説明

殺菌安定化ナノ分散物の調製

【課題】薬剤のような重要な生物学的活性剤の多くは疎水性であり、該薬剤の溶解形態又はナノ分散形態を患者に投与する必要があるが、例えば、疎水性薬剤を可溶化するために界面活性剤ミセルを使用することに基づく方法では、その界面活性剤の幾つかは比較的毒性であり、希釈した際に疎水性薬剤の沈殿が起こる、という問題を抱えている。
【解決手段】ポリマー及び生物学的活性組成物を含む、殺菌された安定化ナノ分散物又は負荷ミセルの製造方法;特に、両親媒性のブロックポリマー又は低分子量界面活性剤、生物学的活性剤、任意の添加物、及び適当な溶媒を含む安定化溶液の凍結乾燥によって製造された凍結乾燥ケーキの再水和によって製造されるナノ分散物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー及び生物学的活性組成物を含む、殺菌され安定化したミセル又はナノ分散物、特に、両親媒性ブロックコポリマー又は低分子量界面活性剤のような分散剤、生物学的活性組成物、適当な溶媒、及び、適宜、添加物を含む溶液の直接的な凍結乾燥を介して製造された凍結乾燥ケーキの再水和によって製造されたミセル又はナノ分散物に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤のような重要な生物学的活性剤の多くは、疎水性であって水に対する限られた溶解性しか有していない。このような薬剤の期待される治療効果を得るには、通常、該薬剤の溶解形態又はナノ分散形態を患者に投与する必要がある。
【0003】
従って、補助溶媒;界面活性剤;薬剤の可溶形態、例えば、塩及び溶媒和物、薬剤の化学的修飾形態、例えば、プロドラッグ;可溶性ポリマー−薬剤複合体;リポソームのような特殊な薬剤キャリア;及びその他の使用に基づき、数多くの方法が開発されてきた。実際に、両親媒性ブロックコポリマーミセルは、水性環境において疎水性薬剤を可溶化することのできる潜在的に有効な薬剤キャリアとして多大な関心が寄せられてきた。このような各方法はいずも、一つ以上の特定の問題に阻まれている。例えば、疎水性薬剤を可溶化するために界面活性剤ミセルを使用することに基づく方法では、その界面活性剤の幾つかは比較的毒性であり、希釈した際に疎水性薬剤の沈殿が起こる、という問題を抱えている。
【0004】
疎水性化合物、特に医薬組成物のナノ分散物の調製方法に関して様々な方法及び操作が従来技術として記載されている。水性又は親水性環境における限られた溶解性しか有しない疎水性生物学的活性剤を、該生物学的活性剤に対するキャリアとして作用することが出来るミセルを形成するブロックコポリマーに取り込ませることが知られている。
【0005】
ポリマーキャリア内に一つ以上の生物学的活性剤を取り込ませたり可溶化させたりするために、様々な方法が単独で又は組み合わせて利用されてきた。これらの従来技術には、以下のものがある。
【0006】
(1)攪拌(Stirring)
この方法は、薬剤をポリマーミセル溶液に添加し、薬剤をミセル核内に溶解させることから成る。このような操作では、主に薬剤の水性媒体に対する親和性が低いことにより一般的に捕獲効率(entrapment efficiency)が低い。水溶液はその後凍結乾燥することが出来る。
【0007】
(2)加熱(Heating)
薬剤及びブロックコポリマーを有機溶媒に溶解させ、高熱(窒素雰囲気下又は真空下で回転エバポレータによる約40℃から約80℃)でその溶媒を蒸発させる。得られる混合物を約20℃から80℃、好ましくは40−70℃で2時間維持する。その後、温水(約40℃から70℃)を加え、混合物を薬剤含有ポリマーミセルが形成されるまで攪拌する。
【0008】
(3)超音波処理(Ultrasonic Treatment)
薬剤及びブロックコポリマー水溶液を約1秒から1時間の範囲の超音波処理にかけ、その後、室温で薬剤含有ミセルが得られるまで攪拌する。
【0009】
(4)溶媒蒸発(Solvent Evaporation)
薬剤を、例えば、ジクロロメタン、クロロホルムのような水不混和性有機溶媒に溶解させ、ブロックコポリマー水溶液に加える。その後、例えば、適宜真空下で25−40℃で攪拌しながら、有機溶媒を徐々に蒸発させ、その後、不溶解薬剤を濾過して除去する。
【0010】
(5)透析(Dialysis)
薬剤及びブロックコポリマーを水混和性有機溶媒にさせる。溶液を緩衝溶液、次いで水に対して透析する。透析方法において、薬剤溶解用の適当な水混和性有機溶媒には、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキサン及びジメチルアセタミド(DMAC)のようなものが含まれる。
【0011】
負荷されない薬剤は有機溶媒と共に拡散するか、及び/又は透析バッグ内に沈殿する。沈殿した薬剤は、濾過によって除去することができる。その後、コロイド状分散物を凍結乾燥させる。
【0012】
(6)乳濁化(Emulsification)―蒸発/塩析(Salting Out)操作
薬剤及びポリマーを水中に乳化した水不混和性有機溶媒に溶解させる。水相には安定化剤が含まれていても良い。有機溶媒を蒸発又はその他の方法で除去する。必要ならば、ナノ分散物を更に精製して安定化剤を除去しても良い。その後、コロイド状分散物を凍結乾燥させる。
【0013】
(7)噴霧乾燥(Spray-Drying)
薬剤を有機溶媒に溶解させ、次いで、霧状にして薬剤負荷ナノ粒子を得る。このようなプロセスは温度感受性薬剤には採用できず、1μm未満の粒子を製造には適していない。
【0014】
(8)マイクロ化(Micronization)/調節沈殿(Controlled Precipitation)/高圧均一化(High Pressure Homogenization)
これらの方法はナノスケールの薬剤分散物の製造を目的としたものである。このような技術は殆ど全ての種類の疎水性薬剤に適用することが出来る。これらは全て特別の専門的な装置を必要とするか、及び/又は調節が困難である。
【0015】
以上の各操作には欠点がある。例えば、幾つかの操作では安定化剤を除去する必要がある。他の操作では捕獲効率が低く(例えば、平衡)、相対的に大きな粒径(例えば、噴霧乾燥)又は時間を要する(例えば、透析)。
【0016】
従来技術
多くの研究、文献及び特許が、界面活性剤様の特性を有する両親媒性ブロックポリマーの使用、特に、それらを疎水性薬剤のキャリアとして使用することに関して向けられてきた。
【0017】
例えば、欧州特許第0397307A2号明細書には、親水性成分としてポリ(エチレンオキサイド)及び疎水性成分としてポリ(アミノ酸誘導体)を有するAB型両親媒性ジブロックコポリマーのポリマーミセルが開示されており、治療上有効な活性剤が該ポリマーの疎水性成分に化学的に結合している。
【0018】
一方、欧州特許第0583955A2号明細書には、疎水性薬剤を上記欧州特許第0397307A2に記載の両親媒性ジブロックコポリマー内に物理的に取り込ませる方法について開示している。この方法は上記の化学的結合型ポリマーミセル薬剤の欠点を解消するものである。
【0019】
米国特許4,745,160号明細書には、薬学的又は獣医学的に許容される、親水性成分としてポリエチレングリコール及び疎水性成分としてポリ(D−,L−及びDL−乳酸)を有する、両親媒性、非架橋、直鎖、分岐又はグラフトのブロックコポリマーが開示されている。調製プロセスにいて、水混和性で凍結乾燥可能な有機溶媒が使用されている。薬剤、ポリマー、及び有機溶媒の混合物を水と混合し、沈殿を形成し、その後、この混合物を直接凍結乾燥して粒子を形成する。その後に、この粒子を水に分散させると、親水性成分及び疎水性成分が混合した微細粒子を含むコロイド状懸濁物を形成する。
【0020】
従来技術の開示とは対照的に、本発明によれば、凍結乾燥前に濾過(220nm孔径フィルター)によって殺菌(滅菌)可能な透明溶液が形成され、それは容易に再構成される保存可能な粉末が得られる。特徴的なことは、ミセル又はナノ分散物が、水性媒体の添加によって直ちに且つ自発的に製造されることである。これは、まず最初にナノ分散物を製造し、その後それを凍結乾燥及び再構成する従来技術におけるプロセスとは直接に対照的である。更に、本発明方法では負荷操作(loading procedure)における薬剤の欠損がない。
【0021】
米国特許第6,322,805号明細書には疎水性薬剤を親水性環境中に可溶化することが出来る生物分解性ポリマー薬剤キャリアミセル組成物が開示されている。この特許は生物分解性ポリマー薬剤キャリアミセル及びポリマー薬剤キャリアミセル内に共有結合によっては結合されておらず物理的に捕捉されている疎水性薬剤を開示している。薬剤キャリアミセルは水中に可溶化可能で、それ自身の溶液を形成し、薬剤キャリアは親水性ポリ(アルキレンオキサイド)成分、及び、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−共−グリコール酸)、ポリ(ε―カプロラクトン)、その誘導体、及びそれらの混合物から成る群から選択された生物分解性疎水性ポリマー成分を有する両親媒性ブロックコポリマーを含有する。こうして得られた薬剤溶液は長期保存の為に凍結乾燥することが出来、凍結乾燥された生物分解性ポリマーミセル型薬剤組成物は水又は当張液を用いて元の溶液に戻すことが出来る。この特許も又、凍結乾燥ケーキの再構成の際に、殺菌ナノ分散物が自発的に作られるような方法に関しては開示ないし教示していない。
【0022】
米国特許第5,543,158号明細書には、主にポリ(アルキレングリコール)及び生物分解性ポリマーであるポリ(乳酸)から成るブロックコポリマーから形成されたナノ粒子又はマイクロ粒子が開示されている。このナノ粒子又はマイクロ粒子において、コポリマーの生物分解性部分はナノ粒子又はマイクロ粒子の核にあり、ポリ(アルキレングリコール)部分はナノ粒子又はマイクロ粒子の網内系への取り込みを減少させるだけの量で該ナノ粒子又はマイクロ粒子の表面上にある。この特許において、ブロックポリマーの分子量は大きすぎて水に溶解できず、ナノ粒子はまずブロックポリマー及び薬剤を有機溶媒に溶解し、超音波又は攪拌によってo/w乳化物を形成し、そして薬剤を含有する沈殿したナノ粒子を回収する。この特許には、疎水性薬剤の可溶化という概念を開示しておらず、又、ポリマー/薬剤混合物を含む、透明で殺菌された溶液の形成及びそれに続くその凍結乾燥によって、再構成によって形成される容易に分散可能なナノ分散物について教示ないし示唆されていない。
【0023】
欧州特許第0520888A1 号明細書には、ポリ(乳酸)及びポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーから成るナノ粒子が開示されている。高分子量のポリ(乳酸)使用されており、ナノ粒子コロイド状懸物濁物を調製するのに表面活性剤が採用されている。この特許では、ナノ粒子はブロックコポリマー及び薬剤を有機溶媒に溶解し、該有機溶液を水中に乳化し、そして有機溶媒を蒸発させて薬剤含有ナノ粒子を沈殿させることによって調製している。得られたナノ粒子は親水性及び疎水性成分の両者を有する微細粒子であり、水に可溶性ではない。
【0024】
米国特許第4,370,349号明細書及び第4,311,712号明細書には、(a)少なくとも一種のリポソーム形成両親媒性脂質、少なくとも一種の生物学的活性化合物、及び適宜一つ以上のアジュバントを適当な溶媒に溶解し、その後、該溶液を凍結乾燥するか、又は、(b)任意の公知方法によって少なくとも一種の生物学的活性化合物を含有する水性リポソーム組成物を調製し、その後、該水性リポソーム組成物を凍結乾燥する、ことから成る、凍結乾燥したリポソーム形成可能混合物の調製方法が開示されている。これらの特許は、特に、上記(a)又は(b)の方法で得られた凍結乾燥したリポソーム形成可能混合物を適当な水性媒体中に分散させることから成る水性リポソーム組成物の調製方法に関する。本発明方法は、リポソーム製造に関するものではない。
【0025】
これらの特許は、凍結乾燥前にろ過(例えば、孔径約220nmのフィルター媒体の使用)によって殺菌することができる、透明溶液を形成し、その後の凍結乾燥によって容易に再構成できる保存可能な粉末を得、そして負荷操作において薬剤の損失がないことは開示されていない。更に、これらの特許には、水の添加によって、両親媒性ポリマーによって安定化された薬剤負荷ミセル又は薬剤ナノ分散物を製造する殺菌薬剤調剤の製造方法について教示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
従来技術が抱える問題を解決する為に、ここに開示される発明は、例えば薬剤のような生物学的活性剤、例えば、ポリマー、コポリマー、低分子量界面活性化剤、又はその類似物のような分散剤、並びに、非限定例として塊形成添加物、凍結防止剤(cryoprotectant)、及び、分散保護剤(lyoprotectant)のような適宜の添加物が溶解された、有機溶媒若しくはその混合物、又は、水と有機溶媒との混合物の凍結乾燥に関する。このような溶液は、凍結乾燥前にろ過によって殺菌することが可能であり、その後に凍結乾燥され、粉末又はケーキを形成する。得られた凍結乾燥物質は保存でき、その後に、水性溶液を添加することによって使用前に再分散される。有機溶媒は凝縮器で回収され、更に使用するためにリサイクルされる。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、再構成(reconstitution)によって直接にナノ分散物を得るための簡潔で優雅な方法であり、それによって、例えば、両親媒性生物分解性ポリマー又はコポリマー、あるいは低分子量界面活性剤のような適当な分散剤によって安定化された、薬剤負荷(drug-loaded)ミセル又は薬剤ナノ分散物(nanodispersion)を形成する。負荷操作において薬剤の損失がない。
【0028】
適当な分散剤の非限定例には、直鎖、分岐、又は星状ブロック両親媒性コポリマーが含まれ、親水性部分としては、ポリ(エチレンオキサイド)、ポリ(N’−ビニルピロリドン)、ポリ(N−2−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(グリシドール)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリメタクリル酸誘導体、ポリ(ビニルピリジニウム)、ポリ((アンモニウムアルキル)メタクリレート)、ポリ((アミノアルキル)メタクリレート)及びそれらの組み合わせから成る群から選択される少なくとも一つの成分を含み、疎水性成分が、ポリ(エステル)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(アミド)、ポリ(エステルアミド)、ポリ(アンハイドライド)、ポリ(プロピレンオキサイド)、ポリ(テトラヒドロフラン)及びそれらの組み合わせから成る群から選択される少なくとも一つの成分を含む。
【0029】
ポリ(エステル)は、ポリ(ε−カプロラクタム)、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコライド)、ポリ(ラクチド−コ−グリコラド)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)(例えば、ポリ(γ−ヒドロキシブチレート)、ポリ(δ―ヒドロキシバレレート)、ポリ(β−マレイン酸)及びそれらの誘導体から成る群から選択される少なくとも一つの成分であり得る。
【0030】
低分子量界面活性化剤の非限定例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ヘキサデシルピリジニウムクロライド、ポリソルベート、ソルビタン、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル類、ポリ(オキシエチレン)アルキルエステル類、及びそれらの様々な組み合わせから成る群から選択される少なくとも一つの成分を含むことが出来る。
【0031】
本発明の範囲限定をするものではないが、本発明に従い製造されるナノ分散物に取り込まれる適当な生物学的活性剤としては、抗がん剤、抗炎症鎮痛剤、免疫抑制剤、肝炎治療剤(hepatism remedies)、ホルモン組成物、化学治療剤、代謝薬剤、消化疾患治療剤、呼吸器官疾患治療剤、抗アレルギー薬剤、中枢神経系疾患治療剤、抹消疾患治療剤、及び、循環疾患治療剤が含まれる。最も広い概念において、本発明の「生物学的活性剤」はヒト及び動物用薬剤、ホルモン、マーカー化合物等を含むものである。
【0032】
本発明は、不利なpH、温度、及び或る型の溶媒環境への暴露に感受性があるか、又は分解されるような生物学的活性剤を含む製剤の製造に特に適している。
【0033】
本発明において取り込まれる疎水性薬剤として特に関心があるものの非限定例としては、パクリタクセル(paclitaxel)、ドクソルビシン(doxorubicin)、メルファラン(melphalan)、ドセタキセル(docetaxel)、テニポサイド(teniopside)、エトポサイド(etoposide)、ダウノマイシン(daunomycin)、ビンブラスチン(vinblastine)、インドメサシン(indomethacin)、イブプロフェン(ibuprofen)、サイクロスポリン(cyclosporine)、タクロリマス(tacrolimus)、ビフェニルジメチルジカルボキシレート、ケトコナゾール(ketoconazole)、アムフォテリシンB(amphotericin B)、フェノバイブレート(fenobibrate)、及びビフェニルジメチルジカルボキシレート(DDB)から成る群から選択される成分である。
【0034】
適当な溶媒又はそれらの混合物は、適当量の薬剤を変質(変性)又は劣化なく、溶解させることが出来る。好適な溶媒(又は溶媒混合物)は凍結乾燥操作の間変化せず、ゴム栓に対して不活性である必要がある。溶媒は又、減圧下で容易に除去できる必要がある。数多くの溶媒が本発明方法において機能することが出来るが、このような溶媒の非限定例には、t−ブタノール、n−ブタノール、ジオキサン、ピリジン、ピリミジン、及びピペリジンがあり、それらは単独又は組み合わせのいずれでも使用でき、更に、例えば、水とあらかじめ混合されて二元混合物を形成することが出来る。上記の溶媒のうち、最後の4つは潜在的な毒性問題を提起する可能性が知られている。
【0035】
薬剤の溶解を促進させるために、その他の溶媒を少量(<10%)で添加しても良い。
【0036】
従って、本発明の主な目的は、両親媒性の生物分解性ポリマーを含有する殺菌された負荷ミセル(loaded micelle)又はナノ分散物の形成方法を提供することである。
【0037】
本発明の目的は更に、凍結乾燥前に最初に、生物学的活性剤、ポリマー、及び、適宜、添加物(例えば、塊形成剤、凍結防止剤(cryoprotectant)、及び、分散保護剤(lyoprotectant))及び/又は安定化剤を含む透明溶液を適当な溶媒で形成する方法を提供することである。
【0038】
本発明の目的は更に、透明溶液の形成に使用する溶媒がリサイクル可能である方法を提供することである。
【0039】
本発明の目的は更に、安定化薬剤ナノ分散物を形成する分散容易な安定化凍結乾燥ケーキを製造することである。
【0040】
本発明の他の目的及び効果は、以下の記載と説明及び例示の為に記載された添付の図面並びに具体例を組合わせて明白にあるであろう。図面は本明細書の一部を構成するものであって、本発明の具体例を含み、本発明の様々な特徴及び目的を説明するものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】t−ブチルアルコールを用いた薬剤負荷操作の模式例である。
【図2】調剤9の水添加に続く経時的安定性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1に示した模式例によれば、所定量の生物学的活性剤、例えば、適当なポリマー、コポリマー又は低分子量界面活性剤のような分散剤、及び適宜、例えば、凍結防止剤(cryoprotectant)/分散保護剤(lyoprotectant))/塊形成剤等(例えば、市販品であるポリ(ビニルピロリドン)コリドン(Kollidon)12PF又は17PF(商標), BASF)及び/又は更に安定化剤を、t−ブチルアルコール(TBA)又はTBAと水との二元混合物のような適当な溶媒に溶解させる。本発明の目的のためには、凍結防止剤、分散保護剤及び塊形成剤は互換的に用いられ、「添加物」と称される。他の適当な添加物の非限定的例としては、ポリ(エチレングリコール)、糖類(ラクトース、トレハロース)、ポリオール(マンニトール)及び溶媒又は溶媒混合物に可溶なアミノ酸が含まれる。本明細書における「溶媒」という用語は、広義には、単一の溶媒、溶媒混合物、又は、一種以上の溶媒と水との二元混合物を意味する。一具体例においては、溶液形成を助けるために追加的な溶解促進手段を採用することが出来る。追加的な溶解促進手段の説明のための非限定例としては、必要に応じて、混合物を30秒間渦流化(vortexing)又は超音波処理する方法が含まれる。ある種のポリマーに対しては、溶解を促進させるために溶液を加熱する必要がある。こうして得られる透明な溶液を回転攪拌器(rotary shaker)で室温下30秒間静かに攪拌する。溶液を、例えば、0.2μmフィルターでろ過する。その後、溶液を急速に凍結し2日間乾燥させ、薬剤分散ポリマーの乾燥ケーキが得られる。
【0043】
最後に、凍結乾燥ケーキを所定量の水、食塩水(0.9%)又はデキストロース溶液(5%)で再水和(rehydration)して安定なナノ分散物を自発的に製造する。平均粒子径は動的光散乱で測定する。
【実施例1】
【0044】
t−ブチルアルコール(TBA)及び水混合物を用いる凍結乾燥法による、PVP−b−PDLLAジブロックコポリマーミセル内へのドセタキセル(docetaxel)の取り込み
【0045】
PVP−b−PDLLAジブロックコポリマーは、PVP−OH開始剤を用いるD,L−ラクチドの開環重合によって調製した(米国特許6,338,859号明細書)。それはゲル透過クロマトグラフィ、元素分析、及び核磁気共鳴分光法によって解析した。数平均分子量(Mn)、多分散指数(polydispersity index)及びPDLLA含量は、夫々、4,600、1.3及び37mol% であった。
【0046】
ポリマーを水に溶解させて146.15mg/mL の濃度を得た。薬剤をTBAに溶解して7.14mg/mL の濃度を得た。最終ポリマー濃度を27.14mg/mL(最終全容量:0.7mL)にするために、所定量の純水をポリマー溶液に添加した(表1)。後に添加する薬剤溶液の容量を考慮して、所定量の純粋なTBAをこの水性ポリマー溶液に添加して異なる水/TBA比を得た。
【0047】
最後に、TBA中の薬剤を添加し、薬剤の最終負荷レベル5%(w/w)を得た。得られた透明な溶液を約6℃で3時間静かに攪拌した。
【0048】
【表1】

【0049】
溶液を0.2μmフィルターで濾過し、−80℃で急速に凍結し48時間乾燥させた。凍結乾燥したケーキは5%デキストロース(3mL)で再水和した。平均粒子径は動的光散乱によって測定し120時間モニターした。径に関する結果は表2にまとめた。
【0050】
【表2】

【実施例2】
【0051】
t−ブチルアルコール(TBA)及び水混合物を用いる凍結乾燥法による、PVP−b−PDLLAジブロックコポリマーミセル内へのパクリタキセル(PTX)の取り込み
【0052】
PVP−b−PDLLAジブロックコポリマーは実施例1と同様に調製し、特性を確認した。数平均分子量(Mn)、多分散指数(polydispersity index)及びPDLLA含量は、夫々、4,600、1.3及び37mol% であった。
【0053】
ポリマーを水に溶解させて146.15mg/mL の濃度を得た。薬剤をTBAに溶解して7.14mg/mL の濃度を得た。最終ポリマー濃度を27.14mg/mL(最終全容量:0.7mL)にするために、所定量の純水をポリマー溶液に添加した(表3)。後に添加する薬剤溶液の容量を考慮して、所定量の純粋なTBAをこの水性ポリマー溶液に添加して異なる水/TBA比を得た。
【0054】
最後に、TBA中の薬剤を添加し、薬剤の最終負荷レベル5%(w/w)を得た。得られた透明な溶液を約6℃で3時間静かに攪拌した。
【0055】
【表3】

【0056】
溶液を0.2μmフィルターで濾過し、−80℃で急速に凍結し48時間乾燥させた。凍結乾燥したケーキは5%デキストロース(3mL)で再水和した。平均粒子径は動的光散乱によって測定し24時間モニターした。径に関する結果は表4にまとめた。
【0057】
【表4】

【実施例3】
【0058】
1,4−ジオキサンを用いる凍結乾燥法による、PVP−b−PDLLAジブロックコポリマーミセル内へのテニポサイド(teniopside)の取り込み
【0059】
PVP−b−PDLLAジブロックコポリマーは実施例1と同様に調製し、特性を確認した。数平均分子量(Mn)、多分散指数(polydispersity index)及びPDLLA含量は、夫々、4,600、1.3及び37mol% であった。
【0060】
ポリマーを水に溶解させて50mg/mL の濃度を得た。薬剤を1,4−ジオキサンに溶解して5mg/mL の濃度を得た。最終ポリマー濃度を19mg/mL(最終全容量:0.7mL)にするために、所定量の純水をポリマー溶液に添加した(表5)。後に添加する薬剤溶液の容量を考慮して、所定量の純粋な1,4−ジオキサンをこの水性ポリマー溶液に添加して異なる水/1,4−ジオキサン比を得た。
【0061】
最後に、1,4−ジオキサン中の薬剤を添加し、薬剤の最終負荷レベル5.3%(w/w)を得た。得られた透明な溶液を約6℃で2時間静かに攪拌した。
【0062】
【表5】

【0063】
溶液を0.2μmフィルターで濾過し、−50℃で急速に凍結し48時間乾燥させた。凍結乾燥したケーキは5%デキストロース(3mL)で再水和した。平均粒子径は動的光散乱によって測定し24時間モニターした。径に関する結果は表6にまとめた。
【0064】
【表6】

【実施例4】
【0065】
1,4−ジオキサンを用いる凍結乾燥法による、PVP−b−PDLLAジブロックコポリマーミセル内へのエトポサイド(etoposide)の取り込み
【0066】
PVP−b−PDLLAジブロックコポリマーは実施例1と同様に調製し、特性を確認した。数平均分子量(Mn)、多分散指数(polydispersity index)及びPDLLA含量は、夫々、4,600、1.3及び37mol% であった。
【0067】
ポリマーを水に溶解させて50mg/mL の濃度を得た。薬剤を1,4−ジオキサンに溶解して5mg/mL の濃度を得た。最終ポリマー濃度を19mg/mL(最終全容量:0.7mL)にするために、所定量の純水をポリマー溶液に添加した(表7)。後に添加する薬剤溶液の容量を考慮して、所定量の純粋な1,4−ジオキサンをこの水性ポリマー溶液に添加して異なる水/1,4−ジオキサン比を得た。
【0068】
最後に、1,4−ジオキサン中の薬剤を添加し、薬剤の最終負荷レベル5.3%(w/w)を得た。得られた透明な溶液を約6℃で2時間静かに攪拌した。
【0069】
【表7】

【0070】
溶液を0.2μmフィルターで濾過し、−50℃で急速に凍結し48時間乾燥させた。凍結乾燥したケーキは5%デキストロース(3mL)で再水和した。平均粒子径は動的光散乱によって測定し24時間モニターした。径に関する結果は表8にまとめた。
【0071】
【表8】

【0072】
表9は水の添加によってコロイド状薬剤分散物(<1μm)が自発的に形成されたことを示す。
【0073】
【表9】

【0074】
図2は、調剤9の水添加に続く経時的安定性を示す。得られた溶液は視覚的に透明であり、ポリマーミセル(又は、ポリマーミセルの二次凝集)の形成を示唆するものである。この形成物は室温において少なくとも13時間に亘って安定であった。
【0075】
本発明の或る態様が説明されているが、これは本明細書に記載され示された特定の態様又は組み合わせに限定されるものではないことが理解されよう。本発明の範囲を逸脱することなく様々な変更が可能であり、本発明は本明細書及び図面に記載されたものに限定されるものでないことは、当業者にとって明らかである。当業者であれば、本発明は、目標を実行し本明細書に記載され又それに固有の目的及び効果を得る為に良く適合されたものであることは容易に理解される。本明細書に記載された具体例、方法、操作及び技術は、好適具体例の現在の代表例であり、例として意図されたものであって、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。本発明の概念に含まれ請求項の範囲で定義されるものに含まれる変更及びその他の使用は当業者に思いつくものである。本発明は特定の好適実施例に則して記載されているが、請求されている本発明はこのような特定の具体例に不当に限定されてはならないように理解されるべきである。実際、本発明を実施するための当業者に自明である様々なモードが請求の範囲内のものであるように意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的活性剤を含有する、安定化ナノ分散物又は負荷ミセルの製造方法であって、
少なくとも一種の分散剤、少なくとも一種の生物学的活性剤、及び、少なくとも一種の溶媒を含む溶液を形成し;
固体産物が形成されている該溶液を凍結乾燥し;
該固体産物を再水和し;及び、
それによって、安定化ナノ分散物又は負荷ミセルを製造することから成る、前記方法。
【請求項2】
生物学的活性剤を含有する、安定化ナノ分散物又は負荷ミセルの製造方法であって、
少なくとも一種の分散剤、少なくとも一種の生物学的活性剤、少なくとも一種の添加物、及び、少なくとも一種の溶媒を含む溶液を形成し;
固体産物が形成されている該溶液を凍結乾燥し;
該固体産物を再水和し;及び、
それによって、安定化ナノ分散物又は負荷ミセルを製造することから成る、前記方法。
【請求項3】
生物学的活性剤を含有する、安定化ナノ分散物又は負荷ミセルの製造方法であって、
少なくとも一種の分散剤、少なくとも一種の生物学的活性剤、及び、少なくとも一種の溶媒を含む溶液を形成し;
該溶液をろ過して殺菌ろ液を得;
固体産物が形成されている該溶液を凍結乾燥し;
該固体産物を再水和し;及び、
それによって、安定化ナノ分散物又は負荷ミセルを製造することから成る、前記方法。
【請求項4】
生物学的活性剤を含有する、安定化ナノ分散物又は負荷ミセルの製造方法であって、
少なくとも一種の分散剤、少なくとも一種の生物学的活性剤、少なくとも一種の添加物、及び、少なくとも一種の溶媒を含む溶液を形成し;
該溶液をろ過して殺菌ろ液を得;
固体産物が形成されている該溶液を凍結乾燥し;
該固体産物を再水和し;及び、
それによって、安定化ナノ分散物又は負荷ミセルを製造することから成る、前記方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法で製造された製造物。
【請求項6】
請求項2に記載の方法で製造された製造物。
【請求項7】
請求項3に記載の方法で製造された製造物。
【請求項8】
請求項4に記載の方法で製造された製造物。
【請求項9】
再水和の工程が該固体産物と十分な量の水、食塩水又はデキストロース溶液と混合することを含む、請求項1,2,3又は4に記載の方法。
【請求項10】
該溶媒が、t−ブタノール、n−ブタノール、ジオキサン、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、それらの組み合わせ、及び、これらのいずれか又はこれらの組み合わせと水とを予混合で含む二元混合物から成る群から選択される少なくとも一種の溶媒である、請求項1,2,3又は4に記載の方法。
【請求項11】
該添加物が、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレングリコール)、ラクトース、トレハロース、マンニトール、該溶媒に可溶なアミノ酸、又はそれらの組み合わせから成る群から選択される少なくとも一つの成分である、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項12】
形成する工程が、超音波処理、渦流化(vortexing)及び加熱から成る群から選択される少なくとも一種の溶解促進手段を更に含む、請求項1,2,3又は4に記載の方法。
【請求項13】
分散剤が、ポリマー、コポリマー、低分子量界面活性化剤、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される少なくとも一つの成分である、請求項1,2,3又は4に記載の方法。
【請求項14】
該生物学的活性剤が、抗がん剤、抗炎症鎮痛剤、免疫抑制剤、肝炎治療剤(hepatism remedies)、ホルモン組成物、化学治療剤、代謝薬剤、消化疾患治療剤、呼吸器官疾患治療剤、抗アレルギー薬剤、中枢神経系疾患治療剤、抹消疾患治療剤、循環疾患治療剤、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される少なくとも一つの成分である、請求項1,2,3又は4に記載の方法。
【請求項15】
該生物学的活性剤が、パクリタクセル(paclitaxel)、ドクソルビシン(doxorubicin)、メルファラン(melphalan)、ドセタキセル(docetaxel)、テニポサイド(teniopside)、エトポサイド(etoposide)、ダウノマイシン(daunomycin)、ビンブラスチン(vinblastine)、インドメサシン(indomethacin)、イブプロフェン(ibuprofen)、サイクロスポリン(cyclosporine)、タクロリマス(tacrolimus)、ビフェニルジメチルジカルボキシレート、ケトコナゾール(ketoconazole)、アムフォテリシンB(amphotericin B)、フェノバイブレート(fenobibrate)、及びそれら組み合わせから成る群から選択される少なくとも一種の疎水性薬剤組成物である、請求項1,2,3又は4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−37899(P2011−37899A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259732(P2010−259732)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【分割の表示】特願2003−575936(P2003−575936)の分割
【原出願日】平成15年3月17日(2003.3.17)
【出願人】(504355273)ラボファーマ インコーポレイテッド (6)
【出願人】(504355284)ラボファーマ ヨーロッパ リミテッド (4)
【出願人】(504355295)ラボファーマ(バルバドス)リミテッド (4)
【Fターム(参考)】