説明

毛羽立ちの少ない耐熱性繊維およびその利用。

【課題】耐熱性繊維を加熱する際の毛羽立ちを抑えて品質の良好な繊維を提供する。
【解決手段】炭素シートを貼り付けた加熱処理装置表面にポリイミド繊維、ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリベンズイミダゾール繊維などの繊維を接触せしめ加熱して耐熱性繊維を製造する。加熱処理装置は誘導過熱、電熱線、遠赤外線のいずれかの方式のヒータを用いることができ、炭素シートは天然黒鉛もしくは高分子シートを原料とした炭素シートとし、加熱温度は200℃以上700℃以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
毛羽立ちの少ない耐熱性繊維及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性繊維は一般の有機高分子樹脂の繊維に比較して高温安定性に優れることから、耐熱性防護服や、耐熱性フィルター等に広く用いられている。このような耐熱性繊維は熱収縮率を小さく抑えるために繊維を高温で加熱する処理が一般的に施されている。
【0003】
例えばポリイミド繊維の場合には、特許文献1では、クロムメッキされた銅、あるいはステンレススチールでメッキされたアルミニウムブロック等の金属ブロックで加熱する方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭42−2936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが上記の様な接触式の加熱処理方式を採用した場合に、高温に加熱した状態で耐熱性繊維が加熱機器表面に接するため、繊維強度が低下して端子切れ(すなわち繊維の一部が切れる現象)が起こり繊維表面に毛羽立ちが多数発生する問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記問題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、下記方法により上記問題点を解決しうることを見出した。
1)表面に炭素シートを配置した加熱処理装置に耐熱性繊維を接触せしめ加熱し作製した耐熱性繊維。
2)前記耐熱性繊維がポリイミド繊維、ポリアミド酸繊維、ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリベンズイミダゾール繊維であることを特徴とする1)記載の耐熱性繊維。
3)前記加熱処理装置が、誘導加熱方式ヒータ、電熱線ヒータ、遠赤外線ヒータのいずれかの方式のヒータを用いることを特徴とする1)記載の耐熱性繊維。
4)前記炭素シートが、天然黒鉛を原料として作製した炭素シート、及び/もしくは、高分子シートを原料として作製した炭素シートであることを特徴とする1)記載の耐熱性繊維。
5)前記耐熱性繊維の加熱処理装置の温度が200℃以上700℃以下であることを特徴とする1)記載の耐熱性繊維。
6)1)から5)記載の耐熱性繊維を用いた不織布。
7)1)から5)記載の耐熱性繊維を用いた耐熱性フィルター。
8)1)から5)記載の耐熱性繊維を用いた布帛。
9)1)から5)記載の耐熱性繊維を用いた耐熱性防護服。
10)1)から5)記載の耐熱性繊維を用いた電気・電子機器材料。
11)表面に炭素シートを配置した加熱処理装置に耐熱性繊維を接触せしめ加熱し作製することを特徴とする耐熱性繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本願発明のポリイミド繊維は耐熱性に優れ、毛羽立ちが少ない耐熱性繊維を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
従来の加熱処理装置は銅製のヒータ表面を金属鍍金することで熱の伝達効率を向上させて繊維を均一に効率良く加熱できる装置が用いられてきた。ところが上記方法を用いると高温で加熱されて繊維強度が低下すると繊維の端子が切れて毛羽立ちが発生することがあった。そこで本願発明では、例えば加熱処理装置表面に炭素シートを貼り付けることにより、加熱処理装置表面に炭素シートを配置し、高温に加熱されて繊維強度が弱くなっている繊維の毛羽立ちを効率良く抑えられることを見出したのである。
【0009】
本願発明の方法を用いると、繊維表面の毛羽立ちを抑えることができ、更に、繊維束内部まで均一に加熱することが出来るので繊維束が太くなった場合にも繊維の物性値が比較的均一になるという効果が得られる。
【0010】
本願発明における耐熱性繊維とは、ポリイミド繊維、ポリアミド酸繊維、ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリベンズイミダゾール繊維である。上記の耐熱性繊維を用いることで高温の加熱処理表面でも溶融することが無く加熱処理することができるので好ましい。特に本願発明では、ポリイミド繊維およびポリイミド繊維の前駆体であるポリアミド酸繊維が好適に用いられる。
【0011】
本願発明における加熱処理装置とは、誘導加熱方式ヒータ、電熱線ヒータ、遠赤外線ヒータのいずれかの方式のヒータを用いることが好ましい。特に、ヒータ表面の温度分布を減らすことができるので誘導加熱方式ヒータや、電熱線ヒータを用いることが好ましい。ヒータの形状はヒータ温度とヒータに接する時間から最適な形状を選定することが好ましく平板ヒータや、ロールヒータが好ましく用いられる。
【0012】
本願発明における炭素シートとは、天然黒鉛を原料として作製した炭素シート、及び/又は、高分子シートを原料として作製した炭素シートである。このような炭素シートを採用することで耐熱性繊維が加熱装置表面に接した際に繊維強度が低下しても繊維の端子切れがほとんど生じずに加熱することができるので好ましい。本願発明における炭素シートの原料となる高分子シートとは、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、フェノール樹脂フィルム等が好適に用いられ、これらのフィルムを不活性雰囲気中で2000℃以上の温度で加熱したフィルムを用いることが好ましい。
【0013】
本願発明における、耐熱性繊維の加熱処理装置の表面温度は、200℃以上700℃以下であることが好ましい。加熱処理装置の温度は用いる耐熱性繊維の種類により適宜選定することが好ましい。特にポリイミド繊維や、その前駆体の繊維を加熱する場合には、200℃以上600℃以下で加熱することがポリイミド繊維の劣化を抑えることが出来るので好ましく、特に250℃以上400℃以下で加熱することで毛羽立ちを少なくし劣化を抑えることができるので好ましい。
【0014】
本願発明の耐熱性繊維は、毛羽立ちが少なく耐熱性に優れる繊維であるため不織布やその不織布からなる耐熱性フィルターに好適に用いるこができる。特に本願発明の耐熱性繊維をステープル状に加工する場合に、繊維屑の発生を抑えることができるので繊維の収率が向上する。
更には、耐熱性に優れ高温時の寸法安定性にも優れるため、耐熱性繊維を用いた布帛や、不織布や布帛からなる耐熱性防護服に好適に用いられる。
【0015】
更に、高温時の寸法安定性にすぐれ毛羽立ちが少ない繊維であるため電気・電子機器材料として好適に用いることができる。特に、電気・電子機器材料用途に用いる場合には電子基板用の基布として用いることが好ましい。
【実施例】
【0016】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0017】
(合成例1)
チッソ置換を行った200Lの反応装置に、溶液を攪拌するための攪拌翼を取りつけた反応装置内で反応を行った。反応装置内に、N,N−ジメチルホルムアミドを31.44kg投入し、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル4.41kgを投入して完全に溶解した。
【0018】
この溶液中に、ピロメリット酸二無水物4.32kgを投入して20分間均一攪拌を行った。この溶液に、ピロメリット酸二無水物0.48kgをN,N−ジメチルホルムアミド(以下DMFと略す)9.1kgに溶解した溶液を少量ずつ添加して、紡糸原液の粘度が、23℃の条件で、B型粘度計で測定した場合に2300ポイズになった時点で添加を終えた。均一な粘度になった後に、引き続き1時間均一攪拌を行いポリアミド酸溶液を得た。ポリアミド酸溶液の固形分濃度は18.5%であった。
【0019】
上記ポリアミド酸溶液を湿式紡糸により紡糸して、繊維径が10μm、DMFを30%含むポリアミド酸繊維束を得た。繊維束本数は300本、繊維の長さは1500mの繊維を得た。このポリアミド酸繊維を70℃に加熱した沸騰水中で20分加熱して、200℃の真空オーブン内で加熱しDMFと水を除去した。得られた繊維の繊維径は8μm、DMFを5%含有するポリアミド酸繊維を得た。
【0020】
(実施例1)
合成例1で得られたポリアミド酸繊維のうち500mを、300℃に加熱した電熱線ヒータ(ヒータ長が23cm、表面はクロムメッキが施されている)のヒータ表面に炭素シート(天然黒鉛を押し固めたシート)を貼り付けて、ヒータ表面に3秒間接する様に延伸加熱処理を行った。この繊維を350℃の加熱オーブン中で1時間、400℃の加熱オーブン中で20分加熱してポリイミド繊維を得た。
【0021】
このポリイミド繊維を100m繰り出して毛羽立ちの個所を調べたところ毛羽立ちは確認できなかった。
【0022】
(比較例1)
合成例1で得られたポリアミド酸繊維のうち500mを、300℃に加熱した電熱線ヒータ(ヒータ長が23cm、表面はクロムメッキが施されている)のヒータ表面に直接に3秒間接する様に延伸加熱処理を行った。この繊維を350℃の加熱オーブン中で1時間、400℃の加熱オーブン中で20分加熱してポリイミド繊維を得た。
【0023】
このポリイミド繊維を100m繰り出して毛羽立ちの個所を調べたところ約1mに一箇所以上の毛羽立ちが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に炭素シートを配置した加熱処理装置に耐熱性繊維を接触せしめ加熱し作製した耐熱性繊維。
【請求項2】
前記耐熱性繊維がポリイミド繊維、ポリアミド酸繊維、ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリベンズイミダゾール繊維であることを特徴とする請求項1記載の耐熱性繊維。
【請求項3】
前記加熱処理装置が、誘導加熱方式ヒータ、電熱線ヒータ、遠赤外線ヒータのいずれかの方式のヒータを用いることを特徴とする請求項1記載の耐熱性繊維。
【請求項4】
前記炭素シートが、天然黒鉛を原料として作製した炭素シート、及び/もしくは、高分子シートを原料として作製した炭素シートであることを特徴とする請求項1記載の耐熱性繊維。
【請求項5】
前記耐熱性繊維の加熱処理装置の温度が200℃以上700℃以下であることを特徴とする請求項1記載の耐熱性繊維。
【請求項6】
請求項1から5記載の耐熱性繊維を用いた不織布。
【請求項7】
請求項1から5記載の耐熱性繊維を用いた耐熱性フィルター。
【請求項8】
請求項1から5記載の耐熱性繊維を用いた布帛。
【請求項9】
請求項1から5記載の耐熱性繊維を用いた耐熱性防護服。
【請求項10】
請求項1から5記載の耐熱性繊維を用いた電気・電子機器材料。
【請求項11】
表面に炭素シートを配置した加熱処理装置に耐熱性繊維を接触せしめ加熱し作製することを特徴とする耐熱性繊維の製造方法。

【公開番号】特開2011−80176(P2011−80176A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235428(P2009−235428)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】