内層の質量に対して、0.1ppm以上が好ましく、1ppm以上がより好ましく、10ppm以上がさらに好ましい。また、外層の質量割合は、内層の質量100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
また、外層は内層の外側の少なくとも一部に設けられていればよく、外層が内層全体を覆うように設けられた粒子には限定されない。
【0021】
本発明の正極活物質は、その表面に、下式(1)で表される金属塩を含む層(以下、「金属塩層(A)」という。)を有している。本発明の正極活物質における金属塩層(A)は、正極材料を含む粒子の化学的安定性の向上に寄与する。以下、式(1)で表される金属塩を金属塩(1)と示し、他の式で表される金属塩についても同様に示す。
【0022】
【化2】

【0023】
ただし、式(1)中、aおよびbはそれぞれ0以上の整数で、かつaとbの和が2以上であり、cは1以上の整数であり、d=(a+b)×cであり、eは1以上の整数であり、f=dである。また、Mは、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子であり、Rは、aとbの和を価数とする、末端部位以外にエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合を有していてもよい炭化水素基において、水素原子の1つ以上がフッ素原子に置換された基である。Rにフッ素原子が導入されることにより金属塩(1)がより不活性になり、耐酸化性が向上する。
【0024】
金属塩(1)におけるaとbの和は2以上であり、2〜5が好ましく、2が特に好ましい。aとbの和が2以上であれば、金属塩(1)の電解液に対する溶解度が低くなるので、金属塩層(A)が電解液に溶解することを抑制でき、金属塩層(A)による効果が安定して得られる。
金属塩(1)におけるbは、1以上が好ましく、1〜4がより好ましい。金属塩(1)がより解離度の大きいスルホアニオン基を有していることにより、金属塩(1)の解離度がより大きくなる。
金属塩(1)におけるcは、1以上の整数であり、1〜3が好ましく、1が特に好ましい。
金属塩(1)におけるdは、aとbの和にcを乗じた数である。
金属塩(1)におけるeは、1以上の整数であり、2〜5が好ましい。
金属塩(1)におけるfは、dと同じ数である。
【0025】
金属塩(1)におけるRは、aとbの和を価数とする炭化水素基の水素原子の1つ以上がフッ素原子に置換された基であり、該炭化水素基の全ての水素原子がフッ素原子に置換された基であることが好ましい。ただし、前記炭化水素基は、末端部位以外にエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合を有していてもよい。末端部位以外とは、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合中のカルボニル炭素原子や酸素原子が、スルホアニオン基やカルボキシアニオン基と直接結合しておらず、酸素原子、エステル基、カーボネート基が炭化水素基中の炭素−炭素結合間に挿入された状態で存在することを表す。
Rの価数は、2以上であり、2〜5が好ましく、2が特に好ましい。
Rの炭素数は、大きすぎると非水電解液への溶解性が高くなって金属塩層(A)の安定性が低くなる点から、1〜6が好ましい。また、Rは、不飽和結合を含んでいてもよく、環状であってもよい。
【0026】
Rとしては、例えば、パーフルオロメチレン基、パーフルオロエチレン基、パーフルオロプロピレン基、パーフルオロブチレン基、モノフルオロメチレン基、ジフルオロエチレン基、トリフルオロエチレン基、トリフルオロプロピレン基、テトラフルオロプロピレン基、ペンタフルオロプロピレン基、テトラフルオロブチレン基、ペンタフルオロブチレン基、ヘキサフルオロブチレン基、ヘプタフルオロブチレン基などの2価の基、フルオロメチン基、下式(α−1)〜(α−4)で表される基などの3価の基、下式(β−1)〜(β−4)で表される基などの4価の基が挙げられる。なかでも、パーフルオロメチレン基、パーフルオロエチレン基、パーフルオロプロピレン基、パーフルオロブチレン基が好ましい。
【0027】
【化3】

【0028】
また、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合を有していてもよいRとしては、例えば、下式(γ−1)〜(γ−3)で表される基などが挙げられる。
【0029】
【化4】

【0030】
金属塩(1)におけるMは、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子であり、サイクル特性、熱安定性、電池の出力低下を抑制する効果などが優れる点から、リチウム、マグネシウム、カルシウムが好ましく、リチウムが特に好ましい。
【0031】
金属塩(1)としては、下記金属塩(1A)が好ましい。
金属塩(1A):Rが炭素数1〜4の2〜5価の炭化水素基の水素原子の全てがフッ素原子に置換された基であり、Mがリチウムであり、c=1、a+b=d=e=f=2〜5の金属塩。
【0032】
金属塩(1A)としては、例えば、下記金属塩(1A−1)〜金属塩(1A−4)が挙げられる。
金属塩(1A−1):Rが2価の炭化水素基の水素原子の全てがフッ素原子に置換された基、a+b=2、c=1、d=2、e=2、f=2の二リチウム塩。
金属塩(1A−2):Rが3価の炭化水素基の水素原子の全てがフッ素原子に置換された基、a+b=3、c=1、d=3であり、e=3、f=3の三リチウム塩。
金属塩(1A−3):Rが4価の炭化水素基の水素原子の全てがフッ素原子に置換された基、a+b=4、c=1、d=4であり、e=4、f=4の四リチウム塩。
金属塩(1A−4):Rが5価の炭化水素基の水素原子の全てがフッ素原子に置換された基、a+b=5、c=1、d=5であり、e=5、f=5の五リチウム塩。
【0033】
金属塩(1A−1)としては、例えば、パーフルオロメタンジスルホン酸二リチウム、パーフルオロエタンジスルホン酸二リチウム、パーフルオロプロパンジスルホン酸二リチウムなどの2つのスルホアニオン基を有する二リチウム塩;パーフルオロスルホ酢酸二リチウム、パーフルオロスルホプロピオン酸二リチウム、パーフルオロスルホブタン酸二リチウムなどの、スルホアニオン基とカルボキシアニオン基とを有する二リチウム塩;パーフルオロコハク酸二リチウム、パーフルオロマレイン酸二リチウム、パーフルオロフマル酸二リチウム、パーフルオロイタコン酸二リチウム、パーフルオロメサコン酸二リチウム、パーフルオロシトラコン酸二リチウムなどの、2つのカルボキシアニオン基を有する二リチウム塩などが挙げられる。
【0034】
エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合を有していてもよい金属塩(1A−1)としては、LiOSCFCFOCFCFSOLi、LiOSCFC(=O)OCFCFSOLi、LiOSCFCFOC(=O)OCFCFSOLi、LiOSCFCFOCFCFCOLi、LiOSCFC(=O)OCFCFCOLi、LiOSCFCFOC(=O)OCFCFCOLi、LiOCCFC(=O)OCFCFSOLi、LiOCCFCFOCFCFCOLi、LiOCCFC(=O)OCFCFCOLi、LiOCCFCFOC(=O)OCFCFCOLiなどが挙げられる。
【0035】
金属塩(1A−2)としては、例えば、パーフルオロメタントリカルボン酸三リチウム、パーフルオロアコニット酸三リチウム、パーフルオロスルホコハク酸三リチウムなどが挙げられる。
金属塩(1A−3)としては、例えば、パーフルオロプロパンテトラカルボン酸四リチウム、パーフルオロシクロペンタンテトラカルボン酸四リチウム、パーフルオロテトラヒドロフランテトラカルボン酸四リチウム、パーフルオロブタンテトラカルボン酸四リチウムなどが挙げられる。
金属塩(1A−4)としては、例えば、パーフルオロペンタンペンタカルボン酸五リチウムが挙げられる。
【0036】
金属塩(1)は、金属塩(1A)のなかでも、正極の劣化、正極上での電解液の分解によるガスの発生の低減効果、および電池の出力低下の抑制効果がより高い点から、金属塩(1A−1)がより好ましく、パーフルオロメタンジスルホン酸二リチウム(金属塩(1A−11))、パーフルオロエタンジスルホン酸二リチウム(金属塩(1A−12))、パーフルオロプロパンジスルホン酸二リチウム(金属塩(1A−13))、パーフルオロブタンジスルホン酸二リチウム(金属塩(1A−14))、パーフルオロメタンジカルボン酸二リチウム(金属塩(1A−15))、パーフルオロエタンジカルボン酸二リチウム(金属塩(1A−16))、パーフルオロプロパンジカルボン酸二リチウム(金属塩(1A−17))、パーフルオロブタンジカルボン酸二リチウム(金属塩(1A−18))、パーフロオロスルホ酢酸二リチウム(金属塩(1A−19))がさらに好ましく、金属塩(1A−11)〜金属塩(1A−14)が特に好ましい。
【0037】
【化5】

【0038】
また、金属塩(1)としては、Mがリチウム以外の金属塩(1B)を用いてもよい。金属塩(1B)としては、下記金属塩(1B−1)〜金属塩(1B−3)が挙げられる。
金属塩(1B−1):ナトリウム塩。
金属塩(1B−2):マグネシウム塩。
金属塩(1B−3):カルシウム塩。
【0039】
金属塩(1B−1)としては、例えば、パーフルオロエタンジスルホン酸二ナトリウム、パーフルオロプロパンジスルホン酸二ナトリウム、パーフルオロスルホプロピオン酸二ナトリウム、パーフルオロスルホブタン酸二ナトリウムなどの2つのスルホアニオン基を有する二ナトリウム塩;パーフルオロコハク酸二ナトリウム、パーフルオロマレイン酸二ナトリウム、パーフルオロフマル酸二ナトリウム、パーフルオロスクエア酸二ナトリウム、パーフルオロクロコン酸二ナトリウムなどの2つのカルボキシアニオン基を有する二ナトリウム塩などが挙げられる。
エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合を有していてもよい金属塩(1B−1)としては、NaOSCFCFOCFCFSONa、NaOSCFC(=O)OCFCFSONa、NaOSCFCFOC(=O)OCFCFSONa、NaOSCFCFOCFCFCONa、NaOSCFC(=O)OCFCFCONa、NaOSCFCFOC(=O)OCFCFCONa、NaOCCFC(=O)OCFCFSONa、NaOCCFCFOCFCFCONa、NaOCCFC(=O)OCFCFCONa、NaOCCFCFOC(=O)OCFCFCONaなどが挙げられる。
【0040】
金属塩(1B−2)としては、例えば、パーフルオロエタンジスルホン酸マグネシウム、パーフルオロプロパンジスルホン酸マグネシウム、パーフルオロスルホ酢酸マグネシウム、パーフルオロスルホプロピオン酸マグネシウム、パーフルオロコハク酸マグネシウム、パーフルオロ二スルホコハク酸三マグネシウム、パーフルオロスクエア酸マグネシウムなどが挙げられる。
エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合を有していてもよい金属塩(1B−2)としては、Mg(OSCFCFOCFCFSO)、Mg(OSCFC(=O)OCFCFSO)、Mg(OSCFCFOC(=O)OCFCFSO)、Mg(OSCFCFOCFCFCO)、Mg(OSCFC(=O)OCFCFCO)、Mg(OSCFCFOC(=O)OCFCFCO)、Mg(OCCFC(=O)OCFCFSO)、Mg(OCCFCFOCFCFCO)、Mg(OCCFC(=O)OCFCFCO)、Mg(OCCFCFOC(=O)OCFCFCO)などが挙げられる。
【0041】
金属塩(1B−3)としては、例えば、パーフルオロエタンジスルホン酸カルシウム、パーフルオロプロパンジスルホン酸カルシウム、パーフルオロスルホ酢酸カルシウム、パーフルオロスルホプロピオン酸カルシウム、パーフルオロコハク酸カルシウム、パーフルオロ二スルホコハク酸三カルシウム、パーフルオロスクエア酸カルシウムなどが挙げられる。
エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合を有していてもよい金属塩(1B−3)としては、Ca(OSCFCFOCFCFSO)、Ca(OSCFC(=O)OCFCFSO)、Ca(OSCFCFOC(=O)OCFCFSO)、Ca(OSCFCFOCFCFCO)、Ca(OSCFC(=O)OCFCFCO)、Ca(OSCFCFOC(=O)OCFCFCO)、Ca(OCCFC(=O)OCFCFSO)、Ca(OCCFCFOCFCFCO)、Ca(OCCFC(=O)OCFCFCO)、Ca(OCCFCFOC(=O)OCFCFCO)などが挙げられる。
【0042】
金属塩層(A)に含まれる金属塩(1)は、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
金属塩(1)は、Rの炭化水素基の水素原子1つ以上がフッ素原子に置換されているために、Rが炭化水素基の場合と比較してMの解離度が高く、リチウムイオンなどの電極反応物質の受け渡しが容易で導電性に優れている。そのため、正極材料を含む粒子の表面を被覆しても優れたリチウムイオン導電パスとして機能できるので、金属塩層(A)の形成による電池の出力低下を抑制できる。
また、金属塩(1)は、Rの炭化水素基の水素原子の1つ以上がフッ素原子に置換されていることで、Rが炭化水素基の場合と比較して優れた耐酸化性を有している。そのため、金属塩層(A)を有する正極活物質により形成した正極においては、金属塩層(A)は、高い充電電圧で電池を使用しても酸化による劣化が起きにくく、フッ素原子を含まない金属塩によって被覆された場合と比較して、繰り返しの充放電においても被覆による効果が低下しにくい。
加えて、Rの炭化水素基の水素原子の1つ以上がフッ素原子に置換されている優れた耐酸化性を有する金属塩(1)を用いることで、フッ素原子を含まない金属塩を用いた場合と比較して、充分な耐酸化性を確保しつつ金属塩層(A)の厚みを薄くすることができる。金属塩層(A)の厚みが薄いと、その分だけ被覆による電気抵抗も小さくなる。そのため、正極の耐酸化性を向上させる効果と、電池の出力低下を抑制する効果の両立が容易である。
正極に被覆のない場合には、正極上では電解液の分解が起こりやすい。電解液が分解すると、分解に伴ってガスが発生して電池の変形の原因となる。また、電解液の分解に伴う熱の発生により、電池が熱暴走を起こし電池が破裂するおそれがある。正極上に安定な金属塩層(A)が存在することにより、正極上での電解液の分解が抑制され、電極の熱安定性に寄与する。
【0043】
本発明の正極活物質における金属塩層(A)には、金属塩(1)以外の他の金属塩が含まれていてもよい。他の金属塩としては、金属塩(1)以外のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられ、金属塩層(A)の抵抗がより小さくなり、サイクル特性を向上させやすい点から、金属塩(1)以外のリチウム塩が好ましい。具体的には、炭酸リチウム(LiCO)、フッ化リチウム(LiF)、四ホウ酸リチウム(Li)、メタホウ酸リチウム(LiBO)、ピロリン酸リチウム(Li)、トリポリリン酸リチウム(Li10)、オルトケイ酸リチウム(LiSiO)あるいはメタケイ酸リチウム(LiSiO)などの、アルカリ金属原子あるいはアルカリ土類金属原子の炭酸塩、ハロゲン化物塩、ホウ酸塩あるいはリン酸塩などが挙げられる。
また、金属塩層(A)には、金属塩(1)に加えて、金属塩(1)の分解物が含まれていてもよい。
【0044】
金属塩層(A)中に含まれる金属塩(1)以外の金属塩の含有量は、正極材料を含む粒子100質量部に対して、0.01〜5.0質量部が好ましく、0.1〜3.0質量部がより好ましい。
【0045】
本発明の正極活物質は、金属塩層(A)による効果が得られやすい点から、正極材料を含む粒子の表面を全て覆うように金属塩層(A)が形成されていることが好ましい。ただし、本発明の正極活物質は、粒子表面の少なくとも一部に金属塩層(A)が形成されていれば金属塩層(A)による効果が得られるので、正極材料を含む粒子の表面が全て覆われるように金属塩層(A)が形成された形態には限定されない。
正極材料を含む粒子の表面における金属塩層(A)が形成されている表面の割合としては、20%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。
【0046】
金属塩層(A)の厚みは、0.1〜100nmが好ましい。金属塩層(A)の厚みが0.1nm以上であれば、正極活物質の耐酸化性を向上させやすく、また正極上における電解液の分解を低減する効果が得られやすい。金属塩層(A)の厚みが100nm以下であれば、電池の出力が低下することを抑制しやすい。
【0047】
正極活物質の平均粒子径は、0.01〜50μmが好ましい。正極活物質の平均粒子径が0.01μm以上であれば、エネルギー密度を高く保ちつつ、正極を製造する際のプレス工程において、正極活物質が正極集電体から剥離することを抑制しやすい。また、正極活物質の表面積がより小さくなり、導電材、結着剤などの添加量を低減できるので、エネルギー密度を高くすることが容易になる。正極活物質の平均粒子径が50μm以下であれば、出力特性を高く保ちつつ、正極活物質が電極表面から剥離することを抑制しやすい。
正極活物質の平均粒子径は、レーザー回折法や動的光散乱光度法により測定される。
【0048】
(正極活物質の製造方法)
本発明の正極活物質は、正極材料を含む粒子の表面に金属塩層(A)を形成することにより製造できる。
正極材料を含む粒子は、リチウム遷移金属複合酸化物などの前記正極材料の粒子をそのまま用いてもよく、リチウム遷移金属複合酸化物の外側に、被覆処理により、リチウム遷移金属複合酸化物に含まれる主要遷移金属とは異なる遷移金属を含む外層を形成した粒子を用いてもよい。
前記外層を形成する被覆処理は、リチウム遷移金属複合酸化物などの正極材料の粒子と、該リチウム遷移金属複合酸化物を構成する主要遷移金属とは異なる遷移金属を含む化合物とを、粉砕、混合することにより行える。該被覆処理によって、リチウム遷移金属複合酸化物を含む内層と、該リチウム遷移金属複合酸化物を構成する主要遷移金属とは異なる遷移金属が含まれる外層とを有する粒子が得られる。
【0049】
前記被覆処理は、例えば、ボールミル、ジェットミル、擂潰機、微粉砕機、ずり応力を用いた撹拌機などを用いることにより行える。該被覆処理は、水などの、多少の液体分を添加して行うことが好ましい。また、メカノフュージョンなどのメカノケミカル処理や、スパッタリング法、化学気相成長法(CVD)などの気相法を用いてもよく、原料を水やエタノールなどの溶媒中で混合する方法、中和滴定法、金属アルコキシドを原料とするゾル−ゲル法などの湿式法により行ってもよい。
被覆処理は2回以上行ってもよい。また、前記被覆処理による外層を有する粒子は、必要に応じて焼成してもよく、粉砕または分級操作などによって粒度調整を行ってもよい。
【0050】
正極材料を含む粒子の表面に、金属塩層(A)を形成する方法としては、例えば、塗布法、浸漬法、ディップコーティング法などの液相法、蒸着法、スパッタリング法、CVD法などの気相法が挙げられる。なかでも、金属塩層(A)の形成が容易な点から、液相法が好ましく、溶媒中で、金属塩(1)と正極材料を含む粒子とを混合、撹拌した後に、溶媒を除去する方法がより好ましい。前記溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド、スルホラン、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、酢酸エチル、N−メチルピロリジノン、ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどが挙げられる。
【0051】
液相法により金属塩層(A)を形成する場合、溶媒中に添加する金属塩(1)の量は、正極材料を含む粒子100質量部に対して、0.01〜5.0質量部が好ましく、0.1〜3.0質量部がより好ましい。前記金属塩(1)の添加量が0.01質量部以上であれば、正極を保護するのに充分な厚みを有する金属塩層(A)を形成することが容易になる。前記金属塩(1)の添加量が5.0質量部以下であれば、電池の出力低下を抑制しやすい。
【0052】
以上説明した本発明の正極活物質は、正極材料を含有し、その表面に、フッ素原子を有する解離度が高い金属塩(1)を含む金属塩層(A)が形成されていることで、二次電池の出力低下を抑制できる。また、酸化劣化しにくく安定な金属塩層(A)により、正極上での電解液の分解を低減でき、フッ素原子を含まない金属塩層で被覆されている場合と比較して、その効果が長期に渡って持続する。さらに、金属塩層(A)を形成すると、金属塩層(A)を形成しない場合に比べて、正極上で電解液が分解することによる発熱量を抑えることができるうえ、正極の分解が起きる温度が高くなる。そのため、使用状況によって、電池の温度が仮に正極上で電解液が分解する温度に達しても、電解液の分解による発熱によって電池温度が正極が分解する温度まで上昇し、熱暴走に至ることを抑制できる。
また、金属塩(1)は、電解液への溶解度が低いため、安定な金属塩層(A)を形成でき、さらにフッ素原子を有することにより金属塩層(A)が酸化劣化しにくいことにより、金属塩層(A)による前記効果が安定して得られる。
【0053】
[正極]
本発明の正極は、正極集電体と、該正極集電体上に設けられる、前述した本発明の正極活物質を含む正極活物質層とを有する。以下、本発明の正極の実施形態の一例を示して詳細に説明する。
本実施形態の正極1は、図1に示すように、正極集電体2と、正極集電体2の両面に設けられた正極活物質層3とを有する。
【0054】
正極集電体2を形成する材料は、正極集電体の製造に通常用いられる材料であればよく、化学的安定性、電気伝導性に優れ、機械的強度が高い材料が好ましい。正極集電体2を形成する材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、タンタルなどの金属またはその合金が挙げられ、アルミニウムまたはその合金が好ましく、アルミニウムが特に好ましい。
【0055】
正極活物質層3は、前述した本発明の正極活物質を含む層である。
正極活物質層3における正極活物質の含有量は、95.0〜99.99質量%が好ましく、97.0〜99.9質量%がより好ましい。
【0056】
正極活物質層3は、例えば、結着剤により正極活物質を結着させることにより形成できる。
結着剤としては、電極製造時に使用する溶媒、電解液に対して安定な材料であれば、任意の結着剤を使用できる。例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴムなどの不飽和結合を有する重合体およびその共重合体、アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体などのアクリル酸系重合体およびその共重合体などが挙げられる。これらの結着剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
正極活物質層3には、正極活物質および結着剤以外に、必要に応じて機械的強度、電気伝導度を高めるために増粘剤、導電材、充填剤などが含まれていてもよい。
増粘剤としては、例えば、カルボキシルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、ガゼイン、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。これらの増粘剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
導電材としては、例えば、銅またはニッケルなどの金属材料、グラファイトまたはカーボンブラックなどの炭素質材料が挙げられる。これら導電材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
(正極の製造方法)
正極の製造方法は、本発明の正極活物質を用いる以外は、公知の製造方法を用いることができる。例えば、本発明の正極活物質に、結着剤、増粘剤、導電材、溶媒などを加えてスラリー化し、そのスラリーを正極集電体に塗布、乾燥する方法が挙げられる。該方法では、乾燥後にプレスすることによって電極を圧密化することが好ましい。前記溶媒としては、例えば、1−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられる。
【0060】
なお、本発明の正極は、本発明の正極活物質を含む正極活物質層を有するものであれば、前記正極1には限定されない。例えば、正極集電体の片面だけに正極活物質層が設けられた正極であってもよい。
また、本発明の正極における正極活物質層に含まれる正極活物質は、全てが本発明の正極活物質でなくてもよい。例えば、正極活物質層の表層が本発明の正極活物質で、内部が公知の正極活物質で形成されていてもよい。該正極は、例えば、正極材料を含む粒子に、結着剤、増粘剤、導電材、溶媒などを加えてスラリー化し、そのスラリー正極集電体に塗布、乾燥して正極活物質層を形成した後、該層の表層に位置する正極材料を含む粒子の表面に、前記液相法または気相法により金属塩層(A)を形成する方法により製造できる。
【0061】
[非水電解質二次電池]
本発明の非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」という。)は、前述した本発明の正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを有する二次電池である。
負極としては、電極反応物質を吸蔵および放出できる負極活物質を含む電極であればよく、リチウムイオンを吸蔵および放出できる電極が好ましい。負極活物質としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の負極活物質を用いることができ、リチウムイオンを吸蔵および放出できる人造または天然グラファイト(黒鉛)、非晶質炭素などの炭素質材料、金属リチウム、リチウム合金などの金属、金属化合物が挙げられる。これら負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
炭素質材料としては、黒鉛、および黒鉛の表面を該黒鉛に比べて非晶質の炭素で被覆した炭素質材料が特に好ましい。
黒鉛は、学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離、以下単にd値という。)が0.335〜0.338nmであることが好ましく、0.335〜0.337nmであることがより好ましい。また、学振法によるX線回折で求めた結晶子サイズ(Lc)は、30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましい。黒鉛の灰分は、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0063】
また、黒鉛の表面を非晶質炭素で被覆した炭素質材料としては、d値が0.335〜0.338nmである黒鉛を核材とし、該黒鉛の表面に該黒鉛よりもd値が大きい非晶質炭素が被覆されており、かつ核材の黒鉛(質量W)と該黒鉛を被覆する非晶質炭素(質量W)の割合が質量比(W/W)で80/20〜99/1であることが好ましい。この炭素質材料を用いることにより、高い容量で、かつ非水電解液と反応しにくい負極を製造することが容易になる。
【0064】
炭素質材料の粒径は、レーザー回折・散乱法によるメジアン径で、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましく、7μm以上であることが特に好ましい。また、炭素質材料の粒径の上限は、100μmが好ましく、50μmがより好ましく、40μmがさらに好ましく、30μmが特に好ましい。
【0065】
炭素質材料のBET法による比表面積は、0.3m/g以上が好ましく、0.5m/g以上がより好ましく、0.7m/g以上がさらに好ましく、0.8m/g以上が特に好ましい。炭素質材料の比表面積の上限は、25.0m/gが好ましく、20.0m/gがより好ましく、15.0m/gがさらに好ましく、10.0m/gが特に好ましい。
【0066】
炭素質材料は、アルゴンイオンレーザー光を用いたラマンスペクトルで分析したときに、1570〜1620cm−1の範囲にあるピークPのピーク強度Iと、1300〜1400cm−1の範囲にあるピークPのピーク強度Iとの比で表されるR値(=I/I)が、0.01〜0.7であることが好ましい。また、ピークPの半値幅が、26cm−1以下であることが好ましく、25cm−1以下であることが特に好ましい。
【0067】
金属リチウム以外に負極活物質として使用できる金属としては、Ag、Zn、Al、Ga、In、Si、Ti、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、Cu、Ni、Sr、Baなどが挙げられる。また、リチウム合金としては、リチウムと前記金属の合金が挙げられる。また、金属化合物としては、前記金属の酸化物などが挙げられる。
なかでも、Si、Sn、Ge、TiおよびAlからなる群から選ばれる1種以上の金属、該金属を含む金属化合物、金属酸化物、リチウム合金が好ましく、Si、SnおよびAlからなる群から選ばれる1種以上の金属、該金属を含む金属化合物、リチウム合金、チタン酸リチウムがより好ましい。
リチウムイオンを吸蔵および放出できる金属、該金属を含む金属化合物、ならびにリチウム合金は、一般に黒鉛に代表される炭素質材料と比較して、単位質量当たりの容量が大きいので、エネルギー密度を高めることが容易である点で好ましい。
【0068】
非水電解質としては、例えば、非水溶媒に、電解質塩を溶解させた非水電解液が使用できる。非水電解液としては、公知の非水電解液二次電池に用いられる電解液が使用できる。
電解質塩は、非水溶媒に溶解または分散してイオンを生じる塩であり、リチウム塩が好ましい。
リチウム塩としては、例えば、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、LiB(C、CHSOLi、CFSOLi、LiCl、LiBrなどが挙げられる。また、下式(2−1)〜(2−5)で表されるTFSI−Li(リチウム塩(2−1))、BETI−Li(リチウム塩(2−2))、CTFSI−Li(リチウム塩(2−3))、LiBOB(リチウム塩(2−4))、LiFOB(リチウム塩(2−5))などが挙げられる。なかでも、高い伝導度が得られやすく、サイクル特性が向上する点から、LiPFが好ましい。これらリチウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
【化6】

【0070】
非水電解液中の電解質塩の含有量は、溶媒1Lに対して、0.1〜3.0モルが好ましく、0.5〜2.0モルがより好ましい。電解質塩の含有量が溶媒1Lに対して0.1モル以上であれば、高い伝導度が得られやすい。電解質塩の含有量が溶媒1Lに対して3.0モル以下であれば、化学的安定性に優れた非水電解液が得られやすい。
【0071】
非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、アニソール、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステルなどが挙げられる。なかでも、サイクル特性が向上する点から、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステルが好ましい。これらの非水溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
非水溶媒は、前記溶媒を2種以上を併用する場合、電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上し、高い伝導度が得られやすい点から、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートなどの高粘度で高誘電率の溶媒と、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネートなどの低粘度の溶媒とを含む混合溶媒が好ましい。
【0072】
また、非水電解液は、電解質塩の溶解または分散に悪影響を与えない範囲内であれば、不燃性を向上させるために、含フッ素アルカン、含フッ素エーテル類などの含フッ素溶媒を含んでいてもよい。
含フッ素アルカンおよび含フッ素エーテルとは、アルキル基の水素原子の1つ以上がフッ素原子に置換されているアルカンおよびエーテルをいう。
含フッ素アルカンおよび含フッ素エーテルのアルキル基の炭素数は、4〜12が好ましい。特に、炭素数6以上の含フッ素アルカンは、非水電解液の蒸気圧を低下させる効果が得られる。また、炭素数が12以下の含フッ素アルカンは、電解質塩の溶解度が低下することを抑制しやすい。
含フッ素エーテル中に含まれるエーテル性酸素原子の数は、1〜4が好ましい。エーテル性酸素原子が多いほど、電解質塩の溶解度が低下することを抑制しやすい。エーテル性酸素原子が少ないほど、非水電解液の不燃性が向上する。
【0073】
また、含フッ素アルカンおよび/または含フッ素エーテル中のフッ素含有量(フッ素含有量とは、分子量に占めるフッ素原子の質量の割合をいう。)は、50〜80%が好ましい。前記フッ素含有量が50%以上であれば、非水電解液の不燃性が向上する。前記フッ素含有量が80%以下であれば、電解質塩の溶解度が低下することを抑制しやすい。
非水電解液中の前記含フッ素溶媒の含有量は、非水電解液に用いる全溶媒量を100体積%としたとき、5〜60体積%が好ましい。含フッ素溶媒の含有量が5体積%以上であれば、蒸気圧が低くなりやすく、不燃性が向上する。含フッ素溶媒の含有量が60体積%以下であれば、電解質塩の溶解度が低下することを抑制しやすい。
【0074】
また、非水電解液には、該非水電解液の機能を向上させるために、必要に応じて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば、公知の過充電防止剤、脱水剤、脱酸剤、高温保存後の容量維持特性およびサイクル特性を改善するための特性改善助剤が挙げられる。
過充電防止剤としては、例えば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフランなどの芳香族化合物;2−フルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼンなどの前記芳香族化合物の部分フッ素化物;2,4−ジフルオロアニソール、2,5−ジフルオロアニソールおよび2,6−ジフルオロアニオールなどの含フッ素アニソール化合物が挙げられる。これら過充電防止剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
非水電解液が過充電防止剤を含有する場合、非水電解液中の過充電防止剤の含有量は、0.01〜5質量%が好ましい。非水電解液に過充電防止剤を0.1質量%以上含有させることにより、過充電による二次電池の破裂および発火を抑制することが容易になり、二次電池をより安定に使用できる。
【0075】
脱水剤としては、例えば、モレキュラーシーブス、芒硝、硫酸マグネシウム、水素化カルシウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化リチウムアルミニウムなどが挙げられる。非水電解液に用いる溶媒は、前記脱水剤で脱水を行った後に精留を行ったものを使用することが好ましい。また、精留を行わずに前記脱水剤による脱水のみを行った溶媒を使用してもよい。
【0076】
高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を改善するための特性改善助剤としては、例えば、フェニルエチレンカーボネート、エリスリタンカーボネート、スピロ−ビス−ジメチレンカーボネートなどのカーボネート化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物などのカルボン酸無水物;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、ジフェニルスルホン、メチルフェニルスルホン、ジブチルジスルフィド、ジシクロヘキシルジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、N,N−ジメチルメタンスルホンアミド、N,N−ジエチルメタンスルホンアミドなどの含硫黄化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルスクシイミドなどの含窒素化合物;ヘプタン、オクタン、シクロヘプタンなどの炭化水素化合物、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオライドなどの含フッ素芳香族化合物が挙げられる。これら特性改善助剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
非水電解液が特性改善助剤を含有する場合、非水電解液中の特性改善助剤の含有量は、0.01〜5質量%が好ましい。
【0077】
また、非水電解質は、前記非水電解液には限定されず、多孔膜に電解液を含浸させてゲル化させたものをゲル電解質として用いてもよく、固体電解質を用いてもよい。
固体電解質としては、イオン導電性を有する材料であれば、無機固体電解質であってもよく、高分子固体電解質であってもよい。高分子固体電解質は、電解質塩とそれを溶解する高分子化合物からなる電解質である。
無機固体電解質としては、例えば、窒化リチウム、よう化リチウム、イオン伝導性セラミックス、イオン伝導性結晶、イオン伝導性ガラスなどが挙げられる。
高分子固体電解質の高分子化合物としては、例えば、ポリ(エチレンオキサイド)またはその架橋体などのエーテル系高分子、ポリ(メタクリレート)エステル系高分子、アクリレート系高分子などが挙げられる。具体的には、ポリエーテル、ポリエステル、ポリフォスファゼン、ポリシロキサンなどが挙げられる。これら高分子化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよく、2種以上が共重合されたものを使用してもよい。
【0078】
本発明の二次電池の正極と負極の間には、短絡を防止するためにセパレータが設けられていることが好ましい。セパレータとしては、二次電池のセパレータとして通常用いられているものが使用でき、例えば、多孔膜が挙げられる。この場合、非水電解液は多孔膜に含浸させて用いる。
多孔膜の材質および形状は、非水電解液に対して安定であり、かつ保液性に優れていれば特に制限はなく、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンとテトラフルオロエチレンのコポリマーなどのフッ素樹脂、またはポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンを原料とする多孔性シートまたは不織布が好ましく、材質はポリオレフィンがより好ましい。
【0079】
二次電池の形状は、用途に応じて選択すればよく、例えば、シート型、円筒型、角型、ラミネート型が挙げられる。また、捲回式構造、積層式構造を有する二次電池であってもよい。正極および負極の形状も、二次電池の形状に合わせて適宜選択できる。
本発明の二次電池は、例えば、前述した各電池要素を電池外装体中に封入することにより形成できる。電池外装体の材質は、二次電池に通常用いられる材質であればよく、ニッケルメッキを施した鉄、ステンレス、アルミニウムまたはその合金、ニッケル、チタン、樹脂材料、フィルム材料などが挙げられる。
【0080】
本発明の二次電池の充電上限電圧は、4.20〜5.00Vが好ましく、4.25〜4.80Vがより好ましく、4.35〜4.65Vがさらに好ましい。また、放電下限電圧は、2.00〜3.30Vが好ましい。充電上限電圧および放電下限電圧が高いほど、エネルギー密度が高くなる。
【0081】
以上説明した本発明の二次電池は、本発明の正極活物質を用いて形成した正極を備えているため、電池電圧を高くしても優れたサイクル特性が得られ、電解液の分解によるガス発生を低減できる。加えて、電池の出力低下が抑制されており、またそれらの効果が安定して得られる。
なお、本発明の二次電池は、本発明の正極を有するものであれば前述した二次電池には限定されない。
【実施例】
【0082】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。なお、本実施例における「部」は「質量部」を意味する。
<DSC分析による充電正極上での電解液の発熱挙動の観測>
[製造例1]
正極材料を含む粒子としてLiCoO(AGCセイミケミカル社製、商品名「セリオンC」)、金属塩(1)としてパーフルオロエタンジスルホン酸二リチウム(金属塩(1A−12)を用いた。LiCoO100部に対して金属塩(1A−12)1部となるように秤量し、それらを100mLのメタノール中で1時間撹拌した。その後、エバポレータによりメタノールを除去し、オーブンにて120℃で12時間乾燥させ、LiCoOの表面に金属塩(1A−12)からなる金属塩層(A)を形成した正極活物質を得た。
次いで、得られた正極活物質90部、カーボンブラック(電気化学工業社製、商品名「デンカブラック」)5部、およびポリフッ化ビニリデン5部を混合し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてスラリー状とした。該スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に均一に塗布、乾燥し、その後にプレスして、密度が3.0g/cmの正極活物質層を有するLiCoO正極を作製した。
次いで、前記LiCoO正極、該LiCoO正極と同面積のリチウム金属箔、およびポリエチレン製のセパレータを、リチウム金属箔、セパレータ、LiCoO正極の順に積層して電池要素を作製した。その後、アルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層(ポリエチレン樹脂)で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に、前記電池要素を、該電池要素のLiCoO正極および負極(リチウム金属箔)の端子が前記袋の外部に出るようにして収容した。さらに、該袋内に、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを容量比1:1で混合した溶媒に1Mの濃度となるようにLiPFを溶解した非水電解液を注入し、真空封止を行い、LiCoO正極−リチウム金属箔からなる単極セルのシート状リチウムイオン二次電池1(二次電池1)を作製した。
【0083】
[製造例2]
表面に金属塩層(A)を形成していないLiCoOを正極活物質として使用した以外は、製造例1と同様にしてシート状リチウムイオン二次電池2(二次電池2)を作製した。
【0084】
[DSC分析]
作製した二次電池を、電極間の密着性を高めるためにガラス板で挟んだ状態とした。そして、25℃において、0.1Cに相当する定電流で4.20Vまで充電し、0.1Cに相当する定電流で3.00Vまで放電するサイクルを5サイクル行い、二次電池を安定させた。その後、該二次電池を0.1Cに相当する定電流で4.50Vまで充電し、さらに4.50Vの定電圧で電流値が0.01Cになるまで充電した。ただし、1Cとは電池の4.20Vにおける基準容量を1時間で放電する電流値を表し、0.1Cとはその1/10の電流値を表す。
次いで、4.50Vに充電された二次電池をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で解体し、LiCoO正極を取り出してエチルメチルカーボネートで洗浄した後、30分間真空乾燥した。乾燥したLiCoO正極を直径3mmの円形に打ち抜いてサンプル正極とした。容量15μLのSUS製(ステンレス製)密閉式DSCパン上にサンプル正極を設置し、該サンプル正極上に非水電解液(作製した二次電池内に注入していた電解液と同じもの。)を5μL滴下し、容器を密閉した。そして、セイコーインスツル社製のDSC6000(機種名)により、50℃から350℃の温度範囲において、昇温速度5℃/分でサンプル正極上の電解液の熱分析を実施した。
【0085】
[実施例1]
製造例1で作製した二次電池1について、DSC分析により、サンプル正極上の電解液の熱分析を実施した。
【0086】
[比較例1]
製造例2で作製した二次電池2について、DSC分析により、サンプル正極上の電解液の熱分析を実施した。
二次電池1の熱分析の結果を図2、二次電池2の熱分析の結果を図3に示す。
【0087】
図2に示すように、LiCoOの表面に金属塩(1)を含む金属塩層(A)を形成した正極活物質を用いた二次電池1では、224℃でLiCoO正極上での電解液の分解による発熱が観測され、269℃でLiCoO正極の分解による発熱が観測された。一方、図3に示すように、金属塩層(A)を形成していないLiCoOを正極活物質として用いた二次電池2では、221℃でLiCoO正極上での電解液の分解による発熱が観測され、250℃でLiCoO正極の分解による発熱が観測された。
二次電池1と二次電池2を比較すると、二次電池1における電解液の分解による発熱量は、二次電池2における電解液の発熱量に比べて少なかった。また、電解液の分解が生じる温度とLiCoO正極の分解が生じる温度との差は、二次電池1で45℃であるのに対して、二次電池2では29℃と小さかった。
【0088】
このように、表面に金属塩層(A)を形成していないLiCoOを正極活物質として用いた二次電池2は、電解液の分解による発熱量が多いことに加え、電解液の分解が起こる温度とLiCoO正極の分解が起こる温度の差が小さかった。二次電池2は使用状況によって電解液が分解する温度(221℃)に達すると、電解液の分解による発熱によって電池の温度がLiCoO正極の分解が起こる温度(250℃)まで上昇し、電池が熱暴走に至るおそれがある。
これに対し、LiCoOの表面に金属塩(1)を含む金属塩層(A)を形成している二次電池1は、電解液の分解による発熱量が少ないうえに、電解液の分解が起こる温度とLiCoO正極の分解が起こる温度の差が大きかった。この結果は、二次電池1は使用状況によって電解液が分解する温度(224℃)に達しても、電解液の分解による発熱によって電池の温度がLiCoO正極の分解が起こる温度(269℃)まで上昇することが起こりにくく、熱暴走に至りにくいことを示している。
以上のように、正極活物質においてLiCoOの表面に金属塩(1)を含む金属塩層(A)を形成することで、金属塩層(A)を形成しない場合に比べて二次電池の安全性が向上した。
【0089】
<容量維持率および厚み増加率の評価>
[製造例3]
負極として、リチウム金属箔の代わりに、銅箔上に塗工された天然黒鉛負極(宝泉社製)を用いた以外は、製造例1と同様にしてシート状リチウムイオン二次電池3(二次電池3)を作製する。
【0090】
[製造例4]
負極として、リチウム金属箔の代わりに、銅箔上に塗工された天然黒鉛負極(宝泉社製)を用いた以外は、製造例2と同様にしてシート状リチウムイオン二次電池4(二次電池4)を作製する。
【0091】
[容量維持率の評価]
製造例3で作製した二次電池3について、環境温度25℃において、充電電圧を4.20、4.35、4.40または4.50Vとし、充電電流を0.2C、充電時間を8時間として定電流定電圧充電を行い、その後に放電電流0.2C、放電終止時の電圧3.00Vの条件で放電を行う。この一連の充放電過程を1サイクルとして、1サイクル目と100サイクル目の放電容量を測定し、1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合(容量維持率、単位:%)を求める。また、同様にして、製造例4で作製した二次電池4についても、同じ充電電圧での容量維持率を求める。
次いで、二次電池3と二次電池4の容量維持率から、下式(I)により容量維持率の向上率A(単位:%)を求め、以下の基準に従って評価する。
A=[(A−A)/A]×100 (I)
ただし、前記式(I)中、Aは二次電池3の容量維持率を示し、Aは同じ充電電圧における二次電池4の容量維持率を示す。
評価基準;
◎:容量維持率の向上率Aが15%以上である。
○:容量維持率の向上率Aが5%以上15%未満である。
△:容量維持率の向上率Aが1%以上5%未満である。
×:容量維持率の向上率Aが1%未満である。
各充電電圧における容量維持率の向上率Aの評価を表1に示す。
【0092】
[厚み増加率の評価]
製造例3で作製した二次電池3について、充電電圧を4.20、4.35、4.40または4.50Vとし、充電電流を0.2C、充電時間を8時間として定電流定電圧充電を行い、その後に90℃で4時間保存し、保存前後での電池の厚みをそれぞれ測定し、下式(II)により厚み増加率B(単位:%)を求める。
B=[(B−B)/B]×100 (II)
ただし、前記式(II)中、Bは保存前の電池の厚みを示し、Bは保存後の電池の厚みを示す。
また、同様にして、製造例4で作製した二次電池4についても、同じ充電電圧での厚み増加率Bを求める。次いで、二次電池3と二次電池4の厚み増加率Bから、下式(III)により厚み増加率の低減率C(単位:%)を求め、以下の基準に従って評価する。
C=[(B−B)/B]×100 (III)
ただし、前記式(III)中、Bは二次電池3の厚み増加率を示し、Bは同じ充電電圧における二次電池4の厚み増加率を示す。
評価基準;
◎:厚み増加率の低減率Cが15%以上である。
○:厚み増加率の低減率Cが5%以上15%未満である。
△:厚み増加率の低減率Cが1%以上5%未満である。
×:厚み増加率の低減率Cが1%未満である。
各充電電圧における厚み増加率の低減率Cの評価を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
表1に示すように、充電電圧4.20〜4.50Vにおいて、正極材料を含む粒子の表面に金属塩(1)を含む金属塩層(A)を形成した二次電池3は、金属塩層(A)を形成していない二次電池4に比べて、容量維持率の低下および厚み増加率の増加が抑制される。充電電圧が高いほど、エネルギー密度が向上して初期容量が高くなる一方で、容量維持率の低下や電池厚みの増加が特に生じやすい条件になる。しかし、充電電圧が4.5Vと高い場合でも、金属塩(1)を含む金属塩層(A)を形成することで、容量維持率の低下および厚み増加率の増加が抑制される。
なお、表1においては、充電電圧が低いほど、容量維持率の向上率Aおよび厚み増加率の低減率Cが小さくなっている。これは、充電電圧が低いと、正極材料を含む粒子の表面に金属塩層(A)を形成していないときの容量維持率の低下、および厚み増加率の増加が小さいためである。
【0095】
以上のように、正極材料を含む粒子の表面に金属塩(1)を含む金属塩層(A)を形成することにより、サイクル特性および熱安定性が向上する。加えて、金属塩(1)はMの解離度が高く、リチウムイオンなどの電極反応物質の受け渡しが容易であるので、サイクル特性および熱安定性の向上と、電池の出力低下の抑制を両立できる。
【符号の説明】
【0096】
1 正極 2 正極集電体 3 正極活物質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極反応物質を吸蔵および放出できる正極材料を含有し、表面に下式(1)で表される金属塩を含む層を有する粒子からなる正極活物質。
【化1】

(ただし、式(1)中、aおよびbはそれぞれ0以上の整数で、かつaとbの和が2以上であり、cは1以上の整数であり、d=(a+b)×cであり、eは1以上の整数であり、f=dである。また、Mは、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子であり、Rは、aとbの和を価数とする、末端部位以外にエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合を有していてもよい炭化水素基において、水素原子の1つ以上がフッ素原子に置換された基である。)
【請求項2】
前記金属塩におけるRが、aとbの和を価数とする炭化水素基の全ての水素原子がフッ素原子に置換された基である請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記金属塩におけるbが1以上である請求項1または2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記金属塩におけるMがリチウムである請求項1〜3のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項5】
前記正極材料が、リチウムと遷移金属を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む請求項1〜4のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項6】
前記正極材料が、主要遷移金属として、コバルト、ニッケルおよびマンガンからなる群から選ばれる1種以上を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む請求項5に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記正極材料が、前記主要遷移金属を含むリチウム遷移金属複合酸化物からなる内層と、該内層の少なくとも一部を被覆する、前記主要遷移金属を含むリチウム遷移金属複合酸化物以外の化合物からなる外層とを有する粒子である請求項6に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記外層がリンまたはケイ素を含む化合物からなる請求項7に記載の正極活物質。
【請求項9】
正極集電体と、該正極集電体上に設けられた正極活物質層を有し、前記正極活物質層は請求項1〜8のいずれかに記載の正極活物質を含む正極。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の正極活物質を有する正極と、負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池。
【請求項11】
充電上限電圧が4.20〜5.00Vで、放電下限電圧が2.00〜3.30Vである請求項10に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−159496(P2011−159496A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20321(P2010−20321)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】