説明

歯付きベルト

【課題】歯付きベルトの耐久性を向上させる。
【解決手段】歯付きベルト10は、歯ゴム層12と接着ゴム層22と背ゴム層16を有する。接着ゴム層22中に、ベルト長手方向に延びる心線18を埋設する。接着ゴム層22の原料ゴムはゴム成分として水素添加ニトリルゴムを用い、シリカ及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩、及びアラミド短繊維が配合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用エンジンの内燃機関等に使用される歯付きベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車エンジン等の内燃機関は小型化されつつあり、内燃機関において動力を伝達するための歯付きベルトも細幅化されつつある。細幅化された歯付きベルトは、高い負荷が作用されるので、早期に歯欠けを起こすという問題がある。
【0003】
従来、歯付きベルトの早期歯欠け解消するために、歯ゴム層と、歯ゴム層の他方の面に設けられる背ゴム層と、歯ゴム層と背ゴム層との間に設けられ、心線が埋設された接着ゴム層とを備えた歯付きベルトにおいて、接着ゴム層に短繊維を配合することが試みられている(例えば特許文献1)。このような歯付きベルトは、歯元部分の強度が短繊維によって向上させられるので、歯付きベルトの歯欠けが防止される。
【0004】
また、例えば、背ゴム層、歯ゴム層、及び接着ゴム層の全ての層において、共架橋剤としてトリメチロールプロパンメタクリレートを用いると共に、不飽和カルボン酸金属塩、及びシリカを配合した歯付きベルトが知られている(例えば特許文献2)。このような歯付きベルトは、ベルト全体の硬度が高められると共に、ゴム層と心線との接着性も高められ、これにより歯欠けが防止されている。
【0005】
さらに、特許文献3では、歯欠け防止のために、水素添加ニトリルゴムから構成される接着ゴム層において、加硫剤として硫黄系と過酸化物系の加硫剤を配合させ、心線と接着ゴム層の接着性を高めることが試みられている。
【特許文献1】特開2005−180486号公報
【特許文献2】特開2005−194368号公報
【特許文献3】特開2000−193039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、歯付きベルトは、内燃機関等において高温雰囲気下に晒されて使用されることがあるが、このような環境下では、歯の変形量が大きくなり、内部発熱量も大きくなるので、熱劣化しやすくなる。しかし、特許文献1に記載されるように、接着ゴム層に短繊維を配合しただけでは、高温雰囲気下における歯の変形量を充分に小さくすることができず、歯付きベルトの寿命を充分に延ばすことができない。
【0007】
また、特許文献2に記載されるように、歯付きベルト全体の硬度を高くすると、ベルトの柔軟性が失われ、歯ゴムにクラックが生じやすくなり、また場合によっては、ベルトの伝動性能が低下したり、プーリとの噛み合い騒音が増大することがある。
【0008】
さらに特許文献3のように、接着ゴム層において硫黄系と過酸化物系両方の加硫剤を用いると、心線と接着ゴム層の接着性を高めることができるが、硫黄系の加硫剤は熱安定性に乏しく、高温雰囲気下で使用した場合、ベルトの寿命を長くすることは困難である。
【0009】
そこで、本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、歯付きベルトが高温雰囲気下において高負荷で使用されても、早期の歯欠けを防ぎベルトの長寿命化を実現すると共に、歯表面の柔軟性が失われない歯付きベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る歯付きベルトは、ベルトの一方の面に長手方向に沿って歯部および歯底部が交互に形成される歯ゴム層と、ベルトの他方の面に設けられる背ゴム層と、歯ゴム層と背ゴム層との間に設けられた接着ゴム層と、接着ゴム層の内部に埋設され、長手方向に延びる心線とを備えた歯付きベルトにおいて、接着ゴム層の原料ゴムは、ゴム成分にシリカ及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩が配合されて形成されることを特徴とする。
【0011】
また、接着ゴム層には、短繊維が混入されていることが好ましく、短繊維はモジュラスの相対的に高い短繊維であって、特にアラミド短繊維であることが好ましい。接着ゴム層に、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩及びシリカに加えて、アラミド短繊維を配合すると、接着ゴム層と心線との物理的接着強度を高めることができるので、接着ゴム層と、心線との接着強度をさらに高めることができる。また、接着ゴム層自体の強度、すなわち歯元部分の強度も向上するので、歯欠けをさらに有効に防止することもできる。
【0012】
一方、歯ゴム層には、接着ゴム層に配合された短繊維よりも低いモジュラスを有する短繊維が配合されていることが好ましく、例えば変性ナイロンミクロファイバーが混入されている。このように、接着ゴム層にモジュラスの相対的に低い短繊維が配合されていると、歯表面におけるクラックの発生を防止することができるので、歯付きベルトの寿命をさらに延ばすことができる。また、同様の理由から、歯ゴム層のゴム硬さは、接着ゴム層のゴム硬さより低いことが好ましい。なお、ゴム硬さとは、特に言及しない限り、25℃においてJIS K6253 TypeAによって測定されたデュロメータ硬さ(Hs25)をいう。
【0013】
また、歯ゴム層の柔軟性を損なわないために、歯ゴム層の原料ゴムには実質的にシリカが配合されていないことが好ましい。また、ゴムの劣化を遅らせるために、接着ゴム層の原料ゴムには、過酸化物系加硫剤が配合されていることが好ましい。過酸化物系加硫剤は、ゴム成分にα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩が配合されたマトリックスゴムに対して、3〜8重量部配合されることが好ましい。また、ゴム成分は、水素添加ニトリルゴムであることが好ましい。
【0014】
本発明に係る歯付きベルトの製造方法は、歯形に形成され凹部を有する歯付きモールドに、帆布に歯ゴムシートが接合され歯形に沿うように予め成形された予成形帆布を歯付きモールドに取り付ける予成形帆布取付工程と、歯ゴムシート上に、心線を凹部が並ぶ方向に巻き付ける心線巻付工程と、心線の上に接着ゴムシートを取り付ける第1のゴム取付工程と、接着ゴムシートの上にさらに背ゴムシートを取り付ける第2のゴム取付工程と、歯付きモールドを加硫釜内に入れ、背ゴムシート側から内側に向けて圧力を付勢するとともに加硫釜内を加熱し、歯ゴムシート、背ゴムシート、及び接着ゴムシートを加硫成型し、これらを一体的にすると共に心線を接着ゴムシートに埋設させてベルトスラブを得る加硫工程を備え、接着ゴムシートは、ゴム成分に、シリカ及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩が配合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、歯付きベルトが高硬度、かつ温度上昇による物性変化の少ない接着ゴム層により補強されたことにより、高温・高負荷条件下における歯の変形量が抑えられ、歯元部分の繰り返し引き伸ばしによるクラックの発生が防止される。また、心線の背面側まで高硬度の接着ゴム層で覆われているため、アンカー効果により心線とゴム層との界面での剥離による歯欠けが抑えられる。したがって、本発明に係る歯付きベルトは高温・高負荷条件下で使用されても寿命を長くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について、図面を参照しつつ説明する。
図1および図2は本発明の第1の実施形態の歯付きベルト10を示す。歯付きベルト10は無端状ベルトであり、歯ゴム層12、接着ゴム層22、及び背ゴム層16により一体的にベルト本体が形成される。
【0017】
歯ゴム層12は、ベルトの一方の面に設けられ、長手方向に沿って歯部14および歯底部15が交互に一体的に形成される。歯ゴム層12の歯部14および歯底部15の外表面12Aは帆布20によって覆われる。
【0018】
背ゴム層16は、ベルトの他方の面に設けられると共に、接着ゴム層22は、歯ゴム層12と背ゴム層16の間に設けられる。接着ゴム層22の内部には、螺旋状に巻き付けられ、ベルトの長手方向に沿って延びる心線18が埋設される。接着ゴム層22の上面22Aは、歯部14の中央部において上側に膨らみ歯部14内に侵入するとともに、その他の部分においては背ゴム層16の背面16Bと略平行に設けられる。
【0019】
歯ゴム層12及び接着ゴム層22には、それぞれ、短繊維40、41が略均等に無数に混入される一方、背ゴム層16には短繊維は混入されない。歯ゴム層12に混入される短繊維40は、接着ゴム層12に混入される短繊維41よりモジュラスが低く、例えばナイロン短繊維、好ましくは変性ナイロンミクロファイバーである。接着ゴム層12に混入される短繊維41は、例えばアラミド短繊維であって、その繊維長は例えば1〜2mmであり、好ましくは厚さ方向に配向されている。
【0020】
歯ゴム層12、接着ゴム層22、及び背ゴム層16は、下述する原料ゴムが加硫されて得られるものである。接着ゴム層22の原料ゴムとしては、未加硫のゴム成分である水素添加ニトリルゴム(以下、HNBRという)にα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩が配合されて得られたマトリックスゴムに、シリカ、加硫剤、短繊維41、及びその他の各種添加剤がさらに配合されたものが使用される。
【0021】
接着ゴム層22に配合される加硫剤としては、過酸化物系加硫剤が用いられ、マトリックスゴム100重量部に対して2〜10重量部、好ましくは3〜8重量部配合される。過酸化物系加硫剤が3〜8重量部配合されると、接着ゴム層22の心線に対する接着強度を顕著に向上させることができ、歯付きベルト10の耐久性を向上させることができる。また、加硫剤が2重量部以下では歯欠け寿命が充分ではなく、10重量部以上だと硬くなりすぎて、応力集中したとき、クラックが発生しやすい。
【0022】
シリカはマトリックスゴム100重量部に対して、例えば15〜40重量部、好ましくは25〜35重量部配合される。原料ゴムにシリカが配合されることにより、ベルト本体11の心線18に対する接着強度が高められると共に、ベルト本体11の硬度が向上させられ歯付きベルト10の耐久性を向上させることができる。また、シリカが15重量部以下の場合、耐久寿命の効果がなく、40重量部以上だと硬くなりすぎてクラックが発生しやすい。
【0023】
短繊維41(例えば、アラミド短繊維)は、マトリックスゴム100重量部に対して、例えば1〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部配合される。接着層22には、このように比較的少ない短繊維を配合することによってベルトの耐久性を充分に向上させることができる。一方、短繊維を多く配合すると、接着ゴムのモジュラスは上がるが、強度及び伸びが低下するので好ましくない。
【0024】
マトリックスゴムにおいて、HNBRとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩との合計重量に対する、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩の重量比率は、例えば0.1〜0.5であって、好ましくは0.2〜0.4である。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩は、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸と金属とがイオン結合したものであり、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸としては例えばアクリル酸、メタクリル酸等のモノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等のジカルボン酸が使用され、好ましくはメタクリル酸が使用される。金属としては例えば亜鉛、マグネシウム、カルシウム、バリウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、錫、鉛等が使用され、好ましくは亜鉛が使用される。そして、金属塩としては好ましくはジメタクリル酸亜鉛が使用される。
【0025】
歯ゴム層12の原料ゴムは、HNBRに加硫剤、短繊維40及びその他の各種添加剤が配合されて構成されるが、接着ゴム22のようにシリカが配合されていない。また、歯ゴム層12に配合される短繊維40は、上述したように、例えば変性ナイロンミクロファイバーであって、接着ゴム層に配合される短繊維41よりモジュラスが低い。したがって、歯ゴム層12のゴム硬さは好ましくは88〜92となる一方、接着ゴム層22のゴム硬さは好ましくは89〜97となり、歯ゴム層12のゴム硬さは、接着ゴム層22のゴム硬さより低くなる。但し、歯ゴム層12のゴム硬さは上述の範囲に限定されず、例えば68〜92の範囲であっても良い。同様に、接着ゴム層のゴム硬さは、歯ゴム層より高ければ、上記範囲に限定されない。
【0026】
歯ゴム層に混入される短繊維40が変性ナイロンミクロファイバーである場合、短繊維40は、歯ゴム層12において、ランダムに配向される。但し、短繊維40がその他の種類の短繊維である場合、所定の方向に配向されていても良い。
【0027】
変性ナイロンミクロファイバーは、その繊維長さLが約4000μm以下であり、繊維径Dが1.5μm以下であり、繊維径Dに対する繊維長さLの比の値(L/D)は10以上であるが、好ましくは、繊維長さLは約1000μm以下であり、繊維径Dは1.0μm以下であり、かつ比の値(L/D)は500以上1500以下の範囲内にある。
【0028】
変性ナイロンミクロファイバーは、ナイロン繊維にポリオレフィンをグラフト共重合した共重合体から成る。ナイロン繊維としては微細径のナイロン6が好適に用いられるが、この他にナイロン6,6あるいはナイロン6,10等を用いても良い。また、ポリオレフィンとしてはポリエチレンが好適に用いられるが、ポリエチレンに限定されず、ポリプロピレン等が用いられても良い。
【0029】
なお、変性ナイロンミクロファイバーは、例えば以下のように得られる。未加硫のゴム成分(HNBR)にナイロン(例えば、ナイロン6)およびポリオレフィンを配合させた後、ポリオレフィンの融点以上の温度で撹拌等することにより、ポリオレフィンにナイロンをグラフト重合させる。次に、未加硫のゴム成分(HNBR)をさらに加えるとともに練り合わせを行い、この練り合わせにより、グラフト重合が細分化され、上述した繊維長さと繊維径を有する変性ナイロンミクロファイバーが得られる。変性ナイロンミクロファイバーは、原料ゴムにおいて、いずれの方向にも配向されずにランダムに分布させられる。なお、練り合わせを行う前に、加硫剤等他の添加剤を未加硫ゴム成分と共に配合しても良い。
【0030】
背ゴム層16の原料ゴムは、HNBRに加硫剤、及びその他の各種添加剤が配合されて構成されるが、シリカ、短繊維は配合されていない。
【0031】
歯ゴム層12、背ゴム層16、及び接着ゴム層22の原料ゴムには、シリカ、加硫剤、及び短繊維以外に例えばカーボンブラック、老化防止剤、可塑剤等が配合されている。
【0032】
図2および図3は、それぞれ歯付きベルト10の製造過程を順に示すもので、それぞれ対応する部分には、図1および図2と同符号が記されている。図2は、歯付きモールド65に予成型帆布56、心線18’、接着ゴムシート22’、背ゴムシート16’を巻き付ける工程を示す。なお、歯ゴムシート12’、接着ゴムシート22’、及び背ゴムシート16’は、それぞれ歯ゴム層12、接着ゴム層22、背ゴム層16の原料ゴムがシート状に形成されたものであって、歯ゴムシート12’及び接着ゴムシート22’には、それぞれ短繊維40、41が配合されている。
【0033】
歯付きベルト10の製造においては、まず予成型帆布56が用意される。予成型帆布56は、帆布20’が歯形に沿うように予め成型され、その後、歯ゴムシート12’が帆布20’に押圧され接着されることにより形成される。
【0034】
歯付きモールド65は円筒形状を有し、その外表面は歯形に形成され凹部66および凸部67を有する。歯付きモールド65の外表面には、予成型帆布56が、その凸部27が歯付きモールドの凹部66に合うように巻き付けられる。なお、図2,3においては、短繊維40は変性ナイロンミクロファイバーである場合を例示しており、短繊維40は歯ゴムシート12’においてランダムに配向されている。
【0035】
予成型帆布56が巻き付けられた後、予成型帆布56の歯ゴムシート12’の上面に心線18’が螺旋状に巻き付けられる。巻き付けられた心線18’の上には、短繊維40が配合された接着ゴムシート22’が巻き付けられる。ここで、接着ゴムシート22’に混入される短繊維40は、歯付きモールド65の周方向に配向される。接着ゴムシート22’上には、さらに背ゴムシート16’が巻き付けられる。
【0036】
これらのゴムシート等が取り付けられた歯付きモールド65は、加硫釜(図示せず)内に収容される。加硫釜内において、歯付きモールド65は、例えば蒸気により温度が上昇させられるとともに、加硫釜内に設けられた加硫バッグ等によって外側から内側に向けて圧力が付勢される。
【0037】
この加熱によりゴムシート12’、22’、16’は流動性を増し、また、ゴムシート22’、16’は加圧により内側に押圧される。これにより、図3に示すように接着ゴムシート22’は、隣接する心線18’と心線18’の間から内側に流入させられる。
【0038】
接着ゴムシート22’が内側に流入させられるとき、短繊維40も内側に流入される。ここで、短繊維40は、内側に流入される時、流れに合わせて、その長さ方向が流入方向に向く。したがって、短繊維40は、この流入時にベルト10の厚さ方向に配向される。
【0039】
加圧加熱によって、ゴムシート12’、22’、16’は、加硫させられ、歯ゴムシート12’、接着ゴムシート22’、および背ゴムシート16’は互いに接着させられ一体化されると共に、接着ゴムシート22’内に心線18’が完全に埋設される。これにより、加硫ゴムから形成されるベルトスラブ10’が得られ、このベルトスラブ10’は、歯付きモールド65から取り外され研磨後裁断されることにより、歯付きベルト10(図1参照)となる。なお、歯ゴムシート12’、接着ゴムシート22’、背ゴムシート16’は、歯付きベルト10において、それぞれ歯ゴム層12、接着ゴム層22、背ゴム層16となる。
【0040】
以上の製造方法においては、心線を硬度の高い接着ゴム層に完全に埋設させることができ、また短繊維を厚さ方向に容易に配向させることができるので、本実施形態の歯付きベルト10を容易に製造することができる。さらには、接着ゴムシートの心線周辺への流れ込みを防止できるため、心線とゴム層との接着性を損なうことなくベルトを成型することができる。
【実施例】
【0041】
以下、比較例と共に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
実施例1の歯付きベルトは、本実施形態に係る歯付きベルトの実施例であって、背ゴムシート、接着ゴムシート、歯ゴムシートの厚さは、それぞれ1mm、1mm、1.5mmであった。実施例1の歯付きベルトは、実施形態にあるように、歯付きモールドに歯ゴムシートが接合された予成型帆布、心線、接着ゴムシート、背ゴムシートを順に巻き付けてこれらを加硫釜内で加硫成型して得た。また、心線及び帆布には、それぞれ材質ガラス、アラミドのものを使用した。また、表1、2に示すように、実施例1では、歯ゴム層、接着ゴム層、背ゴム層の原料ゴムとして、それぞれ原料ゴムE、原料ゴムA、原料ゴムFを用いた。
【0043】
歯ゴム層に使用した原料ゴムEは、変性ナイロンミクロファイバー、及びジメタクリル酸亜鉛が配合されたHNBRのゴムマトリックスに、各種添加剤を配合して得られた原料ゴムであって、シリカが配合されていなかった。接着ゴム層に使用した原料ゴムAは、ジメタクリル酸亜鉛が配合されたHNBRのゴムマトリックスに、シリカ、アラミド短繊維等の各種添加剤を配合して得られた原料ゴムであった。背ゴム層に使用した原料ゴムFは、ジメタクリル酸亜鉛が配合されたHNBRのゴムマトリックスに、表1に示す各種添加剤を配合して得られた原料ゴムであって、シリカ、短繊維は配合されていなかった。歯付きベルトは、そのベルト幅が19.1mm、周長さが876.3mm、歯数が92であった。
【0044】
[実施例2]
実施例2の歯付きベルトは、接着ゴム層の原料ゴムとして原料ゴムBを用い、それ以外は、実施例1と同様の構成とした。原料ゴムBには過酸化物系加硫剤が7.2重量部配合されており、実施例2の接着ゴム層には実施例1より相対的に多量の過酸化物系加硫剤を使用した。
【0045】
[実施例3]
実施例3の歯付きベルトでは、接着ゴム層の原料ゴムとして原料ゴムCを用い、それ以外は、実施例1と同様の構成を有するベルトとした。原料ゴムCにおける、HNBRとジメタクリル酸亜鉛の合計重量に対するジメタクリル酸亜鉛の重量比率は0.315であり、実施例3では接着ゴム層におけるジメタクリル酸亜鉛の配合量を実施例1より相対的に多くした。
【0046】
[実施例4]
実施例4の歯付きベルトでは、接着ゴム層の原料ゴムとして原料ゴムDを用い、それ以外は、実施例3と同様の構成を有するベルトであった。原料ゴムDには、過酸化物系加硫剤が7.2重量部配合されており、実施例4の接着ゴム層には実施例3より相対的に多量の過酸化物系加硫剤を使用した。
【0047】
[比較例1]
比較例1の歯付きベルトは、接着ゴム層の原料ゴムとして原料ゴムEを用い、それ以外は、実施例1と同様の構成を有するベルトであった。すなわち、比較例1の接着ゴム層と、歯ゴム層の原料ゴムは同一であり、接着ゴム層及び歯ゴム層には、シリカを配合せず変性ナイロンミクロファイバーを配合した。
【0048】
[比較例2]
比較例2の歯付きベルトは、歯ゴム層の原料ゴムとして原料ゴムAを用い、それ以外は、実施例1と同様の構成を有するベルトであった。すなわち、比較例1では、接着ゴム層と、歯ゴム層の原料ゴムが同一であり、接着ゴム層及び歯ゴム層には、シリカ及びアラミド短繊維を配合した。
【0049】
なお、比較例1〜2に係る歯付きベルトも、実施例1〜4と同様に、歯付きモールドに歯ゴムシートが接合された予成型帆布、心線、接着ゴムシート、背ゴムシートを順に巻き付けてこれらを加硫成型して得られたものであった。
【0050】
【表1】

【0051】
なお、表1においける※1〜6は以下の通りである。
※1 HNBRポリマーは水素添加率99%のHNBRであった。
※2 ZDMA含有ポリマー(1)は、HNBRとジメタクリル酸亜鉛の配合比が55:45のゴムマトリックスであり、HNBRの水素添加率は99%であった。
※3 ZDMA含有ポリマー(2)は、HNBRとジメタクリル酸亜鉛の配合比が83:17のゴムマトリックスであり、HNBRの水素添加率は96%であった。
※4 ナイロン入りZDMAポリマーは、HNBR65.5重量部に、ジメタクリル酸亜鉛12.9重量部、ポリエチレンと6−ナイロンがグラフト重合して得られる変性ナイロンミクロファイバー21.6重量部が配合されていた。HNBRの水素添加率は96%であった。
※5 加硫剤として、過酸化物系加硫剤であるジクミルペルオキシドと、1,3−ビス(t−ブチルペロキシ−イソプロピル)ベンゼンをあわせたものを使用した。
※6 アラミド短繊維としては、繊維長1mmのメタ型アラミド短繊維を使用した。
【0052】
【表2】

【0053】
[原料ゴムの物性評価]
各原料ゴムA〜Eを、加硫温度160℃、圧力150気圧で、20分間プレス加硫してゴムサンプルを形成し、各ゴムサンプルについて、ゴム硬さ及びモジュラスを測定し、原料ゴムの物性評価を行った。なお、ゴム硬さ及びモジュラスの測定は、25℃、120℃の両条件で行った。なお、原料ゴムA〜Dから形成されたゴムサンプルでは、アラミド短繊維を所定の方向に配向させた。一方、原料ゴムEから形成されたゴムサンプルでは、変性ナイロンミクロファイバーは所定の方向に配向させず、ランダムに配向させた。
【0054】
モジュラス測定は、各ゴムサンプルを伸び率20%(元のサンプルの長さを100%としたとき)で引っ張ったときの引張力(MPa)を測定することにより行なった。なお、本測定はJIS K6251に基づき行なった。なお、原料ゴムA〜Dでは、引っ張り方向が短繊維の配向されている方向と同じであった。また、ゴム硬さは、25℃においてJIS K6253 TypeAによって測定されたデュロメータ硬さ(Hs25)、及び120℃においてJIS K6253 TypeAによって測定されたデュロメータ硬さ(Hs120)である。
【0055】
表1から明らかなように、実施例1〜4の接着ゴム層を構成する原料ゴムA〜Dは、25℃、120℃のいずれの条件で測定した場合も、ゴム硬さは90以上であり、20℃から120℃に温度を上昇したときのゴム硬さ保持率も高いことが理解できる。一方、比較例1の接着ゴム層を構成する原料ゴムEは、原料ゴムA〜Dよりゴム硬さが低く、特にゴム硬さ保持率が低いことが理解できる。すなわち、原料ゴムA〜Dは、シリカ及びアラミド短繊維を配合したことにより、高硬度となり、かつ温度上昇による硬度変化が少なくなったことが理解できる。
【0056】
同様に、原料ゴムA〜Dは、表3から明らかなように、高モジュラスであり、さらには、原料ゴムEよりモジュラス保持率も高く、温度上昇によるモジュラス変化が少ないことが理解できる。
【0057】
[サーボパルサー試験]
実施例1〜4、比較例1〜2について、サーボパルサー試験を行い、歯付きベルトの耐久性評価を実施した。サーボパルサー試験は、図4に示すサーボパルサー試験機74を用いて行なった。サーボパルサー試験機74は、歯付きベルトの歯形に対応する凹凸形状を有する金属製チップ75と、クランプ77を備える。評価試験には歯付きベルトの10歯を部分的に採取した試験片76を用いる。なお、試験片76は上下方向に延び、上端を固定させるとともに、試験片76の下端の1歯76aを金属製チップ75に噛み合わせる。金属製チップ75と試験片76の下端は、クランプ77によって左右から動かないように挟み込まれる。
【0058】
金属製チップ75と試験片76を挟み込んだクランプ77は、下方向に周期的に周波数1Hzの正弦波の荷重が負荷される。ここで、クランプに負荷された荷重は、0から最大荷重まで周期的に負荷され、1歯76aの破断までの正弦波の周期回数(サイクル数)が測定された。なお、比較例2、3を除いては、最大荷重が数回変更されて実施された。また、試験は120℃の雰囲気下で行われた。
【0059】
図5のグラフにおいて、縦軸が最大荷重を、横軸が1歯76aの破断までの荷重のサイクル数を示す。
【0060】
図5から明らかなように、比較例1に比べ、実施例1〜4は破断までのサイクル数が多く、耐久性に優れていることが理解できる。これは、実施例1〜4は、接着ゴム層に、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸と共に、シリカ及びアラミド繊維を配合したので、高負荷・高温条件下における耐久性能が上昇したものと理解できる。また、上述した物性評価結果が示すように、実施例1〜4の接着ゴム層は、温度変化に伴う物性変化も少ないので、伝動性能等の各種性能は温度変化が生じても安定していると考えられる。
【0061】
また、実施例1と2、実施例3と4の対比から明らかなように、加硫剤の配合量を高めると(例えばゴムマトリックス100重量部に対して5重量部以上にすると)、ベルトの耐久性が向上していることが理解できる。
【0062】
さらには、実施例1と3、又は実施例2と4の対比から明らかなように、接着ゴム層におけるジメタクリル酸亜鉛の重量比率を高めると、ベルトの耐久性が向上していることが理解できる。
【0063】
また、比較例2から明らかなように、歯ゴム層及び接着ゴム層が共に、原料ゴムAが用いられた場合、耐久性はそれほど向上しないことが理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の歯付きベルトの部分斜視図を示す。
【図2】第1の実施形態において、歯付きモールドに予成型帆布、心線、接着ゴムシート、および背ゴムシートを巻き付ける工程の部分断面図を示す。
【図3】第1の実施形態において、加熱加圧により加硫成形された歯付きベルトの断面図を示す。
【図4】サーボパルサー試験機の模式図を示す。
【図5】サーボパルサー試験機による歯付きベルトの評価結果を示す。
【符号の説明】
【0065】
10 歯付きベルト
12 歯ゴム層
16 背ゴム層
18 心線
22 接着ゴム層
40、41 短繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトの一方の面に長手方向に沿って歯部および歯底部が交互に形成される歯ゴム層と、
ベルトの他方の面に設けられる背ゴム層と、
前記歯ゴム層と背ゴム層との間に設けられた接着ゴム層と、
前記接着ゴム層の内部に埋設され、長手方向に延びる心線とを備え、
前記接着ゴム層の原料ゴムは、ゴム成分に、シリカ及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩が配合されて形成されることを特徴とする歯付きベルト。
【請求項2】
前記接着ゴム層には、短繊維が混入されていること特徴とする請求項1に記載の歯付きベルト。
【請求項3】
前記短繊維はアラミド短繊維であることを特徴とする請求項2に記載の歯付きベルト。
【請求項4】
前記歯ゴム層には、前記接着ゴム層に配合された短繊維よりも低いモジュラスを有する短繊維が混入されることを特徴とする請求項2に記載の歯付きベルト。
【請求項5】
前記歯ゴム層には、変性ナイロンミクロファイバーが混入されていることを特徴とする請求項4に記載の歯付きベルト。
【請求項6】
前記歯ゴム層のゴム硬さは、前記接着ゴム層のゴム硬さより低いことを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルト。
【請求項7】
前記接着ゴム層の原料ゴムには、過酸化物系加硫剤が配合されていることを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルト。
【請求項8】
前記過酸化物系加硫剤は、ゴム成分にα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩が配合されたマトリックスゴムに対して、3〜8重量部配合されることを特徴とする請求項7に記載の歯付きベルト。
【請求項9】
前記ゴム成分は、水素添加ニトリルゴムであることを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルト。
【請求項10】
歯形に形成され凹部を有する歯付きモールドに、帆布に歯ゴムシートが接合され前記歯形に沿うように予め成形された予成形帆布を前記歯付きモールドに取り付ける予成形帆布取付工程と、
前記歯ゴムシート上に、心線を前記凹部が並ぶ方向に巻き付ける心線巻付工程と、
前記心線の上に接着ゴムシートを取り付ける第1のゴム取付工程と、
前記接着ゴムシートの上にさらに背ゴムシートを取り付ける第2のゴム取付工程と、
前記歯付きモールドを加硫釜内に入れ、前記背ゴムシート側から内側に向けて圧力を付勢するとともに前記加硫釜内を加熱し、前記歯ゴムシート、背ゴムシート、及び接着ゴムシートを加硫成型し、これらを一体的にするとともに心線を接着ゴムシート内に埋設させてベルトスラブを得る加硫工程を備え、
前記接着ゴムシートは、ゴム成分に、シリカ及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩が配合されて形成されることを特徴とする歯付きベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−115933(P2008−115933A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−298927(P2006−298927)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【Fターム(参考)】