説明

歯磨組成物

【課題】露出した象牙質の表面における象牙質細管の開口部を即効的かつ充分に封鎖して、象牙質知覚過敏症に起因する痛みを効果的に防止することのできる歯磨組成物を提供する。
【解決手段】次の成分(A)、(B)並びに(C):(A)炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とする脂肪酸二価金属塩(A−1)、炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とするアシル基を有する脂肪酸アシルリシン(A−2)、及び炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とするアシル基を有する脂肪酸アシルタウリン二価金属塩(A−3)から選ばれる水難溶性粉体、(B)粉末セルロース(B−1)又はエーテル化度が0.1〜0.6のカルボキシメチルセルロース若しくはその塩(B−2)、並びに(C)水を含有する歯磨組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の水難溶性粉体を含有する歯磨組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
象牙質知覚過敏症は、歯面に機械的、温度的或いは化学的刺激が与えられた際に疼痛が誘発される疾患である。歯周炎の進行や加齢、強い歯磨処理等によって、歯肉の退縮や歯牙のエナメル質の損傷が生じ、これらに被覆されていた歯牙の象牙質が露出することが要因となる。従来より、このような象牙質知覚過敏症を予防又は治療するために種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、重炭酸カリウム及び塩化カリウムの中から選択されたカリウム塩を有効量で施用する方法が開示されており、カリウムイオンの作用によって知覚神経自体の活動の低下を図り、疼痛を緩和させるものである。
【0004】
一方、再石灰化を促進して歯を元の健康な状態に戻すことも、象牙質知覚過敏症の発症を抑制するのに寄与し得る。例えば、特許文献2には、再石灰化成分として、フッ素化合物と、酸化亜鉛やクエン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の水難溶性亜鉛化合物を含有する口腔用組成物が開示されている。
【0005】
他方、象牙質知覚過敏症の発症メカニズムとしては、動水力学説、すなわち、露出した象牙質の表面では象牙質細管が開口し、外部からの刺激がこの開口部から象牙質細管内の組織液へと伝達され、組織液の流動が細管内の奥端部に位置する歯髄神経に到達して、疼痛が知覚されるという説が支持されている。こうした説に基づき、象牙質知覚過敏症の発症を抑制すべく、例えば、特許文献3には、アルミニウム化合物を含有する第一液と、リン酸化合物等を含有する助剤とに分離構成した知覚過敏症用塗布剤が開示されており、第一液と助剤との反応によってアルミニウム塩を沈着させることで、象牙質細管の開口部を物理的に封鎖する試みがなされている。また、特許文献4に開示されている象牙質知覚過敏予防・治療剤は、乳酸アルミニウム等の金属塩とポリオールリン酸エステル等との反応により形成されるコロイドによって、特許文献2に開示された口腔用組成物と同様に、象牙質細管の開口部の封鎖を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表昭61−501389号公報
【特許文献2】特開2000−247852号公報
【特許文献3】特開平6−116153号公報
【特許文献4】特開平5−117157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の知覚神経の活動を低下させる方法は、知覚神経周辺のイオンバランスを変化させて神経を鈍感にさせるため、充分に疼痛を低減できないおそれがある。また、特許文献2に記載の口腔用組成物がもたらす再石灰化は緩和な作用であるため、象牙質知覚過敏症の発症を即効的に抑制するのは困難である。
【0008】
こうしたことから、象牙質知覚過敏症の発現を防止する手段として、特許文献3〜4に記載の剤のように、象牙質細管の開口部を封鎖して、象牙質細管内の組織液の流動を抑制することが提案されている。しかしながら、特許文献3は乳酸アルミニウム塩を形成させるため、この塩を象牙質細管の開口部に効果的に沈着させることは難しく、特許文献4に記載のコロイドによっても、象牙質細管の開口部を充分に封鎖することは難しい。
【0009】
したがって、本発明の課題は、露出した象牙質の表面における象牙質細管の開口部を即効的かつ充分に封鎖して、象牙質知覚過敏症に起因する痛みを効果的に防止することのできる歯磨組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者らは、特定の脂肪酸二価金属塩、脂肪酸アシルリシン、脂肪酸アシルタウリン二価金属塩から選ばれる水難溶性粉体と、粉末セルロース又は特定のカルボキシメチルセルロースとを水とともに併用することで、象牙質細管の開口部を即効的かつ充分に封鎖することのできる歯磨組成物が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、次の成分(A)、(B)並びに(C):
(A)炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とする脂肪酸二価金属塩(A−1)、炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とするアシル基を有する脂肪酸アシルリシン(A−2)、及び炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とするアシル基を有する脂肪酸アシルタウリン二価金属塩(A−3)から選ばれる水難溶性粉体、
(B)粉末セルロース(B−1)又はエーテル化度が0.1〜0.6のカルボキシメチルセルロース若しくはその塩(B−2)、並びに
(C)水
を含有する歯磨組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の歯磨組成物によれば、歯ブラシ等を用いてブラッシングすることにより、露出した象牙質の表面に存在する象牙質細管の開口部を即効的かつ充分に封鎖することができる。したがって、本発明の歯磨組成物を用いれば、象牙質知覚過敏症に起因する痛みを効果的に防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(a)は、象牙質細管の開口部の殆どが露出している象牙質の表面のマイクロスコープ写真であり、図1(b)は、象牙質の開口部の殆どが封鎖されている象牙質の表面のマイクロスコープ写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の歯磨組成物は、炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とする脂肪酸二価金属塩(A−1)、炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とするアシル基を有する脂肪酸アシルリシン(A−2)、及び炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とするアシル基を有する脂肪酸アシルタウリン二価金属塩(A−3)から選ばれる水難溶性粉体(A)を含有する。本発明で用いる水難溶性粉体(A)は、25℃において100gの水に対して溶解する量が0.1g未満である粉体であり、好ましくは溶解する量が0.05g未満である粉体、又は水に実質的に溶解しない粉体である。また、かかる水難溶性粉体(A)は、延展性に優れており、ブラッシングの際、歯ブラシ等の毛先が露出した象牙質の表面に直接的又は間接的に負荷をかけながら接触することで、歯磨組成物に含まれる水難溶性粉体(A)が象牙質細管の開口部を封鎖することができる。水難溶性粉体(A)は、延展して伸びが良いことから、本発明の歯磨組成物の使用により、象牙質細管の開口部の周辺に展着しながら延展すると考えられ、象牙質細管の開口部を効果的に封鎖することができる。
【0015】
本発明の歯磨組成物は、脂肪酸二価金属塩(A−1)、脂肪酸アシルリシン(A−2)、脂肪酸アシルタウリン二価金属塩(A−3)から選ばれる水難溶性粉体(A)を、1種単独で含有することも2種以上で含有することも可能である。水難溶性粉体(A)の合計含有量は、象牙質細管の開口部の封鎖性及び良好な味を確保する点から、本発明の歯磨組成物中に、好ましくは0.1〜2質量%であり、より好ましくは0.2〜1.5質量%であり、さらに好ましくは0.4〜1.2質量%である。
【0016】
成分(A−1)の脂肪酸二価金属塩は、炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とするものであり、2つの飽和脂肪酸と二価金属とから構成される。かかる飽和脂肪酸としては、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸が挙げられる。なかでも、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が好ましく、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸がより好ましい。成分(A−1)を構成する2つの飽和脂肪酸は、同一であることが好ましい。また、二価金属としては、具体的には、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。なかでも、口腔内への適用性、延展性及びコスト面の点から、亜鉛、カルシウム、マグネシウムが好ましく、亜鉛、カルシウムがより好ましい。
【0017】
成分(A−2)の炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とするアシル基を有する脂肪酸アシルリシンは、上述のような炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とするアシル基を分子内に有しており、なかでもN-飽和脂肪酸を由来とするアシル基を有するアシルリシンが好ましい。かかる脂肪酸アシルリシン(A−2)としては、例えば、N−ラウロイルリシン、N−ミリストイルリシン、N−パルミトイルリシン、N−ステアロイルリシン等が挙げられ、このうち、感触に優れるN−ラウロイルリシンが好ましい。N−ラウロイルリシンは、市販品ではNε−ラウロイル−L−リシンとして、商品名アミホープLL(味の素(株))等を入手することができる。
【0018】
成分(A−3)の炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とするアシル基を有する脂肪酸アシルタウリン二価金属塩は、上述のような炭素数が12〜18の飽和脂肪酸を由来とするアシル基と、タウリン基とからなる脂肪酸アシルタウリン基を分子内に有しており、なかでも脂肪酸アシルタウリン基は、N-飽和脂肪酸アシルタウリン基が好ましい。かかる脂肪酸アシルタウリン基としては、例えば、N-ラウロイルタウリン、N-ミリストイルタウリン、N-パルミトイルタウリン、N-ステアリロイルタウリン等が挙げられ、使用感、象牙質細管の開口部封鎖性の点からN-ラウロイルタウリン基が好ましい。かかる脂肪酸アシルタウリン二価金属塩(A−3)の二価金属としては、カルシウム、亜鉛、マグネシウム等が好ましく、使用感、象牙質細管の開口部封鎖性の点から亜鉛、カルシウムが好ましく、さらにカルシウムが好ましい。
【0019】
本発明の歯磨組成物は、粉末セルロース又はエーテル化度が0.1〜0.6のカルボキシメチルセルロース若しくはその塩(B)を含有する。以下、成分(B)について、粉末セルロースを成分(B−1)、エーテル化度が0.1〜0.6のカルボキシメチルセルロース若しくはその塩を成分(B−2)と称する。
【0020】
本発明で用いる粉末セルロース(B−1)は、平均重合度が440〜2250であり、平均重合度が350以下の結晶セルロースと比べ、重合度及び結晶化度が異なるのみならず、物性が顕著に異なる。例えば、結晶セルロースはピーリング剤等としても用いられるように適度な研磨性を有するが、粉末セルロースには研磨性は殆どない。また、粉末セルロース(B−1)は水に難溶であるが、吸水性を有しており、保水効果を発揮する。水分を保持した粉末セルロース(B−1)は、適度な柔軟性(柔らかさ)を有するため、歯ブラシの先端を介して水難溶性粉体(A)を連れ込み、ブラッシング時における歯ブラシ等の毛先の負荷力が四方へ分散するのを防止しながら、負荷力を効率的に水難溶性粉体(A)へ作用させ、水難溶性粉体(A)を良好に延展させることができる。
【0021】
本発明で用いるエーテル化度が0.1〜0.6のカルボキシメチルセルロース又はその塩(B−2)は、水に難溶であるが、吸水性を有しており、水の存在下で膨潤して適度な柔軟性を発現することができる。また、カルボキシメチルセルロース又はその塩(B−2)は、粘結剤として用いられるエーテル化度が上記範囲外のカルボキシメチルセルロース又はその塩のような増粘機能をもたず、25℃において1%の水溶液の粘度が200mPa・s未満であるものが好ましく、1〜150mPa・sであるものがより好ましく、10〜150mPa・sであるものがさらに好ましい。市販品としては、日本製紙ケミカル製のサンローズSLD-F1、サンローズSLD-FMが挙げられる。
【0022】
このような上記カルボキシメチルセルロース又はその塩(B−2)は、ブラッシング時に歯ブラシ等の毛先と象牙質の表面との空隙に存在して水難溶性粉体(A)を連れ込み、歯ブラシ等の毛先の負荷力が四方へ分散するのを抑制することで、負荷力を効率的に水難溶性粉体(A)へ作用させ、水難溶性粉体(A)を良好に延展させることができると考えられる。
【0023】
カルボキシメチルセルロース又はその塩(B−2)のより好ましいエーテル化度は0.1〜0.5であり、さらに0.2〜0.4であることが好ましい。ここでエーテル化度とは、グルコース単位あたりのカルボキシメチル基の置換度をいう。エーテル化度は、例えばCMC工業会分析法(灰化法)に従い得ることができる。カルボキシメチルセルロースナトリウム1gを精秤し、磁性ルツボに入れて600℃で灰化し、灰化によって生成した酸化ナトリウムをN/10硫酸でフェノールフタレインを指示薬として滴定し、カルボキシメチルセルロースナトリウム1gあたりの滴定量YmLを次式に入れて計算し、求めたエーテル化度を示すことができる。
エーテル化度=(162×Y)/(10,000−80×Y)
【0024】
カルボキシメチルセルロースの塩(B−2)としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられ、口腔内への適用、コスト面や入手容易性、水難溶性粉体(A)の良好な延展を図る点から、カルボキシメチルセルロースナトリウムが好ましい。
【0025】
上記粉末セルロース(B−1)又は上記カルボキシメチルセルロース若しくはその塩(B−2)の含有量は、保水性をもち、適度な柔軟性をもって水難溶性粉体(A)の延展を図り、象牙質細管を効果的に封鎖する点から、本発明の歯磨組成物中に、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.2質量%以上である。また、これら成分(B−1)又は成分(B−2)の含有量は、適度な柔軟性をもって水難溶性粉体(A)の延展を図り象牙質細管を効果的に封鎖する点から、本発明の歯磨組成物中に、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは2.5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、またさらに好ましくは0.8質量%以下である。なお、これら成分(B−1)及び成分(B−2)は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0026】
成分(B)の平均粒径は、良好な保水性を保持し、ブラッシング時に歯ブラシ等の毛先と象牙質の表面との狭小な空隙に有効に存在させる点から、好ましくは10〜200μmであり、より好ましくは15〜100μmであり、さらに好ましくは20〜80μmである。
【0027】
また、成分(A)の水難溶性粉体と成分(B)の粉末セルロース(B−1)又はエーテル化度が0.1〜0.6のカルボキシメチルセルロース若しくはその塩(B−2)の質量比(A/B)は、成分(B)によって適度な柔軟性を発現させながら成分(A)を良好に延展させる点から、好ましくは0.02〜20であり、より好ましくは0.1〜10であり、さらに好ましくは0.5〜7である。
【0028】
本発明の歯磨組成物は、水(C)を含有する。これにより、成分(B)に水(C)を吸収させ、これら成分(B)によって適度な柔軟性を発現させて、ブラッシング時における歯ブラシ等の毛先の負荷力が四方へ分散するのを防止しながら、成分(A)の水難溶性粉体を良好に延展させることができる。
【0029】
水(C)は、成分(B)を膨潤させ、かつ適度な柔軟性を発現させ、水難溶性粉体(A)による象牙質細管の封鎖性を向上する点から、本発明の歯磨組成物中に、好ましくは10〜55質量%含有し、より好ましくは12〜50質量%含有する。
【0030】
なお、歯磨組成物の水分量は、配合した水分量及び配合した成分中の水分量から計算によって算出することもできるが、例えばカールフィッシャー水分計で測定することができる。カールフィッシャー水分計としては、例えば、微量水分測定装置(平沼産業(株))を用いることができる。この装置では、歯磨組成物を5gとり、無水メタノール25gに懸濁させ、この懸濁液0.02gを分取して水分量を測定することができる。
【0031】
本発明の歯磨組成物は、さらに粘結剤(D)を含有することが好ましい。粘結剤としては、アルギン酸ナトリウム、エーテル化度が0.7〜2.0のカルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、ポリアクリル酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ペクチン、トラガントガム、アラビアガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、タマリンドガム、サイリウムシードガム、ポリビニルアルコール、コンドロイチン硫酸ナトリウム及びメトキシエチレン無水マレイン酸共重合体等からなる群より選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。このうち、エーテル化度が0.7〜2.0のカルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、キサンタンガムが好ましい。また、保形性や糸引き性、及び使用感の面から2種以上、さらには3種以上を使用することができる。粘結剤(D)は、歯磨組成物中に、好ましくは0.1〜3質量%含有し、より好ましくは0.2〜2質量%が、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%含有する。なお、粘結剤(D)として含有するカルボキシメチルセルロースナトリウムのエーテル化度は、一般的に0.7以上であって、0.7〜2.0であるものが好ましく、適度な粘性を得る点から1.0〜1.5であるものが好ましい。
【0032】
なお、本発明の歯磨組成物は、歯ブラシによるブラッシングに適用するための良好な保形性及び使用感を確保する点から、25℃における粘度が1000〜7000dPa・sであるものが好ましく、さらに1500〜5000dPa・sであるものが好ましい。歯磨組成物の粘度は、製造から3日以上経過後の歯磨組成物を測定することが好ましく、ヘリパス型粘度計を用いて、25℃、ロータT-C、(回転数)2.5rpm、1分間の条件で測定することができる。
【0033】
本発明の歯磨組成物は、上記成分の他、本発明の効果を損なわない範囲内で、甘味剤、香料、pH調整剤、色素、硝酸カリウム等の薬効成分等を適宜含有することができる。このように、本発明の歯磨組成物によれば、象牙質知覚過敏症に罹患したために歯牙の象牙質が露出したような場合にも、象牙質の表面に存在する象牙質細管の開口部を即効的にしかも充分に封鎖することができるので、象牙質知覚過敏症に起因する痛みを即効的に防止することが可能であり、象牙質知覚過敏用の歯磨組成物として最適である。
【0034】
本発明の歯磨組成物は、常法による歯磨組成物を用いたブラッシングによって、象牙質知覚過敏症に起因する痛みを防止することができる。象牙質知覚過敏症に起因する痛みをより効果的に防止する観点から、歯磨組成物の使用方法は、1日1〜5回使用することが好ましく、これを1ヶ月間のうち1日以上又は1〜2週間継続して使用することが好ましい。
【0035】
本発明の歯磨組成物は、象牙質細管の表面を物理的に刺激しない観点、及び象牙質細管の開口部を封鎖した水難溶性粉体(A)の剥離を防止する観点から、15g/個以上の崩壊強度の顆粒、及び結晶セルロースなどの研磨性の高い粉体又は粒子の含有量は、本発明の歯磨組成物中に2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが好ましい。なお、崩壊強度とは、微小圧縮試験機((株)島津製作所、MCTM−500)を用いて、粒子径(180〜200μm)の顆粒を10個〜20個測定した平均値で表される値を意味する。また、崩壊強度は歯磨組成物に含有されている湿潤状態における強度である。
【0036】
本発明の歯磨組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で研磨剤を含有することができる。研磨剤としては、例えばリン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、ピロリン酸カルシウム、無水ケイ酸(研磨性シリカ:JIS K5101−13−2に準ずる方法により測定される吸油量が、50〜150mL/100g)等が挙げられる。研磨剤は、RDA値(Radioactive Dentine Abrasion values、ISO11609研磨性の試験方法 付随書Aにより測定される値)が20〜250のものが一般に用いられる。研磨剤の含有量は、本発明の歯磨組成物中に0〜20質量%であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましい。上記RDA値が250を超える研磨剤の含有量は、本発明の歯磨組成物中に1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましく、実質的に配合しないことがさらに好ましい。
【0037】
本発明の歯磨組成物は、上記成分の他、本発明の効果を損なわない範囲内で、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール等の湿潤剤、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルメチルタウリンナトリウム等の発泡剤、サッカリンナトリウム等の甘味剤、メントール等の香料、水酸化ナトリウム等のpH調整剤、色素、薬効成分等を適宜含有することができる。このように、本発明の歯磨組成物によれば、象牙質知覚過敏症に罹患したために歯牙の象牙質が露出したような場合にも、象牙質の表面に存在する象牙質細管の開口部を即効的にしかも充分に封鎖することができるので、象牙質知覚過敏症に起因する痛みを即効的かつ持続的に防止することができるため、象牙質知覚過敏用の歯磨組成物として最適である。
【0038】
本発明の歯磨組成物は、<1>(A)炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とする脂肪酸二価金属塩(A−1)、炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とするアシル基を有する脂肪酸アシルリシン(A−2)、及び炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とするアシル基を有する脂肪酸アシルタウリン二価金属塩(A−3)から選ばれる水難溶性粉体、(B)粉末セルロース(B−1)又はエーテル化度が0.1〜0.6のカルボキシメチルセルロース若しくはその塩(B−2)、及び(C)水を含有する歯磨組成物である。
【0039】
本発明は、さらに以下の歯磨組成物又は方法、或いは用途が好ましい。
<2>成分(A−1)又は成分(A−3)の二価金属が、亜鉛、カルシウム及びマグネシウムから選ばれる前記<1>の歯磨組成物。
<3>成分(A−1)又は成分(A−3)の二価金属が、亜鉛及びカルシウムから選ばれる前記<1>又は<2>の歯磨組成物。
<4>成分(A−1)が、ラウリン酸二価金属塩、ミリスチン酸二価金属塩及びステアリン酸二価金属塩から選ばれる前記<1>から<3>の歯磨組成物。
<5>成分(A−1)が、ステアリン酸二価金属塩である前記<1>から<3>の歯磨組成物。
<6>成分(A−1)の二価金属が、亜鉛である前記<4>又は<5>の歯磨組成物。
<7>成分(A−1)が、ラウリン酸二価金属塩である前記<1>から<3>の歯磨組成物。
<8>成分(A−2)が、N-ラウロイルリシン、N-ミリストイルリシン、N-パルミトイルリシン及びN-ステアロイルリシンから選ばれる前記<1>から<7>の歯磨組成物。
<9>成分(A−2)が、N−ラウロイルリシンである前記<1>から<7>の歯磨組成物。
<10>成分(A−3)の二価金属が、カルシウムである前記<1>から<9>の歯磨組成物。
<11>成分(A−3)が、N-ラウロイルタウリン二価金属塩、N−ミリストイルタウリン二価金属塩、N−パルミトイルタウリン二価金属塩及びN−ステアロイルタウリン二価金属塩から選ばれる前記<1>から<10>の歯磨組成物。
<12>成分(A−3)が、N-ラウロイルタウリン二価金属塩である前記<1>から<11>の歯磨組成物。
<13>成分(A)を0.1〜2質量%、成分(B)を0.05〜5質量%含有する前記<1>から<12>の歯磨組成物。
<14>成分(A)を0.4〜1.2質量%、成分(B)を0.2〜1質量%含有する前記<1>から<12>の歯磨組成物。
<15>成分(A)と成分(B)の質量比(A/B)が、0.02〜20である前記<1>から<14>の歯磨組成物。
<16>成分(A)と成分(B)の質量比(A/B)が、0.5〜7である前記<1>から<14>の歯磨組成物。
<17>さらに、(D)粘結剤を0.1〜3質量%含有する前記<1>から<16>の歯磨組成物。
<18>15g/個以上の崩壊強度の顆粒の含有量が2質量%以下である前記<1>から<17>の歯磨組成物。
<19>RDA値が25〜250の研磨剤の含有量が15質量%以下である前記<1>から<18>の歯磨組成物。
<20>RDA値が250より大きい研磨剤の含有量が2質量%以下である前記<1>〜<19>の歯磨組成物。
<21>25℃における粘度が、1000〜7000dPa・sである前記<1>から<20>の歯磨組成物。
<22>象牙質知覚過敏用歯磨組成物である前記<1>〜<21>の歯磨組成物。
<23>前記<1>〜<21>の歯磨組成物の象牙質知覚過敏症に起因する痛み防止のための使用。
<24>象牙質知覚過敏防止剤の製造のための前記<1>〜<21>記載の歯磨組成物の使用。
<25>前記<1>〜<21>の歯磨組成物を口腔内に適用する象牙質知覚過敏を防止する方法。
【実施例】
【0040】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
【0041】
[実施例1〜9、比較例1〜6]
表1に示す組成の歯磨組成物を常法にしたがって調製した。得られた各歯磨組成物を用い、下記に示す象牙質細管の開口部封鎖状態の評価を行った。また、表2に示す組成の歯磨組成物を調製し、得られた各歯磨組成物を用い、同様に象牙質細管の開口部封鎖状態の評価、及び象牙質知覚過敏症の改善効果の評価を行った。評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。なお、実施例1〜9、比較例1〜6の歯磨組成物は、調製1ヶ月後に25℃で3500〜4500dPa・sとなるものとし、実施例1の歯磨組成物は、調整1ヶ月後25℃の粘度が3800dPa・sであった(測定条件:ヘリパス粘度計、ロータT-C、(回転数)2.5rpm、1分間)。
【0042】
[象牙質細管の開口部封鎖状態の評価]
牛歯の象牙質を試料とし、試料を0.5%リン酸水溶液にて室温で30分脱灰し、砥粒サイズ40μmのサンドペーパー、及び砥粒サイズ3μmのサンドペーパーで表面を研磨処理した。この試料の表面を、実施例、比較例の歯磨組成物1gを歯ブラシ(ディープクリーン超コンパクト 普通・花王(株)製)を用いて5往復ブラッシングし、試料を蒸留水で30秒間洗浄した。洗浄後の試料の表面における象牙質細管の開口部をデジタルマイクロスコープ(VHX−1000、(株)キーエンス製)を用いて倍率2000倍で観察し、目視で象牙質細管の開口状態を確認した。図1(a)は、比較例4の歯磨組成物で処理した後の試料の状態を示すマイクロスコープ写真である。図1(a)に示すように、象牙質細管の開口部のほぼ全てが黒く、開口していることが認められる。図1(b)は、実施例2の歯磨組成物で処理した後の試料の状態を示すマイクロスコープ写真である。図1(b)に示すように、象牙質細管の開口部のほぼ全てが白く、開口部を歯磨組成物が封鎖している状態が認められる。
【0043】
歯磨組成物による象牙質細管の開口部の封鎖状態の評価は、図1(a)の状態を5、図1(b)の状態を1とし、図1(b)に比べて一部の象牙質細管の開口部が開いていると認められる状態を2、さらに象牙質細管の開口部が開いていると認められる状態を3、図1(a)に比べて一部の象牙質細管の開口部が封鎖されていると認められる状態、又は過半数の象牙質細管の開口部が封鎖されていない状態を4として評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0044】
[象牙質知覚過敏症状に起因する痛み改善の評価]
表2の実施例2、比較例4〜5の歯磨組成物について、象牙質知覚過敏症状に起因する痛み防止、又は抑制の程度を評価した。評価対象者は最近1ヶ月の間に歯がしみる頻度が毎日、又は週に数回ある者をパネラーとした。各歯磨組成物にパネラー11名、2週間の期間、1日3回の歯磨組成物を使用した後に、象牙質知覚過敏症に起因する痛みが防止されたか、又は抑制されたかを評価した。具体的には、2週間の使用継続後に「しみなくなった感じがするか」について、3:そう思う、2:ややそう思う、1:そう思わない又はわからない の中から回答を得た。パネラーの回答の合計値を象牙質知覚過敏症に起因する痛みの評価として表2に示す。この評価は、数値が大きいほど、象牙質知覚過敏症に起因する痛みが抑制又は低減されたことを意味する。
【0045】
【表1】

【0046】
*1:アミホープLL (味の素(株))
*2:KCフロックW-400(日本製紙ケミカル(株)) 平均粒子径24μm
*3:サンローズSLD-F1(日本製紙ケミカル(株))エーテル化度0.2〜0.3、平均粒子径50〜60μm
*4:サイロピュア25(富士シリシア化学(株)) 吸油量:310ml/100g
*5:ソーボシル AC77(PT PQ Sillicas Indonesia) RDA値:125
*6:サンローズF35SH(日本製紙ケミカル(株)) エーテル化度1.0〜1.15
【0047】
【表2】

【0048】
*2:KCフロックW-400(日本製紙ケミカル(株)) 平均粒子径24μm
*4:サイロピュア25(富士シリシア化学(株)) 吸油量:310ml/100g
*5:ソーボシル AC77(PT PQ Sillicas Indonesia) RDA値:125
*6:サンローズF35SH(日本製紙ケミカル(株)) エーテル化度1.0〜1.15
【0049】
表1に示すように、本発明の水難溶性粉体(A)と成分(B)を含有する実施例1〜9は、象牙質細管の開口部がほぼ封鎖されている、又は概ね封鎖されていることが認められた。一方、水難溶性粉体(A)及び/又は成分(B)を含有しない比較例1〜2、4は、象牙質細管の開口部が殆ど封鎖されていないか、封鎖状態が不十分であることが認められた。また、水難溶性粉体であるが、本願の粉体(A)ではない酸化亜鉛を含有する比較例3についても、象牙質細管の開口部が封鎖されていないことが認められた。
【0050】
表2に示すように、充分に象牙質細管が封鎖されている実施例2は、使用後に象牙質知覚過敏症に起因する痛みが抑制されている評価が得られたが、比較例5は象牙質細管の開口部の封鎖が一部であるため、象牙質知覚過敏症に起因する痛みはやや抑制されている程度であり、比較例6の象牙質細管の開口部が殆ど封鎖されていない歯磨組成物については、象牙質知覚過敏症に起因する痛みが殆ど抑制されていない評価が得られた。この結果より、象牙質細管の封鎖状態は、象牙質知覚過敏症に起因する痛み抑制との相関があると認められ、象牙質細管の封鎖性の高い本発明の実施例は、象牙質知覚過敏症に起因する痛みの抑制効果が高いと判断できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)並びに(C):
(A)炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とする脂肪酸二価金属塩(A−1)、炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とするアシル基を有する脂肪酸アシルリシン(A−2)、及び炭素数12〜18の飽和脂肪酸を由来とするアシル基を有する脂肪酸アシルタウリン二価金属塩(A−3)から選ばれる水難溶性粉体、
(B)粉末セルロース(B−1)又はエーテル化度が0.1〜0.6のカルボキシメチルセルロース若しくはその塩(B−2)、並びに
(C)水
を含有する歯磨組成物。
【請求項2】
成分(A−1)又は成分(A−3)の二価金属が、亜鉛、カルシウム及びマグネシウムから選ばれる請求項1に記載の歯磨組成物。
【請求項3】
成分(A−2)が、N-ラウロイルリシン、N-ミリストイルリシン、N-パルミトイルリシン及びN-ステアロイルリシンから選ばれる請求項1に記載の歯磨組成物。
【請求項4】
成分(A)を0.1〜2質量%、成分(B)を0.05〜5質量%含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯磨組成物。
【請求項5】
成分(A)と成分(B)の質量比(A/B)が、0.02〜20である請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯磨組成物。
【請求項6】
さらに、(D)粘結剤を0.1〜3質量%含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の歯磨組成物。
【請求項7】
25℃における粘度が、1000〜7000dPa・sである請求項1〜6のいずれか1項に記載の歯磨組成物。
【請求項8】
象牙質知覚過敏用歯磨組成物である請求項1〜7のいずれか1項に記載の歯磨組成物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−1649(P2013−1649A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131699(P2011−131699)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】