説明

段差緩衝構造

【課題】場所打ち、プレキャスト製品ともに、ひび割れや欠けによるブロック化(小割)が生じず、耐久年数が大幅に伸び、ライフサイクルコストの縮減がはかれるばかりでなく、快適により安全に段差部の通過を可能とする。
【解決手段】材齢28日の硬化体の引張試験において引張ひずみが1%以上を示すクラック分散型の高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料であって、下記〔F1〕のPVA短繊維を、水セメント比(W/C×100)25%以上でかつ砂セメント比(S/C)が1.5以下(0を含む)の調合マトリクスに1.0超え〜3vol.%の配合量で、3次元方向にランダムに分散配合してなる高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料を充填してスロープに整形した、または、この高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料で成形したブロックを段差部に配置したことを特徴とする段差緩衝構造。
〔F1〕繊維強度:1500〜2400Mpa、
繊維直径:50μm以下、繊維長さ:5〜20mm。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駐車場や敷地と道路との間の段差や歩道や自転車道の車道横断部における段差などの段差を解消する段差緩衝構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、駐車場や敷地と道路の間には、一般に段差が存在し、この段差によって、自動車や自転車などの通過時に支障が生じる場合がある。このため、段差部分を解消あるいは補正する目的で、モルタルやコンクリートを充填し、あるいは金属製品としてのチェッカードプレートを加工したものや断面三角状のブロックやパッドを設置して段差を解消することが一般に行われている。
【0003】
図2は、駐車場1などと道路2などとに段差3がある場合に、モルタル4による段差解消材を配設した場合である。図中5は排水管である。
【0004】
また、下記特許文献1は、車両走行用軽量スロープ体として、硬質発泡樹脂よりなる平行六面体、該平行六面体の前面が傾斜面であるパネル状のユニットを傾斜面が面一になるように積み重ね、最上段には前面が傾斜面で側面が三角形状のユニットを傾斜面が面一となるように積み重ねてスロープ体を形成する。
【特許文献1】特開平11−200644号公報
【0005】
また、下記特許文献2は、屋外内用段差解消化粧スロープとして、傾斜板と、この傾斜板の一側から下方へ垂下する立上板、傾斜板と立上板の側面部をおおう側面板と、側面の底辺及び立上板の側部に設けられた取付板とからなる。
【特許文献2】特開2000−129882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
段差には、車などによって局所的な衝撃力が繰り返し作用するため、モルタルやコンクリートを充填する従来の段差緩衝構造では、ほとんどの場合、設置した初期の段階において、図2、図3に示すようにひび割れ6aや欠け6bによる破壊を生じ、機能しなくなることが一般的である。
【0007】
また、金属製品としてのチェッカードプレートを加工したものは不安定で、重量物の通過に耐えられない。
【0008】
一方、断面三角状のブロックやパッドを設置ものでは、別途設置する三角ブロックに樹脂系のものを用いた場合は、ひび割れや欠けによるブロック化は、しにくくなるが、別途設置するため、実際の段差との取り合いを密着させることは難しく、車の通過時に"がた"が生じて不安定な動きが生じ、それに伴う騒音や振動も増してくるという問題があった。
【0009】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、場所打ち、プレキャスト製品ともに、ひび割れや欠けによるブロック化(小割)が生じず、耐久年数が大幅に伸び、ライフサイクルコストの縮減がはかれるばかりでなく、快適により安全に段差部の通過を可能とする段差緩衝構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため請求項1記載の本発明は、材齢28日の硬化体の引張試験において引張ひずみが1%以上を示すクラック分散型の高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料であって、下記〔F1〕のPVA短繊維を、水セメント比(W/C×100)25%以上でかつ砂セメント比(S/C)が1.5以下(0を含む)の調合マトリクスに1.0超え〜3vol.%の配合量で、3次元方向にランダムに分散配合してなる高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料を充填してスロープに整形したことを特徴とする段差緩衝構造。
〔F1〕繊維強度:1500〜2400Mpa、
繊維直径:50μm以下、繊維長さ:5〜20mm。
【0011】
請求項1記載の本発明によれば、ひび割れや欠けによるブロック化(小割)が生じず、耐久年数が大幅に伸び、ライフサイクルコストの縮減がはかれる。
【0012】
また、通常のモルタルやコンクリートを現場で打設する方法では、スロープ先端部の厚さが薄い箇所では、割れやすくなるため、先端部の厚さを確保する必要があるが、本発明では、この先端部の厚さを2〜5mmと小さくすることができる。また、PVA繊維が含まれるため、打設後は、通常のモルタルと比較して、傾斜部の勾配がある程度急な場合でも傾斜部の抑え用の型枠を設けずにコテ仕上げだけで簡易的に傾斜部の表面を整形することが可能である。
【0013】
なお、高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料を打設する際には、分散したPVAの短繊維が段差緩衝構造のスロープ端部の薄い箇所や欠け易い角に部分に充分行き渡るように打設することによって品質のよい段差緩衝構造を施工することができる。
【0014】
請求項2記載の本発明は、高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料は、流し込みで充填することを要旨とするものである。
【0015】
請求項2記載の本発明によれば、段差の高さによって、高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料の流動性をコントロールし、打設した高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料が流れないようにする。それにより高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料を段差に流し込み、コテなどで成形するだけで簡単に施工できる。打設は、繊維が面的に分散するように層状に打設する.
【0016】
請求項3記載の本発明は、高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料の打設予定面に、孔あるいは溝などの凹部を設けておき、流し込み充填する高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料はこれら孔あるいは溝などの凹部に入り込み硬化後に凹部にせん断キーが形成されることを要旨とするものである。
【0017】
既設のコンクリート、アスファルトなどからなる段差部に段差解消材を一体化させる場合には、一般に打設面を清掃して面ばつりなどして材料との付着をよくすることが望ましい。
【0018】
請求項3記載の本発明によれば、段差の底部や当接面に高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料が充填できる程度の孔ないしは溝を設けておき、硬化後、この部分がせん断キーとしてずれ止め機能を持たせることにより、完全に密着させることができる。
【0019】
請求項4記載の本発明は、段差部の上段面より高い部分まで高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料を盛り上げ、上段の段差の角を巻き込んだ状態で高靱性セメント系繊維補強セメント複合材を打設したことを要旨とするものである。
【0020】
請求項4記載の本発明によれば、段差部の上段の段差の角を巻き込んだ状態で高靱性セメント系繊維補強セメント複合材を打設することにより、欠け易い角を保護することができる。
【0021】
請求項5記載の本発明は、材齢28日の硬化体の引張試験において引張ひずみが1%以上を示すクラック分散型の高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料であって、下記〔F1〕のPVA短繊維を、水セメント比(W/C×100)25%以上でかつ砂セメント比(S/C)が1.5以下(0を含む)の調合マトリクスに1.0超え〜3vol.%の配合量で、3次元方向にランダムに分散配合してなる高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料で成形した段差用ブロックを段差部に配設したことを要旨とするものである。
〔F1〕繊維強度:1500〜2400Mpa、
繊維直径:50μm以下、繊維長さ:5〜20mm。
【0022】
請求項5記載の本発明によれば、ゴム系や樹脂系で作られている製品の三角コーナーを高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料のプレキャスト製品として作製することによって、場所打ちのような一体化は図れないが、従来品に比べて重量があるため、より安定しやすく、また車などの走行によって三角コーナーが動いたとしても欠けなどを生じない。
【0023】
請求項6記載の本発明は、シート性の型枠を段差部の底部と、段差当接面に貼り付け、ブロックに相当する位置に板状の型枠を配置して高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料を流し込み、スロープ部表面を整形し、硬化した後に型枠やシートをはがしてブロック伏に構築したことを要旨とするものである。
【0024】
請求項6記載の本発明によれば、現場でブロック化することにより、運搬等の手間を省くことができる。
【発明の効果】
【0025】
以上述べたように本発明の段差緩衝構造は、場所打ち、プレキャスト製品ともに、ひび割れや欠けによるブロック化(小割)が生じず、耐久年数が大幅に伸び、ライフサイクルコストの縮減がはかれるばかりでなく、快適により安全に段差部の通過を可能とすることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の段差緩衝構造の1実施形態を示す縦断側面図で、前記従来例を示す図2と同じく、駐車場1などと道路2などとに段差3がある場合で、3aは段差当接面、3bは段差の底部である。
【0027】
本発明はこのような段差3に対して、引張ひずみが1%以上を示すクラック分散型の高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料7を充填してスロープ8に整形した。図中5は段差3の角隅部に配設する排水管である。
【0028】
高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料7は、さらに詳しく説明すると、安価な汎用材料であるPVA繊維(マトリクス中の見かけ繊維強度は高性能ポリエチレン繊維の1/2〜1/3程度でしかない)を用いて高靭性FRCを実現する。
【0029】
高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料7は、材齢28日の硬化体の引張試験において引張ひずみが1%以上を示すクラック分散型の繊維補強セメント複合材料(FRC材料)であって、下記〔F1〕のPVA短繊維を、水セメント比(W/C×100)が25%以上で且つ砂セメント比(S/C)が1.5以下(0を含む)の調合のマトリクスに、1.5超え〜3vol.%の配合量で、3次元方向にランダムに分散配合してなる。
〔F1〕
繊維強度:1500〜2400MPa
繊維直径:40〜50μm
繊維長さ:50μm以下
【0030】
高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料7は、自己充填タイプ(流し込み)のものであり、モルタルと同様に施工することができ、流し込みで充填する。高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料7は、自己充填タイプを用いることで、モルタル同様に施工することができ、段差のコンクリートやアスファルト9と場所打ちした高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料7を一体化させることが可能である。
【0031】
この場合、高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料7の打設予定面に、孔10あるいは溝11などの凹部12を設けておき、流し込み充填する高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料7はこれら孔10あるいは溝11などの凹部12に入り込み硬化後に凹部12にせん断キーが形成される。
【0032】
また、段差部の上段面より高い部分まで高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料7を盛り上げ、この盛り上げ部13で上段の段差の角を巻き込んだ状態で高靱性セメント系繊維補強セメント複合材7を打設する。
【0033】
高靱性セメント系繊維補強セメント複合材7で形成される段差緩衝構造のスロープ8の表面の摩擦係数は、通常のモルタル、コンクリートと同程度であるが、高靱性セメント系繊維補強セメント複合材7によるスロープ表面の摩擦係数を増す必要がある場合には、高靱性セメント系繊維補強セメント複合材7の打設後直ぐに、小砂利を表面に撒くことによって、表面の滑りを改善することができる。
【0034】
他の実施形態として、高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料7は、プレキャスト材として段差用ブロック14として成形し、これを駐車場1などと道路2などとに段差3がある場合の段差部に配設した。
【0035】
ブロックの形状は特に限定はなく、鉄筋コンクリート製の従来製品としての段差用ブロックと同じ形状でもよい。なお、欠けが生じ難いので、先端部14aを鉄筋コンクリート製の従来製品よりも薄く成形でき、路面に近づけることができる。
【0036】
かかるブロック化は工場製作品として、現場まで運搬してもよいが、シート性の型枠を段差部の底部と、段差当接面に貼り付け、ブロックに相当する位置に板状の型枠を配置して高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料7を流し込み、スロープ部表面を整形し、硬化した後に型枠やシートをはがしてブロック伏に構築することもできる。
【0037】
高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料7の段差用ブロック14は、樹脂製のブロック構造体に比較して、重量があり、塑性であるため変形後は既設コンクリートになじむため、より安定しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の段差緩衝構造の1実施形態を示す縦断側面図である。
【図2】本発明の段差緩衝構造の2実施形態を示す縦断側面図である。
【図3】従来例を示す縦断側面図である。
【図4】従来例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0039】
1…駐車場 2…道路
3…段差 3a…段差当接面
3b…段差の底部 4…モルタル
5…排水管 6a…ひび割れ
6b…欠け
7…高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料
8…スロープ 9…コンクリートやアスファルト
10…孔 11…溝
12…凹部 13…盛り上げ部
14…段差用ブロック 14a…先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材齢28日の硬化体の引張試験において引張ひずみが1%以上を示すクラック分散型の高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料であって、下記〔F1〕のPVA短繊維を、水セメント比(W/C×100)25%以上でかつ砂セメント比(S/C)が1.5以下(0を含む)の調合マトリクスに1.0超え〜3vol.%の配合量で、3次元方向にランダムに分散配合してなる高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料を充填してスロープに整形したことを特徴とする段差緩衝構造。
〔F1〕繊維強度:1500〜2400Mpa、
繊維直径:50μm以下、繊維長さ:5〜20mm。
【請求項2】
高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料は、流し込みで充填する請求項1記載の段差緩衝構造。
【請求項3】
高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料の打設予定面に、孔あるいは溝などの凹部を設けておき、流し込み充填する高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料はこれら孔あるいは溝などの凹部に入り込み硬化後に凹部にせん断キーが形成される請求項1または請求項2記載の段差緩衝構造。
【請求項4】
段差部の上段面より高い部分まで高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料を盛り上げ、上段の段差の角を巻き込んだ状態で高靱性セメント系繊維補強セメント複合材を打設した請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の段差緩衝構造。
【請求項5】
材齢28日の硬化体の引張試験において引張ひずみが1%以上を示すクラック分散型の高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料であって、下記〔F1〕のPVA短繊維を、水セメント比(W/C×100)25%以上でかつ砂セメント比(S/C)が1.5以下(0を含む)の調合マトリクスに1.0超え〜3vol.%の配合量で、3次元方向にランダムに分散配合してなる高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料で成形した段差用ブロックを段差部に配設したことを特徴とする段差緩衝構造。
〔F1〕繊維強度:1500〜2400Mpa、
繊維直径: 50μm以下、繊維長さ:5〜20mm。
【請求項6】
シート性の型枠を段差部の底部と、段差当接面に貼り付け、ブロックに相当する位置に板状の型枠を配置して高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料を流し込み、スロープ部表面を整形し、硬化した後に型枠やシートをはがしてブロック状に構築した請求項5記載の段差緩衝構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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