説明

母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法

【課題】母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法において、母乳の複合化された又はされていないカルシウム・イオンに対して親和性を示す少なくとも1つのタンパク質を抽出することにある。
【解決手段】タンパク質を抽出する方法は、
a) 母乳を可溶性塩に接触させることで得られたカルシウム化合物を析出することによってタンパク質を放出するステップで、この可溶性塩の陰イオンがこの媒体内に不溶性のカルシウム化合物を形成してこうした方法でタンパク質を多量に含む液相を得ることができる能力があるかどうかを基準として選択されるステップと、
b) カルシウム化合物の沈殿物からタンパク質を多量に含む液相を分離して、その液相をさらに脂質相とタンパク質を含む非脂質水性相に分離するステップと、
c) タンパク質を含む非脂質水性相を回収するステップと、
を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法に係り、特に、母乳中に存在し、この母乳の複合化した又はしていないカルシウム・イオンに対して親和性を示す1つ又は複数のタンパク質を抽出する母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法に関する。
本発明において、複合化した又はしていないカルシウム・イオンとは、カゼインと結合し、カゼインのミセル・コロイド状構造を形成するリン酸カルシウム塩、あるいはカゼインと結合せず、それ故に遊離した塩のことを指す。またこれらのイオンは、母乳に溶け得る、それらとは異なるカルシウム塩、及び/又はそれらとは異なる有機及び/又は無機カルシウム複合体でもある。母乳のカルシウム・イオンに対して親和性を示すタンパク質とは、ラクトアルブミン、ラクトグロブリン、免疫グロブリンなどの、自然に存在するタンパク質のことを指す。またこれらのタンパク質は、遺伝子導入動物の母乳内に存在する組み換えタンパク質、例えば血液凝固因子、特に因子VII、因子VIII、因子IXのことをも指す。
【背景技術】
【0002】
市販の医薬品の大部分は合成によって得られる化学物質である。実際のところ、近年まで疾病の治療又は診断のために用いられる医薬は化学合成によって製造される薬剤に大きく依存してきた。
しかし、これらのタンパク質は分子中の生物学的情報を有する本質的部分である。これは特に多くのホルモン、成長因子、血液凝固因子又は抗体の場合について当てはまる。
一般にタンパク質とは、その殆どが分子量の大きいアミノ酸ベースのポリマーであり、これは安価なコストで化学合成によって得ることができない。通常、治療上の目的で用いられるこれらのタンパク質は、例えば生体、ヒト又はヒト以外の動物の組織又は血液から単離されそして精製される。これは特にブタの膵臓から抽出されたインスリン、血漿から抽出された因子VIII又は因子IXなどの血液凝固因子、又は免疫グロブリンの場合について当てはまる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許第0,527,063号公報
【特許文献2】欧州特許第0,741,515号公報
【特許文献3】国際公開96/03051号公報
【特許文献4】米国特許第6,046,380号公報
【特許文献5】欧州特許第0,807,170号公報
【特許文献6】欧州特許第0,264,166号公報
【特許文献7】米国特許第4,519,945号公報
【特許文献8】米国特許第6,984,772号公報
【特許文献9】国際公開2004/076695号公報
【特許文献10】米国特許第6,183,803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、上述のタンパク質の調製方法(プロセス)が幅広く行われているが、それらの方法(プロセス)にはいくつかの不利点がある。例えば、血小板から抽出されるエリスロポエチンなどのタンパク質の含有量が少なく、そのためそれらが十分な量単離されず、絶えず増大する治療上の必要性を満たすことができないなど。またあるいは、ヒト血漿中にはウイルスやプリオン又はその他の病原体が存在している場合があり、そのため治療に有効な薬品を製造するためには、血漿タンパクの製造方法(プロセス)に追加のウイルス不活性化及び/又はウイルス除去ステップを加えなければならないなどである。
これらの不利点を克服するために遺伝子工学の技術が利用される。この技術は、単離され、細胞へと移植される遺伝子からタンパク質を合成する方法においても大いに利用される。この遺伝子が対象となるタンパク質の分泌を命令する。このような、元の細胞系外で得られたタンパク質を「遺伝子組み換え型」と呼ぶ。
この技術においては、異なる別々の細胞系が利用される。
細菌系、例えば、E.coliは幅広く利用されており効果的である。これにより低コストでの組み換えタンパク質の生成が可能となる。しかしこのような系は、複雑な折り畳み方法(プロセス)を必要としない、単純な、非グリコシル化タンパク質の調製に限定される。
同様に、分泌性タンパク質の生成に真菌系が利用される。これら真菌系の不利点は、例えば、生成されたタンパク質の薬物動態特性に大きな影響を及ぼすグリカン部分及び硫酸基を、特に多様なマンノース誘導体群を加えることによって移植することから成る、翻訳後修飾の原因となるということである。
【0005】
バキュロ・ウイルスを利用するこれらの系によって、ワクチン・タンパク質又は成長ホルモンなどの大きく異なるタンパク質を生成することが可能となるが、これらの産業規模での利用ということになると最適なものとはいえない。
また、モノクローナル抗体などの組み換え複合タンパク質の調製に哺乳動物細胞培養系が利用される。これらの細胞発現系によって、正確に折り畳まれ、修飾された組み換えタンパク質が生成される。製造コストに比して収量が低いのが主な不利点である。
また、こうした細胞系の1つの変異体において、タンパク質を大量に得るために遺伝子導入植物を利用する。しかしこれらの系は、特に特に生成されるタンパク質に免疫原性の高いキシロース残基を加えることにより、植物に特有の翻訳後修飾を生じさせるため、その治療への応用は制限されることとなる。
上述の細胞系の代替型において、組み換えワクチン又は複合治療タンパク質を生成するために、遺伝子導入動物を利用する。これにより得られたタンパク質はヒトのそれに近いグリコシル化を示し、正確に折り畳まれる。これらの複合タンパク質は、例えば成長ホルモンなどの1つの単純なポリペプチド鎖のみから成るのではなく、特に分裂、グリコシル化、カルボキシメチル化によりアミノ酸を組み立てた後、種々の方式で修飾される。殆どの場合、修飾は細菌細胞又は酵母によっては行われない。しかし一方で、遺伝子導入動物によれば、細菌細胞系及び細胞培養により得られる翻訳後修飾の両方において見られる発現量を組み合わせ、細胞発現系の利用に比べ製造コストを下げることが可能となる。
遺伝子導入動物から得られる生体物質の中で、母乳は、組み換えタンパク質の非常に豊富な分泌源として注目に値する研究対象である。
遺伝子導入動物の母乳から生成される組み換えタンパク質は、問題のタンパク質を母乳タンパク質の合成に関与する遺伝子の1つの規制領域上にコードして、その遺伝子が特に乳腺内でのそのタンパク質の合成と母乳内への分泌を命令する遺伝子を移植することによって容易に得ることができる。
【0006】
遺伝子導入された動物の母乳内で問題のタンパク質をつくる方法(プロセス)の一例が特許文献1の欧州特許第0,527,063に述べられており、ここでは問題のタンパク質をコードする遺伝子の発現が乳清のタンパク質のプロモータによって制御される。
さらに、他の特許出願又は特許において、遺伝子導入動物の母乳内で、抗体(欧州特許第0,741,515)、コラーゲン(国際公開96/03051)、ヒト因子IX(米国特許第6,046,380)、因子VIII/フォン・ウィルブランド因子複合体(欧州特許第0,807,170)を調製するプロセスが述べられている。
これらの方法によりタンパク質の発現においては十分な結果が得られるが、組み換えタンパク質の源としての母乳の利用にはいくつかの欠陥がある。これらの方法(プロセス)の重大な欠陥は、まず母乳から十分な量の生成物が得られないこと、さらにそれに続く精製の困難である。
実際のところ、母乳はその90%までが水で、その他大別して3つのカテゴリに分類される種々の構成物から成る混合物である。1番目のカテゴリは乳清(又は乳漿)と呼ばれ、糖質、可溶性タンパク質、ミネラル、水溶性ビタミンから成る。2番目のカテゴリは脂質相(又は乳脂)と呼ばれ、乳液状の脂質を含む。3番目のカテゴリはタンパク質相と呼ばれ、その約80%が、カルシウムの存在下、レンネット、酵素的凝固剤の作用で、pH4.6の沈降性タンパク質全体を形成するカゼインから成る。異なったカゼインがリン酸三カルシウム、つまりCa(POの凝集体(「クラスター」)の形で存在するリン酸カルシウム塩と共にコロイド状ミセル複合体を形成し、その直径は0.5μm程度に達する場合もある。こうしたミセルは疎水性の核を取り囲んでいるカゼインkを多量に含んだ親水性層で構成されるカゼインのサブユニットから形成され、前記リン酸カルシウム塩は親水性の層とは静電作用で結合している。これらのリン酸カルシウム塩はそのカゼインに結合しないでそのミセルの内部に存在している場合もある。また、このタンパク質相は、ラクトアルブミン、ラクトグロブリン、及び血液から生じるアルブミン、免疫グロブリンなどの可溶性タンパク質をも含む。
【0007】
遺伝子導入動物の母乳内に分泌される組み換えタンパク質は、その性質により乳清又はタンパク質相内のいずれか、あるいはその両方内に存在する場合もある。母乳成分の各カテゴリが多数且つ複雑であることにより、特にカゼイン・ミセル内に取り込まれる際のこのタンパク質の抽出を行うことがよりいっそう困難となる。さらにもう1つの困難は、このタンパク質が上記両相のいずれの相内に存在するのかを確実に予見することが出来ないということである。
また、組み換えタンパク質は、塩及び/又は種々の可溶性複合体、又はカゼイン・ミセルのリン酸カルシウム塩の形で存在する、母乳のカルシウム・イオンに対しても親和性を示す。これらの親和性はタンパク質及び二価カルシウム陽イオン間の静電結合により示される。タンパク質/カルシウム・イオン間で示されるこの親和性によって、その値により結合の強度を示す親和性定数が決定される。一般的に言えば、カルシウム・イオンに対して親和性を示すタンパク質の大部分は、ミセルのリン酸カルシウム塩に結合している。そしてその抽出のためには、実施及び収率の問題と共に複雑なステップの実行も必要となる。
一般産業において利用されている、低温殺菌、酵素的凝固、酸沈殿(pH 4.6)のステップから成る従来式のタンパク質の単離法は、組み換えタンパク質が熱とpHとの複合効果の影響を受け変性してしまう可能性があるため、このケースに適用することはできない。さらにタンパク質のカゼイン・ミセルへの取り込みも結果的に抽出収率が低くなる。またさらにろ過、遠心分離及び/又は沈降又は沈殿技術による、母乳の成分分別のための物理的方法も、結果的に抽出収率が許容不可能な程度に低くなり、また抽出された組み換えタンパク質の純度も低くなる。
【0008】
欧州特許第0,264,166に所望のタンパク質を遺伝子的に変換された動物の母乳へ分泌させる方法(プロセス)が述べられている。しかしこの文献には母乳からこのタンパク質を精製するステップについては述べられていない。
米国特許第4,519,945には、上述の酸性化及び加熱のステップを実施し、母乳からカゼイン及び乳清の沈殿物を調製することで組み換えタンパク質を抽出する方法(プロセス)が述べられている。この方法(プロセス)においては考慮されるタンパク質の活性が大幅に低下し、抽出収率が低減する。
米国特許第6,984,772には、遺伝子導入動物の母乳から組み換えフィブリノーゲンを精製する方法(プロセス)が述べられている。この方法(プロセス)には、連続的遠心分離によりカゼイン・ペレット及びタンパク質相から乳清を分離するステップが含まれる。この乳清は単離され、その後の処理のために蓄えられ、フィブリノーゲンの精製溶液となる。
しかし、この方法(プロセス)を、カゼイン・ミセル内及び/又は上に取り込まれる、例えば因子VII、因子VIII、因子IXなどの血漿凝固因子のような組み換えタンパク質の十分な収率での生成に適用することはできない。
国際公開2004/076695には、遺伝子導入動物の母乳から組み換えタンパク質をろ過する方法(プロセス)が述べられている。このプロセスには、孔径0.2μmのろ過膜を通じてろ過され得る溶液を得る方法で乳成分を除去する母乳清澄化の第1のステップが含まれる。このステップによってカゼイン・ミセルが除去される。その結果として、このステップを実施することは、カゼイン・ミセルがそれらの構造内に問題のタンパク質を含み得るならば、不適切なものとなる。
米国特許第6,183,803には、例えば、ヒト・アルブミン又はα1アンチトリプシンのようなラクトアルブミン及び組み換えタンパク質などの母乳内に自然に存在するタンパク質を母乳から単離する方法(プロセス)が述べられている。この方法(プロセス)には、問題のタンパク質を含んだ母乳をキレート剤に接触させる初期ステップが含まれる。このステップはカゼイン・ミセルを破壊し、結果的に結果としてカゼイン、乳清のタンパク質、問題のタンパク質を含む清澄化された乳清が生成される。さらに、このステップには、二価陽イオンの不溶性塩を液状媒質(清澄化乳清)に加えることによりカゼイン・ミセルを再構築するステップが含まれる。これらのミセルは沈降し、これにより問題のタンパク質を含む液相が生成される。このタンパク質は、塩がカゼインの静電結合部位を飽和させるため、ミセルには取り込まれない。従って、この方法(プロセス)によれば、問題のタンパク質の分離は、最終的に、ミセルの再構築及びその沈降によって行われる。
この方法(プロセス)はその実施が複雑であるため、カルシウム・イオンに対して比較的高い親和性を示すタンパク質には適用することができない。凝固性のタンパク質、特にビタミンKの影響下で合成されることが知られているタンパク質はこのカテゴリに該当する。
【0009】
乳清内に存在し遺伝子導入動物の母乳に分泌される組み換えタンパク質の特定のカテゴリの分離及び精製方法(プロセス)は収率が非常に低く、またカゼイン・ミセル内に取り込まれる他のタンパク質のカテゴリの同方法(プロセス)はその実施が複雑であるというこの2つの観察結果から、そこで、本発明の出願人は、母乳から、母乳のカルシウムのイオン形態に対して親和性を示す組み換え因子VII、因子VIII、因子IXなどの天然又は非天然の母乳を構成するタンパク質を、簡略化された方法で、タンパク質の生物活性を維持しつつ十分な生成収率が得られるように抽出する方法(プロセス)を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、母乳中に存在し、この母乳の複合化した又はしていないカルシウム・イオンに対して親和性を示す少なくとも1つのタンパク質を抽出する方法(プロセス)に関し、この方法(プロセス)は、以下のステップを含んでいる。
a) 前記母乳を可溶性塩に接触させることで得られたカルシウム化合物を析出することによってタンパク質を放出するステップで、この可溶性塩の陰イオンがこの媒体内に前記不溶性のカルシウム化合物を形成してこうした方法でタンパク質を多量に含む液相を得ることができる能力があるかどうかを基準として選択されるステップ。
b) カルシウム化合物の沈殿物の前記タンパク質を多量に含む液相を分離して、その液相をさらに脂質相と前記タンパク質を含む水性の非脂質相とに分離するステップ。
c) 前記タンパク質を含む水性の非脂質相を回収するステップ。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、母乳の複合化された又はされていないカルシウム・イオンに対して親和性を示す少なくとも1つのタンパク質を抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1はタンパク質を抽出するメカニズムを示す図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明は、上記のステップa)、ステップb)、ステップc)により、母乳の複合化された又はされていないカルシウム・イオンに対して親和性を示す少なくとも1つのタンパク質を抽出するという目的を実現するものである。
【実施例】
【0014】
本出願人は、驚くべきことに、こうした方法(プロセス)が可溶性塩を加えカルシウム化合物を沈殿させるステップを含み、加えられる塩はその陰イオンがタンパク質、特に複合化した又はしていない カルシウム・イオンに対して親和性を示し、またカルシウム・イオンへの固定部位を示す組み換えタンパク質を含む母乳内にカルシウム化合物の沈殿物を形成する能力を有しているかどうかを基準として選択されるにもかかわらず、問題のタンパク質がこれらの複合化した又はしていないイオンから放出され、液相内で再度見出されることに気付いた。
上述の複合化した又はしていないカルシウム・イオンとは、母乳に溶け得る、異なる有機及び/又は無機カルシウム塩及び/複合体を示す。これらの塩又は複合体はカゼイン・ミセルの内部に存在する場合もある(以下の図1を参照)。
また、これらのカルシウム・イオンは、カゼイン・ミセルと相互作用し、特に凝集体(「クラスター」)の形で存在するリン酸カルシウム塩のことをも示す。これらの塩はリン酸一カルシウム及び/又はリン酸二カルシウムなどの形態でも母乳の中に存在しており、それらは行われた化学的及び生化学的相互作用に応じて存在する他のイオン形態と均衡状態にある。
最後に、これらのカルシウム・イオンは、カルシウム/カゼイン複合体、即ち静電作用によってリン酸カルシウム塩と結合するカゼインのサブユニットのことをも示す。またこれらのカルシウム/カゼイン複合体とは、リン酸カルシウム塩及び有機及び/又は無機可溶性カルシウム塩及び/又は複合体と結合したカゼイン・ミセルのことをも示す。
不溶性カルシウム化合物とは母乳中での溶解度が0.5%未満であるカルシウム塩又は複合体を示す。
殆どの場合、問題のタンパク質は大部分がカゼイン・ミセルのリン酸カルシウム塩と結合する。
従って、複合化した又はしていないカルシウム・イオンに対して親和性を示すタンパク質とは、カルシウム・イオンに全体的又は部分的に結合されるため、あるいはカゼイン・ミセルのリン酸カルシウム塩に全体的又は部分的に結合されるための、カルシウム・イオンのための十分な数からなる固定部位を有するタンパク質のことを示す。
【0015】
一例として、問題のタンパク質が、例えばカルシウム・イオンへの固定を可能にするγ−カルボキシグルタミン酸が豊富なドメインであるGLAドメインを8〜10個有するなど、カルシウム・イオンへの固定部位を多数示すタンパク質である場合、この問題のタンパク質の少なくとも70%〜90%がカゼイン・ミセル内及び/又はカゼイン・ミセル上に取り込まれる。例えば前記GLAドメインを2〜8個有するなど、カルシウム・イオンへの固定部位をより少なく示す他のタンパク質である場合、その少なくとも30%〜60%がカゼイン・ミセル内及び/又はカゼイン・ミセル上に取り込まれる。最後に例えば前記GLAドメインを0〜2個有するなど、カルシウム・イオンへの固定部位を非常に少なく示すその他のタンパク質でさえ、例えばその少なくとも5%〜20%がカゼイン・ミセル内及び/又はカゼイン・ミセル上に取り込まれる。取り込まれるタンパク質のこうした量は産業規模での方法(プロセス)の実施にとって決して少ない量ではなく、最大級の収率への到達を可能ならしめる量である。問題のタンパク質の内カゼイン・ミセル内及び/又はカゼイン・ミセル上に取り込まれない残りのタンパク質は、上述の、母乳内の他の形態のカルシウム・イオンに対して親和性を示す。
従って、本発明の方法(プロセス)は、これらのカルシウム・イオンにその少なくとも2%〜10%、あるいはその少なくとも40%〜60%、特にその少なくとも90%が結合するタンパク質の抽出に適用することができる。
タンパク質のカルシウム・イオンに対する上に述べたような親和性は、修飾されていない、あるいは例えば翻訳後修飾によってin vivoあるいはin vitroで修飾されたタンパク質の相互作用によってもたらされている可能性もある。
故に、複合化した又はしていないカルシウム・イオンに対する固定部位を多数示すタンパク質が、母乳内に存在する他の形態のカルシウムと結合する可能性もある。
【0016】
観察されたメカニズムに対していろいろな解釈があったとしてもそれには関係なく、本出願人は可溶性の塩を加えるとミセルのリン酸カルシウム塩の均衡状態、特にカルシウム/リン酸塩の比率が変化して、その破壊とカゼイン・サブユニットの凝集体の沈殿をもたらすのだと考えている。ミセル内及び/又はミセル上に捕捉されたリン酸カルシウム塩と結合した問題のタンパク質は、この破壊によって培養液内に放出される。加えて、問題のタンパク質もそれらのリン酸カルシウム塩から放出あるいは切り離される。何故なら、それらは本発明による方法(プロセス)で用いられる可溶性塩の影響で不溶性カルシウム化合物の形態で沈殿するからである。同様に、可溶性の有機及び/又は無機カルシウム塩又は複合体と結合するタンパク質も同じタイプの反応で解離される。
【0017】
こうしたメカニズムの一例が、図1に示される。
本発明の範囲において、前記の可溶性塩とは所望の効果を得ることを可能にしてくれるすべての塩を意味している。
本発明による方法(プロセス)で用いられる可溶性塩は、カルシウム・イオンとのこれらの相互作用からのタンパク質の分離を達成するために当業者によって選ばれた濃度で母乳に加えることができる。事実上の問題として、この濃度は問題のタンパク質の少なくとも20%、好適には少なくとも30%から50%が分離できれば十分である。特に好適な方法では、その濃度は問題のタンパク質の少なくとも60%から80%、あるいは少なくとも90%を分離させることができるに足るレベルである。
さらに、本発明による方法(プロセス)は、その一部分のみがカルシウム・イオンへの固定部位を示すタンパク質に対しても適用が可能である。例えば、本発明による方法(プロセス)を、母乳内に含まれ、その全体の1%のみがカルシウム・イオンと結合するタンパク質の抽出に適用することも可能である。また、本発明の方法(プロセス)を、その少なくとも2%から10%、あるいは少なくとも40%から60%、又は特に90%がこれらのカルシウム・イオンと結合するタンパク質に適用することも可能である。
【0018】
本発明の方法(プロセス)は、特にカゼイン・サブユニットの凝集体を簡単に沈殿させる。この沈殿は、上にも述べたようにカゼイン・ミセルが破壊されるので起きる。本発明のプロセスを適用すると、沈殿によって母乳のコロイド状態が不安定になる。
従って、本発明の方法(プロセス)は母乳のコロイド状態から液体状態への移行を可能にする方法(プロセス)であり、これはコロイド/液体の直接抽出に相当する。
本発明による方法(プロセス)は、最初の状態の母乳より色の薄い乳清及び脂質相を得ることも可能にしてくれる。事実上、これらはその白い色を母乳に移してしまったカルシウム・イオン結合カゼインである。一度沈殿すると、それらはもはやその白色を母乳に移すことはできない。
それゆえ、本発明による方法(プロセス)はいくつかの有利点を有する。
まず、第1に簡易な方法で問題のタンパク質を分離することが可能なためその実施が非常に容易であるということ。さらに水性の非脂質相中の問題のタンパク質を非常に高い収率で回収することができるということ。好適なことに、本発明のこの抽出プロセスによれば、少なくとも50%、又は少なくとも60%、又はさらに少なくとも80%の収率で回収することが可能である。特に好適な一方法において、少なくとも90%の収率で回収することが可能である。
また、この方法(プロセス)によれば、特にクロマトグラフィによるさらなる精製ステップの実施と互換性のある形態で、問題のタンパク質を含む水性の非脂質相を得ることも可能である。
最後にこの問題のタンパク質は、本発明による方法(プロセス)のステップがその生物活性を変更しないpHで行われる時点ではまだ生物学的に活性である。このpHは、好適には塩基性(例えば約8)である。
【0019】
本発明による可溶性塩とは、母乳に対してその塩の少なくとも0.5部分(重量ベール)が母乳に対して可溶性を有している塩を意味している。
好適に、この方法(プロセス)で用いられる可溶性塩はリン酸塩である。この塩は水に溶かしてから母乳に加えることもできるし、あるいは粉末状態にして直接母乳に加えることもできる。
好ましくは、このリン酸塩はリン酸ナトリウム、リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸ルビジウム、及びリン酸セシウムで構成される群から選択され、特に好ましいのはリン酸ナトリウムである。
あるいは、本発明による方法(プロセス)で用いられる可溶性塩はアルカリ金属のシュウ酸塩、特にシュウ酸ナトリウムあるいはシュウ酸カリウムであってもよく、あるいはアルカリ金属の炭酸塩、特に、炭酸ナトリウムあるいは炭酸カリウム、あるいはそれらの混合物であってもよい。
好適に、上記の方法(プロセス)を実行するためにつくられた水溶液内での上記可溶性塩の濃度は100mMから3Mの範囲であり、より好ましくは200mMから500mMの範囲であり、特に好ましくは200mMから300mMの範囲である。
従って、本発明の好ましい一実施の形態によれば、本発明の可溶性塩はリン酸ナトリウムであり、その水溶液内での濃度は100mMから3Mの範囲であり、より好ましくは200mMから500mMの範囲であり、特に好ましくは200mMから300mMの範囲である。
【0020】
抽出されるべき問題のタンパク質を含んでいる母乳は生のままの母乳であってもよいし、スキム・ミルクであってもよい。本発明による方法(プロセス)をスキム・ミルクに適用することによって得られる利点は、その脂質含有量が低いことである。この方法(プロセス)は新鮮な母乳にもあるいは凍結させた母乳にも適用できる。
ステップb)により脂質相及び上記タンパク質を含んだ水性の非脂質相内で液相を分離することが可能となり、また、このステップは遠心分離で行われることが好ましい。上記非脂質水性相が実際には乳清である。この分離ステップはカゼイン・ミセルのサブユニットの凝集体とカルシウム化合物の沈殿物の単離も可能にしてくれる。
このタンパク質を含んだ非脂質水性相は、脂質相から分離される。
このステップにより、好適に、清澄な非脂質水性相を得ることが可能となる。
【0021】
この方法(プロセス)は、さらに、ステップc)の後に、空隙率が好ましくは1μm、次に0.45μmと低下するフィルター上で連続的に行われる非脂質水性相のろ過ステップを含むこともできる。例えばグラス・ファイバーに基づくこれらのフィルターを用いると、母乳内に自然に存在する脂質、脂肪球、そしてリン脂質の含有量を減らすことができる。空隙率が0.5μm未満のフィルターを用いることにより、非脂質水性相および後者の精製用基質(限外フィルター、クロマトグラフィ・カラムなど)(下記参照)の微生物学的品質を保持することができる。これらの脂質相は好ましくは母乳の脂肪球を完全に捕捉し、ろ過物が清澄であるフィルターを用いて行うのが好ましい。
このステップのすぐ後に、限外ろ過によって濃縮/透析を行うステップを設けることもできる。
濃縮を行うと、保存すべき非脂質水性相の体積を減らすことが可能である。この限外ろ過膜に用いられる部材は、問題のタンパク質の特性に基づいて当業者により選択される。一般的には、問題のタンパク質の分子量以下の孔サイズの空隙率限界であれば問題とするようなロスなしに生成物を濃縮することが可能であろう。例えば、50kDaの孔サイズを有する膜であれば、50kDaの分子量のFVIIをロスを生じさせることなしに濃縮させることが可能である。
透析は後の精製ステップ、つまりクロマトグラフィ・ステップを含むタンパク質の水相の調整を目的とするものである。透析はラクトース、塩、ペプチド、プロテオース−ペプトン、及びその生成物の保持に障害を及ぼすすべての作用因子などの小さな分子サイズの成分を除去できるようにしてくれる。
好ましくは、透析用緩衝剤はリン酸ナトリウムの0.025−0.050M溶液、pH7.5−8.5である。
ろ過及び/又は濃縮/透析ステップ後に得られるものなど、ステップc)後に得られる非脂質水性相をその後の精製ステップにかける前に凍結して、−30度の温度で保存しておいてもよい。
【0022】
本発明による方法(プロセス)は、問題のタンパク質が静電作用によって結合する母乳内のカルシウム・イオンから1つ又は複数のこの問題のタンパク質を抽出、場合によっては分離することを可能にする。
このタンパク質は母乳内に自然に存在するタンパク質であり、例をあげるならばβ−ラクトグロブリン、ラクトフェリン、a−ラクトアルブミン、免疫グロブリン、又はプロテオース−ペプトン、又はそれらの混合物である。
また、このタンパク質は母乳内に自然に存在するタンパク質でない場合もある。例として因子VII、因子VIII、因子IX、因子X、α−1−抗トリプシン、抗トロンビンIII、アルブミン、フィブリノーゲン、インスリン、ミエリン塩基性蛋白質、プロインスリン、組織プラスミノゲン活性化因子、抗体などがあげられる。
従って、本発明の好ましい一実施の形態によれば、問題のタンパク質を含んだ母乳は遺伝子導入された母乳である。
実際のところ、母乳内に自然に存在するのではないこのタンパク質は、組み換えDNA技術及び遺伝子導入により、ヒト以外の遺伝子導入動物によって母乳に合成することが可能となる。
当業者には周知のこれらの技術によって、問題のタンパク質を遺伝子導入動物の母乳内に合成することが可能となる。
こうしたタンパク質は遺伝子組み換えタンパク質あるいは遺伝子導入タンパク質であり、これら2つの用語は、本出願においては組み換えDNA技術により合成されるもので、同等のものと見なされる。
「遺伝子導入動物」とは、特に問題のタンパク質をコードする外来DNAフラグメントをそのゲノム内に取り込んだヒト以外の動物のことを指し、この動物は外来DNAにコードされたタンパク質を示し、この外来DNAを後代に伝達する。
そのようなものとして、ヒト以外の哺乳動物はこうした母乳の生成に適合する。
好適に、雌のウサギ、ヒツジ、ヤギ、雌牛、ブタ及びネズミなどを利用することが可能である。しかし、ここに挙げたのは例であって、それに限定されるものではない。
乳腺から問題のタンパク質を分泌させて遺伝子導入動物の母乳に分泌できるようにするのは組織に依存した状態での組み換えタンパク質の発現の制御に関する技術である。
こうした制御の方法は、本技術分野の当業者には公知の技術である。発現の制御はタンパク質の発現をその動物の特定の組織で行わせることを可能にしてくれる配列を利用して行われる。これらの配列とは特にプロモータ配列とペプチド信号配列である。
【0023】
本技術分野の当業者には公知のプロモータの例としては、WAPプロモータ(乳漿酸性タンパク質)、カゼイン・プロモータ、βラクトグロブリン・プロモータなどがある。
遺伝子導入された動物の母乳内で組み換えタンパク質をつくりだすプロセスは以下のステップを含んでいる。つまり、問題のタンパク質をコードし母乳内に自然に分泌されるタンパク質のプロモータに制御される遺伝子を含む合成DNA分子をヒト以外の哺乳動物の胚に組み入れる。その後、その胚を遺伝子導入動物を出産する同じ種の哺乳動物の雌に入れる。その胚を受け入れた哺乳動物が十分に成長したら、その哺乳動物からの分泌を誘発させて母乳を集める。この母乳が問題の組み換えタンパク質を含んでいる。
ヒト以外の哺乳動物の雌の母乳内でタンパク質をつくる方法(プロセス)の一例が文献EP0,527,063に述べられており、この文献が教示している内容を本発明による問題のタンパク質の生成に適用することができる。
【0024】
WAPプロモータを含んでいるプラスミドはWAP遺伝子のプロモータを含む配列を導入することによってつくられ、このプラスミドはそのWAPプロモータに制御される外来遺伝子を受け入れることができるようにつくられる。問題のタンパク質をコードする遺伝子が組み入れられて、WAPプロモータの制御下に置かれる。そのプロモータ及び問題のタンパク質をコードする遺伝子を含んだプラスミドが遺伝子導入動物、例えば雄ウサギの胚の前核に注入して遺伝子導入された雌ウサギを得るのに用いられる。その後、その胚を元気で生殖力のある雌の卵管に移す。トランス遺伝子の存在は、上に述べたようにして得られた遺伝子導入された若いウサギから抽出されたDNAからサザーン技術によって示される。そしてそれらの動物の母乳内での濃度は特殊な放射免疫アッセイによって評価される。
好適には、母乳内で生成され、本発明の方法(プロセス)によって抽出されたタンパク質は凝固タンパク質又は凝固因子である。実際、こうしたタンパク質は、カルシウム・イオンに対して強い親和性を示す(Hibbard et al.(1980),J.Biol.Chem.1980,Jan 25;255(2):638−645)。本発明の好ましい一態様によれば、この凝固因子は本発明の抽出プロセスの過程で活性化される。これは特に「ビタミンK依存」のタンパク質の問題であり、これは血液凝固にとって不可欠の要素である。
好適には、母乳内で生成され、本発明のプロセスによって抽出されたタンパク質は、カルシウム・イオンを固定する能力を有する「GLAドメイン」を含んだタンパク質、あるいは「EGFドメイン」(上皮成長因子)、又は「メインEF」(カルシウム・イオンの固定を可能にするヘリックス−ループ−ヘリックス)と呼ばれる構造など、カルシウム・イオンを固定する能力を有すると認められるさらなるドメインを含んだタンパク質である。
さらに、カルシウム依存タンパク質とは、本発明のプロセスによって精製され得るタンパク質、特に抗体又はモノクローナル抗体である。
好適には、本発明のタンパク質は、因子II(FII)、因子VII(FVII)、因子IX(FIX)及び因子X(FX)そしてそれらの活性型、タンパク質C、活性タンパク質C、タンパク質S及びタンパク質Z、又はそれらの混合物から成る群から選択される。
【0025】
特に、好適な一方法において、本発明のタンパク質はFVII、又は活性FVII(FVIIa)である。
この点において、FVII又はFVIIaは、文献EP0,527,063の教示内容に基づいて生成され、この方法の概要は上に述べた。配列がヒトFVIIの配列であるDNAフラグメントはWAPプロモータの制御下に置かれる。例えばこうしたDNA配列は、文献EP0,200,421に述べられる配列番号1b下に載せられる。
好適に、本発明によるFVIIは活性化される。FVIIaは、ジスルフィド架橋によって結合された2つの鎖において、異なったプロテアーゼ(FIXa、FXa、FVIIa)によってチモーゲンを切断することでin vivoで得ることができる。FVIIa自体は非常に低い酵素活性を有しているが、その共因子である組織因子(TF)と複合化されていて、FX及びFIXを活性化することで凝固プロセスを開始させる。
FVIIaは、組織因子(TF)と反応すると、FVIIと比較して25−100倍も高い凝固活性を示す。
【0026】
本発明の1つの実施の形態で、FVIIは因子Xa、VIIa、IIa、IXa及びXIIaによってin vitroで活性化される。
本発明のFVIIは、その精製方法(プロセス)中に活性化される場合もある。
本出願人は、驚くべきことに、乳清内で自然につくられたタンパク質のプロモータ、例えばWAPプロモータの制御下に置かれても、問題のタンパク質が母乳のカルシウム・イオンと、従ってカゼイン・ミセルと結合する傾向を示すことを発見した。
従って、本発明の方法(プロセス)をこの乳清のタンパク質のプロモータの制御下で生成された組み換えタンパク質の分離に利用することも可能である。
さらに、本発明の方法(プロセス)は、特にカゼイン・プロモータの制御下で生成された組み換えタンパク質の分離に適合する。
このタンパク質は、因子VIII、α−1−抗トリプシン、抗トロンビンIII、アルブミン、フィブリノーゲン、インスリン、ミエリン塩基性タンパク質、プロインスリン、組織プラスミノゲン活性化因子、及び抗体、又はそれらの混合物で構成される群から選択される
【0027】
また、本発明の方法(プロセス)を組み換え乳酸タンパク質の調製に利用することも可能である。この場合、これは異なる種類の動物の乳腺で合成された乳酸タンパク質の問題である(Simons and al,(1987),Aug 6−12;328(6130):530−532)。このために、例としてラクトフェリン、ラクトグロブリン、リゾチーム及び/又はラクトアルブミンが挙げられる。
本発明のさらなる目的は、本発明の方法(プロセス)によって得やすい少なくとも1つのタンパク質を含む母乳の非脂質水性相に関する。好適には、この水性相は過塩性、塩基性であり、可溶性カゼイン及びさらに少なくとも1つの問題のタンパク質を含む。過塩性とは、ナトリウム・イオンが少なくとも7g/l又は塩化ナトリウムが少なくとも18g/l、あるいは塩化ナトリウムが少なくとも0.3モルの濃度を指す。好ましくはこの濃度はナトリウム・イオンが約8g/l又は塩化ナトリウムが約20g/lの濃度である。塩基性とはpHが8〜9、好ましくは7.8よりも大きいpHを指す。可溶性カゼインは全カゼイン中の少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%に相当する。
こうした相は、本発明の方法(プロセス・ステップ)で処理されなかった母乳に比べ、精製される問題の全タンパク質の少なくとも50%、あるいは好適には少なくとも60%〜80%を占める。特に好適な一方法において、この非脂質水性相は、抽出の前に、母乳内に存在する問題の全タンパク質中の少なくとも90%を占める。
本発明の好ましい一実施の形態によれば、非脂質水性相内に存在する問題のタンパク質は因子VII(FVIl)又は活性因子VII(FVIIa)である。
本発明の非脂質水性相は、もうこれ以上カゼイン・ミセル及び不溶性カルシウム化合物を含んでいなくとも、依然不純物を含んでいる。その結果として、個々のケースにもよるが、水性相内のタンパク質の精製を行うことが必要となってくる。
本発明の方法(プロセス)には、さらに、ステップc)の後、あるいはステップc)の後に行われるろ過及び濃縮/透析ステップの後に行われる、タンパク質又は問題のタンパク質を含んだ非脂質水性相の精製ステップを含む。
【0028】
即ち、ステップc)の後には、標準的なクロマトグラフィ装置を用いて、好適にはヒドロキシアパタイト・ゲル(Ca10(PO(OH))又はフルオロアパタイト・ゲル(Ca10(PO)である基質を用いたクロマトグラフィ・カラムで行われる親和性クロマトグラフィのステップd)が続く。従って、非脂質水性相のタンパク質が基質上に保持され、保持されない乳酸タンパク質の過半数は取り除かれる。吸着度の測定が、280nmの波長(λ)で行われる。
0.025M―0.035Mリン酸ナトリウム、pH7.5−8.5に基づく水性緩衝剤Aと均衡化されたクロマトグラフィ・カラムを用いるのが好ましい。非脂質水性相をカラムに注入すると、問題のタンパク質の保持が可能になる。保持されない画分は乳酸タンパク質などの望ましくない化合物が取り除かれたことを示すベースラインに戻るまで(RBL)緩衝剤Aの浸出ろ過を行うことによって除去される。
このタンパク質の溶出は、リン酸ナトリウムやリン酸カリウム、あるいはその混合物などのリン酸塩に基づく所定の濃度の緩衝剤、好ましくは0.25M−0.35Mのリン酸ナトリウムに基づく緩衝剤Bを用いて行われ、pHは7.5−8.5の範囲である。溶出された画分はベースラインまで回収される。
このステップのおかげで、すべての乳酸タンパク質の90%以上が除去され、問題のタンパク質の90%以上が回収される。この段階でのこの溶出された画分の純度は5%程度である。
この純度は、問題のタンパク質と対象となるサンプル、画分、あるいは溶出物内に存在しているすべてのタンパク質の間の質量比で決められる。
【0029】
好適に、1つのタンパク質又は複数のタンパク質の特定の比活性度は問題のタンパク質のクロマトグラフィ基質に対する親和性の結果として、10−25倍高まる。
その後、ステップd)から得られる溶出物を接線ろ過にかけるのが好ましい。この接線ろ過膜は問題のタンパク質の特性に従って、当業者が選択する。一般的に言えば、孔の空隙率限界を問題のタンパク質の分子重量の2倍にすると(訳注:サイズを重さで限定するのは表現として不適切だと思いますが)、そのろ過が可能になる。例えば、100kDaのサイズの孔を有する膜を用いれば、有効な収率でFVIIをろ過することが可能になる。
このろ過ステップの目的は、特に問題のタンパク質より大きな分子量を有するタンパク質の負荷を減らすこと、特に不規則な形状の問題のタンパク質(例えば、ポリマー化された形状のタンパク質)と一定の時間が経過した場合にそれを変質劣化させるプロテアーゼを除去することである。
非常に好適な一方法において、得られたろ過された溶出液はさらに濃縮され、透析される。好適な装置については限外ろ過による濃縮/透析ステップにおいて既に述べた。
本発明の好ましい一実施の形態によれば、この方法(プロセス)は、問題のタンパク質を精製するための少なくとも1つのイオン交換クロマトグラフィ・ステップ、特にイオン交換装置上で行われる2つの連続するクロマトグラフィ・ステップを含む。好ましくは、これにより残存する乳酸タンパク質の除去が可能となる。
イオン交換装置及び均衡化、洗浄及び溶出緩衝剤は精製されるタンパク質の性質によって選択される。
このステップ又は複数のステップは、ステップc)の直後、あるいはオプションとして親和性クロマトグラフィ及び/又は接線ろ過ステップの後に行うことができる。
好ましくは、この少なくとも1つのステップ及び2つのクロマトグラフィ・ステップは陰イオン交換クロマトグラフィである。より好ましくは、この陰イオン交換クロマトグラフィは、弱塩基性のクロマトグラフィ基質を用いて行われる。この化合物の吸着度の測定は280nmの波長(λ)で行われる。
【0030】
2回目のクロマトグラフィ・ステップは、起こり得るタンパク質の分解性劣化を制限することを意図している。
一例として、非脂質水性相からの因子VII精製の第1のクロマトグラフィ・ステップにおいて、その基質上に因子VIIが保持されるQ−Sepharose(登録商標)FFゲル・タイプのクロマトグラフィ基質が用いられる。中間的純度すなわち25%〜75%の純度を有する因子VIIの溶出液を得るため、0.05Mトリス及び0.020−0.05M塩化カルシウム、pH7.0−8.0に基づく水性溶出緩衝剤が用いられる。
さらに、上にも述べたように、0.15Mの塩化ナトリウム溶液を緩衝剤として用いて、このFVIIの溶出液を透析ステップにかけることができる。
2回目のクロマトグラフィ・ステップにおいては、例えば前のステップにおいて得られた因子VIIの溶出液を精製、オプションとして再びそれが吸収されるように希釈するため、基質上に因子VIIが保持されるQ−Sepharose(登録商標)FFゲル・タイプのクロマトグラフィ基質が用いられる。90%以上の高い純度のFVIIを含んでいる画分の溶出には、好ましくは0.05Mトリス、好ましくは0.005M塩化カルシウム、pH7.0−8.0に基づく水性溶出緩衝剤を用いる。
本発明の好ましい一実施の形態によれば、このプロセスは、2つの陰イオン交換クロマトグラフィ・ステップの後に、第3の陰イオン交換クロマトグラフィ・ステップを含んでいる。このステップによって、医学的使用に適した方法でタンパク質を多量に含んだ組成物を調製することができる。さらに好ましくは、この第3のクロマトグラフィ・ステップは弱塩基性のクロマトグラフィ基質を用いて行われる。この化合物の吸着度の測定は280nmの波長(λ)で行われる。
【0031】
一例として、第2の陰イオン交換クロマトグラフィ・ステップによって得られた溶出液は、希釈された後、その基質上にVIIが保持される因子Q−Sepharose(登録商標)FFゲル・タイプの基質で満たされたカラム上に注入される。この基質上で保持された因子VIIは、0.02Mトリス及び0.20−0.30M塩化ナトリウム、pH6.5−7.5を含んだ水性緩衝剤が用いて溶出される。
その結果、陰イオン交換ゲル上での3回のクロマトグラフィ・ステップによって問題のタンパク質をさらに精製することが可能になる。さらに、それらのステップによって問題のタンパク質の濃縮とその組成物の調製が可能になる。
本発明の好ましい一実施の形態によれば、また精製される問題のタンパク質が凝固因子である場合、陰イオン交換基質上で行われるこれらの3回のクロマトグラフィ・ステップの内の少なくとも1つがこの凝固因子の全体又は部分の活性化を可能にする。好適に、第1のクロマトグラフィ・ステップは凝固因子の活性化を可能にする。
最終的な溶出物が回収されたら、その溶出物は0.22μmフィルターでのろ過ステップ、容器内での分散ステップにかけ、そして、−30℃に凍結させて、この温度で保存することができる。
【0032】
本発明による上記の方法(プロセス)はさらに、製剤、ウイルス不活性化、そして滅菌ステップの少なくとも1つを含むことも出来る。一般的に言えば、この方法(プロセス)は、親和性クロマトグラフィ・ステップの前に、抗ウイルス処理ステップを含むこともでき、このステップは好適には、溶剤/洗剤によって、特にTween(登録商標)80(1%w/v)とTnBP(トリ−n−ブチルホスフェート)(0.3%v/v)との混合物の存在下で実行され、被覆されたウイルスの不活性化がもたらされる。さらに、陰イオン交換装置上での2回目のクロマトグラフィ・ステップから得られた溶出液は、好ましくは、ウイルス、特にパルウイルスB19などの被覆されていないウイルスなどのウイルスを効率的に除去するためにナノろ過ステップにかけることができる。15nmより大きなサイズのウイルスを保持するASAHI PLANOVA(登録商標)15フィルターを用いることができる。
本発明のさらなる態様及び利点を以下の実施例において述べる。これらの実施例は例示的に示されるものであり、本発明の範囲の制限を意図して示されるものではない。
【0033】

以下の実施例は、遺伝子導入された雌ウサギの母乳からの活性化された因子VII(FVIIa)の濃縮物(FVII−tg:遺伝子導入FVII)を調製するための本発明による抽出及び精製プロセスの適用を示している。
これらの生の母乳は5匹の雌F1(創始系統の二世代目)の最初の分泌からのものである。これらの雌はFVII抗原(FVII:Ag)の乳分泌の割合に基づいて選択された。STAGO(ASSERACHROM VII)キットが最初に分泌された乳からのD04からD25(D:搾乳日)までのヒトFVIIの含有量を追跡調査することを可能にしてくれた。この分泌はこれらの雌の場合、各雌と回収日によって(FVIIが188から844IU/mlの範囲で)比較的安定していた。
選択された精製方法(プロセス)によれば、生乳500mlのプールから、例えば、12mgのFVII−tgを精製することができた。精製の全体的な収率は22%であった。
この濃縮物は非還元状態でSDS−PAGE電気泳動による分析では純粋であり、つまり、ジスルフィド架橋が保持されており、還元状態では重鎖と軽鎖の完全な断絶を示し、このことはこの方法(プロセス)中における活性化FVII(FVIIa)への完全な転換をもたらす。
【0034】
例1:母乳からのFVIIの抽出
500mlの生全乳を9体積分の0.25Mリン酸ナトリウム緩衝剤、pH8.2で希釈する。室温で30分間攪拌した後、水性のFVIIを多量に含まれた相を10,000gで1時間15℃の温度で(遠心力Sorvall Evolution RC−6700rpm−ロータSLC−6000で)遠心分離にかける。この作業のためには各835ml程度の6ポット分が必要である。
遠心分離後に3つの相が存在し、それは、表面の脂質相(クリーム)、FVIIの含有量が増大した透明な非脂質水性相(過半数を占めている相)、及びペレット状の白色の固体相(不溶性カゼインとカルシウム化合物の沈殿物)である。
FVIIを含む非脂質水性相は蠕動ポンプを用いてクリーム相になるまで回収される。このクリーム相は分離して回収される。固体相(沈殿物)は除去される。
しかしながら、さらに低い量の脂質を含む非脂質水性相は一連のフィルター(Pall SLK7002U010ZP−孔サイズ1μmのガラス製プレフィルター−次にPall SLK7002NXP−Nylon66、孔サイズ0.45μm)でろ過される。ろ過の終了段階で、この脂質相を上記のろ過プロセスにかけて完全に母乳の脂質小球を捕捉し、ろ過物は透明になる。
さらに、ろ過された非脂質水性相はクロマトグラフィ段階で処理できるようにするために限外ろ過膜(Milipore Biomax 50kDa−0.1m)上で透析する。分子量が約50kDaとかなり大きなFVIIは、母乳内の塩類、糖類及びペプチド類とは違って、この膜を透過しない。最初に、溶液(約5,000ml)を500mlに濃縮し、次いで、体積は一定に保ちながら限外ろ過で透析を行うと、電解質を除去できると同時に、クロマトグラフィ段階のために生体物質を調整することができる。この透析緩衝液は0.025Mリン酸ナトリウム緩衝液、pH8.2である。
FVIIを含むこの非脂質水性相はFVII−tg含有量を高めた乳清になじませることができる。この製剤は以下の方法(プロセス)を開始するまで−30℃の温度で保存される。
このステップでのFVIIの全体的な収率は非常に満足すべきもので、90%である(リン酸塩を伴う91%の抽出率+99%透析/濃縮)。
このステップで得られたFVIIを含む非脂質水性相は完全に透明で、さならるクロマトグラフィ・ステップに用いることができる。
約93,000IUのFVII−tgがこの段階で抽出される。このFVII製剤の純度は0.2%程度である。
【0035】
例2:FVIIa精製のための方法(プロセス)
1.ヒドロキシアパタイト・ゲル・クロマトグラフィ
Amicon90(直径9cm−断面64cm)カラムに、Biorad Ceramic HydroxyapatiteタイプIゲル(CHT−I)を充填する。検出はλ=280nmでの吸着測定で行われる。
0.025Mリン酸ナトリウムと0.04塩化ナトリウムの混合物で構成される水性緩衝液A、pH8.0で、このゲルを均衡化させる。この調製物全体を−30℃で保存し、使用時に37℃の温水槽で氷塊が完全に解消するまで解凍し、そして、ゲルに注入する(線形流量100cm/h,つまり150ml/分)。捕捉されない画分は基線回帰(RBL)まで0.025Mリン酸ナトリウムと0.04塩化ナトリウムで構成される緩衝液、pH8.2を通過させることで除去する。
FVII−tgを含んでいる画分の溶出は0.025Mリン酸ナトリウムと0.04M塩化ナトリウムで構成される緩衝液B、pH8.0を用いて行われる。この溶出画分は基線回帰(RBL)まで回収される。
このクロマトグラフィによってFVII−tgの90%以上が回収でき、乳酸タンパク質の95%以上が取り除かれる。比活性度(S.A)は25倍される。約85,000IUの純度4%のFVII−tgがこの段階で得られる。
【0036】
2.100kDa接線ろ過及び50kDa濃縮/透析
前のステップで得られた溶出物全体を100kDa限外ろ過膜(Pall OMEGA SC 100K−0.1m)を用いて接線モードでろ過する。FVIIは100kDa膜を通じてろ過されるが、分子量が100kDa以上のタンパク質はろ過することができない。
さらに、ろ過された画分を約500ml程度まで濃縮して、実施例1ですでに述べた50kDa限外フィルター上で透析する。この透析のための緩衝液は0.15M塩化クロミウムである。
方法(プロセス)のこの段階で、生成物はイオン交換クロマトグラフィに送られるまで−30℃の温度で保存される。
このステップによって分子量が100kDa以上のタンパク質、特に酵素前躯体の負荷を減少させることが可能になる。100kDa膜処理を行うことで、タンパク質の約50%を捕捉することができ、そのタンパク質の大部分は高分子量タンパク質で、一方、FVII−tgの95%、つまり82,000IUのFVII−tgはろ過される。
この処理によって、以後のステップにおけるタンパク質分解作用により加水分解のリスクを低減することが可能になる。
【0037】
3.Q−Sepharose(登録商標)FFゲルでのクロマトグラフィ
イオン交換ゲルQ−Sepharose(登録商標)FF(Fast Flow)(QSFF)上で3回連続でクロマトグラフィを行って、活性成分を精製し、FVIIを活性化されたFVII(FVIIa)へと活性化し、そして最後に、濃縮してFVIIの組成物を作成する。この化合物の検出はλ=280nmでの吸着度測定によって行われる。
【0038】
3.1 Q−Sepharose(登録商標)FF1ステップ−溶出「高カルシウム」
直径2.6cm(断面積:5.3cm)のカラムにQ−Sepharose(登録商標)FFゲル(GE Healthcare)を100ml充填する。
このゲルを0.05Mトリス緩衝液、pH7.5で均衡させる。
画分全体を−30℃で保存して、使用時には氷塊が完全になくなるまで、37℃の水槽で溶かす。この画分を均衡化緩衝液で1/2(体積比)に希釈して、その後、ゲル上に注入し(流量:13ml/分、これは150cm/時間の線形流速に相当)、そして、捕捉されない画分をRBLまでその緩衝液内を通過させて除去する。
FVIIの含有量が低い最初のタンパク質画分を0.05Mトリス及び0.15M塩化ナトリウム緩衝液、pH7.5で9ml/分(つまり、100cm/時間)で溶出させ、そのあと除去する。
第二のFVIIを多量に含んだタンパク質画分は0.05Mトリス及び0.05M塩化ナトリウム、そして0.05M塩化カルシウム緩衝液(pH7.5)を用いて、9ml/分(つまり、100cm/時間)で溶出される。この検出はλ=280nmで行われる。
この第二の画分は上記の例1において上に述べた50kDa限外フィルターで透析される。この透析用緩衝液は0.15M塩化ナトリウムである。この画分は一昼夜+4℃で保存され、その後、陰イオン交換クロマトグラフィで二度目の処理にかけられる。
このステップによって、73%のFVII(つまり、60000IUのFVII−tg)を回収することができると同時に、関連するタンパク質の80%を除去することができる。さらに。FVIIを活性化してFVIIaとすることができる。
【0039】
3.2 Q−Sepharose(登録商標)FF2ステップ−溶出「低カルシウム」
直径2.5cm(断面積:4.9cm)カラムに30mlのQ−Sepharose(登録商標)FF(GE Healthcare)ゲルを充填する。
このゲルを0.05Mトリス緩衝液、pH7.5で均衡化させる。
+4℃の温度で保存されている前に溶出させた画分(第二の画分)を希釈してから、ゲルに注入する(流量:9ml/分、つまり、線形流速:100cm/時間)。
この第二の画分を注入した後、捕捉されない画分を除去するために、均衡化緩衝液で洗浄する。
非常に高い純度のFVIIを含んでいる画分は0.05Mトリス、0.05M塩化ナトリウム、及び0.005M塩化カルシウムに基づく緩衝液、pH7.5内で4.5ml/分(つまり50cm/時間)で溶出させる。
23,000IUのFVII−tgが精製され、これは12mgのFVII−tgに相当する。
このステップによって、関連タンパク質(雌ウサギの母乳タンパク質)の95%以上が除去できる。
この溶出物は90%以上の純度を有し、天然のヒトFVII分子のものに近い構造的及び機能的特徴を示す。イオン交換クロマトグラフィの三回目の処理で濃縮、製剤化される。
【0040】
3.3 Q−Sepharose(登録商標)FF3ステップ−「ナトリウム」溶出
直径2.5cm(断面積:4.9cm)のカラムにQ−Sepharose(登録商標)FFゲル(GE Healthcare)10mlを充填する。
このゲルを0.05Mトリス緩衝液(pH7.5)を用いて均衡化させる。
前のステップで溶出された精製画分を注入用の純水(PWI)で5倍に希釈してから、ゲルに注入する(流量:4.5ml/分、線形流速:50cm/時間)。
上記画分を注入した後、このゲルを均衡化緩衝液を用いて洗浄して、捕捉されていない画分を除去する。
その後、FVII−tgを0.02Mトリス及び0.28M塩化ナトリウム緩衝液(pH7.0)を用いて、流量3ml/分(36cm/時間)で溶出させる。
純度95%以上のFVII−tgの濃縮物が調製された。この生成物は静脈注射に使用できる。この方法(プロセス)は累積収率が22%に達し、用いられる母乳の1リットルあたり少なくとも20mgのFVIIの精製が可能になる。
表1は、本発明の好ましい1つの実施の形態による方法(プロセス・ステップ)を示すものであり、各ステップでの異なった収率、純度、及び比活性度を示している。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
この発明に係る方法を、他の分野にも適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母乳中に存在し、前記母乳の複合化した又はしていないカルシウム・イオンに対して親和性を示す少なくとも1つのタンパク質を抽出する方法において、
a) 前記母乳を可溶性塩に接触させることで得られたカルシウム化合物を析出することによってタンパク質を放出するステップで、この可溶性塩の陰イオンがこの媒体内に前記不溶性のカルシウム化合物を形成してこうした方法でタンパク質を多量に含む液相を得ることができる能力があるかどうかを基準として選択されるステップと、
b) 前記カルシウム化合物の沈殿物から前記タンパク質を多量に含む液相を分離して、その液相をさらに脂質相と前記タンパク質を含む水性の非脂質相に分離するステップと、
そして、
c) 前記タンパク質を含む水性の非脂質相を回収するステップと、
で構成されることを特徴とする母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項2】
前記可溶性塩は、リン酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項3】
前記リン酸塩は、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸ルビジウム、及びリン酸セシウムで構成される群から選択され、特に、リン酸ナトリウムであることを特徴とする請求項2に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項4】
前記可溶性塩は、アルカリ金属シュウ酸塩であり、特にシュウ酸ナトリウムあるいはシュウ酸カリウムであり、あるいはアルカリ金属炭酸塩であり、特に、炭酸ナトリウムあるいは炭酸カリウムであるか、あるいはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項5】
水溶液内での前記可溶性塩の濃度は、100mMから3Mの範囲にあり、より好ましくは200mMから500mMの範囲にあり、特に好ましくは200mMから300mMの範囲にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項6】
前記ステップb)は、遠心分離によって行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項7】
前記ステップc)の後に、好ましくは、1μmから0.45μmに孔隙度を減らしたフィルター上で連続的に行われる非脂質性水相のろ過ステップと、それに続く限外ろ過による濃縮/透析のステップを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項8】
前記脂質相は、好ましくは、1μmから0.45μmに孔隙度を減らしたフィルター上でろ過されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項9】
前記タンパク質は、母乳中に自然に存在するのではないタンパク質であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項10】
前記母乳は、遺伝子導入非ヒト哺乳動物の母乳であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項11】
前記哺乳動物は、雌ウサギ、ヒツジ、ヤギ、雌牛、ブタ及びネズミの中から選択されることを特徴とする請求項10に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項12】
前記タンパク質は、凝固タンパク質であることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項13】
前記タンパク質は、因子II、因子VII、因子IX、因子X、及びそれらの活性型、又、タンパク質C、活性化タンパク質C、タンパク質S及びタンパク質Z、又はそれらの混合物で構成される群から選択されることを特徴とする請求項12に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項14】
前記タンパク質は、GLAドメイン、EGFドメイン(上皮成長因子)またはカルシウム・イオンを固定化する能力を有することで知られるその他のドメインを含むタンパク質であることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項15】
前記タンパク質は、ビタミンK依存性タンパク質であることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項16】
前記タンパク質は、カルシウム依存性タンパク質であることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項17】
前記タンパク質は、因子VIII、α−1−抗トリプシン、抗トロンビンIII、アルブミン、フィブリノーゲン、インスリン、ミエリン塩基性タンパク質、プロインスリン、組織プラスミノゲン活性化因子、及び抗体、又はそれらの混合物で構成される群から選択されることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項18】
前記タンパク質は、遺伝子導入ラクトフェリン、ラクトブロブリン、リゾチーム及び/又はラクトアルブミンであることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項19】
過塩性、塩基性であり、また可溶性カゼイン及び請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法によって得ることができる少なくとももう1つのタンパク質を含んでいることを特徴とする母乳の非脂質水性相。
【請求項20】
前記ステップc)の後に、タンパク質を所定の濃度のリン酸塩に基づいた緩衝剤を用いて溶出する親和性クロマトグラフィのステップd)が続くことを特徴とする請求項1〜18のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項21】
前記親和性クロマトグラフィがクロマトグラフィ・カラム上で行われ、その基質は、ヒドロキシアパタイト・ゲル(Ca10(PO(OH))又はフルオロアパタイト・ゲル(Ca10(PO)であることを特徴とする請求項20に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項22】
前記ステップd)で得られる溶出液は、その後、接線ろ過にかけられることを特徴とする請求項20又は請求項21に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項23】
イオン交換クロマトグラフィの少なくとも1つのステップ、特に前記ステップc)の直後に行われる2つの連続したイオン交換クロマトグラフィ・ステップで構成されることを特徴とする請求項1〜18のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項24】
クロマトグラフィの少なくとも1つのステップ、又は2つのステップは、陰イオン交換クロマトグラフィであることを特徴とする請求項23に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項25】
前記2つの陰イオン交換クロマトグラフィ・ステップの後に、第3の陰イオン交換クロマトグラフィ・ステップを含んでいることを特徴とする請求項24に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項26】
前記親和性クロマトグラフィ・ステップの前に、溶剤/洗剤を用いて行われる抗ウイルス・ステップを含んでいることを特徴とする請求項20〜25のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。
【請求項27】
前記2回目の陰イオン交換クロマトグラフィ・ステップで得られた溶出液は、ナノろ過にかけられることを特徴とする請求項23〜25のいずれか1項に記載の母乳中に存在する1つ又は複数のタンパク質を抽出する方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−538884(P2009−538884A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512640(P2009−512640)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000908
【国際公開番号】WO2007/138198
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(508183139)エルエフビー バイオテクノロジース (7)
【Fターム(参考)】