説明

歯車伝動装置用同軸複合歯車の製造方法

【課題】第一の歯車は第二の歯車に比して第一の作動特性に於いて優れており、第二の歯車は第一の歯車に比して第二の作動特性に於いて優れているような少なくとも2つの歯車を同軸に重ね合わせた歯車による歯車伝動装置に於いて、第一と第二の歯車の歯形の相対的差異に製作誤差が生ずることにより性能不良や騒音、振動が発生することを抑制する。
【解決手段】第一の歯車の素材および前記第二の歯車の素材を同軸に保持し、第一および第二の歯車の対応する歯を同時に加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに噛み合わされた駆動側歯車と被駆動側歯車の少なくとも一方が少なくとも2つの歯車を同軸に重ね合わせた同軸複合歯車である歯車伝動装置の製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
互いに噛み合わされた駆動側歯車より被駆動側歯車へ回転力を伝達する歯車伝動装置に於いて、噛合いのバックラッシュの開閉により生ずる打音に起因する騒音を抑制すべく、駆動側歯車と被駆動側歯車の少なくとも一方にバックラッシュの開閉を抑えるように位相が主歯車に対し僅かにずらされるか、歯幅が主歯車より僅かに大きくされた補助歯車を、主歯車に同軸に重ね合わせることが従来より知られている。またそのように歯幅が主歯車より僅かに大きくされた補助歯車を特に環状歯車とし、主歯車のボス部の周りに弾性体の環を介して半径方向に偏倚可能に遊嵌することが下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-75856
【0004】
一方、下記の特許文献2には、上記の如くバックラッシュの開閉を抑えるよう互いに位相をずらせて同軸に複合された2つの歯車を、部品点数の削減のために、一体成形することが記載されている。更に、下記の特許文献3には、互いに位相をずらせて同軸に複合された状態に一体成形される2つの歯車のうちの主歯車の部分をポリオキシエチレン等の高剛性の硬質樹脂により形成し、補助歯車の部分をポリウレタン等の低剛性の軟質樹脂により形成することが記載されている。
【0005】
【特許文献2】特開2004-108436
【特許文献3】特開2002-181162
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
歯車の歯は、互いに噛み合う歯車の間に伝達される回転の等速性を保つ必要があることから、互いに噛み合う歯の歯面の間には噛合いの進行に伴って滑りが生じる。また歯車の歯は、互いに噛み合う歯車のそれぞれの一つの歯どうしの接触が離れないうちに、それぞれの歯車の次の一つの歯どうしの接触が始まるように、互いに噛み合う歯の接触は一部重複して生ずるように歯形が設計されている。歯面の間に生ずる滑り接触は摩擦損失をもたらすので、かかる摩擦損失を減らし、歯車間の回転力の伝達効率を高める上からは、歯の接触の重複の度合はできるだけ低く抑えられるのが好ましい。しかし、歯車伝動装置の許容伝達トルクを高める観点からは、歯の接触の重複の度合はできるだけ高くされるのが好ましい。従って、歯車伝動装置に於いては、許容伝達トルクと伝達効率とは相互に背反する作動特性である。しかし、特に車輌用歯車伝動装置の如く作動負荷が大きく変動する装置に於いては、許容伝達トルクと伝達効率の間の優先順位は、装置の作動負荷の大小に応じて互いに反転することが考えられるので、歯車伝動装置の全作動域についてみれば、作動域に応じて許容伝達トルクと伝達効率の間の優先順位を入れ替えることにより、歯車伝動装置の総合的性能を更に向上させることができると考えられる。
【0007】
また歯車伝動装置にとっては、その作動に於ける静粛性も一つの重要な作動特性となる。機械装置の騒音や振動には種々の周波数のものがあり、また周囲の構造物との共振も影響するので、静粛性と許容伝達トルク或いは伝達効率の間に、常に定まった同調或いは背反の関係はないが、個々の歯車伝動装置についてみれば、特に車輌用歯車伝動装置の如く広い作動域にわたって作動状態が変化する場合には、歯車伝動装置の総合的性能を更に高めることができるような、作動状態の変化に応じた静粛性と許容伝達トルク或いは伝達効率の間の同調或いは背反の関係が見出せる可能性がある。
【0008】
上記の事項に着目し、特に車輌の駆動系に於ける歯車伝動装置の如く、その作動域が大きく変動する場合を念頭に於いて、歯車伝動装置の許容伝達トルク、伝達効率、静粛性等に基づく総合的作動特性を広い作動域に対して向上させるべく、互いに噛み合わされた駆動側歯車より被駆動側歯車へ回転力を伝達する歯車伝動装置として、駆動側歯車と被駆動側歯車の少なくとも一方を第一および第二の少なくとも2つの歯車を同軸に重ね合わせた歯車とし、前記第一の歯車は前記第二の歯車に比して第一の作動特性に於いて優れており、前記第二の歯車は前記第一の歯車に比して第二の作動特性に於いて優れており、前記第一の作動特性が前記第二の作動特性に優先する作動時と前記第二の作動特性が前記第一の作動特性に優先する作動時とで前記第一および第二の歯車の回転力伝達に関与する度合を相対的に変更することが考えられ、このことが本件出願人と同一の出願人の出願に係る特願2009−51769に於いて特許請求されている。
【0009】
上記の如く、第一の歯車は第二の歯車に比して第一の作動特性に於いて優れ、第二の歯車は第一の歯車に比して第二の作動特性に於いて優れているということは、第一と第二の歯車とで、歯形に相対的な違いがあることを意味するが、このための歯形の相対的な違いは、寸法的には微差であるため、そのように歯形に相対的な微差がある第一と第二の歯車の回転力伝達に関与する度合の相対的変更を歯車伝動装置の作動中に伝達トルクの変化等に応じて滑らかに起こさせるには、第一と第二の歯車の対応する歯の歯形の相対的差異が高精度に仕上げられていることが要求される。さもないときは、第一と第二の歯車の回転力伝達に関与する度合の相対的変更が設計通りには起こらず、また第一および第二の歯車の歯が噛合い相手方歯車の歯に接触し始め或はその接触が終了する時点に生ずるばらつきにより、唸りのような騒音や振動が生ずる虞れがある。
【0010】
本発明は、上記の如き特異な歯車伝動装置に特異な事情により生ずる虞れのある性能不良や騒音、振動の発生を抑制することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するものとして、本発明は、互いに噛み合わされた駆動側歯車と被駆動側歯車の少なくとも一方は第一および第二の少なくとも2つの歯車を同軸に重ね合わせた歯車であり、前記第一の歯車は前記第二の歯車に比して第一の作動特性に於いて優れており、前記第二の歯車は前記第一の歯車に比して第二の作動特性に於いて優れており、前記第一の作動特性が前記第二の作動特性に優先する作動時と前記第二の作動特性が前記第一の作動特性に優先する作動時とで前記第一および第二の歯車の回転力伝達に関与する度合が相対的に変更されるようになっている歯車伝動装置の前記第一および第二の歯車を製造する方法にして、前記第一の歯車の素材および前記第二の歯車の素材を同軸に保持し、前記第一および第二の歯車の対応する歯を同時に加工することを特徴とする歯車製造方法を提案するものである。
【0012】
前記第一および第二の歯車は一体の素材よりなっていてよい。
【0013】
或いはまた、前記第一の歯車は第一の素材よりなり、前記第二の歯車は第二の素材よりなり、前記第一および第二の素材は第三の素材により互いに結合されてもよい。
【0014】
前記一体の素材または前記第三の素材は前記第一の歯車と前記第二の歯車の間に両者間の中心軸線周りの弾性捩じりを許容する連結部を形成するよう加工されてよい。
【0015】
前記連結部は前記第一および第二の歯車と同心の環状に加工されてよい。
【0016】
前記環状の連結部にはその環に沿って隔置された複数個の孔が開けられてよい。
【発明の効果】
【0017】
上記の如く、互いに噛み合わされた駆動側歯車と被駆動側歯車の少なくとも一方は第一および第二の少なくとも2つの歯車を同軸に重ね合わせた歯車であり、前記第一の歯車は前記第二の歯車に比して第一の作動特性に於いて優れており、前記第二の歯車は前記第一の歯車に比して第二の作動特性に於いて優れており、前記第一の作動特性が前記第二の作動特性に優先する作動時と前記第二の作動特性が前記第一の作動特性に優先する作動時とで前記第一および第二の歯車の回転力伝達に関与する度合が相対的に変更されるようになっている歯車伝動装置の前記第一および第二の歯車の製造に当たって、前記第一の歯車の素材および前記第二の歯車の素材を同軸に保持し、前記第一および第二の歯車の対応する歯を同時に加工すれば、第一および第二の歯車の歯の仕上がり精度、特に相対的仕上がり精度を高めることができる。
【0018】
前記第一および第二の歯車が一体の素材よりなっていれば、第一の歯車の素材と第二の歯車の素材を同軸に保持することは当初から自ずと達成される。
【0019】
前記第一の歯車は第一の素材よりなり、前記第二の歯車は第二の素材よりなり、前記第一および第二の素材が第三の素材により互いに結合されれば、歯形の仕上げに際して第一の歯車の素材および第二の歯車の素材を同軸に保持することが容易に達成される。
【0020】
前記一体の素材または前記第三の素材が前記第一の歯車と前記第二の歯車の間に両者間の中心軸線周りの弾性捩じりを許容する連結部を形成するよう加工されれば、伝達トルクの大小に応じて第一およぶ第二の歯車が回転力伝達に関与する度合を相対的に変更することを、伝達トルクの増減に応じて自動的に行わせることができる。
【0021】
この場合、前記連結部が前記第一および第二の歯車と同心の環状に加工されれば、第一と第二の歯車の間の中心軸線周りの弾性捩じりの捩じり角をより大きい値まで許容することができ、かかる第一および第二の歯車を用いた歯車伝動装置の設計可能範囲が広がる。更に、前記環状の連結部にその環に沿って隔置された複数個の孔が開けられれば、その孔の寸法、形状、個数等により第一と第二の歯車の間の中心軸線周りの弾性変形のばね定数を調節することができ、伝達トルクの大小に応じて第一および第二の歯車が回転力伝達に関与する度合を相対的に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を車輌の駆動系に於ける歯車伝動装置に適用した一つの実施の形態を駆動側歯車と被駆動側歯車の歯の噛合い部について示す概略図である。この場合、第一の作動特性は許容伝達トルクであり、第二の作動特性は伝達効率であって、図示の状態は伝達トルクが比較的低い作動状態にあり、第二の作動特性である伝達効率が第一の作動特性である許容伝達トルクより優先される作動状態にある。
【図2】図1に示す歯車伝達装置に於いて、駆動側歯車より被駆動側歯車に伝達されるトルクが増大し、第一の作動特性である許容伝達トルクが第二の作動特性である伝達効率より優先される作動状態になったときの駆動側歯車と被駆動側歯車の歯の噛合い部を示す概略図である。
【図3】第一および第二の歯車が一体の素材よりなる同軸複合歯車が噛合いの相手方歯車と噛み合わされている車歯車伝達装置の一例を示す一部縦断面による概略図である。
【図4】第一の歯車は第一の素材よりなり、第二の歯車は第二の素材よりなり、第一および第二の素材が第三の素材により互いに結合されている同軸複合歯車が噛合いの相手方歯車と噛み合わされている車歯車伝達装置の一例を素材の結合の前後の状態について示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に於いて、10は駆動側歯車であり、12は被駆動側歯車であって、駆動側歯車10が矢印Aの方向に回転することにより被駆動側歯車12が図示の如き歯の噛合い部を経て矢印Bの方向に駆動されるようになっている。図示の例では、駆動側歯車10が同軸に重ね合わされた2つの歯車10Aと10Bよりなっている。図示の状態は、伝達トルクが比較的低い状態であり、図示の例では、歯車10Aの歯10A−1、10A−2等の方が歯車10Bの歯10B−1、10B−2等より噛合いの進み側に偏倚していて、歯10A−1、10A−2等のみが歯車12の歯12−1、12−2等と接触している。
【0024】
歯車10Aの歯10A−1、10A−2等と歯車12の歯12−1、12−2等との接触は、常時少なくとも1組が接触し、それに加えて歯車10または12が1回転する360度中の或る割合の回転角αの間だけ2組の歯の同時接触が生ずる。ここでα/360を「噛合いの重複率」と呼ぶことにすれば、歯10Aと歯12の噛合いの重複率は1以上であって1に比較的近い或る値とされている。これは歯10Aと歯12の歯形の相対的設計により定まる。
【0025】
図2は、図1に示す状態より伝達トルクが増大し、歯車12の歯12−1、12−2等に対し歯車10Bの歯10B−1、10B−2等が接触するようになった状態を示す。歯車10Bの歯10B−1、10B−2等の歯形はその湾曲度が歯車10Aの歯10A−1、10A−2等の湾曲度より小さく、歯10B−1、10B−2等と歯12−1、12−2等の間に生ずる接触の重複の度合は、歯10A−1、10A−2等と歯12−1、12−2等の間に生ずる接触の重複の度合より大きく、即ち、歯10Bと歯12の噛合いの重複率は、歯10Aと歯12の噛合いの重複率より大きくされている。これもまた歯10Bと歯12の歯形の相対的設計により定まる。
【0026】
従って、駆動側歯車から被駆動側歯車への回転力の伝達が、図1に示す如く歯車10Aと歯車12の噛合いにより行われているときと、図2に示す如く歯車10Aおよび10Bと歯車12の噛合いにより行われているときとを比較すれば、図1に示す作動状態は図2に示す作動状態に比して、伝達効率に於いては優れているが、許容伝達トルクに於いては劣っており、図2に示す作動状態は図1に示す作動状態に比して、伝達効率に於いては劣るが、許容伝達トルクに於いては優れている。
【0027】
図3は、図1および図2について上に説明した如く、歯車12との噛合いに於ける重複率が異なる歯車10Aと10Bとが一体の素材より形成され、且つ駆動側歯車10より被駆動側歯車12への回転力伝達に歯車10Bが関与する度合を、歯車10Aが関与する度合に対比して、伝達トルクの増大に応じて相対的に増大させることを、歯車10Aと10Bの間に形成された連結部10Cの弾性捩じりにより自動的に行わせる歯車伝動装置の一つの実施の形態を示す一部縦断面による概略図である。図3に於いて、図1および2に示す部分に対応する部分は図1および2に於けると同じ符号により示されている。尚、図示の例では、被駆動側歯車12は、全体としては一つの歯車であるが、環状溝14により仕切られて、歯車10Aと噛合う歯車部12Aと、歯車10Bと噛合う歯車部12Bとに分けられている。
【0028】
この場合、歯車10Aと10Bとは一体の素材よりなっており、図には示されていない歯切り機械により歯車10Aと10Bの対応する歯は同時に加工される。歯車10は全体として環状であり、歯車10Bの部分にてのみインナスプライン16により回転軸18のアウタスプライン20に嵌合し、歯車10Aの部分および連結部10Cは回転軸16の周りに遊嵌されている。連結部10Cの部分は歯車10Aと10Bと同心の環状であり、且つその環に沿って隔置された複数個の孔22が開けられている。連結部10Cが捩じられていない状態にて、歯車10Aは歯車10Bに対し噛合い位相の進み側に偏倚しており、歯車10Aは連結部10Cを介して回転力伝達に関与するようになっている。かかる構成によれば、伝達トルクが低い間は、歯車10Bに対し噛合い位相の進み側に偏倚した状態にある歯車10Aのみにより歯車12が駆動され、伝達トルクの増大に応じて連結部10Cが弾性的に捩じれ、それに応じて歯車10Bに対する歯車10Aの噛合い位相の進みが減少し、伝達トルクの増大に応じて歯車10Bを回転力伝達により大きく関与させる制御を、連結部10Cの弾性捩じれ作用によって自動的に行わせることができる。この場合、伝達トルクが所定値以下では歯車10Bは歯車12に接触せず、歯車10Bの回転力伝達に関与する度合が零であれば、伝達トルクが所定値以下の低い状態であって、許容伝達トルクの大きさには問題がなく、伝達効率の方を最大限に優先させた方が好ましい作動時に、歯車10Aと歯車10Bの回転力伝達に関与する配分の度合を100%歯車10Aの側に偏倚させることができる。
【0029】
上記の通り、歯車12は環状溝14により歯車部12Aと歯車部12Bと分かれているが、歯車としては一つの歯車であり、その各歯は環状溝14を跨いで一つの歯として加工されてよい。一方、歯車10Aと歯車10Bとは、図1および2について説明した通り、互いに異なる歯形のものであるが、その間の差異は両歯形の間の相対的な差異であり、且つ寸法的には微差である。そこで、図3に示す如く歯車10Aと歯車10Bが一体の素材よりなり、歯車10Aと歯車10Bとがその間に所定の相対的に異なる歯形を呈し且つその間に所定の噛合い位相差を呈するように同時に加工されれば、図1および2について説明した如き歯車12に対する歯車10Aと歯車10Bの噛合いの差を高精度に実現する同軸複合歯車10を得ることができる。
【0030】
図4は、図1および図2について上に説明した如く、歯車12との噛合いに於ける重複率が異なる歯車10Aと10Bが、それぞれ第一および第二の素材よりなり、それら第一および第二の素材が第三の素材により互いに結合された形態にて構成され、且つ駆動側歯車10より被駆動側歯車12への回転力伝達に歯車10Bが関与する度合を、歯車10Aが関与する度合に対比して、伝達トルクの増大に応じて相対的に増大させることを、歯車10Aと10Bの間に形成された連結部10Cの弾性捩じりにより自動的に行わせる歯車伝動装置の一つの実施の形態を、素材の結合の前後の状態について示す概略縦断面図である。図4に於いても、図1および2に示す部分に対応する部分は図1および2に於けると同じ符号により示されている。
【0031】
この場合、歯車10Aおよび歯車10Bはそれぞれ個別の素材よりなるが、歯車10Aおよび歯車10Bはそれぞれに設けられたインナスプライン24および26にて連結部材28のアウタスプライン30および32に嵌合されることにより、連結部材28を介して互いに一体となるよう連結されている。連結部材28は、アウタスプライン32にて歯車10Bと連結された部分にてのみインナスプライン34により回転軸36のアウタスプライン38に嵌合し、連結部材28の中間部40およびアウタスプライン30にて歯車10Aと連結された部分は、回転軸36の周りに遊嵌されている。連結部材28の中間部40は歯車10Aと10Bと同心となる環状であり、且つその環に沿って隔置された複数個の孔42が開けられている。
【0032】
この場合にも、連結部材28が捩じられていない状態にて、歯車10Aは歯車10Bに対し噛合い位相の進み側に偏倚しており、歯車10Aは連結部材28の中間部40を介して回転力伝達に関与するようになっている。かかる構成によっても、伝達トルクが低い間は、歯車10Bに対し噛合い位相の進み側に偏倚した状態にある歯車10Aのみにより歯車12が駆動され、伝達トルクの増大に応じて連結部材28の中間部40が弾性的に捩じられ、それに応じて歯車10Bに対する歯車10Aの噛合い位相の進みが減少し、伝達トルクの増大に応じて歯車10Bを回転力伝達により大きく関与させる制御を、連結部材28の中間部40の弾性捩じれ作用によって自動的に行わせることができる。またこの場合にも、伝達トルクが所定値以下では歯車10Bは歯車12に接触せず、歯車10Bの回転力伝達に関与する度合が零であれば、伝達トルクが所定値以下の低い状態であって、許容伝達トルクの大きさには問題がなく、伝達効率の方を最大限に優先させた方が好ましい作動時に、歯車10Aと歯車10Bの回転力伝達に関与する配分の度合を100%歯車10Aの側に偏倚させることができる。
【0033】
図4に示す実施の形態に於いても、歯車10Aと歯車10Bとは、図1および2について説明した通り、互いに異なる歯形のものであるが、その間の差異は両者間の相対的な差異であり、且つ寸法的には微差である。そこで、図4に示す如く、歯車10Aと10Bがそれぞれ第一および第二の素材よりなり、これら第一および第二の素材が別素材よりなる連結部材28により互いに結合される場合には、例えば図4の左半分に示す如く、歯車10Aおよび10Bと連結部材28とを個別に準備するに当たって、歯車10Aおよび10Bの歯は仕上げ歯切り切削のための削り代が残された荒削りとしておき、この段階で歯車10Aと10Bとを連結部材28にて一体に結合し、その上で、歯車10Aと歯車10Bとがその間に所定の相対的に異なる歯形を所定の噛合い呈し且つその間に所定の位相差を呈するように同時に仕上げ加工されれば、図1および2について説明した如き歯車12に対する歯車10Aと歯車10Bの噛合いの差を高精度に実現する同軸複合歯車10を得ることができる。
【0034】
以上に於いては本発明をいくつかの実施の形態について詳細に説明したが、本発明がこれらの実施の形態にのみ限られるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施の形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。例えば、歯車10Aおよび10Bの連結部材28との結合は焼き嵌め或は溶接によって行われてもよく、また図3の連結部10C或は図4の連結部材中間部40の長さやそこに開けられた孔22や42の形状や数については他に種々の実施例が可能である。また本発明は3ないしそれ以上の数の歯車が同様の複合目的のために同軸に複合される歯車に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0035】
10,10A,10B…駆動側歯車、12,12A,12B…被駆動側歯車、14…環状溝、16…インナスプライン、18…回転軸、20…アウタスプライン、22…孔、24,26…インナスプライン、28…連結部材、30,32…アウタスプライン、34…インナスプライン、36…回転軸、38…アウタスプライン、40…中間部、42…42

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛み合わされた駆動側歯車と被駆動側歯車の少なくとも一方は第一および第二の少なくとも2つの歯車を同軸に重ね合わせた歯車であり、前記第一の歯車は前記第二の歯車に比して第一の作動特性に於いて優れており、前記第二の歯車は前記第一の歯車に比して第二の作動特性に於いて優れており、前記第一の作動特性が前記第二の作動特性に優先する作動時と前記第二の作動特性が前記第一の作動特性に優先する作動時とで前記第一および第二の歯車の回転力伝達に関与する度合が相対的に変更されるようになっている歯車伝動装置の前記第一および第二の歯車を製造する方法にして、前記第一の歯車の素材および前記第二の歯車の素材を同軸に保持し、前記第一および第二の歯車の対応する歯を同時に加工することを特徴とする歯車製造方法。
【請求項2】
前記第一および第二の歯車は一体の素材よりなっていることを特徴とする請求項1に記載の歯車製造方法。
【請求項3】
前記第一の歯車は第一の素材よりなり、前記第二の歯車は第二の素材よりなり、前記第一および第二の素材は第三の素材により互いに結合されることを特徴とする請求項1に記載の歯車製造方法。
【請求項4】
前記一体の素材は前記第一の歯車と前記第二の歯車の間に両者間の中心軸線周りの弾性捩じりを許容する連結部を形成するよう加工されることを特徴とする請求項2に記載の歯車製造方法。
【請求項5】
前記第三の素材は前記第一の歯車と前記第二の歯車の間に両者間の中心軸線周りの弾性捩じりを許容する連結部を形成するよう加工されることを特徴とする請求項3に記載の歯車製造方法。
【請求項6】
前記連結部は前記第一および第二の歯車と同心の環状に加工されることを特徴とする請求項4または5に記載の歯車製造方法。
【請求項7】
前記環状の連結部にはその環に沿って隔置された複数個の孔が開けられることを特徴とする請求項4または5に記載の歯車製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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