説明

水の保存方法及び排出方法

【課題】 低エネルギー・低コスト、かつ、効果的にバラスト水を殺菌すること、及び、殺菌処理後のバラスト水を生態系に無害な程度にして排出することを可能にする方法の一例として、バラスト水の殺菌/保存方法、金属イオンの吸着方法、及び、バラスト水の排出方法を提供すること。
【解決手段】 バラスト水の取水工程及び排水工程において、フィルターとして、特定の金属型ゼオライト構造体及びNa型ゼオライト構造体をそれぞれ用いた、バラスト水の殺菌/保存方法、金属イオンの吸着方法、及び、バラスト水の排出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の保存方法及び排出方法に関し、さらに後述すると、バラスト水の取水工程及び排水工程において、フィルターとして、特定のゼオライト構造体を用いた、バラスト水の殺菌/保存方法、金属イオンの吸着方法、及び、バラスト水の排出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バラスト水は、船舶の底荷として用いられる水であって、船舶が無積載で出港するときに船体に備蓄され、立ち寄る港で荷物を積載する代わりに船外へ放出される。このようにバラスト水は、船体の浮力を調整し、船体の安定な航行のために必要な水であり、通常、荷役を行う港湾の海水が利用される。
【0003】
ところで、バラスト水中には、それを取水した港湾に生息する生物種(微生物やプランクトン)が混入しているため、船舶の移動に伴い、これら生物種が同時に異国に運ばれることになる。従って、もともとその海域には生息していなかった生物種が、既存生物種に取って代わるといった生態系の破壊が、世界規模で生じ、深刻化している。
【0004】
このような背景から、2004年2月に行なわれた国際海事機関(IMO)の外交会議において、「船舶のバラスト水および沈殿物の規制および管理のための国際条約(バラスト水管理条約)」が採択され、2009年以降の新造船に対するバラスト水処理装置の搭載義務化及びバラスト水の排出基準として「1.最小径50μm以上の生物(主に動物プランクトン):1m中の生存個体が10未満、2.最小径10μm以上50μm未満の生物(主に植物プランクトン):1ml中の生存個体が10未満、3.コレラ菌:100ml中のコロニー形成が1未満、4.大腸菌:100ml中のコロニー形成が250未満、5.腸球菌:100ml中のコロニー形成が100未満」が予定されている。
【0005】
以上のような背景から、上記のような問題を解決できるバラスト水の除菌/殺菌技術の開発が急務となっている。
【0006】
現在、数多くのバラスト水処理装置が開発中であるが、それらの代表的な装置は、物理的除去工程、機械的殺菌工程、化学的処理工程、を組み合わせたものである(非特許文献1)。
物理的除去工程では、遠心分離やフィルターリングなどを用いた除去装置を用いて、海水中の砂などのゴミ及び比較的大きなサイズのプランクトンを除去することができる。
機械的殺菌工程では、バラスト水が移動する配管内にキャビテーション気泡が発生する際の衝撃圧力や剪断力によって、プランクトンの細胞膜を傷つけ、殺滅させることができる。
化学的処理工程では、次亜塩素酸などの化学物質を直接バラスト水に添加したり、バラスト水の電気分解あるいは紫外線照射によって塩素系物質やオゾンを生成させたりして、プランクトンや菌体を殺滅させることができる。
【0007】
しかし、上述した物理的除去工程においては、単に海水中の砂などのゴミ及び比較的大きなサイズのプランクトンを除去するのみであって、装置内に残留したプランクトンや菌体については殺菌が行なわれていない。これでは、残留したプランクトンや菌体が装置内で増殖することは明らかであって、効果的な除菌・殺菌が行なわれているとは言いがたい。
また、上述した機械的殺菌工程においては、殺滅させたプランクトンの死骸が残留したプランクトンや菌体の餌になる可能性を含んでいる。
さらに、上述した化学処理工程においては、プランクトンや菌体を死滅させるための化学物質がバラストタンクや輸送配管を腐食してしまう問題がある。バラストタンクや輸送配管を耐食製性の材質にすることも考えられるが、コスト高となり、また、既設船舶には適用できない問題がある。
【0008】
他方、海水や淡水の殺菌方法として、オゾンや塩素等の有害ガスを伴わない殺菌洗浄装置に銅イオン効果(銅イオンが有する殺菌作用、抗菌作用)を適用した殺菌装置が知られている(特開平11−155419)。
これは、銅を60質量%以上含む任意形状の導電性材料からなる電極に通電することにより銅イオンを溶出させ、海水又は淡水を殺菌することを特徴としているが、エネルギーコストが高くなることが問題視される。
【0009】
【特許文献1】特開平11−155419
【非特許文献1】41−1 マリンエンジニアリング月例講演会,「バラスト水処理技術の現状と将来動向」,社団法人日本マリンエンジニアリング学会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、低エネルギー・低コスト、かつ、効果的にバラスト水を殺菌すること、及び、殺菌処理後のバラスト水を生態系に無害な程度にして排出することを可能にする方法の一例として、バラスト水の殺菌/保存方法、金属イオンの吸着方法、及び、バラスト水の排出方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、バラスト水の取水工程において、フィルターとして、抗菌作用を有する金属型ゼオライト構造体を用い、砂や比較的大きなサイズのプランクトンを除去すると共に、金属型ゼオライト構造体とバラスト水とを接触させて、バラスト水中に金属イオンを溶出させると共にバラスト水中のリン酸イオンを吸着しバラスト水を殺菌する工程、並びに、バラスト水の排出工程において、フィルターとして、Na型ゼオライト構造体を用い、Na型ゼオライト構造体とバラスト水とを接触させて、先の工程で溶出したバラスト水中の金属イオンを吸着すると共に水中にナトリウムイオンを溶出させる工程を経る、効果的なバラスト水の処理方法を見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
1.水の保存方法であって、金属型ゼオライト構造体と水とを接触させて、水中に金属イオンを溶出させると共に水中のリン酸イオンを吸着することにより、水中の生物の増殖を抑制する水の保存方法、
2.水の排出方法であって、Na型ゼオライト構造体と水とを接触させて、水中の金属イオンを吸着すると共に水中にナトリウムイオンを溶出させることにより、排出時の生態系の生物の生存を阻害しない水の排出方法、
3.水を保存した後に排出する方法であって、金属型ゼオライト構造体と水とを接触させて、水中に金属イオンを溶出させると共に水中のリン酸イオンを吸着することにより、水中の生物の増殖を抑制して水を保存した後に、Na型ゼオライト構造体と水とを接触させて、水中の金属イオンを吸着すると共に水中にナトリウムイオンを溶出させることにより、排出時の生態系の生物の生存を阻害せずに水を排出する方法、
4.金属型ゼオライト構造体が取水フィルターである1に記載の水の保存方法、
5.Na型ゼオライト構造体が排水フィルターである2に記載の水の排出方法、
6.金属型ゼオライト構造体が取水フィルターで、Na型ゼオライト構造体が排水フィルターである3に記載の水を保存した後に排出する方法、
7.金属型ゼオライト構造体が、銅イオン、銀イオン、亜鉛イオンから選ばれる一種又は複数の金属イオンに60〜100質量%置換された金属型ゼオライトを繊維内部又は繊維表面に2〜50質量%担持した繊維の複合体からなり、さらに該複合体が孔径0.5〜50μmの取水フィルターを構成している4に記載の水の保存方法、
8.Na型ゼオライト構造体が、Na型ゼオライトを繊維内部又は繊維表面に2〜50質量%担持した繊維の複合体からなり、さらに該複合体が孔径0.5〜50μmの排水フィルターを構成している5に記載の水の排水方法、
9.金属型ゼオライト構造体が、銅イオン、銀イオン、亜鉛イオンから選ばれる一種又は複数の金属イオンに60〜100質量%置換された金属型ゼオライトを繊維内部又は繊維表面に2〜50質量%担持した繊維の複合体からなり、さらに該複合体が孔径0.5〜50μmの取水フィルターを構成し、Na型ゼオライト構造体が、Na型ゼオライトを繊維内部又は繊維表面に2〜50質量%担持した繊維の複合体からなり、さらに該複合体が孔径0.5〜50μmの排水フィルターを構成している、6に記載の水を保存した後に排出する方法、
10.繊維が、ガラス繊維、合成繊維である9に記載の水を保存した後に排出する方法、
11.水が、海水である9に記載の水を保存した後に排出する方法、
12.銅イオン、銀イオン、亜鉛イオンから選ばれる一種又は複数の金属イオンに60%〜100質量%置換された金属型ゼオライトを繊維内部又は繊維表面に2〜50質量%担持した繊維の複合体からなり、さらに該複合体が孔径0.5〜50μmとなるよう配置されたフィルター、
13.Na型ゼオライトを繊維内部又は繊維表面に2〜50質量%担持した繊維の複合体からなり、さらに該複合体が孔径0.5〜50μmとなるよう配置されたフィルター、
を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、バラスト水の取水工程において、抗菌作用を有する金属型ゼオライト構造体をフィルターとして用いることによって、金属型ゼオライト構造体とバラスト水とを接触させてバラスト水中に抗菌作用を有する金属イオンを溶出させることができるので、バラスト水の殺菌のための化学物質の添加作業・工程やオゾンや塩素系物質の発生装置(電気分解装置や紫外線照射装置)を必要とせず、設備投資によるコストの増加を防ぐことができる。
また、バラストタンクや輸送配管の腐食することなく、既設船舶であっても簡単に本発明のバラスト水の殺菌/保存方法、金属イオンの吸着方法、及び、バラスト水の排出方法を適用することができる。
さらに、取水用フィルターとして利用される本発明の金属型ゼオライト構造体は、それ自体に抗菌作用を有する金属イオンを担持しているため、フィルター内に生物種が残留したとしても、その増殖を防ぐことができる。
また、さらに、取水用フィルターとして利用される本発明の金属型ゼオライト構造体は、バラスト水中のリン酸イオンを吸着するので、残留した生物種の増殖を防ぐことができる。
【0014】
また、バラスト水の排水工程において、Na型ゼオライト構造体をフィルターとして用いることによって、そのイオン交換能を利用して、取水工程で溶出した金属イオンの吸着が可能となるため、金属イオンを海に放出することがない。
【0015】
また、ゼオライト構造体は各工程において、それぞれの優れたイオン交換能を生かして、取水工程においては金属イオンの溶出とともにバラスト水中のリン酸イオンを吸着し、また、排水工程においてはNaイオンの溶出とともに金属イオンを吸着するため、これらを交換して再利用することが可能である。
【0016】
また、本発明のバラスト水の保存方法及び排出方法、並びに、本発明のゼオライト構造体フィルターは、バラスト水の他にも、生活排水や工業排水にも適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明は、バラスト水の保存方法及び排出方法に関し、バラスト水を取水する工程において、フィルターとして金属型ゼオライト構造体を、また、バラスト水を排出する工程において、フィルターとしてNa型ゼオライト構造体を用いることを特徴としている。
【0018】
ここで、ゼオライト構造体とは、繊維内部もしくは繊維表面にゼオライトを担持させたゼオライト複合体からなるフィルターのことをいう。バラスト水の保存方法及び排出方法において、フィルターとして本発明のゼオライト構造体を使用することにより、吸着能やイオン交換能といったゼオライト構造体固有の機能を充分に利用した効果的な殺菌方法、排出方法が可能となる。
【0019】
上述したゼオライト複合体は、例えば、特許第3709525号に記載の方法を用いて、製造することができる。
この製造方法によって生成するゼオライトは、原料組成や反応条件によってその種類が異なるが、吸着特性及びイオン交換性の点から、A型、X型、Y型の合成ゼオライト(Na型ゼオライトともいう)を生成させるのが好ましい。
これらのNa型ゼオライトを繊維内部もしくは繊維表面に担持させた複合体を、Na型ゼオライト複合体といい、このNa型ゼオライト複合体をフィルターとして採用したものを、Na型ゼオライト構造体という。
【0020】
上述したNa型ゼオライト複合体は、その優れたイオン交換能により、例えば、特開平6−384に記載の方法によって、Naイオンを、抗菌性を有する金属イオンに容易に置換することが可能である。
上記抗菌性を有する金属イオンとしては、銅イオン、銀イオン、亜鉛イオンが挙げられ、特に人体に対する毒性の低さ、酸化のされにくさ、更にコストの点から、銅イオンが好ましい。また、Naイオンと抗菌性を有する金属イオンとの置換率は、好ましくは60〜100%、より好ましくは70〜90%である。
この抗菌性を有する金属イオンを担持したゼオライトを繊維内部もしくは繊維表面に担持させた複合体を、金属型ゼオライト複合体といい、この金属型ゼオライト複合体をフィルターとして採用したもの、金属型ゼオライト構造体という。
【0021】
なお、Na型ゼオライト及び金属型ゼオライトは、優れたイオン交換能を有しているのが特徴である。特に、Na型ゼオライトは、Naイオンの溶出と共に金属イオンの吸着に優れ、また、金属型ゼオライトは、金属イオンの溶出と共にリン酸イオンの吸着に優れている。
従って、Na型ゼオライトの金属イオン吸着性によって、金属イオンの排出量を制御することができる。また、金属型ゼオライトのリン酸イオン吸着性によって、生物種の増殖が妨げることができ、また、金属型ゼオライト自体が抗菌性を有していることによって、生物種の殺菌をすることができる。
【0022】
上記ゼオライト複合体において、Na型ゼオライト及び金属型ゼオライトを担持させる繊維としては、セルロースなどの天然繊維、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレンなどの合成繊維、ガラス繊維などが挙げられる。特に、ゼオライト複合体の強度の点から、合成繊維、ガラス繊維が好ましく、合成繊維の場合においてはポリプロピレンが最も好ましい。
また、繊維内部もしくは繊維表面におけるゼオライトの担持率、又は、繊維内部もしくは繊維表面でのゼオライトの分散効率の点から、上述した繊維からなる複合繊維を使用してもよく、特に天然繊維としてセルロースとの複合繊維とする場合は、セルロース35質量%未満の複合繊維にすることが好ましい。
また、上記ゼオライト複合体は、フィルター成形の容易さ、すなわちゼオライト構造体の成形の容易さの点で、糸状、綿状、不織布状であることが好ましい。
【0023】
また、上記ゼオライト複合体において、上記繊維内部もしくは繊維表面へのNa型ゼオライト及び金属型ゼオライトの担持量は、ゼオライト複合体の総質量に対して、好ましくは2〜50質量%、より好ましくは3〜15質量%、さらに好ましくは9〜14質量%担持させることが好ましい。2質量%未満であると、金属イオン溶出量及び金属イオン吸着性能が極端に小さいため好ましくない。また、50質量%より大きいと、繊維内部もしくは繊維表面に担持されるゼオライトが層状となり、表面積が少なくなるので、金属イオン吸着性能が低下し、好ましくない。
【0024】
上述したように、本発明のゼオライト構造体は、繊維内部もしくは繊維表面にゼオライトを担持させたゼオライト複合体からなるフィルターのことをいう。
ゼオライト構造体は、ステンレス製あるいはポリプロピレン製のコア部材の外周に糸状のゼオライト複合体を巻きつけたワインドカートリッジフィルター、あるいは、ステンレス製あるいはポリプロピレン製のコア部材の外周に不織布状のゼオライト複合体を巻きつけたロール型カートリッジフィルター、あるいは、ステンレス製あるいはポリプロピレン製のコア部材の内部に綿状のゼオライト複合体を詰め込んだフィルターの形状を有することが好ましい。
特に、フィルター成形の容易さ及び濾過効率の高さの点から、ロール型カートリッジフィルターの形状を有することが好ましい。
【0025】
また、上記ゼオライト構造体は、孔径が0.5〜50μm、より好ましくは0.5〜10μmとしたフィルターの形状を有することが好ましい。ここで、孔径とは、ゼオライト構造体を構成するゼオライト複合体の繊維と繊維の隙間の大きさを意味する。また、ゼオライト複合体が不織布状及び綿状である場合には、ゼオライト構造体を構成したときの最終的な繊維の目開きのことを意味する。
金属型ゼオライト構造体においては、後述するバラスト水の取水工程において、浮遊物を除去することも目的としているため、孔径0.5〜10μmの筒状とすることが好ましい。
【0026】
上記形状のゼオライト構造体は、予め作成しておいたゼオライト複合体とコア部材から成形してもよいし、あるいは、コア部材と繊維から上記形状を成形し、その後上述した方法を適用して繊維内部又は繊維表面にゼオライトを担持させてもよい。
【0027】
例えば、Na型ゼオライト構造体のワインドカートリッジフィルターの場合、予め作成しておいたNa型ゼオライト複合体をコア部材の外周に巻きつけて成形してもよいし、あるいは、コア部材の外周に予め繊維を巻きつけて成形したものに、上述した方法を適用して繊維内部あるいは繊維表面にNa型ゼオライトを担持させてもよい。
金属型ゼオライト構造体のワインドカートリッジフィルターの場合、予め作成しておいた金属型ゼオライト複合体をコア部材の外周に巻きつけて成形してもよいし、あるいは、予め作成しておいたNa型ゼオライト複合体をコア部材の外周に巻きつけて成形したものに、上述した方法を適用してNaイオンを目的の金属イオンに置換させてもよい。
【0028】
次に、バラスト水の保存方法及び排出方法に関し、バラスト水を取水して保存する工程及びバラスト水を排出する工程について、それぞれ説明する。
ここで、各工程において使用するゼオライト構造体は、バラスト水を取水して保存する工程においては金属型ゼオライト構造体、バラスト水を排出する工程においてはNa型ゼオライト構造体が好ましく、それぞれ上述したゼオライト構造体が使用できる。上述したゼオライト構造体を使用することにより、バラスト水の保存方法及び排出方法に効果を発揮する。
なお、金属型ゼオライト構造体としては、金属イオンの溶出量及び殺菌性能に優れる点で、Cu型ゼオライト構造体を使用することが好ましい。以下、具体例として、説明する。
【0029】
バラスト水を取水して保存する工程において、フィルターとして、抗菌性を有するCu型ゼオライト構造体を使用する。Cu型ゼオライト構造体は、上述したようにバラスト水の取水時、浮遊物を除去するフィルターの役割となるとともに、バラスト水と接触してCuイオンを溶出する。溶出するCuイオンは抗菌性を有しているので、バラスト水中の生物種はCu型ゼオライト構造体と接触したとき、もしくは、保存されるバラストタンク内で殺菌される。
【0030】
この工程において、Cu型ゼオライト構造体は、バラスト水中の生物種の栄養素となるリン酸イオンを吸着するため、バラストタンク内においては、生物種の増殖が妨げられる。また、Cu型ゼオライト構造体自体が抗菌性を有しているため、Cu型ゼオライト構造体にバラスト水中の生物種が残存していても、殺菌することができる。
【0031】
上述した取水工程を経た後、バラストタンク内の貯水は、フィルターとして、Na型ゼオライト構造体を通じて排出される。上述したように、Na型ゼオライト構造体は、バラスト水の排水時、上述の取水工程で溶出したCuイオンを吸着するフィルターの役割を果たす。従って、排出されるバラスト水は、生体に安全な程度に無害化されて海に放出される。
【0032】
上述した取水工程を経たのち、フィルターとして用いたCu型ゼオライト構造体は、Cuイオンを溶出する一方、バラスト水中のNaイオンを吸着しているので、Na型ゼオライト構造体となっている。また、上述した排水工程を経たのち、フィルターとして用いたNa型ゼオライト構造体は、Cuイオンを吸着する一方、Naイオンを溶出しているので、Cu型ゼオライト構造体となっている。
従って、取水工程を経たCu型ゼオライト構造体は、排水工程においてNa型ゼオライト構造体として再利用することができ、また、排水工程を経たNa型ゼオライト構造体は、取水工程においてCu型ゼオライト構造体として再利用することができる。
【0033】
上述した具体例では、取水工程及び排出工程において、本発明のゼオライト構造体の殺菌能、吸着能が有効かつ効果的に発揮されているが、必ずしも両機能を組み合わせて使用することに限定されるものではない。つまり、本発明のゼオライト構造体は、目的とする機能・特性に応じて、様々な工程・場面において、各々適宜使用することができる。
例えば、生活排水を下水や川に排出するときに、生活排水からリン酸イオンを吸着する目的で、Cu型ゼオライト構造体を利用することができる。また、工業排水に含まれるレアメタルを回収する目的で、Na型ゼオライト構造体を使用することもできる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明のバラスト水の保存方法及び排出方法の構成を具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
図1に、本発明のバラスト水の保存方法及び排出方法の基本的な構成を示す。
図1において、Aは原水タンク、Bは貯水タンク、C1はCu型ゼオライト構造体、C2はNa型ゼオライト構造体、Pはポンプを示す。
本発明のバラスト水の保存方法は、原水タンクAからポンプPで原水を汲み上げ、Cu型ゼオライト構造体C1を通じて、貯水タンクBに貯水し保存する方法である。
また本発明のバラスト水の排出方法は、貯水タンクBからポンプPで貯水を汲み上げ、Na型ゼオライト構造体C2を通じて排出する方法である。
【0036】
表1に本発明の実験条件を示す。条件1及び条件2は、流速が異なる以外は同様の条件である。
【0037】
【表1】

【0038】
[Cu型ゼオライト構造体によるバラスト水の殺菌]
[実施例1]
原水(海水)を入れた原水タンクに、ポリペプトン0.5g/L、酵母エキス0.25g/Lを加え、20℃で24時間振盪し、細菌数を増殖させた。増殖後の初期細菌数は、10cfu/100ml以上であった。
この原水を、原水タンクから流速1L/h(実施例1−条件1)及び10L/h(実施例1−条件2)で、Cu型ゼオライト構造体フィルターに通水し、一定量通水した時点で一部サンプリングし、残りを貯水タンクへ貯水した。
サンプリングしたものから、Cuイオン濃度及び大腸菌群数を測定した。また、原水を常温下5日保存したもの、一定量通水時にサンプリングしたものを常温下5日保存したもの、及び、貯水を常温下5日保存したものについても、同様に大腸菌群数を測定した。
なお、Cu型ゼオライト構造体は、セルロース複合繊維(セルロース33質量%、ポリプロピレン67質量%の複合繊維)の内部もしくは表面にCu型ゼオライトを3.8質量%担持させたCu型ゼオライト複合体(Cuイオン置換率100%)を、孔径10μmで、ステンレス製のコア部材に巻きつけたワインドカートリッジフィルターを使用した。
Cuイオン濃度の測定は、水質測定器(DR2400、HACH社製)により、定法に従って測定した。
大腸菌群数の測定は合成酵素基質培地法により行なった。
【0039】
[比較例]
実施例1のCu型ゼオライト構造体フィルターをNa型ゼオライト構造体フィルターとし、流速1L/h(比較例1−条件1)とした以外は、実施例1と同様に行なった。
なお、ここで使用したNa型ゼオライト構造体は、セルロース複合繊維(セルロース33質量%、ポリプロピレン67質量%の複合繊維)の内部もしくは表面にNa型ゼオライトを3.8質量%担持させたNa型ゼオライト複合体を、孔径10μmで、ステンレス製のコア部材に巻きつけたワインドカートリッジフィルターである。
【0040】
実施例1−条件1の結果を表2に、実施例1−条件2の結果を表3に、比較例1−条件1の結果を表4に示す。
なお、表2〜表4中、通水量0(L)とは原水を示す。
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
表2、表3及び表4の結果より、本発明のCu型ゼオライト構造体フィルターを使用することによる海水殺菌効果は、一定量通水時のCuイオン溶出濃度が2mg/L以上であれば、通水直後であっても高い殺菌効果を奏することが分かった。
一方、一定量通水時のCuイオン溶出濃度が2mg/L未満であっても、最終的に貯水タンク内のCuイオン濃度が2mg/L以上であれば、殺菌効果が得られることが分かった。
更に、一定量通水時のCuイオン溶出濃度が0.6mg/Lという低い濃度であっても、5日間保存することによって、殺菌効果が得られることが分かった。
【0045】
[Na型ゼオライト構造体によるCuイオンの吸着]
[実施例2]
原水(海水)を入れた原水タンクに、ポリペプトン0.5g/L、酵母エキス0.25g/Lを加え、20℃で24時間振盪し、細菌数を増殖させた。増殖後の初期細菌数は、10cfu/100ml以上であった。
この原水を、原水タンクから流速1L/hで、Cu型ゼオライト構造体フィルターに通水し、貯水タンクへ貯水した。使用したCu型ゼオライト構造体フィルターは、実施例1のものと同様の構成ものを使用した。
この貯水を、貯水タンクから流速1L/h(実施例2−条件1)で、Na型ゼオライト構造体フィルターに通水し、一定量通水した時点で一部サンプリングし、残りを排水タンクへ排出した。
サンプリングしたものから、Cuイオン濃度を測定した。
Cuイオン濃度の測定は、水質測定器(DR2400、HACH社製)により、定法に従って測定した。
結果を表5に示す。
【0046】
【表5】

【0047】
表5の結果より、貯水中に3.4mg/Lの濃度で存在していたCuイオンが、本発明のNa型ゼオライト構造体フィルターを使用することにより、排水後0.7mg/Lの濃度まで減少していること分かった。
このことは、貯水中に溶出しているCuイオンが、Na型ゼオライト構造体フィルターを通じて排出される際に吸着されていることにほかならない。
【0048】
以上のように、バラスト水を取水して保存する工程において、フィルターとして、本発明のCu型ゼオライト構造体を使用してバラスト水と接触させることにより、バラスト水中にCuイオンが溶出し、バラスト水中の生物種を効率的、かつ簡便に殺菌することが出来る。
また、上述の取水工程を経た後、バラストタンク内の貯水を、フィルターとして、本発明のNa型ゼオライト構造体を使用して排出させることにより、上述した取水工程で溶出したCuイオンを吸着し、生体に安全な程度に無害化されて放出することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の金属型ゼオライト構造体及びNa型ゼオライト構造体を、バラスト水の取水工程及び排水工程に、フィルターとして使用することにより、低エネルギー・低コスト、かつ、生体系に無害な程度に、効果的なバラスト水の浄化が可能となる。
また、本発明の浄化システム及びゼオライト構造体フィルターは、バラスト水の他にも、生活排水や工業排水の浄化にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明のバラスト水の保存方法及び排出方法の構成である。
【符号の説明】
【0051】
A:原水タンク
B:貯水タンク
C1:Cu型ゼオライト構造体
C2:Na型ゼオライト構造体
P:ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の保存方法であって、金属型ゼオライト構造体と水とを接触させて、水中に金属イオンを溶出させると共に水中のリン酸イオンを吸着することにより、水中の生物の増殖を抑制する水の保存方法。
【請求項2】
水の排出方法であって、Na型ゼオライト構造体と水とを接触させて、水中の金属イオンを吸着すると共に水中にナトリウムイオンを溶出させることにより、排出時の生態系の生物の生存を阻害しない水の排出方法。
【請求項3】
水を保存した後に排出する方法であって、金属型ゼオライト構造体と水とを接触させて、水中に金属イオンを溶出させると共に水中のリン酸イオンを吸着することにより、水中の生物の増殖を抑制して水を保存した後に、Na型ゼオライト構造体と水とを接触させて、水中の金属イオンを吸着すると共に水中にナトリウムイオンを溶出させることにより、排出時の生態系の生物の生存を阻害せずに水を排出する方法。
【請求項4】
金属型ゼオライト構造体が取水フィルターである請求項1に記載の水の保存方法。
【請求項5】
Na型ゼオライト構造体が排水フィルターである請求項2に記載の水の排出方法。
【請求項6】
金属型ゼオライト構造体が取水フィルターで、Na型ゼオライト構造体が排水フィルターである請求項3に記載の水を保存した後に排出する方法。
【請求項7】
金属型ゼオライト構造体が、銅イオン、銀イオン、亜鉛イオンから選ばれる一種又は複数の金属イオンに60〜100質量%置換された金属型ゼオライトを繊維内部又は繊維表面に2〜50質量%担持した繊維の複合体からなり、さらに該複合体が孔径0.5〜50μmの取水フィルターを構成している請求項4に記載の水の保存方法。
【請求項8】
Na型ゼオライト構造体が、Na型ゼオライトを繊維内部又は繊維表面に2〜50質量%担持した繊維の複合体からなり、さらに該複合体が孔径0.5〜50μmの排水フィルターを構成している請求項5に記載の水の排水方法。
【請求項9】
金属型ゼオライト構造体が、銅イオン、銀イオン、亜鉛イオンから選ばれる一種又は複数の金属イオンに60〜100質量%置換された金属型ゼオライトを繊維内部又は繊維表面に2〜50質量%担持した繊維の複合体からなり、さらに該複合体が孔径0.5〜50μmの取水フィルターを構成し、Na型ゼオライト構造体が、Na型ゼオライトを繊維内部又は繊維表面に2〜50質量%担持した繊維の複合体からなり、さらに該複合体が孔径0.5〜50μmの排水フィルターを構成している、請求項6に記載の水を保存した後に排出する方法。
【請求項10】
繊維が、ガラス繊維、合成繊維である請求項9に記載の水を保存した後に排出する方法。
【請求項11】
水が、海水である請求項9に記載の水を保存した後に排出する方法。
【請求項12】
銅イオン、銀イオン、亜鉛イオンから選ばれる一種又は複数の金属イオンに60%〜100質量%置換された金属型ゼオライトを繊維内部又は繊維表面に2〜50質量%担持した繊維の複合体からなり、さらに該複合体が孔径0.5〜50μmとなるよう配置されたフィルター。
【請求項13】
Na型ゼオライトを繊維内部又は繊維表面に2〜50質量%担持した繊維の複合体からなり、さらに該複合体が孔径0.5〜50μmとなるよう配置されたフィルター。
































【図1】
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【公開番号】特開2009−106829(P2009−106829A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280075(P2007−280075)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】