説明

水ガバナー

【課題】より低液圧の領域においても一定流量を確保できる水ガバナーを得る。
【解決手段】センタコア、弾性リング及びケーシングを備えた水ガバナーにおいて、ケーシングに、上流側と下流側の液圧差がないときに流路面積を最大とし、上流側の液圧が増すに連れて流路面積を減少させる常開弁を設けた水ガバナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水ガバナー(簡易流量制限装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
図5、図6について、従来の水ガバナーの基本構造及びその問題点について説明する。この水ガバナーは、上流側の液圧の高低に関わらず、常に略一定の流量を供給することを目的とするもので、集中式ボイラー、無タンク式水洗トイレ、ホテル等での蛇口の最大流量規制等に用いられつつある。基本形は特公昭51−23059号公報で提案された。
【0003】
この水ガバナーは、ケーシング10、センタコア20、及びOリング(弾性部材)30とからなっている。センタコア20は、柱状のコア部20Aと、フランジ部20Bとを有し、コア部20Aには、その外周に、放射方向に延びる複数の凸部21と、これらの凸部21の間に位置する凹部22とが形成されている。Oリング30は、センタコア20のコア部20Aの外周に嵌められ、凹部22との間に流路23を形成する。センタコア20のコア部20Aとフランジ部20Bとの間には、ブリッジ部25を除いて、複数の貫通孔24が形成されている。呼び流量(設定流量)は、流路23の設定面積によって決定される。
【0004】
ケーシング10は、このセンタコア20とOリング30の結合体を支持するもので、センタコア20のフランジ部20Bを受け入れる最大径部11、Oリング30を受け入れる中径部12及び貫通穴13を有するフランジ部14を有する断面階段状をなしている。フランジ部14は、Oリング30の外周側を通る流路を閉塞し、貫通穴13はセンタコア20のコア部20Aとの間に流路隙間を作る。このケーシング10は、上流側の液圧によりセンタコア20がケーシング10に押し付けられる方向に向けて、例えば水道管路40内に定着される。
【0005】
この水ガバナーによると、上流側の流体(水道水)が、貫通孔24からOリング30側に流入し、Oリング30と凹部22との間の流路23を通って、下流側に流れる。この際、流路23を通過する水の流速に応じて、Oリング30が内方に弾性変形して流路23の面積を変化させる。Oリング30の弾性変形後の位置の例は、図5に符号30’で示した。すなわち、流速が速い程、Oリング30が内方に弾性変形して流路23の流路が絞られるので、上流側の液圧に関わらず、下流側には常に略一定の流量を取り出すことができる。
【0006】
図7の線図Bは、従来の水ガバナーの液圧(圧力)-流量特性例(呼び流量20L/分)を示している。この特性例に示すように、液圧が凡そ60kPaを超える領域では、流量がほぼ呼び流量に保持されていることが分かる。
【特許文献1】特公昭51−23059号公報
【特許文献2】特開平8-112721号公報
【特許文献3】特開平8-145213号公報
【特許文献4】特開平8-145214号公報
【特許文献5】特開平8-145215号公報
【特許文献6】特開平9-60762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この流量特性図から明らかなように、従来の水ガバナーは、60kPa未満の領域では、流量が液圧とほぼ比例関係にあり、一定流量を確保することができなかった。
【0008】
従って本発明は、従来の水ガバナーについての以上の問題意識に基づき、より低液圧の領域においても一定流量を確保できる水ガバナーを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、センタコア、弾性リング及びケーシングを備えた従来の水ガバナーに、低圧時には開いていて、上流側の液圧が増すに連れて流路面積を減少させる常開弁を加えて設けることにより、低圧領域においても一定流量を確保するという着眼に基づいてなされたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、センタコア、弾性リング及びケーシングを備えた水ガバナーにおいて、ケーシングに、センタコアの外側に位置させて、上流側と下流側の液圧差がないときに流路面積を最大とし、上流側の液圧が増すに連れて流路面積を減少させる常開弁を設けたことを特徴としている。
【0011】
より具体的には、ケーシングには、中心部のセンタコア収納部と、周縁部の複数の貫通穴とを形成し、この貫通穴と、この貫通穴を開閉する弾性弁体から常開弁を構成することができる。
【0012】
弾性弁体は、好ましくは、センタコアと同心をなす環状弾性弁体とし、ケーシングには、この環状弾性弁体の中心部と周縁側のいずれか一方を固定する環状固定溝と、この環状固定溝と同心に不連続に位置する複数の貫通穴を形成することが好ましい。
【0013】
常開弁は、具体的には例えば、弾性リングが弾性変形して流量一定化作用が得られる液圧で閉じるように弾性力を設定することが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、センタコア、弾性リング及びケーシングを備えた従来の水ガバナーに、低圧時には開いていて、弾性リングが変形を開始する液圧に達すると閉じる常開弁を加えて設けたので、より低い低圧領域においても一定流量を確保することができる水ガバナーを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1、図2は、本発明による水ガバナーの一実施形態を示すもので、センタコア20、Oリング30及びケーシング100からなっている。このうち、センタコア20とOリング30は実質的に図5、図6の従来品と同一であり、ケーシング100回りの構成が従来品とは異なる。
【0016】
全体として軸線を中心とする回転対称形状のケーシング100は、水道管路40の段部41に係止される筒状部101とこの筒状部101の流路下流側端部のフランジ部102を有しており、フランジ部102の中心部に貫通穴103が形成されている。筒状部101の内周面には、センタコア20を係止する段部(センタコア収納部)104が形成されている。ケーシング100は、上流側の液圧によりセンタコア20が段部104に押し付けられる方向に向けて、水道管路40内に定着される。
【0017】
フランジ部102の内面には、中心貫通穴103と同心に、環状リブ105が形成されていて、この環状リブ105の内側にOリング30が位置している。一方、フランジ部102には、この環状リブ105の外側に位置させて、不連続に複数の弧状貫通穴106が穿設されており、この弧状貫通穴106と、この弧状貫通穴106を開閉するゴム材料からなる環状弾性弁体108とによって常開弁110が形成されている。
【0018】
環状弾性弁体108は、図3(図1とは上下を逆転させて描いている)に詳細を示すように、ケーシング100に固定される中心部の筒状部108Cと、この筒状部108Cに連続し自由状態でフランジ部102(弧状貫通穴106)から離れる方向に傾斜して延びるテーパ状部(傘状部)108Tを有している。すなわち、環状弾性弁体108の筒状部108Cは、ケーシング100のフランジ部102の内面に、環状リブ105と弧状貫通穴106の間に位置させて形成した有底筒状溝(環状固定溝)107に嵌め込み固定されている。固定には、接着、焼付等の周知の手段を用いることができる。
【0019】
テーパ状部108Tは自由に弾性変形でき、自由状態では、図3(A)に示すようにフランジ部102(弧状貫通穴106)から離間して弧状貫通穴106を通る最大流路面積を確保する。一方、液圧を受けると弧状貫通穴106を閉塞する方向に弾性変形し(図3(B))、最大に変形すると、弧状貫通穴106を完全に閉塞する(図3(C))。有底筒状溝107の弧状貫通穴106側の面に形成したR面107Rは、環状弾性弁体108の流路閉塞方向への弾性変形を容易(確実)にする。
【0020】
図4は、流路圧力(液圧)と環状弾性弁体108のテーパ状部108Tの変形角度θ(流路方向からの角度、図3(A))との関係の一例を示している。この例では、自由状態のテーパ状部108Tの角度を55.5゜、弧状貫通穴106を完全に閉じるときのテーパ状部108Tの角度を90゜としている。この例では、流路圧力が0から0.01MPaの間では、55.5゜が維持され(テーパ状部108Tは変形せず)、0.01MPaから上昇すると、テーパ状部108Tは弧状貫通穴106を通る流路の面積を徐々に減少させ、約0.06MPaで完全に閉じる。すなわち、本実施形態の水ガバナーは、低圧領域では、常開弁110が開いて最低流量を確保し、一定圧に達すると、同常開弁110が閉じる。図7の線図Aは、本実施形態の常開弁110を備えた水ガバナーの液圧(圧力)-流量特性例(呼び流量20L/分)を示している。この特性例に示すように、本実施形態によれば、液圧が凡そ20kPaを超える領域では、流量がほぼ呼び流量に保持されている。
【0021】
以上の常開弁100の流路閉塞動作が行われる間、Oリング30とセンタコア20Aの凹部22との間の流路23を通って液体は流れており、流路23を通過する水の流速に応じて、Oリング30が内方に弾性変形し始める。すなわち、環状弾性弁体108のテーパ状部108Tが弧状貫通穴106を完全に閉じるまで(上の具体例では流路圧力が0.06MPaの近傍に達する前)には、センタコア20AとOリング30による水ガバナーの流量一定化作用が始まっており、常開弁110が閉じた後は、従来の水ガバナーと同様の流量一定化作用が得られる。別言すると、常開弁110は、センタコア20とOリング30による流量一定化作用が始まる前の液圧で閉じるように、その特性を設定する。勿論、常開弁110が閉じるタイミングについては自由度があり、センタコア20AとOリング30による水ガバナーの流量一定化作用が得られるときには閉じていればよい。
【0022】
常開弁100は、以上の実施形態では、ケーシング100の中心に関して回転対称形状に形成されており、管路内に均等に液体を流すために好ましい一つの態様である。しかし、本発明は、理論的に、回転対称形状でない常開弁であっても成立する。また、図示実施例では、環状弾性弁体108の内周縁部をケーシング100に固定したが、外周縁部を固定し内周側を自由としても同様の作用が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による水ガバナーの一実施形態を示す、図5の従来品に対応する縦断面図である。
【図2】図1の水ガバナーの平面図である。
【図3】(A)、(B)、(C)は、図1の水ガバナーの常開弁部分の詳細及び動作を示す拡大断面図である。
【図4】図2の常開弁の動作特性例を示すグラフ図である。
【図5】従来の水ガバナーの一例を示す縦断面図である。
【図6】図5の水ガバナーのセンタコア単体の平面図である。
【図7】本発明と従来の水ガバナーの流量-液圧特性例を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0024】
20 センタコア
20A コア部
20B フランジ部
23 流路
24 貫通孔
30 Oリング(弾性部材)
40 水道管路
100 ケーシング
101 筒状部
102 フランジ部
103 中心貫通穴
104 段部(センタコア収納部)
105 環状リブ
106 弧状貫通穴
107 有底筒状溝(環状固定溝)
108 環状弾性弁体
108C 筒状部
108T テーパ状部
110 常開弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に、放射方向に延びる複数の凸部とこれら凸部の間に位置する凹部とを有するセンタコアと;このセンタコアの外周に嵌められ、上記凹部との間に流路を形成する弾性リングと;このセンタコアと弾性リングを支持し、上記流路に流体を流すケーシングと;を備えた水ガバナーにおいて、
上記ケーシングに、上流側と下流側の液圧差がないときに流路面積を最大とし、上流側の液圧が増すに連れて流路面積を減少させる常開弁を設けたことを特徴とする水ガバナー。
【請求項2】
請求項1記載の水ガバナーにおいて、上記ケーシングは、中心部のセンタコア収納部と、周縁部の複数の貫通穴とを有し、上記常開弁は、この貫通穴と、この貫通穴を開閉する弾性弁体からなっている水ガバナー。
【請求項3】
請求項2記載の水ガバナーにおいて、上記弾性弁体は、センタコアと同心をなす環状弾性弁体であり、ケーシングには、この環状弾性弁体の中心部と周縁側のいずれか一方を固定する環状固定溝と、この環状固定溝と同心に不連続に位置する複数の上記貫通穴が形成されている水ガバナー。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の水ガバナーにおいて、上記常開弁は、上記弾性リングが弾性変形して流量一定化作用が得られる液圧で閉じる水ガバナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−250247(P2009−250247A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94605(P2008−94605)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】