説明

歯科用充填材、その製造方法および歯科用複合材料

【課題】 歯科材料に要求される光学的性質や機械的性質を兼ね備えた歯科用充填材並びにその製造方法、および該歯科用充填材を用いた歯科用複合材料に関する。
【解決手段】ジルコニウムシリケート化合物、特にワデアイト型結晶構造を有するジルコニウムトリシリケート化合物を含む平均粒子径2〜50,000nmの無機酸化物微粒子を含有する歯科用充填材並びにその製造方法、および該歯科用充填材とアクリル樹脂、メタアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂等から選ばれた硬化性樹脂とを含む歯科用複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性の無機酸化物微粒子を含む歯科用充填材並びにその製造方法、および該無機酸化物微粒子と硬化性樹脂とを含む歯科用複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科用複合材料においては、実際の天然歯と同程度の充分な強度や硬度、更には表面の滑らかさや噛み合わせによる摩耗に対する耐性が必要であるばかりでなく、天然歯との色調適合性や天然歯と同等の透明性を与えるための屈折率の適合性などが求められている。また、一般的な歯科用材料は、これを用いて治療した箇所と天然歯の歯組織との区別ができる程度のX線不透過性が要求され、しかも歯科医や歯科技工士にとってその加工が容易であることが求められている。
【0003】
このような歯科用複合材料としては、例えば、特許文献1に、重合性樹脂と非ガラス質ミクロ粒子(均一に点在した多結晶質セラミック金属酸化物と非晶質ケイ素酸化物との混合物)とからなるX線不透過性歯科用複合材料が開示されている。しかし、前記非ガラス質ミクロ粒子には、多結晶質セラミック金属酸化物が含まれているため、天然歯と同等の透明性を得ることが難しく、また透明性を確保するために結晶化の起こらない温度以下で加熱処理した場合には、粒子強度が不充分であるため、治療または修理した歯(義歯を含む)の治療箇所における強度や硬度が低下して、噛み合わせによる摩耗に対する耐性などが不充分となることがあった。
【0004】
また、特許文献2には、二酸化珪素と少なくとも他の金属酸化物(酸化ジルコニウム等)を凝集させ、その酸化物の結晶化温度未満の温度で熱処理することにより製造した、二酸化珪素と他の金属酸化物が独立した非晶質層を形成してなる歯科用複合材料用充填材が開示されている。しかし、前記歯科用複合材料用充填材は、二酸化珪素と他の金属酸化物を凝集させて製造しているため、粒子の細孔容積や粒子の強度を調節することができず、このために透明性を向上させることが難しくなり、更には重合性樹脂との密着性が不充分であるため、上記の場合と同様に、治療または修理した歯(義歯を含む)の治療箇所における強度や硬度が低下して、噛み合わせによる摩耗に対する耐性などが不充分となることがあった。
【0005】
更に、米国スリーエム社(3M INNOVATIVE PROPERTIES COMPANY)より、歯科材料に関する一連の特許出願(特許文献3〜5)がなされている。
特許文献3には、a)硬化性樹脂と、b)(i) 非重金属酸化物粒子(シリカ粒子等)および重金属酸化物粒子(酸化ジルコニウム等)を含むと共に完全には高密度化されていないナノサイズ粒子クラスタと、(ii)非凝集非重金属酸化物ナノサイズ粒子および/または非凝集重金属酸化物ナノサイズ粒子を含む充填材とを含む歯科材料が開示されている。ここで、前記ナノサイズ粒子クラスタは実質的に非晶質であり、歯科材料の強度を向上させるために用いられ、また前記ナノサイズ粒子は、美的品質、艶出性および耐摩耗性を向上させるために用いられている。しかし、この材料を用いると、前記充填材が完全に高密度化されていないため、これを用いた歯科材料の引張強度は向上するものの、その圧縮強度はまだ不十分であるとも云われている。
【0006】
特許文献4には、約300nmより小さい平均直径を有する非重金属酸化物粒子と、重金属酸化物または約100nmより小さい平均直径を有する重金属酸化物粒子と、硬化性樹脂を含む歯科材料が開示されている。ここで、前記非重金属酸化物粒子としては、球状シリカ粒子またはその凝結体等が使用され、また前記重金属酸化物粒子としては、高い屈折率と高いX線散乱能力を有する結晶性酸化ジルコニウム粒子またはその凝結体等が使用される旨の記載が認められる。しかし、この材料を用いると、前記重金属酸化物粒子の屈折率が前記硬化性樹脂の屈折率より高いため、艶出性の向上は見られるものの、内部での光拡散が大きくなるため白化して審美性に欠けるきらいがある。
【0007】
特許文献5には、約100nm未満の平均直径を有する非重金属酸化物粒子(シリカ粒子等)と、重金属酸化物または約100nm未満の平均直径を有する重金属酸化物粒子(酸化ジルコニウム粒子等)とを含む実質的にアモルファス状のクラスタを含む歯科材料用充填材が開示されている。ここで、実質的にアモルファス状のクラスターとは、実質的に結晶構造を含んでいないものである。しかし、この材料が実質的にアモルファス状のクラスタからなる充填材であるため、これを用いた歯科材料の機械的強度(特に、圧縮強度)は、その使用用途によっても異なるが、必ずしも充分であるとは云えない。
【0008】
一方、非特許文献1には、SiO2を溶解させたKOH溶液とZr(OC37)溶液とを混合し、これをステンレススチール・テフロン(登録商標)容器に入れて180℃の温度条件下で5日間、反応させることによって、ワデアイト化合物(K2ZrSi39・H2O)を合成する方法が開示されている。しかし、この文献においては、合成されたワデアイト化合物の物理的特徴などが詳細に記述されているだけで、これが歯科用充填材として有用であることについては示唆すらもされていない。
【0009】
そこで、本願発明者らは、従来の歯科用充填材に付随する上記のような問題を解決することを目的として鋭意研究を重ねたところ、ジルコニウムシリケート化合物が歯科材料用充填材として優れた特性を有していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
【特許文献1】特開昭60−233007号公報
【特許文献2】特開平7−196428号公報
【特許文献3】特表2003−512404号公報(国際公開WO01/030304)
【特許文献4】特表2003−512405号公報(国際公開WO01/030305)
【特許文献5】特表2003−512406号公報(国際公開WO01/030306)
【非特許文献1】INORGANIC CHEMISTRY VOL. 36、 NO. 14 (1997)、PAGES 3071〜3079
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
先にも述べたように、歯科治療で使用される歯科用複合材料には、非毒性や非溶解性等の他に、天然歯と同程度である強度や硬度、噛み合わせ摩耗に対する耐久性、研磨後の表面滑性、天然歯と同等の透明性を与えるための屈折率適合性、天然歯との色調適合性や艶出性、さらには治療時に天然歯と識別できる程度のX線に対する不透過性等が要求されており、これらの性状の多くは、歯科用複合材料を製造する際に使用される歯科用充填材の物理的特性に負うところが大きい。
【0012】
本発明は、これらの要求に合致した新規な歯科用充填材に関するもので、ジルコニウムシリケート化合物、好ましくはジルコニウムトリシリケート化合物、さらに好ましくはワデアイト型結晶構造を有するジルコニウムトリシリケート化合物を含む無機酸化物微粒子を含有する歯科用充填材並びにその製造方法、更には該歯科用充填剤を用いた歯科用複合材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る歯科用充填材は、
ジルコニウムシリケート化合物を含む平均粒子径2〜50000nmの無機酸化物微粒子を含有することを特徴としている。
前記ジルコニウムシリケート化合物は、ワデアイト型結晶構造を有するジルコニウムトリシリケート化合物であることが好ましい。
また、前記無機酸化物微粒子は、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物で表面処理されたものであることが好ましい。
さらに、前記歯科用充填材の屈折率は、1.43〜1.65の範囲にあることが好ましい。
【0014】
本発明に係る歯科用充填材の製造方法は、
ジルコニウムシリケート化合物を含む平均粒子径2〜50000nmの無機酸化物微粒子を含有する歯科用充填材を製造する方法であって、
(a)酸化ジルコニウム水和物を含む水溶液にアルカリ金属の水酸化物と過酸化水素を添加して攪拌することにより、該酸化ジルコニウム水和物を解膠して溶解させた水溶液を調製する工程、
(b)必要に応じて前記水溶液中に含まれるジルコニウム成分の濃度を調整した後、該水溶液と珪酸液の水溶液とを混合する工程、
(c)前記水溶液を反応容器中に入れて、100〜350℃の温度で水熱処理する工程、
(d)前記水溶液中に含まれる固形分を乾燥する工程、および
(e)前記固形分を750〜1200℃の温度で焼成する工程
を含むことを特徴としている。
【0015】
前記工程(a)で使用される酸化ジルコニウム水和物は、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウムおよびアンモニウムオキシ炭酸ジルコニウムから選ばれた1種または2種以上のジルコン酸塩の水溶液にアンモニアまたはアンモニア水を添加して得られる中和反応物を洗浄したものであることが好ましい。さらに、前記工程(a)で使用されるアルカリ金属の水酸化物は、水酸化カリウムであることが好ましい。
前記工程(c)における水熱処理は、オートクレーブ中で10〜100時間かけて行うことが好ましい。
【0016】
さらに、前記工程(d)における乾燥処理は、スプレードライヤーを用いた噴霧乾燥にて行うことが好ましい。
前記固形分の表面処理は、前記前記工程(d)で得られた固形分または前記前記工程(e)で得られた固形分を水および/または有機溶媒の中に分散させた混合液に、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物を添加して、該有機金属化合物の加水分解反応を起こさせることによって行うことが好ましい。
【0017】
本発明に係る歯科用複合材料は、上記の歯科用充填材と硬化性樹脂とを含むことを特徴としている。
前記硬化性樹脂は、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂およびウレタン樹脂から選ばれた1種または2種以上の硬化性樹脂であることが好ましい。
また、前記歯科用複合材料の好ましき用途としては、歯科用修復材、歯科用接着剤、歯科用ミルクブランク、歯科用セメント、義歯、歯科用矯正具、歯科用矯正接着剤、歯科用鋳造材料、歯科用被覆物などがある。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る歯科用充填材は、ジルコニウムシリケート化合物、好ましくはジルコニウムトリシリケート化合物、さらに好ましくはワデアイト型結晶構造を有するジルコニウムトリシリケート化合物を含む平均粒子径2〜50000nmの無機酸化物微粒子からなる新規な歯科用充填材であって、以下に示すような特徴を有している。
a)表面処理されていない前記無機酸化物微粒子は、ジルコニウムシリケート化合物、さらに詳しくは特異な結晶構造からなるジルコニウムトリシリケート化合物を主体に構成されており、この中でもワデアイト型結晶構造を有するジルコニウムトリシリケート化合物を含む無機酸化物微粒子は白色または白透明色の色調を有している。また、該無機酸化物微粒子は、ジルコニウムを含む結晶性粒子であるため、治療時に用いられるX線に対して充分な不透過性を備えている。
【0019】
b)表面処理されていない前記無機酸化物微粒子は、その密度が2.9〜3.4の範囲にあり、また硬度(モース硬度)が5.0〜6.0の範囲にあるため、機械的強度や耐摩耗性に優れている。また、必要に応じて該粒子の表面を有機珪素化合物、有機チタニウム化合物、有機ジルコニウム化合物などの有機金属化合物で表面処理した場合でも、同等の効果を期待することができる。
c)表面処理されていない前記無機酸化物微粒子は、その屈折率が1.5〜1.7、さらに詳しくは1.55〜1.64の範囲にあるため、歯科材料として好適に使用することができる。しかし、該粒子の屈折率を調整する必要がある場合には、該粒子の表面を前記有機金属化合物で表面処理することによって、その粒子の屈折率を1.43〜1.65の範囲に調整することができる。これにより、該粒子と混合して使用される硬化性樹脂の屈折率と適合したものを容易に得ることができる。
【0020】
d)前記無機酸化物微粒子は、使用される硬化性樹脂の種類等によっても異なるが、そのまま歯科用複合材料の調合に使用することができる。さらに、この無機酸化物微粒子は、結晶性であるためその表面が不活性であり、また前記硬化性樹脂への分散性が高いので高密度充填を行うことが可能である。しかし、前記硬化性樹脂への分散性や該樹脂との密着性をさらに高める必要がある場合には、前記無機酸化物微粒子の表面を前記有機金属化合物で表面処理することによって、これらの機能を向上させることができる。
e)前記無機酸化物微粒子は、極めて安定した結晶構造を有しているため、これを歯科材料として用いても口腔内に溶出することはなく、また毒性のある重金属成分を一切、含んでいないため人体に悪影響を及ぼすこともない。
【0021】
また、本発明に係る歯科用充填材の製造方法は、新規な方法に関するものであって、高純度のジルコニウムシリケート化合物、特にワデアイト型結晶構造を有するジルコニウムトリシリケート化合物を高い収率で容易に合成することができ、その合成反応に上記の公知文献に記載されるような長い時間(5日間)を要することもない。
さらに、本発明に係る歯科用複合材料は、当該材料に要求される上記の光学的性質や機械的性質などを兼ね備えているため、現在または今後の歯科医療分野で使用される各種材料として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る歯科用充填材並びにその製造方法、および該歯科用充填材を用いた歯科用複合材料について具体的に説明する。
【0023】
[歯科用充填材並びにその製造方法]
歯科用充填材
本発明による歯科用充填材は、ジルコニウムシリケート化合物を含む平均粒子径2〜50000nmの無機酸化物微粒子を含有するものである。
ここで、前記ジルコニウムシリケート化合物は、ワデアイト型結晶構造を有するジルコニウムトリシリケート化合物(以下、単に「ワデアイト化合物」と云うこともある)であることが好ましいが、M2ZrSi39やM2ZrSi27などの化学式(式中、Mはアルカリ金属を意味する。)で表されるその他のジルコニウムシリケート化合物、或いはこれらの混合物であってもよい。
一般に、ワデアイト(ワデ石)は、ロシアのコラ半島やオーストラリアの西オーストラリア州で希に見つかる天然石(希産鉱物)であることが知られている。また、その主要成分は、K2ZrSi39またはK2ZrSi39・H2Oの化学式で表され、その結晶構造は六方晶系の特異なものである。
【0024】
本発明の歯科用充填材として使用される前記無機酸化物微粒子は、人工的に合成されたものであるが、その化学組成と結晶構造は前記天然石と同等またはこれに近いものである。すなわち、K2ZrSi39またはK2ZrSi39・H2Oの化学式で表されるワデアイト化合物、Na2ZrSi39、Na2ZrSi39・H2O、KxNayZrSi39、KxNayZrSi39・H2O、(式中、x+y=2)などの化学式で表されるジルコニウムトリシリケート化合物、K2ZrSi27、K2ZrSi27・H2O、Na2ZrSi27、Na2ZrSi27・H2O、KxNayZrSi27、KxNayZrSi27・H2O、(式中、x+y=2)などの化学式で表されるジルコニウムジシリケート化合物、或いはこれらの混合物からなる結晶性物質である。この中でも、本発明においては、K2ZrSi39の化学式で表されるワデアイト化合物を含む無機酸化物微粒子が前記歯科用充填材として好適に使用される。
【0025】
このような化学組成と結晶構造を有する前記無機酸化物微粒子は、該粒子の密度が2.9〜3.4、硬度(モース硬度)が5.0〜6.0、屈折率が1.5〜1.7、さらに詳しくは1.55〜1.64の範囲にあることが好ましく、これらの物理的性状は、天然に存在するジルコニウムシリケート化合物、特にワデアイト化合物と同等またはこれに近いものである。
【0026】
このように、前記無機酸化物微粒子は、実質的にジルコニウムシリケート化合物からなるものであるが、その製造条件によっては、他の化合物、例えば酸化ジルコニウムやシリカ等の化合物を含むこともある。しかし、本発明に係る歯科用充填材として使用する場合、ジルコニウムシリケート化合物以外の前記化合物の含有量は、特に制限されるものではないが、前記無機酸化物微粒子中に40重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下であることが望ましい。
また、前記無機酸化物微粒子を歯科用充填材として用いる場合には、該無機酸化物微粒子のみを使用することが好ましいが、一般的に歯科用充填材材料として使用される他の微粒子、例えばシリカ微粒子や酸化ジルコニウム微粒子等の無機酸化物微粒子と混合して使用することもできる。しかし、前記の微粒子(すなわち、シリカ微粒子や酸化ジルコニウム微粒子等)の混合量は、特に制限されるものではないが、歯科用充填材に対して70重量%以下、好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは30重量%であることが望ましい。また、これについては、以下に述べる表面処理された無機酸化物微粒子においても同様である。
【0027】
さらに、前記無機酸化物微粒子は、必要に応じて有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物で表面処理して使用することもできる。これにより、該粒子と混合して使用される硬化性樹脂の屈折率と適合したものを容易に得ることができ、さらには硬化性樹脂への分散性や密着性を向上させることができる。
【0028】
前記有機珪素化合物としては、下記一般式(1)で表される珪素化合物などがある。
nSiX4-n (1)
(式中、Rは炭素数1〜10の非置換型炭化水素基または置換型炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、Xは炭素数1〜4のアルコキシ基、シラノール基、ハロゲン基または水素を表し、nは0〜3である。)
【0029】
具体的には、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルジメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシトリプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロルシラン、トリメチルブロモシラン、ジエチルシラン等が挙げられる。この中でも、シランカップリング剤としてよく用いられるビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランまたはその混合物を使用することが好ましい。
【0030】
前記有機チタニウム化合物としては、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn−ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート等が挙げられ、また前記有機ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニルアセテート等が挙げられる。
さらに、場合によっては、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウム有機酸塩キレート化合物等の有機アルミニウム化合物で表面処理することもできる。
【0031】
前記有機金属化合物による表面処理は、これらの有機金属化合物を混合して使用してもよく、また同種のもので複数回または異種のもので複数回行ってもよい。
また、この表面処理は、使用される前記有機金属化合物の種類、更には得られる無機酸化物微粒子の屈折率や分散性等に対する所望値によっても異なるが、前記無機酸化物微粒子の表面に結合または被覆される前記有機金属酸化物(シラン化合物からなる有機珪素化合物、有機チタニウム化合物または有機ジルコニウム化合物にあっては、その加水分解物)の厚さが300nm以下、好ましくは100nm以下であることが望ましい。ここで、前記厚さが300nmを超えると、粒子表面に未反応の有機金属化合物(表面処理時に十分に加水分解されずに加水分解基が残っているものや、粒子表面と反応せずに有機金属化合物同士が反応したもの等)が残存し硬化性樹脂に分散させた場合、その粒子表面の経時安定性が悪くなり、粒子同士が付着して凝集したりすることもあるので、好ましくない。
【0032】
このようにして得られる無機酸化物微粒子の屈折率は、表面処理の有無、更には表面処理に使用される前記有機金属化合物の種類やその厚さなどによっても異なるが、1.43〜1.65、好ましくは1.45〜1.60の範囲にあることが好ましい。ここで、前記屈折率が1.43未満であると、硬化性樹脂の屈折率より低いため内部での光拡散が大きくなるため白化して審美性に欠けるようになり、また該屈折率が1.65を超えると、硬化性樹脂の屈折率より高いため内部での光散乱が大きくなるため白化して審美性に欠けるようになる。
【0033】
さらに、前記無機酸化物微粒子は、前記の表面処理の有無にかかわらず、平均粒子径が2〜50000nm、好ましくは7〜5000nm、さらに好ましくは10〜500nmの範囲にあるものが使用される。ここで、平均粒子径が2nm未満では、該粒子を用いた歯科用充填材の機械的強度、特に圧縮強度や曲げ強度が低下し、また平均粒子径が50000nmを超えると、該粒子を用いた歯科用複合材料を硬化させて得られる歯の修復箇所の研磨が困難になったり、あるいはその研磨面の滑沢性が充分でなくなったりするので、好ましくない。さらに付言すれば、前記無機酸化物微粒子は、比較的硬度が高いものであるため、粒子径が大きくなるにつれて、その研磨が難しくなる傾向にある。
【0034】
以下に、本発明に係る歯科用充填材の製造方法について説明するが、本発明に係る前記歯科用充填剤は、この方法から得られた無機酸化物微粒子に限定されるものではなく、ジルコニウムシリケート化合物、特にワデアイト化合物を含む無機酸化物微粒子であれば、上記の天然石や従来公知の合成方法その他から製造されたものでも使用することができる。
【0035】
歯科用充填材の製造方法
本発明による歯科用充填材の製造方法は、
ジルコニウムシリケート化合物を含む平均粒子径2〜50000nmの無機酸化物微粒子を含有する歯科用充填材を製造する方法であって、
(a)酸化ジルコニウム水和物を含む水溶液にアルカリ金属の水酸化物と過酸化水素を添加して攪拌することにより、該酸化ジルコニウム水和物を解膠して溶解させた水溶液を調製する工程、
(b)必要に応じて前記水溶液中に含まれるジルコニウム成分の濃度を調整した後、該水溶液と珪酸液の水溶液とを混合する工程、
(c)前記水溶液を反応容器中に入れて、100〜350℃の温度で水熱処理する工程、
(d)前記水溶液中に含まれる固形分を乾燥する工程、および
(e)前記固形分を750℃〜1200℃の温度で焼成する工程
を含むものである。
さらに、前記の各工程について詳述すれば、以下の通りである。
【0036】
工程(a)
本発明でいう前記酸化ジルコニウム水和物は、化学式ZrO2・xH2Oで表され、この中には水酸化ジルコニウム(Zr(OH)n)も含まれるものとする。
また、前記酸化ジルコニウム水和物は、酸または酸を含む水溶液には溶解するが、水またはアルカリを含む水溶液には殆ど溶解しないことが知られている。
そこで、この工程(a)においては、純水または蒸留水中に水酸化ジルコニウムを含む懸濁水溶液を調製し、これにカリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物(すなわち、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)および過酸化水素を添加して攪拌することにより、前記酸化ジルコニウム水和物を解膠して溶解させた混合水溶液を調製する。ここで、本発明に係るワデアイト化合物を含む無機酸化物微粒子を製造する場合には、前記のアルカリ金属水酸化物として水酸化カリウムが使用される。
【0037】
前記アルカリ金属水酸化物(M2O)は、前記前記懸濁水溶液中に含まれる酸化ジルコニウム水和物(ZrO2・xH2O)に対して、モル比(M2O/ZrO2・xH2O)が1/5〜1/1、好ましくは1/2〜4/5となるような割合で添加することが好ましい。ここで、前記モル比が1/5未満であると酸化ジルコニウム水和物の解膠が進まず、また該モル比が1/1を超えると、アルカリ金属の割合が大きいためワデアイト化合物等のジルコニウムシリケート化合物の結晶物を得ることが難しくなる。
【0038】
前記過酸化水素(H22)は、前記懸濁水溶液中に含まれる酸化ジルコニウム水和物(ZrO2・xH2O)に対して、モル比(H22/ZrO2・xH2O)が1/1〜6/1、好ましくは12/5〜4/1となるような割合で添加することが好ましい。ここで、前記モル比が1/1未満であると、酸化ジルコニウム水和物の解膠が進まず、また該モル比が6/1を超えると、酸化ジルコニウム水和物の溶解が早くなって溶解に要する時間は短くなるものの、未反応の過酸化水素が系内に大量に残存することになるので、経済的に好ましくない。
さらに、前記過酸化水素は、18〜35重量%濃度の過酸化水素水として添加することが望ましい。
【0039】
なお、前記酸化ジルコニウム水和物は、ジルコニウム塩を水溶液中で加水分解あるいは該水溶液中にアルカリまたはアンモニアを添加して中和反応を起こさせる等、従来公知の方法で調製することができる。しかし、本発明においては、純水または蒸留水にオキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2・xH2O)、オキシ硫酸ジルコニウム(ZrOSO4・xH2O)、オキシ硝酸ジルコニウム(ZrO(NO32・xH2O)、オキシ酢酸ジルコニウム(ZrO(C2322)、オキシ炭酸ジルコニウム(ZrOCO3・xH2O)およびアンモニウムオキシ炭酸ジルコニウム((NH42ZrO(CO32)から選ばれた1種または2種以上のジルコン酸塩を溶解させた水溶液にアンモニアまたはアンモニア水を撹拌下で添加して中和反応を起こさせることによって得られる中和反応物(酸化ジルコニウム水和物)を、純水または蒸留水で十分に洗浄したものを使用することが好ましい。また、前記ジルコン酸塩としては、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2・8H2O)を使用することが望ましい。なお、前記オキシ塩化ジルコニウム、前記オキシ硫酸ジルコニウム、前記オキシ硝酸ジルコニウム、前記オキシ酢酸ジルコニウムおよび前記オキシ炭酸ジルコニウムは、それぞれ塩酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、硝酸ジルコニル、酢酸ジルコニルおよび炭酸ジルコニルと称されることもある。
【0040】
さらに、前記ジルコン酸塩の代わりに、炭酸ジルコニウム(ZrCO4・ZrO2・xH2O)、硫酸ジルコニウム(Zr(SO4)2・xH2O)、塩化ジルコニウム(ZrCl2、ZrCl3またはZrCl4)および硝酸ジルコニウム(Zr(NO34・xH2O)から選ばれた1種または2種以上のジルコン酸塩を使用することもできる。
前記水溶液中における前記ジルコン酸塩の含有量は、30〜40重量%、好ましくは35〜37重量%の範囲にあることが好ましい。
【0041】
前記アンモニア(NH3)またはアンモニア水(NH4OH)は、前記水溶液中に含まれるジルコン酸塩(ZrOXn)に対して、モル比(NH3/ZrOXnまたはNH4OH/ZrOXn)が13/7〜13/2、好ましくは13/5〜13/4となるような割合で添加することが好ましい。ここで、前記モル比が13/7未満であると、ジルコン酸塩の中和が十分でないため該ジルコン酸塩の一部がそのまま残り、また該モル比が13/2を超えると、アンモニアが過剰に添加されるためその残存アンモニアの洗浄に時間がかかることになるので、好ましくない。
さらに、前記アンモニア水は、5〜15重量%濃度のアンモニア水として添加することが望ましい。
【0042】
また、前記中和反応は、5〜20℃、好ましくは10〜15℃の温度で行うことが好ましい。ここで該温度が20℃を超えると、ジルコン酸塩の中和により生成した酸化ジルコニウム水和物(例えば、水酸化ジルコニウム等)が経時的に変化していくため好ましくない。
【0043】
前記中和反応から得られる酸化ジルコニウム水和物は、濾過分離した後、純水または蒸留水で十分に洗浄して、前記中和反応における未反応物(ZrOXn等)や反応副生物(NH4X等)をできるだけ除去しておく必要がある。
このようにして得られる前記混合水溶液中に溶解して含まれるジルコニウム成分(酸化ジルコニウム水和物の解膠物)は、特にこれに制限されるものではないが、ZrO2換算基準で8〜12重量%の範囲にあることが望ましい。
【0044】
工程(b)
この工程(b)では、前記工程(a)で得られた混合水溶液中に含まれるジルコニウム成分の濃度を必要に応じて調製した後、該混合水溶液と珪酸液の水溶液とを混合する。
ここで、前記混合水溶液中に含まれるジルコニウム成分は、この工程で混合される珪酸液の性状やその濃度によっても異なるが、ZrO2換算0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%の範囲となるように調整することが好ましい。ここで、前記含有量が0.5重量%未満であると、前記混合水溶液の単位体積あたりにおけるジルコニウムシリケート化合物の収量が少なくなってしまうため経済的でなく、また該含有量が10重量%を超えると、前記混合水溶液の安定性が悪く、しかも該水溶液の粘度が増加してしまう傾向にあるので、好ましくない。
【0045】
前記珪酸液としては、アルカリ金属珪酸塩、有機塩基の珪酸塩等の珪酸塩水溶液を陽イオン交換樹脂で処理して脱アルカリしたものがある。また、これらの珪酸塩としては、珪酸ナトリウム(水ガラス)、珪酸カリウム等のアルカリ金属珪酸塩、第4級アンモニウムシリケート等の有機塩基の珪酸塩などが挙げられる。
この珪酸液の中でも、pHが2〜4、好ましくは2〜3の範囲にあり、珪素成分の含有量がSiO2換算基準で0.1〜6重量%、好ましくは3〜4重量%の範囲にあるものを使用することが好ましい。
【0046】
前記珪酸液は、該珪酸液中に含まれる珪素成分をSiO2で表し、さらに前記水溶液中に含まれるジルコニウム成分をZrO2で表したとき、モル比(SiO2/ZrO2)が40/30〜80/10、好ましくは20/10〜60/10、さらに好ましくは30/10〜72/14となるような割合で混合することが好ましい。ここで、該モル比が40/30未満であると、本発明方法に係る一連の工程に供しても、ジルコニウムシリケート化合物からなる結晶物ではなく酸化ジルコニウムの結晶物が形成されるようになり、また前記モル比が80/10を超えると、ジルコニウムシリケート化合物からなる結晶物を形成することが難しくなる。さらに詳しく述べれば、前記モル比が20/10〜60/10の範囲にある場合には、主としてジルコニウムトリシリケート化合物および/またはジルコニウムジシリケート化合物が形成され、また前記モル比が30/10〜72/14の範囲にある場合には、ワデアイト化合物などのジルコニウムトリシリケート化合物が形成される。従って、当該モル比は、最終的に得られる無機酸化物微粒子の使用形態、すなわち充填材としての用途によって適宜、選択することが望ましい。
【0047】
工程(c)
この工程(c)では、前記工程(b)で得られた混合水溶液を反応容器中に入れて、100〜350℃の温度で水熱処理する。
ここで、前記反応器としては、0.5〜16.5Mpaの圧力に耐える耐圧・耐熱容器であれば特に制限されるものではないが、ステンレススチール製のオートクレーブを用いることが好ましい。
【0048】
また、前記水熱処理は、100〜350℃、好ましくは150〜200℃の温度条件下で、10〜100時間、好ましくは16〜70時間、さらに好ましくは20〜40時間かけて行うことが好ましい。ここで、前記水熱温度が100℃未満であると、混合水溶液中に含まれる前記ジルコニウム成分と前記珪素成分の反応が進まないためジルコニウムシリケート化合物、特にワデアイト化合物の前駆体組成物(固形分)を得ることが難しくなる。また、350℃以上の温度で水熱処理を行うためには16.5Mpa以上の圧力に耐える耐圧・耐熱容器が必要となり、さらにはエネルギー消費の面からも経済的でなくなる。さらに、前記水熱時間が10時間未満であると、前記ジルコニウム成分と前記珪素成分の反応が十分に進まないためジルコニウムシリケート化合物、特にワデアイト化合物の前駆体組成物(固形分)を十分に得ることが難しくなる。また、前記水熱時間が100時間を超えても、前記化合物の前駆体組成物(固形分)を形成する上では余り影響しないので、これ以上の時間をかけることは得策でない。
【0049】
工程(d)
この工程(d)では、前記工程(c)で得られた混合水溶液中に含まれる固形分を乾燥する。
前記混合水溶液中に含まれる固形分は、一般的に用いられている乾燥工程、即ち該固形分を濾過分離した後、必要に応じて純水または蒸留水で洗浄してから100〜200℃の温度で乾燥する工程に供して乾燥することができる。
【0050】
しかし、粒子径の揃った無機酸化物微粒子を得るためには、前記混合水溶液中に含まれる固形分濃度が0.01〜10重量%、好ましくは0.07〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜3.0重量%になるように調整した後、これをスプレードライヤーに供して噴霧乾燥することが好ましい。ここで、前記固形分濃度が0.01重量%未満であると、粒子径が10nm以下の粒子が多くなって製品収率が低下するので好ましくない。また、該固形分濃度が10重量%を超えると、混合水溶液の粘度が高くなって安定性が低下するため粒子径の揃った粒子を得ることが難しくなる。さらに、粒子径が10000nm以上の粒子が多くなり、50000nmを超える粗大粒子も形成されるため、これを粉砕せずにそのまま歯科用充填剤として使用すると、これを用いた歯の修復箇所の研磨が難しくなったり、あるいはその透明性が低下したりすることがある。
【0051】
なお、前記スプレードライヤーとしては、従来公知のもの(ディスク回転式やノズル式等)を使用することができる。また、前記の噴霧乾燥は、従来公知の方法を用いて、濃縮された前記混合水溶液を熱風気流中に噴霧することによって行われる。
この際、前記熱風の温度は、入り口温度は150〜200℃、好ましくは170〜180℃の範囲にあることが望ましく、出口温度は40〜60℃の範囲にあることが好ましい。ここで、前記入口温度が150℃未満であると、前記固形分の乾燥が不充分となり、また200℃を超えると、経済的でなくなる。また、前記出口温度が40℃未満であると、粉体の乾燥度合いが悪くて装置内に付着するので、好ましくない。
【0052】
このようにして得られる乾燥粉体を構成する無機酸化物微粒子は、その粒子径が揃っており、またこの方法によれば、平均粒子径が10〜10000nmの範囲にあるものを容易に得ることができる。
しかし、前記固形分を一般的に知られている乾燥装置の中に入れて、100〜200℃の温度で乾燥させてもよいことは勿論である。ただし、この場合は、粒子径の揃った無機酸化物微粒子を得ることができないので、場合によっては、すり鉢やボールミル等を用いた粉砕工程に供してその粒子径を調整することが必要である。
【0053】
工程(e)
この工程(e)では、前記工程(d)で得られた固形分(乾燥粉体)を750〜1200℃の温度で焼成する。
前記工程(d)で乾燥された固形分(乾燥粉体)は、石英製の坩堝に入れて電気炉中で、750〜1200℃、好ましくは1000〜1100℃の温度条件下で1時間以上、好ましくは3〜4時間かけて焼成することが好ましい。ここで、前記焼成温度が750℃未満であると、ジルコニウムシリケート化合物、特にワデアイト化合物からなる結晶物を得ることができず、非晶質の組成物となる。(すなわち、この組成物をX線回折装置で測定しても、ワデアイト型結晶構造などを示すX線回折ピークが現れない。)さらに、該焼成温度が1200℃を超えると、前記固形分(乾燥粉体)が溶融してしまって所望する無機酸化物微粒子を得ることができなくなる。また、前記焼成時間が1時間未満となると、ジルコニウムシリケート化合物、特にワデアイト化合物からなる結晶物を得ることが難しくなる。
【0054】
このようにして、本発明に係るジルコニウムシリケート化合物を含む無機酸化物微粒子を容易に得ることができる。ただし、このように焼成して得られた無機酸化物粒子(焼成粉体)の粒子径が所望値より大きい場合には、これをすり鉢やボールミル等の中に入れて粉砕して、2〜50000nmの範囲から選択された所望の平均粒子径に調整してから歯科用充填剤として使用してもよいことは勿論である。
さらに、前記工程(a)において前記アルカリ金属水酸化物として水酸化カリウムを用いた場合には、ワデアイト型結晶構造を有するジルコニウムトリシリケート化合物、即ちワデアイト化合物(K2ZrSi39)を含む無機酸化物微粒子を容易に得ることができる。
【0055】
表面処理工程
前記工程(e)で得られた無機酸化物微粒子は、上記のような物理的性状を有しているので、その使用用途によっても異なるが、本発明に係る歯科用充填材としてそのまま使用することができる。
しかし、この無機酸化物微粒子と混合して使用される硬化性樹脂とその屈折率を調整する必要がある場合、あるいはこの硬化性樹脂への分散性や該樹脂との密着性を向上させる必要がある場合には、該無機酸化物微粒子の表面を有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物で表面処理(表面改質)して使用することが望ましい。
【0056】
この場合、前記の表面処理は、特にこれに制限されるものではないが、以下のような方法で行うことができる。この中でも、下記(2)および(3)に示す表面処理法、特に下記(3)の表面処理法を用いて行うことが好ましい。また、その表面処理法それ自体は、一般的に用いられる従来公知の方法を採用することができる。
【0057】
(1)前記工程(c)で得られた固形分を含む水溶液を、必要に応じて濃縮した後、該水溶液中に、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物を添加して、該有機金属化合物の加水分解反応を起こさせることによって前記固形分の表面処理を行い、その後、後段の乾燥工程に供する方法。ただし、この方法から得られる無機酸化物微粒子は、後段の乾燥工程および焼成工程に供する必要があるため、その屈折率は調整できるものの、硬化性樹脂への分散性や該樹脂との密着性の向上は余り期待できない。また、後段の乾燥工程で得られた無機酸化物微粒子の平均粒子径を調製するための粉砕工程に供する必要がある場合には、該粉砕工程で該粒子が粉砕(分割)されてその表面処理部分が欠落または脱落したりするので、当初の表面処理の目的を達成できないことがある。
【0058】
(2)前記工程(d)で得られた無機酸化物微粒子(乾燥粉体)を水および/または有機溶媒の中に分散させた混合液に、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物を添加して、該有機金属化合物の加水分解反応を起こさせることによって前記無機酸化物微粒子(乾燥粉体)の表面処理を行い、その後、乾燥する方法。ただし、この方法から得られる無機酸化物微粒子は、後段の焼成工程に供する必要があるため、その屈折率は調整できるものの、硬化性樹脂への分散性や該樹脂との密着性の向上は余り期待できない。
【0059】
(3)前記工程(e)で得られた固形分(焼成粉体)を水および/または有機溶媒の中に分散させた混合液に、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物を添加して、該有機金属化合物の加水分解反応を起こさせることによって前記固形分(焼成粉体)の表面処理を行い、その後、乾燥する方法。この方法から得られる無機酸化物微粒子は、焼成済みの粒子を表面処理したものであるため、その屈折率を調整できるばかりでなく、硬化性樹脂への分散性や該樹脂との密着性の向上が充分に期待できる。
【0060】
[歯科用複合材料]
本発明による歯科用複合材料は、前記の歯科用充填材と硬化性樹脂を含むものである。
ここで、前記硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂などがある。また、これらの硬化性樹脂は、前記歯科用複合材料の使用用途によって選択され、場合によってはこれらの2種以上を混合して使用してもよい。
【0061】
なお、前記歯科用複合材料の製造方法としては、従来公知の方法を採用することができるが、一般的には、前記歯科用充填材10〜50重量部、前記硬化性樹脂10〜50重量部、および重合触媒または光重合開始剤0.1〜5重量部を攪拌下で混合して、該前記歯科用充填材を硬化性樹脂中に均一に分散させることによって製造される。この場合、必要に応じて一般的に使用されている安定剤、粘性剤、発色剤、風味保持剤、抗菌剤、芳香剤、補助剤などを添加してもよい。
このようにして製造される前記歯科用複合材料は、歯科用修復材、歯科用接着剤、歯科用ミルクブランク、歯科用セメント、義歯、歯科用矯正具、歯科用矯正接着剤、歯科用鋳造材料、歯科用被覆物などの用途に好適に使用することができる。
【0062】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
酸化ジルコニウム水和物の調製
[調製例1]
オキシ塩化ジルコニウム250kg(ZrOCl2・8H2O、太陽鉱工(株)製)を温度15℃の純水4375kgに加えて攪拌し、オキシ塩化ジルコニウムを溶解させた。
さらに、このオキシ塩化ジルコニウム水溶液に、15重量%濃度のアンモニア水250Lを攪拌下でゆっくりと添加して、15℃の温度条件下で前記オキシ塩化ジルコニウムの中和反応を行い、酸化ジルコニウム水和物の沈殿を含むスラリーを得た。
次いで、このスラリーを濾過し、得られたケーキ状物質を純水で繰り返し洗浄して、前記中和反応での副生物や未反応物などを除去した。
その結果、酸化ジルコニウム水和物を10重量%含み、残余物が水分であるケーキ状物質860kgを得た。
【0064】
珪酸液の調製
[調製例2]
市販の水ガラス10kg(旭硝子エスアイテック(株)製)を純水38kgで希釈した後、陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製)を用いて脱アルカリして、pHが3で、SiO2濃度が4重量%の珪酸液9kgを調製した。
【0065】
無機酸化物微粒子の調製
【0066】
[実施例1]
調製例1で調製された酸化ジルコニウム水和物を含むケーキ状物質289gに純水2511gを加え、さらに攪拌しながら水酸化カリウム(関東化学(株)製)を85重量%含む水酸化カリウム56gを添加してアルカリ性にした後、過酸化水素(林純薬工業(株)製)を35重量%含む過酸化水素水560gを添加した。
さらに、この混合水溶液を攪拌しながら1時間、放置し、前記酸化ジルコニウム水和物を解膠して水溶液中に溶解させた。これにより、ZrO2換算基準でジルコニウム成分を1重量%含む水溶液3416g(以下、実施例調製液1Aという)を得た。
【0067】
次に、調製例2で調製された珪酸液1512gと前記実施例調製液1A3416gとを混合して、ZrO2換算基準でジルコニウム成分を24重量%含み、さらにSiO2換算基準で珪素成分を65重量%含む水溶液4928g(以下、実施例調製液1Bという)を得た。
次いで、前記実施例調製液1B4928gをステンレススチール製のオートクレーブ(耐圧ガラス工業(株)製)の中に入れ、160℃の温度で16時間、水熱処理を行った。これにより、実質的にジルコニウム成分、珪素成分およびカリウム成分の酸化物からなる固形分を含む水溶液4900g(以下、実施例調製液1Cという)を得た。
【0068】
次に、前記実施例調製液1C中に含まれる固形分濃度が2重量%になるまで濃縮して、乾燥器中で110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、充分に乾燥された非晶質の無機酸化物微粒子群50gを得た。さらに、この無機酸化物微粒子群をすり鉢に入れて、大きな粒子径を有する粒子や塊状物を粉砕して、比較的粒子径の整った無機酸化物微粒子群48g(以下、実施例粉体1A)を得た。
次いで、前記実施例粉体1A48gを石英製の坩堝に入れて電気炉(東洋製作所(株)製)中に収納し、これを1000℃の温度条件下で3時間かけて焼成した。これにより、結晶質の無機酸化物微粒子群45g(以下、実施例粉体1Bという)を得た。
【0069】
このようにして得られた実施例粉体1Bの中から無機酸化物微粒子のサンプルを取り出し、これをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定した。その結果、前記無機酸化物微粒子は、図1に示すように、ワデアイト型結晶構造を有するジルコニウムトリシリケート化合物を含む無機酸化物微粒子であることが判った。
さらに、前記実施例粉体1Bの中から選ばれた無機酸化物微粒子の平均粒子径、密度、屈折率および圧縮強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0070】
なお、前記の測定は、以下の方法で行った。
(a)平均粒子径
水-グリセリン溶液(水/グリセリンの重量比=6/4)に無機酸化物微粒子群を添加して、その含有量が1重量%になるように調整した。次に、この混合液を注入したセルを、遠心沈降式粒度分析計(堀場製作所、CAPA700)にかけて粒子の平均粒子径を測定した。また、この測定は、テーブル回転数1000rpm、粒度範囲0.5〜15μmの条件下で行った。
(b)密度
100ccフラスコに、無機酸化物微粒子である試料10gと蒸留水50ccを入れて懸濁させた。次に、フラスコ内部を真空にして、該試料の粒子間および粒子の細孔内に存在するガスと水を置換させ、さらにフラスコの標線まで水を満たして測定を行った。
【0071】
(c)屈折率
無機酸化物微粒子である試料0.2gとCARGILIE標準屈折率液0.2gを均一に混合したペーストを得た。次に、スライドガラス板上に厚さ1mmの金属製リングをのせ、該リングの中へ前記ペーストを流し込み、その上にカバーガラスをのせて、軽く圧接した。さらに、前記ペーストの透明度を目視により確認した。
(d)圧縮強度
微小圧縮試験機(島津製作所製)を用いて、ダイヤモンド圧盤で無機酸化物微粒子(3〜4μm)に負荷を与え、負荷圧力と圧縮変位を測定し粒子の圧縮強度とした。
【0072】
[実施例2]
調製例1で調製された酸化ジルコニウム水和物を含むケーキ状物質250gに純水2152gを加え、さらに攪拌しながら水酸化カリウム(関東化学(株)製)を85重量%含む水酸化カリウム48gを添加してアルカリ性にした後、過酸化水素(林純薬工業(株)製)を35重量%含む過酸化水素水480gを添加した。
さらに、この混合水溶液を攪拌しながら1時間、放置し、前記酸化ジルコニウム水和物を解膠して水溶液中に溶解させた。これにより、ZrO2換算基準でジルコニウム成分を1重量%含む水溶液2930g(以下、実施例調製液2Aという)を得た。
【0073】
次に、調製例2で調製された珪酸液753gと前記実施例調製液2A2930gとを混合して、ZrO2換算基準でジルコニウム成分を28重量%含み、さらにSiO2換算基準で珪素成分を46重量%含む水溶液3683g(以下、実施例調製液2Bという)を得た。
次いで、前記実施例調製液2B3683gをステンレススチール製のオートクレーブ(耐圧ガラス工業(株)製)の中に入れ、160℃の温度で16時間、水熱処理を行った。これにより、実質的にジルコニウム成分、珪素成分およびカリウム成分の酸化物からなる固形分を含む水溶液3603g(以下、実施例調製液2Cという)を得た。
【0074】
次に、前記実施例調製液2C中に含まれる固形分濃度が2重量%になるまで濃縮して、乾燥器中で110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、充分に乾燥された非晶質の無機酸化物微粒子群50gを得た。さらに、この無機酸化物微粒子群をすり鉢に入れて、大きな粒子径を有する粒子や塊状物を粉砕して、比較的粒子径の整った無機酸化物微粒子群48g(以下、実施例粉体2A)を得た。
次いで、前記実施例粉体2A48gを石英製の坩堝に入れて電気炉(東洋製作所(株)製)中に収納し、これを1000℃の温度条件下で3時間かけて焼成した。これにより、結晶質の無機酸化物微粒子群45g(以下、実施例粉体2Bという)を得た。
【0075】
このようにして得られた実施例粉体2Bの中から無機酸化物微粒子のサンプルを取り出し、これをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定した。その結果、前記無機酸化物微粒子は、図2に示すように、ジルコニウムトリシリケート化合物とジルコニウムジシリケート化合物を含む無機酸化物微粒子であることが判った。
さらに、実施例1の場合と同様に、前記実施例粉体2Bの中から選ばれた無機酸化物微粒子の平均粒子径、密度、屈折率および圧縮強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0076】
[実施例3]
調製例1で調製された酸化ジルコニウム水和物を含むケーキ状物質145gに純水1254gを加え、さらに攪拌しながら水酸化カリウム(関東化学(株)製)を85重量%含む水酸化カリウム水溶液17gおよび水酸化ナトリウムを48重量%含む水酸化ナトリウム水溶液21gを添加してアルカリ性にした後、過酸化水素(林純薬工業(株)製)を35重量%含む過酸化水素水280gを添加した。
さらに、攪拌しながら1時間、放置し、前記酸化ジルコニウム水和物を解膠して水溶液中に溶解させた。これにより、ZrO2換算基準でジルコニウム成分を1重量%含む水溶液1400g(以下、実施例調製液3Aという)を得た。
【0077】
次に、調製例2で調製された珪酸液753gと前記実施例調製液3A1400gとを混合し、ZrO2換算基準でジルコニウム成分を24重量%含み、さらにSiO2換算基準で珪素成分を65重量%含む水溶液2153g(以下、実施例調製液3Bという)を得た。
次いで、前記実施例調製液3B2000gをステンレススチール製のオートクレーブ(耐圧ガラス工業(株)製)の中に入れ、160℃の温度で16時間、水熱処理を行った。これにより、実質的にジルコニウム成分、珪素成分、カリウム成分およびナトリウム成分の酸化物からなる固形分を含む水溶液1950g(以下、実施例調製液3Cという)を得た。
【0078】
次に、前記実施例調製液3C中に含まれる固形分濃度が2重量%になるまで濃縮して、乾燥器中で110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、充分に乾燥された非晶質の無機酸化物微粒子群40gを得た。さらに、この無機酸化物微粒子群をすり鉢に入れて、大きな粒子径を有する粒子や塊状物を粉砕して、比較的粒子径の整った無機酸化物微粒子群38g(以下、実施例粉体3A)を得た。
次いで、前記実施例粉体3A38gを石英製の坩堝に入れて電気炉(東洋製作所(株)製)中に収納し、これを1000℃の温度条件下で3時間かけて焼成した。これにより、結晶質の無機酸化物微粒子群36g(以下、実施例粉体3Bという)を得た。
【0079】
このようにして得られた実施例粉体3Bの中から無機酸化物微粒子のサンプルを取り出し、これをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定した。その結果、前記無機酸化物微粒子は、KNaZrSi39型の結晶構造を有するジルコニウムトリシリケート化合物を含む無機酸化物微粒子であることが判った。
さらに、実施例1の場合と同様に、前記実施例粉体3Bの中から選ばれた無機酸化物微粒子の平均粒子径、密度、屈折率および圧縮強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0080】
[実施例4および比較例1]
実施例1で前記実施例調製液1Bを調製した方法と同じ方法で、調製液4B20kgを調製した。
次いで、前記調製液4Bの中から4928gずつを取り出し、ステンレススチール製のオートクレーブ(耐圧ガラス工業(株)製)の中に入れて、それぞれ90℃、110℃、200℃の温度で16時間、水熱処理を行った。これにより、実質的にジルコニウム成分、珪素成分およびカリウム成分の酸化物からなる固形分を含む水溶液(以下、それぞれ比較例調製液1C、実施例調製液4C-1および実施例調製液4C-2という)を得た。
【0081】
次に、前記の比較例調製液1C、実施例調製液4C-1および実施例調製液4C-2に含まれる固形分濃度が2重量%になるまで濃縮して、乾燥器中で110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、充分に乾燥された非晶質の無機酸化物微粒子群を得た。さらに、この無機酸化物微粒子群をすり鉢に入れて、大きな粒子径を有する粒子や塊状物を粉砕して、比較的粒子径の整った無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体1A、実施例粉体4A-1及び実施例粉体4A-2という)を得た。その結果、得られた比較例粉体1A、実施例粉体4A-1および実施例粉体4A-2は、それぞれ42g、44gおよび41gであった。
次いで、実施例1と同じ条件下でこれらの粉体を焼成して、それぞれの無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体1B、実施例粉体4B-1および実施例粉体4B-2)を得た。
【0082】
このようにして得られた比較例粉体1B、実施例粉体4B-1および実施例粉体4B-2の中から無機酸化物微粒子のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、ジルコニウムシリケート化合物の有無を調べた。さらに、実施例1の場合と同様に、前記の比較例粉体1B、実施例粉体4B-1および実施例粉体4B-2の中から選ばれた無機酸化物微粒子の平均粒子径、密度、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
【0083】
[実施例5および比較例2]
実施例1で前記実施例調製液1Bを調製した方法と同じ方法で、調製液5B20kgを調製した。
次いで、前記調製液5Bの中から4928gずつを取り出し、ステンレススチール製のオートクレーブ(耐圧ガラス工業(株)製)の中に入れて、それぞれ90℃、110℃、200℃の温度で96時間、水熱処理を行った。これにより、実質的にジルコニウム成分、珪素成分およびカリウム成分の酸化物からなる固形分を含む水溶液(以下、それぞれ比較例調製液2C、実施例調製液5C-1および実施例調製液5C-2という)を得た。
【0084】
次に、前記の比較例調製液2C、実施例調製液5C-1および実施例調製液5C-2に含まれる固形分濃度が2重量%になるまで濃縮して、乾燥器中で110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、充分に乾燥された非晶質の無機酸化物微粒子群を得た。さらに、この無機酸化物微粒子群をすり鉢に入れて、大きな粒子径を有する粒子や塊状物を粉砕して、比較的粒子径の整った無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体2A、実施例粉体5A-1及び実施例粉体5A-2という)を得た。その結果、得られた比較例粉体2A、実施例粉体5A-1および実施例粉体5A-2は、それぞれ42g、44gおよび41gであった。
次いで、実施例1と同じ条件下でこれらの粉体を焼成して、それぞれの無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体2B、実施例粉体5B-1および実施例粉体5B-2)を得た。
【0085】
このようにして得られた比較例粉体2B、実施例粉体5B-1および実施例粉体5B-2の中から無機酸化物微粒子のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、ジルコニウムシリケート化合物の有無を調べた。さらに、実施例1の場合と同様に、前記の比較例粉体2B、実施例粉体5B-1および実施例粉体5B-2の中から選ばれた無機酸化物微粒子の平均粒子径、密度、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
【0086】
[実施例6および比較例3]
実施例1で前記実施例粉体1Aを調製した方法と同じ方法で、粉体6A120gを調製した。
次いで、前記粉体6Aの中から30gずつを取り出し、石英製の坩堝に入れて電気炉(東洋製作所(株)製)中に収納して、それぞれ700℃、900℃および1100℃の温度条件下で3時間かけて焼成した。これにより、それぞれの無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体3B、実施例粉体6B-1および実施例粉体6B-2という)を得た。
【0087】
このようにして得られた比較例粉体3B、実施例粉体6B-1および実施例粉体6B-2の中から無機酸化物微粒子のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、ジルコニウムシリケート化合物の有無を調べた。さらに、実施例1の場合と同様に、前記の比較例粉体3B、実施例粉体6B-1および実施例粉体6B-2の中から選ばれた無機酸化物微粒子の平均粒子径、密度、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
【0088】
[実施例7]
実施例1で前記実施例調製液1Cを調製した方法と同じ方法で、調製液7C3000gを調製した。
次いで、前記調製液7Cに含まれる固形分濃度を2重量%に調整して、これらをスプレードライヤー(NIRO ATOMIZER)に供して噴霧乾燥を行った。この時の噴霧乾燥おける温度(熱風温度)は180℃であり、また噴霧条件はスラリー供給量2L/分でスプレー圧0.5Mpaであった。これにより、充分に乾燥された実施例粉体7Aを得た。得られた実施例粉体7A50gをエタノール100gと十分混合し1時間静置を行った後、上澄みから約3cmの液、及び上澄みから約3〜6cmの液、約6〜9cmの液、約9cm以下の沈降物含有液(以下、それぞれ実施例調製液7C−1、実施例調製液7C−2、実施例調製液7C−3および実施例調製液7C-4)を得た。
【0089】
実施例調製液7C−1、実施例調製液7C−2、実施例調製液7C−3および実施例調製液7C-4を乾燥器中で110℃の温度にて16時間乾燥させた。これより得られた実施例粉体7A-1、実施例粉体7A-2、実施例粉体7A-3および実施例粉体7A-4は、それぞれ10g、10g、10gおよび10gであった。
次に、実施例1と同じ条件下でこれらの粉体を焼成して、それぞれの無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ実施例粉体7B-1、実施例粉体7B-2、実施例粉体7B-3および実施例粉体7B-4という)を得た。
【0090】
このようにして得られた実施例粉体7B-1、実施例粉体7B-2、実施例粉体7B-3および実施例粉体7B-4の中から無機酸化物微粒子のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、ジルコニウムシリケート化合物の有無を調べた。さらに、実施例1の場合と同様に、前記の実施例粉体7B-1、実施例粉体7B-2、実施例粉体7B-3および実施例粉体7B-4の中から選ばれた無機酸化物微粒子の平均粒子径、密度、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
【0091】
[実施例8および比較例4]
実施例1で前記実施例調製液1Aを調製した方法と同じ方法で、調製液8A20kgを調製した。
次に、調製例2で調製された珪酸液と前記調製液8Aとを以下の割合となるように混合した。なお、下記のモル比は、前記珪酸液中に含まれる珪素成分をSiO2で表し、さらに前記水溶液中に含まれるジルコニウム成分をZrO2で表したときのものを示す。
【0092】
珪酸液(g) 調製液8A(g) モル比(SiO2/ZrO2
混合液1 2010 1003 80/5
混合液2 505 2201 20/11
混合液3 1508 3043 60/15
混合液4 1022 3234 40/32
【0093】
次いで、前記混合液1〜4(すなわち、それぞれ比較例調製液4B-1、実施例調製液8B-1、実施例調製液8B-2および比較例調製液4B-2である。)から2000gずつを取り出し、ステンレススチール製のオートクレーブ(耐圧ガラス工業(株)製)の中に入れ、それぞれ160℃の温度で16時間、水熱処理を行った。これにより、実質的にジルコニウム成分、珪素成分およびカリウム成分の酸化物からなる固形分を含む水溶液(以下、それぞれ比較例調製液4C-1、実施例調製液8C-1、実施例調製液8C-2および比較例調製液4C-2という)を得た。
【0094】
次に、前記の比較例調製液4C-1、実施例調製液8C-1、実施例調製液8C-2および比較例調製液4C-2中に含まれる固形分濃度が2重量%になるまで濃縮して、乾燥器中で110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、充分に乾燥された非晶質の無機酸化物微粒子群を得た。さらに、この無機酸化物微粒子群をすり鉢に入れて、大きな粒子径を有する粒子や塊状物を粉砕して、比較的粒子径の整った無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体4A-1、実施例粉体8A-1、実施例粉体8A-2および比較例粉体4A-2という)を得た。その結果、得られた比較例粉体4A-1、実施例粉体8A-1、実施例粉体8A-2および比較例粉体4A-2は、それぞれ21g、19g、18gおよび17gであった。
次いで、実施例1と同じ条件下でこれらの粉体を焼成して、それぞれの無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体4B-1、実施例粉体8B-1、実施例粉体8B-2および比較例粉体4B-2)を得た。
【0095】
このようにして得られた比較例粉体4B-1、実施例粉体8B-1、実施例粉体8B-2および比較例粉体4B-2の中から無機酸化物微粒子のサンプルを取り出し、これをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、ジルコニウムトリシリケート化合物の有無を調べた。さらに、実施例1の場合と同様に、前記の比較例粉体4B-1、実施例粉体8B-1、実施例粉体8B-2および比較例粉体4B-2の中から選ばれた無機酸化物微粒子の平均粒子径、密度、屈折率および圧縮強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0096】
[実施例9]
実施例1で前記実施例粉体1Bを調製した方法と同じ方法で、粉体9B120gを調製した。
次いで、前記粉体9Bの中から100gを取り出し、ガラス容器に入れてエチルアルコール99.5重量%および水0.5重量%を含むエタノール18gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン12gを添加して1時間、攪拌混合した後、乾燥器に入れて110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物で表面処理された実施例粉体9BX112gを得た。
【0097】
このようにして得られた実施例粉体9BXの中から無機酸化物微粒子のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、ジルコニウムシリケート化合物の有無を調べた。さらに、実施例1の場合と同様に、前記実施例粉体9BXの中から選ばれた無機酸化物微粒子の平均粒子径、密度、屈折率および圧縮強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0098】
[実施例10]
実施例5で前記実施例粉体5B−2を調製した方法と同じ方法で、粉体10B120gを調製した。
次いで、前記粉体10Bの中から100gを取り出し、ガラス容器に入れてエチルアルコール99.5重量%および水0.5重量%を含むエタノール18gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン12gを添加して1時間、攪拌混合した後、乾燥器に入れて110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランの加水分解物で表面処理された実施例粉体10BX112gを得た。
【0099】
このようにして得られた実施例粉体10BXの中から無機酸化物微粒子のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、ジルコニウムシリケート化合物の有無を調べた。さらに、実施例1の場合と同様に、前記実施例粉体10BXの中から選ばれた無機酸化物微粒子の平均粒子径、密度、屈折率および圧縮強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0100】
[比較例5]
比較例3で前記比較例粉体3Bを調製した方法と同じ方法で、粉体5B120gを調製した。
次いで、前記粉体5Bの中から100gを取り出し、ガラス容器に入れてエチルアルコール99.5重量%および水0.5重量%を含むエタノール18gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン12gを添加して1時間、攪拌混合した後、乾燥器に入れて110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物で表面処理された比較例粉体5BX112gを得た。
【0101】
このようにして得られた比較例粉体5BXの中から無機酸化物微粒子のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、ジルコニウムシリケート化合物の有無を調べた。さらに、実施例1の場合と同様に、前記比較例粉体5BXの中から選ばれた無機酸化物微粒子の平均粒子径、密度、屈折率および圧縮強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0102】
[比較例6]
平均粒子径6μmのシリカ微粒子100g(触媒化成工業(株)製、シリカマイクロビードP−1500)をガラス容器にいれて、エチルアルコール99.5重量%および水0.5重量%を含むエタノール18gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン12gを添加して1時間、攪拌混合した後、乾燥器に入れて110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物で表面処理された比較例粉体6BX112gを得た。
【0103】
このようにして得られた比較例粉体6BXの中から無機酸化物微粒子のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、ジルコニウムシリケート化合物の有無を調べた。さらに、実施例1の場合と同様に、前記比較例粉体6BXの中から選ばれた無機酸化物微粒子の平均粒子径、密度、屈折率および圧縮強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0104】
[比較例7]
平均粒子径17nmのシリカ微粒子をSiO2基準で10重量%含むシリカゾル(触媒化成工業(株)製、カタロイドS−20L)を蒸留水で希釈して、3重量%のシリカ微粒子を含むシリカゾル1867gを得た。これに、濃度3重量%のNaOH水溶液12gと、ジルコニウム成分をZrO2基準で4重量%含む炭酸ジルコニルアンモニウム水溶液407g(第一稀元素化学工業(株)製、ジルコゾールAC−7)を添加した後、15分間攪拌してこれらの混合スラリー液2286gを調製した。
【0105】
次いで、この混合スラリー液をスプレードライヤー(NIRO ATOMIZER)に供して噴霧乾燥を行った。この時の噴霧乾燥おける温度(熱風温度)は180℃であり、また噴霧条件はスラリー供給量2L/分でスプレー圧0.5Mpaであった。これにより、充分に乾燥された比較例粉体7Aを得た。得られた比較例粉体7Aを650℃の温度で3時間かけて焼成した。これにより、無機酸化物微粒子群からなる比較例粉体7Bを得た。
【0106】
このようにして得られた比較例粉体7Bの中から無機酸化物微粒子のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、ジルコニウムシリケート化合物の有無を調べた。さらに、実施例1の場合と同様に、前記比較例粉体7Bの中から選ばれた無機酸化物微粒子の平均粒子径、密度、屈折率および圧縮強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0107】
[比較例8]
比較例7で前記比較例粉体7Bを調製した方法と同じ方法で、粉体8A120gを調製した。
次いで、前記粉体8Aの中から100gを取り出し、ガラス容器に入れてエチルアルコール99.5重量%および水0.5重量%を含むエタノール18gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン12gを添加して1時間、攪拌混合した後、乾燥器に入れて110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物で表面処理された比較例粉体8BX112gを得た。
【0108】
このようにして得られた比較例粉体8BXの中から無機酸化物微粒子のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、ジルコニウムシリケート化合物の有無を調べた。さらに、実施例1の場合と同様に、前記比較例粉体8BXの中から選ばれた無機酸化物微粒子の平均粒子径、密度、屈折率および圧縮強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
注記
上記の表1において、◎印は、無機酸化物微粒子(粉体B)の中にジルコニウムトリシリケート化合物を主に含み、○印は、無機酸化物微粒子(粉体B)の中にジルコニウムトリシリケート化合物とジルコニウムジシリケート化合物を含み、△印は、無機酸化物微粒子(粉体B)の中にジルコニウムジシリケート化合物を主に含み、×印は、無機酸化物微粒子(粉体B)の中にジルコニウムシリケート化合物を殆ど含んでいないことを意味する。
【0111】
歯科用複合材料の調製
【0112】
[実施例11および比較例9]
ウレタンジメタクリレート130gとトリエチレングリコールジメタクリレート70gを混合した後、カンファーキノン2gおよびジメチルアミノエチルメタクリレート4gを添加して溶解させた重合性単量体を調製した。
【0113】
次いで、前記重合性単量体を30gずつ取り出し、これらに実施例粉体1B、実施例粉体9BX、実施例粉体10BX、比較例粉体5BX、比較例粉体6BXおよび比較例粉体8BXをそれぞれ70g加えて1時間、攪拌混合した。これにより、歯科用複合材料(試料)としての実施例ペースト11BY−1、実施例ペースト11BY−2、実施例ペースト11BY−3、比較例ペースト9BY−1、比較例ペースト9BY−2および比較例ペースト9BY−3をそれぞれ100g得た。次に、これらをテフロン(登録商標)製の鋳型にそれぞれ均一に充填した後、光照射して実施例複合材料11BZ−1、実施例複合材料11BZ−2、実施例複合材料11BZ−3、比較例複合材料9BZ−1、比較例複合材料9BZ−2および比較例複合材料9BZ−3を得た。
【0114】
さらに、前記実施例複合材料11BZ−1、実施例複合材料11BZ−2、実施例複合材料11BZ−3、比較例複合材料9BZ−1、比較例複合材料9BZ−2および比較例複合材料9BZ−3のX線造影性、透明性および曲げ強度をそれぞれ測定した。その結果を表2に示す。
【0115】
なお、前記の測定は、以下の方法で行った。
(a)X線造影性
X線撮影装置を用いて前記複合材料を歯科用X線フィルムに撮影した。さらに、同時に厚さを規定したアルミニウム板を撮影し、前記複合材料のX線不透過性がアルミニウム板と等価の場合を100%とした。
【0116】
(b)透明性
前記複合材料を白色と黒色に二分された透明性テスト紙上にプレートの1/2が黒色上に位置するように置いて、白色部と黒色部のプレート上での透明性を観察した。さらに、以下の基準で評価した。
○印:黒色部に白濁や反射光がなく、白色部に何ら着色が認められない。(すなわち、透明性が高いことを意味する。)
△印:黒色部がやや白味を帯び、白色部にやや着色の傾向が認められる。(すなわち、透明性がやや低いことを意味する。)
×印:黒色部が白味を帯びて反射光があり、白色部に薄茶の着色が認められる。(すなわち、透明性が低いことを意味する。)
【0117】
(c)曲げ強度
前記複合材料を37℃の蒸留水中に24時間保持した後、これを取り出してインストロン万能試験機を用いて、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分の条件下で曲げ強度試験を行った。なお、ここでは、各試料5本ずつの試験片(幅約2mm、高さ約2mm、長さ約25mmの直方体)を作製し、その平均値を以ってその試料の曲げ強度とした。
【0118】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】実施例1で製造したワデアイト型結晶構造を有するジルコニウムトリシリケート化合物を含む無機酸化物微粒子(実施例粉体1B)をX線回折した結果を示す。
【図2】実施例2で製造したジルコニウムトリシリケート化合物およびジルコニウムジシリケート化合物を含む無機酸化物微粒子(実施例粉体2B)をX線回折した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウムシリケート化合物を含む平均粒子径2〜50000nmの無機酸化物微粒子を含有する歯科用充填材。
【請求項2】
前記ジルコニウムシリケート化合物が、ワデアイト型結晶構造を有するジルコニウムトリシリケート化合物であることを特徴とする請求項1に記載の歯科用充填材。
【請求項3】
前記無機酸化物微粒子が、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物で表面処理されたものであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の歯科用充填材。
【請求項4】
前記歯科用充填材の屈折率が、1.43〜1.65の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の歯科用充填材。
【請求項5】
ジルコニウムシリケート化合物を含む平均粒子径2〜50000nmの無機酸化物微粒子を含有する歯科用充填材を製造する方法であって、
(a)酸化ジルコニウム水和物を含む水溶液にアルカリ金属の水酸化物と過酸化水素を添加して攪拌することにより、該酸化ジルコニウム水和物を解膠して溶解させた水溶液を調製する工程、
(b)必要に応じて前記水溶液中に含まれるジルコニウム成分の濃度を調整した後、該水溶液と珪酸液の水溶液とを混合する工程、
(c)前記水溶液を反応容器中に入れて、100〜350℃の温度で水熱処理する工程、
(d)前記水溶液中に含まれる固形分を乾燥する工程、および
(e)前記固形分を750〜1200℃の温度で焼成する工程
を含む歯科用充填材の製造方法。
【請求項6】
前記工程(a)で使用される酸化ジルコニウム水和物が、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウムおよびアンモニウムオキシ炭酸ジルコニウムから選ばれた1種または2種以上のジルコン酸塩の水溶液にアンモニアまたはアンモニア水を撹拌下で添加して得られる中和反応物を洗浄したものであることを特徴とする請求項5に記載の歯科用充填材の製造方法。
【請求項7】
前記工程(a)で使用されるアルカリ金属の水酸化物が、水酸化カリウムであることを特徴とする請求項5〜6のいずれかに記載の歯科用充填材の製造方法。
【請求項8】
前記工程(c)における水熱処理を、オートクレーブ中で10〜100時間かけて行うことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の歯科用充填材の製造方法。
【請求項9】
前記工程(d)における乾燥処理を、熱風乾燥機中で乾燥またはスプレードライヤーを用いた噴霧乾燥にて行うことを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の歯科用充填材の製造方法。
【請求項10】
前記前記工程(d)で得られた固形分または前記前記工程(e)で得られた固形分を水および/または有機溶媒の中に分散させた混合液に、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物を添加して、該有機金属化合物の加水分解反応を起こさせることによって前記固形分の表面を処理することを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の歯科用充填材の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれかに記載の歯科用充填材と硬化性樹脂とを含む歯科用複合材料。
【請求項12】
前記硬化性樹脂が、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂およびウレタン樹脂から選ばれた1種または2種以上の硬化性樹脂であることを特徴とする請求項11に記載の歯科用複合材料。
【請求項13】
前記歯科用複合材料が、歯科用修復材、歯科用接着剤、歯科用ミルクブランク、歯科用セメント、義歯、歯科用矯正具、歯科用矯正接着剤、歯科用鋳造材料および歯科用被覆物から選ばれた1種または2種以上の用途に使用されることを特徴とする請求項11〜12のいずれかに記載の歯科用複合材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−261967(P2007−261967A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86800(P2006−86800)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000190024)触媒化成工業株式会社 (458)
【Fターム(参考)】