説明

歯車装置

【課題】内歯ピンと外歯歯車との相対的なズレによって生じる異常磨耗等の不具合を解消し、かつ、部品点数の増加を抑えることが可能な歯車装置を提供する。
【解決手段】歯車装置1は、外筒2と、内歯ピン3と、キャリア4とを備えている。外筒2の内周面には、当該外筒2の軸方向に延びる複数のピン溝13が形成され、内歯ピン3は、ピン溝13に嵌合している。ピン溝13は、その長さが内歯ピン3の長さよりも長くなるように形成されている。キャリア4は、押え面7cを有する一対の押え部材7を備えている。押え面7cは、内歯ピン3および外歯6aを有する揺動歯車6の軸方向の移動を規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内歯ピンおよび外歯歯車を有する歯車装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロボット部材等を駆動するための偏心揺動型歯車装置として、ロボット部材にかかる外部荷重を支える主軸受を内蔵した歯車装置が従来より知られている。このような歯車装置は、特許文献1に記載されているように、円筒状のケースの内部に、キャリアが一対の主軸受を介して回転自在に取り付けられている。複数のピン歯は、円筒状のケース内周面に設けられ、軸方向に並ぶ一対の主軸受の間に挟まれて軸方向の移動が規制されている。ピン歯は、クランク軸の回転に連動して揺動回転される揺動歯車の外歯に噛み合うことが可能である。この構成では、一対の主軸受が歯車装置のケース内部に収納されているので、ロボットの部材等を歯車装置のケースとキャリアにそれぞれ固定させるだけで使用でき、ロボット部材側には主軸受が不要になる。
【0003】
ここで、一対のロボット部材が歯車装置の外部に設けられた主軸受によって互いに回転自在に連結されている場合には、歯車装置は、ロボット部材の外部荷重を受けるための主軸受を省略することが可能である。そのような主軸受を内蔵しない歯車装置では、例えば特許文献2記載の歯車装置のように、円筒状のケースの内側において内歯ピンの上下両端側に一対の止め輪が設けられることにより、内歯ピンの軸方向移動を規制している。一方、揺動歯車の軸方向の移動は、従来どおりキャリアによって規制される。
【0004】
上記のような主軸受を内蔵しない歯車装置では、部品の寸法誤差などによって発生する外部の主軸受の組付け幅のバラツキを、内歯ピンと揺動歯車の相対位置の移動によって吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−47006号公報
【特許文献2】実公平4−29988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2記載の歯車装置では、キャリアによって揺動歯車の軸方向の移動を規制するとともに、ケース側の止め輪によって内歯ピンの軸方向移動を規制しているので、歯車装置とは別に設けられた主軸受の組付け幅のバラツキを内歯ピンと揺動歯車の相対位置の移動によって吸収している。そのため、内歯ピンと揺動歯車との相対的な軸方向へのズレ量が大きい場合は、内歯ピンと揺動歯車の接触幅および接触面積が減少することで、異常磨耗等の早期破損が生じるおそれがある(例えば、図7に示される内歯ピン103および揺動歯車106参照)。
【0007】
また、揺動歯車と内歯ピンの軸方向移動を規制するため、揺動歯車はキャリアで規制するとともに、内歯ピンは止め輪でそれぞれ規制するので、部品点数も多くなる。
【0008】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、内歯ピンと外歯歯車との相対的なズレによって生じる異常磨耗等の不具合を解消し、かつ、部品点数の増加を抑えることが可能な歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明の歯車装置は、主軸受を介して相対的に回転可能に互いに連結された一対の相手側部材間で所定の減速比で回転力を伝達するための歯車装置であって、一方の相手側部材に固定可能な外筒と、前記外筒の内周面において当該外筒の軸方向に沿って取り付けられた複数の内歯ピンと、前記外筒の内部に収納され、他方の相手側部材に固定可能なキャリアと、前記キャリアに回転自在に支持されたクランク軸と、前記クランク軸の回転に連動して揺動するように前記キャリアに支持され、前記内歯ピンと噛み合うことが可能な外歯を有する揺動歯車と、を備え、前記外筒の内周面には、当該外筒の軸方向に延びる複数のピン溝が形成され、前記内歯ピンは、前記ピン溝に嵌合しており、前記ピン溝は、その長さが前記内歯ピンの長さよりも長くなるように形成されており、前記キャリアは、前記内歯ピンおよび前記揺動歯車の軸方向の移動を規制する、ことを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、外筒の内周面に形成されたピン溝が内歯ピンの長さよりも長くなるように形成されているので、内歯ピンがピン溝の内部において軸方向へ移動可能な遊びが確保され、部品の寸法誤差などによって発生する外部の主軸受の組み付け幅のばらつきを吸収できる。しかも、キャリアによって、内歯ピンおよび揺動歯車の軸方向の移動を両方とも規制するので、内歯ピンと揺動歯車との相対的な軸方向のズレを確実に防止でき、異常磨耗等による早期破損を確実に防止できる。さらに、従来のように、内歯ピンの軸方向への移動を規制するための止め輪等の部品を外筒に設ける必要がないので、部品点数の増加を抑えることが可能であり、組付け作業が容易になる。
【0011】
前記キャリアは、キャリア本体と、当該キャリア本体の外周側面に配置された押え部材とを備えており、前記押え部材は、前記内歯ピンおよび前記揺動歯車に当接して当該内歯ピンおよび当該揺動歯車の軸方向の移動を規制する押え面を有するのが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、押え面を有する押え部材がキャリア本体の外周面に配置された構成であるので、押え面を内歯ピンおよび揺動歯車に当接して配置することが容易であり、内歯ピンおよび揺動歯車の軸方向のズレを確実に防止できる。しかも、押え部材を変更するだけで、仕様の異なる歯車装置にもキャリア本体を適用することが可能であるので、キャリア本体の共通化が可能になる。さらに、キャリア本体と押え部材を別体に構成することにより、キャリア本体と独立して押え部材の材料の選定や加工が可能になるので、押え面の面粗度を向上することが容易になる。
【0013】
前記キャリアは、前記外筒が前記キャリアに対して相対的に軸方向へ移動することを規制することが可能な当該外筒の抜け止め用の段部を有しており、前記外筒の内周面には、前記段部に当接することが可能な凸部が形成されているのが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、キャリアに形成された外筒の抜け止め用の段部が外筒の内周面の凸部に当接することによって、外筒のキャリアに対する相対的な軸方向の移動を規制することが可能になり、少ない部品点数で外筒の脱落を防止することが可能である。
【0015】
前記押え部材は、リング状であり、前記押え部材の内径は、前記揺動歯車の外歯の歯底から当該押え部材の中心までの距離の最小値よりも小さくなるように設定されているのが好ましい。
【0016】
かかる構成によれば、押え部材の内周端が揺動歯車の外歯の歯底部分よりも当該押え部材の中心に近くなるように設定されているので、揺動歯車の外歯が押え部材の内側角部に干渉する不具合を避けることが可能である。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、内歯ピンと外歯を有する揺動歯車との相対的なズレによって生じる異常磨耗等の不具合を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る歯車装置を示す断面図である。
【図2】図1の内歯ピンおよび揺動歯車がキャリア側の押え部材によって軸方向の移動が規制された状態を示す拡大断面図である。
【図3】図1のキャリア側の押え部材が外筒の抜け止めを行っている状態を示す拡大断面図である。
【図4】押え部材から抜け止め部を省略した場合に、外筒がキャリアから外れる状態を示す断面説明図である。
【図5】本発明の比較例である従来の内歯ピンの軸方向移動を規制する止め輪を備えた歯車装置を示す断面図である。
【図6】図5の内歯ピンが外筒側の止め輪によって軸方向の移動が規制されるとともに、揺動歯車がキャリアによって軸方向の移動が規制された状態を示す拡大断面図である。
【図7】図6の内歯ピンと揺動歯車とが軸方向に相対的にずれている状態を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
本実施形態に係る歯車装置は、例えばロボットの旋回胴や腕関節等の旋回部または各種工作機械の旋回部に減速機として適用される歯車装置である。以下の本実施形態の説明では、ロボットのアームなどの旋回体に歯車装置を適用した例について説明する。
【0021】
本実施形態に係わる歯車装置1は、図1に示すように主軸受51を介して相対的に回転可能に互いに連結されたベース50と旋回体52との間で所定の減速比で回転力を伝達するものである。すなわち、歯車装置1は、主軸受51を備えておらず、主軸受51は、歯車装置1の外部において、ベース50と旋回体52との間に設けられている。ベース50は、一方の相手部材の概念に含まれるものであり、旋回体52は、他方の相手部材の概念に含まれるものである。
【0022】
本実施形態の歯車装置1は、外筒2と、内歯ピン3と、キャリア4と、クランク軸5と、揺動歯車6と、筒体8と、クランク軸歯車9と、中央歯車部材10とを備えている。
【0023】
外筒2は、略円筒状の部材であり、歯車装置1の外面を構成するケースとして機能する。外筒2は、ロボットのベース50にボルト22によって締結されている。外筒2の内周面には、当該外筒2の軸方向に延びる複数のピン溝13(図2〜3参照)が当該外筒2の内周面に沿って等間隔に形成されている。各ピン溝13には、内歯ピン3が嵌合している。内歯ピン3は、外歯歯車からなる揺動歯車6が噛み合う内歯として機能する。
【0024】
図2に示されるように、ピン溝13は、その長さL1が内歯ピン3の長さL2よりも長くなる(2〜4mm程度)ように形成されている。そのため、内歯ピン3は、ピン溝13の内部においてピン溝13に沿ってある程度の遊び量の範囲内(前後1〜2mm程度)で移動することが可能である(図2〜3参照)。
【0025】
キャリア4は、外筒2と同軸上に配置された状態でその外筒2内に収容されている。キャリア4は、外筒2に対して同じ軸回りに相対回転することが可能である。このキャリア4は、複数のボルト21によって旋回体52に締結されている。キャリア4が外筒2に対して相対回転することにより、旋回体52は、ベース50に対して相対的に旋回することが可能である。
【0026】
なお、本実施形態ではキャリア4を旋回体52に締結して旋回するようにし、外筒2をベース50に固定して不動にしているが、外筒2を旋回体52に締結し、キャリア4をベース50に締結して使用することも勿論可能である。
【0027】
本実施形態のキャリア4は、キャリア本体15と、一対の押え部材7とを備えている。
【0028】
キャリア本体15は、基部11と、端板部12とを備えている。基部11と端板部12との間には、外筒2とキャリア4との間における回転力の伝達をする揺動歯車6を収納する収容空間33が形成されている。収容空間33は、キャリア本体15の貫通孔4aと連通している。
【0029】
基部11は、端板部12に向かって軸方向に延びるシャフト部4bを有する。シャフト部4bは、ボルト23によって端板部12に締結されている。基部11および端板部12は、鋳鉄などによって製造されている。
【0030】
一対の押え部材7は、図1〜2に示されるように、リング状の部材であり、キャリア本体15の外周側面の凹部15aにそれぞれ嵌合している。
【0031】
押え部材7は、本体部7aと、段部7bとを備えている。本体部7aは、内歯ピン3および揺動歯車6に当接する押え面7cを有している。一対の押え部材7の押え面7cは、互いに対向するように配置されている。押え面7cが内歯ピン3および揺動歯車6のそれぞれの軸方向を向く端面に当接することにより、押え面7cは、内歯ピン3および揺動歯車6の軸方向の移動を規制することが可能である。
【0032】
段部7bは、外筒2の抜け止めをするために、本体部7aから外筒2へ向けて押え部材7の半径方向へ突出している部分である。段部7b同士が互いに対向する面7dは、隣接する押え面7cに対して、内歯ピン3から離れる方向へずれた位置に配置されている。
一対の押え部材7の段部7bで挟まれた隙間には、外筒2の内周面から内側に突出された凸部2aが挿入されている。
【0033】
図2〜3に示されるように、外筒2とキャリア4とが相対的に軸方向に移動したときに、凸部2aが一対の段部7bの対向する面7dのいずれかに当接することにより、外筒2がキャリア4に対して相対的に軸方向へ移動することを規制し、外筒2の抜け止めをすることが可能である。
【0034】
押え部材7の内径R1は、図2に示されるように、揺動歯車6の外歯6aの歯底6eから当該押え部材7の中心Oまでの距離の最小値R2minよりも小さくなるように設定されている。ここで、揺動歯車6の外歯6aの歯底6eから当該押え部材7の中心Oまでの距離の最小値R2minとは、揺動歯車6がクランク軸5の回転に連動して揺動するときに、揺動歯車6が最も内側に来たときの揺動歯車6の外歯6aの歯底6eから当該押え部材7の中心Oまでの距離のことをいう。
【0035】
本実施形態の押え部材7は、キャリア本体15の材料(鋳鉄など)よりも高い仕上げ精度が得られる材料、例えば鋼材などで製造される。それにより、内歯ピン3および揺動歯車6に当接する押え面7cを高い仕上げ精度で表面仕上げすることが可能である。
【0036】
図1に示されるように、キャリア4の貫通孔4aの内部には、中央歯車部材10が軸受20を介して当該キャリア4に回転自在に連結されている。また、中央歯車部材10の中央には、軸方向に貫通する挿通孔が設けられ、その挿通孔には、筒体8が挿通されている。
【0037】
筒体8は、キャリア4の貫通孔4aに挿通されている。筒体8は、キャリア4の中心軸方向に直線状に延びる。筒体8の内部には、配線ケーブルなどが挿通される。筒体8は、ケーブルと歯車装置内の各歯車等との接触を防止するとともに、その内部に潤滑油等が侵入するのを防止する。筒体8は、ボルト27によってベース50に連結されている。
【0038】
クランク軸5は、筒体8の周囲に等間隔に複数個配置されている。その各クランク軸5の端部には、クランク軸歯車9がそれぞれ取り付けられている。各クランク軸歯車9は、中央歯車部材10とそれぞれ噛み合っている。複数のクランク軸歯車9のうちの1つは、駆動源であるモータMによって駆動される駆動歯車Dに噛み合っている。他のクランク軸歯車9は、中央歯車部材10を介してモータMの回転駆動力を受けることができる。これにより、各クランク軸歯車9は、モータMの回転駆動力をクランク軸5に伝達することが可能である。各クランク軸5は、一対のクランク軸受16、19を介してキャリア4に回転自在に支持されている。
【0039】
クランク軸5は、複数(本実施形態では2つ)の偏心部5aを有している。この複数の偏心部5aは、一対のクランク軸受16、19の間の位置で軸方向に並ぶように配置されている。各偏心部5aは、それぞれクランク軸5の軸心から所定の偏心量で偏心した円柱状に形成されている。そして、各偏心部5aは、互いに所定角度の位相差を有するようにクランク軸5に形成されている。
【0040】
揺動歯車6は、クランク軸5の回転に連動して揺動するようにキャリア4に支持されている。本実施形態では、2枚の揺動歯車6がキャリア4に設けられている。2個の揺動歯車6は、クランク軸5の各偏心部5aにそれぞれころ軸受17、18を介して取り付けられている。揺動歯車6は、外筒2の内径よりも少し小さく形成されており、クランク軸5が回転するときに偏心部5aの偏心回転に連動して外筒2内面の内歯ピン3に噛み合いながら揺動回転する。
【0041】
それぞれの揺動歯車6は、図1〜2に示されるように、内歯ピン3と噛み合うことが可能な外歯6aと、中央部貫通孔6bと、複数の偏心部挿通孔6cと、複数のシャフト部挿通孔6dとを有する。筒体8は、中央部貫通孔6bに遊びを有した状態で挿通されている。揺動歯車6の歯数(外歯6aの数)は、内歯ピン3の数よりも若干少なくなっている。
【0042】
偏心部挿通孔6cは、揺動歯車6において中央部貫通孔6bの周囲に周方向に等間隔で設けられている。各偏心部挿通孔6cには、ころ軸受17、18を介装した状態で各クランク軸5の偏心部5aがそれぞれ挿通されている。
【0043】
シャフト部挿通孔6dは、揺動歯車6において中央部貫通孔6bの周囲に周方向に等間隔で設けられている。各シャフト部挿通孔6dは、周方向において偏心部挿通孔6c間の位置にそれぞれ配設されている。各シャフト部挿通孔6dには、キャリア4の各シャフト部4bが遊びを有した状態で挿通されている。
【0044】
本実施形態では、主軸受51は、ベース50の内周面に嵌合され、リング状の蓋53により、ベース50の内部から抜け出ないように固定されている。蓋53は、ベース50の上面にボルト25によりねじ止めされている。さらに、主軸受51の内側可動部分51aは、旋回体52の外周フランジ部分52bに対してボルト24によって連結されている。これにより、ベース50と旋回体52とが主軸受51を介して相対的に回転可能に互いに連結される。
【0045】
次に、本実施形態による歯車装置1の動作について説明する。
【0046】
1つのクランク軸歯車9が、モータMからの回転駆動力を受けると、中央歯車部材10を介して他のクランク軸歯車9にそれぞれ伝達される。これにより、各クランク軸5は、それぞれの軸回りに回転する。
【0047】
そして、各クランク軸5の回転に伴って、そのクランク軸5の偏心部5aが偏心回転する。これにより、揺動歯車6は、偏心部5aの偏心回転に連動して外筒2の内面の内歯ピン3に噛み合いながら揺動回転する。揺動歯車6の揺動回転は、各クランク軸5を通じてキャリア4に伝達される。本実施形態では、外筒2はベース50に固定されて不動であるので、それによって、キャリア4および旋回体52は、入力された回転から減速された回転数で外筒2及びベース50に対して相対回転することが可能である。
【0048】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の歯車装置1では、外筒2の内周面に形成されたピン溝13の長さL1が内歯ピン3の長さL2よりも長くなるようにピン溝13が形成されているので、内歯ピン3がピン溝13の内部において軸方向へ移動可能な遊びが確保され、部品の寸法誤差などによって発生する外部の主軸受51の組み付け幅のばらつきを吸収できる。また、内歯ピン3がピン溝13の軸方向端部からはみ出るおそれがないので、内歯ピン3の異常磨耗等を確実に防止することが可能である。
【0049】
しかも、キャリア4側に設けられた押え部材7の押え面7cによって、内歯ピン3および揺動歯車6の軸方向の移動を両方とも規制するので、内歯ピン3と揺動歯車6との相対的な軸方向のズレを確実に防止でき、異常磨耗等による早期破損を確実に防止できる。
【0050】
さらに、従来のように、内歯ピン3の軸方向への移動を規制するための止め輪等の部品を外筒2に設ける必要がないので、部品点数の増加を抑えることが可能であり、組付け作業が容易になる。
【0051】
ここで、本発明の歯車装置の比較例として、図5〜7に示される内歯ピン103の軸方向の移動を規制する一対の止め輪107を備えた歯車装置101についてもう少し詳しく説明する。このような歯車装置101は、主軸受151を介して相対的に回転可能に互いに連結されたベース150と旋回体152との間で所定の減速比で回転力を伝達するものであり、外筒102と、当該外筒102の内周面に等間隔に配置された複数の内歯ピン103と、キャリア104と、当該キャリア104に回転可能に支持されたクランク軸105と、当該クランク軸105によって揺動される2枚の揺動歯車106と、一対の止め輪107とを備える。一対の止め輪107は、図5〜6に示されるように、内歯ピン103の上下両端に当接することにより、内歯ピン103の軸方向の移動を規制することが可能である。一方、揺動歯車106は、キャリア104における軸方向に突出する一対の凸部104aによって上下両端から軸方向の移動が規制されている。これにより、図6に示されるように、主軸受151の組付け幅のバラツキを内歯ピン103と揺動歯車106の相対位置の移動によって吸収している。
【0052】
しかし、図7に示されるように、内歯ピン103と揺動歯車106との相対的な軸方向へのズレ量が大きい場合は、内歯ピン103と揺動歯車106の接触幅および接触面積が減少することで、異常磨耗等の早期破損が生じるおそれがある。
【0053】
これに対して、本実施形態の歯車装置1では、図3に示されるように、キャリア4側に設けられた押え面7cによって、内歯ピン3および揺動歯車6の相対的な軸方向の移動を規制するので、上記図5〜7に示される歯車装置101のような内歯ピン103と揺動歯車106との相対的な軸方向へのズレが生じることがなく、異常磨耗等による早期破損を確実に防止できる。
【0054】
また、本実施形態の歯車装置1では、外部の主軸受51の組み付け幅のばらつきにより、キャリア4と外筒2とが軸方向へ相対的にずれても、長いピン溝13の範囲内で内歯ピン3および揺動歯車6がそれぞれ押え面7cによって両端を押えられた状態で軸方向へ移動することが可能であるので、上記の主軸受51の組み付け幅のばらつきを吸収できる。
【0055】
(2)
本実施形態の歯車装置1では、内歯ピン3および揺動歯車6の軸方向の移動を規制する押え面7cを有する押え部材7がキャリア本体15の外周面に配置された構成であるので、押え面7cを内歯ピン3および揺動歯車6に当接して配置することが容易であり、内歯ピン3および揺動歯車6の軸方向のズレを確実に防止できる。しかも、押え部材7を変更するだけで、仕様の異なる歯車装置1にもキャリア本体15を適用することが可能であるので、キャリア本体15の共通化が可能になる。さらに、キャリア本体15と押え部材7を別体に構成することにより、キャリア本体15と独立して押え部材7の材料の選定や加工が可能になるので、押え面7cの面粗度を向上することが容易になる。
【0056】
(3)
本実施形態の歯車装置1では、キャリア4の押え部材7に形成された外筒2の抜け止め用の段部7bが外筒2の内周面の凸部2aに当接することによって、外筒2のキャリア4に対する相対的な軸方向の移動を規制することが可能になり、少ない部品点数で外筒2の脱落を防止することが可能である。
【0057】
ここで、従来の歯車装置(例えば、特開2000−213605号公報の図1参照)では、外部の主軸受を組み付けてない状態では、ケースがキャリアから脱落するのを防止するために、ケースの内部にオイルシールをあらかじめ挿入しておく必要があり、歯車装置組立後は、オイルシールの状態を観察することが出来ないという問題があった。これに対して、本実施形態の歯車装置では、抜け止めのためのオイルシールが不要になるので、部品点数の増加を抑えることが可能である。
【0058】
(4)
本実施形態の歯車装置1では、図2に示されるように、押え部材7の内径R1が揺動歯車6の外歯6aの歯底6eから当該押え部材7の中心Oまでの距離の最小値R2minよりも小さくなるように設定されているので、揺動歯車6の外歯6aが押え部材7の内側角部7eに干渉する不具合を避けることが可能である。
【0059】
(変形例)
(A)
上記実施形態の歯車装置1では、キャリア4を構成するキャリア本体15と押え部材7とが別体に構成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、キャリア本体15と押え部材7とを一体成形してもよく、その場合、さらに部品点数の増加を抑えることが可能である。
【0060】
(B)
本実施形態の歯車装置1では、図2〜3に示されるように、外筒2の抜け止め用の段部7bが押え部材7に形成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、抜け止め用の段部7bを省略してもよい。その場合、キャリア4の外周面に設けられたオイルシール(図示せず)などにより、外筒2の抜け止めを行うようにすればよい。
【0061】
(C)
本実施形態では、図1〜3に示されるように、2枚の揺動歯車6を備えた歯車装置1を例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、揺動歯車6を1枚のみ備えた構造や3枚以上備えた構造であっても、本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 歯車装置
2 外筒
3 内歯ピン
4 キャリア
5 クランク軸
5a 偏心部
6 揺動歯車
6a 外歯
6e 歯底
7 押え部材
7b 段部
7c 押え面
13 ピン溝
50 ベース
51 主軸受
52 旋回体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸受を介して相対的に回転可能に互いに連結された一対の相手側部材間で所定の減速比で回転力を伝達するための歯車装置であって、
一方の相手側部材に固定可能な外筒と、
前記外筒の内周面において当該外筒の軸方向に沿って取り付けられた複数の内歯ピンと、
前記外筒の内部に収納され、他方の相手側部材に固定可能なキャリアと、
前記キャリアに回転自在に支持されたクランク軸と、
前記クランク軸の回転に連動して揺動するように前記キャリアに支持され、前記内歯ピンと噛み合うことが可能な外歯を有する揺動歯車と、
を備え、
前記外筒の内周面には、当該外筒の軸方向に延びる複数のピン溝が形成され、前記内歯ピンは、前記ピン溝に嵌合しており、
前記ピン溝は、その長さが前記内歯ピンの長さよりも長くなるように形成されており、
前記キャリアは、前記内歯ピンおよび前記揺動歯車の軸方向の移動を規制する、
ことを特徴とする歯車装置。
【請求項2】
前記キャリアは、キャリア本体と、当該キャリア本体の外周側面に配置された押え部材とを備えており、
前記押え部材は、前記内歯ピンおよび前記揺動歯車に当接して当該内歯ピンおよび当該揺動歯車の軸方向の移動を規制する押え面を有する、
請求項1に記載の歯車装置。
【請求項3】
前記キャリアは、前記外筒が前記キャリアに対して相対的に軸方向へ移動することを規制することが可能な当該外筒の抜け止め用の段部を有しており、
前記外筒の内周面には、前記段部に当接することが可能な凸部が形成されている、
請求項1または2に記載の歯車装置。
【請求項4】
前記押え部材は、リング状であり、
前記 押え部材の内径は、前記揺動歯車の外歯の歯底から当該押え部材の中心までの距離の最小値よりも小さくなるように設定されている、
請求項1から3のいずれかに記載の歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−24258(P2013−24258A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156634(P2011−156634)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】