説明

歯科研磨用組成物

【課題】 陶材,金属またはレジン製の歯科充填物や歯冠修復物の表面研磨において、ラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を含まず人体に対して安全であり、水溶性で口腔内での水洗時の流れが良く、研磨時の飛散の少ないペースト状の歯科研磨用組成物を提供する。
【解決手段】 平均粒子径が4〜80nmの、シリカ微粉末,シリカ−アルミナ微粉末,シリカ−ジルコニア微粉末から選ばれる少なくとも1種の無機微粉末:0.5〜6重量%、平均粒子径が0.1〜10μmの無機研磨粒子:10〜50重量%、水溶性液体:10〜60重量%水溶性のセルロース系増粘剤:0.05〜2重量%、水:5〜60重量%、から成ることを特徴とするペースト状の歯科研磨用組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は陶材,金属またはレジン製の歯科充填物や歯冠修復物の表面研磨に適用し、人体に対して安全であり、研磨時の飛散が少なく、簡単に水で洗い流すことができるペースト状の歯科研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科充填材や歯冠修復物は充填後や形態修正後に表面研磨を行う必要がある。研磨が不十分であったり研磨面に大きな傷が残っていたりすると舌触りが悪く不快に感じるばかりでなく着色や歯垢付着の原因となってしまう。そのため研磨は研磨粒子を含む研磨材で最終的に艶出し研磨まで行い表面をできるだけ滑沢にする必要がある。
【0003】
最終仕上げとして用いる艶出し用の研磨材としては、研磨砥粒をワックスなどに分散したもの、即ち歯科技工用の研磨材が多く使用されている。しかし、この研磨材はワックスを媒体として使用しているので使用後の水洗が非常に困難であった。従って特に口腔内で直接使用されることが多い歯科用レジン材料に対しては、ワックスを媒体とする研磨材は口腔内での水洗い困難なことから適さないという問題がある。
【0004】
従来から、研磨剤粉末を主成分とする研磨クレンザーが存在している(例えば、特許文献1参照。)。しかし、このクレンザーを水に溶きペーストとして使用すると、特にロビンソンブラシなどを使用した場合にペーストが飛散し易いので術者や患者の顔や衣類に飛び跳ねてしまうといった問題があった。なお、飛散を抑えるために水の配合量を抑えたり単に増粘剤を配合しても飛散は抑えられず、却って操作性や水洗時の流れが非常に悪くなってしまい使用後に水で洗い流すことが困難になってしまうという問題があった。
【0005】
研磨時の操作性や水洗をし易くするためにラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を配合しているものも存在する(例えば、特許文献1,2、3参照)。しかし、界面活性剤は経皮吸収作用が高く発ガン性も指摘されているため、極少量でも口腔内で使用される研磨材に用いるべきではない。
【0006】
【特許文献1】特開昭52−133306号公報
【特許文献2】特開昭54−112907号公報
【特許文献3】特開平8−71088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、陶材,金属またはレジン製の歯科充填物や歯冠修復物の表面研磨において、ラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を含まず人体に対して安全であり、水溶性で口腔内での水洗時の流れが良く、研磨時の飛散の少ないペースト状の歯科研磨用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は前記課題を解決するために鋭意検討した結果、水及び水溶性液体に水溶性のセルロース系増粘剤と特定の無機微粉末とを増粘材として併用した媒体に無機研磨粒子を配合した歯科研磨用組成物とすることで前記課題を解決することが可能であることを究明して本発明を完成した。
【0009】
即ち本発明は、平均粒子径が4〜80nmの、シリカ微粉末,シリカ−アルミナ微粉末,シリカ−ジルコニア微粉末から選ばれる少なくとも1種の無機微粉末:0.5〜6重量%、平均粒子径が0.1〜10μmの無機研磨粒子:10〜50重量%、水溶性液体:10〜60重量%水溶性のセルロース系増粘剤:0.05〜2重量%、水:5〜60重量%、から成ることを特徴とするペースト状の歯科研磨用組成物である。
【0010】
また本発明は、使用するセルロース系増粘材がカルボキシメチルセルロースナトリウム,ヒドロキシプロピルセルロース,セルロースエステルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、水溶性液体としてはエタノール,1−プロパノール,2−プロパノール,2−メチル−2−プロパノール,グリセリン,ジグリセリン,ポリグリセリン,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,ポリプロピレングリコール,ソルビトール,マンニトール,エチレングリコール,ジエチレングリコール,ポリエチレングリコール,ポリエチレングリコールモノメチルエーテルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましいペースト状の歯科研磨用組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る歯科研磨用組成物は、人体への悪影響が懸念される界面活性剤を含まない歯科研磨用組成物であって、水溶性であり口腔内での水洗時の流れが良く、研磨時の飛散の少ない優れたペースト状の歯科研磨用組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いる平均粒子径0.1〜10μmの無機研磨粒子は、平均粒子径が0.1μmより小さいと十分な研磨の効果を得られず、10μmを超える粒子径では研磨の効果を得られないと同時に研磨の操作性も低下してしまう。また、この無機研磨粒子は組成物中に10〜50重量%配合され、より好ましくは10〜30重量%である。10重量%未満では研磨効率が落ちてしまい、50重量%を超えて配合すると組成物の粘度が高くなり過ぎるので適さない。
【0013】
無機研磨粒子としてはダイヤモンド粒子,酸化亜鉛粒子,アルミナ粒子などが研磨を行う対象に応じて自由に使用可能であるが、歯科用レジンの中でも特に歯科用硬質レジンに対して十分な研磨が行えるダイヤモンド粒子を用いることが好ましい。
【0014】
本発明に用いる平均粒子径が4〜80nmの、シリカ微粉末,シリカ−アルミナ微粉末,シリカ−ジルコニア微粉末から選ばれる少なくとも1種の無機微粉末は、後述する水溶性のセルロース系増粘剤と組み合わせることにより歯科研磨用組成物に適切な操作性を与え、水洗時の流が良いと同時に研磨時の飛散が少ないという歯科研磨用組成物を得るために配合する。このシリカ微粉末,シリカ−アルミナ微粉末,シリカ−ジルコニア微粉末から選ばれる少なくとも1種の無機微粉末は平均粒子径が4〜80nmのであることが必要であり、4nm未満では組成物に十分な粘度、即ち操作性を与えることができず、80nmを超える粒子径では研磨時の飛散を抑えることができなくなる。
【0015】
また、平均粒子径が4〜80nmの、シリカ微粉末,シリカ−アルミナ微粉末,シリカ−ジルコニア微粉末から選ばれる少なくとも1種の無機微粉末は、組成物中に0.5〜6重量%配合され、より好ましくは1〜4重量%である。0.5重量%未満では十分な増粘効果が得られず、また組成物の飛散を抑えられない。6重量%を超えて配合すると組成物の粘度が高くなり過ぎて使用時の操作性が低下する。
【0016】
水溶性のセルロース系増粘剤は、前述の特定の無機微粉末と併用することにより前記した優れた特性を組成物に与えることが可能である。本発明に係る歯科研磨用組成物において水溶性のセルロース系増粘剤は、その特性を最も発揮することが期待できることから、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースエステルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
また水溶性のセルロース系増粘剤は、組成物中に0.05〜2重量%配合され、より好ましくは0.05〜1重量%である。0.05重量%未満ではその効果を得られず使用時に組成物が飛散し易くなり、2重量%を超えて配合すると組成物の粘度が高くなり研磨時の操作性が悪化し、更に水洗時の流れも悪くなるので適さない。
【0018】
水は組成物の水洗時の流れを良くする効果があり、また、前記水溶性のセルロース系増粘剤に増粘作用を持たせるために配合する。本発明において水は組成物中に5〜60重量%配合され、好ましくは10〜50重量%である。5重量%未満では水洗時の流れが悪くなり、また水溶性のセルロース系増粘剤に増粘作用を与える効果が低くなる。一方、60重量%を超えて配合すると他の成分の調整しても組成物の研磨時の飛散を抑えることができなくなる。
【0019】
水溶性液体は、水と共に使用することで歯科研磨用組成物に適度な粘性を与え研磨時の操作性を向上させる効果を持つ。水溶性液体は特に制限無く使用可能であるが、人体に害を及ぼさず常温で液状である物質としてエタノール,1−プロパノール,2−プロパノール,2−メチル−2−プロパノール,グリセリン,ジグリセリン,ポリグリセリン,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,ポリプロピレングリコール,ソルビトール,マンニトール,ポリエチレングリコール,ポリエチレングリコールモノメチルエーテルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、特にグリセリン,プロピレングリコール,ポリプロピレングリコールの少なくとも1種であると界面活性剤を用いなくても水洗時の流れが良く、また研磨時の飛散を抑える効果も高いのでより好ましい。
【0020】
本発明において水溶性液体は組成物中に10〜60重量%配合され、好ましくは20〜60重量%である。10重量%未満では研磨時の飛散が抑えられず、60重量%を超えて配合すると研磨の効率が劣るので適さない。
【0021】
本発明に係る歯科研磨用組成物には、その特性に影響を与えない範囲で香料,甘味料,保存剤,着色料などの添加物を任意に加えても良いのは勿論である。
【実施例】
【0022】
実施例1〜4及び比較例1〜3の配合を表1に示す。
【0023】
比較例4,5
比較例4として、流動性を高めて研磨時の操作性を高めた市販の歯科用研磨材(S社製)を使用した。比較例5として組成物の粘性を高めて飛散を抑えた市販の歯科用研磨(C社製)を使用した。
【0024】
実施例1〜4及び比較例1〜4の歯科研磨用組成物の研磨性、飛散、水洗時の流れ、組成物の流動性について試験を行った。
【0025】
<研磨性の評価>
充填修復用コンポジットレジン(商品名:ソラーレ,ジーシー社製)にて円盤状の硬化体(直径15mm、高さ1.5mm)を作製し、硬化体表面を耐水研磨紙#600で研磨した後、各実施例及び比較例の歯科研磨用組成物を0.05g塗布し、ロビンソンブラシ(バッファロー社製)にて研磨時間:30秒間、回転数:5000rpmの条件で研磨を行った。この試験片を水洗し、光沢度計(製品名:グロスメーターVG2000,日本電色工業社製)にて光沢度の測定を行い、下記に示す基準で研磨性の評価を行った。結果を纏めて表1に示す。
光沢度70%を超える ◎
光沢度55〜70% ○
光沢度35〜55% △
光沢度35%未満 ×
【0026】
<飛散の評価>
各実施例及び比較例の歯科研磨用組成物を紙上それぞれ0.05g出し、5000rpmで回転するロビンソンブラシ(バッファロー社製)を10秒間押し当てた。そのとき、目視において紙上に飛び散ったと確認できる箇所にマークを付け、そのマーク数を飛散数として下記の基準で評価を行った。結果を表1に纏めて示す。
4個以下 ◎
5〜15個 ○
16〜30個 △
31個以上 ×
【0027】
<水洗時の流れの評価>
各実施例及び比較例の歯科研磨用組成物を歯科用練和紙(No.22、ジーシー社製)上に0.3g出し、ガラス板で押して半径約1cmの円形になるよう押し広げた。この練和紙上に水道水を研磨材に直接あたらないように同条件で流し、ペーストの除去性について下記の基準にて評価を行った。結果を表1に纏めて示す。
研磨材が完全に洗い流れる ◎
研磨材の残りが3分の1以下 ○
研磨材の残りが2分の1以下 △
研磨材の残りが2分の1より多い ×
【0028】
<組成物の流動性の評価>
各実施例及び比較例の歯科研磨用組成物を23℃の恒温暗室に50分間放置した後、内径10mmのガラスチューブに0.5cc充填し、セロファンを敷いたガラス板上に押し出し組成物上にセロファンを乗せる。この状態でガラス板を含めた重量840ggの荷重を試料に対して垂直に30秒間加え、荷重を除去した後広がった試料の平行接線間の最大部と最小部の寸法を測定し値を下記の基準で評価した。結果を表1に纏めて示す。
平均値45mm以上 ◎
平均値40〜45mm ○
平均値35〜40mm △
平均値35mm未満 ×
【0029】
【表1】

【0030】
CMC:カルボキシメチルセルロースナトリウム(商品名:セロゲンHF−600F,第一工業製薬社製)
粉末1:シリカ微粉末(商品名:A200,日本アエロジル社製,平均粒径16nm)
粉末2:シリカ−アルミナ微粉末(商品名:MOX170,日本アエロジル社製,平均粒径15nm)
ダイヤモンド砥粒:(商品名:ジェネシスKMm,松本油脂製薬社製,平均粒径2μm)
【0031】
各実施例から明らかなように本発明に係る歯科研磨用組成物は、人体への悪影響が懸念される界面活性剤を含まず、水洗時の流れが良く、研磨時の飛散の少ない優れた歯科研磨用組成物であることが分かる。それに対して比較例1は水溶性のセルロース系増粘剤を多く配合するので水洗時の流れと流動性が悪く、比較例2は水溶性のセルロース系増粘剤を使用していないので飛散が多い。比較例3はシリカ微粉末,シリカ−アルミナ微粉末,シリカ−ジルコニア微粉末から選ばれる少なくとも1種の無機微粉末を含まないので飛散が多い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が4〜80nmの、シリカ微粉末,シリカ−アルミナ微粉末,シリカ−ジルコニア微粉末から選ばれる少なくとも1種の無機微粉末:0.5〜6重量%、
平均粒子径が0.1〜10μmの無機研磨粒子:10〜50重量%、
水溶性液体:10〜60重量%
水溶性のセルロース系増粘剤:0.05〜2重量%、
水:5〜60重量%、
から成ることを特徴とするペースト状の歯科研磨用組成物。
【請求項2】
セルロース系増粘材が、カルボキシメチルセルロースナトリウム,ヒドロキシプロピルセルロース,セルロースエステルから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のペースト状の歯科研磨用組成物。
【請求項3】
水溶性液体が、エタノール,1−プロパノール,2−プロパノール,2−メチル−2−プロパノール,グリセリン,ジグリセリン,ポリグリセリン,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,ポリプロピレングリコール,ソルビトール,マンニトール,ポリエチレングリコール,ポリエチレングリコールモノメチルエーテルから選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載のペースト状の歯科研磨用組成物。

【公開番号】特開2007−91636(P2007−91636A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283157(P2005−283157)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】