説明

歯科用硬化性材料

【課題】
歯科用硬化性材料において、可使時間に連動せずに、硬化時間を変化させる方法、即ち、種々の臨床症例に適した可使時間と硬化時間を有する歯科用硬化性材料を開発する。
【解決手段】
(A)重合性単量体を含む液材と(B)非架橋性樹脂粒子を含む粉材とに少なくとも分包されてなり、使用時にこれら部材を混合することにより硬化反応が開始されて硬化する歯科用硬化性材料において、該(B)粉材の非架橋性樹脂粒子の一部が、重量平均分子量が60万〜120万であって、且つ比表面積値が1〜3m/gの遅溶解性のものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用接着剤、歯科用充填修復材料、義歯床用材料のような(A)液材と(B)粉材とで構成されてなる、歯科用硬化性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療の分野では、重合性単量体、フィラー、および重合開始剤を含む重合性組成物が、歯科用接着剤、義歯床用材料、仮封材など、種々の歯科修復物用の硬化性材料として有用に使用されている。そして、これらの歯科用硬化性材料において、未硬化状態での材料の保存性を確保するために、(A)重合性単量体を含む液材と(B)フィラー等を含む粉材とに分包し、使用時にこれら部材を混合して用いる、所謂、粉/液型キットの形態としたものが知られている。すなわち、これらの粉/液型キットでは、通常、(A)液材および(B)粉材のどちらか、あるいは別分包の形態で重合開始剤が含まれており、使用時にこれらの部材を混合することにより硬化反応が開始されて硬化体の歯牙修復物が得られる。
【0003】
こうした歯科用硬化性材料において、(A)液材の重合性単量体成分としては、重合性や生体への為害性、操作性、硬化後の物性などの点からメチルメタクリレート(以下、「MMA」と略す)等の液状の(メタ)アクリレート系単量体が好適に使用されている。また(B)粉材には、ポリメチルメタクリレート(以下PMMAと示す)、エチルメタクリレートとメチルメタクリレートの共重合体等の、該液材に溶解する非架橋性樹脂粒子と、必要に応じて酸化ジルコニウム、シリカ、シリカ−ジルコニアのような無機フィラーや、架橋性の樹脂フィラー等が配合されている。
【0004】
こうした粉/液型キットの歯科用硬化性材料では、各部材を混合した後において、目的とする歯牙の治療箇所等に塗布されて硬化されるため、これらの混合当初にへら等ですくい易い一定粘度のペーストにする必要がある。このため上記(B)粉材には、分子量が1万〜50万程度の溶解性が高い非架橋性樹脂粒子が配合されている(例えば、特許文献1参照)。すなわち、こうした非架橋性樹脂粒子は、(A)液材と前記(B)粉材とを混合した際に混合物中に早い溶解速度で溶解されていき、その粘度を前記操作性に優れる粘度に高める。しかして、この操作性に優れる適正粘度に到達してから、該適正粘度が維持されている時間、すなわち、ペーストの粘度が練和操作が困難になるまでに高まるまでの時間を可使時間と呼んでいる。一般的にこの可使時間は、ペーストへの上記非架橋性樹脂粒子の溶解速度が速ければ速い程、粘度は早く上昇するため短くなる。例えば前記特許文献1においては、重量平均分子量が25万〜50万の非架橋球状ポリエチルメタクリレート、および重量平均分子量が1.5万〜5万の非架橋球状ポリエチルメタクリレートが溶解性の高い非架橋性樹脂粒子として使用されている。しかしながら、これらの粒子の添加量が増えると、可使時間が短縮する。
【0005】
一方、このようにして(A)液材と(B)粉材とを混合して得たペースト中では、前記したように硬化反応が開始され進行するため、上記操作性に優れる適正粘度も、やがて糸引きが始まる等して、練和操作が困難になるまでに高まり、硬い歯牙修復物が形成されていく。しかして、この(A)液材と(B)粉材とを混合した後において、ペースト中で硬化反応が始まり、その反応が終了して硬化物が得られるまでの時間、つまり該ペーストが硬化するために必要な時間を、硬化時間と呼んでいる。この硬化時間も一般的に、ペーストへの上記非架橋性樹脂粒子の溶解速度が速ければ速い程、早く粘度が上昇し硬化性が高まるため短くなる。
【0006】
以上のように、粉/液型キットの歯科用硬化性材料では、可使時間も硬化時間も、(B)粉材に含まれる非架橋性樹脂粒子の液材への溶解速度に連動して同じ挙動で変化するのが一般的である。
【0007】
これに対して歯科治療において、この可使時間と硬化時間は、可使時間についてはできるだけ長く保てるのが余裕をもって治療を行うことができるため好ましいとされ、硬化時間については比較的早く固まるように短いものが好ましいとされる傾向にあり、特に硬化時間については歯科治療の内容に応じて最適の時間に設定されるよう望まれている。しかしながら、前記分子量が1〜50万程度の易溶解性の非架橋性樹脂粒子を単独使用した場合のように、可使時間も硬化時間も、粉材に含まれる非架橋性樹脂粒子の溶解速度に連動して同じ挙動で変化するため、この相反する2つの性状の要求を同時に満足させることは通常は困難であった。特に、歯科治療における、個々の症例の多様性を勘案すると、その症例や治療法の状況に対応させて、硬化時間を都合の良い長さに設定するのが好ましいが、このような細やかな硬化時間の調整を、前記可使時間を大きく変動させないで十分な長さを確保しつつ実現することが難しかった。
【0008】
そのため、上記硬化時間は短くしつつも、可使時間を長く保つ工夫が試みられており、例えば、(B)粉材に非架橋性樹脂粒子を含み硬化時間は短く調製されている市販の歯科用硬化性材料(レジンセメント)において、該(B)粉材に、平均粒径が8〜85μmの範囲にあり、且つ重量平均分子量が7.0〜99万の範囲にある種々の非架橋性樹脂粒子を添加した場合における上記可使時間と硬化時間の関係が報告されている(非特許文献1参照)。また、溶解性が極めて高い不定形状の粉材からなる市販の歯科用硬化性材料(レジンセメント)の(B)粉材に、平均粒径が8μmであって、且つ重量平均分子量が99万の非架橋性樹脂粒子を添加した場合における上記可使時間と硬化時間の関係が報告されている(非特許文献2参照)。また、溶解性が極めて高い不定形状の粉材からなる硬化性材料の粉材を再球形化処理した場合における上記可使時間と硬化時間の関係が報告されている(特許文献2参照)
【特許文献1】特願2000−361150号公報
【非特許文献1】小菅佳久 「MMA−TBBレジンセメントの特性に及ぼすPMMA粉末の影響」 「歯科材料・器械」 Vol.19 No.1 92〜101頁 2000年
【非特許文献2】小菅佳久 「MMA−TBBレジンに用いるPMMA粉末がセメント特性に及ぼす影響」 「歯科材料・器械」 Vol.18 No.5 347〜351頁 1999年
【特許文献2】特願平11−149868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記非特許文献1においても、前記したほどに幅広い平均分子量や重量平均分子の範囲の中から、非架橋性樹脂粒子を多数に選定して添加しているにもかかわらず、得られる歯科用硬化性材料は、可使時間が長くできた場合には、やはりそれに対応して硬化時間がかなり長時間化しており、前記要求を十分に満足するものは得られていないものであった。
【0010】
また、前記非特許文献2においても、重量平均分子量が80万と高く溶解性の低い非架橋性樹脂粒子を添加した場合は、可使時間と共に硬化時間も延長している。一方、前記特許文献2は、再球形化し溶解性を低下させた非架橋性樹脂粒子を添加することにより、硬化時間を変えることなく可使時間をわずかに(20秒程度)延長することが実現できているが、それでも可使時間は40秒程度と短く、長い可使時間を維持したまま硬化時間を自在に設定する方法としては不十分であった。
【0011】
以上から、これらの性状の要求を両立させた、特には長い可使時間を維持したまま硬化時間を自在に設定可能な前記粉/液型キットの歯科用硬化性材料を開発することが大きな課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題に鑑み、本発明者らは鋭意研究を続けてきた。その結果、(B)粉材の非架橋性樹脂粒子の一部として、特定の重量平均分子量と特定の比表面積値を有する遅溶解性のものを使用することにより、上記の課題が解決できることを見出した。すなわち、非特許文献2において使用されている非架橋性樹脂粒子と同等の高い重量平均分子量を有しながら、比表面積が特定の範囲(1〜3m/g)に大きい非架橋性樹脂粒子を用いた場合には、長い可使時間を変えることなく硬化時間を自在に調節することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明は、(A)重合性単量体を含む液材と(B)非架橋性樹脂粒子を含む粉材とに少なくとも分包されてなり、使用時にこれら部材を混合することにより硬化反応が開始されて硬化する歯科用硬化性材料において、該(B)粉材の非架橋性樹脂粒子の一部が、重量平均分子量が60万〜120万であって、且つ比表面積値が1〜3m/gの遅溶解性のものであることを特徴とする歯科用硬化性材料である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粉液型キットの形態の歯科用硬化性材料において、(B)粉材の非架橋性樹脂粒子の一部として含有される、特定の分子量と比表面積値を有する遅溶解性の非架橋性樹脂粒子の含有量を増減させることにより、その増減量に対応して硬化時間を変化させることができる。しかしながら、その遅溶解性の非架橋性樹脂粒子の含有量の増減に対して可使時間はほとんど影響を受けない。
【0015】
よって、例えば易溶解性の非架橋性樹脂粒子の配合により可使時間を所望の長さに設定したならば、それに該遅溶解性の非架橋性樹脂粒子を、所望する硬化時間になるように配合することにより、その可使時間と硬化時間とを自在にコントロールすることができる。一般には、(B)粉材の非架橋性樹脂粒子中において、使用する易溶解性の非架橋性樹脂粒子を選定し、これと組み合わせる上記遅溶解性の非架橋性樹脂粒子の配合割合を選定することにより、硬化時間を1〜20分の範囲内の値、特に1〜10分の短い値に設定し、一方で可使時間は1〜3分の範囲内の予め設定した値、特に0.5分〜3分の長い値に留めることができる。
【0016】
歯科治療における、個々の症例の多様性を勘案すると、硬化性材料には、前記した硬化時間は短くし、且つ可使時間は長く保つ大まかな要求の元、それぞれの時間を一定範囲内でより細かく最適値に設定することが求められており、このように可使時間を変動させずに、硬化時間のみを変化させることが可能である本発明の意義は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の歯科用硬化性材料において、上記(B)粉材に含まれる非架橋性樹脂粒子の一部は、重量平均分子量が60万〜120万であって、且つ比表面積値が1〜3m/gの遅溶解性のものである(このような非架橋性樹脂粒子を「遅溶解性粒子」と表記する)。該非架橋性樹脂粒子は、重合性単量体に対する溶解性は比較的低く、歯科用硬化性材料において(A)液材と(B)粉材を混合した当初においては溶解速度は遅く、粘度上昇にはほとんど寄与しないため、該成分の配合量が変動しても可使時間は大きな影響を受けない。その一方で、この非架橋性樹脂粒子も、溶解性は低いものの、僅かずつは溶解していき、その溶解速度は、溶解により粒子の比表面積が大きくなるにつれ増大していくため、前記可使時間として求められる時間が経過した程度から多量に溶解するようになり、そこから硬化反応が終了するまでの時間を大きく短縮化させるように影響する。かくして、本発明では、この遅溶解性の非架橋性樹脂粒子を使用することにより、硬化時間は短くしつつも、可使時間は長く保つことが実現できたるものである。
【0018】
ここで、非架橋性樹脂粒子の重量平均分子量が60万より小さい場合、(A)液材と(B)粉材を混合した当初から多量に溶解するようになり、可使時間も短くさせるようになる。一方、非架橋性樹脂粒子の重量平均分子量が120万より大きい場合、(A)液材の重合性単量体への溶解性が小さくなり過ぎ、硬化時間を低減させる効果が十分でなくなる。上記硬化時間は短くしつつも、可使時間は保持する効果をより良好に発揮させる観点からは、遅溶解性粒子の重量平均分子量は70万〜100万であるのが特に好適である。
【0019】
なお、本発明において重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定されたポリスチレン換算の分子量である。
【0020】
また、非架橋性樹脂粒子において、その比表面積値が3m/gより大きい場合、(A)液材と(B)粉材を混合した当初から多量に溶解するようになり、可使時間も短くさせるようになる。一方、非架橋性樹脂粒子の比表面積値が1m/gより小さい場合、(A)液材の重合性単量体への溶解性が小さくなり過ぎ、硬化時間を低減させる効果が十分でなくなる。上記硬化時間は短くしつつも、可使時間は保持する効果をより良好に発揮させる観点からは、遅溶解性粒子の比表面積値は1.2〜2.5m/gであるのが特に好適である。上記1〜3m/gの比表面積値を有する遅溶解性粒子の平均粒子径は、遅溶解性粒子の形状が実質的に球状である場合、一般には1〜6μmであり、さらに、1.2〜2.5m/gの比表面積値を有する非架橋性樹脂粒子の平均粒子径は一般には2〜5μmである。なお、こうした遅溶解性粒子の形状や粒径は、重量平均分子量が60万〜120万であって、比表面積の値が1〜3m/gの範囲であれば特に問わず、上記球状以外に、例えば不定形であっても良い。
【0021】
尚、ここでいう平均粒径は、光散乱法の原理に基づく粒度分布計を使用し測定した、体積頻度表示でのメジアン径の値である。
【0022】
尚、上記の実質的に球状であるとは、機械粉砕して得られた不定形粒子に見られるような鋭利な角や破砕面を含まず、粒子全体がパール重合粒子に見られるように滑らかな曲面からなるという意味である。従って、必ずしも真球である必要はなく、略球状 であっても良い。一般には、走査型電子顕微鏡で無機フィラーの写真をとり、その単位視野内に観察される粒子 を無作為に100個選択し、各々について粒子 の最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で徐した平均均斉度が0.6以上、より好ましくは0.8以上のものであれば充分使用できる。
【0023】
尚、本発明において比表面積は、窒素吸着法によるBET比表面積値(m/g)のことである。具体的には、非架橋性樹脂粒子を23℃、2時間真空乾燥したものを被験試料とし、例えばフローソーブ2(マイクロメリティックス社製)等の測定装置を使用し測定することができる。尚、比表面積の測定前処理として非架橋性樹脂粒子を加熱した場合は、例え数十度の低温であってもBET比表面積が低くなる場合があるので、加熱は行なわないで測定する。
【0024】
一方、本発明において、(B)粉材に配合させる非架橋性樹脂粒子は、前記遅溶解性粒子の他に、これよりも溶解性の高い粒子(このような非架橋性樹脂粒子を「易溶解性粒子」という)も併用した場合には、まず、易溶解粒子の配合割合を可使時間が所望の長さになるように設定し、それに遅溶解性粒子を、所望する硬化時間になるように更に配合することにより、本発明の歯科用硬化性材料の可使時間と硬化時間とを自在にコントロールすることができるようになり、特に好適な実施態様となる。
【0025】
上記の易溶解性粒子は、(A)液材と(B)粉材を混合した際にすぐに溶解して、その粘度をへら等ですくい易い、操作性に優れる適度な粘度にさせるために必要である。また、当然にこの粒子の溶解により、ペーストの粘度が上昇した分は可使時間のみならずその硬化時間を短くするのにも寄与している。
【0026】
本発明において、これら非架橋性樹脂粒子は、前記遅溶解性のものであっても(A)液材の重合性単量体に対する前述の適度な溶解性は必要であるため、いずれも共有結合性の架橋が実質的に存在しないものであることが必要である。この非架橋性樹脂粒子は、合成樹脂粒子であっても良いし、天然高分子の粒子であっても良いが、通常は、合成樹脂粒子が使用される。構成する樹脂を具体的に例示すると、ポリメチルメタクリレート(以下PMMAと示す。)、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリスチレン類、シリコーン類等の非架橋性の粉末状樹脂が挙げられる。
【0027】
硬化性材料が歯科用接着剤、特に接着性レジンセメント等である場合、硬化体の高い靭性が得られることから、PMMA、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体等の(メタ)アクリレート系重合体により構成された非架橋性粒子を使用するのが好ましい。最も好ましくは、非架橋性のPMMAである。
【0028】
これらの非架橋性樹脂粒子は、常法に従い、原料となる重合性単量体を架橋剤無しで懸濁重合あるいは乳化重合させて得られる球状樹脂(このような球状の非架橋性樹脂は市販されており、工業的に入手することも可能である)として、更には、球状樹脂に機械的な粉砕処理を施すことで得られる粉砕物等の不定形樹脂として入手可能である。
【0029】
なお、上述した遅溶解性、易溶解性、難溶解性の各非架橋性樹脂粒子は、それぞれ1種類の粒子を単独で使用しても良いし、適宜2種以上を併用しても良い。
【0030】
ここで、上記易溶解性粒子は、(A)液材の重合性単量体に対する溶解性の高さから重量平均分子量が、1〜50万のものが好ましい。また、易溶解性粒子の比表面積値は、特に制限されるものではないが、上記溶解性の高さを考慮すると0.7〜4.0m/gであるのが好ましい。これらの易溶解性粒子の平均粒子径は、0.01〜60μmであるのが一般的である。また、遅溶解性粒子よりも溶解速度の極めて早い材質からなる非架橋性樹脂粒子を易溶解性粒子として使用することもできる。なお、こうした易溶解性粒子の形状は、上記の比表面積値の範囲を満足するものであれば特に問わない。特に溶解性を高める目的から、機械粉砕等して調製した不定形状の非架橋性樹脂粒子を使用するのが特に好ましい。
【0031】
例えば、遅溶解性粒子が非架橋ポリメチルメタクリレート(以下「PMMA」と示す)の場合、易溶解性粒子としては、遅溶解性粒子よりも溶解速度の早い重量平均分子量が1〜10万のパール重合非架橋PMMAが使用できる。または、易溶解性粒子として、重量平均分子量が1〜50万のパール重合非架橋PMMAをボールミル等を使用し粉砕処理する等して得られた、比表面積値が例えば0.7〜4.0m/gの粉砕PMMAを使用することができる。更には、易溶解性粒子としては、PMMAと比較して(A)液材への溶解が極めて早い重量平均分子量が1〜50万ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、エチルメタクリレートとメチルメタクリレートの共重合体等のアルキル(メタ)アクリレート系(共)重合体を使用することができる。
【0032】
尚、遅溶解性粒子および易溶解性粒子以外の残余の部分は、難溶解性或は不溶性の粒子からなるフィラー成分である。このようなフィラー成分は、(A)液材と(B)粉材を混合した場合もほとんど或は全く溶解せず、ペーストの粘度上昇にもほとんど影響しないため、得られるペーストの可使時間や硬化時間にも実質上影響しない。フィラー成分は、該歯科用硬化性材料の具体的用途に応じて、機械的強度や靭性等の物性を付与する目的で加えられるのが一般的である。
【0033】
このようなフィラーとしては、歯科治療用材料の成分として用いられている公知のフィラーが制限なく用いることができる。こうしたフィラーとしては、無機フィラーであっても有機フィラーであっても良い。無機フィラーとしては、具体的には、石英、シリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシア、シリカ−カルシア、シリカ−バリウムオキサイド、シリカ−ストロンチウムオキサイド、シリカ−チタニア−ナトリウムオキサイド、シリカ−チタニア−カリウムオキサイド、シリカ−ジルコニア−ナトリウムオキサイド、シリカ−ジルコニア−カリウムオキサイド、チタニア、ジルコニア、アルミナ等が挙げられる。これらの中で、ジルコニアやチタニアは金属遮蔽性、X線造影性の付与を目的に好適に使用できる。
【0034】
また、これらのフィラーは、(B)液材やその中に含まれる重合性単量体とのなじみをよくするために、その表面をPMMA、ポリエチルメタクリレート等のメタクリレート系重合体等のポリマーや、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤により表面処理したものを用いることもできる。
【0035】
有機フィラーとしては、合成樹脂粒子であっても良いし、天然高分子の粒子であっても良いが、通常は、合成樹脂粒子が使用される。また、合成樹脂粒子は、液に不溶性の架橋性粒子であってもよく、また既に説明した非架橋性樹脂からなる、遅溶解性のものよりも更に重量平均分子量が大きい、或は比表面積が小さい粒子等の、実質的に(A)液材に不溶性のものであっても良い。このような非架橋性樹脂粒子は、(A)液材の重合性単量体に対してほとんど不溶性になるため、ペーストの粘度上昇の役割は実質上なくなるので、フィラー成分として加えられることになる。したがって、その配合量も、該フィラー成分の配合量に含めればよい。
【0036】
このようなフィラーとして添加される非架橋性樹脂粒子の重量平均分子量は、一般的には10万以上であり、特には20万以上が好ましい。また、その比表面積値は重量平均分子量にもよるが1m/g未満であり、0.6m/g以下の場合に特に溶解性が低く好適である。また、このようなフィラーとして添加される非架橋性樹脂粒子の平均粒子径は、7〜200μmであるのが一般的である。なお、このようなフィラーとして添加される非架橋性樹脂粒子の形状は特に問わないが、溶解性が低くなるように比表面積値が小さいことが好ましいことから、一般的には実質的に球状である。このようなフィラーとして添加される非架橋樹脂粒子としては、パール重合して得られたPMMA等をそのまま使用する等の方法が簡便で好適である。
【0037】
これら有機フィラーを構成する樹脂は、前記した遅溶解性や易溶解性の非架橋性樹脂粒子の構成樹脂として説明したものが同様に使用できる。架橋性のものの場合、これらの樹脂の製造において、原料となる重合性単量体を架橋剤の存在下で重合させることにより得ればよい。
特に好適に使用できる有機フィラーとしては、優れた靭性が得られる観点から、非架橋性のPMMAが挙げられる。
【0038】
これらフィラー成分の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、通常は0.001〜200μm、操作性や被膜厚さを考慮すると0.1〜50μmが好ましい。また、その形状は、球状や不定形状、異形状の何れであっても良い。こうしたフィラーは、一種類の粒子を単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0039】
本発明の(B)非架橋性樹脂粒子を含む粉材において、遅溶解性粒子の配合割合は任意に設定することが可能であり、易溶解性粒子やフィラーの配合量との関係で本発明の効果が発揮されるように選定すれば良い。(B)粉材100質量部とした場合に、遅溶解性粒子の配合割合は1〜100質量%であるのが好ましく、1〜50質量%であるのがより好ましく、5〜50質量%であるのが特に好ましい。易溶解性粒子を配合する場合、その配合割合は0〜99質量%であるのが好ましく、1〜75質量%であるのがより好ましく、5〜50質量%であるのが特に好ましい。また、難溶解性や不溶性の粒子からなるフィラーの配合割合は0〜99質量%であるのが好ましく、0〜98質量%であるのがより好ましく、0〜90質量%であるのが特に好ましい。
【0040】
遅溶解性粒子の含有量が1質量%未満の場合、硬化時間を短くする効果が実質上得られなくなる。また特に硬化時間の短縮効果が得られやすいことから、遅溶解性粒子の含有量は5質量%以上が好ましい。遅溶解性粒子は比表面積が大きいので、含有量が多くなりすぎると筆積み性が低下するだけでなく、可使時間に影響する虞も生じるので、好適な添加量は50質量%以下である。
【0041】
易溶解性粒子を併用する場合は、その含有量が1質量%以上、特に5質量%以上で易溶解性粒子の効果が得られやすく好適である。易溶解性粒子を必要以上に添加した場合は、その溶解性にもよるが可使時間が短くなりすぎる場合があるので、易溶解性粒子の添加量は75質量%以下、特には50質量%以下が好適である。
【0042】
本発明において(B)粉材には、その他添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、着色を目的とした従来公知の顔料類、各種重合禁止材や重合促進剤を使用することができる。
【0043】
次に、本発明の歯科用硬化性材料において、(A)液材の重合性単量体としては、歯科治療用材料の分野で従来公知の重合性単量体が、何ら制限無く用いることができる。本発明において、(A)液材は、25℃程度の室温下で液状の部材を言い、これは該温度下で固体状の重合性単量体を有機溶剤に溶解させて用いても良いが、通常は該温度下で液状の重合性単量体を用いることにより実現するのが好ましい。
【0044】
このような重合性単量体としては、分子中に少なくとも1つの重合性不飽和基を有すものであれば従来公知のものを使用でき、このような重合性不飽和基としてはアクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基、スチリル基等を例示できる。重合性単量体を具体的に示すと、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、2−メタクリロキシエチルアセトアセテート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の重合性不飽和基を1つ有する(メタ)アクリレート系単量体類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の重合性不飽和基を複数有する脂肪族系(メタ)アクリレート系単量体類;2,2−ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシフェニル)]プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン等の重合性不飽和基を複数有する芳香族系(メタ)アクリレート系単量体類;11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸及びその無水物、2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート等の酸性基含有(メタ)アクリレート系単量体類;ジアセトンアクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の重合性不飽和基として(メタ)アクリルアミド基を有す単量体類;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等のスチレン、αメチルスチレン誘導体類;等が挙げられる。
【0045】
このうち、重合性や生体への偽害性、臨床における操作性、硬化後の物性などの点から(メタ)アクリレート系単量体が好適である。これらの重合性単量体は単独または二種以上を混合して用いることができる。
【0046】
(A)液材には、固体状の重合性単量体やその他固体状の任意添加剤を配合する場合や液の均一性を改善すること等を目的に有機溶剤を配合させても良い。この有機溶媒としては、生体に対する為害作用の少ないものが望ましく、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロパンジオール、アセトン等が好適に使用される。これら有機溶媒は、必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。
【0047】
その他、本発明において(A)液材には、保存安定性など本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて様々な任意成分を含有させることができる。このような任意成分としては、有機過酸化物等の重合開始剤の分解促進剤、pH調整剤等の重合開始剤等の安定化剤、無機又は有機フィラー等の強度調節剤、可溶性の重合成単量体の共重合体等の粘度調節剤、各種塩類等が挙げられる。特に、保存安定性や環境光安定性を向上させるため、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジターシャリイブチルフェノール等の重合禁止剤を少量添加するのが好ましい。
【0048】
本発明の歯科用硬化性材料において、前記(A)液材および(B)粉材には、特開平10−1409号公報、特開平10−1473号公報、特開平8−113763号公報等に記載の貴金属接着性モノマーとして知られる非酸性の(メタ)アクリレート系単量体等も添加して使用できる。
【0049】
本発明の歯科用硬化性材料において、前記(A)液材および(B)粉材の少なくとも一方には、通常、硬化反応を進ませる為に必要な重合開始剤が配合される。(A)液材および(B)粉材のいずれに分包するかは、保存安定性を考慮し決定すればよい。複数成分が組み合わされて重合開始能が発揮される形態の重合開始剤を使用する場合は、保存安定性等を考慮し、各成分を(A)液材と(B)粉材とに分けて含有させることもできる。また、該重合開始剤は、(A)液材及び(B)粉材とは別に分包することもできる。
【0050】
本発明の歯科用硬化性材料において、重合開始剤としては、従来公知の重合開始剤であれば特に限定されず、歯科用硬化性材料において使用されている化学重合開始剤又は光重合開始剤が制限なく使用できる。本発明で使用可能な化学重合開始剤としては、有機過酸化物/アミン化合物、又は有機過酸化物/アミン化合物/スルフィン酸塩からなるレドックス型の重合開始剤;酸と反応して重合を開始する有機金属型の重合開始剤;及び(チオ)バルビツール酸誘導体/第二銅イオン/ハロゲン化合物からなる重合開始剤等が使用できる。このような重合開始剤の具体例としては、例えば特願2000−361150号公報に例示されているものを使用できる。特に有機金属型の重合開始剤としては後述する一般式(1)で例示されるアリールボレート塩を用いるのが審美性等の観点から好適である。この時、アリールボレート塩と組む酸としては従来公知の有機酸および無機酸が使用できる。反応性が高いことから強酸が好ましく、特にスルホン酸基含有化合物が扱いやすく、好ましいと言える。こうした酸は、酸性基を含有する重合性単量体として、上記(A)液材の一部として兼用してもよく、また、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の場合、常温で固体であり、前記した(A)液材の保存安定性を考慮すると(B)粉材の一部として含有させても良い。
【0051】
上記のアリールボレート塩としては、分子中に少なくとも1個のホウ素−アリール結合を有する4配位のホウ素化合物であれば特に限定されず公知の化合物が使用できる。ホウ素−アリール結合を全く有しないボレート化合物は安定性が極めて悪く、空気中の酸素と容易に反応して分解するため、事実上使用が不可能である。
【0052】
本発明で使用されるアリールボレート塩としては、保存安定性及び重合活性の点から、下記一般式(1)
【0053】
【化1】

【0054】
(上式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアルケニル基であり、これらの基はいずれも置換基を有していてもよく;R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、置換基を有してもよいアルキル基又はアルコキシ基、または置換基を有してもよいフェニル基であり;Lは金属陽イオン、第3級又は第4級アンモニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、第4級キノリニウムイオンまたは第4級ホスホニウムイオンを示す。)で示されるボレート化合物が好ましい。
【0055】
これらの中でも、保存安定性や入手の容易さから、ホウ素原子が4つのアリール基で置換されたアリールボレート塩が特に好ましい。
【0056】
また、Lとしては第3級又は第4級アンモニウムイオンが好ましく、第3級アンモニウムイオンがより好ましい。
【0057】
一方、光重合開始剤としては、光増感剤のみからなるもの;光増感剤/光重合促進剤からなるもの;色素/光酸発生剤/スルフィン酸塩;色素/光酸発生剤/アリールボレート塩からなるもの等が挙げられる。
【0058】
これら重合開始剤類を必要に応じ各々単独で、あるいは複数を組み合わせて添加することが可能である。
【0059】
また、本発明の歯科用硬化性材料をデュアルキュア型にする場合には、上記化学重合開始剤とカンファーキノン等のα−ジケトン類及びジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等のアミンの組み合わせからなる、又はビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド誘導体からなる光重合開始剤の併用が、接着強度、及び重合性の観点から好適である。
【0060】
本発明の歯科用硬化性材料における上記重合開始剤の配合量は、(A)液材に含まれる重合性単量体が重合するのに十分な量であれば特に限定されないが、硬化体の耐候性等の諸物性の観点から、(A)液材に含まれる重合性単量体の100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲であるのが好ましい。
【0061】
本発明の歯科用硬化性材料は、歯科治療において使用されて公知の硬化性材料に制限なく採用できる。具体的には、歯科用接着剤;離装剤、印象剤等の義歯床用材料;仮封剤等が挙げられる。長い可使時間と、最適な硬化時間に設定された優れた硬化性材料得られるため、テクニックエラー等の問題を生じやすい歯科用接着剤に応用する方法が特に好ましい。歯科用接着剤として用いる場合、酸性基を有するラジカル重合性単量体及び水を含んでなるプライマー組成物等と併用することで、歯質等への高い接着性を達成可能な歯科用接着キットとして使用できる。
【0062】
このようなプライマー組成物としては、特願平05−261215号公報、特願平07−118498号公報、特願平07−300207号公報、特願平07−176479号公報、特願平08−343334号公報、特願平09−056677号公報、特願2001−069855公報、特願2001−289846公報、特願2002−367079号公報、特願2003−206802号公報等に記載の、酸性基を有するラジカル重合性単量体、及び水を含む従来公知のプライマー組成物等を適宜選択して使用することができる。
【0063】
こうした歯科用接着剤及び上記プライマー組成物からなる歯質用接着キットの使用方法の例は、該プライマー組成物をスポンジあるいは小筆を用いて歯面に塗布し、数秒〜数分間配置した後、自然乾燥により、或いはエアーを吹き付けて乾燥する。次いで、本発明の(A)液材と(B)粉材を適量採取し、ヘラ等で混和し歯科用接着材ペーストを調製し、続けて前処理された歯面の上或は修復材料、またはその両方に該ペーストを塗布し、歯面に修復材料を接触、圧接した後ペーストを重合硬化させる方法である。この方法により歯冠材料と歯質とを強固に接着することができる。この際、従来公知の修復材料用プライマーを更に併用することもできる。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、実施例および比較例で使用した化合物とその略称を(1)に、可使時間の測定法を(2)、硬化時間の測定法を(3)に、筆積み性の評価を(4)に示した。
(1)使用した化合物とその略称
[ラジカル重合性単量体]
MMPS;2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
MMA;メチルメタクリレート
UDMA;1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2,4−トリメチルヘキサンと1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,4,4−トリメチルヘキサンの混合物
HEMA;2−ヒドロキシエチルメタクリレート
[非架橋樹脂粒子]
使用した非架橋性樹脂粒子を表1に示した。
【0065】
【表1】

【0066】
[重合禁止剤]
BHT;ジブチルヒドロキシトルエン
[アリールボレート塩(重合開始剤)]
PhBTEOA;テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩
(2)可使時間の測定法
可使時間の測定は、以下の方法で行った。すなわち、23℃において、(A)液材と、(B)粉材の比率が質量比で1:1.3となるように混合し、(A)液材と、(B)粉材を混合した時点をスタートとし、攪拌用ヘラを使用し5秒間隔でかき混ぜながら、ペーストが糸引き状でヘラにつくようになる時点を可使時間の終了時間とした。
(3)硬化時間の測定法
硬化時間の測定は、熱電対を使用した発熱法によって行った。すなわち、23℃において、先端にアルミ箔を巻いた熱電対を6mmφ×1mm厚の孔の空いたワックスシート製モールド2個で挟んだものを用意し、(A)液材と、(B)粉材の比率が質量比で1:1.3になるように混合し、20秒間攪拌後に、得られたペーストを孔の中に流し込み、1cm×1cmのプロピレンシートで蓋をした。混合開始から1分後、37℃の恒温水槽にペーストの入ったモールドを浸水し、混和開始から最大発熱点までの時間を測定し、硬化時間とした。
(4)筆積み性の評価
筆積み性の評価は、以下のように行った。筆積み用の筆には、「トクヤマ筆積み用ディスポ筆」(株式会社トクヤマデンタル社製)を用いた。すなわち、まず、23℃において、ダッペンディッシュに(A)液材と(B)粉材を採取した。次に筆先を(A)液材に浸し、筆に(A)液材を含ませた。その後、直ちに用意しておいた(B)粉材に(A)液材を含ませた筆先を接触させ、セメント泥の玉を作った。このセメント泥の玉の外観を以下のように目視評価した。○:大きな玉ができ、粉吹きがない。△:小さな玉ができる、または粉吹きする。×:筆先に玉ができない。
実施例1
液材は、79.9質量部のMMAと12質量部のUDMAと5質量部のHEMAと3質量部のPhBTEOAと0.1質量部のBHTの混合物からなる組成とした。粉材は、遅溶解性粒子のPMMA3と有機フィラーのPMMA1を表2に示す配合割合で計98質量部となるように混合し、これに2質量部のMMPSを混合した組成とした。
【0067】
また、対象の参考例1として、98質量部PMMA1と2質量部のMMPSを混合した組成の粉材も製造した。
【0068】
これらの液材と粉材を使用し、可使時間、硬化時間、および筆積み性をそれぞれ評価した。
【0069】
その結果は、表2に示したように、粉材の非架橋性樹脂粒子の一部として遅溶解性粒子であるPMMA3を使用した場合、可使時間は有機フィラーのみからなる参考例1と変わらなかったが、PMMA3の含有量に応じて硬化時間だけが短時間化した。即ち、可使時間に連動させずに硬化時間を変えることが出来た。
【0070】
尚、PMMA3の添加量が60質量部の場合は、筆積み性がやや悪くなった。
比較例1
実施例1において、粉材の組成を、易溶解性粒子のPMMA2と有機フィラーのPMMA1を表2に示す配合割合で計98質量部となるように混合し、これに2質量部のMMPSを混合した組成とした以外は該実施例1と同様に実施した。
【0071】
その結果は、PMMA2の含有量に応じて可使時間と硬化時間が共に短時間化した。即ち、可使時間に連動して硬化時間も変化した。
実施例2〜5、比較例2〜4
実施例1において、粉材の組成を表3に示すものとした以外は該実施例1と同様に実施した。結果を表3に示した。
実施例6
実施例1において、粉材の組成を、遅溶解性粒子のPMMA3、易溶解性粒子のPMMA2、および有機フィラーのPMMA1を表2に示す配合割合で計98質量部となるように混合し、これに2質量部のMMPSを混合した組成とした以外は該実施例1と同様に実施した。
その結果は、粉材の非架橋性樹脂粒子の一部として遅溶解性粒子であるPMMA3を使用し、更に易溶解性粒子であるPMMA2を併用していることにより、易溶解性粒子であるPMMA2を20質量部と有機フィラーのPMMA1を78質量部を混合させて計98質量部とした、前記比較例1での結果と比較して、可使時間は変わりがなく、PMMA3の含有量に応じて硬化時間だけが短時間化するものになった。更には、遅溶解性粒子のPMMA3と有機フィラーのPMMA1を使用した実施例1と比較し、硬化時間を4分10秒から5分10秒の、より短時間化された範囲で調節可能であった。
【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合性単量体を含む液材と(B)非架橋性樹脂粒子を含む粉材とに少なくとも分包されてなり、使用時にこれら部材を混合することにより硬化反応が開始されて硬化する歯科用硬化性材料において、該(B)粉材の非架橋性樹脂粒子の一部が、重量平均分子量が60万〜120万であって、且つ比表面積値が1〜3m/gの遅溶解性のものであることを特徴とする歯科用硬化性材料。
【請求項2】
(B)粉材における残余の非架橋性樹脂粒子が、重量平均分子量が1万〜50万のものからなる易溶解性の非架橋性樹脂粒子を更に含むことを特徴とする請求項1記載の歯科用硬化性材料。
【請求項3】
(B)粉材の非架橋性樹脂粒子において、平均分子量が60万〜120万であって、且つ比表面積値が1〜3m/gの遅溶解性のものの含有量が1〜50質量%である請求項1または請求項2に記載の歯科用硬化性材料。
【請求項4】
非架橋性樹脂粒子が、(メタ)アクリレート系非架橋重合体である請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用硬化性材料。

【公開番号】特開2009−221171(P2009−221171A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69634(P2008−69634)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】