説明

気密容器の製造方法

【課題】貼り合わせた一対の基板の一方からのみレーザ光を照射することで、基板を冷却材等で汚染することなく、一対の基板を一度に分割する。
【解決手段】局所加熱光を第1及び第2のガラス基板101、102の間に配置された封止用接合材104及び分割用接合材105に照射して加熱溶融させ、第1のガラス基板101と第2のガラス基板102とを接合する工程と、分割用接合材105の延在方向の端部に局所加熱光の有効ビーム径のスポットが重なるように照射し、第1及び第2のガラス基板101、102の一端部に亀裂を生じさせた後に、第1及び第2のガラス基板101、102の他端部まで分割用接合材105に沿って局所加熱光を走査することによって、分割用接合材105を介して第1及び第2のガラス基板101、102を分割する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対のガラス基板を接合してなる貼り合わせ基板を分割して複数の気密容器を製造するための気密容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一対のガラス基板が貼り合わされて形成された画像表示装置、例えば、有機LEDディスプレイ(OLED)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の、フラットパネルタイプの画像表示装置が公知である。このような画像表示装置の製造においては、製造コストの低減の観点から、大判の基板上に複数の画像表示装置を作製した後に、分割を行うことが一般的である。このような画像表示装置は、少なくとも2枚のガラス基板が貼り合わされて構成されており、2枚のガラス基板の間に表示用のデバイスが存在している。そのため、2枚のガラス基板同士は、接合部以外で接触しておらず、数μm〜数mm程度の隙間があいている。このように複数の画像表示装置が形成された大判の基板から画像表示装置を分割する方法としては、次の提案がなされている。
【0003】
特許文献1には、脆性基板の分割において、レーザ光を用いた分割方法が開示されている。レーザ光を用いることで、従来の機械式スクライブよりも高精度でゴミが少ない分割ができる。また、レーザ光等の局所加熱光による分割については、ガラス基板の局所加熱によって圧縮応力を発生させ、発生させた圧縮応力の近傍を冷却させることで、引張り応力を誘起し、亀裂を生じさせ分割する方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、2枚のガラス基板を接合材で接合して一体化させた後に接合部をレーザ光等の局所加熱光を照射することで、分割する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−247038号公報
【特許文献2】特開2001−075064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているようなガラス基板の分割方法では、1枚のガラス基板しか分断することができず、2枚のガラス基板が貼り合わされた状態では、2枚のガラス基板それぞれにレーザ光を照射して分割する必要があり、手間がかかる。また、ガラス基板にクラックを生じさせるために、レーザ光で加熱した後に冷却材を用いる必要があり、分割したガラスが、冷却材によって、汚染されてしまう問題があった。
【0007】
特許文献2に記載の方法では、2枚のガラス基板を同時に分割できるが、特許文献1と同様に冷却材を用いてガラス基板にクラックを生じさせている。このため、特許文献2に記載の方法も同様に、分割したガラスが、冷却材によって汚染されてしまう問題があった。
【0008】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされ、レーザ光によるスクライブや冷却材を用いずに、貼り合わされた一対のガラス基板の一方のみからレーザ光を照射して、一対のガラス基板を一度に分割することができる気密容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明に係る気密容器の製造方法は、透光性を有する第1及び第2の基板が、第1及び第2の基板の間に配置された接合材を介して接合された貼り合わせ基板から、第1及び第2の基板、接合材で囲まれてなる複数の気密容器を個々に分割する、気密容器の製造方法であって、第1及び第2の基板を準備すると共に、粘度が負の温度係数を有し、軟化点が第1及び第2の基板よりも低い接合材を準備する工程と、第1の基板の一方の面に、気密容器を形成するための接合材を配置し、第1及び第2の基板のいずれか一方の基板に、複数の気密容器を個々に分割する分割ラインに沿って接合材を一方の基板の両端に跨る直線状に配置する工程と、第1の基板に対向して第2の基板を配置する工程と、局所加熱光を第1及び第2の基板の間に配置された接合材に照射して加熱溶融させ、第1の基板と第2の基板とを接合させる工程と、分割ラインに沿った接合材の延在方向の端部に局所加熱光の有効ビーム径のスポットが重なるように照射し、第1及び第2の基板の一端部に亀裂を生じさせた後に、第1及び第2の基板の他端部まで接合材に沿って局所加熱光を走査することによって、接合材を介して第1及び第2の基板を分割する工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る他の、気密容器の製造方法は、透光性を有する第1及び第2の基板が、第1及び第2の基板の間に配置された接合材を介して接合された貼り合わせ基板から、第1及び第2の基板、接合材で囲まれてなる複数の気密容器を個々に分割する、気密容器の製造方法であって、第1及び第2の基板を準備すると共に、粘度が負の温度係数を有し、軟化点が第1及び第2の基板よりも低い接合材を準備する工程と、第1の基板の一方の面に、気密容器を形成するための接合材を配置し、第1及び第2の基板のいずれか一方の基板に、複数の気密容器を個々に分割する分割ラインに沿って接合材を一方の基板の両端に跨る直線状に配置する工程と、第1の基板に対向して第2の基板を配置する工程と、局所加熱光を第1及び第2の基板の間に配置された接合材に照射して加熱溶融させ、第1の基板と第2の基板とを接合する工程と、複数の局所加熱光を用い、分割ラインに沿った接合材の延在方向の両端部に、局所加熱光の有効ビーム径のスポットが重なるようにそれぞれ照射し、第1及び第2の基板の両端部に亀裂を生じさせた後、接合材の両端部から延在方向の中央に向かって複数の局所加熱光をそれぞれ走査することによって、第1及び第2の基板の両端部から中央に向かって亀裂を進展させ、接合材を介して第1及び第2の基板を分割する工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る更に他の、気密容器の製造方法は、第1及び第2の基板が、粘度が負の温度係数を有すると共に軟化点が第1及び第2の基板よりも低い接合材を介して、接合材で囲まれてなる複数の気密容器が形成されるように貼り合わされ、第1及び第2の基板のいずれか一方の基板に、複数の気密容器を個々に分割する分割ラインに沿って接合材が一方の基板の両端に跨る直線状に配置された、貼り合わせ基板から、複数の気密容器を個々に分割する、気密容器の製造方法であって、分割ラインに沿った接合材の延在方向の端部に局所加熱光の有効ビーム径のスポットが重なるように照射し、第1及び第2の基板の一端部に亀裂を生じさせる工程と、第1及び第2の基板の他端部まで接合材に沿って局所加熱光を走査することによって、接合材を介して第1及び第2の基板を分割する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、貼り合わされた一対の基板の一方にレーザ照射するだけで、冷却材を用いずに一対の基板を同時に分割することが可能となり、分割の精度を向上し、冷却材によって基板が汚染されることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態の気密容器の製造方法によって個々に分割される画像表示装置の集合体を示す模式図であり、(a)がガラス基板の一方の面から示す平面図であり、(b)が断面図である。
【図2】個々に分割された表示装置を示す模式図であり、(a)が画像表示装置から切り出された表示装置を示す平面図、(b)が配線のパッド部を外方に露出させた表示装置を示す平面図、(c)が(b)におけるA−A線に沿った断面図、(d)が(b)におけるB−B線に沿った断面図である。
【図3】実施形態におけるプロセスフローの一例を説明するための断面図である。
【図4】ガラス基板を分割するプロセスフローを説明するための模式図であり、(a)、(c)、(e)、(g)が、分割用接合材の幅方向の断面図を示し、(b)、(d)、(f)、(h)が、分割用接合材の上方から見た平面図を示す。
【図5】局所加熱光のビーム径及び発生する応力を示す模式図である。
【図6】実施形態の製造方法によって製造される有機EL表示装置を示す断面図である。
【図7】第2の実施例による画像表示装置の集合体を示す模式図であり、(a)がガラス基板の一方の面の上方から示す平面図、(b)が断面図である。
【図8】個々に分割された表示装置を示す模式図であり、(a)が画像表示装置から切り出された表示装置を示す平面図、(b)が配線のパッド部を外方に露出させた表示装置を示す平面図、(c)が(b)におけるC−C線に沿った断面図、(d)が(b)におけるE−E線に沿った断面図、(e)が(b)におけるF−F線に沿った断面図である。
【図9】実施例における局所加熱光の照射方法を示す斜視図であり、(a)が第1の実施例、(b)が第2の実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
本実施形態の気密容器の製造方法は、大判のガラス基板の上に複数のデバイスを配置し、デバイス群の製造後に、各デバイスを構成するガラス基板の部分を個々に分割することが必要な、画像表示装置の製造方法に適用することが可能である。この種の画像表示装置の製造方法としては、FED(フィールドエミッションディスプレイ)、OLED(有機ELディスプレイ)、PDP(プラズマディスプレイ)等の画像表示装置の製造方法が挙げられる。本実施形態の製造方法によれば、分割工程が、逐次的な分割操作ではなく、一括的な分割操作よって行われる。このため、大判のガラス基板から個々に分割する気密容器の個数が多い場合に、分割自体に要する工程時間を大幅に短縮することができると共に、分割時のガラス基板の汚染を最小限に抑えることができる。
【0016】
しかし、本実施形態の気密容器の製造方法は、気密容器として上述の画像表示装置の製造に限定されるものではなく、貼り合わされた一対のガラス基板からなるデバイスを分割する場合に広く適用することができる。
【0017】
図1に、本実施形態の製造対象となる気密容器としての表示装置の一例の模式図を示す。図1(a)に平面図を示し、図1(b)に断面図を示す。図1(b)に示すように、画像表示装置の集合体100は、透光性を有する第1の基板及び第2の基板としての第1のガラス基板101と第2のガラス基板102との間に配された表示部103と、を備えている。また、集合体100は、表示部103から取り出される配線を受けるパッド部106と、接合材としての封止用接合材104及び分割用接合材105と、を備えている。
【0018】
表示部103及び封止用接合材104は、図1に示すように、第1のガラス基板101の上に複数配置されている。分割用接合材105は、表示部103及び封止用接合材104を個々に分割するように、隣接する封止用接合材104の間に配置されている。
【0019】
封止用接合材104は、第1及び第2のガラス基板101、102の主面に向かう方向から見て、表示部103を囲むように環状に配置されている。封止用接合材104は、表示部103を気密に封止すると共に、図1(b)に示すように、第1のガラス基板101と第2のガラス基板102とを接合する。第1及び第2のガラス基板101、102の主面に向かう方向から見て、分割ラインLに沿って配置される直線状の分割用接合材105は、複数の表示部103を個々に区切るように格子状に配置されている。分割用接合材105は、封止用接合材104と同様に、第1のガラス基板101と第2のガラス基板102とを接合している。
【0020】
図2(a)に、集合体100から個々に切り出された1つの表示装置110を示す。図2(b)に、配線のパッド部106を外方に露出させた表示装置を示し、図2(c)に、A−Aに沿った断面図を示し、図2(d)に、B-Bに沿った断面図を示す。
【0021】
表示部103として、例えば有機EL表示装置では、図6に示すように、下部電極31、有機EL層32及び上部電極33が順に第1のガラス基板101上に積層されてなる有機EL素子34と、有機EL素子34を被覆する保護層35と、を備えてなる。表示部103に電流を通電することで、陽極から注入された正孔と、陰極から注入された電子とが、発光層において再結合し、発光層に含まれる発光材料の発光色に応じて赤色、緑色、青色のそれぞれの光を放出することになる。そして、発光層から発せられた光は、保護層35側から取り出すことができる。
【0022】
ところで、表示部103をアクティブマトリックス形式で駆動させる場合、第1のガラス基板101は、基材11と、基材11上に設けられるTFT回路12と、TFT回路12上に設けられる平坦化膜13とを有して構成される。なお、TFT回路12は、コンタクトホール14を介して、下部電極31と電気接続されている。
【0023】
次に、集合体100の構成部材について説明する。
【0024】
第1のガラス基板101及び第2のガラス基板102を形成する基板材料は、透明で透光性を有する材料であればよく、例えば、無アルカリガラス、ソーダライムガラス、高歪点ガラス等が挙げられる。これらの基板材料は、後述する局所加熱光の使用波長域及び封止用接合材104の吸収波長域において、良好な波長透過性を有していることが望ましい。
【0025】
第1のガラス基板101と第2のガラス基板102を接合する封止用接合材104及び分割用接合材105としては、粘度が負の温度係数を有しており、高温度で軟化すればよく、一般に使用される材料であれば特に限定されない。
【0026】
次に、本実施形態の画像表示装置の製造方法における気密容器の製造方法について説明する。以下の説明では、第1のガラス基板101が、表示部が形成される基板を指しており、第2のガラス基板102が、分割用接合材が形成され、第1のガラス基板と対向して配置される一方の基板を指している。
【0027】
[第1のステップ]
まず、図3(a)に示すように、第1のガラス基板101を準備し、次に、図3(b)に示すように、表示部103を第1のガラス基板101の上に形成する。表示部103の構成を図6に示す。表示部103は、下部電極31、有機EL層32、上部電極33及び保護層35の形成方法として、公知の方法を用いることができる。図3(b)に、表示部103が形成された状態を示す。
【0028】
[第2のステップ]
図3(c)に示すように、第2のガラス基板102を準備し、次に、図3(d)に示すように、封止用接合材104及び分割用接合材105を第2のガラス基板102の上に形成する。分割用接合材105は、表示部103を含む表示デバイスを第1のガラス基板101から個別に分割できるように、第2のガラス基板102の両端部に跨るようにして複数の封止用接合材104の間に直線状に配置される。封止用接合材104及び分割用接合材105は、粘度が負の温度係数を有し、高温度で軟化すればよく、第1のガラス基板101及び第2のガラス基板102のいずれよりも軟化点が低いことが望ましい。封止用接合材104及び分割用接合材105としては、例えばガラスフリット、無機接着剤、有機接着剤等が挙げられる。封止用接合材104及び分割用接合材105は、後述する局所加熱光の波長に対して高い吸収性を有することが好ましい。内部空間の真空度の維持が要求されるFED等に適用する場合には、残留ハイドロカーボンの分解を抑制できるガラスフリットや無機接着剤が好適に用いられる。図3(d)に、封止用接合材104及び分割用接合材105の形成された状態を示す。分割用接合材105の幅は、分割するためだけに形成されるので、気密性が高い接合が要求される封止用接合材104と必ずしも同じ幅にする必要はない。
【0029】
[第3のステップ]
次に、図3(e)、及び図4(a)、図4(b)に示すように、第1のステップで表示部103が形成された第1のガラス基板101を、封止用接合材104及び分割用接合材105が形成された第2のガラス基板102に対向して配置する。これによって、封止用接合材104及び分割用接合材105は、第1のガラス基板101に接触するように加圧され、配置される。加圧するときは、封止用接合材104及び分割用接合材105と第1のガラス基板101とが接触するように加圧されればよく、バネ材等によって第1のガラス基板101又は第2のガラス基板102を加圧してもよい。
【0030】
[第4のステップ]
次に、図3(f)に示すように、局所加熱光201を封止用接合材104に照射し加熱溶融させ、対向配置された一組の第1のガラス基板101と第2のガラス基板102とを接合し、貼り合わせ基板107を作製する。局所加熱光201は、接合領域の近傍を局所的に加熱可能であればよく、光源としては半導体レーザが好適に用いられる。封止用接合材104を局所的に加熱する性能やガラス基板の透過性等の観点から、赤外域に波長を有する加工用半導体レーザが好ましい。
【0031】
[第5のステップ]
次に、第2のガラス基板102上に配置された封止用接合材104を全て局所加熱光201で第1のガラス基板101に接合させて作製した、貼り合わせ基板107から表示部103を含む個別の表示装置110を分割する。
【0032】
図3(g)、及び図4(c)、図4(d)に示すように、局所加熱光201を照射して分割用接合材105によって第1及び第2のガラス基板101、102を接合する。ここで用いる局所加熱光201は、封止用接合材104を接合させるときと同じ条件で行ってよい。図4(c)〜図4(h)では、分割用接合材105の接合後を、分割用接合材108として示している。
【0033】
[第6のステップ]
次に、分割用接合材108に沿って第1のガラス基板101、第2のガラス基板102及び分割用接合材108を分割する。局所加熱光201のスポットが、第2のガラス基板102の端部における分割用接合材105に重なるように局所加熱光201を照射する。これにより、図4(f)に示すように、第1及び第2のガラス基板101、102の端部における分割用接合材108近傍にクラック(亀裂)を生じさせる。第1及び第2のガラス基板101、102にクラックを生じさせた後は、局所加熱光201を、接合されている分割用接合材108の延在方向に沿って走査し、クラックを進展させ、貼り合わせ基板107を分割する。
【0034】
本実施形態の製造方法は、貼り合わせ基板107の分割時に、従来のレーザ分割法のように局所加熱光によってガラス基板の表面を加熱するのでは無く、局所加熱光によって接合材を加熱することに特徴がある。接合材が発熱したときに、接合されているガラス基板に熱が伝わり、局所加熱光の加熱領域の周辺のガラス基板に引張り応力が発生する。このときに、接合材の内部には、幅方向に引張り応力が加わっている(局所加熱光で最初に接合したときに生じる残留応力)。この応力と、加熱時に生じた接合界面の引張り応力とによって、クラックの発生及びクラックの進展する方向を制御することができる。
【0035】
また、分割用接合材108とガラス基板101、102との接合界面からガラス基板101、102にクラックが発生することで、分割用接合材108を介した2枚のガラス基板101、102を同時に分割することができる(図4(g))。
【0036】
クラックが発生する原理について以下に説明する。図5(a)に示すように、局所加熱光201によってガラス基板101、102が加熱されることで、加熱領域203の中心部には、局部的に大きな圧縮応力402が発生する。加熱領域203に隣接する周辺部では、逆に引張り応力401が発生することになる。これは、加熱領域203においてガラス基板101、102が膨張するのに対し、加熱されている以外の領域においてガラス基板101、102が膨張しないためである。
【0037】
この引張り応力401によって、図5(b)に示すように、貼り合わせ基板107の端部にクラック302を発生させることができる。クラック302は、貼り合わせ基板107を構成するガラス基板101、102の端面に残存している微細なキズ等を発端として発生している。
【0038】
この加熱領域203の周辺の引張り応力401が発生している領域の範囲内を、本実施形態では、有効ビーム径(スポット径)204として定義している。有効ビーム径204は、レーザ光の強度がピーク強度のe-2倍以上となる範囲の2倍の大きさとなるように設定した。
【0039】
ガラス基板101,102に発生したクラック302は、図4(h)に示すように、分割用接合材105を接合させたときに生じた残留応力に沿って、分割用接合材108上に沿って進んでいく。
【0040】
分割用接合材105は、封止用接合材104の代わりとしても用いることもできる。つまり、分割用接合材105は、分割する機能と、気密封止する機能との両方を兼ねることができる。ただし、その場合は、接合部が分割されるので、気密封止に必要な接合幅の2倍以上の幅を確保しておく必要がある。ただし、分割用接合材の幅が広くなり過ぎた場合、接合後の分割用接合材中の残留応力の分布にムラが発生する可能性が大きくなり、分割したときに分割ラインLが直線にならず、途中で曲がるなどの問題が発生する場合がある。分割を安定して行うためには、分割用接合材の幅を、5mm以下にすることが望ましい。分割したラインが曲がった場合であっても、その後の工程に影響が無い場合には、局所加熱光によって接合が可能な範囲内であれば、分割用接合材の幅を特に制限する必要はない。
【0041】
(第1の実施例)
以下、具体的な実施例を挙げて本実施形態の主要な工程について詳しく説明する。第1の実施例は、実施形態にて図3を参照して説明した製造方法を適用して第1のガラス基板と第2のガラス基板との気密接合を行い、m=6、n=7の個別の表示装置ごとに切断することによって、アクティブマトリックス型の有機EL表示装置を製造した。
【0042】
第1の工程(第1のガラス基板101を準備する工程、及び第2のガラス基板102に封止用接合材104を形成する工程)
第1のガラス基板101、第2のガラス基板102として0.7mm厚のガラス基板(旭硝子株式会社製:AN100)を用意し、外形寸法を570mm×440mm×0.7mmに切り出した。次に、有機溶媒洗浄、純水リンス及びUV−オゾン洗浄によって、第1のガラス基板101及び第2のガラス基板102の表面の脱脂を行った。
【0043】
第1のガラス基板101には、図6に示すTFT回路12、平坦化膜13及びコンタクトホール14を設けた。続いて、第1のガラス基板101に発光部3を形成した。
【0044】
第1の実施例では、封止用接合材104としてガラスフリットを用いた。ガラスフリットとしては、熱膨張係数α=45×10-7/℃、軟化点348℃であるP2O5系鉛非含有ガラスフリット(旭硝子株式会社社製:LFP−A50Z)を母材とし、バインダーとして有機物を分散混合したペーストを用いた。このペーストを、図3(d)に示すように、第2のガラス基板102上にスクリーン印刷で、接合部の周長に沿って幅1mm、厚さ20μm、50mm×40mmの寸法に形成した。各表示装置との間隔は20mmとした。
【0045】
また、分割用接合材105として、封止用接合材104と同等のガラスフリットを用い、各表示装置を分割する分割ラインL上に沿ってスクリーン印刷によって設けた。分割用接合材105は、第2のガラス基板102の両端部に跨るように幅1mm、厚さ7μm、第2のガラス基板102の長辺方向に570mm、短辺方向に440mmにわたって設けた。その後、有機物をバーンアウトさせるために460℃で加熱、焼成した(図8(a)〜(d))。
【0046】
第2の工程(第1のガラス基板101と封止用接合材104とを接触させる工程)
次に、封止用接合材104が形成された第2のガラス基板102を、表示部103が設けられた第1のガラス基板101に対して位置決めして、これらの構成部材を仮組みした。このとき、第2のガラス基板102を第1のガラス基板101に対して位置決めしながら、封止用接合材104と分割用接合材105が、第1のガラス基板101の表示部103が設けられた面及び分割ラインLと接触するように組み合わせた。
【0047】
その後、封止用接合材104と分割用接合材105への加圧力を均一化するために、補助的に、ガラス基板(旭硝子株式会社製:PD200、厚さ1.8mm)を配置した。さらに、加圧力を補助するために、不図示の加圧装置によって第1のガラス基板101と、第2のガラス基板102と封止用接合材104と分割用接合材105とを加圧した。このようにして、第1のガラス基板101と第2のガラス基板102とを、封止用接合材104と分割用接合材105を介して接触させた(図8(e))。
【0048】
第3の工程(第2のガラス基板102の封止用接合材104に局所加熱光201を照射する工程)
図1、2、4、9を参照して、局所加熱光201を利用した接合工程について詳細に説明する。
【0049】
まず、図4に示す工程で作製した、第2のガラス基板101及び第2のガラス基板102と封止用接合材104からなる中間構造物である貼り合わせ基板107に対して、第2のガラス基板102側から局所加熱光(レーザ光)201を照射した。本実施例においては、加工用半導体レーザ装置を1つ用意した。局所加熱光201はいずれも、光軸が第2のガラス基板102の主面に対して垂直な方向と平行になるように設定した。レーザヘッド202は、レーザ出射口と第2のガラス基板102の主面との間の距離が8cmとなるように配置した(図9(a))。
【0050】
本実施例における局所加熱光201の照射において、始めに、図2(a)に示すように、第2のガラス基板102に形成された封止用接合材104の周方向に沿って照射した。局所加熱光201としてのレーザ光の照射条件は、波長980nm、レーザパワー40W、有効ビーム径4.0mmとし、図9(a)に示す走査方向D1に対して速度10mm/sで走査した。レーザ光の走査は、封止用接合材104を含む被照射物である貼り合わせ基板107を固定した状態で、レーザヘッド202を走査方向D1に沿って移動させて照射した。なお、本発明において、レーザパワーは、レーザヘッド202から出射した全光束を積分した強度値として規定し、有効ビーム径は、レーザ光の強度がピーク強度のe-2倍以上となる範囲の2倍の大きさに設定した。
【0051】
上述の工程では、局所加熱光201としてのレーザ光を走査方向D1に沿って照射し、四角形の環状をなす封止用接合材104の残りの3つの角部に対しても同様に照射した。これにより、封止用接合材104で第1のガラス基板101と第2のガラス基板102とを接合した。
【0052】
第4の工程(分割用接合材105に局所加熱光201を照射し接合する工程)
次に、第2のガラス基板102の分割ラインL上に沿って形成された分割用接合材105の延在方向に沿って局所加熱光201を照射する。分割用接合材105の延在方向に沿って局所加熱光201を照射することで、第1のガラス基板101と第2のガラス基板102を全て、封止用接合材104と分割用接合材105によって接合して、貼り合わせ基板107を形成した。第4の工程における局所加熱光201の照射条件は、波長980nm、レーザパワー130W、有効ビーム径4.0mmとし、図9(a)に示す走査方向D2に速度100mm/sで走査した。
【0053】
第5の工程(貼り合わせ基板107を個々の表示装置110毎に分割する工程)
最後に、貼り合わせ基板107を分割用接合材105に沿って分割する。図4(f)に示すように、分割用接合材105と貼り合わせ基板107の端部に局所加熱光201を照射し、貼り合わせ基板107の端部にクラック302を発生させる。第5の工程における局所加熱光201としてのレーザ光の照射条件は、波長980nm、レーザパワー50W、有効ビーム径4.0mmとした。レーザ光の有効ビーム径の外周縁が貼り合わせ基板107の一端部に重なるようにした状態で、局所加熱光201を図4(h)に示す走査方向D2に沿って速度10mm/sで、貼り合わせ基板107及び分割用接合材105の他端部まで走査した。貼り合わせ基板107及び分割用接合材105の端部に、有効ビーム径が重なることでクラックが生じる。貼り合わせ基板107に生じたクラックは、移動する局所加熱光201の後を追うように進展していき、貼り合わせ基板107を分割用接合材105に沿って分割することができる。
【0054】
各表示装置110に分割後、図2(d)に示すように、パッド部106を外方に露出させるために、第2のガラス基板102のパッド部106に重なる部分を切除する(図2(a)、図2(b))。
【0055】
以上のようにして、有機EL表示装置を作製した。有機EL表示装置を駆動させたところ、画像表示性能が長時間にわたって安定して維持され、封止用接合材からなる接合部は、有機EL表示装置に適用可能な程度の機械的強度と安定した気密性とが確保されていることが確認された。
【0056】
(第2の実施例)
第2の実施例では、第1の工程において、図7(a)に示すように、封止用接合材104の代わりに分割用接合材105を用いて、表示部103の周囲の一部を接合してよい。つまり、本実施例では、分割用接合材105が、分割する機能と、気密に封止する機能との両方を兼ねている。
【0057】
表示部103の周囲を囲む分割用接合材105の幅は、個々に分割された後に気密封止部分を兼ねるので、気密封止に必要な幅の2倍である2mm幅とした。これによって、分割用接合材105に沿って個々に切断された表示装置110は、1mm幅の分割用接合材105によっても気密に封止される。第2のガラス基板102の最外周の封止用接合材104の幅は、封止用接合材104が分割されないので、第1の実施例と同様に1mm幅とした。
【0058】
構成部材を接合する順番は、図9(b)に示すように、局所加熱光201を格子状に走査させ、封止用接合材104及び分割用接合材105を接合させた。図8(a)に示すように、配線のパッド部106に重なる部分は、パッド部106を外方に露出させる必要があるので、分割ラインLと、封止用接合材104からなる接合部とを別々に分ける必要がある。分割用接合材105に沿って分割した後、図8(e)に示すように、パッド部106を外部に露出させるために、第2のガラス基板102におけるパッド部106に重なる部分を切除する。
【0059】
封止用接合材104と分割用接合材105の配置が異なっている点以外は、第1の実施例と同様に構成し、有機EL表示装置を作製した。その結果、有機EL表示装置を駆動させたところ、画像表示性能が長時間にわたって安定して維持され、接合部が有機EL表示装置に適用可能な程度の強度と、安定した気密性とが確保されていた。
【0060】
(他の実施形態)
上述した実施形態では、分割用接合材105に沿って貼り合わせ基板107を分割するときに、1つの局所加熱光201を貼り合わせ基板107の一端部から他端部に向かって走査したが、複数の局所加熱光201を分割用接合材105に沿って走査してもよい。この場合、例えば、2つの局所加熱光201を用い、直線状の分割用接合材105の延在方向の両端部に、局所加熱光201の有効ビーム径のスポットが重なるようにそれぞれ照射する。そして、第1及び第2のガラス基板101、102の両端部にクラックを生じさせた後、分割用接合材105の両端部から延在方向の中央に向かって2つの局所加熱光201をそれぞれ走査する。これによって、第1及び第2のガラス基板101、102の両端部から中央に向かってクラックを進展させることで、貼り合わせ基板107を分割する。本実施形態によれば、複数の複数の局所加熱光201を用いることで、貼り合わせ基板107の分割に要する時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0061】
101 第1のガラス基板
102 第2のガラス基板
104 封止用接合材
105 分割用接合材
107 貼り合わせ基板
108 接合後の分割用接合材
110 表示装置
201 局所加熱光
204 有効ビーム径
302 クラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する第1及び第2の基板が、前記第1及び第2の基板の間に配置された接合材を介して接合された貼り合わせ基板から、前記第1及び第2の基板、前記接合材で囲まれてなる複数の気密容器を個々に分割する、気密容器の製造方法であって、
前記第1及び第2の基板を準備すると共に、粘度が負の温度係数を有し、軟化点が前記第1及び第2の基板よりも低い前記接合材を準備する工程と、
前記第1の基板の一方の面に、前記気密容器を形成するための前記接合材を配置し、前記第1及び第2の基板のいずれか一方の基板に、前記複数の気密容器を個々に分割する分割ラインに沿って前記接合材を前記一方の基板の両端に跨る直線状に配置する工程と、
前記第1の基板に対向して前記第2の基板を配置する工程と、
局所加熱光を前記第1及び第2の基板の間に配置された前記接合材に照射して加熱溶融させ、前記第1の基板と前記第2の基板とを接合する工程と、
前記分割ラインに沿った前記接合材の延在方向の端部に前記局所加熱光の有効ビーム径のスポットが重なるように照射し、前記第1及び第2の基板の一端部に亀裂を生じさせた後に、前記第1及び第2の基板の他端部まで前記接合材に沿って前記局所加熱光を走査することによって、前記接合材を介して前記第1及び第2の基板を分割する工程と、
を有することを特徴とする気密容器の製造方法。
【請求項2】
透光性を有する第1及び第2の基板が、前記第1及び第2の基板の間に配置された接合材を介して接合された貼り合わせ基板から、前記第1及び第2の基板、前記接合材で囲まれてなる複数の気密容器を個々に分割する、気密容器の製造方法であって、
前記第1及び第2の基板を準備すると共に、粘度が負の温度係数を有し、軟化点が前記第1及び第2の基板よりも低い前記接合材を準備する工程と、
前記第1の基板の一方の面に、前記気密容器を形成するための前記接合材を配置し、前記第1及び第2の基板のいずれか一方の基板に、前記複数の気密容器を個々に分割する分割ラインに沿って前記接合材を前記一方の基板の両端に跨る直線状に配置する工程と、
前記第1の基板に対向して前記第2の基板を配置する工程と、
局所加熱光を前記第1及び第2の基板の間に配置された前記接合材に照射して加熱溶融させ、前記第1の基板と前記第2の基板とを接合する工程と、
複数の前記局所加熱光を用い、前記分割ラインに沿った前記接合材の前記延在方向の両端部に、前記局所加熱光の有効ビーム径のスポットが重なるようにそれぞれ照射し、前記第1及び第2の基板の両端部に亀裂を生じさせた後、前記接合材の両端部から前記延在方向の中央に向かって複数の前記局所加熱光をそれぞれ走査することによって、前記第1及び第2の基板の両端部から中央に向かって亀裂を進展させ、前記接合材を介して前記第1及び第2の基板を分割する工程と、
を有することを特徴とする気密容器の製造方法。
【請求項3】
前記接合材は、前記第1及び第2の基板の主面に向かう方向から見て、環状に設けられる封止用接合材と、直線状に設けられる分割用接合材とを含む、請求項1または2に記載の気密容器の製造方法。
【請求項4】
前記気密容器は、内部に表示部が設けられた画像表示装置である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の気密容器の製造方法。
【請求項5】
第1及び第2の基板が、粘度が負の温度係数を有すると共に軟化点が前記第1及び第2の基板よりも低い接合材を介して、前記接合材で囲まれてなる複数の気密容器が形成されるように貼り合わされ、
前記第1及び第2の基板のいずれか一方の基板に、前記複数の気密容器を個々に分割する分割ラインに沿って前記接合材が前記一方の基板の両端に跨る直線状に配置された、貼り合わせ基板から、前記複数の気密容器を個々に分割する、気密容器の製造方法であって、
前記分割ラインに沿った前記接合材の延在方向の端部に局所加熱光の有効ビーム径のスポットが重なるように照射し、前記第1及び第2の基板の一端部に亀裂を生じさせる工程と、
前記第1及び第2の基板の他端部まで前記接合材に沿って前記局所加熱光を走査することによって、前記接合材を介して前記第1及び第2の基板を分割する工程と、
を有することを特徴とする気密容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−256472(P2012−256472A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128110(P2011−128110)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】