説明

歯科用充填材選択支援システム

【課題】歯の病変部位等のように欠落あるいは変色している部位であっても、その部位本来の色を正しく推定して適正な充填材の候補を提示する。
【解決手段】歯牙の病変領域の外側に配置される複数の参照点を設定する参照点設定部5と、設定された複数の参照点および病変領域内の代表点を通過する走査線を設定する走査線設定部3と、参照点設定部5により設定された複数の参照点における歯牙の色情報を取得する色情報取得部2と、取得された各参照点における歯牙の色情報に基づいて代表点における歯牙の本来の色を推定する色推定部3と、推定された代表点における歯牙の本来の色に基づいて充填材を決定する充填材決定部6と、決定された充填材を提示する充填材提示部4とを備える歯科用充填材選択支援システム1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用充填材選択支援システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、歯および歯科修復材の色を測定および判定する歯科判定装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この装置は、歯を複数の領域に分けて各領域の色を測定し、その平均値を算出することで歯および歯科用テンプレートの色を求めている。
【0003】
【特許文献1】特許第3875512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の装置では、虫歯の場合のように、歯が欠けていたり変色していたりする場合や、虫歯ではなくても色素の付着により変色していたりする場合には、その歯の本来の色を測定することができず、その結果、適正な歯科用充填材を提示することができないという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、歯の病変部位等のように欠落あるいは変色している部位であっても、その部位本来の色を正しく推定して適正な充填材の候補を提示することができる歯科用充填材選択支援システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の部を採用する。
本発明は、歯牙の病変領域の外側に配置される複数の参照点を設定する参照点設定部と、該参照点設定部により設定された複数の参照点および前記病変領域内の代表点を通過する走査線を設定する走査線設定部と、前記参照点設定部により設定された複数の参照点における歯牙の色情報を取得する色情報取得部と、該色情報取得部により取得された各参照点における歯牙の色情報に基づいて前記代表点における歯牙の本来の色を推定する色推定部と、該色推定部により推定された前記代表点における歯牙の本来の色に基づいて充填材を決定する充填材決定部と、該充填材決定部により決定された充填材を提示する充填材提示部とを備える歯科用充填材選択支援システムを提供する。
【0007】
本発明によれば、参照点設定部により歯牙の病変領域の外側に複数の参照点を設定すると、走査線設定部により該参照点および病変領域内の代表点を通過する走査線が設定される。代表点としては病変領域の重心、あるいはその他の任意の点が選択される。色情報取得部により参照点における歯牙の色情報を取得すると、色推定部により参照点における色情報から代表点における歯牙の本来の色が推定される。すなわち、歯牙の本来の色は、連続する領域間ではなだらかに変化し、急激に変化することはないので、病変領域の外側に位置する複数の参照点の色の変化の傾向から代表点の本来の色を精度良く推定することができる。そして、推定された代表点の本来の色から充填材決定部により充填材が決定されるので、充填材提示部によって充填材を提示することにより、ユーザが充填材を選択する際の判断を支援することができる。
【0008】
上記発明においては、前記色推定部が、前記参照点における歯牙の色情報を補間して前記代表点における歯牙の本来の色を推定することとしてもよい。
このようにすることで、簡易に病変領域内の代表点の歯牙の本来の色を推定することができる。補間は直線補間の他、曲線補間を採用してもよい。また、変化の傾向が予め知られている場合には、重み付けをして保管してもよい。参照点の位置は、病変領域を挟む位置に設定されることが好ましいが、病変領域の一側に複数設定されてもよい。
【0009】
また、上記発明においては、歯牙の画像に基づいて、前記病変領域を設定する病変領域設定部を備えていてもよい。
このようにすることで、ユーザによる病変領域の設定操作を省略することができ、手間を省いて、時間を短縮することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記色情報取得部が、前記代表点における歯牙の色情報を取得し、前記病変領域設定部が、歯牙の画像中における代表点との色差が所定の閾値以下の領域を病変領域として設定することとしてもよい。
このようにすることで、病変領域を簡易に自動的に設定することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記走査線設定部が、前記参照点設定部により設定された複数点の参照点と前記病変領域とを通過する複数の走査線候補を生成する走査線候補生成部と、該走査線候補生成部により生成された走査線候補を提示し、提示された複数の走査線候補の中から1つの走査線候補を選択させる走査線候補選択部とを備え、該走査線候補選択部により選択された走査線候補を走査線として設定することとしてもよい。
このようにすることで、設定可能な走査線のなかからユーザの好みの走査線を簡単に選択することができる。
【0012】
また、本発明は、歯牙の病変領域に隣接する位置に配置される少なくとも1つの参照点と、前記病変領域内の代表点とを通過する走査線を設定する走査線設定部と、該走査線設定部により設定された走査線に対して対応位置関係に配置される対応走査線を設定する対応走査線設定部と、前記参照点における歯牙の色情報、前記対応走査線上に沿う歯牙の色情報の変化の傾向および前記参照点に対して対応位置関係に配置される対応参照点における歯牙の色情報を取得する色情報取得部と、該色情報取得部により取得された前記参照点および前記対応参照点における歯牙の色情報と、前記対応走査線上に沿う歯牙の色情報の変化の傾向とに基づいて前記代表点における歯牙の本来の色を推定する色推定部と、該色推定部により推定された前記代表点における歯牙の本来の色に基づいて充填材を決定する充填材決定部と、該充填材決定部により決定された充填材を提示する充填材提示部とを備える歯科用充填材選択支援システムを提供する。
【0013】
本発明によれば、走査線設定部により病変領域の外側に配置される少なくとも1つの参照点と病変領域内の代表点とを通過する走査線が設定され、対応走査線設定部により、走査線に対して対応位置関係に配置される対応走査線が設定される。
一般に、歯牙の色の変化の傾向は、同一歯の中心線に対する対称位置、隣接歯の対応位置、歯列の中心線に対する対称位置において同等である。したがって、色情報取得部により、病変領域に隣接する少なくとも1つの参照点の歯牙の色情報、対応走査線上に沿う歯牙の色情報の変化の傾向および対応参照点における歯牙の色情報を取得することで、対応参照点における色情報からの対応走査線上に沿う色情報の変化の傾向を参照点における色情報に適用して、簡易に代表点における歯牙の本来の色を推定することができる。
【0014】
ここで、歯牙の色の変化の傾向は、対応走査線上に沿って間隔をあけた複数箇所における色情報を取得することにより得ることができる。虫歯や窩洞によって本来の色情報を直接測定することが困難な代表点の色情報とは異なり、虫歯や窩洞のない対応走査線上の色情報を取得することで、より精度よく代表点の本来の色を推定することができる。そして、推定された代表点における歯牙の本来の色から充填材決定部により充填材が決定されるので、充填材提示部によって充填材を提示することにより、ユーザが充填材を選択する際の判断を支援することができる。
【0015】
上記発明においては、前記対応参照点および前記対応走査線が、当該歯牙の中心線を基準として前記参照点および前記走査線の線対称位置にそれぞれ配置されていてもよい。
また、上記発明においては、前記対応参照点および前記対応走査線が、当該歯牙と隣接歯牙との境界線を通る直線を基準として前記参照点および前記走査線の線対称位置にそれぞれ配置されていてもよい。
また、上記発明においては、前記対応参照点および前記対応走査線が、歯列の中心線を基準として前記参照点および前記走査線の線対称位置に配置されていてもよい。
【0016】
さらに、上記発明においては、前記色推定部が、前記参照点における歯牙の色情報と、前記走査線の当該歯牙の中心線を基準とした線対称位置、隣接歯牙における対応位置および歯列の中心線を基準とした線対称位置の少なくとも2つの位置に配置される前記対応参照点における歯牙の色情報および前記対応走査線上に沿う歯牙の色情報の変化の傾向とに基づいて前記代表点における歯牙の色を推定することとしてもよい。
このようにすることで、複数の対応参照点および対応走査線上に沿う歯牙の色情報の変化の傾向に基づいて、例えば、平均値処理や主成分分析等の統計的な処理を施すことで、代表点の色情報をより精度良く推定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、歯の病変部位等のように欠落あるいは変色している部位であっても、その部位本来の色を正しく推定して適正な充填材の候補を提示することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る歯科用充填材選択支援システム1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る歯科用充填材選択支援システム1は、図1〜図8に示されるように、歯牙Tの画像を取得する撮像装置2と、該撮像装置2によって取得された画像を処理し、歯牙Tの病変部位Xにおける本来の色を推定する処理装置3と、撮像装置2により取得された画像を表示する表示部(充填材提示部)4と、ユーザの操作により参照点Aおよび代表点B等を入力する入力部5と、処理装置3により推定された歯牙Tの病変部位Xの本来の色に基づいて充填材の候補を決定する充填材決定部6とを備えている。決定された充填材の候補は表示部4に表示されるようになっている。
【0019】
撮像装置2は、互いに異なる波長帯域の光を発する複数のLEDと、RGBカラーCCD(いずれも図示略)とを備えていて、LEDから光を順次照射し、照射光の中心波長と略一致する波長の複数の画像データをマルチバンド画像データとして取得するようになっている。また、撮像装置2は、RGB画像の取り込みも可能である。RGB画像の取り込みの方法の一つとしては、通常のデジタルカメラと同様に、自然光、あるいは室内光により照明された歯牙Tを撮影するものである。
【0020】
入力部5は、GUIであり、表示部4に表示されている歯牙Tの画像中の点や領域を指定するポインタPを操作するマウスやタッチペン等により構成されている。
ユーザは、入力部5を操作することにより、表示部4に表示されている歯牙Tの画像中において、治療を行う歯牙Tの病変領域Xを取り囲んで設定することができるようになっている。また、ユーザは入力部5を操作することにより、表示部4に表示されている歯牙Tの画像中の所望の点A,Bを指定することができるようになっている。
【0021】
さらに具体的には、ユーザが歯牙Tの画像中において病変領域X外の点を指定したときには、その点が、病変領域Xにおける歯牙Tの本来(健常時)の色を推定するための参照点Aとして入力されるようになっている。また、ユーザが歯牙Tの画像中において病変領域X内の点を指定したときには、その点が、本来(健常時)の色の推定を行う病変領域Xの代表点Bとして入力されるようになっている。
【0022】
処理装置3は、撮像装置2により取得されたマルチバンド画像データを用いてスペクトル(本実施形態においては、分光反射率)推定処理を行う。このスペクトル推定処理では、380nmから780nmまでの波長帯域において、1nm間隔で分光反射率の推定を行う。つまり、本実施形態では、401次元の分光反射率を推定する。
【0023】
一般的に、1波長毎の分光反射率を求めるためには重厚で高価な分光計測器などが用いられるが、本実施形態では被写体が歯牙Tに限定されていることから、その歯牙Tが有する一定の特徴を利用することにより、少ないバンドで401次元の分光反射率を推定する。
具体的には、マルチバンド画像データとスペクトル推定マトリクスMspeとを用いてマトリクス演算を行うことにより、401次元のスペクトル信号を算出する。
【0024】
上記スペクトル推定マトリクスMspeは、カメラの分光感度データ、LEDスペクトルデータ、被写体(歯)の統計データに基づいて作成される。このスペクトル推定マトリクスMspeの作成については特に限定されることなく、周知の手法を用いることが可能である。例えば、その一例が、S.K.Park and F.O.Huck “Estimation of spectral reflectance curves from multispectrum image data”, Applied Optics, 16,pp3107-3114(1977)に詳述されている。
【0025】
処理装置3は、算出された歯牙Tのスペクトルに対して観察に使用する照明光のスペクトルを乗算することにより、観察に使用する照明光下での歯牙Tのスペク卜ルを求める。そして、求められた歯牙Tのスペクトルから、歯牙Tの部位毎に色度値L,a,bを算出するようになっている。
【0026】
次に、処理装置3は、ユーザが入力部5を介して病変領域X内の代表点Bを指定したときには、ユーザが入力した病変領域X外の複数の参照点Aおよび代表点Bを通る走査線Cを生成するようになっている。またユーザが代表点Bを指定しないときには、ユーザが入力した病変領域X外の複数の参照点Aを通る走査線Cを生成し、走査線C上に代表点Bを生成するようになっている。
【0027】
処理装置3は、病変領域X外の複数の参照点Aにおける色度値(色情報)に基づいて、病変領域X部内の代表点Bにおける色度値を算出するようになっている。
例えば、ユーザが病変領域Xを挟む位置に2つの参照点Aを指定した場合には、処理装置3は、2つの参照点Aを結ぶ直線状の走査線Cを生成する。ユーザが代表点Bを指定しない場合には、処理装置3は2つの参照点Aの中点を代表点Bとして生成するようになっている。処理装置3は代表点Bの色度値として、2つの参照点Aの色度値を直線補間して代表点Bの色度値を算出するようになっている。
【0028】
また、ユーザが病変領域X外に3つ以上の参照点Aを指定した場合には、処理装置3は、3つ以上の参照点Aおよび代表点Bを通過する曲線からなる走査線Cを生成するようになっている。曲線としてはスプライン曲線や2次曲線等公知の任意の曲線近似によって生成される曲線が設定される。そして、処理装置3は、スムージング機能によって3つの参照点Aによって決定される色の変化の傾向を補間して代表点Bにおける色度値を算出するようになっている。
【0029】
充填材決定部6は、処理装置3により算出された病変領域X内の代表点Bの本来の色度値を用いて、以下の公知のKubelka−munkの色予測理論式と、予め実験によってデータベース化しておいた充填材の分光散乱係数および分光吸収係数とを用いて上記代表点Bの本来の色度値に近い色度値を達成可能な充填材の組み合わせおよび充填材の厚さ寸法の候補を決定するようになっている。そして、充填材決定部6は、決定された充填材の候補を表示部4に出力してユーザに提示するようになっている。
【0030】
【数1】

【0031】
このように構成された本実施形態に係る歯科用充填材選択支援システム1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る歯科用充填材選択支援システム1を用いて充填材の候補を提示させるには、ユーザは、撮像装置2を使用して患者の歯牙Tを撮影する。これにより、患者の歯牙Tのマルチバンド画像データおよびRGB画像データが得られ、RGB画像データは表示部4に出力されて表示され、マルチバンド画像データは処理装置によって処理される。
【0032】
ユーザは、表示部4に表示された患者の歯牙Tの画像を見ながら入力部5を操作して、まず、歯牙Tの治療部位に当たる病変領域Xを指定する。病変領域Xの指定は、入力部5を操作して、図2(a),(b)に示されるように、画面上のポインタPで病変領域Xと思われる箇所の輪郭をなぞることにより行われる。
次いで、ユーザは、入力部5を操作して、図3に示されるように、複数(例えば2点)の参照点Aを指定する。さらに、ユーザは、入力部5を操作して、図4に示されるように、病変領域X内の代表点Bを1点指定する。
【0033】
そして、処理装置3が、図5に示されるように、2つの参照点Aと1つの代表点Bとを結ぶ曲線状の走査線Cを生成し、図6に示されるように、2つの参照点Aにおける歯牙Tの色情報を直線補間して、代表点Bにおける歯牙Tの本来の色を推定する。
ユーザが代表点Bを指定することなく、病変領域Xを挟む2点の参照点Aのみを指定した場合には、処理装置3が、2つの参照点Aを結ぶ直線状の走査線Cを形成し、2つの参照点Aの中点に代表点Bを生成する。そして、処理装置3は、2つの参照点Aにおける歯牙Tの色情報に基づいて、平均処理等の補間処理を行い、代表点Bにおける歯牙Tの本来の色を推定する。
【0034】
また、ユーザが3つ以上の参照点Aを指定したときは、処理装置3は、これらの参照点Aおよび1つの代表点Bを結ぶ曲線状の走査線Cを生成し、図7に示されるように、3つ以上の参照点Aにおける歯牙Tの色情報に基づいて、スムージング等の補間処理を行い、代表点Bにおける歯牙Tの本来の色を推定する。
【0035】
推定された代表点Bにおける歯牙Tの本来の色は、充填材決定部6に入力される。そして、充填材決定部6において、入力された歯牙Tの本来の色に近い色を達成可能な充填材の組み合わせ候補および各充填材の厚さ寸法が決定され、表示部4に表示される。
【0036】
この場合において、ユーザは、図8(a)に示されるような参照点Aおよび代表点Bの指定の仕方よりも、図8(b)あるいは図8(c)に示されるような方法で参照点Aおよび代表点Bを指定することが好ましい。すなわち、図8(b),(c)に示される指定方法は、参照点Aおよび代表点Bを結ぶ走査線Cが、歯牙Tの輪郭に沿う方向に生成されるようにする指定方法である。
【0037】
このようにすると、当該歯牙T以外の外的要因(歯肉Mや隣接歯牙T)から受ける影響を均一にして目標となる代表点Bの色の推定精度を向上することができる。
例えば、V級窩洞に対して、走査線Cは図8(a)に示されるように歯肉Mと歯牙Tとの境界線に交差する方向に設定されるよりも、図8(b)に示されるように歯肉Mと歯牙Tとの境界線に沿う方向に設定される方が、歯肉Mが存在することによる歯牙Tの色への影響度合が均一となり易く、歯肉Mという外的要因を排除して考えることが可能となる。また、IV級窩洞に対しては、図8(c)に示されるように、歯牙Tの輪郭に沿って走査線Cを生成することで、背景色や隣接歯牙Tによる影響を避けることができる。
【0038】
また、参照点Aの設定は、色度値の差が大きくなるように行うことが好ましい。例えば、複数の参照点Aにおける色情報が所定の閾値を越えるように設定することにより、補間誤差による推定エラーを防止し推定精度を向上することができる。
【0039】
このように、本実施形態に係る歯科用充填材選択支援システム1によれば、歯牙Tの画像を撮影して複数の参照点A、または複数の参照点Aと代表点Bを画像上で指定するだけで、代表点Bにおける歯牙Tの本来の色を達成可能な充填材の候補が提示されるので、虫歯によって変色したり、治療のために形成された窩洞によって病変部位Xが切り欠かれていたり、色素の付着によって変色していたりしても、適正な充填材の候補を提示してユーザが充填材を選択する作業を補助することができる。
【0040】
なお、本実施形態においては、指定された参照点Aおよび代表点Bを結ぶように処理装置3が走査線Cを生成することとしたが、これに代えて、ユーザが入力部5を使用して走査線Cを画像上に描画することで指定することにしてもよい。
【0041】
また、本実施形態においては、病変領域Xを挟む両側位置に2点以上の参照点Aを指定することとしたが、これに代えて、病変領域Xの一側に2点以上の参照点Aを指定することにしてもよい。この場合には、2点以上の参照点Aを通る走査線Cの延長線が病変領域Xを通過するように走査線Cが設定される。
【0042】
また、本実施形態においては、ユーザが病変領域Xを指定することとしたが、これに代えて、処理装置3が画像処理により病変領域Xを設定することにしてもよい。例えば、ユーザにより指定された代表点Bの周囲に、代表点Bの色情報に対して色差が所定の閾値以内となる領域を病変領域Xとしてもよい。このようにすることで、ユーザによる操作時間を短縮することができる。また、代表点Bではない病変領域X内の1点をユーザが指定し、その指定された点の色情報との色差が所定の閾値以内の領域を病変領域Xとして設定してもよい。
【0043】
また、本実施形態においては、ユーザが、病変領域Xを挟む2点の参照点Aのみを指定した場合に、これらの参照点Aを結ぶ直線状の走査線Cを形成することとしたが、これに代えて、2つの参照点Aを通過する複数の走査線Cを生成して表示部に表示し、いずれかの走査線Cをユーザに選択させることにしてもよい。
【0044】
また、本実施形態においては、病変領域Xに隣接する2つの参照点Aと病変領域Xとを通過する走査線Cを生成し、指定した参照点Aの色情報に基づいて病変領域Xの色を算出することとしたが、これに代えて、指定した参照点Aとは異なる位置に配置される参照点(対応参照点)A′の色情報を用いて病変領域Xの色を算出することにしてもよい。
【0045】
具体的には、図9に示されるように、病変領域Xの近傍に配置される参照点Aと、該参照点Aおよび病変領域Xを通過する走査線Cを当該歯牙Tの中心線Dによって反転させた線対称位置に配置される対応参照点A′と対応走査線C′を生成する。指定された参照点Aおよび生成された対応参照点A′の色情報を取得し、対応走査線C′に沿う色の変化の傾向を算出する。
【0046】
そして、生成された対応参照点A′から対応走査線C′に沿う色の変化の傾向と同様の傾向にしたがって、指定された参照点Aから変化させ、走査線C上の病変領域Xの色を算出する。同一歯牙Tにおける線対称位置における色の変化の傾向、すなわちグラデーション加減はほぼ等しいと考えられるので、これを用いても精度良く病変領域Xの色を算出し、適正な充填材候補を提示することができる。
【0047】
なお、対応参照点A′および対応走査線C′は、同一歯牙T内の対称位置に限定されるものではなく、図10に示されるように、隣接歯牙Tとの境界線を通る直線(歯列の中心線に限らない)Dに対する対称位置や、図11に示されるように上下の歯列間を通る直線Dに対する対称位置、あるいは図12に示されるように、歯列の中心線Dに対する対称位置に配置される対応参照点A′および対応走査線C′を利用してもよい。また、これら複数の対応参照点A′や対応走査線C′上の色情報に基づいて平均値処理や主成分分析等の統計的処理を施すことで、目的とする病変領域Xにおける歯牙Tの本来の色の推定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係る歯科用充填材選択支援システムを示すブロック図である。
【図2】図1の歯科用充填材選択支援システムにおいて病変領域を指定する作業を説明する(a)指定中の画像例、(b)指定後の画像例をそれぞれ示す図である。
【図3】図1の歯科用充填材選択支援システムにおいて病変領域の近傍に指定された参照点の画像例を示す図である。
【図4】図1の歯科用充填材選択支援システムにおいて病変領域内に指定された代表点の画像例を示す図である。
【図5】図1の歯科用充填材選択支援システムにおいて2つの参照点および代表点を結んで生成された走査線の一例を示す図である。
【図6】図5において生成された走査線に沿う2つの参照点の色情報の直線補間を示す図である。
【図7】図1の歯科用充填材選択支援システムにおいて、3つの参照点が指定された場合に生成された走査線に沿う色情報の曲線補間を示す図である。
【図8】図1の歯科用充填材選択支援システムにおいて設定可能な走査線の画像例であって(a)V型窩洞の場合の好ましくない例、(b)V型窩洞の場合の好ましい例、(c)IV型窩洞の場合の好ましい例をそれぞれ示す図である。
【図9】図1の歯科用充填材選択支援システムにおいて生成される走査線の変形例を示す図である。
【図10】図9と同様の他の変形例を示す図である。
【図11】図9と同様のさらに他の変形例を示す図である。
【図12】図9と同様のさらに他の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
A 参照点
A′ 対応参照点
B 代表点
C 走査線
C′ 対応走査線
D 歯牙Tの中心線
D′ 境界線を通る直線
D″ 歯列の中心線
M 歯肉
P ポインタ
X 病変領域
1 歯科用充填材選択支援システム
2 撮像装置(色情報取得部)
3 処理装置(走査線設定部、色推定部、病変領域設定部、走査線候補生成部、対応走査線設定部)
4 表示部(充填材提示部)
5 入力部(参照点設定部)
6 充填材決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯牙の病変領域の外側に配置される複数の参照点を設定する参照点設定部と、
該参照点設定部により設定された複数の参照点および前記病変領域内の代表点を通過する走査線を設定する走査線設定部と、
前記参照点設定部により設定された複数の参照点における歯牙の色情報を取得する色情報取得部と、
該色情報取得部により取得された各参照点における歯牙の色情報に基づいて前記代表点における歯牙の本来の色を推定する色推定部と、
該色推定部により推定された前記代表点における歯牙の本来の色に基づいて充填材を決定する充填材決定部と、
該充填材決定部により決定された充填材を提示する充填材提示部とを備える歯科用充填材選択支援システム。
【請求項2】
前記色推定部が、前記参照点における歯牙の色情報を補間して前記代表点における歯牙の本来の色を推定する請求項1に記載の歯科用充填材選択支援システム。
【請求項3】
歯牙の画像に基づいて、前記病変領域を設定する病変領域設定部を備える請求項1に記載の歯科用充填材選択支援システム。
【請求項4】
前記色情報取得部が、前記代表点における歯牙の色情報を取得し、
前記病変領域設定部が、歯牙の画像中における代表点との色差が所定の閾値以下の領域を病変領域として設定する請求項3に記載の歯科用充填材選択支援システム。
【請求項5】
前記走査線設定部が、前記参照点設定部により設定された複数点の参照点と前記病変領域とを通過する複数の走査線候補を生成する走査線候補生成部と、該走査線候補生成部により生成された走査線候補を提示し、提示された複数の走査線候補の中から1つの走査線候補を選択させる走査線候補選択部とを備え、該走査線候補選択部により選択された走査線候補を走査線として設定する請求項1から請求項4のいずれかに記載の歯科用充填材選択支援システム。
【請求項6】
歯牙の病変領域に隣接する位置に配置される少なくとも1つの参照点と、前記病変領域内の代表点とを通過する走査線を設定する走査線設定部と、
該走査線設定部により設定された走査線に対して対応位置関係に配置される対応走査線を設定する対応走査線設定部と、
前記参照点における歯牙の色情報、前記対応走査線上に沿う歯牙の色情報の変化の傾向および前記参照点に対して対応位置関係に配置される対応参照点における歯牙の色情報を取得する色情報取得部と、
該色情報取得部により取得された前記参照点および前記対応参照点における歯牙の色情報と、前記対応走査線上に沿う歯牙の色情報の変化の傾向とに基づいて前記代表点における歯牙の本来の色を推定する色推定部と、
該色推定部により推定された前記代表点における歯牙の本来の色に基づいて充填材を決定する充填材決定部と、
該充填材決定部により決定された充填材を提示する充填材提示部とを備える歯科用充填材選択支援システム。
【請求項7】
前記対応参照点および前記対応走査線が、当該歯牙の中心線を基準として前記参照点および前記走査線の線対称位置にそれぞれ配置されている請求項6に記載の歯科用充填材選択支援システム。
【請求項8】
前記対応参照点および前記対応走査線が、当該歯牙と隣接歯牙との境界線を通る直線を基準として前記参照点および前記走査線の線対称位置にそれぞれ配置されている請求項6に記載の歯科用充填材選択支援システム。
【請求項9】
前記対応参照点および前記対応走査線が、歯列の中心線を基準として前記参照点および前記走査線の線対称位置に配置されている請求項6に記載の歯科用充填材選択支援システム。
【請求項10】
前記色推定部が、前記参照点における歯牙の色情報と、前記走査線の当該歯牙の中心線を基準とした線対称位置、隣接歯牙における対応位置および歯列の中心線を基準とした線対称位置の少なくとも2つの位置に配置される前記対応参照点における歯牙の色情報および前記対応走査線上に沿う歯牙の色情報の変化の傾向とに基づいて前記代表点における歯牙の本来の色を推定する請求項6から請求項9のいずれかに記載の歯科用充填材選択支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−82196(P2010−82196A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254735(P2008−254735)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】