説明

残光が少なく、高密度、高速のシンチレーター物質

本発明は、式:Lu(2-y)(y-z-x)CexzSi(1-v)M’v5(式中、Mは二価のアルカリ金属を表し、そしてM’は三価の金属を表し、(z+v)は0.0001〜0.2であり、zは0〜0.2であり、vは0〜0.2であり、xは0.0001〜0.1であり、そしてyは(x+z)〜1の範囲にわたる。)の無機シンチレーター物質に関する。特に、上記物質は、産業用途、医療分野(スキャナー)及び/又は石油の掘削における探知向けのシンチレーション検出器を備える。結晶中のCaの存在により、残光が減るが、高エネルギー放射線に対する阻止能は高いまま残っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレーター物質、当該物質を得るための製法、並びに上記物質の使用、特にガンマ線及び/又はX線の検出器における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
シンチレーター物質は、ガンマ線、X線、宇宙線、及び1keV以上の次数のエネルギーを有する粒子の検出器に広く使用されている。
シンシレーター物質は、シンチレーション波長帯において透明な物質であり、光パルスを放射して入射光に応答する。
【0003】
一般的に単結晶である上記物質から検出器を製造することができ、当該検出器内で、検出器に含まれる結晶から放射した光が光検出手段と対になり、そして受け取った光パルスの数及びそれらの強度に比例して電気信号が生成する。上記検出器は、厚さ及び秤量又はコーティング重量を測定する産業、並びに核医学、物理学、化学及び石油探索の分野で特に用いられている。
【0004】
用いられている公知のシンチレーター結晶の一つの系統群は、セリウムドープ化ルテチウムシリケートの結晶である。セリウムドープ化Lu2SiO5は、米国特許第4958080号明細書に開示され、そして米国特許第6624420号明細書には、Ce2x(Lu1-yy2(1-x)SiO5が開示されている。米国特許第6437336号明細書は、Lu2(1-x)2xSi27タイプの組成物(式中、Mは、少なくとも部分的にセリウムである。)に関する。これら種々のシンチレーター組成物は、全て共通の、高エネルギー放射線に関する高い阻止能(stopping power)を有し、そして非常に速い光パルスを有する強い光を放射させる。
【0005】
さらに望ましい特性は、入射光を止めた後に放射する光の量(すなわち、遅延発光又は残光)を減らすことである。当業者に周知のこの現象は、物理的に、上記物質の結晶構造内の電子トラップの存在により説明される。上記シンチレーション現象は、シンチレーター物質内で電子と正孔の対を生み出す光電効果による。活性位置(上述のシンチレーターのCe3+の位置)上の再結合において、上記電子は、1マイクロ秒より非常に短い時間で生ずるのが一般的である過程を経て光子を放出する。
【0006】
上述の特に速いシンチレーターは、約40nsの一次の指数の定数で減少するパルス持続時間をもたらす。しかし、捕獲された電子は光を発生させないが、熱励起(室温におけるものを含む)によって放出された電子は、1秒を超える時間の後、測定可能なまま残る光子放射−残光を生じさせる。
【0007】
この現象は、非常に短い時間枠(windowing)を用い、各パルスを分離することが望ましい用途には受け入れられないであろう。特にこれは、医療又は産業部門に周知である、CT(コンピュータ断層撮影法)用途(スキャナー)にあてはまる。上記CTシステムを、産業標準となりつつあるPET(ポジトロン放出断層撮影法)スキャナーと連結させると、上記CTの解像度の低さがシステム全体の性能に影響を与え、従って、PET/CTシステム全体の結果を判断する臨床医の能力に影響を与える。これらの用途には、残光は全く受け入れられないことは公知である。
【0008】
米国特許第4958080号明細書(当業者の表記を用いると、LSO:Ceタイプ)、及び同第6624420号明細書(LYSO:Ceタイプ)に開示されている、ルテチウムシリケートタイプの組成物が、深刻な残光を発生させることが知られている。一方、米国特許第6437336号明細書(LPS:Ceタイプ)に開示されている組成物は、残光が非常に弱い利点がある。これらの効果は、例えば、L.Pidol,A.Kahn−Harari,B.Viana,B.Ferrand,P.Dorenbos,J.de Haas,C.W.E.van Eijk、及びE.Vireyの「Scintillation properties of Lu2Si27:Ce3+,a fast and dense scintillator crystal」,Journal of Physics:Condensed Matter,2003,15,2091〜2102に記載されている。
【0009】
図1に示す曲線は、この論文から引用され、そして数時間の間、X線励起の下、時間の関数として、シンチレーター物質のmgあたりの事象の数(又はカウント)の形で検出された光の量を表している。上記LPS:Ce組成物は、残光に関して、非常に良好な結果を有する。
【0010】
LYSOの作用は、この観点からのLSOの作用と非常に良く似ている。この残光の少なさが、本出願の主題を構成する。
【0011】
上記残光特性を、熱ルミネセンス(S.W.S.McKeeverの「Thermoluminescence of solids」,Cambridge University Press(1985)を参照のこと。)により、さらに基本的に実証することができる。この特性は、放射後の検体の熱励起と、放射の測定とにある。室温に近い300Kにおける光ピークは、程度の差はあってもその強度(放出された)によって決まる大きさの残光に相当する。
【0012】
より高温におけるピークは、より深いトラップの存在に対応するが、室温における熱励起には敏感ではない。これは、L.Pidolらによる上述の論文から引用した図2で具体的に説明され、別の方法において、残光に関する上記LPSの組成物の優位性を示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記LPSタイプの組成物は、上記LSO又はLYSOタイプの組成物より、阻止能が低い欠点を有する。この状況は、単に化合物の平均原子番号と、結合された相の密度とに起因する。
【0014】
RISO(デンマーク)により製造された、自動化TL−DA−15機器を用いて、熱ルミネセンス計測を行う(図3に図解的に示す。)。ヒーター、熱電対、及び試料を位置付ける「リフト」は、光電子増倍管(PM)及び光学フィルターと一直線上にある。窒素流の下にある分析チャンバーの内部において、モーターにより作動させる回転テーブル(回転試料ホルダー)により、上記試料を、放射線照射段階のため放射線源の前(鉛容器内に置かれる)か、又は熱ルミネセンス計測のためヒーター及び光電子増倍管の間のどちらかに、配置させることができる。
【0015】
各測定の前に、厚さ約1mmの結晶を、数分間、672Kまで加熱する。次に、放射線を当て、次いで、313〜672Kの一定の加熱速度を用いて、窒素流の下、熱ルミネセンス曲線を記録する。さらに高温での計測は、黒体放射のため不可能である(「黒体放射」は、白熱するまで加熱させた物質により、自然に放射する光である。)。各曲線を、生成物の質量に関して正規化する。
【0016】
我々の場合には、関心ある発光は、350〜450nmのセリウムイオンからの発光である。上記光電子増倍管に整合フィルター(HA3及び7−59)を選んだ。定量的な測定において上記照射は、空中に3.6グレイ/時間の線量を供給する90Sr/90Yβ源により、その場で行われる。上記TL(熱ルミネセンス)計測の際、変更されうるパラメータは、線量(照射時間、ここでは20秒)及び加熱速度(ここでは、0.5K/秒)である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本件出願人は、LYSO−タイプの組成物に、二価のアルカリ金属M及び/又は三価の金属M’を加えることにより、残光が、非常に大きく減少することを見出した。特に、MはCa、Mg又はSrであることができる(二価のカチオンの状態)。特に、M’は、Al、Ga又はInであることができる(三価のカチオンの状態)。上記元素Mは、Y又はLuを置換し、そして上記元素M’は、Siを置換する。
【0018】
驚くべきことに、M、特にCaの導入の結果、本発明に従う生成物は、考えられる比率の密度に影響を与えることなく、残光を減少させる。
【0019】
本発明に従うシンチレーター物質は、次の式:
Lu(2-y)(y-z-x)CexzSi(1-v)M’v5 (式I)
(式中、
Mは、二価のアルカリ金属、例えば、Ca、Mg又はSrを表し、そしてM’は、三価の金属、例えば、Al、Ge又はInを表し、
(z+v)は、0.0001以上、及び0.2以下であり;
zは、0以上、及び0.2以下であり;
vは、0以上、及び0.2以下であり;
xは、0.0001、及び0.1以下であり;そして
yは、(x+z)〜1の範囲にわたる。)。
【0020】
好ましくは、(z+v)は、0.0002以上である。
好ましくは、(z+v)は、0.05以下、より好ましくは、0.01以下、そしてさらに0.001未満である。
【0021】
好ましくは、xは、0.0001より大きく、0.001未満である。
特に、vは、zが少なくとも0.0001である場合に、0であることができる(M’の欠如)。
【0022】
特に、本発明に従うシンチレーター物質は、vが0であることができる。本発明に従うシンチレーター物質はまた、MがCaであることができ、特に好適な組成物に相当する。vが0でありかつMがCaである組み合わせが、特に好適である。
次いで、本発明に従う組成物は、次の式:
Lu(2-y)(y-z-x)CexCazSiO5 (式II)
を有する。
【0023】
本発明に従うシンチレーター物質はまた、特に、zが0であることができる。本発明に従うシンチレーター物質はまた、特に、M’がAlであることができる。zが0かつM’がAlである組み合わせが、特に好適である。
次いで、本発明に従う組成物は、次の式:
Lu(2-y)(y-x)CexAlvSi(1-v)5 (式III)
を有する。
【0024】
元素Oのモル含有率は、(Si+M’)のモル含有率の実質的に5倍であり、この値は約±2%で変わる可能性があることが理解される。本発明に従うシンチレーター物質は、チョクラルスキー(Czochralski)成長により単結晶状で得ることができる。
【0025】
本発明はまた、放射線検出器、特に、CT(コンピュータ断層撮影法)スキャナーにおいて、特に、ガンマ線及び/又はX線の検出器の成分として本発明に従うシンチレーター物質を使用することに関する。
【0026】
本発明はまた、特に、産業用途のため、医療分野のため、及び/又は石油の掘削における探知向けのシンチレーション検出器の成分として、本発明に従うシンチレーター物質を用いることに関する。特に、これは、継続的な取得を行う任意のシンチレーターシステムを含む(CT断層撮影法を含む)。また、随意選択的に放出断層撮影と組み合わせたポジトロン放出断層撮影タイプ(特に、飛行時間計測を行う)の任意のシンチレーターシステムを含む。
【0027】
本件出願人は、特定の理論に縛られることなく、三価の希土類イオンを置換する二価のアルカリ金属イオンMを導入するか、又は四価のケイ素原子を置換する三価の金属イオンM’を導入することにより、残光の原因となる電子トラップを制限する正電荷欠乏が作り出されると推測している。
【実施例】
【0028】
直径1インチの3つのLYSO:Ce単結晶を、上述の特許に記載されるのと同じ条件の下、チョクラルスキー法を用いて生成させた。上記を行うために、次の組成に対応する原材料を使用した:
対照(Caなし):
Lu1.80.1978Ce0.0022SiO4.9961
組成物1:
Lu1.80.1778Ca0.02Ce0.0022SiO4.9961
組成物2:
Lu1.80.1878Ca0.01Ce0.0022SiO4.9961
【0029】
充填物(charge)は、所望の化学式を得るように、対応する酸化物(Ca,Ce、LU,Y酸化物)から調製した。最終の結晶中の実際のCe及びCa濃度は、結晶成長の際の偏析(segregation)により原材料を経由して導入した濃度より低い。
最終的に得られた、式:Lu(2-y)(y-z-x)CexCazSiO5の単結晶は、検体の上に次の組成物を有していた。
【0030】
【表1】

【0031】
組成物1は、対照の組成物(一般的なLYSOタイプ)より残光が非常に少なく、そして137Csガンマ線源による励起の下、20000光子/MeVの光のレベルの推定値を与える。すなわち、LPS組成物(26000光子/MeV)、LYSO組成物(34000光子/MeV)、及びLSO組成物(約28000光子/MeV)を若干下回る。上記光のレベルは、多くの用途において、決して許容できないものではない。非常に広く用いられているゲルマン酸ビスマス(Bi4Ge312)は、9000光子/MeVしか放射しない。全体的に見て、組成物1は、光のレベルに関して重大な損失がなく、LYSO型の組成物と同程度の阻止能を有し、一方、それにもかかわらず、残光を大きく減少させる。
【0032】
組成物2は、さらに残光が少なく、そして27000光子/MeVの光収率を有するので、さらに有利である。
図4は、一般的なLSO(対照)と、組成物1及び組成物2との残光値を比較するものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
(原文に記載なし)
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:Lu(2-y)(y-z-x)CexzSi(1-v)M’v5
(式中、
Mは、二価のアルカリ金属イオンを表し、そしてM’は、三価の金属を表し;
(z+v)は、0.0001以上、及び0.2以下であり;
zは、0以上、及び0.2以下であり;
vは、0以上、及び0.2以下であり;
xは、0.0001以上、及び0.1以下であり;そして
yは、(x+z)〜1の範囲にわたる。)
の無機シンチレーター物質。
【請求項2】
(z+v)が0.0002以上であることを特徴とする、請求項1に記載の物質。
【請求項3】
(z+v)が0.05以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の物質。
【請求項4】
(z+v)が0.01以下であることを特徴とする、請求項3に記載の物質。
【請求項5】
(z+v)が0.001以下であることを特徴とする、請求項4に記載の物質。
【請求項6】
xが0.0001より大きく、そして0.001未満であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の物質。
【請求項7】
MがCa、Mg及びSrから選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の物質。
【請求項8】
M’がAl、In及びGaから選択されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の物質。
【請求項9】
vが0であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の物質。
【請求項10】
MがCaであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の物質。
【請求項11】
zが0であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の物質。
【請求項12】
M’がAlであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の物質。
【請求項13】
単結晶物質であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の物質。
【請求項14】
チョクラルスキー法により得られることを特徴とする、請求項13に記載の単結晶のシンチレーター物質の成長方法。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の無機シンチレーター物質を含む、シンチレーション検出器。
【請求項16】
請求項15に記載の検出器を含む、CT(コンピュータ断層撮影)スキャナー。
【請求項17】
特に、産業用途、医療分野及び/又は石油の掘削の探知向けのシンチレーション検出器の成分として、シンチレーター物質の特許請求の範囲のいずれか一項に記載のシンチレーター物質の使用。
【請求項18】
CTスキャナーの成分、及び/又はPET(ポジトロン放出断層撮影)スキャナー、特に飛行時間測定型PETスキャナーの成分として、前記シンチレーター物質の特許請求の範囲のいずれか一項に記載のシンチレーター物質の使用。

【公表番号】特表2008−509270(P2008−509270A)
【公表日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525327(P2007−525327)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050658
【国際公開番号】WO2006/018586
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(504455713)
【Fターム(参考)】