説明

歯科用充填材料の超音波硬化

本発明は、硬化の際に、低い若しくは無視できる程度の体積収縮を示すか又は小さな(例えば、0.5%までの)膨張を示す複合材料、特に歯科用充填材料の形態の複合材料に関する。本発明は、硬化時における複合材料の体積収縮を制御する方法、及び歯を再構成する方法にも関する。本発明は、歯科用充填材料の超音波硬化にも関連している。本発明は、更に、ジルコニア粒子の集合及びそのようなジルコニア粒子(例えば、正方晶相のジルコニア又は立方晶相のジルコニア)を製造するための方法にも関する。フィラー成分のマルテンサイト転移は、例えば、超音波によって又は化学的トリガーによって引き起こされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化の際に、低いか若しくは無視できる程度の体積収縮(volumetric shrinkage)を示し、又は膨張する場合であっても、小さな(例えば、0.5%までの)膨張(expansion)を示す複合材料、特に歯科用充填材料(dental filling materials)の形態の複合材料に関する。本発明は、硬化時における複合材料の体積収縮を制御する方法、及び歯を再構成する方法にも関する。本発明は、歯科用充填材料の超音波硬化(ultrasonic curing)にも関する。本発明は、更に、ジルコニア粒子の集合(populations)及びそのようなジルコニア粒子を製造するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、重合可能な樹脂ベース材料(例えば、モノマーまたはモノマー混合物)が重合する際には、収縮が生じる。例えば、「Ring-Opening Polymerization with Expansion in Volume」William J. Baileyら、ACS Symposium 59, No. 4, 第38-59頁(1977年)にも指摘されているように、臨界的な収縮の大部分は、鎖状熱可塑性材料において、モノマー−ポリマー混合物がガラス転移温度に接近する場合、又は架橋した材料のゲル化温度の後に生じる。この刊行物はまた、ポリマー技術の多くの用途において、重合が収縮や膨張をほとんど伴わないことが望ましいということを指摘している。収縮がほとんど無いことが望まれる分野の例には、歪みのない材料、埋め込み樹脂、高度光沢コーティング、固体推進薬用バインダー、型押(又は印象)材料及び構造用接着剤などがある。収縮のない材料(zero shrinkage materials)には、R.I.M.(reaction-in-molding)技術に特定の用途が見出されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、例えば、精密鋳造、高強度接着剤、予備ストレス化されたプラスチック、岩石破砕材料、エラストマー系シーラント及び歯科用充填材料などの分野では、膨張が望ましい場合もある。
【0004】
歯科用充填材料は、モノマー又はオリゴマーを含む樹脂ベース材料が重合する原理に基づいている。プラスチック歯科用充填材料が重合するときに、収縮が生じる。このことは、歯と充填材料との間に微細な寸法のクラック(又はマイクロクラック(micro-crack))が生じることを意味する。クラックは、プラスチック充填物の2次的な欠損や変色を引き起こし得る。マイクロクラックは複合材料の機械的特性の低下を生じる。骨セメントの分野では、収縮によって骨セメントと移植片セメントとの間に多孔質の構造が生成する。このことによって、機械的特性の低下及びインプラントの不備が生じることがある。印象材料(impression material)の分野では、収縮はミスフィット(不整合)をもたらす寸法の問題を生じ得る。
【0005】
従って、重合可能な樹脂ベース材料を硬化させる際に通常生じる収縮を相殺することができるフィラー材料を用いることは明らかに有用であって、(例えば、熱硬化のための実用的な用途に限定されない)重合プロセスにおいて、一般的に使用することができる。
【0006】
ジルコニアは、複合材料、例えば歯科用材料中における充填剤成分として、広範囲に及ぶ有用性を有している。ジルコニアには、3種の基本的な結晶相:正方晶相、立方晶相及び単斜晶相が存在し得る。この3相の比容積(密度-1)はそれぞれ0.16、0.16及び0.17cm/gである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した収縮の問題、特に歯科用複合材料から知られている収縮の問題について、手際のよい解決手段を提供する。
【0008】
本発明の第1の要旨は、複合材料、特に歯科用充填材料に関する。
【0009】
本発明のもう1つの要旨は、硬化の際の複合材料の体積収縮を制御する方法、及び歯を再構成する方法に関する。
【0010】
更にその他の要旨は、医科用、特に歯科用の用途に用いるための本明細書に記載する複合材料、並びに哺乳類の歯を再構成するための複合材料を形成するためのフィラー成分の使用に関する。
【0011】
更にもう1つの要旨は、ジルコニア粒子の集合及びそれらを製造する方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
上述したように、本発明は、硬化の際における体積収縮が望ましくないか又は禁止的でさえある材料の用途に有用な新規な複合材料を提供する。
【0013】
特に、本発明は、1種若しくはそれ以上のフィラー及び重合可能な樹脂ベース材料を含んでなる複合材料であって、前記1種若しくはそれ以上のフィラーは少なくとも1種のフィラー成分を有していること、前記フィラー成分は準安定な第1の相で存在しており、マルテンサイト転移(またはマルテンサイト変態(martensitic transformation))を受けて安定な第2の相へ転移することができ、前記フィラー成分の安定な第2の相と準安定な第1の相との間での体積比は少なくとも1.005であることを特徴とする複合材料を提供する。
【0014】
本発明の1つの特定の特徴は、フィラー材料のマルテンサイト転移を、トリガー機構(trigger mechanism)(以下の記載を参照されたい)によって引き起こすことができるということである。
【0015】
多くのポリマー樹脂ベース材料(以下を参照のこと)がその硬化の際に体積収縮することはよく知られている。従って、本発明の特定の特徴は、重合可能な樹脂ベース材料によって生じた体積収縮を除いたり若しくは低減させたり、又はポリマー樹脂ベース材料の硬化の際に複合材料が正味の体積膨張を示すという程度でこの体積収縮を相殺することができるフィラー材料が存在することである。
【0016】
従って、複合材料の1つの好ましい態様では、樹脂ベース材料は、重合の際及び1種若しくはそれ以上のフィラー成分からの補償作用(compensating effect)が存在しない場合に、少なくとも0.50%の複合材料の体積収縮(ΔVresin)を生じ、前記複合材料は、樹脂ベース材料の重合の際及びフィラー成分の相転移(phase transformation)の際に、樹脂ベース材料によって生じた補償されない体積収縮(ΔVresin)よりも少なくとも0.25%ポイント小さい総体積収縮(ΔVtotal)を示す。特に、体積収縮(Vresin)は少なくとも1.00%、例えば少なくとも1.50%であり、総体積収縮(ΔVtotal)は補償されない体積収縮よりも少なくとも0.50%ポイント、例えば1.00%ポイント小さい。
【0017】
別法として、本発明は、1種若しくはそれ以上のフィラー及び重合可能な樹脂ベース材料を含んでなる複合材料であって、前記1種若しくはそれ以上のフィラーは少なくとも1種のフィラー成分を有していること、前記フィラー成分は正方晶結晶相若しくは立方晶結晶相の準安定なジルコニアを含んでいること、前記樹脂ベース材料は、重合の際及び1種若しくはそれ以上のフィラー成分からの補償作用(compensating effect)が存在しない場合に、少なくとも0.50%の複合材料の体積収縮(ΔVresin)を生じること、前記複合材料は、前記樹脂ベース材料の重合の際及び前記フィラー成分の相転移(phase transformation)の際に、樹脂ベース材料によって生じた補償されない体積収縮(ΔVresin)よりも少なくとも0.25%ポイント小さい総体積収縮(ΔVtotal)を示すことを特徴とする複合材料を提供する。
【0018】
本発明の複合材料は、一般に、1種又はそれ以上のフィラーを5〜95重量%若しくは10〜90重量%及び重合可能な樹脂ベース材料を95〜5重量%若しくは90〜10重量%含んでなり、特に、1種又はそれ以上のフィラーを30〜95重量%若しくは30〜90重量%及び重合可能な樹脂ベース材料を5〜70重量%若しくは70〜10重量%含む。
【0019】
体積により計算すると、本発明の複合材料は、1種又はそれ以上のフィラーを20〜80体積%及び重合可能な樹脂ベース材料を80〜20体積%、例えば25〜80体積%若しくは25〜75体積%の1種又はそれ以上のフィラー及び25〜75体積%の重合可能な樹脂ベース材料を有する。
【0020】
好ましくは、本発明の複合材料は実質的に溶媒フリー及び水フリーである(実質的に溶媒及び水を含まない)。ここで、「実質的に溶媒フリー及び水フリーである(substantially solvent free and water free)」とは、複合材料が溶媒及び/又は水を(含むとしても)4.0%未満、例えば1.0%未満、又は0.5%未満で含むことを意味する。
【0021】
フィラー/フィラー成分
上述の事項を考慮すると、1種若しくはそれ以上のフィラー、特に1種若しくはそれ以上のフィラー成分が、本発明の複合材料の重要な成分であるということは明らかである。
【0022】
フィラーは、ポリマー材料に所望の機械的特性、例えば、耐摩耗性、不透明性、色彩、放射線不透過性、堅さ、耐圧縮性、圧縮強さ、曲げ強さ、曲げモジュラスなどを付与するために、ポリマー材料と共にしばしば用いられる。
【0023】
「フィラー」という用語は通常の意味で理解されるべきであって、複合材料中においてポリマーと組み合わせて通常的に用いられるフィラーも本発明においては有用である。重合可能な樹脂ベース材料(以下の説明を参照されたい)は、「連続」相を構成し、そこにフィラーが分散される。
【0024】
フィラーの具体例には、硫酸バリウム(BaSO)、炭酸カルシウム(CaCO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、石英(SiO)、二酸化チタン(TiO)、ジルコニア(ZrO)、アルミナ(Al)、ランタニア(La)、無定形シリカ、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、酸化バリウム(BaO)、バリウムマグネシウムアルミノシリケートガラス、バリウムアルミノボロシリケートガラス(BAG)、バリウム、ストロンチウム若しくはジルコニウム含有ガラス、ミル処理ガラス(短繊維ガラス)、微細なYtF若しくはYbF粒子、ガラス繊維、合金などがある。金属酸化物、例えば二酸化チタン(TiO)、ジルコニア(ZrO)、アルミナ(Al)、ランタニア(La)は、本発明の複合材料に用いるための、特に有用なフィラーの群を構成する。
【0025】
複合材料中における1種若しくはそれ以上のフィラーの重量基準での含量は、一般に、5〜95%、若しくは10〜90%、例えば30〜95%、例えば40〜95%、例えば60〜95%の範囲にある。2種若しくはそれ以上のフィラーの組合せが望ましい場合もあるし、また、フィラーの粒度分布は、フィラーを緻密に充填させ、従って複合材料中にフィラーを多量に導入することを容易に行うことができるように、相当に広い分布であってもよいということを、理解されたい。一般に、複合材料は、1若しくはそれ以上の微粒子に加えて、超微粒子(microfine)及び/又はナノサイズ(nano-sized)のフィラー(5〜15%)の分布を有することもできる。この分布によってより効率的な充填がもたらされ、それによって、より大きな粒子どうしの間の空間がより小さい粒子によって満たされる。それによって、例えば77〜87重量%程度までのフィラー含量が許容される。1つの粒度分布フィラーの例は、0.4μmの構造マイクロフィラーであって、以下の分布:0.28μm未満の平均粒子寸法を有するフィラー粒子10重量%;0.44μm未満の平均粒子寸法を有するフィラー粒子50重量%;及び0.66μm未満の平均粒子寸法を有するフィラー粒子90重量%を有している。
【0026】
一般に、フィラーの粒子寸法は、0.01〜50μmの範囲、例えば0.02〜25μmの範囲であって、最大で100nmの粒子寸法のナノサイズのフィラーを含むことができる。
【0027】
いくつかの態様において、フィラーの粒子寸法は、0.04μmの非常に微細な粒子を伴って、0.2〜20μmの範囲である。一例として、フィラーの緻密な充填を達成するために、無定形シリカと組み合わせて、非常に大きなフィラー粒子を用いることもできる。
【0028】
「粒子寸法」という用語は、対象とする粒子材料の最も短い寸法を意味することを意図している。球形の粒子である場合には、直径が「粒子寸法」であるのに対して、繊維状又は針状の形状の微粒子材料については、幅(width)が「粒子寸法」である。所定の条件(下記を参照)において、好ましい結晶相のためには、(粒子寸法ではなく)結晶寸法が決定的であるという点で、そのような粒子の重要な特徴は実際の結晶寸法であると理解されたい。
【0029】
複合材料が歯科用のものである態様では、特に有用なフィラーは、ジルコニア、無定形シリカ、ミル処理したバリウム−、ストロンチウム−若しくはジルコニウム−含有ガラス、ミル処理した酸エッチング可能なガラス、微細なYtF若しくはYbF粒子、ガラス繊維などである。
【0030】
1種若しくはそれ以上のフィラーは、少なくとも1種のフィラー成分を含んでいる。「フィラー成分」という用語は、特定の物理的性質(例えば、樹脂ベース材料の硬化及び重合によって生じる体積収縮を(膨張によって)補償し得る固有の特性)を有するフィラー又はフィラーの部分を意味することを意図している。従って、特定のフィラー、例えばジルコニアが複合材料の中に含まれていてもよいし、これらのフィラー粒子の特定のフラクション(部分)が特定の物理的特性を有していてもよく、例えば準安定な結晶相(以下を参照)で存在してもよいし、それによってフィラー成分を構成することもできる。
【0031】
フィラー成分の粒子寸法は、一般に0.01〜50μmの範囲にある。
【0032】
フィラー成分は、一般に、1種若しくはそれ以上のフィラーの20〜100%、好ましくは30〜100%、例えば40〜100%又は50〜100%を構成している。
【0033】
複合材料の全重量基準で計算すると、一般に、複合材料の全重量の15〜90%、例えば、25〜90%、例えば30〜90%、特に60〜85%をフィラー成分が構成する。
【0034】
1種若しくはそれ以上のフィラー成分は、準安定な第1の相で存在しており、マルテンサイト転移を受けて安定な第2の相へ転移することができ、そのフィラー成分の準安定な第1の相と安定な第2の相との間の体積比は、少なくとも1.005、例えば1.01、場合によっては1.02、又は少なくとも1.03であってよい。
【0035】
本発明に関して、「準安定な第1の相」という用語は、そのような相の中に存在するフィラー成分が、第2の相の自由エネルギーよりも大きな自由エネルギーを有することを意味しており、第1の相(高エネルギー状態)から第2の相(低エネルギー状態)への転移(又は変態)が行われる前に、活性化障壁(activation barrier(F))が克服される(又は障壁を越える)必要があるということを意味している。従って、相転移(phase transformation)は自発的には進行しない。
【0036】
相転移はマルテンサイト型であって、この用語は定義によれば、フィラー成分の結晶構造は転移を受けるために特別な原子を必要とはしないということを意味している。従って、転移は非常に速く、ほとんど瞬間的に起こり得る。
【0037】
「自由エネルギー」という表現は、粒子バルク、粒子表面及びストレイン・コントリビューション(strain contributions)からの自由エネルギーの総和のことである。多くの実用的な用途については、粒子バルク及び粒子表面からの自由エネルギーのみを考慮する必要がある。
【0038】
従って、フィラー成分としての可能性のある種々の材料について考慮する場合、以下の3つの主要な要件を考慮に入れることが妥当である。
1.フィラー成分のための第1の要件は、「標準状態」、即ち、標準圧力(101.3 kPa)および10〜50℃の範囲内のいずれか少なくとも1つの温度(生成物が使用される条件に対応する)において、選択された粒子寸法の範囲内で、第2の結晶相が「安定」であることである。
2.フィラー成分のための第2の要件は、フィラー成分の準安定な第1の結晶相が、同じ「標準」条件において存在し得るということである。
3.フィラー成分のための第3の要件は、フィラー成分の準安定な第1の相と前記安定な第2の段階との間の比容積の値が少なくとも1.005であることである。
【0039】
「安定」という表現は、準安定な第1の相からフィラー成分が転移するために必要な条件下で、自発的に転移を生じない相のことである。従って、「安定」な相は常に「全体として」最も低い自由エネルギーを有する相である必要はないが、しばしばそうであることになる。
【0040】
本発明に適当なフィラー成分は、上述したフィラーの特定のある種のもの結晶形態、特に金属酸化物フィラーの結晶形態を有している。その非常に有用な例はZrOである(以下に説明する「ジルコニア粒子の集合」という説明を参照のこと)。ジルコニアは、3つの主要な結晶相:正方晶、立方晶および単斜晶で存在することができる。この3相の比容積(密度の逆数(密度-1))はそれぞれ0.16、0.16および0.17cm/gである。従って、単斜晶相(第2の相)と前2者の相(第1の相)の一方とは、1.005より大きい体積比(即ち、それぞれ1.045及び1.046)を有する。正方晶および立方晶は、標準状態において、単斜晶よりも高いバルクエネルギーを有する。
【0041】
フィラー成分の例には、以下のようなものがある:
準安定な正方晶相(比容積=0.16cm/g)にあって、単斜晶相(比容積=0.17cm/g)(体積比=1.045)に転移することができるジルコニア。
準安定な立方晶相(比容積=0.16cm/g)にあって、単斜晶相(比容積=0.17cm/g)(体積比=1.046)に転移することができるジルコニアは。
【0042】
ランタニド三二酸化物(Ln)[式中、Lnは、SmからDyまでのいずれかである。]は、600〜2200℃で、10%の体積膨張にて、単斜晶相から立方晶相へ転移する。
【0043】
硫化ニッケル(NiS)は、379℃で、4%の体積膨張にて菱面体晶相から六角晶相へ転移する。密度5.34g/ml。
【0044】
ケイ酸二カルシウム(ビーライト(belite))(CaSi0)は、490℃で、12%の体積膨張にて、単斜晶相から六角晶相へ転移する。密度3.28g/ml。
【0045】
ルテチウムホウ酸塩(LuBO)は、1310℃で、8%の体積膨張にて、六角晶相から菱面体晶相へ転移する。
【0046】
ジルコニアの正方晶相の表面エネルギーは、標準温度および圧力にて、単斜晶相の表面エネルギーよりも低く、そのため室温で安定な正方晶相の(純粋な)ジルコニア結晶が得られる。この結晶相は、正方晶相と単斜晶相とのバルクエネルギーの差に匹敵する表面エネルギーの差のため、小さい(<10nm)ことが必要とされる。
【0047】
準安定な正方晶結晶相又は立方結晶相にあるジルコニアについて、粒子寸法は5〜80000nmの範囲、例えば20〜2000nmの範囲にあることが好ましいが、50〜1000nm、例えば50〜500nmの範囲の平均粒子寸法が光学的特性と構造的特性との間で、最良のバランスをもたらすと考えられている。
【0048】
1つの態様において、1又はそれ以上のフィラー成分は、超音波の影響によってマルテンサイト転移を受けることができる。
【0049】
上述した事項を考慮すると、フィラー成分は、準安定な正方晶相又は立方晶相のジルコニア(ZrO)を含むことが好ましい(特に、以下の「ジルコニア粒子の集合」を参照のこと)。
【0050】
もう1つの態様において、フィラー成分は、化学的トリガー(chemical trigger)にさらされることによって、マルテンサイト転移を受けることができる。
【0051】
いくつかの例において、活性化障壁(F)は、第1の相から第2の相への時期尚早の転移を防止するためには、十分に大きくはない。このことによって、複合材料の貯蔵の際に、自然的な転移が生じる可能性がある。従って、いくつかの例では、複合材料の貯蔵の際に、フィラー成分が時期尚早の転移を多少なりとも自発的に生じることのないような準安定な相が得られるように、自然のフィラー成分を安定化させることが有利である。準安定な相の安定化は、例えば、フィラー粒子の表面変性(surface modification)によって又はドーピングによって行うことができる(これらについては、以下に説明する)。
【0052】
ドーピング
多くの結晶相は、ドーピング物質を用いることよって、安定化させることができる。一般に、ドーパントの量を増加すると、相はより安定化する。エネルギーに関して、より多くのドーパントが使用されると、活性化障壁(F)も高くなる。しかしながら、トリガー方法についての活性化障壁は、相転移を引き起こす(トリガーする)ためには、活性化障壁を越えるために十分に低いことが必要であり、しかしながら相転移が自発的に起こらない程度に十分に高いことも必要とされる。
【0053】
ジルコニアは、一般に、1又はそれ以上のドーパントを20モル%まで用いて安定化させることができる。ジルコニアは、カルシウム、セリウム、バリウム、イットリウム、マグネシウム、アルミニウム、ランタン、セシウム、ガドリニウム等及びそれらの酸化物並びにそれらの組合せによって安定化させることができる。特に、いくつかの有用なドーパントについての推奨できるモル%は、Y(1〜8%)、MgO(1〜10%)、CaO(1〜18%)、CeO(1〜12%)およびSc(1〜10%)である。例えば、Yの0〜1%のドーパントレベルは、一般に、ジルコニアの正方晶相および立方晶相を安定化させるには十分ではなく、従って、そのようなドーピングがなされたジルコニアは、室温にて、単斜晶相への自発的な相転移を受けることになる。高過ぎるレベル、例えば8%又はそれ以上のレベルでYを添加すると、大部分のトリガープロセスについての活性化障壁が越えるためには高過ぎるようになる程度まで、正方晶相および立方晶相を安定することができる。活性化障壁の間についてのあるポイントで、以下に説明するように、転移が引き起こされることがある。より多くのドーパントを添加することによって、トリガーの発生をより困難にし及びより遅くすることができる。ドーパントの添加量を少なくすると、ジルコニアは不安定となり、フィラー成分としての有用性が低減する。(商業用グレードのジルコニアは、少量のハフニウムを含むことに注意されたい。ハフニウムはジルコニアの切り離せない部分であると考えられるので、そのような少量のハフニウムは上述の説明では無視している。)
【0054】
好ましい態様では、Y、MgO、CaO、CeOおよびScから選ばれる酸化物をドーピングすることによって、準安定相のジルコニアは安定化される。
【0055】
ZrOのためのドーパントの推奨されるレベルは、Y(1〜5%)、MgO(1〜5%)、CaO(1〜10%)およびCeO(1〜6%)であり、特に約1〜2%である。
【0056】
表面変性(Surface modification)
表面変性によって表面エネルギーを変化させることができる。化学成分の吸着による表面の変性によって、第1の相における表面エネルギーを低下させて、第1の相における表面エネルギーおよびバルクエネルギーの総和が、第2の相における表面エネルギーおよびバルクエネルギーの総和よりも低くなるようにすることができ、従ってこの操作によって、第1の相と第2の相との間の安定性の順序(order)を「逆転」させることができる。このようにして、化学成分が吸着されている場合にのみ第1の相は「安定」であるので、第1の相の「準安定な状態(metastability)」が生じる。従って、第1の相は、例えば化学的トリガーで処理されて、表面変性が変更されるか又は取り除かれるまで、安定化されている。
【0057】
重合可能な樹脂ベース材料
本発明の複合材料のもう1つの重要な構成要素は、重合可能な樹脂ベース材料である。
【0058】
「重合可能な樹脂ベース材料」という用語は、モノマー、ダイマー、オリゴマー、プレポリマーなどの、重合することによって、ポリマー又はポリマーネットワークを形成することができる1種の成分又は2種以上の成分の混合物を意味する。ポリマーは、一般に、有機ポリマーを意味する。樹脂ベース材料は、主要なモノマー組成によって一般に分類される。
【0059】
複合材料中の重合可能な樹脂ベース材料の含量は、重量基準で、一般に5〜95%の範囲又は10〜90%の範囲、例えば10〜70%の範囲、例えば10〜60%の範囲、例えば10〜40%の範囲にある。
【0060】
本発明では、実際に、いずれの重合可能な樹脂ベース材料であっても使用することができる。特定の興味深い重合可能な樹脂ベース材料は、補償作用のフィラー成分を存在させずに硬化させる場合に、複合材料の体積収縮を生じることになるようなものである。
【0061】
「硬化(curing)」という用語は、樹脂ベース材料の重合(polymerization)および硬化(hardening)を意味することを意図している。
【0062】
樹脂ベース材料の例には、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチレングリコール、エチレンスクシネート、カプロラクタム、アクリル酸、アクリロニトリル、ビニルアセテート、2−ビニルピリジン、エチレンオキシド、エチレングリコール、アセトアルデヒド、ラクトン、グリコール+酸、例えばエチレングリコール+テレフタル酸などがある。
【0063】
好ましい硬化性の樹脂成分の1つの種類には、フリーラジカル活性な官能基を有する材料が含まれ、1以上のエチレン性不飽和基を有するモノマー、オリゴマーおよびポリマーを含む。代わりに、硬化性の樹脂は、カチオン活性型の官能基を有する種類の樹脂からの材料であるかもしれない。代わりに、硬化性の樹脂は、化学反応の際に縮合することができる活性な官能基を有する材料であってよい。
【0064】
歯科用に有用な特に興味深い樹脂ベース材料は、メタクリル酸(MA)、メチルメタクリレート(MMA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、ビスフェノールA−グリシジルジメタクリレート(BisGMA)、ビスフェノールA−プロピルジメタクリレート(BisPMA)、ウレタン−ジメタクリレート(UEDMA)及びブタン四カルボン酸(TCB)と縮合したHEMA、並びに上述の化合物の組合せから選ばれる化合物からなる群から選ばれる1種若しくはそれ以上の化合物である。そのような樹脂ベース材料は、例えば米国特許第6,572,693号において、開示および説明されている。特に有用な化合物の組み合わせは、TEGDMAおよびBisGMAである(米国特許第3,066,112号を参照のこと)。
【0065】
複合材料の他の組成
複合材料は、その他に、有用なレオロジー特性、美容的特性を提供するその他の成分を有することもできる。そのような他の成分の例には、芳香成分、重合開始剤および共イニシエータ、安定剤、フッ化物放出材料、サイズ剤、抗菌成分、難燃剤がある。
【0066】
従って、樹脂ベース材料は、イニシエータと共イニシエータを含むことができ、そのような化合物の例には、過酸化ベンゾイル(BPO)、カンファキノン(CPQ)、フェニルプロパンジオン(PPD)およびN、N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン(DEPT)、N、N−ジメチル−p―アミノ安息香酸のエチルエステル(DAEM)がある。
【0067】
複合材料中における他の成分の含量は、重量基準で、一般に0〜10%、例えば0〜5%、例えば0〜4%又は1〜5%の範囲にある。
【0068】
歯科用充填材料
上述の事項を考慮して、本発明は、上記規定のような複合材料の形態の歯科用充填材料を提供する。特に、複合材料のフィラー成分には、準安定な正方晶相および立方晶相のジルコニア(ZrO)が含まれる。
【0069】
特に興味深い態様において、歯科用充填材料は、
1種若しくはそれ以上のフィラーであって、そのフィラーは少なくとも1種のフィラー成分を含んでなり、そのフィラー成分は正方晶結晶相若しくは立方晶結晶相の準安定なジルコニアを含む、1種若しくはそれ以上のフィラーを、40〜85重量%;
重合可能な樹脂ベース材料であって、メタクリル酸(MA)、メチルメタクリレート(MMA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、ビスフェノールA−グリシジルジメタクリレート(BisGMA)、ビスフェノールA−プロピルジメタクリレート(BisPMA)、ウレタン−ジメタクリレート(UEDMA)及びブタン四カルボン酸(TCB)と縮合したHEMAからなる群から選ばれる1種若しくはそれ以上の化合物をベースとする樹脂ベース材料を、15〜60重量%;
添加剤を0〜5重量%;並びに
溶媒及び/又は水を0〜4重量%
を含んでなる。
【0070】
重合可能な樹脂ベース材料の時期尚早の硬化を防止するため、複合材料を、使用の直前に混合することが意図されている2成分材料として、調製しおよび貯蔵することは、有利であり得る。
【0071】
複合材料の使用
複合材料は、マルテンサイト転移が、樹脂ベース材料の硬化とともに制御されて許容されるべきであるという事実を除いて、同種の従来の複合材料として、使用することもできるし、本質的に硬化することもできる。
【0072】
マルテンサイト転移は、物理的手段(例えば、機械的圧力、張力、超音波、X線照射、マイクロ波、縦波、電磁線、例えば光、近赤外線等の照射、加熱等)、又は化学的手段(フィラー成分粒子の表面を化学薬品、例えば複合材料の組成若しくは水などの添加物に接触させることによる表面自由エネルギーの変性)によって。活性化させることができると考えられている。
【0073】
フィラー成分のマルテンサイト転移は樹脂ベース材料の硬化(重合および硬化)によって起こることが好ましいということが、理解されるべきである。もっとも、結晶は小さいので、相転移による膨張が、硬化した化合物の機械的特性の低下を引き起こすには至らない。従って、遅い機構によって引き起こされる転移、例えば硬化した化合物中への水の拡散、又は硬化からの収縮によって生じる内部の引張り応力が、硬化後に生じるかもしれない。硬化前における転移の開始(トリガリング)は望ましいものではない。その理由は、硬化が始まる前にどの程度の転移が生じたかに応じて、体積補償作用(volume compensating effect)が減じられたり、失われたりするからである。超音波はキャビテーションを用いて転移を引き起こす(トリガリングを行う)ので、超音波によるトリガリング機構は特に注目されるべきである。キャビテーションを行うため、分子は動き得ること、例えば少なくとも部分的に硬化されていない状態を有することが好ましく、従って、複合材料の硬化の間に、超音波によるトリガリング(triggering)が行われることが好ましい。
【0074】
1つの態様において、フィラー成分のマルテンサイト転移は、超音波の適用によって開始される。超音波は、10kHzから10MHzの範囲の周波数におけるエネルギーとして定義される。より一般的に、使用する超音波は10〜1000kHzの範囲、例えば5〜100kHzの範囲の周波数を有しており、大部分の常套の装置は15〜50kHzの周波数範囲内で動作する。常套の装置の例には、歯科学における歯石除去のための超音波歯石除去装置がある。
【0075】
準安定な相を液体/流体中で、(10〜1000kHzの範囲で、1W/cmより高い出力を有する)超音波により処理すると、微細なキャビテーション(マイクロキャビテーション)が形成される。これらのキャビティ中のエネルギーは活性化障壁よりも高く、相転移のトリガリングを行う。エネルギーは、例えば、表面変性を行わせるラジカルとして又はフィラー粒子の衝突によって導入される。
【0076】
例:超音波槽(400 kHz)中で、正方晶相のジルコニア結晶をエタノールにより処理すると、相転移が生じる。歯科用の超音波歯石除去装置(scaler)、即ち歯科医が歯石除去に用いる装置を用いて、超音波によって、樹脂ベース材料中のジルコニア粒子の分散物に相転移を生じさせることができる。
【0077】
もう1つの態様では、フィラー成分の表面を化学的トリガーにさらすことによって、フィラー成分のマルテンサイト転移が開始する。
【0078】
第1の相は準安定性であるが、第1の相の表面エネルギーが低いために、活性化障壁が高い系に相転移を生じさせるためには、表面変性によって活性化障壁を低くさせることができる。相転移の活性化は、表面変性によって開始させることができる。活性化障壁は、相の表面エネルギーをより高く(又は、相の表面エネルギーを第2の相の表面エネルギーにより近づける)ようにする表面変性を行わせるために必要とされるエネルギーであるとすることができる。
【0079】
例:少なくとも1つの孤立電子対を有する化学的化合物を用いて、正方晶相ジルコニアの処理を行うと、相転移が引き起こされることは、よく知られている。このプロセスの機構はまだ証明されてはいないが、これには相転移を引き起こすいくつかの表面変性が含まれている。水(HO)、酸および塩基の溶液(例えば、5MのHClOと5MのNaOH)およびとグリセロールは、95℃、120hで、相転移の最も大きい変換を引き起こすことが判明している。その他の非水性溶媒、例えば、アセトニトリル(CHCN)、エタノール(COH)およびホルムアミド(NHCHO)は、同じ条件によって相転移のより小さい変換を引き起こすことが判明している。孤立電子対を有さない非水性溶媒、例えば、トルエン(CCH)およびシクロヘキサン(C12)等は、同じ条件にて相転移を引き起こすことができない。
【0080】
例:ジルコニア粒子は、樹脂ベース材料中に分散されている。ジルコニア粒子の寸法およびドープ含量は、水が粒子の相変換を生じさせるような程度である必要がある。分散物はチューブ内でドライに保たれる。歯に充填材料として適用される場合には、通常は口腔内の空気の湿分および歯からの水分によって、相転移が引き起こされることになる。この用途において、分散物は、ジルコニア粒子に水分を提供するために、薄い層でのみ用いることができる。結晶は小さいため、相転移による膨張によって、硬化した化合物の機械的特性が低下することはない。従って、硬化の後で、遅い機構、例えば硬化した化合物中への水の拡散によって引き起こされる転移が生じることもある。
【0081】
もう1つの例:ジルコニア粒子は、硬化プロセス中に水を放出するモノマーと共に、樹脂ベース材料に分散される。これらのモノマーは、縮合プロセス中に、水の脱離を生じるアミノ基およびカルボキシル基の両者を有し得る、例えばω−アミノカルボン酸であってもよいし、又はモノマーどうしの間でエステル化反応を行う、酸基およびアルコール基を有するものであってもよい。硬化プロセスが始まると、縮合プロセスにて解離された水によって、ジルコニア粒子の相転移が開始され、それによって、重合により引き起こされる収縮が補われる。
【0082】
1つの変形例において、化学的トリガーは重合可能な樹脂ベース材料の成分である。
もう1つの変形例では、化学的トリガーは樹脂ベース材料の重合の際に生じる生成物である。
【0083】
更にもう1つの態様では、フィラー成分のマルテンサイト転移は、フィラー成分を引張り応力にさらすことによって開始する。セラミック焼結ジルコニアについての200MPaの引張り応力によって、相転移が引き起こされるということが判明した。歯科用充填材料の硬化の際に、20MPaまでの引張り応力が観察される。より不安定である準安定なジルコニア粒子を形成することによって、ジルコニアに必要とされる力を減らし、相転移を導く。
【0084】
例:樹脂ベース材料中のジルコニアの分散物は軽く硬化することもできることができる。硬化によって収縮が生じ、それによって引張り応力がもたらされ、引張り応力はジルコニア粒子に相転移を生じさせて、応力を減らすことになる。
【0085】
発明の方法
上述の事項を考慮して、本発明は、硬化の際における複合材料の体積収縮を制御する方法を提供する。その方法は、
(a)1種若しくはそれ以上のフィラー及び重合可能な樹脂ベース材料を含んでなる複合材料であって、前記1種若しくはそれ以上のフィラーは少なくとも1種のフィラー成分を有していること、前記フィラー成分は準安定な第1の相で存在しており、マルテンサイト転移を受けて安定な第2の相へ転移することができ、前記フィラー成分の安定な第2の相と準安定な第1の相との間での体積比は少なくとも1.005である複合材料を供給する工程;並びに
(b)前記樹脂ベース材料を重合及び硬化させ、フィラー成分に第1の準安定な相から第2の安定な相へのマルテンサイト転移を生じさせる工程
を含んでなる、硬化時における複合材料の体積収縮を制御する方法である。
【0086】
フィラー成分の体積膨張による効果を十分に受けるように、硬化と同時に又は硬化に続いて、フィラー成分がトリガリングされて、マルテンサイト転移を受けることが好ましい。
【0087】
1つの態様において、フィラー成分のマルテンサイト転移は、超音波(10〜1000 kHz)の適用によって開始される。この例において、硬化の開始と同時か、又は硬化の開始後であって、硬化の完了前に、フィラー成分のマルテンサイト転移のトリガリングがなされることが好ましい。
【0088】
もう1つの態様において、フィラー成分を化学的トリガーにさらすことによって、フィラー成分のマルテンサイト転移は開始される。この場合に、硬化の開始と同時か、又は硬化の開始後であって、硬化の完了前に、フィラー成分のマルテンサイト転移のトリガリングがなされることが好ましい。
【0089】
特に、本発明は、歯を再構成する方法であって、
(a)歯のキャビティを調製する工程;
(b)前記キャビティに、上記規定するような歯科用充填材料を充填する工程;
(c)前記歯科用充填材料を重合および硬化させ、歯科用充填材料のフィラー成分に、準安定な第1の状態から安定な第2の状態へのマルテンサイト転移を生じさせる工程
を含んでなる方法を更に提供する。
【0090】
歯を再構成するための上記の方法は、一般に、実施例9に概説する工程の一部又は全体を含んでなる。
【0091】
1つの態様において、フィラー成分のマルテンサイト転移は、超音波(10〜1000 kHz)の適用によって開始される。もう1つの態様において、フィラー成分のマルテンサイト転移は、フィラー成分の表面を化学的トリガーにさらすことによって開始される。
【0092】
より一般的に、本発明は、本明細書に記載するように、医学用、特に歯科学用に用いられる複合材料に関連している。
【0093】
この発明は、哺乳類の歯を再構成する複合材料を調製するためにフィラー成分を使用することに関連する。そのフィラー成分は、準安定な第1の相を有しており、マルテンサイト転移を受けて安定な第2の相へ転移することができ、前記フィラー成分の安定な第2の相と準安定な第1の相との間での体積比は少なくとも1.005である。フィラー成分および複合材料は、本明細書に規定されるものであることが好ましい。
【0094】
超音波による、樹脂ベース材料の硬化とマルテンサイト転移の組み合わせの開始
発明者らは、超音波の適用によって、フィラー成分のマルテンサイト転移の開始を、超音波による樹脂ベース材料の硬化と有利に組み合わせることができることを見出した。
【0095】
超音波を適用することによって、バルクの正味の体積収縮をもたらす硬化プロセスが、フィラー成分のマルテンサイト転移によって生じる体積膨張によって打ち消されるという利点をもたらすことになると考えられる。
【0096】
従って、上述した方法のその他の態様において、樹脂ベース材料の重合は超音波の適用によって開始される。
【0097】
適用される超音波は、上述したように、一般に10kHz〜10MHzの範囲、好ましくは15〜50kHzの範囲、例えば20〜50kHzの範囲である。音波の伝播からキャビテーション(cavitation)が形成されるので、低周波数の音響装置を使用することもできるが、15又は20kHzよりも低い周波数は正常なヒトの耳に聞こえ得るため、使用するには不都合である。
【0098】
適用される超音波の出力に関して、その出力は一般に0.1〜500W/cmの範囲、例えば30〜100W/cmの範囲である。超音波出力は、一方で、キャビテーションを形成するために十分に高くあるべきであり、他方で、歯が傷付かないように十分に低くあるべきである。超音波は、一般に歯石除去装置によって適用される。超音波は、樹脂ベース材料に直接的に適用することもできるし、又は樹脂に音波を伝える媒体を通じて間接的に適用することもできる。歯科用途について、好適な媒体は歯であって、歯科用充填材料はその中に配され、又は臼歯にキャビティを形成するために金属マトリックスが一般に用いられたりする。
【0099】
重合開始のための超音波の適用は、一般に、10〜300秒の範囲、例えば20〜120秒の範囲の時間で行われる。
【0100】
いずれかの重合開始剤が必要であるとは必ずしも考えられていないが、重合可能な樹脂ベース材料は、ペルオキソ基含有化合物およびアゾ基含有化合物(例えば、AIBN)から選ばれる重合開始剤を含むことが有利であると考えられる。
【0101】
一方で、重合促進剤/共開始剤(co-initiators)(例えば、EDMAB(4−ジメチルアミノ安息香酸エチル))は省略することができると考えられている。共開始剤は、室温において開始を導くためにしばしば添加される。光重合性ではない(non-photo polymerisable)従来の歯科用材料は、2成分の樹脂系である。開始剤、例えば過酸化ベンゾイルと、共開始剤、例えばEDMAB(4−ジメチルアミノ安息香酸エチル)とは、2種の樹脂が混合される使用時まで隔離される。開始剤に共開始剤を添加することによって、室温においてモノマーを硬化させることができる。従って、光重合性ではない従来の歯科用材料とは反対に、本発明の態様例の歯科用充填材料は、一成分系として調製し、貯蔵し及び移送することができる。
【0102】
本発明のこの要旨の一般的利点は、特に、歯科学において用いられる通常の光硬化(紫外線硬化、UV硬化)と対比して、超音波はより大きな透過(または進入)深さ(penetration depth)を有すること;フィラー粒子の充填を向上させ得ること;及びフィラー成分のマルテンサイト転移を生じる間に、樹脂ベース材料の硬化を行うことができることである。フィラーをベースとする樹脂に超音波を適用することによって、フィラー粒子を動かし、それによってキャビティ内で粒子を最適な充填状態に導くことができる。このことは、キャビティ内の小さなクラックであっても、フィラー粒子(及びモノマー樹脂)によって充填されることになるということを意味する。
【0103】
有機ポリマーの大部分は、反応性の二重結合を有するモノマーから調製され、その二重結合が連鎖成長し又は付加反応を受ける。最も直接的な製造方法は、ラジカルによって開始することである。高い出力(少なくとも1W/cm)の超音波はキャビテーションを生じる。超音波が液体を通過する際に、分子を相互に引き離させて、膨張サイクルは液体に負の圧力を及ぼす。キャビティは、一旦生成すると、エネルギーを吸収し、成長することになる。キャビティが高い音波強度又は低い音波強度にて過剰に成長すると、それはもはや同程度に効率的にエネルギーを吸収することができない。エネルギー入力なしで、キャビティはそれ自身を維持することができない。周辺の液体が入り込み、キャビティは破裂する。化学反応のために普通ではない環境を形成するのは、このキャビティの破裂である。キャビティ泡の破裂は高い温度および圧力を形成し、このことは超音波によってラジカルが生成する理由であるとして、文献において述べられている。それからラジカルは重合反応を開始させ、十分に硬化した歯科材料をもたらす。
【0104】
超音波による歯科用充填材料の樹脂ベース材料の硬化
発明者らは、超音波によって歯科用充填材料を硬化させることそれ自体が、特に、超音波は通常の光(例えば、紫外光)と比べて、大きな進入深さを有するということを考慮して、常套の硬化方法、特に紫外線硬化方法を用いることよりも特定の利点を提供するということを見出した。
【0105】
従って、更なる要旨において、本発明は、歯を再構成する方法であって、
(a)歯のキャビティを調製する工程;
(b)前記キャビティに、重合性の樹脂ベース材料を含む歯科用充填材料を充填する工程;
(c)前記歯科用充填材料に超音波を適用して、該歯科用充填材料の樹脂ベース材料に硬化を開始させる工程
を含んでなる方法を更に提供する。
周波数(10kHz〜10MHz)、出力(0.1〜500W/cm)および適用時間(10〜300秒)についての規定は、上述した規定と同様である。
【0106】
充填材料は特に上記規定の通りであり、例えば1つの態様において、歯科用充填材料は:
1又はそれ以上のフィラーを30〜90重量%;及び
重合性の樹脂ベース材料10〜70重量%
を含んでなる。
【0107】
より具体的には、1又はそれ以上のフィラーは少なくとも1種のフィラー成分を有していること、そのフィラー成分は準安定な第1の相で存在しており、マルテンサイト転移を受けて安定な第2の相へ転移することができ、前記フィラー成分の安定な第2の相と準安定な第1の相との間での体積比は少なくとも1.005である。
【0108】
フィラー成分の体積膨張の効果を十分に受けるように、硬化と同時か又は硬化に続いて、フィラー成分のトリガリングがなされて、マルテンサイト転移を受けることが好ましい。マルテンサイト転移のトリガリングがなされるのは、硬化が開始するのと同時か、又は開始した後であって、硬化が完了する前であることが好ましい。
【0109】
1つの態様において、そのようなフィラー成分は、正方晶結晶相若しくは立方晶結晶相の準安定なジルコニア(ZnO)、例えば、ジルコニアの準安定性の相が、Y、MgO、CaO、CeOおよびScから選ばれる酸化物によってドーピングされて安定化されているようなジルコニアを含むことが好ましい。従って、そのようなフィラー成分の粒子寸法、含量等は、以下に説明する。
【0110】
しかし、1つの態様において、重合可能な樹脂ベース材料は、重合開始剤、例えば、ペルオキソ基を有する化合物とアゾ基を有する化合物(例えば、AIBN)から選ばれる重合開始剤を含んでなる。
【0111】
ジルコニア粒子の集合
複合材料において特に好適なフィラーとして、準安定なジルコニアを使用し得るということが見出された。特に、マルテンサイト転移を安定した第2の相へ許容することができるジルコニアは、複合材料において通常発生する収縮に抗するために有用であるということが見出された。
【0112】
本発明のもう1つの要旨は、50〜2000nmの範囲の平均粒子寸法を有するジルコニア粒子の集合に関する。その粒子は、準安定な第1の相で存在しており、マルテンサイト転移を受けて安定な第2の相へ転移することができる。その変態は、本明細書にて規定する「ジルコニア粒子転移試験(Zirconia Particle Transformation Test)」で試験して、300秒以内で少なくとも80%の程度まで転移が行われるものである。
【0113】
更に、本発明は、ジルコニア粒子のそのような集合を調製するための方法にも関連している。
【0114】
上述のようなジルコニア粒子の集合は、準安定な第1の相で存在し、マルテンサイト転移を受けて安定な第2の相へ転移することができる。好ましくは、ジルコニア粒子の安定な第2の相と準安定な第1の相との間での体積比は少なくとも1.005、例えば少なくとも1.01、若しくは場合によっては1.02、又は少なくとも1.03である。
【0115】
上述のように、本発明の第1の要旨の集合の粒子は、準安定な第1の相で存在し、マルテンサイト転移を受けて安定な第2の相へ転移することができる。本明細書に規定する「ジルコニア粒子転移試験」で試験した場合に、300秒以内で少なくとも80%の程度まで転移が行われるものである。転移(又は変態)は、10〜100秒以内、例えば20〜60秒以内に80%の程度まで行われることが好ましい。
【0116】
従って、ジルコニア粒子の種々の結晶形態及び粒子寸法を考慮すると、次の2つの主要な要件を考慮に入れることが妥当である。
1.ジルコニア粒子についての第1の要件は、選択された粒子寸法範囲内にあるその第2の結晶相が、「標準(standard)状態」で、即ち、10〜50℃の範囲内の少なくとも1つの温度及び標準圧力(101.3kPa)で、即ち、生成物(一般に、複合材料)が使用される条件に対応する条件で、「安定」であることである。
2.ジルコニア粒子についての第2の要件は、ジルコニア粒子の準安定な第1の結晶相が、同じ「標準状態」で存在することができることである。
【0117】
準安定な正方晶結晶相若しくは立方晶結晶相のジルコニアにとって、粒子寸法は50〜2000nmの範囲にあることが好ましいが、50〜1000nmの範囲の平均粒子寸法が、光学的特性と構造的特性との間で最良のバランスをもたらすと考えられている。
【0118】
超音波の影響下で、ジルコニア粒子はマルテンサイト転移を受けることができる。ジルコニア粒子は化学的トリガーにさらされることによっても、マルテンサイト転移を受けることもできる。
【0119】
上述した事項を考慮すると、フィラー成分は、準安定な正方晶結晶相若しくは立方晶結晶相のジルコニア(ZrO2)を含むことが好ましい。
準安定な相の安定化は、例えば、ドーピングやジルコニアの表面改質などの上述した処理によって達成することができる。
【0120】
実施例
速い相転移を受けることができるジルコニア粒子を得るためには、大きな表面積、例えば10〜250m/g、又はよりよい場合には50〜200m/gの表面積の粒子が好しく、また本明細書に記載する手段によって入手することができる。
【0121】
従って、本発明の更にもう1つの要旨は、50〜2000nmの範囲の平均粒子寸法及び10〜250m/gの範囲のBET表面積を有するジルコニア粒子の集合に関する。その粒子は、準安定な第1の相で存在しており、マルテンサイト転移を受けて安定な第2の相へ転移することができる。
【0122】
このジルコニア粒子の集合によって、本明細書に規定する「ジルコニア粒子転移試験」で試験した場合に、300秒以内で少なくとも80%の程度までマルテンサイト転移を達成することができることが好ましい。
【0123】
上述したように、平均粒子寸法は、一般に、50〜2000nmの範囲、例えば50〜1000nmの範囲、特に100〜600nmの範囲である。
【0124】
ジルコニア粒子の粒子寸法は一般に50〜2000nmの範囲であるが、粒子は均質な結晶格子を有するより小さな結晶ドメインを有することができると考えられる。従って、粒子は、8〜100nmの範囲、例えば8〜50nmの範囲、例えば8〜20nmの範囲の結晶ドメイン寸法を有することが好ましい。
【0125】
更に、ジルコニア粒子は、(本明細書に記載するような)迅速な転移ができるように、ある程度の多孔性を有することが有利であると考えられる。従って、粒子の平均粒子寸法は、10〜50nmの範囲であることが好ましい。
【0126】
多孔性に関して、0.1〜20%の範囲、例えば0.2〜10%の範囲の多孔性を有するジルコニア粒子が特に興味深いと考えられる。
【0127】
特に興味深いジルコニア粒子の集合は、以下の特性を有するジルコニア粒子である。
a.50〜2000nmの範囲の平均粒子寸法および10〜250m/gの範囲の中のBET表面積、又は
b.50〜1000nmの範囲の平均粒子寸法および10〜250m/gの範囲の中のBET表面積、又は
c.100〜600nmの範囲の平均粒子寸法および10〜250m/gの範囲の中のBET表面積、又は
d.50〜2000nmの範囲の平均粒子寸法および50〜200m/gの範囲の中のBET表面積、又は
e.50〜1000nmの範囲の平均粒子寸法および50〜200m/gの範囲の中のBET表面積、又は
f.100〜600nmの範囲の平均粒子寸法および50〜200m/gの範囲の中のBET表面積、又は
g.50〜2000nmの範囲の平均粒子寸法および50〜80m/gの範囲の中のBET表面積、又は
h.50〜1000nmの範囲の平均粒子寸法および50〜80m/gの範囲の中のBET表面積、又は
i.100〜600nmの範囲の平均粒子寸法および50〜80m/gの範囲の中のBET表面積、又は
j.50〜2000nmの範囲の平均粒子寸法および75〜150m/gの範囲の中のBET表面積、又は
k.50〜1000nmの範囲の平均粒子寸法および75〜150m/gの範囲の中のBET表面積、又は
l.100〜600nmの範囲の平均粒子寸法および75〜150m/gの範囲の中のBET表面積、又は
m.50〜2000nmの範囲の平均粒子寸法および125〜200m/gの範囲の中のBET表面積、又は
n.50〜1000nmの範囲の平均粒子寸法および125〜200m/gの範囲の中のBET表面積、又は
o.100〜600nmの範囲の平均粒子寸法および125〜200m/gの範囲の中のBET表面積、又は
p.100〜350nmの範囲の平均粒子寸法および50〜80m/gの範囲の中のBET表面積、又は
q.250〜500nmの範囲の平均粒子寸法および50〜80m/gの範囲の中のBET表面積、又は
r.400〜600nmの範囲の平均粒子寸法および50〜80m/gの範囲の中のBET表面積、又は
s.100〜350nmの範囲の平均粒子寸法および75〜150m/gの範囲の中のBET表面積、又は
t.250〜500nmの範囲の平均粒子寸法および75〜150m/gの範囲の中のBET表面積、又は
u.400〜600nmの範囲の平均粒子寸法および75〜150m/gの範囲の中のBET表面積、又は
v.100〜350nmの範囲の平均粒子寸法および125〜200m/gの範囲の中のBET表面積、又は
w.250〜500nmの範囲の平均粒子寸法および125〜200m/gの範囲の中のBET表面積、又は
x.400〜600nmの範囲の平均粒子寸法および125〜200m/gの範囲の中のBET表面積。
【0128】
ジルコニア粒子の集合の調製
上記の規定をした粒子の集合は、以下に記載する方法の1つによって調製することができる。
【0129】
方法A
上記の規定をしたジルコニア粒子の集合を調製するための1つの方法は、狭い温度範囲内で無定形ジルコニアを加熱することを含んでいる。従って、本発明は、上記の規定をしたようなジルコニア粒子の集合を調製するための方法であって、結晶形成温度(crystal formation temperature)の範囲内の温度であって、正方晶相から単斜晶相へのジルコニアの転移温度を越えない温度へ、無定形のジルコニアを加熱することを含む方法であって、両者はDSC又はXRDによって測定することができる。試料を結晶形成温度より低い温度に加熱することは、結晶を有さないか又はほとんど有さない試料をもたらし、相転移の可能性を有さないことになる。試料を、結晶形成温度よりも遙かに高い温度(例えば、200°K又はそれ以上)へ加熱すると、試料は徐々に正方晶相から単斜晶相へ転移することになる。尤も、結晶形成温度よりも多少(例えば、20℃)高い温度へ加熱することは、好ましいこともあり得る。これによって、ジルコニアは無定形状態から正方晶相へ転移することが確保される。
【0130】
加熱プロセスは、通常の空気の標準圧力にて行うことができるが、湿度(水分)はジルコニアの単斜晶相を促進するため、乾燥空気中で行うことが好ましい。従って、乾燥した空気流が好ましく、その他の乾燥した不活性な雰囲気、例えば窒素、アルゴン又はヘリウムを用いることもできる。加熱炉(oven)に依存して過剰な加熱を生じないために、制御された加熱が必要であるため、5℃の加熱傾斜(heating ramp)が有用である。設定温度に一旦到達すると、結晶相化プロセスが起こることを可能にするために十分に長い時間(例えば、30〜120分)で、試料をその温度に保持すべきである。しかしながら、時間が長すぎる(例えば、8時間)と、結晶が焼結することにより単斜晶相が多量に生じ得るため、時間は長すぎてはならない。
【0131】
好ましくは、無定形のジルコニア粒子は、250〜550m/gの範囲又は250〜450m/gの範囲、例えば350〜550m/gの範囲又は350〜550m/gのBET表面積を有する。
【0132】
そのような無定形ジルコニアは、ジルコン酸塩、例えばZrOCl・8HOから、塩基溶液、例えばNH溶液を用いて沈殿(又は析出)させることによって合成することができる。析出後、ジルコニアは、6〜10の範囲、例えば8.0〜10.0の範囲の一定のpH(水素イオン濃度)にて、母液中で、適切な時間の範囲、例えば120〜240時間の範囲、例えば200〜240時間の範囲で温浸(digest)することが好ましい。別法として、無定形ジルコニアは、ジルコン酸塩、例えばZrOCl・8HOから、pH10の塩基溶液、例えば濃NH溶液を用いて析出させることによって合成することができる。析出後、ジルコニアは、適切な時間の範囲、例えば6〜24時間の範囲、例えば8〜20時間の範囲で、母液中で還流させながら(100℃にて)温浸することが好ましい。
【0133】
方法B
上記の規定をしたジルコニア粒子の集合を調製するためのもう1つの方法は、強い塩基水溶液、例えばKOH又はNaOHなどの塩基中で、24時間、還流して、ジルコニアの小さな正方晶結晶の粉末の懸濁物を調製する工程を含む。結晶はその後、強塩基懸濁物(1〜5M)中で、結晶のバルクエネルギーが正方晶相を安定化させる表面エネルギーに匹敵するようになるような寸法まで、成長し、従って活性化障壁(activation barrier)が低下する。結晶は、閉じた反応容器(例えば、オートクレーブ等の加圧式反応容器)を用いて、水熱条件下、例えば150〜200℃の範囲の高温にて、(加熱による)水蒸気圧のみを用いた20バールまでの圧力にて、成長させられる。これらの条件下では、再溶媒和作用および再沈殿が生じる。十分に大きい結晶を達成するためには、ジルコニア粒子は加圧式反応容器内に24時間の間、とどまらせることが必要である。懸濁物は2時間を下回らない時間で加熱されることが好ましい。
【0134】
複合材料
一般に、上記の規定をした粒子の集合は、複合材料の中のフィラー成分として特に有用であると考えられる。特に、本発明のジルコニア粒子は、複合材料の硬化の際に体積収縮が望ましくないか又は禁止的であるような場合の用途に有用である。
【0135】
より具体的には、本発明は、(本明細書に規定するジルコニア粒子を含む)1又はそれ以上のフィラーおよび重合可能な樹脂ベース材を含む複合材料を提供する。
【0136】
本発明の具体的な特徴は、ジルコニア粒子のマルテンサイト転移をトリガー機構によって引き起こすことができるということである。
【0137】
従って、複合材料の好ましい態様では、樹脂ベース材料は、重合する場合であって、ジルコニア粒子からの何らかの補償作用が存在しない場合に、少なくとも0.50%の複合材料の体積収縮(ΔVresin)を生じる。その複合材料は、樹脂ベース材料が重合する場合であって、ジルコニア粒子が相転移する場合に、樹脂ベース材料によって生じた補償されない体積収縮(ΔVresin)よりも少なくとも0.25%ポイント小さい総体積収縮(ΔVtotal)を示す。より具体的には、体積収縮(ΔVresin)は、少なくとも1.00%、例えば少なくとも1.50%であって、総体積収縮(ΔVtotal)は、補償されない体積収縮(ΔVresin)よりも少なくとも0.50%ポイント、例えば1.00%ポイント小さい。
【0138】
複合材料は、一般に、5〜95重量%若しくは10〜90重量%の1又はそれ以上の(ジルコニア粒子を含む)フィラーおよび5〜95重量%若しくは10〜90重量%の重合可能な樹脂、特に、30〜95重量%若しくは30〜90重量%の1又はそれ以上のフィラーおよび5〜70重量%若しくは10〜70重量%の重合可能な樹脂を含んでなる。
【0139】
体積により計算して、複合材料は、一般に、又はより多くのフィラー(含むジルコニア粒子)の20〜80容量%の1又はそれ以上のフィラーおよび20〜80容量%の重合可能な樹脂ベース材料、例えば25〜80容量%若しくは25〜75容量%の1又はそれ以上のフィラーおよび25〜75容量%の重合可能な樹脂ベース材料を含んでなる。
【0140】
複合材料は、実質的に溶媒を含まず、水を含まない(substantially solvent free and water free)ことが好ましい。「実質的に溶媒を含まず、水を含まない」という表現は、複合材料が、溶媒および/または水を、4.0重量%未満、例えば1.0重量%未満または0.5重量%未満で含むことを意味する。
【0141】
別法として、本発明は、1又はそれ以上の(ジルコニア粒子を含む)フィラーおよび重合可能な樹脂ベース材料を含んでなる複合材料であって、1又はそれ以上のフィラーは正方晶又は立方晶の結晶相の準安定なジルコニアを含んでなり、樹脂ベース材料は、重合する場合であって、ジルコニア粒子からの何らかの補償作用が存在しない場合に、少なくとも0.50%の複合材料の体積収縮(ΔVresin)を生じ、また、その複合材料は、樹脂ベース材料が重合する場合であって、ジルコニア粒子が相転移する場合に、樹脂ベース材料によって生じた補償されない体積収縮(ΔVresin)よりも少なくとも0.25%ポイント小さい総体積収縮(ΔVtotal)を示す複合材料を提供する。
【0142】
1又はそれ以上のフィラーおよび特にジルコニア粒子が、複合材料の重要な成分であることは明白である。フィラーについては、一般に、「フィラー/フィラー成分」において特に説明する。
【0143】
1又はそれ以上のフィラーは、(この説明のためには)少なくともジルコニア粒子を含む少なくとも1種のフィラー成分を含んでなる。「フィラー成分」という用語は、特定の物理的性質(例えば、樹脂ベース材料の硬化及び重合によって生じた体積収縮を(膨張によって)補償する固有の特性)を、フィラー又はフィラーの部分が有することを意味することを意図している。
【0144】
ジルコニア粒子は、一般に、1又はそれ以上のフィラーの総重量の20〜100%、例えば30〜100%、例えば40〜100%又は50〜100%を構成する。
【0145】
複合材料の総重量を基準に計算して、ジルコニア粒子は一般に、複合材料の総重量の15〜90重量%、例えば25〜90%、例えば30〜90%、特に60〜85重量%を構成する。
【0146】
複合材料のもう1つの重要な成分は、重合可能な樹脂ベース材料であって、これについては「重合可能な樹脂ベース材料」において詳細に説明する。
【0147】
複合材料は、「複合材料のその他の成分」において説明するようなその他の成分を有することもできる。
【0148】
ジルコニア粒子の集合は、特に歯科用充填材料に関連して有用である。例えば「歯科用充填材料」の説明を参照のこと。複合材料中におけるジルコニア粒子の集合の一般的な使用については、「複合材料の使用」の説明において説明している。
【0149】
超音波を適用することによってジルコニア粒子の集合のマルテンサイト転移を開始させることは、超音波による樹脂ベース材料の硬化と組み合わせることによって利点とすることができる。例えば「超音波による樹脂ベース材料の硬化及びマルテンサイト転移の組み合わせ」の説明を参照されたい。
【0150】
実施例
ジルコニア粒子の転移試験
試験複合材料は、試験すべきジルコニア粒子65容量%と、ポリマー樹脂系(36%(w/w)のBisGMA、43.35%(w/w)のUDMA、20%(w/w)のTEGDMA、0.3%(w/w)のカンファキノン(CQ)、0.3%(w/w)のN,N−ジメチル−p−アミノ安息香酸エチルエステル(DABE)および0.05%(w/w)の2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT))35容量%を混合することによって調製される。
【0151】
試験複合材料は、4mmの直径及び20mmの深さを有し、37℃の円筒形状のキャビティの中に配置される。超音波歯石除去装置(EMS PIEZON MAster 400TM(28.5kHz;100W/cm)を300秒使用して、超音波を適用する。超音波歯石除去装置の先端部は混合物の中に直接的に配置される。
【0152】
相転移は粉末XRDを使用することによって測定される。単斜晶ジルコニアの体積分率(Vm)は、以下の関係から求めることができる:
【数1】


[式中、Im(111)およびIm(11−1)は、単斜晶ジルコニアについての(111)及び(11−1)のピークについての線強度であり、It(111)は正方晶ジルコニアについての(111)ピークの強度である。]
【0153】
フィラー成分の調製
例1−正方晶相のナノスケールのジルコニア
正方晶相のナノスケール(nano-sized)のジルコニア(ZrO)を製造する方法を説明する。ZrOCl・8HO及び純水から、ZrOClの0.5M溶液を調製した。一定のpH値10にて、1.5MのNHを用いて、無定形ジルコニアZrO(OH)4−2xを析出させた。混合物を磁気撹拌しながら10日間放置した。析出物を純水にて洗い、濾過ケーキは、120℃まで、一晩加熱した。ケーキを細かな白色粉末に粉砕し、450℃の乾燥雰囲気の炉に入れた。
【0154】
例2−正方晶相のナノスケールのジルコニア
正方晶相のナノスケールのジルコニア(ZrO)を製造する方法を説明する。ZrOCl・8HO及び純水から、ZrOClの0.5M溶液を調製した。一定のpH値8.5にて、1.5MのNHを用いて、無定形ジルコニアZrO(OH)4−2xを析出させた。混合物を機械的に撹拌しながら10日間放置した。析出物は、塩素イオンが検出されなくなるまで純水にて洗い、最終的に96%エタノールにて洗った。濾過ケーキは、オーブン内で60℃にて一晩乾燥した。ケーキを細かな白色粉末に粉砕した。第1の相転移を受け得る粒子を得るためには、大きな表面積、例えば250〜550m/g、より好適には350〜550m/gの粉末が好ましい。粉末を、無定形ジルコニア粉末の結晶形成温度(このバッチでは460℃)の温度へ4時間の加熱傾斜で、乾燥雰囲気を有するオーブン内で2時間加熱した。結晶形成温度は、無定形ジルコニア粉末のDSCによって求められる。
【0155】
例3−イットリア安定化された正方晶相のミクロスケールジルコニアの調製
イットリア安定化された正方晶相のミクロスケールジルコニア(ZrO)を調製する方法について、以下に説明する。熱い(90℃)純水の中に、1.5%(モル)のYと、98.5%(モル)のZrOCl・8HOを溶解させることによって、溶液を調製した。溶液は、その後、室温まで冷却した。溶液はその後、エタノールにより希釈し、1.5MのNH溶液に滴下して加えた。この操作によって、ジルコニウムイオン及びイットリウムイオンの、それぞれの水酸化物の形態での沈殿を生じさせた。沈澱物は、ブフナー漏斗を使って、溶液から濾過した。濾液は、エタノール中で手操作にて撹拌して再懸濁(re-suspending)させ、複数回すすぎ、その後濾過した。沈澱物は、乳棒を使って一定の粉砕を行うことによって、乳鉢内で乾燥させた。乳鉢及び乳棒の両方は、粉砕前に130℃まで予熱していた。乾燥した粉末を、その後、600℃で2時間焼成した。焼成した粉末をその後純水に懸濁させ、その懸濁物を含むビーカーを12時間の時間で超音波により処理して、粉末中の凝集を崩させる。懸濁物を15時間の間放置して、より大きな粒子を分離させた。上澄み液を取り除き、溶液のpHを10に変更して凝集させた。得られた凝集物をホットプレート上で、継続的に加熱されたアルミナ乳鉢を用いて乾燥させ、最終的に乾燥した粉末が得られた。その後、粉末をオーブン内で1200℃まで加熱して、結晶を100nmの寸法まで成長させた。これは1.5%Y安定化されたジルコニアについての結晶寸法であった。得られたミクロ粉末は室温まで冷却させた。
【0156】
例4−イットリア安定化された正方晶相のミクロスケールジルコニア
イットリア安定化された正方晶相のミクロスケールジルコニア(ZrO)を調製する方法について、以下に説明する。熱い(90℃)純水の中に、1.5%(モル)のYと、98.5%(モル)のZrOCl・8HOを溶解させることによって、溶液を調製した。溶液は、その後、室温まで冷却した。溶液はその後、エタノールにより希釈し、1.5MのNH溶液に滴下して加えた。この操作によって、ジルコニウムイオン及びイットリウムイオンの、それぞれの水酸化物の形態での沈殿を生じさせた。沈澱物は、ブフナー漏斗を使って、溶液から濾過した。濾液は、エタノール中で手操作にて撹拌して再懸濁させ、複数回すすぎ、その後濾過した。沈澱物は、乳棒を使って一定の粉砕を行うことによって、乳鉢内で乾燥させた。乳鉢及び乳棒の両方は、粉砕前に130℃まで予熱していた。無定形の粉末をその後純水に懸濁させ、その懸濁物を含むビーカーを12時間の時間で超音波により処理して、粉末中の凝集を崩させた。懸濁物を15時間の間放置して、より大きな粒子を分離させた。上澄み液を取り除き、溶液のpHを10に変更して凝集させた。得られた凝集物をホットプレート上で、継続的に加熱されたアルミナ乳鉢を用いて乾燥させ、最終的に乾燥した粉末が得られた。その後、無定形の粉末をオーブン内で450℃(同定された結晶形成温度)まで加熱して、結晶を100nmの寸法まで成長させた。これは1.5%Y安定化されたジルコニアについての相転移のための結晶寸法であった。得られたミクロ粉末は室温まで冷却させた。
【0157】
例5−正方晶相のナノスケールジルコニアの水熱合成
ZrOCl・8HO及び純水から、ZrOClの0.1M溶液を調製した。pH値13.5に達するまで、10MのKOHを添加して、無定形ジルコニアZrO(OH)4−2xを析出させた。懸濁物を24時間の間、還流させることによって、小さな正方晶相結晶を生じさせた。ジルコニア粒子を0.2マイクロメートルのNytranで濾過し、塩素イオンが検出されなくなるまで純水で洗浄した。その後、粒子を96%エタノールを用いて洗浄し、オーブン内で一晩乾燥させた。乳鉢及び乳棒を用いて濾過ケーキを微細な白色粉末に粉砕した。小さな正方晶結晶の微細な白色粉末をテフロン製ビーカーに移し、5MのKOHに懸濁させた。シールされたオートクレーブの中にビーカーを置いて、170℃へ24時間加熱した。懸濁物を0.2マイクロメートルのNytranで濾過し、純水及びエタノールにより洗浄した。粉末は、オーブン内で60℃にて乾燥させる。
【0158】
例6−正方晶相のナノスケールジルコニア
正方晶相のナノスケールジルコニア(ZnO)を調製する方法について、以下に説明する。ZrOCl・8HO及び純水から、ZrOClの溶液を調製する。一定のpH値10.0にて、濃NH溶液を用いて無定形ジルコニアZrO(OH)4−2xを析出させる。機械的撹拌を行いながら、懸濁物を12時間の間、還流させる。沈殿を、塩素イオンが検出されなくなるまで、純水で洗浄し、更に96%エタノールを用いて洗浄する。濾過ケーキをオーブン内で60℃にて乾燥させる。その後、ケーキを微細な白色粉末に粉砕した。第1の相転移を受け得る粒子を得るためには、大きな表面積、例えば250〜550m/g、より好適には350〜550m/gの粉末が好ましい。粉末を、乾燥雰囲気を有するオーブン内で2時間加熱して、無定形ジルコニア粉末の結晶形成温度(このバッチでは443℃)の温度へ4時間の加熱傾斜を行った。結晶形成温度は無定形ジルコニア粉末のDSCによって求められる。
【0159】
例7−複合材料の調製
樹脂ベース材料の1つの例を以下に説明する。この例において用いた樹脂は、49%のBisGMA(ビスフェノール−A−グリシジルジメタクリレート)、49%のTEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、0.2%のカンファキノン(CQ)、1%のEDMAB(エチル−4−ジメチルアミノ安息香酸)、0.8%のNorbloc 7966(2−(2'−ヒドロキシ−5'−メタクリロキシエチルフェニル)−H−ベンゾトリアゾールからなる(すべて重量%である)。
【0160】
約80%(重量%)又は55%(体積%)の非相転移フィラー粒子を有するこの樹脂ベース材料の収縮はワッツ(Watts)装置を用いて2%まで測定することができ、従って5%(体積%)のモノマー収縮を与える。これは、(4.4%の膨張率を有する)相転移膨張率を有するジルコニア粒子を用いることによって補償され、0.17%のわずかな膨張が生じる。この例において、用いた両方の型のフィラー粒子の組成は、0.1μmの平均寸法を有する粒子85(重量)%、及び1.5nmの平均寸法を有する粒子15%(重量)であった。
【0161】
歯科用複合材料の表面処理の1つの例を以下に説明する。フィラー材料を、樹脂表面相溶化剤と表面処理基の共重合によって本発明の材料の強度を向上させることができる材料との組み合わせを用いて、処理する。例において与えられたジルコニア粒子のために用いた樹脂相溶化剤はモノ(ポリエチレングリコール)マレイン酸エステルである。この薬剤は、この薬剤の水溶液中でジルコニア粒子を分散させることによって適用した。好ましい強化剤はγ−メタクリロキシルプロピルトリメトキシシランであって、薬剤のペンタン用中に適用された。
フィラー及び樹脂は混合され、その後使用できる状態になっている。
【0162】
例8−超音波によるマルテンサイト転移
例1にて得られた複合材料を用いて復元を形成するにあたり、う蝕したりまたは破損したりした歯のエナメル質、及び必要な場合には、象牙質のいずれかの部分を除去することによって、歯の表面を調整する。必要な場合には、歯の復元を保持するために、象牙質に保持溝を設ける。複合材料の色を歯の色とマッチさせるために、歯科医は乳白色化剤及び色素を添加する。それから、歯の表面に、いずれかの失われた材料に置き換わるように、複合材料を適用する。歯科医が複合材料による復元の様子に満足したら、複合材料を可視光線源に曝して、ポリマーマトリックスを架橋させることにより、樹脂を硬化させる。硬化光を適用しながら、42kHzの周波数を有する超音波歯石除去装置を用いて、処理した歯に連続的に超音波を適用する。歯石除去装置を歯の全体に適用して、ジルコニア粒子の均質な相転移を達成する。複合材料が硬化した後に、表面のつや出しを行う。
【0163】
例9−全体の処置
以下に、歯科医が用いる全体の処置を説明する。
【表1】

【0164】
例10−室温における歯科用充填材料の超音波硬化
9.980gのBisGMAと9.975gのTEGDMAから成る歯科用充填材料を調製する。モノマー溶液中に吸収されている空気を蒸発させるために、材料(溶液)を減圧下に(真空中に)一夜放置する。少量の(3g)溶液を、過酸化ベンゾイル63mg入りの小さなガラスバイアルの中に入れる。出力100W/cmの超音波ホ−ンを60秒間使用して、混合物を硬化させた。
【0165】
例11−キャビティ内の歯科用充填材料の超音波硬化
4.101gのBisGMAと0.661gのTEGDMAから成る歯科用充填材料を調製し、71mgの過酸化ベンゾイルと8.060gのシリカ(3−メタクリロイルプロピルトリメトキシシランにより表面が被覆されている)とを添加する。モノマー溶液中に吸収されている空気を蒸発させるために、材料(溶液)を減圧下に(真空中に)一夜放置する。抜き出された歯に開けられた小さな筒状の穴に、材料の一部を適用する。穴は2.5mmの直径と5mmの深さを有しており、う蝕のシミュレーションを意図している。出力100W/cmの超音波歯石除去装置を60秒間使用して、混合物を硬化させた。歯石除去装置による硬化は、損傷がない歯の表面上で、超音波歯石除去装置の先端を動かすことによって行われる。
【0166】
例12−超音波処理中におけるキャビティ内での歯科材料のジルコニア粒子の相転移
4.101gのBisGMAと0.661gのTEGDMAから成る歯科用充填材料を調製し、71mgの過酸化ベンゾイルと8.060gのシリカ(3−メタクリロイルプロピルトリメトキシシランにより表面が被覆されている)とを添加する。ジルコニア粒子は、例1に記載したように、超音波歯石除去装置からエネルギーが適用されることによって転移を受ける。モノマー溶液中に吸収されている空気を蒸発させるために、材料(溶液)を減圧下に(真空中に)一夜放置する。例11と同様に、抜き出された歯に開けられた小さな筒状の穴に、材料の一部を適用する。出力100W/cmの超音波歯石除去装置を60秒間使用して、混合物を硬化させた。歯石除去装置による硬化は、損傷がない歯の表面上で、超音波歯石除去装置の先端を動かすことによって行われる。同時に、超音波によってジルコニア粒子の相転移が開始され、体積の安定な歯科用充填材料が形成される。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種若しくはそれ以上のフィラー及び重合可能な樹脂ベース材料を含んでなる複合材料であって、前記1種若しくはそれ以上のフィラーは少なくとも1種のフィラー成分を有していること、前記フィラー成分は準安定な第1の相で存在しており、マルテンサイト転移を受けて安定な第2の相へ転移することができること、前記フィラー成分の安定な第2の相と準安定な第1の相との間での体積比は少なくとも1.005であることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記樹脂ベース材料は、重合の際及び1種若しくはそれ以上のフィラー成分からの補償作用が存在しない場合に、少なくとも0.50%の複合材料の体積収縮(ΔVresin)を生じること、前記複合材料は、前記樹脂ベース材料の重合の際及び前記フィラー成分の相転移の際に、樹脂ベース材料によって生じた補償されない体積収縮(ΔVresin)よりも少なくとも0.25%ポイント小さい総体積収縮(ΔVtotal)を示すことを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
1種若しくはそれ以上のフィラーを30〜95重量%;及び重合可能な樹脂ベース材料を70〜5重量%含んでなることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項4】
4%(重量/重量)未満の溶媒及び/又は水を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合材料。
【請求項5】
1種若しくはそれ以上のフィラー及び重合可能な樹脂ベース材料を含んでなる複合材料であって、前記1種若しくはそれ以上のフィラーは少なくとも1種のフィラー成分を有していること、前記フィラー成分は正方晶結晶相若しくは立方晶結晶相の準安定なジルコニアを含んでいること、前記樹脂ベース材料は、重合の際及び1種若しくはそれ以上のフィラー成分からの補償作用が存在しない場合に、少なくとも0.50%の複合材料の体積収縮(ΔVresin)を生じること、前記複合材料は、前記樹脂ベース材料の重合の際及び前記フィラー成分の相転移の際に、樹脂ベース材料によって生じた補償されない体積収縮(ΔVresin)よりも少なくとも0.25%ポイント小さい総体積収縮(ΔVtotal)を示すことを特徴とする複合材料。
【請求項6】
1種若しくはそれ以上のフィラーを30〜95重量%;及び重合可能な樹脂ベース材料を70〜5重量%含んでなることを特徴とする請求項5に記載の複合材料。
【請求項7】
4%(重量/重量)未満の溶媒及び水を含むことを特徴とする請求項5又は6に記載の複合材料。
【請求項8】
歯科用充填材料であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の複合材料。
【請求項9】
複合材料のフィラー成分が準安定な正方晶結晶相若しくは立方晶結晶相のジルコニア(ZrO)を含むことを特徴とする請求項9に記載の複合材料。
【請求項10】
歯科用充填材料であって、
40〜85重量%の1種若しくはそれ以上のフィラーであって、前記1種若しくはそれ以上のフィラーは少なくとも1種のフィラー成分を含んでなり、前記フィラー成分には正方晶結晶相若しくは立方晶結晶相の準安定なジルコニアが含まれる、1種若しくはそれ以上のフィラー;
15〜60重量%の重合可能な樹脂ベース材料であって、メタクリル酸(MA)、メチルメタクリレート(MMA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、ビスフェノールA−グリシジルジメタクリレート(BisGMA)、ビスフェノールA−プロピルジメタクリレート(BisPMA)、ウレタン−ジメタクリレート(UEDMA)及びブタン四カルボン酸(TCB)と縮合したHEMAからなる群から選ばれる1種若しくはそれ以上の化合物をベースとする重合可能な樹脂ベース材料;
0〜5重量%の添加剤;並びに
0〜4重量%の溶媒及び/又は水
を含んでなることを特徴とする請求項9に記載の歯科用充填材料。
【請求項11】
硬化時における複合材料の体積収縮を制御する方法であって、
(a)1種若しくはそれ以上のフィラー及び重合可能な樹脂ベース材料を含んでなる複合材料を供給する工程であって、前記1種若しくはそれ以上のフィラーは少なくとも1種のフィラー成分を有していること、前記フィラー成分は準安定な第1の相で存在しており、マルテンサイト転移を受けて安定な第2の相へ転移することができること、前記フィラー成分の安定な第2の相と準安定な第1の相との間での体積比は少なくとも1.005であることを特徴とする複合材料を供給する工程;並びに
(b)前記樹脂ベース材料を重合及び硬化させ、フィラー成分に第1の準安定な相から第2の安定な相へのマルテンサイト転移を生じさせる工程
を含んでなることを特徴とする、硬化時における複合材料の体積収縮を制御する方法。
【請求項12】
超音波を適用することによってフィラー成分のマルテンサイト転移を開始させることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
超音波を適用することによって樹脂ベース材料の重合を開始させることを特徴とする請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
複合材料が請求項1〜10のいずれかに記載した複合材料であることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
医科用、特に歯科用に用いるための請求項1〜10のいずれかに記載の複合材料。
【請求項16】
50〜2000nmの範囲の平均粒子寸法を有すること、及び10〜250m/gの範囲のBET表面積を有することを特徴とするジルコニア粒子の集合であって、前記ジルコニア粒子は準安定な第1の相で存在しており、マルテンサイト転移を受けて安定な第2の相へ転移することができることを特徴とする、ジルコニア粒子の集合。
【請求項17】
前記粒子は、8〜100nmの範囲、例えば10〜50nmの範囲、例えば8〜20nmの範囲の結晶性ドメイン寸法を有することを特徴とする請求項16に記載のジルコニア粒子の集合。
【請求項18】
請求項16又は17に記載のジルコニア粒子の集合を製造する方法であって、示差走査熱量計(DSC)により測定して、結晶形成温度の±3K以内の温度へ無定形ジルコニアの試料を加熱する工程を含んでなることを特徴とする方法。
【請求項19】
無定形ジルコニア粒子が250〜550m/gの範囲、例えば350〜550m/gの範囲のBET表面積を有することを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項16又は17に記載のジルコニア粒子の集合を製造する方法であって、水性強塩基中でジルコニアの小さな正方晶結晶粉末を懸濁物を調製する工程、及び前記懸濁物を150〜200℃の範囲の温度に加熱する工程を含んでなることを特徴とする方法。
【請求項21】
前記懸濁物の加熱を2時間以上行う請求項20に記載の方法。

【公表番号】特表2007−532589(P2007−532589A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−507670(P2007−507670)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【国際出願番号】PCT/DK2005/000258
【国際公開番号】WO2005/099652
【国際公開日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(506345225)デントフィット・アクティーゼルスカブ (1)
【氏名又は名称原語表記】DENTOFIT A/S
【Fターム(参考)】