説明

歩行状態を判定する装置又は方法

【課題】躓くなどの姿勢の動揺を早期に検出し、姿勢が大きく崩れる以前に姿勢を立て直すための補助動力を発生させることが可能なように構成された歩行状態を判定する装置又は方法を提供する。
【解決手段】歩行中の姿勢が不安定になったことを検出するため、筋肉の緊張度を計測すべく人体に配置したセンサ(21)と、該センサの出力値を微分する微分手段(25)と、該微分手段の出力を予め設定した判定値と比較する比較手段(26)と、前記微分手段の出力が前記判定値を超えると使用者の姿勢が不安定になったと判定する判定手段(28)とを有するものとし、筋肉の緊張度計測センサの出力値を微分し、この微分値を予め設定した判定値と比較して不安定判断を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行中の姿勢が不安定になったことを検出するための装置あるいは歩行中の姿勢が不安定になったことを検出するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外傷や疾病、あるいは加齢による筋力低下で自力歩行が困難となった人のために、股関節や膝関節の側方にトルクアクチュエータを装着し、トルクアクチュエータが発生する回転力で下肢の運動を補助するようにした歩行補助装置が種々提案されている(特許文献1を参照されたい)。
【0003】
上記文献1に記載の従来の歩行補助装置においては、使用者の身体の各所に取り付けたジャイロセンサ、加速度センサ、及びトルクアクチュエータの回転角度の信号に基づいて身体各部の運動状態を検出し、これに足裏に加わる床反力を加味してトルクアクチュエータに発生させるトルクを制御することにより、使用者の歩行機能を補助するようにしている。
【特許文献1】特開2003−79684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、ジャイロセンサ及び加速度センサの信号に基づく姿勢制御の場合、例えば、躓いたりして転びそうになった時の転倒回避行動のための補助力は、上半身の姿勢が大きく崩れたことを検知してから出力される。そのため、転倒回避に要する動力が過大になる傾向がある。つまり、従来の制御によると、転倒回避行動に対応しようとすると、電動モータや駆動回路などの過負荷耐力を大きく設定しておかねばならず、装置が大型化しがちであった。
【0005】
また、一方で、人は転びそうになると、反射的に転倒回避行動をとろうとして踏ん張ることがあり、そのために姿勢変化が大きくならずに却ってセンサの反応が遅れ、補助トルクの発生が遅れることも考えられる。
【0006】
本発明は、このような従来技術の欠点を解消すべく案出されたものであり、その主な目的は、躓くなどの姿勢の動揺を早期に検出し、姿勢が大きく崩れる以前に姿勢を立て直すための補助動力を発生させることが可能なように構成された歩行状態を判定する装置又は方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために本発明は、歩行中の姿勢が不安定になったことを検出する歩行状態判定装置として、筋肉の緊張度を計測すべく人体に配置したセンサ(21)と、該センサの出力値を微分する微分手段(25)と、該微分手段の出力を予め設定した判定値と比較する比較手段(26)と、前記微分手段の出力が前記判定値を超えると使用者の姿勢が不安定になったと判定する判定手段(28)とを有することを特徴とする装置(請求項1)、あるいは、歩行中の姿勢が不安定になったことを検出する歩行状態判定方法として、筋肉の緊張度を計測するセンサを人体に配置し、該センサの出力値を微分し、該微分値を予め設定した判定値と比較し、前記微分値が前記判定値を超えると使用者の姿勢が不安定になったと判定することを特徴とする方法(請求項2)を提供することとした。
【発明の効果】
【0008】
人は、脊柱の周囲の筋肉で歩行中の直立姿勢を維持しようとしている。また、姿勢が不安定になると、瞬時に左右拮抗する筋肉、例えば右外腹斜筋と左外腹斜筋との緊張力を拮抗させて上体を安定させようとする。本発明は、この、人が本来備えている姿勢保持反応に着目し、上肢の特に腹部の筋肉の反応を検出することにより、姿勢が不安定になったことを検出しようとするものである。本発明によれば、例えば動揺しそうになった人が姿勢を立て直そうとして力を入れた時の筋肉の緊張度合いに応じた量として動揺の程度を検出し得るので、人間の感覚に一致した検出が可能である。また筋肉の反応を直接検出するので、姿勢が大きく変化する以前に動揺の兆候を判別することができ、加速度センサやジャイロセンサを用いる場合に比してタイムラグが少ない上、腹部などに筋電位センサなどを配するのみで検出し得るので、複雑な力学的演算が不要なことと相俟って、判定装置の小型軽量化を推進し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に添付の図面を参照して本発明について詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明が適用される外骨格型歩行補助装置の全体を示す斜視図であり、図2は、使用者への装着状態を示す側面図である。図1に示すように、歩行補助装置は、使用者の腰部に装着される腰部支持具1と、使用者の左右の上腿部に装着される上下に長い棒状をなす上腿部支持具2と、使用者の左右の下腿部に装着される上下に長い棒状をなす下腿部支持具3と、使用者が履いた靴に装着される足部支持具4とからなっている。
【0011】
腰部支持具1は、図3に示すように、比較的剛性の高い部材で上面視略U字形(コの字形)に形成された基部1aと、基部1aの前端部に結合した弾性に富む薄板材で形成された一対の開閉部1bとからなり、全体として前方中央部が開放されたC字形をなしている。また基部1aの中央部は左右方向に伸縮可能にされ、左右の開閉部1bは前後方向に摺動可能にされており、これらは、使用者の体格に応じた適正寸法に設定した上で、ねじ手段などの適宜な固定手段をもって固定されるようになっている。
【0012】
腰部支持具1の側部前端および上腿部支持具2の上端には、左右の股関節にトルクを付与するトルクアクチュエータTA1(図2)を取り付けるための左右一対の腰部アクチュエータベース5が設けられている。また上腿部支持具2の下端および下腿部支持具3の上端には、左右の膝関節にトルクを付与するトルクアクチュエータTA2(図2)を取り付けるための左右一対の膝部アクチュエータベース6が設けられている。
【0013】
上腿部支持具2の腰部アクチュエータベース5並びに膝部アクチュエータベース6との連結部は、回動軸が前後方向に延在するヒンジ7a・7bを介して屈曲自在に連結されている。また下腿部支持具3の膝部アクチュエータベース6並びに足部支持具4との連結部も、回動軸が前後方向に延在するヒンジ8a・8bを介して屈曲自在に連結されている。そして上腿部支持具2及び下腿部支持具3は、上下に伸縮可能にされると共に、使用者の体格に応じた適正寸法に設定した上で、ねじ手段などの適宜な固定手段をもってその長さが固定されるようになっている。
【0014】
各アクチュエータベース5・6に個々に取り付けられるトルクアクチュエータTA1・TA2は、クラッチ及び減速機付き電動モータからなり、腰部支持具1並びに上腿部支持具2の下端のそれぞれにモータハウジングが固定され、上腿部支持具2並びに下腿部支持具3の各上端のそれぞれにロータが固定される。これにより、股関節並びに膝関節の運動に対応した補助的なトルクが、腰部支持具1の側部前端と上腿部支持具2の上端との連結部および上腿部支持具2の下端と下腿部支持具3の上端との連結部に与えられる。なお、両トルクアクチュエータTA1・TA2は、それぞれ対応する各アクチュエータベース5・6に対して反復着脱可能なねじ手段などを介して取り付けられており、保守・整備の簡略化が図られている。
【0015】
上腿部支持具2の上下方向中間位置には、一対の弾性C字形部材を適宜な上下間隔をおいて連結してなる上腿部結合クリップ9が、所定範囲を上下に摺動可能に結合している。また下腿部支持具3の上下方向中間位置にも、一対の弾性C字形部材を適宜な上下間隔をおいて連結してなる下腿部結合クリップ10(図2を参照されたい、図1においては図示省略した)が、所定範囲を上下に摺動可能に結合している。
【0016】
下腿部支持具3と足部支持具4との連結部11は、左右方向に延在する軸上で回動可能になっており、足首の運動に追従可能になっている。
【0017】
腰部支持具1の中央部には、図示されない上肢との結合部が設けられる背当て板12が取り付けられている。なお、制御回路やバッテリーは、背当て板12に取り付けられる。
【0018】
さて、人は、通常脊柱の周囲の筋肉を緊張させて直立姿勢を維持しようとしている。そして直立姿勢が不安定になりそうなときは、瞬時に左右の外腹斜筋の緊張力を拮抗させて上体を安定させようとすることが知られている。この、人が本来備えている姿勢保持反応に着目し、腹部周囲の筋肉の緊張状態を観察し、その反応を検出することにより、不安定状態となった(動揺した)ことを早期に検出することができる。
【0019】
筋肉の緊張状態(動揺の程度)の観察手段としては、皮膚の表面に電極を張り付けることによって筋肉の活動電位を検出する表面誘導法が知られている。具体的に言うと、直径約10mmの複数の表面電極を、外腹斜筋の筋繊維に沿って電極間の距離を15mmとして体表面に貼り付け、外腹斜筋の活動電位を検出する。ここで表面電極の数は、適宜に決定される。
【0020】
上記のような筋電センサ21が捉えた筋電信号を信号入力回路22に入力したならば、これを整流回路23で全波整流し、平滑化回路24にて移動平均をとるなどして平滑化する。そして平滑化した値を微分回路25に入力して微分し、この微分値を比較回路26に入力して所定の閾値27と比較する。その結果、閾値よりも大きければ、躓き兆候大との判定を判定回路28が下し、例えばトルクアクチュエータTA1・TA2の出力を通常よりも高める制御を行い、次の一歩を踏み出す速度を高めたり、あるいは歩幅を大きくしたりする。
【0021】
本発明は、筋電位の微分値、つまり単位時間当たりの変化量で判定するので、急峻に変化する場合にのみ反応し、電位のピーク値が大きくても、ゆっくりと変化する場合には反応しない。つまり、変化量自体が大きくても、通常制御でリカバリーできるような変化速度の場合には応答しない。また変化量の絶対値で判定するのではないので、センサ出力がオフセットするなどしても誤検知しない、という副次的なメリットもある。
【0022】
筋肉の収縮反応を検出する方法としては、上述の筋電位計測法の他に、圧電センサを用いて筋肉の硬さを計測する方法も知られているが、これら各種の筋肉の緊張度の計測法を単独で、あるいは適宜に組み合わせて用いることができる。また本発明は、上記した外骨格型の歩行補助装置に限らず、形状記憶合金アクチュエータ及び空気圧アクチュエータを用いたサポータ型歩行補助装置(必要ならば、特開2002−48053号公報を参照されたい)にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明が適用された歩行補助装置の装着具の全体斜視図である。
【図2】歩行補助装置の装着状態を示す側面図である。
【図3】腰部支持具の上面図である。
【図4】筋肉の緊張度判断のフローに係わる説明図である。
【符号の説明】
【0024】
21 筋電センサ
22 信号入力回路
25 微分回路
26 比較回路
28 判定回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行中の姿勢が不安定になったことを検出する歩行状態判定装置であって、
筋肉の緊張度を計測すべく人体に配置したセンサと、
該センサの出力値を微分する微分手段と、
該微分手段の出力を予め設定した判定値と比較する比較手段と、
前記微分手段の出力が前記判定値を超えると使用者の姿勢が不安定になったと判定する判定手段とを有することを特徴とする歩行状態判定装置。
【請求項2】
歩行中の姿勢が不安定になったことを検出する歩行状態判定方法であって、
筋肉の緊張度を計測するセンサを人体に配置し、
該センサの出力値を微分し、
該微分値を予め設定した判定値と比較し、
前記微分値が前記判定値を超えると使用者の姿勢が不安定になったと判定することを特徴とする歩行状態判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−20697(P2006−20697A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199276(P2004−199276)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】