説明

歯科用補綴物及び歯科用組成物

【課題】 人工の歯科用補綴物及び当該補綴物と天然歯とのバランスのとれた状態を形成すると共に、う蝕を効果的に予防することを可能とする。
なおかつ歯科治療の過程において生じる補綴物と天然歯との審美的バランスの確保、2次的なう蝕の予防を目的とする。
【解決手段】可視光領域において光触媒作用を有する成分を含む歯科用補綴物及び補綴物を得るための未加工ブロック及び、補綴後の歯科用補綴物周辺に塗布する歯科用組成物を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用補綴物並びに歯科用補綴物により補綴する歯牙又は補綴後の歯牙に被覆する歯科用被覆材及び歯科用補綴物を含む歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療時における歯牙補綴部位への補綴作業は、仮補綴を含み、数日から数週間にわたって行われることが少なくなく、その間に、仮補綴物が外れたり、最終の補綴物も外れたりすることがある。この場合は、再度削る等の処置を施した後、補綴し直すしか有効な手段が無く、患者は、補綴物が安定するまで、慎重な生活を強いられる。
更に、最終的な補綴においては、補綴の具合によって、天然歯との結合がうまくいかず、隙間ができたり、しばらくしてはずれることがあり、はずれた後は、やはり歯科医に処置してもらうしかない。この様に、歯科医の処置をタイムリーにしてもらう必要がある補綴処置は、患者によっては、しばらく放置するケースも多く、更にひどいう蝕になることも、多い。
又、歯科用補綴物は、たいていはより天然歯に近い配色をとるように処置されるが、人工的なものであるが故に、天然歯と一致した補綴物を提供されることは少ない。また、より審美性を求める場合も多く、一つの審美的に優れた人工歯を補綴するためには、少なくとも隣在歯も同様の色彩が要求される。
【0003】
【特許文献1】特開昭61−27916号公報
【非特許文献1】Kinji Okada, ET.,AL. DENKI KAGAKU,P1108-1109,1988
【特許文献2】特開2004−83489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この様に歯科用補綴物は、補綴された本人が、処置できる範囲は極めて少なく、また、好みの配色を得ようとしてもなかなか困難である。
ところで、公知技術には、歯科用殺菌材として、光触媒能を有する半導体を含む歯磨剤が提案されている。更に特定の半導体に抗う蝕作用があることが公知文献で報告されている。
しかしながら、歯磨剤の場合は、結局口腔内に残留する量が少なく、期待されるほどの抗う蝕作用は得られない。
そこで、特開2004−83489号公報には、可視光により光触媒作用を発揮する酸窒化チタンによる歯牙漂白剤が提案されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記に鑑み本発明は、歯科補綴時における、歯科被覆材として、可視光において光触媒作用を生じる物質を含む被覆材を提案し、歯牙残留性を高め、補綴物が外れた場合でも、う蝕の進行を遅らせると共に、補綴物と天然歯の境界(マージンライン)近傍からのう蝕を防止し、更に、着色成分の調整により好みの歯牙色を得ること実現するものである。
酸窒化チタンを含む補綴物及び組成物は、可視光による光触媒活性を備えており、歯牙適用においても、抗う蝕性に期待ができ、通常の装飾的使用の他、治療時の、歯牙列の損なわれた審美性の改善や、補綴物と、天然歯との接触部分における2次的なう蝕の防止、仮歯の安定性の維持も可能とする
【発明の効果】
【0006】
補綴時の歯牙に対し、2次う蝕、並びに補綴物が外れた場合のう蝕の進行を防止すると共に、補綴物と天然歯の相違を解消する。
有床義歯などの総入れ歯においては、人工的質感に対するより天然歯的な、更にはより嗜好的な装飾効果が期待できる。
光触媒作用を具現化する為には、当然、外部から光の照射を要するが、本発明では、可視光による光触媒作用が期待できるため、照明ランプ方向へ口を開けるだけで室内光の照射により十分な抗う蝕作用が実現される他、補綴物に含まれる光触媒物質に対し、被覆材の異なる光触媒物質の接触により、より微弱な光でも光触媒作用を期待することができる。
この様な、異なる光触媒物質の併存による、触媒作用の向上は、上述した先行特許公開公報にも開示されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明における光触媒物質は、可視光で光触媒作用を生じる酸窒化チタン、その他特開平9−262482号公報に記載されている可視光で光触媒作用を生じる物質が例示されるが、その他の複合酸窒化物であって、人体に害ないものであれば、その他の光触媒物質であってもよい。
又、歯科用補綴物を含むその周辺に塗布する組成物としては、酸化チタン、白金、プラチナ等の光触媒物質を含ませた物であっても良く、一般的な光触媒物質であっても、補綴物、被覆組成物として使用可能であるが、好ましくは可視光による光触媒活性があるものが好ましいのである。
更に本発明では、2以上の光触媒物質を含ませてもよく、その場合、歯科用補綴物と被覆材のそれぞれに、光触媒物質を含ませたものであっても良い。
この様に異なる光触媒物質を、含ませることにより、光触媒作用を増幅させることができるのである。
例えば、補綴物に白金(Pt)を含ませ、被覆材に酸化チタン又は酸窒化チタンを含ませることにより、酸化チタン等の電子の放出を増加させて、還元反応を増加させてより弱い光でも触媒作用が期待できるのである。尚、補綴物に当該触媒物質を含ませる場合は、よりマージンライン近傍に集中させることが好ましい。
【0008】
歯科用補綴物及び歯科用被覆材に含まれる光触媒物質の量は、0.01〜5重量%が例示される。
補綴物への添加も、同様の量が示されるが、色彩に違和感が生じない程度に抑えるのが好ましい。
補綴物へ光触媒物質を付加する為の手法としては、例えば、CAD/CAMを利用したブロック研削加工の場合、予めブロックに、当該物質を添加しておく場合と、研削加工後、その表面に当該物質、シリカ等を含むペースト状物を付着させ、再度焼成し、溶融付着させる手法等が示される。
その他の被覆材の成分としては、人体に無害なものであれば良く、湿潤剤としてはソルビトール、プロピレングリコール、キシリトール、ポリエチレングリコール、発泡剤として、アルギン酸塩、カラギーナン、アラビアゴム、場合によっては、塩化リゾチーム等の薬効成分が含まれても良い。尚、被覆材においては、より歯牙への付着が良く、長時間付着可能となるように、シアノアクリレート等を添加することが好ましい。
その他のコーテイング剤としては、ブダジェンアクリロニトリル、エステルゴム、マレイン酸樹脂、可塑剤としては、フタール酸ジブチル、フタール酸ジオクチル、リン酸トリクレジル等が例示される。
【0009】
更に本発明では、補綴物に、光触媒物質を添加する場合もある、その場合は、
配合量として、〜10重量%が例示されるが、その他の配合量であっても良い場合もある。
色素成分としては、青色 フタロシアニンブルー、群青、黄色:カドミウムイエロー、黄鉛、赤色:パラレッド、トルイジンレッド、マルーン、緑:クロームグリーン、酸化クロームグリーンなどが例示される。
塗布の手段は、ペースト状の被覆材を塗る、液体をスプレーする。固体化して貼り付ける、被せる等と行った手段が用いられ、更に、緊急的処置などにおいては、蛍光灯、白色電球、太陽光等の可視光又はより紫外に近い波長であって、人体に影響が少ない光又は可視光を出力するか、より触媒作用を促す波長の信号を出力する発光体又は、光源であって、口腔内に装着可能なものを適宜添えてもよい。
【実施例1】
【0010】
以下に本発明の実施例としての歯科用被覆材の配合例を示す。

表1
配合量(重量%)
メチルα−シアノアクリレート 30
ブダジェン−アクリロニトリル共重合体 12
ニトロセルローズ 3.2
MEK 42
酸窒化チタン 0.25
変性フェノールレジン 0.8
トルエン 22.4
色素 適量

上記配合量に従い、ニトロセルローズをMEK溶剤により溶解して液状化し、変性フェノールレジンを加えて均質化する。次にブダジェン−アクリロニトリル共重合体をトルエンにより溶解する。
これを先に作ったセルローズ溶解液と混合し、酸窒化チタン、Pt及び色素を加え、最後にメチルα−シアノアクリレートを添加する。

【0011】
更に、補綴物表面の少なくともマージンライン等の要部に剥がれにくい形で、異なる光触媒物質(例えば白金)を付着させる。白金は、高価であるため、主にマージンライン周辺に配置されるようにする。
具体的付着手法としては、完成した補綴物に、白金、シリカ等を含むスラリーを塗布して、焼成融着させる手法、予め、マージンラインに相当する部位に光触媒物質を含んだブロックを用意し、当該ブロックを、CAD/CAMにより研削加工して補綴物を得る。

本発明の被覆材は、補綴後、マージンラインを中心として、定期的な塗布を行う。間隔は、剥がれるタイミングを見計らって行われることが好ましいが、毎日、毎週程度が好ましい。更に、補綴物が、外れてしまった場合は、外れた部分に、塗布し、光源を照射することで、再度補綴するまでの暫定的な抗う蝕剤として利用される。
その際の光源は、蛍光灯などの可視光であればよいことから、照明がある場所で、単に口をあけているだけでもよいのである。
被覆材の塗布は、スプレー噴霧、刷毛等を利用した塗布などが好適に利用される。
【実施例2】
【0012】
更に本発明の歯科用補綴物であって、機械研削、切削加工を施すためのセラミックスブロックの組成の一例を示す。
表2
配合量
ネフェリンサイヤナイト 65重量%
大平長石 35重量%
酸窒化チタン 0.1〜0.5重量%
PVA 1.5重量%

表1で示す材料を前歯、奥歯等の適応歯牙に適した円柱状、方形状に圧縮成形した後、
1100度〜1150度で1時間から4時間焼成して歯牙補綴物用ブロックを形成した。
当該ブロックは、インレー、ブリッジ、クラウンとして、CAD/CAMを利用した計測加工装置、その他のミリングマシンにより研削、切削加工され歯科用補綴物を得る。

当該補綴物は、可視光による光触媒作用によって天然歯より審美性が良くなりすぎ、目立ってしまう場合は、表1で示す歯科用被覆材を隣在歯周囲に塗布し、前歯として一様で良好な審美性を与える。
【実施例3】
【0013】
次に硬化性を有する歯科用補綴物の一例を示す。
α−リン酸三カルシウム99.99重量%及び酸窒化チタン0.01重量%よりなる粉末100gに、精製水96重量%及びクエン酸4重量%よりなる液剤40mlを混練して得られる硬化性組成物を補綴物として使用する。
仮の補綴物とする場合は、白色光、赤色光等の携行電灯により、補綴物を中心に照らすことで、仮補綴状態を安定化させる。
万が一、外れても、外れた補綴物を、再度埋め込み、光を照射することで、治療部位のう蝕の進行を阻止することができる。
本実施例におけるα−リン酸三カルシウムは、その他ハイドロキシアパタイト、リン酸四カルシウム等が例示される。
【産業上の利用可能性】
【0014】
抗う蝕性を具備し、審美性が良好な歯科用補綴物を提案すると共に、補綴後の歯牙に対し、う蝕の予防を行うと共に外観の調整を可能とする後処理的な被覆材を提案する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒作用を有する成分を含む歯科用補綴物。
【請求項2】
前記歯科補綴物が、光触媒作用を有するセラミックスブロックに機械的加工を施したものである請求項1に記載の歯科用補綴物。
【請求項3】
歯科用補綴物を補綴する歯牙表面、補綴物表面又は天然歯を被覆する被覆材の主成分が光触媒物質である歯科用組成物。
【請求項4】
前記成分を含む補綴物に対し、前記補綴物表面を被覆する被覆材であって、前記補綴物の光触媒物質とは異なる光触媒物質を含む歯科用組成物。
【請求項5】
前記光触媒成分が酸窒化チタン等の可視光で光触媒作用を有するものである請求項1,2、3、4に記載の歯科用補綴物及び歯科用組成物。