説明

歯根破折検出装置及びプログラム

【課題】 デンタルX線画像から歯根破折を確実に検出できるようにする。
【解決手段】 X線画像検査装置は、検査対象となる歯のX線画像データから歯の歯根近傍の病変部の輪郭を抽出する抽出手段と、抽出された輪郭を基に前記病変部の形状に関する測定量を求め、この測定量を基に、歯の破折の状態を判別するための評価値を計算する判別手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯のデンタルX線画像の画像処理に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療で、抜歯が必要となる状況には、歯周病、いわゆる虫歯、破折、入れ歯のために行う抜歯(便宜抜歯)などがある。とくに、抜歯が必要かどうか判断が困難な状況に、歯根部の破折(歯根破折)がある。難症例とされる症例の何がしかは歯根破折が主因であることが多い。歯根破折の程度にもよるが、破折した歯は一般的に抜歯されるが、一部、接着することにより対応する場合もある。
【0003】
現状での歯根破折の検出は、患者の症状、主訴などを元に歯根破折の疑いがあるのでないかと検討するレベルである。難症例とされる症例の何がしかは歯根破折が主因であることが多い。歯根破折は、X線画像を撮ることにより検知できる場合もある。しかし、特に縦方向に割れている垂直性歯根破折は、X線画像では検出できないことが多い。また、垂直性歯根破折のX線画像所見は、しばしば、歯根部で生じる根尖病変と類似する。(歯の根尖とは、歯槽骨に結合される端部をいう。)したがって、X線画像による歯根破折の判断が困難なことが多い。歯根破折の場合、一般的には抜歯するのが通常であるが、最大の問題点は、抜歯したけれども歯根破折が存在せず抜歯する必要がなかったことが判明する症例も起こりうることである。この場合は抜歯以外の方法で治療を進めるべきであったことになる。歯科治療では、できるだけ抜歯をしないで治療することが望まれているため、これは、歯科医としてはできるだけ避けたい状況である。逆に、歯根破折と気付かずに治療を続けたが好転せず、最終的にやむを得ず抜歯して、歯根破折が原因であったことがわかる症例もある。現状では、歯根破折であるかどうかは抜歯などの外科的手段により初めて明らかになることである。
【0004】
なお、本発明では、デンタルX線画像において根尖病変部近傍の透過像を用いて歯根破折を検出するが、病変部透過像については1999年のAvid Tamseらの報告がある(非特許文献1参照)。この報告によれば、上顎小臼歯において破折歯の約60%で暈状のX線透過像を、非破折歯の約60%で根尖に限局したX線透過像を認めている。
【非特許文献1】Tamse A, Fuss Z, Lustig J, Ganor Y, Kaffe I著、「Radiographic features of vertically fractured, endodontically treated maxillary premolars」Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod, 88,1999年,第348頁-第352頁.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来の歯科治療では、歯根破折を起こしているか否かの診断基準がなかった。診断基準がないのであるから、もちろん、歯根破折を検出するための装置はなかった。歯科医としては、歯根破折を疑う症状の場合、抜歯すべきかどうかは悩むところであり、歯根破折を起こしているか否かの正確な判断を可能にすることが要望されている。
【0006】
本発明の目的は、デンタルX線画像から歯根破折を確実に検出できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るX線画像検査装置は、検査対象となる歯を含む領域のX線画像データから歯の歯根近傍の病変部の輪郭を抽出する抽出手段と、抽出された輪郭を基に前記病変部の形状に関する測定量を求め、この測定量を基に、歯の破折の状態を判別するための評価値を計算する判別手段とを備える。
【0008】
前記X線画像検査装置において、たとえば、前記画像データが2次元の画像データであり、前記判別手段は、前記病変部の輪郭線の長さの二乗と、前記病変部が占める領域の面積との比を前記評価値として求める。または、前記判別手段は、前記病変部の輪郭線の長さと、前記病変部が占める領域の面積との比を前記評価値として求める。または、前記判別手段は、前記病変部の輪郭線の内側にある1つの点から前記輪郭線までの距離を求め、求めた距離の偏差を前記評価値として求める。または、前記判別手段は、前記病変部の輪郭線の長さと、前記病変部が占める領域の面積との比、または、前記病変部の輪郭線の長さの二乗と、前記病変部が占める領域の面積との比を第1の値とし、前記病変部の輪郭線の内側にある1つの点から前記輪郭線までの距離の偏差を第2の値とし、第1の値と第2の値を変数とする評価値を計算して歯の破折の状態を判別する。
【0009】
前記X線画像検査装置において、前記判別手段は、たとえば、さらに、該評価値に対応して予め設定された評価式より、破折であるか否かの確率を計算する演算手段を備え、計算された前記確率を基に歯の破折の状態を判別する。
【0010】
前記X線画像検査装置は、好ましくは、さらに、X線フィルムを読み取ってデジタル化して、前記X線画像データを出力するデジタル化装置を備える。または、好ましくは、さらに、検査対象となる歯を含む領域の透過X線を検出し、前記X線画像データを出力する電気的X線検出装置を備える。
【0011】
前記X線画像検査装置は、好ましくは、さらに、前記判別手段で判別した歯の破折の状態を出力する出力手段を備える。
【0012】
本発明に係るX線画像検査プログラムは、検査対象となる歯のX線画像データから歯の歯根近傍の病変部の輪郭を抽出するステップと、抽出された輪郭を基に前記病変部の形状に関する測定量を求めるステップと、求められた測定量を基に形状の複雑さを表す評価値を計算して歯の破折の状態を判別するステップとをコンピュータに実行させるためのプログラムである。このプログラムは、たとえば、さらに、計算された該評価値に対応して予め設定された評価式より、破折であるか否かの確率を計算するステップを含む。また、本発明に係るコンピュータ読み出し可能な記録媒体は、上述のX線画像検査プログラムを記録している。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、デンタルX線画像を元に、歯根破折が発生しているか否かの精度の高い情報を提供できる。また、画像処理、数理処理であるため、瞬時にして判断できる。また、結果は、経験に依存しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面を参照して説明する。
【0015】
歯科の治療ではほとんどの症例でX線画像が撮影される。したがって、デンタルX線画像から対象の歯に歯根破折があるかどうかを認識できることが望ましい。本発明では、デンタルX線画像上で根尖部の周辺に生じる病変部透過像から歯根破折を検出するための新しい検出装置を提供する。
【0016】
図1は、歯根破折を検出するシステム(X線画像検査装置)を示す。X線写真フィルムを読み込むスキャナ10またはX線CCDセンサを内蔵した撮影装置12が、コンピュータ14の入出力インタフェース16に接続されている。コンピュータ14は、たとえば、通常の構成のパーソナルコンピュータ(PC)である。全体を制御するCPU18には、入出力インタフェース16の他に、プログラムなどを記憶したROM20、ワークエリアであるRAM22、キーボード、マウスなどの入力装置24、表示用の画面を備えた表示装置26、ハードディスク装置28などが接続される。ハードディスク装置28には、後述の図2の説明にかかるX線画像検査プログラムおよび該X線画像検査プログラムを補助する画像処理プログラムを含んだ各種アプリケーション30、デジタルX線画像のデータを収納するデジタルX線画像ファイル32などが記憶されている。また、ハードディスク装置28には、入力した画像データのみならず、後で説明する輪郭抽出後の画像データを記憶できる。
【0017】
歯の状態の判別の概略は以下の通りである。歯を含む領域のX線写真フィルムをスキャナ10で読み込んでデジタル化して、そのX線画像データであるデジタルデータをコンピュータ14に入力する。または、X線用のCCDセンサを内蔵した撮影装置12を用いて撮影して、そのX線画像をリアルタイムで撮影装置12からコンピュータ14に読み込む。撮影装置12は歯を含む領域の透過X線を検出し、X線画像データを出力する電気的X線検出装置である。後者の場合は、デジタル化作業は不要になる。なお、図示しないCD−ROM装置等の外部からのデータ取得手段を設けて、画像データを格納したCD−ROM等からX線画像データを読み込んでもよい。読み込まれた2次元の画像データは、ハードディスク装置28にデジタルX線画像ファイル32として記憶される。次に、デジタルX線画像を、各種アプリケーション30の1つである、前記画像処理プログラムを使用して解析し、歯根周囲または近傍の病変部を示す病変部透過像の輪郭を抽出する。ここで、病変部透過像の輪郭の複雑さを定量化して、歯の状態をCPU18により判別する。「歯の状態の判別」とは、具体的には破折の有無の判断または破折であるか否かの確率の算出である。定量化される検査の評価値については後で説明する。判別の結果は、表示装置26の画面に表示される。
【0018】
デンタルX線画像において、垂直性歯根破折が原因で生じる歯根近傍の病変部透過像の輪郭は根尖性歯周炎のそれに比較して、辺縁の凹凸が多く複雑である。そこで、前記画像処理プログラムを用いて、病変部透過像の輪郭を解析し、破折を検査する。具体的には、まず、デンタルX線画像から、歯根近傍の病変部透過像の輪郭を抽出する。抽出する対象は、デンタルX線画像の上で根尖周囲ないし歯根近傍に存在する病変部透過像の輪郭である。病変部透過像の輪郭抽出は種々の手法でおこなえる。たとえば、画像の濃淡から画像処理プログラムのエッジ強調処理などで自動的に輪郭を抽出できる。また、病変部の輪郭を、画面上に表示されたX線画像においてユーザが輪郭を読み取って手動の抽出手段により抽出してもよい。たとえば、ユーザが画面上でマウスで輪郭をたどった軌跡を抽出する。ディスプレイに触れさせて入力するコンピュータ入力用のペンを用いても良い。また、写真上でユーザがペン等でたどった輪郭を基にスキャンして抽出してもよい。次に、抽出された病変部透過像の輪郭の複雑さを定量化する。定量化した値は、歯の状態、すなわち、歯根破折の有無を判断するための評価値(指標)として用いることができる。これにより、X線画像の画像処理と数理処理を用いて歯の状態は瞬時にして判断できる。また、この判断は経験に依存しない。
【0019】
歯根破折による透過像の輪郭は根尖性歯周炎のそれに比較して辺縁の凹凸が多く複雑である。定量化される評価値は、輪郭の形状の複雑さを表すものであり、例としては以下に定義される複雑度と偏差、ここでは半径標準偏差が用いられる。
(1)複雑度=(病変部透過像の輪郭の周囲長)*(病変部透過像の輪郭の周囲長)/面積
(2)半径標準偏差(Radial Sd)、すなわち、抽出された病変部透過像の内側の1点(たとえば重心)から周縁までの距離の標準偏差(たとえば平均半径のパーセントで表わす)
ここで、複雑度は、閉曲線の複雑さを示す量であり、半径標準偏差は、正円への近似度を示す量である。複雑度または半径標準偏差が所定値より大きい場合に破折であると判断する。なお、複雑度は、病変部透過像の輪郭線の長さ(周囲長)の二乗と、前記病変部透過像が占める領域の面積との比を表すものであるが、長さaの二乗a2と面積bの比としては,a2/bのみならず、それから導出される量、たとえば、log(a2/b)などを用いてもよい。また、複雑度の変形として、病変部透過像の輪郭の周囲長/面積を用いてもよい。また、これらの2つの評価値(複雑度と半径標準偏差)のうち一方のみを用いて破折の状態を判別してもよいが、双方を組み合わせて用いてもよい。病変部透過像の周囲長や、抽出された病変部透過像の内側の1点から周縁までの距離は、病変部の形状に関する測定量であり、複雑度や半径標準偏差は、この測定量を基に求められた評価値ということができる。また、後で説明するロジスティック回帰分析において示すように、2つの評価値を変数として用いて破折であるか否かの確率を求めるようにしてもよい。
【0020】
図2は、X線画像検査プログラムのフローチャートを示す。まず、歯根近傍のX線画像のデジタル画像データを入力し(S10)、入力画像データは、ハードディスク装置28に記憶するとともに、表示装置26の画面に表示する(S12)。次に、画像データの上で根尖近傍に存在する病変部透過像の輪郭を抽出する(S14)。次に、抽出された病変部透過像の輪郭について、輪郭の複雑さ(縁辺部の凹凸)を表す評価値を求める。ここで、抽出した輪郭について、輪郭線の長さと病変部透過像が占める面積を測定し(S16)、輪郭線の長さを二乗し(S18)、輪郭の半径の偏差を計算する(S20)。そして、得られた長さの二乗、面積、偏差から評価値(複雑度、半径標準偏差など)を算出する(S22)。次に、評価値から破折有りの確率が高いか否かを判断する(S24)。破折有りの確率が高くない場合は、破折無しの評価を画面に表示し(S26)、破折有りの確率が高い場合は、破折有りの評価を画面に表示する(S28)。なお、ステップS16〜S22の評価値の計算は、計算する評価値に合わせて変更される。たとえば、複雑度だけを計算する場合は、ステップS20の処理はしなくてよい。逆に半径標準偏差だけを計算する場合は、ステップS16,S18の処理はしなくてよい。また、ステップS22では、その前のステップで得られた量を基に評価値を計算する。
【0021】
デンタルX線画像についての病変部透過像の輪郭の抽出と評価値の計算について具体例を説明する。歯根近傍の病変部(歯根破折による病変、根尖性歯周炎など)は、歯根近傍の歯槽骨を主とした組織が破壊されたために生じ、X線が透過しやすくなる。この、X線の透過により得られた、破壊した組織の像を病変部透過像という。病変部透過像を抽出したのは、抜歯または外科的歯内療法により、破折の有無が明らかとなった症例の術前デンタルX線写真33枚である。これらのうち、垂直性歯根破折(実験群1:破折群)は上顎前歯3症例および上顎小臼歯7症例の計10症例、根尖性歯周炎(実験群2:非破折群)は上顎前歯16症例および上顎小臼歯7症例の計23症例であった。これらのデンタルX線写真は、スキャナ10(GT-9600、セイコーエプソン)で取り込み、デジタル化した。根尖近傍の病変部透過像の読影は、患歯の破折の有無を知る2名(A群評価者1(卒後1年)およびA群評価者2(卒後3年)と、患歯の破折の有無を知らされていない2名(B群評価者1(卒後5年)およびB群評価者2(卒後18年))の歯科医師が行った。コンピュータ14として、パーソナルコンピュータ(Vaio PCV-R251、ソニー)を用い、表示装置26として液晶カラーディスプレイ(SDM-X72、ソニー)を用い、画像処理プログラムであるフォトショップ(Photoshop 7.0、アドビ、 米国)上に表示されたX線画像の病変部透過像の輪郭を抽出した。ここで、フォトショップのマグネット選択ツールで病変部透過像の輪郭を選択し、輪郭を手動で抽出して注目領域(ROI)とした。マグネット選択ツールは、複数の点を選択するとその間を線で結んで輪郭を半自動的に描くツールである。次に、画像処理プログラムであるIPlab 3.0 (Scanalytics Inc., 米国)を用いて、抽出した注目領域の複雑度および半径標準偏差を計算した。これらの画像処理プログラムは、破折の状態を判別する前記X線画像検査プログラムを補助する役割を果たしている。
【0022】
図3は、上顎小臼歯の垂直性歯根破折のデンタルX線画像について、4人の評価者により、左端のX線画像から抽出された病変部透過像を示す。図3では、上側に、X線画像上で抽出された病変部透過像を示し、中央に、抽出された病変部透過像のみを示し、下側に、抽出された病変部透過像の複雑度と半径標準偏差(Radial SD)を記載する。同様に、図4は、上顎小臼歯の根尖性歯周炎のデンタルX線画像について、左端のX線画像から4人の評価者により手動で抽出された病変部透過像を示す。図4では、上側に、X線画像上で抽出された病変部透過像を示し、中央に、抽出された病変部透過像のみを示す。また、下側に、抽出された病変部透過像の複雑度と半径標準偏差(Radial SD)を記載する。図3と図4を比較するとわかるように、垂直性歯根破折と根尖性歯周炎とでは病変部透過像の複雑さがまったく異なり、これが、複雑度と半径標準偏差に反映されている。デンタルX線画像において、垂直性歯根破折による病変部透過像の輪郭は根尖性歯周炎のそれに比較して、辺縁の凹凸が多く複雑であることがいえる。
【0023】
得られた結果について、有意水準5%にて、注目領域の複雑度および半径標準偏差(Radial SD)の2元配置分散分析を用い、統計学的に解析を行った。図5と図6は、上述の上顎前小臼歯と下顎大臼歯の症例についての複雑度および半径標準偏差の相関を示す。複雑度および半径標準偏差との間に相関があり、また、特に値が小さい場合に相関が高いことがわかる。また、図7と図8は、それぞれ、4人の評価者により得られた複雑度と半径標準偏差の平均値を示す。実験群1および2に対して行った2元配置分散分析の結果、複雑度および半径標準偏差について、いずれも、読影者(観察者)の間に有意差は認められなかった(p>0.05)が、破折の有無で有意差を認めた(p<0.05)。すなわち、根尖近傍に存在する病変部透過像の複雑度および半径標準偏差は、読影者によらなかった。また、両項目ともに垂直性歯根破折群が根尖性歯周炎群に比較して、有意に高い値を示した。
【0024】
読影者A群で、実験群1および2の正答率が最大となるように複雑度および半径標準偏差の境界値を求めた。複雑度および半径標準偏差の境界値は、それぞれ47.0および35.5であった。そして、複雑度または半径標準偏差が境界値より大きい場合には垂直性歯根破折、小さい場合には根尖性歯周炎と判定して正答率を出した。次に、これを読影者群Bの読影結果に適用し、正答率を求めた。
【表1】

【0025】
さらに、下顎大臼歯において垂直性歯根破折を確認した9症例(実験群3)および根尖性歯周炎と判定され、通常の根管治療で治癒傾向を確認できた8症例(実験群4)の術前デンタルX線画像を対象に、読影者群AおよびBについて、実験群1および2と同様に、関心領域を求め、正答率を算出した。表1に示されるように、A群、B群ともに50%以上の正答率が得られた。
【0026】
次に、ロジスティック回帰分析を用いてデータを解析する例を説明する。ロジスティック回帰分析とは、ある事象が発生する確率Pを、その現象の生起を説明するために観測された変数群Xを用いてモデル化したものである。ロジスティック回帰分析を用いるのは、独立変数pが量的、従属変数xが質的変数であるからである。ロジスティック回帰分析では、x=(x1,x2,・‥,xr)という状態の下で現象が発生するという条件つき確率P(x)を算出する。複雑度と半径標準偏差を表す変数x,xを用いるので、次のロジスティック回帰モデルの式
Logit(P)=log(P/(1-P))=b0+blxl+b2x2
より、確率P(x)は次のようにあらわされる。
P(x)=exp(b0+blxl+b2x2)/(1+exp(b0+blxl+b2x2))
ここにb,b1,b2は係数である。
【0027】
ここで、読影者B群の実験群1,2についてロジスティック回帰分析を行った。上述のロジスティック回帰式P(x)を用いたロジスティック回帰分析の結果は表2の通りである。表2には、各係数の標準誤差、オッズ比および95%信頼区間を示している。こうして求められたロジスティック回帰式を用いて演算される確率Pは、破折確率として用いることができる。
【表2】

この実施例においては、複雑度を第1の値とし、半径標準偏差(Radial Sd)を第2の値とし、前記第1の値と第2の値を変数とする評価値を計算し、該評価値に対応して予め設定された評価式より、破折であるか否かの確率を計算し、計算された前記確率を基に歯の破折の状態を判別しているといえる。
【0028】
さらに、ベイズ法を用いて、上記のようにしてロジスティック回帰分析により得た確率を事前確率P(X)とし、経験的に得た正答率を尤度P(D|X)として、事後確率P(X|D)を求めてもよい。ベイズの定理によれば、事後確率は以下の式により求められる。
P(X|D)=P(D|X)*P(X)/P(D)
X線画像データの解析は、以下の順に行う。(1)非破折群より破折群で高い値を示した実験群1,2の複雑度と半径標準偏差を用いたロジスティック回帰分析より得られたP(X)を事前確率とする。次に、(2)実験群1、2の結果に適応し、ロジスティック回帰モデルを用いた判定の正答率から尤度P(D|X)を算出する。そして、(3)実験群3、4で病変部透過像の輪郭から得られた複雑度と半径標準偏差より事前確率P(X)を求め、尤度と併せて事後確率P(X|D)を算出した。その結果、破折である確率P(X|D)は実験群で有意差を認めた(p<0.05〉が、観察者間の交互作用は認めなかった(p>0.05)。
【0029】
なお、輪郭の複雑さを表す評価値の例として、複雑度や半径標準偏差を説明したが、その他の例として、次に定義される評価値Vがある。図9は、評価値Vを説明するための歯及び病変部透過像の図である。歯根には破折が発生している。図において、ハッチング部分が病変部を表している。ここで、根尖部の1点Pを中心として同心円を描く。病変部は、各円a及び環2a,3a,・・・,6aの一部を少しずつ占めていて、病変部が複雑な形状であることを示している。ここで、S,S,・・・,Sを、a,2a,・・・,6aの領域において病変部が占める面積とし、T,T,・・・,Tを、a,2a,・・・,6aの領域において病変部が占めない面積として、次の評価値を定義する。
【数1】

Vが一定値より小さい場合は破折であると判断する。ただし、たとえばSが0であれば、下記のように算入しない。
【数2】

【0030】
上述の結果から、複雑度および半径標準偏差は、読影者によらず垂直性歯根破折の有無を示す。デンタルX線画像に抽出される病変部透過像形成に寄与する解剖学的構造は、根尖の位置、皮質骨の厚さなど、上顎前・小臼歯部と下顎大臼歯部とでは異なっている。しかし、歯根破折が原因で生ずる病変部透過像の輪郭は、根尖性歯周炎のそれに比較して辺縁の凹凸が多く複雑であり、上述の結果により、デンタルX線画像での根尖部病変部透過像の複雑度および半径標準偏差は、部位にかかわらず垂直性歯根破折を示す評価値となりうることがわかった。また、デンタルX線画像での根尖近傍の病変部透過像の輪郭を抽出することにより、破折の確率を算出できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】歯根破折を検出するシステムのブロック図
【図2】画像処理フローチャート
【図3】上顎小臼歯の垂直性歯根破折のデンタルX線画像から抽出された病変部透過像、抽出された病変部透過像、および、複雑度と半径標準偏差を示す図
【図4】上顎小臼歯の根尖性歯周炎のデンタルX線画像から抽出された病変部透過像、抽出された病変部透過像、および、複雑度と半径標準偏差を示す図
【図5】上顎前小臼歯の症例についての複雑度および半径標準偏差の相関を示すグラフ
【図6】下顎大臼歯の症例についての複雑度および半径標準偏差の相関を示すグラフ
【図7】複雑度の平均値を示すグラフ
【図8】半径標準偏差の平均値を示すグラフ
【図9】評価値Vを説明するための図
【符号の説明】
【0032】
10 スキャナ、 12 X線CCDセンサを内蔵した撮影装置、 14 コンピュータ、 18 CPU、 26 表示装置、 28 ハードディスク装置、 30 X線画像検査プログラムおよび該X線画像検査プログラムを補助する画像処理プログラムを含んだ各種アプリケーション、 32 デジタルX線画像ファイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象となる歯を含む領域のX線画像データから歯の歯根近傍の病変部透過像の輪郭を抽出する抽出手段と、
抽出された輪郭を基に前記病変部透過像の形状に関する測定量を求め、この測定量を基に、歯の破折の状態を判別するための評価値を計算する判別手段と
を備えることを特徴とするX線画像検査装置。
【請求項2】
前記画像データが2次元の画像データであり、前記判別手段は、前記病変部透過像の輪郭線の長さの二乗と、前記病変部透過像が占める領域の面積との比を前記評価値として求めることを特徴とする請求項1記載のX線画像検査装置。
【請求項3】
前記X線画像データが2次元の画像データであり、前記判別手段は、前記病変部透過像の輪郭線の長さと、前記病変部透過像が占める領域の面積との比を前記評価値として求めることを特徴とする請求項1記載のX線画像検査装置。
【請求項4】
前記画像データが2次元の画像データであり、前記判別手段は、前記病変部透過像の輪郭線の内側にある1つの点から前記輪郭線までの距離を求め、求めた距離の偏差を前記評価値として求めることを特徴とする請求項1記載のX線画像検査装置。
【請求項5】
前記画像データが2次元の画像データであり、前記判別手段は、前記病変部透過像の輪郭線の長さと、前記病変部透過像が占める領域の面積との比、または、前記病変部透過像の輪郭線の長さの二乗と、前記病変部透過像が占める領域の面積との比を第1の値とし、前記病変部透過像の輪郭線の内側にある1つの点から前記輪郭線までの距離の偏差を第2の値とし、前記第1の値と第2の値を変数とする評価値を計算することを特徴とする請求項1記載のX線画像検査装置。
【請求項6】
前記判別手段は、さらに、該評価値に対応して予め設定された評価式より、破折であるか否かの確率を計算する演算手段を備え、計算された前記確率を基に歯の破折の状態を判別することを特徴とする請求項1記載のX線画像検査装置。
【請求項7】
さらに、X線フィルムを読み取ってデジタル化して、前記X線画像データを出力するデジタル化装置を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のX線画像検査装置。
【請求項8】
さらに、検査対象となる歯を含む領域の透過X線を検出し、前記X線画像データを出力する電気的X線検出装置を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のX線画像検査装置。
【請求項9】
さらに、
前記判別手段で判別した歯の破折の状態を出力する出力手段を備えたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のX線画像検査装置。
【請求項10】
検査対象となる歯を含む領域のX線画像データから歯の歯根近傍の病変部透過像の輪郭を抽出するステップと、
抽出された輪郭を基に前記病変部透過像の形状に関する測定量を求めるステップと、
求められた測定量を基に形状の複雑さを表す評価値を計算して歯の破折の状態を判別するステップと
をコンピュータに実行させるための、X線画像検査プログラム。
【請求項11】
さらに、計算された該評価値に対応して予め設定された評価式より、破折であるか否かの確率を計算するステップを含み、計算された前記確率を基に歯の破折の状態を判別することを特徴とする、請求項10に記載されたX線画像検査プログラム。
【請求項12】
請求項10または11に記載のX線画像検査プログラムを記録したコンピュータ読み出し可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−122451(P2006−122451A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316213(P2004−316213)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年5月7日 特定非営利活動法人日本歯科保存学会発行の「日本歯科保存学雑誌 第47巻春季特別号 2004年春季学会(第120回)」に発表
【出願人】(000138185)株式会社モリタ製作所 (173)
【Fターム(参考)】