説明

歯周外科処置用ゼラチンハイドロゲル膜

【課題】 生体吸収性であり、しかも十分な力学強度を持ち、より短期で効率的に骨再生、組織再生を誘導し、かつ1回の手術で骨再生、組織再生の治療が行える膜を提供することを目的とする。
【解決手段】 遮蔽機能と薬物徐放機能を併せ持つ2層構造を有する、歯周外科処置に用いるためのゼラチンハイドロゲル膜を提供する。本発明の歯周外科処置に用いるGTR膜とGBR膜には、2つの特徴がある。一つは3ヶ月程度の分解性と糸切れしない強度の両立。もう一つは、2週間程度の薬物の徐放化である。よって骨再生の空間を長期間確保するため、生体吸収性材料で力学補強されたゼラチンハイドロゲルを用いる。さらに内側(骨再生の空間側)に薬物徐放機能を有するゼラチンハイドロゲルを2層構造として持つことにより、血管新生による酸素や栄養の供給を促し、骨組織の再生誘導とその周辺組織の再生誘導を起こし、短期に効率的な治療が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮蔽機能を有する層と薬物徐放機能を有する層を併せ持つ2層構造を有する、歯周外科処置に用いるためのゼラチンハイドロゲル膜に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は生活習慣病の一つであり、厚生労働省はその一次予防に向けて、「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」を発表している。具体的には、歯間部清掃器具を使用する人の増加(現状は 35〜44歳で19.3パーセント、45〜54歳で17.8パーセントを、50パーセント以上に)、定期的な歯科検診の受診者の増加(現状16.4パーセントを 30パーセント以上に)、といった目標が掲げられている。日本人の場合、10〜20代前半ですでに60%が、50才代でおおよそ80%の人が歯周病にかかっているといわれるほど、罹患率の多い歯の病気である。今後より一層の高齢化社会を迎えるに当たり、歯周病の治療は重要性を増してくる。
【0003】
歯周病が進行すると歯周囲の骨(歯槽骨)が吸収されてしまうが、その吸収は一様ではなく吸収の軽度な所と重度な所が凸凹な状態になっていく。治療により腫れの治まってきた歯肉は、骨よりも急速に再生されていくため、歯槽骨が再生されない状態が発生する。骨再生を必要とする症状や治療においては、これは重大な問題であり、この克服が以前から試みられていた。
【0004】
骨再生や歯周組織再生の治療法としては、現在大きく分けて組織誘導再生法(GTR法、Guided Tissue Regeneration)と、骨誘導再生法(GBR法、Guided Bone Regeneration)の2つの方法が用いられている。どちらの場合も再生のより早い歯肉から骨再生の空間を確保するために遮蔽膜が用いられる。GTR法では、自発的な骨再生および歯周組織の全体としての再生を主な目的とし、膜の遮蔽機能は一般的に1から2ヶ月の期間である。GBR法では、骨再生の空間に移植骨や、骨代替材、PRP等の誘導因子を封入して積極的に骨再生を誘導し、膜の遮蔽機能は一般的に6ヶ月程度の期間である。この遮蔽膜には、非吸収性遮蔽膜と吸収性遮蔽膜の2種類がある。表1に、GTR膜、GBR膜の代表例を示す。
【0005】
【表1】

【0006】
非吸収性遮蔽膜の代表的な製品には、ゴアテックスがあり、最初に認可されたため長い間スタンダードの製品として使用されてきた。しかしながら、遮蔽膜としての使用目的期間が終わった後、膜はしばしば再生組織に覆われた状態にある。そのまま放置すると膜による炎症が起こるため、取り除くことが必要となる。この膜除去の操作が組織を破壊する。そこで、除去の不要な吸収性遮蔽膜の使用実績が伸びている。その代表的な製品がコーケンティッシュガイドであり、コラーゲンシートベースであるため生体で分解吸収される。この製品は、歯牙固定用の糸が付いているため、膜のシーティングが容易に行える特徴を有している。コーケンティッシュガイドは、その膜強度が不足しており、この強度不足が、しばしば縫合の際の糸による膜破損の原因となっている。
【0007】
本発明に関連する先行技術文献情報としては以下のものがある。
【特許文献1】特開平5−85913
【特許文献2】特開2000−116674
【非特許文献1】ゴアテックス GTR クリニカルガイドライン/第 9 版/第 2 編 GTR による骨再生
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生体吸収性であり、しかも十分な力学強度を持ち、より短期で効率的に骨再生、組織再生を誘導し、かつ1回の手術で骨再生、組織再生の治療が行える膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、遮蔽機能と薬物徐放機能を併せ持つ2層構造を有する、歯周外科処置に用いるためのゼラチンハイドロゲル膜を提供する。本発明の歯科治療用膜は、生体吸収性材料で補強されたゼラチンハイドロゲル層と、薬物徐放機能を有するゼラチンハイドロゲル層とからなる2層構造を持つことを特徴とする。
【0010】
治療時の模式図を図1に示す。外層に生体吸収性材料で補強されたゼラチンハイドロゲル層が配置され、内層に薬物徐放機能を有するゼラチンハイドロゲル層が配置される。従来の歯科治療用膜では、遮蔽機能が重要であったため本発明の外層部分にあたる膜のみで治療を行っていた。しかし、現在使用されている吸収性遮蔽膜は、まだ力学的強度が十分ではなかった。そのため、生体親和性が高くしかも吸収性材料であるゼラチンを、生体吸収性材料で十分な強度を有する状態に補強することにより力学的強度の問題克服を目指し、かつゼラチンを架橋してハイドロゲルにすることにより、長期間体内に存在し遮蔽膜の機能を果たすようにすることにより、従来の欠点を克服することに成功した。
【0011】
また、より短期間での治癒を目的として、内層に薬物徐放機能を有するゼラチンハイドロゲル層を配置し、骨の再生を促進する作用を有する血管新生因子や骨再生因子などを徐放できるようにする。ゼラチンハイドロゲル膜からの薬物の徐放は、所望の期間に渡って薬物を徐放出来るため、薬物の効果を最大限に生かすことが出来る。このため、血管新生因子や骨再生因子などを徐放することにより、従来自然治癒に頼っていた治療を、より能動的に効率的にしかも短期間で行えるようになる。また、この歯科治療用膜では外層に比較してより短期間で生体で分解吸収される必要があるため、外層とは異なる別の層としてゼラチンを架橋して構成されている。
【0012】
以上のように、本発明の2層構造を有する歯科治療用膜は、機能上の利点を有する新規の歯科治療用膜である。
【0013】
本発明の歯科治療用膜において、好ましくは、ゼラチンは、アルカリ処理ゼラチンまたは酸処理ゼラチンである。また好ましくは、生体吸収性材料は、β−TCPである。本発明の歯科治療用膜の好ましい態様においては、薬物徐放機能を有するゼラチンハイドロゲル層は、徐放されるべき薬物として、bFGFまたはBMP−2を含む。
【0014】
好ましくは、本発明の歯科治療用膜は、組織誘導再生法(GTR法)または骨誘導再生法(GBR法)に用いられる。本発明の歯周外科処置に用いるGTR膜とGBR膜には、2つの特徴がある。一つは3ヶ月程度の分解性と糸切れしない強度の両立、もう一つは、2週間程度の薬物の徐放化である。2層構造の一方の層として、生体吸収性材料で力学補強されたゼラチンハイドロゲルを用いることにより、歯肉結合組織から骨を遮蔽して骨再生の空間を長期間確保することができる。さらに、もう一方の層として、内側(骨再生の空間側)に薬物徐放機能を有するゼラチンハイドロゲルを持つことにより、血管新生による酸素や栄養の供給を促し、骨組織の再生誘導とその周辺組織の再生誘導を起こし、短期に効率的な治療が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の歯科治療用膜は、遮蔽機能と薬物徐放機能を併せ持つ2層構造を有することを特徴とする。遮蔽機能を有する層は、生体吸収性材料で補強されたゼラチンハイドロゲルからなる。薬物徐放機能を有する層はゼラチンハイドロゲル層からなり、この層に徐放すべき薬物を含浸させることができる。ゼラチンハイドロゲルを生体吸収性材料で補強し遮蔽機能を持たせた膜を作製した後、薬物徐放機能を有するゼラチンハイドロゲル層を前記膜上に構成する。各層の膜厚は、数μm〜数mmであり、好ましくは数μm〜数百μmであり、より好ましくは十〜数十μmである。膜の大きさは、通常のGTR膜やGBR膜の大きさと同じでよく、例えば、15mm×25mmから25mm×35mm程度の大きさとすることができ、扇形などの施術しやすい形状としてもよい。
【0016】
本発明においてゼラチンハイドロゲルを作製するために使用されるゼラチンは、天然に得られるものであっても、微生物を用いた発酵法、化学合成、あるいは遺伝子組換え操作により得られるものであってもよい。これらの材料を適当に混合して用いることもできる。天然のゼラチンは、ヒトをはじめ、ブタ、ウシ、サケ、タイ、サメ等の魚類など、種々の動物由来のコラーゲンから、アルカリ加水分解、酸加水分解、および酵素分解等の種々の処理によって変性させて得ることができる。また、ゼラチンを修飾したゼラチン誘導体を用いることもできる。ゼラチン誘導体としては、ゼラチンにアニジル基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基、硫酸基、リン酸基などの化学官能性基、またはアルキル基、アシル基、フェニル基、ベンジル基などの疎水性の残基、およびこれらの残基をもつ化合物などを化学的に導入したもの、あるいは、乳酸、グリコール酸などからなる生体吸収性のオリゴマー、高分子、共重合体など、またはポリエチレングリコール、そのプロピレングリコールとの共重合体などの水溶性のオリゴマー、高分子などを化学的に導入したものなどが挙げられる。
【0017】
本発明において、ゼラチンハイドロゲルを作製するために用いるゼラチンとして特に好ましいものは、コラーゲンのアルカリ処理によって得られた、その等電点が酸性領域にある酸性ゼラチン、コラーゲンの酸処理によって得られた、その等電点がアルカリ性領域にあるおよびアルカリ性ゼラチンである。
【0018】
本発明において優れた遮蔽膜としての効果や、徐放性制御効果を得るためには、ゼラチンハイドロゲルを水不溶性とすることが好ましい。ゼラチンハイドロゲルは、種々の化学的架橋剤を用いてゼラチンの分子間に化学架橋を形成させることにより不溶化することができる。化学的架橋剤としては、例えばグルタルアルデヒド、例えばEDC等の水溶性カルボジイミド、例えばプロピレンオキサイド、ジエポキシ化合物、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、イミダゾール基などの間に化学結合を作る縮合剤を用いることができる。好ましいものは、グルタルアルデヒドである。また、ゼラチンは、熱脱水処理、紫外線、ガンマ線、電子線照射によっても化学架橋することもできる。また、これらの架橋処理を組み合わせて用いることもできる。さらに、塩架橋、静電的相互作用、水素結合、疎水性相互作用などを利用した物理架橋によりハイドロゲルを作製することも可能である。
【0019】
ゼラチンの架橋度は、所望の含水率、すなわちハイドロゲルの生体吸収性のレベルに応じて適宜選択することができる。ハイドロゲルを調製する際のゼラチンと架橋剤の濃度の好ましい範囲は、ゼラチン濃度1〜20w/w%、架橋剤濃度0.01〜1w/w%である。架橋反応条件は特に制限はないが、例えば、0〜40℃、好ましくは25−30℃で、1〜48時間、好ましくは12−24時間で行うことができる。一般に、ゼラチンおよび架橋剤の濃度、架橋処理時間が増大するとともにハイドロゲルの架橋度は増加し、生体吸収性は低くなる。
【0020】
ゼラチンの架橋は熱処理によっても行なうことができる。熱処理による架橋の例は以下のとおりである。ゼラチン水溶液(10重量%程度が好ましい)をプラスチックシャーレに流延し、風乾することによってゼラチンフィルムを得る。そのフイルムを減圧下、好ましくは10mmHg程度で通常110〜160℃、好ましくは120〜150℃、通常1〜72時間、好ましくは6〜48時間放置することによって行なう。また、ゼラチン水溶液を凍結乾燥することによってスポンジ状成形体を得る。これを同様に、ガンマ線、電子線によって架橋することができる。あるいは、上述の架橋法を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
ゼラチンハイドロゲルの生体における分解および吸収の程度は、ハイドロゲル作製時における架橋の程度を調節することにより調節することができる。ゼラチンハイドロゲルの架橋度は含水率を指標として評価することができる。含水率とは膨潤ハイドロゲルの重量に対するハイドロゲル中の水の重量パーセントである。含水率が大きければハイドロゲルの架橋度は低くなり、分解されやすくなる。好ましい含水率としては約80〜99w/w%である。
【0022】
本発明の歯科治療用膜の遮蔽機能を有する層において用いられる生体吸収性材料としては、ゼラチンハイドロゲルを力学的に補強する作用を有する材料を用いることができ、例としては、β−TCPや、乳酸やグリコール酸を主成分としたものなどを挙げることができる。生体吸収性材料としては、所望の生体吸収性期間をもち、ゼラチンハイドロゲルに糸切れしない強度を与えることができ、GTRやGBR用の膜として用いる性能を発揮出来るものであれば、天然から得られる物質でも合成により製造される物質でもよい。また、これらの材料を適当に混合して用いることもできる。
【0023】
本発明において、ゼラチンハイドロゲル膜を補強するために用いる生体吸収性材料として特に好ましいものは、β−TCPである。骨再生の空間を長期間確保して、骨再生誘導を起こすためには、補強ハイドロゲルの生体吸収性期間は、2から3ヶ月程度が理想的であると考えられる。GBR膜として用いる場合には、6ヶ月程度の期間が好ましい。
【0024】
歯科治療用膜は細胞との親和性も重要であるが、乳酸やグリコール酸を利用したコラーゲン膜は細胞との親和性が良くない。よって、本発明においては、β−TCPで補強したゼラチンハイドロゲル膜の細胞親和性がより良いため、好ましい。
【0025】
本発明において薬物徐放機能を有する層に固定化すべき薬物としては、血管新生能を持つものが好ましい。血管新生により、栄養や酸素の補給が順調に行われ、よって短期間での骨再生、歯周組織の再生が可能となる。これらは天然から得られる物質でも合成により製造される物質でもよい。例えば、bFGF、VEGF、TGF−β、アンジオポエチン、G−CSF、EPO、BMP−2、TGF−β1、血小板内細胞増殖因子混合物などがあり、またこれらの薬物を混合して用いることもできる。
【0026】
本発明において、薬物として特に好ましいものは、bFGFおよびそれらの誘導体、BMP−2およびそれらの誘導体である。
【0027】
本発明の薬物徐放機能を有する層において用いられるゼラチンハイドロゲルは、上述のゼラチンハイドロゲルのうち、徐放すべき薬物との物理化学的な相互作用の高いゼラチンハイドロゲルであって、所定の期間に渡る生分解性を有するものである。薬物のゼラチン分子への物理的相互作用が強いことにより、ハイドロゲル中に固定化された薬物はハイドロゲル内の水相を通る単純拡散によって放出されるのではなく、ゼラチンハイドロゲルの生体内での分解に伴い、ゼラチン分子あるいはその一部分が水可溶化して、それとともに固定化薬物が徐放される。
【0028】
本発明において、薬物、特にbFGFを徐放するためにゼラチンハイドロゲルとして特に好ましいものは、2週間分解の酸性ゼラチンハイドロゲルである。また、BMP−2を徐放するためにゼラチンハイドロゲルとして特に好ましいものは、2週間分解のアルカリ性ゼラチンハイドロゲルである。
【0029】
本発明の歯科治療用膜に含有すべき薬物の量は、治療の効果をもたらすに十分であるように適宜選択することができる。通常、薬物の量は、膜1枚あたり、約0.01〜約1,000μgの範囲、好ましくは、約0.1〜約100μgの範囲から選択される。
【0030】
遮蔽機能を有するβ−TCP補強ゼラチンハイドロゲル膜は、ゼラチンの水溶液にβ−TCPを加え、この混合液に、グルタルアルデヒドなどの架橋剤を加えてゼラチンを架橋させることにより製造することができる。得られたβ−TCP補強ゼラチンハイドロゲル膜は、凍結乾燥して保存することができる。
【0031】
遮蔽機能を有するβ−TCP補強ゼラチンハイドロゲル膜と、薬物徐放機能を有するゼラチンハイドロゲル膜を2層構造とするためには、あらかじめ作製したβ−TCP補強ゼラチンハイドロゲル膜に、ゼラチン溶液をコーティングした後、架橋反応を起こせばよい。また、予め架橋反応を行って2週間分解の条件でハイドロゲル膜を調製し、両方の膜を架橋して結合させても良い。
【0032】
架橋反応は、例えば架橋剤を用いて行うが、その濃度の好ましい範囲は、ゼラチン濃度1〜20w/w%、架橋剤濃度0.01〜1w/w%である。架橋反応条件は特に制限はないが、例えば、0〜40℃、好ましくは25−30℃で、1〜48時間、好ましくは12−24時間で行うことができる。
【0033】
また、架橋は熱処理によっても行なうことができる。熱処理による架橋の例は以下のとおりである。ゼラチン水溶液(10重量%程度が好ましい)をβ−TCP補強ゼラチンハイドロゲル膜にコーティングする。それを減圧下、好ましくは10mmHg程度で通常110〜160℃、好ましくは120〜150℃、通常1〜72時間、好ましくは6〜48時間放置することによって行なう。また、ガンマ線、電子線によって架橋することができる。あるいは、上述の架橋法を組み合わせて用いることもできる。
【0034】
次に、このようにして得られたゼラチンハイドロゲルの2層からなる膜に、徐放すべき薬物を固定化させる。固定化は、ゼラチンハイドロゲル膜に薬物の水溶液を滴下するか,あるいはゼラチンハイドロゲル膜を薬物の水溶液中に含浸させることにより行うことができる。
【0035】
本発明のゼラチンハイドロゲル膜には、得られるハイドロゲルの安定性や薬物放出の持続性等の目的に応じて、所望により他の成分を加えることもできる。他の成分としては例えばアミノ糖あるいはその高分子量体やキトサンオリゴマー、塩基性アミノ酸あるいはそのオリゴマーや高分子量体、ポリアリルアミン、ポリジエチルアミノエチルアクリルアミド、ポリエチレンイミン等の塩基性高分子等が挙げられる。
【0036】
薬物を含有するゼラチンハイドロゲルは、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することにより、本発明の歯科治療用膜を調製することができる。そのような担体としては公知のものが使用できる。さらに徐放効果を調節する各種添加剤を含めることもできる。
【0037】
本発明の歯科治療用膜は、従来のGTR,GBR膜と同様に、歯周病の治療部位に留置することにより使用することができる。ただし、内側(骨再生の空間側)に薬物徐放機能を有するゼラチンハイドロゲル層がくるように配置する。
【0038】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
牛由来のコラーゲンをアルカリ処理して得られた分子量10万の酸性ゼラチン(新田ゼラチン社製)を用いて、5mlの20重量%水溶液を調製した。β−TCPを2.5mg加え、純水により9mlにメスアップし、良く撹拌した。
【0040】
グルタルアルデヒド溶液を(ナカライテスク製、25%水溶液)を用いて、1mlの2重量%水溶液を調製した。上記ゼラチン混合液に、希釈したグルタルアルデヒド溶液を加えて良く撹拌した後、バランスディッシュS(BIO−BIK製)に0.4mlずつ分注した。
【0041】
室温で12時間以上反応させた後、100mMグリシン溶液で1時間振盪洗浄して未反応の官能基を処理し、さらに1時間おきに純水を交換しながら3回、計3時間振盪洗浄した。洗浄の終了したサンプルを−80℃で1時間以上予備凍結した後、凍結乾燥機によりβ−TCP含有ゼラチンハイドロゲルを作製した。
【実施例2】
【0042】
実施例1と同様の作業手順により、牛由来のコラーゲンをアルカリ処理して得られた分子量10万の酸性ゼラチン(新田ゼラチン社製)を用いて、5mlの10重量%水溶液を調製した。β−TCPを3.0mg加え、純水により9mlにメスアップし、良く撹拌した。
【0043】
グルタルアルデヒド溶液を(ナカライテスク製、25%水溶液)を用いて、1mlの2重量%水溶液を調製した。上記ゼラチン混合液に、希釈したグルタルアルデヒド溶液を加えて良く撹拌した後、バランスディッシュS(BIO−BIK製)に0.4mlずつ分注した。
【0044】
室温で12時間以上反応させた後、100mMグリシン溶液で1時間振盪洗浄して未反応の官能基を処理し、さらに1時間おきに純水を交換しながら3回、計3時間振盪洗浄した。洗浄の終了したサンプルを−80℃で1時間以上予備凍結した後、凍結乾燥機によりβ−TCP含有ゼラチンハイドロゲルを作製した。
【実施例3】
【0045】
実施例1と同様の作業手順により、牛由来のコラーゲンをアルカリ処理して得られた分子量10万の酸性ゼラチン(新田ゼラチン社製)を用いて、5mlの10重量%水溶液を調製した。β−TCPを2.5mg加え、純水により9mlにメスアップし、良く撹拌した。
【0046】
グルタルアルデヒド溶液を(ナカライテスク製、25%水溶液)を用いて、1mlの10重量%水溶液を調製した。上記ゼラチン混合液に、希釈したグルタルアルデヒド溶液を加えて良く撹拌した後、バランスディッシュS(BIO−BIK製)に0.4mlずつ分注した。
【0047】
室温で12時間以上反応させた後、100mMグリシン溶液で1時間振盪洗浄して未反応の官能基を処理し、さらに1時間おきに純水を交換しながら3回、計3時間振盪洗浄した。洗浄の終了したサンプルを−80℃で1時間以上予備凍結した後、凍結乾燥機によりβ−TCP含有ゼラチンハイドロゲルを作製した。
【0048】
実施例1から3において調製したβ−TCP含有ゼラチンハイドロゲルの特性を以下の表2に示す。
【表2】

【実施例4】
【0049】
実施例1から3で作製したβ−TCP含有ゼラチンハイドロゲルを図2に示すように5mm×10mmの形状に切り取り、2カ所の穴を空けた。同様に、コーケンティッシュガイド(高研社製)を加工した。なお、β−TCPを含有しないゼラチンハイドロゲルは、力学的強度の不足のため、このような加工をすることができない。
【0050】
直径1.0mmのエナメル線をU字型に曲げ、2カ所の穴に差し込んだ。島津オートグラフAGS−10kNJを用いて、試験速度20mm/minで上下に引っ張り、サンプルの強度試験を行った。表3に、実施例1から3において調製したβ−TCP含有ゼラチンハイドロゲルと、既存製品の性能比較を示す。
【0051】
【表3】

【0052】
その結果、既存製品と比較して、いずれのβ−TCP含有ゼラチンハイドロゲルも、より強い引張り力に耐えることが分かった。また、既存の製品と比較していずれのβ−TCP入りゼラチンも柔軟性があることがわかった。
【実施例5】
【0053】
実施例1で作製したβ−TCP含有ゼラチンハイドロゲルを、5mm×5mmの大きさに切り取り、クロラミン−T法によりゼラチン分子のチロシン残基に125Iを放射ラベルした。同様に、コーケンティッシュガイドを加工した。これをマウス背部皮下に埋入したのち、経時的にゲルおよび周辺組織を摘出し、残存放射カウントを測定して、架橋ゼラチンハイドロゲルの分解挙動を観察した。
【0054】
この結果、コーケンティッシュガイドの残存期間が4週間程度であったのに対して、実施例1で作製したβ−TCP含有ゼラチンハイドロゲルはマウス背部皮下での残存期間が延長され、3ヶ月程度の残存期間を示すことが分かった。すなわち、より体内での分解耐性の強い膜が作製出来ることが示唆された。
【実施例6】
【0055】
実施例1から3で作製したβ−TCP含有ゼラチンハイドロゲルに、10重量%の濃度に調製した酸性ゼラチンをコーティングした。β−TCP含有ゼラチンハイドロゲルとコーティングした酸性ゼラチンを結合させ、コーティングした酸性ゼラチンを架橋するため、140℃48時間の条件で熱架橋を行った。これにより、コーティングされた酸性ゼラチンは、β−TCP含有ゼラチンハイドロゲルに結合すると共に、自身が架橋されてハイドロゲルとなり、薬物の徐放機能を有するゼラチンハイドロゲル膜となる。これを−80℃で1時間以上予備凍結した後、凍結乾燥を行った。
【実施例7】
【0056】
実施例6で作製した2層構造を持つゼラチンハイドロゲル膜を5mm×5mmに切り取り、酸性ゼラチンをコーティングした面を上にしてシャーレにおいた。そこに、20μlの0.1mg/ml濃度bFGF溶液を上から滴下し、37℃、3時間静置して含浸させた。
【0057】
2mlサンプリングチューブにbFGFを含浸させたゼラチンハイドロゲル膜を入れ、そこにPBSを1mlずつ加え、37℃恒温槽で浸とうしながら薬物を拡散放出させる。0.5、1、2、4、8、12、24時間後に、PBSを全量抜き取り、サンプル溶液とするとともに、都度1mlのPBSを新たに加え、引き続き37℃で浸とうする。
【0058】
それぞれの時間に採取したサンプル溶液中の薬物濃度を算出し、累積して放出量を計算したところ、PBS中にはほとんどbFGFの溶出は見られなかった。つまり、bFGFは薬物徐放用のハイドロゲルと相互作用して単純拡散では放出されないことが分かった。この実験結果から、従来のbFGF含有ゼラチンハイドロゲル(Tissue Regeneration Based on Growth Factor Release. Yasuhiko Tabata, Tissue Engineering, P.S5-S15, vol9, Suppl. 2003)の場合と同様に、本発明の2層構造を持つゼラチンハイドロゲル膜の薬物徐放面から、体内におけるゼラチンハイドロゲルの生分解に伴ってbFGFが徐放されることが想定される。
【実施例8】
【0059】
実施例6と同様の方法により実施例1から3で作製したβ−TCP含有ゼラチンハイドロゲルに、10重量%の濃度に調製したアルカリ性ゼラチンをコーティングした。
【0060】
β−TCP含有ゼラチンハイドロゲルとコーティングしたアルカリ性ゼラチンを結合させ、コーティングしたアルカリ性ゼラチンを架橋するため、140℃48時間の条件で熱架橋を行った。これにより、コーティングされたアルカリ性ゼラチンは、β−TCP含有ゼラチンハイドロゲルに結合すると共に、自身が架橋されてハイドロゲルとなり、薬物の徐放機能を有するゼラチンハイドロゲル膜となる。これを−80℃で1時間以上予備凍結した後、凍結乾燥を行った。
【実施例9】
【0061】
実施例8で作製した2層構造を持つゼラチンハイドロゲル膜を5mm×5mmに切り取り、アルカリ性ゼラチンをコーティングした面を上にしてシャーレにおいた。そこに、20μlの0.1mg/ml濃度BMP−2溶液を上から滴下し、37℃、3時間静置して含浸させた。
【0062】
2mlサンプリングチューブにBMP−2を含浸させたゼラチンハイドロゲル膜を入れ、そこにPBSを1mlずつ加え、37℃恒温槽で浸とうしながら薬物を拡散放出させる。0.5、1、2、4、8、12、24時間後に、PBSを全量抜き取り、サンプル溶液とするとともに、都度1mlのPBSを新たに加え、引き続き37℃で浸とうする。
【0063】
それぞれの時間に採取したサンプル溶液中の薬物濃度を算出し、累積して放出量を計算したところ、PBS中にはほとんどBMP−2の溶出は見られなかった。つまり、BMP−2は薬物徐放用のハイドロゲルと相互作用して単純拡散では放出されないことが分かった。この結果から、本発明の2層構造を持つゼラチンハイドロゲル膜の薬物徐放面からは、体内における生分解によって徐放されることが間接的に示された。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、本発明のハイドロゲル膜を用いる歯周病治療の模式図を示す。
【図2】図2は、強度測定用のサンプルの加工図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性材料で補強されたゼラチンハイドロゲル層と、薬物徐放機能を有するゼラチンハイドロゲル層とからなる2層構造を持つことを特徴とする、歯科治療用膜。
【請求項2】
ゼラチンが、アルカリ処理ゼラチンまたは酸処理ゼラチンである、請求項1記載の歯科治療用膜。
【請求項3】
生体吸収性材料が、β−TCPである、請求項1記載の歯科治療用膜。
【請求項4】
薬物徐放機能を有するゼラチンハイドロゲル層にbFGFを含む、請求項1記載の歯科治療用膜。
【請求項5】
薬物徐放機能を有するゼラチンハイドロゲル層にBMP−2を含む、請求項1記載の歯科治療用膜。
【請求項6】
組織誘導再生法(GTR法)または骨誘導再生法(GBR法)に用いる、請求項1から5に記載の歯科治療用膜。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−67732(P2009−67732A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238756(P2007−238756)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(503265876)株式会社メドジェル (15)
【Fターム(参考)】