説明

気象レーダシステム及びそれに用いられる信号処理方法

【課題】 安定した性能により受信した信号の有意性を判定可能とする。
【解決手段】 発射した電波の反射信号を受信して受信強度情報を検出し、この受信強度情報を用いて気象情報を取得する。受信した反射信号について直交位相検波を行う直交位相検波部11と、該直交位相検波部11の出力について高速フーリエ変換処理を行ってパワースペクトラムを求めるFFT処理部12と、前記FFT処理部12の出力に基づいて受信信号のトータルパワーを算出するトータルパワー算出部13と、前記FFT処理部12の出力したスペクトラムをIQ平面においてベクトル合成するベクトル合成部14と、算出されたトータルパワーと合成されたベクトルとに基づき、前記受信した信号に含まれるノイズ成分量を検出して、前記受信信号の有意性を判定する判定部15とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、風速や雨量観測を行うことの可能な気象レーダシステム及びそれに用いられる信号処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、発射した電波の反射信号を受信し、受信した信号に基づき気象観測を行うドップラ気象レーダシステムが開発されるに至り、比較的高精度な気象観測が可能となっている。このドップラ気象レーダシステムにおいては、突発的に干渉波が増大することがあり、これによる誤観測を避けるために、ノイズ検出を行っている。
【0003】
従来のノイズ検出の手法は、FFT(高速フーリエ変換)処理による周波数解析を行って得られたスペクトラムにおいて、周波数軸に沿ってスキャンを行い、ピークパワーを検出し、その周波数周辺の信号を真値(信号成分)とし、それ以外をノイズ成分として処理を行っていた。例えば、特許文献1に示されるものにあっては、FFT処理によるパワースペクトルから信号スペクトルのピークを検出し、ドップラ周波数から大気の視線方向速度を算出している。
【特許文献1】特開2002−168948号公報(0029、0030欄)
【0004】
しかしながら、上記手法では、ピークパワー検出の精度が不十分であり、これが原因となって性能が悪いという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明が解決しようとする課題は、従来の手法では、ピークパワー検出の精度が不十分であり、これが原因となって性能が悪いという問題を解決し、ピークパワー検出の精度に影響されることなく、安定した性能により受信した信号の有意性を判定可能な気象レーダシステム及びそれに用いられる信号処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る気象レーダシステムは、発射した電波の反射信号を受信し、受信した信号に基づき受信強度情報を検出し、この受信強度情報を用いて気象情報を取得する気象レーダシステムにおいて、受信した反射信号について直交位相検波を行う直交位相検波部と、前記直交位相検波部の出力について高速フーリエ変換処理を行ってパワースペクトラムを求めるFFT処理部と、前記FFT処理部の出力に基づいて前記受信した信号のトータルパワーを算出するトータルパワー算出部と、前記FFT処理部の出力したスペクトラムをIQ平面においてベクトル合成するベクトル合成部と、前記トータルパワー算出部により算出されたトータルパワーと前記ベクトル合成部の出力とに基づき、前記受信した信号に含まれるノイズ成分量を検出して、前記受信した信号の有意性を判定する判定部とを具備することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る気象レーダシステムは、前記判定部が、前記受信した信号について有意性なしと判定した場合には、当該受信した信号による気象情報取得を停止することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る気象レーダシステムでは、前記判定部は、前記トータルパワー算出部により算出されたトータルパワーから前記ベクトル合成部の出力を減算してノイズ成分Nを求め、前記ベクトル合成部の出力を信号成分SとしてS/Nを求め、該S/Nが所定閾値を超えていない場合に前記受信した信号について有意性なしと判定することを特徴としている。
【0009】
本発明に係る気象レーダシステムに用いられる信号処理方法は、発射した電波の反射信号を受信し、受信した信号に基づき受信強度情報を検出し、この受信強度情報を用いて気象情報を取得する気象レーダシステムに用いられる信号処理方法において、受信した反射信号について直交位相検波を行う直交位相検波ステップと、前記直交位相検波ステップにより得られた出力について高速フーリエ変換処理を行ってパワースペクトラムを求めるFFT処理ステップと、前記FFT処理ステップによる出力に基づいて前記受信した信号のトータルパワーを算出するトータルパワー算出ステップと、前記FFT処理ステップにより得られたスペクトラムをIQ平面においてベクトル合成するベクトル合成ステップと、前記トータルパワー算出ステップにより算出されたトータルパワーと前記ベクトル合成ステップによる出力とに基づき、前記受信した信号に含まれるノイズ成分量を検出して、前記受信した信号の有意性を判定する判定ステップとを具備することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る気象レーダシステムに用いられる信号処理方法は、前記判定ステップにおいて、前記受信した信号について有意性なしと判定した場合には、当該受信した信号による気象情報取得を停止することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る気象レーダシステムに用いられる信号処理方法は、前記判定ステップでは、前記トータルパワー算出ステップにより算出されたトータルパワーから前記ベクトル合成ステップによる出力を減算してノイズ成分Nを求め、前記ベクトル合成ステップによる出力を信号成分SとしてS/Nを求め、該S/Nが所定閾値を超えていない場合に前記受信した信号について有意性なしと判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、受信した信号のトータルパワーを算出し、FFT処理により得られたスペクトラムをIQ平面においてベクトル合成し、上記算出されたトータルパワーと上記ベクトル合成された結果とに基づき、受信した信号に含まれるノイズ成分量を検出するので、トータルパワーにはノイズ成分と信号成分が含まれ、ベクトル合成の結果には信号成分が含まれていると思料され、受信した信号の有意性を適切に安定して判定することができるものである。
【0013】
また本発明では、受信した信号について有意性なしと判定した場合には、当該受信した信号による気象情報取得を停止するので、突発的に干渉波が増大する場合に不当な気象情報が取得される不具合を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明では、受信した信号についてノイズ成分と信号成分が含まれるトータルパワーを算出し、FFT処理により得られたスペクトラムをIQ平面においてベクトル合成して信号成分を取得し、このように算出されたトータルパワーと上記ベクトル合成された結果とに基づき、受信した信号に含まれるノイズ成分量を検出するという手法により、ピークパワー検出の精度に影響されることなく、安定した性能により受信した信号の有意性を判定するという目的を達成したものである。
【実施例1】
【0015】
以下添付図面を参照して、本発明に係る気象レーダシステム及びそれに用いられる信号処理方法の実施例を説明する。各図において、同一の構成要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。図1には、気象レーダシステムに係る実施例の構成が示されている。この実施例においては、レーダ装置1により電波の発射を行って、雨滴などで反射した反射信号(反射エコー)を取り込み、受信機2へ送る構成を採用している。受信機2は、所定周波数の反射信号の取り出し、またダウンコンバートなどを行って、得られた信号を信号処理装置10へ送出する構成となっている。
【0016】
信号処理装置10は、直交位相検波部11、FFT処理部(高速フーリエ変換処理部)12、トータルパワー算出部13、ベクトル合成部14及び判定部15を具備している。直交位相検波部11は、受信した反射信号について直交位相検波を行うものであり、直交位相検波部11にてI(t)及びQ(t)が得られ、ディジタルデータとされてFFT処理部12へ送出される。
【0017】
FFT処理部12は、上記直交位相検波部11により得られたI(t)及びQ(t)のデータについて高速フーリエ変換を行ってパワースペクトラムを求めるものである。トータルパワー算出部13は、FFT処理部12の出力に基づいて受信した反射信号のトータルパワーを算出するものである。
【0018】
ベクトル合成部14は、上記FFT処理部12が出力したスペクトラムをIQ平面においてベクトル合成するものである。判定部15は、上記トータルパワー算出部13により算出されたトータルパワーと上記ベクトル合成部14の出力とに基づき、上記受信した反射信号に含まれるノイズ成分量を検出して、上記受信した反射信号の有意性(有効性)を判定するものである。
【0019】
トータルパワー算出部13の第1の構成例を図2に示す。この第1の構成例では、地形エコー除去部23、IFFT処理部(高速フーリエ逆変換処理部)24、地形エコー除去部25及び受信強度算出部26を具備している。
【0020】
地形エコー除去部23は、反射エコーに含まれる不要成分である地形エコー(建物等による反射エコー)成分を除去するものである。IFFT処理部24は、高速フーリエ変換を行って得られたパワースペクトラム(地形エコー除去されたもの)について高速フーリエ逆変換を行って元のI/Qデータへ戻すものである。
【0021】
IFFT処理部24の次段に設けられた地形エコー除去部25は、地形エコー除去部23によって取り除けなかった不要成分を除去するために補助的に設けられているもので、必ずしも必須の構成ではない。受信強度算出部26は、地形エコー除去部25により地形エコーの除去が行われたI/Qデータによる受信電力について総和を求める演算を行って受信強度情報を算出することによりトータルパワーを得るものである。
【0022】
図3に、トータルパワー算出部13の第2の構成例を示す。トータルパワー算出部13には、地形エコー除去部23及び受信強度算出部26Aを具備している。図2に示したIFFT処理部24、地形エコー除去部25は具備されていない。
【0023】
図2に示したシステムでは、IFFT処理部24により元のI(t)及びQ(t)に戻して、受信電力情報(Σ(I’(t)2 +Q’(t)2 ))を求めているが、図3に示した本例では、図4に示すように、FFT処理部12へ送出するI(t)及びQ(t)を用いて計算した受信電力(I(t)2 +Q(t)2 )のトータル面積(図4(a))と、FFT処理部12により得られたパワースペクトラム(I(f)2 +Q(f)2 )のトータル面積(図4(b))とが等しくなるという関係を得たことに基づき、IFFT処理部24による高速フーリエ逆変換を行うことなく、受信強度算出部26Aが適切な受信電力を、地形エコー除去部23によって地形エコー成分が除去されたパワースペクトラム(I’(f)2 +Q’(f)2 )から、その総和を算出して得ている。
【0024】
以上のように構成された気象レーダシステムの動作を説明する。レーダ装置1は、電波の発射を行って、雨滴などで反射した反射信号(反射エコー)を取り込み、受信機2へ送る。受信機2は、所定周波数の反射信号の取り出し、またダウンコンバートなどを行って、得られた信号を信号処理装置10へ送出する。
【0025】
直交位相検波部11は、受信機2から送られる受信した反射信号について、直交位相検波を行う。この結果、直交位相検波部11にてI(t)及びQ(t)が得られ、ディジタルデータとされてFFT処理部12へ送出される。FFT処理部12は、上記直交位相検波部11により得られたI(t)及びQ(t)のデータについて高速フーリエ変換を行ってパワースペクトラムを求める。この結果、図5に示されるように、各周波数に対応したスペクトラム(I(f)2 +Q(f)2 )が得られる。
【0026】
そして、トータルパワー算出部13が図2に示した構成を採用するときには、地形エコー除去部23にて、反射エコーに含まれる不要成分である地形エコー成分を除去し、IFFT処理部24により高速フーリエ逆変換を行って元のI/Qデータへ戻して、地形エコー除去部25により地形エコー除去部23によって取り除けなかった不要成分を除去し、受信強度算出部26にて、I/Qデータによる受信電力について総和を求める演算を行って受信強度情報を算出して、トータルパワー(Σ(I’(t)2 +Q’(t)2 ))を得て、判定部15及び気象情報取得装置30へ送出する。
【0027】
上記に対し、トータルパワー算出部13が図3に示した構成を採用するときには、トータルパワー算出部13は、FFT処理部12により得られたパワースペクトラム(I(f)2 +Q(f)2 )に基づき、IFFT処理部24による高速フーリエ逆変換を行うことなく適切な受信電力(トータルパワー)を(Σ(I’(f)2 +Q’(f)2 ))として、地形エコー除去部23によって地形エコー成分が除去されたパワースペクトラム(I’(f)2 +Q’(f)2 )から得る。トータルパワー算出部13の出力は、判定部15及び気象情報取得装置30へ送出される。
【0028】
ベクトル合成部14は、FFT処理部12により得られたパワースペクトラム(I(f)2 +Q(f)2 )に基づき、図6に示すようにIQ平面においてベクトル合成を行う。つまり、図5に示した各周波数に対応したスペクトラム(I(f)2 +Q(f)2 )は、周波数fが角速度ωと(ω=2πf)なる関係を持つから、各スペクトラムをIQ平面において、図6に示されるベクトルV1〜Vnと表すことができる。このベクトルV1〜Vnを合成して合成ベクトルVtotalを得る。ベクトル合成部14が合成して得られた合成ベクトルVtotalは、判定部15へ送られる。
【0029】
判定部15は、ベクトル合成部14から合成ベクトルVtotalを受け取ると共に、トータルパワー算出部13からトータルパワー(Σ(I’(t)2 +Q’(t)2 )或いはΣ(I’(f)2 +Q’(f)2 ))を受け取り、該トータルパワーからベクトル合成部14の出力に係る合成ベクトルVtotalの絶対値を減算してノイズ成分Nを求め、上記ベクトル合成部14の出力に係る合成ベクトルVtotalの絶対値を信号成分SとしてS/Nを求める。更に判定部15は、上記において求めたS/Nと所定閾値Thとを比較し、S/Nが所定閾値Thを超えていない場合に上記受信した反射信号について有意性なしと判定し、S/Nが所定閾値Th以上である場合には反射信号が有意性ありと判定する。
【0030】
上記において合成ベクトルVtotalの絶対値を信号成分(真値)Sとする理由は、ノイズは周波数に対してランダムに分布していると考えられることから、各周波数(位相角)に分布するベクトルV1〜Vnを合成すると、ノイズ成分が合成過程において相互にキャンセルし合い、トータルで0の大きさを持つことが予測される。これに対して、信号成分は各周波数(位相角)に分布するベクトルV1〜Vnを合成するときにキャンセルされることなく残存する。即ち、各周波数(位相角)に分布するベクトルV1〜Vnを合成して得られる合成ベクトルVtotalの大きさは、ほぼ信号(真値)成分として扱うことができる。
【0031】
一方、トータルパワー算出部13により得られるトータルパワーは、Σ(I’(t)2 +Q’(t)2 )或いはΣ(I’(f)2 +Q’(f)2 )であり、前者では時間軸に対応して、後者では周波数軸に対応して、夫々信号(真値)成分及びノイズ成分を含んでいるものを総和演算して得た値であるから、信号(真値)成分及びノイズ成分を含んでいるのである。従って、ベクトル合成部14の出力に係る合成ベクトルVtotalの絶対値は、信号成分Sと見做すことができ、また、トータルパワーからベクトル合成部14の出力に係る合成ベクトルVtotalの絶対値を減算して得られる値は、ノイズ成分Nと見做すことができるのである。
【0032】
判定部15による判定結果は、気象情報取得装置30へ送られる。気象情報取得装置30はトータルパワー算出部13の出力に基づいて、例えば、雨量情報を取得するものとする。この気象情報取得装置30では、レーダ方程式と称される計算式及びZ−R関係と称される統計的関係に基づき雨量情報を取得する。因みに、レーダ方程式は、Zをレーダ反射因子、受信電力(トータルパワー)をPr、レーダから雨滴までの距離をrとしたとき、Pr=(C・F・Z)/r2 という式である。ここに、Cはレーダ定数、Fは総合補正係数であり、雨滴の状態、レーダ等のハードウエアの要因により定まる数値である。上記レーダ反射因子Zが受信電力をPrが求まると、このレーダ反射因子ZによりZ−R関係と称される統計的関係から、地上雨量Rgを求めることができる。
【0033】
気象情報取得装置30がトータルパワー算出部13の出力に基づいて、雨量情報を取得するに際して、判定部15による判定結果を用いる。即ち、気象情報取得装置30は、判定部15による判定結果が、受信した反射信号について有意性なしとの判定結果である場合には、当該受信した反射信号による気象情報取得を停止する。つまり、このとき得られた反射信号を破棄し雨量情報を求める処理を停止するか、或いは求めた雨量情報を廃棄する。
【0034】
一方、気象情報取得装置30は、判定部15による判定結果が、受信した反射信号について有意性ありとの判定結果である場合には、当該受信した反射信号による気象情報取得を採用する。このようにして、本実施例では、ノイズ成分と信号成分が含まれているトータルパワーと、ほぼ信号成分のみが含まれていると思料されるベクトル合成の結果とを用いてS/Nを判定しているので、受信した反射信号の有意性を適切に安定して判定することができるものである。
【0035】
気象情報取得装置30においては、判定部15が受信した信号について有意性なしと判定した場合に、当該受信した信号による気象情報取得を停止するので、突発的に干渉波が増大する場合に不当な気象情報が取得される不具合を防ぐことができ、安定的な気象情報取得が確保される。
【0036】
なお、図1の例では、信号処理装置10が各処理部からなるように示したが、信号処理装置10としては、1台のコンピュータまたは複数台のコンピュータによる構成とし、図7に示されるフローチャートに基づき信号処理を行うように構成される。
【0037】
図7のフローチャートでは、受信した反射信号について直交位相検波を行う直交位相検波ステップ(S1)と、上記直交位相検波ステップにより得られた出力について高速フーリエ変換処理を行ってパワースペクトラムを求めるFFT処理ステップ(S2)と、上記FFT処理ステップによる出力に基づいて上記受信した信号のトータルパワーを算出するトータルパワー算出ステップ(S3)と、上記FFT処理ステップにより得られたスペクトラムをIQ平面においてベクトル合成するベクトル合成ステップ(S4)と、上記トータルパワー算出ステップにより算出されたトータルパワーと上記ベクトル合成ステップによる出力とに基づき、上記受信した信号に含まれるノイズ成分量を検出して、上記受信した信号の有意性を判定する判定ステップ(S5)とを具備することにより、気象レーダシステムに用いられる信号処理方法が実現される。
【0038】
そして、上記ステップS5に次いで、受信した信号の有意性についての判定結果が検出され(S6)、有意性がないことが検出されると、当該受信した信号による気象情報取得を停止(取得された受信信号或いはそれを用いて取得した気象情報を廃棄)する(S7)。一方、ステップS6において、受信信号に有意性があることが検出されると、当該受信した反射信号或いはそれを用いて取得した気象情報を採用する(S8)。これらのステップS6、S7、S8は、気象情報取得装置30のCPUが実行するプログラムによって実行されるものである。
【0039】
なお、判定ステップS6では、上記トータルパワー算出に係るステップS3により算出されたトータルパワーから上記ベクトル合成を行うステップS4の出力に係る合成ベクトルVtotalの絶対値を減算してノイズ成分Nを求め、上記ベクトル合成を行うステップS4の出力に係る合成ベクトルVtotalの絶対値を信号成分SとしてS/Nを求める。更に、この判定ステップS6においては、上記において求めたS/Nが所定閾値Thとを比較し、S/Nが所定閾値Thを超えていない場合に上記受信した反射信号について有意性なしと判定し、S/Nが所定閾値Th以上である場合には反射信号が有意であると判定するものである。
【0040】
また、トータルパワー算出に係るステップS3は、トータルパワー算出部13が図2或いは図3に示されるように構成されていることに応じて、図8に示されるフローチャートによる処理により実現され、或いは図9に示されるフローチャートによる処理により実現される。トータルパワー算出部13が図2に示されるように構成されていることに応じて、図8に示されるフローチャートによる処理により実現される場合には、高速フーリエ変換結果について地形エコーを除去し(S11)、地形エコー除去が行われた結果について高速フーリエ逆変換を行い(S12)、高速フーリエ逆変換結果について補助的に地形エコーを除去してFFT処理前の受信電力分布へ戻し(S13)、地形エコー除去された高速フーリエ逆変換結果について受信強度を算出してトータルパワー(Σ(I’(t)2 +Q’(t)2 ))を得る(S14)。
【0041】
一方、トータルパワー算出部13が図3に示されるように構成されていることに応じて、図9に示されるフローチャートによる処理により実現される場合には、高速フーリエ変換結果について地形エコーを除去し(S21)、地形エコー除去された高速フーリエ変換結果について受信強度を算出してトータルパワー(Σ(I’(f)2 +Q’(f)2 ))を得る(S22)。
【0042】
これによっても、受信した反射信号の有意性を適切に安定して判定することができるものである。また、突発的に干渉波が増大する場合に不当な気象情報が取得される不具合を防ぐことができ、安定的な気象情報取得が確保される。
【0043】
なお、上記システムでは、気象情報として雨量情報を取得する場合を示したが、本発明は風向等の気象情報を取得する場合にも適用できることは言うまでもない。この場合には、判定部15による判定結果を風向等の気象情報を取得する装置へ送出して、到来する反射信号或いは取得した気象情報の廃棄、または取得した気象情報の採用を行う。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る気象レーダシステムにおける実施例の構成を示すブロック図。
【図2】図1に示される気象レーダシステムにおける要部に係る第1の構成例ブロック図。
【図3】図1に示される気象レーダシステムにおける要部に係る第2の構成例ブロック図。
【図4】本発明に係る気象レーダシステムにおいて、FFT処理を行う前の受信電力とFFT処理を行った後のスペクトラムのトータル面積が等しいことを示す図。
【図5】本発明に係る気象レーダシステムによるFFT処理結果を示す図。
【図6】本発明に係る気象レーダシステムによるベクトル合成を示す図。
【図7】本発明に係る気象レーダシステムにおける信号処理工程のフローチャート。
【図8】図7に示されるフローチャートにおける要部の詳細フローチャート。
【図9】図7に示されるフローチャートにおける要部の詳細フローチャート。
【符号の説明】
【0045】
1 レーダ装置
2 受信機
10 信号処理装置
11 直交位相検波部
12 FFT処理部(高速フーリエ変換処理部)
13 トータルパワー算出部
14 ベクトル合成部
15 判定部
23、25 地形エコー除去部
24 IFFT処理部(高速フーリエ逆変換処理部)
26、26A 受信強度算出部
30 気象情報取得装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発射した電波の反射信号を受信し、受信した信号に基づき受信強度情報を検出し、この受信強度情報を用いて気象情報を取得する気象レーダシステムにおいて、
受信した反射信号について直交位相検波を行う直交位相検波部と、
前記直交位相検波部の出力について高速フーリエ変換処理を行ってパワースペクトラムを求めるFFT処理部と、
前記FFT処理部の出力に基づいて前記受信した信号のトータルパワーを算出するトータルパワー算出部と、
前記FFT処理部の出力したスペクトラムをIQ平面においてベクトル合成するベクトル合成部と、
前記トータルパワー算出部により算出されたトータルパワーと前記ベクトル合成部の出力とに基づき、前記受信した信号に含まれるノイズ成分量を検出して、前記受信した信号の有意性を判定する判定部とを具備することを特徴とする気象レーダシステム。
【請求項2】
前記判定部が、前記受信した信号について有意性なしと判定した場合には、当該受信した信号による気象情報取得を停止することを特徴とする請求項1に記載の気象レーダシステム。
【請求項3】
前記判定部は、前記トータルパワー算出部により算出されたトータルパワーから前記ベクトル合成部の出力を減算してノイズ成分Nを求め、前記ベクトル合成部の出力を信号成分SとしてS/Nを求め、該S/Nが所定閾値を超えていない場合に前記受信した信号について有意性なしと判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の気象レーダシステム。
【請求項4】
発射した電波の反射信号を受信し、受信した信号に基づき受信強度情報を検出し、この受信強度情報を用いて気象情報を取得する気象レーダシステムに用いられる信号処理方法において、
受信した反射信号について直交位相検波を行う直交位相検波ステップと、
前記直交位相検波ステップにより得られた出力について高速フーリエ変換処理を行ってパワースペクトラムを求めるFFT処理ステップと、
前記FFT処理ステップによる出力に基づいて前記受信した信号のトータルパワーを算出するトータルパワー算出ステップと、
前記FFT処理ステップにより得られたスペクトラムをIQ平面においてベクトル合成するベクトル合成ステップと、
前記トータルパワー算出ステップにより算出されたトータルパワーと前記ベクトル合成ステップによる出力とに基づき、前記受信した信号に含まれるノイズ成分量を検出して、前記受信した信号の有意性を判定する判定ステップとを具備することを特徴とする気象レーダシステムに用いられる信号処理方法。
【請求項5】
前記判定ステップにおいて、前記受信した信号について有意性なしと判定した場合には、当該受信した信号による気象情報取得を停止することを特徴とする請求項4に記載の気象レーダシステムに用いられる信号処理方法。
【請求項6】
前記判定ステップでは、前記トータルパワー算出ステップにより算出されたトータルパワーから前記ベクトル合成ステップによる出力を減算してノイズ成分Nを求め、前記ベクトル合成ステップによる出力を信号成分SとしてS/Nを求め、該S/Nが所定閾値を超えていない場合に前記受信した信号について有意性なしと判定することを特徴とする請求項4又は5に記載の気象レーダシステムに用いられる信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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