説明

歯科用組成物押出し用ノズル

【課題】 少なくともモノマーを含有する液状やペースト状の歯科用レジンセメントや歯科用常温重合レジンやレジン強化型の歯科用グラスアイオノマーセメントのような歯科用組成物のモノマーを重合させるための触媒を液状やペースト状の歯科用組成物とは分離した状態にして、歯科用組成物の保存安定性を向上させると共に歯科用組成物を分割する数を減少させることもでき、歯科用組成物を押し出すための押出し器の一端に装着され、押し出された歯科用組成物を硬化できる状態とするための歯科用組成物押出し用ノズルを提供する。
【解決手段】 少なくともモノマーを含有する液状やペースト状の歯科用組成物を押し出すための押出し器の一端に装着される歯科用組成物押出し用ノズルの押出し路内に、押し出されて来る歯科用組成物中のモノマーを重合させるための触媒を付着せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともモノマーを含有する液状やペースト状の歯科用レジンセメントや歯科用常温重合型レジンやレジン強化型の歯科用グラスアイオノマーセメントのような歯科用組成物を押し出すための押出し器の一端に装着され、押し出されて来る歯科用組成物を硬化できる状態とするための歯科用組成物押出し用ノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
少なくともモノマーを含有する歯科用組成物は、一般的に液状やペースト状の不定形の状態で供給される。これは、歯科用組成物が臨床現場などで適用する目的や部位に合うよう成形され、好みの形に成形された状態で硬化されることが必要であるからである。
【0003】
例えば、恒久的な歯冠補綴物や橋義歯ができるまでの暫間クラウンの作製や、破折した義歯床や人工歯の修理など多目的に用いられている歯科用組成物である歯科用常温重合型レジンとしては、ピリミジントリオン誘導体と有機金属化合物とを含有したポリマーと、有機ハロゲン化合物と芳香族3級アミンと重合禁止剤とを含有させたモノマーとから成り、ポリマーとモノマーとを一定量ずつ採って、ラバーカップ中でヘラなどを用いて混合して、ピリミジントリオン誘導体と有機金属化合物と有機ハロゲン化合物との間で反応を利用して硬化させるものがある(例えば、特許文献1参照。)。
このような歯科用組成物において、モノマーの重合に関与する自身が変化する物質も含む重合開始剤や重合促進剤(以下、単に「触媒」と言う。)が1種のみである場合のみならず複数である場合でも、歯科用組成物が粉と液や、ペーストとペーストのように分割された状態で構成されていれば、触媒を分割して配合して歯科医へ供給することが可能であるが、歯科医は治療時に必ず分割された状態の歯科用組成物を混合する面倒な操作を必要とする。そこで、混合という面倒な操作を省略するために歯科用組成物を1液型又は1ペースト型の構成にしようとしても、触媒の作用を失活させず、保存安定性も保ったまま、歯科用組成物を歯科医へ供給することは不可能であった。
【0004】
また、インレー,クラウンなどの合着、う蝕窩洞の充填、裏装、小窩裂溝への予防填塞など歯科分野で幅広い用途に用いられている歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、フルオロアルミノシリケートガラス粉末とα−β不飽和カルボン酸共重合体との水の存在下における中和反応により硬化する生体親和性に優れた組成物である(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この歯科用グラスアイオノマーセメント組成物において、これら3成分を共存させて保存することは不可能であるため、フルオロアルミノシリケートガラス粉末とα−β不飽和カルボン酸共重合体水溶液との2つに分割し、それぞれ必ず別々の容器に入れて歯科医へ供給されている。
【0005】
このように歯科用グラスアイオノマーセメント組成物はフルオロアルミノシリケートガラス粉末とα−β不飽和カルボン酸共重合体水溶液との形態に分割して供給されるために粉成分と液成分とを正確に計量して採取した後に練和しなければならないため、粉成分と液成分とをそれぞれペースト状にし、その際、一方をα−β不飽和カルボン酸共重合体と水と充填材とから成る水系ペーストとし、他方をフルオロアルミノシリケートガラス粉末とレジン成分とを含むモノマー系ペーストとし少なくとも一方に触媒を含ませた2ペースト型のレジン強化型の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物も開示されている(例えば、特許文献3参照。)。このレジン強化型の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物において、モノマー系ペーストに含まれるレジン成分はセメントの物性を向上させるために添加されており、触媒の作用で重合硬化する。触媒としては、芳香族スルフィン酸,そのアルカリ塩,芳香族スルホニル化合物のような−SO2−基を少なくとも1個含有する有機芳香族化合物が使用されているが、これらはレジン成分を重合させないように、二つのペーストを混合した際に初めてレジン成分の重合に関与する状態になっていることが必要である。
【0006】
そこで、−SO2−基を少なくとも1個含有する有機芳香族化合物などの触媒は、レジン成分とは分離して水系ペーストに配合されているが、更に長期の多湿な条件下で安定して保存性を保つことができるように、セルロースなどの高分子化合物でマイクロカプセル化して配合されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、マイクロカプセル化する作業には手間とコストを必要とし、たとえマイクロカプセル化してもその保存性が十分とは言えない状況であった。
そして、このレジン強化型の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物においても、その使用直前に水系ペーストとモノマー系ペーストとを混合練和させることが必要であった。
【0007】
【特許文献1】特開平6−219919号公報
【特許文献2】特公平6−027047号公報
【特許文献3】特開平11−228327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、少なくともモノマーを含有する液状やペースト状の歯科用組成物のモノマーを重合させるための触媒を液状やペースト状の歯科用組成物とは分離した状態にして、歯科用組成物の保存安定性を向上させると共に歯科用組成物を分割する数を減少させることもでき、歯科用組成物を押し出す際に押し出されて来る歯科用組成物と触媒が接触するか及び/又は混入し、押し出されて来る歯科用組成物を硬化できる状態とするための歯科用組成物押出し用ノズルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した結果、少なくともモノマーを含有する液状やペースト状の歯科用組成物を押し出すための押出し器の一端に装着される歯科用組成物押出し用ノズルの押出し路内にモノマーを重合させるための触媒を付着させておくことにより、その歯科用組成物中にはその触媒が存在しない状態としておいて、その歯科用組成物が押し出されて来る際に初めて触媒と接触したり歯科用組成物中に混入したりするようにすれば、前記課題を解決できることを究明して本発明を完成したのである。
【0010】
即ち本発明は、少なくともモノマーを含有する液状やペースト状の歯科用組成物を押し出すための押出し器の一端に装着され、押し出されて来る歯科用組成物中のモノマーを重合させるための触媒がその押出し路内に付着せしめられていることを特徴とする歯科用組成物押出し用ノズルである。
【0011】
そして、押し出される歯科用組成物が1液型又は1ペースト型である場合には、その押出し路内面が螺旋状の溝が設けられていたり、粗面化されていたり、押出し路が複数の管路から構成されていて、押し出されて来る歯科用組成物との接触面積が大きくなるように構成されていることが好ましく、また歯科用組成物が2液型又は2ペースト型である場合には、押出し路内に押し出されて来る歯科用組成物を混合するための混合機構を備えた形状に構成されていることが好ましいのである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルは、押し出されて来る歯科用組成物に合わせた触媒が押出し路内に付着されているため、液状やペースト状の歯科用組成物が押出し路内を通過して押し出されて来る際に触媒と接触するか又は触媒が混入されるので、ノズルから押し出されて来る歯科用組成物中に含有されているモノマーは直ちに重合を開始するので歯科用組成物は硬化できる状態となるのである。
そして、少なくともモノマーを含有する歯科用組成物はその内部に触媒が存在しない状態にできるため、保存安定性を向上できると共に歯科用組成物を分割する数を減少させることもできるのである。即ち、歯科用組成物を硬化させるために必要な触媒の数が1つである場合には、その触媒を液状やペースト状の歯科用組成物とは分離できるから、歯科用組成物を1液型や1ペースト型の構成にすることができ、歯科用組成物を硬化させるために必要な触媒の数が複数である場合には、例えば歯科用組成物が歯科用常温重型合レジンである場合のように触媒がピリミジントリオン誘導体と有機金属化合物と有機ハロゲン化合物のように3つの触媒が必要な場合に、歯科用組成物の液状やペースト状の構成を利用する触媒の数より少なくすることもできるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面により本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルの実施例について詳細に説明する。
図1は本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルの1実施例の斜視図、図2は押し出される歯科用組成物が1液型又は1ペースト型である場合に好適な本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルの1実施例の縦断面図、図3は押し出される歯科用組成物が1液型又は1ペースト型である場合に好適な本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルの他の実施例の斜視図、図4は押し出される歯科用組成物が1液型又は1ペースト型である場合に好適な本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルの更に他の実施例の斜視図、図5は押し出される歯科用組成物が2液型又は2ペースト型である場合に好適な本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルの1実施例の一部を断面で示した側面図である。
【0014】
図面中、1は本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルであり、少なくともモノマーを含有する歯科用レジンセメントや歯科用常温重合型レジンやレジン強化型の歯科用グラスアイオノマーセメントのような液状やペースト状の歯科用組成物を押し出すための押出し器に装着される好ましくは外面にローレットが設けられている装着部1aを一端に有し、この装着部1aに続いて歯科用組成物が押し出される押出し路1bが設けられており、他端が吐出口1cを成しており、押出し路1bの内面には歯科用組成物中のモノマーを反応させて歯科用組成物を硬化させるための触媒が付着せしめられている。
【0015】
この本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルの材質としては、通常の歯科用組成物に対して安定なプラスチック、例えばポリプロピレン,ナイロン,フッ素樹脂等であれば特に限定せずに用いることができる。また、金属であっても、付着せしめられる触媒や通過する歯科用組成物に対して安定なものであれば用いることができる。
【0016】
そして押出し路1bの形状としては、押し出される歯科用組成物が1液型又は1ペースト型である場合には、図2に示すようにその内面が螺旋状の溝が設けられていたり、図示しないが粗面化されていたり、図3及び図4に示すように複数の押し出し路から構成されていて、押し出されて来る歯科用組成物と触媒との接触面積が大きくなるように構成されていることが好ましく、このような複数の押し出し路を構成するにはノズル内に図4に示すような複数の押し出し路構成部材を嵌入すればよい。また歯科用組成物が2液型又は2ペースト型である場合には、図5に示すように押し出されて来る歯科用組成物を混合するための混合機構を備えた形状に構成されていることが好ましい。
【0017】
即ち、押し出される歯科用組成物が1液型又は1ペースト型である場合には、図2に示す態様のように押出し路1bの内面にライフル銃のように螺旋状の溝を設けたり、図3に示す態様のように一端の装着部1aと他端の吐出口1cとの間の押出し路1bとなる部分に恰も蓮根のように複数の管路を並列した状態に形成したり、図4に示す態様のように一端の装着部1aと他端の吐出口1cとの間の押出し路1bとなる部分に放射状の突起を設けた流路分割具を挿入してその断面が恰も蜜柑を輪切りにして実の部分を取り除いたような状態に形成したりすればよいのである。また歯科用組成物が2液型又は2ペースト型である場合には、特開平9−136023号公報「多成分カートリッジ又は分配装置に付属部品を正しく取付けるための差込式固定装置」や特許第3219341号公報「調合カートリッジ用混合器」で公知の図5に示すような2液型又は2ペースト型の歯科用組成物が押し込まれて来る一端の装着部1aと他端の吐出口1cとの間の押出し路1bとなる部分に撹拌機構を設けて他端の吐出口1cから押し出されて来た際には歯科用組成物が充分混合される構造としたりすればよいのである。
【0018】
本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルの押出し路1b内に触媒を付着させる方法としては、付着させたい触媒をエタノールなどの適当な溶媒に溶解させた液を押出し路1b内に通過させたり、ノズル内部に噴霧したりした後、必要に応じて乾燥させる等すればよい。また、粉体の状態の触媒をカルボキシセルロース塩の如き粘着剤を溶解した水溶液を介して押出し路1b内に付着させることもできる。
【0019】
本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルの押出し路1b内に付着される触媒は、使用する歯科用組成物によって異なるが、過酸化物,アミン化合物,−SO2−基を少なくとも1個含有する有機芳香族化合物、ピリミジントリオン誘導体,有機ハロゲン化合物,アスコルビン酸,有機金属化合物などの各種触媒の中から少なくとも1種以上を選択して使用することが好ましい。
【0020】
過酸化物の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド,ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウムが好適である。
【0021】
アミン化合物の具体例としては、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ハイドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルなどが挙げられる。
【0022】
−SO2−基を少なくとも1個含有する有機芳香族化合物である芳香族スルフィン酸又はその金属塩、芳香族スルホニル化合物の具体例としては、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルホニルクロライド、p−トルエンスルホニルフルオライド、o−トルエンスルホニルイソシアネート、p−トルエンスルホニルヒドラジド、p−トルエンスルホンアミド、p−トルエンスルホニルイミダゾール、p−トルエンスルホニルシアニド、2−(p−トルエンスルホニル)アセトフェノン、p−トルエンスルホニル−N−ジエチルアミド、α−N,α−トルエンスルホニル−N−アルギニン、α−N,p−トルエンスルホニル−L−アルギニンメチルエステル、p−トルエンスルホニルメチルイソシアネート、p−トルエンスルホニル−N−メチル−N−ニトロサミド、N−(p−トルエンスルホニル)−L−フェニルアラニン、N−p−トルエンスルホニルーLーフェニルアラニルクロライド、p−トルエンスルホニルアセトニトリル、2ー(p−トルエンスルホニル)アセトフェノン、トルエン−3,4−ジスルホニルクロライド、ベンゼンスルホンアミド、ベンゼンスルホヒドロキサンミン酸、ベンゼンスルホニルクロリド、ベンゼンスルホニルイソシアネート、ベンゼンスルホンアニリド、ベンゼンスルホンクロラミドナトリウム、ベンゼンスルホンジクロラミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニル−N−メチルアミド、2−フェニルスルホニルアセトフェノン、ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−スルホニルジフェノール、スルファピリジン、スルファエアゾール、スルファメチゾール、エチルベンゼンスルホニルクロライド、ニトロベンゼンスルホニルクロライド、ニトロベンゼンスルホニルフルオライドなどを使用することができ、これらは含水塩であっても差し支えない。
【0023】
ピリミジントリオン誘導体の具体例としては、1−ベンジル−5−フェニルピリミジントリオン、1−シクロヘキシル−5−エチルピリミジントリオン、1,3−ジメチル−5−シクロペンチルピリミジントリオン、1,3−ジメチル−5−シクロヘキシルピリミジントリオン、1,3−ジメチル−5−エチルピリミジントリオン、1,3−ジメチル−5−イソブチルピリミジントリオン、1,3−ジメチル−5−フェニルピリミジントリオン、1,3−ジメチル−5−n−ブチルピリミジントリオン、1,5−ジメチルピリミジントリオン、5−n−ブチルピリミジントリオン、5−シクロヘキシルピリミジントリオン、5−エチルピリミジントリオン、5−イソブチルピリミジントリオン、5−イソプロピルピリミジントリオン、5−フェニルピリミジントリオン、1,3,5−トリメチルピリミジントリオンなどが挙げられる。
【0024】
有機ハロゲン化合物の具体例としては、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、セタルコニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド、セチルピリミジニウムクロライド、セチルトリエチルアンモニウムブロマイド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ドミフェンブロマイド、ラウリルジメチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムアイオダイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムアイオダイド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
【0025】
アスコルビン酸としては、アスコルビン酸とその誘導体が使用でき、アスコルビン酸誘導体の具体例としては、アスコルビン酸ナトリウム、イソアスコルビン酸、イソアスコルビン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル、L−アスコルビン酸バルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸−2−リン酸エステル三ナトリウム、L−アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウムなどが挙げられる。
【0026】
有機金属化合物の具体例としては、アセチルアセトン銅、4−シクロヘキシル酪酸銅、酢酸第二銅、オレイン酸銅、アセチルアセトンマンガン、ナフテン酸マンガン、オクチル酸マンガン、アセチルアセトンコバルト、ナフテン酸コバルト、アセチルアセトンリチウム、酢酸リチウム、アセチルアセトン亜鉛、ナフテン酸亜鉛、アセチルアセトンニッケル、酢酸ニッケル、アセチルアセトンアルミニウム、アセチルアセトンカルシウム、アセチルアセトンクロム、アセチルアセトン鉄、ナフテン酸ナトリウム、レアアースオクトエートなどが挙げられる。
【0027】
前述したような歯科用組成物の硬化に適した触媒が押出し路1b内に付着せしめられている本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズル1は、少なくともモノマーを含有する液状やペースト状の歯科用組成物を押し出すための押出し器の一端に装着して使用される。この押出し器としては、注射器のように一端に吐出口が設けられている1本のシリンダの他端の開口部に押出し用のプランジャが挿入されていてそのシリンダ内に歯科用組成物が収納されている態様のものや、2本の注射器が並列した状態を成していてその一端に近接して吐出口が設けられている2本のシリンダの他端の開口部に押出し用のプランジャがそれぞれ一体を成して移動するように挿入されていてその各シリンダ内に歯科用組成物が収納されている特開平9−136023号公報「多成分カートリッジ又は分配装置に付属部品を正しく取付けるための差込式固定装置」の図3や図16に示されている態様のもののような押出し器の一端に装着して使用される。
【0028】
そして、このような押出し器によって歯科用組成物を押し出すと、本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズル1内を通って押し出されて来る歯科用組成物は、押出し路1b内に付着せしめられている触媒と接触するか又は押出し路1b内に付着せしめられている触媒と混合されて、硬化するのである。
【0029】
即ち、例えば歯科用組成物が少なくとも1個の不飽和二重結合を持つ(メタ)アクリレートモノマーとポリメチルメタクリレート等のポリマー粉末と有機ハロゲン化合物と有機金属化合物とを含む常温重合型レジンである場合に、触媒としてピリミジントリオン誘導体を押出し路1b内に付着させた本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズル1を使用すれば、1ペースト型とした常温重合型レジンを押し出すと、ペースト内の有機ハロゲン化合物と有機金属化合物とノズル内のピリミジントリオン誘導体とにより常温重合型レジンが反応して硬化するので、従来であればポリメチルメタクリレート等のポリマー粉末とメチルメタクリレートモノマー液との2つの構成で歯科医に提供されていた歯科用常温重合型レジンを1ペースト型にして歯科医に供給することができるので、歯科医は治療の際に粉末と液とを混合する手間が省けるのである。
【0030】
また、例えば歯科用組成物がフルオロアルミノシリケートガラスと重合性モノマーとを含むペーストとポリアクリル酸と水とを含むペーストとの2ペースト型のレジン強化型の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物である場合に、触媒として芳香族スルフィン酸を押出し路1b内に付着させた本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズル1を使用すれば、両ペーストを混合させながら押し出すと、フルオロアルミノシリケートガラスとポリアクリル酸との中和反応と同時に、重合性モノマーの重合反応が起こりレジン強化型の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物が硬化するので、従来であればセルロースなどの高分子化合物でマイクロカプセル化しなければ使用できなかった触媒をマイクカプセル化しなくても使用することができる上に歯科用組成物の保存安定性も向上するのである。もちろん、ノズル内での触媒の安定性をより高めるためにマイクロカプセル化した触媒を本発明に用いてもよい。
【0031】
<実施例>
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれ等実施例に限定されるものではない。
【0032】
実施例1
23℃の室内においてガラス容器中に100gのエタノールを入れ、7gのベンゾイルパーオキサイドを加え十分に撹拌した。その後、溶解しきれなかったベンゾイルパーオキサイドが底に沈むまで放置した。この上澄み液を図4に示したノズル(蜜柑の輪切りタイプ)内を通過させ、放置し乾燥させて歯科用レジンセメントに使用する本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルとした。
【0033】
実施例2
23℃の室内においてガラス容器中に100gのエタノールを入れ、12gの1−シクロヘキシル−5−エチルピリミジントリオンを加え十分に撹拌した。その後、溶解しきれなかった1−シクロヘキシル−5−エチルピリミジントリオンが底に沈むまで放置した。この上澄み液を図1に示したノズル(押出し路粗面化タイプ)内を通過させ、放置し乾燥させて歯科用常温重合型レジンに使用する本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルとした。
【0034】
実施例3
23℃の室内においてガラス容器中に100gのエタノールを入れ、7gのベンゼンスルフィン酸ナトリウムを加え十分に撹拌した。その後、溶解しきれなかったベンゼンスルフィン酸ナトリウムがベンゼンスルフィン酸ナトリウム二水和物となって底に沈むまで放置した。この上澄み液を図5に示す撹拌機構付きノズル(製品名;ミキシングチップIISSS,ジーシー社製)内を通過させ、放置し乾燥させてレジン強化型の歯科用グラスアイオノマーセメントに使用する本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルとした。
【0035】
実施例4
23℃の室内においてガラス容器中に100gのエタノールを入れ、5gのイソアスコルビン酸を加え十分に撹拌した。その後、溶解しきれなかったイソアスコルビン酸が底に沈むまで放置した。この上澄み液を図5に示す撹拌機付きノズル(製品名:ミキシングチップIISS,ジーシー社製)内を通過させ、放置し乾燥させてレジン強化型の歯科用グラスアイオノマーセメントに使用する本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルとした。
【0036】
表1に示した割合で配合した歯科用組成物の内、歯科用レジンセメント及び歯科用常温重合型レジンはジーシー社製の歯科接着用レジンセメント「リンクマックスCD」用のカートリッジ内に収納し、レジン強化型の歯科用グラスアイオノマーセメントはジーシー社製のグラスアイオノマー系レジンセメント「フジルールーティングS」用のカートリッジの先端を撹拌機構付きノズルが装着できるように改良したカートリッジ内に収納し、これらのカートリッジの一端に表1に示した組合せで実施例1〜4のノズルを設置した後、カートリッジから歯科用組成物を押出してノズル内を通過させた。
【0037】
【表1】

【0038】
その結果、実施例1のノズルを通過させた1ペーストの歯科用レジンセメントも、実施例2のノズルを通過させた1ペーストの歯科用常温重合型レジンも、実施例3及び4のノズルを通過させた2ペーストのレジン強化型の歯科用グラスアイオノマー系セメント組成物も良好に硬化した。
【0039】
このように本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルを使用すれば、ベンゾイルパーオキサイドとp−トリルジエタノールアミンとのように2つの触媒を利用して硬化させるため従来であれば2つのペーストで構成されていたレジンセメントのような歯科用組成物を1つのペーストで構成できたり、ピリミジントリオン誘導体と有機金属化合物と有機ハロゲン化合物のように3つの触媒を利用して硬化させるため従来であればピリミジントリオン誘導体と有機金属化合物を含有したポリマーと有機ハロゲン化合物を含有させたモノマーとの2つの構成であった歯科用常温重合型レジンのような歯科用組成物を1つのペーストで構成できたりするので、従来であれば2液型又は2ペースト型としてしか供給できなかった歯科用組成物を1ペースト型として歯科医に供給することができるのみならず、従来であればマイクロカプセル化しなければ安定して歯科用組成物中に配合することができなかった触媒でもマイクロカプセル化せずに安定して使用することができたりするので製品単価を下げることができ、また少なくともモノマーを含有する歯科用組成物をその内部に触媒が存在しない状態にできるため歯科用組成物の保存安定性を向上できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルの1実施例の斜視図である。
【図2】押し出される歯科用組成物が1液型又は1ペースト型である場合に好適な本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルの1実施例の縦断面図である。
【図3】押し出される歯科用組成物が1液型又は1ペースト型である場合に好適な本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルの他の実施例の斜視図である。
【図4】押し出される歯科用組成物が1液型又は1ペースト型である場合に好適な本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルの更に他の実施例の斜視図である。
【図5】押し出される歯科用組成物が2液型又は2ペースト型である場合に好適な本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズルの1実施例の一部を断面で示した側面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 本発明に係る歯科用組成物押出し用ノズル
1a 装着部
1b 押出し路
1c 吐出口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともモノマーを含有する液状やペースト状の歯科用組成物を押し出すための押出し器の一端に装着され、押し出されて来る歯科用組成物中のモノマーを重合させるための触媒がその押出し路(1b)内に付着せしめられていることを特徴とする歯科用組成物押出し用ノズル(1)。
【請求項2】
押出し路(1b)の内面に、螺旋状の溝が設けられているか、及び/又は粗面化されている、歯科用組成物が1液型又は1ペースト型用の請求項1に記載の歯科用組成物押出し用ノズル(1)。
【請求項3】
押出し路(1b)が複数の管路から構成されている、歯科用組成物が1液型又は1ペースト型用の請求項1又は2に記載の歯科用組成物押出し用ノズル(1)。
【請求項4】
押出し路(1b)内に押し出されて来る歯科用組成物を混合するための混合機構を備えている、歯科用組成物が2液型又は2ペースト型用の請求項1に記載の歯科用組成物押出し用ノズル(1)。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−44064(P2007−44064A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228417(P2005−228417)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】