説明

歪ゲージ付き可撓性配線基板

【課題】測定対象物に埋め込み測定対象物の内部の変位を検出する場合に、深さ方向に、より多くの歪ゲージを配置し深さ方向の分解能を向上することである。
【解決手段】歪ゲージ付き可撓性配線基板10は、長手方向に延びる可撓性配線基板30の表面と裏面の対応する位置に、歪ゲージ20がそれぞれ対をなして複数対配置される。可撓性配線基板30は、積層構造を有し、中心側から外側に向かって、金属薄板32、保護層34、プラスチックフィルム36、パターン化された導電配線38が配置される。導電配線38は、全歪ゲージ20の全端子数と同じ数の配線がそれぞれ分離して設けられる。導電配線38の上に、歪ゲージ20が絶縁性フィルムの面を向けて配置される。歪ゲージ20の端子24と、対応する導電配線38とはリード線42で接続される。最も外側には保護膜40が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歪ゲージ付き可撓性配線基板に係り、特に長手方向に沿って延びる可撓性絶縁基板上に複数の歪ゲージが配置される歪ゲージ付き可撓性配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の変位分布を測定する方法としては様々なものが知られているが、測定対象物の内部における変位分布を測定しようとすると、センサを測定対象物に埋め込むことが必要になり、場合によっては測定が困難なことがある。
【0003】
例えば、大地の地形変化を知るために、大地の土壌の中に細長いセンサを埋め込み、大地の深さ方向についての変位を測定する場合がある。山の土、あるいは斜面の土は、長期間に渡って観察するとかなりの移動を示すことが知られており、例えば一般的な山の土は年間に約1mmから2mm程度移動することがある。このように大地の移動は地形変化につながり、また、地滑り、山崩れ等の災害予知にとっても重要である。
【0004】
このような大地の土壌内の緩慢な変位を測定する古典的な方法の1つとしてパイプ埋設法が知られている。この方法は、塑性変形が可能な材料からなるパイプをセンサとして用いるもので、このパイプを大地の地表に垂直に埋め込み、これを数年間放置した後に掘り出し、パイプの塑性変形量を測定することで、大地の土壌内の変位分布等を求めることができる。
【0005】
しかし、パイプ埋設法は、埋め込んだ状態での変位測定が不可能で、測定のためには、測定対象である大地を破壊してしまうことになる。センサを埋め込んだままで測定対象物である大地の土壌の変位の測定を可能にするものとして、非特許文献1において1957年にウイリアムスによって発表されたストレインプローブ法が知られている。このストレインプローブ法によれば、厚さ0.1cmの細長いバネ鋼に数個のストレインゲージを貼り付け、各ストレインゲージから信号線であるコードをバネ鋼の上端部まで延ばし、地表においてストレインゲージ2枚法と呼ばれるブリッジ回路を組んで、各対における歪量を求めることができる。
【0006】
しかしながら、ストレインゲージは周知のように、平面寸法が数mmの大きさで、きわめて敏感なセンサであるので、これを土壌中に埋め込むと、土壌中の不均一な硬さの影響をそのまま歪として検出してしまうことがある。例えば、土壌中に礫等が混在していると、礫の形状に依存してストレインゲージが変形し、歪として誤検出する。
【0007】
非特許文献2には、ウイリアムスが発表したストレインプローブ法を発展させ、平面寸法が約30mmの大型ストレインゲージを4個用いて一組のブリッジ回路を構成することで、約100mmの範囲内の土壌組成の不均一性を平均化することができることを開示している。ここでは、厚さ0.4mmで幅13mm、長さ500mmのバネ鋼の表裏に10対のストレインゲージが取り付けられている。この方法によれば、土壌中の礫等の影響を受けることを抑制することができ、これにより、年間で数mm程度の大地の土壌の移動をかなり正確に検出できることが可能になる。
【0008】
なお、本願に関連する技術として、特許文献1には、歪ゲージを湾曲機構の周辺に有する電動湾曲式内視鏡において、組立中または湾曲動作中等にリード線が断線し、あるいは短絡することがないように、歪ゲージとリード線とを導通するフレキシブル基板等の中継配線部を歪ゲージ上に設けることが開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開2002−95630号公報
【非特許文献1】ウイリアムス・ピー・ジェイ(Williams, P.J ),「土壌部分の移動の直接記録(The direct recording of soilfluction movements)」,米国科学ジャーナル(American Journal of Science),255,1957年,p.705−715
【非特許文献2】山田周二,倉茂好匡,「土壌匍行観測のためのひずみプローブ法の改良(Improvement of strain probe method for soil creep measurement)」,「地形」(Transactions Japanese Geomorphological Union),日本地形学連合,1996,17−1,p.29−38
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1に記載される方法によれば、ストレインゲージ、すなわち歪ゲージを貼り付けたバネ鋼をセンサとして用い、このセンサを土壌に埋め込んだままで、深さ方向について約100mmの領域単位の大地の土壌の変位を検出することができる。ここで、歪ゲージの数を増やし、配置ピッチをこまかくすることで、さらに深さ方向の分解能を上げることが可能なように思える。しかし、歪ゲージの数を増やすと、歪ゲージから引き出される信号線ワイヤの数が増加し、その信号線ワイヤの剛性が土壌の変位を受け止めるセンサであるバネ鋼の弾性変形に影響を及ぼし、かえって測定精度が低下する。歪ゲージからワイヤ等の金属導線を引き出す方法では、細い金属導線を用いるものとしても、細長いバネ鋼の弾性との競合で、金属導線の数はせいぜい40本程度が上限であることが経験上分かってきている。
【0011】
したがって、金属導線を地中の歪ゲージから地表に引き出す方法では、歪ゲージの数がせいぜい20個で、2個の歪ゲージを1対として歪を求めるものとしても、10対がせいぜいである。このことから、例えば、深さ方向で50cm程度の範囲の土壌の変位を検出するものとしたとき、深さ方向の分解能は約50mmとなる。
【0012】
一方で、斜面崩壊に代表されるような土壌の移動は、土壌内のある面内でせん断破壊が生じることで発生し、また、この面内せん断破壊は、深さ方向で数10mmの領域で生じることが知られている。したがって、このような面内せん断破壊を検出するには、深さ方向の分解能をさらに向上させることが必要になる。
【0013】
このように、従来技術の歪ゲージをバネ鋼に貼り付けて地中に埋め込む方法では、大地の土壌の移動について、深さ方向の分解能が不十分である。
【0014】
本発明の目的は、測定対象物に埋め込んで測定対象物の内部の変位を検出する場合に、深さ方向の分解能を向上することを可能とする歪ゲージ付き可撓性配線基板を提供することである。他の目的は、測定対象物に埋め込んで測定対象物の内部の変位を検出する場合に、深さ方向に、より多くの歪ゲージを配置することを可能とする歪ゲージ付き可撓性配線基板を提供することである。また、さらに他の目的は、大地の土壌に埋め込んで土壌の移動を検出する場合に、礫等の影響を抑制しつつ、深さ方向の分解能を向上することを可能とする歪ゲージ付き可撓性配線基板を提供することである。以下の手段は、これらの目的の少なくとも1つに貢献する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る歪ゲージ付き可撓性配線基板は、長手方向に沿って延びる可撓性絶縁基板と、可撓性絶縁基板の長手方向に沿って、表面及び裏面の対応する位置にそれぞれ対をなして配置される複数対の歪ゲージと、可撓性絶縁基板の両面にそれぞれ形成される導電配線であって、歪ゲージからの引出線が配線の一方端に接続され、配線の他方端は可撓性絶縁基板の長手方向の他方端に配置され、歪ゲージからの引出線の総数に対応する数の導電配線と、を有することを特徴とする。
【0016】
また、可撓性絶縁基板は、金属板を心材として有することが好ましい。
【0017】
また、可撓性絶縁基板は、長手方向の一方端に、歪測定対象物に埋め込まれるアンカー部材が接続されることが好ましい。
【0018】
また、各歪ゲージは、歪を平均化して測定できる平均化領域の大きさが可撓性絶縁基板の長手方向に沿った長さLで10mm以上50mm以下である形状を有することが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る歪ゲージ付き可撓性配線基板において、隣接する歪ゲージの可撓性絶縁基板の長手方向に沿った配置ピッチPが、平均化領域の長さLよりも短いことが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る歪ゲージ付き可撓性配線基板は、大地の土壌中に埋め込まれ、埋め込み方向に沿った大地の変位を検出する歪ゲージ付き可撓性配線基板であって、埋め込み方向に対応する長手方向に沿って延び、歪測定対象物に埋め込まれるアンカー部材が一方端に接続される可撓性絶縁基板と、可撓性絶縁基板の長手方向に沿って、表面及び裏面の対応する位置にそれぞれ対をなして配置される複数対の歪ゲージと、可撓性絶縁基板の両面にそれぞれ形成される導電配線であって、歪ゲージからの引出線が配線の一方端に接続され、配線の他方端は可撓性絶縁基板の長手方向の他方端に配置され、歪ゲージからの引出線の総数に対応する数の導電配線と、を有し、各歪ゲージは、歪を平均化して測定できる平均化領域の大きさが可撓性絶縁基板の長手方向に沿った長さLで10mm以上50mm以下である形状を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
上記構成の少なくとも1つにより、長手方向に沿って延びる可撓性絶縁基板上に導電配線が設けられ、表裏で対を成す歪ゲージが長手方向に沿って複数対配置され、各歪ゲージからの引出線は導電配線によって、可撓性絶縁基板の長手方向の一方端に集められる。このように、各歪ゲージからの信号は可撓性絶縁基板状の導電配線によって引き出されるので、従来技術のワイヤ等の金属導線によって各歪ゲージからの信号を取り出すことに比較し、測定精度に与える信号線自体の剛性の影響を大幅に低減できる。これにより、歪ゲージの数を、従来技術に比較してより多く配置することができる。
【0022】
また、可撓性絶縁基板は、金属板を心材として有するので、測定対象物の弾性あるいは粘弾性等の特性に合わせて金属板の材質、厚み等を選択して可撓性絶縁基板の弾性を設定でき、測定対象物の変位測定の精度を向上させることができる。
【0023】
また、可撓性絶縁基板は、長手方向の一方端に、歪測定対象物に埋め込まれるアンカー部材が接続されるので、たとえば、土壌等のように流動性がある歪測定対象物に対しても、アンカーの固定性を利用して、測定箇所が変動しないようにできる。
【0024】
また、各歪ゲージは、歪の平均化領域の大きさが可撓性絶縁基板の長手方向に沿った長さLで10mm以上50mm以下であるので、歪ゲージの検出敏感性を適当に緩和して、対象物の変位を測定できる。
【0025】
また、隣接する歪ゲージの可撓性絶縁基板の長手方向に沿った配置ピッチPを、平均化領域の長さLよりも短くするので、長手方向に沿った測定分解能を高めることができる。
【0026】
また、上記構成の少なくとも1つにより、大地の土壌中に埋め込んで大地の変位を検出する場合において、長手方向に沿って延びる可撓性絶縁基板上に導電配線が設けられ、表裏で対を成す歪ゲージが長手方向に沿って複数対配置され、各歪ゲージからの引出線は導電配線によって、可撓性絶縁基板の長手方向の一方端に集められる。このように、各歪ゲージからの信号は可撓性絶縁基板状の導電配線によって引き出されるので、土壌の変位測定において、従来技術のワイヤ等の金属導線によって各歪ゲージからの信号を取り出すことに比較し、測定精度に与える信号線自体の剛性の影響を大幅に低減できる。これにより、歪ゲージの数を、従来技術に比較してより多く配置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、変位の検出の対象物として、大地の土壌について説明するが、土壌には、粘土性のもの、砂土性のもの、礫を含むもの、泥土性のもの等、粘弾性の様々な範囲のものを含むことができる。また、大地についても、山地、平地、斜面等の様々な傾斜地形を含むことができる。また、変位の検出の対象物としては、大地の土壌以外に、緩慢な流動性を有する物体であってもよい。例えば、粘度の高い物質等の貯留槽において、その物質を測定対象物として、その物質の緩慢な変位を検出するものであってもよい。また、生体組織も粘弾性を有するので、生体組織を測定対象物として、生体組織に挿入して、長期的に渡る生体組織の変位を検出するものであってもよい。
【0028】
図1は、大地の土壌の緩慢な変位を検出するために歪ゲージ付き可撓性配線基板を用いる様子を示す図である。図1においては、大地の斜面となっている土壌8の中に、一方端16がアンカー14に接続された細長い歪ゲージ付き可撓性配線基板10が地表6に対しほぼ垂直に埋め込まれている様子が示されている。アンカー14は、適当な質量を有する重りで、可撓性配線基板10を土壌8の中に固定するためのものである。可撓性配線基板10の他方端18には歪ゲージからの信号を伝送するための測定用リード線12が接続されて、これらの測定用リード線12は、地表に設置された測定ボックス50に接続される。
【0029】
測定ボックス50には、歪ゲージ付き可撓性配線基板10に配置される複数の歪ゲージからの信号を受け取り、例えば予め値の分かっている標準抵抗等と組み合わせてブリッジ回路を組み、精密に歪量を検出する歪量検出回路、検出された歪量等のデータを時系列に順次記憶するデータロガ部、必要があればデータセンタにデータ等を送信するデータ送信部等が備えられる。測定ボックス50に必要な電源としては、電灯線等から取ることもでき、そのような施設のない箇所では、電池、あるいは太陽電池等を用いることができる。
【0030】
図1には、大地の土壌8が流動し、それによって、最初は破線で示されているように、地表6に対しほぼ垂直に埋め込まれたまっすぐの歪ゲージ付き可撓性配線基板10が、土壌の流動に応じてΔSだけ変位している様子が示されている。一般的には、山地の土等は、図1に示されるように、表層部が年間に数mm程度移動することがあり、その場合に、大地の内部の土壌の変位分布を見ると、場合によっては図1のように深さ方向に変位量が異なっていることがある。
【0031】
ここで、アンカー14は、表層部の移動に対して、歪ゲージ付き可撓性配線基板10が流されないように、土壌8の深いところに埋め込まれ、歪ゲージ付き可撓性配線基板10による土壌8の変位測定に対し基準点として機能する。歪ゲージ付き可撓性配線基板10は細長い平板状の形状であるのに対し、アンカー14は適当な体積を有する重りである。したがって、アンカー14が接続された歪ゲージ付き可撓性配線基板10を土壌8中に埋めるには、適当な深さと穴径を有する穴を掘り、アンカー14を穴の底に固定し、歪ゲージ付き可撓性配線基板10をまっすぐ地表6に向けて伸ばし、その状態で、土壌8を穴の中に埋め戻す。埋めた直後は、歪ゲージ付き可撓性配線基板10と土壌8との間には隙間があることがあるが、土壌8はそれを構成する土の質量によって土圧を生じ、その土圧によって、例えば数ヶ月の後に、歪ゲージ付き可撓性配線基板10は土壌8と一体化する。その状態が、図1の破線の状態である。
【0032】
歪ゲージ付き可撓性配線基板10の詳細な構成について、図2、図3を用いて説明する。図2は、歪ゲージ付き可撓性配線基板10の全体構成を示す図、図3は図2におけるA部の拡大図で、図3(a)は平面図、(b)は側面断面図である。歪ゲージ付き可撓性配線基板10は、長手方向に延びる可撓性配線基板30上に、複数の歪ゲージ20が配置されたものである。
【0033】
複数の歪ゲージ20は、可撓性配線基板30の長手方向に沿って配置され、また、可撓性配線基板30の表面と裏面の対応する位置にそれぞれ対をなして配置される。その対の数は、ワイヤ等で歪ゲージから信号線を取り出している従来技術の限度と経験的に言われている10対を超える数である。図1、図2の例では、可撓性配線基板30の長手方向に沿って、表面と裏面とにそれぞれ11個の歪ゲージ20が配置されている。表面と裏面の配置は、表裏を逆にしても同じ位置となるように行われる。換言すれば、表面の歪ゲージ20とこれに対応する裏面の歪ゲージ20とは、大地の土壌8のほぼ同じ位置の変位を測定していることになる。
【0034】
歪ゲージ20は、絶縁性フィルムの上に薄膜抵抗22を配置し、その両端に端子24を設けたものである。歪ゲージ20の絶縁性フィルムの裏面には粘着材が配置されており、これにより可撓性配線基板30の上にしっかりと固定して取り付けることができる。可撓性配線基板30が伸縮すると、その伸縮量に応じて薄膜抵抗22の抵抗値が変化するので、端子24の間の抵抗値の変化を測定することで可撓性配線基板30の伸縮量を検出することができる。
【0035】
歪ゲージ20の大きさは、歪を検出する領域を規定する。そして、歪ゲージ20は、通常1つの薄膜抵抗を有するので、その抵抗変化は、その領域における歪の平均値を示すことになる。したがって、歪ゲージ20の平面寸法が大きいほど、広い領域の歪を平均化し、歪ゲージ20の敏感な検出性を緩和できる。特に、土壌に礫等の硬い物が存在すると、その硬い物に接触するのみで、抵抗値が変化し、土壌の変位として誤検出することがあるので、礫等の不均一物のノイズを除去するために、ある程度の大きさが歪ゲージ20に必要である。一方で、歪ゲージ20の大きさをあまり大きくすると、変位の分布の分解能が低下する。
【0036】
例えば、図3(a)に示すように、歪を平均化して測定できる平均化領域の大きさとして、可撓性配線基板30の長手方向に沿った歪ゲージ20の長さLで代表させるとして、可撓性配線基板30の長手方向に沿った変位の分布の分解能は、隣接する歪ゲージ20の配置ピッチPで規定される。図3(a)のように、長手方向に1列に歪ゲージ20を配置するときは、PはLより大きく、したがって、歪を平均化する領域を示すLを広く取ると、変位の分布の分解能を示す配置ピッチPも大きくなり、分解能が低下する。
【0037】
土壌中の礫等の不均一性を考慮すると、Lは数mm程度でもよいが、10mm以上が好ましく、30mm程度がよい。そこで、可撓性配線基板30の長手方向に沿った歪ゲージ20の長さLは、10mm以上50mm以下とすることがよい。
【0038】
可撓性配線基板30は、図3(b)に示すように積層構造を有する複合基板である。中心には、金属薄板32があり、金属薄板32の両面に保護層34が設けられる。表側及び裏側の保護層34の上には、それぞれプラスチックフィルム36が配置され、プラスチックフィルム36の上には、パターン化された導電配線38が配置される。導電配線38は、歪ゲージ20の数の2倍、すなわち、全部の歪ゲージ20の全端子数と同じ数の配線がそれぞれ分離して設けられる。この導電配線38の上に、歪ゲージ20が絶縁性フィルムの面を向けて粘着材で固定されて配置される。歪ゲージ20の端子24と、対応する導電配線38とは適当なリード線42で接続される。歪ゲージ20、リード線42、導電配線38を保護するため、最も外側に保護膜40が設けられる。
【0039】
金属薄板32は、可撓性配線基板30の弾性特性を測定対象の土壌の弾性特性に合わせるために用いられるものである。例えば、硬い土質の場合には、その土質の変位を測定するには、その土質の硬さとほぼ同じ硬さの可撓性配線基板30であることが好ましい。一方で、軟らかい土質の場合には、その土質の軟らかさとほぼ同じ軟らかさの可撓性配線基板30であることが好ましい。プラスチックフィルム36自体も適当な弾性特性を有するので、土質によっては、金属薄板32を省略することができる。一般的には、バネ鋼を用い、測定対象の土質に合わせて、その板厚を設定することが好ましい。
【0040】
金属薄板32の両面に設けられる保護層34は、金属薄板32とプラスチックフィルム36とを接着するための接着層でもある。この保護層34の材質は、接着性能を有し、金属薄板32とプラスチックフィルム36との間の腐食等を避けるために適した材料が好ましい。かかる保護層34の材料としては、シリコーン変形ポリマーを用いることができる。例えば、セメダイン社のスーパーX2クリア(商品名)を用いることができる。場合によっては保護層34を省略することもできる。
【0041】
プラスチックフィルム36は、裏面側で金属薄板32に固定され、表面側には導電配線38がパターン化して設けられるものである。導電配線38がパターン化して設けられるプラスチックフィルム36としては、いわゆるフレキシブルプリント基板を用いることができる。フレキシブルプリント基板は、例えば、ポリイミドフィルムに銅箔等の導電層を圧着等で積層し、エッチング技術によって導電層を任意の配線パターンとするものである。フレキシブルプリント基板は、その厚さが薄いものでは1mm以下のものが可能で、その場合の剛性は、金属薄板32に比べ格段に小さくできる。もちろん、厚さを適当に厚くすることで、適当な剛性を持たせ、金属薄板32を省略できる場合があることは上述の通りである。
【0042】
このように、金属薄板32、保護層34、プラスチックフィルム36を積層したものは、長手方向において撓むことができ、その意味で絶縁性可撓性基板と呼ぶことができる。なお、金属薄板32、保護層34を省略できるときは、導電配線38がパターン化して設けられるプラスチックフィルム36として、両面に導電層を有する両面型フレキシブルプリント基板を用いることができる。プラスチックフィルム36の外形の大きさは、可撓性配線基板30の外形の大きさを規定する。金属薄板32の外形は、プラスチックフィルム36の外形と同じか、やや小さめとされ、導電配線38は、プラスチックフィルム36の表面に形成されるので、プラスチックフィルム36の外形の大きさは、可撓性配線基板30の外形の大きさを規定する。図2、図3の例では、可撓性配線基板30の長手方向に沿った歪ゲージ20の長さLを約30mmとし、歪ゲージ20を11対配置すると、可撓性配線基板30の長手方向の全長は、約400mmから約500mmとなる。
【0043】
導電配線38は、プラスチックフィルム36上に設けられる導電性のパターンである。図3(a)の例では、可撓性配線基板30の表側のプラスチックフィルム36の長手方向に沿って、平行に22本の導電配線パターンが配置される。可撓性配線基板30の裏側のプラスチックフィルム36上にも同様に、22本の導電配線パターンが配置される。これら22本の導電配線パターンは、11個の歪ゲージ20のそれぞれについての2つの端子24に対応するものである。図3(a)の例では、紙面に向かって、左側から1番目と2番目の導電配線パターンは、可撓性配線基板30の地表側から数えて1番目の歪ゲージ20の2つの端子24に対応し、左側から3番目と4番目の導電配線パターンは、可撓性配線基板30の地表側から数えて2番目の歪ゲージ20の2つの端子24に対応し、以下同様である。また、紙面に向かって、右側から1番目と2番目の導電配線パターンは、可撓性配線基板30の地表側から数えて一番底部である11番目の歪ゲージ20の端子24に対応し、左側から3番目と4番目の導電配線パターンは、可撓性配線基板30の地表側から数えて10番目の歪ゲージ20の2つの端子24に対応し、以下同様である。
【0044】
図3(a)は、図2から分かるように、可撓性配線基板30の地表側から数えて4番目、5番目、6番目の歪ゲージ20が拡大して示されている。したがって、5番目の歪ゲージ20の一方側の端子24は、紙面に向かって、左側から数えて9番目の導電配線パターンに適当なリード線42によって接続されており、同様に他方側の端子24は、紙面に向かって、左側から数えて10番目の導電配線パターンに適当なリード線42によって接続されている。
【0045】
保護膜40は、上記のように、歪ゲージ20、導電配線38、リード線42を土壌8から保護する機能を有する。例えば、土壌中の水分等からこれらを保護する。また、土壌中の礫等の硬い物による損傷から歪ゲージ20等を保護する。かかる保護膜としては、耐湿性のよい樹脂層と、適当な硬さの樹脂層の組合せを用いることができる。例えば、下層にエポキシ樹脂層を用い、表面の上層にシリコーンゴム等を用いることができる。この他に、導電配線38の接続部分のみをシリコーン樹脂で保護し、全体をエチレン-酢酸ビニルでコーティングしてもよい。また、必要があれば、適当な防食テープ等を巻くことができる。防食テープとしては、積水化学社のエスロン(商品名)等を用いることができる。このような構成とすることで、耐湿性を確保しながら、歪測定に適した土壌となじみのよい埋め込み状態とすることができる。
【0046】
このように、歪ゲージ20の絶縁性フィルムを導電配線38の上に配置することで、導電配線38のパターンは、単純な22本の直線状とすることができる。可撓性配線基板30の地表側の端部においては、表側に22本、裏側に22本の合計44本の導電配線38の端部が集められる。この44本の端部には、測定用リード線12が接続され、測定ボックス50に導かれる。もちろん、測定用リード線12の代わりに、可撓性配線基板30が地表6に出た後もそのまま延長して、可撓性配線基板30の44本の導電配線38の端部をそのまま測定ボックス50に導くものとしてもよい。
【0047】
図1に再び戻り、測定ボックス50には、可撓性配線基板30に配置された各歪ゲージ20の各端子24が導電配線38と測定用リード線12を介して延長されて導かれる。換言すれば、各歪ゲージ20の各端子24に相当する測定端子が測定ボックス50に集められることになる。測定ボックス50は、これら導かれた各測定端子を用いて、各歪ゲージ20における変位を求める回路が設けられる。
【0048】
歪ゲージ20の各端子24を用いて、その歪ゲージ20の位置における、可撓性配線基板30の変位、すなわち、その位置に対応する土壌8の変位を求めるには、上記のウイリアムスが用いた周知のストレインゲージ2枚法、または、非特許文献2に開示されている周知のストレインゲージ4枚法を用いることができる。
【0049】
ストレインゲージ2枚法を用いるときは、図3で説明したように、可撓性配線基板30の表面及び裏面の対応した位置に配置される1対の歪ゲージ20を用いて、ストレインゲージ2枚法の原理にしたがったブリッジ回路を組むことで、その位置における歪を算出できる。この場合は、図3(a)に関連して説明したように、長さLで平均化された歪を、深さ方向にピッチPの分解能で得ることができる。そして、当初に歪ゲージ付き可撓性配線基板10を大地の土壌8に埋め込んだときの歪分布と比較することで、現在の測定時点との間の土壌8の変位を求めることができる。
【0050】
ストレインゲージ4枚法を用いるときは、可撓性配線基板30の長手方向に沿った2対の歪ゲージ20を用いる。そして、合計4個の歪ゲージ20について、ストレインゲージ4枚法の原理にしたがったホイトストンブリッジ回路を組むことで、その位置における歪を算出できる。この場合は、図3(a)の寸法関係を用いて説明すると、長さ(P+L)で平均化された歪を、深さ方向にピッチ2Pの分解能で得ることができる。そして、当初に歪ゲージ付き可撓性配線基板10を大地の土壌8に埋め込んだときの歪分布と比較することで、現在の測定時点との間の土壌8の変位を求めることができる。
【0051】
なお、ストレインゲージ2枚法、ストレインゲージ4枚法のいずれを用いるにしても、土壌8の変位は、歪ゲージ付き可撓性配線基板10の平坦面に垂直な方向の変位が検出される。歪ゲージ付き可撓性配線基板10の平坦面に平行な方向の変位は検出されない。土壌8の変位について、地表6の平面に対し2次元的に検出するには、2組の歪ゲージ付き可撓性配線基板10の平坦面の方向を互いに直交するようにして、近接した場所に埋め込む。これによって、土壌8の変位の3次元的分布を検出することができる。
【0052】
測定ボックス50は、このように、ブリッジ回路を組む構成として、各歪ゲージ20の位置における歪を求めるものとでき、例えば、定時観測時期を定め、その時期に、土壌8の変位を求めるものとすることができる。その他に、例えば、データ蓄積装置を備え、自動的に所定の時間間隔で、各歪ゲージ20の位置における歪を求め、さらに土壌8の変位を求めて記憶し、随時読み出す構成とすることもできる。また、送信装置を設け、取得した歪データ等を、中央データ管理装置に逐時送信する構成とすることもできる。
【0053】
図4は、歪ゲージ20と導電配線38との接続方法の他の例を示す図である。なお、図1から図3と同様の要素には同一の符号を付し詳細な説明を省略する。この例では、歪ゲージ20の表面、つまり薄膜抵抗22と端子24が配置される面が、プラスチックフィルム36の表面に向かい合うようにして配置される。したがって、導電配線38は、薄膜抵抗22と端子24との短絡を防止するため、歪ゲージ20の配置領域を通らないように配置される。そして、導電配線38の一方端は、対応する歪ゲージ20の対応する端子24の真下に来るように延ばされ、そこで終端する。その終端部と、歪ゲージ20の対応する端子24との間は、適当な導電性材料によって電気的に結合される。例えば、導電ペーストあるいは異方性導電フィルム等を用いることができる。図4の接続方法によれば、可撓性配線基板30の長手方向に沿って、歪ゲージ20を隙間なく配置することができ、長手方向に沿った分解能を高めることができる。図3(a)で説明したLとPを用いて説明すると、Pを限りなくLに近づけることができる。
【0054】
図5は、可撓性配線基板30の長手方向に沿った分解能をさらに高めることができる歪ゲージ20の配置方法を示す図である。なお、図1から図3と同様の要素には同一の符号を付し詳細な説明を省略する。また、導電配線の図示を省略している。ここでは、歪ゲージ20を、可撓性配線基板30の長手方向に沿って2列に配置し、隣り合う列の歪ゲージ20の配置位置をずらして、いわゆる千鳥配置としたものである。このようにすることで、歪ゲージ20の平均化領域を示す長さLに比べ、長手方向に沿った分解能を示すピッチPを大幅に小さくすることができる。この配置方法によれば、歪の平均化領域を適度の大きさに確保しながら、長手方向の分解能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る実施の形態における歪ゲージ付き可撓性配線基板を大地の土壌の緩慢な変位を検出するために用いる様子を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態における歪ゲージ付き可撓性配線基板の全体構成を示す図である。
【図3】図2におけるA部の拡大図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、歪ゲージと導電配線との接続方法の他の例を示す図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、歪ゲージの他の配置方法を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
6 地表、8 土壌、10 歪ゲージ付き可撓性配線基板、12 測定用リード線、14 アンカー、16 一方端、18 他方端、20 歪ゲージ、22 薄膜抵抗、24 端子、30 可撓性配線基板、32 金属薄板、34 保護層、36 プラスチックフィルム、38 導電配線、40 保護膜、42 リード線、50 測定ボックス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って延びる可撓性絶縁基板と、
可撓性絶縁基板の長手方向に沿って、表面及び裏面の対応する位置にそれぞれ対をなして配置される複数対の歪ゲージと、
可撓性絶縁基板の両面にそれぞれ形成される導電配線であって、歪ゲージからの引出線が配線の一方端に接続され、配線の他方端は可撓性絶縁基板の長手方向の他方端に配置され、歪ゲージからの引出線の総数に対応する数の導電配線と、
を有することを特徴とする歪ゲージ付き可撓性配線基板。
【請求項2】
請求項1に記載の歪ゲージ付き可撓性配線基板において、
可撓性絶縁基板は、金属板を心材として有することを特徴とする歪ゲージ付き可撓性配線基板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の歪ゲージ付き可撓性配線基板において、
可撓性絶縁基板は、長手方向の一方端に、歪測定対象物に埋め込まれるアンカー部材が接続されることを特徴とする歪ゲージ付き可撓性配線基板。
【請求項4】
請求項3に記載の歪ゲージ付き可撓性配線基板において、
各歪ゲージは、歪を平均化して測定できる平均化領域の大きさが可撓性絶縁基板の長手方向に沿った長さLで10mm以上50mm以下である形状を有することを特徴とする歪ゲージ付き可撓性配線基板。
【請求項5】
請求項4に記載の歪ゲージ付き可撓性配線基板において、
隣接する歪ゲージの可撓性絶縁基板の長手方向に沿った配置ピッチPが、平均化領域の長さLよりも短いことを特徴とする歪ゲージ付き可撓性配線基板。
【請求項6】
大地の土壌中に埋め込まれ、埋め込み方向に沿った大地の変位を検出する歪ゲージ付き可撓性配線基板であって、
埋め込み方向に対応する長手方向に沿って延び、歪測定対象物に埋め込まれるアンカー部材が一方端に接続される可撓性絶縁基板と、
可撓性絶縁基板の長手方向に沿って、表面及び裏面の対応する位置にそれぞれ対をなして配置される複数対の歪ゲージと、
可撓性絶縁基板の両面にそれぞれ形成される導電配線であって、歪ゲージからの引出線が配線の一方端に接続され、配線の他方端は可撓性絶縁基板の長手方向の他方端に配置され、歪ゲージからの引出線の総数に対応する数の導電配線と、
を有し、
各歪ゲージは、歪を平均化して測定できる平均化領域の大きさが可撓性絶縁基板の長手方向に沿った長さLで10mm以上50mm以下である形状を有することを特徴とする歪ゲージ付き可撓性配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−157830(P2008−157830A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348793(P2006−348793)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(506158197)公立大学法人 滋賀県立大学 (29)
【Fターム(参考)】