説明

気象予測装置、気象予測方法および気象予測プログラム

【課題】2次元の気象画像を用いて気象予測を行うとともに、気象状態を推定する。
【解決手段】気象予測装置であって、時系列に連続した複数の2次元の気象画像を入力する入力手段と、気象画像の画像濃淡値のもとづいて雨雲または雷雲のパターンが存在する2次元のパターン領域を検出する画像特徴量解析手段と、パターン領域の3次元モデルを生成する3次元モデル化手段と、連続する気象画像から前記パターン領域の動きベクトルを算出し、当該動きベクトルに基づいて前記パターン領域を変化させて予測される気象画像を生成する予測手段と、3次元モデルの高さの変化に基づいてパターン領域の気象状態が発達、衰退、停滞のいずれであるかを推定する状態推定手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気象レーダが観測した気象画像から気象を予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、気象レーダにより観測される気象画像に基づいて、近未来の気象を予測することが行われている。非特許文献1には、パターンマッチングと線形外挿法を用いて、気象レーダにより観測される気象画像から気象を予測することが記載されている。
【0003】
また、非特許文献2には、コンピュータによる画像処理技術が記載されている。
【非特許文献1】T.M. Hamill and T. Nehrkorn, “A short-term cloud forecast scheme using cross correlations”, Weather and Forecasting, American Meteorological Society, vol. 8, no. 4, 1993
【非特許文献2】田村秀之、 “コンピュータ画像処理入門”、総研出版、2002年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、自然現象である気象の時空間データは非定常性を有するため、過去の気象画像から近未来の気象を予測することは容易ではない。また、気象レーダにより観測される気象画像が2次元の画像の場合、本来3次元である気象現象の断面情報に依存せざるを得ない。そのため、パターンマッチングと線形外挿法を用いた従来の予測法では、安定した予測精度を確保することは困難である。
【0005】
例えば、渦を伴った低気圧性パターンや、停滞性パターンの予測的中率(予測精度)の低さが指摘されている。停滞性パターンは複数の勢力のある対流現象の集合体であるが、2次元の気象画像上に現れるパターンの表面には、細かい発達と衰退の動きが検出されるが、その一方でパターン全体の見かけはほとんど一定領域内に留まっている特徴がある。従来の予測法では、対流の動きをそのままパターン全体の移動予測に適用するアルゴリズムであるため、的中率が下がってしまう問題がある。また、移流性で渦パターンの場合は、線形外挿入法により、パターンは分割されて時間とともにばらばらになってしまう問題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、2次元の気象画像を用いて気象予測を行うとともに、気象状態を推定する気象予測装置、気象予測方法および気象予測プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、気象予測装置であって、時系列に連続した複数の2次元の気象画像を入力する入力手段と、前記気象画像の画像濃淡値のもとづいて雨雲または雷雲のパターンが存在する2次元のパターン領域を検出する画像特徴量解析手段と、前記パターン領域の3次元モデルを生成する3次元モデル化手段と、前記連続する気象画像から前記パターン領域の動きベクトルを算出し、当該動きベクトルに基づいて前記パターン領域を変化させて予測される気象画像を生成する予測手段と、前記3次元モデルの高さの変化に基づいて、前記パターン領域の気象状態が発達、衰退、停滞のいずれであるかを推定する状態推定手段と、を有する。
【0008】
また、本発明は、気象予測装置が行う気象予測方法であって、前記気象予測装置は、時系列に連続した複数の2次元の気象画像を入力する入力ステップと、前記気象画像の画像濃淡値のもとづいて雨雲または雷雲のパターンが存在する2次元のパターン領域を検出する画像特徴量解析ステップと、前記パターン領域の3次元モデルを生成する3次元モデル化ステップと、前記連続する気象画像から前記パターン領域の動きベクトルを算出し、当該動きベクトルに基づいて前記パターン領域を変化させて予測される気象画像を生成する予測ステップと、前記3次元モデルの高さの変化に基づいて、前記パターン領域の気象状態が発達、衰退、停滞のいずれであるかを推定する状態推定ステップと、を行う。
【0009】
また、本発明は、前記気象予測方法をコンピュータに実行させる気象予測プログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、2次元の気象画像を用いて気象予測を行うとともに、気象状態を推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る気象予測装置の概略構成図である。図示する気象予測装置は、データ入力部100と、データ蓄積部110と、画像特徴量解析部120と、3次元モデル化部130と、予測部140と、状態推定部150と、表示部160とを有する。
【0013】
データ入力部100は、気象レーダが観測した、時系列に連続した気象画像データ(時空間画像)を入力し、記憶手段であるデータ蓄積部110に記憶する。画像特徴量解析部120は、データ蓄積部110に記憶された気象画像の画像特徴量を解析し、雨雲または雷雲を示すパターン領域を検出する。3次元モデル化部130は、検出したパターン領域の雨雲または雷雲の3次元モデルを生成する。
【0014】
予測部140は、連続する気象画像からパターン領域の動きベクトルを算出し、当該動きベクトルに基づいてパターン領域を変化させて予測される近未来の気象画像を生成する。状態推定部150は、3次元モデルの高さの変化に基づいて、パターン領域の気象状態を発達、衰退、停滞のいずれであるかを推定する。表示部160は、予測部140が予測した気象画像および3次元モデル化部130が生成した3次元モデルを出力装置に表示する。
【0015】
上記説明した、気象予測装置は、例えば、CPUと、メモリと、外部記憶装置と、入力装置と、出力装置と、これらの各装置を接続するバスと、を備えた汎用的なコンピュータシステムを用いることができる。このコンピュータシステムにおいて、CPUがメモリ上にロードされた気象予測装置用のプログラムを実行することにより、気象予測装置の各機能が実現される。なお、気象予測装置のデータ蓄積部110には、メモリまたは外部記憶装置が用いられる。なお、気象予測装置は、必要に応じて、他の装置と接続するための通信制御装置を備えることとしてもよい。
【0016】
また、気象予測装置用のプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク、CD−ROM、MOなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶すること、または、ネットワークを介して配信することも可能である。
【0017】
次に、本実施形態の気象予測装置の気象予測処理について説明する。
【0018】
まず、データ入力部100は、気象レーダが観測した2次元の気象画像データを入力し、データ蓄積部110に格納する(ステップ10)。気象画像データは、時空間画像データであって、時系列に連続する複数の気象画像(画像フレーム)から構成されるデータである。気象レーダは、気象状況(雲・雨・雪・雷・大気の乱れなど)を観測するレーダであって、例えば降水レーダ、雷レーダ、人工衛星搭載レーダなどがある。
【0019】
図2(a)は、降水・雷レーダから入力された気象画像データの中のある時刻の気象画像を、模式的に示したものである。図2(a)に示す気象画像では、2次元平面状(x−y)に雨雲および雷雲からの反射強度が、可視化されて(例えば、色分けするなどして)、表示されている。すなわち、雨雲および雷雲の存在する箇所では、例えば画像濃淡値、輝度、色分けなどで識別される気象レーダパターン(以下、「パターン」)21、22が表示されている。図示する例では、可視化された反射強度であるパターンとして、大きいパターン21と、細かい複数のパターン22が表示されている。
【0020】
画像特徴量解析部120は、データ蓄積部110に格納された各気象画像について、画像特徴量を解析し、雨雲または雷雲を示すパターン領域を検出する(ステップ20)。具体的には、画像特徴量解析部120は、気象画像の各画素が有する画像濃淡値などに基づいて、パターンが存在する部分21、22の部分の画素を「1」とし、それ以外の部分の画素を「0」として気象画像を2値化する。そして、画像特徴量解析部120は、2値化された気象画像に対して、膨張および縮小を2回づつ行い、パターンが存在する部分のパターン領域(塊)を生成する。なお、以上の画像処理については、前述の非特許文献2(第II部 手法、第3章(2)収縮と膨張等、P76等)に記載されている。
【0021】
そして、画像特徴量解析部120は、各パターン領域の「1」の数を計測することにより、各パターン領域の面積を算出し、所定の閾値より大きい面積のパターン領域21のみを抽出する。図2(b)は、所定の閾値より大きい面積を有するパターン領域21のみが抽出された気象画像である。
【0022】
図2(c)は、図2(b)が気象レーダで観測された時刻t1から所定の時間が経過した時刻t2において予測される気象画像を示したものである。本実施形態の気象予測装置は、図2(b)の気象画像およびそれ以前の過去の気象画像を用いて、後述する処理により近未来の気象画像を予測・生成し、出力装置に表示する。本実施形態の予測・生成される気象画像には、予測される2次元のパターン領域24だけでなく、パターン領域24を3次元モデル化した楕円体25も併せて表示されるものとする。
【0023】
ここで、雨雲や雷雲が発達した場合、図2(b)の気象画像に表示されるパターン21は、図2(c)の気象画像に示すように大きなパターン23となって表示される。また、雨雲や雷雲が発達した場合、この発達に伴って雲頂も高くなることが多く、雲頂の変動により雨雲や雷雲の体積(3次元の大きさ)も変動する。雨雲や雷雲の体積は、気象を予測する際に、重要な指標となる。一般的な気象レーダが観測する気象画像は、図2(a)に示す2次元の気象画像であって、2次元の気象画像からは雨雲や雷雲の雲頂および体積などの3次元情報を取得することができない。
【0024】
そこで、本実施形態では、あらかじめ、3次元ドップラーレーダなどが観測した3次元気象情報を統計分析することにより得られた情報を用いて、気象レーダから入力される2次元の気象画像から、3次元の気象情報である雨雲や雷雲の雲頂および体積を推定する。
【0025】
図3は、気象現象の特性と気象画像との関係を示したものである。前述のとおり、雨雲や雷雲が発達した場合、雲頂が高くなるとともに、気象画像のパターンの面積は大きく(広く)なる。また、雨雲や雷雲が衰退した場合、雲頂が低くなるとともに、気象画像のパターンの面積は小さく(狭く)なる。このことから、図3(a)に示すように、気象画像のパターンの面積と、雲頂(雲の高さ)との間には線形の関係(比例関係)を与えることができる。本実施形態では、図示しない記憶部に、図3(a)に示す線形の式(雲頂=α×面積,αは比例定数)、または、雲頂と面積とを対応づけた対応テーブルなどを、あらかじめ記憶しておくものとする。
【0026】
また、気象画像からは、雨雲および雷雲からの反射強度を取得することができる。反射強度は、画像濃淡値・輝度を用いて気象画像上に可視化されている。画像特徴量解析部120は、時間的に連続した2枚の気象画像の差分画像から、反射強度の強度変化を算出する。
具体的には、気象画像上の2次元位置(画素)(x,y)における時刻tでの画像強度Iを、I(x,y,t)とする。この場合、強度変化CHは、以下の式1により定義することができる。
【数1】

【0027】
なお、||は絶対値である。
【0028】
図3(b)は、式1で算出される強度変化と、活性度との関係を示したものである。ここでいう活性度は、気象現象としての勢力であり、発達もしくは衰退のいずれかの状態の変化の激しさを意味している。例えば、大雨になるような不安定な大気現象では、活性度が高いと考えられる。図3(b)に示すように、活性度と強度変化は、線形の関係(比例関係)にあるといえる。具体的には、活性度Kは、以下の式2により定義することができる。
【数2】

【0029】
πは比例定数である。式2に式1で算出される強度変化CHの値を設定することにより、活性度Kを算出することができる。
【0030】
なお、本実施形態の活性度Kは、例えば、式1の絶対値の中の値が0または正の場合は、「0.1≦K<3」とし、式1の絶対値の中の値が負の場合は、「0<K<0.1」とすることが考えられる。
【0031】
次に、3次元モデル化部130は、気象画像のパターン領域の3次元モデルを生成する(ステップ30)。すなわち、雨雲または雷雲の雲頂・体積を推定する。3次元物体へ近似表現にはさまざまな関数があるが、雷雲や雨雲の一塊の形状の簡単な近似法として、ここでは扱いやすい楕円体を用いることとする。楕円体は、以下の式3により表現される。
【数3】

【0032】
a=b=cで球となる。a、b、cは、それぞれx軸、y軸、z軸方向の径の半分の長さ、すなわち主軸の半分の長さに相当する。
なお、以下の式4は、式3を極座標系へ変換したときの関係を示すものである。
【数4】

【0033】
楕円体の体積Vは、以下の式5で定義することができる。
【数5】

【0034】
ここで、式2の活性度は、式5の体積に影響を及ぼすパラメータとして用いるものとする。すなわち、本実施形態の雨雲または雷雲の体積V’は、以下の式6で定義されるものとする。
【数6】

【0035】
そして、本実施形態では、楕円体の関数(式3、式5)の3つの未知数a、b、cを気象画像から推定する。
【0036】
図4は、楕円体の関数の未知数を、2次元の気象画像から推定する方法を説明するための説明図である。まず、未知数a、bを推定する。図4に示す例では、気象画像の中心部に、パターン領域41が存在している。この場合、パターン領域41を包含する「最大」の矩形42を検出する。パターン領域41を包含する矩形を検出する方法については、前述の非特許文献2(第II部 手法、第3章、P89等)に記載されている。
【0037】
この矩形42のx軸方向の長さとy軸方向の長さとを求めることにより、未知数a、bの値を算出する。すなわち、矩形42のx軸方向の長さの半分が未知数aの値であり、y軸方向の長さの半分が未知数bの値である。なお、気象画像上に、複数のパターン領域がある場合、各パターン領域について同様に未知数a、bを取得する。
【0038】
未知数cについては、記憶部にあらかじめ記憶されている情報(図3(a)参照)から取得する。すなわち、画像特徴量解析部120がステップ10で算出したパターン領域41の面積に対応した雲頂・高さを図3(a)を用いて取得する。
【0039】
このようにして、3次元モデル化部130は、未知数a、b、cを気象画像から推定する。そして、3次元モデル化部130は、式5にa、b、cを設定して楕円体の体積Vを算出し、式6によりこの体積Vに活性度の平均値を係数(重み付け)として与えることにより雲の体積V’を算出する。すなわち、式2で算出した各活性度(画素単位)の平均値を算出し、当該平均値を気象画像全体の活性度として用いることとする。
【0040】
気象画像から推定されるa、b、cを用いて算出される楕円体の体積Vには、時間的な情報が含まれていないが、本実施形態の体積V’では楕円体の体積Vに時間変化に関する情報である活性度の平均値を係数として与えることにより、時間変化を反映・加味させることができる。
【0041】
そして、予測部140は、データ蓄積部110に記憶された気象レーダが観測した過去の気象画像にもとづいて、近未来の気象画像を予測・生成する(ステップ40)。予測部140は、移流方程式によりパターン領域を変形・移動して、予測される気象画像を生成する。以下の式7は、移流方程式を示したものである。
【数7】

【0042】
ijは、画素(i,j)の時刻nにおける画像濃淡値(輝度)である。E=(u,v)は、オプティカルフロー(動きベクトル)である。オプティカルフローについては、後述する。
【0043】
式7には、必ず初期画像として1枚の画像(情報)が必要とされる。式7の時間発展 (n step)を計算していく場合、Iijはオプティカルフローに沿って画像濃淡値を変化させることができる。1枚以上の画像を合成・生成していくためには、式7の時刻nと時刻n+1のときの画像濃淡値を差し替えていくだけでよい。
【0044】
<オプティカルフロー式>
ここでは、空間的局所最適化問題の枠組みで、2枚の画像から画素単位にオプティカルフロー(動きベクトル)を算出する。連続した2枚の画像間の画像濃淡値の変動が一定である最も簡単な場合について説明する。以下の式8に示すように、1枚の画像中、10×10画素程度の部分的な領域において、画像濃淡値の変動が一定という条件が満たされることを拘束条件として、未知数である動きベクトルの成分を求める。なお、画像中のある画素を(i,j)とする。
【数8】

【0045】
Ix、Iy、Itは、画像濃淡値Iについて、x軸方向、y軸方向、時間方向についての1次の偏微分値である。最小二乗法の枠組みにおいて、式8が最小となるための必要条件は、以下の式9で与えられる。
【数9】

【0046】
したがって、オプティカルフローEの各成分(u,v)は、以下の式10により得ることができる。
【数10】

【0047】
気象画像において、1画素毎に、上記の計算を行うことで、気象画像のすべての画素におけるオプティカルフローを求めることができる。
【0048】
以上のように、予測部140は、データ蓄積部110に記憶された過去の気象画像にもとづいて、近未来の気象画像を予測・生成する。
【0049】
また、3次元モデル化部130は、予測・生成された気象画像のパターン領域に対しても、ステップ30で説明した3次元モデルを生成する。これにより、パターン領域に応じた3次元の楕円体も形状と位置が変化していくことになる。特に、楕円体の高さも変化することから、雨雲、雷雲などの状態が発達過程にあるのかまたは衰退過程にあるのかを推定することができる。
【0050】
本実施形態の状態推定部150は、データ蓄積部110に記憶された過去の気象画像および、予測部140が予測・生成した気象画像にもとづいて、発達、衰退、停滞のいずれの気象状態にあるかを推定する(ステップ50)。
【0051】
図5は、本発明におけるパターン領域の分裂を模式的に示した図である。移流方程式を用いた2次元の気象レーダパターンのみの予測では、雷雲などによく見られる分裂表現が十分に対応できていない問題がある。
【0052】
そこで、本実施形態では、予測・生成される気象画像において、パターン領域51の楕円体52の雲頂・高さ53が一定以上に大きくなった場合に、パターン領域および楕円体を分裂させるものとする。
【0053】
図6は、パターン領域を分裂させるタイミングを説明するための説明図である。なお、3次元モデル化部130は、気象画像毎に推定したパターン領域の楕円体の高さ(雲頂)Cを、当該気象画像と対応付けて図示しない記憶部に記憶しておくものとする。状態推定部150は、パターン領域の楕円体の高さCの時系列変化を追跡する。すなわち、状態推定部150は、高さの変化を、現時点の高さC(t)と、1つ前の時刻の高さC(t−1)の差分をとることにより算出する。そして、状態推定部150は、その差分(C(t)−C(t−1))が正の値かまたは負の値かにもとづいて、気象状態を判別する。具体的には、差分が正の場合は、気象状態が発達であると判別し、差分が負の場合は気象状態が衰退であると判別し、差分が「0」の場合は気象状態が停滞であると判別する。
【0054】
図6に示す楕円体の高さCの時系列変化の例では、時刻tnまでは発達、時刻tnから時刻tmまでは停滞、そして時刻tm以降は衰退へと推移している。状態推定部150は、気象状態が衰退と判断された場合において、楕円体の高さCが所定値hを下回ったタイミングで、図5に示すように、楕円体52を、所定の数(例えば、2〜4個程度)の楕円体55に分裂する。
【0055】
状態推定部150は、分裂させる楕円体52の断面におけるx軸方向の長さaおよびy軸方向の長さb(式3参照)を分裂数で割った値を、分裂後の楕円体55の断面におけるx軸方向の長さa’およびy軸方向の長さb’とする。例えば3つに分裂する場合、分裂後の楕円体55の断面におけるx軸方向の長さは「a’=a/3」、y軸方向の長さは「b’=b/3」となる。分裂後の楕円体55の高さについては、図3(a)で説明したように、楕円体55の断面の面積に応じて設定される。
【0056】
なお、分裂後の楕円体は、予測部140が移流方程式によりパターン領域を変形・移動した位置で分割される。
【0057】
そして、表示部160は、図2(c)に示すように、予測部140が予測生成した近未来の気象画像、および、当該気象画像に表示されるパターン領域24を3次元モデルとして表現した楕円体25を出力装置に表示する(ステップ50)。なお、楕円体を分裂させた場合は、図5に示すような気象画像が表示される。
【0058】
以上説明した本実施形態では、2次元の気象画像を楕円体の3次元モデルに当てはめることにより、雨雲や雷雲の雲頂・高さ、体積などの3次元情報を取得することができる。また、本実施形態では、雨雲や雷雲の雲頂・高さを用いて、気象状態が発達過程にあるのか、衰退過程にあるのか、あるいは停滞過程にあるのかを容易に推定することができる。なお、雨雲や雷雲の3次元情報および気象状態は、高精度な気象予測を行うために、重要な情報である。
【0059】
また、本実施形態では、気象レーダから入力された過去の気象画像を、移流方程式を用いて時間的、空間的に変化させ、近未来の気象画像を予測・生成することができる。
【0060】
また、本実施形態では、図6で説明したタイミングで、パターン領域および楕円体を分裂させることにより、雷雲に多く発生する分裂現象に対応することができる。
【0061】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態に係る気象予測装置のブロック図である。
【図2】気象画像の具体例である。
【図3】雲頂と面積の関係、および強度変化と活性度の関係を示す図である。
【図4】3次元モデル化の方法を説明するための説明図である。
【図5】3次元モデルの分裂を説明するための説明図である。
【図6】分裂させるタイミングを示す図である。
【符号の説明】
【0063】
100 データ入力部
120 データ蓄積部
130 3次元モデル化部
140 予測部
150 状態推定部
160 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気象予測装置であって、
時系列に連続した複数の2次元の気象画像を入力する入力手段と、
前記気象画像の画像濃淡値のもとづいて雨雲または雷雲のパターンが存在する2次元のパターン領域を検出する画像特徴量解析手段と、
前記パターン領域の3次元モデルを生成する3次元モデル化手段と、
前記連続する気象画像から前記パターン領域の動きベクトルを算出し、当該動きベクトルに基づいて前記パターン領域を変化させて予測される気象画像を生成する予測手段と、
前記3次元モデルの高さの変化に基づいて、前記パターン領域の気象状態が発達、衰退、停滞のいずれであるかを推定する状態推定手段と、を有すること
を特徴とする気象予測装置。
【請求項2】
請求項1記載の気象予測装置であって、
前記3次元モデルは、楕円体であり、
パターン領域の面積と、楕円体の高さとが対応付けて記憶された記憶手段を、さらに有し、
前記3次元モデル化手段は、前記パターン領域を囲む矩形におけるx軸方向の長さの半分の第1の値と、y軸方向の長さの半分の第2の値とを特定するとともに、前記パターン領域の面積に対応する楕円体の高さを前記記憶手段から特定し、特定した第1の値、第2の値および楕円体の高さを用いて、楕円体の3次元モデルを生成すること
を特徴とする気象予測装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の気象予測装置であって、
前記状態推定手段は、推定した気象状態が衰退であって、かつ、前記楕円体の高さが所定の閾値より大きい場合、前記予測される気象画像のパターン領域および前記3次元モデルを所定の数に分裂すること
を特徴とする気象予測装置。
【請求項4】
気象予測装置が行う気象予測方法であって、
前記気象予測装置は、
時系列に連続した複数の2次元の気象画像を入力する入力ステップと、
前記気象画像の画像濃淡値のもとづいて雨雲または雷雲のパターンが存在する2次元のパターン領域を検出する画像特徴量解析ステップと、
前記パターン領域の3次元モデルを生成する3次元モデル化ステップと、
前記連続する気象画像から前記パターン領域の動きベクトルを算出し、当該動きベクトルに基づいて前記パターン領域を変化させて予測される気象画像を生成する予測ステップと、
前記3次元モデルの高さの変化に基づいて、前記パターン領域の気象状態が発達、衰退、停滞のいずれであるかを推定する状態推定ステップと、を行うこと
を特徴とする気象予測方法。
【請求項5】
請求項4記載の気象予測方法であって、
前記3次元モデルは、楕円体であり、
前記気象予測装置は、パターン領域の面積と、楕円体の高さとが対応付けて記憶された記憶部を有し、
前記3次元モデル化ステップは、前記パターン領域を囲む矩形におけるx軸方向の長さの半分の第1の値と、y軸方向の長さの半分の第2の値とを特定するとともに、前記パターン領域の面積に対応する楕円体の高さを前記記憶部から特定し、特定した第1の値、第2の値および楕円体の高さを用いて、楕円体の3次元モデルを生成すること
を特徴とする気象予測方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5記載の気象予測方法であって、
前記状態推定ステップは、推定した気象状態が衰退であって、かつ、前記楕円体の高さが所定の閾値より大きい場合、前記予測される気象画像のパターン領域および前記3次元モデルを所定の数に分裂すること
を特徴とする気象予測方法。
【請求項7】
請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の気象予測方法をコンピュータに実行させる気象予測プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−151597(P2010−151597A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329691(P2008−329691)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】