説明

水中のVOC物質の分解方法ならびに装置

【課題】 VOC物質含有水中のVOC物質を分解して無害化する技術において、VOC物質の分解性が高く、有害物質の発生などの副作用がなく、完全度の高い分解方法と装置を提供する。
【解決手段】 透明ガラス管部5内のVOC物質含有水8に、1000ピコ秒〜50フェムト秒の超短パルスレ−ザ−2を集光して照射し、前記VOC含有水中のVOC物質の分子の結合部を切断して分解し、無害な水とする方法と装置を提供し得た。
前記超短パルスレ−ザ−照射によって、VOC物質の分子結合部を完全に切断することが可能で、有害な副生成物の発生がない、クリ−ンな技術であることが検証された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に存在する有害物質を無害化する技術に関し、さらに詳しくは水中のVOC物質を分解する方法および装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
VOC物質の除去方法や無害化方法は現在、燃焼分解法、吸着式除去法、触媒燃焼法、あるいは蓄熱式分解法などが行われている。
有害物質を無害化する技術に関し、示唆あるいは参考にすべき文献を以下に記載する。
【特許文献1】特開2006−110117
【特許文献2】特開2006−71492
【特許文献3】特開2005−81259
【特許文献4】特開2004−24942
【特許文献5】特開2001−300256
【特許文献6】特開2000−126549
【特許文献7】特開平7−8745
なお、前記文献の概略説明において、前記文献からの引用文およびその説明は、前記文献に用いられている表現をそのまま用いるもとする。
【0003】
「特許文献1」は、レ−ザ−を用いて有害物質を特定し、さらに有害物質を無害化するロボットについての開示である。
「特許文献1」の段落番号「0012」に、「・・・前記ロボット本体には、レ−ザを照射して有害物質を特定する有害物特定手段と、前記レ−ザを広範囲に照射して濃度分布計測を行う事により有害物質の濃度が最も高い箇所を発生源とする有害物質発生源特定手段と、前記レ−ザとは別のレ−ザをさらに照射して前記有害物質を無害化処理する無害化処理手段とを有するレ−ザ装置と、前記ロボット本体の周囲を撮影する撮影手段と、前記ロボット本体の遠隔操作信号を送受信すると共に、前記撮影手段により撮影された映像のデ−タを送信する送受信装置を設けたことを特徴とする。前記有害物質としては、炭素菌、ボツヌリス菌、ペスト菌、セブ、リシン、天然痘ウイルス、ツアヌシア菌などの生物や、VXガス、サリン、ソマン、マスタ−ドガス、ルイサイト、青酸ガス等の化学剤が挙げられる。・・・」、と開示されている。
なお、「特許文献1」には、使用レ−ザ光に関する、レ−ザ媒質、波長、発信形態、出力などについては記載されてない。
【0004】
「特許文献2」の関連部分は、ガス中のガス成分を排除し、微粒子成分のみの分析を行うことを目的として、レ−ザ−を微粒子成分に照射して微粒子成分の揮発性有機化合物を気化させるレ−ザ装置で、気化した揮発性有機化合物にレ−ザ−を照射してイオン化させる装置に関する開示である
「特許文献2」の段落番号「0010」に、「第4の発明は、第3の発明において、前記第2の減圧室のプラズマ化装置が波長180〜400nmの範囲のレ−ザ光を微粒子成分に照射して微粒子成分の揮発性有機化合物を気化させるレ−ザ装置であり、第3の減圧室のプラズマ装置が180〜400nmの範囲のレ−ザ光を気化した揮発性有機化合物に照射してイオン化させるレ−ザ装置であることを特徴とするガス中の微粒子成分計測装置にある。」、と開示されている。
【0005】
「特許文献3」は、有害成分が含まれる領域に、水蒸気を励起する特定波長のレ−ザ−を照射し、該励起された高いエネルギ−により有害物質を分解処理するレ−ザ−分解装置及び方法に関する開示である。
「特許文献3」の段落番号「0007」に、「・・・水蒸気を励起するレ−ザ光を照射するレ−ザ装置を備え、レ−ザ光の照射によって高い励起状態となった水蒸気により被分解物を分解する・・・」、と開示されている。
また、「特許文献3」の段落番号「0011」に、「・・・水蒸気の励起波長が1100〜1160nm、1340〜1500nmの波長域の1又は2以上の特定波長であり、且つ該レ−ザ光を増幅し、被分解物が存在する領域に照射し、該領域に存在する水蒸気を高いエネルギ−状態とし、被分解物を分解する・・・」、と開示されている。
【0006】
「特許文献4」は、汚染現場において汚染土壌を直接浄化処理が可能な、レ−ザ−を用いた浄化技術に関する開示である。
「特許文献4」の段落番号「0005」に、「・・・レ−ザビ−ムを汚染土壌を典型とする汚染物の表面に直接照射する方式であれば、焼却炉のような大掛かりな施設が不要であり、例えば半導体レ−ザのように小型軽量のレ−ザ発信器を用いれば、汚染現場に機材を持ち込み、その場で浄化処理を実施できる。」、と。
また、「レ−ザビ−ムの照射による加熱温度は摂氏1,000〜1,500度に達するため、雑菌に対する殺菌処理は勿論のこと、ダイオキシンや鉛等の除去も可能である。しかも、レ−ザビ−ムによる加熱工程は瞬間的に完了するため、特に冷却工程を設けることなく、元の場所に戻すことができる。・・・」、と開示されている。
【0007】
また、「特許文献4」の段落番号「0012」に、「上記レ−ザ発振器14は、例えば10kw級の出力を備えた半導体レ−ザ発振器よりなる。また、レ−ザ発振器14とレ−ザヘッド16との間は光ファイバ24によって接続されている。上記レ−ザヘッド16内には、シリンドリカルレンズ等の光学素子が組み込まれており、レ−ザ発振器14から出力されたレ−ザビ−ムは、これらの光学素子の作用によって線状ビ−ム化される。」、と開示されている。
【0008】
「特許文献5」は、ごみ焼却炉で発生した排出ガスの排気ダクトに、レ−ザ−を照射する分解処理部を設け、排出ガス中のダイオキシン等の有害物質を分解する方法と装置に関する開示である。
「特許文献5」の段落番号「0004」に、「・・・排出ガスの発生源で発生した排出ガスにCOレ−ザ光を照射することにより、加熱されたCOを介して排出ガスに含有される有害物質を分解するようにした有害物質の分解方法において、上記COレ−ザ光を排出ガスに照射する際の該上記排出ガスに含有されるCOの濃度を、上記排出ガスの発生源から発生する排出ガスに含有されるCOの濃度よりも高い濃度に増加させるように構成したものである。」、と開示されている。
【0009】
また同段落番号に、「・・・排出ガスの発生源で発生した排出ガスにCOレ−ザ光を照射することにより、加熱されたCOを介して排出ガスに含有される有害物質を分解する分解処理部を備える有害物質の分解装置において、上記分解処理部が排出ガスにCOレ−ザ光を照射する際の排出ガスに含有されるCOの濃度を所定値以上に増加させる濃度増加手段を設けたものである。」、と開示されている。
また、「特許文献5」の段落番号「0005」に、「上述した構成によれば、後述する実験結果から明らかなように、排出ガス中に含まれるダイオキシンを略100%分解することが可能となる。」、と開示されている。
【0010】
「特許文献6」は、焼却炉等からの排出ガスにCOレ−ザ−を照射する際、ダイオキシン等の有害物質をその分解温度間で効率的に加熱することが開示されている。
「特許文献6」の段落番号「0004」に、「・・・焼却炉等からの排出ガスにCOレ−ザ光を照射してダイオキシン等の有害物質の分解温度まで加熱して、該排気ガス中に存在する有害物質を分解することを特徴とするものである。また本発明装置は、焼却炉等からの排出ガスが流通する排気ダクトと、該排気ダクト内にCOレ−ザ光を照射して、該排気ダクトをCOレ−ザ光で閉鎖させるCOレ−ザ発振器とを備えることを特徴とするものである。」、と開示されている。
【0011】
「特許文献7」は、レ−ザ−による有害ガスの分解に際し、光子ロスを最小限にしつつ反応生成物によるエネルギ効率の低減化を抑制する方法の開示である。
「特許文献7」の段落番号「0007」に、「・・・ガス体へレ−ザを照射することにより含有された有害物質を除去する装置であって、中央の平面鏡とその周囲の凹面鏡からなる多重反射鏡を備えたレ−ザ反応容器をガス流路に直列状態で多段に配置するとともに、各レ−ザ反応器間を分解生成物吸収材を充填した通路部によって接続し、各レ−ザ反応容器内で光化学反応により生成した分解生成物を前記通路部で除去しつつ下流側のレ−ザ反応容器にガスを導入することを連続して繰り返すことにより有害物を連続除去可能としたものである。」、と開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
大気、水や土壌などの環境の汚染は、過度な森林の伐採などの環境破壊、生産活動、消費活動などに伴ってもたらされ、その殆どが人為的な結果である。
われわれを取り巻く有害な化学物質としては、重金属としては鉛や水銀など、金属化合物としては六価クロム化合物、カドミウム化合物、ニッケル化合物あるいはアンチモン化合物など、無機元素としてヒ素、ホウ素、フッ素など、また、シアン化合物などがあげられる。
また、揮発性有機塩素化合物であるトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレン、塩化メチレン、四塩化炭素、二塩化エチレンなどがあげられる。
【0013】
また、芳香族炭化水素類としてベンゼンやトルエンなど、フロン・代替フロンとしてはCFC(クロロフルオロカ−ボン)、ハロン、HFC(ハイドロフルオロカ−ボン)あるいはHCFC(ハイドロクロロフルオロカ−ボン)など、発ガン性物質としてアスベスト、やMTBE(メチル−t−ブチルエ−テル)など、その他ホルムアルデヒドなどがあげられる。
また、これらに重複する種類も含むが、VOC(揮発性有機化合物)という化学物質グル−プのくくり方がある。
【0014】
さらに、前記VOCより沸点の低いVVOC(高揮発性有機化合物)、前記VOCより沸点の高いSVOC(準揮発性有機化合物)を含め、単にVOCと呼称する場合がある。
SVOCよりさらに沸点が高いPOM(粒子状有機物質)を含めて、TVOC(total volatile organic compounds;全揮発性有機化合物)と称する場合がある。
勿論、沸点のみでVOCの特性を区分することはできないが、他に妥当な区分法がないので、VOCは沸点による区分が一般に行われている。
【0015】
WHOでは、沸点によるVOCの区分を次の如く定めている。
すなわち、沸点0−50〜100℃をVVOC、沸点50−100〜240−260℃をVOC、および沸点240−260〜380−400℃をSVOCと定めているが、その境界は必ずしも定かでない。
本発明においては、沸点区分で沸点の低いVVOCから、沸点の高いSVOCまでをVOC物質と称するもので、VOC物質と特に呼称するのは狭義のVOCとの区別を明確にするためである。
【0016】
VOC物質は、大気中にあるベンゼンやホルムアルデヒドなどの有機化合物で、NOなどとともに光化学大気汚染をもたらす原因物質として知られている。
VOCの有害性については、二通りの意味があるとされる。
第一の観点は、人の健康への影響という観点からの直接的な有害物質としてのVOC物質であり、発ガン性など人体に有害な影響を及ぼすものも多く、シックハウス症候群の原因物質としても知られている有害性である。
第二の観点は、光化学オキシダントやSPM(浮遊粒子状物質)などを二次的に生成する原因物質の一つとしてのVOC物質の有害性である。
例えば、脂肪族ハロゲン化合物による地下水汚染に端を発し、土壌汚染、水道におけるトリハロメタンの生成、大気汚染の原因物質、あるいは室内空気汚染の原因物質として重要な物質群である。
【0017】
VOC物質は、アルカン類、アルケン類、アルデヒド類、ケトン類、脂肪族ハロゲン化合物、芳香族炭化水素類、テルペン類、あるいは農薬として用いられる化合物などである。
GC/MS法(gas chromatography/mass spectrometry)などで、液相中のVOC物質の濃度を分析することができるVOC物質を次に掲げる。
すなわち具体的には、ヘンゼン、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、cis−1,2−ジクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,3−ジクロロプロペン、トルエン、キシレン、クロロホルム、trans−1,2−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロプロパン、p−ジクロロべンゼン、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン、トリクロロメタン(クロロホルム)、トリブロモメタン(ブロモホルム)、などがあげられる。
【0018】
また、VVOCとしては、酢酸エチル、n−ヘキサン、ジクロロメタン、ペンタン、アセトアルデヒド、メチルメルカプタン、などがあげられる。
また、SVOCとしては、リン酸トリブチル、クロロピリフォス、チアペンタゾ−ル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、およびコプラナ−PCB、などがあげられる。
【0019】
VOC物質は、一般に揮発性が大きいために、量的には発生源での排出は大気中への排出が主となり、環境中での挙動も大気中が中心となる。
しかしながら、降雨なとによる水環境、土壌環境の汚染も問題になっている。
つまりVOC物質の多くは、水よりも比重が大きく、かつ粘性と表面張力が小さいため、土壌に漏洩した場合、相対的に土壌に吸着し難く、ひび割れなどがあればコンクリ−トも通過して地下深く浸透して、帯水層で拡散して広域の地下水汚染を招く可能性がある。
【0020】
液状のVOC物質は、常温下では揮発性を有する主として不燃性の液体である。
従来、液状のVOC物質の多くは溶解度が高いことから、各種洗浄剤を中心として、原料系では各種化学製品の溶剤として、化学工業、医薬品、電子部品・機器、金属部品・機器などの工業用途から、ドライクリ−ニングまで、極めて幅広い分野で有用な溶剤として大量に使用されてきた。
有害性が問題視されるに至って、VOC物質は代表的なトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、4塩化炭素などは、製造、輸入および使用などに規制が課されている。
VOCは、重金属などのように自然由来ということはなく、自然界に存在する物質でないので、人為的な原因によるものであり、それゆえに例え環境基準以下であっても、自然の状態でないと解される。
かようなことから、工場からの排出水にVOC物質が含まれている場合が多々あり、さらに空気より処理し易いところから、水に溶解や分散させて処理する方法がとられる場合がある。
【0021】
VOC物質の除去法や無害化方法には、燃焼分解法、吸着式除去法、触媒燃焼法、あるいは蓄熱式分解法などがある。
前記燃焼分解法は、750℃程度の加熱でVOC物質を分解する方法であるが、分解率が高い反面、燃焼に重油燃料を用いる場合に、SO、NOなどが生成するなどの欠陥がある。
前記吸着式除去法は、活性炭層にVOC物質を吸着させて熱風を当てる方法であり、装置の構造が簡単ではあるが、定期的な交換やメインテナンスが必要となる問題点がある。
前記触媒燃焼法は、350℃程度に加熱した触媒にVOC物質を当てる方法であり、比較的低温で処理できる利点があるが、触媒そのものが毒化するので廃棄の問題が生じ、また、処理に伴ってNOが発生する問題点がある。
前記蓄熱式分解法は、蓄熱材間の室内を燃焼加熱し、前記室内にVOC物質を通過させる分解法であるが、蓄熱材の寿命が半永久的なのに対し、SO、NOなどが生成する欠陥がある。
【0022】
前記したように、現在行われているVOC物質の除去方法である、燃焼分解法、吸着式除去法、触媒燃焼法、ならびに蓄熱式分解法などは、それぞれ長所があるが、欠陥や問題点も多いのが現状である。
また、VOC物質の係わる有害性が問題視されてからの歴史が浅く、より画期的な方法や装置の提供が望まれているところである。
【0023】
本発明は、上記従来の課題を考慮して、VOC物質が水中に存在する、VOC物質水溶液あるいは/およびVOC物質分散水(以降、VOC物質含有水と称す)の中の、前記VOC物質の分解技術の提供を目的とする。
すなわち、VOC物質の分解性が高く、有害物質の発生などの副作用がなく、消耗材料が少なくて済む、完全度の高い分解方法ならびに装置を提供して、前記VOC物質含有水を無害にする方法、ならびに装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
発明者は、VOC物質含有水の中のVOC物質を、レ−ザ−を利用して分解する技術について鋭意検討の結果、以下の発明に至った。
すなわち、レ−ザ−を利用した分解方法については、沸点区分において、沸点の低いVVOCから、沸点の高いSVOCまでのVOC物質が、水中に存在するVOC物質含有水に、レ−ザ−を照射して、前記VOC物質含有水中の前記VOC物質を無害化する方法の発明である。
図3に示すように、透明なガラス管部5中に存在する前記VOC物質含有水8に、前記ガラス管部の外側から、発振パルス波形の半値幅が1000ps(ピコ秒)〜50fs(フェムト秒)の超短パルスレ−ザ−2を、対物レンズ3で集光させて密度を上げると共に、点状あるいは線状に焦点4を結ぶように照射する。
前記超短パルスレ−ザ−の作用で、前記ガラス管部内に存在する前記VOC物質含有水中の前記VOC物質の分子結合部が切断して分解し、無害化することに特徴を有する、水中に含有するVOC物質の分解方法の発明に至った。
【0025】
また、レ−ザ−を利用した分解装置については、沸点区分において、沸点の低いVVOCから、沸点の高いSVOCまでのVOC物質が、水中に存在するVOC物質含有水に、レ−ザ−を照射して、前記VOC物質含有水中の前記VOC物質を無害化する装置の発明である。
前記装置は、図4に示す如く、前記VOC物質含有水の流通部と、前記VOC物質含有水へのレ−ザ−照射部59とからなり、前記流通部は、前記VOC物質含有水が流通する導管部46、49を有し、前記導管部には透明なガラス管部48が挿入接続されていて、前記道管部には、前記ガラス管部を滞留あるいは通過させる前記VOC物質含有水の流通用ポンプ装置部51、循環あるいは非循環を選択する切替え栓部52、および排出用導管部57を具備している。
前記ポンプ装置部、前記切替え栓部には、前記ガラス管内における前記VOC物質含有水の通過態様、すなわち一時滞留、一時通過、あるいは複数回循環通過などを制御する制御部を具備している。
前記レ−ザ−照射部は、前記ガラス管部の外側から、レ−ザ−発振器からの発振パルス波形の半値幅が1000ps〜50fsの超短パルスレ−ザ−61を、対物レンズ62で集光させて密度を上げると共に、前記ガラス管内に点状あるいは線状に焦点を結ばせることができる装置である。
前記導管部に挿入接続された前記ガラス管部において、前記VOC物質含有水中の前記VOC物質の分子の結合部を切断して分解し無害化して、前記排出用導管部から排出する装置であることを特徴とする、水中に含有するVOC物質の分解装置の発明である。
【0026】
さらに、前記VOC物質含有水中のVOC物質分解方法において、前記VOC物質含有水に、金属、あるいは/および金属化合物、あるいは/および単体半導体、あるいは/および半導体化合物を添加する方法である。
前記方法によって、前記超短パルスレ−ザ−の作用による前記VOC物質含有水中の前記VOC物質の分解効率を上げ、あるいは/および前記分解に伴う副生成物を低減化させることを特徴とする、水中に含有するVOC物質の分解方法の発明である。
【0027】
加えて、前記VOC物質含有水中のVOC物質分解装置において、前記VOC物質含有水に添加物、すなわち金属、あるいは/および金属化合物、あるいは/および単体半導体、あるいは/および半導体化合物を、前記VOC物質含有水の注入量に応じて添加することが可能な装置である。
前記装置の使用によって前記添加物を添加し、前記超短パルスレ−ザ−の作用による前記VOC物質含有水中の前記VOC物質の分解効率を上げ、あるいは/および前記分解に伴う副生成物を低減化させることが可能であることを特徴とする、水中に含有するVOC物質の分解装置とする発明である。
【発明の効果】
【0028】
(1) 超短パルスレ−ザ−を照射する方法を用いて、VOC物質の分子結合を完全に切断することが可能であり、添加物(触媒など)の微量添加によって、副生成物を全く発生しないようにすることができる。
(2) VOC物質の分解方法、分解装置においてクリ−ンな方法であり、消耗材料などが殆ど不要であり、ト−タル的にみて経済的である。
(3) 工場などから排出するVOC物質を水中に溶解あるいは/および分散させ、VOC物質含有水としてから、濃縮してVOC物質濃度を上げて後、本発明の方法や装置を適用すれば、排出VOC物質の処理方法として一段と効率化できる。
(4) VOC物質含有水に、Auなどの金属、金属化合物、半導体単体、あるいは半導体化合物などの微粉末を小量添加することによって、より低エネルギの−のレ−ザ−の照射でVOC物質を分解できる。
(5) 本発明のVOC物質の分解方法は、多くの他の有害な化学物質の分解にも応用が可能であり、環境問題の改善に資するところが大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
発明の実施の形態を、実施例にもとづき図面を参照して説明する。
図1は、本発明の概念を示す略図で、VOC物質含有水に超短パルスレ−ザ−を照射する概念略図である。
図1において、矢印7方向から流入するVOC物質含有水8は、導管部6から透明なガラス管部5内を通過、あるいは一時滞留して導管部9に至り、矢印10方向に流出する。
一方、レ−ザ−発振器1から照射された超短パルスレ−ザ−2は、対物レンズ3によって集光して、ガラス管部5の中心部に焦点(集光点)4を結ぶ。
したがって、ガラス管内のVOC物質含有水8中に存在するVOC物質は、パワ−密度が極めて高い超短パルスレ−ザ11の作用を受けて分解して無害な水になる。
なお、対物レンズ3をシリンドリカル形レンズとし、ガラス管部5の横断面(図において紙面に直角方向)の中心に線状集合させてもよい。
【0030】
レ−ザ−発振にはCW発振(連続発振)とパルス発振とがあり、CW発振は、電気的にオンのときに発振が連続的に継続され、パルス発振は、オンとオフが繰り返される発振である。
パルス発振の場合のパルス幅は、パルスの半値幅(full width at half maximum;半値全幅ともいう)で示し、パルスのパワ−尖頭値の1/2の部位のパルス幅(時間)とする。
パルス発振の場合は、オフ時間のパワ−が、オン時間のパルスに集約されるので、瞬時の高パワ−が得られるのである。
したがって、半値幅で示される1パルスの幅が重要な要素となる。
かようなことから、レ−ザ−発振のパワ−は、一般に前記CW発信の場合は1秒間当たりの仕事量J(ジュ−ル)つまり仕事率W(ワット)で示されるが、パルス発信の場合は1パルス当たりの仕事量Jで示される。
【0031】
パルス発振レ−ザ−のなかで、超短パルスレ−ザは、パルス半値幅が極く短く、レ−ザ−の照射部に熱が及ぶ前に、極めて高パワ−のレ−ザ−が作用部に及ぶ。
発明者は、超短パルスレ−ザ−を水中に含有するVOC物質に照射すると、極く短時間で、VOC物質の分子の特定の結合部が切れて、前記VOC物質が分解する作用があることを見いだしたものである。
つまり、前記照射部に熱が及ぶ前にアブレ−ション効果(熱を伴わない破壊過程)で、各VOC物質の分子の特定の結合部を切断破壊し、無害化するのである。
したがって、パルス幅psオ−ダ−、あるいはパルス幅fsオ−ダ−の超短パルスレ−ザ−は、原子間あるいは分子間結合をカットする作用があるので、分子メスの呼称があてはまると云い得る。
【0032】
発明者は、VOC物質の分子の特定の結合部が分解する作用がある超短パルスレ−ザ−の範囲を検討し、実験の結果と論理的考察の結果、その境界は定かでないが、パルス幅が大凡1000psから20fs程度の範囲であることが分かった。
つまり、パルス幅が大凡1000ps程度付近にその境界が存在し、1000ps程度より短い場合に、アブレ−ション効果による分子結合部の破壊が得られることを見いだしたものである。
超短パルスレ−ザ−のパルス半値幅は、短い方がパワ−密度は高くなるのであるが、半値幅が20fs程度までの超短パルス発振器は実験用や研究用には作られているものの、50fs以下の超短パルスレ−ザ−発振器が未だ殆ど実用されてない実体から、実用面がら1000psから50fsの範囲が妥当であると考えられる。
【0033】
psオ−ダ−の超短パルスレ−ザ−としては、レ−ザ−媒質が液体で色素と有機溶剤を用いる波長が320〜1260nm(ナノメ−トル)の色素レ−ザ−、波長が近赤外1064nmのNd:YVO、YAGモ−ドロックレ−ザ−などがあげられる。
fsオ−ダ−の超短パルスレ−ザ−としては、チタンサファイアレ−ザ−(母材サファイアにチタンTiをド−プしたTiAlレ−ザ−)があげられる。
チタンサファイアレ−ザ−は、レ−ザ−ミラ−の他に波長選択素子を用い、コントロ−ラ−あるいは外部信号によって駆動させ、自動的に波長の選択ができ、700〜1000nm付近で任意の波長のレ−ザ−を出力することができる。
【0034】
図2は、超短パルスレ−ザ−のパルス波形とパルス幅(時間)を示す概念略図である。
図2は、よこ軸に時間t、たて軸にレ−ザパワ−(エネルギ−)Pをとり、パルス波形28として概念形で描いたものである。
瞬間に発振したレ−ザ−のパルス波形28において、前記したようにパルス幅wは、一般にレ−ザ−の尖頭値(ピ−ク強度)pの1/2の箇所であるp部における半値幅wで示される。
パルス発振励起の繰返し周波数の1周波分のオフ時のパワ−が、超短パルスレ−ザ−の1パルスに集約されるので、前記1パルス当たりのパワ−が非常に高くなるのである。
【0035】
fsオ−ダ−の超短パルスレ−ザ−において、例えばチタンサファイアレ−ザ−による近赤外線領域の波長800nmでのパワ−密度は、パルス幅が100fsの場合、対物レンズで集光させたとき、1013W/cm程度と極めて高パワ−なのである。
例えば、O−Hの結合エネルギ−は463.0kJ/mol、炭素単結合C−Cのそれは347.9kJ/mol、ならびにC−Hのそれは98.8kJ/molであり、fsパルスレ−ザ−のパワ−は、前記の結合エネルギ−に比較して極めて高い。
【0036】
図1に描く如く、透明なガラス管部5内に存在するVOC物質含有水のVOC物質に、高パワ−密度の超短パルスレ−ザ−が照射された場合に、特定の分子の結合部が破壊されることが確認されたVOC物質の例を以下に示す。
VOCとしては、1,1−ジクロロエチレン、trans−1,2−ジクロロエチレン、cis−1,2−ジクロロエチレン、ならびにトリクロルエチレンなどである。
VVOCとしては、アセトアルデヒド、ならびにメチルメルカプタンなどである。
また、SVOCとしては、クロロピリフォス、フタル酸ジブチル、PCB、コプラナ−PCB、などである
【0037】
さらに、発明者はVOC物質含有水に添加物として、Au、Ptなどの単体金属、Si、Geなどの単体半導体、あるいはFeSiCdS、ZnS、GaAs、InSb、SiC、あるいはZnOなどの半導体化合物を微量添加することで、より低パワ−のレ−ザ−の照射でVOC物質を分解できることの示唆を得た。
レ−ザ−は金属、金属化合物、あるいは半導体と反応し、金属の場合には軟X線を放出したり、半導体の場合にはTH(テラヘルツ;1012ヘルツ)オ−ダ−の電磁波を放出するなどの現象があり、かような波長の電磁波がVOC物質に影響を及ぼしてレ−ザ−の作用が強められるものと考えられる。
【0038】
図3は、レ−ザ−が焦点を結ぶガラス管部5内におけるパワ−が及ぶ領域の概念略図である。
図1における透明なガラス管部5において、超短パルスレ−ザ−発振器1から照射された平行なレ−ザ−2が、対物レンズ3によって、前記ガラス管部内の中央部に焦点4を結んでいることを示している。
図3は、図1に示すガラス管部5の部分の拡大概念略図であり、照射レ−ザ−2が対物レンズ3によって、ガラス管部5の中央部に焦点4を形成している状態を示している。
図3において、VOC物質含有水8は、矢印7方向からガラス管部5内を通過もしくは一時滞留して、矢印10方向に流れているが、前記レ−ザ−のパワ−が最も強く及ぶ領域を概念的に示せば、レ−ザ−11の焦点4を中心とした小破線囲み部33部である。
発明者は、焦点4から離れるに従って前記レ−ザ−のパワ−は弱くなるものの、VOC物質の結合部の破壊の場合は、破線囲み部34で示した如く、広い範囲に及ぶことを見いだしたものである。
【0039】
さらに、図3に描く対物レンズ3を凸レンズ形から、シリンドリカル形対物レンズに代えて、レ−ザ−2をガラス管部5の横断面方向の中央部に線状に集合させるようにすれば、VOC物質含有水8により広領域に作用を及ぼすレ−ザ−を照射することができることが分かった。
【0040】
レ−ザ−11の焦点4を中心とした破線囲み部34で示す領域は、内径10mm(ミリメ−トル)程度の透明なガラス管の場合、断面方向においてはガラス管の前記内径の全般に及び、長手方向においては焦点4の前後数mmに及ぶことが分かった。
また、対物レンズ3を、シリンドリカル対物レンズとして、レ−ザ−2を線状に集合させるようにすれば、ガラス管の前記内径の全般に万遍なく作用が及び、VOC物質含有水8に効率的にレ−ザ−を照射することができることも分かった。
超短パルスレ−ザ−を金属や合成樹脂への微細穴加工や微細溝加工などに使用する場合には、このシャ−プな焦点部を利用するものであるが、本発明の目的であるVOC物質含有水のVOC物質分子の結合部の破壊の場合には、かなり広い領域においてVOC物質分子の結合部が破壊されることが分かった。
【0041】
図4は、タンク内に保留されているVOC物質含有水中のVOC物質分解装置例の略図である。
図4は、矢印44方向から導管部45によってVOC物質含有水が注入され、タンク40内に保留されているVOC物質含有水41中のVOCの分解を行う装置の一例である。
図4は、超短パルスレ−ザ−61を作用させるガラス管部48内に、VOC物質含有水41を通す場合に、循環通過処理、あるいは単通過処理の何れも採用できるようにした装置の例である。
また、前記装置には、VOC物質含有水に添加物として金属、あるいは/および金属化合物、あるいは/および単体半導体、あるいは/および半導体化合物などの添加物を添加する場合に使用する、添加物添加器63が注入用導管部45の上流部に具備されている。
前記添加物添加器は、導管部45からタンク40内に注入されるVOC物質含有水41の流量に応じて、予め定められた前記添加物を、定められた添加量で注入する装置である。
なお、注入した前記添加物の不均一状態や沈澱などを防ぐため、VOC物質含有水用タンク40内の攪拌プロペラ42で、前記VOC物質含有水を攪拌するような仕組みになっている。
【0042】
前記循環通過処理の場合を説明すると、図4において、ポンプ51によって、タンク内のVOC物質含有水41は、導管部46を経由して矢印47方向に流れ、破線囲み部59のレ−ザ−処理装置部の透明なガラス管部48を通過する。
ガラス管部48でレ−ザ−の作用を受けた後、導管部49で矢印50方向に流れ、ポンプ部51を経由して、切替え栓52によって導管部53への流路を開とし、導管部57への流路が閉とするので、導管部53、54を経由して、矢印55、56方向に流れて、タンク40内に戻って循環する。
【0043】
図4における破線囲み部で示すレ−ザ−処理装置部59においては、レ−ザ−発振器60からの超短パルスレ−ザ−61が対物レンズ62によって集光され、ガラス管部48内の断面方向の中心部に焦点を結ぶようにしてある。
しかしてこの部分に、図3に描く如き破線囲み部34で示す、レ−ザ−のパワ−の及ぶ領域を形成する。
前記VOC物質含有水は、ガラス管部48に一時滞留中あるいは通過中に、超短パルスレ−ザ−の作用を受けて、VOC物質含有水のVOC物質分子の結合部が破壊される。
前記循環通過処理の場合にはこの循環を繰り返して、VOC物質含有水のVOC物質の量が無害域に達したときに、切替え栓51によって導管部57への流路を開とし、導管部53への流路を閉として、導管部57から矢印58方向に無害水として排出される。
【0044】
前記単通過処理の場合には、ポンプ51によって、VOC物質含有水41は、導管部46を経由して矢印47方向に流れ、レ−ザ−処理装置部59のガラス管部48を通って、超短パルスレ−ザ−の作用を受けて、導管部49およびポンプ51を経由して矢印50方向に流れる。
切替え栓52によって導管部57への流路を開とし、導管部53への流路を閉として、導管部57から矢印58方向に無害水として排出される。
かように、前記単通過処理の場合には、前記VOC物質含有水はガラス管部48内を1回の一時滞留もしくは通過で、VOC水溶液中のVOC分子の結合部が破壊され、無害水として排出される。
【0045】
循環通過処理あるいは単通過処理の何れを採用するかについては、VOC物質含有水に含まれるVOC物質の種類や含有量などのVOC物質含有水の内容、および超短パルスレ−ザ−の種類、パワ−、あるいは触媒などの添加物の有無、などによって選択する。
なお、図4に示す如きVOC物質含有水のVOC物質分解装置は、液体のVOC物質を溶剤などとして用いる工場などからの、VOC物質を含む排水などに適用する場合に効果的な装置である。
すなわち、排気中に含まれるVOC物質は水に溶解あるいは分散させ、場合によっては他系統からのVOC物質が含有する廃水と共に、VOC物質含有水中のVOC物質を濃縮し、図4に示す如きVOC物質含有水中のVOC物質分解装置で無害処理すれば、効率的にVOC物質を処理できる。
【0046】
本発明の方法あるいは装置によれば、前記レ−ザ−を用いてVOC物質の分子結合を完全に切断することが可能である。
また、適切な添加物(触媒など)の微量添加によって、VOC物質の分解効率を上げることができ、あるいは/および副生成物が発生することが全く無いようにできるので、VOC物質の分解方法においてクリ−ンな方法であり、消耗材料などが殆ど不要である利点がある。
【実施例1】
【0047】
図5に、本実施例に使用した水中のVOC物質の分解装置の略図を示す。
図5において、分解しようとするVOC物質含有水68中のVOC物質は、透明なガラス管状瓶69に入れられて、水中VOC物質の分解装置の部位にセットされている。
図5において、レ−ザ−発振器72は、レ−ザ−媒質としてチタンサファイアを用いたパルスレ−ザ−発振器で、発振するfsパルスレ−ザ−の中心波長は780nm、繰り返し周波数は1kH、パルス幅は217fsとした。
レ−ザ−発振器72からのレ−ザ−73は、矢印方向に照射され、ダイクロイックミラ−74で方向を変え、フィルタ−75、電磁シャッタ−76を経由して、対物レンズ77によって集光させ、VOC物質含有水68が入れられているガラス管状瓶69の中央部に焦点4を結ぶように配置した。
【0048】
透明なガラス管状瓶69は、円形の管で内径が1cm、長さが3cmとした。
VOC物質含有水68中のVOC物質と濃度は、前記GC/MS法で分析可能なVOC群の中から選定し、1,1−ジクロロエチレンは0.2mg/L(リットル)、trans−1,2−ジクロロエチレンは10mg/L、cis−1,2−ジクロロエチレンは100mg/L、およびトリクロルエチレンは400mg/L、の4種のVOC物質含有水とした。
【0049】
パルスレ−ザ−発振器72を動作し、前記fsパルスレ−ザ−を、透明なガラス管瓶69内のおのおの前記4種VOC物質含有水に照射した。
1パルス当たりのパワ−は、前記フィルタ−によって調整して、20μJ(マイクロジュ−ル)および100μJの2水準とした。
前記fsパルスレ−ザ−の照射時間は30分とした。
【0050】
未放射試料、および得られたfsパルスレ−ザ−照射試料の分析は、GC/MS法によって分析した。
かようにして、表1に示す結果を得た。
【0051】
【表1】

【0052】
表1によると、VOC物質である、1,1−ジクロロエチレンの場合は、前記超短パルスレ−ザ光の未放射試料が0.2mg/Lであるのに対し、照射パワ−20μJ(パルス当りのパワ−値)のもとでは、添加物(触媒など)なし試料で0.14mg/Lに低減し、添加物としてAu(金)粉末を微量加えた試料ではND(検出下限値以下)という結果であった。
前記に同じVOC物質について、照射パワ−100μJのもとでは、添加物なし試料、および添加物としてAu粉末を微量加えた試料の両者共、NDであった。
【0053】
VOC物質である、trans−1,2−ジクロロエチレンの場合は、未放射試料が10mg/Lが、照射パワ−が20μJ、および100μJのもとで、添加物の無添加試料、およびAu添加試料ともNDであった。
また、VOC物質の、cis−1,2−ジクロロエチレンの場合は、未放射試料が100mg/Lが、照射パワ−の20μJ、および100μJのもとで、添加物の無添加試料、およびAu添加試料ともNDであった。
さらに、VOC物質の、トリクロロエチレンの場合は、未放射試料が400mg/Lが、放射パワ−の20μJ、および100μJのもとで、添加物の無添加試料、およびAu添加試料ともNDであった。
【0054】
以上まとめて、1,1−ジクロロエチレンの場合は、前記レ−ザ−の照射パワ−20μJのもとでは、Au微量添加無し試料では半減近く低減したのみであったが、Au微量添加でND、照射パワ−100μJのもとでは、Au微量添加の有無にかかわらずNDとなった。
したがって、Au微量添加は前記レ−ザ−の照射効果、すなわちVOC物質の分解力を高めることが分かった。
また、trans−1,2−ジクロロエチレン、cis−1,2−ジクロロエチレン、およびトリクロロエチレンの場合は、放射パワ−が20μJ、および100μJのもとで、Au微量添加の有無にかかわらずNDであり、これらのVOC物質が完全に分解されたことを示した。
【実施例2】
【0055】
実施例1と同様なfsパルスレ−ザ−において、実施例1の場合に比較して、さらに低パワ−の場合、照射時間がさらに短時間の場合、ならびにVOC物質含有水に添加する実施例1と異なる添加物、および前記添加物の他の面での効果を検討した。
VOC物質含有水においては実施例1と同様な試料を用いて、実施例1と同じVOC物質含有水の分解装置を用いて行った。
選定したVOC物質は、実施例1と同様に、1,1−ジクロロエチレン、trans−1,2−ジクロロエチレン、cis−1,2−ジクロロエチレン、およびトリクロルエチレン、の4種で、各濃度も実施例1と同様とした。
前記添加物としては、珪素、鉄などを真空下で高温度で焼結して得た焼結複合鉱体の粉末を微量添加した。
なお、前記焼結複合鉱体の主成分はFeSiであるので、前記添加物の表示はこれを用いた。
fsパルスデ−ザ−の1パルス当たりのパワ−は、前記フィルタ−によって調整して、1、10、および20μJとし、照射時間は1分、および30分とした。
【0056】
未照射試料、および得られた前記超短パルスレ−ザ−照射試料の分析は、実施例1と同様に、GC/MS法によった。
かようにして、表2に示す結果を得た。
【0057】
【表2】

【0058】
表2によると、1,1−ジクロロエチレン、trans−1,2−ジクロロエチレン、cis−1,2−ジクロロエチレン、およびトリクロロエチレンの場合とも、レ−ザ−光照射後の試料からは検出されず、何れもNDであった。
パルスパワ−が1μJにおいても、添加物FeSiの有無にかかわらず、これらのVOC物質が完全に分解されていることを示した。
【0059】
また、前記添加物のVOC物質の分解性についての寄与については、照射パワ−1μJ未満については行わなかったので不明であったが、前記添加物の添加効果として、副生成物が全く発生しない効果が見られた。
すなわち、前記添加物の添加なしの試料からは、アセトン、酢酸、プロピオン酸が各微量検出されたのに対し、前記添加物の添加の試料からは、全く検出されなかったので、この点も大きな効果であるものと考えられる結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
超短パルスレ−ザ−を用いてVOC物質の分子結合を完全に切断することが可能であり、条件を整えれば副生成物が発生することがない。
したがって、従来から行われてきたVOC物質の除去法や無害化法である燃焼分解法、吸着式除去法、触媒燃焼法、あるいは蓄熱式分解法などに伴う如き、SONOなどの、二次有害物質が発生したり、触媒が毒物化したりする副作用がない。
また、本発明は、VOC物質の分解方法においてクリ−ンな方法であり、将来の方向としてト−タル的にみて経済的であるものと考えられる。
【0061】
特に、液状VOC物質を使用する工場などから排出するVOCを、水中に含有させ、濃縮してVOC濃度を上げ、本発明を適用するなどが工業的に適した方法である。
また、VOC物質含有水に添加物としてAu粉末などを微量添加することで、より低エネルギ−のレ−ザ−の照射でVOC物質を分解することができ、さらに添加物の選択によっては、全く副生成物が発生しない方法である。
したがって、より有効な触媒などの探索によって、より効率的な、また、より経済的なVOC物質を分解する技術の提供の可能性を示唆した。
また、本発明のVOC物質分解方法ならびに装置は、他の有害な化学物質の分解にも応用が可能であり、環境問題の改善に資するところが大きい。
よって、産業上の利用可能性が極めて広範囲であり、産業界に資するところも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】VOC物質含有水にレ−ザ−を照射する概念略図
【図2】超短パルスレ−ザ−のパルス波形と幅を示す概念略図
【図3】レ−ザ−が焦点を結ぶガラス管部におけるパワ−が及ぶ範囲の概念略図
【図4】タンク内保留のVOC物質含有水におけるVOC物質分解装置の略図
【図5】フェムト秒パルスレ−ザによるVOC物質含有水のVOC物質分解装置の略図
【符号の説明】
【0063】
1 レ−ザ−発振器
2 超短パルスレ−ザ−
3 対物レンズ
4 レ−ザ−の焦点(集光点)
5 透明ガラス管部
6 導管部
8 VOC物質含有水
9 導管部
28 パルス波形
33 小破線囲み部;レ−ザ−の強いパワ−が及ぶ領域
34 破線囲み部;レ−ザ−のパワ−が及ぶ領域
40 VOC物質含有水用タンク
41 VOC物質含有水
42 攪拌プロペラ
45 注入用導管部
46、49 装置内導管部
48 透明ガラス管部
51 ポンプ
52 切替え栓
53、54 循環用導管部
55、56 矢印;循環の場合の流れ方向
57 排出用導管部
58 矢印;排出方向
59 破線囲み部;レ−ザ−処理装置部
60 レ−ザ−発振器
61 超短パルスレ−ザ−
62 対物レンズ
63 添加物添加器
68 VOC物質含有水
69 管状ガラス瓶
72 パルスレ−ザ発振器
73 フェムト秒パルスレ−ザ光
74 ダイクロイックミラ−
75 フィルタ−
76 電磁シャッタ−
77 対物レンズ
t 時間
P パワ−(エネルギ−)
パワ−の尖頭値
尖頭値の半値位置
w パルス半値幅(時間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に含有するVOC物質の分解方法において、
沸点区分において、沸点の低いVVOCから、沸点の高いSVOCまでのVOC物質が水中に存在するVOC物質含有水に、レ−ザ−を照射して、前記VOC物質含有水中の前記VOC物質を無害化する方法であって、
透明なガラス管部内に存在する前記VOC物質含有水に、前記透明なガラス管部の外側から、発振パルス波形の半値幅が1000ps〜50fsの超短パルスレ−ザ−を、対物レンズで集光させてパワ−密度を上げると共に、点状あるいは線状に焦点を結ぶように照射することによって、
前記超短パルスレ−ザ−の作用で、前記ガラス管部に存在する前記VOC物質含有水中の前記VOC物質の分子結合部を切断して分解し、無害化することを特徴とする、
水中に含有するVOC物質の分解方法。
【請求項2】
水中に含有するVOC物質の分解装置において、
沸点区分において、沸点の低いVVOCから、沸点の高いSVOCまでのVOC物質が、水中に存在するVOC物質含有水に、レ−ザ−を照射して、前記VOC物質含有水中の前記VOC物質を無害化する装置であって、
前記装置は、前記VOC物質含有水の流通部と、前記VOC物質含有水へのレ−ザ−照射部とからなり、
前記流通部は、前記VOC物質含有水が流通する導管部を有し、前記導管部には前記透明なガラス管部が挿入接続されていて、
前記道管部には、前記ガラス管部を滞留あるいは通過させる前記VOC物質含有水の流通用ポンプ装置部、循環あるいは非循環を選択する切替え栓部、および排出用導管部を具備していて、
前記ポンプ装置部、前記切替え栓部には、前記ガラス管内における前記VOC物質含有水の通過態様、すなわち一時滞留、一時通過、あるいは複数回循環通過などを制御する制御部を具備していて、
前記レ−ザ−照射部は、前記ガラス管部の外側から、レ−ザ−発振器からの発振パルス波形の半値幅が1000ps〜50fsの超短パルスレ−ザ−を、対物レンズで集光させて集光密度を上げると共に、前記ガラス管内に点状あるいは線状に焦点を結ばせることができ、
前記導管部に挿入接続された前記ガラス管部内において、前記VOC物質含有水中の前記VOC物質の分子の結合部を切断して分解し無害化して、前記排出用導管部から排出する装置であることを特徴とする、
水中に含有するVOC物質の分解装置。
【請求項3】
水中に含有するVOC物質の分解方法において、
前記VOC物質含有水に添加物、すなわち、金属、あるいは/および金属化合物、あるいは/および単体半導体、あるいは/および半導体化合物、を添加することによって、
前記超短パルスレ−ザ−の作用による前記VOC物質含有水中の前記VOC物質の分解効率を上げ、あるいは/および前記分解に伴う副生成物を低減化させることを特徴とする、請求項1に記載する水中に含有するVOC物質の分解方法。
【請求項4】
水中に含有するVOC物質の分解装置において、
前記VOC物質含有水に添加物、すなわち、金属、あるいは/および金属化合物、あるいは/および単体半導体、あるいは/および半導体化合物を、前記VOC物質含有水の注入量に応じて添加する添加物添加器を具備し、
前記添加物添加器の使用による前記添加物の添加によって、前記超短パルスレ−ザ−の作用による前記VOC物質含有水中の前記VOC物質の分解効率を上げ、あるいは/および前記分解に伴う副生成物を低減化させることができることを特徴とする、
請求項2に記載する水中に含有するVOC物質の分解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−125743(P2009−125743A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329305(P2007−329305)
【出願日】平成19年11月23日(2007.11.23)
【出願人】(301024095)
【出願人】(507416148)
【出願人】(504035892)
【Fターム(参考)】