説明

気泡検出機能を備える標的物質検出装置および気泡検出方法

【課題】液中の物質の有無あるいは量を光学的特性により検出する装置において液体試料中の気泡の有無を検出する機能を備えた装置及び気泡検出方法を提供すること。
【解決手段】液体試料中の標的物質の有無あるいは量を光学特性値を用いて検出する標的物質検出装置であって、前記液体試料を保持する試料保持部と、前記試料保持部が有する測定領域内の液体試料の圧力を変化させる圧力可変機構と、前記測定領域内の前記液体試料の光学特性値を検出するための光学計測部と、前記圧力可変機構によって前記液体試料の圧力を変化させかつ前記圧力可変機構によって変化した圧力値を含む複数の圧力値の各々において前記光学計測部で前記光学特性値を取得するよう制御する制御部と、を有することを特徴とする標的物質検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中の気泡の有無を検出する機能を兼ね備えた標的物質検出装置及び気泡検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康問題や環境問題に対する意識が高まっており、これらの問題に関与する生体物質、化学物質の微量検出方法が数多く開発されている。その中でも、検出対象物質を含む液状の検体と試薬あるいはセンサ素子の相互作用に起因する光学的な特性の変化を計測するものが数多く提案されている。このような液中の物質の有無あるいは量を光学的特性により検出する装置において、測定領域に気泡が存在すると誤った測定をもたらすため、気泡の有無を検出する装置および方法が望まれている。
【0003】
すでに気泡の影響を排除するために、多数の提案がなされている。例えば特許文献1は、液体で満たされた測定セル内の気泡を検出することを目的とした発明であり、液中に気泡が存在すると、圧力の変化に伴い、液体の導電率に変化が起きることを利用している。測定セル内に引圧をかけ、圧力変動前後での液体の導電率を測定し、測定値を比較することで液中の気泡の有無を推定する例が提示されている。
【0004】
また、特許文献2は、自動分注装置のチップ内の検体に近赤外光を照射し、気泡の検出を行っている発明である。まず、発光体から発生した近赤外光をビーム状とし、液体を加えたチップを一定方向に動かし、透過光をスキャンし、その後、気泡の生じない状態で液体を入れた際の透過光量レベルと比較することで、気泡の発生を判断している。
【0005】
しかしながら、光学検出を原理とする計測装置において、計測結果に影響を及ぼす計測対象領域に発生する気泡を選択的にかつ新たな計測手段を追加することなく実現する手法は開示されていない。
【特許文献1】特開2005−55446号公報
【特許文献2】特開平2−262034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記背景に鑑みてなされたものである。その目的は、液体試料内の標的物質の検出を光学特性値を用いて検出する標的物質検出装置において、検出対象領域に存在し、かつ光学計測に影響を与える気泡の有無を検出する機能を備えた標的物質検出装置および、気泡検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
液体試料中の標的物質の有無あるいは量を光学特性値を用いて検出する標的物質検出装置であって、
前記標的物質検出装置が、
前記液体試料を保持する試料保持部と、
前記試料保持部が有する測定領域内の液体試料の圧力を変化させる圧力可変機構と、
前記測定領域内の前記液体試料の光学特性値を検出するための光学計測部と、
前記圧力可変機構によって前記液体試料の圧力を変化させかつ前記圧力可変機構によって変化した圧力値を含む複数の圧力値の各々において前記光学計測部で前記光学特性値を取得するよう制御する制御部と、を有することを特徴とする標的物質検出装置である。
【0008】
また、別の本発明は、
標的物質検出装置に保持される液体試料中の気泡の有無を検出する方法であって、
前記標的物質検出装置が有する試料保持部の測定領域における液体試料の圧力が第1の圧力である場合の前記液体試料の光学特性値を測定する工程と、
前記測定領域の前記液体試料の圧力を第1の圧力から第2の圧力へと変化させる工程と、
前記測定領域の前記液体試料の圧力が前記第2の圧力である場合の前記液体試料の前記光学特性値を測定する工程と、
前記第1の圧力における前記光学特性値と前記第2の圧力における前記光学特性値とから前記測定領域の前記液体試料における気泡の有無を判定する工程と、
を少なくとも有することを特徴とする液体試料中の気泡検出方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、計測値に影響を与える気泡の存在を的確に検知することができる。これにより、気泡の影響によってもたらされる誤測定値の検知を未然に防ぐことができ、また、その場で測定のやり直しが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
本発明の標的物質検出装置は、
液体試料中の標的物質の有無あるいは量を光学特性値を用いて検出する標的物質検出装置であって、
前記標的物質検出装置が、
前記液体試料を保持する試料保持部と、
前記試料保持部が有する測定領域内の液体試料の圧力を変化させる圧力可変機構と、
前記試料測定部の光学特性値を検出するための光学計測部と、
前記圧力可変機構によって前記液体試料の圧力を変化させかつ前記圧力可変機構によって変化した圧力値を含む複数の圧力値の各々において前記光学計測部で前記光学特性値を取得するよう制御する制御部とを有することを特徴とする標的物質検出装置である。本発明の標的物質検出装置は、光学計測部によって取得された光学特性値から試料保持部が有する測定領域の液体試料における気泡の有無を判定する判定機構を更に有することが好ましい。
【0011】
図1に本発明の標的物質検出装置の一例を示す。
【0012】
図1の標的物質検出装置は、少なくとも、光学計測部、試料保持部1、圧力可変機構部5、制御部(図示せず)を有している。
【0013】
(光学計測部)
光学計測部は、試料測定部内の液体試料における気泡の有無を判定するための光学特性値を取得する光学計測部である。本発明の標的物質検出装置は、液体試料中の標的物質の有無を光学的特性値を測定することにより検出する手段として、標的物質の有無を検出するための光学計測部を有する構成とすることができる。よって、本発明の装置は、液体試料における気泡の有無を判定するために液体試料の光学特性値を取得(検出)するための光学計測部と、液体試料中の標的物質を検出すための光学計測部とは別個に備える構成としてもよい。標的物質を検出するための光学特性値の種類と液体試料における気泡の有無を判定するための液体試料の光学特性値の種類が同一である場合は、両者の光学特性値を検出する光学計測部として同一の光学計測部を用いることが好ましい。
【0014】
光学計測部は、後述する試料保持部1の測定領域10に光を照射する投光部2、および測定領域10からの出射光を受光する受光部3を少なくとも有している。
【0015】
また、投光部2は少なくとも光源4を有している。光源4としては、特定範囲の波長の光を照射するものであっても良いし、単一の波長の光を照射する構成としてもよい。特定範囲の波長の光を照射する光源の例としては、例えば、可視光範囲で安定したスペクトルを有するハロゲンランプ、タングステンランプ、キセノンフラッシュなどの白色光源が利用可能である。また、これらに、モノクロメーター分光器を配置しても良いし、特定範囲の波長の光のみ透過するバンドパスフィルターを組み合わせても良い。
【0016】
受光部3は、測定領域から出射する光を受光し、光量あるいは、波長毎の光量値であるスペクトルデータが取得できれば制限はない。光量値を取得する手段としての受光部の例としては、フォトダイオード、光電子倍増管などが挙げられる。また、スペクトルデータを取得する受光部の例としては、モノクロメーター、ポリクロメーターのような分光器があげられる。なお、測定領域から出射し受光部で受光する光は、透過光であっても良く、反射光もしくは散乱光であっても良い。
【0017】
また、投光部2は、光源4の他に、検出光を検出素子に照射する際に検出光のサイズを調整できる集光光学系や、平行光とするためのコリメート光学系が含まれていることが好ましい。
【0018】
なお、化学発光法などによって、測定領域での自発光シグナルを受光する形態をとることも可能である。このような場合、当然のことながら、前述した投光部2は不要となる。また、検出素子から発生する蛍光法を用いて検出を行なう場合は、光源側、受光側双方に蛍光フィルタが必要となる。
【0019】
なお、気泡の有無を判定するための光学特性値の種類は、標的物質を検出するための光学特性値の種類は同一であることが好ましい。例えば、気泡の有無の判定を透過光を用いて行う場合は、標的物質の検出も透過光を用いて行うことが好ましい。したがって、気泡の有無を判定するための光学特性値を取得する光学計測部は、標的物質を検出するための光学計測部と同一であると良い。すなわち、気泡の有無を判定するための光学特性値を取得する光源および受光部は、標的物質を検出するための光源および受光部とそれぞれ同一であることが好ましい。なお、光学特性値とは、光学的な特性を示す値のことである。光学的特性としてスペクトルを測定する場合は光学特性値とはスペクトルの強度あるいは光量を指す。
【0020】
また、気泡の有無を検出する光の波長は、標的物質を検出する際に用いる波長を用いてもよいし、水の特徴的な吸収を用いた、近赤外領域の吸収の変化をもちいても構わない。
【0021】
(試料保持部)
試料保持部1は、液体試料を保持する機能を有する。
【0022】
試料保持部1としては、試料保持部中の液体試料の圧力を調整できるように密閉状態にして用いることができ、かつ後に説明する圧力可変機構部5の圧力変化に耐えうる機械的強度を有していれば、特に限定されない。したがって、試料保持部の形状としては、例えば、図1に示すようなキュベットタイプであってもよいし、図2に示すような流路タイプであってもよい。このような試料保持部としては、例えば、両端に開口を有するチューブ状の容器であっても開口端を閉栓して用いることができる。
【0023】
また、図2に示すように、試料保持部1は、光学計測部により光学検出(測定)を行う領域である測定領域10を有する。
【0024】
液体試料の光学特性値を透過光を用いて検出する場合、試料保持部1のうちの測定領域10は、光学計測に用いる波長において、光透過性を有している必要がある。これらの条件を満たす限りにおいては、形状、材質など任意のものを用いることができる。このような試料測定部に用いることができる材料の例としては、ガラス、石英、ポリカーボネートやポリスチレンなどの樹脂などが挙げられる。なお、試料測定部を光透過性の材料によって構成すれば、試料保持部の測定領域以外の部位は非透過性の材料を用いて構成しても構わない。
なお、標的物質の検出方法に関しては、後述するような方法が挙げられるが、プラズモン共鳴法など検出素子6を必要とする検出方法を用いる場合は、試料保持部1の測定領域10に検出素子6を担持することが必要となる。
【0025】
(圧力可変機構)
圧力可変機構5としては、空気圧変化を利用したポンプ機構および水圧変化を利用したポンプ機構を用いることが可能である。また、往復動ポンプや回転ポンプを用いることができる。このようなポンプの例としては、シリンジポンプ、ブランジャポンプ、ダイヤフラムポンプ、ベーンポンプ、スクリューポンプ、チューブポンプ、ターボポンプなどを挙げることができる。
【0026】
また、圧力可変機構5は、試料保持部内の圧力を検知するための圧力センサを有していることが好ましい。
【0027】
また、圧力可変機構部5によって変化させる圧力値の範囲は、容器や機器の耐え得る範囲であればよいが、より好ましくは1atm以下であることが好ましい。なお、圧力変化は、正圧を用いることが好ましい。
【0028】
(制御部)
制御部は、前記圧力可変機構によって前記液体試料の圧力を変化させかつ前記圧力可変機構によって変化した圧力値を含む複数の圧力値の各々において前記光学計測部で前記光学特性値を取得するよう制御する制御部である。より具体的には、例えば、前記複数の圧力値が2つであり、それぞれ、第1の圧力、第2の圧力である場合、前記制御部は、前記試料保持部の測定領域内の液体試料が第1の圧力である際の光学特性値Aを取得し、圧力可変機構によって前記液体試料の圧力を第1の圧力から第2の圧力へと変化させ、第2の圧力における光学特性値Bを取得するよう制御する。このような制御は制御部によって自動的に行われることが好ましい。なお、制御部は、複数の圧力値が3つ以上であっても、圧力可変機構によって各々の圧力値とし、各々の圧力値における光学特性値を取得するよう制御するものとする。
【0029】
また、以下に、本発明の標的物質検出装置によって検出される標的物質および標的物質の検出方法について記載する。
【0030】
(標的物質)
標的物質検出装置が検出対象とする標的物質としては、非生体物質と生体物質に大別される。非生体物質とて産業上利用価値の大きいものとしては、環境汚染物質としての塩素置換数/位置の異なるPCB類、同じく塩素置換数/位置の異なるダイオキシン類、いわゆる環境ホルモンと呼ばれる内分泌撹乱物質等が挙げられる。
【0031】
生体物質としては、核酸、タンパク質、糖鎖、脂質およびそれらの複合体から選択される生体物質が含まれ、さらに詳しくは、核酸、タンパク質、糖鎖、脂質から選択される生体分子を含んでなるものなどが挙げられる。具体的には、DNA、RNA、アプタマー、遺伝子、染色体、細胞膜、ウイルス、抗原、抗体、レクチン、ハプテン、ホルモン、レセプター、酵素、ペプチド、スフィンゴ糖、スフィンゴ糖脂質のいずれかを含む如何なる物質にも本発明を適用することができる。
【0032】
(標的物質の検出方法)
標的物質の検出方法は、検体中の標的物質の存在によって、光学特性値が変化することを利用して検出する検出方法であれば特に制約はない。このような検出方法としては、酵素比色法に代表される吸光度計測を原理とする生化学検査法や以下の原理による免疫計測法などを用いることができる。免疫計測法としては、酵素免疫測定法(ELISA)、蛍光酵素測定法 (FEIA)、蛍光標識法、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、ラテックス凝集法、金コロイド凝集法、ネフェロメトリ法、表面プラズモン共鳴法(SPR)、局在表面プラズモン共鳴法(LSPR)が挙げられる。例えば、ELISA、FEIA、CLEIA等酵素を用いた免疫法では、リガンド−標的物質複合体にさらに酵素標識した第二の捕捉体を結合させた後、基質を加え、吸光度を光学特性値として測定することで標的物質の濃度を測定することが可能である。一方、SPR、LSPRのプラズモン共鳴を用いた手法では、金属プラズモンの共鳴条件が界面物質の屈折率変化によって変わることを利用して、金属薄膜や金属の微粒子の上に固定化されたリガンドに結合する標的物質の濃度を測定することが可能である。なお、液中の物質の有無あるいは量を光学的特性により検出する装置はこれらに限られることなく、光を照射し、測定領域からの出射光(例えば、透過光、反射光、散乱光、標的物質の標識からの蛍光もしくは発光)を測定する方法であればよい。測定する所定波長は、所定波長帯域のスペクトルまたは単一の波長のいずれであってもよい。また、標的物質検出装置は、以下に記載する気泡判定機構を有することが好ましい。標的物質検出装置が気泡判定機構を有することにより、操作者が測定領域内の液体試料中における気泡の有無を容易に認識することが可能となる。しかしながら、操作者が光学特性値の変化を見て、気泡の有無を判定する場合においては、気泡判定機構を有していなくてもよい。
【0033】
(気泡判定機構)
気泡判定機構は、前記複数の圧力値の各々で取得された光学特性値により測定領域内の液体試料における気泡の有無を判定する機能を有する。より具体的には、例えば、前記複数の圧力値が2つの圧力値である場合、試料保持部の測定領域内の液体試料が第1の圧力である際に取得される光学特性値と、圧力可変機構によって前記液体試料の圧力が第1の圧力から第2の圧力へと変化した際の第2の圧力において取得される光学特性値とを比較することによって測定領域内の液体試料における気泡の有無を判定する機構である。なお、気泡判定機構は、複数の圧力値が3つ以上であっても、各々の圧力値において取得される光学特性値を比較する。
【0034】
次に、本発明の気泡検出方法について述べる。
【0035】
(気泡検出方法)
本発明の気泡検出方法は、
液体試料中の気泡の有無を検出する方法であって、
(1)前記標的物質検出装置が有する試料保持部の測定領域における液体試料の圧力が第1の圧力である場合の光学特性値を測定する工程と、
(2)前記測定領域の前記液体試料の圧力を第1の圧力から第2の圧力へと変化させる工程と、
(3)前記測定領域の前記液体試料の圧力が前記第2の圧力である場合の前記液体試料の光学特性値を測定する工程と
(4)前記第1の圧力における前記光学特性値と前記第2の圧力における前記光学特性値とから前記測定領域の前記液体試料における気泡の有無を判定する工程と、
を少なくとも有することを特徴とする液体試料中の気泡検出方法である。
【0036】
本発明の気泡検出方法を適用できる標的物質検出装置は、液体試料を保持するための試料保持部を有し、試料保持部に光学特性値を測定するために測定領域を有している。このような気泡検出方法は、例えば前述した標的物質検出装置を用いて行うことが可能である。
【0037】
以下、気泡検出方法の各工程について述べる。
(1)の工程では、液体試料の圧力が第1の圧力である場合の測定領域内の光学特性値(具体的に得られる値を光学特性値Aとする)を標的物質検出装置が有する光学計測部によって測定する。ここでの第1の圧力は、(2)の工程で用いる圧力可変機構によって調整された圧力であっても良いし、調整されていない圧力であっても良い。また、前述したように本工程で検出する光学特性値の種類は、前述したように、液体試料中の標的物質の有無あるいは量の測定に用いる光学特性値の種類と同一であることが好ましい。したがって、例えば、液体試料中の標的物質の有無あるいは量を透過スペクトルを用いて検出する場合は、測定領域の気泡の有無の判定に用いる光学特性値に透過スペクトルを用いて検出することが好ましい。なお、本工程中に、第1の圧力で繰り返し光学特定値を取得して、測定誤差を求め、その値をトレランスとすることもできる。
(2)の工程では、少なくとも液体試料の測定領域の圧力を圧力可変機構によって第1の圧力から第2の圧力へと変化させる。測定領域内の圧力を変化させる場合、測定領域の圧力を変化させることができれば、液体試料全体の圧力を変化させても良いし、測定領域の圧力のみを変化させるだけでも良い。なお、第2の圧力は、圧力可変機構によって変化させた後の圧力であっても良く、変化させている過程の圧力であっても良い。(3)の工程では、前記液体試料の圧力が第2の圧力である場合の前記液体試料の光学特性値(具体的に得られる値を光学特性値Bとする)を測定する工程である。(1)の工程で測定される光学特性値と(3)の工程で測定される光学特性値とは、同一種類(例えばともに透過スペクトル)であって、同一条件(例えば同一波長あるいは同一波長範囲)に設定して測定される。
(4)の工程では、(1)の工程で取得した光学特性値と(3)の工程で取得した光学特性値とによって、測定領域内の液体試料において気泡が存在するか否かを判定する工程である。
【0038】
この光学的特性の変化の判定の基準は、気泡を含む試料と気泡を含まない試料について実際に用いる光学測定方法により光学的特性を測定することで予備的に求めることで設定することができる。
【0039】
気泡検出方法の具体的な作業手順を以下に示す。また、フローチャートを図3に示す。
i)予め第1の圧力で繰り返し光学測定を行い、測定誤差を求めておく。
ii)測定誤差を基準に、トレランスを決め、装置のdisplayに入力する。
iii)圧力を第1の圧力から第2の圧力へと変化させて光学特性値を取得する。
iv)その後、圧力差に対する計測値演算を行う。
v)トレランスに基づき、displayにエラー表示あるいは測定値の表示を行う。
【0040】
なお、圧力可変機構部と光学計測部に同時にサンプル指示を出し、圧力を変化させる過程において、圧力センサ出力値と光学測定値をリアルタイムにモニタリングすることで、そのグラグの傾きから気泡の有無を検知することも可能である。
【0041】
また、(i)及び(ii)に関しては、毎回、測定する必要はなく、以前の測定結果から測定誤差を求め、その値をトレランスとして設定することも可能である。また、気泡を含む試料と気泡を含まない試料について実際に用いる光学測定方法により光学特性値を測定することで予備的に求めることで設定することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0043】
<実施例1>
本実施例は酵素免疫(ELISA)法を利用し、前立腺特異抗原(PSA)の検出をする例である。
【0044】
(装置の構成)
本実施例で使用する標的物質検出装置の模式図を図1に、制御ブロック図を図4に示す。
【0045】
標的物質検出装置は、図1に示すように圧力可変機構部5としてピストンポンプを備えている。また、その他に、試料保持部1としてプラスチック製のキュベット、液体の透過スペクトルを測定するための光源4としてハロゲンランプ、光源から出射する光を一定幅に波束を広げた平行光にするレンズ、および受光部3を備えているものとする。
【0046】
また、標的物質検出装置には、キュベット内の圧力を変動するために駆動式の蓋が付いており、この蓋にはキュベットとの密着性を高めるためのOリング、そしてキュベット内の圧力を検知する圧力センサを兼ね備えている。この駆動式の蓋とポンプはテフロンチューブでつながっており、キュベット内外を遮断および開放を切り替えるための電磁弁があるものとする。
【0047】
また、標的物質検出装置には、検体、酵素基質、洗浄溶液などの反応溶液を加えるための分注機構を有しており、ポンプに圧力をかけることによって溶液がキュベット内に滴下されるような機構を有している。
【0048】
さらに、標的物質検出装置には、不要な溶液をキュベット内より排除するための吸引ノズル機構も有している。
【0049】
なお、図中符号7は測定領域に存在している気泡を示すものである。この気泡が検出されなければ測定値を歪めることになる。
【0050】
制御ブロック図を説明すると、図4のkeyboard(キーボード)に入力した信号が、CPUから点灯制御回路に信号が伝わることで、光源から検出素子に光が照射され、素子からの出力光を分光測定器が受光し、この値がCPUに伝わるものとする。その後、圧力を変化させるためにkeyboardに変化させる圧力を入力し、CPUからポンプユニットに圧力変動の信号が伝わり、前述した機構で、出力光が検出されるものとする。なお、CPUは検出した特性変化を演算し、検出結果を表示するdisplay(ディスプレイ)に表示する。
【0051】
(反応キュベットの作成)
反応キュベットは、ポリスチレン製の四角柱状のキュベットを用いることとする。
【0052】
一次抗体として抗PSA抗体を使用し、図5に示すようにキュベット内に抗PSA抗体の固定化を行う。抗PSA抗体をリン酸緩衝液に溶解させ、キュベット内に加えることで37℃、30分反応させることで壁面に物理吸着で固定化する。その後、結合していない抗体を除くためにリン酸緩衝液で洗浄する。
【0053】
(二次抗体溶液)
本実施例では、PIERCE社製 ImmunoPureR Horseradish Peroxidase(HRP)を用いて作製したHRP標識化抗PSA抗体を二次抗体として用いる。ここでは酵素としてHPRを用いたが、PIERCE社製の他の標識化kitを用いて、例えばアルカリフォスファターゼ(ALP)標識抗体を作製し、用いることも可能である。ただし、その場合、その酵素に応じた基質、検出波長を用いる必要がある。ここで用いる抗PSA抗体は、一次抗体とは別の結合サイトを認識するものを用いる。
【0054】
(標的物質検出方法および気泡検出方法)
本実施例では、図5に示すように2ステップサンドイッチ法によりPSAの検出を行う。まず、上述した手順で作製した反応キュベットにPSAを含む検体溶液を加え、37℃で30分間反応させる(一次反応)。その後、リン酸緩衝液にて洗浄することで結合していないPSAを除く。次にHRP標識化抗PSA抗体を加え攪拌し、37℃で30分間反応させる(二次反応)。その後、リン酸緩衝液にて洗浄することで結合していないHRP標識化抗PSA抗体を除く。H2O2を含む基質、ここではo-フェニレンジアミンを加え、37℃で5分間反応させる(酵素反応)。図1に示す位置関係に試料保持部、光源、受光部を配置し、電磁弁を閉めた状態で吸収スペクトルを取得する。なお、本実施例においては波長490nmの吸光度を見ることで標的物質の結合を確認することが可能である。また、ここで、気泡検出の判断に用いるトレランス値を設定するために、予め第1の圧力における吸収スペクトルの取得を数回行い、測定誤差を求めておくことが好ましい。本実施例においては、1450nmの波長データにおいて測定誤差を求めておく。ここでは圧力を一定とするため、電磁弁を閉めた状態で測定するが、圧力をモニタ可能な場合においては電磁弁を開けた状態で測定してもよい。次に、計測結果に誤りがないかを判断するために、測定領域の気泡の有無を調べるための気泡検出を行う(図6)。電磁弁を閉じた状態で、シリンジポンプを加圧方向に駆動する。このことによってキュベット内の溶液を加圧する。この圧力変化量はキュベットの耐性によって異なるが0.5atm以下であることが好ましい。圧力センサが予め定めた第2の圧力となる位置でピストンポンプを停止させ、再度、吸収スペクトルを測定する。加圧前後での水の吸収波長である1450nm付近の吸光度に変化が見られる場合は、その変動値をトレランス値と比較することで測定領域に気泡があることが推定されるので、操作者に対して、再計測を促すメッセージ表示を行う。また、自動的に検体のサンプリングより再検査を自動実行しても構わない。本実施例では、標的物質量検出に用いる波長490nmと気泡の有無の確認に用いる波長1450nmを別個に用いているが、490nmの波長単体で実施してもかまわない。
【0055】
なお、今回は加圧前後での吸光度を比較することで気泡の有無を検出しているが、圧力センサを設置し、加圧の過程における吸光度をモニタリングし、吸光度の変動から気泡の有無を推定することも可能である。なお、本実施例では、キュベット内に一次抗体を固定化するが、微粒子に固定化し、攪拌分散させた状態で抗原抗体反応を行うことも可能である。なお、このような場合、抗体を固定化させた微粒子の回収には、遠心分離、または微粒子が磁性粒子である場合には磁力を用いることが好ましい。
【0056】
<実施例2>
本実施例は局在表面プラズモン(LSPR)法を利用し、アレルギー疾患の鑑別に用いられている総IgE抗体量を調べる例である。よって、試料測定部となる試料保持部の測定領域に検出用素子を設置している。
【0057】
(装置の構成)
本実施例で使用する装置の模式図を図2に制御ブロック図を図8に示す。
【0058】
装置は、図2に示すように、圧力可変機構部5としてピストンポンプ、流路系タイプ(流路形状)の試料保持部1、液体の透過スペクトルを測定するための光源4および受光部3、入口弁8、出口弁9を備えている。なお、図中符号6は液中の物質の有無あるいは量を測定するための検出素子であり、7は検出素子上でかつ測定領域に存在する気泡を示すものである。この気泡が検出されなければこの測定値を歪めることになる。
【0059】
なお、この他には図示しないが検出した特性変化を演算する演算装置、検出結果を表示する表示装置などが備えられている。
【0060】
(試料保持部の構成)
本実施例の流路はポリスチレン樹脂を用いて成型する。流路は、幅100μm、深さ100μmの短形形状とする。紫外線硬化型接着剤を用い、後に説明する方法で作製した検出素子と貼り合わせる。なお、検出素子には、予めインプットとアウトプット用の貫通孔を空けてあり、送液系の装置との接続に用いる。
【0061】
(検出素子の作製)
検出素子は膜厚20nmの金(Au)薄膜を525μm厚の石英基板上にバインダーであるチタン(Ti)膜を介して形成し、その上に電子線レジストをスピンコートにより成膜し、電子線描画装置で露光し、現像後レジストパターンを得る。その後、不要な金薄膜をエッチングし、レジストを除いて金属構造体(200nm×200nm)を得る。各パターンは250nmのスペースをあけてアレイ状に配置されている。金属構造体の平面形状は走査型電子顕微鏡(SEM)画像によって確認する。電子線描画装置の他、集束イオンビーム加工装置、X線露光装置、EUV露光装置によるパターニングで作製することもできる。次に、図2に示す位置関係に検出素子、光源、受光部を配置し、リン酸緩衝液中でスペクトルを検出する。本実施例に用いる検出素子の吸収スペクトルは900nm近傍にピーク波長を有している。
【0062】
次にリン酸緩衝液に溶解させた抗IgE抗体を検出素子上に固定化する。なお、リン酸緩衝液を流すことで結合していない抗IgE抗体を除く。次に再度、図2に示す位置関係に検出素子、光源、受光部を配置し、スペクトルを検出する。抗体供給前後でのスペクトル変化は、検出素子ここでは金パターンのプラズモン共鳴状態の変化に由来するものであり、検出素子表面に抗IgE抗体が結合したことを意味する。よってスペクトル変化を検出することで抗IgE抗体が固定化されたことを確認することが可能である。
【0063】
(標的物質検出方法および気泡検出方法)
次にこのようにして得られた抗IgE抗体固定化検出素子を用いて検体、ここでは血清中の総IgE抗体量を調べる。まず、リン酸緩衝液を加え、図2に示す位置関係に検出素子、光源、受光部を配置し、スペクトルを検出する。この際、計測結果に誤りがないかを判断するために、測定領域の気泡の有無を調べるための検査を行う。本実施例においては、水のスペクトル変化から気泡の有無を判断する。なお、ここで、後に必要となる気泡検出の判断に用いる基準値を調べておくことが好ましい。具体的には図2に示す位置関係に検出素子、光源、受光部を配置し、200〜1500nmの範囲で測定を数回行い、リン酸緩衝液中のスペクトルを得る。測定を数回繰り返すことで、水の吸収波長である1450nmの吸光度の測定誤差を算出し、その値を参考としてトレランス値を設定する。
【0064】
まず、入口弁8を閉めた状態でシリンジポンプ5によって検出用反応容器に正圧を生じさせる。この圧力変化量は光学検出部の透過断面積に応じて異なるが0.5atm以下であることが好ましい。このようにして検出用反応容器内の圧力を変動させた後、再度、測定を行う。圧力変動前後での透過スペクトルを比較し、測定領域の気泡の有無を検出する。
【0065】
気泡が存在する場合は、測定セル内を正圧にすると、気泡の圧縮に伴い、吸収スペクトルが変化(吸光の増大)するため、測定領域の気泡の有無を判断することが可能となる。図7は加圧前後での水の吸収波長である1450nm近傍のスペクトル変化である。このように水の吸光度に変化が見られ、その変動値がトレランスに設定した値より大きければ、測定領域に気泡があることが推定されるので、再計測を促すメッセージ表示を行う。一方、変動値がトレランス以下であれば、気泡がないと判断され、測定値が表記される。このようにして気泡が含まれていない状態で測定を行った後、検体を添加し、37℃、30分間、抗IgE抗体と反応させる。その後、リン酸緩衝液を加えることで結合していない物質を除き、スペクトルを検出する。その後、再度、測定領域の気泡の有無を確認する。
【0066】
検体液添加前後のスペクトル変化は、金パターン表面で抗原抗体反応が起こり、捕捉体により標的物質が捕捉されたことを意味する。よってスペクトル変化を検出することで、検体中の標的物質を検出することが可能となる。
【0067】
また、ここでスペクトルの変化と標的物質の量との関係については、あらかじめ、既知の複数濃度の標準検体を用いて、スペクトル変化と濃度の関係を取得していてもよい。この関係をもとに検量線を求め、スペクトル変化と濃度の関数を求めておけば、この関数を用いて、実際の計測時のスペクトル変化から標的物質濃度を求めることができる。
【0068】
なお、ここではスペクトルの変化と記載したが、このスペクトル変化は、最大値をもつ波長でのスペクトルの強度あるいは光量の変化でもよいし、スペクトルピークの波形の半値幅などピーク形状の変化を用いてもよい。さらには、一つあるいは、複数の波長点での光強度の変化を用いても構わない。
【0069】
なお、電気的に説明すると、図8に示すようにkeyboardに入力した信号が、CPUから点灯制御回路に信号が伝わることで、光源から検出素子に光が照射され、素子からの出力光を分光測定器が受光し、この値がCPUに伝わるものとする。また、入口弁や出口弁の開閉においてもCPUから信号が伝わって動作することが好ましい。その後、圧力の変動を行うためにkeyboardに入力し、CPUからポンプユニットに圧力変動の信号が伝わり、先ほどの同様の機構で、出力光が検出されるものとする。なお、CPUは検出した特性変化を演算し、検出結果を表示するdisplayに表示するとより好ましい。
【0070】
以上説明したように、計測値に影響を与えている気泡の存在を同一光学系にて検知することができる。また、その場で的確に検知することが可能なため、即座に再検査を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の気泡検出装置(固相系)を示す模式図である。
【図2】本発明の気泡検出装置(流路系)を示す模式図である。
【図3】本発明の気泡検出手段のフローチャートである。
【図4】本発明の気泡検出装置(固相系)における装置の電気系ブロック図である。
【図5】実施例1における反応容器内の反応の模式図である。
【図6】本発明の気泡検出方法の一例を示す模式図である。
【図7】実施例1における測定領域に気泡が存在する場合の圧力変動前後での水の吸収スペ クトル変化のイメージである。
【図8】本発明の気泡検出装置(流路系)における装置の電気系ブロック図である。
【符号の説明】
【0072】
1 試料保持部
2 投光部
3 受光部
4 光源
5 圧力可変機構部
6 検出素子
7 測定領域に存在する気泡
8 入口弁
9 出口弁
10 測定領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中の標的物質の有無あるいは量を光学特性値を用いて検出する標的物質検出装置であって、
前記標的物質検出装置が、
前記液体試料を保持する試料保持部と、
前記試料保持部が有する測定領域内の液体試料の圧力を変化させる圧力可変機構と、
前記測定領域内の前記液体試料の光学特性値を検出するための光学計測部と、
前記圧力可変機構によって前記液体試料の圧力を変化させかつ前記圧力可変機構によって変化した圧力値を含む複数の圧力値の各々において前記光学計測部で前記光学特性値を取得するよう制御する制御部と、を有することを特徴とする標的物質検出装置。
【請求項2】
前記複数の圧力値の各々で取得された前記光学特性値により、前記測定領域内の液体試料における気泡の有無を判定する判定機構を有することを特徴とする請求項1に記載の標的物質検出装置。
【請求項3】
前記光学計測部が前記液体試料中の標的物質の有無あるいは量を検出するための光学計測部と同一であることを特徴とする請求項1または2に記載の標的物質検出装置。
【請求項4】
前記光学計測部が検出する光学特性値として、透過スペクトルの強度を利用することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の標的物質検出装置。
【請求項5】
標的物質検出装置に保持される液体試料中の気泡の有無を検出する方法であって、
前記標的物質検出装置が有する試料保持部の測定領域における液体試料の圧力が第1の圧力である場合の前記液体試料の光学特性値を測定する工程と、
前記測定領域の前記液体試料の圧力を第1の圧力から第2の圧力へと変化させる工程と、
前記測定領域の前記液体試料の圧力が前記第2の圧力である場合の前記液体試料の前記光学特性値を測定する工程と、
前記第1の圧力における前記光学特性値と前記第2の圧力における前記光学特性値とから前記測定領域の前記液体試料における気泡の有無を判定する工程と、
を少なくとも有することを特徴とする液体試料中の気泡検出方法。
【請求項6】
前記標的物質検出装置が、光学特性値を用いて標的物質を検出することを特徴とする請求項5に記載の気泡検出方法。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載の標的物質検出装置に用いる請求項6に記載の液体試料の気泡検出方法。
【請求項8】
前記液体試料の光学特性値として、前記標的物質の測定に用いる光学特性値と同じ種類の光学特性値を利用することを特徴とする請求項6または7に記載の液体試料の気泡検出方法。
【請求項9】
前記液体試料の光学特性値として、透過スペクトルの強度を利用することを特徴とする請求項5乃至8のいずれか一項に記載の気泡検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−281526(P2008−281526A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128192(P2007−128192)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】