水中カット造粒装置
【課題】水中カット造粒装置において水室内でのペレットの滞留時間を可能な限り短くする。
【解決手段】水中カット造粒装置1において、水室8は平面視で円形状であって、該水室8の径方向の一方側には水室8内に冷却水を導入する入口部16を有し、前記径方向の他方側には水室8内の冷却水を外部に排出する出口部17を有しており、前記入口部16が冷却水の流入方向に沿って広がり形状となっている構成とする。
【解決手段】水中カット造粒装置1において、水室8は平面視で円形状であって、該水室8の径方向の一方側には水室8内に冷却水を導入する入口部16を有し、前記径方向の他方側には水室8内の冷却水を外部に排出する出口部17を有しており、前記入口部16が冷却水の流入方向に沿って広がり形状となっている構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製のペレットを製造するために用いられる水中カット造粒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、樹脂製のペレットを製造するために用いられる水中カット造粒装置は、押出機の下流側に設けられており、溶融樹脂(溶融した処理材)が押し出されるノズルが設けられたダイプレートとこのノズルから押し出された樹脂を回転しながら粒状に切断するカッタとを有している。加えて、これらダイプレートやカッタを覆う循環箱が設けられ、この循環箱の内側は循環する冷却水で満たされた水室となっている。
水室には、その内部に冷却水を導入するための入口部が設けられており、この入口部を介して水室内に供給された冷却水は、ダイプレートやカッタを冷却すると共にペレットを所定の温度まで冷却して、水室の出口部から外部に流出する。この際に切断されたペレットも同時に水室の外側に排出する。
【0003】
かかる水室において、冷却水が所定の流れ方をすることは非常に重要である。例えば、冷却水が、ダイプレートやカッタの近傍をよどみなく確実に流れるようにする必要がある。そうすることで、カッタやダイプレート、加えて切断されたペレットを所定の温度まで冷却することができる。
ところが、冷却水の流れがスムーズでなく水室内でよどむようなことがあると、切断されたペレットが水室内に長時間滞留したり、逆にあまりにも短時間に水室から排出されたりすることがあり、ペレットの冷却時間が所定のものとならず、その品質が劣化する可能性がある。ペレットが水室内に長時間滞留することで、残存するペレットがカッタや水室内壁に当たるなどして、樹脂のカット作業に悪影響を及ぼす可能性もある。
【0004】
このような不都合を回避する技術としては、特許文献1に開示されたものがある。
特許文献1には、ダイプレートに接触する冷却水の温度を均一にして、製造されるペレットの形状や大きさが均一化するために、(i)水室に冷却水を導入する入口部を、少なくとも3つ以上の複数個設ける、(ii)冷却水を外部に排出する出口部を、いずれの入口部の延長線上から外れた位置に設けるものとしている。
【特許文献1】特開2003−260706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本願発明者らが、特許文献1の技術を採用した水室における冷却水の流れのシミュレーションを行った結果、入口部と水室との接合部位ならびに出口部と水室との接合部位の各近傍において、冷却水の流れによどみが生じやすく、このよどみに滞留したペレットは水室外に排出されない、複数ある入口部からの冷却水の流れと、水室内のカッタの回転に伴う冷却水の撹拌とによって、水室内には複雑な流れが形成されるため、切断されたペレットの水室内滞留時間にバラツキが生じる、ということが明らかとなった。
これらの現象は、ペレットの冷却時間に差を生じさせることとなり、ペレットの品質や形状・大きさにバラツキを生じさせる可能性大である。
【0006】
また、入口部を複数有するため、冷却水を供給する配管の取り回し設計や製作が煩雑なものとなる、水室内の流れが、複数の入口部や出口部の位置関係、及び冷却水の流量に依存する場合があり、これら位置関係や流量の最適値を決定するには多くの試行を必要とする、などの問題点もあることが明らかとなった。
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、水室内に放出されたペレットが速やかに水室外に排出されると共にペレットの水室内滞留時間が均一となる水室を備えた水中カット造粒装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明にかかる水中カット造粒装置は、溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、前記入口部は、冷却水の流入方向に沿って広がり形状となっていることを特徴とする。
【0008】
好ましくは、前記入口部における冷却水流入側の断面積Aと冷却水流出側の断面積Bとの比B/Aが、1.5〜3.0となっているとよい。
また、本発明にかかる水中カット造粒装置は、溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、前記入口部は、当該入口部を流れる冷却水が水室内のダイプレート側に向くよう傾斜して水室に配設されていることを特徴とする。
【0009】
好ましくは、前記入口部の傾斜の角度αが、5°〜45°であるとよい。
また、本発明にかかる水中カット造粒装置は、溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、前記出口部は、冷却水の流出方向とは反対の方向に沿って広がり形状となっており、水室の径方向に対して非対称となっていることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記出口部における冷却水流入側の断面積Cと冷却水流出側の断面積Dとの比C/Dが、1.5〜3.0となっているとよい。
より好ましくは、溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、前記入口部は、冷却水の流入方向に沿って広がり形状となっていると共に、当該入口部を流れる冷却水が水室内のダイプレート側に向くよう傾斜して水室に配設されていて、前記出口部は、冷却水の流出方向とは反対の方向に沿って広がり形状となっていると共に、水室の径方向に対して非対称となっているとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、切断後のペレットが水室内に滞留する時間を略均一とすることができ、ペレットの温度バラツキを最小限に抑えることができる。加えて、ペレットの滞留時間を可能な限り短くすることができて、水室内壁やカッタとの接触を防げるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明にかかる水中カット造粒装置について、図を基に説明する。
図1は、本発明にかかる水中カット造粒装置1の側面断面図である。
水中カット造粒装置1は、多数のノズル2(ダイ孔)を有するダイプレート3と、このダイプレート3上の切断面3Aを移動しノズル2から押し出される溶融樹脂4(溶融した処理材)を切り取るカッタ5とを有している。また、水中カット造粒装置1は、カッタ5をダイプレート3上で回転駆動させる駆動手段6を有している。
これらダイプレート3とカッタ5とは循環箱7の内部に収められており、その内部はダイプレート3とカッタ5を取り囲む水室8となっている。水室8の下壁9(図1の左側壁)はダイプレート3により構成されている。ダイプレート3の反水室側すなわち水室外側には、2軸押出機又はギアポンプ等が接続されており、2軸押出機から供給された溶融樹脂4は、ダイプレート3に設けられた樹脂導入孔11を介してノズル2に達しそこから水室8内へ押し出される。
【0013】
一方、水室8の上壁12(図1の右側壁)側には駆動手段6が設けられている。すなわち、上壁12には軸受け部13が配備され、軸受け部13には回転軸14が回転自在に挿通されている。回転軸14の基端部は電動モータ等の駆動部(図示せず)に連結されている。回転軸14の先端部は水室8内に突出していて、円盤状のカッタホルダ15がその中心部において回転軸14の最先端に固定されており、このカッタホルダ15の周縁に放射状にカッタ5(ナイフ又は刃と呼ぶこともある)が取り付けられている。カッタホルダ15の回転軸心と回転軸14の回転軸心とは同軸となっているため、回転軸14を回転させることでカッタ5が回転軸14の軸心周りに回転する。
【0014】
図2に示す如く、水室8を正面側から見ると略円形であって、水室8の下部(図2の下側)には、冷却水を水室8内に導入するために断面矩形の入口部16が設けられている。水室8の上部(図2の上側)には、水室8内の冷却水を切断されたペレット10と共に外部に排出する断面矩形の出口部17が設けられている。
正面から見て略円形である水室8の右側と左側には、水室8内部の様子を観察することができる窓部18が形成されている。窓部18は水室8の内側から見ると凹部となっている。かかる窓部18は無い場合もある。
【0015】
図2(a)に示す如く、本実施形態の場合の入口部16は、水室8への冷却水流入方向に沿って広がり形状となっていてホーン形となっている。入口部16の冷却水流入側20の断面積Aと冷却水流出側21の断面積Bとの比B/Aが、1.5〜3.0となっている。
特に、
B/A=(IL2・d)/(IL1・d)=1.5〜3.0 ・・・(1)
の関係を満たす形状となっている。
【0016】
ここで、IL1は入口部16における冷却水流入側の幅である。IL2は、入口部16における冷却水流出側の幅(入口部16の水室8側の幅)である。LI3は、冷却水流入側20と冷却水流出側21との間の距離であって、正確には、冷却水流入側20と水室8内壁の延長ラインとの間の距離である。
本実施形態の場合、水室8の上壁12と下壁9との距離はdである。また、入口部16の上壁12Aと下壁9Aとの間の距離も同じdとしている。ゆえに、式(1)を満たすということは、入口部16における冷却水流入側20の幅IL1と冷却水流出側21の幅IL2との比が、1.5〜3.0となっていることと同義である。
【0017】
また、図2(b)に示す側面図から判るように、入口部16内を流れる水流がダイプレート3側に当たるように、ダイプレート3の延長線と入口部16の中心線とが角度αで傾くものとなっている。
α=5°〜45° ・・・(2)
この傾きαを満たす入口部16であると、当該水室8内に放出されたペレット10が速やかに水室8外に排出されると共にペレット10の水室内滞留時間が均一となる。より好ましくは、かかる傾きαは、α=5°〜30°の範囲であるとよい。
【0018】
本実施形態の場合、入口部16の側面視形状は平行四辺形となっているため、入口部16の上壁12Aと下壁9Aとは略平行であり、ダイプレート3の延長線と入口部16の下壁9(又は上壁12)とが角度αで傾く構造を有するものとなっている。
一方、出口部17は、図2(a)に示す如く、水室8からの冷却水の流出方向とは反対方向に沿って広がり形状となっていて、入口部16と略同様のホーン形である(以降、この形を逆広がり形状又は先細り形状と呼ぶこともある)。出口部17の冷却水流入側20の断面積Cと冷却水流出側21の断面積Dとの比C/Dが、1.5〜3.0となっている。
【0019】
加えて、平面視での出口部17の形状が水室8の径方向に対して非対称となっている。
特に、
C/D=(OL2・d)/(OL1・d)=1.5〜3.0 ・・・(3)
OL22/OL21=0.535/0.869≒2/3 ・・・(4)
の関係を満たしている。
【0020】
ここで、OL1は出口部17における冷却水流出側21の幅である。OL2は、出口部17における冷却水流入側20の幅である。OL3は、冷却水流入側20と冷却水流出側21との間の距離であって、正確には、冷却水流出側21と水室8内壁の延長線との間の距離である。
本実施形態の場合、出口部17の上壁12Bと下壁9Bとの距離もdである。ゆえに、式(3)を満たすということは、出口部17の冷却水流入側20の幅OL1と冷却水流出側21の幅OL2との比が、1.5〜3.0となっていることと同義である。
【0021】
入口部16、出口部17の形状は、後述する「水室8における冷却水の流れのシミュレーション」を基に決定されている。すなわち、以下述べる形状を満たす水室8は、当該水室8内に放出されたペレット10が速やかに水室8外に排出されると共にペレット10の水室内滞留時間が均一となり、逆に、以下述べる形状を満たさない水室ではペレット排出に問題が生じることを、本願発明者らは流体シミュレーションを通して確認している。
【0022】
なお、図2の示された本発明にかかる水室の各部位の寸法は、以下の通りとなっている。
IL1=0.625
IL2=0.458
IL3=1.073
OL1=0.625
OL21=0.869 ・・・(5)
OL22=0.535
OL2=OL21+OL22
OL3=0.458
d=0.750
R=1.000
なお、上記各寸法は、水室8の半径Rで正規化(無次元化)している。また、出口部17の非対称の度合いは、出口部17の冷却水流出側21と左右側壁23,22とのなす角度により出口部17の非対称形状を規定しても構わない。右側壁22の長さと左側壁23の長さで非対称形状を規定しても構わない。
【0023】
水中カット造粒装置1で、2軸押出機から供給された溶融樹脂4を用いてペレット10を製造する方法は、以下の通りである。
2軸押出機やギヤポンプで圧力を高められたされた溶融樹脂4は、ダイプレート3に設けられた樹脂導入孔11を介してノズル2に達しそこから水室8内へひも状に押し出される。それと同時に、ダイプレート3の切断面3Aを回転しているカッタ5で所定の寸法長さに切断され、ペレット10に成形される。水室8内では、その下部に設けられた入口部16から上部に設けられた出口部17に向かって、冷却水の水流が形成されており、その流れにしたがって、ペレット10は水室8外部に運ばれ、乾燥後に製品となる。
【0024】
特に、本実施形態の場合、水室8の入口部16と出口部17の形状を式(1)〜式(6)とすることで、切断されたペレット10が水室8内に滞留する時間が均一となるため、ペレット10の温度バラツキを最小限に抑えることができるようになる。加えて、ペレット10の滞留時間が短くなって、水室8内壁やカッタ5との接触を防ぐことができるようになっている。
以上述べた水室8の入口部16と出口部17の形状を決定するために、本願発明人らは、「水室8における冷却水の流れのシミュレーション」をコンピュータを用いて行っている。その詳細について以下説明する。なお、水室8における冷却水の流れのシミュレーションを単に、流体シミュレーション又はシミュレーションと呼ぶこともある。
[従来の水室における流体シミュレーション]
始めに予備実験として、従来からある水中カット造粒装置1の水室8内の流れを解析し、水室8の形状変更によるペレット排出性の改善について検討した。
【0025】
まず、従来の水室8内の流れ解析を行い、問題点を把握した。その後、ペレット10を模擬した模擬粒子の軌跡と水室8内での滞留時間を計算し、ペレット10の滞留状況を検討した。
図3は、シミュレーションで用いた従来からある(現状用いられている)水室8の形状データをワイヤフレーム表示したものであって、Case(a)の水室8と呼ぶことにする。
【0026】
Case(a)の水室8の各部位と図2の各部位とは対応し、その寸法は以下の通りである。
IL1=IL2=0.625
IL3=0.500
OL1=0.625
OL21=0.535
OL22=0.535 ・・・(6)
OL2=OL21+OL22
OL3=0.458
d=0.750
R=1.000
なお、上記各寸法は、水室8の半径Rで正規化(無次元化)している。
【0027】
本シミュレーションは、水室8内の流れを把握することを目的としているため、回転するカッタホルダ15やそれに取り付けられたカッタ5周りの詳細な流れは問題としていない。ゆえに、カッタ5およびカッタホルダ15は回転する円盤により模擬し,シミュレーションにかかる計算負荷を低減するようにした。
カッタホルダ15の回転数や冷却水の流量は、実機の運転条件から図4のようにし、冷却水の物性値には、330Kでの水道水の物性値を用いた。
本シミュレーションに用いたプログラムは、汎用の流体解析コードFluent Ver.6を用いた。Fluentは、有限体積法をベースとした非構造格子に対応するソルバーを搭載し、並列処理計算も可能な数値流体力学モデルであって、多くの研究開発で用いられている。
【0028】
図5〜図6には、Case(a)の水室8(図3)の流れに関するシミュレーション結果が示してある。
図5は、水室8内の速度ベクトルを示している。水室8内の流速は入口部16〜水室8中央(回転軸14近傍)にかけては比較的速く、出口部17の近傍では流速はやや速い。ところが水室8の側部(窓部18の近傍)では流速が非常に遅くなっていることがわかる。
図6には、水室8内を流れる冷却水の流線が示されている。この図から明らかなように、入口部16から流入し水室8中央を通る冷却水は、出口部17に向けて滑らかに流れている。しかしながら、入口部16から流入し水室8の側部を通る冷却水は、水室8内壁、特に窓部18近傍において出口部17に向かわず蛇行するか円を描いている。このことから水室8の側部は流れがよどみやすい状況にあることが推測される。
【0029】
以上述べた傾向は、水室8の形状をCase(a)−1〜Case(a)−4と変え、カッタ5回転数や冷却水の流量を変更した場合であっても略同様であることは、図5,図6を見ることで明らかである。つまり、「水室8の側部ではよどみが生じやすい」等の特性が、水室8の形状やカッタホルダ15の回転数、冷却水の流量によらないことを意味する。ただし、カッタホルダ15の回転数を増やすと、回転軸14に対する流れの非対称性(図5での左右非対称性)は大きくなる。
図7には、先に計算した流れにペレット10が混在する場合のペレット軌跡と滞留時間をシミュレーションした結果が示してある。
【0030】
このシミュレーションを行うにあたっては、ペレット10としては模擬粒子を採用し、計算条件としては以下のものを採用している。
・模擬粒子の直径:2.0,2.4,2.8mm
・模擬粒子の密度:900kg/m3
・粒子の放出面 :ダイプレート3とカッタ5との接触面3A
・粒子の放出個数:36(10°ごと)×3列=108個
・粒子の初速 :0.1m/s(粒子の放出面3Aに垂直)
なお、模擬粒子には冷却水の抗力および浮力が作用するとした。模擬粒子に働く抗力を求める際には、下記に示す学術文献1や学術文献2に開示された計算式を用いて抗力係数Cdを求めるようにするとよい。
【0031】
例えば、学術文献1に開示された計算式によれば、レイノルズ数Reが0.1〜1.0の範囲では、抗力係数Cd=22.73/Re+0.0903/Re2+3.69で求めることができる。
・学術文献1:An investigation of particle trajectories in two-phase flow sysytems, S.A.Morsi & A.J.Alexander,J.Fluid Mech.(1972),vol55,part2,pp193-208.
・学術文献2:Drag Coefficient and Terminal Velocity of Spherical and Nonspherical Particles, A.Haider & O.Levenspiel, Powder Technology,58(1989),pp63-70.
また、ペレット10の密度からその浮力を求めるようにした。加えて、カッタ5の回転数は750rpm,冷却水の流量は700m3/hとした。
【0032】
図7(b)において、横軸は模擬粒子の放出位置を示している。放出位置は、図7(a)や図2に示すように、水室8の中心を原点としたX−Y座標を考え、X軸プラス上に「位置1」を設け、そこから正の回転方向に10°刻みに「位置36」まで設定している。これら「位置1〜位置36」の場所から模擬粒子が放出される。また、X−Y座標の第1象限(位置1〜位置10)をZone1、第2象限(位置10〜位置19)をZone2、第3象限(位置19〜位置28)をZone3、第4象限(位置28〜位置36)をZone4としている。縦軸は、模擬粒子の滞留時間(以降、単に滞留時間と呼ぶこともある)を示している。
【0033】
図7(b)から明らかなように、出口部17の左側に位置するZone2では、模擬粒子の滞留時間が2sec〜7secと他の領域に比べて長く、全ゾーンにおける平均滞留時間(=1.833sec)と比較すると、非常に長いものとなっている。つまり、この領域から放出された模擬粒子は水室8内に留まりやすいと言える。この現象の原因としては、Zone2の領域ではカッタ5の回転により出口部17から離れる方向に流れが発生すると共に、入口部16から出口部17への流れも生じているため、それぞれの流れに誘起された複雑な流れが形成され、流れによどみが発生していることが挙げられる。
【0034】
同様に、図7(a)に示される模擬粒子の軌跡(流跡)をみると、Zone2から放出された模擬粒子は、一旦カッタ5の回転方向に移動した後に、入口部16から出口部17に向かって形成された流れにのって出口部17の方向に押し戻されている。この結果として、水室8内での模擬粒子の滞留時間が長くなる。
これらのことから、本願出願人らは、水室8内での模擬粒子(ペレット10)の平均滞留時間を短くするためには、Zone2における模擬粒子の滞留時間を短くすることが必要であることを明らかとした。
【0035】
[本発明の水室における流体シミュレーション]
次に、Zone2を中心とした水室8内の流れをよどみのないものとし、ペレット10の排出がスムーズとなる水室8の形状を考えることとする。
本願発明人は、現状の水室8内の流れ分布および模擬粒子の滞留時間分布から,模擬粒子の滞留時間を短くするために、次の5つが有効であるとの考えに至った。
(1)入口部16を拡大する:水室8内に流入する冷却水の流速を均一にすることで、水室8側部のよどみを防止する。
(2)入口部16をダイプレート3に対して斜めにする:ダイプレート3に垂直な方向の流速成分を持たせ、模擬粒子がダイプレート3から離れやすいようにする。
(3)入口部16の高さを小さくする:ダイプレート3付近の流速を高めることで、模擬粒子をダイプレート3から離れやすくする。
(4)出口部17を拡大する:出口部17の冷却水流入側20を大きくすることで模擬粒子が出口部17から排出されやすくなる。そのため、出口部17の形状は逆広がり形状となる。
(5)出口部17を水室8の径方向に対して非対称にする:Zone2領域と出口部17との連通する部分の開口が大きなものとなるため、Zone2に存在する模擬粒子が出口部17から排出されやすくなる。
【0036】
以上の予想に基づいて、図8に示すCase(b)〜Case(g)の形状の水室8を設定し、それぞれについて流れの計算を行った。図8の条件において、「入口拡大」とは入口部16が広がり形状を有していることであって、「入口斜め」とは、入口部16が水室8内のダイプレート3側に向くように側面視で傾斜して水室8に配設されていることである。「速度平行」とは、入口部16へ導入される冷却水の流れ方向がダイプレート3と略平行であって、「速度傾斜」とは、入口部16へ導入される冷却水の流れ方向がダイプレート3側に向くことである。「出口拡大」とは、出口部17の冷却水流入側20の断面積を大きくすることで、出口部17を逆広がり形状とすることであり、「出口非対称」とは、平面視での出口部17の形状が水室8の径方向に対して非対称となっていることである。
【0037】
幾つかの条件の水室8は、窓部18を有さず内側壁が凹凸がない形状としている(Case(a)’,Case(d)’,Case(f)’,Case(g)’)。
図9には、7つの形状の水室8についてのシミュレーション結果が示されている。
これからわかるように、Case(d),Case(f)の模擬粒子の滞留時間が他の条件に比べて短くなっている。また、Case(d)’,Case(f)’の水室8、すなわち窓部18を有さないCase(d),Case(f)の条件の水室8においても、模擬粒子の滞留時間が他の条件に比べて短い。
【0038】
図10には、窓部18を有無のみが異なる水室8において、模擬粒子の平均滞留時間をシミュレーションした結果が示してある。
この図からわかるように、Case(a),(d),(f)のいずれにおいても、窓部18を無くすことにより平均滞留時間が短くなることが確認できる。しかしながら、その差は問題とするほど大きなものとはなっていない。
以上の結果を総合的に考えるに、前述した条件(1)〜(5)の予想が正しいか否かを詳細に検討するにあたり、模擬粒子の滞留時間が短いCase(d)’,Case(f)’の水室8について考察を深めることが有益である。なぜならば、滞留時間の長い水室8については、その形状を採用することはないからである。
【0039】
そこで、Case(d)’,Case(f)’の計算結果を詳細に検討してみる。なお、これらの比較例はCase(a)’である。窓部18のない水室8を用いて計算をしたのは、シミュレーションにおける計算機の負荷を少なくするためである。なお、Case(d)’は、入口部16が広がり形状で傾きαを有し、速度が斜めとなっている水室8である。Case(f)’は入口部16が広がり形状で出口部17が逆広がり且つ非対称となっている水室8である。
図11には、Case(f)’の条件を満たす水室8をワイヤフレーム表示している。
【0040】
図12〜図14には、Case(a)’,Case(d)’,Case(f)’の場合での流速分布、模擬粒子の滞留時間が示されている。これらをみると、比較例Case(a)’に比べて、Case(d)’,Case(f)’の水室8では、平均滞留時間が約0.1sec以上減少していると共に、Zone2での模擬粒子の滞留時間が短くなっていることが確認できる。
また、図15に示された模擬粒子の流跡から明らかなように、Case(a)’では入口部16の横において模擬粒子の軌跡が丸を描き,滞留しているのに対して、Case(d)’,Case(f)’の水室8では、このような滞留は認められない。その結果としてZone2領域の滞留時間が短くなっている。
【0041】
これらのことより、カッタ5で切断されたペレット10が長時間滞留することが無いような水室8の形状は、Case(d),Case(f)または、Case(d)’,Case(f)’を満たすとよい。換言すれば、入口部16を広がり形状にしたり、入口部16を角度αで傾斜させたり、出口部17を逆広がり形状にしたりすることで、水室8内におけるペレット10の滞留時間を均一且つ短くでき、ペレット10の温度バラツキを最小限に抑えると共に水室8内面やカッタ5との接触を防ぐことができる。
本願発明人は、更なるシミュレーションを行い、水室8の入口部16の形状が、
(IL2・d)/(IL1・d)=1.5〜3.0 ・・・(1)
入口部16の傾きが、
α=5°〜45° ・・・(2)
水室8の出口部17の形状が
(OL2・d)/(OL1・d)=1.5〜3.0 ・・・(3)
OL22/OL21=0.535/0.869≒2/3 ・・・(4)
の関係を満たす形状を採用したときに、もっともペレット10の滞留が少ないことを見いだしている。
【0042】
ここで、IL1は入口部16における冷却水流入側の幅である。IL2は、入口部16における冷却水流出側の幅(入口部16の水室8側の幅)である。LI3は、冷却水流入側20と冷却水流出側21との間の距離である。
OL1は出口部17における冷却水流出側21の幅である。OL2は、出口部17における冷却水流入側20の幅であって、OL2=OL21+OL22である。OL3は、冷却水流入側20と冷却水流出側21との間の距離である。
水室8の上壁12と下壁9との距離はdであって、入口部16の上壁12Aと下壁9Aとの間の距離もd、出口部17の上壁12Bと下壁9Bとの距離もdである。
【0043】
αは、ダイプレート3の延長線と入口部16の中心線とのなす角度である。
これら式(1)〜式(4)の関係を満たすことで、水室8内におけるペレット10の滞留時間を特に均一且つ短くすることが可能となる。
なお、入口部16の冷却水流入側20の断面積(IL1・d)と出口部17の冷却水流出側21の断面積(OL1・d)とは略同一であることが好ましい。
【0044】
[粒子径や流量との関係]
以上のシミュレーションは、模擬粒子径=2.4mm、冷却水の流量=700m3/hの条件下で行われたものであるため、模擬粒子径が変化したり冷却水の流量が変化した場合の影響は考慮されていない。そこで、模擬粒子の直径を変化させたり、冷却水の流量を変えて、シミュレーションを行ってみた。
図16は、水室8内で切断されたペレット10の直径、すなわち模擬粒子の直径を、2.0,2.4,2.8mmと変化させた場合における模擬粒子の平均滞留時間を示したものである。なお、水室8の形状をCase(a),Case(d),Case(f)としている。
この図からわかるように、水室8の形状が同じであれば、平均滞留時間の長短は粒子径によらずほぼ同じである。逆に、粒子径が変わったとしても、Case(d)やCase(f)の水室8では、従来の水室8に比べて模擬粒子の滞留時間が短い。また、全体的な傾向として、粒子径が大きいほど平均滞留時間が短いことも伺い知ることができる。この理由として、粒子径が大きいほど浮力の影響が大きくなり、出口側へ向かう流速が大きい水室8上部側に集まる粒子が増えてその排出が進み、その結果滞留時間が減少したものだと考えられる。
【0045】
図17には、冷却水の流量に関し、700m3/h,400m3/hの2条件でシミュレーションを行った結果が示されている。なお、水室8の形状をCase(a),Case(d),Case(f)ならびにCase(a)’,Case(d)’,Case(f)’とし、模擬粒子の直径を2.4mmとしている。
【0046】
この図からわかるように、冷却水の流量が少なくなると、すべての水室8形状において、模擬粒子の滞留時間が長くなっている。これは入口部16から供給される水量が少なくなると、カッタ5の回転により誘起される回転流れの影響が大きくなり、模擬粒子が水室8内に滞留しやすくなるためと思われる。しかしながら、冷却水の流量が変化しても、本発明にかかる水室8の形状(Case(d),Case(f),Case(d)’,Case(f)’)では、平均滞留時間は大きくは変わらず、平均滞留時間≦2secとなっている。
冷却水量が400m3/hと少なくなった場合でも、Case(f)’の水室8における平均滞留時間は1.7secであり最も短いものとなっている。逆に、Case(a)’では、3secであって、ペレット10の滞留が懸念される状況となっている。
【0047】
[シミュレーションの結果]
本願発明人らは、水室8における冷却水の流れのシミュレーションを通じて実験を繰り返した結果、水室8形状を適切に変更することで、模擬粒子(ペレット10)の平均滞留時間の短縮が可能なことを明らかにした。
そのために有効な水室8形状の変更点として次の4つが明らかとなった。
(1)入口部16を拡大する(入口部16広がり形状)
(2)入口部16をダイプレート3に対して斜めにする
(4)出口部17を拡大する(出口部17逆広がり形状)
(5)出口部17を水室8の径方向に対して非対称にする
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】水中カット造粒装置の側面断面図である。
【図2】本発明にかかる水室の形状を示す図である((a)は正面図、(b)は右側面図)。
【図3】シミュレーションに用いた従来の水室の形状を示した図である。
【図4】シミュレーションの条件を示した図である。
【図5】シミュレーションで得られた水室内の流速分布を示した図である(平面視、従来の水室)。
【図6】シミュレーションで得られた水室内の流線を示した図である(斜視、従来の水室)。
【図7】シミュレーションで得られた水室内での模擬粒子の軌跡図と滞在時間分布図である(従来の水室)。
【図8】水室の形状に関する条件を示した図である(Case(a)〜Case(f))。
【図9】図8に示した条件でシミュレーションを行った結果である。
【図10】水室の窓部の有無と模擬粒子の平均滞留時間との関係を示した図である。
【図11】Case(f)'の水室の形状を示した図である。
【図12】模擬粒子の流跡図と滞在時間分布図である(Case(a)'の水室)。
【図13】模擬粒子の流跡図と滞在時間分布図である(Case(d)'の水室)。
【図14】模擬粒子の流跡図と滞在時間分布図である(Case(f)'の水室)。
【図15】模擬粒子の流跡図である(Case(a)',(d)',(f)'の水室)。
【図16】模擬粒子の直径と平均滞在時間との関係を示した図である。
【図17】冷却水の流量と模擬粒子の平均滞在時間との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0049】
1 水中カット造粒装置
2 ノズル
3 ダイプレート
4 溶融樹脂
5 カッタ
6 駆動手段
8 水室
10 ペレット
15 カッタホルダ
16 入口部
17 出口部
18 窓部
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製のペレットを製造するために用いられる水中カット造粒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、樹脂製のペレットを製造するために用いられる水中カット造粒装置は、押出機の下流側に設けられており、溶融樹脂(溶融した処理材)が押し出されるノズルが設けられたダイプレートとこのノズルから押し出された樹脂を回転しながら粒状に切断するカッタとを有している。加えて、これらダイプレートやカッタを覆う循環箱が設けられ、この循環箱の内側は循環する冷却水で満たされた水室となっている。
水室には、その内部に冷却水を導入するための入口部が設けられており、この入口部を介して水室内に供給された冷却水は、ダイプレートやカッタを冷却すると共にペレットを所定の温度まで冷却して、水室の出口部から外部に流出する。この際に切断されたペレットも同時に水室の外側に排出する。
【0003】
かかる水室において、冷却水が所定の流れ方をすることは非常に重要である。例えば、冷却水が、ダイプレートやカッタの近傍をよどみなく確実に流れるようにする必要がある。そうすることで、カッタやダイプレート、加えて切断されたペレットを所定の温度まで冷却することができる。
ところが、冷却水の流れがスムーズでなく水室内でよどむようなことがあると、切断されたペレットが水室内に長時間滞留したり、逆にあまりにも短時間に水室から排出されたりすることがあり、ペレットの冷却時間が所定のものとならず、その品質が劣化する可能性がある。ペレットが水室内に長時間滞留することで、残存するペレットがカッタや水室内壁に当たるなどして、樹脂のカット作業に悪影響を及ぼす可能性もある。
【0004】
このような不都合を回避する技術としては、特許文献1に開示されたものがある。
特許文献1には、ダイプレートに接触する冷却水の温度を均一にして、製造されるペレットの形状や大きさが均一化するために、(i)水室に冷却水を導入する入口部を、少なくとも3つ以上の複数個設ける、(ii)冷却水を外部に排出する出口部を、いずれの入口部の延長線上から外れた位置に設けるものとしている。
【特許文献1】特開2003−260706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本願発明者らが、特許文献1の技術を採用した水室における冷却水の流れのシミュレーションを行った結果、入口部と水室との接合部位ならびに出口部と水室との接合部位の各近傍において、冷却水の流れによどみが生じやすく、このよどみに滞留したペレットは水室外に排出されない、複数ある入口部からの冷却水の流れと、水室内のカッタの回転に伴う冷却水の撹拌とによって、水室内には複雑な流れが形成されるため、切断されたペレットの水室内滞留時間にバラツキが生じる、ということが明らかとなった。
これらの現象は、ペレットの冷却時間に差を生じさせることとなり、ペレットの品質や形状・大きさにバラツキを生じさせる可能性大である。
【0006】
また、入口部を複数有するため、冷却水を供給する配管の取り回し設計や製作が煩雑なものとなる、水室内の流れが、複数の入口部や出口部の位置関係、及び冷却水の流量に依存する場合があり、これら位置関係や流量の最適値を決定するには多くの試行を必要とする、などの問題点もあることが明らかとなった。
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、水室内に放出されたペレットが速やかに水室外に排出されると共にペレットの水室内滞留時間が均一となる水室を備えた水中カット造粒装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明にかかる水中カット造粒装置は、溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、前記入口部は、冷却水の流入方向に沿って広がり形状となっていることを特徴とする。
【0008】
好ましくは、前記入口部における冷却水流入側の断面積Aと冷却水流出側の断面積Bとの比B/Aが、1.5〜3.0となっているとよい。
また、本発明にかかる水中カット造粒装置は、溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、前記入口部は、当該入口部を流れる冷却水が水室内のダイプレート側に向くよう傾斜して水室に配設されていることを特徴とする。
【0009】
好ましくは、前記入口部の傾斜の角度αが、5°〜45°であるとよい。
また、本発明にかかる水中カット造粒装置は、溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、前記出口部は、冷却水の流出方向とは反対の方向に沿って広がり形状となっており、水室の径方向に対して非対称となっていることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記出口部における冷却水流入側の断面積Cと冷却水流出側の断面積Dとの比C/Dが、1.5〜3.0となっているとよい。
より好ましくは、溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、前記入口部は、冷却水の流入方向に沿って広がり形状となっていると共に、当該入口部を流れる冷却水が水室内のダイプレート側に向くよう傾斜して水室に配設されていて、前記出口部は、冷却水の流出方向とは反対の方向に沿って広がり形状となっていると共に、水室の径方向に対して非対称となっているとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、切断後のペレットが水室内に滞留する時間を略均一とすることができ、ペレットの温度バラツキを最小限に抑えることができる。加えて、ペレットの滞留時間を可能な限り短くすることができて、水室内壁やカッタとの接触を防げるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明にかかる水中カット造粒装置について、図を基に説明する。
図1は、本発明にかかる水中カット造粒装置1の側面断面図である。
水中カット造粒装置1は、多数のノズル2(ダイ孔)を有するダイプレート3と、このダイプレート3上の切断面3Aを移動しノズル2から押し出される溶融樹脂4(溶融した処理材)を切り取るカッタ5とを有している。また、水中カット造粒装置1は、カッタ5をダイプレート3上で回転駆動させる駆動手段6を有している。
これらダイプレート3とカッタ5とは循環箱7の内部に収められており、その内部はダイプレート3とカッタ5を取り囲む水室8となっている。水室8の下壁9(図1の左側壁)はダイプレート3により構成されている。ダイプレート3の反水室側すなわち水室外側には、2軸押出機又はギアポンプ等が接続されており、2軸押出機から供給された溶融樹脂4は、ダイプレート3に設けられた樹脂導入孔11を介してノズル2に達しそこから水室8内へ押し出される。
【0013】
一方、水室8の上壁12(図1の右側壁)側には駆動手段6が設けられている。すなわち、上壁12には軸受け部13が配備され、軸受け部13には回転軸14が回転自在に挿通されている。回転軸14の基端部は電動モータ等の駆動部(図示せず)に連結されている。回転軸14の先端部は水室8内に突出していて、円盤状のカッタホルダ15がその中心部において回転軸14の最先端に固定されており、このカッタホルダ15の周縁に放射状にカッタ5(ナイフ又は刃と呼ぶこともある)が取り付けられている。カッタホルダ15の回転軸心と回転軸14の回転軸心とは同軸となっているため、回転軸14を回転させることでカッタ5が回転軸14の軸心周りに回転する。
【0014】
図2に示す如く、水室8を正面側から見ると略円形であって、水室8の下部(図2の下側)には、冷却水を水室8内に導入するために断面矩形の入口部16が設けられている。水室8の上部(図2の上側)には、水室8内の冷却水を切断されたペレット10と共に外部に排出する断面矩形の出口部17が設けられている。
正面から見て略円形である水室8の右側と左側には、水室8内部の様子を観察することができる窓部18が形成されている。窓部18は水室8の内側から見ると凹部となっている。かかる窓部18は無い場合もある。
【0015】
図2(a)に示す如く、本実施形態の場合の入口部16は、水室8への冷却水流入方向に沿って広がり形状となっていてホーン形となっている。入口部16の冷却水流入側20の断面積Aと冷却水流出側21の断面積Bとの比B/Aが、1.5〜3.0となっている。
特に、
B/A=(IL2・d)/(IL1・d)=1.5〜3.0 ・・・(1)
の関係を満たす形状となっている。
【0016】
ここで、IL1は入口部16における冷却水流入側の幅である。IL2は、入口部16における冷却水流出側の幅(入口部16の水室8側の幅)である。LI3は、冷却水流入側20と冷却水流出側21との間の距離であって、正確には、冷却水流入側20と水室8内壁の延長ラインとの間の距離である。
本実施形態の場合、水室8の上壁12と下壁9との距離はdである。また、入口部16の上壁12Aと下壁9Aとの間の距離も同じdとしている。ゆえに、式(1)を満たすということは、入口部16における冷却水流入側20の幅IL1と冷却水流出側21の幅IL2との比が、1.5〜3.0となっていることと同義である。
【0017】
また、図2(b)に示す側面図から判るように、入口部16内を流れる水流がダイプレート3側に当たるように、ダイプレート3の延長線と入口部16の中心線とが角度αで傾くものとなっている。
α=5°〜45° ・・・(2)
この傾きαを満たす入口部16であると、当該水室8内に放出されたペレット10が速やかに水室8外に排出されると共にペレット10の水室内滞留時間が均一となる。より好ましくは、かかる傾きαは、α=5°〜30°の範囲であるとよい。
【0018】
本実施形態の場合、入口部16の側面視形状は平行四辺形となっているため、入口部16の上壁12Aと下壁9Aとは略平行であり、ダイプレート3の延長線と入口部16の下壁9(又は上壁12)とが角度αで傾く構造を有するものとなっている。
一方、出口部17は、図2(a)に示す如く、水室8からの冷却水の流出方向とは反対方向に沿って広がり形状となっていて、入口部16と略同様のホーン形である(以降、この形を逆広がり形状又は先細り形状と呼ぶこともある)。出口部17の冷却水流入側20の断面積Cと冷却水流出側21の断面積Dとの比C/Dが、1.5〜3.0となっている。
【0019】
加えて、平面視での出口部17の形状が水室8の径方向に対して非対称となっている。
特に、
C/D=(OL2・d)/(OL1・d)=1.5〜3.0 ・・・(3)
OL22/OL21=0.535/0.869≒2/3 ・・・(4)
の関係を満たしている。
【0020】
ここで、OL1は出口部17における冷却水流出側21の幅である。OL2は、出口部17における冷却水流入側20の幅である。OL3は、冷却水流入側20と冷却水流出側21との間の距離であって、正確には、冷却水流出側21と水室8内壁の延長線との間の距離である。
本実施形態の場合、出口部17の上壁12Bと下壁9Bとの距離もdである。ゆえに、式(3)を満たすということは、出口部17の冷却水流入側20の幅OL1と冷却水流出側21の幅OL2との比が、1.5〜3.0となっていることと同義である。
【0021】
入口部16、出口部17の形状は、後述する「水室8における冷却水の流れのシミュレーション」を基に決定されている。すなわち、以下述べる形状を満たす水室8は、当該水室8内に放出されたペレット10が速やかに水室8外に排出されると共にペレット10の水室内滞留時間が均一となり、逆に、以下述べる形状を満たさない水室ではペレット排出に問題が生じることを、本願発明者らは流体シミュレーションを通して確認している。
【0022】
なお、図2の示された本発明にかかる水室の各部位の寸法は、以下の通りとなっている。
IL1=0.625
IL2=0.458
IL3=1.073
OL1=0.625
OL21=0.869 ・・・(5)
OL22=0.535
OL2=OL21+OL22
OL3=0.458
d=0.750
R=1.000
なお、上記各寸法は、水室8の半径Rで正規化(無次元化)している。また、出口部17の非対称の度合いは、出口部17の冷却水流出側21と左右側壁23,22とのなす角度により出口部17の非対称形状を規定しても構わない。右側壁22の長さと左側壁23の長さで非対称形状を規定しても構わない。
【0023】
水中カット造粒装置1で、2軸押出機から供給された溶融樹脂4を用いてペレット10を製造する方法は、以下の通りである。
2軸押出機やギヤポンプで圧力を高められたされた溶融樹脂4は、ダイプレート3に設けられた樹脂導入孔11を介してノズル2に達しそこから水室8内へひも状に押し出される。それと同時に、ダイプレート3の切断面3Aを回転しているカッタ5で所定の寸法長さに切断され、ペレット10に成形される。水室8内では、その下部に設けられた入口部16から上部に設けられた出口部17に向かって、冷却水の水流が形成されており、その流れにしたがって、ペレット10は水室8外部に運ばれ、乾燥後に製品となる。
【0024】
特に、本実施形態の場合、水室8の入口部16と出口部17の形状を式(1)〜式(6)とすることで、切断されたペレット10が水室8内に滞留する時間が均一となるため、ペレット10の温度バラツキを最小限に抑えることができるようになる。加えて、ペレット10の滞留時間が短くなって、水室8内壁やカッタ5との接触を防ぐことができるようになっている。
以上述べた水室8の入口部16と出口部17の形状を決定するために、本願発明人らは、「水室8における冷却水の流れのシミュレーション」をコンピュータを用いて行っている。その詳細について以下説明する。なお、水室8における冷却水の流れのシミュレーションを単に、流体シミュレーション又はシミュレーションと呼ぶこともある。
[従来の水室における流体シミュレーション]
始めに予備実験として、従来からある水中カット造粒装置1の水室8内の流れを解析し、水室8の形状変更によるペレット排出性の改善について検討した。
【0025】
まず、従来の水室8内の流れ解析を行い、問題点を把握した。その後、ペレット10を模擬した模擬粒子の軌跡と水室8内での滞留時間を計算し、ペレット10の滞留状況を検討した。
図3は、シミュレーションで用いた従来からある(現状用いられている)水室8の形状データをワイヤフレーム表示したものであって、Case(a)の水室8と呼ぶことにする。
【0026】
Case(a)の水室8の各部位と図2の各部位とは対応し、その寸法は以下の通りである。
IL1=IL2=0.625
IL3=0.500
OL1=0.625
OL21=0.535
OL22=0.535 ・・・(6)
OL2=OL21+OL22
OL3=0.458
d=0.750
R=1.000
なお、上記各寸法は、水室8の半径Rで正規化(無次元化)している。
【0027】
本シミュレーションは、水室8内の流れを把握することを目的としているため、回転するカッタホルダ15やそれに取り付けられたカッタ5周りの詳細な流れは問題としていない。ゆえに、カッタ5およびカッタホルダ15は回転する円盤により模擬し,シミュレーションにかかる計算負荷を低減するようにした。
カッタホルダ15の回転数や冷却水の流量は、実機の運転条件から図4のようにし、冷却水の物性値には、330Kでの水道水の物性値を用いた。
本シミュレーションに用いたプログラムは、汎用の流体解析コードFluent Ver.6を用いた。Fluentは、有限体積法をベースとした非構造格子に対応するソルバーを搭載し、並列処理計算も可能な数値流体力学モデルであって、多くの研究開発で用いられている。
【0028】
図5〜図6には、Case(a)の水室8(図3)の流れに関するシミュレーション結果が示してある。
図5は、水室8内の速度ベクトルを示している。水室8内の流速は入口部16〜水室8中央(回転軸14近傍)にかけては比較的速く、出口部17の近傍では流速はやや速い。ところが水室8の側部(窓部18の近傍)では流速が非常に遅くなっていることがわかる。
図6には、水室8内を流れる冷却水の流線が示されている。この図から明らかなように、入口部16から流入し水室8中央を通る冷却水は、出口部17に向けて滑らかに流れている。しかしながら、入口部16から流入し水室8の側部を通る冷却水は、水室8内壁、特に窓部18近傍において出口部17に向かわず蛇行するか円を描いている。このことから水室8の側部は流れがよどみやすい状況にあることが推測される。
【0029】
以上述べた傾向は、水室8の形状をCase(a)−1〜Case(a)−4と変え、カッタ5回転数や冷却水の流量を変更した場合であっても略同様であることは、図5,図6を見ることで明らかである。つまり、「水室8の側部ではよどみが生じやすい」等の特性が、水室8の形状やカッタホルダ15の回転数、冷却水の流量によらないことを意味する。ただし、カッタホルダ15の回転数を増やすと、回転軸14に対する流れの非対称性(図5での左右非対称性)は大きくなる。
図7には、先に計算した流れにペレット10が混在する場合のペレット軌跡と滞留時間をシミュレーションした結果が示してある。
【0030】
このシミュレーションを行うにあたっては、ペレット10としては模擬粒子を採用し、計算条件としては以下のものを採用している。
・模擬粒子の直径:2.0,2.4,2.8mm
・模擬粒子の密度:900kg/m3
・粒子の放出面 :ダイプレート3とカッタ5との接触面3A
・粒子の放出個数:36(10°ごと)×3列=108個
・粒子の初速 :0.1m/s(粒子の放出面3Aに垂直)
なお、模擬粒子には冷却水の抗力および浮力が作用するとした。模擬粒子に働く抗力を求める際には、下記に示す学術文献1や学術文献2に開示された計算式を用いて抗力係数Cdを求めるようにするとよい。
【0031】
例えば、学術文献1に開示された計算式によれば、レイノルズ数Reが0.1〜1.0の範囲では、抗力係数Cd=22.73/Re+0.0903/Re2+3.69で求めることができる。
・学術文献1:An investigation of particle trajectories in two-phase flow sysytems, S.A.Morsi & A.J.Alexander,J.Fluid Mech.(1972),vol55,part2,pp193-208.
・学術文献2:Drag Coefficient and Terminal Velocity of Spherical and Nonspherical Particles, A.Haider & O.Levenspiel, Powder Technology,58(1989),pp63-70.
また、ペレット10の密度からその浮力を求めるようにした。加えて、カッタ5の回転数は750rpm,冷却水の流量は700m3/hとした。
【0032】
図7(b)において、横軸は模擬粒子の放出位置を示している。放出位置は、図7(a)や図2に示すように、水室8の中心を原点としたX−Y座標を考え、X軸プラス上に「位置1」を設け、そこから正の回転方向に10°刻みに「位置36」まで設定している。これら「位置1〜位置36」の場所から模擬粒子が放出される。また、X−Y座標の第1象限(位置1〜位置10)をZone1、第2象限(位置10〜位置19)をZone2、第3象限(位置19〜位置28)をZone3、第4象限(位置28〜位置36)をZone4としている。縦軸は、模擬粒子の滞留時間(以降、単に滞留時間と呼ぶこともある)を示している。
【0033】
図7(b)から明らかなように、出口部17の左側に位置するZone2では、模擬粒子の滞留時間が2sec〜7secと他の領域に比べて長く、全ゾーンにおける平均滞留時間(=1.833sec)と比較すると、非常に長いものとなっている。つまり、この領域から放出された模擬粒子は水室8内に留まりやすいと言える。この現象の原因としては、Zone2の領域ではカッタ5の回転により出口部17から離れる方向に流れが発生すると共に、入口部16から出口部17への流れも生じているため、それぞれの流れに誘起された複雑な流れが形成され、流れによどみが発生していることが挙げられる。
【0034】
同様に、図7(a)に示される模擬粒子の軌跡(流跡)をみると、Zone2から放出された模擬粒子は、一旦カッタ5の回転方向に移動した後に、入口部16から出口部17に向かって形成された流れにのって出口部17の方向に押し戻されている。この結果として、水室8内での模擬粒子の滞留時間が長くなる。
これらのことから、本願出願人らは、水室8内での模擬粒子(ペレット10)の平均滞留時間を短くするためには、Zone2における模擬粒子の滞留時間を短くすることが必要であることを明らかとした。
【0035】
[本発明の水室における流体シミュレーション]
次に、Zone2を中心とした水室8内の流れをよどみのないものとし、ペレット10の排出がスムーズとなる水室8の形状を考えることとする。
本願発明人は、現状の水室8内の流れ分布および模擬粒子の滞留時間分布から,模擬粒子の滞留時間を短くするために、次の5つが有効であるとの考えに至った。
(1)入口部16を拡大する:水室8内に流入する冷却水の流速を均一にすることで、水室8側部のよどみを防止する。
(2)入口部16をダイプレート3に対して斜めにする:ダイプレート3に垂直な方向の流速成分を持たせ、模擬粒子がダイプレート3から離れやすいようにする。
(3)入口部16の高さを小さくする:ダイプレート3付近の流速を高めることで、模擬粒子をダイプレート3から離れやすくする。
(4)出口部17を拡大する:出口部17の冷却水流入側20を大きくすることで模擬粒子が出口部17から排出されやすくなる。そのため、出口部17の形状は逆広がり形状となる。
(5)出口部17を水室8の径方向に対して非対称にする:Zone2領域と出口部17との連通する部分の開口が大きなものとなるため、Zone2に存在する模擬粒子が出口部17から排出されやすくなる。
【0036】
以上の予想に基づいて、図8に示すCase(b)〜Case(g)の形状の水室8を設定し、それぞれについて流れの計算を行った。図8の条件において、「入口拡大」とは入口部16が広がり形状を有していることであって、「入口斜め」とは、入口部16が水室8内のダイプレート3側に向くように側面視で傾斜して水室8に配設されていることである。「速度平行」とは、入口部16へ導入される冷却水の流れ方向がダイプレート3と略平行であって、「速度傾斜」とは、入口部16へ導入される冷却水の流れ方向がダイプレート3側に向くことである。「出口拡大」とは、出口部17の冷却水流入側20の断面積を大きくすることで、出口部17を逆広がり形状とすることであり、「出口非対称」とは、平面視での出口部17の形状が水室8の径方向に対して非対称となっていることである。
【0037】
幾つかの条件の水室8は、窓部18を有さず内側壁が凹凸がない形状としている(Case(a)’,Case(d)’,Case(f)’,Case(g)’)。
図9には、7つの形状の水室8についてのシミュレーション結果が示されている。
これからわかるように、Case(d),Case(f)の模擬粒子の滞留時間が他の条件に比べて短くなっている。また、Case(d)’,Case(f)’の水室8、すなわち窓部18を有さないCase(d),Case(f)の条件の水室8においても、模擬粒子の滞留時間が他の条件に比べて短い。
【0038】
図10には、窓部18を有無のみが異なる水室8において、模擬粒子の平均滞留時間をシミュレーションした結果が示してある。
この図からわかるように、Case(a),(d),(f)のいずれにおいても、窓部18を無くすことにより平均滞留時間が短くなることが確認できる。しかしながら、その差は問題とするほど大きなものとはなっていない。
以上の結果を総合的に考えるに、前述した条件(1)〜(5)の予想が正しいか否かを詳細に検討するにあたり、模擬粒子の滞留時間が短いCase(d)’,Case(f)’の水室8について考察を深めることが有益である。なぜならば、滞留時間の長い水室8については、その形状を採用することはないからである。
【0039】
そこで、Case(d)’,Case(f)’の計算結果を詳細に検討してみる。なお、これらの比較例はCase(a)’である。窓部18のない水室8を用いて計算をしたのは、シミュレーションにおける計算機の負荷を少なくするためである。なお、Case(d)’は、入口部16が広がり形状で傾きαを有し、速度が斜めとなっている水室8である。Case(f)’は入口部16が広がり形状で出口部17が逆広がり且つ非対称となっている水室8である。
図11には、Case(f)’の条件を満たす水室8をワイヤフレーム表示している。
【0040】
図12〜図14には、Case(a)’,Case(d)’,Case(f)’の場合での流速分布、模擬粒子の滞留時間が示されている。これらをみると、比較例Case(a)’に比べて、Case(d)’,Case(f)’の水室8では、平均滞留時間が約0.1sec以上減少していると共に、Zone2での模擬粒子の滞留時間が短くなっていることが確認できる。
また、図15に示された模擬粒子の流跡から明らかなように、Case(a)’では入口部16の横において模擬粒子の軌跡が丸を描き,滞留しているのに対して、Case(d)’,Case(f)’の水室8では、このような滞留は認められない。その結果としてZone2領域の滞留時間が短くなっている。
【0041】
これらのことより、カッタ5で切断されたペレット10が長時間滞留することが無いような水室8の形状は、Case(d),Case(f)または、Case(d)’,Case(f)’を満たすとよい。換言すれば、入口部16を広がり形状にしたり、入口部16を角度αで傾斜させたり、出口部17を逆広がり形状にしたりすることで、水室8内におけるペレット10の滞留時間を均一且つ短くでき、ペレット10の温度バラツキを最小限に抑えると共に水室8内面やカッタ5との接触を防ぐことができる。
本願発明人は、更なるシミュレーションを行い、水室8の入口部16の形状が、
(IL2・d)/(IL1・d)=1.5〜3.0 ・・・(1)
入口部16の傾きが、
α=5°〜45° ・・・(2)
水室8の出口部17の形状が
(OL2・d)/(OL1・d)=1.5〜3.0 ・・・(3)
OL22/OL21=0.535/0.869≒2/3 ・・・(4)
の関係を満たす形状を採用したときに、もっともペレット10の滞留が少ないことを見いだしている。
【0042】
ここで、IL1は入口部16における冷却水流入側の幅である。IL2は、入口部16における冷却水流出側の幅(入口部16の水室8側の幅)である。LI3は、冷却水流入側20と冷却水流出側21との間の距離である。
OL1は出口部17における冷却水流出側21の幅である。OL2は、出口部17における冷却水流入側20の幅であって、OL2=OL21+OL22である。OL3は、冷却水流入側20と冷却水流出側21との間の距離である。
水室8の上壁12と下壁9との距離はdであって、入口部16の上壁12Aと下壁9Aとの間の距離もd、出口部17の上壁12Bと下壁9Bとの距離もdである。
【0043】
αは、ダイプレート3の延長線と入口部16の中心線とのなす角度である。
これら式(1)〜式(4)の関係を満たすことで、水室8内におけるペレット10の滞留時間を特に均一且つ短くすることが可能となる。
なお、入口部16の冷却水流入側20の断面積(IL1・d)と出口部17の冷却水流出側21の断面積(OL1・d)とは略同一であることが好ましい。
【0044】
[粒子径や流量との関係]
以上のシミュレーションは、模擬粒子径=2.4mm、冷却水の流量=700m3/hの条件下で行われたものであるため、模擬粒子径が変化したり冷却水の流量が変化した場合の影響は考慮されていない。そこで、模擬粒子の直径を変化させたり、冷却水の流量を変えて、シミュレーションを行ってみた。
図16は、水室8内で切断されたペレット10の直径、すなわち模擬粒子の直径を、2.0,2.4,2.8mmと変化させた場合における模擬粒子の平均滞留時間を示したものである。なお、水室8の形状をCase(a),Case(d),Case(f)としている。
この図からわかるように、水室8の形状が同じであれば、平均滞留時間の長短は粒子径によらずほぼ同じである。逆に、粒子径が変わったとしても、Case(d)やCase(f)の水室8では、従来の水室8に比べて模擬粒子の滞留時間が短い。また、全体的な傾向として、粒子径が大きいほど平均滞留時間が短いことも伺い知ることができる。この理由として、粒子径が大きいほど浮力の影響が大きくなり、出口側へ向かう流速が大きい水室8上部側に集まる粒子が増えてその排出が進み、その結果滞留時間が減少したものだと考えられる。
【0045】
図17には、冷却水の流量に関し、700m3/h,400m3/hの2条件でシミュレーションを行った結果が示されている。なお、水室8の形状をCase(a),Case(d),Case(f)ならびにCase(a)’,Case(d)’,Case(f)’とし、模擬粒子の直径を2.4mmとしている。
【0046】
この図からわかるように、冷却水の流量が少なくなると、すべての水室8形状において、模擬粒子の滞留時間が長くなっている。これは入口部16から供給される水量が少なくなると、カッタ5の回転により誘起される回転流れの影響が大きくなり、模擬粒子が水室8内に滞留しやすくなるためと思われる。しかしながら、冷却水の流量が変化しても、本発明にかかる水室8の形状(Case(d),Case(f),Case(d)’,Case(f)’)では、平均滞留時間は大きくは変わらず、平均滞留時間≦2secとなっている。
冷却水量が400m3/hと少なくなった場合でも、Case(f)’の水室8における平均滞留時間は1.7secであり最も短いものとなっている。逆に、Case(a)’では、3secであって、ペレット10の滞留が懸念される状況となっている。
【0047】
[シミュレーションの結果]
本願発明人らは、水室8における冷却水の流れのシミュレーションを通じて実験を繰り返した結果、水室8形状を適切に変更することで、模擬粒子(ペレット10)の平均滞留時間の短縮が可能なことを明らかにした。
そのために有効な水室8形状の変更点として次の4つが明らかとなった。
(1)入口部16を拡大する(入口部16広がり形状)
(2)入口部16をダイプレート3に対して斜めにする
(4)出口部17を拡大する(出口部17逆広がり形状)
(5)出口部17を水室8の径方向に対して非対称にする
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】水中カット造粒装置の側面断面図である。
【図2】本発明にかかる水室の形状を示す図である((a)は正面図、(b)は右側面図)。
【図3】シミュレーションに用いた従来の水室の形状を示した図である。
【図4】シミュレーションの条件を示した図である。
【図5】シミュレーションで得られた水室内の流速分布を示した図である(平面視、従来の水室)。
【図6】シミュレーションで得られた水室内の流線を示した図である(斜視、従来の水室)。
【図7】シミュレーションで得られた水室内での模擬粒子の軌跡図と滞在時間分布図である(従来の水室)。
【図8】水室の形状に関する条件を示した図である(Case(a)〜Case(f))。
【図9】図8に示した条件でシミュレーションを行った結果である。
【図10】水室の窓部の有無と模擬粒子の平均滞留時間との関係を示した図である。
【図11】Case(f)'の水室の形状を示した図である。
【図12】模擬粒子の流跡図と滞在時間分布図である(Case(a)'の水室)。
【図13】模擬粒子の流跡図と滞在時間分布図である(Case(d)'の水室)。
【図14】模擬粒子の流跡図と滞在時間分布図である(Case(f)'の水室)。
【図15】模擬粒子の流跡図である(Case(a)',(d)',(f)'の水室)。
【図16】模擬粒子の直径と平均滞在時間との関係を示した図である。
【図17】冷却水の流量と模擬粒子の平均滞在時間との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0049】
1 水中カット造粒装置
2 ノズル
3 ダイプレート
4 溶融樹脂
5 カッタ
6 駆動手段
8 水室
10 ペレット
15 カッタホルダ
16 入口部
17 出口部
18 窓部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、
前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、
前記入口部は、冷却水の流入方向に沿って広がり形状となっていることを特徴とする水中カット造粒装置。
【請求項2】
前記入口部における冷却水流入側の断面積(A)と冷却水流出側の断面積(B)との比(B/A)が、1.5〜3.0となっていることを特徴とする請求項1に記載の水中カット造粒装置。
【請求項3】
溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、
前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、
前記入口部は、当該入口部を流れる冷却水が水室内のダイプレート側に向くよう傾斜して水室に配設されていることを特徴とする水中カット造粒装置。
【請求項4】
前記入口部の傾斜の角度(α)が、5°〜45°であることを特徴とする請求項3に記載の水中カット造粒装置。
【請求項5】
溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、
前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、
前記出口部は、冷却水の流出方向とは反対の方向に沿って広がり形状となっており、水室の径方向に対して非対称となっていることを特徴とする水中カット造粒装置。
【請求項6】
前記出口部における冷却水流入側の断面積(C)と冷却水流出側の断面積(D)との比(C/D)が、1.5〜3.0となっていることを特徴とする請求項5に記載の水中カット造粒装置。
【請求項7】
溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、
前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、
前記入口部は、冷却水の流入方向に沿って広がり形状となっていると共に、当該入口部を流れる冷却水が水室内のダイプレート側に向くよう傾斜して水室に配設されていて、
前記出口部は、冷却水の流出方向とは反対の方向に沿って広がり形状となっていると共に、水室の径方向に対して非対称となっていることを特徴とする水中カット造粒装置。
【請求項1】
溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、
前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、
前記入口部は、冷却水の流入方向に沿って広がり形状となっていることを特徴とする水中カット造粒装置。
【請求項2】
前記入口部における冷却水流入側の断面積(A)と冷却水流出側の断面積(B)との比(B/A)が、1.5〜3.0となっていることを特徴とする請求項1に記載の水中カット造粒装置。
【請求項3】
溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、
前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、
前記入口部は、当該入口部を流れる冷却水が水室内のダイプレート側に向くよう傾斜して水室に配設されていることを特徴とする水中カット造粒装置。
【請求項4】
前記入口部の傾斜の角度(α)が、5°〜45°であることを特徴とする請求項3に記載の水中カット造粒装置。
【請求項5】
溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、
前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、
前記出口部は、冷却水の流出方向とは反対の方向に沿って広がり形状となっており、水室の径方向に対して非対称となっていることを特徴とする水中カット造粒装置。
【請求項6】
前記出口部における冷却水流入側の断面積(C)と冷却水流出側の断面積(D)との比(C/D)が、1.5〜3.0となっていることを特徴とする請求項5に記載の水中カット造粒装置。
【請求項7】
溶融した処理材が押し出されるノズルが設けられたダイプレートと該ノズルから押し出された処理材を粒状に切断するカッタとが内蔵され、且つ切断された粒状の処理材を冷却すると共に外部に移送する冷却水が流れる水室を備えた水中カット造粒装置において、
前記水室は円形状であって、該水室の径方向の一方側には水室内に冷却水を導入する入口部を有し、前記径方向の他方側には水室内の冷却水を外部に排出する出口部を有しており、
前記入口部は、冷却水の流入方向に沿って広がり形状となっていると共に、当該入口部を流れる冷却水が水室内のダイプレート側に向くよう傾斜して水室に配設されていて、
前記出口部は、冷却水の流出方向とは反対の方向に沿って広がり形状となっていると共に、水室の径方向に対して非対称となっていることを特徴とする水中カット造粒装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2007−144743(P2007−144743A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340996(P2005−340996)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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