説明

水上又は水中航走体の監視装置

【課題】複数の種類の船種等の監視を迅速に行うことを可能にした航走体監視装置を提供する。
【解決手段】航走する単一の航走体から発生する複数の種類のシグネチャをそれぞれ検出する複数のセンサからなるセンサ部2と、該センサ部2からの複数の検出信号を複数の船種等に応じてそれぞれ処理する機能を有する信号処理部5と、航走する航走体の判定情報が設定され、前記信号処理部で処理された波形信号に基いて航走する航走体の船種等を判定する総合判定部6とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水上又は水中航走体(以下、航走体という)が輻輳する海域や領海侵犯などが予測される海域に設置し、設置した周辺海域を通行する航走体の航走状態や船種などを判別して記録し、外部に通報する水上又は水中航走体の監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような航走体の監視装置(以下、航走体監視装置という)は、例えば、センサ部、信号処理部、判定部、記録部及び判定した結果を外部に通報する出力部等からなり、航走する航走体の船種(大型船、小型船など)、航走方向、航走深度、速力など(以下、これらを総称して船種等という)を監視し、判別する。航走体を監視する場合には、航走体が水上又は水中を航走する際に周囲に放出する信号(シグネチャ)を捕える。シグネチャの種類には、通常、磁気、音響、水圧、水中電界、振動などがある。
【0003】
航走体はその大きさなどに対応した磁気信号を発するので、この磁気信号レベルの大きさ、磁気信号が継続する時間、磁気信号の波形(レベルが大きくなる山の数など)の特徴によって船種等を判別する。なお、磁気信号を発する航走体は、船体が鋼製(磁性体)から構成されているものであるが、FRP製のようなものであっても、搭載機器に磁性体から構成されたものを搭載している場合には磁気信号を発する。また、電流が電線を流れることによって発生する、いわゆる浮遊磁界と呼ばれる磁界によっても磁気信号が発生する。
音響信号は、レベル変化が磁気信号ほど顕著でない場合が多いが、プロペラの回転数、主機回転数×プロペラ枚数、大型補機の回転数などに起因する音響周波数に、特徴的なスパイク信号を出すことが多いため、これらの特徴を捕えて船種等を判別する。
【0004】
水圧信号は、液体中を物体が移動すれば、必らずその周囲に圧力変動を生ずるため、それを捕える。一般的には、一旦圧力が上昇したあと圧力が低下し、最接近時に圧力が最も低下する。
水中電界信号は、一般的には防食装置に起因する微弱な電界が航走体の周囲に発生しているので、それを捕える。水中電界信号は、一般的にはプロペラが陰極となることが多く、主機回転数×プロペラ枚数に起因した微小な波動のような信号が重畳することがあるため、その水中電界信号を捕えれば、音響信号の場合と同様に船種等を判別することができる。
【0005】
図9は従来の航走体監視装置のブロック図である。同図において、2は航走する船舶の各種のシグネチャをそれぞれ検出する複数のセンサ2a〜2dからなるセンサ部で、例えば、2aは磁気センサ、2bは音響センサ、2cは水圧センサ、2dは水中電界センサである。各センサ2a〜2dからの検出信号は増幅器3a〜3dで増幅され、A/D変換器4a〜4dでディジタル信号に変換されたのち、それぞれ信号処理部5a〜5dに送られて、その検出信号を処理し、シグネチャの信号波形を識別する。
【0006】
6は総合判定部であり、外部に設けた設定部10により、船舶の船種(例えば、大型船、小型船など)、航走方向など、必要な判定情報が設定されており、各信号処理部5a〜5dから送られた信号波形情報に基いて、航走する船舶の船種、航走方向、航走深度、速力などを総合的に判定する。
【0007】
7は総合判定部6の判定結果やその他の情報を記録する記録部、8は総合判定部6による判定結果を外部に送信する出力部である。そして、これらセンサ部2(2a〜2d)、増幅部3(3a〜3d)、A/D変換部4(4a〜4d)、信号処理部5(5a〜5d)、判定部6、記録部7及び出力部8は筐体1内に収容され、海中に設置される(このような従来の航走体監視装置に関する特許文献及び非特許文献は、調査したが発見できなかった)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような従来の航走体監視装置は、センサ部2は検出するシグネチャの種別にそれぞれ対応した複数のセンサ2a〜2dから構成されており、また、信号処理部5a〜5dは各センサ2a〜2dの検出信号に対応してそれぞれ設けられており、信号処理部5a〜5d及び総合判定部6は監視対象の船種に応じた処理内容が設定部10により設定されるものであり(単機能)、複数の船種を監視する場合には、監視対象の船種を変える度に海中に設置した航走体監視装置を引き上げてその設定を変更しなければならず、迅速な処理ができない、という課題があった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、複数の種類の船種等の監視を迅速に行うことを可能にした航走体監視装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る航走体監視装置は、航走する単一の航走体から発生する複数の種類のシグネチャをそれぞれ検出する複数のセンサからなるセンサ部と、該センサ部からの複数の検出信号を複数の船種等に応じてそれぞれ処理する機能を有する複数の信号処理部と、航走する航走体の判定情報が設定され、前記信号処理部で処理された波形信号に基いて航走する航走体の船種等を判定する総合判定部とを備えたものである。
【0011】
本発明に係る航走体監視装置は、前記複数の信号処理部を、予め任意に設定可能なタイマー又は音響コマンドにより切り替える。
【0012】
本発明に係る航走体監視装置は、航走する単一の航走体から発生する複数の種類のシグネチャをそれぞれ検出する複数のセンサからなるセンサ部と、該センサ部からの検出信号を複数の船種等に応じてそれぞれ処理する機能を有する信号処理部と、航走する航走体の判定情報が設定され、前記信号処理部からの信号波形に基いて航走する航走体の船種等を判定する総合判定部とを備え、前記信号処理部を複数装備するか、又は1つの信号処理部を時分割処理、割り込み若しくはイベント駆動処理により処理内容を切り替え同時並行的に処理機能を実行する。
【0013】
本発明に係る航走体監視装置は、前記総合判定部に、判定結果その他の情報を記録する記録部及び前記判定結果その他の情報を外部へ送る出力部を設けたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の船種等を監視する際に、船種等に応じてその都度設定を変更する必要がなく、事実上同時に監視することが可能になっているので、監視処理が迅速になされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係る航走体監視装置のブロック図である。なお、図9で説明した従来装置と同じ部にはこれと同じ符号を付し、説明の一部を省略する。
本実施の形態において、航走体監視装置は、磁気、音響、水圧、水中電界等のシグネチャを検出するセンサ部2、センサ部2の検出信号を増幅する増幅部3、増幅部3で増幅された信号をデジタル信号に変換するA/D変換部4、A/D変換部4でデジタル信号に変換されたシグネチャを信号処理する信号処理部5、及び信号処理部5で信号処理された波形信号に基づいて船種等を判定する総合判定部6を備えている。センサ部2は、複数のセンサ2a,2b,2c,2d,…2nから構成されており、上記のように、磁気、音響、水圧、水中電界等のシグネチャを検出する。このシグネチャには振動のシグネチャを含むようにしてもよい。増幅部3は、複数の増幅器3a,3b,3c,3d,…3nから構成されており、センサ2a,2b,2c,2d,…2nによりそれぞれ検出されたシグネチャを増幅する。信号処理部5は、監視対象の複数の船種等に対応した個数の信号処理部5−1〜5−3から構成されている。例えば或る1つの船種等に対しては信号処理部5−1、例えば他の2つの船種等に対しては、信号処理部5−2,5−3が設けられている。信号処理部5−1は、増幅器3a,3b,3c,3d,…3nからシグネチャをそれぞれ信号処理するための信号処理部5a,5b,5c,5d……5nから構成されている。このような構成は、信号処理部5−2及び信号処理5−3も同様である。但し、監視しようとする船種等に応じてその信号処理の内容は異なったものなっている。信号処理部5(5−1〜5−3)で信号処理されて識別された波形信号は総合判定部6へ送られる。総合判定部6は、複数の総合判定部6−1,6−2,6−3から構成されており、信号処理部5−1,5−2,5−3からの波形信号に基づいて総合的に複数の種類の船種等を判定する。なお、設定部10は、監視しようとする船種等に対応して信号処理部5−1〜5−3及び総合判定部6-1〜6−3に必要な情報を設定する。このため、信号処理部5−1及び総合判定部6-1と、信号処理部5−2及び総合判定部6-2と、信号処理部5−3及び総合判定部6−3とは、監視対象の船種等に応じてそれぞれ異なった信号処理及び判定をすることになる。なお、設定部10は、筐体1に取り外し自在に取り付けて設定終了後は取り外すようにしてもよいが、操作パネルとして筐体1に埋め込むよにしてもよい。
【0016】
上記のように構成された本実施の形態においては、センサ部2で検出された検出信号は増幅部3で増幅され、A/D変換部4でディジタル信号に変換されて信号処理部5に送られる。各信号処理部5−1,5−2,5−3は、センサ部2か及び増幅部3からの同一の出力信号を受け、図2に示されるように、それぞれ独立して同時に並行して信号処理を実行し、波形信号を識別してその情報を総合判定部6へ送る。
【0017】
総合判定部6−1,6−2,6−3では、各信号処理部5−1,5−2,5−3から送られた情報を、設定された判定情報に基いて総合的に判断し、例えば、その情報が磁気信号に基づく場合は、信号レベルの大きさ、経過時間、信号波形などが図3のAに示すような場合は例えば総合判定部6−1が大型船舶と判定し、図3のBに示すような場合は例えば総合判定部6−2が中型船舶と判定し、図3のCに示すような場合は例えば総合判定部6−3が小型船舶と判定する。そして、判定結果は、日時その他の情報と共に記録部7で記録され、また、出力部8から外部へ送られる。
【0018】
従来は単一の船種等の検出のために設定され目的の船種等の検出しかできなかったが、上記のように本実施の形態によれば、複数の信号処理部5−1〜5−3及び総合判定部6−1〜6−3を搭載し、それぞれに異なる船種等の検出を行うための設定を個別に行うことによって、それぞれ独立してかつ同時並行的に複数種類の船舶等の監視ができるようになっており、監視処理が迅速になされ、効率的よく処理することができる。また、複数の信号処理部5−1〜5−3及び総合判定部6−1〜6−3がそれぞれ設定された船種等を検出するようにしたので、そのソフトウェアが複雑にならずに済むという利点がある。
【0019】
[実施の形態2]
図4は本発明の実施の形態2に係る航走体監視装置のブロック図である。なお、実施の形態1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、説明を省略する。本実施の形態は、航走体監視装置の筐体1内にタイマー9を設け、このタイマー9により、図5に示すように、あらかじめ定めたスケジュール(例えば、午前、午後、夜間など)にしたがって、信号処理部5−1、5−2、5−3を順次切り替えるようにしたものである。
【0020】
この場合には、固定的なスケジュールで信号処理部5a−1、5−2,5−3を切り替えるのが不適切な場合は、図4に破線で示すように、例えば、外部に音響コマンド送受信部11を設け、その指令により動作モードを任意に切り替えるようにしてもよい。
【0021】
本実施の形態においても、実施の形態1の場合とほぼ同様の効果を得ることができる。なお、音響コマンド送受信部11などにより、任意に信号処理部5−1、5−2、5−3を切り替えるようにした場合は、任意の信号処理部5a−1、5−2、5−3を選択して航走体を監視することができる。
【0022】
ところで、図4の例は複数の信号処理装置5−1〜5−3及び総合判定部6−1〜6−3を監視対象の船種等の個数に応じてそれぞれ3個のハードウェアを設けた例であるが、信号処理装置及び総合判定部をハードウェアとしてそれぞれ1個設け、そして、ソフトウェアにより複数の信号処理装置5−1〜5−3及び総合判定部6−1〜6−3を実現するようにしてもよい。例えば単一の船舶のみを検出するだけで良い用途の場合には、ハードウェアの簡素化のために、信号処理装置は1つとして、その代わりに、複数の設定条件を設定できるように信号処理装置5を構成し、上記のように、タイマー9又は音響コマンド送受信部11により設定を切り替えて、複数の信号処理装置5−1〜5−3及び総合判定部6−1〜6−3を実現する。このようにすることによって、時間帯を分けて複数の船舶を監視する場合には、ハードウェアを複雑にすることなく行うことができる。次に、信号処理装置及び総合判定部をハードウェアとしてそれぞれ1個設け、且つ、複数の船種等を同時監視するようにした例を実施の形態3として説明する。
【0023】
[実施の形態3]
図6は本発明の実施の形態3に係る航走体監視装置のブロック図である。なお、上記の図と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、説明の一部を省略する。実施の形態1では、監視対象の船種等の個数(この例では3個)に応じた個数の信号処理部5−1〜5−3と、総合判断部6−1〜6−3とを設けた例について説明したが、この実施の形態においては、監視対象の船種等の個数に関係なく、1個の信号処理部5と1個の総合判定部6とを設けている。そして、例えば信号処理部5は、上記の信号処理部5−1、5−2、5−3と同一の機能を制御プログラムにより時分割処理して行っている。例えば上記の信号処理部5−1はセンサ2a〜2nからのシグネチャに対応した信号処理プログラム5a−1〜5n−1を備え、同様にして、信号処理部5−2は信号処理プログラム5a−2〜5n−2、信号処理部5−3は信号処理プログラム5a−3〜5n−3を備えているものとする。また、総合判定部6においても、上記の総合判定部6−1〜6−3と同一の機能を制御プログラムにより時分割処理して、上記の実施形態1の場合と同様に動作する。
【0024】
以上のように、本実施の形態おいては、信号処理部5は、図7に示すように、時分割処理によって疑似的に複数の信号処理を同時並行的に行うようにしており、上記の実施の形態の場合と同様に複数の船種等を迅速に検出することができる。なお、図7では、時間の経過と共に処理を時分割で切り替える場合を示したが、処理を行うべき事象が発生したときに、任意に処理を起動する割り込み処理やイベント駆動処理などによって実現してもよい。
【0025】
[実施の形態4]
図8は本発明の実施の形態4に係る船舶監視装置のブロック図であり、これは図1の実施の形態1の変形例である。この実施の形態においては、図示のように、1つの船種等に対応してセンサ部2(2a〜2n)の個数よりも少ない複数の信号処理部5a〜5m(但し、m<n)を設けているが、上記の図1の例とは異なり、1つの信号処理部が1つのセンサの処理を受け持つのではなく、任意のセンサ2a〜2nと各信号処理部5−1〜5−3の信号処理部5a〜5mとを適宜組合せることができるように、両者はデータバス20により接続されている。これによって用途に応じて効率的にセンサ2(2a〜2n)と信号処理部5a〜5mとを適宜組み合わせることができ、比較的簡単なハードウェア構成によって同時並行的に複数の船舶を待ち受けることができるなど多彩な設定をすることが可能になっており、また、処理速度を大きく落とすことなく同時並行的に処理を進めることができる。
【0026】
なお、上記の実施の形態1〜4においては3種類の船種等を検出する例について説明したが、その個数は任意に設定されるものであり、上記の実施の形態の個数に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1に係る航走体監視装置のブロック図である。
【図2】図1の信号処理部の作用説明図である。
【図3】図1の信号処理部の処理波形の説明図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る航走体監視装置のブロック図である。
【図5】図4のタイマーによる信号処理部の切り替え状態を示す説明図である。
【図6】本発明の実施の形態3に係る航走体監視装置のブロック図である。
【図7】図6の信号処理部の時分割処理の説明図である。
【図8】本発明の実施の形態4に係る船舶監視装置のブロック図である。
【図9】従来の航走体監視装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0028】
1 筐体、2 センサ部、5,5−1〜5−3 信号処理部、6,6−1〜6−3 総合判定部、7 記録部、8 出力部、9 タイマー、10 設定部、11 音響コマンド送受信部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航走する単一の水上又は水中航走体(以下、航走体という)から発生する複数の種類のシグネチャをそれぞれ検出する複数のセンサからなるセンサ部と、
該センサ部からの複数の検出信号を複数の船種等に応じてそれぞれ処理する機能を有する複数の信号処理部と、
航走する航走体の判定情報が設定され、前記信号処理部で処理された波形信号に基いて航走する航走体の船種等を判定する総合判定部と
を備えたことを特徴とする航走体監視装置。
【請求項2】
前記複数の信号処理部を、予め任意に設定可能なタイマー又は音響コマンドにより切り替えることを特徴とする請求項1記載の航走体監視装置。
【請求項3】
航走する単一の航走体から発生する複数の種類のシグネチャをそれぞれ検出する複数のセンサからなるセンサ部と、
該センサ部からの複数の検出信号を複数の船種等に応じてそれぞれ処理する機能を有する信号処理部と、
航走する航走体の判定情報が設定され、前記信号処理部からの信号波形に基いて航走する航走体の船種等を判定する総合判定部とを備え、
前記信号処理部を複数装備するか、又は1つの信号処理部を時分割処理、割り込み若しくはイベント駆動処理により処理内容を切り替え同時並行的に処理機能を実行することを特徴とする航走体監視装置。
【請求項4】
前記総合判定部に、判定結果その他の情報を記録する記録部及び前記判定結果その他の情報を外部へ送る出力部を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の航走体監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−290626(P2008−290626A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139449(P2007−139449)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)
【Fターム(参考)】