説明

残留農薬検査方法およびその装置

【課題】農薬成分を高精度に特定するとともに、その濃度を表示することができる残留農薬検査方法およびその装置を提供する。
【解決手段】前記演算手段3には、あらかじめ前記試料の産地情報と関連する複数の農薬成分が記憶されるとともに、該複数の農薬成分ごとに前記各酵素の酵素活性阻害能に関する検量線が複数個記憶された記憶手段(18)と、複数の農薬成分及び検量線の読み出しに基づき、検知手段(10)で検知された物質の濃度を前記複数の検量線に当てはめて換算濃度を算出し、さらに、該複数の検量線において換算濃度が一致するものがあった場合に、該検量線に対応する農薬成分が残留農薬であると判定する演算部(19)と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬成分を高精度に特定するとともに、その濃度を表示することができる残留農薬検査方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、検出対象のサンプルをカルボキシルエステラーゼとコリンエステラーゼとを含む混合溶液中で反応させ、反応後の溶液を用いてカルボキシルエステラーゼ特異基質とコリンエステラーゼ特異基質とを加水分解し、基質の加水分解生成物に発色試薬を添加して発色させるか、又は、加水分解生成物自身が発色する基質を使用して発色させ、複数波長のスペクトル変化測定を同時に測定することで、サンプル中の有機リン系農薬群とカルバメート系農薬群とを分別して同時に検出することを特徴とする残留農薬検出法を提案している(特許文献1参照)。
【0003】
これにより、有機リン系農薬がカルボキシルエステラーゼの加水分解する能力を強く不活性化する作用及びカルバメート系農薬がコリンエステラーゼの加水分解する能力を強く不活性化する作用の2つの酵素阻害反応を併用し、この反応速度変化からサンプル中の有機リン系農薬とカルバメート系農薬とを分別的に同時に検出し、有機リン系の農薬とカルバメート系農薬とが混在する場合であっても、複数の農薬群を検出することができるものである。
つまり、有機リン系農薬そのものにはコリンエステラーゼが直接酵素阻害されないために、コリンエステラーゼ以外の酵素を使用したものである。実際の反応においては、一部の有機リン系農薬の場合、酸化・還元処理をしなければ毒性を発現しないので(例えば、特許文献2参照)、酸化・還元処理を行った後、コリンエステラーゼにより有機リン系農薬とカルバメート系農薬とを同時に反応させるようにしている。
【0004】
しかしながら、上記残留農薬検出法にあっては、2種類の酵素を用いることで、有機リン系農薬群に加え、カルバメート系農薬群もサンプル中に含まれていることを知る手がかりとなるものではあるが、有機リン系農薬群及びカルバメート系農薬群の中の農薬成分までを特定することは困難であった。
【0005】
また、本発明者らは農薬の残留濃度が人体において危険か否かの許容度を判別することができる残留農薬検出装置も提案している(特許文献3参照)。この特許文献3の段落番号0023には、「ところで、作物に使用される農薬の種類は適用作物、病害虫の対象を指定することにより限定される場合が多く、例えば、農業改良普及所、市町村、農業協同組合等で作成される防除暦を参考にすると、使用される農薬の種類が決まってくる。」との記載がある。
しかしながら、上記残留農薬検出装置にあっては、防除暦を参考にして使用される農薬を大雑把に推定し(例えば、数十種類)、複数の農薬の成分割合を知らなくても残留基準濃度以下であれば農薬の残留濃度が人体において危険か否かを判別するものであって、農薬成分までを特定することは行われていなかった。
【特許文献1】特開2003−000298号公報
【特許文献2】特開2003−004720号公報(第2頁、段落0004)
【特許文献3】特開2002−062265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点にかんがみ、農薬成分を高精度に特定するとともに、その濃度を表示することができる残留農薬検査方法およびその装置を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、農薬を含む試料溶液中に酵素活性阻害程度の異なる複数の酵素と、発色試薬などの反応量を把握するための試薬とを添加し、十分な時間をかけてインキュベートを行った後、前記各酵素の少なくとも一方では分解されない基質を混入し、前記試料溶液に含有される酵素基質もしくは酵素反応によって生成する物質の濃度変化の程度から農薬成分を特定するとともにその濃度を算出する残留農薬検査方法であって、
前記試料の産地情報を指定することにより試料に含有される農薬成分を複数種に限定するとともに、限定された複数種の農薬成分ごとに前記各酵素の酵素活性阻害能に関する検量線を作成し、さらに、前記試料溶液に含有される酵素基質もしくは酵素反応によって生成する物質の濃度変化の程度を測定するとともに、その濃度変化の程度を前記複数の検量線に当てはめて農薬成分ごとの換算濃度を算出し、該複数の検量線において換算濃度が一致するものがあった場合に、該検量線に対応する農薬成分が残留農薬であると判定する、という技術的手段を講じた。
【0008】
また、前記試料の産地情報は、農業改良普及所、市町村、農業協同組合などで作成される防除暦を情報源として使用するとよい。
【0009】
さらに、前記試料の産地情報の指定は、都道府県名、市町村名、管轄の農業改良普及所名、管轄の農業協同組合名、郵便番号及び電話番号のうち少なくともいずれか1つを指定するとよい。
【0010】
そして、前記試料溶液中に添加する複数の酵素は、アセチルコリンエステラーゼと、ブチリルコリンエステラーゼとを使用するとよい。
【0011】
基質としては、前記アセチルコリンエステラーゼの触媒作用では分解されないベンゾイルコリンを使用するとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の残留農薬検査方法によれば、有機リン系とカルバメート系の殺虫農薬成分のうち、米に対して登録されている40種類程度の中から、試料の産地情報を指定することにより試料に含有される測定対象成分を5種類程度に限定することができる。そして、限定された複数種の農薬成分ごとに前記各酵素の酵素活性阻害能に関する検量線を作成し、前記試料溶液に含有される酵素基質もしくは酵素反応によって生成する物質の濃度変化の程度を測定するとともに、その濃度変化の程度を前記複数の検量線に当てはめて農薬成分ごとの換算濃度を算出し、該複数の検量線におけるそれぞれの酵素阻害反応による換算濃度が一致するものがあった場合に、該検量線に対応する農薬成分が残留農薬であると判定するので、農薬成分を高精度に特定するとともに、その濃度を表示することができるという利点がある。
【0013】
また、前記試料の産地情報は、農業改良普及所、市町村、農業協同組合などで作成される防除暦を情報源として使用しているので、正確な農薬情報を得ることができる。さらに、前記試料の産地情報の指定は、都道府県名、市町村名、管轄の農業改良普及所名、管轄の農業協同組合名、郵便番号及び電話番号のうち少なくともいずれか1つを指定すればよいので、管轄の農業協同組合や農業改良普及所の名称が分からない場合は郵便番号や電話番号から農業協同組合や農業改良普及所の名称が特定され、より正確に産地情報を特定することができる。
【0014】
そして、前記試料溶液中に添加する複数の酵素は、アセチルコリンエステラーゼと、ブチリルコリンエステラーゼとを使用し、基質としては、前記アセチルコリンエステラーゼの触媒作用では分解されないベンゾイルコリンを使用すると、少なくとも1種類の酵素にしか反応しない基質であるから、1つの試料容器で時系列的にデータを採取することができ、低コストで農薬成分を特定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の残留農薬検査方法およびその装置を示した構造図であって、試料溶液中に酵素及び基質を添加して酵素活性阻害反応を起させる反応部1と、試料溶液の透過光量変化又は吸光度の変化を検知する分光測定部2と、前記反応部1及び分光測定部2の制御やデータ処理を行うコンピュータ3に大別することができる。図1において、分光測定部2は、過酸化水素生成に伴う発色による透過光量の変化又は吸光度の変化を検知するセンサ10と、試料容器4と、該試料容器4へ浸漬したセンサ10を洗浄すると同時にリファレンス用の透過光量又は吸光度をチェックする洗浄容器11と、基準溶液中での透過光量の変化又は吸光度の変化をチェックするための基準容器12と、前記センサ10を試料容器4、洗浄容器11及び基準容器12へ移動するとともに、各容器に浸漬するためのセンサ移動手段13とから主要部が構成されている。前記洗浄容器11には、洗浄液を貯留する容器14、前記洗浄容器11へ洗浄液を送液するためのポンプ15、前記洗浄容器11から洗浄液を排液するための排水弁16が連絡されている。
【0017】
前記センサ10は、例えば、過酸化水素の発生量を直接測定するものや、基質が酵素の触媒作用により分解されて生成する物質を着色させその着色程度を観察するものであってもよい。
【0018】
前記センサ移動手段13は、ステップモータなどの駆動源とセンサ10の位置センサとにより構成され(いずれも図示せず)、ステップモータの正・逆回転によりセンサ10を液中に浸漬することと、センサ10を液中から引き上げることとを制御することができる。また、センサ10を水平方向に移動して前記試料容器4、洗浄容器11及び基準容器12の上方にセンサ10を随時移動することができる。
【0019】
前記コンピュータ3は、入・出力インターフェース17を介して各機器が接続されている。すなわち、内部に記憶装置(ROM/RAM)18及びマイクロプロセッサ(CPU)19が装備された演算部20と、キーボード21やマウス22からなる入力装置23と、CRTやTFTからなる外部表示装置24と、プリンターからなる出力装置25と、FD、CD−RW、DVD−RWなどからなるデータ保存装置26とを接続している。さらに、前記入・出力インターフェース17には、前記反応部1のディスペンサー5、分光測定部2のセンサ移動手段13、ポンプ15及び排水弁16を制御するための制御系信号線27が接続されるとともに、分光測定部2のセンサ10測定用の測定系信号線28が接続される。符号29は各機器を制御するコントローラであり、符号30はセンサ10からの信号をAD変換するAD変換器である。
【0020】
ところで、農業改良普及所、市町村、農業協同組合等で作成される防除暦を参考にすると、使用される農薬の種類が大まかに決まってくる。そこで、前記演算部20の記憶装置(ROM/RAM)18には、農産物の生産地に対応して使用される農薬成分を特定すべく、農業改良普及所、市町村、農業協同組合などで作成される防除暦をデータベース化し、属地的な条件、例えば、都道府県名、市町村名、管轄の農業改良普及所名、管轄の農業協同組合名(JA)、郵便番号及び電話番号などの産地情報に対応して、農作物(例えば、米)に使用されていると思われる複数の農薬成分が記憶されている。
【0021】
前記反応部1においては、定量手法に必要な量(実施例の場合は20ml)の試料をあらかじめ入れた試料容器4と、酵素阻害程度の異なる酵素Aの容器6と、酵素Bの容器7とが設けられ、ディスペンサー5によって酵素Aが0.03U/ml以上、及び酵素Bが0.02U/ml以上の濃度になるように試料容器4にそれぞれ添加される。本実施形態の場合、酵素Aはアセチルコリンエステラーゼであり、酵素Bはブチリルコリンエステラーゼである。また、ディスペンサー5により十分な量の過酸化水素発色試薬(例えば、4−アミノアンチピリンとフェノールとペルオキシターゼの混合液)とともに、遊離コリンをあらかじめ過酸化水素に変換させるため、この時点で酵素C(コリンオキシダーゼ)を十分量(最終濃度で0.5U/ml以上)添加しておくとよい。また、分光測定部2に備えられる基準容器12には、前記試料と比較するために、該試料を除いた緩衝液に同濃度の酵素A、酵素B、酵素C及び過酸化水素発色試薬を添加しておくとよい(第一工程、図1の(1)参照)。
【0022】
次に、前記反応部1の試料容器4は、1時間〜4時間程度放置してインキュベートすることにより、試料中の残留農薬によりそれぞれの酵素の活性を阻害させる反応が行われる(第二工程、図1の(2)参照)。
【0023】
その後、第三工程として、ディスペンサー31により容器9から酵素Aの触媒作用では分解されない基質B’を適当量(実施例の場合は200nMベンゾイルコリンを200μl)試料容器4及び基準容器12に添加し、発生する過酸化水素量に比例した発色量の変化を測定する。(図1の(3)参照)。
【0024】
測定後は、センサ移動手段13によりセンサ10を洗浄容器11に移動して洗浄を行い、適当時間後に第四工程として、ディスペンサー31により容器8から酵素Aに分解される基質A’を適当量(実施例では3.75mMアセチルコリン200μlであるが、望ましくはこの基質も酵素Aにだけ分解され、酵素Bには分解されない基質がよい。)試料容器4及び基準容器12に添加し、第三工程と同様に発生する過酸化水素量に比例した発色量の変化を測定する(図1の(4)参照)。
【0025】
以上のように、試料容器4内でそれぞれの酵素B及び酵素Aにより時系列的な酵素触媒反応を起こさせて、発生する過酸化水素の濃度変化を発色量の変化としてデータ採取する。
【0026】
第三工程での酵素触媒反応は、残留農薬によってある程度酵素活性阻害された酵素Bと基質B’の反応のみのデータが採取できる。その酵素活性阻害程度は残留農薬成分による酵素Bに対する酵素活性阻害能力と残留量に関係する。その活性阻害能力は農薬成分によって決まっており、あらかじめ各農薬成分の残留量と酵素活性阻害程度の関係式を作成しておくことにより、酵素Bの酵素活性阻害能を持つ農薬成分全ての換算濃度を算出することができる。これらの関係式は農作物に使用されていると思われる複数の農薬成分ごとに検量線として記憶装置18のROMに記憶されている(図2参照)。
【0027】
第四工程において、例えば、アセチルコリンである基質A’を投入すると、この場合試料容器4内では、酵素Aと基質A’、酵素Bと基質B’、酵素Bと基質A’の3通りの触媒反応が進行する。純粋に求めたいデータは酵素Aと基質A’の反応速度である。酵素Bと基質B’の反応速度は第三工程のデータから把握できるのでキャンセルできるが、基質A’がアセチルコリンのように酵素Aと酵素Bに同時に分解されるような物質である場合は、その両方の反応速度と各農薬成分の残留量の関係式をあらかじめ作成しておくことで、そのデータからも各成分の換算濃度を算出することができる。これらの関係式も農作物に使用されていると思われる複数の農薬成分ごとに検量線として記憶装置18のROMに記憶されている(図3線参照)。
【0028】
この濃度算出手法はコリンエステラーゼの酵素活性阻害能力を有する有機リン系農薬成分とカルバメート系農薬成分が対象であるが、それぞれの農薬成分は酵素Aと酵素Bに対する酵素活性阻害能が異なるのが現実である(表1参照)。前記第三工程及び第四工程で採取されたデータをそれぞれの算出式に代入して得られた該当農薬成分の濃度の値は、残留している農薬成分のうち、主に酵素を阻害している成分については殆ど等しい値になる。従って、その値が大きく違う成分であれば、実際には、その成分は当該試料には殆ど入っていないと判断することができる。
【0029】
通常、実際にはその地区(例えば一JA管内)においては使用される対象殺虫剤(有機リン系殺虫剤とカルバメート系殺虫剤)は数種類に限られ、残留している可能性のある殺虫剤は実質的に殆どの場合が一種類程度である。したがって、その地区を指定することにより、使用農薬が限定され、しかも二つの種類の各農薬成分による酵素活性阻害程度の違う酵素で前述のようなデータを採取することにより、残留している農薬が実際に特定でき、しかも定量値も正確に把握できることになる。
【0030】
図1に示す直列的な反応に限らず、酵素Aと試料の酵素阻害反応及びそれに引き続き行う基質A’との触媒反応と、酵素Bと試料の酵素阻害反応及びそれに引き続き行う基質B’との触媒反応とを、別々の試料容器内で行い、データを並列的に同時に採取して解析する手法であってもよい。この場合、測定対象となる農薬成分による酵素活性阻害程度が違う酵素Aと酵素Bとを使用することは必須条件であるが、どちらか一方にのみに分解される基質は必要ではなく、それぞれの酵素にインキュベートしたとき、各酵素で分解される条件があれば問題ない。また、それぞれの触媒反応が単一の酵素と基質との反応になるので、精度的には有利であるが、測定装置が複雑となり製造コスト高となる欠点がある。
【0031】
また、前述の酵素及び基質は、必要な条件さえ満足すればアセチルコリンエステラーゼ、ブチリルコリンエステラーゼ、アセチルコリン及びベンゾイルコリンに限定されるものではない。また、本手法によれば、酵素A及び酵素Bの2種の酵素により農薬成分を特定するものであり、以下の作用・効果がある。
【0032】
すなわち、一つの酵素に対する酵素活性阻害能は、農薬成分ごとに大きく違ってくるのが現実である。ある試料に酵素活性阻害能の高い成分が少量残留していた場合、その信号値を酵素活性阻害能の低い成分の算出式に当てはめた場合、その農薬成分の算出値が非常に高くなって、基準値以上の残留があると判定するケースが多々発生することは容易に考えられる。しかしながら、本手法を採用することで、試料中にどちらの農薬成分が主として含まれているのかが容易に判断することができるため、誤判定を防ぐことが可能になる。さらに、有機リン系殺虫剤とカルバメート系殺虫剤のアセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼとの酵素阻害反応のように、それぞれの酵素阻害能が偶然バラバラであって、それぞれの酵素阻害能の比が都合よくばらついている場合に本手法を採用すると、農薬成分の判定に極めて有効な手段となる。
【実施例1】
【0033】
例えば、コンピュータ3の入力装置23から特定の農業協同組合(JA)の名称を入力すると、そのJAの管内において収穫された農産物(例えば、米)には、「A:オキサミル、B:ジクロルボス、C:テトラクロルビンフォス、D:フェノブカルブ、E:プロポキスルの5種類の農薬成分が使われている可能性がある」として記憶装置18のROMから読み出されるとともに、各農薬成分ごと農薬情報として「酵素Aの酵素阻害能定数」、「酵素Bの酵素阻害能定数」及び「阻害能比率」が記憶装置18のROMから読み出される(表1参照)。
【0034】
【表1】

【0035】
そして、マイクロプロセッサ19においては、入・出力インターフェース17を介して反応部1を制御するための制御信号がコントローラ29に出力されるとともに、AD変換器30及び入・出力インターフェースを介して分光測定部2の酵素阻害程度の実測値が入力される。
【0036】
そして、前記第三工程での酵素阻害法(酵素Bに対する活性阻害能)で測定したときの信号が採取され、マイクロプロセッサ19において農薬成分A(オキサミル)の算出式に入れた場合の換算濃度が1.0ppmと算出されたとすれば、その他の農薬成分B(ジクロルボス)、C(テトラクロルビンフォス)、D(フェノブカルブ)及びE(プロポキスル)の換算濃度表示は図2を参照すれば以下のようになる。
農薬成分B(ジクロルボス) 1.0×30.0/15.6= 1.92(ppm)
農薬成分C(テトラクロルビンフォス) 1.0×30.0/ 1.6=18.75(ppm)
農薬成分D(フェノブカルブ) 1.0×30.0/40.4= 0.74(ppm)
農薬成分E(プロポキスル) 1.0×30.0/ 7.6= 3.94(ppm)
【0037】
この換算濃度表示だけではどの農薬成分が残っているのか分からないので、次に、前記第四工程での酵素阻害法(酵素Aに対する活性阻害能)で測定したときの信号を採取する。この信号は農薬成分A乃至Eのいずれかの換算濃度値と一致する。前記第四工程で採取された信号が、例えば、前記第三工程での農薬成分B(ジクロルボス)の換算濃度値(1.92ppm)と同様であったとすれば、農薬成分B(ジクロルボス)が試料中に残留していると判定され、その濃度は1.92ppmであるということが判明し、外部表示装置24又は出力装置25に表示される。外部表示装置24又は出力装置25に表示された後は、後で照合ができるようにデータ保存装置26に保存される。
【0038】
そのときの他の農薬成分A(オキサミル)、C(テトラクロルビンフォス)、D(フェノブカルブ)及びE(プロポキスル)の換算濃度表示は図3を参照すれば以下のようになる。
農薬成分A(オキサミル) 1.92×135.2/66.3=3.92(ppm)
農薬成分C(テトラクロルビンフォス)1.92×135.2/300=0.865(ppm)
農薬成分D(フェノブカルブ) 1.92×135.2/2.6=99.84(ppm)
農薬成分E(プロポキスル) 1.92×135.2/35.7=7.27(ppm)
【0039】
これらの換算濃度値は、第三工程で算出したそれぞれの農薬成分濃度値とは大きく異なるため、少なくともそれぞれの酵素阻害反応にはこれらの農薬成分は殆ど関与していないことが分かる。
【0040】
ところで、農産物(例えば、米)が安全か否かの判定は、前記第三工程及び第四工程で算出した濃度が残留基準値以下か否かを判定すればよい。従来の1種類の酵素による測定であると、A乃至Bいずれかの農薬成分の換算濃度値が、基準値を超えてしまうと「危険である」と判定していたが、本発明のように2種類の酵素を使用することで安全か否かの判定が高精度となり、誤判定を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明における残留農薬検査方法およびその装置を示した構造図である。
【図2】農薬成分A乃至Eの酵素Bに対する酵素阻害能定数と換算濃度値との関係を示すグラフである。
【図3】農薬成分A乃至Eの酵素Aに対する酵素阻害能定数と換算濃度値との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 反応部
2 分光測定部
3 コンピュータ
4 試料容器
5 ディスペンサー
6 容器
7 容器
8 容器
9 容器
10 センサ
11 洗浄容器
12 基準容器
13 センサ移動手段
14 容器
15 ポンプ
16 排水弁
17 入出力インターフェース
18 記憶装置
19 マイクロプロセッサ
20 演算部
21 キーボード
22 マウス
23 入力装置
24 外部表示装置
25 出力装置
26 データ保存装置
27 制御系信号線
28 測定系信号線
29 コントローラ
30 AD変換器
31 ディスペンサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農薬を含む試料溶液中に酵素活性阻害程度の異なる複数の酵素と、発色試薬などの反応量を把握するための試薬とを添加し、十分な時間をかけてインキュベートを行った後、前記各酵素の少なくとも一方では分解されない基質を混入し、前記試料溶液に含有される酵素基質もしくは酵素反応によって生成する物質の濃度から農薬成分を特定するとともにその濃度を算出する残留農薬検査方法であって、
前記試料の産地情報を指定することにより試料に含有される農薬成分を複数種に限定するとともに、限定された複数種の農薬成分ごとに前記各酵素の酵素活性阻害能に関する検量線を作成し、さらに、前記試料溶液に含有される酵素基質もしくは酵素反応によって生成する物質の濃度を測定するとともに、その濃度を前記複数の検量線に当てはめて換算濃度を算出し、該複数の検量線において換算濃度が一致するものがあった場合に、該検量線に対応する農薬成分が残留農薬であると判定することを特徴とする残留農薬検査方法。
【請求項2】
前記試料の産地情報は、農業改良普及所、市町村、農業協同組合などで作成される防除暦を情報源としてなる請求項1記載の残留農薬検査方法。
【請求項3】
前記試料の産地情報の指定は、都道府県名、市町村名、管轄の農業改良普及所名、管轄の農業協同組合名、郵便番号及び電話番号のうち少なくともいずれか1つを指定してなる請求項1又は2記載の残留農薬検査方法。
【請求項4】
前記試料溶液中に添加する複数の酵素は、アセチルコリンエステラーゼと、ブチリルコリンエステラーゼとを使用してなる請求項1乃至3のいずれかに記載の残留農薬検査方法。
【請求項5】
前記アセチルコリンエステラーゼの触媒作用では分解されないベンゾイルコリンを基質として添加してなる請求項4記載の残留農薬検査方法。
【請求項6】
農薬を含む試料溶液中に酵素活性阻害程度の異なる複数の酵素と、発色試薬などの反応量を把握するための試薬とを添加する添加手段(5)と、十分な時間をかけてインキュベートを行った後、前記各酵素の少なくとも一方では分解されない基質を混入する混入手段(31)と、前記試料溶液に含有される酵素基質もしくは酵素反応によって生成する物質を検知する検知手段(10)と、該検知手段(10)により検知された物質の濃度から農薬成分を判定するとともにその濃度を算出する演算手段(3)と、を備えた残留農薬検査装置であって、
前記演算手段(3)には、
あらかじめ前記試料の産地情報と関連する複数の農薬成分が記憶されるとともに、該複数の農薬成分ごとに前記各酵素の酵素活性阻害能に関する検量線が複数個記憶された記憶手段(18)と、
前記試料の産地情報を指定することにより前記記憶手段(18)に記憶された複数の農薬成分と、これに関連する検量線とが読み出される読み出し手段(23)と、
該読み出し手段(23)による複数の農薬成分及び検量線の読み出しに基づき、前記検知手段(10)に対し各酵素の酵素活性阻害を測定する信号を送出するとともに、検知された物質の濃度を前記複数の検量線に当てはめて換算濃度を算出し、さらに、該複数の検量線において換算濃度が一致するものがあった場合に、該検量線に対応する農薬成分が残留農薬であると判定する演算部(19)と、
を備えたことを特徴とする残留農薬検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−333704(P2006−333704A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−158360(P2005−158360)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000001812)株式会社サタケ (223)
【Fターム(参考)】