説明

正極活物質、正極及び二次電池

【課題】 高充放電容量を維持し、且つサイクル時の容量劣化の少ないリチウムマンガン酸化物からなる正極活物質、該活物質を含む正極及び二次電池を提供する。
【解決手段】 リチウムを挿入・放出することができるリチウム含有金属酸化物からなる二次電池の正極活物質であって、リチウム含有金属酸化物が一般式LiMnで示され、かつ下式(1)
[化4]
LiMn24⇔Li1-nMn24+nLi++ne- …(1)
に示される可逆反応で、0≦n≦1の範囲で充放電させる際のリチウムの挿入・放出に伴う格子定数の変化率が1mAh/g当たり1.3×10-3Å以下であり、充電端(電位4.35V対極Li)における格子定数の値が8.07Å以上、放電端(電位3.2V対極Li)における格子定数の値が8.235Å以下であることよりなる正極活物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池の正極に用いられるスピネル系リチウムマンガン酸化物からなる改良された正極活物質、該正極活物質を含む正極、及び二次電池に係わる。詳しくは、二次電池の正極にこの改良された正極活物資を用いることにより、二次電池の特性の改良、特に電池の高い充放電容量を維持しつつ、充放電サイクルに伴う容量劣化が格段に改善されるのである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池の正極活物質として、マンガンとリチウムの複合酸化物であるLiMn24が提案され、研究が盛んに行われている。高電圧・高エネルギー密度という特徴を有しているものの、充放電サイクル寿命が短いといった課題を有しており、実用電池としての利用には至っていない。これまで、特開平7−282798号公報等に開示されているようにリチウムを過剰にしてLi1+XMn2-X4としたり、特開平3−108261、特開平3−219571号各公報等に開示されているようにマンガンの一部をCo、Cr等の他の金属で置換してLiMn2-XCoX4、LiMn2-XCrX4としたりして、リチウムマンガン酸化物の改質を図り、サイクル特性を改良することが提案されている。この方法は、Mnサイトの一部をリチウムやコバルト、クロムなどの金属で置換することで結晶構造を緻密化し、充放電機能の低下を改善することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−282798号公報
【特許文献2】特開平3−108261号公報
【特許文献3】特開平3−219571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらこれらの改質方法では充放電容量の低下を招くため、充放電容量を低下させることなくサイクル特性が改善されたリチウムマンガン酸化物が望まれていた。そこで本発明者らはスピネル系リチウムマンガン酸化物の組成及び結晶性に着目した検討を鋭意行った結果、従来の合成法によるものは以下の(A)〜(C)であることを実験的につきとめ本発明に到達した。
(A)酸素欠損を生じ、格子定数の伸びた酸化物が生成していること。
(B)充電端(n>0.8)の格子定数が縮みすぎている。
(C)(A)及び(B)が原因となり、リチウムの挿入・放出に伴う結晶の膨張・収縮率が大きく、結晶崩壊を招きやすい。
これら(A)〜(C)の知見に対する従来の技術としては、(A)に関しては、式
【0005】
【化2】

の酸素欠損δの熱処理条件による変化及び酸素欠損のあるマンガン酸リチウムの電気化学的キャラクタリゼーションはJ.Electrochem.Soc.,Vol.142,No.7,July,1995.で報告されている。しかし、酸素欠損に伴うサイクル特性の低下については何ら明確な記載がなされていないし、またその電気化学的な測定のされたマンガン酸リチウムは本願発明の範囲には含まれない。
【0006】
また、Journal of Alloys and Compounds 235(1996)163−169では、スピネル
【化3】

の酸素ノンストイキオメトリーが報告されているが、電気化学的測定及び考察は何ら為されていない。
【0007】
(C)に関しては、Mater.Res.Bull.,18(1983)1375.、Mater.Res.Bull.,19(1984)179.、Mater.Res.Bull.,18(1984)461.、J.Electrochem.Soc.,Vol.137,No.3,March(1990)769.等の文献により、n=0.5以上、すなわちリチウムが半分以上放出された領域では、二つの立方晶が存在する二相領域の反応が生じることが報告されている。
【0008】
本発明の目的は、二次電池用の正極活物質材料として、充放電容量を高い値に維持しつつも、充放電サイクルに伴う容量劣化の少ない、スピネル系リチウムマンガン酸化物からなる正極活物質、該正極活物質を含む二次電池用正極及びこの正極を含む二次電池を提供することであり、本発明の要旨は、下記1〜5に記載の正極活物質、正極及び二次電池に存する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1.リチウムを挿入・放出することができるリチウム含有金属酸化物からなる二次電池の正極活物質であって、リチウム含有金属酸化物が一般式LiMnで示され、かつ下式(1)
[化4]
LiMn24⇔Li1-nMn24+nLi++ne- …(1)
に示される可逆反応で、0≦n≦1の範囲で充放電させる際のリチウムの挿入・放出に伴う格子定数の変化率が1mAh/g当たり1.3×10-3Å以下であり、充電端(電位4.35V対極Li)における格子定数の値が8.07Å以上、放電端(電位3.2V対極Li)における格子定数の値が8.235Å以下であることよりなる正極活物質。
【0010】
2.負極活物質としてリチウム、リチウムイオンを挿入・放出することができる化合物またはリチウム合金を用い、電解質にはLiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiB(C654、LiCl、LiBr、CH3SO3Li、CF3SO3Liからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有機溶媒に溶解した電解液を含む二次電池の正極活物質として用いられることよりなる上記1項記載の正極活物質。
【0011】
3.リチウム含有金属酸化物の初期放電容量(Li対極時)が100mAh/g以上であることよりなる上記1項または2項に記載の正極活物質。
4.上記1項〜3項のいずれかに記載の正極活物質をふくむ二次電池用正極。
5.上記4項に記載の二次電池用正極を含む二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリチウムマンガン酸化物からなる正極活物質を用いることにより、充放電容量が大きく、かつサイクル特性の改善された電池を得ることができる。その結果、安価な材料のリチウムマンガン酸化物が正極材料として使用可能であることにより、高性能で安全で安価なリチウム二次電池が広い用途に供給できるようになりその工業的価値は大である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、LiMn24のリチウム挿入・放出に伴う格子定数変化率とサイクル特性の相関図である。
【図2】図2は、本発明の実施例の二次電池用正極活物質の試験に用いたコイン型電池の縦断面の説明図である。
【符号の説明】
【0014】
1 正極
2 ケース
3 セパレーター
4 負極
5 ガスケット
6 封口缶
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明をより詳細に説明する。
本発明の最大の特徴は、二次電池の正極活物質であるリチウム含有金属酸化物が、一般式LiMn24で示される立方晶スピネル結晶であり、
下式(1)
[化5]
LiMn24⇔Li1-nMn24+nLi++ne- …(1)
に示される可逆反応で、0≦n≦1の範囲で充放電させる際のリチウムの挿入・放出に伴う格子定数の変化率が1mAh/g当たり1.3×10-3Å以下であり、充電端(電位4.35V対極Li)における格子定数の値が8.07Å以上で、且つ放電端(電位3.2V対極Li)における格子定数の値が8.235Å以下であるリチウムマンガン酸化物であることである。ここで、一般式LiMn24とは、後述の記載から明らかなように、必ずしもリチウムとマンガンと酸素の比が厳密に1:2:4であることを意味しているわけではなく、多少のズレがあってもよい。このようなリチウム/マンガンの不定比化合物や酸素ノンストイキオメトリはよく知られている。立方晶スピネル結晶、具体的には下記空間群
【0016】
【数1】

の構造を有するスピネル型のマンガン酸リチウムは、本発明で規定する一般式LiMn24の概念に含まれる。
【0017】
最初に格子定数に関する要件について説明する。酸素欠損性は、Mn3+のヤーン・テラーイオンを増大させるため初期容量の増加をもたらすものの結晶構造が歪んで格子定数が伸びる。その結果、充放電サイクル特性の低下を引き起こし、マンガンの平均価数が3.5以下(Mn3+の割合が半分以上)になると欠損量の増加に伴い定量的に低下していくことが判った。さらにマンガンの平均価数がほぼ同じもので比較した場合、酸素欠損に伴うサイクル特性の低下は格子定数が8.235Åを超えて伸びた酸化物では顕著であり、8.235Å以下に抑えられた酸化物ではわずかであった。従って、放電端(3.2V対極Li)における格子定数の値は8.235Å以下とした。より好ましいこの値としては、8.233Å以下、最も好ましくは8.231Å以下である。
【0018】
上記のように酸素欠損を少なくすることで、後述の比較例1と比較例2に示されるように、サイクル特性をかなり改善できるが、本発明はそれだけに満足することなく、さらに前述の知見(B)に基づき、充電端の格子定数をも限定している。すなわち構造変化は、スピネルLiMn24の大きな充電容量や安定した充放電の可逆性を実現する上で非常に重要な意味を持っていると考え実験してみると、サイクル特性の悪いものは充電端(電位4.35V対極リチウム)における格子定数の縮みが大きく、逆に良いものは格子定数の縮みが抑制されていることを見出した。こうした結果を踏まえ、充電端における格子定数の値は8.07Å以上とする。そしてより好ましくは8.075Å以上、最も好ましくは8.080Å以上である。
【0019】
これにより電池の可逆反応の式におけるn=0.5以上の領域における不安定な構造変化を抑え、これに起因する充電端での過度な格子定数の縮みを減らすことができ、前述の放電端での規定と合わせ0≦n≦1の範囲におけるリチウムの挿入・放出に伴う結晶の膨張・収縮率が小さくなるので結晶崩壊が起こりにくくなる。こうした結果を踏まえると、リチウムの挿入・放出に伴う格子定数の変化率が1mAh/g当たり1.3×10-3Å以下であることが必要であり、より好ましくは1mAh/g当たり1.25×10-3Å以下、最も好ましくは1mAh/g当たり1.20×10-3Å以下である。
【0020】
なお、本発明では正極活物質であるLiMn24のリチウム脱ドープ前の格子定数は、8.220Å≦a≦8.235Åと規定しているがこの範囲は電池系において正極活物質からリチウムが脱ドープされる前の初期の状態を示している。この範囲を逸脱すると所望の電池特性を得ることができない。ここで格子定数のさらに好ましい下限は8.225Å、上限は8.234Å、最も好ましい下限は8.228Å、上限は8.233Åである。
このような格子定数を有する一般式LiMn24で表されるリチウム含有金属酸化物(以下本発明のリチウムマンガン酸化物という)は、通常放電容量として、リチウムを対極として使用した場合、100mAh/g以上を得ることが出き、さらに好ましい値は110mAh/g以上、最も好ましい値は120mAh/g以上である。
【0021】
本発明のリチウムマンガン酸化物の製造方法を以下に説明する。出発原料に用いられるリチウム化合物としては、Li2CO3 、LiNO3、LiOH、LiOH・H2O、LiCl、CH3COOLi、Li2O、ジカルボン酸リチウム等が挙げられ、中でもLiOH・H2O、LiOHあるいはジカルボン酸リチウムを用いることが好ましい。
また、やはり出発原料として用いられるマンガン化合物としては、Mn23、MnO2等のマンガン酸化物、MnCO3、Mn(NO3)2、ジカルボン酸マンガン等のマンガン塩等が挙げられるが、中でもMn23、ジカルボン酸マンガンを用いることが好ましく、この場合のMn23はMnCO3やMnO2などの化合物を熱処理して作製したものを用いても構わない。
【0022】
次いで、本発明では前述のマンガン化合物とリチウム化合物を混合する。混合は通常の方法でよく、例えば両原料を乾式混合する方法、湿式混合する方法、リチウム塩水溶液中にマンガン化合物を懸濁させた後、該懸濁液を乾燥する方法、共沈させる方法、または、ボールミルで粉砕混合する方法など均一に混合できる方法であればよい。
【0023】
本発明のリチウムマンガン酸化物の具体的な製造方法の一例としては、γ−MnO2を750℃で24時間、大気中で加熱して得たMn23とLiOH・H2Oをリチウムとマンガンのモル比で1:2になるように混合した混合物を仮焼後、750℃、大気中で本焼し、450℃まで0.2℃/min.の速度で徐冷する方法や、リチウム塩とマンガン塩の非水溶液をジカルボン酸塩共沈法により共沈させた粉末を焼成する方法などを挙げることができる。この時のサンプルの冷却方法としては急冷すると酸素欠損が生じやすくなるので好ましくない。
【0024】
二次電池において、以上のような本発明の一般式LiMn24で示され、リチウムの挿入・放出に伴う格子定数の変化率及び充電端と放電端の格子定数の範囲を規定したスピネル系リチウムマンガン酸化物よりなる正極活物質を含む正極と組み合わせて用いられる負極活物質としては、通常、この種の二次電池に用いられる材料がいずれも使用可能である。例えば、リチウムやリチウム合金も挙げられるが、より安全性の高いリチウムを挿入・放出できる炭素材料が好ましい。この炭素材料は特に限定されないが、黒鉛、及び石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチの炭化物、石油系ピッチの炭化物、ニードルコークス、ピッチコークス、フェノール樹脂、結晶セルロース等の炭化物等及びこれらを一部黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
【0025】
負極は、負極活物質と結着剤(バインダー)とを溶媒でスラリー化したものを塗布し乾燥したものを用いることができる。同様に正極は、正極活物質と結着剤(バインダー)と導電剤とを溶媒でスラリー化したものを塗布し乾燥したものを用いることができる。負極、正極活物質の結着剤(バインダー)としては、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、フッ素ゴム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
正極の導電剤としては、黒鉛の微粒子、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素の微粒子等が好ましく使用されるが、これらに限定されない。セパレーターとしては、微多孔性の高分子フィルムが用いられ、ナイロン、セルロースアセテート、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等のポリオレフィン高分子よりなるものが用いられる。セパレーターの化学的及び電気化学的安定性は重要な因子である。この点からポリオレフィン系高分子が好ましく、電池セパレーターの目的の一つである自己閉塞温度の点からポリエチレン製であることが望ましい。
【0027】
ポリエチレンセパレーターの場合、高温形状維持性の点から超高分子量ポリエチレンであることが好ましく、その分子量の下限は好ましくは50万、さらに好ましくは100万、最も好ましくは150万である。他方分子量の上限は、好ましくは500万、更に好ましくは400万、最も好ましくは300万である。分子量が大きすぎると、流動性が低すぎて加熱された時セパレーターの孔が閉塞しない場合があるからである。
【0028】
また、電解質としては、リチウムを含むものが用いられ、例えばLiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiB(C654、LiCl、LiBr、CH3SO3Li、CF3SO3Li等を有機溶媒に溶解した電解液が用いられる。有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えばカーボネート類、エーテル類、ケトン類、スルホラン系化合物、ラクトン類、ニトリル類、塩素化炭化水素類、エーテル類、アミン類、エステル類、アミド類、リン酸エステル化合物等を使用することができる。これらの代表的なものを列挙すると、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、4−メチル−2−ペンタノン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ブチルニトリル、バレロニトリル、1,2−ジクロロエタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等の単独もしくは二種類以上の混合溶媒が使用できる。
また、このような非水電解液に限らず、固体電解質を用いるようにしてもよい。
【0029】
以下実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
なお、本実施例において、初期放電容量並びに容量維持率を評価するに当たり、負極として金属リチウムを用いており、初期放電容量は正極活物質1g当たりに換算している。
【0030】
(実施例1)
γ−MnO2を750℃で24時間、大気中で加熱して得たMn23とLiOH・H2Oとを出発原料とし、リチウムとマンガンの原子比が1:2となるように配合した。この配合物にエタノールを加え、乳鉢中でよくすりつぶし、均一な混合物とした。得られた混合物を大気中で500℃、24時間仮焼した。次に大気中で750℃、24時間本焼した後、450℃まで0.2℃/min.の速度で徐冷し、LiMn24を得た。
【0031】
(比較例1)
LiOH・H2Oとγ−MnO2をLi/Mn=1/2の割合で自動乳鉢により8時間混合した後、混合物を酸素中で750℃、24時間加熱した後、450℃まで0.5℃/min.の速度で徐冷しLiMn24を得た。
(比較例2)
比較例1で得たサンプルを再び窒素中で550℃、24時間加熱した後、炉内より試料を引き出すことにより急冷し、酸素欠損大としたLiMn24を得た。
【0032】
(比較例3)
Li2CO3とMn23をLi/Mn=1/2の割合で乳鉢を用いて湿式混合した後、混合物を大気中で650℃、24時間仮焼した。次に大気中で750℃、24時間本焼した後、加熱炉の電源を切り、炉冷しLiMn24を得た。その際の450℃までの冷却速度は10℃/min.であった。
【0033】
以上の実施例及び比較例で合成したサンプルは粉末X線回折の精密測定により全て立方晶の単一相であることを確認した後、結晶(立方晶系)の格子定数aを次式
[化6]
a=d・(h2+k2+l21/2
(h、k、lは面指数、dは面指数(hkl)の面間隔)
を用いて、(hkl)=(311)、(222)、(400)、(331)、(511)、(440)、(531)の7個の面指数について算出し、これらの平均値をもって格子定数aとした。
【0034】
続いて電池の製造法及び充放電条件について図2により以下に説明する。
実施例1及び比較例1〜3で合成した各正極活物質と導電剤としてのアセチレンブラック及び結着剤としてのポリ四フッ化エチレン樹脂を重量比で75:20:5の割合で混合して正極合剤とした。また、正極合剤0.1gを直径16mmに1ton/cm2でプレス成型して正極1とした。正極1の上にセパレーター3として多孔性ポリプロピレンフィルムを置いた。負極4として直径16mm、厚さ0.4mmのリチウム板を、ポリプロピレン製ガスケット5を付けた封口管6に圧着した。非水電解液として1モル/1の過塩素酸リチウムを溶解したエチレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタンとの溶液(50vol%:50vol%)を用い、これをセパレーター3上及び負極4上に加えた。その後、電池を封口した。
【0035】
上記の如く製造したこれら各電池の充放電サイクル特性の比較を行った。なお、本実施例及び比較例における充放電サイクル試験は、充放電電流2mA、電圧範囲が4.35Vから3.2Vの間で定電流充放電することで行った。充電端と放電端の格子定数(1サイクル目)を求めるため、充電時は上限電位4.35V到達後、放電時は下限電位3.2V到達後に1時間休止状態とし、短絡せぬよう注意深くコインセルを解体した後、正極ペレットを取り出し、X線回折測定を行った。この結果を表1に示す。
【0036】
本発明にかなう実施例では、初期放電容量が大きく(初期放電容量≧100mAh/g)、加えてサイクル特性に優れている(100cycle後の容量維持率≧95%、500cycle後の容量維持率≧80%)ことが判る。実施例1及び比較例1〜3における格子定数変化率(Å/mAh・g-1)とサイクル特性(100サイクル後の容量維持率%)との関係を図1に示す。
本実施例では電池の負極材料として金属リチウムを用いているが、リチウム合金またはリチウムを挿入・放出することができる化合物を用いた場合にも同様の結果を得ることができる。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを挿入・放出することができるリチウム含有金属酸化物からなる二次電池の正極活物質であって、リチウム含有金属酸化物が一般式LiMn24で示され、かつ下式(1)
[化1]
LiMn24⇔Li1-nMn24+nLi++ne- …(1)
に示される可逆反応で、0≦n≦1の範囲で充放電させる際のリチウムの挿入・放出に伴う格子定数の変化率が1mAh/g当たり1.3×10-3Å以下であり、充電端(電位4.35V対極Li)における格子定数の値が8.07Å以上、放電端(電位3.2V対極Li)における格子定数の値が8.235Å以下であることを特徴とする正極活物質。
【請求項2】
負極活物質としてリチウム、リチウムイオンを挿入・放出することができる化合物またはリチウム合金を用い、電解質にはLiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiB(C654、LiCl、LiBr、CH3SO3Li、CF3SO3Liからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有機溶媒に溶解した電解液を含む二次電池の正極活物質として用いられることを特徴とする請求項1記載の正極活物質。
【請求項3】
リチウム含有金属酸化物の初期放電容量(Li対極時)が100mAh/g以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の正極活物質。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の正極活物質をふくむ二次電池用正極。
【請求項5】
請求項4記載の正極を含む二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−204695(P2011−204695A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152857(P2011−152857)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【分割の表示】特願2007−27471(P2007−27471)の分割
【原出願日】平成10年5月25日(1998.5.25)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】