説明

毛髪形状感受性遺伝子

【課題】毛髪形状に関連する遺伝子多型及び毛髪形状感受性遺伝子、ならびに個々の被験者における毛髪形状に対する遺伝的感受性を判定するための方法の提供。
【解決手段】ヒト第1番染色体の1q32.1〜1q32.2領域(D1S249〜D1S2891)における、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)マーカーに対する連鎖不平衡解析により決定され、且つ特定な塩基配列からなるハプロタイプブロックにオーバーラップする遺伝子であって、当該ハプロタイプブロックの塩基配列の一部または全てを含有する遺伝子である、毛髪形状感受性遺伝子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪形状に関連する遺伝子、ならびに毛髪形状に対する遺伝的感受性の判定、毛髪形状タイプの検出及び/又は判定、及び毛髪形状の調節に有効な成分のスクリーニングのためのマーカー、そして当該マーカーの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの自然な毛髪の形状は、毛髪のくせの程度にしたがって一般に、直毛、波状毛(ウェーブ毛)、カール毛、縮毛(kinky hair、coiled hair)に分類されている。毛髪の形状及びヘアスタイルはヒトの身体的特徴として容易に認識できる形質の一つであり、また、ヒトの第一印象を決定付ける重要な要素ともなっていることから、老若男女を問わず美容上の重大な関心事となっている。くせの程度が強い縮毛やカール毛の場合、ヘアスタイルの自由度が制限され望むようなスタイリングができない等の悩みが生じている。また一方、直毛の場合であっても、ボリュームが出ない、地肌が見えやすい等の悩みが生じている。
【0003】
毛髪の形状及びヘアスタイルを変える方法としては、各種スタイリング剤やドライヤー/ヘアアイロンによる整髪、ウェーブ/ストレートパーマ処理等が広くおこなわれている。しかし、これらの施術は毛髪の形状を効果的に改変できるものの、毛髪形状を決定付けている原因に対する効果は全くない。したがって、これらの解決策は根本的なものではなく、あくまでも一時的なものであり、毛髪の形状及びヘアスタイルを維持するためにはこれらの施術を頻繁に繰り返さなければならず、逆に毛髪へのダメージを増大させ、美容上の価値を損ねる結果となっている。このため、毛髪が生えてくる時点から毛髪形状を変化させることのできる、根本的な毛髪形状の調節方法の開発が望まれている。
【0004】
毛髪形状を決定付けている原因を探索し、その原因となる遺伝子を同定することは、毛髪形状の根本的な調節方法を開発する上で有用な情報を提供するものと期待される。毛髪形状に関連する因子や遺伝子については、毛髪の形状に変化をもたらす遺伝病(非特許文献1〜3)や薬剤による後天的縮毛(非特許文献4)、あるいはくせ毛モデル動物(非特許文献5、6)等において報告されている。しかしながら、これらに示されている因子や遺伝子は毛髪形状に影響を与える特殊な一例を示したものに過ぎず、ヒトの自然な毛髪の形状を決定付けている原因としては考え難いものである。
【0005】
ところで、近年のゲノム解析技術の飛躍的進歩にともなって、疾患と遺伝子との関連性が徐々に解明されつつある。特に、一遺伝子の変異や異常で規定されるいわゆる遺伝病だけではなく、糖尿病、高血圧等の生活習慣病をはじめとする頻度の高いありふれた疾患(Common Disease)のような低浸透率(Penetrance:ある遺伝子に変異を有する個体がある疾患を発症する割合)を特徴とする多遺伝子性疾患においても、罹患同胞対連鎖解析等のノンパラメトリック連鎖解析手法を用いた原因遺伝子の探索が頻繁におこなわれている(例えば、非特許文献7を参照)。また、ありふれた疾患の疾患関連遺伝子の変異は頻度の高い遺伝子多型(Common Variant)であり、健常者にも存在するが、患者における保有率が有意に高いものであるとの仮説(Common Disease−Common Variant)にもとづいて、遺伝子多型(例えば、SNP(Single Nucleotide Polymorphism):一塩基多型)を用いた連鎖不平衡解析による原因遺伝子の探索も世界中で精力的におこなわれている(例えば、非特許文献8を参照)。
【0006】
さらに最近では、国際HapMap Projectの進展により、4つのヒト集団における100万ヶ所以上の頻度の高い一般的な多型(SNP)のデータベースが整備され、ありふれた疾患だけではなく、人種又は集団によってその表現型が異なる一般形質、例えば肌色や髪色、眼色等、に関連する遺伝子についても研究が進められている(例えば、非特許文献9、10を参照)。
【0007】
ヒトの自然な毛髪の形状に関しても同様に、人種又は集団によってその表現型が異なる一般的な形質であると考えられる。概してアジア系人種は直毛が多く、アフリカ系人種では縮毛(またはカール毛)が主流である。インドヨーロッパ系人種はこれらの中間的な波状毛(ウェーブ毛)の形質をとる割合が高い。その遺伝様式についてはRostand,Jらがはじめて観察し、直毛に対してくせ毛が常染色体(半)優性の形質であることを報告(非特許文献11)している。また、NCBIのヒトのメンデル遺伝のデータベース(OMIM、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/omim/)にもくせ毛形質についての記載がされている。しかしながら、ヒトの自然な毛髪の形状を決定付ける原因となる遺伝子については、体系的なゲノム解析研究が全くおこなわれておらず、未だ発見されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Norgett EE et al., Hum. Mol. Genet. 9(18), p.2761-2766, 2000
【非特許文献2】Moller LB et al., Hum. Mutat. 26(2), p.84-93, 2005
【非特許文献3】Kjaer KW et al., Am. J. Med. Genet. A. 127A(2), p.152-157, 2004
【非特許文献4】Cullen SI et al., Arch. Dermatol. 125(2), p.252-255, 1989
【非特許文献5】Du X et al. Genetics. 166(1), p.331-340, 2004
【非特許文献6】Mann GB et al., Cell. 73(2), p.249-61, 1993
【非特許文献7】Hanis CL et al., Nat. Genet. 13(2), p161-166, 1996
【非特許文献8】Altshuler D et al., Nat. Genet. 26(1), p.76-80, 2000
【非特許文献9】Sulem P et al., Nat. Genet. 39(12), p.1443-1452, 2007
【非特許文献10】Sabeti PC et al., Nature. 449(7164), p.913-918, 2007
【非特許文献11】Rostand J et al., 「An Atlas of Human Genetics」, Hutchinson Scientific & Technical, London, pp.26-29, 1964
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、くせ毛や直毛といったヒトの自然な毛髪形状に関連する遺伝子多型及び毛髪形状感受性遺伝子を提供し、さらにこれらの情報をもとにして、個々の被験者における毛髪形状に対する遺伝的感受性を判定するための方法を提供することに係るものである。また本発明は、当該方法を簡便に実施するために有用な試薬および試薬キットを提供することに係るものである。さらに本発明は、くせ毛や直毛といったヒトの自然な毛髪形状タイプを検出・判定するためのマーカー(ポリヌクレオチド、ポリペプチド)の提供、ならびに当該マーカーを用いた毛髪形状タイプの検出及び/又は判定や、毛髪形状の調節に有効な成分の評価・選択等、当該マーカーの利用に係るものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ヒトの自然な毛髪の形状を決定付ける原因となる遺伝子を見いだすことを目的として、日本人くせ毛家系、及び、日本人くせ毛者集団及び非くせ毛者集団を対象にゲノム解析をおこなった結果、第1番染色体1q32.1〜1q32.2領域に、毛髪形状と関連する遺伝子多型、すなわち、毛髪形状感受性SNPマーカーを同定するとともに毛髪形状感受性遺伝子を同定した。また本発明者らは、毛髪形状と、毛髪毛根部における各種遺伝子の遺伝子発現との関係を探索したところ、毛根部おいて非くせ毛者とくせ毛者との間で上記毛髪形状感受性遺伝子の発現量が有意に異なることを見出した。これらの遺伝子は毛髪形状感受性遺伝子であり、毛髪形状タイプを検出及び/又は判定するためのマーカーとなり得る。これらの知見に基づいて、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
1)ヒト第1番染色体の1q32.1〜1q32.2領域(D1S249〜D1S2891)における、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)マーカーに対する連鎖不平衡解析により決定され、且つ配列番号1〜3のいずれかで示される塩基配列からなるハプロタイプブロックにオーバーラップする遺伝子であって、当該ハプロタイプブロックの塩基配列の一部または全てを含有する遺伝子である、毛髪形状感受性遺伝子。
2)前記遺伝子がCSRP1、NAV1、IPO9、TMEM58及びNUCKS1から選択される1)記載の毛髪形状感受性遺伝子。
3)1)記載のハプロタイプブロックの塩基配列の部分塩基配列であって、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)及び当該SNPと連鎖しているSNPを一以上含む連続する塩基配列からなる部分塩基配列を含む、オリゴまたはポリヌクレオチドあるいはそれらの相補鎖である、毛髪形状判定マーカー。
4)前記SNPが以下からなる群より選択される塩基におけるSNPである、3)記載の毛髪形状判定マーカー:
(1)配列番号1で表される塩基配列中、塩基番号1(dbSNPデータベースID:rs576697、TまたはC)、1635(rs645390、GまたはA)、2527(rs3767542、GまたはA)、及び3766(rs675508、CまたはA)で示される塩基;
(2)配列番号2で表される塩基配列中、塩基番号7519(rs2271763、GまたはA)、16901(rs10920260、TまたはG)、30270(rs16849387、AまたはG)、31333(rs12127375、CまたはG)、50038(rs1495840、TまたはA)、及び63008(rs10920269、GまたはT)で示される塩基;ならびに
(3)配列番号3で表される塩基配列中、塩基番号24524(rs3805、TまたはG)、及び60701(rs823114、GまたはA)で示される塩基。
5)10〜601塩基長の連続した塩基配列からなる、3)又は4)記載の毛髪形状判定マーカー。
6)以下の工程(a)〜(c)を含む被験者の毛髪形状に対する遺伝的感受性の判定方法:
(a)被験者由来のゲノムDNAを調製する工程;
(b)当該ゲノムDNAから、1)記載のハプロタイプブロックに存在する、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)及び当該SNPと連鎖している一塩基多型(SNP)を検出する工程;及び
(c)当該検出したSNPのアリル頻度が非くせ毛者集団におけるよりもくせ毛者集団において統計学的に有意に高い場合、当該被験者はくせ毛の遺伝的素因を有していると判定し、当該検出したSNPのアリル頻度がくせ毛者集団におけるよりも任意の非くせ毛者集団において統計学的に有意に高い場合、当該被験者はくせ毛の遺伝的素因を有していないと判定する工程。
7)被験者由来のゲノムDNA中の配列番号1〜3で表される塩基配列における下記表に示される塩基番号の塩基のいずれか一以上において、当該塩基が塩基(i)であるか塩基(ii)であるかを識別し、塩基(i)である場合には被験者がくせ毛の素因を有していると判定し、塩基(ii)である場合には被験者がくせ毛の素因を有していないと判定する工程を含む、被験者の毛髪形状に対する遺伝的感受性の判定方法。
【0012】
【表1】

【0013】
8)上記3)〜5)のいずれか1記載の毛髪形状判定マーカーにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするプローブ及び/又はプライマーを含む、被験者の毛髪形状に対する遺伝的感受性の判定用試薬。
9)前記プローブ及び/又はプライマーが前記マーカーにおける4)記載のSNPを含む領域とハイブリダイズする、8)記載の試薬。
10)上記8)又は9)記載の試薬を含む、被験者の毛髪形状に対する遺伝的感受性判定用キット。
11)以下の工程(a)及び(b)を含む毛髪形状調節剤をスクリーニングする方法:
(a)上記1)又は2)記載の毛髪形状感受性遺伝子を含有する細胞に被験物質を投与する工程;及び
(b)投与した被験物質の中から、当該毛髪形状感受性遺伝子上又はその近傍に存在する、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)及び当該SNPと連鎖している一塩基多型(SNP)マーカーの塩基の多型をもう一方の多型に変換させる物質を毛髪形状調節剤として選択する工程。
12)配列番号42、配列番号44若しくは配列番号46に示される塩基配列、これらと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、又はこれらの部分ポリヌクレオチドからなるか、あるいは配列番号43、配列番号45若しくは配列番号47に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド又はその部分ポリペプチドからなる、毛髪形状タイプのマーカー。
13)部分ポリヌクレオチドが15塩基以上のポリヌクレオチドである12)記載のマーカー。
14)配列番号42、配列番号44若しくは配列番号46に示される塩基配列又はこれと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドの部分ポリヌクレオチドからなる、12)記載のマーカーを増幅するためのプライマー。
15)配列番号42、配列番号44若しくは配列番号46に示される塩基配列又はこれと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、又はこれらの部分ポリヌクレオチドからなる、12)記載のマーカーを検出するためのプローブ。
16)配列番号43、配列番号45若しくは配列番号47に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド又はその部分ポリペプチドを特異的に認識する、12)記載のマーカーを検出するための抗体。
17)下記の工程(a)〜(c)を含む毛髪形状タイプの検出及び/又は判定方法:
(a)被験者由来の試料における12)に記載のマーカーの発現量を測定する工程、
(b)当該(a)の測定結果を非くせ毛者のそれと比較する工程;及び
(c)(b)の結果に基づいて毛髪形状タイプを判断する工程。
18)前記被験者由来の試料が、被験者より採取された生体試料から調製されたRNA又は当該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドである、17)記載の方法。
19)前記工程(a)が、被験者より採取された生体試料と16)記載の抗体とを接触させて、当該抗体と結合した当該生体試料中の12)記載のマーカーの量を測定する工程である、17)記載の方法。
20)被験者より採取された生体試料が上皮系組織又は上皮系細胞由来のものである、上記17)〜19)のいずれか1項に記載の方法。
21)以下の(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする毛髪形状調節剤の評価又は選択方法。
(a)上記1)に記載の毛髪形状感受性遺伝子又は当該遺伝子にコードされたタンパク質が発現可能な細胞に、被験物質を接触させる工程
(b)接触させた細胞の当該遺伝子又は当該タンパク質の発現量を測定する工程
(c)(b)で測定された発現量を被験物質に接触させない対照細胞の当該遺伝子又は当該タンパク質の発現量と比較する工程
(d)(c)の結果に基づいて、当該遺伝子又は当該タンパク質の発現量を減少又は増加させる被験物質を毛髪形状調節剤として選択する工程
22)以下の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする毛髪形状調節剤の評価又は選択方法。
(a)上記1)に記載の毛髪形状感受性遺伝子が発現可能な細胞に、当該毛髪形状感受性遺伝子の発現制御領域とレポーター遺伝子との融合遺伝子を導入し、当該細胞を被験物質の存在下及び非存在下で培養する工程、
(b)被験物質の存在下で培養した細胞培養物中のレポーター遺伝子発現産物の発現量を測定し、当該量を被験物質の非存在下で培養した細胞培養物中のレポーター遺伝子発現産物の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、レポーター遺伝子発現産物の発現量の発現量を増減させる被験物質を毛髪形状調節剤として選択する工程。
23)以下の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする毛髪形状調節剤の評価又は選択方法。
(a)被験物質と1)に記載の毛髪形状感受性遺伝子にコードされるタンパク質を含む水溶液、細胞又は当該細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた水溶液、細胞又は細胞画分における当該タンパク質の機能又は活性を測定し、当該機能又は活性を、被験物質を接触させない対照水溶液、対照細胞又は対照細胞画分における上記当該タンパク質の機能又は活性と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、当該タンパク質の機能又は活性を増減させる被験物質を毛髪形状調節剤として選択する工程。
24)ヒト毛髪毛根部における1)に記載の毛髪形状感受性遺伝子の発現を制御することを特徴とする毛髪形状タイプの調節方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、くせ毛や直毛といったヒトの自然な毛髪形状に関連する毛髪形状感受性遺伝子及び毛髪形状感受性SNPマーカー、ならびにこれらを利用した毛髪形状判定マーカーが提供される。本発明の毛髪形状感受性遺伝子及びSNPマーカー、ならびに毛髪形状判定マーカーについて詳細に解析することにより、毛髪形状に関連した毛髪形成のメカニズムについての研究、ならびに毛髪形状の調節を図るための的確な方法の開発等の応用研究が可能となる。
【0015】
また、本発明の被験者の毛髪形状に対する遺伝的感受性の判定方法により、個々の被験者の毛髪形状を決定付ける主要因となる遺伝子の探索、及び個々の被験者の後天的な毛髪形状の変化に対する感受性、すなわち、将来の毛髪形状変化の危険度の判定を、より簡便且つ迅速に行うことができる。さらにその結果に基づいて、個々のヒトに対する的確な毛髪形状の調節方法を提供することが可能になる。また本発明の被験者の毛髪形状に対する遺伝的感受性の判定用試薬及び当該試薬を含むキットにより、上記判定方法をさらに簡便且つ迅速に実施することが可能となる。
【0016】
また本発明によれば、毛髪にダメージを与えることなく、くせ毛、縮毛といった毛髪の形状若しくは性状を検出・判定することができる。また本発明の毛髪形状の調節に有効な成分をスクリーニングする方法によって選択された物質は、毛髪形状の調節に有効な毛髪形状調節剤として使用することができ、また当該剤を含む医薬品、医薬部外品、化粧料、または健康食品等の製造のために使用することができる。また本発明によれば、本発明によって得られた毛髪形状感受性SNPマーカーを利用した毛髪形状の調節方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】毛髪形状の表現型のイメージ。
【図2】第1番染色体における罹患同胞対連鎖解析によるマイクロサテライトマーカーと最大LOD。
【図3】第11番染色体における罹患同胞対連鎖解析によるマイクロサテライトマーカーと最大LOD。
【図4】第1番染色体における罹患同胞対連鎖解析によるマイクロサテライトマーカーと最大LOD。
【図5】SNP:rs576697を含み、SNP:rs576697からSNP:rs12403361までの、配列番号1で示される塩基配列で表される3,926bpからなるハプロタイプブロックの概念図。
【図6】SNP:rs1495840を含み、SNP:rs2820290からSNP:rs2250377までの、配列番号2で示される塩基配列で表される76,945bpからなるハプロタイプブロックの概念図。
【図7】SNP:rs823114を含み、SNP:rs823103からSNP:rs1772150までの、配列番号3で示される塩基配列で表される68,637bpからなるハプロタイプブロックの概念図。
【図8−1】くせ毛群と直毛群の頭髪毛根における毛髪形状感受性遺伝子の発現量を示したグラフ。A:CSRP1遺伝子、B:IPO9遺伝子。
【図8−2】くせ毛群と直毛群の頭髪毛根における毛髪形状感受性遺伝子の発現量を示したグラフ。C:NUCKS1遺伝子。
【図9】各人種の毛包組織像を示す写真。矢印は湾曲部位を示す。
【図10】ヒト毛包器官培養系における培養日数の経過による毛包の形態変化示す写真。
【図11】毛髪形状感受性遺伝子発現調節剤が毛包形態に及ぼす効果を示したグラフ。A:トキンソウ、B:ビャクズク。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.本発明で使用する用語の定義
本明細書における塩基配列(ヌクレオチド配列)、核酸などの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定(IUPAC-IUB communication on Biological Nomenclature, Eur.J.Biochem., 138, 9, 1984)、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作製のためのガイドライン」(特許庁編)、及び当該分野における慣用記号にしたがうものとする。
【0019】
本明細書において「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖という各1本鎖DNAを包含する。本明細書において「遺伝子」は、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNA、及び1本鎖DNA(センス鎖)、並びに当該センス鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(アンチセンス鎖)、及びそれらの断片のいずれもが含まれる。また、本明細書で「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。また、当該「遺伝子」又は「DNA」には、特定の塩基配列で示される「遺伝子」又は「DNA」だけでなく、これらによりコードされるタンパク質と生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログ)、誘導体及び変異体をコードする「遺伝子」又は「DNA」が包含される。
【0020】
また、本明細書において、「ヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、及び「ポリヌクレオチド」は核酸と同義であって、DNA、及びRNAの両方を含むものとする。当該DNAには、cDNA、ゲノムDNA及び合成DNAのいずれもが含まれる。また当該RNAには、total RNA、mRNA、rRNA及び合成のRNAのいずれもが含まれる。また、「ヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、及び「ポリヌクレオチド」は2本鎖であっても1本鎖であってもよく、ある配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」)といった場合、特に言及しない限り、これに相補的な配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」)も包括的に意味するものとする。さらに、「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」)がRNAである場合、配列表に示される塩基記号「T」は「U」と読み替えられるものとする。
【0021】
「相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド」とは、任意の塩基配列(センス鎖)からなるポリヌクレオチドに対して、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチド(相補鎖、アンチセンス鎖)を意味する。相補的な塩基配列には、対象とする塩基配列と完全に相補な配列を形成する場合の他に、これとストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る塩基配列も包含される。ここでストリンジェントな条件とは、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の洗浄条件を挙げることができ、より厳しいハイブリダイズ条件としては「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件としては「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の条件を挙げることができる。また当業者は、一般的なテキスト(例えばSambrook, J. & Russell, D., 2001, Molecular Cloning: a Laboratory Manual, 3rd edition. Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory)に従って、ストリンジェントなハイブリダイズ条件を決定することができる。例えば、対象とする塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る塩基配列としては、対象とする塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列が挙げられる。
【0022】
「タンパク質」又は「ポリペプチド」には、特定の塩基配列又はアミノ酸配列で示される「タンパク質」又は「ポリペプチド」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その断片、同族体(ホモログ)、誘導体及び変異体が包含される。なお、上記変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体及び人為的に欠失、置換、付加及び挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、上記変異体としては、変異のないタンパク質又はポリペプチドと、アミノ酸配列において、80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらにより好ましくは98%以上の同一性を有するものを挙げることができる。
【0023】
本明細書において、アミノ酸配列及び塩基配列の同一性はLipman-Pearson法(Science, 227, 1435, 1985)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、パラメータであるUnit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0024】
「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、及びFabフラグメント、Fab発現ライブラリー等によって生成されるフラグメントのような抗原結合性を有する上記抗体の一部が包含される。
【0025】
本明細書において「遺伝子多型」とは、2つ以上の遺伝的に決定された対立遺伝子がある場合に、それらの対立遺伝子を指す。具体的には、ヒトの集団において、ある一個体のゲノム配列を基準として、他の1または複数の個体ゲノム中の特定部位に、1又は複数のヌクレオチドの置換、欠失、挿入、転位、逆位などの変異が存在するとき、その変異が当該1または複数の個体に生じた突然変異でないことが統計学的に確実か、または当該個体内特異変異でなく、1%以上の頻度で集団内に存在することが遺伝学的に証明される場合、その変異を「遺伝子多型」とする。本明細書で用いる「遺伝子多型」には、例えば、1個の塩基が他の塩基に置換されたもの、すなわち一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)、1〜数十塩基が欠失もしくは挿入されたもの(DIP)、2〜数十塩基を1単位とする配列が繰り返し存在する部位においてその繰り返し回数が異なるもの(繰り返し単位が2〜4塩基のものをマイクロサテライト多型、数〜数十塩基のものをVNTR(Variable Number of Tandem Repeat)という)等がある。
【0026】
本明細書において「毛髪形状」とは、直毛、波状毛(ウェーブ毛)、カール毛、縮毛(kinky hair、coiled hair)等、毛髪1本1本の形状に起因する頭部の毛髪の全体的な形状の傾向を指す。
【0027】
本明細書において「くせ毛」とは、特に説明がなければ、直毛と対比する場合に直毛以外の形状を総括的に指す用語である。従って本明細書において、「くせ毛」と対比する場合、特に説明がなければ、「直毛」と「非くせ毛」とは同義で使用される。「くせ毛」、「非くせ毛」および「直毛」は、相対的な性質であり、後述するような種々の方法で定義することができる。「くせ毛形質」、「非くせ毛形質」および「直毛形質」とは、「くせ毛」、「非くせ毛」および「直毛」を示す表現型を指す。
【0028】
本明細書において「毛髪形状感受性遺伝子」とは、多遺伝子性の形質である毛髪形状を決定付ける原因となる遺伝子のことをいい、「毛髪形状感受性SNPマーカー」とは、当該個体の毛髪形状の形質との関連性を有するSNPを示す部位の塩基をいう。
【0029】
本明細書において、「毛髪形状に対する遺伝的感受性」、「毛髪形状判定マーカー」、及び「毛髪形状タイプのマーカー」とは、それぞれ、個体が保有する特定の毛髪形状に関与する遺伝的素因、及び当該素因を判定するためのマーカーをいう。
【0030】
本明細書において「罹患同胞対連鎖解析(Affected Sib−Pair Linkage Analysis)」とは、連鎖を利用して目的の遺伝子(疾患感受性遺伝子等)の存在場所を推定する手法のひとつで、遺伝形式(常染色体優性遺伝、劣性遺伝、伴性遺伝子等)や浸透率を仮定しないノンパラメトリック連鎖解析の代表的な解析手法をいう。罹患同胞対連鎖解析では、罹患した(または特定の形質を有する)同胞(兄弟姉妹)を含む家系を集め、これら家系での観察データを元に尤度計算をおこない、疾患(または特定の形質)と連鎖したマーカー遺伝子座領域を絞り込んでいく。一般的な(罹患していない、または特定の形質を有していない)同胞の集団の場合、1つの遺伝子座について考えれば、子は片親の2つのアリルの内の1つを受け取る(片親がホモ接合体だとしてもそれぞれのアリルは異なると考える)。したがって、同胞はこの時、同じアリルを受け取る場合と異なったアリルを受け取る場合とがある。子の2つのアリルの由来は両親からそれぞれ1つずつであるので、両親の由来を考慮して同胞が同じアリルを何個受け取るかを考えると、0、1、2の場合がある。この3つの場合をそれぞれIBD(Identity By Descent)が0、1、2という。多くの同胞のペアを考えると、IBD=0のペア、IBD=1のペア、IBD=2のペアの数を数えることができるはずであり、その数の割合は確率法則により一定の割合(1:2:1)となる。これに対して、罹患した(または特定の形質を有する)同胞を集めてきて、この集団について同じように調べたとき、もし観察したマーカー遺伝子が疾患(または特定の形質)と連鎖している場合はこの比(1:2:1)がずれる(IBD=2のペアの数が増え、IBD=0のペアの数が減る)と考えられる。ちなみに、疾患(または特定の形質)に関連する遺伝子と連鎖していないマーカー遺伝子では、任意な同胞と同じ配分(1:2:1)になると考えられる。罹患同胞対連鎖解析においては、この仮説を利用し、罹患同胞対におけるアリルの共有する割合のずれを指標に観察データの尤度を算出する。尤度は次式で表される。
【0031】
【数1】

【0032】
ここでWijはj番目の家系の罹患同胞対がIBD=iである確率である。変数はZ=(Z0、Z1、Z2)であり、自由度は2(Z2=1−Z1−Z0、独立変数はZ0、Z1の2つのみ)である。マーカー遺伝子と疾患(または特定の形質)に関連する遺伝子が連鎖していないとき(すなわち、Z0=0.25、Z1=0.5、Z2=0.25)の尤度との比をとり、尤度最大化法(最尤法)により尤度最大となるZを求める。
【0033】
本明細書において「遺伝子頻度」とは、一つの遺伝子の座位について、集団中に存在する全遺伝子数のうち、その対立遺伝子が占める割合をいう。
【0034】
本明細書において「ハプロタイプ」とは、ひとつのアリル(ハプロイド)に存在する遺伝子変異の組み合わせをいう。
【0035】
本明細書において「連鎖不平衡解析」または「ハプロタイプ解析」とは、ゲノム領域における連鎖不平衡の強さの度合いを解析することをいう。
【0036】
本明細書において「連鎖不平衡」とは、集団において、複数の遺伝子座の対立遺伝子または遺伝的マーカー(多型)の間にランダムでない相関が見られる、すなわちそれらの特定の組合せ(ハプロタイプ)の頻度が有意に高くなる集団遺伝学的な現象をいう。それらは一般には同じ染色体上にあって遺伝的連鎖をしているが、連鎖していても連鎖不平衡が見られない場合もあり、また例外的に別の染色体上で見られる場合もある。例えば、遺伝子座Xが対立遺伝子a及びb(これらは等しい頻度で存在する)を有し、近傍の遺伝子座Yが対立遺伝子c及びd(これらは等しい頻度で存在する)を有する場合、それぞれの遺伝子多型の組み合わせであるハプロタイプacは、集団において0.25の頻度で存在することが期待される。ハプロタイプacがこうした期待値よりも大きい場合、つまりacという特定の遺伝子型が頻繁に出現する場合、対立遺伝子acは連鎖不平衡にあるという。連鎖不平衡は、対立遺伝子の特定の組み合わせの自然選択または集団に導入された時期が進化的にみて最近であることによって生じたもので、連鎖する対立遺伝子同士が平衡に達していないことから生じ得る。したがって、民族や人種などのように、別の集団においては連鎖不平衡の様式は異なり、ある集団においてacが連鎖不平衡である場合でも、別の集団でadが連鎖不平衡の関係である場合もある。連鎖不平衡における遺伝子多型の検出は、当該多型そのものが直接疾患を引き起こさないにも拘わらず、疾患に対する感受性を検出するのに有効である。例えば、ある遺伝子座Xの対立遺伝子aについて、それが疾患の原因遺伝子要素ではないが、遺伝子座Yの対立遺伝子cとの連鎖不平衡により、疾患感受性を示し得ることがある。
【0037】
本明細書において「ハプロタイプブロック」とは、殆ど歴史的組み換えが認められないゲノムを分割する範囲であって、その範囲内に強い連鎖不平衡が存在する領域と規定する。ハプロタイプブロックの特定は、連鎖不平衡の強度により、当業者が適宜なすことができるが、例えば、ガブリエルらの報告(Gabriel, SB. et al., Science, 296(5576), p2225-2229, 2002)に準じておこなうことができる。本明細書において「強い連鎖不平衡」とは、連鎖不平衡解析において計算される連鎖不平衡係数D'の95%信頼区間の上限が0.98を超え、その下限が0.7より上である状態をいい、「強い歴史的組み換えの証拠がある」とは、連鎖不平衡係数D'の95%信頼区間の上限が0.9未満である状態をいう。
【0038】
本明細書において「マイナーアリル」とは、一つの遺伝子の座位について2つの対立遺伝子が存在する場合において、遺伝子頻度の低い対立遺伝子(アリル)をいう。
【0039】
本明細書において、「遺伝子頻度」と「アリル頻度」とは、同義に使用され、特定の対立遺伝子が任意の遺伝子集団の中に占める割合を意味する用語である。
【0040】
本明細書において「統計学的に有意に異なる」とは、任意の統計学的手法において検定を行った場合に、危険率(p値)が0.1%未満、好ましくは0.07%未満、さらに好ましくは0.05%未満、さらにより好ましくは0.01%未満である状態を指す。
【0041】
2.毛髪形状感受性遺伝子及び毛髪形状感受性SNPマーカーの同定
多因子性の一般形質であるヒトの自然な毛髪形状を決定付ける原因となる遺伝子(毛髪形状感受性遺伝子)を探索及び同定は、形質マッピングの手法を用いた遺伝統計解析により行うことができる。すなわち、罹患同胞対連鎖解析によるくせ毛形質座位の同定、ならびにくせ毛形質座位を対象としたケース・コントロール関連解析により、毛髪形状感受性遺伝子と連鎖不平衡状態にあるSNPを効果的に選択することができ、そのSNPを含むハプロタイプブロックに存在する遺伝子を毛髪形状感受性遺伝子として同定することができる。
【0042】
本発明の毛髪形状感受性遺伝子及び毛髪形状感受性SNPマーカーの同定は、具体的には後述の実施例に記載するが、下記の工程を有する同定方法を実施することによって行うことができる。
(i) 毛髪形状の定義付けと、くせ毛家系、及びくせ毛形質を有するヒト(ケース)並びに直毛形質を有するヒト(コントロール)を収集する工程、
(ii) くせ毛家系由来の試料を用いて、ゲノム全域を対象とした罹患同胞対連鎖解析を実施し、くせ毛形質座位を同定する工程、
(iii)工程(ii)で同定したくせ毛形質座位について、該領域全体にわたって偏在しない複数のSNPマーカーを選定する工程、
(iv) 工程(iii)で選定したSNPマーカーについて、ケース及びコントロール由来の試料を用いてタイピングをおこない、その結果を統計学的処理により比較し、有意差の認められるSNPマーカーを毛髪形状感受性SNPマーカーとして同定する工程、及び
(v) 毛髪形状感受性SNPマーカーに対して、国際ハップマッププロジェクトデータベースのHapMap PHASEデータを用い、対象候補領域内で連鎖不平衡が認められる領域であって、かつ毛髪形状感受性SNPマーカーを含む領域(ハプロタイプブロック)を特定することにより、毛髪形状感受性遺伝子を同定する工程。
(vi) 工程(v)で特定したハプロタイプブロックから抽出されたハプロタイプに対して、国際ハップマッププロジェクトデータベースのHapMap PHASEデータを用い、工程(iv)で同定した毛髪形状感受性SNPマーカー座位と連鎖しているSNP座位を特定し、当該SNPを新たに毛髪形状感受性SNPマーカーとして追加同定する工程。
【0043】
上記工程(i)は、毛髪形状(くせ毛又は直毛)の定義付けと形質マッピングの解析対象者の収集の工程である。形質マッピングにおいては、対象となる形質をある程度定量的に扱う必要があり、対象者をくせ毛形質又は直毛形質と規定する毛髪形状の定義付けは、形質マッピングを実施するにあたって重要な工程となる。ヒトの毛髪形状は多種多様であり、その計測方法、及び分類又は定義付けの方法も様々である。例えば、毛髪形状の定義付けの方法としては、くせ毛=1、直毛=0のように二値化する方法や、くせ毛の程度を何らかの方法で測定し数値化する方法、ならびに当業者に周知の方法(例えば、特開2005−350801、特開2008−268229、特許第4159515号等)が挙げられるが、これらに限定されない。定義付け方法のより具体的な例としては、毛髪形状を、全体的形状、毛髪のカールの度合い(カール半径)、カールの出現頻度、及び/又は周囲の毛髪群とのカールの同調性等の特徴に基づいて数段階(例えば2〜10段階、好ましくは3〜8段階、より好ましくは5〜7段階)に分類し、かかる分類のうち縮毛、及びカール毛または強いウェーブ毛等のカール半径の小さい傾向のある毛髪形状ををくせ毛形質、ウェーブ毛、ほぼ直毛またはややウェーブ毛、直毛等のカール半径の大きい傾向のある毛髪形状をを直毛形質と定義する方法が挙げられる。
【0044】
上記工程(ii)は、くせ毛家系由来の試料を用いて、ゲノム全域を対象とした罹患同胞対連鎖解析を実施する工程である。罹患同胞対連鎖解析を実施するためのくせ毛家系の構成要員としては、上記工程(i)によってくせ毛形質であると判定された同胞(兄弟姉妹のペア、2名)である。より好ましくは、同胞の両親も加えた家族4名(もしくは3名)であり、さらに他の兄弟姉妹(毛髪形状は問わない)や祖父母等を加えても良い。また、罹患同胞対連鎖解析を実施するために必要なくせ毛家系の数は、くせ毛形質の母集団における頻度やその原因となる遺伝子頻度(アリル頻度)、または同胞相対危険度等を推測及び/又は観測し、シミュレーションにより計算できるが、一般的には50家系から数100家系である。
【0045】
罹患同胞対連鎖解析に用いる遺伝マーカーとしては遺伝子多型であれば特に制限はないが、ゲノム中に均一に存在し対立遺伝子数の多いマイクロサテライトが好んで用いられ、このマイクロサテライトを増幅及び検出するキット(リンケージマッピングセット)がアプライドバイオシステムズ株式会社(ABI)から市販されている。なお、本発明では、ヒト染色体を平均9.2cM間隔でカバーするABI PRISM Linkage Mapping Set−MD 10 v2.5(ABI製)、及びヒト染色体を平均5cM間隔でカバーするABI PRISM Linkage Mapping Set−HD 5 v2.5(ABI製)を使用した。
【0046】
また、遺伝マーカーとなるマイクロサテライトは任意に選定することも可能であり、The Mammalian Genoytping ServiceのComprehensive human genetic maps(http://research.marshfieldclinic.org/genetics/GeneticResearch/compMaps.asp)、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等より検索することが可能である。この際、ゲノムに0.1〜数cMの間隔で存在し、対立遺伝子数が多くヘテロ接合度の高いマイクロサテライトを選定することが好ましい。さらに、連鎖を認めた染色体について、マイクロサテライトマーカーを追加して、連鎖領域を狭小化することができる(詳細マッピング)。なお、任意に選定、追加したマイクロサテライトを増幅及び検出するためのPCRプライマーはNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から塩基配列の検索が可能であり、その配列に基づいて、例えば市販のヌクレオチド合成機によって常法にしたがって作製することができる。この際、当該プローブは、増幅産物の検出が迅速且つ容易にできるように放射性物質、蛍光物質、化学発光物質、または酵素等で標識することが好ましい。
【0047】
罹患同胞対連鎖解析では、くせ毛家系由来のゲノムDNAを鋳型とし、リンケージマッピングセット(ABI)、または任意に選定したマイクロサテライトマーカーの増幅プライマーを用いてPCRをおこない、増幅産物(フラグメント)の検出をおこなう。PCR及びその増幅産物の検出は常法にしたがって実施することが可能である。このとき、各増幅プライマーを異なる蛍光色素(例えば、6−FAM(青色)、VIC(緑色)、またはNED(黄色)等の異なる蛍光を発する色素のいずれか)で標識すれば、同一サイズの増幅産物であっても各蛍光色を別々に判別することによって、複数の増幅プライマーを迅速に検出することが可能である。
【0048】
連鎖の検定は、ノンパラメトリック解析が可能な、市販または公開されている遺伝統計学ソフトウェア(例えばGenehunter、Linkage package、Mapmaker/sibs等)を用いて行うことができる。
【0049】
連鎖が認められる領域の判定は、以下に示すランダー(Lander)及びクラッグリャック(Kruglyak)のガイドライン(Nat. Genet., 11(3), 241-247, 1995)にしたがって、偽陽性の連鎖を得る基準をもとにした。ランダーおよびクラッグリャックのガイドライン(多因子疾患でゲノム全域での連鎖解析)が盛んにおこなわれるようになってきたが、個々の遺伝子の連鎖解析については、その遺伝子機能から原因となり得るかといった判断も加わる。しかしながらゲノム全域での解析では遺伝子機能はその段階で考慮にはいらないので、純粋に数理遺伝学的な有意の判断基準(閾値)が求められる。そこで彼らはシミュレーションにしたがい、下記表2に示す有意な連鎖基準を設けている。
【0050】
【表2】

【0051】
本工程により、全染色体をスクリーニングし、くせ毛形質との連鎖が認められる染色体上の領域を検出することができる。さらに詳細マッピングによって、染色体上の特定領域をくせ毛形質座位として同定することができる。斯くして同定された領域は、毛髪形状感受性遺伝子が存在することが強く示唆される領域である。
【0052】
上記工程(iii)は、工程(ii)により同定されたくせ毛形質座位領域について、該領域全体にわたって偏在しない複数のSNPマーカーを選定する工程である。SNPマーカーは、dbSNPデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/)、JSNPデータベース(http://snp.ims.u-tokyo.ac.jp/index_ja.html)等のSNPに関する各種データベースを用いて選定することが可能である。
【0053】
SNPマーカーの選定にあたっては、毛髪形状感受性遺伝子の同定に有用なSNPを選択する。具体的には、日本人集団において、マイナーアリルの遺伝子頻度が10%以上、より好ましくは15%以上のSNPを選択する。このような遺伝子頻度のSNPを用いることにより、信頼性の高いSNPマーカーを選定することができる。
【0054】
なお、遺伝子頻度を指標にSNPマーカーを選定した場合、SNPマーカーが特定の狭い領域に偏在する場合がある。このような場合、選定した全てのSNPマーカーを毛髪形状感受性遺伝子の同定に用いると、実験が煩雑になり、また、互いに近傍のSNPは連鎖不平衡状態にあることも多く効率的ではない。したがって、互いにある程度の間隔をもって存在するSNPマーカーを選定して使用することが好ましい。このように、ある間隔をもたせてマーカーの偏在をなくすことによって、対象候補領域全体にわたって網羅的な関連解析を行うことが可能となり、毛髪形状感受性遺伝子の同定を容易にすることができる。このように選定する互いに隣接するSNPマーカー間の距離は、好ましくは5kb以上であり、より好ましくは、5kb〜10kbである。この距離が長すぎると、SNPマーカー間の互いの連鎖不平衡の強さの程度が確認できない領域が生じる可能性がある。また、この距離が短すぎると、互いに強い連鎖不平衡が認められるSNPが多くなってしまうため効率的でない。
【0055】
対象候補領域全体にわたって網羅的にSNPマーカーを選定する上で、このSNPマーカー間の距離とは別に、マーカーの対象候補領域内での散らばり具合、すなわちゲノムの単位距離あたりのマーカー個数を「マーカー密度」として表現することができる。マーカー密度は、ゲノム10kbあたり0.5SNP以上、好ましくは1SNP以上、より好ましくは1SNP〜2SNPである。マーカー密度が低すぎると、マーカー間の距離が長すぎ、前述するようにSNPマーカー間の連鎖不平衡の強さの程度が確認できない領域が生じる可能性がある。一方、マーカー密度が高すぎると、マーカー間の距離が短すぎ、前述するように、マーカーが過密に選定されて毛髪形状感受性遺伝子を同定する場合に実験量が多くなり効率的ではなくなる。
【0056】
上記工程(iv)は、上記工程(iii)で選定したSNPマーカーについて、ケース・コントロール関連解析を行う工程である。ケース・コントロール関連解析は、ある遺伝マーカーにおけるアリル頻度をケース(罹患者:くせ毛形質を有するヒト)集団とコントロール(対照者:直毛形質を有するヒト)集団とで比較し、2つの集団の間でアリル頻度に有意な差のみられるマーカーを検出する方法である。例えば、くせ毛形質を有するヒト(ケース)並びに直毛形質を有するヒト(コントロール)由来の試料を用いてタイピングをおこない、その結果を統計学的処理により比較し、有意差の認められるSNPマーカーを毛髪形状感受性SNPマーカーとして同定する。形質マッピングに必要な試料としては、ゲノムDNAを含むものであれば特に限定されないが、例えば、末梢血などの血液、唾液、汗等の体液、体細胞およびそれを含む組織または器官等が挙げられる。ケース・コントロール関連解析を実施するために必要なケース及びコントロールの数は、くせ毛形質の母集団における頻度やその原因となる遺伝子頻度(アリル頻度)、遺伝子型相対危険度等により見積もることが可能であるが、一般的には50〜数1000人である。また、段階的絞込み法により、サンプルサイズやタイピング数等の限られた条件のもとで比較的高い検出力を得ることが可能である。また、ケース及びコントロールは、毛髪形状感受性遺伝子を特定する人種と同じ人種で構成されていることが好ましく、例えば、日本人の毛髪形状感受性遺伝子を同定するには、解析対象者は日本人で構成されていることが好ましい。
【0057】
SNPタイピングの方法としては、PCR−SSCP、PCR−RLFP、PCR−SSO、PCR−ASP、ダイレクトシークエンス法、SNaPshot、dHPLC、Sniper法、MALDI−TOF/MS法等の当業者に周知の方法(例えば、野島博編、「ゲノム創薬の最前線」、p44−p54、羊土社、2001)を用いることができるが、例えば、TaqMan SNP Genotyping Assays(登録商標)(ABI製)を利用し、TaqManシステムを利用したSNPタイピング法を採用することが効果的である。
【0058】
関連解析は、典型的には、各SNPマーカーの遺伝子頻度をケース集団とコントロール集団とで比較し、頻度の差が統計学的に有意なものであるか否かについてχ2検定(東京大学教養学部統計学教室編、「統計学入門―基礎統計学I」、東京大学出版会、1991)することによるが、各SNPマーカーについての遺伝子型頻度、優性(または劣性)モデルを採用した場合の遺伝子型頻度、対立遺伝子陽性率での頻度等によってもおこなうことができる。また、χ2検定以外にも、ケース集団とコントロール集団とで比較すること、すなわち、複数の集団に分けられる形質、疾患等の表現形質と遺伝子多型との関連を検定することが可能であれば、他の周知の統計学的処理によっておこなうことができる。
【0059】
なお、遺伝子型のタイピングエラー、及びサンプリングの妥当性の評価をするため、ハーディー・ワインベルグ平衡検定をおこなう。ハーディー・ワインベルグ平衡とは、ゲノム統計学の分野ではよく知られており、SNP等のように2つの対立遺伝子(例えばCとT)が存在し、集団におけるそれぞれの頻度がpとqのとき、(p+q=1)、C/Cホモ、C/Tヘテロ、T/Tホモの遺伝子型頻度がそれぞれp2、2pq、q2となる(p2+2pq+q2=1)。関連解析をおこなう際には、コントロール集団においてハーディー・ワインベルグ平衡が成立することが望ましいが、ハーディー・ワインベルグ平衡からのずれが統計学的に有意な差をもつものの個数が有意水準(典型的にはp=0.01〜0.05)における予想範囲内であれば、選定したSNPマーカーが妥当であると評価できる。
【0060】
一態様としては、ケース集団とコントロール集団とから得られたそれぞれの試料について、タイピングを実施し、ジェノタイプ、アリルタイプ、優性モデル、劣性モデルの4つの方法でχ2検定にて有意差検定を行う。すなわち、ある遺伝子変異が毛髪形状変化の原因となっているならば、ケースとコントロールとでそのアリル頻度などに差が予想できる。検定においては、該関連解析を比較的少数の対象者で実施する場合又は対象者からの有意差の検出力を上げる場合には、有意水準を緩く設定し、対象者が比較的多数の場合又は有意差を厳しく判断する場合には、有意水準を厳しく設定することができる。検定により有意な遺伝子頻度の差を示すSNPを毛髪形状感受性SNPマーカーとして同定する。
【0061】
次いでおこなわれる工程(v)は、上記で特定された毛髪形状感受性SNPマーカーに対して、国際ハップマッププロジェクトデータベースのHapMap PHASEデータを用い、対象候補領域内で連鎖不平衡が認められる領域であって、かつ毛髪形状感受性SNPマーカーを含む領域(ハプロタイプブロック)を特定することにより、毛髪形状感受性遺伝子を同定する工程である。
【0062】
ハプロタイプ解析(連鎖不平衡解析)は、当業者に周知の方法であって、従来おこなわれている各種の連鎖不平衡解析(例えば、鎌谷直之編、「ポストゲノム時代の遺伝統計学」、p183−201、羊土社、2002)でおこなうことができる。ハプロタイプ解析は、市販または公開されている各種の遺伝統計学ソフトウエア(例えば、Haploview、Arlequin、SNP疾患関連解析ソフトSNPAlyze(登録商標)(株式会社ダイナコム製))等のプログラムを用いて実施することができる。より具体的には、EMアルゴリズム(Laird,N : "The EM Algorithm", Chap.14, pp 509-520, Handbook of Statistics, Vol.9, Computational Statistics, C.R.Rao(ed.) Elsevier Science Publishers B.V., 1993)による連鎖不平衡解析により、連鎖不平衡係数D'(pair-wise LD coefficient)を算出して解析をおこなう。より具体的には、ハプロタイプ解析では、上記で特定した毛髪形状感受性SNPマーカーと他のSNPマーカーとの間に連鎖不均衡が存在するか否かが解析され、連鎖不均衡が存在する領域がハプロタイプブロックとして同定される。連鎖不均衡解析に用いる他のSNPマーカーは、上記の毛髪形状感受性SNPマーカーに対してゲノム配列の上流及び下流に存在するSNPの中から随意に選択することができる。例えば、連鎖不均衡解析は、上記の毛髪形状感受性SNPマーカーの近位から遠位までに存在するSNPに対して順に実行されてもよく、あるいは、任意に選択された遠位のSNPに対して実行されて大まかなハプロタイプブロック領域を特定した後、より近位のSNPに対して行われてより詳細なハプロタイプブロック領域を特定してもよい。連鎖不均衡解析に用いる他のSNPマーカーの個数は、毛髪形状感受性SNPマーカーを含めて4SNP以上、好ましくは20SNP以上、さらに好ましくは32SNP以上であり、これら複数のSNPマーカーを含む一連のSNPマーカー群に対しておこなう。ここで、連鎖不平衡係数D'は、2つのSNPについて、第一のSNPの各アリルを(A,a)、第二のSNPの各アリルを(B,b)とし、4つのハプロタイプ(AB,Ab,aB,ab)の各頻度をPAB、PAb、PaB、Pabとすると、下記の式より得られる。なお式中、Min [(PAB+PaB) (PaB + Pab), (PAB + PAb) (PAb + Pab)]は、(PAB + PaB) (PaB + Pab)と(PAB + PAb) (PAb + Pab)とのうち、値の小さい方をとることを意味する。
【0063】
【数2】

【0064】
該SNPマーカー群のマーカー数は、同定する毛髪形状感受性遺伝子と関連するハプロタイプブロック(連鎖不平衡ブロック)を形成する領域の大きさによって、適宜、変更することができる。また、予めブロックの切れ目が予想されている場合は、そのブロックをはさんで6SNP程度でおこなうことも可能である。さらに、はじめに毛髪形状感受性SNPマーカーをはさみ両側に5SNPの合計11SNPに対して連鎖不平衡解析をおこない、必要に応じて解析するマーカー数を増やしていってもよい。
【0065】
連鎖不平衡解析をおこなうことによって、対象候補領域内でSNPが連鎖している領域(互いに強い連鎖不平衡が認められるSNPマーカー群を含むハプロタイプブロック)を特定する。例えば、選定されたSNPマーカーについて全ての2SNP間の組み合わせについて連鎖不平衡係数D'を算出し、D'>0.9を示した組み合わせを選択し、そのうち、もっとも遠いSNPで挟まれる領域を含む一連の領域を検出する。次いで、当該検出した領域の外側で当該領域に隣接する連続する3SNPと当該領域内のSNPとの間でD'を算出する。算出したいずれの組み合わせでもD'が0.9以下であることを確認した場合には、当該領域を「ハプロタイプブロック」として特定する。
【0066】
このようにしてハプロタイプブロックが特定されれば、例えば、その領域について、ゲノムに関するデータベース等を利用し、注目するハプロタイプブロックに存在する遺伝子を特定することができる。なお、データベースを利用しない場合でも、ハプロタイプブロック領域内に存在するSNPマーカー近傍の塩基配列を常法により決定し、その塩基配列から遺伝子を特定することも可能である。
【0067】
上記工程(vi)は、工程(v)で特定したハプロタイプブロックから抽出されたハプロタイプに対して、国際ハップマッププロジェクトデータベースのHapMap PHASEデータを用い、工程(iv)で同定した毛髪形状感受性SNPマーカー座位と連鎖しているSNP座位を特定し、当該SNPを新たに毛髪形状感受性SNPマーカーとして追加同定する工程である。
【0068】
工程(v)ではハプロタイプブロックを特定するのと同時に、ハプロタイプ解析に用いたSNPマーカー群の各々の塩基で構成されるすべてのハプロタイプを抽出し、そのハプロタイプ頻度等を求めることが可能である。
【0069】
抽出されたハプロタイプ、すなわちSNPマーカー群の各々の塩基の組み合わせを比較することで、工程(iv)で同定した毛髪形状感受性SNPマーカー座位と連鎖しているSNP座位を特定することができ、このように同定されたSNP座位を新たに毛髪形状感受性SNPマーカーとすることができる。
【0070】
上記工程(i)〜(vi)により、くせ毛との連鎖が認められる染色体領域が特定され、次いで当該染色体領域から毛髪形状感受性SNPマーカーが選定される。さらに、選定されたSNPマーカーに対するハプロタイプ解析により、当該染色体領域中の毛髪形状に関連するハプロタイプブロック及び遺伝子が同定される。その後、さらに毛髪形状感受性SNPマーカー座位と連鎖しているSNP座位を特定することによって、当該ハプロタイプブロック又は遺伝子中に存在する毛髪形状感受性SNPマーカーを同定することができる。
【0071】
上記工程により特定されるくせ毛との連鎖が認められる染色体領域としては、第1番染色体及び第11番染色体が挙げられ、より具体的には、第1番染色体の1q32.1〜1q32.2領域(マイクロサテライトD1S249〜D1S2891で挟まれる領域)が挙げられる(最大LODスコア=2.14)。これらの領域はくせ毛形質座位として特定され、この領域に毛髪形状感受性遺伝子が存在することが強く示唆される。
【0072】
上記工程により特定されるハプロタイプブロックとしては、ヒト第1番染色体のゲノム領域中、配列番号1で示される塩基配列で表される3,926bpからなる領域、配列番号2で示される塩基配列で表される76,945bpからなる領域、及び配列番号3で示される塩基配列で表される68,637bpからなる領域が挙げられる。
【0073】
これらのハプロタイプブロックにオーバーラップする遺伝子であって、当該ハプロタイプブロックの塩基配列の一部またはすべてを含有する遺伝子は、毛髪形状感受性遺伝子として同定される。ここで「ハプロタイプブロックにオーバーラップする遺伝子」とは、ハプロタイプブロックの一部の領域と同じ塩基配列を有するか、またはハプロタイプブロックの全領域の塩基配列と同じ塩基配列を有する遺伝子の両方を意味する。また、これらのハプロタイプブロック中に存在し、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)及び当該SNPと連鎖しているSNPは、毛髪形状感受性SNPマーカーとして同定される。
【0074】
配列番号1で示される塩基配列で表される3,926bpからなるハプロタイプブロックにオーバーラップする遺伝子としては、ヒト第1番染色体上のCSRP1遺伝子を挙げることができる。CSRP1遺伝子は、Entrez Geneデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene)においてGeneID:1465で示される遺伝子であり、実施例5及び図5に示すように、その塩基配列の一部が上記ハプロタイプブロックとオーバーラップする。
【0075】
配列番号1で示される塩基配列中に存在する毛髪形状感受性SNPマーカーとしては、塩基番号1(dbSNPデータベースID:rs576697、TまたはC)、1635(rs645390、GまたはA)、2527(rs3767542、GまたはA)、及び3766(rs675508、CまたはA)で示される塩基が挙げられ、好ましくは、塩基番号1(rs576697、TまたはC)で示される塩基が挙げられる。
【0076】
配列番号2で示される塩基配列で表される76,945bpからなるハプロタイプブロックにオーバーラップする遺伝子としては、ヒト第1番染色体上のNAV1遺伝子、IPO9遺伝子、及びTMEM58遺伝子を挙げることができる。NAV1遺伝子は、Entrez GeneデータベースにおいてGeneID:89796で示される遺伝子であり、実施例5及び図6に示すように、その塩基配列の一部が上記ハプロタイプブロックとオーバーラップする。また、IPO9遺伝子は、Entrez GeneデータベースにおいてGeneID:55705で示される遺伝子であり、実施例5及び図6に示すように、その塩基配列の全長が上記ハプロタイプブロックとオーバーラップする。また、TMEM58遺伝子は、Entrez GeneデータベースにおいてGeneID:149345で示される遺伝子であり、実施例5及び図6に示すように、その塩基配列の一部が上記ハプロタイプブロックとオーバーラップする。
【0077】
配列番号2で示される塩基配列中に存在する毛髪形状感受性SNPマーカーとしては、塩基番号7519(rs2271763、GまたはA)、16901(rs10920260、TまたはG)、30270(rs16849387、AまたはG)、31333(rs12127375、CまたはG)、50038(rs1495840、TまたはA)、及び63008(rs10920269、GまたはT)で示される塩基が挙げられ、好ましくは、塩基番号50038(rs1495840、TまたはA)で示される塩基が挙げられる。
【0078】
配列番号3で示される塩基配列で表される68,637bpからなるハプロタイプブロックにオーバーラップする遺伝子としては、ヒト第1番染色体上のNUCKS1遺伝子を挙げることができる。NUCKS1遺伝子は、Entrez GeneデータベースにおいてGeneID:64710で示される遺伝子であり、実施例5及び図7に示すように、その塩基配列の全長が上記ハプロタイプブロックとオーバーラップする。
【0079】
配列番号3で示される塩基配列中に存在する毛髪形状感受性SNPマーカーとしては、塩基番号24524(rs3805、TまたはG)、及び60701(rs823114、GまたはA)で示される塩基が挙げられ、好ましくは、塩基番号60701(rs823114、GまたはA)で示される塩基が挙げられる。
【0080】
3.毛髪形状判定マーカー
本発明はまた、ヒト第1番染色体の1q32.1〜1q32.2領域(D1S249〜D1S2891)における、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なるSNPマーカーに対する連鎖不平衡解析により決定され、且つ配列番号1〜3のいずれかで示される塩基配列からなるハプロタイプブロックの塩基配列の部分塩基配列であって、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)及び当該SNPと連鎖しているSNPを一以上含む連続する塩基配列からなる部分塩基配列を含むオリゴまたはポリヌクレオチドあるいはその相補鎖である、毛髪形状判定マーカーを提供する。
【0081】
これらの塩基配列で特定されるオリゴまたはポリヌクレオチドあるいはそれらの相補鎖は、配列番号1〜3で示される塩基配列で表されるハプロタイプブロックに存在する、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)又は当該SNPと連鎖しているSNPである毛髪形状感受性SNPマーカーを一以上含んでおり、これらのオリゴまたはポリヌクレオチドあるいはそれらの相補鎖を検出することにより、被験者における毛髪形状の遺伝的素因を検査及び/又は判定することができる。したがって、これらのオリゴまたはポリヌクレオチドあるいはそれらの相補鎖は、個体が保有する毛髪形状の遺伝的素因を判定するためのマーカーとして規定され、かつ使用することができる。
【0082】
これらのオリゴまたはポリヌクレオチドあるいはそれらの相補鎖の長さ(塩基長)は、ヒトゲノム上で特異的に認識される長さであればよく、その限りにおいて特に制限されない。通常10塩基長以上1000塩基以下であり、好ましくは20塩基長以上500塩基長以下であり、より好ましくは20塩基長以上100塩基長以下である。したがって、必要に応じて、例えば上記配列番号1〜3で示される塩基配列で表されるハプロタイプブロックに存在する毛髪形状感受性SNPマーカーを含む11塩基(好ましくは、毛髪形状感受性SNPマーカーの5'側及び3'側それぞれ5塩基ずつ)、21塩基(好ましくは、毛髪形状感受性SNPマーカーの5'側及び3'側それぞれ10塩基ずつ)、101塩基(好ましくは、毛髪形状感受性SNPマーカーの5'側及び3'側それぞれ50塩基ずつ)、又は601塩基(好ましくは、毛髪形状感受性SNPマーカーの5'側及び3'側それぞれ300塩基ずつ)等とすることができる。
【0083】
本発明の毛髪形状判定マーカーに含まれるべき本発明で利用される毛髪形状感受性SNPマーカーの例としては、以下が挙げられる:
(1)配列番号1で示される塩基配列における、塩基番号1(dbSNPデータベースID:rs576697、TまたはC)、1635(rs645390、GまたはA)、2527(rs3767542、GまたはA)、及び3766(rs675508、CまたはA)で示される塩基;
(2)配列番号2で示される塩基配列における、塩基番号7519(rs2271763、GまたはA)、16901(rs10920260、TまたはG)、30270(rs16849387、AまたはG)、31333(rs12127375、CまたはG)、50038(rs1495840、TまたはA)、及び63008(rs10920269、GまたはT)で示される塩基;ならびに、
(3)配列番号3で示される塩基配列における、塩基番号24524(rs3805、TまたはG)、及び60701(rs823114、GまたはA)で示される塩基。
【0084】
上記のうち、配列番号1で示される塩基配列における塩基番号1(rs576697、TまたはC)で示される塩基、配列番号2で示される塩基配列における塩基番号50038(rs1495840、TまたはA)で示される塩基、ならびに配列番号3で示される塩基配列における塩基番号60701(rs823114、GまたはA)で示される塩基が好ましい。
【0085】
毛髪形状感受性SNPマーカーは、本発明の毛髪形状判定マーカーの中央又は中央近傍(例えば、中央から100塩基以内、好ましくは50塩基以内、より好ましくは30塩基以内、さらにより好ましくは10塩基以内、さらにより好ましくは5塩基以内)に位置していることが望ましいが、必ずしもそうである必要はない。さらに、本発明の毛髪形状判定マーカーに二以上の毛髪形状感受性SNPマーカーが含まれる場合、当該毛髪形状感受性SNPマーカーのうち全てが本発明の毛髪形状判定マーカーの中央又は中央近傍に位置していてもよく、当該毛髪形状感受性SNPマーカーのうちの1つが中央又は中央近傍に位置しその他が任意の位置にあってもよく、また当該毛髪形状感受性SNPマーカーのうちの全てが中央又は中央近傍に位置していなくともよい。
【0086】
毛髪形状感受性SNPマーカーが中央に位置する本発明の毛髪形状判定マーカーの具体例としては、例えば配列番号1で示される塩基配列における塩基番号1で示される塩基にSNP(dbSNPデータベースID:rs576697、TまたはC)を含む場合、配列番号1の上流5塩基から塩基番号6までの塩基からなる11塩基長のポリヌクレオチド、配列番号1の上流10塩基から塩基番号11までの塩基からなる21塩基長のポリヌクレオチド、配列番号1の上流50塩基から塩基番号51までの塩基からなる101塩基長のポリヌクレオチド、および配列番号1の上流300塩基から塩基番号11までの塩基からなる塩基配列を有する601塩基長のポリヌクレオチドが挙げられる。またこれらの相補鎖を利用することもできる。同様にして、他のSNPを含むマーカーの塩基配列も決定される。
【0087】
4.毛髪形状に対する遺伝的感受性の判定方法
本発明はまた、被験者の毛髪形状に対する遺伝的感受性(遺伝的素因)を判定する方法を提供する。本発明の毛髪形状に対する遺伝的感受性の判定方法は、以下の工程(a)、及び(b)を含むものであり、その限りにおいて特に制限されるものではない:
(a)被験者由来のゲノムDNAを調製する工程;及び
(b)当該ゲノムDNAから、ヒト第1番染色体の1q32.1〜1q32.2領域(D1S249〜D1S2891)における、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)マーカーに対する連鎖不平衡解析により決定され、且つ配列番号1〜3のいずれかで示される塩基配列からなるハプロタイプブロックに存在する、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)及び当該SNPと連鎖している一塩基多型(SNP)を検出する工程。
【0088】
上記工程(a)(ゲノムDNAの抽出)と工程(b)(SNPの検出)は、公知の方法(例えば、Birren Bruce et al., Genome Analysis, Vol. 4 / A Laboratory Manual: Mapping Genomes, Cold Spring Harbor Laboratory, NY, 1999)を用いて行うことができる。
【0089】
工程(a)において、被験者由来のゲノムDNAは、被験者、及びその臨床検体等から単離されたあらゆる細胞(培養細胞を含む。但し生殖細胞は除く)、組織(培養組織を含む)、器官、または体液(例えば、血液、唾液、リンパ液、気道粘膜、精液、汗、尿等)などを材料とすることができる。該材料としては末梢血から分離した白血球または単核球が好ましく、白血球がより好適である。これらの材料は、臨床検査において通常用いられる方法にしたがって単離することができる。
【0090】
例えば、白血球を材料とする場合、まず被験者より単離した末梢血から常法にしたがって白血球を分離する。次いで、得られた白血球にProteinase Kとドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を加えてタンパク質を分解、変性させた後、フェノール/クロロホルム抽出をおこなうことによりゲノムDNA(RNAを含む)を得る。RNAは必要に応じてRNaseにより除去することができる。なお、ゲノムDNAの抽出は、上記の方法に限定されず、当該技術分野で周知の方法(例えば、Joseph Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3 Vol. Set), Cold Spring Harbor Laboratory, NY, 2001)や、市販のDNA抽出キット等を利用しておこなうことができる。さらに必要に応じて、ヒト第1番染色体の1q32.1〜1q32.2領域、又はヒト第1番染色体のゲノム領域中の配列番号1〜3で示される塩基配列で表されるハプロタイプブロックを含むDNAを単離してもよい。当該DNAの単離は、1q32.1〜1q32.2領域、または当該ハプロタイプブロックにハイブリダイズするプライマーを用いて、ゲノムDNAを鋳型としたPCR等によって行うことができる。
【0091】
工程(b)においては、工程(a)で得られたゲノムDNAから、ヒト第1番染色体の1q32.1〜1q32.2領域(D1S249〜D1S2891)における、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)マーカーに対する連鎖不平衡解析により決定され、且つ配列番号1〜3のいずれかで示される塩基配列からなるハプロタイプブロックに存在する多型であって、アリル頻度が任意の非くせ毛者集団におけるよりも任意のくせ毛者集団において高いSNP又は当該SNPと連鎖しているSNPを検出する。配列番号1〜3で示される塩基配列とは、ヒト第1番染色体のゲノム領域中の配列番号1で示される3,926bpからなる塩基配列、配列番号2で示される76,945bpからなる塩基配列、及び配列番号3で示される68,637bpからなる塩基配列である。
【0092】
上記本発明の判定方法は、さらに下記の工程(c)を含むことが好ましい:
(c)当該検出したSNPのアリル頻度が非くせ毛者集団におけるよりもくせ毛者集団において統計学的に有意に高い場合、当該被験者はくせ毛の遺伝的素因を有していると判定し、当該検出したSNPのアリル頻度がくせ毛者集団におけるよりも任意の非くせ毛者集団において統計学的に有意に高い場合、当該被験者はくせ毛の遺伝的素因を有していないと判定する工程。
【0093】
上記工程(c)としては、例えば、被験者由来のゲノムDNA中の配列番号1〜3で示される塩基配列における下記表に示される塩基番号の塩基のいずれか一以上において、当該塩基が塩基(i)であるか塩基(ii)であるかを識別し、塩基(i)である場合には被験者がくせ毛の素因を有していると判定し、塩基(ii)である場合には被験者がくせ毛の素因を有していないと判定する工程が挙げられる。
【0094】
【表3】

【0095】
より具体的には、本発明の被験者の毛髪形状に対する遺伝的感受性の判定方法は、下記(1)〜(12)のいずれか1の工程を含む。
(1)配列番号1で示される塩基配列中、塩基番号1で示される塩基がTであるかCであるかを識別し、Cである場合にくせ毛の素因を有している、またはTである場合にくせ毛の素因を有していないと判定する、
(2)配列番号1で示される塩基配列中、塩基番号1635で示される塩基がGであるかAであるかを識別し、Aである場合にくせ毛の素因を有している、またはGである場合にくせ毛の素因を有していないと判定する、
(3)配列番号1で示される塩基配列中、塩基番号2527で示される塩基がGであるかAであるかを識別し、Aである場合にくせ毛の素因を有している、またはGである場合にくせ毛の素因を有していないと判定する、
(4)配列番号1で示される塩基配列中、塩基番号3766で示される塩基がCであるかAであるかを識別し、Aである場合にくせ毛の素因を有している、またはCである場合にくせ毛の素因を有していないと判定する、
(5)配列番号2で示される塩基配列中、塩基番号7519で示される塩基がGであるかAであるかを識別し、Aである場合にくせ毛の素因を有している、またはGである場合にくせ毛の素因を有していないと判定する、
(6)配列番号2で示される塩基配列中、塩基番号16901で示される塩基がTであるかGであるかを識別し、Gである場合にくせ毛の素因を有している、またはTである場合にくせ毛の素因を有していないと判定する、
(7)配列番号2で示される塩基配列中、塩基番号30270で示される塩基がAであるかGであるかを識別し、Gである場合にくせ毛の素因を有している、またはAである場合にくせ毛の素因を有していないと判定する、
(8)配列番号2で示される塩基配列中、塩基番号31333で示される塩基がCであるかGであるかを識別し、Gである場合にくせ毛の素因を有している、またはCである場合にくせ毛の素因を有していないと判定する、
(9)配列番号2で示される塩基配列中、塩基番号50038で示される塩基がTであるかAであるかを識別し、Aである場合にくせ毛の素因を有している、またはTである場合にくせ毛の素因を有していないと判定する工程、
(10)配列番号2で示される塩基配列中、塩基番号63008で示される塩基がGであるかTであるかを識別し、Tである場合にくせ毛の素因を有している、またはGである場合にくせ毛の素因を有していないと判定する、
(11)配列番号3で示される塩基配列中、塩基番号24524で示される塩基がTであるかGであるかを識別し、Gである場合にくせ毛の素因を有している、またはTである場合にくせ毛の素因を有していないと判定する、または
(12)配列番号3で示される塩基配列中、塩基番号60701で示される塩基がGであるかAであるかを識別し、Aである場合にくせ毛の素因を有している、またはGである場合にくせ毛の素因を有していないと判定する。
【0096】
なお、本発明の、毛髪形状に対する遺伝的感受性(遺伝的素因)を判定する方法において検出されるSNPは、上記SNPのうちのいずれか1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。好ましくは、2つ以上のSNPを検出することであり、これにより、多遺伝子性の一般形質である毛髪形状について、被験者の遺伝的素因の種類やその有無を明らかにすることができ、当該被験者の毛髪形状を決定付ける主要因となる遺伝子をより高精度に検索することができる。
【0097】
当該SNPの検出は、ゲノムDNAを含む試料からさらに単離したヒト第1番染色体の1q32.1〜1q32.2領域、またはヒト第1番染色体のゲノム領域中の配列番号1〜3で示される塩基配列で表されるハプロタイプブロックの塩基配列を直接決定することによって行うことができる。あるいは、多型を検出する方法としては、上記のように該当領域の遺伝子配列を直接決定する方法の他に、多型配列が制限酵素認識部位である場合は、制限酵素切断パターンの相違を利用して、遺伝子型を決定する方法(以下、RFLPという)、多型特異的なプローブを用いハイブリダイゼーションを基本とする方法(例えば、チップやガラススライド、ナイロン膜上に特定のプローブを貼りつけ、それらのプローブに対するハイブリダイゼーション強度の差を検出することによって多型の種類を決定する、または、特異的なプローブのハイブリダイゼーションの効率を、鋳型2本鎖増幅時にポリメラーゼが分解するプローブの量を検出することにより遺伝子型を特定する方法、ある種の2本鎖特異的な蛍光色素が発する蛍光を温度変化を追うことにより2本鎖融解の温度差を検出し、これにより多型を特定する方法、多型部位特異的なオリゴプローブの両端に相補的な配列を付け、温度によって該当プローブが自己分子内で2次構造をつくるか、ターゲット領域にハイブリダイズするかの差を利用して遺伝子型を特定する方法等)がある。またさらに、鋳型特異的なプライマーからポリメラーゼによって塩基伸長反応をおこなわせ、その際に多型部位に取り込まれる塩基を特定する方法(ジデオキシヌクレオチドを用い、それぞれを蛍光標識し、それぞれの蛍光を検出する方法、取り込まれたジデオキシヌクレオチドをマススペクトロメトリーにより検出する方法)、さらに、鋳型特異的なプライマーに続いて変異部位に相補的な塩基対または非相補的な塩基対の有無を酵素によって認識させる方法等がある。
【0098】
以下、従来公知の代表的な遺伝子多型の検出方法を列記するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。(a)RFLP(制限酵素切断断片長多型)法、(b)PCR−SSCP法(一本鎖DNA高次構造多型解析、Biotechniques, 16, p296-297, 1994、及びBiotechniques, 21, p510-514, 1996)、(c)ASOハイブリダイゼーション法(Clin.Chim.Acta., 189, p153-157, 1990)、(d)ダイレクトシークエンス法(Biotechniques, 11, p246-249, 1991)、(e)ARMS法(Nuc.Acids Res., 19, p3561-3567, 1991、及びNuc.Acids Res., 20, p4831-4837, 1992)、(f)変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)法(Biotechniques, 27, p1016-1018, 1999)、(g)RNaseA切断法(DNA Cell Biol., 14, p87-94, 1995)、(h)化学切断法(Biotechniques, 21, p216-218, 1996)、(i)DOL法(Genome Res., 8, p549-556, 1998)、(j)TaqMan−PCR法(Genet.Anal., 14, p143-149, 1999、及びJ.Clin.Microbiol., 34, p2933-2936, 1996)、(k)インベーダー法(Science, 5109, p778-783, 1993、J.Bio.Chem., 30, p21387-21394, 1999、及びNat.Biotechnol., 17, p292-296, 1999)、(l)MALDI−TOF/MS法(Genome Res., 7, p378-388, 1997、及びEur.J.Clin.Chem.Clin.Biochem., 35, p545-548, 1997)、(m)TDI法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 94, p10756-10761, 1997)、(n)モレキュラー・ビーコン法(Nat.Biotechnol., 16, p49-53, 1998)、(o)ダイナミックアリル・スペシフィックハイブリダイゼーション(DASH)法(Nat.Biotechnol., 17, p87-88, 1999)、(p)パドロック・プローブ法(Nat.Genet., 3, p225-232, 1998)、(q)DNAチップまたはDNAマイクロアレイ(中村祐輔 et al.、「SNP遺伝子多型の戦略」、中山書店、p128-135, 2000)、(r)ECA法(Anal.Chem., 72, p1334-1341, 2000)。
【0099】
以上は代表的な遺伝子多型検出方法であるが、本発明の毛髪形状に対する遺伝的感受性(遺伝的素因)の判定方法には、これらに限定されず、他の公知または将来開発される遺伝子多型検出方法を広く用いることができる。また、本発明の遺伝子多型検出に際して、これらの遺伝子多型検出方法を単独で使用してもよいし、また2以上を組み合わせて使用することもできる。以下、代表的な方法として、後記実施例で使用されるTaqMan−PCR法、及びインベーダー法について、より詳細に説明する。
【0100】
(1)TaqMan−PCR法
TaqMan−PCR法は、蛍光標識したアリル特異的オリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)とTaq DNAポリメラーゼによるPCRとを利用した方法である。TaqManプローブとしては、ヒト第1番染色体のゲノム領域中、配列番号1〜3で示される塩基配列で表されるハプロタイプブロックの部分塩基配列であって、上記のいずれかの多型部位の塩基を含む約15〜約30塩基の連続した塩基配列を含むオリゴヌクレオチド(例えば後述する本発明の毛髪形状判定用試薬に含まれる核酸プローブ)が用いられる。該プローブは、その5'末端がFAMやVICなどの蛍光色素で、3'末端がTAMRAなどのクエンチャー(消光物質)でそれぞれ標識されており、そのままの状態ではクエンチャーが蛍光エネルギーを吸収するため蛍光は検出されない。プローブは双方のアリルについて調製し、一括検出のために互いに蛍光波長の異なる蛍光色素(例えば、一方のアレルをFAM、他方をVIC)で標識することが好ましい。また、TaqManプローブからのPCR伸長反応が起こらないように3'末端はリン酸化されている。TaqManプローブとハイブリダイズする領域を含むゲノムDNAの部分配列を増幅するように設計されたプライマー及びTaqDNAポリメラーゼとともにPCRをおこなうと、TaqManプローブが鋳型DNAとハイブリダイズし、同時にPCRプライマーからの伸長反応が起こるが、伸長反応が進むとTaq DNAポリメラーゼの5'ヌクレアーゼ活性によりハイブリダイズしたTaqManプローブが切断され、蛍光色素が遊離してクエンチャーの影響を受けなくなり、蛍光が検出される。鋳型の増幅により蛍光強度は指数関数的に増大する。例えば、配列番号1で示される塩基配列中、塩基番号1(rs576697、TまたはC)で示される塩基における多型の検出において、当該塩基を含むアリル特異的オリゴヌクレオチド(約15〜約30塩基長;CアリルはFAMで、TアリルはVICでそれぞれ5'末端標識し、3'末端はいずれもTAMRAで標識)をTaqManプローブとして用いた場合、被験者のジェノタイプがCCあるいはTTであれば、それぞれFAMあるいはVICの強い蛍光強度を認め、他方の蛍光はほとんど認められない。一方、被験者のジェノタイプがCTであれば、FAM及びVIC両方の蛍光が検出される。
【0101】
(2)インベーダー法
インベーダー法では、TaqMan−PCR法と異なり、アリル特異的オリゴヌクレオチド(アリルプローブ)自体は標識されず、多型部位の塩基の5'側に鋳型DNAと相補性のない配列(フラップ)を有し、3'側には鋳型に特異的な相補配列を有する。インベーダー法では、さらに鋳型の多型部位の3'側に特異的な相補配列を有するオリゴヌクレオチド(インベーダープローブ;該プローブの5'末端である多型部位に相当する塩基は任意である)と、5'側がヘアピン構造をとり得る配列を有し、ヘアピン構造を形成した際に5'末端の塩基と対をなす塩基から3'側に連続する配列がアリルプローブのフラップと相補的な配列であることを特徴とするFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)プローブとが用いられる。FRETプローブの5'末端は蛍光標識(例えば、FAMやVIC等)され、その近傍にはクエンチャー(例えば、TAMRA等)が結合しており、そのままの状態(ヘアピン構造)では蛍光は検出されない。鋳型であるゲノムDNAにアリルプローブ及びインベーダープローブを反応させると、三者が相補結合した際に多型部位にインベーダープローブの3'末端が侵入する。この多型部位の構造を認識する酵素(Cleavase)を用いてアリルプローブの一本鎖部分(すなわち、多型部位の塩基から5'側のフラップ部分)を切り出すと、フラップはFRETプローブと相補的に結合し、フラップの多型部位がFRETプローブのヘアピン構造に侵入する。この構造をCleavaseが認識して切断することにより、FRETプローブの末端標識された蛍光色素が遊離してクエンチャーの影響を受けなくなって蛍光が検出される。多型部位の塩基が鋳型とマッチしないアリルプローブはCleavaseによって切断されないが、切断されないアリルプローブもFRETプローブとハイブリダイズすることができるので、同様に蛍光が検出される。ただし、反応効率が異なるため、多型部位の塩基がマッチするアリルプローブでは、マッチしないアリルプローブに比べて蛍光強度が顕著に強い。通常、3種のプローブ及びCleavaseと反応させる前に、鋳型DNAはアリルプローブ、及びインベーダープローブがハイブリダイズする部分を含む領域を増幅し得るプライマーを用いてPCRにより増幅しておくことが好ましい。
【0102】
ヒトの毛髪形状はパーマ処理やスタイリング剤処理、ブラッシング等により自在に変化させることが可能であるとともに、加齢や代謝等の変化によって後天的にも変化し得る。このため、ヒトの本来の自然な毛髪形状をその表現型のみから正確に判定又は分類することは困難である。また、毛髪形状は複雑な多遺伝子性の一般形質であると考えられることから、個々のヒトについて、上記で挙げた本発明の毛髪形状感受性遺伝子のうち、毛髪形状を決定付ける主要因となる遺伝子はそれぞれ異なっているものと考えられる。したがって、毛髪形状の遺伝的素因を検査及び/又は判定することにより、個々のヒトに対する的確な毛髪形状の調節方法を提供することが可能になる。
【0103】
さらに、当該方法によれば、被験者の後天的な毛髪形状の変化に対する感受性、すなわち、毛髪形状変化の危険度を判定することができる。毛髪形状変化の危険度は上記多型を基準(指標)として、医師等の専門知識を有する者の判断を要することなく、機械的におこなうことができる。このため、本発明の方法は、毛髪形状変化の危険度の検出方法としても利用できる。
【0104】
本発明の被験者の毛髪形状に対する遺伝的感受性(遺伝的素因)の判定方法によって、多遺伝子性の一般形質である毛髪形状について、被験者の遺伝的素因の種類やその有無を明らかにすることができ、本発明の毛髪形状感受性遺伝子の中から、当該被験者の毛髪形状を決定付ける主要因となる遺伝子を探索することができる。さらにその結果に基づいて、当該被験者に対して、毛髪形状の調節をはかるための的確な対策を講じることができる。したがって本発明は、根本的な毛髪形状の調節のための検査及び/又は判定方法として極めて有用である。
【0105】
5.毛髪形状に対する遺伝的感受性(遺伝的素因)の判定用試薬及び当該試薬を含むキット
本発明はまた、上記本発明の判定方法に用いるための試薬及び当該試薬を含むキットを提供する。すなわち、本発明の判定用試薬及び当該試薬を含むキットは、ヒト第1番染色体の1q32.1〜1q32.2領域(D1S249〜D1S2891)における、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)マーカーに対する連鎖不平衡解析により決定され、且つ配列番号1で示される3,926bpの塩基配列、配列番号2で示される76,945bpの塩基配列、又は配列番号3で示される68,637bpの塩基配列からなるハプロタイプブロックに存在する一塩基多型(SNP)であって、一方のアリル頻度が任意の非くせ毛者集団におけるよりも任意のくせ毛者集団において高いSNP及び当該SNPと連鎖しているSNPからなる群より選択される1以上のSNPを検出し得る核酸プローブ及び/またはプライマーを含むものである。
【0106】
一態様において、本発明の判定用試薬及び当該試薬を含むキットに用いられる核酸プローブは、上記本発明の検査及び/又は判定方法において検出すべきSNP部位の塩基を含むゲノムDNAの領域と特異的にハイブリダイズする核酸であり、例えば、本発明の毛髪形状判定マーカー配列に特異的にハイブリダイズするプローブである。当該核酸プローブは、ハイブリダイズすべき標的部位に対して特異的でありかつ多型性を容易に検出し得る限り、その長さ(ゲノムDNAとハイブリダイズする部分の塩基長)に特に制限はなく、例えば約10塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約15〜約600塩基、さらにより好ましくは約15〜約200塩基、さらになお好ましくは約15〜約50塩基である。なお、「標的部位(配列)に対して特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、Joseph Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3 Vol. Set), Cold Spring Harbor Laboratory, NY, 2001に記載の条件)において、他のDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。好適には当該核酸プローブは、検出すべき多型部位の塩基を含む領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有することが望ましいが、かかる特異的なハイブリダイゼーションが可能であれば、完全に相補的である必要はない。
【0107】
当該核酸プローブは、多型性の検出に適した付加的配列(ゲノムDNAと相補的でない配列)を含んでいてもよい。例えば、上記インベーダー法に用いられるアリルプローブは、多型部位の塩基の5'末端にフラップと呼ばれる付加的配列を有する。また、該プローブは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)等で標識されていてもよい。あるいは、蛍光物質(例:FAM、VIC等)の近傍に該蛍光物質の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャー(消光物質)がさらに結合されていてもよい。かかる実施態様においては、検出反応の際に蛍光物質とクエンチャーとが分離して蛍光が検出される。
【0108】
当該核酸プローブは任意の固相に固定化して用いることもできる。このため本発明の試薬及び当該試薬を含むキットはまた、上記プローブを任意の固相担体に固定した固定化プローブ(例えばプローブを固定化した遺伝子チップ、cDNAマイクロアレイ、オリゴDNAアレイ、メンブレンフィルター等)として提供され得る。当該固定化プローブは、好適には毛髪形状感受性遺伝子検出用のDNAチップとして提供される。
【0109】
固定化に使用される固相担体は、核酸を固定化できるものであれば特に制限されることなく、例えばガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリーまたはその他の担体等を挙げることができる。固相担体への核酸の固定は、予め合成した核酸を固相上に載せる方法であっても、また目的とする核酸を固相上で合成する方法であってもよい。固定方法は、例えばDNAマイクロアレイであれば、市販のスポッター(Amersham社製等)を利用するなど、固定化プローブの種類に応じて当該技術分野で周知である(例えば、Photolithographic技術(Affymetrix社)、インクジェット技術(Rosetta Inpharmatics社)によるオリゴヌクレオチドのin situ合成等)。
【0110】
本発明の判定用試薬及び当該試薬を含むキットに用いられる核酸プライマーは、上記本発明の検査及び/又は判定方法において検出すべきSNP部位の塩基を含むゲノムDNAの領域に特異的にハイブリダイズし、当該核酸配列を特異的に増幅し得るように設計されたものであればいかなるものであってもよい。例えば、当該プライマーは、本発明の毛髪形状判定マーカーの核酸配列に特異的にハイブリダイズし、それを増幅するプライマーである。ここで、「標的部位(配列)に対して特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、Joseph Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3 Vol. Set), Cold Spring Harbor Laboratory, NY, 2001に記載の条件)において、他のDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。
【0111】
当該プライマーによる核酸配列の増幅方法としては、当該得分野で通常用いられる方法であれば特に限定されない。例えば、一般的にはPCR法が広く用いられるが、RCA(Rolling Circle Amplification:Proc.Natl.Acad.Sci,vol.92,4641-4645(1995))、 ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification of DNA;Bio Industry,第18巻、2号(2001))、NASBA(Nucleic acid Sequence-based Amplification method;Nature,350,91〜(1991))、TMA(Transcription mediated amplification method;J.Clin Microbiol.第31巻、3270〜(1993))等が挙げられる。増幅に必要な当該核酸プライマーの数及び種類は、増幅方法に依存して変化し得る。例えば、PCR法を用いる場合、必要なプライマーとしては、ヒト第1番染色体のゲノム領域中の配列番号1〜3で示される塩基配列で表されるハプロタイプブロックの部分塩基配列であって且つ検出すべき多型部位の塩基より5'側の相補鎖配列の一部に特異的にハイブリダイズする、約10〜約50塩基、好ましくは約15〜約50塩基、より好ましくは約15〜約30塩基の塩基配列を含む核酸と、当該部分塩基配列であって且つ該多型部位の塩基より3'側の相補鎖配列の一部に特異的にハイブリダイズする、約10〜約50塩基、好ましくは約15〜約50塩基、より好ましくは約15〜約30塩基の塩基配列を含む核酸との組み合わせであり、それらによって増幅される核酸の断片長が約50〜約1000塩基、好ましくは約50〜約500塩基、より好ましくは約50〜約200塩基である、一対の核酸プライマーが挙げられる。
【0112】
該プライマーは、多型性の検出に適した付加的配列(ゲノムDNAと相補的でない配列)、例えばリンカー配列を含んでいてもよい。また、該プライマーは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)等で標識されていてもよい。
【0113】
好ましくは、本発明の判定用試薬及び当該試薬を含むキットに用いられる核酸プローブ及び/又はプライマーは、本発明の毛髪形状感受性SNPマーカー、すなわち以下に示される塩基を含む:
(1)配列番号1で示される塩基配列中、塩基番号1(dbSNPデータベースID:rs576697、TまたはC)、1635(rs645390、GまたはA)、2527(rs3767542、GまたはA)、及び3766(rs675508、CまたはA)で示される塩基;
(2)配列番号2で示される塩基配列中、塩基番号7519(rs2271763、GまたはA)、16901(rs10920260、TまたはG)、30270(rs16849387、AまたはG)、31333(rs12127375、CまたはG)、50038(rs1495840、TまたはA)、及び63008(rs10920269、GまたはT)で示される塩基;ならびに
(3)配列番号3で示される塩基配列中、塩基番号24524(rs3805、TまたはG)、及び60701(rs823114、GまたはA)で示される塩基。
【0114】
より好ましくは、本発明の判定用試薬及び当該試薬を含むキットに用いられる核酸プローブ及び/又はプライマーは、配列番号1で示される塩基配列中、塩基番号1(rs576697、TまたはC)で示される塩基、配列番号2で示される塩基配列中、塩基番号50038(rs1495840、TまたはA)で示される塩基、ならびに配列番号3で示される塩基配列中、塩基番号60701(rs823114、GまたはA)で示される塩基を含む。
【0115】
上記の多型部位の塩基を有する核酸プローブとしては、使用する多型検出法に応じて、各多型部位についていずれか一方のアリルの塩基を有する核酸を用いることもできるし、各アリルそれぞれに対応する塩基を有する2種類の核酸を用いることもできる。なお、上記インベーダー法に使用されるインベーダープローブについては、多型部位の塩基(すなわち、3'末端の塩基)は任意の塩基でよい。
【0116】
本発明の判定用試薬及び当該試薬を含むキットに用いられる核酸プローブ及び/又はプライマーは、DNAであってもRNAであってもよく、また、1本鎖であっても2本鎖であってもよい。2本鎖の場合は2本鎖DNA、2本鎖RNA、DNA/RNAハイブリッドのいずれであってもよい。上記核酸プローブ及び/又はプライマーは、塩基配列の情報に基づいて、例えば市販のヌクレオチド合成機によって常法にしたがって作製することができる。
【0117】
上記核酸プローブ及び/またはプライマーは、各々別個に(あるいは可能であれば混合した状態で)水もしくは適当な緩衝液(例:TEバッファー等)中に適当な濃度(例:2〜20×濃度で1〜50μM等)となるように溶解し、約−20℃で保存することができる。本発明の判定用試薬及び当該試薬を含むキットは、使用する多型検出法に応じて、当該方法の実施に必要な他の成分、例えばハイブリダイダイゼーション反応用バッファー、核酸増幅反応のための酵素、バッファー及びその他必要な試薬、標識用試薬、標識検出用試薬、ならびにそれらの反応や手順に必要な器具等を構成としてさらに含んでいてもよい。例えば、該試薬及び当該試薬を含むキットがTaqMan−PCR法による多型検出用である場合には、該試薬及び当該試薬を含むキットは、10×PCR反応緩衝液、10×MgCl2水溶液、10×dNTPs水溶液、Taq DNAポリメラーゼ(5U/μL)等をさらに含むことができる。
【0118】
本発明の判定用試薬及び当該試薬を含むキットは、毛髪形状に対する遺伝的感受性(遺伝的素因)の検査及び/又は判定に使用することができる。
【0119】
6.毛髪形状感受性遺伝子またはそのコードするタンパク質の使用
上記の手順で同定した毛髪形状感受性遺伝子や、その発現産物は、その発現や活性が毛髪形状と関連して変化する。従って、当該毛髪形状感受性遺伝子及びその発現産物は、被験者の毛髪形状タイプを検出及び/又は判定するための毛髪形状タイプのマーカーとして使用できる。あるいは、当該毛髪形状感受性遺伝子又はその発現産物の発現量を測定及び評価することにより、ヒトの毛髪形状調節剤の評価又は選択を行うことができる。またあるいは、当該毛髪形状感受性遺伝子又はその発現産物の発現量を制御することにより、ヒトの毛髪形状を調節することができる。
本発明において、上記毛髪形状タイプの検出及び/又は判定、あるいは毛髪形状の調節を必要とする対象となるヒトとしては、特定の人種や集団に限定されるものではないが、アジア系人種が好ましく、日本人がより好ましい。
【0120】
毛髪形状判定マーカーとして使用する毛髪形状感受性遺伝子及びその発現産物としては、配列番号1〜3のいずれかで示される塩基配列からなるハプロタイプブロックにオーバーラップする遺伝子及びその発現産物であればよいが、好ましくはCSRP1遺伝子、NAV1遺伝子、IPO9遺伝子、TMEM58遺伝子及びNUCKS1遺伝子、ならびにその発現産物が挙げられ、このうちCSRP1遺伝子、IPO9遺伝子及びNUCKS1遺伝子、ならびにその発現産物がより好ましい。
【0121】
CSRP1遺伝子は、配列番号42に示されるポリヌクレオチドからなる遺伝子であり、そのコードするCSRP1タンパク質は、配列番号43に示されるアミノ酸配列から構成される。CSRP1遺伝子は、遺伝子の転写や発生を含むさまざまな場面でのタンパク質間認識や細胞骨格相互作用で機能すると考えられるLIMドメインを有し、発生と細胞分化の重要な調節過程に関与している可能性が示唆されている遺伝子として報告されている(Wang X et al., J. Biol. Chem. 267(13), p9176-84, 1992)。当該遺伝子は、NCBIの遺伝子データベースにおいて、GeneID:1465によりアプローチすることができる。当該遺伝子は、公知の遺伝子操作の手法により、取得することができる。CSRP1タンパク質は、配列番号42に示されるポリヌクレオチドからなる遺伝子を発現させることによって得ることができ、また配列番号43に示されるアミノ酸配列情報に従って、一般的な化学合成法によって製造することもできる。
後記実施例に示すように、日本人のくせ毛者と非くせ毛者の毛髪毛根部における遺伝子発現を解析したところ、非くせ毛群と比較してくせ毛群ではCSRP1遺伝子の発現量が有意に増加しており、またビャクズクのような直毛化作用を有する物質の投与によってくせ毛が改善されるとCSRP1遺伝子の発現量は低下する。
【0122】
IPO9遺伝子は、配列番号44に示されるポリヌクレオチドからなる遺伝子であり、そのコードするIPO9タンパク質は、配列番号45に示されるアミノ酸配列から構成される。IPO9遺伝子は、細胞質から核内への物質輸送を担う機能が報告されている(Okada N et al., J. Cell. Mol. Med. 12(5B), p1863-71, 2008)。当該遺伝子は、NCBIの遺伝子データベースにおいて、GeneID:55705によりアプローチすることができる。当該遺伝子は、公知の遺伝子操作の手法により、取得することができる。IPO9タンパク質は、配列番号44に示されるポリヌクレオチドからなる遺伝子を発現させることによって得ることができ、また配列番号45に示されるアミノ酸配列情報に従って、一般的な化学合成法によって製造することもできる。
後記実施例に示すように、日本人のくせ毛者と非くせ毛者の毛髪毛根部における遺伝子発現を解析したところ、非くせ毛群と比較してくせ毛群でIPO9遺伝子の発現量が有意に低下しており、またトキンソウのような直毛化作用を有する物質の投与によってくせ毛が改善されるとIPO9遺伝子の発現量は増加する。
【0123】
NUCKS1遺伝子は、配列番号46に示されるポリヌクレオチドからなる遺伝子であり、そのコードするNUCKS1タンパク質は、配列番号47に示されるアミノ酸配列から構成される。NUCKS1遺伝子は、核に存在する高リン酸化されたDNA結合タンパク質をコードする遺伝子として報告されている(Ostvold AC et al., Eur. J. Biochem. 268(8), p2430-40, 2001)。当該遺伝子は、NCBIの遺伝子データベースにおいて、GeneID:64710によりアプローチすることができる。当該遺伝子は、公知の遺伝子操作の手法により、取得することができる。NUCKS1タンパク質は、配列番号46に示されるポリヌクレオチドからなる遺伝子を発現させることによって得ることができ、また配列番号47に示されるアミノ酸配列情報に従って、一般的な化学合成法によって製造することもできる。
後記実施例に示すように、日本人のくせ毛者と非くせ毛者の毛髪毛根部における遺伝子発現を解析したところ、非くせ毛群と比較してくせ毛群ではNUCKS1遺伝子の発現量が有意に低下しており、またビャクズクのような直毛化作用を有する物質の投与によってくせ毛が改善されるとNUCKS1遺伝子の発現量は増加する。
【0124】
(1)毛髪形状タイプを検出及び/又は判定するためのポリヌクレオチドマーカー
本発明によれば、毛髪形状タイプを検出及び/又は判定するためのマーカー(毛髪形状タイプのマーカー)は、本発明の毛髪形状感受性遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその部分ポリヌクレオチドであり得る。例えば、本発明の毛髪形状タイプのマーカーとしては、CSRP1遺伝子、NAV1遺伝子、IPO9遺伝子、TMEM58遺伝子又はNUCKS1遺伝子の塩基配列からなるポリヌクレオチド、好ましくは、CSRP1遺伝子、IPO9遺伝子又はNUCKS1遺伝子の塩基配列からなるポリヌクレオチド、より好ましくは、配列番号42、配列番号44又は配列番号46で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、これらと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、ならびにこれらの部分ポリヌクレオチドが挙げられる。
【0125】
また、本発明の毛髪形状タイプのマーカーには、上記相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド又はその部分ポリヌクレオチドの塩基配列に対してさらに相補的な関係にある塩基配列からなる鎖を含めることができる。
【0126】
上記ポリヌクレオチド及びその相補鎖は、各々一本鎖の形態で本発明のマーカーとして使用されても、また二本鎖の形態で本発明のマーカーとして使用されてもよい。
【0127】
部分ポリヌクレオチドとしては、本発明の毛髪形状感受性遺伝子の塩基配列又はこれらと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて、例えば、連続する15塩基以上の長さを有するものが挙げられる。部分ポリヌクレオチドの長さは、その用途に応じて適宜設定することができる。
【0128】
(2)毛髪形状タイプのマーカーを増幅するためのプライマー及び当該マーカーを検出するためのプローブ
本発明の毛髪形状感受性遺伝子の塩基配列又はこれと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドの部分ポリヌクレオチドは、上記毛髪形状タイプのマーカーを増幅するためのプライマーとなり得る。好ましくは、プライマーは、配列番号42、配列番号44、若しくは配列番号46で示される塩基配列、又はこれらと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、又はこれらの部分ポリヌクレオチドを増幅する。
また、本発明の毛髪形状感受性遺伝子の塩基配列又はこれと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、又はこれらの部分ポリヌクレオチドは、上記毛髪形状タイプのマーカーを検出するためのプローブとなり得る。好ましくは、プローブは、配列番号42、配列番号44、若しくは配列番号46で示される塩基配列、又はこれらと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、又はこれらの部分ポリヌクレオチドを検出する。
すなわち、CSRP1遺伝子、IPO9遺伝子又はNUCKS1遺伝子の発現によって生じたRNA又はそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に認識し増幅するためのプライマー、又は該RNA又はそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に検出するためのプローブがこれに該当する。
具体的には、ノーザンブロット法、RT−PCR法、in situハイブリダーゼーション法等の、特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法において、常法に従ってプライマー又はプローブとして利用することができる。
【0129】
プライマーとして用いる場合、その塩基長は通常15〜100塩基、好ましくは15〜50塩基、より好ましくは15〜35塩基であるのが好ましい。
また検出プローブとして用いる場合は、通常15塩基以上、好ましくは15〜1000塩基、より好ましくは100〜1000塩基の塩基長を有するものが挙げられる。
【0130】
ここで「特異的に認識する」とは、例えばノーザンブロット法において、配列番号42、配列番号44若しくは配列番号46に示される塩基配列又はこれと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、又はこれらの部分ポリヌクレオチドが特異的に検出できること、また例えばRT−PCR法において、当該ポリヌクレオチドが特異的に生成されること等の如く、上記検出物又は生成物が配列番号42、配列番号44若しくは配列番号46に示される塩基配列又はこれと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、又はこれらの部分ポリヌクレオチドであると判断できることを意味する。
【0131】
配列番号42、配列番号44若しくは配列番号46に示される塩基配列又はこれと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドの部分ポリヌクレオチドは、上記配列番号で示されるCSRP1遺伝子、IPO9遺伝子又はNUCKS1遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer 3又はベクターNTIのソフトウェアにかけて設計することができる。得られるプライマー又はプローブの候補配列もしくは少なくとも該配列を一部に含む配列をプライマー又はプローブとして設計し得る。
【0132】
(3)毛髪形状タイプを検出及び/又は判定するためのポリペプチドマーカー
上記に列挙した毛髪形状感受性遺伝子同様、これらの遺伝子の発現産物(毛髪形状感受性遺伝子にコードされるタンパク質、又はそれに由来するポリペプチド、あるいはそれらの部分ポリペプチドもまた、毛髪形状タイプのマーカー(ポリペプチド)となり得る。
例えば、上記発現産物としては、CSRP1遺伝子、NAV1遺伝子、IPO9遺伝子、TMEM58遺伝子又はNUCKS1遺伝子にコードされるタンパク質である、CSRP1タンパク質、NAV1タンパク質、IPO9タンパク質、TMEM58タンパク質及びNUCKS1タンパク質(あるいは、CSRP1、NAV1、IPO9、TMEM58及びNUCKS1とも称する)、及びこれらに由来するポリペプチド、ならびにその部分ポリペプチドが挙げられ、好ましくは、CSRP1、IPO9及びNUCKS1、及びこれらに由来するポリペプチド、ならびにその部分ポリペプチドが挙げられる。
より好ましくは、上記発現産物は、配列番号42、配列番号44、若しくは配列番号46に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質であり、さらに好ましくは、配列番号43、配列番号45若しくは配列番号47で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。
【0133】
また、上記発現産物には、配列番号43、配列番号45若しくは配列番号47に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ配列番号43、配列番号45若しくは配列番号47で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的機能を有するタンパク質及び/又は同等の免疫学的活性を有するタンパク質(いわゆるCSRP1、IPO9又はNUCKS1の相同物)も包含される。
【0134】
ここで、同等の生物学的機能を有するタンパク質としては、CSRP1、IPO9又はNUCKS1と生化学的又は薬理学的機能において同等のタンパク質を挙げることができる。また、同等の免疫学的活性を有するタンパク質としては、適当な動物あるいはその細胞において特定の免疫反応を誘発し、かつCSRP1、IPO9又はNUCKS1に対する抗体と特異的に結合する能力を有するタンパク質を挙げることができる。
【0135】
なお、アミノ酸残基の置換、挿入あるいは欠失を決定する指標は、当業者に周知のコンピュータプログラム、例えばDNA Star softwareを用いて見出すことができる。例えば変異数は、典型的には、全アミノ酸の10%以内であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内であり、さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内である。また置換されるアミノ酸は、タンパク質の構造保持の観点から、アミノ酸の極性、電荷、可溶性、疎水性、親水性、両親媒性等において置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。
【0136】
部分ポリペプチドとしては、本発明の毛髪形状感受性遺伝子にコードされるアミノ酸配列(例えば、配列番号43、配列番号45若しくは配列番号47に示すアミノ酸配列)中の少なくとも連続する5アミノ酸、好ましくは10〜100アミノ酸からなるポリペプチドであって、本発明の毛髪形状感受性遺伝子の発現産物(例えば、CSRP1、IPO9又はNUCKS1)と同等の生物学的機能及び/又は同等の免疫学的活性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0137】
本発明の毛髪形状感受性遺伝子にコードされるポリペプチドは、当該毛髪形状感受性遺伝子の塩基配列情報に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養及び培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、公知の方法、例えば、Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0138】
具体的には、CSRP1、IPO9又はNUCKS1をコードする遺伝子が所望の宿主細胞中で発現できる組み換えDNA(発現ベクター)を作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養して、得られる培養物から、目的タンパク質を回収することによって得ることができる。
また、本発明の毛髪形状感受性遺伝子にコードされるポリペプチドは、当該毛髪形状感受性遺伝子のコードするアミノ酸配列に従って、一般的な化学合成法によって製造することもできる。
【0139】
(4)毛髪形状タイプのマーカー(ポリペプチド)を特異的に認識する抗体
本発明の毛髪形状感受性遺伝子にコードされるアミノ酸配列からなるポリペプチド又はその部分ポリペプチドを特異的に認識する抗体は、上記毛髪形状タイプのマーカー(ポリペプチド)を検出するための抗体となり得る。
後述するように、斯かる抗体を用いることにより、被験者の組織内における毛髪形状タイプのマーカー(ポリペプチド)(例えば、CSRP1、IPO9、NUCKS1、若しくはそれらに由来するポリペプチド、又はその部分ポリペプチド)の発現の有無及びその発現の程度を検出することができる。具体的には、被験者の毛髪毛根部等の一部をバイオプシー等で採取し、そこから常法に従ってタンパク質を調製して、例えばウェスタンブロット法、ELISA法等公知の検出方法において、本発明抗体を常法に従って使用することによって、当該組織に存在する上記毛髪形状タイプのマーカー(ポリペプチド)を検出することができる。
【0140】
当該毛髪形状タイプの検出用抗体は、毛髪形状タイプのマーカー(ポリペプチド)を免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。
【0141】
これらの抗体は、公知の方法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.12-11.13)。具体的には、ポリクローナル抗体は、常法に従って大腸菌等で発現し精製した本発明の毛髪形状感受性遺伝子にコードされるアミノ酸配列からなるポリペプチド(例えば、CSRP1、IPO9又はNUCKS1)を用いて、あるいは常法に従って当該ポリペプチドの部分ポリペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。
一方、モノクローナル抗体は、常法に従って大腸菌等で発現し精製した上記ポリペプチド又はその部分ポリペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4-11.11)。
【0142】
ここで用いられる部分ポリペプチドとしては、本発明の毛髪形状感受性遺伝子にコードされるアミノ酸配列からなるポリペプチド(例えば、CSRP1、IPO9又はNUCKS1)の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドであって、機能的な生物活性を有することは要しないが、上記アミノ酸配列からなるタンパク質と同様の免疫原特性を有するものであることが望ましい。例えば、上記アミノ酸配列からなるタンパク質、好ましくはCSRP1、IPO9又はNUCKS1と同等の免疫原特性を有し且つ上記アミノ酸配列において少なくとも連続する8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるオリゴペプチドを挙げることができる。
【0143】
かかる部分ポリペプチドに対する抗体の製造は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。限定はされないが、そのようなアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン及びジニトロフェノールのような表面活性物質、BCG(カルメット−ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム−パルヴム等のヒトアジュバントが含まれる。
【0144】
(5)毛髪形状タイプの検出及び/又は判定
毛髪形状タイプの検出・判定は、被験者の毛髪毛根組織等の一部をバイオプシー等で採取し、そこに含まれる本発明の毛髪形状タイプのマーカーを指標として、毛髪形状タイプを検出及び/又は判定するものである。例えば、上記方法においては、本発明の毛髪形状感受性遺伝子(例えばCSRP1遺伝子、IPO9遺伝子、又はNUCKS1遺伝子)、その相補鎖、又はその部分ポリヌクレオチドの発現レベル(発現量)、あるいは該遺伝子に由来するタンパク質(例えばCSRP1、IPO9、又はNUCKS1)、その相同物、又はその部分ポリペプチドの発現量を測定することにより、毛髪形状タイプを検出及び/又は判定する。
また、本発明の検出・判定方法は、例えばくせ毛者において、該くせ毛を改善する医薬品や化粧品等を投与した場合における、該くせ毛改善の有無又はその程度を判定することにも使用される。
【0145】
1)生体試料
ここで用いられる生体試料は、被験者の上皮系組織又は上皮系細胞、例えば毛髪毛根部や皮膚等の本発明の毛髪形状感受性遺伝子(例えばCSRP1遺伝子、IPO9遺伝子、又はNUCKS1遺伝子)を発現可能な細胞を含む組織、これの組織から調製されるRNAもしくはそれらからさらに調製されるポリヌクレオチド又は上記組織から調製されるタンパク質である。これらのRNA、ポリヌクレオチド及びタンパク質は、例えば被験者の毛髪毛根部の一部をバイオプシー等で採取後、常法に従って調製することができる。
【0146】
2)マーカーの検出及び/又は測定
マーカーの検出及び測定は、測定対象として用いる生体試料の種類に応じて、具体的には下記のようにして実施される。
(i)測定対象の生体試料としてRNAを利用する場合
生体試料としてRNAを利用する場合は、該RNA中の上記本発明の毛髪形状タイプのマーカー(ポリヌクレオチド)、例えばCSRP1遺伝子、IPO9遺伝子、NUCKS1遺伝子、又はその部分ポリヌクレオチド等の発現レベルを検出し、測定することによって実施される。
ここで、上記マーカーの発現量の測定は、具体的には、前述した本発明のマーカーとなり得るポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーや当該ポリヌクレオチドを検出するためのプローブを用いて、ノーザンブロット法、RT−PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法等の公知の方法を行うことにより実施できる。
ノーザンブロット法を利用する場合、本発明のプローブを用いることによって、RNA中の上記マーカー(例えば、CSRP1遺伝子、IPO9遺伝子、NUCKS1遺伝子、又はその部分ポリヌクレオチド)の発現の有無及び発現レベルを検出、測定することができる。
具体的には、まずプローブDNAを放射性同位元素(32P、33P等:RI)、蛍光物質等で標識する。次いで、得られる標識疾患マーカーを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせる。その後、形成された標識疾患マーカー(DNA)とRNAとの二重鎖を、該標識疾患マーカーの標識物(RI、蛍光物質等)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)、蛍光検出器等で検出、測定する方法を例示することができる。
【0147】
また、AlkPhos DirectTM Labelling and Detection System (Amersham Pharamcia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従ってプローブDNAを標識し、被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、当該プローブDNAの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860 (AmershamPharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を採用することもできる。
【0148】
RT−PCR法を利用する場合、本発明のプライマーを用いて、RNA中の上記マーカーの発現の有無及び発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、まず被験者の生体組織由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製し、これを鋳型として標的マーカーの領域が増幅できるように、本発明のマーカーポリヌクレオチドから調製した一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせる。その後、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する。
【0149】
増幅された二本鎖DNAの検出には、予めRI、蛍光物質等で標識しておいたプライマーを用いて上記PCRを行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した疾患マーカーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法等を用いることができる。生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)等で測定することができる。また、SYBR(登録商標)Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems社製)で該プロトコールに従ってRT−PCR反応液を調製し、ABI PRIME(登録商標)7700 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。斯かるRT−PCR法を用いた、被験者RNA中の本発明の毛髪形状タイプのマーカー(ポリヌクレオチド)の発現レベルの検出、測定については、実施例に詳述する。
【0150】
DNAチップ解析を利用する場合、本発明のDNAプローブ(1本鎖又は2本鎖)を貼り付けたDNAチップを用意し、これに被験者の生体組織由来のRNAから常法によって調製されたcRNAをハイブリダイズさせ、形成されたDNAとcRNAとの二本鎖を、本発明のマーカーポリヌクレオチドから調製される標識プローブと結合させて、本発明のマーカーの発現の有無及び発現レベルを検出、測定することができる。
また、上記DNAチップとして、本発明のマーカーの発現レベルを検出、測定可能なDNAチップを用いることもできる。該DNAチップとしては、例えばAffymetrix社のGeneChip(登録商標)Human Genome U133 plus 2を挙げることができる。
【0151】
(ii)測定対象の生体試料としてタンパク質を用いる場合
測定対象としてタンパク質を用いる場合、本発明の抗体を生体試料と接触させ、当該抗体に結合した生体試料中の本発明の毛髪形状タイプのマーカー(ポリペプチド)、例えばCSRP1、IPO9、NUCKS1、又はその部分ポリペプチドを検出し、その量(レベル)を測定することによって実施される。
ここで、タンパク質結合量の測定は、ウェスタンブロット法等の公知の方法を用いることにより行うことができる。
【0152】
ウェスタンブロット法は、一次抗体として本発明の抗体を用いた後、二次抗体として125I等の放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて、その一次抗体を標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器、蛍光検出器等で測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明の抗体を用いた後、ECL Plus Western Blotting Detction System (Amersham Pharmacia Biotech 社製)を用いて、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860 (Amersham Pharmacia Biotech 社製)で測定することもできる。
【0153】
3)毛髪形状タイプの判定
毛髪形状タイプの判定は、上記によって測定された、被験者の生体試料における本発明マーカーのレベル(例えば、CSRP1遺伝子、IPO9遺伝子、又はNUCKS1遺伝子の遺伝子発現レベル、あるいはCSRP1、IPO9、又はNUCKS1の量等)を、非くせ毛者の当該レベルと比較し、両者の違いを判定することによって行うことができる。
【0154】
被験者の生体試料と非くせ毛者の生体試料との間のマーカーポリヌクレオチド又はポリペプチドの発現レベルの比較は、被験者の生体試料と非くせ毛者の生体試料を対象とした測定を並行して行うことで実施できる。また、並行して行わなくても、複数(少なくとも2、好ましくは3以上、より好ましくは5以上)の非くせ毛者の組織を用いて均一な測定条件で測定して得られたマーカーポリヌクレオチド(CSRP1遺伝子、IPO9遺伝子、NUCKS1遺伝子、又はその部分ポリヌクレオチド等)の遺伝子発現レベル又はマーカーポリペプチド(CSRP1、IPO9、NUCKS1、又はその部分ポリペプチド等)の発現レベルの平均値又は統計的中間値を予め求めておき、これを非くせ毛者のマーカーポリヌクレオチド又はポリペプチドの発現レベルとして、被験者における測定値の比較に用いることができる。
【0155】
被験者の毛髪形状タイプの判定は、該被験者の組織におけるマーカーポリヌクレオチド(CSRP1遺伝子、IPO9遺伝子、NUCKS1遺伝子、又はその部分ポリヌクレオチド等)の遺伝子発現レベル又はマーカーポリペプチド(CSRP1、IPO9、NUCKS1、又はその部分ポリペプチド等)の発現レベルを、非くせ毛者のそれらと比較した場合の増加又は減少の程度(例えば2倍以上、好ましくは3倍以上多い又は少ないこと)を指標として行うことができる。
例えば、被験者のCSRP1遺伝子又はCSRP1タンパク質の発現レベルが非くせ毛者のそれらのレベルに比べて多ければ、該被験者はくせ毛者であると判断できるか、将来くせ毛が発症することが疑われる。
また例えば、被験者のIPO9遺伝子又はIPO9タンパク質の発現レベルが非くせ毛者のそれらのレベルに比べて少なければ、該被験者はくせ毛者であると判断できるか、将来くせ毛が発症することが疑われる。
また例えば、被験者のNUCKS1遺伝子又はNUCKS1タンパク質の発現レベルが非くせ毛者のそれらのレベルに比べて少なければ、該被験者はくせ毛者であると判断できるか、将来くせ毛が発症することが疑われる。
【0156】
7.毛髪形状の調節方法
本発明の毛髪形状感受性SNPマーカーに位置する塩基を変換させることによって、個体の毛髪形状を根本的に調節することができる。
【0157】
すなわち、本発明はまた、個体の毛髪形状の調節方法を提供する。一態様において、当該方法は、美容目的で毛髪形状を調節する非治療的方法であり得、美容師や理容師等によって行われ得る。なお、本明細書において、「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体への処置行為を含まない概念である。
当該方法は、上記に列挙した本発明の毛髪形状感受性SNPマーカーに位置する塩基を変換させることによって達成できる。具体的な手法としては、上記目的が達成できる方法であれば特に制限されず、従来公知の方法及び将来開発される手法がいずれも使用できるが、例えば、遺伝子組換えを利用した方法等が挙げられる。
【0158】
あるいは、本発明の毛髪形状の調節方法は、毛髪形状の調節(例えば、くせ毛や縮毛の抑制又は髪のウェーブ化)を必要とするヒト毛髪毛根部における本発明の毛髪形状感受性遺伝子の発現を制御することにより行われる。
例えば、くせ毛や縮毛に悩む人に対しては、その発現が直毛の表現型に寄与する毛髪形状感受性遺伝子、例えばIPO9遺伝子又はNUCKS1遺伝子の発現を誘導或いは促進することにより、くせ毛や縮毛を抑制することができる。あるいは、その発現がくせ毛や縮毛の表現型に寄与する毛髪形状感受性遺伝子、例えばCSRP1遺伝子の発現を阻害することにより、くせ毛や縮毛を抑制することができる。一方、髪のウェーブ化を望む人に対しては、その発現がくせ毛や縮毛の表現型に寄与する毛髪形状感受性遺伝子、例えばCSRP1遺伝子の発現を誘導或いは促進することにより、ウェーブ化を発現又は促進させることができる。あるいは、その発現が直毛の表現型に寄与する毛髪形状感受性遺伝子、例えばIPO9遺伝子又はNUCKS1遺伝子の発現を阻害することにより、ウェーブ化を発現又は促進させることができる。
【0159】
例えば、くせ毛や縮毛を抑制する場合には、ヒト毛髪毛根部におけるIPO9遺伝子又はNUCKS1遺伝子の発現レベルを、非くせ毛者における当該遺伝子のmRNA発現レベル以上にすればよく、例えば約3〜10倍以上にすればよい。一方、ウェーブ化を促進することを目的とする場合には、IPO9遺伝子又はNUCKS1遺伝子遺伝子の発現レベルを、非くせ毛者における当該遺伝子のmRNA発現レベルより低く、例えば約3〜10倍以下にすればよい。
また例えば、くせ毛や縮毛を抑制する場合には、ヒト毛髪毛根部におけるCSRP1遺伝子の発現レベルを、非くせ毛者における当該遺伝子のmRNA発現レベル以下、例えば約3〜10倍以下にすればよい。一方、ウェーブ化を促進することを目的とする場合には、CSRP1遺伝子の発現レベルを、非くせ毛者における当該遺伝子のmRNA発現レベルより高く、例えば約3〜10倍以上にすればよい。
【0160】
ヒト毛髪毛根部における毛髪形状感受性遺伝子の発現の抑制、誘導又は促進は、常法に従い行うことができる。例えば、遺伝子抑制には、アンチセンスヌクレオチドによる方法、例えばmRNAからの翻訳を阻害する方法等による手段が、また誘導又は促進には、ウイルスベクター等による遺伝子導入等により毛髪形状感受性遺伝子を発現させる手段等が挙げられる。また、毛髪形状感受性遺伝子にコードされるタンパク質の発現抑制は、基本的に当該遺伝子の発現を抑制させる手段により実現でき、また当該タンパク質の発現の誘導又は促進には、当該遺伝子を高発現させる他、当該タンパク質のヒト組換えタンパク質を皮内に直接注入する手段等が挙げられる。
【0161】
上記アンチセンスヌクレオチドを利用する遺伝子導入は、通常遺伝子治療において用いられる方法と同様に行うことができ、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド又はその化学的修飾体を直接被験者の体内に投与することにより本発明の毛髪形状感受性遺伝子の発現を制御する方法、もしくはアンチセンスRNAを患者の標的細胞に導入することにより該細胞による本発明の毛髪形状感受性遺伝子の発現を制御する方法により実施できる。
【0162】
ここで「アンチセンスヌクレオチド」には、本発明の毛髪形状感受性遺伝子の少なくとも8塩基以上の部分に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、アンチセンスDNA等が含まれる。その化学修飾体には、例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホトリエステル、アルキルホスホナート、アルキルホスホアミデート等の、細胞内への移行性又は細胞内での安定性を高め得る誘導体("Antisense RNA and DNA" WILEY-LISS刊、1992年、pp.1-50、J. Med. Chem. 36, 1923-1937(1993))が含まれる。
【0163】
アンチセンスヌクレオチド又はその化学的修飾体は、細胞内でセンス鎖mRNAに結合して、毛髪形状感受性遺伝子の発現、即ち毛髪形状感受性遺伝子にコードされるタンパク質の発現を制御することができ、かくして当該タンパク質の機能(活性)を制御することができる。
【0164】
アンチセンスオリゴヌクレオチド又はその化学的修飾体を直接生体内に投与する方法において、用いられるアンチセンスオリゴヌクレオチド又はその化学修飾体は、好ましくは5〜200塩基、さらに好ましくは8〜25塩基、最も好ましくは12〜25塩基の長さを有するものとすればよい。その投与に当たり、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はその化学的修飾体は、通常慣用される安定化剤、緩衝液、溶媒等を用いて製剤化され得る。
【0165】
アンチセンスRNAを被験者の標的細胞に導入する方法において、用いられるアンチセンスRNAは、好ましくは100塩基以上、より好ましくは300塩基以上、さらに好ましくは500塩基以上の長さを有するものとすればよい。また、この方法は、生体内の細胞にアンチセンス遺伝子を導入するin vivo法及び一旦体外に取り出した細胞にアンチセンス遺伝子を導入し、該細胞を体内に戻すex vivo法を包含する(日経サイエンス, 1994年4月号, 20-45頁、月刊薬事, 36 (1), 23-48 (1994)、実験医学増刊, 12 (15), 全頁 (1994)等参照)。このうちではin vivo法が好ましく、これには、ウイルス的導入法(組換えウイルスを用いる方法)と非ウイルス的導入法がある(前記各文献参照)。
【0166】
上記組換えウイルスを用いる方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス等のウイルスゲノムにMLTK遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを組込んで生体内に導入する方法が挙げられる。この中では、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス等を用いる方法が特に好ましい。非ウイルス的導入法としては、リポソーム法、リポフェクチン法等が挙げられ、特にリポソーム法が好ましい。他の非ウイルス的導入法としては、例えばマイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等も挙げられる。
【0167】
遺伝子導入用製剤組成物は、上述したアンチセンスヌクレオチド又はその化学修飾体、これらを含む組換えウイルス及びこれらウイルスが導入された感染細胞等を有効成分とするものである。
【0168】
該組成物の被験者への投与は、例えば注射剤等の適当な投与形態で、静脈、動脈、皮下、筋肉内等に投与することができ、また患者の皮膚に直接投与、導入することもできる。in vivo法を採用する場合、遺伝子導入用組成物は、毛髪形状感受性遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む注射剤等の投与形態の他に、例えば毛髪形状感受性遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含有するウイルスベクターをリポソーム又は膜融合リポソームに包埋した形態(センダイウイルス(HVJ)−リポソーム等)とすることができる。これらのリポソーム製剤形態には、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤等が含まれる。また、遺伝子導入用組成物は、上記毛髪形状感受性遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含有するベクターを導入されたウイルスで感染された細胞培養液の形態とすることもできる。これら各種形態の製剤中の有効成分の投与量は、治療目的である疾患の程度、患者の年齢、体重等により適宜調節することができる。通常、毛髪形状感受性遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドの場合は、被験者成人1人当たり約0.0001〜100mg、好ましくは約0.001〜10mgが数日ないし数カ月に1回投与される量とすればよい。
アンチセンスヌクレオチドを含むレトロウイルスベクターの場合は、レトロウイルス力価として、1日患者体重1kg当たり約1×103pfu〜1×1015pfuとなる量範囲から選ぶことができる。アンチセンスヌクレオチドを導入した細胞の場合は、1×104細胞/body〜1×1015細胞/body程度を投与すればよい。
【0169】
8.毛髪形状調節剤の評価又は選択方法
また、本発明は、毛髪形状調節剤を評価又は選択するための方法(スクリーニング方法)を提供する。
【0170】
当該スクリーニング方法は、例えば下記の工程によって実施することができる:
(a)本発明の毛髪形状感受性遺伝子を含有する細胞に被験物質を投与する工程;及び
(b)投与した被験物質の中から、当該毛髪形状感受性遺伝子上又はその近傍、例えば当該遺伝子の属するハプロタイプブロック上に存在する本発明の毛髪形状感受性SNPマーカーの塩基の多型をもう一方の多型に変換させる物質を毛髪形状調節剤として選択する工程。
【0171】
上記工程(a)(被験物質の投与工程)で使用される細胞は、ヒト第1番染色体のゲノム領域中、配列番号1〜3で示される塩基配列で表されるハプロタイプブロック、または少なくとも当該ハプロタイプブロックにオーバーラップする遺伝子、すなわち本発明の毛髪形状感受性遺伝子を導入することができ、かつそれを安定に保有し得る細胞であればよく、その由来(例えば、原核細胞及び真核細胞の別や、昆虫細胞及び動物細胞の別等)は特に制限されない。なお、遺伝子導入や細胞培養等は、当業界において従来公知の方法を任意に使用して実施することができる(例えば、Joseph Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3 Vol. Set), Cold Spring Harbor Laboratory, NY, 2001、日本組織培養学会編、「組織培養の技術、第3版、基礎編・応用編」、朝倉書店、1996等)。当該細胞は、毛髪形状を調節させるのに有効な物質を評価又は選択するための方法(スクリーニング方法)において、スクリーニングツールとして有効に利用することができる。
【0172】
投与される被験物質は、特に制限されない。例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質及びペプチド等の単一化合物、並びに化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等の任意の化合物又は組成物が挙げられる。
【0173】
上記工程(b)(毛髪形状調節剤の選択工程)においては、塩基の多型の変換の有無および変換後の塩基の種類が検出される。塩基の多型の変換の有無及び変換した塩基の種類を検出するための方法としては、塩基の種類を直接的に測定する方法でもよく、または塩基の変化が間接的に評価できる方法でもよい。例えば、塩基を直接的に測定する方法としては、PCR−SSCP、PCR−RLFP、PCR−SSO、PCR−ASP、ダイレクトシークエンス法、SNaPshot、dHPLC、Sniper法、MALDI−TOF/MS法等の当業者に周知の方法が挙げられ、間接的に評価する方法としては、当該目的とする塩基が変換することによって生じる/増加する、または消失/低下する機能、活性、または特定のmRNA量、タンパク質量を測定する方法が挙げられる。
【0174】
当該方法で選択された物質は、毛髪形状の調節に有効な毛髪形状調節剤として使用することができ、また当該剤を含む医薬品、医薬部外品、化粧料又は健康食品等の製造のために使用することができる。必要に応じて、選択された物質をさらに他の薬理試験や臨床試験並びに毒性試験に付することによって、よりヒトに対して有効でかつ安全な毛髪形状調節剤を取得することができる。
【0175】
あるいは、上記スクリーニング方法は、例えば、本発明の毛髪形状感受性遺伝子又は当該遺伝子にコードされるタンパク質を発現可能な組織又は細胞における、当該遺伝子又はタンパク質の発現を指標として行うことができる。
具体的には以下の(a)〜(d)の工程により行うことができる。
(a)本発明の毛髪形状感受性遺伝子又は当該遺伝子にコードされるタンパク質を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程
(b)当該組織又は細胞の当該遺伝子又は当該タンパク質の発現量を測定する工程
(c)(b)で測定された発現量を被験物質に接触させない対照組織又は細胞の当該遺伝子又は当該タンパク質の発現量と比較する工程、
(d)(c)の結果に基づいて、当該遺伝子又は当該タンパク質の発現量を減少又は増加させる被験物質を毛髪形状調節剤として選択する工程。
【0176】
ここで、使用される本発明の毛髪形状感受性遺伝子又は当該遺伝子にコードされるタンパク質を発現可能な組織又は細胞としては、当該遺伝子又は当該タンパク質を発現している組織又は細胞であれば、その種類は問わないが、哺乳動物の組織又は細胞、例えば、ヒトから採取した皮膚組織、毛髪毛根部組織(毛包組織)、表皮角化細胞、毛髪毛根部由来細胞、及び上皮系の株化細胞等が挙げられる。該細胞には、本発明の毛髪形状感受性遺伝子(当該遺伝子を有する発現ベクター)で形質転換された形質転換細胞も包含される。
【0177】
当該組織又は細胞と被験物質との接触は、例えば被験物質を所定の濃度になるように予め培養液中に添加した後、組織又は細胞を培養液に載置すること、或いは、組織又は細胞が載置された培養液に、被験物質を所定の濃度になるように添加することにより行うことができる。
【0178】
培養液は、例えば、DMEM培地、MCDB培地、Willam's E培地、RPMI1640培地、DMEM/HamF12(1:1)培地、及び市販の各種上皮細胞用培地等が挙げられ、適宜寒天やゼラチンを添加してもよい。また、必要に応じて、抗生物質、アミノ酸、血清、成長因子、生体抽出物等を添加してもよい。
組織培養は、例えば、培養液を添加した24穴プレートの中に採取した毛髪毛根部組織(毛包組織)を入れ、37℃の温度下、CO2を含む空気気相下で、通常1〜30日間、好ましくは1〜21日間培養することにより行うことができる。
また、細胞培養は、例えば、培養液を添加した24穴プレートの中に細胞を入れ、37℃の温度下、CO2を含む空気気相下で、通常1〜7日間、好ましくは1〜3日間培養することにより行うことができる。
【0179】
上記遺伝子の発現の測定(定量)は、前述した毛髪形状タイプのマーカーの検出・測定((5)−2)−(i))において記載した方法に従って行うことができる。すなわち、本発明のマーカーとなり得るポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーや当該ポリヌクレオチドを検出するためのプローブを用いて、ノーザンブロット法、RT−PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法等の公知の方法を行うことにより実施できる。
【0180】
また、上記タンパク質の発現の測定(定量)は、前述した毛髪形状タイプのマーカーの検出・測定((5)−2)−(ii))において記載した方法に従って行うことができる。すなわち、本発明の毛髪形状タイプのマーカー(ポリペプチド)を認識する抗体を用いたウェスタンブロット法等の公知の方法に従って定量できる。
【0181】
2)また、本発明の毛髪形状感受性遺伝子の発現レベルの測定は、当該遺伝子の発現を制御する遺伝子領域(発現制御領域)に、例えばルシフェラーゼ遺伝子等のレポーター遺伝子をつないだ融合遺伝子を導入した細胞株を用いて、レポーター遺伝子由来のタンパク質量又はその活性を測定することによっても実施できる。
すなわち、本発明における毛髪形状調節剤の評価又は選択方法はまた、以下の(a)〜(c)の工程により行うことができる。
(a)本発明の毛髪形状感受性遺伝子が発現可能な細胞に、当該毛髪形状感受性遺伝子の発現制御領域とレポーター遺伝子との融合遺伝子を導入し、当該細胞を被験物質の存在下及び非存在下で培養する工程、
(b)被験物質の存在下で培養した細胞培養物中のレポーター遺伝子発現産物の発現量を測定し、当該量を被験物質の非存在下で培養した細胞培養物中のレポーター遺伝子発現産物の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、当該レポーター遺伝子発現産物の発現量を増減させる被験物質を毛髪形状調節剤として選択する工程。
【0182】
上記レポーター遺伝子としては、発光反応や呈色反応を触媒する酵素の構造遺伝子が好ましい。具体的には、上記ルシフェラーゼ遺伝子、分泌型アルカリフォスファターゼ遺伝子、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、エクオリン遺伝子等を例示できる。
また、毛髪形状感受性遺伝子の発現制御領域としては、例えば該遺伝子の転写開始部位上流約1kb〜約10kb、好ましくは約2kbを用いることができ、例えば、CSRP1遺伝子、IPO9遺伝子又はNUCKS1遺伝子に対して、それぞれ配列番号48〜50に示す塩基配列からなる領域が挙げられる。融合遺伝子の作成及びレポーター遺伝子由来の活性測定は、公知の方法で行うことができる。
【0183】
毛髪形状感受性遺伝子の発現量を低下させる物質とは、当該遺伝子を構成するポリヌクレオチドに相補性のmRNAの発現を抑制する又は分解を促進する物質をいい、毛髪形状感受性遺伝子にコードされるタンパク質の発現量を低下させる物質とは、当該毛髪形状感受性遺伝子又はそのタンパク質の発現を抑制、あるいは当該遺伝子又はタンパク質の分解を促進し、結果としてそのタンパク質発現量を減少させる物質をいう。
本発明の毛髪形状感受性遺伝子の発現量を増加させる物質とは、当該遺伝子を構成するポリヌクレオチドに相補性のmRNAの発現を促進する又は分解を抑制する物質をいい、毛髪形状感受性遺伝子にコードされるタンパク質の発現量を増加させる物質とは、当該毛髪形状感受性遺伝子又はそのタンパク質の発現を促進、あるいは当該遺伝子又はタンパク質の分解を抑制し、結果としてそのタンパク質発現量を増加させる物質をいう。
毛髪形状感受性遺伝子又は当該遺伝子にコードされるタンパク質の発現量を増加させる物質は、くせ毛や縮毛の低減又は促進剤となる。例えば、CSRP1遺伝子、IPO9遺伝子若しくはNUCKS1遺伝子、又はそれらにコードされるタンパク質の発現量を増加させる物質は、くせ毛や縮毛の低減若しくは改善剤となり、一方それらの遺伝子又はタンパク質の発現を低下させる物質は、くせ毛や縮毛の促進剤又はウェーブ化促進剤となり得る。また例えば、IVL遺伝子又はそれにコードされるタンパク質の発現量を増加させる物質は、くせ毛や縮毛の促進剤又はウェーブ化促進剤となり、一方当該遺伝子又はタンパク質の発現を低下させる物質は、くせ毛や縮毛の低減若しくは改善剤となり得る。斯かる毛髪形状調節剤は、ヒトに投与することにより、くせ毛若しくは縮毛改善又は髪のウェーブ化促進のための医薬品、化粧品等となり得る。
【0184】
3)また、本発明の毛髪形状調節剤の評価又は選択方法は、本発明の毛髪形状感受性遺伝子にコードされるタンパク質の機能(活性)を指標として行うこともできる。
上記タンパク質の機能又は活性とは、例えば、アセチルコリン受容体活性(Nguyen VT et al., J. Biol. Chem. 275(38), p29466-76, 2000)やフォスファチジルセリン結合能(Goebeler V et al., FEBS Lett. 546(2-3), p359-64, 2003)が挙げられ、該タンパク質の量と機能又は活性とは一定の相関関係を有している。従って、上記タンパク質の量の測定に代えて、該タンパク質の機能又は活性の測定を行うことによっても、毛髪形状調節剤の評価又は選択を行うことができる。
具体的には、下記の工程(a)、(b)及び(c)の工程により行われる。
(a)被験物質と本発明の毛髪形状感受性遺伝子にコードされるタンパク質を含む水溶液、組織細胞又は当該組織細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた水溶液、組織細胞又は細胞画分における当該タンパク質の機能又は活性を測定し、当該機能又は活性を、被験物質を接触させない対照水溶液、対照細胞又は対照細胞画分における当該タンパク質の機能又は活性と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、当該タンパク質の機能又は活性を増減する被験物質を選択する工程。
【0185】
毛髪形状感受性遺伝子にコードされるタンパク質を含む水溶液としては、例えばCSRP1、IPO9、又はNUCKS1の水溶液の他、これらのタンパク質を含む組織細胞溶解液、核抽出液あるいは細胞の培養上清等を例示することができる。ここで、用いられる細胞は、本発明の毛髪形状感受性遺伝子(例えば、CSRP1遺伝子、IPO9遺伝子、又はNUCKS1遺伝子)を発現し、発現産物としてのこれらの遺伝子にコードされたタンパク質を有する細胞を挙げることができる。具体的には、哺乳動物の組織又は細胞、例えば、ヒトから採取した皮膚組織、毛髪毛根部組織(毛包組織)、表皮角化細胞、毛髪毛根部由来細胞、及び上皮系の株化細胞等を用いることができる。該細胞には、本発明の毛髪形状感受性遺伝子(又はそれを有する発現ベクター)で形質転換された形質転換細胞も包含される。該形質転換に用いられる宿主細胞としては、例えばHela細胞、COS細胞、HEK293細胞、MDCK細胞、CHO細胞、HL60細胞等の周知の細胞を挙げることができる。また細胞画分とは、上記細胞に由来する各種の画分を意味し、これには、例えば細胞膜画分、細胞質画分、細胞核画分等が含まれる。
【0186】
本発明の毛髪形状感受性遺伝子にコードされるタンパク質の活性は、例えば、アセチルコリン受容体活性やフォスファチジルセリン結合能を測定する場合には、バインディングアッセイ、共免疫沈降法、プルダウンアッセイ、Two−hybrid法(Y2H)、蛍光偏光法、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(TR−FRET)法等の公知の方法で測定することができる(例えば、中内啓光/編、免疫学的プロトコール、羊土社、2004年、竹縄忠臣/編、タンパク質相互作用を解明する最適メソッド、バイオテクノロジージャーナルVol.5 No.6、羊土社、2005年)。すなわち、毛髪形状感受性遺伝子にコードされるタンパク質を含む水溶液等を用いて当該タンパク質をメンブレンやプレートに固相化し、ラジオアイソトープで標識したアセチルコリン又はフォスファチジルセリンの結合量を検出することにより測定することができる。当該タンパク質の機能(活性)を抑制(減少)する物質とは、アセチルコリン受容体活性やフォスファチジルセリン結合能を低下させる物質をいい、当該タンパク質の機能(活性)を亢進(増加)する物質とは、アセチルコリン受容体活性やフォスファチジルセリン結合能を増加させる物質をいう。例えば、IPO9又はNUCKS1の機能(活性)を亢進する物質は、くせ毛や縮毛の改善剤となり、これらのタンパク質の機能(活性)を抑制する物質は、ウェーブ化促進剤となり得る。また例えば、CSRP1の機能(活性)を亢進する物質は、ウェーブ化促進剤となり、これらのタンパク質の機能(活性)を抑制する物質は、くせ毛や縮毛の改善剤となり得る。
【実施例】
【0187】
以下に実施例を挙げて本発明を説明する。
【0188】
実施例1 毛髪形状の定義とくせ毛家系の収集
本実施例では、毛髪形状感受性遺伝子を同定するため、日本人集団を対象として罹患同胞対連鎖解析、並びにケース・コントロール関連解析をおこなった。
一般に、毛髪形状には人種による違いがあり、アジア系人種は比較的直毛が多く、アフリカ系人種では縮毛(またはカール毛)が主流である。インドヨーロッパ系人種はこれらの中間的な波状毛(ウェーブ毛)の形質をとる割合が高い。日本人集団は直毛優位な集団であるため、毛髪形状としてくせ毛形質を有するヒトを罹患者(ケース)として規定し、直毛形質を対照者(コントロール)とした。連鎖解析などの遺伝解析においては、対象となる形質をある程度定量的に扱う必要があり、例えば、くせ毛=1、直毛=0のように二値化する方法や、くせ毛の程度を何らかの方法で測定し数値化する方法が考えられた。しかし、ヒトの毛髪形状は多種多様であり、その計測や分類の方法も十分に確立されていないのが現状である。そこでまず、毛髪形状の表現型の正確な分類をおこなった。毛髪形状は毛髪の全体的な特徴とカールの度合い(カール半径)によって規定される。また、毛髪1本のカール特性だけではなく、周囲の毛髪群とのカールの同調性も毛髪形状を規定する要因となり得る。そこで、様々な人種における毛髪形状実態をもとに、毛髪形状の表現型を表4のように分類した。本分類は日本人集団をはじめとして、様々な人種集団に適用可能である。また、図1には毛髪形状の表現型のイメージを示した。
【0189】
【表4】

【0190】
一方、毛髪形状の表現型は、集団においては連続して変化する量的形質であり、どの程度でくせ毛形質、あるいは直毛形質と判断するかは評価の分かれるところである。本発明では、毛髪形状実態にもとづいて、かかる分類のうち縮毛、及びカール毛または強いウェーブ毛をくせ毛形質、ウェーブ毛、ほぼ直毛またはややウェーブ毛、直毛を直毛(非くせ毛)形質と規定した。
かくして毛髪形状の表現型の正確な分類が可能になったが、遺伝解析の対象者を収集するにあたり、解決すべき以下の課題が考えられた。すなわち、収集時点での毛髪が著しい短髪で形状の評価が不可能である場合、パーマや染毛、各種スタイリング剤などの化学的処理により本来の形状が変化してしまっている場合、である。このため、遺伝解析の対象者となり得るすべての候補者には、毛髪形状の表現型が判別可能な時期(例えば幼少時)に撮影された候補者本人の写真の提出を依頼した。すなわち、著しい短髪ではなく、かつ毛髪の化学的処理を施術していない状態の写真である。同時にすべての候補者には数本の毛髪の提出を依頼した。提出された毛髪は化学的処理の影響が消失する水浸条件下で毛髪のねじれやよじれ、縮れ、カール特性などの詳細な形状評価をおこなった。提出された候補者本人の写真からの毛髪形状評価、並びに提出された毛髪の形状評価、さらに最終的には面会による毛髪形状調査によって遺伝解析の対象者を決定した。
かくして、約2年の歳月を要し、日本全国3000件以上の候補者の中から68家族283名のくせ毛家系を収集した。その内訳は、41組の2人きょうだい、22組の3人きょうだい、4組の4人きょうだい、1組の5人きょうだいであり、最終的な罹患同胞対(くせ毛形質を有する兄弟姉妹)は100対であった。遺伝要因の強さ、きょうだいでの危険率を勘案し、この同胞対数で十分遺伝子座を特定できると予想されたので、罹患同胞対連鎖解析を実施することとした。
【0191】
遺伝解析の対象者からの検体の収集にあたっては、事前に倫理委員会の承認を得た上で、インフォームドコンセント実施担当者が対象者に書面を用いて研究内容の説明をし、書面による同意が得られた場合に限って検体を収集した。
医師もしくは看護師が遺伝解析の対象者から約20mLの血液を採取した。血液検体からPUREGENE Genomic DNA Purification Kit(Gentra Systems Inc.製)を使用してマニュアルにしたがってゲノムDNAを抽出した。ゲノムDNAは2mLのDNA Hydration Solutionに溶解し、濃度測定後、4℃で保存した。ゲノムDNAの平均収量は576.2g/20mL血液であった。
【0192】
実施例2 ゲノム全域での罹患同胞対連鎖解析
本実施例では、はじめに日本人くせ毛家系を対象に、全ゲノムを網羅する罹患同胞対連鎖解析をおこなった。該方法の原理を略記すると、罹患しているきょうだいは病気の原因となるアリルを親から受け継いでいるため、そのアリルを必ず共有することとなる。一方兄弟が共有するアリルの数は1である(帰無仮説に基づく値)。多くの罹患同胞対で共有するアリル数を検討することにより、帰無仮説に基づくアリル数より、多くのアリル共有が観察できたとき、連鎖を認めたということとなる。
罹患同胞対連鎖解析はアプライドバイオシステムズ株式会社(ABI)製のリンケージマッピングセット(ABI PRISM Linkage Mapping Set-MD 10 v2.5)を用いておこなった。これはゲノムに満遍なく散在する多型性に富む短い繰り返し配列であるマイクロサテライトを増幅するための、合計400個のタイピング用蛍光プライマーセットで、ヒト染色体を平均9.2cM間隔でカバーするものである。
【0193】
実施例1で調製したゲノムDNAを鋳型とし、リンケージマッピングセットを用いてPCR(GeneAmp PCR System 9700G、ABI製)をおこない、ABI Prism 3100 Genetic Analyzer(ABI製)によって増幅産物(フラグメント)の検出をおこなった。タイピング用蛍光プライマーセットは6−FAM(青色)、VIC(緑色)、NED(黄色)の3種類の蛍光色素で標識されたプライマーであるので、同一サイズのフラグメントであっても3種類の色を別々に判別可能である。したがって、大量のサンプルを迅速に処理することができた。フラグメントのタイピングはGenotyper Software v3.7(ABI製)とGeneScan Software(ABI製)によっておこなった。
連鎖の検定は、ノンパラメトリック解析であるGenehunter v2.1_r5 Software(Kruglyak, L. et al., Am. J. Hum. Genet., 58(6), 1347-1363, 1996)を用いておこなった。連鎖が認められる領域の判定は、以下に示すランダー(Lander)及びクラッグリャック(Kruglyak)のガイドライン(Nat. Genet., 11(3), 241-247, 1995)にしたがって、偽陽性の連鎖を得る基準をもとにした。
ランダーおよびクラッグリャックのガイドライン(多因子疾患でゲノム全域での連鎖解析が盛んにおこなわれるようになってきたが、個々の遺伝子の連鎖解析については、その遺伝子機能から原因となり得るかといった判断も加わる。しかしながらゲノム全域での解析では遺伝子機能はその段階で考慮にはいらないので、純粋に数理遺伝学的な有意の判断基準(閾値)が求められる。そこで彼らはシミュレーションにしたがい、下記表5に示す有意な連鎖基準を設けている。
【0194】
【表5】

【0195】
全染色体のスクリーニングの結果、第1番染色体、及び第11番染色体に連鎖を認めた。その結果をそれぞれ図2、図3に示す。図2に示されるように、第1番染色体では、1q21〜1q23.1領域(D1S498近傍)において最大LODスコア=3.49、1q32〜1q41領域(D1S249〜D1S213)において最大LODスコア=3.13を得た。図3に示されるように、第11番染色体では11q12〜11q13.5領域(D11S905〜D11S937)において最大LODスコア=2.78を得た。かくして得られた値は、上記ランダーおよびクラッグリャックらのSuggestive Linkageを満たすものであった。したがって、くせ毛形質座位を第1番染色体、及び第11番染色体に特定でき、この領域に毛髪形状感受性遺伝子が存在することが強く示唆された。
【0196】
実施例3 候補領域における詳細マッピング
続いて、実施例2において連鎖を認めた第1番染色体について、連鎖領域を狭小化することを目的に、さらにマイクロサテライトマーカーを追加して罹患同胞対連鎖解析(詳細マッピング)をおこなった。
詳細マッピングのマーカーとなるマイクロサテライトはThe Mammalian Genoytping ServiceのComprehensive human genetic maps(http://research.marshfieldclinic.org/genetics/ GeneticResearch/compMaps.asp)を用いて探索し、ゲノムに1〜2cMの間隔で存在しヘテロ接合度の高いマイクロサテライトを選択した。また、マイクロサテライトを増幅するためのタイピング用蛍光プライマーはThe Genome Database project(GDB)(http://www.gdb.org/)をもとに設計した。なお、GDBはオペレーションを終了しているが、現在NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)より検索、設計可能である。タイピング用蛍光プライマーはABI製のものを用い、一部のタイピング用蛍光プライマーはリンケージマッピングセット(ABI PRISM Linkage Mapping Set-HD 5 v2.5、ABI製)に含まれるものを使用した。詳細マッピングのマーカーとしたマイクロサテライト、並びにタイピング用蛍光プライマーを表6−1及び表6−2に示す(配列番号4〜41参照)。
【0197】
【表6−1】

【0198】
【表6−2】

【0199】
第1番染色体について実施例2と同様に罹患同胞対連鎖解析(詳細マッピング)をおこなった結果を図4に示す。図4に示されるように、1q21.3領域(D1S2696〜D1S2346)において最大LODスコア=3.60、1q32.1〜1q32.2領域(D1S249〜D1S2891)において最大LODスコア=2.14を得た。かくして得られた値は、実施例2において示したランダーおよびクラッグリャックらのSignificant Linkage、Suggestive Linkageをそれぞれ満たすものであると考えられた。したがって、第1番染色体のくせ毛形質座位を狭小化することができ、この領域に毛髪形状感受性遺伝子が存在することが強く示唆された。
【0200】
実施例4 ケース・コントロール関連解析
上記実施例3で強い連鎖を認めた第1番染色体1q32.1〜1q32.2領域(D1S249〜D1S2891)から毛髪形状感受性遺伝子を同定するため、該領域に存在する一塩基多型(SNP)マーカーについてアリル頻度の比較をケース・コントロール関連解析でおこなった。
ケース(罹患者:くせ毛形質を有するヒト)及びコントロール(対照者:直毛形質を有するヒト)は毛髪形状感受性遺伝子を同定する人種と同じ人種で構成されている必要があるため、本発明では、日本人非血縁のくせ毛形質を有するヒト及び日本人非血縁の直毛形質を有するヒトを対象とした。実施例1において示した基準にしたがって同様に対象者を収集し、43名の日本人非血縁のくせ毛形質を有するヒト、51名の日本人非血縁の直毛形質を有するヒトから、それぞれゲノムDNAを得た。
タイピングをおこなうSNPはdbSNPデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/)及びJSNPデータベース(http://snp.ims.u-tokyo.ac.jp/index_ja.html)を参照し、該解析領域内の一定領域を代表し、かつ日本人パネルにおけるマイナーアリルの遺伝子頻度が10%以上であるものを選択することとし、該解析領域内から57個のSNPを選択した。
【0201】
SNPのタイピングにはTaqMan SNP Genotyping Assays(ABI製、旧名Assays-on-Demand、Assays-by-Design)を利用し、TaqMan PCR法によっておこなった。また、Applied Biosystems 7900HT Fast リアルタイムPCRシステム(ABI製)、及びApplied Biosystems 7500 リアルタイムPCRシステム(ABI製)の機器を用いた。該方法はそれぞれの機器に添付のマニュアルにしたがっておこなった。
得られたタイピングデータはケース、コントロール毎に集計し、ジェノタイプ、アリルタイプ、優性モデル、劣性モデルの4つの方法でχ2検定にて有意差検定をおこなった。すなわち、ある遺伝子変異が毛髪形状変化の原因となっているならば、ケースとコントロールとでそのアリル頻度などに差が予想される。なお本実施例では、該関連解析は比較的少数の対象者で実施することとしたため有意水準はp<0.05とした。さらに一部において検出力を上げるために有意水準を緩く(p<0.1)設定した。
【0202】
その結果、以下のSNPにおいて、ケースとコントロールの間に統計学的に有意(p<0.05)な差があることがわかった。
SNP:rs1495840(配列番号2で示される塩基配列中、塩基番号50038で示される一塩基多型)については、Tアリルをホモで持つ割合が、くせ毛形質を有するヒトに比して、直毛形質を有するヒトで有意に高く、アリルタイプ別でも直毛形質を有するヒトとくせ毛形質を有するヒトとで有意な差が観察された(表7−1)。
また、以下に示す2つのSNPにおいてもケースとコントロールの間に差があることがわかった。
SNP:rs576697(配列番号1で示される塩基配列中、塩基番号1で示される一塩基多型)については、Cアリルを持つ割合が、直毛形質を有するヒトに比して、くせ毛形質を有するヒトで高かった(p=0.096)(表7−2)。
SNP:rs823114(配列番号3で示される塩基配列中、塩基番号60701で示される一塩基多型)については、Aアリルをホモで持つ割合が、直毛形質を有するヒトに比して、くせ毛形質を有するヒトで高かった(p=0.065)(表7−3)。
これら3つのSNPについてはいずれもハーディ−ワインベルグ平衡状態を満たしていた。したがって、これら3つのSNPが毛髪形状感受性SNPであると判断され、毛髪形状との関連が確認された。
【0203】
【表7−1】

【0204】
【表7−2】

【0205】
【表7−3】

【0206】
実施例5 ハプロタイプ解析
実施例4における解析の結果、3つの毛髪形状感受性SNPを見出したが、該SNP周辺領域に存在する多型、特にタイピングをおこなっていない多型にも相関があることを確認し、毛髪形状感受性遺伝子を同定するためにハプロタイプ解析をおこなった。
解析にはHaploview 4.1 Software(Barrett, JC. et al., Bioinformatics, 21(2), 263-265, 2005)を用い、EMアルゴリズムによる連鎖不平衡係数D'(pair-wise LD coefficient)を算出して解析した。国際ハップマッププロジェクトデータベースのHapMap PHASEデータ(HapMap Data Rel 21 / PhaseII Jul06, on NCBI Build 35 assembly, dbSNP b125)を用い、該SNPとその周辺領域に存在するSNPについて連鎖不平衡解析をおこなった。なお、解析パネルはJPT+CHB(日本、東京の日本人、及び中国、北京の漢民族系中国人)とした。
ハプロタイプブロックの推定方法はConfidence interval(Gabriel, SB. et al., Science, 296(5576), p2225-2229, 2002)を使用した。すなわち、特定するハプロタイプブロックは、殆ど歴史的組み換えが認められないゲノム範囲であり、その領域内では強い連鎖不平衡が存在すると考えられる。通常、連鎖不平衡係数D'の95%信頼区間の上限が0.9未満の場合、その領域は歴史的組み換えの証拠がある領域として判断され、一方、D'の95%信頼区間の上限が0.98を超え、その下限が0.7より上である場合、その領域は強い連鎖不平衡が存在する領域として判断できる。
【0207】
この結果、以下に示す3つの毛髪形状感受性SNPを含む以下の(1)〜(3)のハプロタイプブロックを見出した。
(1)SNP:rs576697を含み、SNP:rs576697からSNP:rs12403361までの、配列番号1記載の塩基配列で表される3,926bpからなるハプロタイプブロック(図5)。このハプロタイプブロックはCSRP1遺伝子を含む領域であった。この結果から、CSRP1遺伝子が毛髪形状感受性遺伝子であることが同定された。
(2)SNP:rs1495840を含み、SNP:rs2820290からSNP:rs2250377までの、配列番号2記載の塩基配列で表される76,945bpからなるハプロタイプブロック(図6)。このハプロタイプブロックはNAV1遺伝子、IPO9遺伝子、及びTMEM58遺伝子を含む領域であった。この結果から、NAV1遺伝子、IPO9遺伝子、及びTMEM58遺伝子が毛髪形状感受性遺伝子であることが同定された。
(3)SNP:rs823114を含み、SNP:rs823103からSNP:rs1772150までの、配列番号3記載の塩基配列で表される68,637bpからなるハプロタイプブロック(図7)。このハプロタイプブロックはNUCKS1遺伝子を含む領域であった。この結果から、NUCKS1遺伝子が毛髪形状感受性遺伝子であることが同定された。
【0208】
実施例6 毛髪形状感受性SNPマーカーの同定
実施例5におけるハプロタイプ解析においてハプロタイプブロックを見出すとともに、同じくHaploview 4.1 Software(Barrett, JC. et al., Bioinformatics, 21(2), 263-265, 2005)を用いて、各々のハプロタイプブロックからハプロタイプを抽出した。抽出されたハプロタイプ、すなわちSNPマーカー群の各々の塩基の組み合わせを比較することで毛髪形状感受性SNPマーカー座位と連鎖しているSNP座位を同定した。このように同定されたSNP座位は、新たに毛髪形状感受性SNPマーカーとすることができる。
この結果、実施例4に示す(1)〜(3)のハプロタイプブロックに、以下に示すそれぞれ新たな毛髪形状感受性SNPマーカーを見出した。
【0209】
(1)配列番号1で示される塩基配列で表される3,926bpからなるハプロタイプブロック:このハプロタイプブロックには7種の主要なハプロタイプが存在していた(表8)。毛髪形状感受性SNPマーカーであるSNP:rs576697と連鎖しているSNP座位として、以下に示す3つの新たな毛髪形状感受性SNPマーカーを同定した。
SNP:rs645390(配列番号1で表される塩基配列中、塩基番号1635で示される一塩基多型)、SNP:rs3767542(同2527で示される一塩基多型)、及びSNP:rs675508(同3766で示される一塩基多型)。
【0210】
【表8】

【0211】
(2)配列番号2で示される塩基配列で表される76,945bpからなるハプロタイプブロック:このハプロタイプブロックには10種の主要なハプロタイプが存在していた(表9)。毛髪形状感受性SNPマーカーであるSNP:rs1495840と連鎖しているSNP座位として、以下に示す5つの新たな毛髪形状感受性SNPマーカーを同定した。
SNP:rs2271763(配列番号2で表される塩基配列中、塩基番号7519で示される一塩基多型)、SNP:rs10920260(同16901で示される一塩基多型)、SNP:rs16849387(同30270で示される一塩基多型)、SNP:rs12127375(同31333で示される一塩基多型)、及びSNP:rs10920269(同63008で示される一塩基多型)。
【0212】
【表9】

【0213】
(3)配列番号3で示される塩基配列で表される68,637bpからなるハプロタイプブロック:このハプロタイプブロックには7種の主要なハプロタイプが存在していた(表10)。毛髪形状感受性SNPマーカーであるSNP:rs823114と連鎖しているSNP座位として、以下に示す1つの新たな毛髪形状感受性SNPマーカーを同定した。
SNP:rs3805(配列番号3で表される塩基配列中、塩基番号24524で示される一塩基多型)。
【0214】
【表10】

【0215】
実施例7 くせ毛者、及び直毛者の頭髪毛根での遺伝子発現解析
実施例1の分類に従って、10名くせ毛者と10名の直毛者を収集し、それぞれの被験者の頭髪毛根における毛髪形状感受性遺伝子の発現解析を行った。なお、被験者からの検体の収集にあたっては、事前に倫理委員会の承認を得た上で、インフォームドコンセント実施担当者が対象者に書面を用いて研究内容の説明をし、書面による同意を得た。
【0216】
被験者の頭部全体からまんべんなく、1人あたり約60本の頭髪を引き抜き、毛根部の形態から成長期にあると判定された頭髪毛根部のみを、氷冷したPBS(Invitrogen製)を満たしたシャーレに回収した。実体顕微鏡下でピンセットと注射針の刃を用いて毛根部から外毛根鞘と内毛根鞘を出来る限り取り除き、毛髪シャフトのみの毛根(毛髪シャフト角化領域)を分離・調製した。毛髪シャフト角化領域はRNA抽出液ISOGEN(ニッポンジーン製)0.5mLの入った1.5mL容チューブに入れ、ミニ・コードレスグラインダーとホモジナイゼーション用ペッスルにて十分に組織を破砕した。0.5mLのISOGEN、200μLクロロホルムを加えてボルテックスミキサーにて充分に攪拌した後に、小型微量遠心分離機により遠心分離(15000rpm、15分間)し、RNAを含む水相約500μLを回収した。回収した溶液に50μLの3M酢酸ナトリウムと1μLのエタ沈メイト(ニッポンジーン製)を添加して十分に攪拌した。さらに1mLのイソプロパノールを加えて攪拌し、小型微量遠心分離機により遠心分離(15000rpm、20分間)してtotal RNAを沈殿させた。上清を捨てた後に75%エタノールを加え、再び小型微量遠心分離機により遠心分離(15000rpm、10分間)した。上清を捨てて沈殿を風乾させ、20μLのNuclease-free Water(Invitrogen製)に溶解させた。この一部を用いて吸光度計(GeneQuant:Pharmacia製、又はNonoDrop:Technologies製)、又はRiboGreen RNA Reagent and Kit(Invitrogen製)によりRNA濃度を測定した。得られたtotal RNA 1μgから、QuantiTect Reverse Transcription Kit(キアゲン製)を用いて、添付のプロトコールにしたがいcDNAを合成し、PCRによる遺伝子発現量の定量に用いた。
【0217】
遺伝子発現量の定量はアプライドバイオシステムズ株式会社(ABI)製のTaqMan(登録商標)Gene Expression Assaysを用いておこなった。添付のプロトコールにしたがい、合成したcDNA、検出・定量化する遺伝子に特異的なプライマー&プローブセット、及びリアルタイムPCR試薬等(ABI製)を混合し、Applied Biosystems 7500 リアルタイムPCRシステム(ABI製)にて検出・定量化する遺伝子の断片を増幅した。この際、既知の標準毛髪シャフト角化領域サンプル由来cDNAを用いて同様にリアルタイムPCRをおこなって検量線を作成し遺伝子発現量の標準化を行った。また、内部標準としてGAPDH遺伝子を用いるとともに、サンプルである毛髪シャフト角化領域に均一に発現の認められるKRT31遺伝子、及びKRT85遺伝子も内部標準として採用し、検出・定量化する遺伝子発現量の標準化を行った。
CSRP1遺伝子の発現量を検出・定量化するため、特異的なプライマー&プローブセットとしてアッセイ番号Hs00187916_m1のTaqMan Gene Expression Assays(ABI製)を用いた。
IPO9遺伝子の発現量を検出・定量化するため、特異的なプライマー&プローブセットとしてアッセイ番号Hs00949771_m1のTaqMan Gene Expression Assays(ABI製)を用いた。
NUCKS1遺伝子の発現量を検出・定量化するため、特異的なプライマー&プローブセットとしてアッセイ番号Hs00224144_m1のTaqMan Gene Expression Assays(ABI製)を用いた。
【0218】
くせ毛群と直毛群の頭髪毛根における毛髪形状感受性遺伝子の発現量を図8A〜Cに示す。図8に示す結果より、直毛群と比較して、くせ毛群でIPO9遺伝子及びNUCKS1の発現量低下が観察され、またCSRP1遺伝子の発現量の増加が観察された。従って、CSRP1遺伝子、IPO9遺伝子及びNUCKS1が、毛髪形状の評価の指標となる毛髪形状感受性遺伝子であり、毛根部におけるこれらの遺伝子の発現量の測定が有意義であることが判明した。
【0219】
実施例8 毛髪形状感受性遺伝子の発現量を調節する物質のスクリーニング
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(KK-4009、クラボウ製)をスクリーニングに用いた。凍結状態の正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞を融解後、細胞を75cm2フラスコ、又は25cm2フラスコに2500細胞/cm2の密度で播種し、サプリメントを添加したヒト角化細胞培養用無血清培地(Defined Keratinocyte-SFM、Invitrogen製)で、37℃、CO2濃度5%の条件下で培養した。細胞はサブコンフルエントな状態に達した時点で継代し、2500細胞/cm2の細胞密度で6穴プレートに播種した。細胞がサブコンフルエントな状態に達した時点(Day 0)で培地をサプリメント不含のヒト角化細胞培養用無血清培地に交換し、Day 1の細胞をスクリーニング用細胞として使用した。
【0220】
上記で調製したスクリーニング用細胞の培地(サプリメント不含ヒト角化細胞培養用無血清培地)に、終濃度が0.1%、及び1%になるように植物エキスを添加し、37℃、CO2濃度5%の条件下で細胞を24時間培養した。なお対照として、50%エタノール(コントロール)を同様に終濃度が0.1%、及び1%になるように添加して細胞を培養した。
【0221】
培養終了後(Day 2)、培地を吸引除去してPBS(Invitrogen製)で2回細胞を洗浄した後、ウェルあたり1mLのISOGEN(ニッポンジーン製)を添加した。ピペッティングにて細胞を充分に溶解混和した後、溶液を1.5mL容チューブに回収した。実施例7記載の方法と同様の方法でtotal RNAを抽出し、PCRによる遺伝子発現量の定量に用いるcDNAを得た。毛髪形状感受性遺伝子の発現量の定量についても実施例7記載の方法により行った。
【0222】
遺伝子の発現量を調整する物質の判断基準としては、例えばコントロールと比べて、遺伝子の発現量が10%、好ましくは30%、より好ましくは50%以上高ければ有意に高いとし、該被験物質を毛髪形状感受性遺伝子の発現促進剤として選択することができる。また例えばコントロールと比べて、遺伝子の発現量が10%、好ましくは30%、より好ましくは50%以上低ければ有意に低いとし、該被験物質を毛髪形状感受性遺伝子の発現抑制剤として選択することができる。
【0223】
約700種類の植物エキスを上記のスクリーニング系で評価し、毛髪形状感受性遺伝子の発現量を調節する物質を探索した。その結果、表11に示す該遺伝子の発現促進剤及び発現抑制剤をそれぞれ見出した。
【0224】
【表11】

【0225】
参考例 毛髪形状と毛包の形態との関係
一般に、毛髪形状には人種による違いがあり、アジア系人種は比較的直毛が多く、アフリカ系人種では縮毛(又はカール毛)が主流である。インドヨーロッパ系人種はこれらの中間的な波状毛(ウェーブ毛)の形質をとる割合が高い。このような毛髪形状の違いに関連する特徴として、毛髪毛根部の毛包の形態が挙げられる。すなわち、毛包の形態が湾曲していれば毛髪が曲がっており、毛包の形態が真っ直ぐであれば直毛である(Thibaut, S. et al., Br. J. Dermatol., 152(4), p.632-638, 2005)。
【0226】
毛髪形状と毛包の形態との関係をより詳しく調べるため、様々な人種のヒト頭皮組織から毛包の組織標本を作製し、毛包の形態を観察した。なお、被験者からの検体の収集にあたっては、事前に倫理委員会の承認を得た上で、インフォームドコンセント実施担当者が対象者に書面を用いて研究内容の説明をし、書面による同意を得た。採取した毛包は凍結組織切片作製用包埋剤Tissue-Tek OCT Compound(Miles製)に包埋して凍結し、定法にしたがって凍結薄切標本を作製した後、HE染色を施して顕微鏡で観察した。
【0227】
図9に各人種の毛包組織像を示す。図9に示す結果より、直毛のアジア人の毛包は真っ直ぐであり、ウェーブ毛であるコーカシアンの毛包は毛根最下部でのみ屈曲していた。さらに、カール毛のアフリカ系アメリカ人の場合、毛包組織全体が湾曲していることが判明した。従って、毛髪形状と毛包の形態が密接に関係していることが確認できた。
【0228】
実施例9 ヒト毛包器官培養による毛包形態の評価
毛髪形状、及び毛包形態を評価する方法として、ヒト毛包器官培養による評価法について検討した。美容形成外科手術によって切除され不要となった30〜80歳代の男女の側頭部もしくは後頭部の頭皮組織を入手し、実験に用いた。なお、検体の収集にあたっては、事前に倫理委員会の承認を得た上で、手術者が対象者に書面を用いて研究内容の説明をし、書面による同意を得た。
【0229】
入手したヒト頭皮組織は、1%抗生物質・抗真菌剤(Invitrogen製)を含有するWilliams'E培地(Sigma製)を満たしたシャーレに回収した。実体顕微鏡下でピンセットとメス又は注射針の刃を用いて、無菌的に、毛包を1本ずつ単離した。単離毛包は皮脂腺下部の位置で表皮組織と切り離し、毛包下部に付着している余分な結合組織、脂肪細胞等については極力除去した。調製した単離毛包は、400μLの10μg/mL Insulin(Invitrogen製)、40ng/mL Hydrocortisone(Sigma製)、2mM L-glutamine(Invitrogen製)、1%抗生物質・抗真菌剤(Invitrogen製)を含有するWilliams'E培地(Sigma製)を添加した24穴プレートに、1ウェルあたり1本ずつ移し、培養を開始した。培養は浮遊培養とし、37℃、CO2濃度5%の条件下で行った。以後、2〜3日おきに培地交換をおこなうとともに、毛包の写真を撮影した。
【0230】
培養日数の経過による毛包の形態変化の写真を図10に示す。毛包中の毛髪シャフトは培養経過とともに増殖して伸張した。また、培養経過とともに、培養開始から1日後(1 day)では真っ直ぐな毛包(直毛)であったのが、培養日数経過とともに徐々に毛包(毛髪シャフト)が湾曲していく様子が観察された。
【0231】
毛包(毛髪シャフト)の湾曲度合いを数値化するため、末端間距離率を算出した。末端間距離率はくせの度合いを表す指標の一つであり、以下の計算により求められる(Hrdy, D., Am. J. Phys. Anthropol., 39(1), p.7-17, 1973)。

対象物(毛髪、毛包)の末端間の直線長/対象物(毛髪、毛包)の軸に沿った曲線長
【0232】
すなわち、上記式によれば、末端間距離率は0〜1の間の値を示し、真っ直ぐであれば1に近くなり、湾曲度合いが大きければ0に近づく。
【0233】
図10に示した毛包写真を画像解析ソフトウェア(Nexus NewQube Ver.4.23、アイマックスシステム製)を用いて解析し、毛包(毛髪シャフト)の長さと末端間距離率を求めた(表12)。
その結果、培養日数が経過して毛包(毛髪シャフト)が伸張していくとともに、徐々に湾曲していくことが確認できた。したがって、この評価系を用いれば、毛髪のくせ毛化剤、又はくせ毛改善剤(直毛化剤)の探索が可能であることが示された。すなわち、該ヒト毛包器官培養評価系に被験物質を添加して培養し、一定の長さに伸張した毛包(毛髪シャフト)の末端間距離率を測定する。被験物質を添加しないで培養したコントロールと比較して、被験物質を添加して培養した場合に末端間距離率が小さくなれば、該被験物質を毛髪のくせ毛化剤として選択でき、被験物質を添加しないで培養したコントロールと比較して、被験物質を添加して培養した場合に末端間距離率が大きくなれば、該被験物質を毛髪のくせ毛改善剤(直毛化剤)として選択できる。
【0234】
【表12】

【0235】
実施例10 毛髪形状感受性遺伝子の発現調節剤のヒト毛包器官培養による評価
毛髪形状感受性遺伝子発現調節剤が毛包形態に及ぼす効果を検証する目的で、ヒト毛包器官培養評価系を用いて評価した。
ヒト毛包は実施例9にしたがって調製した。単離毛包は大きさにばらつきが出ないように1群12本として2群に分け、一方の群は表11に記載のIPO9遺伝子及びNUCKS1遺伝子の発現促進剤であるトキンソウエキスを終濃度が0.2%になるように添加した器官培養用培地(400μL)にて15日間浮遊培養した。もう一方の群はコントロールとして50%EtOH(終濃度0.83%として添加)を添加した器官培養用培地(400μL)にて15日間浮遊培養した。同様の手順で、表11に記載のCSRP1遺伝子発現抑制剤であるビャクズクエキス(終濃度0.2%)添加群とコントロール群(50%EtOH、終濃度0.83%)を作製した(各群n=12)。
培養開始後、2〜3日おきに培地交換をおこなうとともに、毛包の写真を撮影した。毛包の撮影画像から毛包の伸長度と湾曲度合い(末端間距離率)をそれぞれ測定した。
【0236】
毛包(毛髪シャフト)の長さが培養開始時と比較して1.5mm以上伸長した時点において、毛包(毛髪シャフト)の末端間距離率を測定した。その結果、トキンソウエキス及びビャクズクエキスは、50%EtOH添加コントロールと比較して、毛包(毛髪シャフト)の湾曲度合いを表す末端間距離率を有意に増加させることが判明した(図11)。このことから、毛髪形状感受性遺伝子の発現調節剤は毛髪のくせ毛改善剤(直毛化剤)として選択できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト第1番染色体の1q32.1〜1q32.2領域(D1S249〜D1S2891)における、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)マーカーに対する連鎖不平衡解析により決定され、且つ配列番号1〜3のいずれかで示される塩基配列からなるハプロタイプブロックにオーバーラップする遺伝子であって、当該ハプロタイプブロックの塩基配列の一部または全てを含有する遺伝子である、毛髪形状感受性遺伝子。
【請求項2】
前記遺伝子がCSRP1、NAV1、IPO9、TMEM58及びNUCKS1から選択される請求項1記載の毛髪形状感受性遺伝子。
【請求項3】
請求項1記載のハプロタイプブロックの塩基配列の部分塩基配列であって、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)及び当該SNPと連鎖しているSNPを一以上含む連続する塩基配列からなる部分塩基配列を含む、オリゴまたはポリヌクレオチドあるいはそれらの相補鎖である、毛髪形状判定マーカー。
【請求項4】
前記SNPが以下からなる群より選択される塩基におけるSNPである、請求項3記載の毛髪形状判定マーカー:
(1)配列番号1で表される塩基配列中、塩基番号1(dbSNPデータベースID:rs576697、TまたはC)、1635(rs645390、GまたはA)、2527(rs3767542、GまたはA)、及び3766(rs675508、CまたはA)で示される塩基;
(2)配列番号2で表される塩基配列中、塩基番号7519(rs2271763、GまたはA)、16901(rs10920260、TまたはG)、30270(rs16849387、AまたはG)、31333(rs12127375、CまたはG)、50038(rs1495840、TまたはA)、及び63008(rs10920269、GまたはT)で示される塩基;ならびに
(3)配列番号3で表される塩基配列中、塩基番号24524(rs3805、TまたはG)、及び60701(rs823114、GまたはA)で示される塩基。
【請求項5】
10〜601塩基長の連続した塩基配列からなる、請求項3又は4記載の毛髪形状判定マーカー。
【請求項6】
以下の工程(a)〜(c)を含む被験者の毛髪形状に対する遺伝的感受性の判定方法:
(a)被験者由来のゲノムDNAを調製する工程;
(b)当該ゲノムDNAから、請求項1記載のハプロタイプブロックに存在する、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)及び当該SNPと連鎖している一塩基多型(SNP)を検出する工程;及び
(c)当該検出したSNPのアリル頻度が非くせ毛者集団におけるよりもくせ毛者集団において統計学的に有意に高い場合、当該被験者はくせ毛の遺伝的素因を有していると判定し、当該検出したSNPのアリル頻度がくせ毛者集団におけるよりも任意の非くせ毛者集団において統計学的に有意に高い場合、当該被験者はくせ毛の遺伝的素因を有していないと判定する工程。
【請求項7】
被験者由来のゲノムDNA中の配列番号1〜3で表される塩基配列における下記表に示される塩基番号の塩基のいずれか一以上において、当該塩基が塩基(i)であるか塩基(ii)であるかを識別し、塩基(i)である場合には被験者がくせ毛の素因を有していると判定し、塩基(ii)である場合には被験者がくせ毛の素因を有していないと判定する工程を含む、被験者の毛髪形状に対する遺伝的感受性の判定方法。
【表1】

【請求項8】
請求項3〜5のいずれか1項記載の毛髪形状判定マーカーにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするプローブ及び/又はプライマーを含む、被験者の毛髪形状に対する遺伝的感受性の判定用試薬。
【請求項9】
前記プローブ及び/又はプライマーが前記マーカーにおける請求項4記載のSNPを含む領域とハイブリダイズする、請求項8記載の試薬。
【請求項10】
請求項8又は9記載の試薬を含む、被験者の毛髪形状に対する遺伝的感受性判定用キット。
【請求項11】
以下の工程(a)及び(b)を含む毛髪形状調節剤をスクリーニングする方法:
(a)請求項1又は2記載の毛髪形状感受性遺伝子を含有する細胞に被験物質を投与する工程;及び
(b)投与した被験物質の中から、当該毛髪形状感受性遺伝子上又はその近傍に存在する、アリル頻度がくせ毛形質を有する集団と非くせ毛形質を有する集団との間で統計学的に有意に異なる一塩基多型(SNP)及び当該SNPと連鎖している一塩基多型(SNP)マーカーの塩基の多型をもう一方の多型に変換させる物質を毛髪形状調節剤として選択する工程。
【請求項12】
配列番号42、配列番号44若しくは配列番号46に示される塩基配列、これらと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、又はこれらの部分ポリヌクレオチドからなるか、あるいは配列番号43、配列番号45若しくは配列番号47に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド又はその部分ポリペプチドからなる、毛髪形状タイプのマーカー。
【請求項13】
部分ポリヌクレオチドが15塩基以上のポリヌクレオチドである請求項12記載のマーカー。
【請求項14】
配列番号42、配列番号44若しくは配列番号46に示される塩基配列又はこれと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドの部分ポリヌクレオチドからなる、請求項12記載のマーカーを増幅するためのプライマー。
【請求項15】
配列番号42、配列番号44若しくは配列番号46に示される塩基配列又はこれと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、又はこれらの部分ポリヌクレオチドからなる、請求項12記載のマーカーを検出するためのプローブ。
【請求項16】
配列番号43、配列番号45若しくは配列番号47に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド又はその部分ポリペプチドを特異的に認識する、請求項12記載のマーカーを検出するための抗体。
【請求項17】
下記の工程(a)〜(c)を含む毛髪形状タイプの検出及び/又は判定方法:
(a)被験者由来の試料における請求項12に記載のマーカーの発現量を測定する工程、
(b)当該(a)の測定結果を非くせ毛者のそれと比較する工程;及び
(c)(b)の結果に基づいて毛髪形状タイプを判断する工程。
【請求項18】
前記被験者由来の試料が、被験者より採取された生体試料から調製されたRNA又は当該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記工程(a)が、被験者より採取された生体試料と請求項16記載の抗体とを接触させて、当該抗体と結合した当該生体試料中の請求項12記載のマーカーの量を測定する工程である、請求項17記載の方法。
【請求項20】
被験者より採取された生体試料が上皮系組織又は上皮系細胞由来のものである、請求項17〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
以下の(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする毛髪形状調節剤の評価又は選択方法。
(a)請求項1に記載の毛髪形状感受性遺伝子又は当該遺伝子にコードされたタンパク質が発現可能な細胞に、被験物質を接触させる工程
(b)接触させた細胞の当該遺伝子又は当該タンパク質の発現量を測定する工程
(c)(b)で測定された発現量を被験物質に接触させない対照細胞の当該遺伝子又は当該タンパク質の発現量と比較する工程
(d)(c)の結果に基づいて、当該遺伝子又は当該タンパク質の発現量を減少又は増加させる被験物質を毛髪形状調節剤として選択する工程
【請求項22】
以下の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする毛髪形状調節剤の評価又は選択方法。
(a)請求項1に記載の毛髪形状感受性遺伝子が発現可能な細胞に、当該毛髪形状感受性遺伝子の発現制御領域とレポーター遺伝子との融合遺伝子を導入し、当該細胞を被験物質の存在下及び非存在下で培養する工程、
(b)被験物質の存在下で培養した細胞培養物中のレポーター遺伝子発現産物の発現量を測定し、当該量を被験物質の非存在下で培養した細胞培養物中のレポーター遺伝子発現産物の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、レポーター遺伝子発現産物の発現量の発現量を増減させる被験物質を毛髪形状調節剤として選択する工程。
【請求項23】
以下の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする毛髪形状調節剤の評価又は選択方法。
(a)被験物質と請求項1に記載の毛髪形状感受性遺伝子にコードされるタンパク質を含む水溶液、細胞又は当該細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた水溶液、細胞又は細胞画分における当該タンパク質の機能又は活性を測定し、当該機能又は活性を、被験物質を接触させない対照水溶液、対照細胞又は対照細胞画分における上記当該タンパク質の機能又は活性と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、当該タンパク質の機能又は活性を増減させる被験物質を毛髪形状調節剤として選択する工程。
【請求項24】
ヒト毛髪毛根部における請求項1に記載の毛髪形状感受性遺伝子の発現を制御することを特徴とする毛髪形状タイプの調節方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図11】
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【図1】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−97927(P2011−97927A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225225(P2010−225225)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】