説明

毛髪処理剤

【課題】新規な変性ペプチドが配合された毛髪処理剤、及びこの毛髪処理剤用原料の提供。
【解決手段】毛髪処理剤には、下記式(I)で表される構造及び当該構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える変性ペプチドを配合する。この変性ペプチドを溶媒に溶解させたものを、毛髪処理剤用原料として用いると良い。
−S−S−CH−CH(NH)−COOH (I)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪に適用する毛髪処理剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
毛髪へのブラッシング、ハンドドライヤー、熱アイロン、ヘアカラー、パーマネントウェーブなどの物理的又は化学的処理により毛髪が損傷し、毛髪の手触りの悪化、艶の低下、ハリの低下などをもたらす。そのような毛髪を補修することを目的として、蛋白質の誘導体等の変性ペプチドを各種毛髪処理剤に配合することが知られている。例えば、特許文献1には、カルボキシル基を導入した可溶性ケラチンを含有する毛髪処理剤が開示されている。また、特許文献2には、カルボキシメチルジスルフィド基を備えるペプチドを配合した毛髪処理剤が開示されている。
【0003】
毛髪処理剤に変性ペプチドを配合するのは上記の通りであるところ、毛髪処理剤に配合する変性ペプチドとして新規なものの提案が続いているのが実情である。そして、そのような新規な変性ペプチドが配合された毛髪処理剤の提案が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−285401号公報
【特許文献2】国際公開第WO2010/143484号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、新規な変性ペプチドが配合された毛髪処理剤、及びこの毛髪処理剤用原料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る毛髪処理剤は、下記式(I)で表される構造及び当該構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える変性ペプチドが配合されたことを特徴とする。
−S−S−CH−CH(NH)−COOH (I)
【0007】
ここで、本発明における「変性ペプチド」とは、上記式(I)で表される構造及び当該構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備えるペプチドである。また「ペプチド」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合したものであり、ケラチンなどの蛋白質もペプチドに該当する。
【0008】
本発明に係る毛髪処理剤に配合される前記変性ペプチドの主鎖は、例えば、ケラチンである。
【0009】
本発明に係る毛髪処理剤は、ヘアケア剤、パーマ剤、カラーリング剤、ブリーチ剤、又はスタイリング剤等として用いられる。
【0010】
本発明に係る毛髪処理剤には、前記変性ペプチドとして、分子量40000以上70000以下のものを配合すると良く、分子量20000以下のものを配合しても良い。また、毛髪浸透性を有する前記変性ペプチドを、本発明に係る毛髪処理剤に配合しても良い。分子量40000以上70000以下の前記変性ペプチドであれば、毛髪外表面の補修に有利であり、分子量20000以下の前記変性ペプチドであれば、分子量40000以上70000以下のものに比して水への分散性又は溶解性に優れ、そして、毛髪浸透性を有する前記変性ペプチドであれば、毛髪内部の補修が期待される。
【0011】
また、本発明に係る毛髪処理剤用原料は、下記式(I)で表される構造及び当該構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える変性ペプチドを溶媒に溶解させたものである。
−S−S−CH−CH(NH)−COOH (I)
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る毛髪処理剤によれば、所定の変性ペプチドによる感触を毛髪に付与する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る毛髪処理剤に配合される変性ペプチドの製造方法例を示すフロー図である。
【図2】本発明に係る毛髪処理剤に配合される変性ペプチド含有液を加熱し、水に浸漬した後の観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係る毛髪処理剤に基づき、本発明を以下に説明する。
【0015】
(毛髪処理剤)
本実施形態に係る毛髪処理剤は、所定の変性ペプチドが配合されたものであり、水系及び非水系のいずれであっても良い(水が配合されたものが典型的であり、水の配合量は、例えば60質量%以上。)。また、この毛髪処理剤には、公知の毛髪処理剤に配合される原料を任意原料として配合しても良い。
【0016】
変性ペプチド
本実施形態に係る毛髪処理剤に配合される変性ペプチドは、複数のアミノ酸のペプチド結合によって形成された主鎖と、この主鎖に結合する側鎖基を備える。
【0017】
上記変性ペプチドの主鎖は、特に限定されない。この主鎖の例としては、システインを構成アミノ酸の一種としているペプチドの主鎖と同じものが挙げられる。また、システインを構成アミノ酸の一種としているペプチドの例としては、ケラチン、カゼインが挙げられる。ケラチンは、天然物由来のペプチドの中でもシステイン比率が高いものとして知られており、当該変性ペプチドが効率よく得られる原料となる。かかる観点から、変性ペプチドの主鎖はケラチンの主鎖と同じものが好適である。
【0018】
上記変性ペプチドの側鎖基は、下記式(I)で表される構造及び当該構造の塩から選ばれた単位を一種又は二種以上備える。
−S−S−CH−CH(NH)−COOH (I)
【0019】
上記式(I)で表される構造の塩は、カルボキシラートアニオン(上記式(I)におけるカルボキシ基のアニオン)とカチオンとのイオン結合体である。そのカチオンとなる単位としては、例えば、NHなどのアンモニウム;Na、Kなどの金属原子;が挙げられる。また、上記(I)で表される構造の塩は、アンモニオカチオン(上記式(I)におけるアミノ基のカチオン)とアニオンとのイオン結合体であっても良い。そのアニオンとなる単位としては、例えば、Cl、Brなどのハロゲン原子が挙げられる。
【0020】
上記側鎖基を2以上有する変性ペプチドと毛髪とでは、毛髪に存在するメルカプト基間が変性ペプチドを介して架橋されると考えられる。その架橋以外に、変性ペプチドにおける1個の上記側鎖基のみと毛髪のメルカプト基との反応、この1個の側鎖基のみが毛髪のメルカプト基と反応した変性ペプチドと他の変性ペプチドとの重合反応、毛髪内での変性ペプチド同士の重合反応も考えられる。毛髪におけるメルカプト基間の変性ペプチドを介した架橋機構を例にして表せば、次の通りである。
【化1】

【0021】
本実施形態に係る毛髪処理剤に配合する変性ペプチドの分子量は、変性ペプチド分子が大きなほど毛髪の外表面への補修成分付着に有利なので、2000以上が良く、10000以上が好ましく、20000以上がより好ましく、30000以上が更に好ましく、40000以上が更により好ましい。一方で、変性ペプチド分子が小さなほど毛髪処理剤に溶存し易く、同処理剤のpHを低下させた際の溶解性への影響が小さい。そのため、変性ペプチドの水への溶解性の観点からの当該変性ペプチドの分子量は、70000以下が良く、60000以下が好ましく、50000以下がより好ましく、20000以下が更に好ましい。また、毛髪内部の補修を行うためには変性ペプチドの分子量が小さいほど有利なので、変性ペプチドの分子量は、15000以下が良く、10000以下が好ましく、5000以下がより好ましい。ここで、変性ペプチドの分子量については、Sodium Dodecyl Sulfate−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE法)による変性ペプチドのバンドと分子量マーカーのバンドとの相対距離から算出した分子量を、変性ペプチドの分子量とみなして採用する。
【0022】
毛髪内部の補修のためには分子量が小さなほど有利なのは上記の通りであり、この内部の補修を行う変性ペプチドは、毛髪浸透性(毛髪内部への浸透性)を有することが必要となる。当該浸透性を有していることは、次の(1)〜(4)の手順により確認できる。(1)変性ペプチド水溶液に、FTSC−MESを添加する。そのFTSC−MESは、次の通り調製する。1.065質量部の2−(N−Morpholino)ethanesulfonic Acid(MES)を40質量部の水に溶解させた液に、0.2M−NaOH水溶液を滴下することにより、pH5.5のMES水溶液を調製し、MES水溶液中に、0.00042質量部の蛍光色素Fluorescein−5−thiosemicarbazide(FTSC)を溶解させ、水を加えて全量約50質量部とすることでFTSC−MESが調製される。(2)FTSC−MES添加後の変性ペプチド水溶液にバージン毛髪を10分間浸漬後、その毛髪を水洗し、室温で乾燥させる。(3)乾燥後の毛髪をミクロトームで切断する。(4)毛髪の切断面を蛍光顕微鏡観察(励起光波長:340nm)する。前記(4)の手順の蛍光顕微鏡観察においてキューティクルよりも内側に蛍光を確認できれば、変性ペプチドの毛髪浸透性を確認できたことになる。
【0023】
本実施形態に係る毛髪処理剤における変性ペプチド配合量の下限は、例えば0.001質量%以上であり、0.01質量%以上が良く、0.1質量%以上がより好ましい。一方、変性ペプチド配合量の上限は、多量配合によるコスト上昇を抑制する観点から、5質量%以下が良く、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。なお、変性ペプチドの分子量が小さなほど毛髪処理剤に溶存し易いことは上記の通りであるところ、毛髪処理剤における変性ペプチドの配合量については、当該変性ペプチドの分子量に応じて適宜設定すると良い。
【0024】
次に、変性ペプチドの製造方法例として、ケラチンを原料とした変性ペプチドの製造方法について説明する。当該変性ペプチドの製造方法は、図1に示すように、還元工程(STP1)、酸化剤混合工程(STP2)、及び固液分離工程(STP3)を有する。図1に示す全工程を備える方法では、酸化剤混合工程(STP2)にて変性ペプチド(図1に示す液体部Lに溶解している変性ペプチド(変性ペプチドL)、及び固体部Sに含まれる変性ペプチド(変性ペプチドS))が生成するので、固液分離工程(STP3)を設けなくても変性ペプチドが製造されることになる。
【0025】
還元工程(STP1)は、還元剤、ケラチン、及び水とを混合したケラチン混合液を調製する工程である。かかる還元工程(STP1)において、ケラチンが有するジスルフィド基(−S−S−)をメルカプト基(−SH HS−)に還元する。
【0026】
原料であるケラチンとしては、これを構成蛋白質として含む羊毛(メリノ種羊毛、リンカーン種羊毛等)、人毛、獣毛、羽毛、爪等が挙げられる。中でも、変性ペプチドを安価かつ安定的に入手するために、羊毛を原料とすることが好ましい。この羊毛等の原料については、殺菌、脱脂、洗浄、切断、粉砕及び乾燥を適宜に組み合わせて、予め処理するとよい。
【0027】
還元工程(STP1)で用いる還元剤はシステイン又はその塩であり、システイン及びその塩から選ばれた一種又は二種以上を用いる。システインは、L−システイン、及びD−システインのいずれを用いても良く、双方を使用しても良い。また、システインの塩としては、例えば、システイン塩酸塩が挙げられる。
【0028】
上記所定の還元剤の使用量としては、羊毛等の原料1gを基準として、0.005モル以上0.02モル以下であると良い。また、ケラチン混合液の容量を基準とした場合の還元剤の使用量は、0.1mol/L以上0.4mol/L以下であると良い。
【0029】
還元工程(STP1)での水の量は、特に限定されないが、例えば、羊毛等の原料1質量部に対して、20質量部以上200質量部以下であると良い。
【0030】
還元工程(STP1)においては、一種又は二種以上のアルカリ性化合物をケラチン混合液に混合するとよい。アルカリ性化合物とは、水に添加することで、その水をアルカリ性にできる化合物である。このアルカリ性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0031】
上記アルカリ性化合物の混合量は、特に限定されないが、還元工程(STP1)におけるケラチン混合液のpHを下記範囲に調整する量である。還元工程(STP1)でのpHの下限としては、9が好ましく、10がより好ましい。一方、還元工程(STP1)でのpHの上限としては、13が好ましく、12がより好ましい。還元工程(STP1)でのpHを9以上にすることで、ケラチンの還元を効率良く行える。また、pHを13以下にすることで、ケラチン主鎖の切断を抑制できる(ケラチン主鎖の切断を促進することを目的とする場合は、ケラチン混合液のpHが13を超えるように調整すればよい。)。
【0032】
還元工程(STP1)の温度条件は、特に限定されないが、35℃以上60℃以下が良く、40℃以上50℃以下が好ましい。温度条件が35℃未満であると、ジスルフィド基をメルカプト基に変換するための還元反応速度が低下し、ケラチンを十分に還元できないことがある。一方、60℃を超えると、ケラチン主鎖が切断されやすくなる。また、還元工程(STP1)の時間は、設定温度が低いほど長時間となり、設定温度が高いほど短時間となる。
【0033】
酸化剤混合工程(STP2)は、還元工程(STP1)を経たケラチン混合液中のケラチンと酸化剤とを混合し、変性ペプチドを生成させる工程である。この生成での反応式を挙げれば、次の通りである。
K−SH + HS−CHCH(NH)COO
→ K−S−S−CHCH(NH)COO
K:ケラチン残基
【0034】
酸化剤混合工程(STP2)での酸化剤の混合は、ケラチンのメルカプト基を上記式(I)で表される構造単位に変性する酸化反応を促進するために行われる。通常、還元工程(STP1)を経たケラチン混合液に、酸化剤を混合する。
【0035】
酸化剤としては、例えば、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム、過酸化水素等が挙げられ、一種又は二種以上の酸化剤を用いる。
【0036】
酸化剤混合工程(STP2)での酸化剤の使用量は、特に限定されないが、羊毛等の原料1gを基準として、0.001モル以上0.02モル以下であると良く、酸化剤混合工程(STP2)のケラチン混合液の容量を基準として、0.02mol/L以上1mol/L以下であると良い。
【0037】
酸化剤をケラチン混合液に混合する際には、この酸化剤がケラチン混合液中で局所的に高濃度化することを避けるため、1mol/L以上5mol/L以下程度の酸化剤溶液を例えば10分から6時間かけて連続的と断続的とを問わず徐々に混合するとよい。
【0038】
pH9以上のケラチン混合液に混合する酸化剤量(A)を、pH7以上9未満のケラチン混合液に混合する酸化剤量(B)より多くするのが好適である。これにより、変性ペプチド生成時間が短縮化する。上記酸化剤量(A)及び(B)の合計に対する酸化剤量(B)の割合は、20mol%以下が好ましく、10mol%以下がより好ましく、5mol%以下が更に好ましく、0mol%が特に好ましい。
【0039】
酸化剤混合工程(STP2)でのケラチン混合液のpHは、本工程の進行に応じて調整される。酸化剤の混合を開始する際のpHは、9以上が好ましく、10以上がより好ましい。また、そのpHは、13以下が良く、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。pH9以上であれば、変性ペプチドの生成効率が良く、pH13以下であれば、ケラチン由来の処理物の主鎖の切断を抑制できる。酸化剤混合工程(STP2)終了時のpHは、特に限定されないが、7程度で良い。
【0040】
酸化剤混合工程(STP2)において、pH9以上の時間がpH7以上9未満の時間よりも長いことが好ましく、pH9以上12以下の時間がpH7以上9未満の時間より長いことがより好ましく、pH10以上11以下の時間がpH7以上9未満の時間より長いことがさらに好ましい。このような手順を採用した場合、変性ペプチドの生成効率が高まる。
【0041】
ケラチン混合液のpHを調整するための酸としては、有機酸及び無機酸から選択された一種又は二種以上を使用するとよい。有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、コハク酸、酢酸が挙げられ、無機酸としては、例えば、塩酸、リン酸が挙げられる。酸の混合量は、ケラチン混合液のpHを監視しつつ、適宜設定すると良い。酸をケラチン混合液に混合する際には、ケラチン混合液において局所的にpHが低下すると、処理物のメルカプト基同士がジスルフィド基になるおそれがあるため、ケラチン混合液に酸を徐々に混合することが好ましい。
【0042】
酸化剤混合工程(STP2)での温度条件は、10℃以上60℃以下が良く、40℃以下が好ましい。温度を上記範囲に制御することで、副生成物であるシスチンモノオキシド等の生成を抑制できる。
【0043】
固液分離工程(STP3)は、酸化剤混合工程(STP2)後のケラチン混合液を液体部Lと固体部Sとに分離する工程である。固液分離工程(STP3)では、濾過、遠心分離、圧搾分離、沈降分離、浮上分離等の公知の固液分離手段を採用することができ、必要に応じてイオン交換や電気透析等による脱塩等を行うとよい。
【0044】
固液分離工程(STP3)で得た液体部Lには、この液体部Lに溶解する変性ペプチド(変性ペプチドL)が含まれ、固体部Sには、液体部Lに溶解しない変性ペプチド(変性ペプチドS)が含まれる。
【0045】
液体部Lから変性ペプチドLを固形状のものとして回収する方法としては、(1)液体部Lを凍結乾燥することによる回収、(2)液体部Lを噴霧乾燥することによる回収、(3)塩酸等の酸を液体部Lに添加して、液体部LのpHを低下させることにより生じた変性ペプチドL沈殿物の回収などが挙げられる。回収した固形状の変性ペプチドLについては、必要に応じて、水や酸性水溶液による洗浄、乾燥等を行う。
【0046】
変性ペプチドを低分子化すれば、水への溶解性が高まる。低分子化する態様としては、(1)固液分離工程(STP3)で得られた固体部Sを加水分解する態様、(2)固液分離工程(STP3)で得られた液体部Lに溶解している変性ペプチドLを加水分解する態様、(3)液体部Lから回収した変性ペプチドLを加水分解する態様、(4)変性ペプチドLと固体部Sを一括して加水分解する態様、が挙げられる。また、その他に加水分解による低分子化を図る方法としては、還元工程(STP1)の前、還元工程(STP1)と同時、還元工程(STP1)と酸化剤混合工程(STP2)との間に、低分子化のための加水分解を行うことが挙げられる。
【0047】
変性ペプチドを低分子化するための加水分解方法としては、ペプチドの加水分解として公知の(1)酵素による加水分解、(2)酸による加水分解及び(3)アルカリによる加水分解が挙げられる。
【0048】
上記の酵素による加水分解を行う場合、その酵素としては、例えば、ペプシン、プロテアーゼA、プロテアーゼBなどの酸性蛋白質分解酵素;パパイン、プロメライン、サーモライシン、プロナーゼ、トリプシン、キモトリプシンなどの中性乃至アルカリ性蛋白質分解酵素等が挙げられる。酵素による加水分解時のpHは、酸性蛋白質分解酵素の場合には1以上3以下に調整するとよく、中性乃至アルカリ性蛋白質分解酵素の場合には5以上11以下に調整するとよい。このpHを上記範囲とすることにより、酵素活性が向上する。また、酵素による加水分解時の反応温度は30℃以上60℃以下、反応時間は10分以上24時間以内で適宜設定される。この酵素による加水分解を停止させるには、温度を70℃以上にして酵素を失活させるとよい。
【0049】
上記の酸による加水分解を行う場合、その酸としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、臭化水素酸等の無機酸、又は蟻酸、シュウ酸等の有機酸が挙げられ、これらの中から適宜選択される。この加水分解の条件は、例えばpH4以下、反応温度40℃以上100℃以下、反応時間2時間以上24時間以内である。
【0050】
上記のアルカリによる加水分解を行う場合、そのアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム等が挙げられる。この加水分解の条件は、例えばpH8.0以上、反応温度50℃以上100℃以下、反応時間20分以上24時間以内である。
【0051】
加水分解された変性ペプチドを回収するためには、上記液体部Lからの変性ペプチドLの回収と同様の方法を採用できる。ただし、pHを低下させることによる回収方法では、変性ペプチドが加水分解により低分子化しているので、回収困難であるか回収不能な場合がある。
【0052】
任意原料
本実施形態に係る毛髪処理剤に任意配合される変性ペプチド以外の原料は、本実施形態の毛髪処理剤の使用目的に応じて公知の毛髪処理剤原料から適宜選定される。その公知の毛髪処理剤原料としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤、高級アルコール、低級アルコール、多価アルコール、糖類、油脂、エステル油、脂肪酸、炭化水素、ロウ、高分子化合物がある。また、他の公知の毛髪処理剤原料としては、シリコーン、蛋白、アミノ酸、動植物抽出物、微生物由来物、無機化合物、香料、防腐剤、金属イオン封鎖剤などである。
【0053】
アニオン界面活性剤としては、例えば、N−アシルアミノ酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、脂肪酸アミドエーテルカルボン酸塩、脂肪酸アミドエーテルカルボン酸、アシル乳酸塩、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルスルホ酢酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、脂肪酸モノグリセリド硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩が挙げられる。一種又は二種以上のアニオン界面活性剤を毛髪処理剤に配合すると良く、アニオン界面活性剤の配合濃度は、例えば0.1質量%以上20質量%以下である。
【0054】
カチオン界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩、脂肪酸アミドアミン塩、エステル含有3級アミン塩、アーコベル型3級アミン塩、長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジ長鎖アルキルジメチルアンモニウム塩、トリ長鎖アルキルモノメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム型4級アンモニウム塩、モノアルキルエーテル型4級アンモニウム塩が挙げられる。一種又は二種以上のカチオン界面活性剤を毛髪処理剤に配合すると良く、カチオン界面活性剤の配合濃度は、例えば0.1質量%以上20質量%以下である。
【0055】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルグリシン塩、カルボキシメチルグリシン塩、N−アシルアミノエチル−N−2−ヒドロキシエチルグリシン塩、アルキルポリアミノポリカルボキシグリシン塩、アルキルアミノプロピオン酸塩、アルキルイミノジプロピオン酸塩、N−アシルアミノエチル−N−2−ヒドロキシエチルプロピオン酸塩、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジヒドロキシエチルアミノ酢酸ベタイン、N−アルキル−N,N−ジメチルアンモニウム−N−プロピルスルホン酸塩、N−アルキル−N,N−ジメチルアンモニウム−N−(2−ヒドロキシプロピル)スルホン酸塩、N−脂肪酸アミドプロピル−N,N−ジメチルアンモニウム−N−(2−ヒドロキシプロピル)スルホン酸塩が挙げられる。一種又は二種以上の両性界面活性剤を毛髪処理剤に配合すると良く、両性界面活性剤の配合濃度は、例えば0.1質量%以上10質量%以下である。
【0056】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラ脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルが挙げられる。一種又は二種以上のノニオン界面活性剤を毛髪処理剤に配合すると良く、ノニオン界面活性剤の配合濃度は、例えば0.1質量%以上20質量%以下である。
【0057】
高級アルコールとしては、例えば、セタノール、イソセチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オクチルドデカノール、ミリスチルアルコールが挙げられる。一種又は二種以上の高級アルコールを毛髪処理剤に配合すると良く、高級アルコールの配合濃度は、例えば3質量%以上15質量%以下である。
【0058】
低級アルコールとしては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコールが挙げられる。一種又は二種以上の低級アルコールを毛髪処理剤に配合すると良く、低級アルコールの配合濃度は、例えば0.5質量%以上3質量%以下である。
【0059】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ブチレングリコールが挙げられる。一種又は二種以上の多価アルコールを毛髪処理剤に配合すると良く、多価アルコールの配合濃度は、例えば1質量%以上50質量%以下である。
【0060】
糖類としては、例えば、ソルビトール、マンニトール、グルコース、フルクトース、キシリトール、ラクトース、マルトース、マルチトール、トレハロースが挙げられる。一種又は二種以上の糖類を毛髪処理剤に配合すると良く、糖類の配合濃度は、例えば0.1質量%以上10質量%以下である。
【0061】
油脂としては、例えば、アーモンド油、アボガド油、オリーブ油、シア脂油、月見草油、ツバキ油、ピーナッツ油、ローズヒップ油が挙げられる。一種又は二種以上の油脂を毛髪処理剤に配合すると良く、油脂の配合濃度は、例えば0.1質量%以上10質量%以下である。
【0062】
エステル油としては、例えば、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸エチル、2−エチルヘキサン酸セチル、イソステアリン酸ヘキシル、ジ2−エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジオレイン酸エチレングリコール、ジ(カプリル・カプリン酸)プロピレングリコール、ジオレイン酸プロピレングリコール、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール、イソステアリン酸イソセチル、ジメチルオクタン酸2−オクチルドデシル、乳酸ミリスチル、クエン酸トリオクチルドデシル、リンゴ酸ジイソステアリル、コハク酸ジ2−エチルヘキシル、アジピン酸ジイソブチル、ステアリン酸コレステリルが挙げられる。一種又は二種以上のエステル油を毛髪処理剤に配合すると良く、エステル油の配合濃度は、例えば0.1質量%以上10質量%以下である。
【0063】
脂肪酸としては、例えば、イソステアリン酸、オレイン酸、カプリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ラノリン脂肪酸、リノール酸が挙げられる。一種又は二種以上の脂肪酸を毛髪処理剤に配合すると良く、脂肪酸の配合濃度は、例えば0.1質量%以上10質量%以下である。
【0064】
炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、スクワラン、プリスタン、オゾケライト、パラフィン、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスが挙げられる。一種又は二種以上の炭化水素を毛髪処理剤に配合すると良く、炭化水素の配合濃度は、例えば0.1質量%以上20質量%以下である。
【0065】
ロウとしては、例えば、ミツロウ、モクロウ、キャンデリラロウ、カルナウバロウが挙げられる。一種又は二種以上のロウを毛髪処理剤に配合すると良く、ロウの配合濃度は、例えば0.1質量%以上20質量%以下である。
【0066】
高分子化合物としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、メタクリロイルエチルベタイン・メタクリル酸エステル共重合体等の合成高分子化合物;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、可溶性デンプン等の半合成高分子化合物;アルギン酸ナトリウム、グアーガム、グルカン、セルロース、ヒアルロン酸ナトリウム等の天然高分子;が挙げられる。一種又は二種以上の高分子化合物を毛髪処理剤に配合すると良く、高分子化合物の配合濃度は、例えば0.1質量%以上15質量%以下である。
【0067】
本実施形態の毛髪処理剤の使用目的に応じて任意原料が選定されるのは、上記の通りである。本実施形態に係る毛髪処理剤は、ヘアケア剤、パーマ剤、カラーリング剤、ブリーチ剤、スタイリング剤等として使用可能なものである。ヘアケア剤の任意原料の組合せとしては、例えば、界面活性剤、シリコーン、高分子化合物(合成高分子化合物、半合成高分子化合物又は天然高分子化合物)、アルコール、金属イオン封鎖剤、及び水である。パーマ剤の任意原料の組合せとしては、例えば、パーマ用第1剤に配合される還元剤(チオグリコール酸、システイン、アセチルシステイン、システアミン等)、アルカリ剤(アンモニア、モノエタノールアミン、炭酸水素アンモニウム、アルギニン等)、及び水と、パーマ用第2剤として配合される酸化剤(臭素酸塩、過酸化水素等)及び水である。カラーリング剤の任意原料の組合せとしては、例えば、染料、アルコール、高分子化合物(合成高分子化合物、半合成高分子化合物又は天然高分子化合物)、及び水である。ブリーチ剤の任意原料の組合せとしては、例えば、過酸化水素、界面活性剤、アルカリ剤、及び水である。スタイリング剤の任意原料の組合せとしては、例えば、スタイリング原料(油脂、エステル油、炭化水素、ロウ、合成高分子化合物、半合成高分子化合物、天然高分子化合物等)、界面活性剤、及びアルコールである。
【0068】
なお、「ヘアケア剤」とは、毛髪の手入れ、手当て等を行うために用いられる毛髪処理剤である。ヘアケア剤としては、例えば、シャンプー、リンス、コンディショナー、トリートメント(例えば、洗い流さないトリートメント、洗い流すトリートメント、整髪兼用トリートメント、多剤式トリートメントの一構成剤、パーマの前処理のためのトリートメント、パーマの後処理のためのトリートメント、カラーリングの前処理のためのトリートメント、カラーリングの後処理のためのトリートメント、ブリーチの前処理のためのトリートメント、ブリーチの後処理のためのトリートメント)が挙げられる。「パーマ剤」とは、還元反応、酸化反応等の化学反応を利用して毛髪形状を変化させるために用いられる毛髪処理剤である。パーマ剤としては、例えば、毛髪をウェーブ状に形成するためのウェーブ剤、ウェーブ状等の毛髪を直毛に近づけるためのストレート剤が挙げられ、1剤式パーマ剤、2剤式パーマ剤の還元剤が配合された第1剤及び2剤式パーマ剤の酸化剤が配合された第2剤のいずれも本実施形態に係る毛髪処理剤に該当する。「カラーリング剤」とは、毛髪を着色するために用いられる毛髪処理剤である。カラーリング剤としては、例えば直接染料が配合された染毛料、毛髪の染毛時に反応が必要になる反応型染料が配合された染毛剤、毛髪への着色を一時的に施す毛髪着色料が挙げられる。「ブリーチ剤」とは、毛髪の色素を脱色させるために用いられる毛髪処理剤である。「スタイリング剤」とは、髪型を一時的に保持するために用いられる毛髪処理剤である。
【0069】
pH
本実施形態の毛髪処理剤に水が配合されている場合、当該毛髪処理剤のpHは、特に限定されないが、5以上11以下が良く、6以上10以下が好ましく、7以上9以下がより好ましく、7以上8以下が更に好ましい。pHが5未満であると変性ペプチドの沈殿が生じやすく、pHが11以上であると変性ペプチドの加水分解進行の虞がある。なお、pHの調整のためには、有機酸、無機酸、アルカリ金属の水酸化物等を用いると良い。
【0070】
剤型
本実施形態の毛髪処理剤の使用時の剤型は、特に限定されず、例えば液状、乳液状、ローション状、クリーム状、ワックス状、ゲル状、固形状、フォーム状(泡状)、霧状が挙げられる。
【0071】
対象毛髪
本実施形態の毛髪処理剤で処理される対象毛髪は、パーマ処理、カラーリング処理、又はブリーチ処理の履歴がある毛髪、及びその履歴がない毛髪のいずれであっても良い。
【0072】
使用方法
本実施形態の毛髪処理剤を使用の際には、その使用の目的に応じて、公知のアケア剤、パーマ剤、カラーリング剤、ブリーチ剤、スタイリング剤等の公知の毛髪処理剤と同様の使用方法を採用すると良い。
【0073】
本実施形態に係る毛髪処理剤の一つの特徴として、配合されている変性ペプチドの分子量が大きなほど、同変性ペプチドが加熱されると難水溶性の膜を形成し易い。つまり、本実施形態の毛髪処理剤を塗布した後の毛髪を加熱すれば、変性ペプチド由来物が毛髪表面に残り易い。図2は、変性ペプチド(SDS−PAGE法において分子量40000から50000の間に分子量バンドが確認されたもの)の水溶液を滴下したガラス板を105℃雰囲気中で加熱し、その変性ペプチド水溶液を乾燥させた後、水に1時間程度浸漬したガラス板の観察写真である。その図2において、ガラス板の中央部に膜状の残存物が在ったことを確認できる。その残存物である膜は、変性ペプチド同士の重合によって形成したものと考えられる。
【0074】
(毛髪処理剤用原料)
本実施形態の毛髪処理剤に配合される原料としては、下記式(I)で表される構造及び当該構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える変性ペプチドを溶媒に溶解させたものが好適に使用される。
−S−S−CH−CH(NH)−COOH (I)
【0075】
この溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば水、エタノール等が使用される。また、当該毛髪処理剤用原料における上記変性ペプチドの含有量としては、特に限定されないが、例えば0.1質量%以上10質量%以下である。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱することがない限り、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
実施例の毛髪処理剤には、後記の通り、上記式(I)で表される構造及び当該構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える変性ペプチドa及び変性ペプチドbのいずれかを配合した。それら変性ペプチドa及び変性ペプチドbの製造方法等は、次の通りである。
【0078】
(変性ペプチドa)
以下の還元工程a、及び酸化剤混合工程aに従って変性ペプチドaを製造し、以下の固液分離工程a、及び回収工程aに従って変性ペプチドaを回収した。
【0079】
還元工程a
中性洗剤で洗浄、乾燥させたメリノ種羊毛を、約5mmに切断した。この羊毛25質量部、L−システイン24質量部及び6mol/L水酸化ナトリウム水溶液43質量部を混合し、さらに水を混合して全量750質量部、pH11のケラチン混合液を調製した。このケラチン混合液を、45℃、1時間の条件で攪拌した。次いで、さらに水を混合して全量を1000質量部とし、45℃、1時間の条件で放置し、その後、液温が常温になるまで自然冷却した。
【0080】
酸化剤混合工程a
還元工程a後のケラチン混合液を攪拌しながら、当該混合液に、臭素酸ナトリウム10質量部を配合した水溶液125質量部を約30分かけて混合した。その後、ケラチン混合液の攪拌を終始継続し、この混合液に、7質量%クエン酸水溶液を約85分かけて徐々に混合した。以上により変性ペプチドaを含有するpH7の液を得た。
【0081】
固液分離工程a
上記の変性ペプチドaを含有する液をろ過することにより、当該液の不溶物を除去し、変性ペプチドaを含有するろ液を得た。
【0082】
回収工程a
固液分離工程aで得たろ液に36質量%塩酸水溶液を混合し、pHを4程度にまで調整した。そのpH調整後の液中の沈殿物を変性ペプチドaとして回収し、水洗した。
【0083】
上記得られた変性ペプチドaの分子量をSodium Dodecyl Sulfate−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)法により確認し結果、40000から70000(40kDaから70kDa)において2つの分子量バンドが確認された。
【0084】
上記SDS−PAGE法による分子量バンド確認方法の詳細は、以下の通りとした。
(1)分子量マーカー
タカラバイオ社製「Protein Molecular Weight Marker(Low)」
基準物質の詳細は、Phosphorylase B(分子量97200)、Serum Albumin(分子量66409)、Ovalbumin(分子量44287)、Carbonic anhydrase(分子量29000)、Trypsin inhibitor(分子量20100)、Lysozyme(分子量14300)の以上6物質
(2)ポリアクリルアミドゲル
濃縮ゲル濃度4.5質量%、分離ゲル濃度10.0質量%となるように調製したもの
(3)試料溶液
変性ペプチド又は基準物質 1質量部
ブロモフェノールブルー 適量
試料溶媒 1質量部
(試料溶媒:ドデシル硫酸ナトリウム1質量%、2−メルカプトエタノール1質量%、塩酸トリス(pH6.8)10mM、グリセロール10質量%)
(4)泳動条件
40mA、30分間
(5)泳動槽用緩衝液
BioRed社製「10×(Tris/Glycine/SDS)Buffer」の10倍希釈水溶液
(6)染色条件
クマジーブリリアントブルー溶液で1時間染色後、脱色液で約6時間脱色処理
【0085】
(変性ペプチドb)
上記の固液分離工程aにおける不溶物5質量部、3質量%蛋白質分解酵素水溶液(大和化学社製「プロテライザーA」)0.05質量部、pHを8.0〜8.5に設定する量の炭酸水素ナトリウム及び水を混合し、50℃の水中で加水分解反応を20分間進行させた。その後、80℃、5分の条件で蛋白質分解酵素を失活させた。その失活後、フィルター(孔径45μm)でろ過し、ろ液を変性ペプチドbを含有する液として得た。この変性ペプチドは、毛髪浸透性を有するものであった。
【0086】
(実施例1a)
変性ペプチドaの0.2質量%水溶液を、実施例1aの毛髪処理剤とした。
【0087】
(実施例1b)
変性ペプチドbの0.2質量%水溶液を、実施例1bの毛髪処理剤とした。
【0088】
実施例1aの毛髪処理剤、実施例1bの毛髪処理剤、又は水を毛束に噴霧し、温風乾燥させた。その乾燥後の毛束の感触について、水を用いたものに比して、実施例1aの毛髪処理剤又は実施例1bの毛髪処理剤を用いたものは厚み感があった。
【0089】
(実施例2a)
後記参考例2の毛髪処理剤に変性ペプチドaを0.2質量%配合したシャンプーを、実施例2aの毛髪処理剤とした。
【0090】
(実施例2b)
後記参考例2の毛髪処理剤に変性ペプチドbを0.2質量%配合したシャンプーを、実施例2aの毛髪処理剤とした。
【0091】
(参考例2)
ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム5質量%、ラウリル硫酸トリエタノールアミン4質量%、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム2質量%、ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウム0.9質量%、ラウリン酸アミドプロピルベタイン4質量%、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド3質量%、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド0.1質量%、1,3−ブチレングリコール0.2質量%、塩化o−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース0.4質量%、キレート剤0.3質量%、防腐剤0.3質量%、酸化防止剤0.1質量%及び香料0.2質量%を水に配合して調製したシャンプーを、参考例2の毛髪処理剤とした。
【0092】
ブリーチ処理した3gの毛束に対し、実施例2a、実施例2b、又は参考例2の毛髪処理剤でシャンプー処理し、温風乾燥させた。その乾燥後の毛束の感触は、参考例3の毛髪処理剤を用いたものに比して、実施例2aの毛髪処理剤又は実施例2bの毛髪処理剤を用いたものは均一な厚み感があった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される構造及び当該構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える変性ペプチドが配合されたことを特徴とする毛髪処理剤。
−S−S−CH−CH(NH)−COOH (I)
【請求項2】
前記変性ペプチドとして、主鎖がケラチンであるものが配合された請求項1に記載の毛髪処理剤。
【請求項3】
ヘアケア剤、パーマ剤、カラーリング剤、ブリーチ剤、又はスタイリング剤である請求項1又は2に記載の毛髪処理剤。
【請求項4】
前記変性ペプチドとして、分子量40000以上70000以下のものが配合された請求項1〜3のいずれか1項に記載の毛髪処理剤。
【請求項5】
前記変性ペプチドとして、分子量20000以下のものが配合された請求項1〜4のいずれか1項に記載の毛髪処理剤。
【請求項6】
前記変性ペプチドとして、毛髪浸透性を有するものが配合された請求項1〜5のいずれか1項に記載の毛髪処理剤。
【請求項7】
下記式(I)で表される構造及び当該構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える変性ペプチドを溶媒に溶解させた毛髪処理剤用原料。
−S−S−CH−CH(NH)−COOH (I)


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−14557(P2013−14557A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150053(P2011−150053)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(592255176)株式会社ミルボン (138)
【Fターム(参考)】