説明

気体供給装置

【課題】面倒な校正、調整作業を行うことなく、各種の供給気体の質量流量制御を高精度で行うことのできる気体供給装置を提案すること。
【解決手段】気体供給装置1では、重量計測部13によって材料の重量変化量ΔW、すなわち実際の材料消費量を測定し、これに基づき算出した実際の質量流量Qmが目標質量流量Qmreqに収束するように、流量制御部6に設定されている設定質量流量Qmsetを補正している。材料の実際の消費重量に基づき、流量制御部6を適宜、校正することができる。校正、調整作業を定期的に行うことなく、また、取り扱う供給気体の種類、使用する流量制御部6の制御精度に左右されることなく、再現性良く、質量流量制御を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体または固体材料を気化して供給気体を発生させ、この供給気体を質量流量制御して供給対象側に向けて送り出すための気体供給装置に関し、特に、質量流量制御を高精度に行うことができるように自己質量流量校正機能を備えた気体供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体や合成石英などの製造装置としてバブリングシステムやベーキングシステムなどが知られており、このようなシステムでは、反応室に製造用原料気体を所定の流量で供給するための気体供給装置が付設される。
【0003】
従来における供給気体の流量制御は、主に質量流量コントローラによって行われている。質量流量コントローラでは、取り扱う供給気体の物性に合わせて特別な環境下で校正を行う必要がある。また、制御精度は、使用する質量流量コントローラの性能および、その校正手法に左右される。さらに、制御の信頼性を確保するためには、流量制御精度を維持するためには定期的に校正を行う必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように気体供給装置に用いられている質量流量コントローラは、高精度の流量制御を実現するための初期設定作業、メンテンス作業が面倒である。また、取り扱う材料に応じて校正などの調整が必要であるので、汎用性に乏しい。
【0005】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、面倒な校正、調整作業を行うことなく、各種の供給気体の流量制御を高精度で行うことのできる気体供給装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の気体供給装置は、
液体または固体材料を貯蓄する材料タンクと、
この材料タンクに貯蓄されている材料を気化して供給気体を発生させる材料タンク温度制御部と、
前記供給気体を予め設定された設定質量流量で供給対象側に供給するための流量制御部と、
予め定められた目標質量流量で前記供給気体が送り出されるように、当該目標質量流量を前記設定質量流量として前記流量制御部に設定する流量設定器と、
前記供給気体の供給中における前記材料タンクに貯蓄されている液体または固体材料の重量変化量を計測する重量計測部と、
この重量計測部で計測された前記重量変化量に基づき、前記流量制御部を介して送り出される供給気体の実際の質量流量を算出し、当該実際の質量流量が目標質量流量に一致するように、前記流量制御部の設定質量流量を補正する演算部とを有していることを特徴としている。
【0007】
本発明の気体供給装置では、重量計測部によって材料の重量変化量、すなわち実際の材料消費量を測定し、これに基づき算出した実際の質量流量を目標質量流量に一致させるように、流量制御部による流量制御量を補正している。材料の実際の消費重量に基づき、流量制御部を適宜、校正することができるので、取り扱う供給気体の種類、使用する流量制御部の制御精度に左右されることなく、再現性良く、一定の精度での流量制御が保証される。
【0008】
また、かかる自己質量校正機能を備えているので、質量変化の計測精度の経時変化を最小に抑えることができる。このため、定期的な流量校正、調整作業が不要、あるいは大幅に軽減される。
【0009】
さらに、取り扱う材料が特定されていなくても、当該材料に適した流量レンジさえ確保されていれば、高精度な校正を行うことなく質量流量制御を精度良く行うことが可能である。
【0010】
ここで、本発明では、前記重量計測部による計測重量を校正するための重量校正部を有しており、この重量校正部は、既知の重さの重りを前記材料タンクに載せる前と後における前記重量計測部による計測重量変化量が、前記重りの重さに一致するように、前記重量計測部の校正を行うことを特徴としている。
【0011】
前記重量校正部としては、既知の重さの分銅と、この分銅を吸引している電磁石とを備え、電磁石による吸引を解除して前記分銅を前記材料タンクに載せるように構成されているものを用いることができる。
【0012】
重量計測部の経時変化や、材料タンクに接続されている配管などに作用する外力の変化などに起因して、重量計測部の重量計測値に誤差が生ずる。重量校正部を用いることにより、このような重量計測値の誤差を解消あるいは低減することができる。精度良く重量計測を行うことにより、高精度の質量流量制御が保証される。
【0013】
次に、本発明では、前記材料タンクに貯蓄されている液体または固体材料の重量以外の重量を相殺するために、調整可能な牽引力を前記材料タンクに加える重量相殺部を有しており、前記重量計測部は、前記重量相殺部によって前記牽引力が作用している状態の前記材料タンクの重量を測定することを特徴としている。
【0014】
重量相殺部を用いることにより、重量計測部の重量計測レンジを、貯蓄されている材料の重量の測定に必要な計測範囲に近づけることができる。このため、計測の分解能を高めることができ、重量計測部による重量測定の精度を高め、結果として、高精度の質量流量制御が保証される。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明の気体供給装置は、材料タンクに貯蓄されている材料の消費重量に基づき流量制御部を介して送り出される供給気体の質量流量を算出し、この質量流量が目標質量流量に一致するように、流量制御部の設定質量流量を補正している。かかる自己質量流量校正機能が備わっているので、流量制御部の校正、調整作業が大幅に削減され、信頼性の高い高精度の流量制御を行うことが可能になる。
【0016】
また、重量校正部および重量相殺部を設けることにより、材料の消費重量を正確に測定でき、これによっても信頼性の高い高精度の流量制御を行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図面を参照して本発明を適用した気体供給装置の実施の形態を説明する。
【0018】
図1は気体供給装置を示す概略構成図である。気体供給装置1は、液体または固体材料10を貯蓄する材料タンク2を有している。この材料タンク2の外周を取り囲む状態で材料タンク温度制御部3のヒータ4が配置されている。材料タンク温度制御部3によって材料タンク2を加熱することによって、材料タンク2内の材料が加熱されて気化し、供給気体が発生する。材料の加熱状態を制御することにより、安定して流量制御ができるに足る蒸気圧で供給気体を供給することができる。
【0019】
材料タンク2で発生した供給気体は、材料タンク2の天面に接続されている上流側供給管5を介して流量制御部6に供給され、ここを介して所定の質量流量に制御された状態で下流側供給管7から供給対象側に向けて送り出される。上流側供給管5、流量制御部6の気体通路部分および下流側供給管7は、温度制御部8によって適切な加熱状態に保持される。
【0020】
流量制御部6には演算部11が接続されており、演算部11には流量設定器12が接続されている。流量設定器12を介して、供給気体の目標質量流量値Qmreqが演算部11に設定される。演算部11は、設定された目標質量流量値Qmreqを、流量制御部6の設定質量流量値Qmsetと定め、これを流量制御部6の質量流量値として設定する。流量制御部6は、設定された設定質量流量値Qmsetを制御目標値として供給気体の流量制御を行う。流量制御部6における流量計測および制御の方法は、取り扱う材料の物性および必要な供給量のレンジに適合しさえすればよく、質量式、体積式、熱式、差圧式、オリフィス式など既存の流量制御を含む各種の方式のものを用いることができる。
【0021】
ここで、演算部11には重量計測部13が接続されている。重量計測部13は、材料タンク2に貯蓄されている液体または固体材料10の重量変化量を計測するためのものである。この重量計測部13は、例えば、材料タンク2の重量が作用する状態に配置されているロードセルを用いて構成することができ、一定のサンプリング周期で材料タンク2の重量を測定し、前回の測定値との重量の変化量ΔWを、消費された材料の重量として算出する。算出した変化量ΔWは演算部11に供給される。
【0022】
演算部11では、単位時間Δt(サンプリング周期)毎に消費されて変化している材料タンク2の重量変化量ΔWから、実際の質量流量Qmを算出する。算出した質量流量Qmと、目標質量流量Qmreqとの差が無くなるように、流量制御部6に設定されている設定質量流量値Qmsetを補正する。かかる補正を繰り返し行って、目標質量流量値Qmreqに、実際の質量流量値Qmが収束するようにフィードバック制御を行う。
【0023】
演算部11には流量表示部14も接続されており、ここには、質量流量Qmの現在値、流量制御部6に設定されている設定質量流量値Qmset、目標質量流量値Qmreq、流量制御部6から出力される流量制御値Qmactなどの数値が表示される。
【0024】
次に、材料タンク2には重量相殺部15が取り付けられている。重量相殺部15は、材料タンク2に貯蓄されている液体または固体材料10の重量以外の重量を相殺するために、調整可能な牽引力Fで材料タンク2を引き上げるように構成されている。重量相殺部15によって材料10の重量のみが重量計測部13に作用するので、重量計測部13では材料タンク2内の材料10の重量のみを計測できる。
【0025】
重量相殺部15が備わっていない場合には、重量計測部13には、材料タンク2自体の重量、そこに取り付けられている材料タンク温度制御部3のヒータ4、そこに接続されている上流側供給管5に作用する外力などが作用する。外力などは変動するので、重量計測部13の測定値に誤差が生じ、精度良く材料消費量(ΔW)を測定できない。このような弊害を回避して、重量計測部13の計測精度を高めることができる。また、重量計測部13の重量計測レンジを、必要とされる計測範囲(材料10の重量を計測可能なレンジ)に近づけることができるので、計測の分解能を高めることができる。
【0026】
また、材料タンク2には、重量計測部13による計測重量を校正するための重量校正部16も配置されている。重量校正部16は、既知の重さの分銅17と、この分銅17を吸引している電磁石18を備えている。電磁石18による吸引を解除すると、分銅17が材料タンク2に載り、重量計測部13の計測値が分銅分だけ増加する。重量校正部16では、分銅17を材料タンク2に載せる前と、載せた後における重量計測部13による計測重量変化量が、分銅17の重さに一致するように、重量計測部13の計測値の校正を行う。
【0027】
かかる校正を必要に応じて、あるいは定期的に行うことにより、重量計測部13による計測精度が保証され、結果として、流量制御部6による質量流量制御を精度良く行うことが可能になる。
【0028】
(流量制御動作)
図2は、上記構成の気体供給装置1による供給気体の流量制御動作を中心に示すフローチャートである。このフローチャートに従って説明すると、まず、気体供給装置1の初期設定を行い、材料タンク2に材料10を充填し、材料タンク温度制御部3および温度制御部8を起動して、材料タンク2および供給気体の供給系を所定の温度まで加熱し、その状態に保持する。また、流量設定器12から目標質量流量値Qmreqが入力され、演算部11に設定される(ステップST1)。
【0029】
このようにして気体供給装置1による気体供給の準備が整った後は、材料タンク2から発生する供給気体を、流量制御部6を介して質量流量制御しながら供給対象側に送り出すための動作を開始する(ステップST2)。
【0030】
本例における質量流量制御手法は次の通りである。
【0031】
まず、質量流量は、単位時間の重量変化であり、次式で表すことができる。
Qm=ΔW/Δt
但し、ΔW:材料タンク2の単位計測時間における重量変化
Δt:単位計測時間
【0032】
流量制御部6で制御される質量流量の設定値をQmsetとする(ステップST3、4、5)。
【0033】
流量制御部6が制御する質量流量は、必ずしも、要求される目標質量流量値Qmreqと一致しないのが一般的である。
【0034】
そこで、単位計測時間Δtにおける材料タンク2の重量変化量ΔWから上記の式により算出される実際の質量流量Qmと、流量制御部6に設定されている設定質量流量値Qmsetとの差eを求め、この差eを解消できるように補正係数Kの値を求める(ステップST6、7)。
【0035】
次の単位計測時間の前に、流量制御部6に与えている質量流量設定値Qmsetを、次式により求まる値に更新する(ステップST8、9)。
Qmset=K・Qmreq
【0036】
なお、本例では、差eが制御系の公差の範囲内の小さい値の場合には、補正制御の有要性が無いと判断して、補正係数Kを更新することなく、前回の補正係数をそのまま使用するようにしている(ステップST8からステップST10へのジャンプ)。
【0037】
このような補正制御を繰り返し行うことにより(ステップST5〜ST10)、実際の質量流量Qmが、目標質量流量値Qmreqに収束するように、供給終了(ステップST10、11)まで質量流量制御を行う。
【0038】
以上説明したように、本例の気体供給装置1は従来の装置に比べて次のような利点がある。まず、気化することが可能で、その材料の消費による質量の変化が計測できる範囲であれば、液体、固体を問わず、その材料の質量流量制御が可能になる。また、物性、流体の特性より、従来においては流量の校正、制御が困難であった材料も質量流量制御による供給が可能になる。さらに、流量制御部6は、従来より幅広く用いられている各方式から適合するものを利用でき、その流量レンジさえ確保されていれば、制御方式を問わず、高精度な流量校正も不要になる。さらにまた、所定の周期で行われる自己質量校正機能により、質量変化の計測精度の経時変化を最小に抑制でき、従来において必要であった流量制御部の定期的な流量校正作業および調整作業を不要、あるいは、大幅に軽減できる。
【0039】
(その他の実施の形態)
なお、上記の例では材料タンク温度制御部3および温度制御部8はヒータなどにより加熱制御するものであるが、材料の物性や性質、求められる質量流量の値に応じて、温度制御部として冷却制御するためのものを用いる場合もある。
【0040】
また、重量相殺部15、重量校正部16は、上記の例とは異なる構造のものを用いても良いことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を適用した気体供給装置の全体構成を示す概略構成図である。
【図2】図1の気体供給装置の動作を示す概略フローチャートである。
【符号の説明】
【0042】
1 気体供給装置
2 材料タンク
3 材料タンク温度制御部
4 ヒータ
5 上流側供給管
6 流量制御部
7 下流側供給管
8 温度制御部
10 材料
11 演算部
12 流量設定器
13 重量計測部
14 流量表示部
15 重量相殺部
16 重量校正部
17 分銅
18 電磁石
F 牽引力
Qm 質量流量
Qmset 設定質量流量
Qmreq 目標質量流量
ΔW 重量変化量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体または固体材料を貯蓄する材料タンクと、
この材料タンクに貯蓄されている材料を気化して供給気体を発生させる材料タンク温度制御部と、
前記供給気体を予め設定された設定質量流量で供給対象側に供給するための流量制御部と、
予め定められた目標質量流量で前記供給気体が送り出されるように、当該目標質量流量を前記設定質量流量として前記流量制御部に設定する流量設定器と、
前記供給気体の供給中における前記材料タンクに貯蓄されている液体または固体材料の重量変化量を計測する重量計測部と、
この重量計測部で計測された前記重量変化量に基づき、前記流量制御部を介して送り出される供給気体の実際の質量流量を算出し、当該実際の質量流量が目標質量流量に一致するように、前記流量制御部の設定質量流量を補正する演算部とを有していることを特徴とする気体供給装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記重量計測部による計測重量を校正するための重量校正部を有しており、
この重量校正部は、既知の重さの重りを前記材料タンクに載せる前と後における前記重量計測部による計測重量変化量が、前記重りの重さに一致するように、前記重量計測部の校正を行うことを特徴とする気体供給装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記重量校正部は、既知の重さの分銅と、この分銅を吸引している電磁石とを備えており、電磁石による吸引を解除して前記分銅を前記材料タンクに載せるようになっていることを特徴とする気体供給装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれかの項において、
前記材料タンクに貯蓄されている液体または固体材料の重量以外の重量を相殺するために、調整可能な牽引力を前記材料タンクに加える重量相殺部を有しており、
前記重量計測部は、前記重量相殺部によって前記牽引力が作用している状態の前記材料タンクの重量を測定することを特徴とする気体供給装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−46921(P2007−46921A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228977(P2005−228977)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(391055520)株式会社平井 (2)
【Fターム(参考)】